以下、本発明に係る内燃機関の可変動弁装置の各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この各実施形態では、一気筒当たり2つの吸気弁を備えた多気筒内燃機関に適用されている。
図5〜図7は本発明の第1の実施形態(請求項2の発明に対応する実施形態)を示し、シリンダヘッド1に図外のバルブガイドを介して摺動自在に設けられた一気筒当たり2つの吸気弁2,2と、機関前後方向に配置された内部中空状の駆動軸3と、各気筒毎に配置されて、前記駆動軸3の外周面に同軸上に回転自在に支持されたカムシャフト4と、前記駆動軸3の所定位置に各気筒毎に固設された駆動カム5と、前記カムシャフト4の両端部に一体に設けられて、各吸気弁2,2の上端部に配設されたバルブリフター6,6に摺接して各吸気弁2,2を開作動させる一対の揺動カム7,7と、駆動カム5と揺動カム7,7との間に連係されて、駆動カム5の回転力を揺動カム7,7の揺動力(開弁力)として伝達する可変機構8と、該可変機構8の作動位置を後述する制御軸19を介して可変制御する制御機構9とを備えている。
前記各吸気弁2,2は、シリンダヘッド1の上端部内に収容されたほぼ円筒状のボアの底部とバルブステム上端部のスプリングリテーナとの間に弾装された図外のバルブスプリングによって閉方向に付勢されている。
前記駆動軸3は、機関前後方向に沿って配置されて、両端部がシリンダヘッド1の上部に設けられた図外の軸受によって回転自在に軸支されていると共に、一端部に設けられた図外の従動スプロケットや該従動スプロケットに巻装されたタイミングチェーン等を介して機関のクランク軸から回転力が伝達されており、この回転方向は図6中、矢印時計方向に設定されている。
前記カムシャフト4は、駆動軸3の軸方向に沿ってほぼ円筒状に形成され、内部軸方向に前記駆動軸3の外周面に回転自在に支持される支軸孔が貫通形成されていると共に、中央位置に形成された大径円筒状のジャーナル部がカム軸受10によって回転自在に軸支されている。
前記駆動カム5は、駆動軸3の軸方向の所定位置で図外の固定用ピンを介して駆動軸3に固定されていると共に、外周面が偏心円のカムプロフィールに形成されて、軸心Yが駆動軸3の軸心Xから径方向へ所定量だけオフセットしている。
前記各揺動カム7は、ほぼ雨滴状を呈し、基端部側がカムシャフト4を介して前記駆動軸3の軸心Xを中心として揺動するようになっていると共に、揺動カム7の下面には各バルブリフター6の上面に当接するカム面7aがそれぞれ形成されている。
前記可変機構8は、駆動軸3の上方に配置されたロッカアーム13と、該ロッカアーム13の一端部13aと駆動カム5とを連係するリンクアーム14と、ロッカアーム13の他端部13bと一方の揺動カム7のカムノーズ部7bとを連係するリンクロッド15とを備えている。
前記ロッカアーム13は、中央の筒状基部の内部に支持孔13cが横方向から貫通形成され、この支持孔13cを介して後述する制御カム20に揺動自在に支持されている。また、前記一端部13aは、先端部の側部に突設されたピン16によってリンクアーム14に回転自在に連結されている一方、他端部13bは、先端部の内部にリンクロッド15の一端部と連結するピン17によって回転自在に連結されている。
前記リンクアーム14は、比較的大径な円環状の基部と、該基部の外周面所定位置に突設された突出端とを備え、基部の中央位置には、前記駆動カム5のカム本体5aの外周面が回転自在に嵌合する嵌合孔14aが形成されている一方、突出端が前記ピン16によってロッカアーム一端部13aに回転自在に連結されている。
前記リンクロッド15は、両端部15a,15bが前記ロッカアーム13の他端部13bと揺動カム7のカムノーズ部7bに各ピン17,18を介して回転自在に連結されている。
前記制御機構9は、図5及び図6に示すように、前記カムシャフト4の軸受10の上端部側で回転自在に支持された制御軸19と、該制御軸19の外周に一体に固定されてロッカアーム13の揺動支点となる制御カム20と、前記制御軸19を所定回転角度範囲内で回転制御する油圧アクチュエータ21と備えている。
前記制御軸19は、駆動軸3とほぼ平行に配設されて、前記ロッカアーム13の支持孔13cの内部を貫通してロッカシャフトとして機能している。
前記制御カム20は、円筒状を呈し、軸心P1位置が肉厚部の分だけ制御軸19の軸心P2から所定分だけ偏倚している。
前記油圧アクチュエータ21は、図1〜図4に示すように、シリンダヘッド1の端壁1aにブラケット22を介して取り付けられた油圧駆動部23と、前記クランク軸によって駆動して、前記油圧駆動部23に油圧を給排するオイルポンプ24と、該オイルポンプ23から油圧駆動部23の後述する第1、第2作動室30,31に油圧を給排する第1、第2油通路25,26を選択的に切り換える電磁切換弁27と、該電磁切換弁27に制御電流を出力して流路を切り換え制御するコントローラ28とから主として構成されている。
前記油圧駆動部23は、前記ブラケット22に固定されたハウジング29と、該ハウジング29の内部に回動自在に設けられて、ハウジング29内部を一対の第1作動室30と第2作動室31に隔成するベーン部材32とを備えている。
前記ハウジング29は、図1及び図2に示すように、ほぼ逆扇状に形成されたハウジング本体29aと、該ハウジング本体29aの前端開口を閉塞するフロントカバー29bと、ハウジング本体29aの後端開口を閉塞するリアーカバー29cとからなり、これらが複数の螺子33によって固定されている。
また、前記ベーン部材32は、基部32aに前記制御軸19の他端部がボルト34によって軸方向から固定されていると共に、ほぼ鳩尾状に形成された先端部32bの円弧状先端面32cがハウジング29の円弧状底面に液密的に摺動するようになっている。
さらに、前記第1作動室30と第2作動室31は、ハウジング本体29aの両側に穿設された一対の油孔30a、31aに接続された前記第1、第2油通路25、26から選択的に給排される油圧により容積を変化させることによって、前記ベーン部材32を約100°の回転角度範囲内で正逆回転させるようになっている。したがって、この回転角度範囲内で前記制御軸19を正逆回転制御するようになっている。
前記オイルポンプ24は、機関の摺動部に潤滑油を供給する一般的なものであって、例えば外歯歯車式のものが用いられている。
前記電磁切換弁27は、3方向2位置型であって、前記コントローラ28から出力された制御電流によって、内部のスプール弁体が前後いずれか一方に摺動して前記オイルポンプ24のメインオイルギャラリー41と前記いずれか一方の油通路25,26に連通すると同時にドレン通路35と他方の油通路25,26とをぞれぞれ選択的に連通するようになっている。
前記コントローラ28は、機関回転数を検出する図外のクランク角センサや、吸入空気量により機関負荷を検出するエアーフローメータ及びスロットル開度センサ、機関水温センサなどの各センサ類から現在の機関運転状態を検出すると共に、前記制御軸19の回転角度を検出する回転角センサSからのフィードバック信号を入力する。これらの情報信号に基づいて、前記電磁切換弁27の開閉制御を行うようになっている。
また、前記油圧駆動部23には、機関始動時に、前記吸気弁2、2の所定の小リフト量とする位置(所定の中間位置)に前記ベーン部材32を介して前記制御軸19を図1中反時計方向の中間位置に回転付勢する付勢機構36が設けられていると共に、機関始動後に、付勢力に抗して後退移動した前記付勢機構36を後退位置に保持する保持機構37が設けられている。また、機関停止に、前記保持機構37による付勢機構36の保持作用を解除する解除機構が設けられている。
また、前記付勢機構36によって中間位置に回転付勢されたベーン部材32を該中間位置に保持する位置保持機構39が設けられている。
前記付勢機構36は、図1に示すように、ハウジング本体29aの一辺側の肉厚部内に形成されて前記第2作動室31に開口した有底状の摺動用穴40と、該摺動用穴40の内部に摺動自在に設けられたプランジャ41と、プランジャ41の先端壁と摺動用穴40の底面40との間に弾装されて、前記プランジャ41を第2作動室31を介してベーン部材32を第1作動室30方向へ回転付勢するコイルスプリング42とから構成されている。
前記プランジャ41は、ほぼ有蓋円筒状に形成されて、球面状の先端部41aがコイルスプリング42のばね力によって前記ベーン部材32の一側面のほぼ中央に斜めから弾接していると共に、後端縁外周に一体に形成された環状突起41bが摺動用穴40の環状段差部40aに突き当たった位置で、最大進出移動が規制されるようになっている。また、このプランジャ41は、図外の回り止め手段によって摺動用穴40内での自由な回転が規制されるようになっている。
前記プランジャ41が最大進出移動してベーン部材32を中間回転位置に保持した位置では、制御軸19を介して可変機構8により機関始動に最適なバルブリフト量に制御されるようになっている。
前記保持機構37は、前記プランジャ41の円筒状周壁に径方向から貫通形成された規制孔43と、前記ハウジング本体29aの肉厚部内に前記摺動用穴40に対してほぼ直角方向に形成されて、一端開口が前記摺動用穴40内に臨んだ段差小径状の保持孔44と、該保持孔44の内部に摺動自在に設けられて、先端部が摺動用穴40を介して前記規制孔43に係脱する係止部材であるピストン45とを備えている。
また、前記保持孔44の後端部内には、前記油通路25,26の延長通路25a、26aがそれぞれ連通していると共に、前記ピストン45のほぼ中央に一体に形成された円環状の大径部45aが前記保持孔44の後端部内に導入された油圧の受圧部として機能して、該大径部45aの環状後端面に作用した油圧によってピストン45が進出して、前記摺動用穴40内に後退移動したプランジャ36の規制孔43に係入するようになっている。
前記解除機構は、前記保持孔44の先端壁とピストン45の大径部45の環状先端面との間に弾装されたばね部材である解除スプリング38によって構成されており、前記保持孔44の後端部内に油圧が導入されないときに、この解除スプリング38のばね力によってピストン45を後退移動させて先端部を規制孔43から抜いてプランジャ36の後退保持作用を解除するようになっている。
前記位置保持機構39は、図2に示すように、ベーン部材32の先端部32b側の内部軸方向に貫通形成された摺動用孔47と、該摺動用孔47に摺動自在に設けられたストッパーピン48と、前記リアカバー29cの内面所定位置に形成されて、前記ストッパーピン48が進出して係合する係合穴49とを備えている。なお、この係合位置は、前記付勢機構36によってベーン部材32が第1作動室30方向へ最大に回動した位置になっている。
前記ストッパーピン48は、有底円筒状を呈し、フランジ状の大径基部48aが前記摺動用孔47内を摺動すると共に、先端部48bが摺動用孔47の先端開口から出没自在になっている。また、ストッパーピン48は、先端部48bが先端先細り状に形成されていると共に、先端壁と摺動用孔47の底部に固定された円盤状のスプリングリテーナ50との間に弾装されたスプリング51によって摺動用孔47から進出する方向に付勢されている。
このストッパーピン48は、摺動用孔47の先端内周に形成された円環部に大径基部48aが突き当ってその最大進出位置が規制されるようになっている。
一方、前記係合穴49は、前記先端部48bが係合する断面がほぼ台形状に形成されている。
また、このストッパーピン48は、第2の解除機構によって係合穴49との係合が解除されるようになっている。
この第2解除機構は、前記ベーン部材32の内部に形成されて、各一端が前記各作動室30,31に連通した第1,第2油孔52、53と、摺動用孔47とストッパーピン48との間、及び前記係合穴49底面にそれぞれ形成されて、前記各油孔52,53の他端が連通する第1受圧部54,と第2受圧部55とによって構成されており、該各受圧部54,55にそれぞれ選択的に供給された油圧によってストッパーピン48が、スプリング51のばね力に抗して後退移動して係合穴49から抜き出て両者の係合が解除されるようになっている。
なお、図3に示すように、ストッパーピン48の先端部48bを係合穴49に係合し易いように、係合穴49の孔縁に比較的大きなテーパ面49aを形成することも可能である。
また、前記摺動用孔40は、底部に前記プランジャ41の円滑な摺動を確保するための通路71が接続されている。
以下、本実施形態の作用を説明すれば、機関始動時には、図1に示すように、予めプランジャ41がコイルスプリング42のばね力によってベーン部材32を第2作動室30方向へ所定量回転させていると共に、ストッパーピン48の先端部48bが係合穴49に係合してベーン部材32を最小リフト側より大きなリフト側の中間位置(始動に適したリフト位置)に確実に規制している。このため、機関の始動性が良好になる。
しかも、位置保持機構39による確実な規制によって、制御軸19に交番トルクなどが伝達されても、該制御軸19の振動の発生が抑制されて、吸気弁2、2のリフト量のばらつきが防止されて吸入空気流量の安定化が図ることができる。
この結果、機関の良好な燃焼状態が得られると共に、機関回転の安定化が図れる。
特に、本実施形態のように、多気筒機関の場合は、機関始動時の小リフト制御中には各気筒毎にリフト量のばらつきのおそれがあるが、付勢機構36や位置保持機構39によって全気筒の各吸気弁2,2リフト量を一定かつ画一的に制御するため、各気筒間の吸入空気流量のばらつきの発生を確実に防止でき、機関回転の安定化が図れる。
次に、例えば機関始動後から低回転低負荷域(アイドリング運転も含む)に移行した場合は、コントローラ28からの制御信号によって電磁切換弁27がオイルメインギャラリー41と第1油通路25を連通させると共に、第2油通路26とドレン通路35をそれぞれ連通させる。このため、第1作動室30内に油圧が供給されて高圧になると共に、第2作動室31内の作動油が排出されて低圧になる。
これによって、第1油孔52から油圧が第1受圧部54に流入して内部が高圧となり、したがって、ストッパーピン48は、スプリング51のばね力に抗して後退移動して、先端部48bが係合穴49から抜け出る。
このため、ベーン部材32は、図4に示すように、時計方向へ最大に回転して、付勢機構36のプランジャ41をコイルスプリング42のばね力に抗して摺動用穴40内へ最大に後退移動させる。
と同時に、前記第1油通路25を経て延長通路25aからピストン大径部45aの後端面に油圧が作用してピストン45を進出移動させ、ピストン先端部が規制孔43内に係入してプランジャ41を最大後退位置に保持する。
よって、制御軸19が、ベーン部材32と同方向に最大に回転して、制御カム18の肉厚部を、図6に示すように時計方向へ回転させ、かかる回転角度位置に保持する。これにより、ロッカアーム13の揺動支点が変化する。これにより、各揺動カム7は、リンクロッド15を介してカムノーズ部7b側が強制的に引き上げられて全体が図示のように反時計方向へ回動する。
したがって、駆動カム5が回転してリンクアーム14がロッカアーム13の一端部13aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド15を介して揺動カム7及びバルブリフター6に伝達されるが、そのリフト量Lは十分小さくなる。
よって、吸気弁2,2のバルブリフト量Lが最小になると共に、開時期が遅くなり、排気弁とのバルブオーバラップが小さくなる。このため、燃費の向上と機関の安定した回転が得られる。
一方、機関高回転高負荷域に移行した場合は、コントローラ28からの制御信号によって電磁切換弁27が、オイルメインギャラリー41と第2油通路26を連通させ、第1油通路25とドレン通路35を連通させる。このため、第1作動室30が低圧になると共に、第2作動室31が高圧になって、第2作動室31の油圧が第2油孔53から第2受圧部55に作用することから、ストッパーピン48は係合穴49から抜け出た状態(解除状態)が維持される。
また、付勢機構36側でも第2油通路26内の油圧が延長通路26aからピストン大径部45aの後端面に継続して作用することからピストン45は規制孔43に係入した状態が継続されて、プランジャ41は摺動用穴40内に後退保持された状態が維持される。
したがって、ベーン部材32は、第2作動室31の高圧化に伴って図1及び図4の一点鎖線で示すように、最大反時計方向へ回転して、制御軸19が同方向に回転駆動される。
これにより、制御カム20は、図7に示すように、反時計方向の所定回転角度位置まで回転して、肉厚部を下方向へ移動させる。このため、ロッカアーム13の他端部13bが揺動カム7のカムノーズ部7bを、リンクロッド15を介して下方へ押圧して該揺動カム7全体を所定量だけ時計方向へ回動させる。
したがって、各揺動カム7の各バルブリフター6の上面に対する各カム面7aの当接位置がカムノーズ部7b側に移動する。このため、駆動カム5が回転してロッカアーム13の一端部13aを、リンクアーム14を介して押し上げると、バルブリフター6に対するそのリフト量L2は大きくなる。
よって、各吸気弁2のバルブリフト量L2が最大になって、開時期が早くなると共に、閉時期が遅くなる。この結果、かかる運転領域における吸気充填効率が向上し、十分な出力が確保できる。
また、前述のように、機関始動後には、プランジャ41やストッパーピン48がそれぞれ摺動用穴40や摺動用孔47内に後退保持されていると共に、制御軸19に対して付勢機構36からの回転付勢力が付与されないようになるため、機関運転中における前記可変機構8による吸気弁2の大小のバルブリフト制御に対して付勢機構36の付勢力の影響を確実に回避できる。
この結果、可変機構8によるバルブリフト量制御の応答性の悪化を防止できる。
次に、イグニッションキーをオフ操作して機関を停止させると、オイルポンプ24の駆動も停止されるので、前記大径部45aの後端面や、前記第1,第2受圧室54,55に油圧が作用しなくなる。
このため、ピストン45は、解除スプリング38のばね力で保持孔44の内部に後退移動して、先端部が規制孔43から抜け出てる。これにより、プランジャ41は、図1に示すように、コイルスプリング42のばね力によって摺動用穴40から進出して段差部40aに環状突部41bが当接するまで最大に移動し、先端部41aがベーン部材32の一側面を第1作動室30方向へ押圧して、制御軸19を中間リフト位置に回転制御する。
また、前記ベーン部材32が中間位置まで回転すると同時に、ストッパピン48がコイルスプリング51のばね力によって進出して係合穴49内に係合する。
このため、ベーン部材32は、自由な回転が確実に規制されて、制御軸19により機関の再始動に最適なバルブリフト位置に保持制御することが可能になる。
この結果、機関始動性の向上が図れると共に、該始動時における各気筒間のリフト量のばらつきの発生を十分に抑制することが可能になる。
また、この実施形態では、機関始動直後などにおいて、油圧によってベーン部材32によって始めて付勢機構36のプランジャ41を後退方向(短縮方向)に移動させた際には、いまだ油圧が低い状態にあるため、制御機構9による吸気弁2のバルブリフトの制御応答性は若干低下しているが、始動後の一定時間経過後は、保持機構37によってプランジャ41が短縮した状態に保持されることから、かかる保持機構37によって保持された後は、前記制御機構9による制御応答性が良好になる。
さらに、機関停止後は、油圧ではなく解除スプリング38のばね力によってピストン45によるプランジャ41の保持を解除することから確実な解除作用が得られ、その後の付勢機構36による制御軸19の一方向の回転付勢作用を円滑に行うことが可能になる。
また、保持機構37は、機関内部に潤滑油を供給するオイルポンプ24の油圧を利用して作動するようにしたため、別に油圧源を設ける場合に比較して構造が簡素化されて、コストの高騰を抑制できる。
プランジャ41は、回り止めによって自由な回転を規制されるので、前記ピストン45と規制孔43との円周方向の位置ずれが防止されて、確実な係止作用が得られる。
また、前記保持機構37を、前記制御機構9が制御可能となる油圧になって始めて作動させるようにすれば、オイルポンプ24から吐出された油圧が制御機構9を制御可能となる高さになるまで作動しないことから、保持機構37が制御機構9あるいは可変機構8の作動に影響を与えことがなくなる。
図8〜図10は本発明の第2の実施形態(請求項3に対応した実施形態)を示し、前記可変機構8としてバルブタイミングを制御するものに適用したものである。
すなわち、この可変動弁装置は、クランクシャフトによりタイミングチェーンを介して回転駆動されるスプロケット60と、該スプロケット60に対して相対回動可能に設けられたカムシャフト61と、スプロケット60とカムシャフト61との間に配置されて、該両者の相対回動位相を変換して吸気弁2のバルブタイミング特性を可変にする可変機構8(位相変換機構)と、該可変機構8を制御する制御機構9とを備えている。
前記スプロケット60は、前後端がフロント、リアプレート60a、60bによって閉塞されたほぼ円筒状に形成され、外周にタイミングチェーンが噛合する歯部60aを有していると共に、リアプレートの中央の挿通孔60bを介して前記カムシャフト61の一端部外周面に相対回転自在に支持されている。
前記カムシャフト61は、シリンダヘッドに図外のカム軸受を介して回転自在に支持され、外周面所定位置にバルブリフターを介して吸気弁を開作動させる複数の駆動カムが一体に設けられている。
前記可変機構8は、前記スプロケット60と、前記カムシャフト61の前端部に固定用ボルト62により軸方向から固定されて、該スプロケット60の内部に回転自在に収容されたベーン部材63と、前記スプロケット60内に形成されて、該スプロケット60内周面有する3つの隔壁部64とベーン部材63とによって隔成されたそれぞれ3つの遅角油室65及び進角油室66とを備えている。
前記ベーン部材63は、前記固定用ボルト62によってカムシャフト61の前端部に軸方向から固定されたベーンロータ63aと、該ベーンロータ63a外周面の円周方向のほぼ120°位置に放射状に突設された3つのベーン部63bとから構成されており、前記ベーン部63bは、それぞれが各隔壁部64間に配置されている。
前記各遅角油室65と各進角油室66とは、ベーンロータ63a内にクロス状に貫通形成された図外の連通孔によって同じ油室同士がそれぞれ連通されている。
そして、前記遅角油室65と進角油室66には、カムシャフト61内に軸方向に沿ってそれぞれ平行に形成された第1油孔67と第2油孔68を介して前記制御機構9の第1油通路25と第2油通路26が連通している。
制御機構9は、基本的に第1の実施形態と同様であって、制御軸であるカムシャフト61と、該カムシャフト61に固定された前記ベーン部材63を所定回転角度範囲内で回転制御する油圧アクチュエータ21と備えており、この油圧アクチュエータ21は、図8に示すように、オイルポンプ24と、前記第1、第2油通路25,26と、該両油通路25,26を選択的に切り換える電磁切換弁27と、該電磁切換弁27に制御電流を出力して流路を切り換え制御するコントローラ28とから主として構成されている。
そして、機関始動時に、前記吸気弁2、2を所定の進角側の位置(始動に適した所定の中間バルブタイミング位置)に制御するために、前記カムシャフト61を、ベーン部材63を介して図9中、時計方向の中間位置に回転付勢する付勢機構36が設けられていると共に、機関始動後に、付勢力に抗して後退移動した前記付勢機構36を後退位置に保持する保持機構37が設けられている。また、機関停止時に、前記保持機構37による付勢機構36の保持作用を解除する解除機構が設けられている。
これら付勢機構36や保持機構37及び解除機構の基本構成は、第1の実施形態と同様であるから、同一符号を付して具体的な説明は省略するが、付勢機構36の摺動用穴40は、図9に示すように、前記1つのベーン部63bの内部円周方向に沿って形成され、開口部が進角油室66から対向する1つの隔壁64の側面に臨んでいる形成されている。
したがって、この摺動用穴40内に進退自在に設けられたプランジャ41は、コイルスプリング42のばね力によって先端部41aが進角油室66を介して前記隔壁64の側面に弾接して、ベーン部材63全体を進角側方向の回転位置に付勢している。
前記保持機構37は、図10に示すように、前記同じベーン部材63の内部に設けられ、保持孔43がカムシャフト61の軸方向(ベーン部幅方向)に形成され、該保持孔44内に摺動自在に設けられたピストン45の先端部が、前記摺動用穴40を介して前記プランジャ41の規制孔43に径方向から係脱可能に設けられている。
また、前記保持孔44の後端部、つまりピストン45の大径部45aの環状後端面側には、ベーン部63b内の第1、第2油導入孔69,70を介して遅角油室65と進角油室66内の油圧が選択的に供給されるようになっている。
前記解除機構は、前述と同じく、ピストン45を後退方向へ付勢する解除スプリング38によって形成されている。
また、前記他の1つのベーン部63bとリアプレート60bとの間には、機関停止時に、ベーン部材63を中間回転位置に保持する位置保持機構39が設けられている。
この位置保持機構39は、その構成が第1の実施形態と同様であるから、同一の符号を付して具体的な説明は省略するが、係合穴49は、リアプレート60bに形成され、また第1、第2受圧室54,55には、第1、第2油孔52,53を介して遅角油室65と進角油室66内の油圧が選択的に供給されるようになっている。
なお、図中72はドレン孔である。
以下、本実施形態の作用を説明すれば、まず、機関始動時には、予めプランジャ41がコイルスプリング42のばね力によって進出して、該プランジャ41の先端部41bが隔壁64の側面に弾接してベーン部材63を所定の進角側の中間位置に付勢している。
一方、位置保持機構39側では、図8に示すように、ストッパピン48の先端部48bが係合穴49内に係合して、ベーン部材63を前記中間回転位置に確実に規制している。
したがって、機関始動性が良好になるなど、第1の実施形態と同様な作用効果が得られる。
機関始動後には、電磁切換弁27を介してオイルポンプ24から吐出された油圧が第1油通路25を通って遅角油室65に供給されると共に、該遅角油室65から第1受圧室53に供給される。このため、ストッパピン48が係合穴49から抜け出してベーン部材63の自由な回転を許容することから、ベーン部材63は、図9に示すように、遅角油室65内の油圧の上昇に伴って図示の反時計方向(遅角方向)へ隔壁64に当接するまで最大に回転する。これによって、各吸気弁2,2は、バルブタイミングが最大遅角側に制御される。
このとき、プランジャ41は、図10に示すように、コイルスプリング42のばね力に抗して摺動用穴40内に後退移動するが、この最大後退位置に達すると、前記遅角油室65から大径部45aの後端面に作用した油圧によってピストン45が突出して規制孔43内に係入する。これによって、プランジャ41は、最大後退位置に保持される。
その後、例えば、機関高回転高負荷域に移行した場合には、電磁切換弁27の切り換え作動によって、ポンプ油圧が第2油通路26を介して各進角油室66に供給されて内部が高圧になる一方、遅角油室65内の油圧が第1油通路25を介してドレン通路35からオイルパン内に戻されて内部が低圧になる。
このため、ベーン部材63(カムシャフト61)は、図9の位置から最大時計方向へ回転して吸気弁2,2のバルブタイミングを最大進角側に制御する。
これら通常のバルブタイミング制御中には、常にプランジャ41が保持機構37によって最大に後退した位置に保持されていることから、コイルスプリング42のばね力によってかかるバルブタイミング制御作動に影響が与えられることはない。
また、機関停止時には、オイルポンプ24からの各部への油圧の供給が遮断されて、解除スプリング38やコイルスプリング42のばね力が働くため、保持機構37の保持作用が解除されると共に、ベーン部材63がプランジャ41によって前記中間回転位置に回転する。また、この位置において前記位置保持機構39が働いてベーン部材63(カムシャフト61)を前記中間回転位置に確実に規制する。
したがって、この実施形態も保持機構37や位置保持機構39などによって第1の実施形態と同様な作用効果が得られる。
前記実施形態から把握される前記請求項に記載した発明以外の技術的思想について以下に説明する。
請求項(1)機関が始動した後に、前記可変機構によって前記付勢機構を短縮する位置に移動させて、前記保持機構によって前記付勢機構を短縮した位置に保持した後に、前記制御機構が制御軸を機関運転状態に応じた通常の制御を開始するように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の可変動弁装置。
この発明によれば、可変機構によって機関弁のバルブリフトやバルブタイミングなどの作動特性を制御する前に、保持機構によって必ず付勢機構が作動しない位置に保持し、制御機構に対する付勢機構による影響を回避できることから、前記機関運転状態に応じた通常制御における制御応答性が向上する。
請求項(2) 機関が始動した後に、前記可変機構によって始めて前記付勢機構を短縮した位置に移動させた際に、前記保持機構によって付勢機構を短縮した位置に保持したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の可変動弁装置。
この発明によれば、機関始動直後などにおいて、可変機構によって始めて付勢機構を短縮するように作動した際には、制御機構による機関弁のバルブリフトやバルブタイミングなどの制御応答性は若干低下しているが、始動後の一定時間経過後は保持機構によって付勢機構が短縮した状態に保持されることから、かかる保持機構によって保持された後は、前記制御機構による制御応答性が良好になる。
請求項(3) 前記解除機構は、前記保持機構による保持状態をばねの付勢力によって解除するようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の可変動弁装置。
機関停止後は、油圧などではなくばねの付勢力によって保持機構による付勢機構の保持を解除することから確実な解除作用が得られ、その後の付勢機構による制御軸の一方向の回転付勢作用を円滑に行うことが可能になる。
請求項(4) 前記保持機構は、機関内部に潤滑油を供給するオイルポンプの油圧によって作動するようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の可変動弁装置。
機関の始動後はオイルポンプの油圧も速やかに上昇するため、保持機構の作動性も良好になると共に、オイルポンプを利用した単純な構造であるからコストの高騰も抑制できる。
請求項(5) 前記保持機構は、前記オイルポンプの油圧によって進出することによって前記付勢機構に係合して該付勢機構の付勢方向への移動を規制する係止部材とを備えている一方、前記付勢機構は前記係止部材が径方向から係止するプランジャと、該プランジャを前記制御軸に対して一方向へ回転付勢するように押圧するばね部材とを備えたことを特徴とする請求項(4)に記載の内燃機関の可変動弁装置。
請求項(6) 前記ばね部材をコイルスプリングによって構成する共に、前記プランジャの前記周壁に前記係止部材の先端部が係止する係合部を設け、かつ前記プランジャの回り止めを設けたことを特徴とする請求項(5)に記載の内燃機関の可変動弁装置。
プランジャを回り止めによって自由な回転を規制でき、周方向の一定の位置に保持できるので、前記係止部材による確実な係止作用が得られる。
請求項(7) 前記制御機構を、機関内部に潤滑油を供給するオイルポンプの油圧によって作動させると共に、前記保持機構を、前記制御機構が制御可能となる油圧になって始めて作動させることを特徴とする請求項(5)に記載の内燃機関の可変動弁装置。
この発明によれば、保持機構は、オイルポンプから吐出された油圧が制御機構を制御可能となる高さまで上昇するまで作動しないことから、保持機構が制御機構あるいは可変機構の作動に影響を与えことがなくなる。
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば可変動弁装置を排気弁側のみあるいは両方に設けることも可能であり、また、油圧駆動部21の油圧源としては、電動ポンプを用いることも可能である。
また、可変動弁装置の可変機構としては、他の構成のバルブリフト制御機構であってもよく、また、零リフトから最大リフトまで連続して制御できるものであってもよい。