JP4196459B2 - 磁性担体、その製造方法及びこれを用いた核酸抽出方法 - Google Patents

磁性担体、その製造方法及びこれを用いた核酸抽出方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は吸着剤や抽出剤として好適な、表面にポリアクリルアミドを有し、その磁性体含有量や形状、粒径、細孔径が制御された磁性担体、その製造方法、さらにこの磁性担体を用いた核酸の抽出方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より吸着剤や吸着剤を担持するための固相担体としてはシリカ粒子等が良く知られているが、これらを用いる場合、その回収のためには遠心分離法や、あるいはフィルターによる濾過等を行わなければならなず、簡便な方法ではなかった。また、吸着、抽出操作においては、目的とする吸着物や抽出物とそれ以外の他の物質とを分離する必要があるが、従来の遠心分離法やカラム分離法等の手法では分離のみでも長時間を要し、また大規模な装置も必要とすることがあるなど簡便な方法ではなかった。
【0003】
そのため、目的の物質を分離する手段として、例えば特開昭60−244251号公報に記載のように、粒子に強磁性体を付加し、磁場を与えることにより、目的の粒子を回収するという方法が用いられていた。しかしながら、この方法では、吸着、抽出、反応操作等において、強磁性体自身が自己会合してしまうことがあり、さらに磁場をかけるとさらに自己会合しやすくなることがあるなど、粒子が均一に分散した状態にてその操作を実施したい場合においても粒子の存在状態を自由に制御できないという課題があった。
【0004】
近年、強磁性体自身の自己会合をなくす方法として、特開昭61−181967号公報には磁性体として超常磁性体を用いた方法が、特表平4−501957号公報には検体を固定する固相として超常磁性体を含んだ磁性粒子を用い、蛋白質、細胞、DNAの分離、分析等に利用できることが開示されている。また、特許第2554250号公報には、ゲルマトリックスに超常磁性磁気反応性物質を捕捉させ運動性の高い試薬担体について開示している。これらに記載の超常磁性磁気粒子は、酸化鉄等の磁性体を永久磁性を維持するのに必要な磁区の大きさより小さい微粒子にして粒子中に含ませたもので、外部磁場をかけず、凝集させる時に外部磁場をかけて溶液中の粒子を凝集させる方法である。しかしながら、これらの方法においても、磁性粒子の物性を十分に制御したものとはいえず、磁性粒子を種々の用途に応じてその物性を十分に制御し、最適な磁性粒子を製造する方法が望まれていた。特に、磁性粒子の粒子径、細孔径及びその容積、比表面積、磁性粒子中の磁性体の量や表面のシリカなどの濃度、といった磁性粒子の特性を制御することでその目的に応じ最適な粒子を得る方法が望まれていた。
【0005】
また、シリカ粒子を吸着剤または抽出剤として使用する場合、目的の吸着物や抽出物に応じて予めシリカ粒子の表面に特定の官能基を導入したり、核酸などを吸着させて用いてきた。例えば、高速液体クロマトグラフィー用のゲルのように、特定の官能基をゲルに導入して用いられてきた。しかしながら、従来の方法では導入した官能基が剥離して官能基の量が減少し、その結果吸着剤として使用する際に性能の劣化が起こってしまう、といった問題が生じることがあった。
【0006】
磁性シリカ粒子へのポリアクリルアミドの導入方法としては、磁性シリカ粒子とアクリルアミドを混合し、重合反応を行い、ゲルにポリアクリルアミドを担持する方法がある。しかしながら、この方法ではゲルとポリアクリルアミドとの間には直接的な結合はなく、単にポリアクリルアミドがゲルを覆っているだけであるため、吸着や抽出操作中にゲルとポリアクリルアミドが分離してしまうという問題があった。
【0007】
また、ゲルのような担体とポリアクリルアミドとの間に結合を形成させるためには、ゲルとポリアクリルアミドを反応させる必要がある。この場合、一定量のポリアクリルアミドをゲル上の官能基と直接反応させてゲルにポリアクリルアミドを一定量導入することは困難であり、たとえできたとしてもその性能の再現性に問題があるため、再現性よく担体に目的量のポリアクリルアミドを導入することが望まれていた。
【0008】
また、特開平9−19292号公報に記載のように核酸を吸着する担体としてシリカ粒子を使用することが知られており、核酸とシリカ粒子との吸着はシリカ表面の水酸基と核酸の塩基との間の水素結合が関与していると言われている。シリカ粒子を核酸吸着用に用いる場合、核酸分子がかさ高いために立体障害が生じ、シリカ粒子の表面のみでは吸着が起こりにくくなったりし、吸着量に再現性がないという問題があった。
【0009】
さらに、特表平4−501959号公報には磁性粒子の表面にオリゴヌクレオチド分子を担持したものが開示されている。しかしながら、この場合には、吸着あるいは抽出したい核酸の種類に応じて、磁性粒子表面に吸着あるいは抽出する核酸と相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドを固定化する必要がある。そのため、対象となる核酸にあわせて、相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドを固定化した磁性粒子を準備する必要が生じる。従って、臨床の現場においては、目的核酸を吸着あるいは抽出するために、多種類のオリゴヌクレオチド固定化磁性粒子が必要になり、経済性など、新たな問題を生じることとなる。
【0010】
さらに、臨床検査の現場において扱われる血清、血漿、体液等の生体試料には、感染性のウイルスや細菌が含まれている可能性があり、これらの試料から核酸を抽出する操作は、手動で行う場合、常に感染の危険性がある。従って核酸抽出を手動で行う場合は、できる限り簡単な方法で、かつ、エアロゾル等が発生し難い方法を使用することが好ましく、さらには操作の自動化を図ることが必要である。しかしながら、現在実施されている核酸の抽出方法は、一般的に操作が複雑であるため、自動化が困難であるという課題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記に記載の従来の課題等を解決する、すなわち、磁性体含有量や形状、粒径、細孔径を制御することができ、強度、吸着効率に優れた磁性担体、このような磁性担体を簡便に製造できる方法、さらにこの磁性担体を用いて簡便で自動化が可能な核酸の抽出方法を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、磁性体を含むシリカ粒子(以下、「磁性シリカ粒子」という)に所定量のポリアクリルアミドを導入し、さらにこのポリアクリルアミドが導入された磁性シリカ粒子(以下、「磁性担体」という)の物性を制御することにより、その吸着容量や吸着速度が大きくなって、種々の吸着剤、抽出剤として好適となること、また、このようなポリアクリルアミドが導入された磁性シリカ粒子の製造する方法として磁性シリカ粒子とカップリング剤とを反応させ、その後アクリルアミド及び/又はポリクリルアミドと反応させることにより容易に製造できること、さらに、このようにして得られる粒子を用いることで生体試料中の核酸を極めて簡便にかつ効率よく抽出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明はポリアクリルアミドが導入された磁性シリカ粒子、その製造方法及びこれを用いた核酸抽出方法に関するものである。
【0014】
なお、本発明でいう核酸とは、DNA(デオキシリボ核酸)及び/又はRNA(リボ核酸)を意味するが、それらは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、またこれらの混合物であってもよい。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の磁性担体は、磁性体とシリカ粒子からなる磁性シリカ粒子の表面にポリアクリルアミドを有するものであり、以下、磁性担体を構成する材料について順次説明する。
【0017】
<磁性体>
本発明の磁性担体において用いられる磁性体とは、磁性を有するものであれば特に限定されないが、磁場を与えられることで強い磁性を発生し、磁場がなくなるとその磁性もなくなる、いわゆる超常磁性を示すものが好ましく用いられる。このような性質を示すものとしては、例えば、スピネル型、プランバイト型のフェライトや、鉄、ニッケル、コバルト等を主成分とした合金などが挙げられる。さらに、これらの内でも、磁性体をシリカ粒子により均一に導入するために、マグネタイトやフェライトの超微粒子を水や有機溶媒に懸濁させて得られる磁性流体が好ましく用いられる。
【0018】
<シリカ粒子>
本発明の磁性担体に用いられるシリカ粒子はSi(シリコン)とO(酸素)との結合から成る重合体であって、例えば、シリカゲル、シリカガラス、酸化ケイ素、ケイ酸塩などを意味し、これらの内でも、比表面積が比較的大きくその細孔構造の制御も容易であることからシリカゲルが好ましく用いられる。また、これらの材料は、核酸等の抽出、吸着操作において不純物の影響をより少なくするために合成品であることが好ましいが、天然品を精製して用いることもできる。
【0019】
シリカ粒子の平均粒径の範囲としては、1〜200μmが好ましい。この範囲にあれば、シリカ粒子への磁性体の導入量が多くなり、磁性担体を用いて分離する際に短時間ですむし、また、実際の使用面においてもゲルが破壊されたりしにくく、形状を維持できる点で好ましい。さらに、この効果に加え、試料を含む溶液中での分散性がよく、実際の使用面でも沈降しにくいため撹拌などにより容易に分散性を確保することができるため、平均粒径が1〜20μmの範囲が好ましい。特に、平均粒径が4〜20μmの範囲にあれば、粒子の大きさが小さすぎず、実際の用途において試料を含む溶液と本発明により最終的に得られる磁性担体とを分離する際に容易に分離でき、磁石捕捉力、形状保持、溶液中での分散性、溶液との分離特性が優れたものとなり好ましい。
【0020】
シリカ粒子の平均細孔径の範囲としては、粒子の形状保持性がよく、また、吸着、抽出の際の吸着容量や吸着速度といった反応効率がよいために1〜200nmが好ましい。さらに、この効果に加え、実際の使用に際して適度な強度を長期に渡って保つことができるために1〜100nmの範囲が好ましい。特に、1〜80nmの範囲にあればさらに粒子の強度を長期に渡って保つことができるため好ましい。
【0021】
シリカ粒子の細孔容積の範囲としては、粒子の形状保持性がよく、また、吸着、抽出の際の吸着容量や吸着速度といった反応効率がよいために、乾燥重量換算で、0.1〜2.5ml/gが好ましい。さらに、この効果に加え、実際の使用に際して適度な強度を長期に渡って保つことができるために0.1〜1.5ml/gの範囲が好ましい。特に、0.1〜1.2ml/gの範囲にあればさらに粒子の強度を長期に渡って保つことができるため好ましい。
【0022】
シリカ粒子のBET比表面積の範囲としては、粒子の形状保持性がよく、また、吸着、抽出の際の吸着容量や吸着速度といった反応効率がよいために、乾燥重量換算で、10〜800m2/gが好ましい。さらに、この効果に加え、実際の使用に際して適度な強度を長期に渡って保つことができるために10〜400m2/gの範囲が好ましい。
【0023】
<磁性シリカ粒子>
本発明の磁性担体において用いられる磁性シリカ粒子は前記した磁性体及びシリカ粒子からなり、その製造方法については特に限定されるものではない。例えば、SiアルコキシドよりSiアルコキシドポリマーを生成させ、これに磁性体、アルカリを加えてゲル化する方法、シリカゲル等のシリカ粒子に磁性体を浸漬して付加する方法、磁性体にケイ酸アルカリを加え、その後酸を加えてゲルを生成させる方法、などが挙げられる。
【0024】
また、磁性シリカ粒子中の磁性体の含有量としては、磁性シリカ粒子全量の5〜50重量%の範囲であることが好ましい。この範囲にあれば得られた磁性シリカ粒子の磁性が十分となって用途面で優れた効果を奏することができ、また、磁性体同士の凝集があまり強くなく前記したシリカ粒子中に磁性体を均一に導入でき、さらに、磁性シリカ粒子の球状化、多孔性の制御や、粒子表面をポリアクリルアミドで修飾することが容易となるため好ましい。さらに、磁性シリカ粒子中の磁性体の含有量が5〜25重量%の範囲にあれば、この効果に加え、実際の使用に際して磁性シリカ粒子の磁性が十分であり、添加する磁性体量を減らすことで、よりシリカ分の濃度が増え、粒子形状、多孔性など、より形状の制御が容易になるために好ましい。
【0025】
<磁性担体>
本発明の磁性担体は、上記記載の磁性シリカ粒子の表面に少なくともポリアクリルアミドが結合しているものであり、さらに詳しくいえば、磁性シリカ粒子にアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドを重合させつつ、磁性シリカ粒子の表面にアクリルアミドやポリアクリルアミドを結合させたり、磁性シリカ粒子にポリアクリルアミドを結合させることで得られるものである。従って、最終的に得られる磁性担体の表面には少なくともポリアクリルアミドを有する構造となったものである。尚、ここでいう表面とは粒子の最外面を意味するが、粒子がその内部に細孔を有する場合には細孔内の表面も含む。
【0026】
本発明の磁性担体中のポリアクリルアミドの含有量は、乾燥重量換算で、0.3〜5mmol/gの範囲であることが好ましい。ここで、磁性担体中のポリアクリルアミドの含有量としては、磁性担体中のN(窒素)を元素分析等により得、また、Nのモル量とモノマーであるアクリルアミドのモル量が等しいことから、磁性担体1g中のNのモル量として表されるものである。従って、磁性担体中のポリアクリルアミドの含有量とは、磁性担体に含まれるアクリルアミド及びポリアクリルアミドの合計の量として示されるものである。このポリアクリルアミドの含有量がこの範囲内にあれば、導入量が適当であり、アクリルアミドやポリアクリルアミドのもつアミド基に由来する性質が十分に働き、かつアクリルアミドやポリアクリルアミドの量が多すぎず、強度が使用に耐えることができ好ましい。さらに、この効果に加え、実際の合成でのポリアクリルアミドの導入量の再現性が高い、そのため吸着、抽出性能の再現性が高いために0.5〜3.0mmol/gの範囲にあることが好ましい。特に、1.0〜3.0mmol/gの範囲にあれば、さらに吸着、抽出性能の安定性が高くなるため好ましい。
【0027】
本発明の磁性担体の平均粒径の範囲としては、1〜200μmが好ましい。この範囲にあれば、磁性担体中の磁性体の導入量が多くなり、磁性担体を用いて分離する際に短時間ですむし、また、実際の使用面においてもゲルが破壊されたりしにくく、形状を維持できる点で好ましい。さらに、この効果に加え、試料を含む溶液中での分散性がよく、実際の使用面でも沈降しにくいため撹拌などにより容易に分散性を確保することができるため、平均粒径が1〜20μmの範囲が好ましい。特に、平均粒径が4〜20μmの範囲にあれば、粒子の大きさが小さすぎず、実際の用途において試料を含む溶液と本発明により最終的に得られる磁性担体とを分離する際に容易に分離でき、磁石捕捉力、形状保持、溶液中での分散性、溶液との分離特性が優れたものとなり好ましい。
【0028】
本発明の磁性担体の平均細孔径の範囲としては、粒子の形状保持性がよく、また、吸着、抽出の際の吸着容量や吸着速度といった反応効率がよいために1〜200nmが好ましい。さらに、この効果に加え、実際の使用に際して適度な強度を長期に渡って保つことができるために1〜100nmの範囲が好ましい。特に、1〜80nmの範囲にあればさらに粒子の強度を長期に渡って保つことができるため好ましい。
【0029】
本発明の磁性担体の細孔容積の範囲としては、粒子の形状保持性がよく、また、吸着、抽出の際の吸着容量や吸着速度といった反応効率がよいために、乾燥重量換算で、0.1〜2.5ml/gが好ましい。さらに、この効果に加え、実際の使用に際して適度な強度を長期に渡って保つことができるために0.1〜1.5ml/gの範囲が好ましい。特に、0.1〜1.2ml/gの範囲にあればさらに粒子の強度を長期に渡って保つことができるため好ましい。
【0030】
本発明の磁性担体のBET比表面積の範囲としては、粒子の形状保持性がよく、また、吸着、抽出の際の吸着容量や吸着速度といった反応効率がよいために、乾燥重量換算で、10〜800m2/gが好ましい。さらに、この効果に加え、実際の使用に際して適度な強度を長期に渡って保つことができるために10〜400m2/gの範囲が好ましい。
【0031】
また、磁性担体中の磁性体の含有量としては、磁性シリカ粒子中の磁性体含有量よりも導入されたポリアクリルアミドの分だけ減少するものであり、通常10〜20%程度減少する。
【0032】
本発明の磁性担体は核酸を吸着分離または抽出するために使用することができる。吸着分離とは核酸を磁性担体に吸着させて、反応溶液から分離することをいい、また、抽出とは核酸を磁性担体に吸着させた後、核酸の吸着した磁性担体から核酸を溶出させて目的の核酸を得る操作をいう。
【0033】
本発明の磁性担体を核酸を含む溶液中の核酸の吸着分離又は抽出のために使用する際には、その平均粒径の範囲としては、磁性担体の分散性が適度に生じて操作しやすくなり、また、分離性能にも優れることから1〜20μmであることが好ましく、さらに1〜15μmであることが好ましく、特に3〜10μmであることが好ましい。1μm未満の場合には、粒子が小さすぎるために分離の際に時間がかかり過ぎることがある。また、20μmを超える場合には、核酸を含む溶液中での分散安定性が低いために安定した性能を示さないことがあり、さらに、200μmを超えるような大きな粒子では粒子がさらに沈降しやすくなって操作が煩雑となってしまうことがある。
【0034】
本発明の磁性担体を核酸吸着分離や抽出用に使用し、高い性能と再現性を得るためには、ポリアクリルアミドの含有量は、乾燥重量換算で、0.5〜5mmol/gであることが好ましい。このポリアクリルアミドの含有量がこの範囲にあれば、アクリルアミドやポリアクリルアミドのもつアミド基に由来する性質が十分に働き、かつアクリルアミドやポリアクリルアミドの量が多すぎず、強度が使用に耐えることができるので好ましい。さらに、ポリアクリルアミドの含有量が0.5〜3.0mmol/gの範囲にあれば、この効果に加え、実際の合成でのポリアクリルアミドの導入量の再現性が高い、そのため吸着、抽出性能の再現性が高いため好ましい。特に、1.0〜3.0mmol/gの範囲にあれば、さらに吸着、抽出性能の安定性が高くなるため好ましい。
【0035】
本発明の磁性担体を核酸吸着分離や抽出用に使用し、高い性能と再現性を得るためには、磁性担体の表面の窒素原子の量が5原子%以上であることが好ましい。窒素原子の量がこの範囲にあれば、磁性担体の表面がポリアクリルアミドでおおむね被覆され、吸着容量等の性能が安定するため好ましい。さらに、窒素原子の量が5〜10原子%の範囲にあれば、この効果に加え、核酸の吸着分離や抽出を実施する場合には分子が大きな核酸に対しても磁性担体の表面が効果的に利用され、また、ポリアクリルアミドが磁性担体の表面をおおむね被覆しかつ余分に結合しすぎることもないため、ポリアクリルアミドをより有効に使用できることとなるため好ましい。尚、磁性担体表面の窒素原子の量の測定は、例えば、X線光電子分光分析法等により測定することでよい。
【0036】
<磁性担体の製造方法>
次に、本発明の磁性担体の製造方法について説明するが、その製造方法は、▲1▼シリカ又はシリカ原料を反応させ、さらに磁性体を付与して磁性シリカ粒子を得る工程:a)と、▲2▼この得られた磁性シリカ粒子にポリアクリルアミドを導入して磁性担体を得る工程:b)〜e)からなっており、以下にこれらの工程を順に説明する。
【0037】
<▲1▼磁性シリカ粒子を得る工程>
本発明の磁性担体に用いられる磁性シリカ粒子の製造方法は公知の方法により実施できるが、以下の工程からなる製造方法によりさらに容易に製造できる。
【0038】
1)Siアルコキシドを酸で加水分解しSiアルコキシドポリマーを生成する工程
2)アルコキシドポリマーに磁性体を加える工程
3)アルコキシドポリマーと磁性体の混合溶液を水に分散させ球状化し、アルカリと接触させてゲル化する工程
4)ゲルを水洗後、溶媒置換し、乾燥させる工程
ここで、本発明の製造方法において使用されるSiアルコキシドとしては、以下に示す製造方法において、加水分解によりポリマーを生成するものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、Si(OCH34、Si(OC254、Si(O−n−C374、Si(O−i−C374、Si(O−n−C494、Si(O−i−C494等を挙げることができる。また、本発明の製造方法においては、Siアルコキシドにさらに他の金属アルコキシドを添加してもよい。
【0039】
これらの工程において、まずSiのアルコキシドを酸性溶液中でゲル化しない程度に部分的に加水分解する。酸性溶液としては酸、水および有機溶媒の混合溶液が好ましい。
【0040】
Siアルコキシドの部分的加水分解後、次に上記Siアルコキシド溶液を重合する。Siアルコキシドポリマーの重合度は水の量、重合温度、重合時間等により制御することができる。Siアルコキシドポリマーの重合度と粘度の間には相関があり、Siアルコキシドポリマーの重合度が高くなるほど粘度は高くなる。Siアルコキシドポリマーの重合度は室温における反応溶液の粘度で10センチポイズ以上でゲル化が起こらない程度であればよい。例えば、JIS−K−7117−1987に準拠し、25℃における粘度を測定することで確認できる。
【0041】
得られたSiアルコキシドポリマー溶液はそのままかあるいは有機溶媒で希釈する。有機溶媒で希釈する場合のSiアルコキシドポリマーの濃度としては、球状のゲルを得るために希釈された溶液全量に対して20重量%以上であることが好ましい。
【0042】
なお、上記記載のように得られるSiアルコキシドポリマーの代わりに市販のシリカ粒子をそのまま用いてもよい。
【0043】
次にSiアルコキシドポリマーに磁性体を加える。使用される磁性体は水又は有機溶媒に分散させて懸濁液状又は溶液状としたものを使用できる。磁性体としては、Siアルコキシドポリマーへの分散性の面から磁性流体が好ましく用いられ、この磁性流体としては、市販品等をそのままあるいは溶媒置換等を実施して用いることができる。
【0044】
次に、Siアルコキシドポリマー又はこれに希釈溶媒を加えた混合溶液と磁性体との混合液又は混合物を、撹拌下に水中に分散させ球状化する。ここで、この混合物を分散させる水へ界面活性剤、ポリビニルアルコール等の分散剤を添加してもよい。
【0045】
球状化後、上記記載の混合物へ塩基性物質を添加してゲル化する。
【0046】
生成したゲルは濾過、遠心分離等により分離し、水洗後乾燥する。濾過、分離の方法としては公知の方法を用いることができる。また、洗浄の際に使用する水としては、水、温水等の通常使用できる水であれば良い。
【0047】
さらに、乾燥条件としては、ゲル内部及びゲル表面の水分を直接蒸発させるとゲルが収縮し、凝集するため有機溶媒により置換後、乾燥される。
【0048】
以上の手法により、本発明の磁性担体に用いられる磁性シリカゲルが得られる。
【0049】
<▲2▼磁性シリカ粒子にポリアクリルアミドを導入して磁性担体を得る工程>
磁性シリカ粒子より磁性担体を得る工程としては、公知の方法により実施できるが、以下の工程からなる製造方法により、さらに容易に製造できる。
【0050】
b)磁性シリカ粒子とカップリング剤とを反応させる工程
c)工程b)で得られたカップリング剤が導入された磁性シリカ粒子を洗浄する工程
d)工程c)で得られた磁性シリカ粒子と、アクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドとを反応させる工程
e)工程d)で得られた磁性シリカ粒子を洗浄し乾燥させる工程
本発明において用いられる上記に記載したような磁性シリカ粒子は磁性体を含有したシリカ粒子であれば特に制限されるものではない。
【0051】
本発明の磁性担体は、磁性シリカ粒子の表面にカップリング剤を反応させ、その後アクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドとを反応させて、磁性シリカ粒子にポリアクリルアミドを導入して得られるものである。
【0052】
ここで、本発明において使用されるカップリング剤としては、磁性シリカ粒子の表面にある式(1)に示されるシラノール基と結合性を有し、かつアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドと結合できるものであればよく、1つの化合物を用いても、2以上の化合物を用いてもよい。さらに、本発明において使用されるカップリング剤としては、磁性シリカ粒子に式(2)に示されるビニル基、式(3)に示されるメタクリル基、又は式(4)に示されるエポキシ基を導入するものであることが好ましく、導入されたこれらの官能基と、式(5)に示されるアクリルアミドあるいは式(6)に示されるポリアクリルアミドとを反応させることで最終的に本発明の磁性担体が得られる。ここで、アクリルアミドがモノマーとして2分子以上重合した化合物をポリアクリルアミドとして示した。
【0053】
【化1】
Figure 0004196459
【0054】
【化2】
Figure 0004196459
【0055】
【化3】
Figure 0004196459
【0056】
【化4】
Figure 0004196459
【0057】
【化5】
Figure 0004196459
【0058】
【化6】
Figure 0004196459
【0059】
さらに具体的に本発明において用いられるカップリング剤としては、カップリング剤が1つの化合物の場合には、以下に示す製造方法において、アクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドと結合を形成することができるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、ビニルトリクロロシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリス(2−メトキシエトキシ)ビニルシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン等のビニル基、メタクリル基又はエポキシ基を有したシランカップリング剤が好ましく用いられる。これらのカップリング剤は単独で使用しても2種以上を用いてもよい。
【0060】
また、カップリング剤が2以上の型の化合物の場合には、磁性シリカ粒子表面のシラノールを介して誘導化するカップリング剤(A)と、誘導化された磁性シリカ粒子にビニル基、メタクリル基又はエポキシ基を導入するためのカップリング剤(B)とを用い、これらを段階的に反応させる手法を用いてもよい。
【0061】
これらのカップリング剤の内、本発明の磁性担体をより容易に製造するためには、カップリング剤として1つの化合物を用いることが好ましい。
【0062】
製造にあたっては、まず、上記に記載した磁性シリカ粒子を乾燥させ、吸着水を除去する。吸着水はできるだけ除去することが好ましく、磁性シリカ粒子中の水分量は5重量%以下まで乾燥させる。このシリカ粒子とカップリング剤とを有機溶媒中にて混合し撹拌する。次いで、酸又は塩基を添加し、あるいは酸を添加後引き続き塩基を添加し、磁性シリカ粒子とカップリング剤の反応を行う。使用する有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素が好ましい。この反応の際に使用される酸としてはフェノール、ギ酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。また、使用される塩基としては、アミン、尿素等の有機塩基性物質が挙げられる。磁性シリカ粒子とカップリング剤を均一に反応させるには、混合溶液を30〜90℃の範囲で、30分〜6時間撹拌させることで良い。
【0063】
次にカップリング剤が導入された磁性シリカ粒子を洗浄し、未反応のカップリング剤を除去する。まず、カップリング剤が導入された磁性シリカ粒子は濾過、遠心分離等により分離し、さらに、非水系の有機溶媒を磁性シリカ粒子に添加し混合し、濾過、遠心分離等により分離する操作を2〜5回行うことが好ましい。そして、工程c)で使用する溶媒に分散させ、濾過、遠心分離等により分離する操作を1〜4回行うことが好ましい。濾過、分離の方法は公知の方法を用いることができる。
【0064】
次にカップリング剤で処理された磁性シリカ粒子とアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドを反応させる。この場合、磁性シリカ粒子に直接アクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドを反応させることもできるが、以下に記載のように、アクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドを重合させつつ磁性シリカ粒子と反応させることで、導入量を多くしたりポリアクリルアミドの分子量を適切に制御することができるため好ましい。さらにこの場合、製造がさらに容易となり、また、磁性シリカ粒子にアクリルアミドが結合後、これより重合反応にて直鎖状のポリアクリルアミドが生成しやすくなることが期待できるためにアクリルアミドを用いて重合させることが好ましい。特に核酸を抽出する場合には、核酸が直鎖状の分子であることからより好ましくなることが期待できる。
【0065】
アクリルアミドの磁性シリカ粒子への導入反応はどのような重合反応であってもよいが、特にラジカル反応で行うことが好ましい。
【0066】
ラジカル反応を行う場合、反応の際に用いられる溶媒としては水又はアルコール、あるいは水とアルコールの混合溶液を使用することが好ましい。さらにアルコールとしては水と溶解するものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノ−ル、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールが挙げられる。また、反応雰囲気としては、脱酸素雰囲気、すなわち溶存酸素濃度が低いことが好ましく、特に溶液中の溶存酸素濃度が0〜1mg/リットルであることが好ましい。
【0067】
反応にあたっては、磁性シリカ粒子と、アクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドに、重合開始剤を混合して反応を行わせる。重合開始剤としては、単一開始剤系ではアゾビスイソブチロニトリルといったアゾ系開始剤や過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムといった無機系の過酸化物系開始剤や過酸化ベンゾイル、過酸化ジ第三ブチルといった有機系の過酸化物系開始剤等が挙げられる。また、2元開始剤系では過酸化水素と第一鉄塩系の組み合わせなどが挙げられる。
【0068】
また、磁性シリカ粒子にアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドを均一に反応させるには、カップリング剤で処理された磁性シリカ粒子とアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドとラジカル開始剤とを混合した溶液を30〜90℃の範囲で、30分〜24時間撹拌させることでよい。この時反応後の溶液中のポリアクリルアミドの数平均分子量が1000〜1000000であることが好ましい。反応後の溶液中のポリアクリルアミドの数平均分子量が1000未満では、磁性シリカ粒子に導入された官能基とアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドとの反応が十分には起こっていないことがあり、また、反応後の溶液中のポリアクリルアミドの数平均分子量が1000000を越えると反応中に溶液の粘性が高くなりすぎて、これらを均一に磁性シリカ粒子に導入することが困難となることがある。
【0069】
次に得られた磁性担体を洗浄し、非結合のアクリルアミド、ポリアクリルアミドを除去する。この磁性担体は濾過、遠心分離等により分離し、洗浄されるが、その方法としては公知の方法を用いることができる。また、洗浄の際に使用される溶媒としては、水、温水等の通常使用できる水であればよいが、さらにメタノール、エタノール、プロパノール等の親水性のアルコールや、これらアルコールと水との混合溶液を用いることもできる。この除去操作によって、非結合のアクリルアミド、ポリアクリルアミドを極力除去することで実際の使用時に吸着対象物と非結合のアクリルアミド、ポリアクリルアミドとの結合を避けることができ、さらに、磁性シリカ粒子と結合しなかった非結合のアクリルアミド、ポリアクリルアミドが磁性担体中に1ppm以下となるようにすることが好ましい。
【0070】
この洗浄された磁性担体を公知の方法により乾燥すれば本発明の磁性担体を乾燥品として得ることができる。
【0071】
さらに、乾燥処理の前に、溶媒置換を行った後に乾燥してもよい。この理由は、ゲルの内部及びゲル表面の水分を直接蒸発させるとゲルが収縮し、凝集したり、ゲルの破壊が起きることがあるからである。
【0072】
溶媒置換の方法としては、ゲル中の水分を有機溶媒で置換後、有機溶媒を加熱除去する方法である。ここで用いられる有機溶媒としては、水より低表面張力の溶媒が好ましく、水と任意の割合で溶けあうものが好ましい。ここで、水より低表面張力の溶媒とは、水のWilhelm法による25℃における空気に対する表面張力が72dyn/cm(dyn/cm=10-3Nm-1)であることから、これより小さい表面張力を有する溶媒が選択できる。例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール等が挙げられる。水、溶媒の留去は通常、常圧で行うが減圧下で行ってもよい。
【0073】
また、上記記載の工程において、ポリアクリルアミドが導入された磁性シリカ粒子を洗浄し、その後これを乾燥せずに洗浄後溶媒と同等の組成の溶液中にて保存してもよい。
【0074】
このようにして得られる本発明の磁性担体の表面のポリアクリルアミドの量を、前記したX線光電子分光分析法等により窒素原子の量を指標とし、磁性シリカ粒子の一定量に対して導入するポリアクリルアミドの量を増加させてもある磁性担体に導入されるポリアクリルアミドの量は一定の量で飽和する。このことから、本発明の磁性担体をにおいては、ある程度の量まではポリアクリルアミドが磁性シリカ粒子の表面に結合していくが、ある一定の到達すると磁性シリカ粒子の表面をほぼ完全に覆ってしまうものと推察される。
【0075】
以上により、本発明の磁性担体を得ることができる。
【0076】
本発明の磁性担体は種々の糖類、疎水性を有する低分子の有機化合物、核酸類などの吸着、抽出用として使用することができると共に、核酸類、糖類の分析等の各種の測定法やアフィニティークロマトグラフィー等による種々の糖類、疎水性を有する低分子の有機化合物、核酸類などの分離手段などに用いられる担体として使用することもできる。
【0077】
特に、核酸類の吸着や抽出用として使用する際には、本発明の磁性担体を用い、これと核酸類が含まれる試料とを混合し、試料中の核酸を磁性担体に吸着させた後、磁力を利用して磁性担体と試料とを分離することで容易に核酸を抽出することができ、抽出処理された磁性担体に核酸を脱着させる溶液、例えば水を加えて核酸を脱着させ、核酸を分離することができる。その後分離された核酸は、直接、あるいはポリメレースチェーンリアクションにより核酸の量を増幅させてその量を測定することができる。
【0078】
このように、本発明の磁性担体は、核酸類の吸着、抽出用として有用であるが、これはポリアクリルアミドを担体の表面に有しているため、核酸類と相互作用しうるアミド基等の極性を有する官能基が担体の表面近傍のみに導入されているのではなく、高分子のポリアクリルアミドとして担体から離れた位置にも担体と結合した状態にて存在し、その結果、高分子の核酸等との相互作用する作用点が多くなり、また、一旦形成された相互作用関係を高分子のポリアクリルアミドとの重なり合いにより、より強く保持されることとなるからと推察される。しかしながら、このような推察は本発明をなんら拘束するものではない。
【0079】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらに実施例により本発明はなんら限定されるものでない。なお、各評価は以下に示した方法によって実施した。
【0080】
実施例で使用した磁性シリカ粒子について、その磁気ヒステリシスを振動試料型磁力計(VSM)(理研電子製、型式:BHV−50)を用いて、その磁気ヒステリシスを測定したところ、超常磁性を示すものであった。
【0081】
〜磁性体の含有量〜
Siについては、磁性シリカ粒子を王水により分解後、過塩素酸処理し、重量法により測定した。Fe(鉄)については、硝酸・フッ化水素酸により分解後、過塩素酸処理し、ICP発光法により測定した。
【0082】
〜平均粒径〜
サンプルを水に分散させたものを、粒度分布測定装置LS−130(COULTER社製)で測定し、体積平均粒径として示した。
【0083】
〜平均細孔径及び細孔容積〜
ポアサイザ9320(MICROMERITICS社製)を用い、水銀圧入法により0〜207MPaの圧力範囲で測定した。
【0084】
〜BET比表面積〜
MONOSORB(米国QUANTACHROME社製)を用い、BET式1点法により測定した。
【0085】
〜表面分析〜
X線光電子分光分析装置(Perkin−Elmer社製、ESCA5400MC)により、サンプルの粒子の表面のFe、Si、N、C、Oを分析した。表面の元素の組成(原子%)はFe、Si、N、C、Oの総量を100原子%として計算した。
【0086】
〜N量(ポリアクリルアミドの含有量)の分析〜
元素分析装置を使用し、N量を測定した。
【0087】
〜溶存酸素濃度〜
溶存酸素濃度計UC−12(セントラル科学社製)を使用し、反応溶液中の溶存酸素濃度を測定した。
【0088】
〜ポリアクリルアミドの重合度の分析〜
高速液体クロマトグラフィーの装置一式(AS−8000、CCPM、CO−8010、RI−8010、SC−8010(いずれも東ソー製))を用いて、ポリアクリルアミドの重合度を測定し、数平均分子量として示した。分子量の決定のための標準試料としては、スタンダードポリエチレンオキシドキット(東ソー製)を使用した。
【0089】
〜核酸抽出性能の標準評価方法〜
核酸としてはpAW 109 DNA(PERKIN ELMER)を使用し、試料濃度は2×107分子/mlとした。
【0090】
核酸試料溶液200μlに対して400μlの下記固相抽出液を加えて室温にて10分間撹拌した後、磁石を用いて磁性担体を容器の端に集め、溶液部分を吸引除去した。残ったゲルに0.4mlの洗浄液(40vol%イソプロパノール水溶液)を加えて再懸濁させた。再び磁石を用いてゲルを容器の端に集め溶液部分を吸引除去した後、磁性担体を200μlの溶出液(水)に懸濁し、磁石を用いてゲルを容器の端に集めた時の容器溶液を吸い出し、溶液を減圧乾燥して固形分を得た。この固形分を200μlの水に再溶解させた。この溶液50μlについて以下で示される手順によりポリメレースチェインリアクション(以下、「PCR」と略して表す)を行った。
【0091】
すなわち、固相抽出液として、磁性担体2.5mg/mlと50vol%イソプロパノール水溶液とを混合し、2種のプライマー(以下の、配列番号1及び2であり、PCR反応液組成中、配列番号1の核酸は0.2μM−Foward Primer DM 151、配列番号2の核酸は0.2μM−ReversePrimer DM 152、他の組成は2.2mM−MgCl2、0.29mM−dNTP、Taqポリメレース(Ampli Taq Gold)2.25unit/75μl)を使用し、95℃で10分45秒温置し、その後95℃で15秒及び60℃で30秒のサイクルを45サイクル繰り返す。その後、72℃で7分の条件でPCRを実施した。PCR終了後、反応液の一部をアガロース電気泳動に供し、目的サイズのバンドの有無について目視で判定した。
【0092】
各サンプルに対し上記の抽出試験を10回行った。核酸の抽出(目的サイズのバンド)を確認した割合を以下に示す検出率として表し核酸抽出性能とした。
【0093】
検出率(%)=((抽出試験で核酸の抽出を確認した回数)/(抽出試験回数))×100
実施例1
Si(OC254 150.0gとエタノール 62.7gの混合溶液を40℃で30分撹拌した。この混合溶液を40℃で撹拌しながら1/100N−塩酸水溶液 14.9gを滴下した。この溶液を1時間撹拌した後、90℃で4時間、さらに165℃で12時間撹拌して留出物を除去し、Siアルコキシドポリマーを得た。この操作は窒素雰囲気中で行なった。得られたSiアルコキシドポリマーの粘度を前記した方法により測定したところ、粘度は室温で50センチポイズであった。得られたSiアルコキシドポリマーのうち70.0gを1−ペンタノール70.0gに溶解した。この溶液に市販の磁性流体((株)フェローテック製、:全量に対して、磁性体量35重量%、界面活性剤量10重量%、1−ブタノール溶液含有) 20mlを添加し、均一溶液を得た。この溶液を撹拌しながら80℃の5%ポリビニルアルコール水溶液 560.0gに投入した。30分撹拌後、5重量%のNH4OH水溶液 12.5mlを加え、80℃で3時間撹拌した。得られた懸濁液を70℃の温水 1000mlに投入し、固体を濾取後、温水で洗浄した。洗浄後、溶媒を2−プロパノールで3回置換し、真空乾燥し、球状の磁性シリカ粒子を得た。
【0094】
この磁性シリカ粒子10gを150℃で15時間乾燥させ、トルエン100ml中に加えて撹拌した。さらに、その溶液中に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを4ml、ジメチルアミノエタノール0.7ml、フェノール50μlを添加して撹拌した。この溶液を、85℃で3時間撹拌後、濾過し、3−メタクリル基を有する磁性シリカ粒子を得た。これをトルエン50mlで洗浄し濾過を2回行い、その後、メタノール50mlで洗浄し濾過を3回行い、さらに、40体積%メタノール水溶液50mlで洗浄し濾過を2回行った。この磁性シリカ粒子を40体積%メタノール水溶液100mlに加え、撹拌した。さらに、その溶液にアクリルアミドモノマーを9gと、過硫酸カリウム0.3gを添加して撹拌して混合した。この溶液を50ml/分のN2流通中で、60℃、15時間撹拌する。次に温水200mlを加えて、反応溶液を遠心分離し、ポリアクリルアミドで修飾した磁性担体を含む沈殿を得た。これを温水100mlで洗浄し濾過を4回行い、さらに、2−プロパノール50mlで置換し濾過を3回行い、真空乾燥し、磁性担体を得た。
【0095】
得られた磁性担体中のポリアクリルアミドの含有量(アクリルアミドモノマーとしてのモル量)、粒径、表面の窒素原子の量、水銀圧入法による平均細孔径、細孔容積等および反応溶液中のポリアクリルアミドの平均分子量、反応溶液中の溶存酸素濃度を前記の方法により測定し、その結果を表1に示した。また、得られた磁性担体を使用し、核酸の抽出性能の評価を前記の方法により行った。その結果を表2に示す。この磁性担体では目的サイズのバンドが確認され、核酸抽出性能が確認された。また、検出率も100%であり、再現性よく、核酸抽出が行われていることが確認された。
【0096】
【表1】
Figure 0004196459
【0097】
【表2】
Figure 0004196459
【0098】
実施例2
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをトリエトキシビニルシランにした以外は実施例1と同様にし、ポリアクリルアミドを結合させた磁性シリカ粒子(磁性担体)を得た。得られた磁性担体中のポリアクリルアミドのアクリルアミドモノマーとしてのモル量は乾燥重量換算で1.4mmol/gであった。得られた磁性担体を実施例1と同様の方法により測定し、その結果を表1に示した。また、得られた磁性担体を使用し、核酸の抽出性能の評価を実施例1と同様の方法により行った。その結果を表2に示す。この磁性担体では性能評価試験で目的サイズのバンドが確認され、核酸抽出性能が確認された。また、検出率も100%であり、再現性よく、核酸抽出が行われていることが確認された。
【0099】
実施例3
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランをジメトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシランにした以外は実施例1と同様にし、ポリアクリルアミドを結合させた磁性シリカ粒子(磁性担体)を得た。得られた磁性担体中のポリアクリルアミドのアクリルアミドモノマーとしてのモル量は乾燥重量換算で3.5mmol/gであった。得られた磁性担体を実施例1と同様の方法により測定し、その結果を表1に示した。また、得られた磁性担体を使用し、核酸の抽出性能の評価を実施例1と同様の方法により行った。その結果を表2に示す。この磁性担体では性能評価試験で目的サイズのバンドが確認され、核酸抽出性能が確認された。また、検出率も100%であり、再現性よく、核酸抽出が行われていることが確認された。
【0100】
比較例1
実施例1と同様にして得た、カップリング剤を導入していない磁性シリカ粒子をそのまま用い、核酸の抽出性能の評価を実施例1と同様の方法により行った。その結果を表1に示す。核酸の抽出は確認されたが、目的サイズのバンドの濃さが薄く、また、検出率が20%と再現性が悪く、性能は不安定であった。
【0101】
比較例2
比較例1の磁性シリカ粒子を実施例1と同様にして、カップリング剤である3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いて3−メタクリル基を導入した磁性シリカ粒子(表1にその特性を示す)をそのまま用い、核酸の抽出性能の評価を実施例1と同様の方法により行った。その結果を表2に示す。核酸の抽出は確認されず検出率0%であった。
【0102】
比較例1、2と実施例とを比較すると、ポリアクリルアミドが導入されていない磁性シリカ粒子では核酸の抽出効率が低く、さらに磁性シリカ粒子に3−メタクリル基を導入することで核酸の抽出効率がいっそう低下すること、そして、この粒子にポリアクリルアミドを導入することで核酸抽出性能を獲得できることが分かる。
【0103】
比較例3
3−メタクリル基を導入した磁性シリカ粒子(表1にその特性を示す)とアクリルアミドの反応を大気中で行う以外は実施例1と同様にし、ポリアクリルアミドを結合させた磁性シリカ粒子を得た。得られた磁性担体を実施例1と同様の方法により測定し、その結果を表1に示した。得られた磁性担体中のポリアクリルアミドのアクリルアミドモノマーとしてのモル量は乾燥重量換算で0.2mmol/gであり、ポリアクリルアミドの導入量は少なかった。また、表面のNの濃度も1.3原子%であり、少なかった。また、得られた磁性担体を使用し、核酸の抽出性能の評価を実施例1と同様の方法により行った。その結果を表2に示す。この磁性担体では目的サイズのバンドが確認され、核酸の抽出は確認されたが、検出率が20%と再現性が悪く、性能は不安定であった。
【0104】
比較例3と実施例とを比較すると、ポリアクリルアミドの導入量が少ないと核酸抽出効率が低くなることが分かる。
【0105】
実施例4
実施例1で得た磁性担体を用いて、核酸の実試料であるHCV感染者のプール血清を使用し、核酸抽出性能の評価を行った。以下に評価方法を示す。
【0106】
HCV感染者のプール血清150μlに対して300μlの下記固相抽出液を加えて室温にて12分間撹拌した後、磁石を用いて磁性担体を容器の端に集め、溶液部分を吸引除去した。残った磁性担体に0.3mlの洗浄液(40vol%のイソプロパノール:60%の0.33M−KCl水溶液の混合液)を加えて再懸濁させた。再び磁石を用いてゲルを容器の端に集め溶液部分を吸引除去した後、磁性担体を100μlの溶出液(注射用蒸留水)に懸濁し、磁石を用いてゲルを容器の端に集めた時の容器底部溶液10μlについて逆転写反応を行ってDNAに変換した後、ポリメレース溶液を加えてPCRを行った。
【0107】
尚、固相抽出液、逆転写反応液及びPCR反応液の組成、PCRの温度条件は以下の通りである。
【0108】
すなわち、固相抽出液として、6Mチオシアン酸グアニジン/37.5mMクエン酸ナトリウム/磁性担体(1.2mg/ml)とイソプロパノールとを1:1で混合したものを用いた。これを、配列番号3の核酸プライマー(1.2μM−HCV Reverse Primer)を用い、4.5mM−MgCl2、3.4mM−NaCl、1.4mM−dNTP、0.87mM−DTT及び、1.3unit/μl−RNase Inhibitor(宝酒造(株)製)、2.0unit/μl−MMLV RTase(BRL製)にて逆転写した。その後、配列番号4の核酸プライマー(240nM−HCV Foward Primer)を用い、2.2mM−MgCl2、0.29mM−dNTP、Taqポリメレース(Ampli Taq Gold)2.25unit/75μlにて、95℃で20秒、続いて60℃で30秒のサイクルを45サイクル繰り返した後、72℃で60秒の条件でPCRを実施した。PCR終了後、反応液の一部をアガロース電気泳動に供し、目的サイズのバンドの有無について目視で判定した。
【0109】
各サンプルに対し上記の抽出試験を10回行った。核酸の抽出(目的サイズのバンド)を確認した割合を以下に示す検出率として表し核酸抽出性能とした。
【0110】
検出率(%)=((抽出試験で核酸の抽出を確認した回数)/(抽出試験回数))×100
得られた結果を表2に示す。実試料においても目的サイズのバンドが確認され、核酸抽出性能が確認された。また、検出率は100%であり、実試料においても抽出の再現性が確認された。
【0111】
【発明の効果】
本発明の磁性担体はその表面にアクリルアミドやポリアクリルアミドが均一に結合しているため、担体である磁性シリカ粒子にはない吸着や抽出性能を持たせることでき、また、球状であり、その内部に十分な量の磁性体を含有し、その強度も大きいことが明らかであることから核酸等の吸着剤や、抽出剤として有用である。また、本発明の製造方法によれば、種々の用途に応じた所望量のアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミド量を有する磁性シリカ粒子を容易に製造することが可能である。さらに、本発明の磁性担体を用いて核酸を容易にかつ再現性よく抽出できる。
【0112】
【配列表】
【0113】
【配列番号:1】
Figure 0004196459
【0114】
【配列番号:2】
Figure 0004196459
【0115】
【配列番号:3】
Figure 0004196459
【0116】
【配列番号:4】
Figure 0004196459

Claims (7)

  1. 磁性体を含むシリカ粒子の表面にポリアクリルアミドをアクリルアミドモノマー換算量として1.43.5mmol/g有することを特徴とする、核酸を吸着分離又は抽出するための磁性担体。
  2. 表面の窒素原子の量が6.4原子%以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁性担体。
  3. 磁性担体を製造する以下の工程;
    a)シリカ又はシリカ原料を反応させ、さらに磁性体を付与して磁性シリカ粒子を得る工程、
    b)工程a)で得られた磁性シリカ粒子とカップリング剤とを反応させる工程、
    c)工程b)で得られた磁性シリカ粒子を洗浄する工程、
    d)工程c)で得られた磁性シリカ粒子と、アクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドとを反応させる工程、
    e)工程d)で得られた磁性シリカ粒子を洗浄し乾燥させる工程、を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁性担体の製造方法。
  4. 請求項に記載の磁性担体の製造方法の工程d)において、磁性シリカ粒子を洗浄した後溶媒置換し乾燥させることを特徴とした磁性担体の製造方法。
  5. 請求項又は請求項に記載の磁性担体の製造方法の工程d)において、磁性シリカ粒子とアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミドとを反応させる溶液中の溶存酸素濃度を0.8mg/リットル以下とすることを特徴とした磁性担体の製造方法。
  6. 請求項のいずれかに記載の磁性担体の製造方法の工程d)において、反応後の溶液中のポリアクリルアミドの重合度が数平均分子量で62000520000であることを特徴とする請求項又は請求項に記載の磁性担体の製造方法。
  7. 請求項1又は請求項2に記載の磁性担体と試料とを混合し、前記試料中の核酸を磁性担体に吸着させた後、磁力を利用して磁性担体と試料とを分離することを特徴とする核酸抽出方法。
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