JP4185286B2 - 多孔質半導体層を用いた色素増感型太陽電池およびその製造方法 - Google Patents

多孔質半導体層を用いた色素増感型太陽電池およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機材料の光電変換機能を用いた、低コストで製造可能な高効率な色素増感型太陽電池およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
昨今、地球温暖化問題にも係り、化石燃料に代るエネルギー源として太陽光を電力に変換できる太陽電池が注目を集めている。現在、結晶系シリコン基板および非晶質系薄膜シリコンを用いた太陽電池を中心に一部で実用化が進んでいる。しかし、前者ではシリコン基板の製造コストが高いこと、後者では多種の半導体ガスや真空設備を含む複雑な製造装置を必要とすることから依然として製造コストが高いという課題が存在しており、上記問題を解決するには至っていない。
【0003】
このような状況のもと、低コスト化が可能な新しいタイプの太陽電池として、グレチェルらにより金属錯体の光誘起電子移動を応用した色素増感型太陽電池が提案された(例えば、特許第2664194号公報、J. Am. Chem. Soc.,115(1993)6382、Nature, 353(1991)737参照)。この色素増感型太陽電池は、電極が形成された2枚のガラス基板の電極間に、光電変換材料と電荷輸送層材料を用いて構成したものである。この光電変換材料の部分は、光増感色素が吸着された多孔質半導体層(例えば、TiO2薄膜)であり、可視光領域に吸収スペクトルを有している。このような色素増感型太陽電池の光電変換材料の部分に光が照射されると電子が発生し、電子は外部電気回路を通って対向する電極に移動する。対向電極に移動した電子は、電荷輸送層のイオンによって運ばれ光電変換材料部分に戻る。このようにして、電気エネルギーが取り出せる。
【0004】
このような動作原理のもと、高効率化に向けて様々な試みがなされている。一般に、太陽電池の光電変換効率を向上させるためには、短絡電流密度(Jsc)の向上が重要である。光電変換材料部分の多孔質半導体層としては、主にTiO2、ZnO、SnO2など酸化物半導体が検討され、光触媒作用の高いアナターゼ型TiO2薄膜を用いた場合に最も高い特性が得られている。このような中で、さらにJscを向上させるために、▲1▼光吸収量の大きな光増感色素の開発、▲2▼多孔質半導体層を形成する半導体粒子の粒径制御、▲3▼多孔質半導体層の膜厚の増大などが検討されている。
【0005】
しかしながら、▲1▼の光増感色素の開発に関しては、有機色素、金属錯体色素などについて精力的に調べられているものの、初期に報告されたRu系色素を上回る光増感色素は未だ発見されていない。
【0006】
また、▲2▼の多孔質半導体層を形成する半導体粒子の粒径制御は、多孔質半導体層への光増感色素の吸着量を増加させて、Jscを向上させることを目的としており、例えば特開2001−76772号公報などにその技術が開示されている。この技術によれば、金属酸化物からなる平均粒径200nm〜10μmの中空状粒子を多孔質酸化物半導体層に含ませることで、光増感色素および電荷輸送層を十分かつ容易に拡散および吸着させることが可能な酸化物半導体電極を提供できるとしている。しかしながら、このような粒径を有する中空状粒子を含ませても、半導体層の単位体積あたりの光増感色素吸着量には限界があり、Jscを十分に向上させるためには膜厚を増大させる以外に方法がなかった。
【0007】
▲3▼の多孔質半導体層の膜厚の増大に関しては、これにより、光増感色素吸着量や光吸収量は増加するものの、多孔質半導体層内の電気抵抗、および半導体電極と光増感色素との界面における接触抵抗成分が増加してしまうという課題が存在する。そのため、Jscの向上を目的として多孔質半導体層の膜厚を増大させても、曲線因子(FF)が低下してしまうために、光を有効に電気エネルギーに変換するには限界があり、高い光電変換効率(Effi)を得ることは困難であった。
【0008】
実際、従来技術により多孔質半導体層の膜厚を変化させた色素増感太陽電池を作製したところ、図12に示すように、膜厚の増大とともにJscは単調に増加した。しかし、膜厚の増大とともにFFが低下してしまうため、図13に示すように、膜厚の増大とともに変換効率はJscほどは増加しないことがわかった(比較例1参照)。
また、色素増感型太陽電池の実用化を考えた場合、単に変換効率を向上させるだけではなく、安定して歩留まりよく製造するために、アノード電極の特性を評価し、制御する必要がある。しかしながら、簡便で効果的なアノード電極の評価方法が存在しておらず、工業化の課題となっていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、FFを低下させることなくJscを向上させることで、高効率な色素増感型太陽電池を安定して歩留まりよく提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、導電性支持体と多孔質半導体層からなるアノード電極、光増感色素、電荷輸送層および対極側支持体から構成される色素増感型太陽電池に関し、度重なる形成実験を行った結果、アノード電極のカソードルミネッセンス特性を制御すること、およびアノード電極のヘイズ率Hを適切に制御することにより、低コストで高効率な色素増感型太陽電池を形成することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
ここで、「カソードルミネッセンス特性」とは、加速した電子線を照射することにより発生する発光現象のことであり、アノード電極を真空中に設置し、暗状態で多孔質半導体層の表面に電子線を照射し、発光スペクトルをフォトディテクターで検知することにより観測することができる。本発明において、「カソードルミネッセンス特性の発光ピーク波長が可視光領域に存在する」とは、カソードルミネッセンスの発光ピークが可視光領域(400〜700nm)に存在していることを意味する。
【0012】
また、「ヘイズ率H」とは、可視光領域にスペクトルを有する光線を対象物に入射したときの拡散透過率を全光線透過率で割った値であり、0〜1の間の値もしくは0〜100%の百分率で表示される。
【0013】
かくして、本発明によれば、導電性支持体(但し、蛍光材料または蓄光材料を有さない)と多孔質半導体層からなるアノード電極、光増感色素、電荷輸送層および対極側支持体から構成される色素増感型太陽電池において、前記多孔質半導体層がカソードルミネッセンス特性を有し、その発光ピーク波長が可視光領域に存在し、かつ前記多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60〜92%であることを特徴とする色素増感型太陽電池(以下、「第1発明」と称する)が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、前記多孔質半導体層が、式:α=S×H×c
(式中、Hは多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率(0.6<H<1)であり、Sは多孔質半導体層の比表面積[m2/g]であり、cは多孔質半導体層の面密度[g/m2]である)
で表される無次元量αが1000以上である条件を満足する上記の色素増感型太陽電池(以下、「第2発明」と称する)が提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、(a)基板上に透明電極層を形成して導電性支持体(但し、蛍光材料または蓄光材料を有さない)とし、前記導電性支持体上に多孔質半導体層を形成してアノード電極を得、その際、前記多孔質半導体層がカソードルミネッセンス特性を有し、その発光ピーク波長が可視光領域に存在し、かつ前記多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60%〜92%になるように、材質および形成条件を選定して前記多孔質半導体層を形成し、(b)前記多孔質半導体層の表面および/または内部に光増感色素を吸着させ、(c)基板上に対向電極層を形成して対極側支持体とし、前記導電性支持体のアノード電極と前記対極側支持体の対向電極層とを圧着し、それらの間に電荷輸送層を充填し、(d)任意に封止材を用いて前記電荷輸送層を封止して色素増感型太陽電池を製造することを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法(以下、「第3発明」と称する)が提供される。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の好適な実施形態について、図面を用いて以下に説明する。なお、以下の説明は一例であり、種々の形態での実施が本発明の範囲内で可能である。
【0017】
(実施形態1)
図10は、本発明の実施形態1における色素増感型太陽電池の概略断面図である。この色素増感型太陽電池は、導電性支持体10上に形成され、かつ光増感色素が吸着された多孔質半導体層20と対極側支持体40との間に電荷輸送層30が充填され、側面が封止材50で封止された構造である。図中、hνは光を示す。
【0018】
導電性支持体10は、基板11と透明電極層12から構成される。
基板11に用いられる材料は特に限定されず、公知の各種透明材料が挙げられ、ガラスが特に好ましい。
【0019】
また、透明電極層12に用いられる材料も特に限定されない。具体的には、フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In23:Sn)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)などに代表される透明導電性酸化物電極材料が好適に用いられる。
基板11上に透明電極層12を形成する方法としては、材料となる成分の真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法などの気相法、ゾルゲル法によるコーティング法などの公知の方法が挙げられる。透明導電性酸化物電極材料の材質および気相法の成膜条件を選定して、基板上に表面がフラットな透明電極層を形成することができる。
【0020】
多孔質半導体層20に用いられる材料はn型半導体であれば特に制限されない。具体的には、TiO2、SnO2、ZnO、Nb26、ZrO2、CeO2、WO3、SiO2、Al23、NiO、CuAlO2、SrCu22などの酸化物またはこれら複合酸化物が好適に用いられる。
【0021】
多孔質半導体層20は次のようにして形成することができる。
まず、材料となる半導体微粒子を用意し、その半導体微粒子を分散剤、有機溶媒、水などに加え、分散させて混合溶液を調製し、その混合溶液を導電性支持体10上に塗布する。塗布方法としては、ドクターブレード法、スキージ法、スピンコート法、スクリーン印刷法など公知の方法が挙げられる。その後、塗膜を400〜500℃程度の温度で焼成することにより、多孔質半導体層が得られる。
【0022】
多孔質半導体層を形成する際に、混合溶液の組成やその分散時間、塗膜の焼成温度を制御することにより、アノード電極がカソードルミネッセンス特性を有し、その発光ピーク波長が可視光領域に存在し、かつアノード電極の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60%以上、好ましくは80〜90%となるように制御することができる。
【0023】
ここで、「ヘイズ率H」について詳しく説明する。
ヘイズ率Hは、可視光領域にスペクトルを有する光線を対象物に入射したときの拡散透過率を全光線透過率で割った値であり、0〜1の間の値もしくは0〜100%の百分率で表示される。具体的には、アノード電極を構成する多孔質半導体層側から前記光線を照射し、全光線透過率および拡散透過率を測定することにより得られる。この測定は、光源と光量測定部を有する装置があれば簡単に測定することが可能な、簡便な評価方法である。
【0024】
可視光領域にスペクトルを有する光線としては、少なくとも可視光領域(400〜700nm)に強度を有する光線であれば、特に限定されない。例えば、昼光の代表的な光で、ISO、CIEの基準光である標準光源D65(色温度6504K)および北窓光線として代用される標準光源C(色温度6774K)が好適に用いられる。
実際には、測定試料に密着した積分球と、積分球の測定試料と反対側にライトトラップ(暗箱)または標準板を備えた装置を用いて測定することができる。すなわち、標準板をセットした状態において、試料がない場合の入射光線の光量T1、試料が有る場合の全光線透過光の光量T2を測定し、ライトトラップをセットした状態において、試料がない場合の装置からの拡散光の光量T3、試料がある場合の拡散透過光の光量T4を測定する。得られた値から全光線透過率Tt=T2/T1、拡散透過率Td=[T4−T3(T2/T1)]/T1を計算し、ヘイズ率H=Td/Ttを求める。
【0025】
得られた多孔質半導体層20の表面および/または内部に光増感色素を吸着させる。
光増感色素としては、少なくとも太陽光スペクトルの波長領域(200nm〜10μm)に吸収スペクトルを有し、光励起による電子を多孔質半導体層へ放出するものであれば、特に限定されない。
【0026】
例えば、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]などのルテニウム系金属錯体、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポリフィリン系色素、ベリレン系色素、フタロシアニン系色素、クマリン系色素、インジゴ系色素などの有機系光増感色素が好適に用いられる。
【0027】
光増感色素の吸着方法としては、例えば、光増感色素を含有する溶液の中に多孔質半導体層を浸漬する方法などが挙げられる。
光増感色素を含有する溶液は、光増感色素を適当な溶媒に溶解することにより得られる。溶媒としては、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物類などの公知の溶媒が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
光増感色素溶液の中の光増感色素濃度は、使用する光増感色素および溶媒の種類により適宜調整することができる。通常、その濃度は約1×10-6 mol/l以上、好ましくは5×10-6〜1×10-2 mol/l程度である。
光増感色素の吸着は、光増感色素溶液と多孔質半導体層を同一の密閉容器に入れ、光増感色素溶液を密閉空間内に循環させて行うのが好ましいが、単に大気圧下で光増感色素溶液に多孔質半導体層を約5分から100時間浸漬させるだけでもよい。
【0029】
対極側支持体40は、基板41と対向電極層42から構成される。
基板41に用いられる材料は、基板11と同様に、特に限定されず、公知の各種透明材料が挙げられ、ガラスが特に好ましい。
【0030】
また、対向電極層42に用いられる材料も特に限定されない。具体的には、白金、炭素、フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In23:Sn)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)などの電極材料およびこれらの複合電極材料が好適に用いられる。対向電極層42は、前記材料の単層膜、積層膜のいずれであってもよい。
基板41上に対向電極層42を形成する方法としては、材料となる成分の真空蒸着法、スバッタリング法、CVD法、PVD法などの気相法、ゾルゲル法によるコーティング法などの公知の方法が挙げらる。
【0031】
導電性支持体10上に形成され、かつ光増感色素が吸着された多孔質半導体層20と対極側支持体40との間に充填される電荷輸送層30としては、液状、ゲル状または固体状のイオン導電体、ホール輸送体および電子輸送体が挙げられる。
【0032】
液状のイオン導電体としては、例えば、ヨウ化テトラプロピルアンモニウムおよびヨウ素をアセトニトリルなど溶媒に溶解したヨウ素系イオン導電体や、ヨウ化リチウム、ヨウ素およびジメチルプロビルイミダゾリウムヨウ素を3−メトキシプロピオニトリルなどの溶媒に溶解したヨウ素系イオン導電体などが挙げられる。
【0033】
封止材50としては、電荷輸送層30が漏れ出さないように色素増感型太陽電池をシールできるものであれば、特に制限されない。具体的には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、電荷輸送層30として固体材料を用い、電荷輸送層の流出の心配がない場合には、封止材50は必ずしも必要ではない。
以上の構成により、実施形態1における色素増感型太陽電池が提供される。
【0034】
(実施形態2)
図11は、本発明の実施形態2における色素増感型太陽電池の概略断面図である。実施形態1との違いは、表面がフラットでヘイズ率Hがほぼゼロである透明電極層12(例えば、SnO2:F薄膜)を用いるのではなく、表面に凹凸が形成された、10〜30%程度のヘイズ率Hを有するような透明電極層12(例えば、SnO2:F薄膜)を採用する点である。透明電極層の表面に形成された凹凸は、Rmaxが0.1〜1μm程度である。
実施形態2の色素増感型太陽電池の構成とそれらの形成方法は、透明電極層12以外は実施形態1と同様であり、その詳細な説明を省略する。
【0035】
透明電極層12は、実施形態1に例示の透明導電性酸化物電極材料を用い、実施形態1に例示の公知の方法により形成することができる。
透明電極層12およびその表面の凹凸は、例えば、次のようにして形成することができる。
(1)透明導電性酸化物電極材料の材質および気相法の成膜条件を選定して、基板11上に透明導電性酸化物電極材料をランダムに結晶成長させて、表面に凹凸を有する透明電極層を形成する。具体的には、酸素や不活性ガスなどの成膜雰囲気、成膜温度などの条件を適宜設定して、ヘイズ率Hに係る凹凸を調整することができる。
(2)実施形態1と同様にして、フラットな透明電極層12を形成した後、酢酸、塩酸などの酸性水溶液を用いたエッチングの処理条件を選定して、表面に凹凸を有する透明電極層を形成する。具体的には、処理条件(主にエッチング時間)を適宜設定して、ヘイズ率Hに係る凹凸を調整することができる。
以上の構成により、実施形態2における色素増感型太陽電池が提供される。
【0036】
本発明の色素増感型太陽電池を製造するにあたり、ヘイズ率Hの測定は、透明電極層12の形成後または多孔質半導体層20の形成後に行うことができる。多孔質半導体層20の形成後、すなわち多孔質半導体層20に光増感色素を吸着させる前にヘイズ率Hを測定し、そのヘイズ率Hが60%以上の多孔質半導体層を選別するのであれば、特性の低い色素増感型太陽電池の製造を回避でき、高効率な色素増感型太陽電池を安定して歩留まりよく(低コストで)製造することができる。
【0037】
本発明の第1発明によれば、以下のような原理によりJscの向上と高いFFの両立が可能となるものと考えられる。
光散乱のない構造の導電性支持体を有する色素増感型太陽電池において、多孔質半導体層のヘイズ率Hを増大させると、光散乱により光増感色素への光照射回数が増加する。その結果、光増感色素における光吸収量が増加するために、多孔質半導体層の膜厚が一定で、かつ光増感色素の吸着量が一定の場合でも、ヘイズ率Hが高いほど高いJscを得ることができる。
【0038】
発明者らは、アノード電極のヘイズ率Hを制御した度重なる形成実験の結果、可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60%以上の場合に、Jscの向上が顕著であることを見出した。これは、光増感色素への光照射回数とヘイズ率Hの関係が単純な比例関係にある訳ではなく、ヘイズ率Hが増大するにつれて光増感色素への光照射回数もより増加する関係があるため、ヘイズ率Hが60%以上においては、光増感色素への光照射回数が急激に増加していくことに起因している。すなわち、アノード電極のヘイズ率Hを60%以上に制御することにより、高いJscを得ることができる。
【0039】
一方、多孔質半導体層のヘイズ率Hを単に増大させるだけでは、光散乱によりJscは向上するものの、アノード電極を流れる電荷の移動距離も増大するため、多孔質半導体内部の電気抵抗成分が増加してしまい、FFが低下してしまう可能性がある。そこで本発明者らは、カソードルミネッセンス特性に注目して検討を行い、アノード電極がカソードルミネッセンス特性を有すると、高いFFが得られることを見出した。
【0040】
一般に、多孔質半導体層の表面や内部には、化学量論組成比からの組成のずれに起因する欠陥準位や不純物に起因する準位などが禁制帯内部に存在している。多孔質半導体層に加速された電子線を照射した場合、電子線によって価電子帯から伝導帯に電子が励起され、禁制帯内部の準位に遷移した後、価電子帯のホールと再結合を起こす。多孔質半導体層の膜質が悪い場合には、発光を伴わずに再結合を起こすが、膜の結晶性などの品質が高まると真空中かつ暗状態で発光(カソードルミネッセンス特性)を伴った再結合を観測することができる。すなわち、カソードルミネッセンス特性を有するような多孔質半導体層は結晶性の高い高品質な膜であり、多孔質半導体層の膜厚が一定で光増感色素の吸着量が一定の場合でも、カソードルミネッセンス特性を有する膜は、それを有さない膜よりも内部抵抗による損失が小さく、高いFFを得ることができる。
【0041】
本発明の色素増感型太陽電池を実際に動作させる場合には、カソードルミネッセンス特性の発光ピークが可視光領域(400〜700nm)に存在しているので、禁制帯内部の準位は照射される太陽光(可視光)により価電子帯から励起される電子で占有され、多孔質半導体層の伝導帯にある電子は禁制体内部の準位へ遷移することができない。すなわち、上記の再結合過程は実際の使用状況では生じないため、再結合電流によるJscの低下は生じず、高いJscを得ることができる。
【0042】
また、多孔質半導体層ではなく、導電性支持体のヘイズ率Hを増大させることにより、光増感色素への光照射回数を増加させることもできる。
したがって、導電性支持体のヘイズ率Hの制御と多孔質半導体層のヘイズ率Hの制御を併せて行うことにより、更なるJscの向上、すなわち光電変換効率の向上が期待できる。一例として、屈折率2.0程度の酸化物透明導電膜(例えば、SnO2、ZnOなどに不純物が数%ドープされたもの)からなる導電性支持体、屈折率2.5程度のTiO2膜からなる多孔質半導体層との組み合わせからなる色素増感型太陽電池は、光学的には前述の作用がより顕著に表れる。
【0043】
本発明の第2発明によれば、第1発明に加えて、アノード電極が、式:
α=S×H×c
(式中、Hはアノード電極の可視光領域の波長におけるヘイズ率(0.6<H<1)であり、Sは多孔質半導体層の比表面積[m2/g]であり、cは多孔質半導体層の面密度[g/m2]である)
で表される無次元量αが1000以上である条件を満足する色素増感型太陽電池が提供される。
αは、膜の実効表面積に関係する物理量S×cと光増感色素分子への光照射回数に関係する物理量Hとの積であり、αが大きいほど、光増感色素での吸収が増加し、Jscが向上する。発明者らは、αを制御した度重なる形成実験の結果、αが1000以上、好ましくは1500の場合に、FFを低下させることなく、Jscの向上が顕著であることを見出した。また、αの上限は15000程度が好ましい。
【0044】
本発明の第3発明によれば、(a)基板上に透明電極層を形成して導電性支持体とし、導電性支持体上に多孔質半導体層を形成してアノード電極を得、その際、アノード電極がカソードルミネッセンス特性を有し、その発光ピーク波長が可視光領域に存在し、かつアノード電極の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60%以上になるように、材質および形成条件を選定してアノード電極を形成し、(b)多孔質半導体層の表面および/または内部に光増感色素を吸着させ、(c)基板上に対向電極層を形成して対極側支持体とし、導電性支持体のアノード電極と対極側支持体の対向電極層とを圧着し、それらの間に電荷輸送層を充填し、(d)任意に封止材を用いて電荷輸送層を封止して色素増感型太陽電池を製造するので、高効率な色素増感型太陽電池を安定して歩留まりよく(低コストで)製造することができる。
【0045】
ヘイズ率Hの測定は、薄膜中の光路長の目安を知る手段として、例えば非晶質シリコン系薄膜などを用いた太陽電池のTCOガラス基板の評価にも用いられている。しかし、真空プロセスを必要とする非晶質シリコン系太陽電池においては、製造に用いるガラス基板および非晶質シリコン系薄膜が形成された基板を直接評価することは簡便ではなく、プロセス上困難であった。また、非晶質シリコン系太陽電池の吸収係数は約105cm-1と大きく、ヘイズ率Hの制御によるJsc向上の効果がそれほど顕著ではなかった。
【0046】
一方、多孔質半導体層をアノード電極に用いる本発明の色素増感型太陽電池においては、光増感色素による光吸収係数が比較的小さいために、ヘイズ率Hの制御によるJsc向上効果が大きい。また、製造工程に真空プロセスを必要としないため、簡便にヘイズ率測定を行うことができる。特に、多孔質TiO2層をアノード電極に用いる場合には、TiO2微粒子の粒径やペーストの混合条件、焼成条件などを揃えても、形成される多孔質TiO2層の特性にはバラツキが生じやすかったため、本発明により、安定して歩留まりよく(低コストで)優れた色素増感型太陽電池を製造することができる。
【0047】
【実施例】
本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、以下の説明は一つの例にすぎず、種々の変更が可能であり、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
以下の実施例において、可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60〜92%の範囲外の多孔質半導体層およびそれを用いた色素増感型太陽電池は比較例である。
【0048】
(比較例1)
従来技術によるJsc向上の試みとして、多孔質半導体層の膜厚を変化させた場合の特性の変化について説明する。基本的に、特開2001−76772号公報に記載の方法に従って色素増感型太陽電池を作製した。その構造は、基本的に、図10に示す本発明の実施形態1における色素増感型太陽電池と同様である。
【0049】
導電性支持体10としては、ガラス基板11上に透明電極層12としてフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)薄膜をスパッタリング法により形成したものを用いた。そのシート抵抗値は10Ω/□であり、平坦な表面を有し、ヘイズ率Hは1%以下であった。
また、対極側支持体40にはガラス基板41上に対向電極層としてフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)薄膜および白金薄膜をスパッタリング法で積層させたものを用いた。そのシート抵抗値は10Ω/□であった。
【0050】
多孔質半導体層20の材料としては、TiO2を用いた。具体的には次のようにして多孔質半導体層20を形成した。まず、チタンイオンを含む硝酸溶液(チタンイオン濃度:2.0mol/l)315mlに、ケロシン185mlと少量の分散剤を加え、攪拌することでエマルションを調製し、このエマルションを、エマルション燃焼装置を用いて700℃で噴霧燃焼させることによりTiO2微粒子を得た。さらに、得られたTiO2微粒子を大気中400℃で4時間熱処理した。このTiO2微粒子3.0gに、アセチルアセトン0.1ml、イオン交換水6.0ml、界面活性剤(キシダ化学株式会社製、製品名:Triton−X)0.05mlを加え、混合してTiO2懸濁液を得た。そして、導電性支持体10上に粘着テープ(厚さ20〜120μm)を貼付し、バーコーターを用いて、TiO2懸濁液を1cm2の面積に塗布した後、乾燥し、450℃で30分の熱処理を行った。以上の方法により、導電性支持体10上に2〜25μmの膜厚を有する多孔質半導体層20を形成した。
【0051】
得られた導電性支持体10上の多孔質半導体層20について、真空中、暗状態において、カソードルミネッセンス特性の測定を行ったところ、発光は観測されなかった(図1参照)。また、ヘイズ率Hの測定を行ったところ、その膜厚によらず30〜58%のヘイズ率Hを有していた。
【0052】
ヘイズ率Hを測定した後、多孔質半導体層20に光増感色素を吸着させた。光増感色素には、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]を使用した。具体的には、光増感色素のエタノール溶液(光増感色素濃度1×10-4mol/l)に、TiO2の多孔質半導体層20を形成した基板を一昼夜浸漬することにより、光増感色素の吸着を行った。
【0053】
電荷輸送層30には、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨウ素0.6M、t−ブチルピリジン0.5Mおよび溶媒としてのメトキシプロピオニトリルから構成される電解液を用いた。
【0054】
封止材50には、熱接着性の樹脂フィルムを使用した。導電性支持体10と対極型支持体40を熱圧着させることにより色素増感型太陽電池のセルを構成し、対向電極側支持体に開けたφ0.5mmの空孔(注入孔)から電解液を注入した。その後、熱接着性の樹脂フィルムとプレパラート用のガラス板を用いてその注入孔を封止した。
【0055】
以上の方法により形成した色素増感型太陽電池のセルを、AM1.5の疑似太陽光スペクトルを有するソーラーシミュレータを用い、その電流−電圧特性を測定することにより光電変換特性を評価した。
図12に短絡電流密度Jscの膜厚依存性を、図13に変換効率Effiの膜厚依存性をまとめた。但し、Jscや変換効率は、変換効率が最大値をとったときの値で規格化して表示してある。
図12に示すように、Jscは膜厚の増大とともに単調に増加するものの、ある膜厚以上になると膜厚の向上とともにFFが低下してしまうため、膜厚を増大させJscを向上させても、図13に示すように変換効率には限界が存在していることがわかる。
【0056】
(実施例1)
この実施例では、実施形態1に対応して、多孔質半導体層20のカソードルミネッセンス特性およびヘイズ率Hを制御した場合について説明する。その構造は、図10に示す。また、多孔質半導体層の比表面積Sとヘイズ率Hと面密度cの組み合わせを選択することにより、特性の向上が可能となった実験結果についても併せて説明する。
【0057】
導電性支持体10としては、ガラス基板11上に透明電極層12としてフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)薄膜をスパッタリング法により形成したものを用いた。そのシート抵抗値は10Ω/□であり、平坦な表面を有しており、ヘイズ率Hは1%以下であった。
また、対極側支持体40にはガラス基板41上に対向電極層42としてフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)薄膜および白金薄膜をスパッタリング法で積層させたものを用いた。そのシート抵抗値は10Ω/□であった。
【0058】
多孔質半導体層20の材料としては、TiO2を用いた。具体的には次のようにして多孔質半導体層20を形成した。まず、TiO2微粒子(テイカ株式会社製、製品名:AMT−600、粒径約30nm)を用意し、界面活性剤(キシダ化学株式会社製、製品名:Triton−X)、ジルコニアビーズ(直径2mm)およびジエチレングリコールモノメチルエーテルと混合させ、ペイントシェーカーにより分散させることでTiO2懸濁液を調製した。重量混合比はTiO2濃度17.5%、Triton−X濃度1%に調整した。分散条件は、ジルコニアビーズを溶液40mlに対して100g加えた上で、ペイントシェーカーによる分散時間を30分から8時間まで変化させた。そして、ドクターブレード法を用いて、導電性支持体10の上にTiO2懸濁液を塗布し、疑似大気雰囲気中、500℃で30分間焼成を行い、多孔質半導体層20を形成した。
【0059】
得られた導電性支持体10上の多孔質半導体層20について、真空中、暗状態において、カソードルミネッセンス特性の測定を行った。真空度は1×10-6torr、5keVの加速電子線を照射させて測定を行ったところ、480nmにピーク波長をもつカソードルミネッセンススペクトル(カソードルミネッセンス特性)が観測された。TiO2懸濁液の分散時間を2時間とした場合のカソードルミネッセンススペクトルを図1に示す。
【0060】
得られた導電性支持体10および多孔質半導体層20について、標準光源C(色温度6774K)を用いてヘイズ率Hの測定を行った。TiO2懸濁液の分散時間が30分、2時間および8時間の形成条件の場合にヘイズ率Hは、それぞれ92%、70%および12%であった。このように分散時間を変化させることにより、8〜92%のヘイズ率Hを有する多孔質半導体層を形成することができた。
【0061】
カソードルミネッセンス特性およびヘイズ率Hを測定した後、多孔質半導体層20に光増感色素を吸着させた。光増感色素には、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]を使用した。具体的には、光増感色素のエタノール溶液(光増感色素濃度1×10-4mol/l)に、TiO2の多孔質半導体層20を形成した基板を一昼夜浸漬することにより、光増感色素の吸着を行った。
【0062】
電荷輸送層30には、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨウ素0.6M、t−ブチルピリジン0.5Mおよび溶媒としてのメトキシプロピオニトリルから構成される電解液を用いた。
【0063】
封止材50には、熱接着性の樹脂フィルムを使用した。導電性支持体10と対極型支持体40を熱圧着させることにより色素増感型太陽電池のセルを構成し、対向電極側支持体に開けたφ0.5mmの空孔(注入孔)から電解液を注入した。その後、熱接着性の樹脂フィルムとプレパラート用のガラス板を用いてその注入孔を封止した。
【0064】
以上の方法により形成した色素増感型太陽電池のセルを、AM1.5の疑似太陽光スペクトルを有するソーラーシミュレータを用い、その電流−電圧特性を測定することにより光電変換特性を評価した。
図2に短絡電流密度Jscのヘイズ率依存性を、図3に変換効率Effiのヘイズ率依存性をまとめた。但し、Jscや変換効率は、比較例1で得られた最大値でそれぞれ規格化して表示してある。
これらの結果から、多孔質半導体層のヘイズ率Hを60%以上に制御することにより、高いJscが得られ、またFFの低下が起らないため、色素増感型太陽電池の特性が高まることがわかる。
【0065】
色素増感型太陽電池を作製した後、これを分解し、導電性支持体10と光増感色素が吸着された多孔質半導体層20の部分のみを取り出し、1×10-3mol/lのNaOH水溶液で光増感色素を多孔質半導体層から脱着させた状態で、多孔質半導体層のカソードルミネッセンス特性の測定、および導電性支持体と多孔質半導体層のヘイズ率Hの測定を行ったところ、光増感色素を吸着させる前と同様に、480nm付近にピークを持つカソードルミネッセンススペクトル、および測定誤差の範囲内のヘイズ率Hが観測された。
【0066】
また、短絡電流密度Jscと、多孔質半導体層のヘイズ率をH(0<H<1)、比表面積をS[m2/g]、面密度をc[g/m2]としたとき、α=SHcで定義される無次元量αとの関係を図4に、変換効率Effiとαとの関係を図5に示す。この図からαが1000以上、好ましくは1500以上においてJscの向上が顕著であり、なおかつFFを維持しつつ、変換効率を向上させる効果を有することがわかる。
【0067】
(実施例2)
この実施例では、実施形態2に対応して、透明電極層12のヘイズ率Hを変化させた場合の特性について説明する。その構造は、図11に示す。また、多孔質半導体層の比表面積Sとヘイズ率Hと面密度cの組み合わせを選択することにより、特性の向上が可能となった実験結果についても併せて説明する。
【0068】
実施例1では、透明電極層12として、表面がフラットでヘイズ率Hがほぼゼロのフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)薄膜を用いたが、本実施例2では、表面に凹凸が形成されヘイズ率Hが0〜30%程度のヘイズ率Hを有するようなSnO2:F薄膜を採用した。透明電極層の表面の凹凸は、Rmaxが100〜400nm程度であった。透明電極層12以外は実施例1と同様の方法で作製したので、詳細な説明を省略する。
【0069】
次のようにして透明電極層12を形成した。まず、実施例1と同様にしてフラットなSnO2:F層12を形成した後、5%塩酸水溶液によってその表面のエッチングを行い、凹凸を形成した。より具体的には、エッチング時間を0〜240秒まで変化させることにより、0〜30%のヘイズ率Hを有する導電性支持体10を形成した。
【0070】
得られた導電性支持体10の上に、多孔質半導体層20を実施例1と同様の方法で形成した。その後、標準光源C(色温度6774K)を用いて、導電性支持体と多孔質半導体層のヘイズ率Hを測定した。導電性支持体10のヘイズ率Hを変化させることにより、12〜95%のヘイズ率Hを有する多孔質半導体層を形成することができた。
【0071】
ヘイズ率Hを測定した後、実施例1と同様にして、多孔質半導体層20に光増感色素を吸着させた。光増感色素には、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]を使用した。
【0072】
ガラス基板41上に、対向電極層42として白金/ITO薄膜を形成して、対向電極側支持体40を得た。得られた対向電極側支持体40と導電性支持体10との間に、電荷輸送層30としてヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨウ素0.6M、t−ブチルピリジン0.5Mおよび溶媒としてのメトキシプロピオニトリルから構成される電解液を注入し、封止材50として熱接着性の樹脂フィルムを用いて、電荷輸送層30を封止した。
【0073】
以上の方法により形成した色素増感型太陽電池のセルを、AM1.5の疑似太陽光スペクトルを有するソーラーシミュレータを用い、その電流−電圧特性を測定することにより光電変換特性を評価した。
図6に短絡電流密度Jscのヘイズ率依存性を、図7に変換効率Effiのヘイズ率依存性をまとめた。但し、Jscや変換効率は、比較例1で得られた最大値でそれぞれ規格化して表示してある。
【0074】
これらの結果から、導電性支持体と多孔質半導体層のヘイズ率Hを60%以上に制御することにより、高いJscが得られ、またFFの低下が起らないため、色素増感型太陽電池の特性が高まることがわかる。
また、透明電極層のヘイズ率Hの制御は、多孔質半導体層のヘイズ率Hの制御よりも容易に行えるので、この方法により制御性よく、変換効率の高い色素増感型太陽電池を提供することができる。
【0075】
また、短絡電流密度Jscと、導電性支持体と多孔質半導体層のヘイズ率をH(0.6<H<1)、多孔質半導体層の比表面積をS[m2/g]、面密度をc[g/m2]としたとき、α=SHcで定義される無次元量αとの関係を図8に、変換効率Effiとαとの関係を図9に示す。この図からαが1000以上、好ましくは1500以上においてJscの向上が顕著であり、なおかつFFを維持しつつ、変換効率を向上させる効果を有することがわかる。
【0076】
色素増感型太陽電池を作製した後、これを分解し、導電性支持体10と光増感色素が吸着された多孔質半導体層20の部分のみを取り出し、1×10-3mol/lのNaOH水溶液で光増感色素を多孔質半導体層から脱着させた状態で、導電性支持体と多孔質半導体層のヘイズ率Hの測定を行ったところ、光増感色素を吸着させる前と測定誤差の範囲内のヘイズ率Hが観測された。
【0077】
【発明の効果】
本発明の色素増感型太陽電池は、可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60%以上であり、カソードルミネッセンスの発光ピークが可視光領域(400〜700nm)に存在する多孔質半導体層から構成されるアノード電極を用いるので、Jscの向上と高いFFの両立が可能となる。
【0078】
すなわち、ヘイズ率Hを60%以上に制御することにより、光増感色素への光照射回数が増加し、光吸収量が増加し、Jscが著しく向上する。また、カソードルミネッセンス特性を有するような多孔質半導体層は結晶性の高い高品質な膜であり、多孔質半導体層の膜厚が一定で吸着光増感色素量が一定の場合でも、カソードルミネッセンス特性を有さない膜よりも内部抵抗による損失が小さい。つまり、FFを低下させることなくJscを向上させることで、高効率な色素増感型太陽電池を提供することができる。特に、本発明の色素増感型太陽電池は、カソードルミネッセンスの発光ピークが可視光領域に存在しているため、再結合過程は実際の使用状況では生じないため、再結合電流によるJscの低下は生じず、高いJscを得ることができる。
【0079】
また、本発明の色素増感型太陽電池は、アノード電極が、式:
α=S×H×c
(式中、Hはアノード電極の可視光領域の波長におけるヘイズ率(0.6<H<1)であり、Sは多孔質半導体層の比表面積[m2/g]であり、cは多孔質半導体層の面密度[g/m2]である)
で表される無次元量αが1000以上である条件を満足するように制御する。αは膜の実効表面積に関係する物理量Scと光増感色素分子への光照射回数に関係した物理量であるヘイズ率Hとの積であることから、FFを低下させることなくJscを向上させることで、高効率な色素増感型太陽電池を提供することができる。
【0080】
さらに、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法は、アノード電極がカソードルミネッセンス特性を有し、その発光ピーク波長が可視光領域に存在し、かつアノード電極の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60%以上になるように、材質および形成条件を選定してアノード電極を形成し、また多孔質半導体層を形成した後に(多孔質半導体層に光増感色素を吸着させる前に)、多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hを測定し、そのヘイズ率が60%以上の多孔質半導体層を選別し、選別した多孔質半導体層を用いて色素増感型太陽電池を製造するので、高効率な色素増感型太陽電池を、安定して歩留まりよく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1(実施形態1)および比較例1(従来例)における色素増感型太陽電池の多孔質半導体層のカソードルミネッセンススペクトルを示す図である。
【図2】実施例1(実施形態1)における色素増感型太陽電池の規格化した短絡電流密度Jscとヘイズ率Hの関係を示す図である。
【図3】実施例1(実施形態1)における色素増感型太陽電池の規格化した変換効率Effiとヘイズ率Hの関係を示した図である。
【図4】実施例1(実施形態1)における色素増感型太陽電池の規格化した短絡電流密度Jscとαの関係を示す図である。
【図5】実施例1(実施形態1)における色素増感型太陽電池の規格化した変換効率Effiとαの関係を示す図である。
【図6】実施例2(実施形態2)における色素増感型太陽電池の規格化した短絡電流密度Jscとヘイズ率Hの関係を示す図である。
【図7】実施例2(実施形態2)における色素増感型太陽電池の規格化した変換効率Effiとヘイズ率Hの関係を示した図である。
【図8】実施例2(実施形態2)における色素増感型太陽電池の規格化した短絡電流密度Jscとαの関係を示す図である。
【図9】実施例2(実施形態2)における色素増感型太陽電池の規格化した変換効率Effiとαの関係を示す図である。
【図10】本発明の実施形態1(実施例1)における色素増感型太陽電池の概略断面図である。
【図11】本発明の実施形態2(実施例2)における色素増感型太陽電池の概略断面図である。
【図12】比較例1(従来例)における色素増感型太陽電池の規格化したJscと多孔質半導体層の膜厚の関係を示す図である。
【図13】比較例1(従来例)における色素増感型太陽電池の規格化した変換効率Effiと多孔質半導体層の膜厚の関係を示す図である。
【符号の説明】
10 導電性支持体
11 基板
12 透明電極層
20 多孔質半導体層
30 電荷輸送層
40 対極側支持体
41 基板
42 対向電極層
50 封止材

Claims (8)

  1. 導電性支持体(但し、蛍光材料または蓄光材料を有さない)と多孔質半導体層からなるアノード電極、光増感色素、電荷輸送層および対極側支持体から構成される色素増感型太陽電池において、前記多孔質半導体層がカソードルミネッセンス特性を有し、その発光ピーク波長が可視光領域に存在し、かつ前記多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60〜92%であることを特徴とする色素増感型太陽電池。
  2. 前記ヘイズ率Hが、80〜90%である請求項1に記載の色素増感型太陽電池。
  3. 前記多孔質半導体層が、式:α=S×H×c
    (式中、Hは多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率(0.6<H<1)であり、Sは多孔質半導体層の比表面積[m2/g]であり、cは多孔質半導体層の面密度[g/m2]である)
    で表される無次元量αが1000以上である条件を満足する請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池。
  4. 前記無次元量αが、1500以上である請求項3に記載の色素増感型太陽電池。
  5. 前記光増感色素が、前記多孔質半導体層の表面および/または内部に吸着されている請求項1〜4のいずれか1つに記載の色素増感型太陽電池。
  6. (a)基板上に透明電極層を形成して導電性支持体(但し、蛍光材料または蓄光材料を有さない)とし、前記導電性支持体上に多孔質半導体層を形成してアノード電極を得、その際、前記多孔質半導体層がカソードルミネッセンス特性を有し、その発光ピーク波長が可視光領域に存在し、かつ前記多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hが60%〜92%になるように、材質および形成条件を選定して前記多孔質半導体層を形成し、(b)前記多孔質半導体層の表面および/または内部に光増感色素を吸着させ、(c)基板上に対向電極層を形成して対極側支持体とし、前記導電性支持体のアノード電極と前記対極側支持体の対向電極層とを圧着し、それらの間に電荷輸送層を充填し、(d)任意に封止材を用いて前記電荷輸送層を封止して色素増感型太陽電池を製造することを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法。
  7. 前記基板上に前記透明電極層を形成する際に、(1)透明導電性酸化物電極材料の材質および気相法の成膜条件を選定して、前記基板上に表面がフラットな前記透明電極層を形成するか、(2)透明導電性酸化物電極材料の材質および気相法の成膜条件を選定して、前記基板上に前記電極材料をランダムに結晶成長させて、表面に凹凸を有する前記透明電極層を形成するか、あるいは(3)前記工程(1)により前記透明電極層を形成した後、酸性水溶液を用いたエッチングの処理条件を選定して、表面に凹凸を有する前記透明電極層を形成する請求項6に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
  8. 前記工程(a)または前記工程(b)の後に、前記多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率Hを測定し、そのヘイズ率Hが60〜92%の多孔質半導体層を選別する請求項6または7に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
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