JP4183526B2 - 表面微細構造光学素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、基板表面の微細構造によって反射防止や偏光分離等々の各種の光学特性を実現する表面微細構造光学素子およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、ディスプレイ等に用いられるプラスティック基板の反射防止(AR)素子や、ディスク等の光記録媒体への情報記録、あるいは光記録媒体からの情報再生を行うための光ピックアップ部に用いられる偏光分離素子としては従来、特許文献1、2に見られるような多層膜構造を用いた光学素子が知られている。
【0003】
このような光学素子は通常、屈折率の異なる各種の膜を多層膜として基体上に積層し、それら積層した多層膜の総合的な光学特性を利用して、上述のAR機能や、例えばP偏光およびS偏光に対する偏光分離機能を実現している。
【0004】
なお周知のように、AR機能とは、入射光の反射や散乱を抑えてその透過率を高める機能である。また、偏光分離機能とは、入射面に平行な偏光面を有するP偏光および入射面に垂直な偏光面を有するS偏光に対し、その一方を透過させ、他方を反射させる、などの態様をもって偏光分離を行う機能である。
【0005】
その他、光学フィルタや位相差板等の光学素子にあっても、上記多層膜構造を用いたものでは、上記積層される多層膜の総合的な光学特性を利用して、それら所望とされる光学特性が実現されることとなる。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−312330号公報
【特許文献2】
特開2000−76685号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記多層膜構造を用いた光学素子にあっては、それら多層膜を構成する各層の膜厚を制御することで、それぞれ所望とされる光学特性を得ることは確かに可能ではある。しかし実情としては、それら各層の膜厚の制御自体が難しく、また成膜条件によっては屈折率にもばらつきが生じ、必ずしも理想とされる光学特性が得られるとは限らない。しかも、上述の多層膜を構成することのできる膜材自体が限られており、設計の自由度の面でもなお課題を残すものとなっている。
【0008】
一方、近年は、半導体加工技術や電子ビーム加工技術の進歩により、光の波長以下の、いわゆるサブミクロンオーダーでの微細加工や微細成形が可能になってきている。そして、上述した各種の光学特性も、素子(基板)表面において回折格子を形成する各種の微細構造、微細パターンによって、その実現が可能になりつつある。
【0009】
ただし、このような微細構造、微細パターンの形成に際しては、その繰り返しピッチに対してより深いパターン深さを有する、いわゆる高アスペクト比の実現が、それぞれ所望とされる光学特性を得る上では不可避である。ところが、特に上記サブミクロンオーダーでの微細加工となると、こうした高アスペクト比にて構造体を製作すること自体、技術的にも、そしてコストの面でも困難である。
【0010】
また一方、相応のコストをかけてでも、所望とする光学特性を実現することのできる高アスペクト比の構造体さえひとたび得られれば、それをマスタ(原器)として金型を製作し、射出成形などのモールディング技術によって、低コストの透明プラスティック光学素子を量産することなども検討されている。
【0011】
しかし、たとえ高アスペクト比にて高い精度のマスタが製作できたとしても、上記金型を製作する段階で、更には上記モールディング化する段階で自ずとその精度(アスペクト比)が低下し、上記低コストの透明プラスティック光学素子として、実用に供し得る光学素子は未だ得られていないのが実情である。
【0012】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、たとえモールディング技術等を併用して低コスト化を図る場合であれ、実用に供し得るアスペクト比を有して、所望とされる光学特性を実現することのできる表面微細構造光学素子およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
こうした目的を達成するため、請求項1に記載の表面微細構造光学素子では、基板表面の微細構造により有効屈折率を変化させて所望とされる光学特性を実現する表面微細構造光学素子として、前記微細構造を有する基板表面に、同基板の材料の屈折率よりも高い屈折率を有する膜材を成膜する構造としている。
【0014】
一般に、こうした基板表面の微細構造を利用した表面微細構造光学素子では、基板(透明プラスティック等の光透過性基板)の表面に形成される微細パターンの繰り返しピッチは、入射光線の波長と同程度もしくはそれ以下に設定される。そして、それらパターンの回折現象を利用して、上述したAR機能や偏光分離機能等の所望とされる光学特性が実現される。ただし、このような光学素子を金型を用いたモールディング技術等によって量産しようとすると、これも上述のように、要求されるアスペクト比が得られず、実用には供し得ないものとなる。
【0015】
この点、請求項1に記載の光学素子によれば、モールディング技術の併用に起因するアスペクト比の低下が、機械的に、すなわちアスペクト比そのものを高めるかたちで補償される。
【0026】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
図1〜図4に、この発明にかかる表面微細構造光学素子およびその製造方法について、その第1の実施の形態を示す。
【0027】
この第1の実施の形態にかかる光学素子は、表面微細構造光学素子として前記AR(反射防止、あるいは無反射)機能を実現する光学素子についてその一例を示したものである。以下では説明の便宜上、該光学素子の製造方法についてまず説明する。
【0028】
さて、この実施の形態にかかる表面微細構造光学素子の製造は、
(A)基板表面にレジストを塗布して微細構造とするパターンを描画、現像した後、適宜のマスクを形成し、該形成したマスクをもとにエッチングを行って微細構造を有するマスタ(原器)を製作する(図1および図2)。
(B)この製作されたマスタを用い、電鋳によって、上記微細構造のスタンパとなる金型を製作する(図3)。
(C)この製作された金型を用いたモールディングによって、表面に微細構造が複製された透明プラスティック光学素子を生成する(図4(a))。
(D)この生成された透明プラスティック光学素子の表面に、該プラスティック材料よりも屈折率の高い膜材を成膜する(図4(b))。
といった、大きくは4つの工程を経て行われる。
【0029】
はじめに、上記(A)の工程であるマスタ(原器)を製作する工程について、図1および図2を参照して詳述する。
このマスタ(原器)の製作に際してはまず、図1(a)に示されるように、例えばシリコン(Si)、または石英等からなる基板10にレジスト12を塗布する。そして、このレジスト12に、電子ビーム描画や二光束干渉露光等によって上記微細構造とするパターンを描画し、現像することにより、図1(b)に示される態様で上記描画したパターンに対応するレジストパターンを得る。
【0030】
次に、図1(c)に示される態様で、上記パターンの表面からクロム(Cr)の蒸着を行うとともに、リフトオフによってクロム(Cr)膜13のみを残し、上記パターン描画したレジスト12についてもこれを除去する。これによって、図1(d)に示されるように、基板10の上に、上記クロム(Cr)膜13からなるマスクが形成されるようになる。ちなみにこのマスクパターンは、光の波長以下のサブミクロンオーダーの微細パターン、具体的にはその繰り返しピッチPが「250nm」である2次元のパターンとなっている。すなわち、これを平面方向から見た場合には、上記繰り返しピッチPを有するマトリクス状のパターンとなっている。
【0031】
そしてその後、上記クロム(Cr)膜13をマスクとして、図1(d)に示す基板10の表面10aに対するエッチングを開始する。ちなみにこのエッチングは、反応性イオンエッチングによって行われ、その反応ガスとしては、C4F8とCH2F2を所定の割合で混合したものを用いている。なお、この反応ガスとしては、CHF3を単独で用いてもよい。C4F8とCH2F2との混合ガスを用いた場合のエッチング条件は次の通りとなっている。
ガス圧力 :0.5Pa
アンテナパワー :1500W
バイアスパワー :450W
C4F8/CH2F2 :16/14sccm
エッチング時間 :60sec
ここで、アンテナパワーとは、プラズマ生成のためにエッチング装置内のアンテナに印加される高周波電力であり、またバイアスパワーとは、基板10の上にプラズマを引き込むために印加される高周波電力である。また、上記反応ガス中のCH2F2の混合割合は、10〜50%の間で調整することができる。ちなみに、このCH2F2の濃度がこの割合よりも低い場合には、後述するエッチング形状のテーパ角が大きくなりすぎ、アスペクト比が「1.0」以下になってしまう。また逆に、このCH2F2の濃度がこの割合よりも高い場合には、同エッチング形状のテーパ部分が丸みを帯びて「U字形状」となってしまう。
【0032】
図2(a)〜(c)は、このようなエッチングの実行に際し、その進行態様を順次模式的に示したものである。これら図2(a)〜(c)に示されるように、エッチングが進むにつれて、マスクとなっているクロム(Cr)膜13も徐々にエッチングされてその径が減少する。そして最終的には、図2(c)に示される態様で、基板10の表面に所定のテーパ角からなる多数の円錐状の突起(凸部)10bを有する微細構造が形成されるようになる。なお、本実施の形態においては、これら円錐状の突起(凸部)10bの深さT1が「500nm」となるように、上記エッチング条件(上記反応ガス中のCH2F2の混合割合等)を定めている。
【0033】
以上の各処理を経て、図2(d)にその斜視構造を示すような表面微細構造を有するマスタ(原器)が製作される。
こうしてマスタ(原器)の製作を終えると、次に、上記(B)の工程として、例えばニッケル(Ni)を用いた電鋳工程により、図3に示す態様で、このマスタ(原器)を用いた金型15を製作する。
【0034】
ちなみにこの電鋳工程では、上記マスタ(原器)に対し、スパッタリング法にてニッケル(Ni)の薄膜を数百Åの膜厚にて形成して、これを導電膜とする。次いで、このニッケル(Ni)薄膜からなる導電膜に直接ニッケル(Ni)電鋳を行って、該ニッケル(Ni)からなる金属層を析出積層させる。そして、この析出積層させたニッケル(Ni)からなる金属層を上記マスタ(原器)から剥離して、上記金型15とする。
【0035】
このような電鋳加工により、金型15には、マスタ(原器)の微細構造(微細パターン)が反転されるかたちで、そのパターンがほぼ忠実に転写されることとなる。ちなみにこの電鋳加工では、「0.1μm」の凹凸まで転写が可能である。
【0036】
次に、このようにして製作した金型15を射出成形機(図示略)に取り付け、上記(C)の工程として、該射出成形によるモールディングを行い、表面に微細構造が複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)を生成する。そして最後に、上記(D)の工程として、この生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の表面に、このプラスティック材料よりも屈折率の高い膜材を成膜する。
【0037】
以下、図4を参照して、これら各工程での処理を更に詳述するともに、本実施の形態にかかる表面微細構造光学素子について、その構造を詳述する。
上記(C)の工程でのモールディングによって、かなりの精度での転写性は得られるものの、実情としては、上記金型15自体の転写精度とも相俟って、上記マスタ(原器)の微細構造(微細パターン)を100%復元することは難しい。このため、上記複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)も、実際には図4(a)に示されるように、プラスティック基板100の表面に復元された多数の円錐状の突起(凸部)100bの深さT2が、マスタ(原器)の突起(凸部)10bの深さT1(500nm)に比べて縮小されている。すなわち、アスペクト比が低下している。
【0038】
そこで、この実施の形態では、上記(D)の工程として、この生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の表面に、このプラスティック材料よりも屈折率の高い膜材を成膜することによって、こうしたアスペクト比の低下を補うようにしている。なお、転写率は、各種成形方法により異なる。
【0039】
具体的には、図4(b)に示される態様で、上記透明プラスティック光学素子(レプリカ)とするプラスティック基板100の表面に、スパッタリング法にて二酸化チタン(TiO2)膜110を成膜する。なお、この膜厚T3は、アスペクト比を補償する膜厚、例えば「100nm」以上で且つ、上記微細構造を損なわない程度の膜厚に設定される。なお、通常のスパッタリング法による成膜では均一な成膜が困難であるような場合には、例えばコリメートスパッタリングなど、スパッタリングの運動方向を制限する成膜技術も適宜採用することができる。このコリメートスパッタリングでは、ターゲットと基板との間にグリッドや多孔板を設けることによって、成膜材料(ターゲット)から飛び出した原子を基板に垂直に入射させることが可能となり、ひいてはより均一な成膜が可能となる。
【0040】
また、この実施の形態では、上記透明プラスティック光学素子(レプリカ)とするプラスティック基板100として、例えば屈折率が「1.49」であるPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を使用し、このPMMAからなるプラスティック基板100に上記二酸化チタン(TiO2)膜110を成膜するものとする。二酸化チタン(TiO2)膜110はその屈折率が約「2.25」と、PMMAの屈折率よりも十分に高いため、上記透明プラスティック光学素子(レプリカ)としてのアスペクト比も実質的に高められるようになる。換言すれば、上述したモールディング技術の併用に起因する微細構造のアスペクト比の低下が、これら屈折率の違いによっていわば擬似的に補償されるようになる。そしてその結果、こうしたAR素子としての反射防止効果が得られることが発明者らによって確認されている。
【0041】
また一方、この実施の形態では、上記二酸化チタン(TiO2)膜110として、いわゆるアナターゼ結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2)を成膜することとしている。このアナターゼ結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2)は、光の入射に伴って有機物を分解し、これを無害化する、いわゆる光触媒として機能するため、上記生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の素子表面の汚れ等に対する防汚機能も併せて実現されるようになる。
【0042】
以上説明したように、この第1の実施の形態にかかる表面微細構造光学素子、およびその製造方法によれば、以下に列記するような優れた効果が得られるようになる。
【0043】
(1)微細構造を有するプラスティック基板100の表面に、該プラスティック基板100の屈折率よりも高い屈折率を有する二酸化チタン(TiO2)膜110を成膜することとした。これにより、上記微細構造のアスペクト比の低下が、このプラスティック基板100よりも屈折率の高い二酸化チタン(TiO2)膜110によって補われるかたちで回折現象が生じるようになり、十分に実用に供し得るレベルで、所望とされるAR機能を実現することができる。
【0044】
(2)上記二酸化チタン(TiO2)膜110として、光触媒効果を併せ備えるアナターゼ結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2)を用いることとした。このため、素子表面の汚れ等に対する防汚機能も併せて実現される。
【0045】
(3)また、こうした表面微細構造光学素子の製造方法として、アスペクト比の高い、高精度の微細構造を有するマスタ(原器)をまず製作し、その金型を採取した上で、射出成形によるモールディングを行い、表面に上記微細構造が複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)を生成した。そして、この生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の表面に、上記二酸化チタン(TiO2)膜110を成膜した。これにより、上記十分に実用に供し得るレベルで所望とされるAR機能を実現することのできる表面微細構造光学素子を、より低コストで、しかも安定して量産することができる。
【0046】
(第2の実施の形態)
図5〜図8に、この発明にかかる表面微細構造光学素子およびその製造方法について、その第2の実施の形態を示す。
【0047】
この第2の実施の形態にかかる光学素子は、表面微細構造光学素子として前記偏光分離機能を実現する光学素子についてその一例を示したものである。以下でも説明の便宜上、該光学素子の製造方法についてまず説明する。
【0048】
この実施の形態にかかる表面微細構造光学素子の製造も、基本的には先の第1の実施の形態と同様である。すなわち、
(A)基板表面にレジストを塗布して微細構造とするパターンを描画、現像した後、適宜のマスクを形成し、該形成したマスクをもとにエッチングを行って微細構造を有するマスタ(原器)を製作する(図5および図6)。
(B)この製作されたマスタを用い、電鋳によって、上記微細構造のスタンパとなる金型を製作する(図7)。
(C)この製作された金型を用いたモールディングによって、表面に微細構造が複製された透明プラスティック光学素子を生成する(図8(a))。
(D)この生成された透明プラスティック光学素子の表面に、該プラスティック材料よりも屈折率の高い膜材を成膜する(図8(b))。
といった、大きくは4つの工程を経て行われる。
【0049】
はじめに、上記(A)の工程であるマスタ(原器)を製作する工程について、図5および図6を参照して詳述する。
このマスタ(原器)の製作に際してもまず、図5(a)に示されるように、例えばシリコン(Si)、または石英等からなる基板20にレジスト22を塗布する。そして、このレジスト22に、電子ビーム描画や二光束干渉露光等によって上記微細構造とするパターンを描画し、現像することにより、図5(b)に示される態様で上記描画したパターンに対応するレジストパターンを得る。
【0050】
次に、図5(c)に示される態様で、上記パターンの表面からクロム(Cr)の蒸着を行うとともに、リフトオフによってクロム(Cr)膜23のみを残し、上記パターン描画したレジスト22についてもこれを除去する。これによって、図5(d)に示されるように、基板20の上に、上記クロム(Cr)膜23からなるマスクが形成されるようになる。ちなみにこのマスクパターンも、光の波長以下のサブミクロンオーダーの微細パターン、具体的にはその繰り返しピッチP2が「450nm」である、特にここではライン状のパターンとなっている。
【0051】
そしてその後、上記クロム(Cr)膜23をマスクとして、図5(d)に示す基板20の表面20aに対するエッチングを開始する。ちなみにこのエッチングは、反応性イオンエッチングによって行われ、その反応ガスとしては、C4F8とCH2F2を所定の割合で混合したものを用いている。なお、この反応ガスとしては、CHF3を単独で用いてもよい。C4F8とCH2F2との混合ガスを用いた場合のエッチング条件は次の通りとなっている。
ガス圧力 :0.4Pa
アンテナパワー :1000W以上
バイアスパワー :100〜500W
C4F8/CH2F2 :10〜30/10〜20sccm
エッチング時間 :200〜290sec
ここで、アンテナパワーとは、プラズマ生成のためにエッチング装置内のアンテナに印加される高周波電力であり、またバイアスパワーとは、基板10の上にプラズマを引き込むために印加される高周波電力である。また、上記反応ガス中のCH2F2の混合割合は、10〜50%の間で調整することができる。ちなみに、このCH2F2の濃度がこの割合よりも低い場合には、後述するエッチング形状のテーパ角が大きくなりすぎ、アスペクト比が「1.0」以下になってしまう。また逆に、このCH2F2の濃度がこの割合よりも高い場合には、同エッチング形状のテーパ部分が丸みを帯びて「U字形状」となってしまう。
【0052】
図6(a)は、このようなエッチングの進行態様を模式的に示したものであり、該エッチングによる溝の深さT5が「700nm」に達したところで、エッチングを終了し、図6(b)に示されるように、上記マスクとしたクロム(Cr)膜23を除去する。
【0053】
以上の各処理を経て、図6(c)にその斜視構造を示すような表面微細構造を有するマスタ(原器)が製作される。
こうしてマスタ(原器)の製作を終えると、次に、上記(B)の工程として、ここでも例えばニッケル(Ni)を用いた電鋳工程により、図7に示す態様で、このマスタ(原器)を用いた金型25を製作する。すなわち、マスタ(原器)に数百Åの膜厚のニッケル(Ni)からなる導電膜を形成し、この導電膜に直接ニッケル(Ni)電鋳を行うことで、ニッケル(Ni)からなる金属層を析出積層させる。そして、この析出積層させたニッケル(Ni)からなる金属層を上記マスタ(原器)から剥離して、上記金型25とする。
【0054】
こうした電鋳加工によって形成される金型25にもまた、マスタ(原器)の微細構造(微細パターン)が反転されるかたちで、そのパターンがほぼ忠実に転写されることとなる。ちなみにこの電鋳加工では、「0.1μm」の凹凸まで転写が可能である。
【0055】
次に、このようにして製作した金型25を射出成形機(図示略)に取り付け、上記(C)の工程として、該射出成形によるモールディングを行い、表面に微細構造が複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)を生成する。そして最後に、上記(D)の工程として、この生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の表面に、このプラスティック材料よりも屈折率の高い膜材を成膜する。
【0056】
以下、図8を参照して、これら各工程での処理を更に詳述するともに、本実施の形態にかかる表面微細構造光学素子について、その構造を詳述する。
この実施の形態の上記(C)の工程におけるモールディングによってもかなりの精度での転写性は得られるものの、また実際の転写率は成形条件や成型方法等により異なりはするものの、実情としては、上記金型25自体の転写精度とも相俟って、上記マスタ(原器)の微細構造(微細パターン)を100%復元することは難しい。このため、上記複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)も、実際には図8(a)に示されるように、プラスティック基板200の表面に復元された多数の矩形状の突起(凸部)200bの深さT6が、マスタ(原器)の突起(凸部)20bの深さT5(700nm)に比べて縮小されている。すなわち、アスペクト比が低下している。
【0057】
そこで、この実施の形態においても、上記(D)の工程として、この生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の表面に、このプラスティック材料よりも屈折率の高い膜材を成膜することによって、こうしたアスペクト比の低下を補うようにする。
【0058】
具体的には、図8(b)に示される態様で、上記透明プラスティック光学素子(レプリカ)とするプラスティック基板200の表面、すなわち、矩形状の突起(凸部)200bの上面および底面に、スパッタリング法にて二酸化チタン(TiO2)膜210を成膜する。なお、この膜厚T7は、例えば「100nm」以上で且つ、上記微細構造を損なわない程度の膜厚に設定される。なお、通常のスパッタリング法による成膜では均一な成膜が困難であるような場合には、上述した例えばコリメートスパッタリングなど、スパッタリングの運動方向を制限する成膜技術も適宜採用することもできる。
【0059】
また、この実施の形態においても、上記透明プラスティック光学素子(レプリカ)とするプラスティック基板200として、例えば屈折率が「1.49」であるPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を使用している。そして、このPMMAからなるプラスティック基板200の表面に、屈折率が約「2.25」である二酸化チタン(TiO2)膜210を成膜している。これにより、上記透明プラスティック光学素子(レプリカ)としてのアスペクト比も実質的に高められるようになる。すなわち、上述したモールディング技術の併用に起因する微細構造のアスペクト比の低下も、これら屈折率の違いによっていわば擬似的に補償されるようになる。そしてその結果、十分な偏光分離効果を有する光学素子が得られることが発明者らによって確認されている。
【0060】
またさらに、この実施の形態においても、上記二酸化チタン(TiO2)膜210としては、アナターゼ結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2)を成膜することとしている。これによって前述したように、上記生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の素子表面の汚れ等に対する防汚機能も併せて実現されるようになる。
【0061】
以上説明したように、この第2の実施の形態にかかる表面微細構造光学素子、およびその製造方法によれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(1)微細構造を有するプラスティック基板200の表面、すなわち、矩形状の突起(凸部)200bの上面および底面に、該プラスティック基板200の屈折率よりも高い屈折率を有する二酸化チタン(TiO2)膜210を成膜することとした。これにより、上記微細構造のアスペクト比の低下が、このプラスティック基板200よりも屈折率の高い二酸化チタン(TiO2)膜210によって補われるかたちで回折現象が生じるようになり、十分に実用に供し得るレベルで、所望とされる偏光分離機能を実現することができる。
【0062】
(2)上記二酸化チタン(TiO2)膜210として、光触媒効果を併せ備えるアナターゼ結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2)を用いることとした。このため、素子表面の汚れ等に対する防汚機能も併せて実現される。
【0063】
(3)また、こうした表面微細構造光学素子の製造方法として、アスペクト比の高い、高精度の微細構造を有するマスタ(原器)をまず製作し、その金型を採取した上で、射出成形によるモールディングを行い、表面に上記微細構造が複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)を生成した。そして、この生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の表面、すなわち、矩形状の突起(凸部)200bの上面および底面に、上記二酸化チタン(TiO2)膜210を成膜した。これにより、上記十分に実用に供し得るレベルで所望とされる偏光分離機能を実現することのできる表面微細構造光学素子を、より低コストで、しかも安定して量産することができる。
【0064】
(第3の実施の形態)
図9に、この発明にかかる表面微細構造光学素子およびその製造方法について、その第3の実施の形態を示す。
【0065】
この第3の実施の形態にかかる光学素子も、表面微細構造光学素子として前記偏光分離機能を有する光学素子についてその一例を示したものである。この第3の実施の形態では、透明プラスティック光学素子(レプリカ)の表面に復元された多数の矩形状の突起の表面のみに、このプラスティック材料よりも屈折率の高い膜材を選択的に成膜するようにしている。
【0066】
すなわち、この第3の実施の形態においてもまず、例えば先の第2の実施の形態と同様の処理を経て、微細構造が複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)を生成する。こうして複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)は上述したように、その突起(凸部)の深さがマスタ(原器)の突起(凸部)に比べて縮小されている。すなわち実際には、図9(a)に示されるように、プラスティック基板200の表面に復元された多数の矩形状の突起(凸部)200bの深さT6が、マスタ(原器)の突起(凸部)20b(図6(b)参照)の深さT5(700nm)に比べて縮小されている。すなわち、アスペクト比が低下している。
【0067】
そこで、この実施の形態においては、プラスティック光学素子(レプリカ)の表面に復元された多数の矩形状の突起(凸部)200bの表面のみに、このプラスティック材料よりも屈折率の高い膜材を選択的に成膜することによって、こうしたアスペクト比の低下をいわば機械的にも補うようにしている。
【0068】
具体的には、例えば適宜のマスクを用いたスパッタリング法などにて、プラスティック基板200に形成された矩形状の突起(凸部)200bの上面のみに二酸化チタン(TiO2)膜220を選択的に成膜する。しかも、この二酸化チタン(TiO2)膜220の膜厚T8は、突起(凸部)200bに該二酸化チタン(TiO2)膜220が堆積された後の高さが、前記マスタ(原器)の突起(凸部)20b(図6(b))の深さT5(700nm)と同等となる程度に設定される。これにより、上述したモールディング技術の併用に起因するアスペクト比の低下が、機械的に、すなわちアスペクト比そのものを高めるかたちで補償されるようになる。そしてこの実施の形態についても、上記二酸化チタン(TiO2)膜220としては、アナターゼ結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2)を成膜することとしている。これによって前述したように、上記生成された透明プラスティック光学素子(レプリカ)の素子表面の汚れ等に対する防汚機能も併せて実現されるようになる。
【0069】
以上説明したように、この第3の実施の形態にかかる表面微細構造光学素子、およびその製造方法によれば、以下のような効果が得られるようになる。
(1)プラスティック基板200に形成された矩形状の突起(凸部)200bの上面に選択的に、プラスティック基板200の屈折率よりも高い屈折率を有する二酸化チタン(TiO2)膜220を、マスタ(原器)の突起(凸部)20bの深さT5と同等となる程度に堆積することとした。これにより、微細構造のアスペクト比の低下が、機械的に、すなわちアスペクト比そのものを高めるかたちでも補償されるようになり、十分に実用に供し得るレベルで、所望とされる偏光分離機能を実現することができる。
【0070】
(2)上記二酸化チタン(TiO2)膜220として、光触媒効果を併せ備えるアナターゼ結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2)を用いることとした。このため、素子表面の汚れ等に対する防汚機能も併せて実現される。
【0071】
(3)また、こうした表面微細構造光学素子の製造方法として、微細構造が複製された透明プラスティック光学素子(レプリカ)を生成し、この透明プラスティック光学素子(レプリカ)の表面、すなわち、矩形状の突起(凸部)200bの上面のみに選択的に、上記二酸化チタン(TiO2)膜220を成膜した。これにより、上記十分に実用に供し得るレベルで所望とされる偏光分離機能を実現することのできる表面微細構造光学素子を、より低コストで、しかも安定して量産することができる。
【0072】
なお、本発明にかかる表面微細構造光学素子およびその製造方法は、上記各実施の形態に限られるものではなく、例えば次のような形態として実施することもできる。
【0073】
・上記第3の実施の形態では、第2の実施の形態の方法で生成された矩形状の突起(凸部)200bを有する透明プラスティック光学素子(レプリカ)に、二酸化チタン(TiO2)膜220を堆積することにより、機械的なアスペクト比を高める構造とした。しかしこれに限らず、例えば第1の実施の形態にかかる方法で生成された円錐状の突起(凸部)100bを有する透明プラスティック光学素子(レプリカ)に、マスタ(原器)の突起(凸部)10bの深さT1と同等となる程度に二酸化チタン(TiO2)膜を堆積するようにしてもよい。
【0074】
・上記各実施の形態では、基板材料としてPMMAを用いたが、PMMA等の材料は一般に金属の蒸着が難しいことから、蒸着条件を工夫し、その下地膜として例えばクロム(Cr)膜を例えば5nm以下の膜厚で予め成膜しておくなど、その基板表面を改質しておくようにしてもよい。
【0075】
・また、上記基板として用いる材料は、上記PMMA等の材料に限られることなく任意であり、オリフィン系の樹脂、特に脂環式ポリオレフィン樹脂であれば、適宜採用することができる。すなわち、こうした基板として例えば、耐熱性に優れ、寸法精度が高いポリカーボネートや、同じく耐熱性に優れ、透過率も高いアートンや、同じく透過性が高い上に、吸湿率が低いゼオネックス、ゼオノア等を採用することもできる。
【0076】
・上記各実施の形態では、光触媒効果を有する膜材として、アタナーゼ結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2)を採用する場合について例示したが、該光触媒効果を有する膜材としては他に、ルチル型の二酸化チタン(TiO2)などもあり、これらの膜材も同様に採用することができる。
【0077】
・この発明にかかる表面微細構造光学素子としての素子構造そのものは、必ずしもモールディング技術等を伴わずに生成された透明プラスティック光学素子にも適用することができる。すなわち、表面微細構造として、十分なアスペクト比を確保することができなかった場合であれ、基板の材料の屈折率よりも高い屈折率を有する膜材を併用することにより、所望とされる光学特性を実現することは可能である。
【0078】
・上記各実施の形態では、反射防止(AR)素子や偏光分離素子について例示したが、この発明にかかる表面微細構造光学素子およびその製造方法は、これらに限られるものではなく、光学フィルタや位相差板などの光学素子にも適宜採用することができる。
【0079】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明にかかる表面微細構造光学素子によれば、例えばモールディング技術の併用に起因するアスペクト比の低下が基板よりも屈折率の高い膜材により補われるかたちで回折現象が生じるようになる。このため、たとえモールディング技術の併用によって量産された光学素子であっても、十分に実用に供し得るレベルで、それぞれ所望とされる光学特性を実現することができるようになる。
【0080】
また、この発明にかかる表面微細構造光学素子の製造方法によれば、上記光学特性を有する表面微細構造光学素子をより低コストで、しかも安定して量産することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(d)は、本発明にかかる表面微細構造光学素子およびその製造方法の第1の実施の形態について、そのマスタ(原器)の形成手順を示す概略断面図。
【図2】(a)〜(c)は、同実施の形態について、そのマスタ(原器)の形成手順を示す概略断面図。(d)は、形成されたマスタ(原器)の外観を示す斜視図。
【図3】同実施の形態の電鋳工程(金型形成工程)を示す略図。
【図4】(a)は、同実施の形態にて生成される透明プラスティック光学素子(レプリカ)を示す概略断面図。(b)は、同実施の形態の表面微細構造光学素子の概略断面構造を示す断面図。
【図5】(a)〜(d)は、本発明にかかる表面微細構造光学素子およびその製造方法の第2の実施の形態について、そのマスタ(原器)の形成手順を示す概略断面図。
【図6】(a)および(b)は、同実施の形態について、そのマスタ(原器)の形成手順を示す概略断面図。(c)は、形成されたマスタ(原器)の外観を示す斜視図。
【図7】同実施の形態の電鋳工程(金型形成工程)を示す略図。
【図8】(a)は、同実施の形態にて生成される透明プラスティック光学素子(レプリカ)を示す概略断面図。(b)は、同実施の形態の表面微細構造光学素子の概略断面構造を示す断面図。
【図9】(a)は、本発明にかかる表面微細構造光学素子およびその製造方法の第3の実施の形態について、生成される透明プラスティック光学素子(レプリカ)を示す概略断面図。(b)は、同実施の形態の表面微細構造光学素子の概略断面構造を示す断面図。
【符号の説明】
10、20…基板、10a、20a…表面、10b、20b…突起(凸部)、12、22…レジスト、13、23…クロム(Cr)膜、15、25…金型、100、200…プラスティック基板、100b、200b…突起(凸部)、110、210、220…二酸化チタン(TiO2)膜。
Claims (1)
- 基板表面の微細構造により有効屈折率を変化させて反射防止効果を実現する表面微細構造光学素子において、
前記微細構造は矩形状の突起と成され、
前記矩形状の突起の表面のみに、前記基板の材料の屈折率よりも高い屈折率を有すると共に光触媒効果を有する膜材が成膜されている、
ことを特徴とする表面微細構造光学素子。
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