JP4202849B2 - 塩化ビニル系樹脂の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩化ビニル系樹脂の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、塩化ビニル系樹脂は塩化ビニル系単量体を懸濁重合することにより製造されているが、近年、生産性向上のため、該重合に用いる重合反応器は大型化されてきている。この重合反応器の大型化において、一バッチ当りの単量体仕込量が増大するにつれて、反応熱除去のためのジャケット伝熱面積は相対的に減少することになる。このため、重合反応により発生する熱を完全に除熱することができなくなり、重合温度を一定に保つことが困難になる事態が生じる。
そこで、最近では、還流凝縮器を付設することにより、重合反応器の除熱能力を確保することが行われている。
【0003】
ところが、塩化ビニル系単量体の懸濁重合を実施するに際しては、水中で該単量体の液滴粒子を分散状態で安定させるために、分散剤を添加して重合反応を実施しているが、この分散剤を水中に添加し、塩化ビニル系単量体と混合攪拌しながら重合反応を実施すると、重合反応の終期に重合反応器内液が発泡する現象が生起する。
この発泡現象は、最悪の場合、還流凝縮器まで泡が達する、吹き上げという現象となる。この吹き上げにより、重合反応器内容物が還流凝縮器へ流入し、還流凝縮器の除熱能力を著しく低下させたり、流入した重合体粒子が、還流凝縮器の内部や重合反応器と還流凝縮器との連絡配管内等に付着残留して、スケール生成の原因となったり、又は次回の重合の際に混入してフィッシュアイの原因となって品質を低下させるという問題があった。
【0004】
そこで、このような還流凝縮器を付設した重合反応器を用いた場合に起こる発泡の問題に対して、種々の解決法が開発されている。例えば、▲1▼重合反応器内容物の液面を連続的にかつ計量値として計測する液面計を装備した重合反応器を用い、重合反応器内容物の液面を所定の範囲に制御しつつ重合する方法(特許文献1)、▲2▼還流凝縮器頂部の気相温度と重合反応缶内部の温度との間に1〜10℃の温度差が生じたとき、還流凝縮器内部に蓄積した非凝縮性気体を系外に排出する方法(特許文献2)、▲3▼還流凝縮器の冷却水量を予め設定された流量パターンに従って制御しながら、重合器ジャケット部への冷却水量の調整により重合反応熱の除熱量をコントロールすることで、該還流凝縮器での除熱量を安定せしめ、さらに重合器ジャケット部における冷却水調整バルブの弁開度のフィードバックによる該還流凝縮器の冷却水量をも微調整することにより、冷却水量の急激な変化の抑制と該還流凝縮器への吹き上げを防止し、しかも重合反応中に発生する全反応熱量の50%以上を該還流凝縮器にて除熱する方法(特許文献3)等が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−25909号公報
【特許文献2】
特開平7−252304号公報
【特許文献3】
特開2000−230018号公報
【0006】
しかし、従来法▲1▼は、発泡現象が生起してからの対処である点で、また従来法▲2▼、▲3▼は、還流凝縮器の除熱量を予めパターン化したり、還流凝縮器の水量を予めパターン化させる方法であり、該パターン化が簡単なことではない点で、何れも問題がある。
従って、還流凝縮器を付設した重合反応器を用いた塩化ビニル系単量体の懸濁重合法において、発泡を事前に予知した、簡便な発泡による吹き上げ防止法の開発が待たれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、還流凝縮器を付設した重合反応器を用いた塩化ビニル系単量体の懸濁重合法において、発泡を事前に予知した、簡便な発泡による吹き上げ防止法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねたところ、懸濁重合法による塩化ビニル系樹脂の製造においては、反応器の圧力低下と発泡の生起との間には関連性があることを知り、更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の構成からなるものである。
還流凝縮器を付設した重合反応器を用いて、塩化ビニル又は塩化ビニルとその共重合成分からなる塩化ビニル系単量体を懸濁重合するに際し、反応経過後、反応器の気相圧力が重合温度における塩化ビニル系単量体の飽和圧力より0.15〜0.9kg/cm2低下した時点において還流凝縮器の除熱量の漸減を開始し、除熱量の漸減開始から5〜30分経過後に除熱を停止することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【0010】
本発明の特徴は、還流凝縮器を付設した重合反応器を用いて、塩化ビニル又は塩化ビニルとその共重合成分の混合物からなる塩化ビニル系単量体を懸濁重合するに際し、重合反応器の圧力と還流凝縮器の除熱能力を連動させることにより、反応器内の発泡による吹き上げを自動的に抑えた点にある。
【0011】
本発明は、以下の新事実の発見に基づいて完成されたものである。
(1)懸濁重合法による塩化ビニル系樹脂の製造においては、反応経渦後、重合反応器の圧力低下が起こるが、反応器内の発泡はこの圧力低下が始まる前に既に生起しており、その発泡の高さはほぼ一定であること。
(2)上記の発泡開始後、還流凝縮器をそのまま運転すると、発泡による吹き上げが起こるが、反応器の圧力低下に連動して、還流凝縮器の除熱量を減少させると、発泡による吹き上げを自動的に抑えることが出来ること。
(3)そのためには、反応器の圧力低下が発生した時点から、還流凝縮器の除熱量を一定時間内に除熱量ゼロまで漸減させる必要があること。
【0012】
何れにしても、本発明は、反応器内で発泡が生起していることを、反応器の圧力低下により予知し、発泡の暴走(吹き上げ)を還流凝縮器の除熱量の漸減という簡単な手段で防止した点に特徴があり、この点に本発明の発明性がある。
本発明によれば、発泡による吹き上げを防止することが可能となり、重合反応器内容物が還流凝縮器へ流入し、還流凝縮器の除熱能力を著しく低下させたり、流入した重合体粒子が、還流凝縮器の内部や重合反応器と還流凝縮器との連絡配管内等に付着残留して、スケール生成の原因となったり、又は次回の重合の際に混入してフィッシュアイの原因となって品質を低下させるという問題が発生しないという優れた効果が達成し得る。
【0013】
以下、更に本発明について詳細に説明する。
本発明は、還流凝縮器を付設した重合反応器を用いて、塩化ビニル又は塩化ビニルとその共重合成分からなる塩化ビニル系単量体を懸濁重合するに際し、反応経過後、反応器の気相圧力が重合温度における塩化ビニル系単量体の飽和圧力より0.15〜0.9kg/cm2低下した時点において還流凝縮器の除熱量の漸減を開始し、除熱量の漸減開始から5〜30分経過後に除熱を停止することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法である。
【0014】
そこで、本発明の塩化ビニル系単量体の懸濁重合法や該重合法の発泡防止法等について、以下、説明する。
(1)重合反応器
本発明の反応器は、還流凝縮器を付設したものであればその種類は問わない。
例えば、通常のジャケット式、スパイラルジャケット式、内部ジャケット式又は温調エレメント式等の冷却装置を備えた反応器が使用できる。
また、反応器に付設する還流凝縮器は、通常、塩化ビニル系樹脂の製造に使用可能なものであれば、どの様な型式の還流凝縮器を使用しても構わないが、反応器の上部に直接設置する直結型が好ましい。
本発明においては、重合中に発生する重合熱の50〜80%、特に55〜75%を除熱する能力を有する重合反応器を用いた場合にその効果をより発揮させることができる。
【0015】
(2)原材料
(単量体)
単量体としては、塩化ビニル又はその共重合成分が使用可能である。
共重合成分としては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、酢酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル額、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル類、マレイン酸又はフマール酸等の酸のエステル類及び無水物、アクリロニトリル等のニトリル化合物、又は塩化ビニリデンの如きビニリデン化合物等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0016】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、塩化ビニルの重合で通常用いられる油溶性開始剤又は水溶性開始剤であり、特に限定されない。
例えば、油溶性開始剤としては、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルへキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルへキシルパーオキシジカーボネート、アセチルシクロへキシルスルホニルパーオキサイド等のような有機過酸化物、又はα,α′−アゾビスイソブチロニトリル、α,α′−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。また、水溶性開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素等が挙げられ、これらは重合方法に応じて適宜選択されて用いることができる。
【0017】
(分散剤)
懸濁用分散剤は、通常のものが使用可能である。
例えば、部分鹸化ポリビニルアルコール、メチルセルローズ、ヒドロキシプロピルセルローズ、ポリエチレンオキサイド、ゼラチン、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、澱粉等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0018】
(その他)
本発明においては、必要に応じて分子量調整剤を使用することもできる。また重合反応に使用される重合開始剤、分散剤、乳化剤、分子量調整剤等は、最初に一括して重合反応系に添加してもよく、また重合反応中に分割して添加してもよい。その他の重合条件は、単量体の種類、重合の方法に応じて従来より行われてきた条件でよく、特に限定されない。
【0019】
(3)発泡防止法
本発明の発泡防止法は、反応開始後、重合反応器の気相圧力が重合温度における塩化ビニル系単量体の飽和蒸気圧より0.15〜0.9kg/cm2低下した時点から還流凝縮器の除熱量を一定時間内に除熱量ゼロまで漸減させ、発泡による吹き上げを自動的に抑えるものである。
重合反応器の気相圧力低下の判断は、反応温度における塩化ビニル系単量体の飽和蒸気圧を基準として行えばよいが、具体的には、重合反応器の圧力低下が生起し始めた時点は、その重合温度での塩化ビニル系単量体の飽和圧力より、0.15〜0.9kg/cm2低下した時点である必要があり、0.2〜0.7kg/cm2低下した時点を採用するのが好ましい。0.15kg/cm2未満であると、還流凝縮器の除熱量漸減の開始時点が早すぎ、後述する漸減開始から漸減停止までの時間が比較的短い場合には還流凝縮器による除熱量の不足を重合反応器本体の冷却でまかなわなければならないが、冷却水温度の高い(およそ27℃)夏場では重合反応器本体での冷却能力が不足するため、反応温度の制御が不可能となる危険性がある。一方、0.9kg/cm2を超えると、重合反応器内の発泡を抑止できず、発泡による悪影響を回避することができない。
【0020】
また、還流凝縮器の除熱の漸減開始から除熱停止までの時間は、5〜30分である必要があり、10〜25分であることが好ましい。上記の時間が5分未満の場合には、還流凝縮器による冷却停止が早すぎ、還流凝縮器による冷却分を重合反応器本体での冷却に負担させなければならないが、そうすると重合反応器本体の冷却能力が不足する場合には温度制御ができなくなるために好ましくない。また、上記時間が30分を越えると重合反応器内での発泡暴走を抑止できないために好ましくない。
【0021】
除熱量漸減の開始から除熱停止までの漸減時間は、5〜30分の範囲で任意に選べばよいが、還流凝縮器の除熱量の開始時における反応器気相の低下圧力に応じて、下記式を満足するように選ぶことが、発泡暴走を効果的に防止し得る範囲で短時間に除熱停止可能であるために、本発明において好適である。
0.8≦ΔP×Δt≦11
ただし、ΔP=還流凝縮器の除熱量の開始時における反応器気相の低下圧力
(kg/cm2)
Δt=除熱量漸減の開始から除熱停止までの漸減時間(分)
【0022】
本発明において、還流凝縮器の除熱量漸減の開始から除熱停止までの間における除熱量漸減方法は、徐々に除熱を絞る方法であれば特に制限されない。例えば、除熱量漸減の開始から除熱停止までの間、時間の経過に応じて除熱量を直線的に低減させる方法、時間の経過に伴って段階的に除熱量を減少させる方法、除熱量の漸減開始時点は除熱量を大きくし、時間の経過に伴って徐々に除熱量を小さくする方法、除熱量の漸減開始時点は除熱量を小さくし、時間の経過に伴って次第に除熱量を大きくする方法等を採用することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、実施例等を示し、具体的に本発明を説明するが、これにより本発明を限定するものではない。
【0024】
実施例等における、還流凝縮器の除熱量計算方法、還流凝縮器の停止方法は、以下のようにして行った。
1.還流凝縮器の除熱量計算方法
還流凝縮器の除熱量(Kcal/Hr)の算出方法は、還流凝縮器ジャケット冷却水入口部と出口部に設けられた温度計の指示、Ti(℃)とTo(℃)およびジャケット冷却水流量計の指示Wf(m3/Hr)を用いた下記の計算式から求めた。
Q=((To)−(Ti))×Wf×l03 (単位:Kcal/Hr)
【0025】
2.還流凝縮器の停止方法
還流凝縮器の除熱量をゼロにする。即ち、除熱量の漸減方法は、還流凝縮器ジャケット冷却水出口配管に設けた冷却水調節弁を、還流凝縮器の除熱量を示す除熱メーターの指示を見ながら、当該冷却調節弁を徐々に閉じることにより行う。除熱量ゼロにするには冷却水量をゼロにする。冷却調節弁が自動的に動く弁である場合は、還流凝縮器の除熱量を入力とした自動熱量調節計の出力を冷却水調節弁につなぎ、弁の動きを制御させる。除熱量を時間との関係で徐々に低下させるには、還流凝縮器の除熱量調節計の上位にプログラム制御器を設け、時間の経過と共にプログラム制御器の出力を除熱量ゼロとなる方向に変化させることにより行う。プログラム制御器の起動は反応器の圧力低下から読み取りを行う。
【0026】
【実施例1】
有効長さ1000mmの静電容量式泡検知器を、反応器に57℃の水88m3を入れて攪拌した時に指示が0mm、塩化ビニル樹脂を含んだスラリー中に1000mm浸した時に指示が1000mmとなるように反応器の気相部に設置した。伝熱面積(外径基準)150m2を有し、堅型・多管式還流凝縮器を備えた容積100m3の内部ジャケット反応器(重合反応熱の75%の除熱能力を有する)に、塩化ビニルモノマー39m3、脱塩水42.5m3、分散剤A750ppm(対モノマー、ポリビニルアルコール ケン化度85モル%)、分散剤B300ppm(対モノマー、ポリビニルアルコール ケン化度36.5モル%)及び油溶性開始剤(1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシデカノエート)525ppm(対モノマー)を添加して攪拌し、反応温度を57℃に調節しながら反応を進めた。重合率25%に到達する前までに、反応器内の非凝縮ガス(主に窒素ガス)を還流凝縮器の頂部に設けたイナートガスベント弁を一定時間開けて、反応容器及び還流凝縮器から系外へ移動させたのち、還流凝縮器のジャケットに冷却水を通し、冷却を開始させ、除熱量を1,400,000Kcal/Hrになるように調整した。反応器圧力は、温度57℃で示す塩化ビニルモノマーの飽和蒸気圧にほぼ等しい8.5kg/cm2Gであった。
【0027】
反応器気相部に設けた静電容量式泡検知器の指示は、還流凝縮器による除熱を開始した以降は20mm前後を示していたが、還流凝縮器除熱量を漸減する直前では125mmであった。還流凝縮器の除熱量の漸減は、反応器圧力が低下を始めたのち、8.2kg/cm2Gに達した時より始め、還流凝縮器ジャケットに供給する冷却水量を徐々に減じることで除熱量を下げ、下げ始めから25分経過した反応時間212分で除熱量をゼロにした。泡検知器の指示は、還流凝縮器の除熱量をゼロにしたとき312mmの最大を示し、その後は、徐々に低下し、反応停止した241分には121mmであった。
【0028】
反応器圧力は、還流凝縮器による除熱量をゼロにした後も低下を続けたが、反応器圧力が6.5kg/cm2Gに到達した時に反応を打ち切り、反応器から未反応モノマーを移動させた。
反応器冷却ジャケットの冷却水温度は、還流凝縮器による除熱量の漸減による除熱能力不足に応じて徐々に温度低下するように自動制御されており、還流凝縮器による除熱量の漸減中に示した最低のジャケット温度は31.5℃であった。次に、直径600mmのマンホールを開放し、反応器内部を目視により確認したところ、泡検知器有効長さ312mmの位置まで、反応器内スラリーが上昇したことを示す重合体スラリーが確認されたが、泡検知器有効長さ312mmを超える泡検知器本体及び同等高さ位置の反応器気相部、並びに還流凝縮器内にはスラリーは確認されなかった。
【0029】
【実施例2】
還流凝縮器の除熱量漸減を、反応器圧力が低下を始めてのち、7.8kg/cm2Gに達した時より開始し、還流凝縮器ジャケットに供給する冷却水量を徐々に減じることで除熱量を下げ、下げ始めから15分経過した反応時間211分で除熱量をゼロにした以外は、実施例1と同様に重合を実施した。反応器圧力が6.5kg/cm2Gに到達した時に反応を打ち切り、反応器から未反応モノマーを移動させ、直径600mmのマンホールを開放し、反応器内部を目視により確認したところ、泡検知器有効長さ462mmの位置まで、反応器内スラリーが上昇したことを示す重合体スラリーが確認されたが、泡検知器有効長さ462mmを超える泡検知器本体及び同等高さ位置の反応器気相部、並びに還流凝縮器内にはスラリーは確認されなかった。
【0030】
【実施例3】
還流凝縮器の除熱量漸減を、反応器圧力が低下を始めてのち、8.3kg/cm2Gに達した時より開始し、還流凝縮器ジャケットに供給する冷却水量を徐々に減じることで除熱量を下げ、下げ始めから25分経過した反応時間209分で除熱量をゼロにした以外は、実施例1と同様に重合を実施した。反応器圧力が6.5kg/cm2Gに到達した時に反応を打ち切り、反応器から未反応モノマーを移動させ、直径600mmのマンホールを開放し反応器内部を目視により確認したところ、泡検知器有効長さ289mmの位置まで、反応器内スラリーが上昇したことを示す重合体スラリーが確認されたが、泡検知器有効長さ289mmを超える泡検知器本体及び同等高さ位置の反応器気相部、並びに還流凝縮器内にはスラリーは確認されなかった。
【0031】
【比較例1】
還流凝縮器による除熱量の漸減を、反応器圧力が低下を始めてのち8.4kg/cm2Gに達した時より開始し、下げ始めから7分経過した反応時間190分で除熱量ゼロとした以外は実施例1と同様にして重合を実施したが、還流凝縮器の除熱量を800,000Kcal/Hr以下に漸減した以降の反応器ジャケット温度は30℃以下を示し、除熱量をゼロとした以降も下がり続けて最低19.6℃を示した後上昇に転じた。反応器圧力が6.5kg/cm2Gに到達した時反応を打ち切り、反応器から未反応モノマーを移動させ、直径600mmのマンホールを開放し、反応器内部を目視により確認したところ、泡検知器有効長さ254mmの位置まで、反応器内スラリーが上昇したことを示す重合体スラリーが確認されたが、泡検知器有効長さ254mmを超える泡検知器本体及び同等高さ位置の反応器気相部、並びに還流凝縮器内にはスラリーは確認されなかった。
【0032】
しかし、反応器気相圧力が0.1kg/cm2低下した時に還流凝縮器の漸減停止を開始し、且つ7分で除熱停止を行ったのでは、27℃冷水塔水を使用した反応器ジャケット冷却能力を上回る重合反応熱の発生が継続しており、反応器ジャケット温度を19.6℃まで冷却できる冷却水(およそ15℃)を用いなければ暴走反応に至る異常反応であった。
【0033】
【比較例2】
還流凝縮器の除熱量漸減を、反応器圧力が低下を始めてのち7.5kg/cm2Gに達した時より開始し、15分経過した反応時間215分で除熱量ゼロとした以外は実施例1と同様にして重合を実施し、反応器圧力が6.5kg/cm2Gに到達した時に反応を打ち切り、反応器から未反応モノマーを移動させ、直径600mmのマンホールを開放し、反応器内部を目視により確認したところ、反応器に挿入された泡検知器全長及び反応器気相部全体に発泡したスラリーの残留が確認され、開放したマンホールの鍔部(直胴部)、反応器原料供給入口配管やノズル及び多管式還流凝縮器内にも多量のスラリー残留が確認された。
実施例及び比較例の結果は、表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1の結果より、以下のことが解る。
還流凝縮器の漸減停止を、反応圧力が低下し始めてのち、モノマー飽和蒸気圧近い圧力で開始し、短時間で還流凝縮器による除熱ゼロを行うと、発泡は抑止できるが反応器ジャケットだけでの除熱能力を上回る反応熱が残っていることにより、暴走反応を引き起こす。
【0036】
還流凝縮器の漸減停止を、反応圧力が低下し始めたのち、モノマー飽和蒸気圧力より過度の低い圧力で開始し、発泡が暴走しようとする反応時間前までに除熱量ゼロとしないと、発泡したスラリーが反応器気相部のみならず、還流凝縮器内まで浸入し、汚染する事態になる。
本発明の方法によれば、重合反応でのスラリー発泡を軽減でき、反応器内や還流凝縮器内が発泡したスラリーで汚染されることがない。
【0037】
【発明の効果】
本発明は、反応器内で発泡が生起していることを、反応器の気相圧力低下により予知し、発泡の暴走(吹き上げ)を還流凝縮器の除熱量の漸減という簡単な手段で防止した点で優れている。特に、重合反応時間が3.5〜5時間である短時間重合において良好な効果を発揮することができる。
また、本発明によれば、発泡による吹き上げ現象を防止することが可能となり、重合反応器内容物が還流凝縮器へ流入し、還流凝縮器の除熱能力を著しく低下させたり、流入した重合体粒子が、還流凝縮器の内部や重合反応器と還流凝縮器との連絡配管内等に付着残留して、汚染されることがないという優れた効果が奏される。
Claims (2)
- 還流凝縮器を付設した重合反応器を用いて、塩化ビニル又は塩化ビニルとその共重合成分からなる塩化ビニル系単量体を懸濁重合するに際し、反応経過後、反応器の気相圧力が重合温度における塩化ビニル系単量体の飽和圧力より0.15〜0.9kg/cm2低下した時点で還流凝縮器の除熱量の漸減を開始し、除熱量の漸減開始から5〜30分経過後に除熱を停止することを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。
- 還流凝縮器の除熱量の漸減開始時における反応器気相の低下圧力(ΔP(単位:kg/cm2))と還流凝縮器の除熱量の漸減開始から除熱停止までの漸減時間(Δt(単位:分))とが、下記式
0.8≦ΔP×Δt≦11
を満足するように除熱を停止する請求項1記載の製造方法。
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