JP4197770B2 - イソブチレンを分離したオレフィン混合物の処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イソブチレンとn−ブテンを含むオレフィン混合物と水を原料とし、ヘテロポリ酸を用いた触媒の存在下で反応させ、イソブチレンを選択的に水和して第3級ブタノールを製造し、この第3級ブタノールを分離することにより、イソブチレンを分離したオレフィン混合物を得る方法において、このイソブチレンを分離したオレフィン混合物中の微量触媒を除去することで、該オレフィン混合物の流れる配管または設備の腐食を防止し、安価な炭素鋼を材質として選択することができる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
第3級ブタノール、すなわち、ターシャリブタノールは種々の工業原料として有用であり、例えば、メチルメタアクリレート製造の中間体であるメタクリロニトリル、メタクロレインなどの原料として用いられる。このターシャリブタノールは、n−ブテンとイソブチレンを含むオレフィン混合物よりイソブチレンを選択的に水和し回収する方法により製造される。
この混合オレフィンは、主にナフサ分解工程の炭素数4の留分より大部分のブタジエンを除去した後に得られるイソブチレンとn−ブテンを主成分とする、いわゆるスペントBBと言われるものである。このオレフィン混合物が流れる配管および装置の材質としては、一般的には安価な炭素鋼が用いられる。
【0003】
このオレフィン混合物からイソブチレンを選択的に水和し、ターシャリブタノールを回収する一般的な方法としては、50〜65%の硫酸あるいは塩酸や金属塩化物塩酸溶液、強酸性イオン交換樹脂、固体酸等を用いる方法が知られている。しかし、これらの方法を採用する場合は、強酸性であること、あるいは高濃度のターシャリブタノールを得るために反応条件を高温状態に保つ必要があることから、工業的設備の材質に対する腐食性が激しく、工業的には高価な材料を使用しなければならない欠点を有していた。
【0004】
この対策として、特公昭58−39134では、Mo、WおよびVから選ばれた少なくとも1種を縮合配位元素とするヘテロポリ酸水溶液を触媒に用いることで、100℃未満の温度での水和反応が可能となることが示されており、この方法を採用した場合では、イソブチレンを水和反応させる反応器関係の工業的設備の材質として、特に高価な材料を使用する必要はなく、ステンレス鋼を用いることができることを示している。しかし、この方法を採用した場合でも、ターシャリブタノールおよび触媒を回収した後、微量の水分、ターシャリブタノール、および触媒がオレフィン混合物中に含まれている。この結果、ターシャリブタノールおよび触媒を分離後の、すなわち、イソブチレンを分離したオレフィン混合物が流れる配管および設備については、炭素鋼では腐食が起こるため、ステンレス鋼を使用する必要があった。さらに、腐食した表面を詳細に確認すると孔食と呼ばれる局部腐食が起こっており、この原因としては、特に該触媒は水に対する溶解度がオレフィン混合物に対する溶解度に比べ大きいため、イソブチレンを分離したオレフィン混合物中の水分に触媒が濃縮されるためであると考えられる。
【0005】
この腐食対策については、特に大型の連続設備を建設する場合、建設費の削減を目的にできるだけ安価な材質を選定することに対して大きな問題となるが、腐食を起こさせないイソブチレンを分離したオレフィン混合物の処理方法としては明確になっていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、イソブチレンとn−ブテンを含むオレフィン混合物と水を原料とし、ヘテロポリ酸を用いた触媒の存在下で反応させ、イソブチレンを選択的に水和して第3級ブタノールを製造し、この第3級ブタノールを分離することにより、イソブチレンを分離したオレフィン混合物を得る方法において、このイソブチレンを分離したオレフィン混合物の流れる配管または設備の腐食を防止し、安価な炭素鋼を材質として選択することができるイソブチレンを分離したオレフィン混合物の処理方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意研究を重ねた結果、イソブチレンを分離したオレフィン混合物を脱水後、該オレフィン混合物に塩基性物質を直接添加することにより、またはアルカリ性水溶液をイソブチレンを分離したオレフィン混合物に接触させた後、該オレフィン混合物を脱水し、その後、塩基性物質を直接添加することにより、該オレフィン混合物に溶解している微量のヘテロポリ酸触媒、または該オレフィン混合物中の水に溶解している微量のヘテロポリ酸触媒を中和処理することで、該オレフィン混合物の流れる配管または設備の炭素鋼における腐食を防ぐことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
1)イソブチレンとn−ブテンを含むオレフィン混合物と水を原料とし、Mo、WおよびVから選ばれた少なくとも1種の元素を縮合配位元素とするヘテロポリ酸の存在下で反応させ、イソブチレンを選択的に水和して第3級ブタノールを製造し、この第3級ブタノールを分離することにより、イソブチレンを分離したオレフィン混合物を得る方法において、イソブチレンを分離したオレフィン混合物を脱水し、脱水した後の該オレフィン混合物中に、液体の炭素数4の有機塩基性物質で、該オレフィン混合物に溶解するものを添加することを特徴とするイソブチレンを分離したオレフィン混合物の処理方法。
【0009】
2)イソブチレンを分離したオレフィン混合物をアルカリ性水溶液と直接接触させた後に脱水することを特徴とする上記1)記載の方法。
3)イソブチレンを分離したオレフィン混合物と直接接触させるアルカリ性水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする上記2)記載の方法。
4)イソブチレンを分離したオレフィン混合物の脱水を蒸留操作により実施することを特徴とする上記1)〜3)のいずれかに記載の方法。
【0010】
5)有機塩基性物質がアミン類であることを特徴とする上記1)〜4)のいずれかに記載の方法。
6) イソブチレンを分離したオレフィン混合物に対する有機塩基性物質の濃度が0.1〜20重量ppmとなるように添加することを特徴とする上記1)〜5)のいずれかに記載の方法。
【0011】
以下に、本発明の内容について詳しく述べる。
本発明でターシャリブタノール製造の原料となるオレフィン混合物は、主にナフサ分解工程の炭素数4の留分より大部分のブタジエンを除去した後に得られるイソブチレンとn−ブテンを主成分とする、いわゆるスペントBBを原料とする場合が多いが、石油の流動接触反応装置やn−ブタンの接触脱水素留分等から供給されたC4留分でもよい。すなわち、イソブチレンを含むC4留分であればよく、1−ブテン、cis−2−ブテン、trans−2−ブテン等の他、飽和の炭化水素または芳香族炭化水素が共存していてもよい。
本発明におけるオレフィン混合物から選択的にイソブチレンを水和する方法については、特公昭58−39134記載の方法であればよく、また、水和したターシャリブタノールの分離回収方法としても、特公昭58−39134や特公昭58−39806記載の方法であればよい。
【0012】
イソブチレンを水和反応でターシャリブタノールに変換後、このターシャリブタノールを分離したオレフィン混合物、すなわち、イソブチレンを分離したオレフィン混合物は、少量の水分およびヘテロポリ酸触媒を含んでいる。ヘテロポリ酸は水に対する溶解度がオレフィン混合物に対する溶解度よりも高いため、該オレフィン混合物の水分濃度が高い場合は、該オレフィン混合物中に含まれるヘテロポリ酸の濃度も高くなり、その結果、該オレフィン混合物が流れる配管または設備の材質には注意を払う必要がある。そこで、該オレフィン混合物を処理するにあたり、脱水操作を第1の工程として実施する。
本発明におけるイソブチレンを分離したオレフィン混合物の脱水操作の方法としては特に限定するものではなく、吸着剤を用いた吸着脱水を採用してもよく、また、蒸留操作による脱水を行ってもよいが、連続運転を実施する場合は、運転管理方法の容易さを考慮し、蒸留操作による脱水が好ましい。
【0013】
本発明におけるイソブチレンを分離したオレフィン混合物の蒸留操作による脱水操作を行う場合、脱水操作に使用する蒸留塔設備については、規則充填物または不規則充填物を用いた充填塔、または棚段塔のいずれでもよいが、オレフィン混合物と水は共沸混合物を形成するため、蒸留操作により取り除いた水は、蒸留塔へのオレフィン混合物供給段よりも上部の抜き出し導管から濃縮されて抜き出される。また、脱水した後の該オレフィン混合物は、蒸留塔への該オレフィン混合物供給段よりも下部の抜き出し導管より抜き出される。さらに、この脱水した後の該オレフィン混合物の蒸留塔からの抜き出し方法としては、蒸気の状態で抜き出すことが好ましい。脱水した該オレフィン混合物を蒸気で抜き出す場合は、蒸留塔底部の液には触媒あるいは予め中和処理した触媒が残存するため、これを回分または連続方式で抜き出すことが好ましい。該蒸留塔塔底より抜き出した液の処理方法としては特に限定するものではなく、抜き出し液中の触媒をさらに回収する方法、そのまま廃液として焼却処理する方法、または残存触媒をさらに中和し、オレフィン混合物のみを回収する方法等を採用してもよい。
【0014】
また、該脱水操作を行う前に、イソブチレンを分離したオレフィン混合物とアルカリ性水溶液を直接接触させ、該オレフィン混合物に含まれるヘテロポリ酸触媒の大部分を予め除去してもよい。この操作を行う場合に使用するアルカリ性水溶液としては、工業的には安価な水酸化ナトリウムを使用することが好ましい。また、このアルカリ性水溶液を該オレフィン混合物と接触させる方法については特に限定するものではなく、比重差を利用した向流接触方式や、攪拌させることによる強制的な接触方式を採用してもよい。向流接触方式を採用する場合の設備としては、該オレフィン混合物とアルカリ性水溶液の接触が十分に行われるよう、内部に充填物を挿入した充填塔を採用してもよく、また、該オレフィン混合物および/またはアルカリ性物質水溶液の分散を良くするために、該各液の供給口に分散器を設置してもよい。
【0015】
脱水工程で脱水した後のイソブチレンを分離したオレフィン混合物に、さらに添加する塩基性物質については特に限定するものではないが、好ましくは該オレフィン混合物の性状および用途を考慮し、液体の炭素数4の有機塩基性物質で該オレフィン混合物に溶解するものが好ましく、このような物質としてはアミン類が好ましい。さらに、工業的に使用する場合は、安価なn−ブチルアミンが好ましい。この塩基性物質を添加する量については、イソブチレンを分離したオレフィン混合物に対する塩基性物質の濃度が0.1〜20重量ppmとなるように添加されるが、添加する方法としては、該オレフィン混合物中に含まれる触媒濃度を検知しながら、触媒濃度に応じた塩基性物質を添加してもよいが、触媒濃度が非常に少なく、検出下限界以下であれば、一定量の塩基性物質を連続で添加してもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、イソブチレンを分離したオレフィン混合物の水濃度、ターシャリブタノール濃度およびヘテロポリ酸濃度の分析、および炭素鋼に対する腐食の評価としては次のとおりに行った。
該オレフィン混合物中の水濃度は、カールフィッシャー法(電量滴定)で測定した。
イソブチレンを分離したオレフィン混合物中のターシャリブタノール濃度はガスクロマトグラフィー分析法を用い、検出方法としては水素炎イオン化検出器(GC−FID)を用いて行った。
イソブチレンを分離したオレフィン混合物中のヘテロポリ酸濃度は、該オレフィン混合物を蒸発させた後、蒸発残渣を塩酸水溶液に溶解させ、溶解させた塩酸水溶液中の金属元素濃度を原子吸光光度計を用いて測定し、この結果から逆算して、該オレフィン混合物中のヘテロポリ酸濃度を求めた。
【0017】
炭素鋼に対する腐食の評価方法は、イソブチレンを分離したオレフィン混合物が流れる配管内に、金属片を設置し、ある期間該オレフィン混合物に浸漬させ、浸漬前後での金属片の重量差をA、金属片表面積をB、金属片密度C、および浸漬させていた時間Dとした場合の下記式で表される数値を腐食の進行度として、腐食の有無の指標とした。なお、該数値が大きいほど、腐食が起こるとして考えた。
腐食の進行度=A/(B×C×D)
また、今回の腐食確認用金属片の材料としては、日本工業規格(JIS)記載のG3101(70)一般構造用圧延鋼材SS41を使用した。
【0018】
【実施例1】
イソブチレンとn−ブテンを含むスペントBBと水を、リンモリブデン酸触媒の存在下で反応させ、イソブチレンを選択的に水和してターシャリブタノールを製造し、このターシャリブタノールを分離することにより得られたイソブチレンを分離したオレフィン混合物を原料として用いた。なお、該オレフィン混合物の分析を行ったところ、水濃度1600重量ppm、ターシャリブタノール濃度4.3重量%、およびリンモリブデン酸の濃度は12重量ppmであった。この原料を、塔径0.8mで16段の棚段塔を用いて、脱水を目的に蒸留操作を行った。該オレフィン混合物の供給は塔頂に供給し、脱水後の該オレフィン混合物は、蒸留塔底部より蒸気として抜き出した。さらに、この抜き出した脱水後の該オレフィン混合物を凝縮すると共に、この凝縮液にn−ブチルアミンを、該オレフィン混合物に対して10重量ppmの濃度となるように添加した。最終的に得られた該オレフィン混合物の組成としては、水濃度50重量ppm、ターシャリブタノール濃度500重量ppm、およびリンモリブデン酸の濃度としては0.025ppmであった。該オレフィン混合物が流れる配管中に炭素鋼金属片を設置し、40日間浸漬後、腐食の進行度を測定したところ、浸漬前後での金属片の重量差は認められず、腐食は起こっていないことが判明した。また、金属片を観察したところ、孔食腐食は認められなかった。
【0019】
【実施例2】
実施例1と同じ方法で得られた、水濃度1500重量ppm、ターシャリブタノール濃度4.4重量%、およびリンモリブデン酸濃度13重量ppmであるイソブチレンを分離したオレフィン混合物を原料として用いた。この原料を、24重量%の水酸化ナトリウム水溶液と原料に対する該水溶液の重量比1.2で向流接触させた。この向流接触に用いた設備としては、塔径0.9m、高さ10mの内部にポールリングを充填させた充填塔を用いて行った。この接触操作にり得られた該オレフィン混合物は、該充填塔塔頂より抜き出され、次に、該オレフィン混合物の脱水操作を行うための蒸留操作を行った。該操作で使用した蒸留塔は、実施例1記載の蒸留塔を用いて行い、該オレフィン混合物の供給は塔頂に供給し、脱水後の該オレフィン混合物は、蒸留塔底部より蒸気として抜き出した。さらに、この抜き出した脱水後の該オレフィン混合物を凝縮すると共に、この凝縮液にn−ブチルアミンを、該オレフィン混合物に対して10重量ppmの濃度となるように添加した。最終的に得られた該オレフィン混合物の組成としては、水濃度48重量ppm、ターシャリブタノール濃度500重量ppm、およびリンモリブデン酸の濃度としては0.014ppmであった。実施例1と同様に該オレフィン混合物が流れる配管中に炭素鋼金属片を設置し、51日間浸漬後、腐食の進行度を測定したところ、浸漬前後での金属片の重量差は認められず、腐食は起こっていないことが判明した。また、金属片を観察したところ、孔食腐食は認められなかった。
【0020】
【比較例1】
実施例1と同じ原料の流れる配管内に炭素鋼金属片を挿入し、実施例と同様51日間浸漬後、腐食の進行度を測定したところ、0.108mm/年の結果となり、腐食が進行することが明らかとなった。また、金属片を観察したところ、孔食腐食も確認された。
【0021】
【発明の効果】
本発明によれば、イソブチレンとn−ブテンを含むオレフィン混合物と水を原料とし、ヘテロポリ酸を用いた触媒の存在下で反応させ、イソブチレンを選択的に水和して第3級ブタノールを製造し、この第3級ブタノールを分離することにより、イソブチレンを分離したオレフィン混合物を得る方法において、イソブチレンを分離したオレフィン混合物の流れる配管または設備の腐食を防止し、安価な炭素鋼を材質として選択することができる。
Claims (6)
- イソブチレンとn−ブテンを含むオレフィン混合物と水を原料とし、Mo、WおよびVから選ばれた少なくとも1種の元素を縮合配位元素とするヘテロポリ酸の存在下で反応させ、イソブチレンを選択的に水和して第3級ブタノールを製造し、この第3級ブタノールを分離することにより、イソブチレンを分離したオレフィン混合物を得る方法において、イソブチレンを分離したオレフィン混合物を脱水し、脱水した後の該オレフィン混合物中に、液体の炭素数4の有機塩基性物質で、該オレフィン混合物に溶解するものを添加することを特徴とするイソブチレンを分離したオレフィン混合物の処理方法。
- イソブチレンを分離したオレフィン混合物をアルカリ性水溶液と直接接触させた後に脱水することを特徴とする請求項1記載の方法。
- イソブチレンを分離したオレフィン混合物と直接接触させるアルカリ性水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項2記載の方法。
- イソブチレンを分離したオレフィン混合物の脱水を蒸留操作により実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 有機塩基性物質がアミン類であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- イソブチレンを分離したオレフィン混合物に対する有機塩基性物質の濃度が0.1〜20重量ppmとなるように添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
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