JP4186454B2 - 硬化被膜が形成された透明基材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面に硬化被膜が形成された透明基材、特に、表面に反射防止膜が形成された透明基材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ガラスや樹脂等の透明基材の表面には、耐摩耗性被膜や、帯電防止膜、反射防止膜などの機能性被膜が形成され、利用されてきた。特に樹脂表面は傷が付きやすいことから、表面保護のために、アクリレート系化合物やエポキシ系化合物、有機ケイ素化合物など、紫外線硬化性又は熱硬化性の化合物がハードコート膜として用いられてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来から用いられているアクリレート系化合物やエポキシ系化合物、有機ケイ素化合物等のハードコート被膜は、基材となる樹脂によって、その密着性が異なり、特に基材としてメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂を用いた場合には、その密着性が大きく低下するという問題があった。また、反射防止膜を形成する場合には、その被膜の屈折率と基材の屈折率の差が小さいので、十分な反射防止効果を得ることができなかった。
【0004】
そこで本発明者は、基材、特にメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂に対して十分な密着性を有し、反射防止膜としても有用な屈折率の低い被膜を形成しうる材料を開発すべく、鋭意研究を行った結果、加水分解性有機ケイ素化合物と多孔質シリカ微粒子、特に特定の多孔質シリカ微粒子とからなる組成物から形成される硬化被膜は、基材に対して十分な密着性を示し、かつ十分な反射防止性能を示すことを見出し、本発明に至った。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、基材表面に、加水分解性有機ケイ素化合物と多孔質シリカ微粒子とを含む組成物をからの硬化被膜が形成されている透明基材を提供するものである。ここに、多孔質シリカ微粒子は、表面が、例えばテトラアルコキシシランのような加水分解性有機ケイ素化合物の加水分解物で被覆され、二重構造となっているものが好ましい。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の透明基材では、加水分解性の有機ケイ素化合物と多孔質シリカ微粒子とを含む組成物からの硬化被膜が基材の表面に形成されており、この硬化被膜が表面機能層ないしは反射防止層を構成している。そして、上記組成物における有機ケイ素化合物と多孔質シリカ微粒子の割合は、前者が20〜90重量%、後者が10〜80重量%である。
【0007】
ここで用いる加水分解性有機ケイ素化合物は、加水分解性の基を分子内に少なくとも1個有し、ケイ素原子に有機基が結合した化合物であって、具体的には、次の式(I)で示すことができる。
【0008】
Si(R1)p(R2)4-p (I)
【0009】
式中、R1 は水素又は不活性な1価の有機基を表し、R2 は加水分解可能な官能基を表し、pは0〜3の整数を表す。
【0010】
式(I)においてR1 で表される不活性な1価の有機基として、典型的には、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、フェニルなどを包含するアリール基などが挙げられる。またR2 で表される加水分解可能な官能基としては、例えば、メトキシやエトキシなどを包含する炭素数1〜5のアルコキシ基、アセトキシやプロピオニルオキシのようなアシロキシ基、塩素原子や臭素原子のようなハロゲン原子、トリメチルシリルアミノのような置換シリルアミノ基などが挙げられる。よく知られている加水分解性の有機ケイ素化合物を大分類的に挙げると、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物、アシロキシシラン化合物、シラザン化合物などがある。これらの有機ケイ素化合物は、上記式(I)におけるR1 又はR2 の一部として、アリール基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基などの置換基を有していてもよい。
【0011】
具体的な加水分解性の有機ケイ素化合物としては、例えば、メチルトリクロロシランのようなハロゲン化シラン化合物、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、 γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランのようなアルコキシシラン化合物、ヘキサメチルジシラザンのようなシラザン化合物などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0012】
また加水分解性の有機ケイ素化合物は、ここに示したような単量体であってもよいし、2量体〜10量体程度のオリゴマー又は重合度が10を超えるポリマーのような多量体であってもよい。さらには、上記のような有機ケイ素化合物が加水分解された加水分解生成物であってもよい。加水分解生成物は、上記有機ケイ素化合物に、塩酸、リン酸、酢酸のような酸、又は水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムのような塩基を加えることにより、生成させることができる。
【0013】
もう一つの成分である多孔質シリカ微粒子は、多孔質になっているものであれば特に限定されないが、平均粒径が5nm〜10μm の範囲にあるものが好ましく用いられる。特に反射防止膜として被膜を形成する場合には、平均粒径が5nm〜100nmの範囲にある微粒子がより好ましい。粒径があまり小さい多孔質シリカ微粒子は工業的に製造することが困難であり、また粒径があまり大きくなると、被膜の透明性などの光学性能が低下するため、好ましくない。
【0014】
多孔質シリカは、屈折率が1.2〜1.4であり、通常のシリカ微粒子の屈折率1.46に比べて屈折率が低く、反射防止材料を形成するうえで好ましい。多孔質シリカは、アルコキシシランをアルカリの存在下で加水分解することにより得られる、高度に絡み合って枝分かれし、ポリマー状に生成したシリカであってもよいし、特開平 7-133105 号公報に示される方法などで製造され、表面が被覆された多孔質シリカであってもよい。特に後者、すなわち、表面が被覆されて二重構造になっている多孔質シリカ微粒子は、粒子の細孔入口が閉塞されて粒子内部の多孔性が保持され、また加水分解性有機ケイ素化合物又はその加水分解物との親和性も良好であることから、好ましく用いられる。
【0015】
この場合の被覆層は通常、シリカ(SiO2 )主体のもので構成される。具体的には、多孔質シリカ微粒子が分散したゾルに、テトラエトキシシラン(別名エチルシリケート)やテトラメトキシシラン(別名メチルシリケート)のようなアルコキシシランなどを、水、アルコール及び触媒としてのアルカリ又は酸とともに添加し、上記アルコキシシランなどを加水分解させて、多孔質シリカ微粒子の表面がこの加水分解重縮合物で被覆されるようにして、製造すればよい。
【0016】
加水分解性の有機ケイ素化合物と多孔質シリカ微粒子、特に表面が被覆された二重構造の多孔質シリカ微粒子が存在することで、基材に対する密着性が向上する。特に、基材としてメチルメタクリレート−スチレン共重合体を用いたときにはその効果が大きい。多孔質シリカ微粒子だけでは被膜は形成されないし、有機ケイ素化合物だけからなる被膜は、基材に対する密着性が不十分な場合がある。
【0017】
本発明においては、加水分解性の有機ケイ素化合物20〜90重量%、及び多孔質シリカ微粒子10〜80重量%の割合で用いる。多孔質シリカ微粒子の量が10重量%に満たないと、基材との密着性が低下する可能性があるほか、被膜の屈折率が小さくならず、多孔質シリカを添加する効果が発現されないので、好ましくない。一方、多孔質シリカ微粒子の量が80重量%を越えると、膜としての強度が低下するため、好ましくない。多孔質シリカ微粒子を添加することで反射防止膜を形成する場合には、被膜の屈折率が、好ましくは1.20〜1.43、より好ましくは1.25〜1.41となるように、多孔質シリカ微粒子の添加量を選択するのが好ましい。
【0018】
本発明に用いる基材は、透明なものであれば特に限定されないが、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、トリアセチルセルロース樹脂のような樹脂基材、また無機ガラスのような無機基材などが挙げられる。特に、メチルメタクリレート−スチレン共重合体は、吸湿による伸縮が小さく、反射防止板の基材として適している。
【0019】
基材は、板(シート)、フィルムなどのように、表面が平面のものであってもよいし、凸レンズや凹レンズなどのように、表面が曲面になっている基材であってもよい。また、表面に細かな凹凸が設けられていてもよい。基材が樹脂である場合には、その表面にハードコート層などの他の被膜が形成されていてもよい。
【0020】
本発明により有機ケイ素化合物と多孔質シリカ微粒子を含有する組成物を基材上に塗布するためには、これらの各成分を含む組成物を塗料として構成する必要がある。塗料には通常、本発明の構成物である有機ケイ素化合物や多孔質シリカ微粒子の他に、溶剤が含まれる。また、硬化を促進するために、酸やアルカリ、有機金属化合物や金属イオンなどの硬化触媒を含有させてもよいし、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、レベリング剤、界面活性剤などの各種添加剤を含有させてもよい。
【0021】
溶剤は、塗料の濃度や粘度、硬化後の膜厚などを調整するために使用される。用いる溶剤は、適宜選択すればよいが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノールのようなアルコール類、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノールのようなアルコキシアルコール類、ジアセトンアルコールのようなケトール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類などが挙げられる。溶剤の使用量は、基材の材質、形状、塗布方法、目的とする被膜の膜厚などに応じて適宜選択されるが、通常は、有機ケイ素化合物と多孔質シリカ微粒子の合計量100重量部当たり20〜10,000重量部程度の範囲である。
【0022】
かかる塗料を基材の表面に塗布することにより、有機ケイ素化合物と多孔質シリカ微粒子からなる被膜が形成される。基材の表面に塗料を塗布するには、通常と同様の方法、例えば、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ディッピングコート法、フローコート法、スピンコート法、ダイコート法、キャスト転写法、スプレーコート法などの方法により塗布すればよい。
【0023】
次いで、この被膜を加熱により硬化させる。加熱温度と時間は特に限定されないが、通常は50〜120℃の温度範囲で1分〜5時間程度が適用される。塗料が溶剤を含有する場合、加熱硬化は、被膜が溶剤を含有した状態のまま行ってもよいし、溶剤を揮発させた後に行ってもよい。溶剤を揮発させる場合には、室温で放置してもよいし、30〜100℃で加熱乾燥してもよい。乾燥時間は、基材の材質、形状、塗布方法、目的とする被膜の膜厚などに応じて適宜選択される。
【0024】
形成された硬化被膜は、膜厚が通常0.01〜20μmであり、より好ましくは0.01〜10μm である。膜厚が0.01μm に満たないと、硬化被膜としての特性を示しにくく、20μm より大きいと、密着性が低下したり、ひび割れ等の不良が発生する可能性があるので、好ましくない。特に反射防止膜として被膜を形成させる場合には、膜厚を0.01〜1μmの範囲とするのが好ましい。膜厚が0.01μmに満たなくても1μm を超えても、反射防止膜としての機能が低下しやすい。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。また、実施例で得た基材は、以下の方法で評価した。
【0026】
(1)反射スペクトル
基材の測定面側とは反対側の面をスチールウールで粗面化し、黒色ペンキを塗って乾燥し、次いで測定面の入射角度5°における絶対鏡面反射スペクトルを紫外線可視分光光度計〔“UV-3100”、(株)島津製作所製〕を用いて測定した。また、そのスペクトルから、反射率が最小値を示す波長とその反射率の最小値を求めた。
【0027】
(2)密着性
JIS K 5400 に規定される「碁盤目テープ法」に従って、反射防止層側の表面に設けた碁盤目100個当たりの剥離数で評価した。
【0028】
(3)耐擦傷性
消しゴム摩耗試験機〔(株)本光製作所製〕の消しゴム先端をガーゼで覆い、49N/cm2 の圧力を加えながら透明基材の表面を往復させて、目視で表面に傷が確認されるまでの往復回数で評価した。
【0029】
実施例1
表面がエチルシリケートの加水分解重縮合物で被覆された粒径20〜70nmの多孔質シリカ微粒子をイソプロピルアルコール中に20%濃度で分散させたゾルを100部、テトラエトキシシランを80部、イソプロピルアルコールを
4,240部、2−ブトキシエタノールを500部、及び0.1N塩酸
〔1,000cm3 当たり0.1モルのHClを含有する水溶液〕80部を混合し、分散させて塗料を得た。この塗料に、スチレン単位を約40%含むメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂板〔日本アクリエース(株)製の“アクリエースMS”〕を浸漬し、引上速度36cm/min でディップ塗布して、室温で5分以上乾燥させた後、80℃で20分間加熱し、反射防止性能を有する透明基材を得た。この透明基材の評価結果を表1に示した。また、この基材の反射スペクトルを図1に示した。この基材の被膜について、反射スペクトルから屈折率を計算すると、1.405 であり、同じく反射スペクトルから計算した膜厚は107nmであった。
【0030】
実施例2
塗料の組成を次のように変えた以外は、実施例1と同様にして、反射防止性能を有する透明基材を作製した。
【0031】
実施例1で用いたのと同じ多孔質シリカ微粒子の20%ゾル 150部
テトラエトキシシラン 70部
イソプロピルアルコール 4,210部
2−ブトキシエタノール 500部
0.1N塩酸 70部
【0032】
得られた透明基材の評価結果を表1に示した。また、この基材の反射スペクトルを図2に示した。この基材の被膜について、反射スペクトルから屈折率を計算すると、1.368 であり、同じく反射スペクトルから計算した膜厚は101nmであった。
【0033】
比較例1
塗料の組成を次のように変えた以外は、実施例1と同様にして、反射防止性能を有する透明基材を作製した。
【0034】
テトラエトキシシラン 100部
イソプロピルアルコール 4,300部
2−ブトキシエタノール 500部
0.1N塩酸 100部
【0035】
得られた透明基材の評価結果を表1に示した。また、この基材の反射スペクトルを図3に示した。この基材の被膜について、反射スペクトルから屈折率を計算すると、1.441 であり、同じく反射スペクトルから計算した膜厚は125nmであった。
【0036】
【表1】
【0037】
【発明の効果】
本発明の硬化被膜が形成された透明基材は、被膜の密着性に優れ、十分な硬度を備えている。また、その被膜は反射防止層としての機能も有するため、ディスプレイ等の保護板として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた透明基材の反射スペクトルを表す。
【図2】実施例2で得られた透明基材の反射スペクトルを表す。
【図3】比較例1で得られた透明基材の反射スペクトルを表す。
Claims (2)
- メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂基材の表面に、加水分解性有機ケイ素化合物20〜90重量%と表面を被覆された二重構造を有する多孔質シリカ微粒子10〜80重量%とを含む組成物からの硬化被膜が形成されていることを特徴とする透明基材。
- 硬化被膜が、1.20〜1.43の屈折率及び0.01〜1μmの膜厚を有し、反射防止機能を有する被膜である請求項1に記載の透明基材。
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