JP4194964B2 - 炭素繊維およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素繊維を製造する方法に関する。更に詳しくは、極細繊維、具体的には、繊維径が0.001μm〜2μmの極細炭素繊維の製造方法に関する。
極細炭素繊維を製造する方法としては、メルトブロー法によるピッチ系炭素繊維の製造方法が開示されている。例えばパイプ状の紡糸ピッチノズルの周囲に同心円状に配置したガス流路管から気体を噴出させることにより、吐出された繊維状ピッチの細径化を図る方法(例えば、特許文献1を参照。)、ピッチ吐出ノズル列の両側にスリット状の気体噴出孔を設け、噴出孔から噴出したピッチに接触させることで繊維状ピッチの細径化を図る方法(例えば、特許文献2を参照。)などがある。これらの方法では、従来よりも繊維径の細い炭素繊維を製造することができるが、これらの方法で得られる炭素繊維の繊維径は平均で1〜5μm程度であり、これよりも細い極細炭素繊維を得ることは実質上困難であった。
一方で、極細炭素繊維を製造する方法として、フェノール樹脂とポリエチレンとの複合繊維から極細炭素繊維を製造する方法(例えば、特許文献3を参照)が開示されている。
該方法の場合、繊維径が数百nmの極細炭素繊維を得ることができるが、フェノール樹脂は完全非晶であるため、配向形成しにくく、且つ難黒鉛化性であるため、得られる極細炭素繊維の強度は十分なものでは無く、弾性率の発現も期待できない等の問題があった。
特許第2680183号公報 特開2000−8227号公報(第1−2頁) 特開2001−73226号公報(第3−4頁)
本発明の目的は、上記従来技術では未だ達成できていなかった、高強度かつ高弾性率を有する極細炭素繊維の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、
(1)熱可塑性樹脂100重量部並びにピリジンに可溶な成分が60wt%以上の組成からなり、軟化点が180℃〜330℃で光学的異方性を90%以上含有するピッチ1〜150重量部からなる混合物から前駆体繊維を形成する工程、
(2)前駆体繊維を酸素または酸素/沃素の混合ガス雰囲気下で安定化処理に付して安定化前駆体繊維を形成する工程、
(3)安定化前駆体繊維から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程、
(4)繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化する工程を経る炭素繊維の製造方法により達成される。
本発明によれば、繊維の分岐構造が少ない高強度・高弾性率の極細炭素繊維を効率的かつ安価に製造することができる。得られる極細炭素繊維は、高機能フィルター、電池用電極基材等に利用することができ、その工業的意義は大きい。
以下に、本発明で使用する(1)ピッチ、(2)熱可塑性樹脂について説明し、ついでこのピッチと熱可塑性樹脂から、(3)樹脂組成物を製造する方法、(4)樹脂組成物から炭素繊維を製造する方法、および(5)樹脂組成物から電極材料を製造する方法の順に詳細に説明する。
(1)ピッチ:
ピッチに適度の溶融性を持たせるために、ピリジン不溶分の量が多くなると、組成の均質性が損なわれ、結果として、炭素繊維の圧縮強度の向上効果も小さくなる。そうしたことからピリジンに可溶な成分が60wt%以上、即ち、ピリジン不溶分が40wt%未満とされ、場合によっては、ピリジン不溶分が0wt%の光学的異方性相100%の光学的異方性ピッチであることである。
なお、本発明で言う「ピリジン可溶分」とは、粉末ピッチを1μmの平均孔径を有する円筒フィルターに入れ、ソックスレー抽出器を用いてピリジンで20時間熱抽出して得られるピリジン不溶分を除去したものを言う。
更に、本発明の光学的異方性ピッチは、その軟化点が180℃以上330℃以下とされる。軟化点が330℃以上では、紡糸温度が高くなり過ぎ、その結果、紡糸中に熱分解ガスが発生することなどによって、紡糸の安定性が阻害される原因となる。
又、余りに軟化点が低いと、炭素繊維製造に際しての不融化工程での処理条件が制約されること、及び繊維間の融膠着が発生し易くなるなどの点から、軟化点は、180℃以上330℃以下、好ましくは250℃以上310℃以下とされる。
本発明にて、ピッチの軟化点は、ピッチの固−液転移温度を意味し、ASTMD−3104に準拠したメトラー軟化点の値である。
本発明の光学的異方性ピッチは、光学的異方性相が90%以上とされる。光学的異方性相が90%以下では、炭素繊維の引張弾性率が低下し、引張弾性率に対する圧縮強度向上の割合が低下する。
尚、本発明でいう「光学的異方性相」とは、ピッチ構成成分の一つであり、常温近くで固化したピッチ塊の断面を研摩し、反射型偏光顕微鏡で直交ニコルを回転して光輝が認められる、即ち、光学的異方性である部分を意味し、これに対し、光輝が認められない、即ち、光学的等方性相である部分は光学的等方性と呼ぶ。また、本発明における光学的異方性相は、所謂メソフェーズと同様と考えられるが、メソフェーズにはキノリン又はピリジンに不溶なものとキノリン又はピリジンに可溶な成分を多く含むものとの二種類があり、本発明でいう光学的異方性相は主として、後者のメソフェーズである。
又、本発明でいう光学的異方性相の含有量とは、試料を偏光顕微鏡で直交ニコル下で観察写真撮影して、試料中の光学的異方性相部分の占める面積割合を測定することにより求めたものである。
ピッチの原料としては石炭や石油の蒸留残渣を使用してもよく、有機化合物を使用しても良いが、安定化や炭素化もしくは黒鉛化のしやすさから、ナフタレン等の芳香族炭化水素を原料としたメソフェーズピッチを用いるのが好ましい。
上記ピッチは熱可塑性樹脂100重量部に対し1〜150重量部、好ましくは5〜100重量部を使用しうる。ピッチの使用量が150重量部以上であると所望の分散径を有する前駆体成形体が得られず、1重量部以下であると目的とする炭素繊維を安価に製造する事ができない等の問題が生じるため好ましくない。
(2)熱可塑性樹脂:
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、安定化前駆体成形体製造後に容易に除去される必要がある。このため、不活性ガス雰囲気下、350℃以上600℃未満の温度で5時間保持することで、初期重量の15wt%以下、より好ましくは10wt%以下、さらには5wt%以下にまで分解する熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
このような熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が好ましく使用される。これらの中でもガス透過性が高く、容易に熱分解しうる熱可塑性樹脂として、例えば下記一般式(I)で表されるポリオレフィン系の熱可塑性樹脂やポリエチレンなどが好ましく使用される。
Figure 0004194964
上記一般式(I)で表される化合物の具体的な例としては、ポリ−4−メチルペンテン−1やポリ−4−メチルペンテン−1の共重合体、例えばポリ−4−メチルペンテン−1にビニル系モノマーが共重合したポリマーなどを例示することができる。また、ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレンの単独重合体またはエチレンとα−オレフィンとの共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレンと他のビニル系単量体との共重合体等が挙げられる。
また、エチレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。他のビニル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル等の(メタ)アクリル酸およびそのアルキルエステルなどが挙げられる。
また、本発明の熱可塑性樹脂は熱可塑性炭素前駆体と容易に溶融混練および溶融成型できるという点から、非晶性の場合、ガラス転移点が250℃以下、結晶性の場合、結晶融点が300℃以下であることが好ましい。
(3)樹脂組成物の製造:
本発明の樹脂組成物は、ピッチと熱可塑性樹脂とを混合することにより製造される。ピッチの使用量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜150重量部、好ましくは5〜100重量部である。ピッチの使用量が150重量部を超えると所望の分散径を有する前駆体成形体が得られず、1重量部未満であると目的とする炭素繊維を安価に製造する事ができない等の問題が生じるため好ましくない。
ピッチと熱可塑性樹脂とから樹脂組成物を製造する方法は、溶融状態における混練が好ましい。ピッチと熱可塑性樹脂の溶融混練は公知のものを必要に応じて用いる事ができ、例えば一軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等が挙げられる。これらの中で上記ピッチを熱可塑性樹脂に良好にミクロ分散させるという目的から、同方向二軸押出機が好ましく使用される。
溶融混練温度としては100℃〜400℃で行なうことが好ましい。溶融混練温度が100℃未満であると、ピッチが溶融状態にならず、熱可塑性樹脂とのミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、400℃を超える場合、ピッチ及び熱可塑性樹脂の分解が進行するためいずれも好ましくない。溶融混練温度のより好ましい範囲は150℃〜350℃である。また、溶融混練の時間としては0.5〜20分間、好ましくは1〜15分間である。溶融混練の時間が0.5分間未満の場合、ピッチのミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、20分間を超える場合、極細炭素繊維の生産性が著しく低下し好ましくない。
本発明では、ピッチと熱可塑性樹脂とから溶融混練により樹脂組成物を製造する際に、酸素ガス含有量10%未満のガス雰囲気下で溶融混練することが好ましい。本発明で使用するピッチは酸素と反応することで溶融混練時に変性不融化してしまい、熱可塑性樹脂中へのミクロ分散を阻害することがある。このため、不活性ガスを流通させながら溶融混練を行い、できるだけ酸素ガス含有量を低下させることが好ましい。より好ましい溶融混練時の酸素ガス含有量は5%未満、さらには1%未満である。
上記の方法で得た樹脂組成物は、ピッチの熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmとなるのが好ましい。樹脂組成物中でピッチは島相を形成し、球状あるいは楕円状となる。ここで言う分散径とは樹脂組成物中に含まれるピッチの球形の直径または楕円体の長軸径を意味する。
ピッチの熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmの範囲を逸脱すると、高性能複合材料用としての炭素繊維フィラーを製造することが困難となることがある。ピッチの分散径のより好ましい範囲は0.01〜30μmである。また、ピッチと熱可塑性樹脂とからなる樹脂組成物を、300℃で3分間保持した後、ピッチの熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmであることが好ましい。
一般に、ピッチと熱可塑性樹脂との溶融混練で得た樹脂組成物を、溶融状態のままで保持しておくと時間と共にピッチが凝集する。ピッチの凝集により、分散径が50μmを超えると、高性能複合材料用としての炭素繊維フィラーを製造することが困難となることがある。ピッチの凝集速度の程度は、使用するピッチと熱可塑性樹脂の種類により変動するが、より好ましくは300℃で5分間、さらに好ましくは300℃で10分間以上、0.01〜50μmの分散径を維持していることが好ましい。
(4)樹脂組成物から炭素繊維を製造する方法:
樹脂組成物から、炭素繊維を得るにあたっては、まず樹脂組成物から前駆体成形体を100〜400℃の雰囲気下で成形する。該成型体としては、特に形状を問わないがハンドリングの観点から繊維状あるいはフィルム状であることが好ましい。なお、ここで言う繊維状とは繊維径0.5〜100μm、繊維軸方向の長さ1m以上の形態を指す。また、フィルム状とは厚さが1〜500μmのシート形態を指す。
ここで、成型体として繊維状とする場合には、溶融混練した樹脂組成物を紡糸口金より溶融紡糸することにより、ピッチを含有した複合繊維形態として前駆体成形体を得る方法などを例示することができる。溶融紡糸する際の紡糸温度としては150℃〜400℃、好ましくは180℃〜350℃である。紡糸引取り速度としては10m/分〜2000m/分である事が好ましい。上記範囲を逸脱すると所望の繊維状前駆体成型体が得られないため好ましくない。ピッチと熱可塑性樹脂とを溶融混練して得た樹脂組成物を、紡糸口金より溶融紡糸する際、溶融状態のままで配管内を送液し紡糸口金より溶融紡糸する事が好ましく、ピッチと熱可塑性樹脂の溶融混練から紡糸口金吐出までの移送時間は10分間以内である事が好ましい。
また、ピッチを含有した複合繊維形態として前駆体成形体を得る方法としてメルトブロー法より得ることもできる。
他方、前駆体成形体としてフィルム状成型体とする場合には、例えば2枚の板で樹脂組成物を挟みこんでおき、片方の板のみを回転させるか、2枚の板を異方向に回転させるか、または、同方向で異速度で回転させることでせん断が付与されたフィルムを作成する方法、圧縮プレス機により樹脂組成物に急激に応力を加えてせん断が付与されたフィルムを作成する方法、回転ローラーによりせん断が付与されたフィルムを作成する方法などを例示することができる。
また、溶融状態または軟化状態にある繊維状またはフィルム状の成型体を延伸することで、前駆体成形体に含まれるピッチをさらに伸長することも好ましく行なうことができる。これらの処理は、100℃〜400℃、より好ましくは150℃〜380℃で実施するのが好ましい。
次いで、得られた前駆体成形体に含まれるピッチを安定化処理し安定化前駆体成形体を形成する。ここで、ピッチの安定化は炭素化もしくは黒鉛化された炭素繊維を得るために必要な工程であり、これを実施せず次工程である熱可塑性樹脂の除去を行った場合、ピッチが熱分解したり融着したりするなどの問題が生じる。
安定化の方法としては酸素などのガス気流処理、酸性水溶液などの溶液処理など公知の方法で行なう事ができるが、生産性の面からガス気流下での不融化が好ましい。使用するガス成分としては前記熱可塑性樹脂への浸透性およびピッチへの吸着性の点から、またピッチを低温で速やかに不融化させうるという点から酸素および/またはハロゲンガスを含む混合ガスである事が好ましい。
ハロゲンガスとしては、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガス、沃素ガスを挙げることができるが、これらの中でも臭素ガス、沃素ガスが特に好ましい。ガス気流下での不融化の具体的な方法としては、温度50〜350℃、好ましくは80〜300℃で、5時間以下、好ましくは2時間以下、さらには30分間以下で所望のガス雰囲気下に曝すことが好ましい。
また、上記不融化により前駆体成形体中に含まれるピッチの軟化点は著しく上昇し、所望の炭素繊維を得るという目的から軟化点が400℃以上となる事が好ましく、500℃以上である事がさらに好ましい。
次いで、安定化前駆体成形体中に含まれる熱可塑性樹脂を除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離するが、この工程では、炭素繊維前駆体の熱分解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離する必要がある。熱可塑性樹脂を分解除去する方法としては、例えば溶剤により熱可塑性樹脂を溶解させる方法、熱分解により熱可塑性樹脂を分解除去する方法を例示することができる。
最後に、熱可塑性樹脂を除いた繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気中で炭素化もしくは黒鉛化して炭素繊維を製造するが、得られる炭素繊維の繊維径としては0.001μm〜2μmであり、0.001μm〜1μmである事が好ましい。
上記の繊維状炭素前駆体の炭素化もしくは黒鉛化において使用される不活性ガスとしては窒素、アルゴン等があげられ、温度は500℃〜3500℃、好ましくは800℃〜3000℃である。なお、炭素化もしくは黒鉛化する際の、酸素濃度は20ppm以下、さらには10ppm以下であることが好ましい。上記方法を実施すれば、目的とする炭素繊維を得ることが出来る。
上記のごとく製造された炭素繊維は複合材料用炭素繊維として複合材料への使用方法もある。本発明の炭素繊維を使用することで優れた力学的特性(特に曲げ弾性率、衝撃強度)、成形性(成形時の流動性、成形の容易さ)を有し、必要に応じ優れた導電性(特に均一性)を兼ね備えることができる炭素繊維含有樹脂組成物、成形材料及びその成形体を提供できる。
その用途としては特に限定されず、その用途の目的に応じて効果を付与する使用方法があるが、例えば、従来からの機械的強度向上を目的とした補強用フィラーに留まらず、炭素材料に備わった高導電性を生かし電磁波シールド材、静電防止材用の導電性樹脂フィラーとして、あるいは樹脂への静電塗料のためのフィラーとしての用途、また炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性と微細構造との特徴を生かし、フラットディスプレー等の電界電子放出材料としての用途、とりわけ炭素繊維から形成された複合体材料は単位重量当たりの強度及び剛さが優れているので、航空宇宙学及び運動用品の分野、バンパや内装部品などの自動車分野で使用できる。
本発明の製造方法によって得られる炭素繊維は、広角X線測定で評価した網平面間の距離(d002)が0.335nm〜0.360nmの範囲にあり、網平面群の厚さ(Lc)が1.0nm〜150nmの範囲にあり、繊維径が0.001μm〜2μmの範囲にあって、且つ実質的に分岐構造を有さない。また、炭素繊維が網平面間の距離(d002)が0.335nm〜0.340nmの範囲にあり、且つ網平面群の厚さ(Lc)が10nm〜150nmの範囲にある。
更に炭素繊維が繊維長(L)と繊維径(D)とが下記関係式(1)を満足する。
30 < L/D (1)
(5)樹脂組成物から電極材料を製造する方法:
本発明においては、上述のピッチと熱可塑性樹脂とからなる混合物から直接電極材料を製造することもできる。即ち、本発明の電極材料は、(5−1)熱可塑性樹脂100重量部とピッチ1〜150重量部からなる混合物から前駆体繊維からなる不織布を形成する工程、(5−2)前駆体繊維を安定化処理に付して前駆体繊維中のピッチを安定化して安定化前駆体繊維からなる不織布を形成する工程、(5−3)安定化前駆体繊維から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体からなる不織布を形成する工程、そして、(5−4)繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化して電極材料を製造する工程を経ることで製造される。各工程について、以下に詳細に説明する。
(5−1)ピッチと熱可塑性樹脂からなる混合物から前駆体繊維からなる不織布を形成する工程
本発明の製造方法では、ピッチと熱可塑性樹脂の溶融混練で得た混合物から前駆体繊維からなる不織布を形成する。前駆体繊維からなる不織布は、ピッチと熱可塑性樹脂の溶融混練で得た混合物のメルトブローにより製造することができる。メルトブローの条件としては、吐出ダイ温度が150〜400℃、ガス温度が150〜400℃の範囲が好適に用いられる。メルトブローの気体噴出速度は、前駆体繊維の繊維径に影響するが、気体噴出速度は、通常2000〜100m/sであり、より好ましくは1000〜200m/sである。ピッチと熱可塑性樹脂との混合物を溶融混練し、その後ダイより吐出する際、溶融混練した後溶融状態のままで配管内を送液し吐出ダイまで連続的に送液するのが好ましく、溶融混練から紡糸口金吐出までの移送時間は10分以内である事が好ましい。
(5−2)前駆体繊維を安定化処理に付して前駆体繊維中のピッチを安定化して安定化前駆体繊維からなる不織布を形成する工程
本発明の製造方法における第二の工程では、上記で作成した前駆体繊維からなる不織布を安定化処理に付して前駆体繊維中のピッチを安定化して安定化前駆体繊維からなる不織布を形成する。ピッチの安定化は炭素化もしくは黒鉛化された炭素繊維からなる不織布を得るために必要な工程であり、これを実施せず次工程である熱可塑性樹脂の除去を行った場合、ピッチが熱分解したり融着したりするなどの問題が生じる。
該安定化の方法としては酸素などのガス気流処理、酸性水溶液などの溶液処理など公知の方法で行なう事ができるが、生産性の面からガス気流下での不融化が好ましい。使用するガス成分としては上記熱可塑性樹脂への浸透性およびピッチへの吸着性の点から、またピッチを低温で速やかに不融化させ得るという点から酸素および/またはハロゲンガスを含む混合ガスである事が好ましい。ハロゲンガスとしては、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガス、沃素ガスを挙げることができるが、これらの中でも臭素ガス、沃素ガス、特に沃素ガスが好ましい。ガス気流下での不融化の具体的な方法としては、温度50〜350℃、好ましくは80〜300℃で、5時間以下、好ましくは2時間以下で所望のガス雰囲気中で処理する事が好ましい。
また、上記不融化により前駆体繊維中に含まれるピッチの軟化点は著しく上昇するが、所望の極細炭素繊維を得るという目的から軟化点が400℃以上となる事が好ましく、500℃以上である事がさらに好ましい。上記の方法を実施することで、前駆体繊維中のピッチを安定化して安定化前駆体繊維からなる不織布を得ることができる。
(5−3)安定化前駆体繊維から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体からなる不織布を形成する工程
本発明の製造方法における第三の工程は安定化前駆体繊維に含まれる熱可塑性樹脂を熱分解で除去するものであり、具体的には安定化前駆体繊維中に含まれる熱可塑性樹脂を除去し、安定化された繊維状炭素前駆体のみを分離し、繊維状炭素前駆体からなる不織布を形成する。この工程では、ピッチの熱分解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解除去し、繊維状炭素前駆体のみからなる不織布を分離する必要がある。
熱可塑性樹脂の除去は、酸素存在雰囲気および不活性ガス雰囲気のどちらでもよい。酸素存在雰囲気で熱可塑性樹脂を除去する場合には、350℃以上600℃未満の温度で除去する必要がある。なお、ここで言う酸素存在雰囲気下とは、酸素濃度が1〜100%のガス雰囲気を指しており、酸素以外に二酸化炭素、窒素、アルゴン等の不活性ガスや、沃素、臭素等の不活性ガスを含有していても良い。これら条件の中でも、特にコストの関係から空気を用いることが特に好ましい。
安定化前駆体繊維からなる不織布に含まれる熱可塑性樹脂を除去する温度が350℃未満のときには、繊維状炭素前駆体の熱分解は抑えられるものの、熱可塑性樹脂の熱分解を充分行なうことができず好ましくない。また、600℃以上であると、熱可塑性樹脂の熱分解は充分行なうことができるものの、繊維状炭素前駆体の熱分解も起こってしまい、結果としてピッチから得られる炭素繊維からなる不織布の炭化収率を低下させてしまい好ましくない。
安定化前駆体繊維からなる不織布に含まれる熱可塑性樹脂を分解する温度としては、酸素雰囲気下380〜500℃であることが好ましく、特に400〜450℃の温度範囲で、0.5〜10時間処理するのが好ましい。上記処理を施すことで、熱可塑性樹脂は使用した初期重量の15wt%以下にまで分解される。また、ピッチは使用した初期重量の80wt%以上が繊維状炭素前駆体として残存する。
また、不活性ガス雰囲気下で熱可塑性樹脂を除去する場合には、350℃以上600℃未満の温度で除去する必要がある。なお、ここで言う不活性ガス雰囲気下とは、酸素濃度30ppm以下、より好ましくは20ppm以下の二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガスをさす。なお、沃素、臭素等のハロゲンガスを含有していても良い。
また、本工程で使用する不活性ガスとしては、コストの関係から二酸化炭素と窒素が好ましく用いることができ、特に窒素が好ましい。
安定化前駆体繊維からなる不織布に含まれる熱可塑性樹脂を除去する温度が350℃未満のとき、繊維状炭素前駆体の熱分解は抑えられるものの、熱可塑性樹脂の熱分解を充分行なうことができず好ましくない。また、600℃以上であると、熱可塑性樹脂の熱分解は充分行なうことができるものの、繊維状炭素前駆体の熱分解も起こってしまい、結果としてピッチから得られる炭素繊維からなる不織布の炭化収率を低下させてしまい好ましくない。
安定化前駆体繊維に含まれる熱可塑性樹脂を分解する温度としては、不活性ガス雰囲気下380〜550℃とすることが好ましく、特に400〜530℃の温度範囲で、0.5〜10時間処理するのが好ましい。上記処理を施すことで、使用した熱可塑性樹脂の初期重量の15wt%以下にまで分解される。また、使用したピッチの初期重量の80wt%以上が繊維状炭素前駆体として残存する。
また、安定化前駆体繊維からなる不織布から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体からなる不織布を形成する別の方法として、熱可塑性樹脂を溶剤で除去する方法を採択しても良い。この方法では、繊維状炭素前駆体の溶剤への溶解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離する必要がある。
この条件を満たすために、本発明では、繊維状炭素前駆体に含まれる熱可塑性樹脂を、30〜300℃の温度を有する溶剤で除去するのが好ましい。溶剤の温度が30℃未満であると、前駆体繊維に含まれる熱可塑性樹脂を除去するのに多大の時間を有し好ましくない。一方、300℃以上であると、短時間により熱可塑性樹脂を除去することは可能だが、繊維状炭素前駆体も溶解させ、その繊維構造、不織布構造を破壊するだけでなく、最終的に得られる炭素繊維の原料に対する炭化収率を低下させ好ましくない。安定化前駆体繊維から熱可塑性樹脂を溶剤で除去する温度としては、50〜250℃、さらには80〜200℃が特に好ましい。
(5−4)繊維状炭素前駆体からなる不織布を炭素化もしくは黒鉛化する工程
本発明の製造方法における第四の工程は、熱可塑性樹脂を初期重量の15wt%以下にまで除いた繊維状炭素前駆体からなる不織布を不活性ガス雰囲気中で炭素化もしくは黒鉛化し炭素繊維を製造するものである。本発明において繊維状炭素前駆体からなる不織布は不活性ガス雰囲気下での高温処理により炭素化もしくは黒鉛化し、所望の炭素繊維からなる電極材料となる。得られる炭素繊維の繊維径としては0.001μm〜2μmであることが好ましい。
繊維状炭素前駆体からなる不織布の炭素化もしくは黒鉛化は公知の方法で行なうことができる。使用される不活性ガスとしては窒素、アルゴン等があげられ、温度は500℃〜3500℃、好ましくは800℃〜3000℃である。なお、炭素化もしくは黒鉛化する際の、酸素濃度は20ppm以下、さらには10ppm以下であることが好ましい。上記の方法を実施することで、炭素繊維からなる電極材料を製造することができる。
また本発明による上記で得た不織布から電極材料を製造する方法としては、通常の賦活方法、水蒸気賦活やアルカリ賦活あるいはこれら二つの方法を組み合わせた方法により製造することもできる。
水蒸気賦活の方法としては、通常の粒状活性炭の賦活方法であり、水蒸気の存在下で700℃〜1500℃の温度で行なわれる。より好ましい温度範囲は、800℃〜1300℃である。賦活処理の時間としては、3〜180分間実施するのが良い。
該賦活処理の時間が3分間未満であると、比表面積が著しく低下し好ましくない。一方、180分より長時間であると、生産性の低下を引起こすだけでなく、炭化収率を著しく低下させるため好ましくない。
電極材料となる不織布を製造するもう一つの方法としては、アルカリ賦活がある。アルカリ賦活法とは、原料に水酸化アルカリや炭酸アルカリを含浸させ、所定の温度域まで等速昇温させることにより活性炭を得る手法である。アルカリ賦活で用いられる賦活剤としては、例えばKOH、NaOH等のアルカリ金属の水酸化物、Ba(OH)等のアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられるが、これらの中でもKOH、NaOHが好ましい。アルカリ賦活する時の条件は、用いる賦活剤により異なるため一概に言えないが、例えばKOHを用いた場合には温度400〜1000℃、好ましくは550〜800℃まで昇温する。
アルカリ賦活の処理時間も昇温速度、処理温度に応じて適宜選定すればよいが、550〜800℃で1秒間〜数時間、好ましくは1秒間〜1時間であることが好ましい。賦活剤は通常水溶液の状態として用いられ、濃度としては0.1〜90wt%程度が採用される。
賦活剤の水溶液濃度が0.1wt%未満であると、高比表面積の不織布を製造することができず好ましくない。また、90wt%を超えると、高比表面積の不織布を製造することができないだけでなく、炭化収率を低減させるため好ましくない。より好ましくは1〜50wt%である。
炭素繊維前駆体をアルカリ水溶液に含浸させ,所定の温度域まで等速昇温させることで目的とする不織布を得ることが出来る。上記の方法で得た不織布には、アルカリやアルカリ塩などが存在することがある。それゆえ、水洗、乾燥などの処理を行っても良い。
炭素繊維前駆体に、上記で述べた水蒸気賦活またはアルカリ賦活またはこれら二つの組み合わせを実施することで、2nm以上の細孔直径を有し、かつその繊維径が500nm以下である不織布を得ることが出来る。
炭素繊維からなる不織布の炭素繊維径は、0.001〜2μmである。また、本発明の電極材料は、20℃、相対湿度65〜70%の環境下で測定した水の接触角が140〜155°であり、炭素繊維からなる不織布の厚みが5〜5000μmである。
更に、炭素繊維が表面に細孔を有し、その細孔直径が0.1〜200nmの範囲にあり、細孔直径2nm以上の比表面積と全比表面積との比が0.3以上でり、全比表面積が100〜50000m/gの範囲にある炭素繊維からなる不織布であってもよい。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものでは無い。なお、実施例中の各値は以下の方法に従って求めた。
(1)樹脂組成物中における熱可塑性炭素前駆体の分散粒子径:
試料を任意の面で切断したときの切断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製「S−2400」)を用いて観察し、島状に分散している熱可塑性炭素前駆体の粒子径を求めた。
(2)繊維状前駆体成形体の繊維径:
走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製「S−2400」)を用いて観察して求めた。
(3)炭素繊維の広角X線測定:
理学電気株式会社製のRU−300を用いた。なお、網平面間の距離(d002)は2θの値から、網平面群の厚さ(Lc)はピークの半値幅からそれぞれ求めた。
[実施例1]
熱可塑性樹脂としてポリ−4−メチルペンテン−1(TPX:グレードRT−18[三井化学株式会社製])100重量部と熱可塑性炭素前駆体としてピリジン可溶成分が75wt%、軟化点が270℃、光学的異方性含有量が100wt%であるメソフェーズピッチAR−HP(三菱ガス化学株式会社製)11.1部を同方向二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX−30、バレル温度290℃、窒素気流下)で溶融混練して樹脂組成物を作成した。この条件で得られた熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径は0.05〜2μmであった。また、樹脂組成物を300℃で10分間保持したが、熱可塑性炭素前駆体の凝集は認められず、分散径は0.05〜2μmであった。
上記樹脂組成物を300℃で紡糸口金より紡糸し、前駆体成形体(炭素繊維前駆体を島成分として含有した海島型複合繊維)を作成した。この複合繊維の繊維径は20μmであり、断面におけるメソフェーズピッチの分散径はすべて2μm以下であった。次に、前駆体成形体を空気中、200℃で20時間保持して安定化前駆体成形体を得た。
次に、安定化前駆体成形体を窒素ガス雰囲気下、5℃/分の昇温速度で450℃まで昇温し、450℃で5時間保持することで、熱可塑性樹脂を除去した繊維状炭素前駆体を形成した。この繊維状炭素前駆体を窒素雰囲気下中で30℃から1000℃まで2℃/分の昇温速度で昇温して炭素繊維を得た。
この炭素繊維をアルゴンガス雰囲気下、20℃/分の昇温速度で2700℃まで昇温して黒鉛化を実施した。黒鉛化した炭素繊維の広角X線測定から、グラファイト層の網平面間距離(d002)は0.338nm、網平面群の厚さ(Lc)は12.0nmであった。
[比較例1]
熱可塑性樹脂としてポリ−4−メチルペンテン−1(TPX:グレードRT−18[三井化学株式会社製])100重量部と熱可塑性炭素前駆体としてピリジン可溶成分が95wt%、軟化点が210℃で、光学的異方性相を含有しない等方性ピッチ11.1部を同方向二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX−30、バレル温度290℃、窒素気流下)で溶融混練して樹脂組成物を作成した。この条件で得られた熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径は0.05〜2μmであった。また、樹脂組成物を300℃で10分間保持したが、熱可塑性炭素前駆体の凝集は認められず、分散径は0.05〜2μmであった。
上記樹脂組成物を300℃で紡糸口金より紡糸し、前駆体成形体(炭素繊維前駆体を島成分として含有した海島型複合繊維)を作成した。この複合繊維の繊維径は20μmであり、断面におけるメソフェーズピッチの分散径はすべて2μm以下であった。次に、前駆体成形体を空気中、200℃で20時間保持して安定化前駆体成形体を得た。
次に、安定化前駆体成形体を窒素ガス雰囲気下、5℃/分の昇温速度で450℃まで昇温し、450℃で5時間保持したところ、熱可塑性樹脂は除去されたが炭素繊維前駆体は溶融してしまい繊維状炭素前駆体を得ることができなかった。
上記のごとく製造された炭素繊維並びに該炭素繊維からなる不織布の電極材料への使用方法もある。その用途としては特に限定されず、その用途の目的に応じて効果を付与する使用方法があるが、例えば、燃料電池用電極基材、キャパシタおよび電池に用いる電極材料、これを用いた電極および蓄電素子などに使用できる。

Claims (10)

  1. (1)熱可塑性樹脂100重量部並びにピリジンに可溶な成分が60wt%以上の組成からなり、軟化点が180℃〜330℃で光学的異方性を100重量%含有するピッチ1〜150重量部からなる混合物から前駆体繊維を形成する工程、
    (2)前駆体繊維を酸素または酸素/沃素の混合ガス雰囲気下で不融化処理に付して安定化前駆体繊維を形成する工程、
    (3)安定化前駆体繊維から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程、
    (4)繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化する工程を経る炭素繊維の製造方法。
  2. 熱可塑性樹脂が下記式(I)で表される、請求項1記載の炭素繊維の製造方法。
    Figure 0004194964
  3. 熱可塑性樹脂がポリ−4−メチルペンテン−1またはその共重合体である、請求項2に記載の炭素繊維の製造方法。
  4. 熱可塑性樹脂がポリエチレンである請求項2に記載の炭素繊維の製造方法。
  5. ピッチがメソフェーズピッチである、請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
  6. 請求項1記載の方法によって得られた、繊維径が0.001μm〜2μmで且つ実質的に分岐構造を有さない炭素繊維。
  7. 請求項6記載の炭素繊維の複合材料への使用。
  8. 請求項6記載の炭素繊維の電極材料への使用。
  9. 工程(1)の前駆体繊維を不織布状に形成して、炭素繊維からなる不織布を得る、請求項1記載の製造方法。
  10. 請求項9記載の不織布の電極材料への使用。
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