JP3994876B2 - 溶接継ぎ手部の疲労強度に優れた溶接構造用鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、溶接継ぎ手部の疲労強度に優れた溶接構造用鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、構造用鋼板の母材の疲労強度は、母材の強度と共に向上するが、溶接継ぎ手部の疲労強度は、母材の強度を上昇させても向上しないことが知られている。その理由は、溶接止端部への応力集中が起ることと、溶接時の冷却過程で生じる溶接金属の熱収縮により母材に降伏応力レベルの引張り残留応力が発生するためと考えられている。
【0003】
従来から、疲労破壊が問題となる構造物では、溶接部の疲労強度を上昇させるために、止端処理と呼ばれる改善処理が施されてきた。例えば、グラインダー等の機械的な研削によって止端の形状を応力集中が緩和される形状に仕上げる方法、TIG溶接等により止端部を再溶融させてその形状を改善する方法等が、それである。その他、止端部の引張り残留応力を低減、あるいは圧縮残留応力を導入するために、溶接部にショットピーニングを行う方法がある。さらに、溶接後の熱処理により残留応力を開放することも広く行われている。
しかしながら、溶接後に後処理を行うことは、コストの上昇を招くだけでなく、様々な溶接施工に対して適切で確実な対処が難しいという問題がある。
【0004】
一方、鋼板の成分を調整することにより、溶接熱影響部の特性を制御して、溶接継ぎ手部の疲労強度を向上させることも検討されている。
例えば、鋼板の炭素当量値を制限することにより、溶接熱影響部のフェライト分率を増加させて、溶接継ぎ手部の疲労強度を向上させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
また、鋼板に、Nb,Moを所定量含有させて、溶接部の軟化を抑制することにより、継ぎ手部の疲労強度を向上させる方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
さらに、低炭素鋼として、溶接止端部の残留応力を低減すると共に、Cuの微細析出により軟化を抑制して、溶接継ぎ手の疲労強度を向上することが提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0005】
上記した特許文献1に開示の技術は、溶接熱影響部のミクロ組織を改善するものであるが、この方法では、残留応力は低減されず、十分な疲労強度の向上は達成できない。
また、特許文献2に開示された技術でもやはり、溶接止端部での残留応力の問題が残り、疲労強度の向上は十分ではない。
さらに、特許文献3に開示された技術は、高温強度を低くすることにより止端部での残留応力の低減を狙ったものであるが、高温強度の低下のために炭素量を0.01mass%以下にして、最終的に溶接熱影響部の強度を確保するためにCuの微細析出を利用するため、溶接熱影響部の靱性が劣化するという問題がある。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−73983 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開平7−3387号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開平7−90486 号公報(特許請求の範囲)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記した従来技術の諸問題を有利に解決して、溶接継ぎ手部の疲労強度に優れた溶接構造用鋼を提案することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、前述した問題点を解決するために、高温強度を低下させることにより、溶接継ぎ手部の残留応力を緩和するという観点から鋭意検討を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
【0009】
すなわち、鋼の強度は、同じ温度であればオーステナイト相よりもフェライト相の方が低いことが知られている。残留応力が問題となる溶接熱影響部は、オーステナイト域に加熱され冷却の過程でフェライト変態するが、この部分では冷却が速いため一般の鋼材では 600〜700 ℃で変態が始まる。すなわち 800℃以下でのオーステナイト単相である温度域が広く、強度が高いため、溶接金属の熱収縮に伴う変形に対して、その降伏応力レベルの残留応力が発生する。
【0010】
この点、鋼中に適正量のAlを含有させておけば、このAlはフェライト生成元素であるため、同じ溶接の熱履歴において 800〜600 ℃の温度範囲でフェライトが生成する。このフェライトは、高温強度が低く、塑性変形するため、その降伏応力以上の残留応力は発生しない。従って、最終的に室温に冷却されたときの溶接止端部における残留応力が低減される。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0011】
この発明は、上記した残留応力の観点と共に、溶接構造用鋼として実用的な鋼を開示するものであり、具体的には以下の成分組成に調整された鋼を提案するものである。
【0012】
すなわち、この発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で
C:0.04〜0.15%、
Si:0.05〜0.40%、
Mn:0.1 〜2.0 %、
Al:0.50〜2.0 %、
P:0.050 %以下および
S:0.0050%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になることを特徴とする溶接継ぎ手部の疲労強度に優れた溶接構造用鋼。
【0013】
2.上記1において、鋼が、さらに質量%で
Nb:0.1 %以下、
V:0.1 %以下、
Ti:0.1 %以下、
Cu:1.5 %以下、
Ni:3.5 %以下、
Cr:0.8 %以下、
Mo:0.5 %以下、
B:0.0030%以下、
N:0.010 %以下、
Ca:0.0030%以下および
Mg:0.005 %以下
から選んだ少なくとも1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする溶接継ぎ手部の疲労特性に優れた溶接構造用鋼。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
まず、この発明において鋼材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.04〜0.15%
Cは、構造用鋼として必要な強度を得るために必要な元素である。この発明では、含有量が0.04%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.15%を超えると母材および溶接部の靱性低下を招くので、C量は0.04〜0.15%の範囲に限定する。
【0015】
Si:0.05〜0.40%
Siは、製鋼上、少なくとも0.05%を必要とするが、一方で0.40%を超えると母材の靱性を劣化させるので、Si量は0.05〜0.40%の範囲に限定する。
【0016】
Mn:0.1 〜2.0 %
Mnは、母材の強度を確保するために少なくとも 0.1%を必要とするが、2.0 %を超えると溶接部の靱性を劣化させるので、Mn量は 0.1〜2.0 %の範囲に限定する。
【0017】
Al:0.50〜2.0 %
Alは、この発明において特に重要な合金成分であり、少なくとも0.50%の添加が必要である。というのは、Al量が0.50%に満たないと高温でのフェライト相の分率が不足し、高温強度が高くなって、残留応力低減の効果に乏しくなり、一方2.0 %を超えると母材の靱性が劣化するばかりか、疲労強度も劣化するからである。特に好ましいAl量の範囲は0.60〜1.5 %である。
【0018】
P:0.050 %、S:0.0050%以下
Pは、含有量が 0.050%超えると溶接部の靱性を劣化させるので、0.050 %以下に抑制するものとする。
同じく、Sも、0.0050%を超えると母材および溶接部の靱性を劣化させるので、0.0050%以下に抑制するものとする。
【0019】
以上、基本成分について説明したが、この発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Nb:0.1 %以下、V:0.1 %以下、Ti:0.1 %以下
Nb,VおよびTiはいずれも、鋼板の強度を高めるのに有用な元素であるが、含有量が 0.1%を超えると靱性を劣化させるので、いずれも 0.1%以下とした。
【0020】
Cu:1.5 %以下、Ni:3.5 %以下、Cr:0.8 %以下、Mo:0.5 %以下
Cu,Ni,CrおよびMoはいずれも、鋼板の強度向上に有用な元素であるが、Cuは含有量が1.5 %を超えると熱間脆性を生じて鋼板の表面性状を劣化させ、Niは高価であり、Crは含有量が 0.8%を超えると溶接熱影響部の靱性を劣化させ、Moは含有量が0.5 %を超えると靱性に悪影響を及ぼすので、それぞれ上記の範囲で含有させるものとする。
【0021】
B:0.0030%以下、N:0.010 %以下、Ca:0.0030%以下、 Mg:0.005 %以下
Bは、微量で高強度化に寄与する有用元素であるが、含有量が0.0030%を超えると溶接熱影響部の靱性を劣化させるので、Bは0.0030%以下で含有させるものとする。
Nは、不純物として鋼中に不可避に混入してくる元素であるが、含有量が0.010 %を超えると鋼材の靱性を劣化させるので、Nは 0.010%以下で含有させるものとする。
Caは、Sの固定による靱性向上に有用な元素であるが、含有量が0.0030%を超えるとその効果は飽和するので、Caは0.0030%以下で含有させるものとする。
Mgは、結晶粒の微細化に有用な元素であるが、含有量が 0.005%を超えるとその効果は飽和に達するので、上限を 0.005%とした。
【0022】
なお、この発明の溶接構造用鋼の製造方法については、特に制限されることはなく、従来から公知の方法に従えばよい。
例えば、上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、連続鋳造法でスラブとしたのち、1000〜1250℃に加熱してから熱間圧延することにより製造してもよいし、熱間圧延により所望の板厚、形状にしたのち、熱処理を施すことにより製造してもよい。ここに、熱処理としては、公知の焼入れ・焼戻しあるいは2回焼入れ・焼戻しが好適である。
【0023】
【実施例】
表1に示す種々の成分組成に調整した鋼スラブを用いて、熱間圧延により板厚:12mmの厚鋼板を製造した。
得られた各鋼板から全厚の引張り試験片を採取し、母材の降伏点(YP)および引張り強さ(TS)を求めた。
得られた結果を、表2に示す。
【0024】
次に、図1に示す荷重非伝達型十字溶接継ぎ手を作製した。溶接条件は、予熱なし、入熱量:20 kJ/cmで、 CO2溶接による継ぎ手溶接を行った。この試験片を用いて、室温、大気中にて引張り片振り(2×106 回)の疲労試験を実施した。
得られた結果を、表2に併記する。
なお、2×106 回疲労強度が 250 MPa以上であれば、疲労強度に優れているといえる。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表2から明らかなように、発明例はいずれも、2×106 回疲労強度が 250 MPa以上と、比較例に比べて優れた疲労強度が得られている。
すなわち、鋼中にAlを 0.5〜2.0 %含有させることにより、溶接熱影響部の冷却過程で高温からフェライトが生成し、800 ℃以下での高温強度が低下するため、溶接止端部での残留応力が抑制され、その結果、溶接部の疲労強度が向上するのである。
【0028】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、溶接継ぎ手部の疲労強度に優れた溶接構造用鋼を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 疲労試験用の荷重非伝達型十字溶接継ぎ手の寸法形状を示した図である。
Claims (2)
- 質量%で
C:0.04〜0.15%、
Si:0.05〜0.40%、
Mn:0.1 〜2.0 %、
Al:0.50〜2.0 %、
P:0.050 %以下および
S:0.0050%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になることを特徴とする溶接継ぎ手部の疲労強度に優れた溶接構造用鋼。 - 請求項1において、鋼が、さらに質量%で
Nb:0.1 %以下、
V:0.1 %以下、
Ti:0.1 %以下、
Cu:1.5 %以下、
Ni:3.5 %以下、
Cr:0.8 %以下、
Mo:0.5 %以下、
B:0.0030%以下、
N:0.010 %以下、
Ca:0.0030%以下および
Mg:0.005 %以下
から選んだ少なくとも1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする溶接継ぎ手部の疲労特性に優れた溶接構造用鋼。
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