JP4173957B2 - 溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法に関し、より詳しくは、引っ張り強度が570MPa〜980MPaの鋼板を重ね隅肉溶接する際に、従来に比べて溶接継手の疲労強度を向上させることができる、溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶接部に発生する疲労亀裂は、構造物全体の信頼性に重大な影響を与えるため、その疲労特性を向上させる手法は以前より試みられてきた。疲労亀裂が発生しやすい部分は溶接止端部であるが、その理由としては、溶接止端部には応力集中部が発生しやすく、引っ張りの残留応力が生じやすい、などが挙げられる。したがって、従来の溶接継手の疲労強度向上技術としては、例えば、溶接後、溶接止端部を研削により滑らかにする等の機械的な方法、あるいはTIGリメルト溶接による化粧溶接を施して溶接ビード形状を改善し応力集中を低減する方法、またショットピーニングによる打撃を施して溶接ビード形状を滑らかにするとともに圧縮残留応力を導入する方法、などがあった。これらの方法による溶接継手は、鋼構造物の建設コスト増大の原因となるため、このような方法を用いずに溶接継手の疲労強度が向上できる方法が望まれていた。
【0003】
このような方法に対して、最近、溶接時に溶接金属の変態膨張を利用し、溶接止端部の残留応力を低減させることにより、溶接継手の疲労特性を改善する技術が提案されている。例えば、特開平11−138290号公報では、溶接金属のマルテンサイト変態を利用し、該溶接金属が溶接後の室温時においてマルテンサイト変態開始時より膨張している状態に維持することにより、溶接止端部の引張残留応力を緩和させる方法が開示されている。この方法では、マルテンサイト変態開始温度が170〜250℃の鉄合金からなる溶接材料、具体的には、C:0.1%以下、Cr:8〜13%、Ni:5〜12%を含有する溶接材料を用いて溶接することが開示されており、上述の溶接後の溶接部に対して何らかの処理を施す方法に比べ、人手およびそのためのコストがかからないという利点がある。
【0004】
しかし、特開平11−138290号公報で開示される方法は、溶接材料として、CrやNiなどの高価な合金元素を多量に添加されたものを使用するために溶接施工コストの増加をもたらし、経済的な観点から好ましくない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術の問題点に鑑みて、本発明は、CrやNiなどの高価な合金元素を多量に用いずに、安価な成分元素を用いることにより低温での溶接金属のマルテンサイト変態膨張を実現させ、従来よりも溶接継手の疲労強度を向上できる、溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、以上のような事情を鑑み、鋼板の重ね隅肉溶接における溶接部の疲労強度を向上させる技術について鋭意研究を重ねてきた結果、被溶接材である鋼板の板厚および引っ張り強度の所定範囲において溶接金属中のC含有量を増加させることにより高温割れの発生を抑制しつつマルテンサイト変態開始温度を低下でき、それによって溶接継手の疲労強度を向上できることを知見した。本発明は、この知見をもとになされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
【0007】
(1) 鋼板の重ね隅肉溶接方法において、
板厚:0.5〜4.0mm、
引っ張り強度:570MPa〜980MPaの鋼板を用い、
化学成分として、質量%で、
C :0.45〜0.7%、
Si:0.1〜0.8%、
Mn:0.4〜2.0%、
P :0.03%以下、
S :0.02%以下
を含有し、残部が鉄または不可避不純物からなり、かつマルテンサイト変態開始温度が200〜350℃である溶接金属からなる溶接部を形成することにより、溶接金属の冷却に伴うオーステナイトからマルテンサイトへの変態過程での変態膨張を利用して溶接止端部に圧縮残留応力を導入することを特徴とする溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法。
【0008】
(2) 前記溶接部の溶け込み深さが、前記鋼板の板厚に対して2/3以下であることを特徴とする上記(1)に記載の溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法。
【0009】
(3) 前記溶接金属の化学成分として、さらに、質量%で、Ni、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ti、Ca、BおよびMgのうちの1種または2種以上を合計量で2%以下含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
初めに、本発明の技術思想について述べる。
【0012】
本発明の溶接継手の疲労強度向上における技術思想は大きく3つに分類される。
【0013】
第1の技術思想は、溶接金属のオーステナイトからマルテンサイトへの変態過程での変態膨張を利用し、溶接止端部に圧縮残留応力を導入することにより溶接止端部の引張残留応力を低減し、それによって溶接継手の疲労強度を向上させるものである。これを実現させるためには、溶接金属のマルテンサイト変態開始温度を低減させ、溶接金属の冷却による熱収縮が低減する低温度域でマルテンサイトに変態させ、体積膨張させる必要があるが、本発明では、従来のCrやNiなどの高価な合金元素を極力用いず安価なCを増加させることにより溶接金属のマルテンサイト変態開始温度を低減する。
【0014】
本発明の第2の技術思想は、溶接金属のC含有量の増加にともなって増加する高温割れの発生を被溶接材である鋼板の板厚の低減により抑制させるものである。Cは溶接金属のマルテンサイト変態開始温度を低下させるとともに溶接金属の凝固温度も低下させる作用があることが知られており、C含有量の増加にともない溶接金属の凝固時に低融点部が発生し高温割れの原因となり、この理由から従来は溶接金属中のC含有量を増加することは行われなかった。本発明者らは、実験などの検討結果から被溶接材である鋼板の板厚を低下することにより溶接金属の凝固の進行方向を溶接ビード表面に向かうように制御し、溶接ビード内部での溶接金属の突き合わせ凝固および低融点部の発生を回避し、それによって溶接金属中のC含有量の増加にともなう高温割れ発生を抑制できることを見いだした。本発明は、この知見をもとに溶接金属中のC含有量の増加にともなって増加する溶接金属の高温割れ発生を被溶接材である鋼板の板厚を低下することによって抑制し、溶接継手の疲労強度を向上するものである。
【0015】
本発明の第3の技術思想は、溶接止端部に圧縮残留応力を導入して引っ張り残留応力を低減させるために第1の技術思想である溶接金属のマルテンサイト変態開始温度の低減とともに、溶接金属のマルテンサイト変態膨張時の母材反力を利用して溶接止端部により高い圧縮残留応力を導入させるものである。これを実現させるためには、溶接金属のマルテンサイト変態膨張時に効果的に圧縮応力を発生させ、熱収縮による引っ張り残留応力を低減できるだけの母材反力が得られるための充分高い引っ張り強度が必要である。
【0016】
次に、本発明の限定理由について述べる。
【0017】
先ず、本発明における鋼板の板厚の限定理由について説明する。
【0018】
本発明では、溶接金属のマルテンサイト変態開始温度を低下させるために特に溶接金属中のC含有量を通常よりも非常に高くする必要があるが、このC含有量の増加は溶接金属の高温割れの発生とそれに起因する溶接継手の疲労強度の低下を招く問題がある。この問題を解決するために本発明では、以下のように被溶接材である鋼板の板厚を適正な範囲に規定する必要がある。
【0019】
図1および図2は、板厚が薄い薄肉鋼板3および板厚が厚い厚肉鋼板4をそれぞれ重ね隅肉溶接した場合の溶接継手における溶接金属の凝固進行過程を説明するための模式図を示すものである。図1および図2に示めされる点線は、溶接部の冷却過程の特定時刻での等温線(例えば、1000℃まで加熱された部分)1を示し、実線で囲まれた部分は溶接金属2を示す。
【0020】
図2に示す板厚が充分厚い厚肉鋼板4を重ね隅肉溶接する場合は、板厚の増加にともなって鋼板の熱容量が大きくなり、鋼板の温度が上昇しにくくなるため等温線1は溶接金属2のすぐ近くに位置し、溶接金属の冷却は、溶接金属の表面からの熱放散よりも鋼板自体からの冷却、言い換えると、鋼板への熱拡散で行われるため、溶接金属の凝固は矢印6の方向、すなわち溶接金属の中心方向に向かって進行する。このため、比較的板厚が厚い厚肉鋼板4を重ね隅肉溶接する場合は、図2の左側に示すような溶接金属の中央部で凝固同士がぶつかり合う、すなわち突き合わせ凝固による凝固組織が得られることになり、凝固が進むにつれ、低融点物質が溶接金属中央部の突き合わせ凝固部分に集中することとなり高温割れ発生の原因となる。
【0021】
これに対して、図1の板厚が薄い薄肉鋼板3を重ね隅肉溶接する場合は、等温線1は溶接金属2から遠いところに位置し、溶接金属の冷却は、主として溶接金属の表面7からの熱放散により行われるようになり、溶接金属の凝固もまた矢印5の方向、すなわち溶接金属の表面方向に向かって進行することとなる。したがって、図1の左側に示すような凝固同士がぶつかり合わない、すなわち突き合わせ凝固をおこさない凝固組織が得られることになり低融点物質8による高温割れは回避することができる。
【0022】
図3は、Cを0.6%含むワイヤを用いて重ね隅肉溶接を行ったとき(溶接金属のC含有量:0.49%)の鋼板の板厚と溶接金属の割れ長さとの関係を示したものである。
【0023】
ここで、割れ長さは、溶接後に溶接部よりマクロ採取し、それを顕微鏡にて割れ観察して、割れの長さを測定し、その測定値の合計を割れ長さと定義した。
【0024】
図3より溶接金属のC含有量が0.49%と高い場合であっても鋼板の板厚が薄い場合は割れ長さは0mm、すなわち割れは発生していないが、板厚が4mmを越えて厚くなると溶接金属の割れ長さは急激に増加する。
【0025】
以上から本発明では、溶接金属のC含有量が0.45〜0.7%の高C含有量の場合にも図1に示すような溶接金属の表面7に向かう方向に凝固を進行させることにより、溶接金属の中央部で凝固同士がぶつかり合う、突き合わせ凝固組織および突き合わせ凝固部での低融点物質の集中を抑制することで溶接金属の高温割れ発生を防止するために、被溶接材である鋼板の板厚の上限を4mmとする。一方、鋼板の板厚が0.5mmより薄い場合には、アーク溶接が難しくなりワイヤにてマルテンサイト変態開始温度の低い溶接金属を形成することが難しくなるため、その下限を0.5mmとする。
【0026】
次に、溶接金属のマルテンサイト変態開始温度を限定した理由について述べる。
【0027】
本発明における溶接継手の疲労強度向上方法は、溶接金属のマルテンサイト変態膨張を利用し、疲労亀裂が発生する部分の残留応力を低減すなわち圧縮残留応力にすることを利用するものである。そのためには、溶接終了後室温にまで冷却した状態まで変態膨張によ導入された圧縮応力が残留していなければならない。しかし、一般的には、溶接金属が変態膨張しても、変態後の熱収縮により引っ張り残留応力になることが通常であった。圧縮応力を残留させるためには、変態を低い温度で発生させ、変態終了後の熱収縮を小さくすることが必要である。そのため、マルテンサイト変態開始温度を限定する必要がある。マルテンサイト変態開始温度の上限350℃は、これを上回る温度で変態が始まる場合、変態終了後の熱収縮が大きすぎ、疲労強度を改善するほどの残留応力低減が得られないため、この値を設定した。一方、マルテンサイト変態開始温度が低すぎると、残留オーステナイトが多くなり、変態膨張量が不十分となってくるため、また、溶接金属の強度も母材に比べ低くなり、圧縮残留応力が充分導入されなくなるため下限を200℃とした。
【0028】
次に、溶接金属の各成分の範囲限定理由について述べる。
【0029】
Cは、溶接金属の強度を増加させかつ変態温度を下げるという意味で、本発明において最も重要な成分である。Cの下限0.45%は、これを下回る量では変態温度が充分低減しないため、残留応力が低減されず、結果的に疲労強度が向上しないためである。また、Cの上限0.7%は、これを上回る量を添加してもその効果が同じとなり、また溶接ワイヤを作製するときの製造工程負荷が増加するため、その上限を0.7%とした。
【0030】
Siは主として脱酸元素として添加されるべき元素である。Siの下限0.1%は、これを下回る添加量では脱酸効果が不十分で溶接金属中の酸素を充分低減できない危険性がある。酸素の増加は機械的特性、特に靭性の劣化を招くため下限を0.1%とした。一方、0.8%を上回る量を添加しても靭性劣化を招くため0.8%を上限とした。
【0031】
Mnは、強度を上げ、かつ変態温度を下げる効果を持つため添加する。Mnの下限、0.4%は強度確保という効果が得られる最低限の値として設定した。変態温度を下げるという観点からは、Mnの添加量は本発明にある上限2.0%を上回っても問題はないが、本発明ではすでに説明したCで変態温度が充分低減されていること、および過度のMn添加は溶接材料が高価になり本発明の本意からはずれるため上限を2.0%とした。
【0032】
PおよびSは、本発明では不純物であるがしかし、これら元素は、溶接金属に多く存在すると、靭性が劣化するため、その上限をそれぞれ0.03%、0.02%とした。
【0033】
以上が、本発明における溶接金属の基本成分である。しかし、溶接金属の強度、さらには靭性をより確保するためには、要求特性に応じてさらなる合金元素の添加が望ましい場合も生じる。しかし、溶接金属の強度、靭性のみに着目して合金元素を添加させると、安価な材料で溶接継手の疲労強度を向上させるという目的に反する結果になりかねない。本発明における本意は、あくまでも安価なCを用いて疲労強度を向上させることを目的とするものであるため、高価な元素を必ずしも添加していない。しかし、本発明では、疲労強度向上以外、例えば靭性改善などの目的でさらなる添加元素として、Ni、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ti、Ca、B、Mgが利用できる。しかし、安価な材料で疲労強度を向上させるという目的のためには、これらの合計を2.0%以下に抑えることが望ましい。
【0034】
次に、被溶接鋼板の強度を限定した理由について述べる。
【0035】
本発明では、溶接金属の変態温度を低減することにより疲労強度を向上させる技術を提供することを目的とするものである。疲労亀裂は、必ずしも変態温度の低い溶接金属に発生せず、むしろ鋼材側の熱影響部に発生しやすい。すなわち、鋼材熱影響部の残留応力を低減しなければ溶接継手全体としての疲労強度を向上させることはできない。溶接金属の変態膨張で鋼材熱影響部に発生する残留応力を低減させることができる理由は、溶接金属が膨張するときに鋼材側に発生する応力も溶接金属への反力により圧縮応力になることによる。このため、より高い反力が期待できる高強度鋼材ほど疲労特性の改善も大きいと期待される。鋼材強度が低い場合は、反力も低くならざるを得ず、変態終了後の熱収縮で再び引っ張り応力状態に戻ってしまう危険があるためである。引っ張り応力が残留してしまえば、疲労強度改善は望めない。そのため、本発明では、特に疲労強度向上が期待できる下限の強度として570MPaを設定した。鋼板の強度の上限を980MPaとした理由は、これを上回る強度の鋼板を用いた場合、疲労強度の向上は期待できるものの、鋼板そのものの費用がかさみ、安価な材料であるCを溶接金属に添加して材料費を抑えるという本発明の本意からはずれるので、上限を980MPaとした。
【0036】
次に溶接部の溶け込み深さを限定した理由について述べる。
【0037】
すでに、鋼材の強度を限定した理由について述べたが、溶け込み深さが大きい場合にも溶接金属の変態膨張時に鋼材熱影響部の反力が大きくならず、疲労強度は改善しないためである。図4はこのことを説明した概念図である。図4では、溶け込み深さが大きく、図4中のAで示された部分は、ほとんど力を支えることはできないため、溶接金属は変態時にほとんど自由に膨張してしまう。そのため、鋼材熱影響部側に反力が発生しない。比較的板が厚い場合は、このような溶け込み深さの問題は気にせずともよかったが、薄板の場合は溶け込み深さを制御しなければ残留応力を低減できず、ひいては疲労強度を向上させることができない。しかし、本発明では溶接金属の変態温度を下げるためにCを添加しているため、高温割れ防止の観点から薄板に限定することは必須であり、効果をより高めるためには溶け込み深さも制御する必要がある。溶け込み深さを被溶接鋼板の板厚の2/3以下としたのは、鋼材からの反力が充分期待できる範囲という意味で設定した。
【0038】
【実施例】
表1に疲労試験片を作製したときに用いた溶接ワイヤの成分を示す。ワイヤ径は、全て1.2mmである。なお、ワイヤにCuが添加されているものは、ワイヤ通電性を良くし、作業性を向上させるためのもので、変態温度を調整するために添加したものではない。これらワイヤを用い、Ar+20%COのシールドガスを用いて表2に示す成分の鋼板を用いて重ね隅肉溶接を実施した。表3には、鋼板と溶接ワイヤの組み合わせ、そのときの溶接条件および溶接金属成分を示した。表3に示したマルテンサイト変態開始温度(Ms)は、その溶接金属からフォーマスター試験片を採取して実測した値である。溶接継手は、表2に示す、400MPa級、490MPa級、570MPa級および780MPa級鋼材の4種類を用い、これら鋼材の板厚は機械加工にて減厚することにより調整した。溶接条件は表3に示すように変化させているため、溶け込み深さも変化することとなる。図5(a)および(b)は、疲労試験片を採取するために作製した試験片の形状と溶け込み深さを示している。図5(b)からわかるように、溶接金属2である溶接ビード9(図中のハッチングをした部分)を拘束する部分は、ビード下の鋼材部分である。また、溶け込み深さ10は、継手からマクロ試験片を採取し、図5(b)に示す部分の溶け込み深さ10を測定することにより決定することができる。また、表3の溶接金属成分は、疲労試験片の溶接金属部分(図5に示すハッチング部分)より採取した試料を分析した結果を示している。また、各試験片の溶け込み深さは表4に示した。
【0039】
【表1】
Figure 0004173957
【0040】
【表2】
Figure 0004173957
【0041】
【表3】
Figure 0004173957
【0042】
【表4】
Figure 0004173957
【0043】
これら試験片を用い疲労試験を行い疲労限を求めた。疲労限は、500万回応力を繰り返し加えても破断しない応力振幅と定義した。表4は、鋼材と溶接金属の組み合わせ、およびそのときの溶け込み深さと疲労限を示している。継手No.2、3、6は本発明例であり疲労限は450MPaを上回っており、疲労強度は充分高い。それに対し、溶接金属成分が本発明例の範囲外である継手No.1、4は疲労限が320MPa、330MPaと、400MPaに達していない。また、溶接金属成分が本発明の範囲内である継手No.5では、溶け込み深さが大きいため、疲労限が405MPaと、比較例より高い値を示しているものの、No.2、3、6が示す、450MPa超の疲労限は得られていない。継手No.7は、溶接金属成分、溶け込み深さともに本発明の範囲内であるが、板が厚く溶接金属内に突き合わせ凝固部分が生じ、高温割れが発生したために、疲労強度は高くはならなかった。継手No.8、9は、鋼板の強度レベルが400MPa級、490MPa級と、継手No.1〜7より強度レベルが低い場合に対応する。この場合、溶接金属は本発明の範囲内にある表3におけるNo.8とNo.9であるにも関わらず、鋼材強度が低いため溶接金属変態膨張時の反力が大きくなく残留応力が充分低くならないため、疲労強度も向上しなかった。継手No.8、9は疲労限がそれぞれ320MPa、340MPaと400MPaまでには達していない。
【0044】
図6は、継手No.1と3についてSN曲線を調べたものである。500MPa超の応力振幅が大きい領域では両者にあまり差がないが、500MPa以下の応力振幅で本発明例の継手No.3と従来技術の継手No.1で疲労特性に大きな差が生じてきているのが理解できる。なお、500MPa超の領域で疲労特性にあまり差がないのは、応力振幅が大きい条件下では残留応力が消失しやすいためである。
【0045】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、薄板の重ね溶接継手の疲労強度を安価な材料で向上することが可能である。したがって、本発明は工業的価値の極めて高い発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 板が薄い場合の溶接金属の凝固方向および溶接金属の凝固組織を説明する概念図である。
【図2】 板が厚い場合の溶接金属の凝固方向、溶接金属の凝固組織および低融点物質の集まる部分を説明する概念図である。
【図3】 0.6%Cを含むワイヤで重ね隅肉溶接を行ったときの、板厚と割れ長さの関係と示した図である。
【図4】 溶け込み深さが大きい場合、鋼材の反力が低下することを説明するための概念図である。
【図5】 疲労試験片を採取した重ね隅肉溶接継手形状と溶け込み深さを説明した図である。
【図6】 表2に示すNo.1とNo.3の継手の疲労試験結果であるSN曲線を示す図である。
【符号の説明】
1 等温線
2 溶接金属
3 薄肉鋼板
4 厚肉鋼板
5 溶接金属の凝固方向(薄肉鋼板の場合)
6 溶接金属の凝固方向(厚肉鋼板の場合)
7 溶接金属の表面
8 低融点物質
9 溶接ビード
10 溶け込み深さ

Claims (3)

  1. 鋼板の重ね隅肉溶接方法において、
    板厚:0.5〜4.0mm、
    引っ張り強度:570MPa〜980MPaの鋼板を用い、
    化学成分として、質量%で、
    C :0.45〜0.7%、
    Si:0.1〜0.8%、
    Mn:0.4〜2.0%、
    P :0.03%以下、
    S :0.02%以下
    を含有し、残部が鉄または不可避不純物からなり、かつマルテンサイト変態開始温度が200〜350℃である溶接金属からなる溶接部を形成することにより、溶接金属の冷却に伴うオーステナイトからマルテンサイトへの変態過程での変態膨張を利用して溶接止端部に圧縮残留応力を導入することを特徴とする溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法。
  2. 前記溶接部の溶け込み深さが、前記鋼板の板厚に対して2/3以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法。
  3. 前記溶接金属の化学成分として、さらに、質量%で、Ni、Cr、Mo、Cu、V、Nb、Ti、Ca、BおよびMgのうちの1種または2種以上を合計量で2%以下含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶接部の疲労強度に優れた鋼板の重ね隅肉溶接方法。
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