JP4183292B2 - 二次電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は水素吸蔵合金を負極に用いる二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
水素吸蔵合金は自己の体積の数万倍以上の水素(常温常圧気体として)を安定に吸蔵・貯蔵できる合金で、エネルギー源としての水素を安全かつ容易に貯蔵できることから、近年はこの水素吸蔵合金中に蓄えられた水素をエネルギー源とするとともに合金の水素吸蔵・放出反応に対する高い触媒活性を利用してこれを電極材料に利用した二次電池(ニッケル水素二次電池)への応用・実用化が盛んに行われている。
【0003】
水素吸蔵合金の組成は水素と発熱的に反応する、すなわち水素と安定な化合物を形成し得る金属元素(白金族元素,Ti,Zr,V,ランタン族元素、アルカリ土類元素など)をA、それ以外の金属をBとして、
(1)AB 系(LaNi、CaNi
(2)AB 系(MgZn、ZrNi等)
(3)AB系(TiNi、TiFe等)
(4)AB系(MgNi、CaFe等)
(5)その他(クラスター合金など)
に大別できる。
【0004】
これらの水素吸蔵合金のうち、(1)のLaNi系合金や(2)に属するいわゆるラーベス相合金ないしは(3)に属する一部の合金は常温常圧付近で水素と反応できまた化学的安定性も比較的高いことから電池電極材料用合金として広く研究が進められている。また、(2)の合金系も水素との安定性が高すぎるため脱蔵反応が起こりにくいこと、吸蔵・放出反応が比較的高温でないと起こりにくいこと、など克服すべき問題はあるものの、その水素吸蔵能力は体積当たりで他の合金系と同等以上、重量当たりでは2倍〜数倍という優れた特性を有しており電池・電極用材料としての潜在的能力を有している。なお、上記分類の(5)の系は学術報告には若干の例が見られるものの、実用化あるいは実用化を試みる段階に至っているものは現時点では皆無に近い。
【0005】
これらの合金系でA成分としては上述のようにPd等のいわゆる白金族元素、Ti、Zr、V、ランタン族元素、アルカリ土類元素などの利用が可能であるが、現在までに実際に二次電池用の電極に用いられている合金ではランタン族元素(La、Pr等の純金族もしくはミッシュメタルと呼ばれる混合体で用いられる)、Ti、Zr、V等が主流で、白金族元素やアルカリ土類元素の利用例は極めて少ない。
【0006】
この理由は白金族元素については主として資源が少なく価格が高いためである。一方、アルカリ土類元素、特にマグネシウムを主成分とする合金系を用いた電極の場合には、価格は安くなるが、他の合金系より導電性が低くなりやすいという問題がある。これは、マグネシウムが周期律表上の典型元素であるため合金ないし金属間化合物を形成した場合にマグネシウム周辺の電子の自由度が小さくなるためであると考えられる。電極材料の導電性(電子伝導性)が低いと、電池の大電流放電特性が低下する。すなわち、微視的には電極中の電荷移動が速やかに行われにくくなり反応速度の低下、つまり大電流充放電の阻害が起こることになる。巨視的には電池の内部抵抗が増大し、大電流充電する場合には高電圧が必要となり、大電流放電する場合には作動電圧が低下する。この作動電圧の低下は実用上は使用装置の定格電圧以上の電圧で放電できる容量が低下することを意味する。したがって、マグネシウム系の水素吸蔵合金を電極材料として用いる場合には導電性を高める工夫が必要である。
【0007】
また、マグネシウムを主成分とする合金系を用いた電極の場合、金属間化合物の組成が化学量論からずれている偏析成分を中心に腐食が起こりやすく、さらに、この合金では水素の吸脱蔵時に結晶格子の変形ないしは膨張収縮が起こることが多く、このために充放電を繰り返していると徐々に電極中の水素吸蔵合金粒子間の接触が悪くなり、結果として電池のサイクル寿命が短くなってしまう。
【0008】
Mg系合金で膨張収縮が大きく現れやすい理由としては、この系の水素吸蔵合金が前述したLaNiやTiNi,TiFeなどの系と異なり、典型金属であるMgを含有していること自体に起因していると考えられる。すなわち、遷移金属や希土類金属を中心とした系では各原子の取りうる電子状態の自由度が大きいため、水素の吸脱蔵に伴う原子間の結合状態や分極などの影響を比較的吸収しやすい。これに対して、Mgは自由度の大きいd−軌道電子、f−軌道電子を持たず、また電子の絶対数も少ないため、水素の有無や拡散・移動などの状態変化によって結合状態を変化させやすいものと考えられる。
【0009】
したがって、マグネシウムを主成分とする合金系を二次電池の電極として用いる場合には、合金の腐食、あるいは合金の膨張収縮による電極の劣化に起因する電極のサイクル寿命を向上させる必要がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、マグネシウムを含有する水素吸蔵合金を用いた電極を使用した二次電池において、該電極の導電性を高め、大容量の二次電池を提供することにある。
【0011】
また、本発明の第2の目的は、マグネシウムを含有する水素吸蔵合金を用いた電極を使用した二次電池において、容量を長期にわたって維持することができる二次電池を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本願の第1の発明は、マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池において、粒径が0.1μm以上、50μm以下の範囲にある水素吸蔵合金粒子が、水素吸蔵合金粒子全体の80重量パーセント以上であり、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする二次電池である。
【0013】
また、本願の第2の発明は、マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池において、該二次電池を10回以上充放電した後の負極中の水素吸蔵合金粒子の平均粒径が0.5μm以上、30μm以下であり、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする二次電池である。
【0014】
また、本願の第3の発明は、マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池において、該二次電池を10回以上充放電した後の負極に粒径が0.1μm以上、50μm以下の範囲にある水素吸蔵合金粒子が、水素吸蔵合金粒子全体の80重量パーセント以上含有されており、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする二次電池である。
【0015】
また、本願の第4の発明は、マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池であり、前記水素負極の空孔率が5%以上55%以下であり、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の二次電池である。
【0016】
また、本願の第5の発明は、マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池であり、前記アルカリ性電解液中に水酸化カリウムと、水酸化ナトリウムまたは水酸化リチウムの少なくとも一方を含有しており、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の二次電池である。
【0017】
【発明の実施の形態】
次に本発明にかかわる二次電池のうち、円筒型ニッケル水素電池の例を図1を参照して説明する。ただし、本願発明に係る二次電池の形状は円筒型に限定されるものではない。
【0018】
図1に示すように有底円筒状の容器1内には、正極2とセパレータ3と負極4とを積層してスパイラル状に捲回する事により作成された電極群5が収納されている。前記負極4は、前記電極群5の最外周に配置されて前記容器1と電気的に接触している。アルカリ電解液は、前記容器1内に収容されている。中央に孔6を有する円形の第1の封口板7は、前記容器1の上部開口部に配置されている。リング状の絶縁性ガスケット8は、前記封口板7の周縁と前記容器1の上部開口部内面の間に配置され、前記上部開口部を内側に縮径するカシメ加工により前記容器1に前記封口板7を前記ガスケット8を介して気密に固定している。正極リード9は、一端が前記正極2に接続、他端が前記封口板7の下面に接続されている。帽子形状をなす正極端子10は、前記封口板7上に前記孔6を覆うように取り付けられている。ゴム製の安全弁11は、前記封口板7と前記正極端子10で囲まれた空間内に前記孔6をふさぐように配置されている。中央に穴を有する絶縁材料からなる円形の押さえ板12は前記正極端子10上に前記正極端子10の突起部がその押さえ板12の穴から突出されるように配置されている。外装チューブ13は、前記押さえ板12の周縁、前記容器1の側面及び前記容器1の底部周縁を被覆している。次に二次電池の正極、セパレータ、負極、及び電解液について説明する。
【0019】
1)正極
正極は、例えば、活物質である正極材料、例えば水酸化ニッケル粉末に導電材料を添加し、高分子結着剤及び水と共に混練してペーストを調製し、前記ペーストを導電性基板に充填し、乾燥した後成形することにより作成される。
【0020】
前記導電材料としては、例えばコバルト酸化物、コバルト水酸化物、金属コバルト、金属ニッケル、炭素などを挙げることができる。前記高分子結着剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。
【0021】
前記導電性基板としては、例えば、ニッケル、ステンレス、またはニッケルメッキが施された金属から形成された網状、スポンジ状、繊維状、もしくはフェルト状の金属多孔体を挙げることができる。
【0022】
2)セパレータ
セパレータとしては、例えばポリプロピレン不織布、ナイロン不織布、ポリプロピレン繊維とナイロン繊維を混繊した不織布などの高分子不織布が挙げられる。特に表面が親水化処理されたポリプロピレン不織布は、適度な親水性を有しセパレータとして好適である。
【0023】
3)負極
負極は、水素吸蔵合金の粉末に導電材を添加し、高分子結着剤及び水と共に混練してペーストを調製し、前記ペーストを導電性基板に充填し、乾燥した後、成形することにより作成される電極、あるいは後述するように焼結して得られる電極を用いることが望ましい。
【0024】
前記水素吸蔵合金は、本願の第1乃至第5の発明における水素吸蔵合金は、マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する水素吸蔵合金である。具体的には、MgNi系合金もしくはMgNi系合金、およびMgNi系合金もしくはMgNi系合金のMgサイトもしくはNiサイトもしくは両サイトを他の元素で置換した合金、およびこれらに他の元素を付加した組成の合金が主体であるが、他に上述のLaNi系合金などをはじめとするAB系合金、TiNi、TiFe系合金等のAB系合金、MgZn、ZrNi系合金等のAB系合金など他の系統の合金にNiもしくは、Mgを添加ないし置換して性能を改善した合金のうちニッケルおよびマグネシウムの含有量が上記範囲である合金も対象になり得る。その理由は、本発明が対象とする合金の特性として、組成比で類別化する意味での組成系統や結晶型よりも、そこに含有される元素の種類および量、すなわちMgの含有量およびこれを活性化/安定化させるキーとなるNiの含有量、が重要であるからである。
【0025】
前記高分子結着剤としては、前記正極2で用いたのと同様なものを挙げることができる。前記導電材としては例えばカーボンブラック等を挙げることができる。
【0026】
前記導電性基板としては、例えばパンチドメタル、エキスパンデッドメタル、穿孔鋼板、ニッケルネットなどの二次元基板や、フェルト状金属多孔体や、スポンジ状金属基板などの三次元基板を挙げることができる。
【0027】
本願の第1〜第の発明における負極は、(a)および(b)〜(d)いずれかの条件を満たす。
(a)水素吸蔵合金粒子の平均粒径が0.5μm以上、30μm以下である。
(b)粒径が0.1μm以上、50μm以下の範囲にある水素吸蔵合金粒子が、水素吸蔵合金粒子全体の80重量パーセント以上である。
(c)二次電池を10回以上充放電した後の負極中の水素吸蔵合金粒子の平均粒径が0.5μm以上、30μm以下となる。
(d)二次電池を10回以上充放電した後の負極に粒径が0.1μm以上、50μm以下の範囲にある水素吸蔵合金粒子が、水素吸蔵合金粒子全体の80重量パーセント以上含有されている。
【0028】
また、本願の第4の発明における負極は、以下の条件を満たす
(e)空孔率が5%以上55%以下である。
【0029】
さらに、各発明は、以下の条件を満たす
有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上である。
【0030】
まず、上記(a)〜(d)の条件について説明する。水素吸蔵合金の粒径は合金の導電性に大きな影響を及ぼす要因である。粒子間の隙間が多いと接触が不良となるためである。さらに、水素吸蔵合金は水素の吸脱蔵によって結晶格子に歪みが生じ、これが蓄積されると徐々に割れて微粉化する。したがって、電極として用いた場合、充放電を繰り返すことによって合金が微粉化し、粒子間の隙間が増えてゆくことになる。
【0031】
本願発明に係る組成を有するマグネシウムとニッケルを主成分とする合金の場合には、遷移金属や希土類金属を成分の大部分としている他の系の水素吸蔵合金に比べて導電性が低い。特に、水素の吸蔵・放出に伴う膨張・収縮が大きいため割れが生じやすく、また合金自体の電子伝導性が大きくないため割れた後の点接触ないし線接触での導通がよくない。
【0032】
したがって、粒子の大きさを(a)〜(d)に示される上限以下に規定することにより合金粒子中へのひずみの蓄積を小さくし割れを生じにくくする、あるいは割れの前後での粒度変化があまり大きくならないように適切な粒度分布の合金を用いる、という手段を適用することにより、導電性を維持するという点で顕著な効果を奏するものである。
【0033】
また、粒子の大きさを(a)〜(d)に示される下限より大きくすることにより、比表面積が小さくなりすぎず、合金粒子の腐食(酸化)や、他の原子やイオンによる被毒を防ぎ、電極の寿命を長く保つ。
【0034】
すなわち、本発明の第1乃至第の発明においては、平均粒径、あるいは粒度分布を適切な範囲に制御することにより、電極の導電性を高くし、かつ腐食を生じにくくすることができる。特に(a)〜(d)の条件を満たす負極を使用した二次電池は、特定の範囲内では充放電による容量低下が著しく小さい。
【0035】
なお、電極中の水素吸蔵合金粒子の粒径は、充放電初期に大きく変化するため、(c)、(d)の如く10回以上充放電した後の電極中の水素吸蔵合金の粒径をもって規定することが望ましい。電極調製後に構成粒子の粒径を計ることは実際上は作業量が大きく容易ではない。したがって、実際的な手法としては(a)、(b)の如く電極構成前の粒径であっても構わない。ただし、これは特に、本発明の範囲内の粒径を有する合金であれば充放電に伴う微粉化は小さいという事実に基づいたために採れる代用評価方法である。また、予め大きい粒子に機械的歪みやクラック等を加えておき、電極調製後充放電による割れを利用して本発明の範囲内の粒径に調整する手段を執ることもできる。
【0036】
本発明の効果は、有機高分子化合物からなる結着剤や増粘剤を用いて形成されている構造の電極に対して特に有効である。この構造の電極では電極構造が比較的柔軟であるため合金の粒度変化や膨張・収縮に対して電極全体の構造が変化してしまい、導電性低下が促進されやすいが、本願発明においては、この現象を改善できる。とくに有機高分子化合物の重量がペーストの0.1重量%以上20重量%以下の時にこの効果は顕著に現れる。
【0037】
次に(e)について説明する。一般に多孔性電極は空孔率が小さいほど活物質充填量が大きいため体積当たりの容量が大きくなるが、小さくなりすぎると電解液との接触面積が減少し、また反応物質の供給、生成物の除去も阻害されるため反応速度は低下する。他方、空孔率が大きくなると合金の膨張収縮・変形の影響を電極構造全体で吸収することができるようになるが、空孔率が大きくなりすぎると合金粒子間の接触が悪くなるという問題が生ずる。
【0038】
しかし、本願発明にかかる組成の合金を用いた水素電極の場合には上記のような一般論に加え、この系の合金特有の性質が現れることが見いだされた。すなわち、この系では空孔率の増大による容量低下が充填率や接触抵抗の変化にしたって徐々に起こるのではなく空孔率50ないし55%程度から急激に進行することが見いだされた。これは、この系の合金で特に膨張収縮が大きく、かつ導電性が低いために接触点減少の影響が極端に現れやすいためであると推定される。一方、空孔率が小さすぎる場合の容量低下は比較的連続的に起こるが、同時に充放電サイクルに伴う容量低下の割合が増大した。これは、次の2つの機構のいずれかによるものであろうと考えられる。一つ目の推定機構はこの系で膨張収縮が大きいため高充填状態で電極内部に極めて大きな応力が生じ、このために合金のひずみ、割れが生じ、あるいは電極構造の不可逆的な変形が生じて導通が悪くなるというものである。また、もう一つの推定機構は高充填化によって電解液の供給量が減少し、実質的に一部の合金のみが大電流密度で充放電させられるようになるため、電位変化が大きくなり合金表面の劣化や腐食が促進されるというものである。前者の機構は本発明にかかる合金の膨張収縮が大きいことに、後者は導電性が低いことと化学的に影響を受けやすいことに、関与した機構である。電極の空孔率と電極容量との関係の概念図を図2に示す。
【0039】
すなわち、本発明の第の発明においては、空孔率を適切な範囲に制御することにより、電極の容量を高くし、かつ充放電による容量低下が少なくするという効果を奏する。
【0040】
本発明の対象とする水素吸蔵合金はマグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する合金である。この条件は合金の水素吸蔵能との兼ね合いで定められる部分もあるが、この範囲よりマグネシウム含有量が小さい合金では融点が高くなり焼結に伴う熱的ダメージが大きくなる。
【0041】
また、本発明に供する水素吸蔵合金の平均粒径は0.5μm以上、50μm以下であることが望ましい。これより粗い粒子では焼結後の合金の比表面積が小さくなりすぎて大きな電流を取り出すことができなくなる。他方、平均粒径が小さすぎる場合には合金粒子の大部分は焼結時に融解してしまい、十分な比表面積と空孔率の維持が困難になる。
【0042】
4−1)電解液
アルカリ電解液としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)の水溶液、水酸化リチウム(LiOH)の水溶液、水酸化カリウム(KOH)の水溶液、NaOHとLiOHの混合液、KOHとLiOH、とKOHとLiOHとNaOHの混合液などを用いることができる。なお、本発明では対象としている合金がマグネシウムを含有するものであり、とくに上記(a)〜(d)に規定される第1乃至第4の発明に規定される粒度比較的小さい合金粒子を使用する場合は、pH11以上であるように定め。このような強アルカリ性雰囲気に置いた場合においても合金の腐食を低減させることができる。
【0043】
4−2)電解液
本願の第の発明においては、アルカリ電解液としては、水酸化カリウム(KOH)と、水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化リチウム(LiOH)の少なくとも一方を含有していることを特徴とするものである。
【0044】
電極の水素吸蔵合金中に各成分の濃度の揺らぎがあるとその部分から化学的もしくは電気化学的に合金の腐食(酸化)が生じる。本願の第の発明は、その腐食を防止する一手法として水酸化カリウムを含有する電解液中に水酸化リチウムもしくは水酸化ナトリウムを存在させることにより、合金の腐食防止に有効であることを見いだしたものである。その理由は確認できていないが、リチウムやナトリウムのイオンがカリウムより小さな“固い”イオンであることと関連しているものと予想される。すなわち、より小さく、電荷が集中している陽イオンであるリチウムないしナトリウムの存在がMg−Ni系水素吸蔵合金のMgもしくは水素吸蔵サイトに何らかの働きかけをすることによって、Mgの酸化(腐食もしくは溶出)を抑制するものと思われる。
【0045】
なお、アルカリ性電解液の組成が、水酸化カリウムの濃度が4mole/l以上、水酸化ナトリウムと水酸化リチウムの濃度の和が0.05mole/l以上であることが好ましい。水酸化カリウム濃度が4mole/lより小さくなると電解液の導電性が低下する。また、水酸化ナトリウムと水酸化リチウムの濃度の和が0.05mole/lより小さい場合には本発明の効果は小さくなってくる。ただし、各成分濃度の上限は、各アルカリ成分の比率により変化する溶解度・粘度や電解液中への他の添加成分の効果を勘案して定める必要があるが、同時に電解液中のアルカリ成分の組成は電池の温度特性、電流−電圧特性、耐漏液特性など種々の特性にも影響があるため、別に適宜定めるべきである。
【0046】
以上の説明で述べたように本願の第の発明の二次電池はMg−Ni系合金の高い水素吸蔵容量を有効に利用するために必要不可欠な、水素吸蔵合金の劣化抑止し、長寿命の二次電池の製造を可能にするものである。
【0047】
【実施例】
以下に本発明の水素吸蔵合金の特性について実施例を基に説明する。
【0048】
(実施例1〜4、比較例1〜2)
MgNi組成の水素吸蔵合金をハンマーミルにより粉砕し、得られた合金に炭素粉末0.5重量%、ポリテトラフルオロエチレン(以後PTFE)粉末4重量%を混合した後ロールプレスにより厚さ0.5mmのシート状とし、これを線径0.15μm、開口面積呼び値40メッシュのニッケル金網に圧着して水素負極を作製した。
【0049】
この電極を負極8mol/lの水酸化カリウム水溶液を電解液とし、焼結式ニッケル極を対極(正極)として模擬電池を作製した。なお、8mol/l水酸化カリウム水溶液の水素イオン濃度はpH14以上であり通常のpH指示薬やpHメーターでは測定できない強アルカリ性を示している。
【0050】
このようにして種々の粒度の水素吸蔵合金を用いた電池を作製し50℃の雰囲気下で充電100mA/g、放電20mA/gの電流で充放を行い、放電できた容量(電気量)とその充放電サイクルによる変化とを調べた。
【0051】
なお、合金の粒度はハンマーミルによる処理時間によって調整したほか、必要に応じて篩い分けにより調整した。表1に種々の粒度を有する水素吸蔵合金を用いた電極の初期充放電容量、および10サイクル経過後の容量を示す。なお、ここでの粒度はレーザー散乱法により測定した。
【0052】
【表1】
Figure 0004183292
【0053】
表1から分かるように平均粒径が本発明の範囲より小さいときには充放電による容量の低下が激しい。また、平均粒径が本発明の範囲より大きいときには初期から十分な容量を得ることができない。
【0054】
(実施例5〜6,比較例3〜4)
予め粒度分布を測定したMgNi合金を用いて実施例1〜4と同様の試験を行った。表2にその結果を、図3〜6に試料合金の粒度分布を示す。この場合にも上記の実施例と同様に本発明の範囲で電極の特性が優れていることが分かる。
【0055】
【表2】
Figure 0004183292
【0056】
(実施例7〜12、比較例5〜6)
種々の組成の合金を用いて実施例1〜4と同様の試験を行った。表3にその結果を示す。なお、ここでは容量の比較のパラメータとして3サイクル目の充放電容量に対する10サイクル経過後の容量の比を示す。
【0057】
【表3】
Figure 0004183292
【0058】
(実施例13〜16、比較例7〜8)
電解液の濃度およびpH値を調整して種々の組成の電解液を作り、実施例1〜4および7〜12と同様の試験を行った。表4にその結果を示す。
【0059】
【表4】
Figure 0004183292
【0060】
(実施例17〜26、実施例9〜12)
PTFEの添加量を種々に変化させた他は実施例1〜4と同様の方法で実施例17〜20および実施例9〜10の水素電極を作製した。
【0061】
また、種々の組成の水素吸蔵合金をハンマーミルにより粉砕し、得られた合金に適当量のPTFE分散液、ポリアクリル酸ナトリウム(SPA)、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩(CMC)を混合してペースト状にし、これをニッケルメッキしたスポンジ状の鉄製基板に塗布・充填して実施例21〜26および実施例11〜12の水素電極を作製した。表5にこれらの水素電極の特性を電極中の有機高分子化合物(PTFE,SPA,CMC)の含有量と共に示す。
【0062】
【表5】
Figure 0004183292
【0063】
(実施例27〜30、比較例13〜16)
MgNi組成の水素吸蔵合金をハンマーミルにより粉砕し、得られた合金に適当量のPTFE分散液、ポリアクリル酸ナトリウム(SPA)、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩(CMC)を混合してペースト状にし、これをニッケルメッキしたスポンジ状の鉄製基板に塗布・充填して水素電極を作製した。
【0064】
このとき、合金とPTFE、SPA、CMCの混合比、合金の粒度などを種々に変えていろいろの空孔率の電極ができるようにした。また、必要に応じて炭酸水素カリウムを発泡剤として混合し、あるいはプレスによる圧縮を行った。
【0065】
このようにして作製した電極の空孔率は水銀圧入式の空孔率測定装置を用いて測定した。また、電極容量は50℃の雰囲気下で充電100mA/g、放電20mA/gの電流で充放を行い、放電できた容量(電気量)で表した。
【0066】
表6に各電極の空孔率と容量の関係を示す。なお、容量は初期3サイクル目と10サイクル目の値を併記した。また、図7にこの結果を空孔率と容量の図として示す。
【0067】
【表6】
Figure 0004183292
【0068】
(実施例31〜34、比較例17〜20)
種々の組成の合金を用いて上記実施例27〜30、比較例13〜16と同様の試験を行った。表7に各電極の空孔率と容量の関係を示す。
【0069】
【表7】
Figure 0004183292
【0070】
(実施例42〜44、比較例25〜26)
MgNiを含有する種々の組成の水素吸蔵合金の粒子に炭素粉末0.5重量%、ポリテトラフルオロエチレン(以後PTFE)粉末4重量%を混合した後ロールプレスにより厚さ0.5mmのシート状とし、これを線径0.15μm、開口面積呼び値40メッシュのニッケル金網に圧着して水素電極を作製した。
【0071】
この電極を種々の組成のアルカリ性電解液中で、焼結式ニッケル極を対極(正極)として模擬電池を作製して、50℃の雰囲気下で充電100mA/g、放電20mA/gの電流で充放電を行い、放電できた容量(電気量)とその充放電サイクルによる変化とを調べた。表8にこの電極の初期(3サイクル目)充放電容量、および10サイクル経過後の容量を示す。
【0072】
【表8】
Figure 0004183292
【0073】
(実施例45〜49、比較例27〜28)
MgおよびNiを含有する種々の組成の水素吸蔵合金の粒子に炭素粉末0.5重量%、ポリテトラフルオロエチレン(以後PTFE)粉末4重量%を混合した後ロールプレスにより厚さ0.5mmのシート状とし、これを線径0.15μm、開口面積呼び値40メッシュのニッケル金網に圧着して水素電極を作製した。
【0074】
この電極を種々の組成のアルカリ性電解液中で、焼結式ニッケル極を対極(正極)として模擬電池を作製して、50℃の雰囲気下で充電100mA/g、放電20mA/gの電流で充放電を行い、放電できた容量(電気量)とその充放電サイクルによる変化とを調べた。表9にこの電極の初期(3サイクル目)充放電容量と10サイクル経過後の容量の比率を示す。
【0075】
【表9】
Figure 0004183292
【0076】
【0077】
【発明の効果】
以上のように本発明の二次電池はマグネシウム含有水素吸蔵合金の高い容量を引き出し、さらにこれを長期にわたって保持することができ、電池材料として使用する上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る円筒形アルカリ蓄電池を示す部分切り欠け斜視図。
【図2】 電極の空孔率と容量を示す関係図。
【図3】 実施例の合金試料の粒度分布。
【図4】 実施例の合金試料の粒度分布。
【図5】 比較例の合金試料の粒度分布。
【図6】 比較例の合金試料の粒度分布。
【図7】 サイクル数と容量の関係図。

Claims (5)

  1. マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池において、粒径が0.1μm以上、50μm以下の範囲にある水素吸蔵合金粒子が、水素吸蔵合金粒子全体の80重量パーセント以上であり、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする二次電池。
  2. マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池において、該二次電池を10回以上充放電した後の負極中の水素吸蔵合金粒子の平均粒径が0.5μm以上、30μm以下であり、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする二次電池。
  3. マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池において、該二次電池を10回以上充放電した後の負極に粒径が0.1μm以上、50μm以下の範囲にある水素吸蔵合金粒子が、水素吸蔵合金粒子全体の80重量パーセント以上含有されており、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする二次電池。
  4. マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池であり、前記水素負極の空孔率が5%以上55%以下であり、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の二次電池。
  5. マグネシウムを5モルパーセント以上70モルパーセント以下の範囲で含有し、かつ、ニッケルを10モルパーセント以上50モルパーセント以下の範囲で含有する複数の水素吸蔵合金粒子を備える水素負極と、正極と、正極及び負極を隔離するセパレータと、アルカリ性電解液とを備える二次電池であり、前記アルカリ性電解液中に水酸化カリウムと、水酸化ナトリウムまたは水酸化リチウムの少なくとも一方を含有しており、上記水素負極は、水素吸蔵合金および有機高分子化合物を含有するペーストを成形して形成され、この有機高分子化合物の重量がペーストの0.1〜20重量%以下であり、上記アルカリ性電解液のpH値が11以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の二次電池。
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