以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
本発明の具体的な実施例を説明する前に、本発明が適用される内燃機関の制御システムの構成、可変動弁システムの構成、可変動弁装置であるリフト制御機構及びバルブタイミング制御機構の構成を簡単に説明する。
図1において、シリンダブロック01とシリンダヘッド02との間に、ピストン03を介して燃焼室04が形成されていると共に、シリンダヘッド02のほぼ中央位置に点火プラグ05が設けられている。ピストン03は、ピストンピンに一端部が連結されたコネクチングロッド06を介してクランクシャフト07に連結されており、このクランクシャフト07は、冷機時の通常の始動やアイドリングストップ後の自動的な始動がピニオンギア機構09を介してスタータモータ08によって行われるようになっている。尚、クランクシャフト07は、後述するクランク角センサ010によってクランク角及び回転数が検出されるようになっている。
シリンダブロック01には、ウォータジャケット内の水温を検出する水温センサ011が取り付けられていると共に、シリンダヘッド02には、燃焼室04内に燃料を噴射する燃料噴射弁012が設けられている。更に、シリンダヘッド02の内部に形成された吸気ポート013や排気ポート014を開閉する1気筒当たりそれぞれ2つの吸気バルブ4及び排気バルブ5がそれぞれ摺動自在に設けられていると共に、吸気バルブ4側と排気バルブ5側には可変動弁装置が設けられている。吸気バルブ側にはバルブタイミング制御機構(VTC)3が設けられ、排気バルブ側にはリフト制御機構(VEL)1が設けられている。尚、場合によっては排気バルブ側にバルブタイミング制御機構(VTC)2が設けられる。制御装置22には図示したようなセンサ信号が入力され、また制御要素の駆動信号が出力されている。
図1にあるスタータモータ08は、バッテリを動力源とするモ−タ本体と、フライホイ−ルの外周にはめこまれたリングギヤに噛み合い動力を伝達するピニオンギア機構09などから成る一般的なものである。始動時、或いは再始動時のスタータモータ08への通電時のみ、ピニオンギア機構09のピニオンギアが前進し、内燃機関のリングギヤに噛み合ってスタータモ−タ08の回転を周知のリングギヤに伝えクランキングが行なわれる。尚、内燃機関が始動に成功してスタータモータ08への通電を停止すると、ピニオンギアは押し戻され、リングギヤとの噛み合いは離脱されるようになっている。
ここで、本実施例は後述するように排気バルブ5を所定の特定開弁時期に制御し、また、吸気バルブ4を所定の特定閉弁時期に制御することを対象としているので、スタータの方式は限定されず、ピニオンギアとリングギヤが常時噛み合っているスタータや、ハイブリッド車用モ−タ等を用いてベルト駆動でクランクプ−リを回転させるものであっても差し支えない。
可変動弁装置は、図2乃至図7に示すように、内燃機関の排気バルブ5のバルブリフト及び作動角(開期間)を制御するリフト制御機構である排気VEL1と、排気バルブ5の開閉時期(バルブタイミング)を制御するバルブタイミング制御機構である排気VTC2と、吸気バルブ4の開閉時期を制御する吸気VTC3とを備えている。また、排気VEL1と排気VTC2及び吸気VTC3は、コントローラ22によって機関運転状態に応じてそれぞれの作動が制御されるようになっている。
排気VEL1は、本出願人が先に出願した、例えば特開2003−172112号公報(吸気バルブ側に適用)に記載されたものと同様の構成であるで、詳細はこの公報を参照されたい。また、吸気VTC3も本出願人が先に出願した、例えば特開2012−127219号公報に記載されたものと同様の構成であるで、詳細はこの公報を参照されたい。
排気VEL1について図2及び図3A、図3Bに基づいて簡単に説明すると、シリンダヘッド02の上部に有する軸受27に回転自在に支持された中空状の駆動軸6と、駆動軸6の外周面に圧入等により固設された回転カム7と、駆動軸6の外周面に揺動自在に支持されて、排気バルブ5の上端部に配設されたバルブリフター8の上面に摺接して排気バルブ5を開作動させる2つの揺動カム9と、回転カム7と揺動カム9との間に介装されて、回転カム7の回転力を揺動運動に変換して揺動カム9に揺動力として伝達する伝達機構とを備えている。
駆動軸6(排気側)は、一端部に設けられたタイミングスプロケット31Aを介してクランクシャフト07からタイミングチェーンによって回転力が伝達されており、この回転方向は図2で時計方向(矢印方向)に設定されている。尚、駆動軸6とタイミングスプロケット31Aとの位相は変化しないシステムとしても良い。その場合、排気VTC2は装着されているものの使用されず位相変換は行われない。したがって、排気VTC2は省略し、固定のタイミングスプロケット31Aとしても良い。
排気側の回転カム7はほぼリング状を呈し、内部軸方向に形成された駆動軸挿通孔を介して駆動軸6に貫通固定されていると共に、カム本体の軸心Yが駆動軸6の軸心Xから径方向へ所定量だけオフセットしている。
揺動カム9は円筒状のカムシャフト10の両端部に一体的に設けられていると共に、カムシャフト10が内周面を介して駆動軸6に回転自在に支持されている。また、下面にベースサークル面やランプ面及びリフト面からなるカム面9aが形成されており、ベースサークル面とランプ面及びリフト面が、揺動カム9の揺動位置に応じて各バルブリフター8の上面の所定位置に当接するようになっている。
伝達機構は、駆動軸6の上方に配置されたロッカアーム11と、ロッカアーム11の一端部11aと回転カム7とを連係するリンクアーム12と、ロッカアーム11の他端部11bと揺動カム9とを連係するリンクロッド13とを備えている。ロッカアーム11は、中央に有する筒状の基部が支持孔を介して後述する制御カムに回転自在に支持されていると共に、一端部11aがピン14によってリンクアーム12に回転自在に連結されている一方、他端部11bがリンクロッド13の一端部13aにピン15を介して回転自在に連結されている。
リンクアーム12は、円環状の基端部12aの中央位置に有する嵌合孔に回転カム7のカム本体が回転自在に嵌合している一方、基端部12aから突出した突出端12bがピン14によってロッカアーム一端部11aに連結されている。リンクロッド13は、他端部13bがピン16を介して揺動カム9のカムノーズ部に回転自在に連結されている。また、駆動軸6の上方位置に同じ軸受部材に制御軸17が回転自在に支持されていると共に、制御軸17の外周にロッカアーム11の支持孔に摺動自在に嵌入されて、ロッカアーム11の揺動支点となる制御カム18が固定されている。制御軸17は、駆動軸6と並行に機関前後方向に配設されていると共に、駆動機構19によって回転制御されている。一方、制御カム18は、円筒状を呈し、軸心P2位置が制御軸17の軸心P1から所定分だけ偏倚している。
駆動機構19は、図4A、図4Bに示すように、ケーシング19aの一端部に固定された電動モータ20と、ケーシング19aの内部に設けられて電動モータ20の回転駆動力を制御軸17に伝達するボール螺子伝達手段21とから構成されている。電動モ−タ20は、比例型のDCモータによって構成され、機関運転状態を検出する制御機構であるコントローラ22からの制御信号によって駆動するようになっている。
ボール螺子伝達手段21は、電動モータ20の駆動シャフト20aとほぼ同軸上に配置されたボール螺子軸23と、ボール螺子軸23の外周に螺合する移動部材であるボールナット24と、制御軸17の一端部に直径方向に沿って連結された連係アーム25と、連係アーム25とボールナット24とを連係するリンク部材26とから主として構成されている。ボール螺子軸23は、両端部を除く外周面全体に所定幅のボール循環溝23aが螺旋状に連続して形成されていると共に、一端部にモータ駆動軸を介して連結され電動モータ20によって回転駆動されるようになっている。
ボールナット24は、ほぼ円筒状に形成され、内周面にボール循環溝23aと共同して複数のボールを転動自在に保持するガイド溝24aが螺旋状に連続して形成されていると共に、各ボールを介してボール螺子軸23の回転運動をボールナット24の直線運動に変換しつつ軸方向の移動力が付与されるようになっている。また、このボールナット24は、付勢手段であるコイルスプリング30のばね力によって電動モータ20側(最小リフト側)に付勢されている。したがって、機関停止時には、かかるボールナット24が、コイルスプリング30のばね力によってボール螺子軸23の軸方向に沿って最小リフト側に移動するようになっている。
コントローラ22は、機関コントロールユニット(ECU)の内部に組み込まれており、現在の機関回転数Nやクランク角を検出するクランク角センサ010からの検出信号やアクセル開度センサ、車速センサ、ギア位置センサ、ブレーキ踏込みセンサ、水温センサ011などから各種情報信号から現在の機関運転状態や自動車の運転状態を検出している。また、駆動軸6の回転角度を検出する駆動軸角度センサ28からの検出信号や、制御軸17の回転位置を検出するポテンショメータ29からの検出信号を入力して、駆動軸6のクランク角に対する相対回転角度や各排気バルブ5、5のバルブリフト量や作動角を検出するようになっている。
コントローラ22は、マイクロコンピュータを主たる構成要素とするものであり、このマイクロコンピュータは、制御プログラムにしたがって演算処理を実行する演算部と、制御プログラムや演算に使用する定数等を記憶したROM領域部と、プログラムの実行過程で必要なデータを一時的に記憶するワークエリアとしてのRAM領域部を備えている。更にセンサ信号を取り込むと共に排気VEL1、排気VTC2、吸気VTC3等の駆動アクチュエータに駆動信号を供給するI/OLSI等を備えている。マイクロコンピュータは制御プログラムによって、排気VEL1、排気VTC2、吸気VTC3等で実行される制御に関する種々の演算処理を行っているが、その演算は所定の制御機能を実行するためのものであり、本実施例では演算によって実行される処理を機能として捉えるものとする。
排気VEL1の基本作動を説明すると、所定の運転領域で、コントローラ22からの制御電流によって一方向へ回転駆動した電動モータ20の回転トルクによってボール螺子軸23が一方向へ回転すると、ボールナット24が、図4Aに示すように、コイルスプリング30のばね力にアシストされながら最大一方向(電動モータ20に接近する方向)へ直線状に移動し、これによって制御軸17がリンク部材26と連係アーム25を介して一方向へ回転する。
したがって、制御カム18は、図3Aに示すように、軸心が制御軸17の軸心の回りを同一半径で回転して、肉厚部が駆動軸6から上方向に離間移動する。これにより、ロッカアーム11の他端部11bとリンクロッド13の枢支点は、駆動軸6に対して上方向へ移動し、このため、各揺動カム9は、リンクロッド13を介してカムノーズ部側が強制的に引き上げられて全体が図3Aに示す時計方向へ回動する。
よって、回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター16に伝達され、これによって、排気バルブ5は、そのバルブリフト量が図5のバルブリフト曲線や図3A下図で示すように最小リフト(L1)になり、その作動角D1(クランク角での開弁期間)が小さくなる。作動角は、排気バルブ5のリフトの開弁時期から閉弁時期までを示している。
更に、異なる運転状態では、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20が他方向へ回転して、この回転トルクがボール螺子軸23に伝達されて回転すると、この回転に伴ってボールナット24がコイルスプリング30のばね力に抗して反対方向、つまり、図4A中、右方向へ所定量だけ直線移動する。これにより、制御軸17が、図3A中、時計方向へ所定量だけ回転駆動する。このため、制御カム18は、軸心が制御軸17の軸心P1から所定量だけ下方の回転角度位置に保持され、肉厚部が下方へ移動する。このため、ロッカアーム11は、全体が図3Aの位置から反時計方向へ移動して、これによって各揺動カム9がリンクロッド13を介してカムノーズ部側が強制的に押し下げられて、全体が反時計方向へ僅かに回動する。
したがって、回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して各揺動カム9及びバルブリフター8に伝達され、排気バルブ5のリフト量が図5に示すように、中リフト(L2)あるいは大リフト(L3)になり、作動角もD2、D3のように大きくなる。
また、例えば高回転高負荷領域に移行した場合などは、コントローラ22からの制御信号によって電動モータ20がさらに他方向に回転してボールナット24を、図4Bに示すように、最大右方向へ移動させる。これにより、制御軸17は、制御カム18をさらに図3A中、時計方向へ回転させて、軸心P2をさらに下方向へ回動させる。このため、ロッカアーム11は、図3Bに示すように、全体がさらに駆動軸6方向寄りに移動して他端部11bが揺動カム9のカムノーズ部を、リンクロッド13を介して下方へ押圧して該揺動カム9全体を所定量だけさらに反時計方向へ回動させる。
よって、回転カム7が回転してリンクアーム12を介してロッカアーム11の一端部11aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド13を介して揺動カム9及びバルブリフター8に伝達されるが、そのバルブリフト量は図5に示すようにL2、L3からL4に連続的に大きくなる。その結果、高回転域での排気効率を高め、もって出力を向上させることができる。
すなわち、排気バルブ5のリフト量は、機関の運転状態に応じて中リフトL2、大リフトL3から最大リフトL4まで連続的に変化するようになっており、したがって、各排気バルブ5の作動角も最小リフトD1から最大リフトのD4まで連続的に変化する。ここで、図5に示す排気弁開時期EVO1〜EVO4、排気弁閉時期EVC1〜EVC4は、固定のタイミングスプロケット31Aとした場合、あるいは排気VTC2が最進角のデフォルト位置であった場合のバルブタイミングを示している。
また、機関の停止時には前述したように、ボールナット24がコイルスプリング30のばね力によって電動モータ20側へ付勢されて自動的に移動することから、最小作動角D1及び最小リフトL1位置(デフォルト位置)に保持される。
すなわち、電動モ−タ20に変換電力(変換エネルギ)が作用しない場合は、最小リフトL1(最小作動角D1)付近に機械的に安定するようになっており、この最小リフト(最小作動角)が機械的安定位置(デフォルト)となっている。この排気バルブの開弁時期(EVO1)も前述の機械的安定位置(デフォルト)であるため、同開弁時期に変換される場合に、機械的に安定するエネルギも活用して、変換応答性を高めることもできる。
吸気VTC3は、いわゆるベーンタイプのものであって、図6A、図6B及び図7に示すように、機関のクランクシャフト07によって図外のタイミングチェ−ンを介して回転駆動されて、この回転駆動力を駆動軸6(吸気側回転カム軸)に伝達するタイミングスプロケット31Bと、駆動軸6の端部に固定されてタイミングスプロケット31B内に回転自在に収容されたベーン部材32と、ベーン部材32を油圧によって正逆回転させる油圧回路とを備えている。
タイミングスプロケット31Bは、ベーン部材32を回転自在に収容したハウジング34と、ハウジング34の前端開口を閉塞する円板状のフロントカバー35と、ハウジング34の後端開口を閉塞するほぼ円板状のリアカバー36とから構成され、これらハウジング34及びフロントカバー35、リアカバー36は、4本の小径ボルト37によって駆動軸6の軸方向から一体的に共締め固定されている。ハウジング34は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面の周方向の約90°位置に4つの隔壁であるシュー34aが内方に向かって突設されている。
この各シュー34aは、横断面ほぼ台形状を呈し、ほぼ中央位置に各ボルト37の軸部が挿通する4つのボルト挿通孔34bが軸方向へ貫通形成されていると共に、各内端面に軸方向に沿って切欠形成された保持溝内に、コ字形のシール部材38と該シール部材38を内方へ押圧する図外の板ばねが嵌合保持されている。
フロントカバー35は、円盤プレート状に形成されて、中央に比較的大径な支持孔35aが穿設されていると共に、外周部に各シュー34aの各ボルト挿通孔34bに対応する位置に図外の4つのボルト孔が穿設されている。リアカバー36は、後端側にタイミングチェーンが噛合する歯車部36aが一体に設けられていると共に、ほぼ中央に大径な軸受孔36bが軸方向に貫通形成されている。
ベーン部材32は、中央にボルト挿通孔を有する円環状のベーンロータ32aと、ベーンロータ32aの外周面の周方向のほぼ90°位置に一体に設けられた4つのベーン32bとを備えている。ベーンロータ32aは、前端側の小径筒部がフロントカバー35の支持孔35aに回転自在に支持されている一方、後端側の小径な円筒部がリアカバー36の軸受孔36bに回転自在に支持されている。また、ベーン部材32は、ベーンロータ32aのボルト挿通孔に軸方向から挿通した固定ボルト57によって駆動軸6の前端部に軸方向から固定されている。
各ベーン32bは、その内の3つが比較的細長い長方体形状に形成され、他の1つの幅長さが大きな台形状に形成されて、3つのベーン32bはそれぞれの幅長さがほぼ同一に設定されているのに対して1つのベーン32bはその幅長さが3つのものよりも大きく設定されて、ベーン部材32全体の重量バランスが取られている。また、各ベーン32bは、各シュー34a間に配置されていると共に、各外面の軸方向に形成された細長い保持溝内にハウジング34の内周面に摺接するコ字形のシール部材40及びシール部材40をハウジング34の内周面方向に押圧する板ばねが夫々嵌着保持されている。また、各ベーン32bの駆動軸6の回転方向と反対側のそれぞれの一側面には、ほぼ円形状の2つの凹溝32cがそれぞれ形成されている。また、この各ベーン32bの両側と各シュー34aの両側面との間に、それぞれ4つの進角側油圧室41と遅角側油圧室42がそれぞれ隔成されている。
油圧回路は、図7に示すように、各進角側油圧室41に対して作動油の油圧を給排する第1油圧通路43と、各遅角側油圧室42に対して作動油の油圧を給排する第2油圧通路44との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路43、44には、供給通路45とドレン通路46とが夫々通路切り換え用の電磁切換弁47を介して接続されている。供給通路45には、オイルパン48内の油を圧送する一方向のオイルポンプ49が設けられている一方、ドレン通路46の下流端がオイルパン48に連通している。
第1、第2油圧通路43、44は、円柱状の通路構成部39の内部にわたって形成され、この通路構成部39は、一端部がベーンロータ32aの小径筒部から内部の支持穴32d内に挿通配置されている一方、他端部が電磁切換弁47に接続されている。また、通路構成部39の一端部の外周面と支持穴14dの内周面との間には、各油圧通路43、44の一端側間を隔成シールする3つの環状シール部材27が嵌着固定されている。
第1油圧通路43は、支持穴32dの駆動軸6側の端部に形成された油室43aと、ベーンロータ32aの内部にほぼ放射状に形成されて油室43aと各進角側油圧室41とを連通する4本の分岐路43bとを備えている。一方、第2油圧通路44は、通路構成部39の一端部内で止められ、一端部の外周面に形成された環状室44aと、ベーンロータ32の内部にほぼL字形状に折曲形成されて、環状室44aと各遅角側油圧室42と連通する第2油路44bとを備えている。
電磁切換弁47は、4ポート3位置型であって、内部の弁体が各油圧通路43、44と供給通路45及びドレン通路46とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、コントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。この吸気VTC3の電磁切換弁47は、制御電流が作用しない場合に、供給通路45が進角側油圧室41に連通する第1油圧通路43と連通し、ドレン通路46が遅角側油圧室42と連通する第2油圧通路44に連通するようになっている。
また、電磁切換弁47内のコイルスプリングによって機械的にかかるポジションとなるように形成されている。コントローラ22は、排気VEL1と共通のものであって、機関運転状態を検出すると共に、クランク角センサ10及び駆動軸角度センサ28(吸気側)からの信号によってタイミングスプロケット31Bと駆動軸6との相対回転位置を検出している。
また、ベーン部材32とハウジング34との間には、このハウジング34に対してベーン部材32の回転を拘束及び拘束を解除する拘束手段であるロック機構が設けられている。このロック機構は、幅長さの大きな1つのベーン32bとリアカバー36との間に設けられ、ベーン32bの内部の駆動軸6の軸方向に沿って形成された摺動用穴50と、摺動用穴50の内部に摺動自在に設けられた有蓋円筒状のロックピン51と、リアカバー36に有する固定孔内に固定された横断面カップ状の係合穴構成部52に設けられて、ロックピン51のテーパ状先端部51aが係脱する係合穴52aと、摺動用穴50の底面側に固定されたスプリングリテーナ53に保持されて、ロックピン51を係合穴52a方向へ付勢するばね部材54とから構成されている。係合穴52aには、図外の油孔を介して進角側油圧室41内の油圧あるいはオイルポンプ49の油圧が直接供給されるようになっている。
そして、ロックピン51は、ベーン部材32が最進角側に回転した位置で、先端部51aがばね部材54のばね力によって係合穴52aに係合してタイミングスプロケット31B(36)と駆動軸6との相対回転をロックする。また、進角側油圧室41から係合穴52a内に供給された油圧あるいはオイルポンプ49の油圧によって、ロックピン51が後退移動して係合穴52aとの係合が解除されるようになっている。また、各ベーン32bの一側面とこの一側面に対向する各シュー34aの対向面との間には、ベーン部材32を進角側へ回転付勢する付勢部材である一対のコイルスプリング55、56が配置されている。各コイルスプリング55、56は、最大圧縮変形時にも互いが接触しない軸間距離をもって並設されていると共に、各一端部がベーン32bの凹溝32cに嵌合する図外の薄板状のリテーナを介して連結されている。
以下、吸気VTC3の基本的な動作を説明すると、まず、機関停止時には、コントローラ22から電磁切換弁47に対する制御電流の出力が停止されて、弁体がコイルスプリング55、56のばね力によって機械的に図6Aに示すデフォルト位置になり、供給通路45と進角側の第1油圧通路43とが連通されると共に、ドレン通路46と遅角側の第2油圧通路44が連通される。また、かかる機関が停止された状態ではオイルポンプ49の油圧が作用せず供給油圧も0になる。
したがって、ベーン部材32は、図6Aに示すように、各コイルスプリング55、56のばね力によって最進角側に回転付勢されて1つの幅広ベーン32bの一端面が対向する1つのシュー34aの一側面に当接すると同時に、ロック機構のロックピン51の先端部51aが係合穴52a内に係入して、ベーン部材32をかかる最進角位置に安定に保持する。すなわち、最進角位置に吸気VTC3が機械的に安定するデフォルト位置になっている。ここで、デフォルト位置とは、非作動時、つまり、油圧が作用しない場合に機械的に自動的に安定する位置のことである。
したがって、電磁切換弁47に対する制御電流の出力が遮断されて吸気VTC3に油圧が作用しない場合は、最進角位置付近が機械的安定位置(デフォルト)となっている。本実施例では後述するように、この場合の吸気弁閉時期(IVC)は、吸気下死点近くで下死点に対してやや遅角側の位置になるように設定されている。
ここで、後述する図9Aに示すように、始動時のバルブタイミングは、排気側は排気VEL1により、排気最小作動角度D1、排気弁の閉時期(EVC1)、排気弁の開時期(EVO1)であるが、これらは始動時に制御される排気バルブタイミングであり、且つ上述の機械的に安定するデフォルトバルブタイミングとなっている。ここで、排気弁の閉時期(EVC)と排気弁の開時期(EVO)の間の作動角度Dは図5に示すように、排気VEL1の働きによって調整されるものである。
また、吸気側は吸気VTC3により最進角の位置、すなわち、吸気弁の開時期(IVO1)、吸気弁の閉時期(IVC1)になっており、これらが始動時に制御される吸気バルブタイミングであり、且つ上述の機械的に安定するデフォルトバルブタイミングとなっている。ここで、吸気弁の開時期(IVO)と吸気弁の閉時期(IVC)との間の作動角度は常に一定であり、吸気VTC3の働きにより、吸気弁の開時期(IVO)と吸気弁の閉時期(IVC)の位相が同じ量だけ変更されるものである。
このように、始動前のエンジン停止時には、排気VEL1、吸気VTC3によって吸排気弁のバルブタイミングは機械的に予め安定している。つまり、始動燃焼の初期からこれらのバルブタイミングによる始動性効果を得ることができるのである。このような始動性を向上するための動作、作用については後述する。
次に、機関始動時、つまりイグニッションスイッチをオン操作して、駆動モータ09などによりクランクシャフトをクランキング回転させると、電磁切換弁47にコントローラ22から制御信号が出力されるようになる。しかしながら、このクランク開始直後の時点では、まだオイルポンプ49の吐出油圧が十分に上昇していないことから、ベーン部材32は、ロック機構と各コイルスプリング55、56のばね力とによって最進角側に保持されている。
このとき、コントローラ22から出力された制御信号によって電磁切換弁47が供給通路45と第1油圧通路43を連通させると共に、ドレン通路46と第2油圧通路44とを連通させている。そして、クランキングが進み、オイルポンプ49から圧送された油圧の油圧上昇とともに第1油圧通路43を通って進角側油圧室41に供給される一方、遅角側油圧室42には、機関停止時と同じく油圧が供給されずにドレン通路46から油圧がオイルパン48内に開放されて低圧状態を維持している。
ここで、クランキング回転が上昇し油圧がさらに上昇した後は、電磁切換弁47によるベーン位置制御ができるようになる。すなわち、進角側油圧室41の油圧の上昇に伴ってロック機構の係合穴52a内の油圧も高まってロックピン51が後退移動し、先端部51aが係合穴52aから抜け出してハウジング34に対するベーン部材32の相対回転を許容するため、ベーン位置制御が可能になる。
例えば、コントローラ22からの制御信号によって電磁切換弁47が作動して、供給通路45と第2油圧通路44を連通させる一方、ドレン通路46と第1油圧通路43を連通させる。したがって、進角側油圧室41内の油圧が第1油圧通路43を通ってドレン通路46からオイルパン48内に戻され、進角側油圧室41内が低圧になる一方、遅角側油圧室42内に油圧が供給されて高圧となる。
よって、ベーン部材32は、かかる遅側油圧室42内の高圧化によって各コイルスプリング55、56のばね力に抗して図中反時計方向へ回転して図6Bに示す位置に向かって相対回転して、タイミングスプロケット31Bに対する駆動軸6の相対回転位相を遅角側に変換する。また、変換の途中で電磁切換弁47のポジションを中立位置にすることで、任意の相対回転位相に保持できる。更に、始動後の機関運転状態に応じて相対回転位相を最進角(図6A)から最遅角(図6B)まで連続的に変化させることができる。
また、排気VTC2を併用する場合は、基本には本実施例で使用される吸気VTC3と同様にベーンタイプのものである。簡単に説明すると、排気側の駆動軸6の端部に配置されて、クランクシャフト07から図外のタイミングチェ−ンを介して回転駆動力が伝達されるタイミングスプロケット31Aと、該タイミングスプロケット31Aの内部に回転自在に収容されたベーン部材と、ベーン部材を油圧によって正逆回転させる油圧回路とを備えている。
また、前述の吸気VTC3と同様に最進角デフォルトであって、ベ―ンを付勢するコイルスプリングは、同様に進角方向に付勢するようになっている。なお、油圧回路、電磁切換弁は基本的に吸気VTC3のものと同様であり、内部の弁体が各油圧通路と供給通路及びドレン通路とを相対的に切り替え制御するようになっていると共に、同じコントローラ22からの制御信号によって切り替え作動されるようになっている。また、同じ最進角デフォルトであるため、前述の図7における電磁切換弁の3位置と同様の配置となっている。
このような動作を行う排気VEL1及び吸気VTC3、場合によっては排気VTC2を併用して、本実施例では以下に示すようなアトキンソンサイクルを行うようにしている。以下、図8A乃至図8Dを用いてその詳細な説明を行う。図8A乃至図8DはバルブタイミングとPV線図(筒内圧指圧線図)の関係を示す説明図であり、縦軸のPは筒内圧を示し、横軸のVは気筒容積を示している。尚、この時の運転状態は、いずれも絞り弁(スロットル)を略全開にした状態でのバルブタイミングとPV線図である。
まず、図8Aに基づいてアトキンソンサイクルの簡単な説明とその課題について説明する。図8Aは、一般的な中負荷状態の通常のアトキンソンサイクルのバルブタイミングとPV線図を示しているが、特許文献1に示すものではない。尚、図8Aは本実施例を説明するための基礎となるバルブタイミングを示しているもので、この図8Aを基に本実施例及び本実施例と比較した参考例を説明する。
図8Aに示しているように吸気VTC3によって、吸気弁の開弁時期(IVO)は吸気上死点(=排気上死点)付近に設定され、また、予め設定された作動角によって吸気弁の閉時期(IVC)は、吸気下死点(BDC)後90°手前まで比較的大きく遅角した一般的なアトキンソンサイクルの吸気バルブタイミングを示している。一方、排気弁の開弁時期(EVO)は排気下死点より進角側に設定され、また、排気弁の閉時期(EVC)は、排気上死点付近である一般的な排気バルブタイミングに設定されている。
このように吸排気弁のバルブタイミングを設定することで、特に吸気弁の閉時期(IVC)をより遅角することによって、有効圧縮比を低くでき、これにより耐ノッキング性能が向上できるので、その分だけ幾何学的(機械)圧縮比(=膨張比)、すなわち、下死点における筒内容積を上死点における筒内容積で割った値を大きく設定できる。
この膨張比(=幾何学的圧縮比)が高い程膨張仕事を大きくできるので熱効率が高く、燃費低減効果を向上することが可能となる。すなわち、アトキンソンサイクルによる、かかる低有効圧縮比/高膨張比の効果により燃費が向上できるようになる。
アトキンソンサイクルには更なる燃費向上メカニズムがある。すなわち、吸気弁の閉時期(IVC)を遅角すると、吸気充填効率が低くなるので所定トルクを出す場合における、スロットル(絞り弁)開度が相対的に大きくなり、その分吸気管負圧が減少して大気圧レベルに近づけることができる。これにより、吸入行程で生じるポンプ損失(ポンピング損失)を低減することが可能となり、これによってもさらに燃費低減効果を向上することができる。
このアトキンソンサイクルによれば、かかる中負荷領域においても絞り弁開度をほぼ全開付近で運転でき、図8A下図のPV線図に示すように、吸気上死点TDCから吸気下死点BDCに至る吸入行程において、筒内圧(P)は略大気圧レベルとなる。また、排気行程における排気下死点BDCから排気上死点TDC至る間のP曲線と、吸気行程における吸気上死点TDCから吸気下死点BDCにおけるP曲線とで囲まれる面積はポンプ損失を意味するが、このポンプ損失も充分低下できるので、これによっても燃費低減効果を向上することができるのである。
ここで、中負荷領域とは、例えば車速を100km/h〜120km/hでほぼ一定速度に保つような状態などが該当する。
尚、図8AのPV線図は、分かりやすくするために排気行程でのP曲線と吸気行程でのP曲線はほぼ同じ大気圧線上に乗るよう描いている。つまり、この間のポンプ損失がゼロになるよう描いているが、実際は若干のポンプ損失(両曲線に囲まれる面積)が存在するのだが、分かりやすくするためにこのような図にしている。
このようにアトキンソンサイクルによると、低圧縮比/高膨張比化による熱効率向上やポンプ損失の低減により大きな燃費低減効果が得られるので、更にこのアトキンソンサイクルの拡大が今後の方向として注目されている。
ここでいう低圧縮比とは、有効圧縮比が低いことを言う。すなわち、IVCが吸気下死点後90°を越えて大きく遅角すると、このIVCに対応する高いピストン位置から実質的な圧縮が開始されるので、実質的な有効圧縮比は低下するのである。その場合、耐ノッキング性が向上するので、高機械圧縮比(高膨張比)に設定でき、熱効率が向上して、燃費も向上するのである。
ただ、このようなアトキンソンサイクルであっても、負荷を低減して低負荷領域に移行させる場合、トルクを下げるために絞り弁(スロットル)の開度を絞らざるを得ず、これによりポンプ損失が増加してしまう状況が発生する。そこで、吸気弁の閉時期(IVC)をさらに遅角すると、絞り弁の開度を全開近くに維持したまま充填効率(トルク)を下げられるので、低負荷領域でのポンプ損失を低減して燃費の低減を図ることができる、と考えられる。また、有効圧縮比が更に下がるので、その分だけさらに耐ノッキング性が向上し、さらに高膨張比(高機械圧縮比)に設定でき、熱効率をさらに高めることができる、と考えられる。
ここで、低負荷領域とは、例えば車速を30km/h〜40km/hでほぼ一定速度に保つような状態、もしくはエンジン回転数を1000rpmでほぼ一定回転数に保つ状態などが該当する。
このように、吸気弁の閉時期(IVC)をさらに遅角すると、ポンプ損失の低減や熱効率の向上により、燃費を更に向上できる、或いは、燃費の良いアトキンソンサイクルの使用範囲を低負荷側に拡大することができるようになる、と考えられる。このような、観点から、低負荷側まで充分に燃費を向上するために、吸気弁の閉時期(IVC)を更に遅角させるアトキンソンサイクルの低負荷側への拡大が模索されている。
その一例として、前述の特許文献1にあるような可変動弁装置が提案されているが、前述のように吸気弁の作動角度が著しく大きいことによる駆動フリクション損失の増加や、さらには前述のような始動性不良の問題がある。このため、吸気弁の作動角度を過大でない標準的な作動角度に設定する必要性があり、その前提で検討した結果を図8B乃至図8Dに示している。
図8C(参考例1)は吸気弁の作動角度及び排気弁の作動角度を図8Aに示すような中負荷での一般的なアトキンソンサイクルと同程度の作動角度に設定し、これを低負荷側まで拡大したものである。この場合、排気弁の開時期(EVO)と閉時期(EVC)は図8Aと同じであり、吸気VTC3を作動させて吸気弁の閉時期(IVC)を、吸気下死点(BDC)後90°より更に遅角制御した参考例を示している。すなわち、吸気弁閉時期を一層遅角化することで、充填効率を一層低下させ、それにより、絞り弁をほぼ全開とした状態で、低負荷(低トルク)を実現しようとしたものである。
この参考例1の場合だと、吸気VTC3によって吸気弁の開時期(IVO)も吸気上死点後の所定位相まで遅角してしまうことになる。その結果、吸気上死点付近から吸気弁の開時期(IVO)の間は、吸気弁と排気弁の双方が閉じているマイナスオーバーラップ期間の状態となる。このため、PV線図にもあるようにピストンが下がり始める吸気行程の初期において筒内が負圧になり、この部分で別のポンプ損失が発生してその分だけ燃費低減効果が目減りしてしまうことになる。
図8D(参考例2)は前述の参考例1に示すマイナスオーバーラップを無くすために、排気VTC2を作動させたと想定して排気弁を遅角したものである。この場合も吸気弁の作動角度及び排気弁の作動角度を図8Aに示すものと同じ作動角度に設定し、これを低負荷側まで拡大したものある。この場合、吸気弁の開時期(IVO)と閉時期(IVC)は図8Cと同じであり、排気VTC2を作動させて排気弁の開時期(EVO)を、排気下死点(BDC)付近に遅角制御した参考例を示している。
この参考例2の場合だと、僅かに正オーバーラップが生成されることになり、前述の吸気行程の初期のポンプ損失は低減される。しかしながら、PV線図にもあるように、今度は膨張行程末期に、また別のポンプ損失が発生してしまう現象が生じる。これは、低圧縮比/高膨張比の状態で、負荷(トルク)を下げたため、膨張行程末期に筒内圧が大気圧より低くなったために生じたものである。
このように、吸気弁の作動角度を標準的な作動角度に設定して駆動フリクション損失を抑制しつつアトキンソンサイクルを低負荷側に拡大しようとすると、吸気行程初期あるいは膨張行程末期において別のポンプ損失が大きくなるという課題が新たに発生する。
そこで、本実施例では図8Bに示すように、吸気弁の作動角度を標準的な作動角度に設定した状態で、さらに排気VEL1を利用して排気弁の作動角度を図5に示す作動角度D4まで拡大するようにしている。
図8Bにおいて、図8C、図8Dと同様に吸気VTC3を作動させて吸気弁閉時期を、吸気下死点(BDC)後90°より更に遅角側に制御した閉時期(IVC4)に設定している。また、吸気VTC3によって吸気弁の開時期も吸気上死点後の所定位相の開時期(IVO4)まで遅角されている。
一方、排気弁は前述のように排気VEL1によってその作動角度が作動角度D4まで拡大されるように制御されているため、排気弁の開時期が排気下死点より前の開時期(EVO4)まで進角し、更にその閉時期が排気上死点より後の閉時期(EVC4)まで遅角して、吸気弁と正のオーバーラップを生成するようになる。このように排気弁の開時期を排気下死点より前の開時期(EVO4)まで進角させることにより、膨張行程の進行に合わせてピストンが下降して筒内圧が負圧に至る前に排気弁が開くようになる。このため、大気圧レベルの排気ポ−ト圧が筒内に進入し、筒内圧が負圧になるのを抑制して膨張行程の末期のポンプ損失を抑制できるようになる。
更に、排気弁の閉時期を排気上死点より後の閉時期(EVC4)まで遅角させることにより吸気行程の初期のポンプ損失を抑制でき、さらに吸気弁と正のオーバーラップを生成させれば、吸気行程の初期のポンプ損失が一層低減されるようになる。すなわち、図8BのPV線図にあるように、吸気行程初期においても膨張行程末期においても筒内圧力が負圧になることが抑制されるので、一連のポンプ損失を低減することが可能となるのである。
このように、本実施例によれば、吸気VTC3と排気VEL1を組み合わせて吸排気タイミングを上述のように制御するようにしたので、特許文献1のように吸気弁の作動角度を過度に大きく拡大しなくても、吸気弁閉時期(IVC)を充分遅角できるので吸気弁の駆動フリクション損失を低減することができるものである。
ここで、排気側の作動角はD4まで拡大される訳だが、これは標準作動角に対してやや大きくなる程度であり、特許文献1の過度の吸気作動角と較べたら充分に小さく、従って吸排気トータルでの動弁フリクションという意味では抑制され、その面からも燃費が向上するのである。
また、吸気弁の閉時期(IVC)を遅角したことによって吸気弁の開時期(IVO)が吸気上死点より遅角されるが、これに合わせて排気VEL1によって排気弁の閉時期(EVC)が排気上死点より更に遅角されるので、吸気行程の初期のポンプ損失を抑制でき、さらに正のオーバーラップが生成されて吸気行程の初期のポンプ損失が一層低減されるようになる。
また、吸気弁の閉時期(IVC)を遅角したことによって吸気弁の開時期(IVO)が吸気上死点より遅角されるが、これに合わせて排気VEL1によって排気弁の閉時期(EVC)が排気上死点より更に遅角されるので、吸気行程の初期にピストンが下降する際に、吸気ポ−トからの新気導入が遅れ、排気ポ−ト側から筒内に高温の内部EGRガスを優先的に取り込むことができる。この内部EGRによる筒内加熱効果により、吸気弁の閉時期(IVC)を大きく遅角したことによる低圧縮比燃焼での燃焼安定性が改善される。更に、上述してきた作用、効果との相乗効果によってアトキンソンサイクルにおける燃費低減効果を一層向上することが可能となるものである。
このように、本実施例によれば、低負荷域において、吸気弁の作動角を過度に大きく拡大しなくても、吸気弁の閉時期(IVC)を充分遅角してアトキンソンサイクルを行うことができるので、吸気弁の駆動フリクション損失が低減されて、また燃焼が改善されて、燃費低減効果を向上することが可能となる。
次に、上述した実施例の可変動弁装置において運転領域が変わった場合のバルブタイミングの制御方法を図9A乃至図9Dに基づき説明する。
図9Aには始動時のバルブタイミングを示している。すなわち、吸気VTC3はデフォルト状態であり最進角位置に制御されている。この状態で吸気弁の開時期(IVO1)は吸気上死点より少し前側に進角され、吸気弁の閉時期(IVC1)は吸気下死点付近、更に望ましくは吸気下死点より少し後側に遅角されている。一方、排気VEL1もデフォルト状態であり、作動角度は図5に示す最小作動角D1に制御されている。この状態で、排気弁の開時期(EVO1)は排気下死点付近であり、排気弁の閉時期(EVC1)は排気上死点付近である。この時、排気VTC2が併用される場合は、最進角のデフォルト位置(機械的に安定位置)に設定される。
そして、吸気弁の閉時期(IVC1)は、吸気VTC3の可変範囲の中で、吸気下死点に最大限近づいた位置とすることで、充填効率を高めて始動トルクを大きくできるようにしている。また、有効圧縮比が高くなって圧縮上死点での筒内ガス温度や筒内圧力が高くなるので、始動燃焼を改善できるようになる。
更に、吸気弁の開時期(IVO1)は吸気上死点前の所定位置まで進角されているが、排気弁の閉時期(EVC1)が排気上死点となっているので、バルブオーバーラップが過大になるのが抑制され、適度なバルブオーバーラップに抑えられている。その結果、新気の充填効率が充分確保され、また、高温の内部EGRガスによる吸気加熱効果も得られ燃焼が改善され、もって充分な始動トルクが得られて良好な始動性が得られるようになる。
また、この適度なバルブオーバーラップ期間により、筒内の未燃HCが排気行程で吸気系に戻されて、次のサイクルで再度筒内に吸入され再燃焼することが可能となり、これにより内燃機関から排出されるHCを低減することができる。
また、排気弁の開時期(EVO1)が排気下死点付近に設定されているので、筒内燃焼期間が長くなり、内燃機関の暖機が促進されることに加え、筒内での燃焼が促進されて、機関から排出されるHC等の未燃エミッションも低減することができる。このようにして、良好な始動性とエミッション低減効果が得られるようになる。排気弁の作動角は最小のD1となっているので、駆動フリクションも最小なっており、始動時の回転上昇も迅速化され、一層良好な始動性を得ることができる。
尚、ここで、重要なのは、この始動性とエミッショ低減に有利なバルブタイミングが、上述したようにデフォルト位置、すなわち両可変動弁が機械的に安定する位置であるという点である。すなわち、始動の前のエンジン停止状態において、予めこの始動性とエミッション低減に有利なバルブタイミング付近となっているため、始動燃焼の初期からこれらの始動性とエミッション低減の効果が得られるものである。
図9Bは低回転低負荷領域(図面では低速低負荷と表記)のバルブタイミングであり、図8Bと同じバルブタイミングを示している。すなわち、吸気VTC3を作動させて吸気弁閉時期を、吸気下死点(BDC)後90°より更に遅角側に制御した閉時期(IVC4)に設定している。また、吸気VTC3によって吸気弁の開時期も吸気上死点後の所定位相の開時期(IVO4)まで遅角されている。一方、排気弁は排気VEL1によってその作動角度が作動角度D4まで拡大されるように制御される。このため、排気弁の開時期が排気下死点より前の開時期(EVO4)まで進角し、更にその閉時期が排気上死点より後の閉時期(EVC4)まで遅角して、吸気弁と正のオーバーラップを生成するようになる。
このように排気弁の開時期を開時期(EVO4)まで進角させることにより、膨張行程の進行に合わせてピストンが下降して筒内圧が負圧に至る前に排気弁が開くようになる。このため、大気圧レベルの排気ポ−ト圧が筒内に進入し、筒内圧が負圧になるのを抑制して膨張行程の末期のポンプ損失を抑制できるようになる。更に、排気弁の閉時期を閉時期(EVC4)まで遅角させることにより、吸気弁と正のオーバーラップを生成することができるので、吸気行程の初期のポンプ損失が低減されるようになる。これ以外の更なる作用、効果は図8Bの説明に記載されている通りである。
図9Cには低回転高負荷領域(図面では低速高負荷と表記)のバルブタイミングを示している。ここで、図9A及び図9Bでは排気側VTC2を使用しなくても該排気バルブタイミングを実現でき、また吸気側は吸気VTC3だけを使用して吸気弁を制御している。しかしながら、図9Cでは排気VTC2も併せ使用して、排気VEL1による作動角度を維持したまま排気弁の開閉時期を変更できるようにしている。この排気VTC2は上述した通りの構成であり、最進角デフォルトという意味でも吸気VTC3と同じ機能である。
図9Cに示すように、低回転高負荷になると、吸気VTC3は図9Aにある始動時と同様の最進角位置に制御され、吸気弁の開時期(IVO1)と閉時期(IVC1)に制御される。一方、排気VEL1は作動角度を図5の作動角度D2に変換すると共に、排気VTC2を制御することで作動角度D2を維持したまま、排気弁の開時期を図5に示すEVO1付近(排気下死点付近)まで遅角し、更に、排気弁の閉時期を図5に示すEVC3付近の排気上死点を越える位置まで遅角される。これによって、吸気弁と排気弁は大きな正のバルブオーバーラップを形成している
そして、吸気弁の閉時期(IVC1)は吸気VTC3の可変範囲の中で吸気下死点に最大限近づいた位置とすることで、充填効率を高めてトルクを大きくできるようにしている。また、排気弁の開時期(EVO1)が排気下死点付近に設定されているので、筒内燃焼期間が長くなり筒内での燃焼が促進されて、機関から排出されるHCなどの未燃エミッションも一層低減するのである。また、吸気弁の閉時期(IVC1)が吸気下死点に近いため新気充填効率があがる。
更に、排気弁の開時期(EVO1付近)が排気下死点付近であることと、吸排気弁の大きなバルブオーバーラップによる筒内残留ガス掃気効果により新気の充填効率を一層向上できるようになる。このメカニズムを説明すると、排気弁が開かれた直後には、排気弁出口付近の排気ポ−トには排出される排気ガスによる大きな正圧が発生する。そして、この正圧の圧力波がテールパイプ方向に移動していくにつれ、排気ポ−ト付近には大きな負圧が生じる。その後、他の気筒からの正圧の圧力波が、他気筒との排気ポ−ト集合部から押し寄せてくると、負圧だった排気ポ−トは再び正圧となる。しかるに、他気筒も含めた排気弁の開弁時期を遅くすると、他の気筒からの正圧の圧力波が押し寄せてくるタイミングが遅れるので、次のバルブオーバーラップ期間での排気ポ−ト圧は負圧とすることができる。
その結果、この排気ポ−ト負圧により、オーバーラップ期間における燃焼室内の燃焼ガスを排気ポ−ト側に吸い出し、吸気ポ−ト側からその分新気を吸い込む掃気効果を奏するようになる。更に、上述のように大きなバルブオーバーラップとなっているので、一層多くの新気を吸い込むことができて充填効率が向上する。この新気は冷却効果があるので耐ノッキング性にも有利となる。特に、アトキンソンサイクルを使用する内燃機関は、上述のように幾何学的圧縮比が高く設定されるので、高負荷域ではノッキングが発生しやすくなるが、これを有効に抑制することが可能となる。
このように、低回転高負荷領域では吸気弁の閉時期(IVC1)を吸気下死点付近まで進角することによって充填効率を向上し、また、排気弁の開時期をEVO1付近(排気下死点付近)まで遅角する共にバルブオーバーラップを大きくしたことによる掃気効果に基づく充填効率の向上と耐ノッキング性の向上により、高負荷トルクを高めることが可能になるものである。
尚、かかる高負荷領域においては、筒内圧が高く、排気(膨張)下死点付近でも負圧にはならないので、排気弁開時期を排気下死点付近まで遅らせても、前述の膨張行程末期のポンプ損失発生は抑制され、良好な燃費と、膨張仕事向上によるトルク向上も得られるのである。
図9Dには高回転高負荷領域(図面では高速高負荷と表記)のバルブタイミングを示している。これ自体は、排気VTC2を併用しなくても実現できるが、図9Cで示す低速高回転でのバルブタイミングを両立させる場合には、排気VTC2を併用する必要がある。
図9Dにおいて、高回転高負荷領域になると、吸気VTC3は低回転高負荷領域に比べて遅角方向に制御され、吸気弁の開時期(IVO2)と閉時期(IVC2)に制御される。吸気弁の開時期(IVO2)は吸気上死点付近、より望ましくは吸気上死点より少し進角側の吸気上死点に近い位置である。また、吸気弁の閉時期(IVC2)は吸気下死点90°より手前側の位置に制御されている。
一方、排気VEL1は作動角度を図5の作動角度D3に変換することで、排気弁の開時期(EVO3)を排気下死点付近より進角し、更に、排気弁の閉時期(EVC3)は排気上死点を越える位置まで遅角される。これによって、吸気弁と排気弁は大きな正のバルブオーバーラップを形成するが、図9Cに示す低回転高負荷領域のバルブオーバーラップより小さく設定されている。これは吸気弁の開時期(IVO2)を相対的に遅角したことによるものである。
これによれば、内燃機関の回転上昇に伴って吸気の輸送遅れ(クランク角でみた場合)が生じるので、その分だけ吸気弁閉時期(IVC2)を遅らせて高回転域の充填効率を高め、トルク(出力)を向上するようにしている。
また、排気VEL1で作動角度D3に拡大すると共に、排気VTC2を再び最進角位置(デフォルト位置)に戻すようにしている。すなわち、排気弁の開時期(EVO3)に進角し、更に作動角度を作動角度D3に拡大することで、高回転化に伴う押し出し損失の増加を抑制して出力を向上するようにしている。更に、排気ポ−トが負圧になるタイミングは、高回転化に伴い遅れるので(クランク角でみた場合)、バルブオーバーラップ中心を上死点後に遅角して図9Cと同様の掃気効果を得るようにしている。このようにして、高回転高負荷領域のトルク(出力)を高めることができるのである。
次に、図9A乃至図9Dに示す吸排気弁のバルブタイミングに制御するために、排気VEL1、排気VTC2、及び吸気VTC3を制御する制御フローについて図10を用いて説明する。この制御フローはコントローラ22のマイクロコンピュータによって、制御機能として実行されるものである
図10において、ステップS10では内燃機関の動作状態を検出している。この動作状態の検出は、本実施例では内燃機関の運転領域を特定するための情報を検出するものであり、更には排気VEL1、排気VTC2、及び吸気VTC3の制御量を求めるためである。例えば、キースイッチの状態、回転数、負荷、温度等を基本的に検出している。しかしながら、これらの情報だけでなく、これ以外の情報を検出することも当然考慮されるものである。
ステップS10で内燃機関の状態が検出されると、ステップS11に進んで始動状態かどうかが判断される。この場合は、キースイッチの状態や内燃機関の回転の有無等が用いられる。
このステップS11で始動状態と判断(YES)されるとステップS13に進み、吸気VTC3を制御する。この場合は、吸気VTC3が元々デフォルト状態で、且つ制御目標も同じデフォルト位置なので、図9Aの吸気弁の開時期(IVO1)と閉時期(IVC1)に機械的に安定するように制御される。ステップS13で吸気VTC3による吸気弁の開時期と閉時期の設定が終了するとステップ14に進む。
ステップS13で吸気VTC3による吸気弁の開時期と閉時期の設定が終了すると、ステップS14では排気VEL1を制御する。この場合も、排気VEL1が元々デフォルト状態で、且つ制御目標がデフォルト位置なので、図9Aの排気弁の開時期(EVO1)と閉時期(EVC1)に機械的に安定するように制御される。これらの設置が終了すると、その後にエンドに抜けてこの制御フローを終了する。これによって内燃機関の始動が開始されるものである。
次に、ステップS11で始動状態でないと判断されると、ステップS12に進んで内燃機関の運転領域を判断する。ステップS12では低回転低負荷領域かどうかが判断される。この場合は、例えば回転数と負荷によってマッピングされた回転数−負荷マップによって運転領域を特定することができる。このステップS12で低回転低負荷領域と判断されるとステップS13、14に進み、低回転低負荷領域にないと判断されるステップS15に進む。
ステップS12で低回転低負荷領域と判断(YES)されるとステップS13に進み、吸気VTC3を制御する。この場合は、図9Bの吸気弁の開時期(IVO4)と閉時期(IVC4)に制御される。ステップS13で吸気VTC3による吸気弁の開時期と閉時期の設定が終了するとステップ14に進む。
ステップS13で吸気VTC3による吸気弁の開時期と閉時期の設定が終了すると、ステップS14では排気VEL1を制御する。この場合は、排気弁の作動角度が作動角度D4に変更されて図9Bの排気弁の開時期(EVO4)と閉時期(EVC4)に制御される。
なお、ここで、排気VTC2はデフォルト位置(最進角)に維持されたままである。これらの設置が終了すると、その後にエンドに抜けてこの制御フローを終了する。
次に、ステップS12で低回転低負荷領域にないと判断されると、ステップS15に進んで内燃機関の運転領域を判断する。ステップS15では低回転高負荷領域かどうかが判断される。この場合も回転数−負荷マップによって運転領域を特定することができる。このステップS15で低回転高負荷領域と判断されるとステップS117、18、19に進み、低回転高負荷領域にないと判断されるステップS16に進む。
ステップS15で低回転高負荷領域と判断(YES)されるとステップS17に進み、吸気VTC3を制御する。この場合は、図9Cの吸気弁の開時期(IVO1)と閉時期(IVC1)に制御される。ステップS17で吸気VTC3による吸気弁の開時期と閉時期の設定が終了するとステップ18に進む。
ステップS17で吸気VTC3による吸気弁の開時期と閉時期の設定が終了すると、ステップS18では排気VEL1を制御する。この場合は、排気弁の作動角度を作動角度D2に変更する。更にこの後にステップS19に進んで、作動角度D2を維持しながら排気VTC2を制御して図9Cの排気弁の開時期(EVO1付近)と閉時期(EVC3付近)に制御される。これらの設定が終了すると、その後にエンドに抜けてこの制御フローを終了する。
次に、ステップS15で低回転高負荷領域にないと判断されると、ステップS16に進んで内燃機関の運転領域を高回転高負荷領域と判断する。このステップS16で高回転高負荷領域と判断されるとステップS17、18、19に進む。
ステップS16で高回転高負荷領域と判断されるとステップS17に進み、吸気VTC3を制御する。この場合は、図9Dの吸気弁の開時期(IVO2)と閉時期(IVC2)に制御される。ステップS17で吸気VTC3による吸気弁の開時期と閉時期の設定が終了するとステップ18に進む。
ステップS17で吸気VTC3による吸気弁の開時期と閉時期の設定が終了すると、ステップS18では排気VEL1を制御する。この場合は、排気弁の作動角度を作動角度D3に変更する。更にこの後にステップS19に進んで、作動角度D3を維持しながら排気VTC2をデフォルト位置に制御して図9Dの排気弁の開時期(EVO3)と閉時期(EVC3)に制御される。これらの設定が終了すると、その後にエンドに抜けてこの制御フローを終了する。
このような制御フローによって図9A乃至図9Dに示すような吸排気タイミングの制御を実行できるようになる。
尚、以上説明してきたフローチャートでは、低回転中負荷と判断された場合については示されていないが、この場合の制御フローを追加しても良い。その場合には、吸気VTC3によりIVCは例えばIVC3に制御され、排気VEL1によりEVOは例えば図5におけるEVO2に制御される。
このIVC3は下死点後90°より少し手前の中負荷のアトキンソンサイクルに適したタイミングであり、絞り弁をほぼ全開にした状態で、中トルク(中負荷)を発生できるだけの充填効率が得られるタイミングとなっている。
また、このEVO2は下死点より少し手前の中負荷のアトキンソンサイクルに適したタイミングであり、筒内圧が低負荷より高い分だけ膨張行程末期に筒内負圧が生じるタイミングが遅角するので、その分だけ低負荷時のEVO4よりは遅角したタイミングとなっている。
以上述べた通り、本発明は所定の低負荷の状態では(1)吸気バルブタイミング機構によって吸気弁の閉時期(IVC)を吸気下死点後クランク角90°付近、又は90°を越えた遅角位置に制御すると共に吸気弁の開時期(IVO)を排気上死点を越えて遅角した位置に制御し、(2)排気作動角可変機構により排気弁の作動角を拡大して、排気弁の開時期(EVO)を吸気下死点より進角すると共に、排気弁の閉時期(EVC)を排気上死点を越えて遅角した位置に制御するものである。
これによれば、吸気弁の作動角を大きく拡大しなくても、吸気弁の閉時期(IVC)を充分遅角してアトキンソンサイクルを行うことができるので、吸気弁の駆動フリクション損失が低減されて燃費低減効果を向上することが可能となるものである。
尚、以上に説明した実施例では可変動弁機構として、吸気側に油圧可変位相機構(VTC)と、排気側に電動連続可変リフト機構(VEL)と油圧可変位相機構(VTC)を用いる例を示したが、これに限る訳ではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲であれば、構成は特に限定される訳ではない。また、変換エネルギとしては、電力でも良いし油圧でも構わないものである。例えば、排気側に電動連続可変リフト機構(VEL)に代えて、油圧式の段階的リフトと作動角を変える可変機構であっても構わないものである。また、リフトは変えずに作動角を変更するものであっても構わない。更に、油圧式VTCではなく、電動式の可変位相機構であっても構わないものである。
また、吸気VTCは最進角デフォルトの実施例を示したが、最進角ではないが中間の進角側位置をデフォルトとする方式であっても構わないものである。
尚、本実施例においては、バルブタイミングすなわち吸排気弁の開閉時期は、まさしくリフトが開始するタイミングと終了したタイミングについて示したが、所謂ランプ(緩衝)期間を除いたタイミングとしても良い。すなわち、リフトが開始され僅かなランプ高さのリフトとなったタイミングを開時期、リフトが低下し僅かなランプ高さのリフトとなったタイミングを閉時期としても良い。こうすると、気体の流れの実質的な開始時期あるいは終了時期と略対応するので、より大きな諸効果を得ることができる。
以上説明した実施形態から把握される請求項以外の発明の技術的思想について以下に説明する。
吸気弁の開時期および閉時期を制御する吸気可変動弁制御機構と排気弁の作動角度を変更制御する排気作動角可変機構の動作を制御するマイクロコンピュータを備えた内燃機関の可変動弁制御装置において、
前記マイクロコンピュータは前記内燃機関が低負荷領域の状態では、
(1)前記吸気バルブタイミング機構によって前記吸気弁の閉時期を吸気下死点後クランク角90°付近、又は吸気下死点後クランク90°を越えた遅角位置に制御すると共に前記吸気弁の開時期を吸気上死点を越えて遅角した位置に制御する機能を実行し、
(2)前記排気作動角可変機構により前記排気弁の作動角度を拡大して前記排気弁の開時期を排気下死点より進角すると共に、前記排気弁の閉時期を排気上死点を越えて遅角した位置に制御する機能を実行するものであって、
前記マイクロコンピュータは前記内燃機関の冷機始動時には、
前記吸気バルブタイミング機構により、前記吸気弁の閉時期を吸気下死点付近まで進角側に制御する機能を実行し、
前記排気作動角可変機構により、前記排気弁の作動角度を縮小して前記排気弁の開時期を排気下死点付近に制御すると共に前記排気弁の閉時期を排気上死点付近に制御する機能を実行することを特徴とする。
また、前記マイクロコンピュータは前記内燃機関の低回転高負荷領域では、
前記吸気バルブタイミング機構によって、前記吸気弁の開時期を吸気上死点より進角側に制御する共に前記吸気弁の閉時期を吸気下死点付近まで進角側に制御する機能を実行し、
前記排気作動角可変機構によって前記排気弁の開時期を排気下死点付近とすると共に前記排気弁の閉時期を排気上死点より遅角側に制御する機能を実行することを特徴とする。
また、前記マイクロコンピュータは前記内燃機関の高回転高負荷領域では、
前記吸気バルブタイミング機構によって前記吸気弁の開時期が吸気上死点付近となるように制御する共に前記吸気弁の閉時期を吸気下死点90°前に制御する機能を実行し、
前記排気作動角可変機構によって前記排気弁の開時期を排気下死点より進角側に制御すると共に前記排気弁の閉時期を排気上死点より遅角側に制御する機能を実行することを特徴とする。
更に、前記マイクロコンピュータは前記内燃機関が低負荷領域では、
前記排気作動角可変機構によって前記排気弁の閉時期を前記吸気弁の開時期付近で正のバルブオーバーラップを生成するように制御する機能を実行することを特徴とする。
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。