JP4176346B2 - スパッタターゲットとその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光記録媒体の誘電体層の形成などに用いられるスパッタターゲットとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高密度記録が可能で、しかも記録情報を消去して書き換えることが可能な光記録媒体が注目されている。書き換え可能型の光記録媒体のうち相変化型のものは、レーザービームを照射することにより記録層の結晶状態を変化させて記録を行い、このような状態変化に伴なう記録層の反射率変化を検出することにより再生を行うものである。相変化型の光記録媒体は、駆動装置の光学系が光磁気記録媒体のそれに比べて単純であるため、注目されている。
【0003】
相変化型の記録層には、結晶質状態と非晶質状態とで反射率の差が大きいこと、非晶質状態の安定度が比較的高いことなどから、Ge−Sb−Te系等のカルコゲナイド系材料が用いられることが多い。
【0004】
相変化型光記録媒体において情報を記録する際には、記録層が融点以上まで昇温されるような高パワー(記録パワー)のレーザービームを照射する。記録パワーが加えられた部分では記録層が溶融した後、急冷され、非晶質の記録マークが形成される。一方、記録マークを消去する際には、記録層がその結晶化温度以上であってかつ融点未満の温度まで昇温されるような比較的低パワー(消去パワー)のレーザービームを照射する。消去パワーが加えられた記録マークは、結晶化温度以上まで加熱された後、徐冷されることになるので、結晶質に戻る。したがって、相変化型光記録媒体では、単一のレーザービームの強度を変調することにより、オーバーライトが可能である。
【0005】
記録の高密度化および高転送レート化を実現するために、記録再生波長の短縮、記録再生光学系の対物レンズの高開口数化、媒体の高線速化が進んでいる。記録用レーザービームの記録層表面にスポット径は、レーザー波長をλ、開口数をNAとしたとき、λ/NAで表され、これを媒体の線速度Vで除した値(λ/NA)/Vが、記録層へのレーザー照射時間(ビームスポット通過に要する時間)となる。高密度化および高転送レート化に伴い、記録層へのレーザー照射時間はますます短くなっていく。そのため、オーバーライト条件を最適化することが難しくなってきている。
【0006】
ここで、線速度を速くしてオーバーライトを行うときの問題点について説明する。
【0007】
線速度を速くした場合、記録光の照射時間が短くなる。そのため、線速度上昇に伴って記録パワーを高くすることにより、記録層の到達温度の低下を防ぐことが一般的である。しかし、線速度が速くなると、記録光照射後の冷却速度が速くなる。非晶質記録マークを形成するためには、記録光照射により溶融した記録層を、その結晶化速度に応じた一定以上の速さで冷却する必要がある。記録層の構成および媒体の熱的設計が同じである場合、記録層の冷却速度は線速度に依存し、高線速度では冷却速度が速くなり、低線速度では冷却速度が遅くなる。
【0008】
一方、非晶質記録マークを消去(再結晶化)するためには、記録層を結晶化温度以上かつ融点以下の温度に一定時間以上保持できるように、消去光を照射する必要がある。高線速度化に伴って消去パワーを高くして記録層の到達温度低下を防いでも、高線速度化に伴って照射時間が短くなるため、記録マークは消去されにくくなる。
【0009】
したがって、線速度を速くしてデータ転送レートを向上させるには、比較的短時間で再結晶化が行えるように、記録層の組成を結晶化速度の比較的速いものとしたり(特開平1−78444号公報、同10−326436号公報)、記録層から熱が逃げにくい媒体構造(徐冷構造)としたりする必要がある。また、特開平7−262613号公報、同8−63784号公報に記載されているように、高線速度化に伴う記録感度の低下を防ぐためにも、媒体を徐冷構造とすることが好ましいと信じられている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
これに対し本発明の発明者らは、高転送レートでオーバーライトする際には、記録層から熱が逃げやすい急冷構造とすることが好ましいことを見いだした(特願2001−109137号)。
【0011】
図3に、相変化型光記録媒体の構造の一例を示す。図3に示す媒体は、支持基体20上に、反射層5、第2誘電体層32、相変化型の記録層4、第1誘電体層31および透光性基体2を、この順で積層して形成したものである。記録光および再生光は、透光性基体2を通して記録層4に入射する。従来、反射層5は、Alまたはこれを主成分とする合金から構成することが一般的であり、また、第2誘電体層32は、ZnS−SiO2から構成することが一般的である。
【0012】
発明者らは、媒体を急冷構造とするためには、図3において反射層5および/または第2誘電体層32を、熱伝導率の高い材料から構成することが好ましく、具体的には、第2誘電体層32をAl2O3またはSiO2から構成し、また、反射層5をAgまたはこれを主成分とする合金から構成するのが好ましいことを見いだした。
【0013】
しかし、第2誘電体層32をAl2O3またはSiO2から構成すると、媒体を高温・高湿条件下で保存した場合に第2誘電体層32と記録層4との間で剥離が発生しやすく、保存信頼性が低くなることがわかった。一方、この剥離を防ぐために第2誘電体層32をZnS−SiO2から構成し、かつ、反射層5をAgまたはこれを主成分とする合金から構成すると、反射層5中のAgが第2誘電体層32に含有される硫黄Sと反応するため反射層5が腐食してしまい、記録/再生特性に悪影響を与えることがわかった。
【0014】
本発明は、保存信頼性が高く、かつ、記録/再生特性が良好な相変化型光記録媒体を実現するために必要とされる誘電体層の形成に用いることのできるスパッタターゲットとその製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(8)の本発明により達成される。
(1) 酸化セリウム及び添加化合物を含有するスパッタターゲットであって、
前記添加化合物が酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムおよび酸化ビスマスから選択される少なくとも1種であり、
走査型電子顕微鏡の組成像において、前記添加化合物に含まれる金属の濃度に応じた3種類の領域が混在し、
前記3種類の領域のうち、前記添加化合物に含まれる金属の濃度が最も高い添加化合物高濃度域が5〜10μm径であり、
酸化セリウムと前記添加化合物との合計に対する前記添加化合物の体積百分率をA%としたとき、前記添加化合物高濃度域の面積が全体の0.5A%以上であるスパッタターゲット。
(2) 前記3種類の領域は、酸化セリウムに近い組成をもつ酸化セリウム高濃度域、前記添加化合物に近い組成をもつ前記添加化合物高濃度域、及びセリウムと前記添加化合物に含まれる金属との拡散が進んだ拡散領域であることを特徴とする上記(1)のスパッタターゲット。
(3) 酸化セリウム及び添加化合物としての酸化アルミニウムを含有するスパッタターゲットであって、
焼結条件を1200℃〜1250℃の範囲に制御することにより、
走査型電子顕微鏡の組成像において、アルミニウムの濃度に応じた3種類の領域が混在し、
前記3種類の領域のうち、アルミニウムの濃度が最も高い添加化合物高濃度域が5〜10μm径であり、
酸化セリウムと酸化アルミニウムとの合計に対する酸化アルミニウムの体積百分率をA%としたとき、前記添加化合物高濃度域の面積が全体の0.5A%以上であるスパッタターゲット。
(4) 前記3種類の領域は、酸化セリウムに近い組成をもつ酸化セリウム高濃度域、酸化アルミニウムに近い組成をもつ前記添加化合物高濃度域、及びセリウムとアルミニウムとの拡散が進んだ拡散領域であることを特徴とする上記(3)のスパッタターゲット。
(5) 酸化セリウムと添加化合物との合計に対する添加化合物のモル百分率が10〜80%である上記(1)〜(4)のいずれかのスパッタターゲット。
(6) 塩素の含有量が10ppm以下である上記(1)〜(5)のいずれかのスパッタターゲット。
(7) 光記録媒体が有する誘電体層の形成に用いられる上記(1)〜(6)のいずれかのスパッタターゲット。
(8) 酸化セリウム粉末と酸化アルミニウム粉末とを混合する工程と、混合した粉末を成形する工程と、得られた混合物の成形体を焼結する工程を含むスパッタターゲットの製造方法であって、
前記焼結する温度を1200〜1250℃の範囲内に設定し、前記焼結の時間を0.5〜2時間とするスパッタターゲットの製造方法。
【0016】
【作用および効果】
本発明の発明者らは、図3に示す媒体構造において、熱伝導率がZnS−SiO2よりも高く、しかも、第2誘電体層32と記録層4との間で剥離が生じにくく、また、反射層5をAgまたはこれを主成分とする合金から構成したときに反射層5中のAgの腐食を防ぐことのできる第2誘電体層32構成材料を探索した結果、酸化セリウムが好ましいことを見いだした。また、第1誘電体層31の少なくとも記録層4と接する領域を酸化セリウムから構成した場合でも、記録層4からの放熱が良好となり、かつ、第1誘電体層31と記録層4との間で剥離が生じにくいことを見いだした。
【0017】
しかし、酸化セリウムからなるターゲットを用いてスパッタ法により誘電体層を形成すると、誘電体層にクラックが入りやすいことがわかった。誘電体層にクラックが存在すると、そこで記録/再生エラーが生じてしまう。
【0018】
発明者らがさらに研究を重ねたところ、酸化セリウムにそれ以外の所定の化合物(本発明における添加化合物)を添加した混合物からなる焼結ターゲットを用いることによって、誘電体層形成時に発生するクラックを防げることがわかった。
【0019】
酸化セリウムおよび上記添加化合物を含有する誘電体層(本明細書では混合誘電体層という)を記録層4に接して設ければ、高温・高湿条件下で保存しても上記混合誘電体層と記録層4との間で剥離が発生しにくい。また、上記混合誘電体層を、Agまたはこれを主成分とする合金からなる反射層5に接して設ければ、反射層5を腐食させることがない。また、上記混合誘電体層は、スパッタ法により形成する際にクラックが発生しにくい。また、上記混合誘電体層では、酸化セリウムと上記添加混合物との混合比を変えることにより屈折率を幅広く制御できるため、媒体の光学設計が容易となる。
【0020】
上記混合誘電体層の記録層に対する剥離しにくさは、記録層が金属または合金から構成される場合に実現する。金属または合金からなる記録層としては、例えば、SbおよびTeを主成分とする相変化型記録層、Ge2Sb2Te5(原子比)付近の組成を有する相変化型記録層、希土類元素−遷移元素合金からなる光磁気記録層が挙げられる。ただし、記録層と誘電体層との剥離は熱衝撃が加わった場合にも生じやすいので、初期化(結晶化)や記録の際に記録層が200〜600℃まで昇温する相変化型媒体に対し、本発明は特に有効である。
【0021】
複数種の酸化物を含有する薄膜をスパッタ法により形成する場合、それぞれの酸化物からなる複数のターゲットを用いる多元スパッタ法または複数種の酸化物を含有する1枚のターゲット(焼結ターゲット)を用いる方法のいずれかを利用する。ただし、多元スパッタ法では、それぞれのターゲットに独立して高周波電力を供給する必要があるため、スパッタ装置が大型化し、また、形成される誘電体層に組成ずれが生じやすい。したがって、複数種の酸化物を含有する誘電体層の形成には、焼結ターゲットを用いることが好ましい。本発明は、上記混合誘電体層の形成に用いることのできる焼結ターゲットを提供するものである。
【0022】
しかし、酸化セリウムおよび上記添加化合物を含有するターゲットを焼結法により製造すると、ターゲットに割れが発生することがある。特に、上記添加化合物のうち酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムまたは酸化ビスマスを用いた場合、また、ターゲットの直径ないし長径が150mm以上となると、実用的な歩留まりを得ることができなかった。
【0023】
発明者らは、焼結ターゲットの割れを防ぐために研究を重ねた結果、ターゲット焼結時の元素拡散を制御することにより、割れを防げることを見いだした。
【0024】
焼結ターゲットは、酸化セリウム粉末と添加化合物粉末とを混合し、得られた混合物の成形体を焼結することにより製造される。焼結ターゲットを走査型電子顕微鏡(SEM)の組成像(反射電子像)で観察すると、元素分布に応じた濃淡が認められる。反射電子の反射強度は原子番号が小さいほど弱くなるため、原子番号の小さい元素ほど組成像において明度が低くなる。上記添加化合物中の金属元素(以下、添加金属という)は、Taを除きCeより原子番号が小さいため、Ta以外の添加金属を用いた場合は、Ce濃度が相対的に高い領域(以下、酸化セリウム高濃度域という)では明度が相対的に高くなり、添加金属の濃度が相対的に高い領域(以下、添加化合物高濃度域という)では明度が相対的に低くなる。一方、添加金属としてTaを用いた場合は、酸化セリウム高濃度域の明度が相対的に低くなり、添加化合物高濃度域の明度が相対的に高くなる。そのため、SEMの組成像を解析することにより、焼結ターゲット中における元素拡散の様子を知ることができる。具体的には、焼結ターゲット中においてCeと添加金属との拡散が進むほど、酸化セリウム高濃度域および添加化合物高濃度域の面積はいずれも小さくなっていき、一方、酸化セリウム高濃度域の明度と添加化合物高濃度域の明度との間の明度を示す中明度域の比率が増大する。この中明度域は、元素拡散によって形成されたものであり、Ce濃度が酸化セリウム高濃度域より低く、添加化合物に含まれる金属の濃度が添加化合物高濃度域より低い領域(本明細書では拡散領域という)である。
【0025】
発明者らは、元素拡散が抑制される条件で焼結することにより、すなわちSEMの組成像において、添加金属の濃度が周囲より高い上記添加化合物高濃度域の面積が比較的大きくなるように焼結することにより、酸化セリウムおよび上記添加化合物を含有する大径の焼結ターゲットを製造する際に、ターゲットの割れを抑制できることを見いだした。
【0026】
ところで、特開平1−92365号公報には、酸化セリウムに、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、フッ化マグネシウム、酸化ジルコニウムおよび酸化ビスマスの1種または2種以上を、その含有量が0.5〜50重量%となるように混合した真空蒸着またはスパッタ用酸化セリウム組成物が記載されている。この組成物は、酸化セリウムに、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムまたは酸化ビスマスを混合したスパッタ用組成物を包含する点で、本発明で用いるスパッタターゲットと類似する。
【0027】
同公報の実施例1では、酸化セリウムに酸化チタンを25重量%添加し、プレス成形した後、約1300℃で2時間焼結を行って蒸着用ペレットを作製している。また、同公報の実施例2では、酸化セリウムに酸化タンタルを40重量%添加し、実施例1と同様な方法で直径100mm、厚さ6mmのスパッタターゲットを作製している。また、同公報の実施例3では、酸化セリウムに酸化アルミニウムを25重量%添加し、実施例1と同様な方法で蒸着用ペレットを作製している。これらの実施例において、スパッタターゲットを作製しているのは実施例2だけである。
【0028】
同公報には、スパッタ用ターゲットに酸化セリウムを用いると、酸化セリウムが熱衝撃に弱いため割れたりひびが入ったりすることがある旨の記載があり、同公報記載の発明はこれらの欠点を改善することを目的としている。しかし、同公報には、焼結法により作製する際にターゲットが割れてしまうことについては記載がない。また、同公報には、2種の酸化物を含有する焼結ターゲットの組織構造(元素分布)についての記載はない。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明のスパッタターゲットは、各種誘電体薄膜の形成に利用することができるが、前述したように、光記録媒体の誘電体層の形成に用いた場合に特に有効である。
【0030】
本発明のスパッタターゲットは、酸化セリウムおよび添加化合物を含有する焼結ターゲットである。上記添加化合物は、酸化クロム、酸化鉄、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛から選択される少なくとも1種の化合物であるか、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムおよび酸化ビスマスから選択される少なくとも1種の化合物である。これらのうち酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムを用いた場合に、本発明の効果は特に優れたものとなる。
【0031】
スパッタターゲットの組成は、目的に応じて適宜決定すればよい。例えば、光記録媒体の混合誘電体層の形成に用いる場合には、混合誘電体層に要求される組成に応じてスパッタターゲットの組成を決定すればよい。本発明のスパッタターゲットを用いて形成された混合誘電体層中において、酸化セリウムと添加化合物との合計量に対する添加化合物のモル比は、好ましくは10〜80%、より好ましくは20〜60%である。このモル比が小さすぎると、添加化合物を含有することによる効果が不十分となる。一方、このモル比が大きすぎると、混合誘電体層と記録層との間で剥離が発生しやすくなる。
【0032】
ターゲットの組成と、そのターゲットを用いてスパッタにより形成された混合誘電体層の組成との間に、著しいずれは発生しないため、通常、混合誘電体層に要求される組成に応じてターゲット組成を決定すればよい。ただし、混合誘電体層の組成の厳密な制御が必要な場合には、ターゲットの組成と、そのターゲットにより形成された混合誘電体層の組成との対応関係を実験的に把握し、この対応関係に基づいてターゲット組成を決定してもよい。
【0033】
なお、ターゲット製造に際しては、各化合物の混合比を質量百分率で表すことが多いが、モル百分率と質量百分率とは、原子量を用いて容易に換算することができる。
【0034】
また、混合誘電体層中における添加化合物のモル比は、以下の手順で直接測定することができる。まず、混合誘電体層に含まれる金属元素のそれぞれについて含有量を求める。金属元素量は、蛍光X線分析、EPMA(電子線プローブX線マイクロアナリシス)、オージェ電子分光分析などにより求めることができる。次に、混合誘電体層中に含まれる金属元素が化学量論組成の化合物として存在しているものとして、添加化合物のモル比を算出する。すなわち、酸化クロム、酸化鉄、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化ビスマスおよび酸化セリウムをそれぞれCr2O3、Fe3O4、Mn3O4、Nb2O5、MgO、ZnO、Al2O3、TiO2、Y2O3、Ta2O5、Sb2O3、ZrO2、Bi2O3およびCeO2に換算して、混合誘電体層中におけるモル比を算出する。
【0035】
混合誘電体層は酸化セリウムおよび上記添加化合物だけから構成されることが好ましいが、他の化合物、例えば酸化珪素、酸化セリウム以外の希土類元素酸化物の少なくとも1種が含有されていてもよい。ただし、前記他の化合物の含有量が多いと、本発明の効果が損なわれることがあるため、前記他の化合物の合計含有量は混合誘電体層全体の30モル%以下であることが好ましい。ZnS等の硫化物は本発明による効果を阻害するため、硫化物は含有されないことが好ましい。なお、このモル百分率は、前記他の化合物が化学量論組成の化合物として存在しているとして算出する。
【0036】
前述したように、酸化セリウムと添加化合物との混合物を含有する誘電体層を形成するに際しては、誘電体層の組成ずれを防ぐために、酸化セリウムと添加化合物とを含有する焼結ターゲットを用いる。しかし、この焼結ターゲットは、焼結法により製造する際に割れが生じやすく、添加化合物として酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムまたは酸化ビスマスを用いた場合、また、焼結ターゲットの直径ないし長径が150mm以上、特に200mm以上である場合に、特に割れが生じやすい。
【0037】
焼結ターゲット製造時の割れを防ぐためには、SEMの組成像において、焼結ターゲットが以下に説明する組織構造を示すことが好ましい。なお、以下の説明では、添加化合物として酸化アルミニウムを用いた場合を例に挙げるが、他の添加化合物についても同様である。
【0038】
前述したように、添加化合物が酸化タンタル以外である場合、組成像においては酸化セリウム高濃度域は明度が高く、添加化合物高濃度域は明度が低くなり、拡散領域は、その中間の明度となる。図1および図2は焼結ターゲットの組成像であり、図1は割れが発生しなかったターゲット、図2は割れが発生したターゲットである。
【0039】
図2には、白色に近い酸化セリウム高濃度域と、黒色に近い添加化合物高濃度域と、灰色の拡散領域とが存在する。図2における酸化セリウム高濃度域は、実質的に酸化セリウムに近い組成であり、図2における添加化合物高濃度域は実質的に酸化アルミニウムに近い組成であり、拡散領域はCeとAlとの拡散が進んでいる領域である。
【0040】
一方、図1には灰色の拡散領域はほとんど認められず、図2に比べ、黒色に近い添加化合物高濃度域の面積が大きい。図1では、5〜10μm径の添加化合物高濃度域が均一に分散している。すなわち、図1では、図2に比べCeおよびAlの拡散が進んでいない。
【0041】
図1および図2に示す焼結ターゲットは、組成がいずれも酸化セリウム70体積%、酸化アルミニウム30体積%である。一方、視野中における添加化合物高濃度域の面積比は、図1では28%、図2では5%である。発明者らが、酸化アルミニウム含有量および焼結条件を様々に変更してターゲットを作製する実験を行ったところ、酸化セリウムと酸化アルミニウムとの合計に対する酸化アルミニウムの体積百分率をA%としたとき、Alが高濃度で存在する添加化合物高濃度域の面積が視野全体の0.5A%以上、好ましくは0.8A%以上であれば、ターゲットの割れを顕著に抑制できることがわかった。ただし、添加化合物高濃度域の面積が大きすぎると、すなわち、CeおよびAlの拡散がほとんど進まない条件で焼結を行うと、ターゲットの焼結が不十分となる。その結果、ターゲットの吸湿性が高くなり、吸湿によって割れやすくなる。そのため、添加化合物高濃度域の面積は視野全体のA%未満、特に0.99A%以下であることが好ましい。
【0042】
なお、添加化合物の含有量が図1および図2に示すターゲットより少ない場合でも多い場合でも、酸化セリウム高濃度域、添加化合物高濃度域および拡散領域は、図1および図2と同様にSEMの組成像において明瞭に区別することが可能である。また、図1に示す本発明のターゲットに拡散領域はほとんど認められないが、本発明のターゲットであっても、添加化合物高濃度域の面積比によっては拡散領域の面積がさらに大きくなることもある。
【0043】
添加化合物高濃度域の面積比を求めるに際しては、ターゲットの全表面について測定を行う必要はなく、ターゲット表面の少なくとも8000μm2の面積について測定を行えばよい。
【0044】
なお、本発明において、ターゲット中の各化合物の体積百分率は、ターゲット中の各化合物の質量百分率から以下の手順で算出する。
MC:CeO2の質量百分率、
MA:添加化合物の質量百分率、
ρC:CeO2の密度、
ρA:添加化合物の密度、
VC:CeO2の体積百分率、
VA:添加化合物の体積百分率
としたとき、
VC=(100*MC/ρC)/(MC/ρC+MA/ρA)、
VA=(100*MA/ρA)/(MC/ρC+MA/ρA)
である。
【0045】
組織構造制御によってターゲットの割れを防ぐ効果は、ターゲットの長径または直径が150mm以上、特に200mm以上である場合に特に有効である。ただし、ターゲット径が極端に大きいと割れが発生しやすくなるため、ターゲットの長径または直径は330mm以下とすることが好ましい。
【0046】
添加化合物高濃度域の面積比を上記した限定範囲内とするためには、焼結ターゲットの原料粉末の粒径および粒度分布や組成などの各種条件に応じて焼結条件を制御すればよい。具体的な焼結条件は、添加化合物高濃度域の面積比が所望の値となるように実験的に決定すればよいが、焼結温度は1000〜1400℃、特に1200〜1250℃の範囲内に設定することが好ましく、また、焼結時間(安定温度または上記好ましい温度範囲内を通過する時間)は0.5〜2時間とすることが好ましい。なお、焼結にはホットプレス(熱間加圧焼成)を利用してもよい。ホットプレスの際の加圧圧力は、5〜30MPa程度とすることが好ましい。
【0047】
焼結ターゲットは、酸化セリウム粉末と添加化合物粉末とを混合し、成形した後、焼結することにより製造する。酸化セリウム粉末および添加化合物粉末の平均粒径は特に限定されないが、通常、0.01〜3μmの範囲内であればよい。
【0048】
なお、酸化セリウム粉末は共沈法により製造することができるが、その場合、ターゲット中に100ppm程度の塩素が残留しやすい。この塩素は、混合誘電体層にも含まれることになり、その結果、混合誘電体層に接する記録層に黒点が生じて、記録/再生特性が影響を受けることがある。このような問題の発生を防ぐためには、ターゲット中の塩素含有量を質量比で10ppm以下に抑えることが好ましい。
【0049】
次に、本発明のスパッタターゲットを用いて形成された複合誘電体層を有する光記録媒体の構成例について、説明する。
【0050】
図3に示す構造
光記録媒体の構成例を、図3に示す。この光記録媒体は、支持基体20上に、反射層5、第2誘電体層32、相変化型の記録層4、第1誘電体層31および透光性基体2を、この順で積層して形成したものである。記録または再生のためのレーザービームは、透光性基体2を通して記録層4に入射する。なお、支持基体20と反射層5との間に、誘電体材料からなる中間層を設けてもよい。以下、この媒体の各部の構成について説明する。
【0051】
第1誘電体層31および第2誘電体層32
これらの誘電体層は、記録層4の酸化、変質を防ぐ。また、これらの誘電体層を設けることにより、変調度を向上させることができる。第1誘電体層31は、記録時に記録層4から伝わる熱を遮断ないし面内方向に逃がすことにより、透光性基体2を保護する。また、第2誘電体層32は、記録時に記録層4から伝わる熱を反射層5に逃がして、記録層4を冷却する機能をもつ。
【0052】
第1誘電体層31および第2誘電体層32の厚さは、冷却効果、保護効果、変調度向上効果が十分に得られるように適宜決定すればよいが、通常、第1誘電体層31の厚さは好ましくは30〜300nm、より好ましくは50〜250nmであり、第2誘電体層32の厚さは好ましくは2〜50nmである。ただし、急冷構造とするためには、第2誘電体層32の厚さを好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下とする。
【0053】
第1誘電体層31および第2誘電体層32に用いる誘電体としては、例えば、Si、Ge、Zn、Al、希土類元素等から選択される少なくとも1種の金属成分を含む各種化合物が好ましい。化合物としては、酸化物、窒化物または硫化物が好ましく、これらの化合物の2種以上を含有する混合物を用いることもできる。
【0054】
ただし、本発明では、第1誘電体層31の少なくとも一部および/または第2誘電体層32の少なくとも一部を、酸化セリウムおよび添加化合物を含有する混合誘電体層から構成する。
【0055】
本発明では、第1誘電体層31全体および/または第2誘電体層32全体を上記混合誘電体層としてもよく、第1誘電体層31および/または第2誘電体層32を、少なくとも2層の副誘電体層が積層された構造とし、副誘電体層の少なくとも1層を、上記混合誘電体層としてもよい。いずれの場合でも、混合誘電体層が記録層4に接して存在すれば、高温・高湿条件下で保存しても記録層4と混合誘電体層との間で剥離が生じにくく、また、混合誘電体層がAgを含有する反射層5に接して存在すれば、反射層5の腐食が生じにくくなる。
【0056】
支持基体20
支持基体20は、媒体の剛性を維持するために設けられる。支持基体20の厚さは、通常、0.2〜1.2mm、好ましくは0.4〜1.2mmとすればよく、透明であっても不透明であってもよい。支持基体20は、通常の光記録媒体と同様に樹脂から構成すればよいが、ガラス、金属、セラミックから構成してもよい。光記録媒体において通常設けられるグルーブ(案内溝)21は、図示するように、支持基体20に設けた溝を、その上に形成される各層に転写することにより、形成できる。グルーブ21は、記録再生光入射側から見て相対的に手前側に存在する領域であり、隣り合うグルーブ間に存在する領域がランド22である。
【0057】
反射層5
反射層構成材料は特に限定されず、通常、Al、Au、Ag、Pt、Cu、Ni、Cr、Ti、Si等の金属または半金属の単体あるいはこれらの1種以上を含む合金などから構成すればよい。ただし本発明における誘電体層構成材料は、媒体を急冷構造とするために選択されたものなので、反射層も、急冷構造に適した熱伝導率の高い材料から構成することが好ましい。熱伝導率の高い材料としては、Agまたはこれを主成分とする合金が好ましい。しかし、Agの単体では十分な耐食性が得られないため、耐食性向上のための元素を添加することが好ましい。また、図3に示す構造の媒体では、反射層形成時の結晶成長により、レーザービーム入射側における反射層の表面粗さが大きくなりやすい。この表面粗さが大きくなると、再生ノイズが増大する。そのため、反射層の結晶粒径を小さくすることが好ましいが、そのためにも、Agの単体ではなく、反射層の結晶粒径を小さくするため、または、反射層を非晶質層として形成するために、添加元素を加えることが好ましい。
【0058】
Agに添加することが好ましい副成分元素としては、例えば、Mg、Pd、Ce、Cu、Ge、La、Sb、Si、TeおよびZrから選択される少なくとも1種が挙げられる。これら副成分元素は、少なくとも1種、好ましくは2種以上用いることが好ましい。反射層中における副成分元素の含有量は、各金属について好ましくは0.05〜2.0原子%、より好ましくは0.2〜1.0原子%であり、副成分全体として好ましくは0.2〜5原子%、より好ましくは0.5〜3原子%である。副成分元素の含有量が少なすぎると、これらを含有することによる効果が不十分となる。一方、副成分元素の含有量が多すぎると、熱伝導率が小さくなってしまう。
【0059】
なお、反射層の熱伝導率は、結晶粒径が小さいほど低くなるため、反射層が非晶質であると、記録時に十分な冷却速度が得られにくい。そのため、反射層をまず非晶質層として形成した後、熱処理を施して結晶化させることが好ましい。いったん非晶質層として形成した後に結晶化すると、非晶質のときの表面粗さをほぼ維持でき、しかも、結晶化による熱伝導率向上は実現する。
【0060】
反射層の厚さは、通常、10〜300nmとすることが好ましい。厚さが前記範囲未満であると十分な反射率を得にくくなる。また、前記範囲を超えても反射率の向上は小さく、コスト的に不利になる。反射層は、スパッタ法や蒸着法等の気相成長法により形成することが好ましい。
【0061】
記録層4
記録層の組成は特に限定されない。ただし、データ転送レートを高くするためには高線速度でオーバーライトを行う必要があり、そのためには、非晶質記録マークが短時間で消去(結晶化)できるように、非晶質から結晶質に転移する速度(結晶化速度)の速い記録層が好ましい。そのためには、SbおよびTeを主成分とし、Sb含有量が比較的多い組成とすることが好ましい。
【0062】
SbおよびTeだけからなる記録層は、結晶化温度が130℃程度と低く、保存信頼性が不十分なので、結晶化温度を向上させるために他の元素を添加することが好ましい。この場合の添加元素としては、In、Ag、Au、Bi、Se、Al、P、Ge、H、Si、C、V、W、Ta、Zn、Ti、Sn、Pb、Pdおよび希土類元素(Sc、Yおよびランタノイド)から選択される少なくとも1種が好ましい。これらのうちでは、保存信頼性向上効果が特に高いことから、希土類元素、Ag、InおよびGeから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0063】
記録層の組成は、
式I (SbxTe1-x)1-yMy
で表されるものが好ましい。上記式Iにおいて、元素MはSbおよびTeをそれぞれ除く元素を表し、xおよびyは原子比を表し、好ましくは
0.2≦x≦0.90、
0≦y≦0.25
であり、より好ましくは
0.55≦x≦0.85、
0.01≦y≦0.20
である。記録層をこのような組成とすることにより、データ転送レートを高くすることが容易となる。
【0064】
透光性基体2
透光性基体2は、記録再生光を透過するために透光性を有する。透光性基体2には、支持基体20と同程度の厚さの樹脂板やガラス板を用いてもよい。ただし、本発明は、高密度記録を行う場合に特に有効である。したがって、記録再生光学系の高NA化による高記録密度達成のために、透光性基体2を薄型化することが好ましい。この場合の透光性基体の厚さは、30〜300μmの範囲から選択することが好ましい。透光性基体が薄すぎると、透光性基体表面に付着した塵埃による光学的な影響が大きくなる。一方、透光性基体が厚すぎると、高NA化による高記録密度達成が難しくなる。
【0065】
透光性基体2を薄型化するに際しては、例えば、透光性樹脂からなる光透過性シートを各種接着剤や粘着剤により第1誘電体層31に貼り付けて透光性基体としたり、塗布法を利用して透光性樹脂層を第1誘電体層31上に直接形成して透光性基体としたりすればよい。
【0066】
図4に示す構造
図4に示す光記録媒体は、透光性基体2上に、第1誘電体層31、記録層4、第2誘電体層32、反射層5および保護層6をこの順で有し、記録光および再生光は、透光性基体2を通して入射する。
【0067】
図4に示す構造とする場合でも、第2誘電体層32の組成を本発明にしたがって制御することにより、本発明の効果が実現する。
【0068】
図4における透光性基体2は、図3における支持基体20と同様なものを利用すればよいが、透光性を有する必要がある。
【0069】
保護層6は、耐擦傷性や耐食性の向上のために設けられる。この保護層は種々の有機系の物質から構成されることが好ましいが、特に、放射線硬化型化合物やその組成物を、電子線、紫外線等の放射線により硬化させた物質から構成されることが好ましい。保護層の厚さは、通常、0.1〜100μm程度であり、スピンコート、グラビア塗布、スプレーコート、ディッピング等、通常の方法により形成すればよい。
【0070】
このほかの各層は、図3に示す構成例と同様である。
【0071】
【実施例】
実施例1
図1に、CeO2およびAl2O3を含有する焼結ターゲットのSEM写真(組成像)を示す。このターゲットは、直径200mm、厚さ6mmの円板状であり、共沈法により製造した平均粒径0.5μmのCeO2粉末(塩素含有量3ppm)と平均粒径0.5μmのAl2O3粉末とを混合し、成形した後、Ar雰囲気中において1200℃で1時間焼結することにより作製した。なお、CeO2とAl2O3との混合比は、ターゲット中において、前記した手順で求めた体積比がCeO2:Al2O3=70:30となるように決定した。
【0072】
また、焼結温度を1300℃としたほかは図1のターゲットと同様にしてターゲットを作製した。図2に、この焼結ターゲットのSEM写真(組成像)を示す。
【0073】
図1では、Alが高濃度で存在する添加化合物高濃度域の面積が視野全体の面積(約9100μm2)の28%である。このターゲットでは、Al2O3/(CeO2+Al2O3)=30%、すなわち体積比A%が30%なので、このターゲットは本発明における限定を満足している。一方、図2では、Alが高濃度で存在する添加化合物高濃度域の面積が視野全体の面積の5%、すなわち0.5A%未満なので、本発明における限定を満足していない。
【0074】
図1に示すターゲットと同条件でターゲットを30個作製し、また、図2に示すターゲットと同条件でターゲットを30個作製し、これらについて割れの発生を調べた。その結果、図1に示すターゲットと同条件で作製したターゲットでは、割れの発生率が3.3%であり、また、製造後、空気中で3日間放置したところ、新たに割れたものはなく、さらに、ボンディング工程においてターゲット表面が粉末化したものもなかった。一方、図2に示すターゲットと同条件で作製したターゲットでは、割れの発生率が66.7%であり、空気中で3日間放置したところ、割れの発生率は83.3%まで増大した。
【0075】
この結果から、SEMの組成像における添加化合物高濃度域の面積比を限定することによる効果が明らかである。
【0076】
なお、酸化アルミニウムに替えて、酸化クロム、酸化鉄、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化マグネシウムまたは酸化亜鉛を用い、上記と同様に30個のターゲットを製造した場合は、添加化合物高濃度域の面積比が0.5A%未満であっても割れは比較的少なく、添加化合物高濃度域の面積比が0.5A%以上となる条件で焼結すると、割れはさらに減少した。特に効果が高かったのは酸化マグネシウムを30モル%(15体積%)添加した場合であった。酸化マグネシウムを添加したターゲットでは、添加化合物高濃度域の面積比が0.28A%であっても、割れ発生率は13.3%と低かった。また、酸化マグネシウム添加のターゲットにおいて添加化合物高濃度域の面積比が0.66A%の場合、割れ発生率は3.3%であり、添加化合物高濃度域の面積比が0.87A%の場合、割れ発生率は0%であり、かつ、これらのいずれの場合でも、空気中での3日間放置により割れが生じたものもなく、ボンディング工程において表面が粉末化したものもなかった。
【0077】
また、酸化アルミニウムに替えて、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムまたは酸化ビスマスを用いた場合、添加化合物高濃度域の面積比を0.5A%以上とすることにより、焼結時のターゲットの割れおよび空気中での放置後のターゲットの割れが著しく減少した。
実施例2
サンプル No. 1
以下の手順で、図3に示す構造の光記録ディスクサンプルを作製した。
【0078】
支持基体20には、射出成形によりグルーブを同時形成した直径120mm、厚さ1.1mmのディスク状ポリカーボネートを用いた。
【0079】
反射層5は、Ar雰囲気中においてスパッタ法により形成した。ターゲットにはAg98Pd1Cu1を用いた。反射層5の厚さは100nmとした。
【0080】
第2誘電体層32は、図1に示すターゲットと同条件で作製したCeO2−Al2O3焼結ターゲットを用いてAr雰囲気中でスパッタ法により形成した。この焼結ターゲットの組成は、形成される誘電体層のモル比CeO2:Al2O3が80:20となるように決定した。第2誘電体層32の厚さは12.5nmとした。
【0081】
記録層4は、合金ターゲットを用い、Ar雰囲気中でスパッタ法により形成した。記録層4の組成(原子比)は、
式I (SbxTe1-x)1-yMy
において
M=In、Ge、
In:Ge=1:5、
x=0.78、
y=0.06
とした。記録層の厚さは12nmとした。
【0082】
第1誘電体層31は、ZnS(80モル%)−SiO2(20モル%)ターゲットを用いてAr雰囲気中でスパッタ法により形成した。第1誘電体層31の厚さは130nmとした。
【0083】
透光性基体2は、第1誘電体層31の表面に厚さ100μmのポリカーボネートシートを接着することにより形成した。
【0084】
サンプル No. 2(比較)
第2誘電体層32をCeO2だけから構成し、かつ第2誘電体層32の厚さを12nmとしたほかはサンプルNo.1と同様にして作製した。
【0085】
サンプル No. 3(比較)
第2誘電体層32をAl2O3だけから構成し、かつ第2誘電体層32の厚さを20nmとしたほかはサンプルNo.1と同様にして作製した。
【0086】
評価
上記各サンプルの記録層をバルクイレーザーにより初期化(結晶化)した後、光記録媒体評価装置に載せ、
レーザー波長λ:405nm、
開口数NA:0.85、
線速度:5.3m/s、
ビット長:0.12μm
の条件で記録を行った。
【0087】
次いで、記録信号を再生し、ジッタを測定した。このジッタはクロックジッタであり、再生信号をタイムインターバルアナライザにより測定して「信号の揺らぎ(σ)」を求め、検出窓幅Twを用いて
σ/Tw (%)
により算出した値である。ジッタが最小となる最適記録パワー/最適消去パワーを求めたところ、いずれのサンプルにおいても5.4mW/2.8mWであり、そのときのジッタは7.4%であった。この結果から、いずれのサンプルにおいても記録/再生特性に問題のないことが確認できた。
【0088】
次に、これらのサンプルを80℃・85%RHの高温・高湿環境下に50時間保存したところ、サンプルNo.1およびNo.2に変化はなかったが、サンプルNo.3では、記録層4と第2誘電体層32との間で剥離が発生した。
【0089】
また、サンプルNo.1およびNo.2について、それぞれ連続で1000枚作製し、第2誘電体層32の良否を調べた。その結果、CeO2からなる第2誘電体層32を有するサンプルNo.2では、第2誘電体層32にクラックが存在するものが50%もあった。これに対し、CeO2とAl2O3との混合物からなる第2誘電体層32を有するサンプルNo.1では、第2誘電体層32にクラックが存在するものはなかった。
【0090】
実施例3
第2誘電体層32をCeO2−Al2O3またはCeO2から構成し、第2誘電体層32中のAl2O3含有量を表1に示す値とし、第2誘電体層32の厚さを表1に示す値としたほかはサンプルNo.1と同様にして、光記録ディスクサンプルを作製した。なお、各サンプルの第2誘電体層32の厚さは、すべてのサンプルにおいて反射率が同じとなるように設定した。
【0091】
これらのサンプルについて、ジッタが最小となる最適記録パワーPwを実施例1と同じ条件で求めた。また、これらのサンプルについて、実施例1と同様にして高温・高湿条件下で保存し、保存後に記録層4と第2誘電体層32との間での剥離の有無を調べた。これらの結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1から、Al2O3含有量が60モル%を超えると、記録層4と第2誘電体層32との間で剥離が発生しやすくなることがわかる。なお、剥離は各サンプルについて10例ずつ測定した。Al2O3含有量が80モル%であるサンプルNo.9における剥離発生頻度は、4/10であった。一方、Al2O3含有量が100モル%である前記サンプルNo.3における剥離発生頻度は、10/10であった。これらの結果から、Al2O3含有量の好ましい範囲は10〜80モル%、特に20〜60モル%であることがわかる。
【0094】
また、表1に示される結果から、Al2O3含有量を増やすことにより屈折率が低くなるため、第2誘電体層32をより厚くでき、その結果、記録感度が向上する(最適記録パワーが下がる)ことがわかる。なお、表1に示されるサンプルでは、ジッタの最小値がいずれも8%以下であった。
【0095】
なお、Al2O3に替えて、Cr2O3、Fe3O4、Mn3O4、Nb2O5、MgO、ZnO、TiO2、Y2O3、Ta2O5、Sb2O3、ZrO2またはBi2O3を含有する焼結ターゲットを用いて第2誘電体層32を形成した場合でも、第2誘電体層32のクラック発生が抑制され、また、第2誘電体層の剥離も認められなかった。特にMgOを用いた場合には、Al2O3を用いた場合と同等のクラック抑制効果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【図1】セラミック材料の組織を示す図面代用写真であって、元素拡散が進んでいないスパッタターゲットの走査型電子顕微鏡写真(組成像)である。
【図2】セラミック材料の組織を示す図面代用写真であって、元素拡散が進んでいるスパッタターゲットの走査型電子顕微鏡写真(組成像)である。
【図3】光記録媒体の構成例を示す部分断面図である。
【図4】光記録媒体の他の構成例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
2 透光性基体
20 支持基体
31 第1誘電体層
32 第2誘電体層
4 記録層
5 反射層
6 保護層
Claims (8)
- 酸化セリウム及び添加化合物を含有するスパッタターゲットであって、
前記添加化合物が酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムおよび酸化ビスマスから選択される少なくとも1種であり、
走査型電子顕微鏡の組成像において、前記添加化合物に含まれる金属の濃度に応じた3種類の領域が混在し、
前記3種類の領域のうち、前記添加化合物に含まれる金属の濃度が最も高い添加化合物高濃度域が5〜10μm径であり、
酸化セリウムと前記添加化合物との合計に対する前記添加化合物の体積百分率をA%としたとき、前記添加化合物高濃度域の面積が全体の0.5A%以上であるスパッタターゲット。 - 前記3種類の領域は、酸化セリウムに近い組成をもつ酸化セリウム高濃度域、前記添加化合物に近い組成をもつ前記添加化合物高濃度域、及びセリウムと前記添加化合物に含まれる金属との拡散が進んだ拡散領域であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタターゲット。
- 酸化セリウム及び添加化合物としての酸化アルミニウムを含有するスパッタターゲットであって、
焼結条件を1200℃〜1250℃の範囲に制御することにより、
走査型電子顕微鏡の組成像において、アルミニウムの濃度に応じた3種類の領域が混在し、
前記3種類の領域のうち、アルミニウムの濃度が最も高い添加化合物高濃度域が5〜10μm径であり、
酸化セリウムと酸化アルミニウムとの合計に対する酸化アルミニウムの体積百分率をA%としたとき、前記添加化合物高濃度域の面積が全体の0.5A%以上であるスパッタターゲット。 - 前記3種類の領域は、酸化セリウムに近い組成をもつ酸化セリウム高濃度域、酸化アルミニウムに近い組成をもつ前記添加化合物高濃度域、及びセリウムとアルミニウムとの拡散が進んだ拡散領域であることを特徴とする請求項3に記載のスパッタターゲット。
- 酸化セリウムと添加化合物との合計に対する添加化合物のモル百分率が10〜80%である請求項1〜4のいずれかのスパッタターゲット。
- 塩素の含有量が10ppm以下である請求項1〜5のいずれかのスパッタターゲット。
- 光記録媒体が有する誘電体層の形成に用いられる請求項1〜6のいずれかのスパッタターゲット。
- 酸化セリウム粉末と酸化アルミニウム粉末とを混合する工程と、混合した粉末を成形する工程と、得られた混合物の成形体を焼結する工程を含むスパッタターゲットの製造方法であって、
前記焼結する温度を1200〜1250℃の範囲内に設定し、前記焼結の時間を0.5〜2時間とするスパッタターゲットの製造方法。
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