JP4194248B2 - リチウム二次電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、正極と、負極と、非水系溶媒を用いた非水電解質とを備えたリチウム二次電池に係り、特に、フッ素を含む溶質を用いた非水電解質における非水系溶媒を改良して、リチウム二次電池における充放電サイクル特性を向上させた点に特徴を有するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、高出力,高エネルギー密度の新型二次電池として、非水系溶媒を用いた非水電解質を使用し、リチウムの酸化,還元を利用した高起電力のリチウム二次電池が利用されるようになった。
【0003】
ここで、このようなリチウム二次電池においては、非水電解質として、プロピレンカーボネートやジメチルカーボネート等の非水系溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6 や過塩素酸リチウムLiClO4 等の溶質を溶解させたものが一般に使用されており、近年においては、非水電解質におけるリチウムイオンの導電性を高める等の点から、ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6 等のフッ素を含む溶質が広く用いられている。
【0004】
しかし、上記のようなフッ素を含む溶質を用いた場合、上記の非水系溶媒や各電極やセパレータ等に僅かに含有されている微量の水分が、上記のフッ素を含む溶質と反応してフッ酸等の不純物が生じ、これがリチウム二次電池における充放電特性に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0005】
また、近年においては、特開2000−182666号公報に示されるように、黒鉛系炭化水素材料を用いた負極と、正極と、非水系溶媒にリチウム塩を溶解した非水電解液とを有する非水電解液二次電池において、上記の非水系溶媒に、環内に炭素−炭素二重結合を有するラクトンを0.05容量%以上で5容量%未満含有させることにより、充放電効率及び充放電サイクル特性が向上させるようにしたものが提案されている。
【0006】
しかし、上記の公報に示されるように、非水溶媒に環内に炭素−炭素二重結合を有するラクトンを含有させた場合においても、ラクトンは環内に酸素を含む複素環式化合物であるため、前記のようにフッ素を含む溶質と微量の水分とが反応してフッ酸等の不純物が生じた場合、ラクトンがこのフッ酸等の不純物との反応により開環したり、ラクトン相互が重合したりし、リチウム二次電池における充放電サイクル特性を十分に向上させることができないという問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、正極と、負極と、非水系溶媒を用いた非水電解質とを備えたリチウム二次電池において、フッ素を含む溶質を用いた非水電解質を使用した場合における上記のような問題を解決することを課題とするものである。
【0008】
すなわち、この発明は、上記のようなリチウム二次電池において、非水系溶媒や各電極やセパレータ等に僅かに含有されている微量の水分が上記のフッ素を含む溶質と反応してフッ酸等の不純物が生じた場合においても、リチウム二次電池における充放電特性に悪影響を及ぼすということがなく、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池が得られるようにすることを課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明におけるリチウム二次電池においては、上記のような課題を解決するため、正極と、負極と、非水系溶媒を用いた非水電解質とを備えたリチウム二次電池において、上記の非水電解質中にフッ素を含む溶質を含有させると共に、上記の非水系溶媒中に、環内に炭素の二重結合を1つ有する環状不飽和炭化水素化合物(但し、多環形脂環式化合物及び芳香族化合物を除く。)を含有させるようにしたのである。
【0010】
そして、この発明におけるリチウム二次電池のように、非水電解質中にフッ素を含む溶質を含有させると共に、非水系溶媒中に、環内に炭素の二重結合を1つ有する環状不飽和炭化水素化合物(但し、多環形脂環式化合物及び芳香族化合物を除く。)を含有させると、非水系溶媒や各電極やセパレータ等に僅かに含有されている微量の水分がフッ素を含む溶質と反応してフッ酸等の不純物が生じたとしても、このフッ酸等の不純物が非水系溶媒中に含まれる上記の環状不飽和炭化水素化合物の環内における炭素の二重結合の部分と反応して結合されるようになる。また、上記の環状不飽和炭化水素化合物の場合、環内に炭素の二重結合を有するラクトンを用いた場合のように、フッ酸等の不純物との反応によって開環したり、重合したりするということもない。
【0011】
このため、この発明におけるリチウム二次電池においては、フッ素を含む溶質が非水系溶媒や各電極やセパレータ等に僅かに含有されている微量の水分と反応してフッ酸等の不純物が生じたとしても、このフッ酸等の不純物が環状不飽和炭化水素化合物の環内における炭素の二重結合と結合して適切に消費され、リチウム二次電池における充放電特性に悪影響を及ぼすということがなく、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池が得られるようになる。
【0012】
また、上記のようにフッ酸等の不純物が環状不飽和炭化水素化合物の環内における炭素の二重結合と結合することにより、リチウム二次電池における非水電解質中にフッ素化された環状炭化水素が含まれるようになる。
【0013】
ここで、この発明におけるリチウム二次電池において、上記の環状不飽和炭化水素化合物から芳香族化合物を除くようしたのは、芳香族化合物の場合、その環内における炭素の二重結合の反応性が低いため、フッ酸等の不純物と適切に反応せず、フッ酸等の不純物を適切に消費させることができず、リチウム二次電池における充放電サイクル特性を向上させることができなくなるためである。
【0014】
そして、上記の環状不飽和炭化水素化合物としては、一般に知られている様々な種類の環状不飽和炭化水素化合物を用いることができる。但し、この環状不飽和炭化水素化合物における環内に炭素の二重結合が2以上存在すると、この環状不飽和炭化水素化合物自体が不安定になるため、本発明においては、環内における炭素の二重結合の数が1つである環状不飽和炭化水素化合物を用いるようにした。
【0015】
また、この環状不飽和炭化水素化合物の環を構成する炭素の数が4未満である場合にも、環状不飽和炭化水素化合物自体が不安定になるため、環を構成する炭素の数が4以上の環状不飽和炭化水素化合物を用いることが好ましく、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデケンからなる群から選択される少なくとも1種の環状不飽和炭化水素化合物を用いることが好ましい。
【0016】
また、上記のような環状不飽和炭化水素化合物を非水系溶媒中に含有させるにあたり、その量が少ないと、フッ酸等の不純物を十分に消費させることができなくなる一方、その量が多くなり過ぎると、非水系溶媒中に残る環状不飽和炭化水素化合物の量が多くなって非水電解質の特性が低下するおそれがある。このため、非水系溶媒中における環状不飽和炭化水素の量を0.3〜7体積%の範囲にすることが好ましく、より好ましくは1〜5体積%の範囲にする。
【0017】
ここで、上記の環状不飽和炭化水素化合物を含有させる非水系溶媒の種類については特に限定されず、従来より一般に使用されている非水系溶媒を用いることができ、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、ジメチルスルホラン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル及びこれらの誘導体を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
一方、非水電解質中に含有させる上記のフッ素を含む溶質としては、例えば、LiPF6 、LiAsF6 、LiBF4 、LiCF3 SO3 、LiN(Cl F2l+1SO2 )(Cm F2m+1SO2 )(式中、l、mは1以上の整数である。)、LiC(Cx F2x+1SO2 )(Cy F2y+1SO2 )(Cz F2z+1SO2 )(式中、x、y、zは1以上の整数)を1種又は2種以上組み合わせて使用することができ、特に、フッ素が離れ易いP−F結合やB−F結合を有するLiPF6 やLiBF4 等のフッ素を含む溶質を用いた場合に有効である。
【0019】
ここで、この発明におけるリチウム二次電池は、非水電解質中に含有させる溶質に上記のフッ素を含む溶質を用いると共に、非水電解質における非水系溶媒中に上記の環状不飽和炭化水素化合物(但し、芳香族化合物を除く。)を含有させることを特徴とするものであり、このリチウム二次電池において使用する正極や負極の種類等については特に限定されず、従来より一般に使用されている公知のものを用いることができる。
【0020】
そして、この発明におけるリチウム二次電池においては、その正極における正極材料として、リチウムイオンを吸蔵,放出することができる公知の正極材料である、遷移金属の酸化物,硫化物,窒化物及びこれらにリチウムが含有された化合物等を使用することができ、具体的には、LiCoO2 、LiNiO2 、LiMn2 O4 、LiMnO2 、LiNix Co1-x O2 、LiCo0.5 Ni0.3 Mn0.2 O2 、MnO2 等を用いることができる。
【0021】
また、負極における負極材料としても、一般に使用されている金属リチウム、Li−Al,Li−In,Li−Sn,Li−Pb,Li−Bi,Li−Ga,Li−Sr,Li−Si,Li−Zn,Li−Cd,Li−Ca,Li−Ba等のリチウム合金、リチウムイオンの吸蔵,放出が可能な黒鉛,コークス,有機物焼成体等の炭素材料、SnO2 ,SnO,TiO2 ,Nb2 O3 等の電位が正極材料よりも低い金属酸化物等を用いることができる。
【0022】
そして、負極における負極材料に炭素材料を用いた場合には、充放電によってこの炭素材料の表面に形成される被膜中に、上記のフッ酸等の不純物と環状不飽和炭化水素化合物との反応生成物が取り込まれて、形成される被膜が安定し、リチウム二次電池における充放電サイクル特性がより向上されるようになり、特に、黒鉛のように結晶性の高い炭素材料を用いた場合には、さらにリチウム二次電池における充放電サイクル特性が改善されるようになる。
【0023】
【実施例】
以下、この発明に係るリチウム二次電池について実施例を挙げて具体的に説明すると共に、この実施例におけるリチウム二次電池においては、充放電サイクル特性が向上されることを比較例を挙げて明らかにする。なお、この発明に係るリチウム二次電池は下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0024】
(実施例A1)
実施例A1においては、下記のようにして作製した正極と負極とを用いると共に、下記のようにして調製した非水電解液を用い、直径が14.2mm,高さが50mmになった図1に示すような円筒型のリチウム二次電池を作製した。
【0025】
[正極の作製]
正極を作製するにあたっては、正極材料にLiCoO2 粉末を用い、このLiCoO2 粉末と、導電剤として人造黒鉛粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを90:5:5の重量比で混合し、この混合物にN−メチル−2−ピロリドン液を加えてスラリーを調製し、このスラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、これを120℃で2時間真空乾燥させた後、これを圧延し、幅40mmに切断して正極を作製した。
【0026】
[負極の作製]
負極を作製するにあたっては、負極材料として、(002)面の面間隔d002 が0.335nm、c軸方向の結晶子の大きさLcが100nm以上になった黒鉛の粉末を用い、この黒鉛の粉末と結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを90:10の重量比で混合し、この混合物にN−メチル−2−ピロリドン液を加えてスラリーを調製し、このスラリーを負極集電体である銅箔の両面にドクターブレード法により塗布し、これを120℃で2時間真空乾燥させた後、これを圧延し、幅42mmに切断して負極を作製した。
【0027】
[非水電解液の調製]
非水電解液を調製するにあたっては、非水系溶媒として、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、環状不飽和炭化水素化合物のシクロオクテンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒に溶質としてフッ素を含むヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6 を1mol/lの濃度になるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0028】
[電池の作製]
電池を作製するにあたっては、図1に示すように、上記のようにして作製した正極1と負極2との間に、ポリプロピレン製の多孔膜からなるセパレータ3を介在させ、これらをスパイラル状に巻いて電池缶4内に収容させた後、この電池缶4内に上記のようにして調製した非水系電解液を注液して封口した。そして、前記の正極1を正極リード5を介して正極外部端子6に接続させる一方、負極2を負極リード7を介して電池缶4に接続させ、正極外部端子6と電池缶4とを絶縁パッキン8により電気的に分離させた。
【0029】
(実施例A2〜A7及び参考例A8)
実施例A2〜A7及び参考例A8においては、上記の実施例A1における非水電解液の調製において使用する非水系溶媒の種類だけを変更し、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、実施例A2〜A7及び参考例A8の各リチウム二次電池を作製した。
【0030】
ここで、非水系溶媒として、下記の表1に示すように、実施例A2においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物のシクロブテンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を、実施例A3においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物のシクロペンテンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を、実施例A4においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物のシクロヘキセンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を、実施例A5においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物のシクロヘプテンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を、実施例A6においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物のシクロノネンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を、実施例A7においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物のシクロデケンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を、参考例A8においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物の1,3−シクロヘキサジエンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を用いた。
【0031】
(比較例a1,a2)
比較例a1,a2においても、上記の実施例A1における非水電解液の調製において使用する非水系溶媒の種類だけを変更し、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、比較例a1,a2の各リチウム二次電池を作製した。
【0032】
ここで、非水系溶媒として、下記の表1に示すように、比較例a1においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを30:70の体積比で混合させた混合溶媒を、比較例a2においては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環内に炭素の二重結合を有するラクトンの2(5H)フラノンとを30:67:3の体積比で混合させた混合溶媒を用いた。
【0033】
そして、上記のようにして作製した実施例A1〜A7及び参考例A8及び比較例a1,a2の各リチウム二次電池を用い、それぞれ100mAの定電流で4.2Vまで充電させた後、100mAの定電流で2.7Vまで放電させ、これを1サイクルとして300サイクルの充放電を繰り返して行い、1サイクル目の放電容量Q1 と300サイクル目の放電容量Q300 とを測定し、下記の式により、300サイクル目の容量残存率を求め、その結果を下記の表1に示した。
【0034】
容量残存率(%)=(Q300 /Q1 )×100
【0035】
【表1】
【0036】
この結果から明らかなように、非水電解液の溶質にフッ素を含むLiPF6 を用いた場合において、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物であるシクロオクテン等を含有させた非水電解液を用いた実施例A1〜A7及び参考例A8の各リチウム二次電池は、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を含有させていない非水電解液を用いた比較例a1のリチウム二次電池や、非水系溶媒中に環内に炭素の二重結合を有するラクトンからなる複素環式化合物を含有させた非水電解液を用いた比較例a2のリチウム二次電池に比べて、300サイクル後における容量残存率が高く、充放電サイクル特性が向上していた。
【0037】
また、実施例A1〜A7及び参考例A8のリチウム二次電池を比較した場合、非水系溶媒中に添加する環状不飽和炭化水素化合物に、環内における炭素の二重結合の数が1つの環状不飽和炭化水素化合物を用いた実施例A1〜A7のリチウム二次電池の方が、環内における炭素の二重結合の数が2つになった環状不飽和炭化水素化合物を用いた参考例A8のリチウム二次電池に比べて、さらに300サイクル後における容量残存率が高く、充放電サイクル特性が向上していた。
【0038】
(実施例B1〜B6)
実施例B1〜B6においては、上記の実施例A1における非水電解液の調製において、非水系溶媒におけるエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物のシクロオクテンとの体積比だけを変更し、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、実施例B1〜B6の各リチウム二次電池を作製した。
【0039】
ここで、非水系溶媒におけるエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)と環状不飽和炭化水素化合物のシクロオクテンとの体積比を、下記の表2に示すように、実施例B1においては30:69.9:0.1に、実施例B2においては30:69.7:0.3に、実施例B3においては30:69:1に、実施例B4においては30:65:5に、実施例B5においては30:63:7に、実施例B6においては30:60:10にした。
【0040】
そして、上記のようにして作製した実施例B1〜B6の各リチウム二次電池についても、上記の実施例A1及び比較例a1の場合と同様にして、1サイクル目の放電容量Q1 と300サイクル目の放電容量Q300 とを測定して、300サイクル目の容量残存率を求め、その結果を下記の表2に示した。
【0041】
【表2】
【0042】
この結果から明らかなように、非水電解液の溶質にフッ素を含むLiPF6 を用いた場合において、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物のシクロオクテンを含有させた非水電解液を用いた実施例A1及び実施例B1〜B6の各リチウム二次電池は、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を添加しなかった比較例a1に比べて300サイクル後における容量残存率が高くなって充放電サイクル特性が向上した。特に、非水系溶媒中に含有させるシクロオクテンの量を0.3〜7体積%にした実施例A1及び実施例B2〜B6の各リチウム二次電池においては、300サイクル後における容量残存率が高くなって充放電サイクル特性が向上しており、さらに非水系溶媒中に含有させるシクロオクテンの量を1〜5体積%にした実施例A1,B3,B4の各リチウム二次電池においては、300サイクル後における容量残存率が一層高くなって、充放電サイクル特性がさらに向上していた。
【0043】
なお、上記の実施例A1及びB1〜B6においては、非水系溶媒中に含有させる環状不飽和炭化水素化合物としてシクロオクテンを用いた場合を示したが、環状不飽和炭化水素化合物として、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロノネン、シクロデケンを用いた場合においても同様の傾向が認められた。
【0044】
(実施例C1)
実施例C1においては、上記の実施例A1における負極の作製において、負極材料として、前記の黒鉛の粉末に代えて、(002)面の面間隔d002 が0.344nm、c軸方向の結晶子の大きさLcが3.2nmになったコークスの粉末を用い、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、実施例C1のリチウム二次電池を作製した。
【0045】
(比較例c1)
比較例c1においては、上記の比較例a1の場合と同様に、非水電解液における非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を加えないようにすると共に、負極材料として、上記の実施例C1の場合と同じ(002)面の面間隔d002 が0.344nm、c軸方向の結晶子の大きさLcが3.2nmになったコークスの粉末を用い、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、比較例c1のリチウム二次電池を作製した。
【0046】
(実施例D1)
実施例D1においては、上記の実施例A1における負極の作製において、負極材料として、前記の黒鉛の粉末に代えて、Li4 Ti5 O12の粉末を用い、このLi4 Ti5 O12と、導電剤としての人造黒鉛と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを90:5:5の重量比で混合させるようにし、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、実施例D1のリチウム二次電池を作製した。
【0047】
(比較例d1)
比較例d1においては、上記の比較例a1の場合と同様に、非水電解液における非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を加えないようにすると共に、負極材料として、上記の実施例D1の場合と同じLi4 Ti5 O12の粉末を用い、このLi4 Ti5 O12と、導電剤としての人造黒鉛と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを90:5:5の重量比で混合させるようにし、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、比較例d1のリチウム二次電池を作製した。
【0048】
そして、上記のようにして作製した実施例C1,D1及び比較例c1,d1の各リチウム二次電池についても、上記の実施例A1及び比較例a1の場合と同様にして、1サイクル目の放電容量Q1 と300サイクル目の放電容量Q300 とを測定して、300サイクル目の容量残存率を求め、その結果を下記の表3に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
この結果、負極材料として、上記のコークスの粉末やLi4 Ti5 O12の粉末を用いた場合においても、非水電解液の溶質にフッ素を含むLiPF6 を用いると共に、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物のシクロオクテンを含有させた非水電解液を用いた上記の実施例C1,D1の各リチウム二次電池も、上記の実施例A1のリチウム二次電池の場合と同様に、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を含有させていない非水電解液を用いた対応する比較例c1,d1の各リチウム二次電池に比べて、300サイクル後における容量残存率が高く、充放電サイクル特性が向上していた。
【0051】
また、負極材料に黒鉛の粉末やコークスの粉末からなる炭素材料を用いた実施例A1,C1の各リチウム二次電池は、負極材料に炭素材料以外のLi4 Ti5 O12の粉末を用いた実施例D1のリチウム二次電池に比べ、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を含有させていない非水電解液を用いた対応する比較例a1,c1,d1の各リチウム二次電池に対して、容量残存率の上昇割合が高くなっており、充放電サイクル特性が向上しており、特に、負極材料に結晶性の高い黒鉛の粉末を用いた実施例A1のリチウム二次電池においては、対応した比較例a1のリチウム二次電池に対して、容量残存率の上昇割合がさらに高くなっており、充放電サイクル特性が大きく向上していた。
【0052】
(実施例E1,F1)
実施例E1,F1においては、上記の実施例A1における非水電解液の調製において使用する溶質の種類だけを変更し、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、実施例E1,F1の各リチウム二次電池を作製した。
【0053】
ここで、非水電解液に使用する溶質としては、下記の表4に示すように、実施例E1ではLiBF4 を、実施例F1ではLiN(C2 F5 SO2 )2 を用いるようにした。
【0054】
(比較例e1,f1)
比較例e1,f1においては、上記の比較例a1の場合と同様に、非水電解液における非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を加えないようにすると共に、溶質として、比較例e1では実施例E1と同じLiBF4 を、比較例f1では実施例F1と同じLiN(C2 F5 SO2 )2 を用いるようにし、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、比較例e1,f1の各リチウム二次電池を作製した。
【0055】
(比較例g1,g2)
比較例g1,g2においては、非水電解液の調製において使用する溶質として、フッ素を含有しないLiClO4 を用いるようにした。
【0056】
そして、比較例g1においては、上記の実施例A1の場合と同様に、非水電解液における非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物のシクロオクテンを含有させたものを用いる一方、比較例g2においては、上記の比較例a1の場合と同様に、非水電解液における非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を含有させていないものを用い、それ以外は、上記の実施例A1の場合と同様にして、比較例g1,g2の各リチウム二次電池を作製した。
【0057】
そして、上記のようにして作製した実施例E1,F1及び比較例e1,f1,g1,g2の各リチウム二次電池についても、上記の実施例A1及び比較例a1の場合と同様にして、1サイクル目の放電容量Q1 と300サイクル目の放電容量Q300 とを測定して、300サイクル目の容量残存率を求め、その結果を下記の表4に示した。
【0058】
【表4】
【0059】
この結果、非水電解液の溶質に、フッ素を含むLiBF4 やLiN(C2 F5 SO2 )2 を用いる共に、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物のシクロオクテンを含有させた非水電解液を用いた上記の実施例E1,F1の各リチウム二次電池も、上記の実施例A1のリチウム二次電池の場合と同様に、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を含有させていない非水電解液を用いた対応する比較例e1,f1の各リチウム二次電池に比べて、300サイクル後における容量残存率が高くなっており、充放電サイクル特性が向上していた。特に、非水電解液の溶質にP−F結合やB−F結合を有するLiPF6 やLiBF4 を用いた実施例A1や実施例E1のリチウム二次電池においては、対応した比較例a1や比較例e1のリチウム二次電池に対して、容量残存率の上昇割合がさらに高くなっており、充放電サイクル特性が大きく向上していた。
【0060】
しかし、非水電解液の溶質に、フッ素を含まないLiClO4 を用いた比較例g1,g2のリチウム二次電池においては、非水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物のシクロオクテンを含有させた非水電解液を用いた比較例g1のものと、水系溶媒中に環状不飽和炭化水素化合物を含有させていない非水電解液を用いた比較例g2のものとにおける容量残存率の差が殆どなく、充放電サイクル特性が向上していなかった。
【0061】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明におけるリチウム二次電池においては、非水電解質中にフッ素を含む溶質を含有させると共に、非水系溶媒中に、環内に炭素の二重結合を1つ有する環状不飽和炭化水素化合物(但し、多環形脂環式化合物及び芳香族化合物を除く。)を含有させるようにしたため、非水系溶媒や各電極やセパレータ等に僅かに含有されている微量の水分がフッ素を含む溶質と反応してフッ酸等の不純物が生じたとしても、このフッ酸等の不純物が非水系溶媒中に含まれる環状不飽和炭化水素化合物の環内における炭素の二重結合の部分と反応して結合されるようになると共に、非水系溶媒中に環内に炭素の二重結合を有するラクトン等の複素環式化合物を含有させた非水電解液を用いた場合のように、フッ酸等の不純物との反応によって開環したり、重合するということもなかった。
【0062】
この結果、この発明におけるリチウム二次電池においては、フッ素を含む溶質が非水系溶媒や各電極やセパレータ等に僅かに含有されている微量の水分と反応してフッ酸等の不純物が生じたとしても、このフッ酸等の不純物が環状不飽和炭化水素化合物の環内における炭素の二重結合と結合して適切に消費され、リチウム二次電池における充放電特性に悪影響を及ぼすということがなく、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例及び比較例において作製した非水電解質二次電池の内部構造を示した断面説明図である。
【符号の説明】
1 正極
2 負極
Claims (7)
- 正極と、負極と、非水系溶媒を用いた非水電解質とを備えたリチウム二次電池において、上記の非水電解質中にフッ素を含む溶質が含まれると共に、上記の非水系溶媒中に、環内に炭素の二重結合を1つ有する環状不飽和炭化水素化合物(但し、多環形脂環式化合物及び芳香族化合物を除く。)が含まれていることを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1に記載したリチウム二次電池において、非水系溶媒中に含有させる上記の環状不飽和炭化水素化合物が、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデケンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1又は2に記載したリチウム二次電池において、非水系溶媒中における上記の環状不飽和炭化水素の量が0.3〜7体積%の範囲であることを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1又は2に記載したリチウム二次電池において、非水系溶媒中における上記の環状不飽和炭化水素の量が1〜5体積%の範囲であることを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載したリチウム二次電池において、上記の負極に炭素材料を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項5に記載したリチウム二次電池において、上記の負極に用いた炭素材料が黒鉛であることを特徴とするリチウム二次電池。
- 請求項1〜6の何れか1項に記載したリチウム二次電池において、上記の非水電解質中に含まれるフッ素を含む溶質が、P−F結合又はB−F結合を有していることを特徴とするリチウム二次電池。
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