以下、本発明に係る内燃機関の可変動弁装置の実施形態を図面に基づいて詳述する。この実施形態は、いわゆる4サイクルの多気筒内燃機関で吸気弁側に適用したものを示している。
まず、本発明における内燃機関全体の構成を、図1に基づいて概略を説明すると、シリンダブロックSB内に形成されたシリンダボア内に上下摺動自在に設けられたピストン01と、シリンダヘッドSHの内部にそれぞれ形成された吸気ポートIP及び排気ポートEPと、該シリンダヘッドSHに摺動自在に設けられて前記吸、排気ポートIP,EPの開口端を開閉する一気筒当たりそれぞれ一対の吸気弁4,4及び排気弁5,5とを備えている。
前記ピストン01は、クランクシャフト02にコンロッド03を介して連結されていると共に、冠面とシリンダヘッドSHの下面との間に燃焼室04を形成している。
前記吸気ポートIPに接続された吸気管Iの吸気マニホルドIaの上流側の内部には、吸入空気量を制御するスロットルバルブSVが設けられていると共に、下流側に図外の燃料噴射弁が設けられている。また、前記シリンダヘッドSHのほぼ中央には、点火栓05が設けられている。
前記クランクシャフト02は、ピニオンギア機構06を介してスタータモータ07によって正逆回転可能になっている。
そして、前記可変動弁機構としての可変手段は、図1及び図2に示すように、両吸気弁4,4のバルブリフト及び開弁期間を制御する第2可変機構であるリフト可変機構(VEL)1と、吸気弁4,4のリフト位相を制御する第1可変機構であるバルブタイミング可変機構(VTC)2とから構成されている。
前記リフト可変機構1は、本出願人が先に出願した例えば特開2003−172112号公報などに記載されたものと同様の構成であるから、簡単に説明
すると、シリンダヘッドSHの上部の軸受に回転自在に支持された中空状の駆動軸6と、該駆動軸6に圧入等により固設された偏心回転カムである駆動カム7と、駆動軸6の外周面に揺動自在に支持されて、各吸気弁4,4の上端部に配設されたバルブリフター8、8の上面に摺接して各吸気弁4,4を開作動させる2つの揺動カム9,9と、駆動カム7と揺動カム9,9との間に連係されて、駆動カム7の回転力を揺動カム9,9の揺動力として伝達する伝達機構とを備えている。
前記駆動軸6は、一端部に設けられたタイミングスプロケット30と図外のタイミングチェーンを介して前記クランクシャフト02から回転力が伝達されており、この回転方向は図2中、時計方向(矢印方向)に設定されている。
前記駆動カム7は、ほぼリング状を呈し、内部軸方向に形成された駆動軸挿通孔を介して駆動軸6に貫通固定されていると共に、カム本体の軸心が駆動軸6の軸心から径方向へ所定量だけオフセットしている。
前記両揺動カム9は、図2及び図3などにも示すように、同一形状のほぼ雨滴状を呈し、円環状のカムシャフト10の両端部に一体的に設けられていると共に、該カムシャフト10が内周面を介して駆動軸6に回転自在に支持されている。また、下面にカム面9aが形成され、カムシャフト10の軸側の基円面と、該基円面からカムノーズ部側に円弧状に延びるランプ面と、該ランプ面からカムノーズ部の先端側に有する最大リフトの頂面に連なるリフト面が形成されており、該基円面とランプ面及びリフト面が、揺動カム9の揺動位置に応じて各バルブリフター8の上面の所定位置に当接するようになっている。
前記伝達機構は、駆動軸6の上方に配置されたロッカアーム11と、該ロッカアーム11の一端部11aと駆動カム7とを連係するリンクアーム12と、ロッカアーム11の他端部11bと揺動カム9とを連係するリンクロッド13とを備えている。
前記ロッカアーム11は、中央に有する筒状の基部が支持孔を介して後述する制御カムに回転自在に支持されていると共に、一端部11aがピン14によってリンクアーム12に回転自在に連結されている一方、他端部11bがリンクロッド13の一端部13aにピン15を介して回転自在に連結されている。
前記リンクアーム12は、比較的大径な円環状の基部12aの中央位置に前記駆動カム7のカム本体が回転自在に嵌合する嵌合孔が形成されている一方、突出端12bが前記ピン14によってロッカアーム一端部11aに連結されている。
前記リンクロッド13は、他端部13bがピン16を介して揺動カム9のカムノーズ部に回転自在に連結されている。
また、駆動軸6の上方位置に同じ軸受に制御軸17が回転自在に支持されていると共に、該制御軸17の外周に前記ロッカアーム11の支持孔に摺動自在に嵌入されて、ロッカアーム11の揺動支点となる制御カム18が固定されている。
前記制御軸17は、駆動軸6と並行に機関前後方向に配設されていると共に、駆動機構19によって回転制御されている。一方、前記制御カム18は、円筒状を呈し、軸心位置が制御軸17の軸心から所定分だけ偏倚している。
前記駆動機構19は、図外のハウジングの一端部に固定された電動モータ20と、ハウジングの内部に設けられて電動モータ20の回転駆動力を前記制御軸17に伝達するボール螺子伝達手段21とから構成されている。
前記電動モ−タ20は、比例型のDCモータによって構成され、機関運転状態を検出するコントローラ22からの制御信号によって駆動するようになっている。
前記ボール螺子伝達手段21は、電動モータ20の駆動シャフトとほぼ同軸上に配置されたボール螺子軸23と、該ボール螺子軸23の外周に螺合する移動部材であるボールナット24と、前記制御軸17の一端部に直径方向に沿って連結された連係アーム25と、該連係アーム25と前記ボールナット24とを連係するリンク部材26とから主として構成されている。
前記ボール螺子軸23は、両端部を除く外周面全体に所定幅のボール循環溝が螺旋状に連続して形成されていると共に、一端部が電動モータ20の駆動シャフトに結合され、かかる結合によって電動モータ20の回転駆動力を前記ボール螺子軸23に伝達すると共に、ボール螺子軸23の軸方向の僅かな移動を許容している。
前記ボールナット24は、ほぼ円筒状に形成され、内周面に前記ボール循環溝と共同して複数のボールを転動自在に保持するガイド溝が螺旋状に連続して形成されていると共に、各ボールを介してボール螺子軸23の回転運動をボールナット24に直線運動に変換しつつ軸方向の移動力が付与されるようになっている。また、このボールナット24は、コイルスプリング31のばね力によって電動モータ20側に付勢されて、ボール螺子軸23との間のバックラッシ隙間が消失されるようになっている。また、このばね力は最小リフト、最小作動角側へ付勢するようになっている。
このリフト可変機構1の作動を説明すると、まず、機関停止時には、停止する直前に前記コントローラ22からの電動モータ20への通電制御によって回転駆動し、該電動モータ20の回転トルクによってボール螺子軸23が一方向へ回転すると、ボールナット24が最大一方向(電動モータ20に接近する方向)へ直線状に移動し、これによって制御軸17がリンク部材39と連係アーム25を介して一方向へ回転する。
したがって、制御カム18は、図3A、B(リアビュー)に示すように、軸心が制御軸17の軸心の回りを同一半径で回転して、肉厚部が駆動軸6から上方向に離間移動する。これにより、ロッカアーム11の他端部11bとリンクロッド13の枢支点は、駆動軸6に対して上方向へ移動し、このため、各揺動カム9は、リンクロッド13を介してカムノーズ部側が強制的に引き上げられて全体が図3に示す反時計方向へ回動する。
よって、駆動カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター16に伝達され、これによって、吸気弁4,4は、そのバルブリフト量が図5のバルブリフト曲線で示すように小リフト(L1)になり、その作動角D1(クランク開弁期間の半分)が小さくなる。
このため、各吸気弁4,4の閉時期P1が、進角側に制御された状態になる。さらに、前述のコイルスプリング21のばね力によって確実に最進角(最小作動角)側に付勢されて安定した状態を維持する。つまり、可変機構11は、バルブスプリングのばね力により、小リフト小作動角側にある程度安定する傾向を示すが、いわゆる渋りなどがあった場合でも、前記コイルスプリング21によって、より安定的に小リフト小作動角側になる。なお、前記渋りとは、駆動軸6や制御軸17に固定された駆動カム7や制御カム18が回転する際に引っ掛かって比較的大きな摺動摩擦抵抗が発生する場合などをいう。
次に、機関が始動された場合、つまり、イグニッションスイッチをオン操作して、スターティングモータを回転駆動してクランクシャフト02のクランキング回転が開始されると、このクランキング初期では、コイルスプリング21の付勢効果もあり、バルブリフトは小リフトを維持すると共に、作動角D1も小さくなって、吸気弁4,4の閉時期(IVC)も下死点より進角側になっている。したがって、デコンプ効果と小作動角、小リフト低フリクション効果によってスピーディにクランキング回転が増加する。ここで、吸気弁4,4の開時期(IVO)は、始動時には上死点付近がオーバーラップをなくすため妥当であり、結果として小作動角にできるのである。
そして、クランキング回転が所定回転まで上昇すると、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20が逆回転してこの回転トルクがボール螺子軸23に伝達されて回転すると、この回転に伴ってボールナット24が反対方向へ直線移動する。これにより、制御軸17が、図3中、反時計方向(電動モータ20から離れる方向)へ所定量だけ回転駆動する。
このため、制御カム18は、軸心が制御軸17の軸心から所定量だけ下方の回転角度位置に保持され、肉厚部が下方へ移動する。このため、ロッカアーム11は、全体が図3の位置から時計方向へ移動して、これによって各揺動カム9がリンク部材13を介してカムノーズ部側が強制的に押し下げられて、全体が時計方向へ僅かに回動する。
したがって、駆動カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンク部材13を介して各揺動カム9及びバルブリフタ8に伝達され、吸気弁4,4のリフト量が図5に示すように、中リフト(L2)になり、作動角D2も大きくなる。これによって、吸気弁4,4の閉時期が遅角側の下死点近傍に制御されることから、有効圧縮比が高くなって燃焼が良好になる。また、新気の充填効率も高くなって燃焼トルクも大きくなり、スムーズに回転が上昇して円滑な完爆が実現する。
機関が暖まった後の低回転低負荷域では、リフトは小リフトL1に制御され、バルブタイミング可変機構2によって遅角制御される。この結果、排気弁5,5とのバルブオーバーラップが小さくなって、燃焼が安定し、また小リフトで動弁フリクションが小さいことから燃費が向上する。
その後、低回転低負荷域から中負荷域に移行すると、コントローラ22によって前述と同じく中リフト(L2)付近に制御される。また、バルブタイミング可変機構2によってリフト位相が進角制御される。これによって、排気弁5,5とのバルブオーバーラップが大きくなり、ポンピングロスが低下するため、燃費が向上する。
また、この低・中負荷領域から高負荷領域に移行した場合は、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20がさらに逆回転し、制御軸17は、制御カム18をさらに反時計方向へ回転させて、図4A、Bに示すように軸心を下方向へ回動させる。このため、ロッカアーム11は、全体がさらに駆動軸6方向寄りに移動して他端部11bが揺動カム9のカムノーズ部をリンクロッド13を介して下方へ押圧して該揺動カム9全体を所定量だけさらに時計方向へ回動させる。
よって、駆動カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター8に伝達されるが、そのバルブリフト量は図5に示すようにL2からL3に連続的に大きくなる。
すなわち、吸気弁4,4のリフト量は、機関の運転状態に応じて小リフトのL1から大リフトL3まで連続的に変化するようになっており、したがって、各吸気弁4,4の作動角も小リフトD1から大リフトのD3まで連続的に変化する。
前記バルブタイミング可変機構2は、いわゆるベーンタイプのものであって、図6及び図7に示すように、前記駆動軸6に回転力を伝達するタイミングスプロケット30と、前記駆動軸6の端部に固定されてタイミングスプロケット30内に回転自在に収容されたベーン部材32と、該ベーン部材32を油圧によって正逆回転させる油圧回路33とを備えている。
前記タイミングスプロケット30は、前記ベーン部材32を回転自在に収容したハウジング34と、該ハウジング34の前端開口を閉塞する円板状のフロントカバー35と、ハウジング34の後端開口を閉塞するほぼ円板状のリアカバー36とから構成され、これらハウジング34及びフロントカバー35,リアカバー36は、4本の小径ボルト37によって駆動軸6の軸方向から一体的に共締め固定されている。
前記ハウジング34は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面の周方向の約90°位置に4つの隔壁であるシュー34aが内方に向かって突設されている。
この各シュー34aは、横断面ほぼ台形状を呈し、ほぼ中央位置に前記各ボルト37の軸部が挿通する4つのボルト挿通孔34bが軸方向へ貫通形成されていると共に、各内端面の高位部位置に軸方向に沿って切欠形成された保持溝内に、コ字形のシール部材38と該シール部材38を内方へ押圧する図外の板ばねが嵌合保持されている。
前記フロントカバー35は、円盤プレート状に形成されて、中央に比較的大径な支持孔35aが穿設されていると共に、外周部に前記ハウジング34の各ボルト挿通孔に対応する位置に図外の4つのボルト孔が穿設されている。
前記リアカバー36は、後端側に前記タイミングチェーンが噛合する歯車部36aが一体に設けられていると共に、ほぼ中央に大径な軸受孔36bが軸方向に貫通形成されている。
前記ベーン部材32は、中央にボルト挿通孔を有する円環状のベーンロータ32aと、該ベーンロータ32aの外周面の周方向のほぼ90°位置に一体に設けられた4つのベーン32bとを備えている。
前記ベーンロータ32aは、前端側の小径筒部が前記フロントカバー35の支持孔35aに回転自在に支持されている一方、後端側の小径な円筒部が前記リアカバー36の軸受孔36bに回転自在に支持されている。
また、ベーン部材32は、前記ベーンロータ32aのボルト挿通孔に軸方向から挿通した固定ボルト39によって駆動軸6の前端部に軸方向から固定されている。
前記各ベーン32bは、その内の3つが比較的細長い長方体形状に形成され、他の1つが比較的大きな台形状に形成されて、前記3つのベーン32bはそれぞれの幅長さがほぼ同一に設定されているのに対して1つのベーン32bはその幅長さが前記3つのものよりも大きく設定されて、ベーン部材32全体の重量バランスが取られている。
また、各ベーン32bは、各シュー34a間に配置されていると共に、各外面の軸方向に形成された細長い保持溝内に前記ハウジング34の内周面に摺接するコ字形のシール部材40及び該シール部材40をハウジング34の内周面方向に押圧する板ばねが夫々嵌着保持されている。また、各ベーン32bの前記駆動軸6の回転方向と反対側のそれぞれの一側面には、ほぼ円形状の2つの凹溝32cがそれぞれ形成されている。
また、この各ベーン32bの両側と各シュー34aの両側面との間に、それぞれ4つの進角室である進角室41と遅角室である遅角室42がそれぞれ隔成されている。
前記油圧回路33は、図6に示すように、前記各進角室41に対して作動油の油圧を給排する第1油圧通路43と、前記各遅角室42に対して作動油の油圧を給排する第2油圧通路44との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路43,44には、供給通路45とドレン通路46とが夫々通路切替用の電磁切替弁47を介して接続されている。前記供給通路45には、オイルパン48内の油を圧送する一方向のオイルポンプ49が設けられている一方、ドレン通路46の下流端がオイルパン48に連通している。
前記第1、第2油圧通路43,44は、円柱状の通路構成部39の内部に形成され、この通路構成部39は、一端部が前記ベーンロータ32aの小径筒部から内部の支持穴32d内に挿通配置されている一方、他端部が前記電磁切替弁47に接続されている。
また、前記通路構成部39の一端部の外周面と支持穴14dの内周面との間には、各油圧通路43,44の一端側間を隔成シールする3つの環状シール部材27が嵌着固定されている。
前記第1油圧通路43は、前記支持穴32dの駆動軸6側の端部に形成された油室43aと、ベーンロータ32aの内部にほぼ放射状に形成されて油室43aと各進角室41とを連通する4本の分岐路43bとを備えている。
一方、第2油圧通路44は、通路構成部39の一端部内で止められ、該一端部の外周面に形成された環状室44aと、ベーンロータ32の内部にほぼL字形状に折曲形成されて、前記環状室44aと各遅角室42と連通する第2油路44bとを備えている。
前記電磁切替弁47は、4ポート3位置型であって、内部の弁体が各油圧通路43、44と供給通路45及びドレン通路46とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、前記コントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。
このコントローラ22は、リフト可変機構1と共通のものであって、機関運転状態を検出すると共に、クランク角センサ27及び駆動軸角度センサ28からの信号によってタイミングスプロケット30と駆動軸6との相対回転位置を検出している。
そして、前記電磁切替弁47の切り替え作動によって、機関始動時に前記進角室41に作動油を供給し、その後に、遅角室42に作動油を供給するようになっている。
また、前記ベーン部材32とハウジング34との間には、このハウジング34に対してベーン部材32の回転を拘束及び拘束を解除する固定手段であるロック機構が設けられている。
すなわち、このロック機構は、図6に示すように、前記幅長さの大きな1つのベーン32bとリアカバー36との間に設けられ、前記ベーン32bの内部の駆動軸6軸方向に沿って形成された摺動用穴50と、該摺動用穴50の内部に摺動自在に設けられた有蓋円筒状のロックピン51と、前記リアカバー36に有する固定孔内に固定された横断面カップ状の係合穴構成部52に設けられて、前記ロックピン51のテーパ状先端部51aが係脱する係合穴52aと、前記摺動用穴50の底面側に固定されたスプリングリテーナ53に保持されて、ロックピン51を係合穴52a方向へ付勢するばね部材54とから構成されている。
また、前記係合穴52aには、図外の油孔を介して前記遅角室42内の油圧乃至オイルポンプの油圧が供給されるようになっている。
そして、前記ロックピン51は、前記ベーン部材32が最進角側に回転した位置で、先端部51aが前記ばね部材54のばね力によって係合穴52aに係合してタイミングスプロケット30と駆動軸6との相対回転をロックする。また、前記遅角室42から係合穴52a内に供給された油圧乃至オイルポンプの油圧によって、ロックピン51が後退移動して係合穴52aとの係合が解除される。
さらに、前記各ベーン32bの一側面と該一側面に対向する各シュー34aの対向面10bとの間には、ベーン部材32を進角側へ回転付勢する付勢手段である一対のコイルスプリング55、56がそれぞれ配置されている。
この2つのコイルスプリング55,56は、図7、図8に示すように、それぞれ独立して形成されて互いに並列に形成されていると共に、それぞれの軸方向の長さ(コイル長)は、前記ベーン32bの一側面とシュー34aの対向面との間の長さよりも大きく設定されて、両者とも同一の長さに設定されている。
各コイルスプリング55,56は、最大圧縮変形時に互いが接触しない軸間距離をもって並設されていると共に、各一端部が各シュー34aの凹溝32cに嵌合する図外の薄板状のリテーナを介して連結されている。
以下、バルブタイミング可変機構2の作用を説明する。
まず、機関停止時には、コントローラ22から電磁切替弁47に対する制御電流の出力が停止されて、弁体が供給通路45と進角側の第1油圧通路43とを連通する。したがって、供給油圧により、ベーン部材32は進角側に回転しようとするが、機関回転数が零になると、オイルポンプ49の油圧が作用せず、供給油圧も零になってしまう。
ここで、ベーン部材32は、前記各コイルスプリング55,56のばね力によって、図7に示すように、駆動軸6の回転方向(矢印方向)である時計方向に回転する。これによって、ベーン部材32は、最大幅のベーン32bがシュー34aの遅角室42側の側面に当接した状態になり、タイミングスプロケット30と駆動軸6との相対回転位相が最大進角側に変更される。
すなわち、前記各コイルスプリング55,56のばね力によって、前記最大幅のベーン32bがシュー34aに当接させたことによって、図9に示すように、各気筒のうち吸気行程にある吸気弁4,4の閉時期(IVC)が、可変機構1の作動角制御と相俟って下死点前で上死点寄りの進角側に付勢されるようになっている(図9のX位置)。
また、同時にロックピン51の先端部51aが係合穴52a内に係合して前記タイミングスプロケット30と駆動軸6との自由な相対回転を規制する。
以上、正常作動時の機関停止時における作動を説明したが、電磁切替弁47に渋りが発生して、弁体が供給通路45やドレン通路46と各油圧通路43,44との連通が遮断された場合を考えてみる。この場合も、各コイルスプリング55,56のばね力がベーン部材32を進角側に付勢するので、正常時と同様に最大進角側に切替わるのである。(この考え方からすると、ロックピンを用いない実施例も可能である。)
次に、機関始動時、つまりイグニッションスイッチをオン操作して、スターティングモータを回転駆動させてクランクシャフト02をクランキング回転させると、このクランキング初期では、前記吸気弁4,4の閉時期がいまだ下死点前の上死点寄りに維持されている。
このクランキング初期を経過すると、コントローラ22から出力された制御信号によって電磁切替弁47が供給通路45と第2油圧通路44を連通させると共に、ドレン通路46と第1油圧通路43とを連通させる。このため、オイルポンプ49から圧送された油圧は、第2油圧通路44を通って遅角室42に供給される一方、進角室41には、機関停止時と同じく油圧が供給されずドレン通路46から油圧がオイルパン48内に排出されて低圧状態を維持している。また、前記遅角室42への油圧の供給とともに係合穴52a内にも油圧が供給されることから、前記ロックピン51がスプリング54のばね力に抗して後退して先端部51aが係合穴52aから抜け出す。
したがって、ベーン部材32は、ハウジング34に対するロック状態が解除されると共に、遅角室42内の高圧化に伴い各コイルスプリング55,56のばね力に抗して図8に示すように、図中反時計方向へ回転する。これによって、駆動軸6がタイミングスプロケット30に対して遅角側に相対回転する。
このため、吸気弁4,4の閉時期が遅くなって下死点近傍になるので、有効圧縮比が増大し、燃焼が良好になる。また、吸気の充填効率も向上して燃焼トルクが増加し、スムーズな完爆による回転上昇が得られる。
その後、車両が走行を開始して暖機が進み、例えば所定の低回転域に移行すると、コントローラ39からの制御信号によって電磁切替弁47が作動して、供給通路45と第1油圧通路43を連通させる一方、ドレン通路46と第2油圧通路44を連通させる。
したがって、今度は遅角室42内の油圧が第2油圧通路44を通ってドレン通路46からオイルパン48内に戻され、該遅角室41内が低圧になる一方、進角室43内に油圧が供給されて高圧となる。
したがって、ベーン部材32は、かかる進角室41内の高圧化と、各コイルスプリング55,56のばね力によって図中時計方向へ回転し、タイミングスプロケット30に対する駆動軸6の相対回転位相を進角側に変換する。一方、リフト可変機構1は、やや大作動角に制御される。これによって、吸気弁4,4と排気弁5,5とのバルブオーバーラップが大きくなる。このため、ポンピング損失が小さくなって燃費の向上が図れる。
さらに、機関の低回転域から通常の中回転域、さらに高回転域に移行すると、ベーン部材32が、図7に示すように、進角室42に供給された油圧は低下して、逆に遅角室42の油圧は上昇し、各コイルスプリング55,56のばね力に抗して、タイミングスプロケット30と駆動軸6の相対回転位相を遅角側に変換する。これによって、前記リフト可変機構1との最大リフト、最大作動角制御と相俟って吸気弁4,4と排気弁5,5とのバルブオーバラップをある程度確保しつつ吸気弁4,4の閉時期が十分に遅れて、新気の吸入効率(充填効率)が向上する。これによって、機関の出力を向上させることが可能になる。
以下、前記コントローラ22による前記機関始動時における具体的な制御を図10の制御フローチャート図によって説明する。
まず、ステップ1では、イグニッションスイッチを操作して機関が停止する条件となったか否か、つまり完全に停止する直前か否かを判別し、まだ条件が揃っていないと判別した場合は戻るが、停止直前と判別した場合は、ステップ2に進む。
このステップ2では、前述のように、リフト可変機構1とバルブタイミング可変機構2とによって吸気弁4,4の閉時期(IVC)が下死点より進角側となるように制御する。すなわち、図9に示すように、閉時期が下死点前で十分に上死点寄りの位置(X位置)になるように制御する。
ステップ3では、前記進角制御によって行われた吸気弁4,4の実際の進角値と、予め設定されている目標進角値との差が所定以下か否かを判別し、所定以上である場合は、再度進角制御を行うために、ステップ2にリターンするが、所定以下である場合にはステップ4に進む。このステップ4では、最終的に機関を完全に停止させる信号を出力する。
次に、ステップ5以下では、機関の始動時における制御であって、ステップ5では、イグニッションスイッチをオンしたか否かを判別し、オンになっていない場合はそのままステップ5にリターンするが、オンされたと判別した場合には、ステップ6に移行する。
このステップ6では、機関停止直前に行った吸気弁4,4の進角制御状態でクランキングが開始されたことを認識する。すなわち、吸気弁4,4の閉時期が図9に示す下死点(BDC)前で上死点(TDC)寄りの位置(X位置)にある状態で、スターティングモータによってクランクシャフト02が回転駆動してクランキングされると、最初の1回転目では、前記閉時期が上死点寄りにあることから、回転に伴い下死点を通過した時点では筒内が負圧となり、さらに回転すると大気圧から若干圧縮されて、この有効圧縮比が小さくなる。つまり、デコンプレッション状態になる。
したがって、このクランキング初期の機関振動を十分に低減させることができると共に、該デコンプ効果によってクランキング初期の機関回転の速度を高めることができる。
しかも、このクランキング初期には、吸気弁4,4の開時期はオーバラップをつけないため、上死点付近が好ましく、それと吸気弁4,4の閉時期が下死点前になっていることから、リフト可変機構1によって吸気弁4,4の作動角D1を比較的小さく設定できるため、動弁系のフリクションをも低減させることが可能になり、機関の回転をさら高めることができ、始動性の向上が図れる。
また、前記クランキングの回転上昇効果によって、スターティングモータの負荷も低下させることが可能になる。
さらに、前記バルブタイミング可変機構2または前記リフト可変機構1に、いわゆる渋りなどの異常が発生した場合であっても、バルブタイミング可変機構2における前記各コイルスプリング55,56あるいはリフト可変機構1におけるコイルスプリング21が吸気弁4,4の閉時期を下死点から上死点寄りに(進角側)に強制的に付勢しているので、前記デコンプ効果を確保するという、メカニカルフェールセーフ効果も得られる。
なお、ステップ6のクランキング開始の際、吸気弁4,4の閉時期が最大進角していなかった場合には、クランキングの開始時に、リフト可変機構1とバルブタイミング可変機構2によってさらに進角制御される。
次に、ステップ7では、クランキングが回転目標値に到達したか否かを判別する。すなわち、クランクシャフト02の時間当たりの回転数が、所定の回転目標値(時間当たりの回転数目標値)に到達したか否かを判別する。
ここで、いまだ回転目標値に達していないと判別した場合は、そのままステップ7に戻り、回転目標値に到達したと判別した場合は、ステップ8に移行する。ここで、前述のデコンプ効果、低リフト小作動角による低フリクション効果によって、回転上昇はスピーディなものになっている。また、始動振動も抑制される。
このステップ8では、前記リフト可変機構1によって吸気弁4,4の作動角を拡大制御すると共に、バルブタイミング可変機構2によってクランクシャフト02と駆動軸6との相対回動位置を遅角側に制御する、つまりこれら2つの可変機構1,2によって吸気弁4,4の閉時期を速やかに遅角側に制御する。したがって、この遅角制御時の吸気弁4,4の閉時期は、図9のYに示すように、下死点を僅かに過ぎた位置まで遅角する。
ステップ9では、前記閉時期の遅角側への制御を行った直後に、気筒内に燃料噴射を行うと共に、燃料に着火する処理を行う。これによって良好な完爆が得られる。
すなわち、吸気弁4,4の閉時期がクランキング初期のように、進角側になっていると、前述のように、有効圧縮比が小さいことから、ここで燃料を着火しても燃焼が悪化して十分な駆動(燃焼)トルクが得られない。そこで、本実施形態では、速やかに回転上昇した後、吸気弁4,4の閉時期を遅角側に制御する(Y位置)ことによって、有効圧縮比が高くなって燃焼室内での燃料の着火性が良好になることと相俟って完爆時間が短縮される。したがって、クランキング開始から完爆までの良好な始動性が得られると共に、駆動トルクを確保できる。
以上のように、本実施形態では、クランキング初期における吸気弁4,4の閉時期を、リフト可変機構1とバルブタイミング可変機構2とによって下死点前で上死点寄りに維持していることから、デコンプによる振動の低減化と機関の始動性向上、すなわち、デコンプと小作動角設定による低フリクションによってスピーディな回転上昇の両方を満足させることが可能になる。
特に、この実施形態では、2つの可変機構1,2を併用することによって吸気弁4,4の閉時期を上死点側にさらに近づけることができるので、前記始動時の振動低減効果と始動性向上をさらに促進できる。
また、前記各コイルスプリング55,56のばね力、あるいは前記コイルスプリング21のばね力によって機関停止時に常に吸気弁4,4の閉時期を自動的かつ強制的に上死点寄りに制御することができるので、簡単な構造で、前記機関の振動低減と始動性の向上を確保することができる。
機関停止中には、バルブタイミング可変機構2のベーン部材32がロック機構によって所定の作動位置で固定されていることから、機関始動時における交番トルクなどによるベーン部材32のばたつきの発生を防止できる。この結果、前記機関始動時の振動低減と始動性向上をより確実に得ることができる。
さらに、前記クランキングで所定回転になった後は、前述のように、リフト可変機構1により吸気弁4,4の作動角を拡大制御すると、開弁期間が長くなることから、バルブスプリングのばね力などに起因して動弁系のフリクションが増加するが、この増加したフリクションによってバルブタイミング可変機構2が吸気弁4,4の閉時期を遅角方向へ付勢するように働く。なぜなら、回転負荷が増加してベーン部材32がタイミングスプロケット30に対し取り残されるためである。したがって、バルブタイミング可変機構2に吸気弁4,4の閉時期を進角側に付勢するコイルスプリング55,56のばね力による遅角側への応答性悪化を改善できる。
さらに、前記バルブタイミング可変機構2にいわゆる渋りなどの異常が発生した場合であっても、前記各コイルスプリング55,56が吸気弁4,4の閉時期を下死点から上死点寄りに(進角側)に強制的に付勢しているので、前記デコンプ効果を確保するという、メカニカルフェールセーフ効果も得られる。
また、この実施形態では、リフト可変機構1が電動モータ20によって作動制御され、バルブタイミング可変機構2が油圧によって作動制御されていることから、前記クランキング中の油圧が十分に立ち上がっていない場合でも、電動のリフト可変機構1によって吸気弁4,4の作動角を速やかに拡大できる。このため、動弁系のフリクションが速やかに増加して、前述のように、油圧作動のバルブタイミング可変機構2の遅角側への切り換え作動を改善することが可能になるので、該バルブタイミング可変機構2による遅角制御応答性も確保できる。
前記バルブタイミング可変機構2は、前記油圧で作動するもの以外に、例えば、特開2004−11537号公報に記載されたヒステリシスブレーキを用いることも可能である(第2の実施形態)。
これは、クランクシャフト02と連係したタイミングスプロケット側の駆動リングと前記駆動軸6側の従動軸部材の間に、両者の組付角を変更するための渦ディスクやこの渦ディスクの渦巻き溝に係合したリンクなどからなる組付角変更手段を介在させ、この組付変更手段を、機関の運転状態を含む車両の状態に応じて前記コントローラ22から制御電流を出力して渦ディスクに対してヒステリシスブレーキを作動制御して、吸気弁4,4の開閉時期を進角側あるいは遅角側に位相を変換制御するようになっている。つまり、前記渦ディスクは、前記タイミングスプロケットの回転とほぼ同期して回転し、そのタイミングスプロケットに対する回転位置が前記ヒステリシスブレーキによって制御されて、この回転位置に応じて駆動軸6をクランクシャフト02に対して進角あるいは遅角側に相対回動位相を制御するようになっている。
したがって、この第2の実施形態におけるバルブタイミング可変機構は、先の第1の実施形態に用いられる油圧式バルブタイミング可変機構2と異なり、機関停止時に吸気弁4,4を下死点前の上死点寄りに付勢する前記コイルスプリングが存在しない。このため、このバルブタイミング可変機構では、前記渦ディスクを機関停止直前にタイミングスプロケットに対し所定の回転位置で停止させる停止制御手段及びその位置に保持する保持手段としての補助ブレーキを用いている。この補助ブレーキは、タイミングスプロケットと渦ディスクの間に設けられ、コントローラ22からの制御電流のオン、オフによって作動して、渦ディスクのタイミングスプロケットとの間の回転を停止(保持)、あるいは停止を解除するようになっており、渦ディスクを介して吸気弁4,4の下死点前で上死点寄りの位置で保持可能になっている。
前記停止制御手段や保持手段としては、他に渦ディスクのタイミングスプロケットに対する回転位相を可変にする内蔵型ステッピングモータなどを利用することも可能である。
以下、このバルブタイミング可変機構と前記リフト可変機構1とを用いた制御を図11のフローチャート図に基づいて説明する。
まず、ステップ11では、イグニッションスイッチを操作して機関が停止する条件となったか否か、つまり完全に停止する直前か否かを判別し、まだ条件が揃っていないと判別した場合は戻るが、停止直前と判別した場合は、ステップ12に進む。
このステップ12では、前述のように、リフト可変機構1とバルブタイミング可変機構とによって吸気弁4,4の閉時期(IVC)が進角側となるように制御する。これによって、図9に示すように、閉時期が下死点前で十分に上死点寄りの位置(X位置)になるように制御する。
ステップ13では、前記進角制御によって行われた吸気弁4,4の実際の進角値と、予め設定されている目標進角値との差が所定以下か否かを判別し、所定以上である場合は、再度進角制御を行うために、ステップ12にリターンするが、所定以下である場合にはステップ14に進む。
このステップ14では、バルブタイミング可変機構側で、前記補助ブレーキが、渦ディスクにブレーキを付与して、先にIVCを進角側に回転制御した所定位置で停止保持させる。なお、この場合には、リフト可変機構1は、コイルスプリング21の付勢力を得て最小作動角側に制御される。
ステップ15では、最終的に機関を停止させる信号を出力する。
ステップ16では、前記補助ブレーキによって渦ディスクが前記所定回転位置に継続保持する制御を行う。
ステップ17以下では、機関の始動時における制御であって、このステップ17では、イグニッションスイッチをオンしたか否かを判別し、オンになっていない場合はそのままステップ17にリターンするが、オンされたと判別した場合には、ステップ18に移行する。
このステップ18では、クランキングが開始されたことを認識する。すなわち、吸気弁4,4の閉時期が図9に示す下死点(BDC)前で上死点(TDC)寄りの位置(X位置)にある制御状態で、スターティングモータによってクランクシャフト02が回転駆動してクランキングされると、最初の1回転目では、前記閉時期が上死点寄りにあることから、回転に伴い下死点を通過した時点では筒内が負圧となり、さらに回転すると大気圧から若干圧縮されて、この有効圧縮比が小さくなる。つまり、デコンプレッション状態になる。
したがって、このクランキング初期の機関振動を十分に低減させることができると共に、該デコンプ効果によってさらにクランキング初期の機関回転の速度を高めることができる。また、始動振動も低減する。
しかも、このクランキング初期には、吸気弁4,4の閉時期が下死点前の上死点寄りになっていることから、リフト可変機構1によって吸気弁4,4の作動角D1を比較的小さく設定できるため、動弁系のフリクションをも低減させることが可能になり、機関の回転上昇速度をさら高めることができ、始動性の向上が図れる。
また、前記クランキングの回転上昇効果によって、スターティングモータの負荷も低下させることが可能になる。
つぎに、ステップ19では、クランキングが回転目標値に到達したか否かを判別する。すなわち、クランクシャフト02の時間当たりの回転数が、所定の回転目標値に到達したか否かを判別する。
ここで、いまだ回転目標値に達していないと判別した場合は、そのままステップ19に戻り、回転目標値に到達したと判別した場合は、ステップ20に移行する。
このステップ20では、前記バルブタイミング可変機構2の補助ブレーキによる渦ディスクのブレーキ力を解除する処理を行う。
このステップ21では、前記リフト可変機構1によって吸気弁4,4の作動角を拡大制御すると共に、バルブタイミング可変機構2の渦ディスクをヒステリシスブレーキにより回転制御させて、クランクシャフト02と駆動軸6との相対回動位置を遅角側に制御する、つまりこれら2つの可変機構1,2によって吸気弁4,4の閉時期を速やかに遅角側に制御する。
ステップ22では、前記閉時期の遅角側への制御を行った直後に、気筒内に燃料噴射を行うと共に、燃料に着火する処理を行い、これによって良好な完爆が得られる。したがって、この場合も第1の実施形態と同様な作用効果が得られる。
しかも、機関始動時においては、補助ブレーキによって吸気弁4,4の閉時期が保持されるため、機関始動時における駆動軸6に作用する交番トルクによるバルブタイミング可変機構2の挙動の不安定化を防止できる。
この実施形態では、バルブタイミング可変機構2もヒステリシスブレーキによる電動によって制御すると共に、渦ディスクのタイミングスプロケットに対する回転位置も電動によって作動する補助ブレーキを用いているため、例えば極寒冷地でも作動油の粘性に影響されることなく、機関始動時における吸気弁4,4の閉時期を下死点前で上死点寄りに容易に制御することができる。
さらに第3の実施形態として本発明を、動力源として電動モータによって一部駆動するハイブリット車両の内燃機関に適用することも可能である。
この場合、前記第1,第2の実施形態と同様な作用効果、つまりクランキング時の振動の低減、良好なクランキング回転上昇、速やかな完爆などの始動性能が向上するが、ハイブリット車のように、頻繁に機関停止、始動を繰り返す車両では、これらの始動性能の向上のメリットが大きい。また、運転者の意志に拘わらず始動が行われるため、振動低減効果によって運転者の違和感をなくすことができる。さらに、スターティングモータに代えてハイブリット車両の電動モータを利用してクランキング作動させることができるので、より速いクランキングスピードを実現できる。
また、ハイブリット車両の前記電動モータによって回生ブレーキを作用させて回生電力を発生させるように構成すれば、車両減速時に、前記可変機構1,2によって吸気弁4,4の閉時期を下死点前の上死点寄りに制御することによって、エンジンブレーキを低減させることができるので、大きな回生電力を得ることができる。この結果、車両の全体の燃費を向上させることが可能になる。
ここで、各可変機構1,2が、前述のように、吸気弁4,4の閉時期を下死点前(上死点寄り)に制御する際に、この制御はメカニカルに同方向へ安定する構造になっていることから、吸気弁4,4の閉時期が下死点前に切り替わる作動応答性が向上する。したがって、回生ブレーキが発生するまでの応答時間を短縮できると共に、燃費の向上効果を高めることが可能になる。
また、この発明では、車両の減速時における吸気弁4,4の閉時期と機関停止時における吸気弁の閉時期とをほぼ同一に設定することもできる。
このように設定すれば、可変機構1,2の作動応答性や、車両の減速から機関停止に至るまでの時間に拘わらず、吸気弁4,4の閉時期をほぼ一定にすることができるため、機関停止時の吸気弁閉時期のばらつきを抑制することができ、安定的な始動性を確保できる。
さらに、機関の停止時に、吸気行程にある気筒の吸気弁が開弁しているクランク軸の回転位相で機関の停止となるように、前記ハイブリット車の電動モータなどによってクランクシャフト02の回転位相を制御することも可能である。
クランキング開始時において、吸気弁4,4が開いている間の筒内圧は大気圧で一定圧であるから、吸気弁4,4が閉じた時点では筒内圧はほぼ大気圧になっており、そこからピストンの下降につれて筒内圧が低減していくので、クランキングした際の圧縮上死点でのコンプレッションが安定する。つまり、通常は起こりにくいかもしれないが、吸気弁4,4が閉じたときから以降のクランクシャフト02の回転位相で機関が停止したとすると、その状態のクランクシャフト02の回転位相で筒内圧は大気が次第に流入して最終的には全体が大気圧になる。したがって、機関再始動時には、筒内圧が大気圧になっており、そこからクランキングが開始されるわけであるが、この際の初期クランクシャフト02の回転位相の違いによって圧縮上死点でのコンプレッションが過大となったり、ばらつきが生じたりして、安定した始動性が得にくくなるが、前述のように、クランクシャフトの停止回転位置制御を行えば、これらを解決することが可能になる。
また、この発明では、後述する図12に示す第4の実施形態のように、クランキングの回転が上昇した時点で、吸気弁4,4の閉時期を遅角側に変化させる際に、前記リフト可変機構1とバルブタイミング可変機構2のいずれかに故障が発生していた場合は、故障していない他方の可変機構によって吸気弁4,4の閉時期を遅角側に制御するように構成することも可能である。
この場合には、故障してない他方の可変機構1または2によって吸気弁4,4の閉時期を遅角側に制御できるので、完爆までの始動性を確保することが可能になる。
さらに、前記故障していない他方の可変機構1または2によって吸気弁4,4の閉時期を遅角側に制御する際に、該他方の可変機構1または2による前記閉時期の遅角量を通常よりも大きく制御することも可能である。
この場合、吸気弁4,4の閉時期の遅角量を通常に近づけることができるので、完爆までの始動性を通常に近いレベルまで高めることが可能になる。
この具体的な制御を図12のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップ21ではイグニッションスイッチを操作して機関が始動する条件となったか否か、つまり完全に始動する直前か否かを判断し、まだ始動条件が揃ってないと判断した場合は戻るが、始動したと判断した場合は、ステップ22に移行する。
このステップ22では吸気弁4,4の閉時期(IVC)を下死点より前の上死点側に進角制御を行う。すなわち、第1実施例と同様のリフト可変機構1とバルブタイミング可変機構2を、各々小作動角側、進角側に制御する。この際、コイルスプリング55,56やコイルスプリング21のばね付勢力によって予め目標位置付近に安定しているため、目標の吸気弁4,4の閉時期(図9のX位置)に容易に制御できる。
次に、ステップ23でクランキングを開始するが、ここで、前述のデコンプ効果、低リフト、小作動角効果による低フリクション効果などによってクランクシャフト02の回転がスムーズに立ち上がる。
ステップ24では、クランキング回転目標に達したか否かを判断し、目標に達しない場合には、ステップ24に戻り、達したと判断した場合は、ステップ25において吸気弁4,4の閉時期を図9のY位置まで制御するようにリフト可変機構1とバルブタイミング可変機構2を作動させる。
次に、ステップ26では、バルブタイミング可変機構2が所定時間後に目標の遅角位置に達したか否かを判断する。ここで目標の遅角位置に達していないと判断した場合には、バルブタイミング可変機構2が作動不良であるとしてステップ27に移行し、このステップ27でリフト可変機構1の目標作動角をD2より大きくして吸気弁4,4の閉時期を目標のYに合致させる。
前記ステップ26で、目標の遅角位置に達したと判断した場合は、ステップ28に進み、ここではリフト可変機構1が目標の作動角D2まで作動したか否かを判断する。
ここで、目標の作動角D2に達していないと判断した場合は、ステップ29に移行し、ここでは、バルブタイミング可変機構2によって遅角側への目標変換角を増大させて、吸気弁4,4の閉時期を目標のYに合致させる。
その後、ステップ30において、燃料噴射、点火時期などを制御し、この時点では吸気弁4,4の閉時期が目標のYになっているので吸気充填効率も高まっており、したがって良好な完爆を実現できる。
本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、例えば、可変手段として必ずしも前記リフト可変機構1とバルブタイミング可変機構2の両方を用いる必要はなく、いずれか一方のみでもよい。また、リフト可変機構1やバルブタイミング可変機構2を他の構造のものとすることも可能である。
また、吸気弁4,4の閉時期は、図5のP1に示したように、まさしく着座位置としても良いし、実質有効な閉時期ということで、リフト傾斜の緩やかなランプ区間を除いたリフト区間の終了点としてもよい。ランプ区間では、ガスの流量が十分に小さいので、実質吸気弁4,4の閉時期を考える上では、ランプ区間の影響は小さい。
前記実施形態から把握される前記請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
すなわち、本発明は、前記可変手段を、吸気弁のリフト量と作動角を維持しつつ開閉時期のみを変化させる第1可変機構と、吸気弁のリフト量と作動角を同時に変化させる第2可変機構とによって構成し、
前記付勢手段を、前記第1可変機構を介して吸気弁の閉時期を吸気上死点側に付勢する第1付勢部材と、前記第2可変機構を介して吸気弁の閉時期を吸気上死点側に付勢する第2付勢部材とによって構成し、
機関始動時のクランキング初期に、前記各可変機構によって吸気弁の閉時期を吸気行程下死点前の上死点寄りに制御するようにした。
この発明によれば、2つの可変機構を併用することによって吸気弁の閉時期を吸気上死点側にさらに近づけることができるので、前記請求項1に記載の発明の作用効果である始動時の振動低減効果と始動性向上をさらに促進できる。
また、前記可変手段は、クランキング回転が所定回転まで上昇した時点で、吸気弁の閉時期を遅角側に制御するようにした。
この発明によれば、クランキング初期には、吸気弁の閉時期が吸気行程下死点前の上死点寄りに制御されていることから、デコンプが作用し、また、このとき、小作動角制御となっていることから、動弁フリクションが小さくなり、もって、クランキング初期の回転速度を速やかに上昇させた上で、その後は、吸気弁の閉時期が遅角制御されることから、有効圧縮比が高くなって燃焼室内での燃料の着火性が良好になることと相俟って燃焼による回転上昇が滑らかに進み、完爆時間が短縮される。したがって、クランキング開始から完爆までの良好な始動性が得られると共に、冷機時においても、機関を安定的に回転させることができ、駆動(燃焼)トルクを確保できる。
次に、本発明によれば、前記クランキング回転速度が上昇した時点で、前記第2可変機構によって吸気弁の作動角を拡大制御すると共に、第1可変機構によって吸気弁のリフト位相を遅角側へ制御することによって、吸気弁の閉時期を遅角側に変化させるようにしたことを特徴としている。
この発明によれば、第1可変機構と第2可変機構との2つの可変機構による前述の制御によって、吸気弁の閉時期を遅角側に速やかに変化させることが可能になる。
また、前記第2可変機構により吸気弁の作動角を拡大制御することによって、バルブスプリングのばね力などに起因して動弁系のフリクションが増加することから、この増加したフリクションによって第1可変機構が吸気弁の閉時期を遅角方向へ付勢される。したがって、第1可変機構に吸気弁の閉時期を進角側に付勢する付勢手段があったとしても遅角側への切り換え作動応答性が向上する。
次に、本発明は、前記第2可変機構の作動を電動によって行うと共に、第1可変機構の作動を機関の駆動を油圧源とする油圧によって行うことを特徴としている。
この発明によれば、クランキング開始あるいはクランキング中の油圧源が十分に立ち上がっていない状態であっても、電動によって作動する第2可変機構の方は速やかに作動して吸気弁の作動角を拡大制御する。これによって、動弁系のフリクションが速やかに増加して、油圧作動する第1可変機構の遅角側への切り換え作動をサポートすることから、第1可変機構の遅角制御の良好な応答性も確保できる。
さらに、本発明は、前記可変手段の作動を電動によって行うと共に、動力源として、通常の内燃機関だけではなく、電動モータも併用するハイブリット車両の内燃機関に適用したものである。
この発明では、前記実施形態と同様な作用効果が得られることは勿論のこと、スターティングモータの代わりにハイブリット車両の電動モータを利用して作動させることができるので、クランキングにおいてより速やかなクランキングスピードを実現できる。
また、本発明は、車両の減速時において、前記可変手段によって吸気弁の閉時期を吸気行程下死点前の上死点寄りに制御すると共に、前記電動モータによって回生ブレーキを作用させて回生電力を発生させることを特徴としている。
これによれば、車両減速時に、可変手段によって吸気弁の閉時期をピストン下死点前の上死点寄りに制御することによって、エンジンブレーキを低減させることができるので、大きな回生電力を得ることができる。この結果、車両の全体の燃費を向上させることが可能になる。
ここで、可変手段が吸気弁の閉時期をピストン下死点前(上死点側)に制御する際に、この制御はメカニカルに安定する構造になっていることから、吸気弁の閉時期が下死点前に切り替わる作動応答性が向上する。したがって、回生ブレーキが発生するまでの応答時間を短縮できると共に、燃費の向上効果を高めることが可能になる。
また、本発明は、車両の減速時における吸気弁の閉時期と機関停止時における吸気弁の閉時期とをほぼ同一に設定したことを特徴としている。
この発明によれば、可変手段の作動応答性や、車両の減速から機関停止に至るまでの時間に拘わらず、吸気弁の閉時期をほぼ一定にすることができるため、機関停止時の吸気弁閉時期のばらつきを抑制することができ、安定的な始動性を確保できる。
また、本発明は、機関停止時に、吸気行程にある気筒の吸気弁が開弁しているクランク軸の回転位相で機関の停止となるように、スターティングモータあるいは電動モータによってクランク軸の回転位相を制御することを特徴としている。
吸気弁が開いている筒内圧は大気圧で一定圧であるから、吸気弁が閉じた時点では筒内圧はほぼ大気圧になっており、そこからピストンの下降につれて筒内圧が低減していくので、クランキングした際の圧縮上死点でのコンプレッションが安定する。つまり、吸気弁が閉じたときから以降のクランク軸の回転位相で機関が停止したとすると、その状態のクランク軸の回転位相で筒内圧は大気が次第に流入して最終的には全体が大気圧になる。したがって、機関再始動時には、筒内圧が大気圧になっており、そこからクランキングが開始されるわけであるが、この際の初期クランク軸の回転位相の違いによって圧縮上死点での筒内圧が過大になったり、ばらついてしまうことから、もって安定した始動性が得にくくなるが、この発明では、前述のように、これらを解決することが可能になる。
また、本発明は、前記可変手段を、吸気弁のリフト量と作動角を維持しつつ開閉時期のみを変化させる第1可変機構と、吸気弁のリフト量と作動角を同時に変化させる第2可変機構とによって構成し、
クランキングの回転が上昇した時点で、吸気弁の閉時期を遅角側に変化させる際に、前記第1可変機構と第2可変機構のいずれかに故障が発生していた場合は、故障していない他方の可変機構によって吸気弁の閉時期を遅角側に制御することを特徴としている。
この発明によれば、故障してない他方の可変機構によって吸気弁の閉時期を遅角側に制御できるので、完爆までの始動性を確保することが可能になる。
また、本発明は、前記故障していない他方の可変機構によって吸気弁の閉時期を遅角側に制御する際に、該他方の可変機構による前記閉時期の遅角量を通常よりも大きく制御することを特徴としている。
吸気弁の閉時期の遅角量を通常に近づけることができるので、完爆までの始動性を通常に近いレベルまで高めることが可能になる。
また、本発明は、前記可変手段に、機関停止時に前記付勢手段によって付勢された吸気弁のピストン上死点側の進角状態を固定する固定手段を設けたことを特徴としている。
この発明によれば、機関停止中には、可変手段が前記所定の作動位置で固定手段により固定されていることから、機関始動時における交番トルクなどによる可変手段のばたつきの発生を防止できる。この結果、前記機関始動時の振動低減と始動性向上をより確実に得ることができる。
また、本発明は、前記可変手段に、機関停止時に前記付勢手段によって付勢された吸気弁のピストン上死点側の進角状態を固定する固定手段を設けたことを特徴としている。
先の発明と同様な作用効果が得られる。