JP4199406B2 - モリブデン材料およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、材料中から放出するガスで問題となる耐熱材料で、高温に加熱されても放出ガスが少ないモリブデン材料およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高融点金属であるモリブデン(Mo)は、融点が高いことから高温で強度の要求される用途に使われている。しかしながら、純モリブデン加工材の場合、1000℃程度以上に加熱すると再結晶して等軸結晶粒となり脆化するために、高温強度が著しく低下する。さらに、高温では、結晶粒が粗大化し、強度の低下が顕著となる。また、再結晶したモリブデンは、室温でほとんど延性を示さない。このように、純モリブデン、特に、高温での使用の際に再結晶する場合も含む再結晶材は、強度や靭性の要求される用途おいて、使用温度が制限される場合が少なくない。このような強度や靭性の問題を解決し広い範囲で使用できるようにするために、4a族の遷移金属のチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などの炭化物を分散させ、炭化物粒子の析出強化によって強靭化する方法が試みられている。
【0003】
本発明者らの知見によれば、これらの合金のほとんどには、特定の化合物、不純物元素、あるいは固溶元素として後述するようなガス放出に問題となりうる多量の炭素や酸素が同時に含有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一方、モリブデンは耐酸化性に非常に乏しいために、通常、水素などの還元雰囲気、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気、あるいは真空雰囲気中で使用されている。しかしながら、特に真空雰囲気において、炭化物などを分散した合金を高温に加熱すると、合金中に含まれる炭素および酸素などの成分が反応してHOガスやCOガスなどの各種ガスが放出される。特に、600〜1000℃以上の高温ではCOガスが主に放出し、雰囲気の真空度の低下を招き、10−6torr(1.33×10−4Pa)台以下の高真空を得るために排気に時間が要したり、最終的には高真空が得られない問題がある。さらに、たとえば、X線管の回転陽極夕一ゲットの基材部分に用いた場合は、真空度の低下を招き、陽極表面において異常アーク放電が頻発する問題があり、一方、真空炉用部材あるいは構造材として使用した場合は、真空処理物以上にガス放出が多く、操炉が最悪不可能な事態が生じる場合がある。
【0005】
したがって、本発明の技術的課題は、材料中の酸素および炭素量、とくに、酸素量を制御することによって、高温に加熱されてもガスとくに一酸化炭素ガスの放出が少ないモリブデン材料を提供することにある。
【0006】
また、本発明の他の技術的課題は、上記モリブデン材料を製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、粉末冶金法にて作製されたモリブデン合金において、前記モリブデン合金は炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタルのうち少なくとも一種を含み、酸素含有量を100ppm以下に制限することによって、真空雰囲気中で室温から1000℃まで加熱した際に前記モリブデン合金から放出する一酸化炭素ガス量が10ppm以下であることを特徴とするモリブデン材料が得られる。
【0008】
【0009】
また、本発明によれば、前記モリブデン材料を製造する方法であって、金属モリブデン粉末と炭化チタン粉末、炭化ジルコニウム粉末、炭化ハフニウム粉末及び炭化タンタル粉末のうち少なくとも1種の混合粉末を成形する工程と、1800〜2000℃の温度で、水素または真空のうちのいずれかの雰囲気にて成形粉末を焼結する工程を有し、前記焼結体の酸素含有量および炭素含有量を前記水素雰囲気における水分量、前記真空雰囲気においては真空度により制御して、前記焼結体の酸素含有量を100ppm以下に制限することによって、真空雰囲気中で室温から1000℃まで加熱した際に前記モリブデン合金から放出する一酸化炭素ガス量が10ppm以下であるモリブデン合金材料を得ることを特徴とするモリブデン材料の製造方法が得られる。
【0010】
ここで、本発明において、特に酸素含有量を100ppm以下で、放出COガス量を10ppm以下と限定したのは、後に実施の形態で詳しく説明するように、高温で放出されるガスのほとんどはCOガスであり、そのCOガスが真空度の低下を招く大きな一因であることを見いだしたからである。
【0011】
また、Cが多量に含まれていてもそのCは特定の化合物として存在しているならば、不純物としての酸素量を100ppm以下、好ましくは10ppm以下にすることによって、放出COガス量を純Mo程度に低減できることを見いだしたからである。
【0012】
また、ここで、本発明において、前記モリブデン合金は、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタルのうち少なくとも一種を含むと限定したのは、これらの炭化物は融点が高く、熱的に安定であるためである。なお、上記した以外の化合物でも同様に熱的に安定ならば、酸素量を低減すれば本発明と同様な効果が得られることは言うまでもない。
【0013】
また、この添加物(分散物)の量を限定しなかったのは、一般的に強靭化するために添加される量(たとえば数重量%程度)やそれ以上の量であっても、酸素含有量を少なくすることによって放出ガス量を低減できると考えられるからである。なお、モリブデンおよびその合金において、材料中の酸素は、粒界強度の低下、すなわち材料自身の強度の低下を招くので、本発明においては、酸素含有量を低減することによって、放出ガス量を低減できるばかりでなく、材料強度も向上させることもできる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
平均粒径4.0μmのモリブデン粉末、あるいはさらに平均粒径1.0μmの炭化チタン粉末を1質量%添加し混合した粉末を常法で成形し、水素雰囲気あるいは真空中1800〜2000℃で5〜10h焼結した。ここで、焼結体中の酸素量および炭素量は、水素中の水分量や真空度を変化させて制御した。下記表1に作製した焼結体および炭素含有量および酸素含有量を示す。
【0016】
【表1】
Figure 0004199406
【0017】
焼結体を厚さ1mm×□10mmの形状に切断して全面を0.5Sに研磨したのち、表面をアルコールで超音波洗浄を用いて清浄化して放出ガス測定用試料とした。放出ガスの測定の概略を以下に示す。測定直前まで大気にさらさないように保存した試料を加熱チャンバーにセットして、上記表1に示すように室温で8×10−10torr(約1.06×10−3Pa)の真空度に排気したのち装置の測定限界に近い温度まで、昇温加熱して試料から放出されたガス量をある一定の時間ごとに測定した。ここで、放出ガス量はある質量数のイオン強度で代表される。まず、試料からどのような成分のガスが放出されるかを把握するために、上記表1に示した全試料に対して、0〜200amuの質量数のイオン強度と温度の関係を調べた。全質量数のうち、2,12,14,16,17,18,28,44の質量数の放出が確認された。その結果を図1に示す。なかでも、質量数18(HO)と28(CO)が非常に多い。このことは、縦軸の絶対値の違いはあるものの試料間でほとんど違わないことが判明した。さらに、質量数18のHOは300℃近傍でもっとも放出量が多く、500℃以上ではほとんど放出されていない。他のガス成分もまた同様であった。すなわち、CO以外のガス成分については、500〜1000℃でそのほとんどが材料中から放出されていると言える。それに対して、質量数28のCOは1000℃近傍でもまだ脱離が認められる。したがって、高温・高真空で使用する場合に材料から放出して問題が生じる可能性があるガス成分はほとんどCOガスであると考えられる。
【0018】
以上の結果から、上記表1に示した試料から放出されたCOガス量を定量した。定量方法は、イオン強度の時間変化のグラフを積分した強度である。結果を表1に示した。
【0019】
参考例による試料No.1およびNo.2に示したように、純Moでも試料中の含有炭素量と含有酸素量を低減することによって、室温から1000℃まで真空中で昇温加熱した際に試料から放出されたCOガス量は低減できることを見いだした。また、本発明の第1の実施の形態による試料No.3〜4,比較例による試料No.5〜8については炭素含有量が非常に多いが、そのほとんどは不純物でなくほとんど炭化チタンとして存在している。このような合金の場合でも、本発明の第1の実施の形態による試料No.3および4のように酸素含有量を100ppm以下に制御することによって、放出COガス量は純Moと同程度に低減できることを見いだした。すなわち、本発明のような炭化物を分散した合金の場合、機械的な特性にすぐれているものの、通常は昇温加熱した際には放出するガス量が非常に多かったが、酸素量を100ppm以下、好ましくは10ppm以下に制御することによって放出ガス量は著しく低減できることを見いだした。
【0020】
図2に参考例による試料No.2と本発明の実施の形態による試料No.3、および比較例による試料No.5のCOガスのイオン強度の温度変化を示す。イオン強度が大きいほど放出ガス量が多いことを示す。試料No.2とNo.3は1000℃近傍で放出ガスが著しく減衰しているが、試料No.5についてはまだ放出し続けている。上記表1には試験前後の真空度も示した。本発明の実施の形態によるものの場合、真空度の低下は1桁程度に留まっている。しかし、比較例の場合はそれ以上に真空度が低下している。
【0021】
図2に示したように、比較例による試料No.5のような材料は、1000℃でもまだガスを放出し続けていることから、さらに高温に加熱することにより真空度は低下するであろう。現在のところ、本装置では1000℃程度より高温での放出ガスは測定できない。そのため、1000℃より高温での放出ガス量の変化を以下の要領で調べた。すなわち、本発明の実施の形態のNo.3と比較例のNo.6を2×10−6torr(2.66×10−4Pa)の真空中で1000℃および1500℃で1h熱処理して、試料中に内存している炭素量と酸素量を調べた。その結果を下記表2に示す。
【0022】
表2において、本発明の実施の形態による試料No.3の場合、1000℃、1500℃、いずれの処理条件でも炭素量および酸素量にほとんど変化が見られないが、比較例による試料No.6の場合は変化が見られる。すなわち、1000℃程度までの温度域での放出ガス量を極力低減できれば、より高温での放出ガス量も制御できるという結論に達した。
【0023】
【表2】
Figure 0004199406
【0024】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態と同様な方法で、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タン夕ル分散モリブデン合金を作製した。下記表3に作製した焼結体および炭素含有量および酸素含有量を示す。酸素含有量を低減することによって放出ガス量も少なくなっている。
【0025】
【表3】
Figure 0004199406
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、モリブデン粉末に炭化チタン粉末、炭化ジルコニウム粉末、炭化ハフニウム粉末、あるいは炭化タンタル粉末を混合したモリブデン混合粉末を、常法で成形後焼結することによって、真空中で高温加熱しても放出ガス量がきわめて少ないモリブデン合金からなるモリブデン材料を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 モリブデンおよびその合金を真空中室温から1000℃まで昇温加熱した際に、材料から放出された質量数(ガス成分)のイオン強度と温度の関係の一例を示した図である。
【図2】 参考例によるモリブデン(No.2)および本発明の実施の形態によるモリブデン合金(No.3)、および比較例のモリブデン合金(No.5)のイオン強度と温度の関係を示した図である。

Claims (2)

  1. 粉末冶金法にて作製されたモリブデン合金において、前記モリブデン合金は炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタルのうち少なくとも一種を含み、酸素含有量を100ppm以下に制限することによって、真空雰囲気中で室温から1000℃まで加熱した際に前記モリブデン合金から放出する一酸化炭素ガス量が10ppm以下であることを特徴とするモリブデン材料。
  2. 請求項1に記載のモリブデン材料を製造する方法であって、金属モリブデン粉末と炭化チタン粉末、炭化ジルコニウム粉末、炭化ハフニウム粉末及び炭化タンタル粉末のうち少なくとも1種の混合粉末を成形する工程と、1800〜2000℃の温度で、水素または真空のうちのいずれかの雰囲気にて成形粉末を焼結する工程を有し、前記焼結体の酸素含有量および炭素含有量を前記水素雰囲気における水分量、前記真空雰囲気においては真空度により制御して、前記焼結体の酸素含有量を100ppm以下に制限することによって、真空雰囲気中で室温から1000℃まで加熱した際に前記モリブデン合金から放出する一酸化炭素ガス量が10ppm以下であるモリブデン合金材料を得ることを特徴とするモリブデン材料の製造方法。
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