JP4179830B2 - リチウム二次電池の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウム二次電池の製造方法に関するものであり、より詳細には、リチウムを吸蔵・放出する活物質からなる薄膜を集電体の上に堆積して形成した電極を用いたリチウム二次電池の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、研究開発が盛んに行われているリチウム二次電池は、用いられる電極により充放電電圧、充放電サイクル特性、保存特性などの電池特性が大きく左右される。このことから、電極に用いる活物質を改善することにより、電池特性の向上が図られている。
【0003】
負極活物質としてリチウム金属を用いると、重量当たり及び体積当たり共に高いエネルギー密度の電池を構成することができるが、充電時にリチウムがデンドライド状に析出し、内部短絡を引き起こすという問題があった。
【0004】
これに対し、充電の際に電気化学的にリチウムと合金化するアルミニウム、シリコン、錫などを電極として用いるリチウム二次電池が報告されている(非特許文献1)。これらの中でも、特にシリコンは理論容量が大きく、高い容量を示す電池の負極として有望であり、これを負極とする種々の二次電池が提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、この種の合金負極は、電極活物質である合金自体が充放電により微粉化し、集電特性が悪化することから、十分なサイクル特性は得られていない。
【0006】
本出願人は、シリコン等を電極活物質とし、良好な充放電サイクル特性を示すリチウム二次電池用電極として、CVD法またはスパッタリング法などの薄膜形成方法により、銅箔などの集電体上に微結晶薄膜または非晶質薄膜を形成したリチウム二次電池用電極を提案している(特許文献2)。
【0007】
このようなリチウム二次電池用電極においては、集電体上の薄膜が柱状構造を有し、これにより充放電による活物質の膨張・収縮の際の応力が緩和され、集電体から活物質薄膜が剥離するのを抑制することができる。さらに、集電体の成分元素が活物質内に拡散することにより、活物質と集電体が強固に密着し、充放電サイクル特性が向上することがわかっている。
【0008】
【特許文献1】
特開平10−255768号公報
【特許文献2】
特開2001−266851号公報
【非特許文献1】
Solid State lonics,113-115,p57(1998)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなリチウム二次電池用電極においては、用いる集電体によって、しわなどの変形が電極に発生する場合があった。電極にしわなどの変形が発生すると、電極を電池内に収納した場合に、体積当たりのエネルギー密度が低下するという問題を生じる。
【0010】
本発明の目的は、充放電容量が高く、充放電サイクル特性に優れ、かつ充放電によるしわなどの変形が小さい電極を作製することができるリチウム二次電池の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、リチウムを吸蔵・放出する活物質からなる薄膜を、圧延により作製された銅箔または銅合金箔からなる集電体の上に、CVD法、スパッタリング法、蒸着法、または溶射法により堆積して電極を作製し、該電極を用いてリチウム二次電池を製造する方法であり、集電体の引張強さが初期の値の90%以上を維持するように製造工程における温度を制御することを特徴としている。
【0012】
本発明者等は、圧延により作製された銅箔または銅合金箔からなる集電体を用い、この集電体の上にシリコン薄膜などの活物質からなる薄膜を堆積して作製した電極を用いた場合に、充放電によって電極にしわなどの変形が発生する場合があることに着目し、その原因について究明した。その結果、薄膜形成時あるいは電極及び電池の熱処理の際に、集電体が高温になり、集電体の一次再結晶温度を越える場合があり、そのような場合に製造された電極を用いると、電極が変形し易いことを見出した。すなわち、圧延などにより作製された金属箔は、加工硬化しているため、再結晶により引張強さなどの機械的強度が大きく低下し、このため変形し易くなることがわかった。
【0013】
図2〜図5は、各種の銅または銅合金の熱処理温度と機械的強度の関係を示す図である。図2〜図5は、以下の銅または銅合金について示したのものである。
図2:C1020−1/2H(無酸素銅)
図3:C2600−1/2H(黄銅1種)
図4:C5191−1/2H(りん青銅2種)
図5:C5210−1/2H(ばね用りん青銅)
いずれの試験片も、圧延により加工硬化した試験片であり、JIS Z 2241及びJIS Z 2201に準拠して測定した。各温度での測定結果は、各温度で1時間熱処理したものについて測定した結果である(日本伸銅協会,伸銅品板材料特性試験データ,焼鈍軟化特性,http://www.copper-brass.gr.jp)。
【0014】
図2〜図5から明らかなように、いずれの銅及び銅合金の場合にも、高温で熱処理することにより引張強さなどの機械的強度が低下し、これに伴い伸びが大きくなり、軟化することがわかる。このように軟化した金属箔を集電体として用いると、充放電の際の電極の変形が大きくなり、これを収納する電池内において体積が増加し、電池の体積当たりのエネルギー密度が低下する。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、電極の作製及び電池の作製工程において、集電体が高温になり、集電体が軟化しないように、各製造工程における温度を制御するものである。具体的には、集電体の引張強さが初期の値の90%以上を維持するように製造工程における温度を制御することを特徴としている。
【0016】
本発明において、集電体の引張強さの初期の値とは、集電体の上に薄膜を堆積して形成する前の値を意味している。すなわち、使用する前の集電体を測定することにより得られる引張強さの値である。
【0017】
本発明によれば、集電体を軟化させずに電極を作製し、これを用いて電池を製造することができるので、集電体の伸びが小さく、充放電反応により、活物質の体積が膨張・収縮しても、電極に生じるしわなどの変形を極力抑制することができる。
【0018】
本発明において、集電体が軟化する温度に達しないように特に温度を制御すべき工程としては、薄膜形成の工程、及び薄膜形成後電極及び電池を乾燥などのため熱処理する工程である。このような工程において、集電体が軟化する温度に達しないように温度を制御することが必要である。例えば、集電体上に薄膜を堆積する際、集電体を冷却することにより温度を制御することができる。
【0019】
集電体の引張強さが初期の値の90%以上維持するよう温度制御するためには、予め集電体を種々の温度で熱処理し、熱処理後の引張強さを測定することにより、集電体の引張強さが初期の値の90%未満となる温度を求め、この温度とならないように各製造工程を制御すればよい。
【0020】
集電体の引張強さは、例えば、集電体そのものを用い、厚みは集電体の厚みで、幅10mm、長さ100mm、標点間距離50mmの試験片を作製し、この試験片を用いて、試験速度0.02mm/分で引張試験を行ない測定することができる。熱処理は、電気炉等において、その温度で一定時間保持することにより行うことができる。熱処理の時間としては、例えば30分〜10時間が一般的である。
【0021】
本発明において用いる集電体は、圧延により作製された銅箔または銅合金箔からなる集電体である。銅合金としては、銅を含む合金であれば特に限定されるものではないが、例えば、Cu−Ag系合金、Cu−Te系合金、Cu−Mg系合金、Cu−Sn系合金、Cu−Si系合金、Cu−Mn系合金、Cu−Be−Co系合金、Cu−Ti系合金、Cu−Ni−Si系合金、Cu−Cr系合金、Cu−Zr系合金、Cu−Fe系合金、Cu−Al系合金、Cu−Zn系合金、Cu−Co系合金が挙げられる。
【0022】
集電体の表面は、活物質薄膜との密着性及び応力緩和の観点から、粗面化されていることが好ましく、その表面粗さRaは0.01〜2μmであることが好ましい。表面粗さRaは、日本工業規格(JIS B 0601−1994)に定められており、例えば表面粗さ計等により測定することができる。
【0023】
集電体表面の粗面化は、サンドペーパーによる研磨やサンドブラスト法などの物理的な方法や、表面に電解銅を析出させるなどの方法により行うことができる。
【0024】
リチウムを吸蔵・放出する活物質からなる薄膜としては、リチウムを合金化することによりリチウムを吸蔵する物質が好ましく用いられ、シリコン、錫、アルミニウムなどが挙げられる。特に、充放電容量の観点からは、シリコンが好ましく用いられる。薄膜は非晶質または微結晶のものが好ましく、従って非晶質シリコン薄膜または微結晶シリコン薄膜が特に好ましい。
【0025】
薄膜の形成方法としては、CVD法、スパッタリング法、蒸着法、及び溶射法などが挙げられる。
本発明のリチウム二次電池は、上記電極を負極として用い、本発明の製造方法により製造したことを特徴としている。
【0026】
本発明のリチウム二次電池に用いる非水電解質の溶媒は、特に限定されるものではないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネートと、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートとの混合溶媒が例示される。また、上記環状カーボネートと1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどのエーテル系溶媒との混合溶媒も例示される。また、非水電解質の溶質としては、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiAsF6、LiClO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12など及びそれらの混合物が例示される。特に、LiXFy(式中、XはP、As、Sb、B、Bi、Al、Ga、またはInであり、XがP、AsまたはSbのときyは6であり、XがBi、Al、Ga、またはInのときyは4である)と、リチウムペルフルオロアルキルスルホン酸イミドLiN(CmF2m+1SO2)(CnF2n+1SO2)(式中、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数である)またはリチウムペルフルオロアルキルスルホン酸メチドLiN(CpF2p+1SO2)(CqF2q+1SO2)(CrF2r+1SO2)(式中、p、q及びrはそれぞれ独立して1〜4の整数である)との混合溶質が好ましく用いられる。これらの中でも、LiPF6とLiN(C2F5SO2)2との混合溶質が特に好ましく用いられる。さらに電解質として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、Li3Nなどの無機固体電解質が例示される。本発明のリチウム二次電池の電解質は、イオン導電性を発現させる溶質としてのリチウム化合物とこれを溶解・保持する溶媒が電池の充電時や放電時あるいは保存時の電圧で分解しない限り、制約なく用いることができる。
【0027】
本発明のリチウム二次電池の正極材料としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiMnO2、LiCo0.5Ni0.5O2、LiNi0.7Co0.2Mn0.1O2などのリチウム含有遷移金属酸化物や、MnO2などのリチウムを含有していない金属酸化物が例示される。また、この他にも、リチウムを電気化学的に挿入、脱離する物質であれば、制限なく用いることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することは可能なものである。
【0029】
[作用極の作製]
(集電体)
集電体として、厚み26μmの粗面化された圧延銅箔(表面粗さRa=0.47μm)を用いた。この圧延銅箔を、予め所定の温度で熱処理し、熱処理温度と引張強さとの関係を求めた。各温度における熱処理時間は、2時間とした。
【0030】
図1は、集電体として用いた圧延銅箔の熱処理温度と引張強さとの関係を示す図である。なお、引張試験は、厚みは集電体の厚みであり、幅10mm、長さ100mm、標点間距離50mmである試験片を用い、試験速度0.02mm/分で測定した。図1から明らかなように、100〜200℃の範囲で引張強さが低下しており、100〜200℃の間で圧延銅箔が軟化することがわかる。25℃における引張強さは280N/mm2であるので、その90%は252N/mm2である。従って、図1から、製造工程における温度を155℃以下に制御することにより、集電体の引張強さを初期の値の90%以上に維持することができる。
【0031】
(活物質層の形成)
DCスパッタリング法により、上記集電体の上に、シリコン薄膜を形成した。スパッタリングの条件としては、スパッタガス(Ar)流量:50sccm、反応圧力:1.0×10-3Torr、電力:2kWとした。薄膜形成時の集電体温度は、水冷により100℃未満となるように制御した。
【0032】
シリコン薄膜は、その厚みが約5μmとなるまで堆積させた。得られたシリコン薄膜について、ラマン分光分析を行ったところ、480cm-1近傍のピークは検出されたが、520cm-1近傍のピークは検出されなかった。このことから、得られたシリコン薄膜は非晶質シリコン薄膜であることがわかる。
【0033】
非晶質シリコン薄膜を形成したものを、2cm×2cmの大きさに切り出し、Niリード線を取り付けた後、真空下で所定の温度で2時間乾燥した。すなわち、本発明に従う作用極Aについては100℃で乾燥し、比較の作用極Bについては200℃で乾燥した。
【0034】
[電解液の作製]
プロピレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比3:7で混合した溶媒に対し、LiPF6を1モル/リットルとなるように溶解して電解液を作製した。
【0035】
[ビーカーセルの作製]
アルゴン雰囲気下のグローボックス中にて、図6に示す三電極式ビーカーセルを作製した。図6に示すように、このビーカーセルは、電解液4中に、作用極1、対極2、及び参照極3を浸漬することにより構成されている。電解液4としては、上記電解液を用い、作用極1としては、上記作用極AまたはBを用い、対極2及び参照極3としては、リチウム金属を用いた。
【0036】
[充放電特性の評価]
作製した各ビーカーセルについて充放電特性を評価した。4mAの定電流で作用極の電位が0V(vs.Li/Li+)に達するまで充電した後、4mAの定電流で作用極の電位が2V(vs.Li/Li+)に達するまで放電し、単位面積当たり放電容量及び初期サイクルにおける充放電効率を評価した。なお、初期サイクルの充放電効率とは、以下の式により算出されるものである。
(初期充放電効率)=(初期の放電容量)÷(初期の充電容量)×100
【0037】
[電極厚みの評価]
作用極の充放電試験前後の厚みを、マイクロメーターで測定し、充放電試験前後での厚みの変化を求めた。なお、各電極について、中央部及び四隅の計5点で測定を行ない、その平均値を電極厚みとした。
【0038】
作用極A及びBを用いた各電池の初期充放電特性を表1に示す。また、作用極A及びBの充放電サイクル試験前後での厚み変化を表2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1から明らかなように、本発明に従う作用極A及び比較の作用極Bのいずれを用いた場合にも、3.3mAh/cm2以上の放電容量が得られ、初期充放電効率も95%以上と高い値が得られた。従って、いずれも充放電容量が高く、充放電サイクル特性に優れていることがわかる。
【0042】
表2から明らかなように、本発明に従う作用極Aは、比較の作用極Bに比べ充放電試験前後での厚みの変化が小さくなっている。図7は、充放電試験後の作用極Aを示す図であり、図8は充放電試験後の作用極Bを示す図である。図7と図8の比較からも明らかなように、作用極Bにおいては、充放電試験によりしわが発生しており、このしわの発生により厚み変化が大きくなっている。
【0043】
従って、本発明に従うことにより、充放電によるしわなどの変形を抑制できることがわかる。
【0044】
【発明の効果】
本発明に従い、電極及び電池作製の工程において、集電体の引張強さが初期の値の90%以上を維持するように温度を制御することにより、充放電による活物質薄膜の膨張・収縮に伴う電極の変形を抑制することができる。従って、本発明に従い製造されたリチウム二次電池は、電極における変形が少ないため、電池の体積エネルギー密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例において集電体として用いた圧延銅箔の熱処理温度と引張強さの関係を示す図。
【図2】無酸素銅の熱処理温度と機械的強度との関係を示す図。
【図3】黄銅1種の熱処理温度と機械的強度との関係を示す図。
【図4】りん青銅2種の熱処理温度と機械的強度との関係を示す図。
【図5】ばね用りん青銅の熱処理温度と機械的強度との関係を示す図。
【図6】本発明の実施例において作製したビーカーセルを示す模式図。
【図7】本発明に従う作用極Aの充放電試験後の電極の表面状態を示す図。
【図8】比較例の作用極Bの充放電試験後の電極の表面状態を示す図。
【符号の説明】
1…作用極
2…対極
3…参照極
4…電解液
Claims (4)
- リチウムを吸蔵・放出する活物質からなる薄膜を、圧延により作製された銅箔または銅合金箔からなる集電体の上に、CVD法、スパッタリング法、蒸着法、または溶射法により堆積して電極を作製し、該電極を用いてリチウム二次電池を製造する方法において、
前記集電体の引張強さが初期の値の90%以上を維持するように製造工程における温度を制御することを特徴とするリチウム二次電池の製造方法。 - 前記集電体上に前記薄膜を堆積する際、前記集電体を冷却することを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池の製造方法。
- 前記集電体の表面が粗面化されており、その表面粗さRaが0.01〜2μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池の製造方法。
- 前記薄膜が、非晶質シリコン薄膜または微結晶シリコン薄膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池の製造方法。
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