JP4168541B2 - チタン−シリコン複合酸化物前駆体、その前駆体溶液、その製造方法、およびチタン−シリコン複合酸化物 - Google Patents

チタン−シリコン複合酸化物前駆体、その前駆体溶液、その製造方法、およびチタン−シリコン複合酸化物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、チタン−シリコン複合酸化物前駆体、その溶液、その製造方法、およびチタン−シリコン複合酸化物に関する。より詳しくは、保存安定性や製膜性、あるいは基材との密着性に優れ、加熱するだけで優れた親水性と、黒色から透明まで黒色度のコントロールが可能なチタンーシリコン複合酸化物前駆体、その溶液、その製造方法、およびなるチタン−シリコン複合酸化物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、二酸化チタンは光触媒や半導体電極、あるいは活性試薬や不活性坦体等として使用されているが、このような二酸化チタンを含む超親水性材料が特開平10−237416(WO96/29375号公報)等に開示されている。
しかしながら、この超親水性材料は、強度が強い光を一定量以上照射しないと超親水性を示さないという問題があった。また、この超親水性材料を光触媒膜として使用する場合、膜の硬度が十分でなく、実用性に劣るという問題や、高温で焼成して作成すると、光触媒性能が著しく低いという問題も見られた。
さらに、膜強度を向上させるためにアルコキシシランなどを添加すると、溶液の保存安定性が低下するという問題点も見られた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは従来の問題を鋭意検討した結果、アルコキシチタンと、アルコキシシランと、アミノアルコール等とを組み合わせて用いてチタン−シリコン複合酸化物前駆体を組成することにより、保存安定性、製膜性に優れるとともに、かかる前駆体を焼成した場合に、強度が強い光を照射しなくとも、優れた親水性、光触媒性能、基材密着性および硬度を有するチタン−シリコン複合酸化物(低次チタン−シリコン複合酸化物を含む。)が得られることを見出した。
また有機ポリマーを添加した場合には、添加しない場合に黒色となる加熱後のフィルムが透明となり、かつ厚膜にした場合もクラックのない良好なフィルムが出来ることを見いだした。
さらに、有機ポリマーの添加量をコントロールする事で、黒色から透明までフィルム黒色度を容易にコントロール出来ることを見いだした。
【0004】
すなわち、本発明の目的は、保存安定性や製膜性に優れ、また、強度が強い光を照射しなくとも優れた親水性や光触媒性能を有し、しかも黒色度のコントロールが可能で、クラックが無く、高い硬度と基材への強固な密着性等を有するチタン−シリコン複合酸化物が得られるチタン−シリコン複合酸化物前駆体あるいはその溶液を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、このようなチタン−シリコン複合酸化物前駆体が効率的に得られる製造方法を提供することにある。
さらに本発明の別の目的は、優れた親水性、光触媒性能および硬度等を有するチタン−シリコン複合酸化物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アミノアルコール、カルボン酸化合物、ヒドロキシカルボン酸、β−ジケトン化合物およびβ−ジケト酸エステル化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、下記一般式(1)で表されるアルコキシチタンと、下記一般式(2)で表されるアルコキシシランとを反応してなるチタン−シリコン複合酸化物前駆体である。
Ti(OR14 (1)
[一般式(1)中、R1は、アルキル基、アリール基またはアシル基である。]
Si(OR2p(R3q (2)
[一般式(2)中、R2はアルキル基、アリール基またはアシル基であり、pは2、3または4であり、R3は水素、アルキル基またはアリール基であり、qは(4−p)で表される数である。]
このようにチタン−シリコン複合酸化物前駆体を構成することにより、優れた保存安定性や製膜性が得られるとともに、焼成してチタン−シリコン複合酸化物を作成した場合に、黒色度のコントロールが可能、強度が強い光を照射しなくとも優れた親水性、光触媒性能、基材密着性および硬度といった特性を得ることができる。
【0006】
また、本発明の別の態様は、上述したチタン−シリコン複合酸化物前駆体を水性溶媒に溶解してなる複合金属錯体溶液である。
このようにチタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液を構成することにより、より優れた保存安定性や製膜性が得られるとともに、プロセス上、非危険物扱いとなるため使い勝手が著しく向上する。
【0007】
また、本発明のさらに別の態様は、上述したチタン−シリコン複合酸化物前駆体あるいはチタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液を焼成して得られるチタン−シリコン複合酸化物である。
このように焼成してチタン−シリコン複合酸化物を構成することにより、強度が強い光を照射しなくとも優れた親水性や光触媒性能を得ることができる。また、高温で焼成したとしても、優れた光触媒性能が得られるため、製造条件のマージンを幅広くすることができる。
【0008】
また、本発明のさらに別の態様は、アミノアルコール、カルボン酸化合物、ヒドロキシカルボン酸、β−ジケトン化合物およびβ−ジケト酸エステル化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、下記一般式(1)で表されるアルコキシチタンと、下記一般式(2)で表されるアルコキシシランとを反応させてなるチタン−シリコン複合酸化物前駆体の製造方法である。
Ti(OR14 (1)
[一般式(1)中、R1は、アルキル基、アリール基またはアシル基である。]
Si(OR2p(R3q (2)
[一般式(2)中、R2は、アルキル基、アリール基またはアシル基であり、pは、2、3または4であり、R3は、水素、アルキル基またはアリール基であり、qは(4−p)で表される数である。]
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明におけるチタン−シリコン複合酸化物前駆体(チタン−シリコン複合酸化物前駆体の製造方法を含む。)、チタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液、およびチタン−シリコン複合酸化物についての実施形態1〜3をそれぞれ具体的に説明する。なお、本発明において、チタン−シリコン複合酸化物前駆体を、単に複合酸化物前駆体と称する場合がある。また、アルコキシチタンおよびアルコキシシランを総称して金属アルコキシドと称する場合がある。
【0010】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態は、アミノアルコール、β−ジケトンおよびカルボン酸からなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、一般式(1)で表されるアルコキシチタンと、一般式(2)で表されるアルコキシシランとを反応させてなるチタン−シリコン複合酸化物前駆体である。
【0011】
(1)アルコキシチタン
第1の実施の形態で使用されるアルコキシチタンは、一般式(1)で表される化合物である。この一般式(1)中のR1は、アルキル基、アリール基またはアシル基であるが、具体的に、好ましいアルキル基の種類として、メチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。また同様に、好ましいアリール基として、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基等が挙げられる。さらに好ましいアシル基として、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられる。また、より安定した前駆体、例えば保存安定性に優れた前駆体が得られることより、R1は直鎖または分岐を有するアルキル基であることがより好ましく、特に分岐を有するアルキル基、例えばi−プロピル基またはs−ブチル基であることがさらに好ましい。
【0012】
したがって、一般式(1)で表されるアルコキシチタンとして、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−i−ブトキシチタン、テトラ−s−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。特に、保存安定性に優れた複合酸化物前駆体が得られることから、テトラ−i−プロポキシチタンが好ましい。
【0013】
ただし、一般式(1)で表されるアルコキシチタンには、構造式上表記はしないが、アルコキシル基が置換されてアルコキシル基以外の加水分解性基や非加水分解性基を含む場合がある。このような場合であっても、本発明においては一般式(1)で表されるアルコキシチタンに含めるものとする。
このようなアルコキシチタンとしては、チタン酸、四塩化チタン、チタン酸硫酸等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0014】
(2)アルコキシシラン
第1の実施の形態で使用されるアルコキシシランは、上述した一般式(2)で表される化合物である。また、一般式(2)中におけるR2は、アルキル基、アリール基またはアシル基であり、一般式(1)中のR1と同様の内容とすることができる。したがって、R2としては、例えばメチル基またはエチル基がより好ましい。
また、一般式(2)で表されるアルコキシシランは、アルコキシル基以外の加水分解性基、例えば、塩素や水素等を含む場合があるが、このような場合であっても、アルコキシシランに含めるものとする。
さらに、一般式(2)で表されるアルコキシシランを縮合または部分縮合したシロキサンポリマーやシロキサンオリゴマーについても、一般式(2)で表される縮合前のアルコキシシランと同様の効果が得られる限り、好適に使用することができる。
【0015】
具体的に、一般式(2)で表されるアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−s−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
特に、アルコキシチタンとの相溶性や反応性に優れ、しかも保存安定性に優れた複合酸化物前駆体が得られることから、一般式(2)で表されるアルコキシシランとしては、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランが好ましい。
【0016】
(3)アミノアルコール
第1の実施形態で使用されるアミノアルコールは、金属アルコキシドと反応させて複合酸化物前駆体の保存安定性等を向上させるために添加される。このようなアミノアルコールは、1分子中に、アミノ基とアルコール性水酸基とを有する化合物と定義されるが、好ましくは、下記一般式(3)で表される化合物である。
(HOR4sN(R5t (3)
[一般式(3)中、R4は、アルキレン基またはアリーレン基であり、sは、1、2または3であり、R5は、水素、アルキル基またはアリール基であり、tは(3−s)で表される数である。]
【0017】
一般式(3)におけるR4は、アルキレン基またはアリーレン基であるが、より具体的には、メチレン基、エチレン基、i−プロピレン基、n−プロピレン基、i−ブチレン基、n−ブチレン基、s−ブチレン基、t−ブチレン基、フェニレン基、ベンジレン基、ナフチレン基が挙げられる。
また、さらに保存安定性に優れた複合酸化物前駆体が得られることより、一般式(3)におけるR4は直鎖または分岐を有するアルキレン基であることがより好ましく、特に、分岐を有するアルキレン基であることが好ましい。
【0018】
したがって、好ましいアミノアルコールの具体例として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン等の一種単独または二種以上の組合わせが挙げられる。
また、こらのアミノアルコールのうち、特にトリエタノールアミンとジエタノールアミンとの混合物が好ましい。この理由は、これらの混合物からなるアミノアルコールを使用することにより、前駆体の保存安定性をより高めることができるためである。なお、トリエタノールアミンとジエタノールアミンと混合比率に関し、当該トリエタノールアミン1モルに対して、ジエタノールアミンの混合量を0.2〜1.5モルの範囲内の値とすることが好ましい。
【0019】
(4)カルボン酸化合物
第1の実施の形態において使用されるカルボン酸化合物も、金属アルコキシドと反応させることにより、複合酸化物前駆体の保存安定性等を向上させるために添加される。
このようなカルボン酸化合物は、1分子中に、少なくとも一つのカルボキシル基を有する化合物と定義されるが、好ましくは、下記一般式(4)で表されるカルボン酸化合物が好ましい。
X−(COOH)n (4)
[一般式(4)中、Xは置換可能なn価の炭化水素基であり、nは1〜10の整数である。]
【0020】
また、このようなカルボン酸化合物としては、ヒドロキシカルボン酸塩やカルボン酸類等が挙げられるが、より具体的には、乳酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、酢酸、オキシ二酢酸、フタル酸、マレイン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、ピロメリット酸等の一種単独あるいは二種以上の組み合わせが挙げられる。これらのうち、特にクエン酸であることが好ましい。
また、これらカルボン酸化合物の水和物を使用することも好ましい。このようなカルボン酸水和物を用いることにより、金属アルコキシドとの相溶性や反応性がよリ良好となるためである。
【0021】
(5)β−ジケトン化合物およびβ−ジケト酸エステル化合物
第1の実施の形態で使用されるβ−ジケトン化合物およびβ−ジケト酸エステル化合物も、金属アルコキシドと反応させることにより、複合酸化物前駆体の保存安定性等を向上させるために添加される。このようなβ−ジケトン化合物は、1分子中に、ケト基を2個有し、これらのケト基が1個の炭素原子を隔てて結合された化合物と定義されるが、具体的に、アセチルアセトン等が挙げられる。
【0022】
(6)金属アルコキシドの組成比率
アルコキシチタンとアルコキシシランとからなる金属アルコキシドの組成比率は特に限定されるものではないが、例えば、金属アルコキシド中のチタン元素(Ti)とシリコン元素(Si)とのモル比(Ti:Si)において、5:95〜95:5であることが好ましく、10:90〜80:20であることがさらに好ましく、10:90〜70:30であることが特に好ましい。
この理由は、チタン元素(Ti)とシリコン(Si)元素のモル比が5:95よりも大きくなると光触媒活性や親水性が低下する場合があり、一方、かかるモル比が95:5よりも小さくなると、膜の硬度や基材との密着性が低下したり、あるいは干渉色を呈し、反射率の高いミラーガラス状になったり、透明性が損なわれる場合があるためである。
なお、このようにチタン元素(Ti)とシリコン元素(Si)とのモル比を調節するには、アルコキシチタンおよびアルコキシシランの種類を選択するとともに、後述するようにアルコキシチタンとアルコキシシランとの反応比率を適宜変更すればよい。
【0023】
(7)複合酸化物前駆体の製造方法
▲1▼反応手順
複合酸化物前駆体を形成する際の、金属アルコキシドとアミノアルコールとの反応手順は、アルコキシシランとアミノアルコールを反応させ、さらにチタンアルコキシドを反応させる方法、チタンアルコキシドとアミノアルコールを反応させ、さらにアルコキシシランを反応させる方法、あるいはアルコキシシランとアミノアルコールを反応させ、また別個にチタンアルコキシドとアミノアルコールを反応させ、両反応物を混合させる方法などがある。
【0024】
▲2▼反応比率
複合酸化物前駆体を形成する際の、金属アルコキシドとアミノアルコールとの反応比率は特に制限されるものではないが、例えば、複合酸化物前駆体中のチタン元素およびシリコン元素からなる金属元素(M)とチッソ元素(N)とのモル比(M:N)において、2:1〜1:4の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、金属元素(M)のモル比が2:1よりも大きくなると、複合酸化物前駆体の保存安定性が低下する場合があるためであり、一方、かかるモル比が1:4よりも小さくなると、酸化時に不要なガスが多量に発生するとともに、生成した金属酸化物の透明性や平滑性を損なう場合があるためである。
したがって、金属元素(M)とチッソ元素(N)とのモル比が、1:1〜1:3の範囲内の値となるように、金属アルコキシドとアミノアルコールとの反応比率を設定することがより好ましい。
【0025】
また、金属アルコキシドとカルボン酸化合物との反応比率、あるいは金属アルコキシドとβ−ジケトン化合物等との反応比率についてもそれぞれ制限されるものではないが、例えば、前駆体中のチタン元素およびシリコン元素からなる金属元素(M)とカルボン酸またはβ−ジケトンである化合物(C)とのモル比(M:C)において、3:1〜1:5の範囲内の値とすることが好ましく、2:1〜1:4の範囲内の値とすることがより好ましく、1:1〜1:3の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
この理由は、金属元素(M)のモル比が3:1よりも大きくなると、複合酸化物前駆体の保存安定性が低下する場合があるためであり、一方、かかるモル比が1:5よりも小さくなると、酸化時に不要なガスが多量に発生するとともに、生成した複合酸化物の透明性や平滑性を損なう場合があるためである。
【0026】
▲3▼反応温度
また、金属アルコキシドとアミノアルコール等との反応温度についても、特に制限されるものではないが、具体的に、当該反応温度を室温(20℃)〜170℃の範囲内の値とするのが好ましく、室温(20℃)〜150℃の範囲内の値とするのがより好ましい。
この理由は、反応温度が室温未満となると、反応性が著しく低下する場合があり、一方、反応温度が170℃を超えると、反応を制御することが困難となる場合があるためである。
なお、反応温度を制御するために、有機溶媒を使用し、この有機溶媒の沸点もしくはその近傍温度で還流させることが好ましい。また、有機溶媒を使用した場合、反応温度を50〜160℃の範囲内の値とするのが好ましく、70〜100℃の範囲内の値とするのがより好ましい。
【0027】
▲4▼反応時間
また、反応時間については、反応温度との関係があるが、当該反応時間を好ましくは1〜10時間の範囲内の値、より好ましくは、2〜9時間の範囲内の値とすることである。
この理由は、反応時間が1時間未満となると、反応が不均一となる場合があり、一方、反応時間が10時間を超えると、金属錯体の生産性が著しく低下する傾向があるためである。
【0028】
▲5▼反応圧力
反応圧力についても、特に制限されるものではないが、当該反応圧力を0.0067〜1.0気圧(5〜760Torr)の範囲内の値とするのが好ましく、より好ましくは0.013〜0.20気圧(10〜150Torr)の範囲内の値とすることである。
この理由は、反応圧力が1気圧を超えると、副成するアルコールの沸点が上昇し、除去することが困難となる場合があるためである。
【0029】
また、さらに反応を制御し、後述するように金属アルコキシドの加水分解で生じる副成アルコールを除去するために、反応器の圧力を下げるとともに、温度を徐々に上昇させることが好ましい。この場合、通常開始温度を室温から50℃の範囲内の値とすることであり、その後80℃程度まで、1〜2時間かけて上昇させることが好ましい。
【0030】
▲6▼反応雰囲気
金属アルコキシドとアミノアルコール等との反応に際し、不活性ガス、例えば、アルゴンガスや窒素ガスを反応容器中で使用することが好ましい。このように不活性ガスを用いて反応させることにより、金属アルコキシドと、空気中の水分との反応により生成する沈殿物の発生を有効に防止することができる。
また、金属アルコキシドとアミノアルコール等との反応に際し、溶媒を使用することも好ましい。このように溶媒中で反応させることにより、金属アルコキシドと、アミノアルコール等との反応をより均一に行うことができ、しかも、得られた複合酸化物前駆体の取り扱いが極めて容易になる。
なお、好ましい溶媒としては、後述するように複合酸化物前駆体溶液を調製する際に使用する溶媒、例えば、水、アルコール化合物、グリコール等が挙げられる。
【0031】
(8)副成アルコールの含有量
金属アルコキシドの加水分解により生成される一般式(5)および一般式(6)で表される副成アルコール量の合計を100重量%としたときに、複合酸化物前駆体中に含まれるこれらの副成アルコール量の含有量を80重量%以下の値とすることが好ましい。
1(OH) (5)
[一般式(5)中のR1は、一般式(1)中のR1と同様である。]
2(OH) (6)
[一般式(6)中のR2は、一般式(2)中のR2と同様である。]
【0032】
このように一般式(5)および一般式(6)で表される副成アルコールの含有量を80重量%以下の値に制限することにより、複合酸化物前駆体の安定性をより向上させることができる。したがって、より好ましくは、これら副成アルコールの含有量を50重量%以下の値とすることであり、さらに好ましくは20重量%以下の値とすることであり、最も好ましくは10重量%以下の値とすることである。
【0033】
なお、一般式(5)および一般式(6)で表される副成アルコールの含有量の調整方法としては、例えば、いずれか高い沸点を有する副成アルコールにおける沸点以上の温度、または沸点の近傍温度で複合酸化物前駆体を加熱したり、あるいは低圧状態にして蒸発させることが好ましい。
例えば、金属アルコキシドとアミノアルコール等との反応温度T1(℃)とし、一般式(5)または一般式(6)で表わされる副成アルコールのいずれか高い方の沸点をT2(℃)としたときに、T1≧T2の関係を満足するのが好ましく、より好ましくは、T1≧T2+10℃の関係を満足することである。
【0034】
(9)状態温度等
さらに、複合酸化物前駆体(複合酸化物前駆体溶液を含む。)の状態温度を変えることにより、ゲル化を容易に起こしたり、あるいはゲル化を有効に防止して、安定化させることができる。
【0035】
(10)具体例
好ましいチタン−シリコン複合酸化物前駆体として、アルコキシチタンと、アルコキシシランと、アミノアルコールとを反応させることにより得られる下記一般式(7)で表される化合物を挙げることができる。
aTi[(OR6)nNR7 m]x(OR8)y・bSi[(OR9)nNR10 m]x(OR11)y (7)
[一般式(7)中、R6、R8、R9およびR11は、それぞれ独立したアルキレン基またはアリーレン基であり、R7およびR10はそれぞれ独立した水素、アルキル基またはアリール基であり、xは1〜4の整数を、yは(4−x)で表される数を、nは1〜3の整数を、mは(3−x)で表される数であり、aは0.95〜0.05の範囲内の値、bは0.05〜0.95のの範囲内の値である。]
【0036】
一般式(7)において、R6、R8、R9およびR11で表されるアルキレン基は、それぞれ独立にエチレン基、プロピレン基またはブチレン基であることが好ましい。また、これらのアルキレン基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
なお、一般式(7)において構造式上は表記しないが、アルコキシチタンやアルコキシシランにおける未反応のアルコキシル基等が存在している場合がある。
【0037】
[第2の実施の形態]
本発明における第2の実施の形態は、チタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液(単に、複合酸化物前駆体溶液と称する場合がある。)である。この複合酸化物前駆体溶液は、第1の実施の形態で説明した複合前駆体に、溶媒を添加して調製することができる。このように複合酸化物前駆体を溶液とすると、使い勝手が良好となり、基材等に均一に塗布した後、所定温度で加熱することにより、フィルム状のチタン−シリコン複合酸化物を容易に作製することができるためである。しかも、複合酸化物前駆体の保存安定性もより良好となるためである。
【0038】
(1)溶媒
複合酸化物前駆体溶液を調製する際に使用する溶媒としては、水系溶媒(水または含水溶媒)あるいはモノアルコール、ジオールまたはトリオールのアルコール化合物等が挙げられる。
これらの溶媒のうち、好ましいモノアルコールとして、下記一般式(8)で表されるアルコール化合物が挙げられる。
12OH (8)
【0039】
ここで、一般式(8)中のR12は、炭素数6〜10の直鎖状または分岐状のアルキル基、もしくは炭素数5〜10の直鎖状または分岐状の酸素結合を有するアルキル基である。したがって、一般式(8)で表される好ましいモノアルコールとして、2−エチルヘキサノール、3,3,5−トリメチル−1−ヘキサノール、オクタノール、メトキシエトキシエタノール等が挙げられる。
【0040】
また、ジオールとしては、下記一般式(9)で表されるアルコール化合物が挙げられる。
HO(R13)OH (9)
ここで、一般式(9)中のR13は、炭素数2〜12の直鎖状または分岐状のアルキレン基である。したがって、一般式(9)で表される好ましいジオールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレンジオール、ヘキサエチレングリコール等の一種、または二種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0041】
さらに、好ましいトリオールとしては、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオールなどを挙げることができる。
なお、上述したアルコール化合物のなかでエチレングリコールおよびグリセリンが最も好ましい。また、上述したアルコール化合物と、トルエン、クロロホルムなどの非アルコール性溶媒との混合物を使用することも好ましく、界面活性剤や増粘剤等の添加剤を溶媒とともに添加することも好ましい。
【0042】
また、溶媒として、水系溶媒を使用することも好ましい。かかる溶媒を使用した場合、複合酸化物前駆体におけるアルコキシ基等の一部または全部を容易に加水分解することができ、結果として、平滑で、透明性に優れたチタン−シリコン複合酸化物を得ることができるためである。
【0043】
(2)粘度
複合酸化物前駆体溶液の粘度(測定温度25℃)を0.1〜10,000cpsの範囲内の値とするのが好ましく、より好ましくは、0.5〜1,000cpsの範囲内の値とすることであり、最も好ましくは、1〜100cpsの範囲内の値とすることである。このような値の粘度であれば、複合酸化物前駆体溶液の使い勝手や保存安定性がさらに良好となるためである。
なお、このような粘度に調整するためには、溶媒の種類、溶媒の添加量、前駆体の濃度、粘度調整剤の種類、粘度調整剤の添加量等を適宜変更すれば良い。
【0044】
(3)濃度
複合酸化物前駆体溶液における複合酸化物前駆体の濃度についても特に制限されるものではないが、具体的に複合酸化物前駆体の濃度を、チタン元素およびシリコン元素を合計した全モル濃度において、0.05〜5.0モル/リットルの範囲内の値とするのが好ましく、より好ましくは0.12〜2モル/リットルの範囲内の値とすることである。このような値の濃度であれば、複合酸化物前駆体溶液の使い勝手や保存安定性がさらに良好となるためである。
【0045】
(4)添加剤
複合酸化物前駆体溶液に、各種用途に応じて、安定化剤、界面活性剤、ドーパント、シリコン化合物、500℃で99%以上分解する高分子化合物等の添加剤を添加することが好ましい。
このような安定化剤としては、乳酸、グリセロール、グリコール酸等が挙げられる。また、これら安定化剤の添加量を、金属アルコキシドの金属1モルに対して、0.2〜4モルの範囲内の値とすることが好ましく、0.2〜2モルの範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜1モルの範囲内の値とすることがさらに好ましい。また、安定化剤の添加時期を、金属アルコキシドとアミノアルコール等との反応後とするか、あるいは金属アルコキシドの加水分解中や加水分解後とするのが好ましい。
【0046】
また、界面活性剤(消泡剤)としては、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤等を挙げることができ、より具体的には、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテルやポリプロピレングリコールノニルフェニルエーテル等を挙げることができる。
なお、界面活性剤の添加量を、複合酸化物前駆体と界面活性剤を含めた全体量の0.001〜10重量%の範囲内の値とするのが好ましく、0.01〜5重量%の範囲内の値とするのがより好ましい。
【0047】
また、ドーパントとしては、ベリリウム、ホウ素、バリウム、および鉛等の一種単独または二種以上の組み合せが挙げられる。このようなドーパントを添加することにより、基材との密着性の向上という効果を得ることができる。
また、ドーパントの添加量を、全体量の0.001〜1.0重量%の範囲内の値とするのが好ましく、0.01〜0.1重量%の範囲内の値とするのがより好ましい。
【0048】
また、シリコン化合物としては、コロイダルシリカ、シリコーン樹脂およびケイ酸塩化合物等が挙げられる。これらのシリコン化合物を添加することにより、複合酸化物前駆体を焼成して得られる複合酸化物の硬度を高めたり、硬化収縮を低減することができる。
このようなコロイダルシリカとしては、平均粒子径が1〜100nmの範囲内であるものが好ましく、2〜30nmの範囲内であるものがより好ましい。また、電気透析法、ケイ酸塩の酸による中和法、イオン交換樹脂法、解膠法、有機珪素化合物の加水分解法、四塩化ケイ素の加水分解法、気相法シリカの解重合法等の方法により製造されたものを用いることができる。
また、ケイ酸塩化合物としては、水ガラス、シリカゲルなどSiO2構造を含有する化合物を使用することが好ましい。
【0049】
また、500℃の温度条件で、99重量%以上分解する高分子化合物を添加することも好ましい。このような高分子化合物としては、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ワックスエマルジョン、パラフィン、リグニンスルホン酸、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の1種単独または2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0050】
ここで、シリコン(Si)を0.2部以上添加した場合でも、加熱後のフィルムが黒色とならず、透明なフィルムで且つ硬化収縮を低減する事が出来ることから、アクリル系ポリマーを添加することがより好ましい。
ここで、アクリル系ポリマーは、アクリレート化合物およびメタクリレート化合物から選ばれるアクリル系モノマーを主成分、好ましくは50重量%以上の値にして重合により得られるポリマーと定義される。また、アクリル系ポリマーの形態についても特に制限されるものでなく、アクリルエマルション、アクリルオリゴマーおよびアクリルポリマー等が挙げられる。
【0051】
さらに、このようなアクリル系ポリマーを重合する際に使用されるアクリレート系モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2ーエチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェノキシエチルアクリレートなどが、メタクリレート化合物としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルクリレート、2ーエチルヘキシルメタクリレート等を挙げることが出来る。
なお、このようなアクリル系モノマーは、他の共重合モノマーと組み合わせて共重合することも好ましい。他の共重合モノマーとして、例えば、スチレン、αーメチルスチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることが出来る。
【0052】
また、アクリル系ポリマーは、通常、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などのいずれの方法でも重合することが出来るが、二酸化チタン前駆体を水系溶媒に溶解する場合には、アクリル系ポリマーは水性分散体であることが好ましい。そして、アクリル系ポリマーの粒子径を1μm以下、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下の値とすることである。
また、これらアクリル系ポリマーを、他の種類のポリマーと混合して用いてもよい。
【0053】
[第3の実施の形態]
本発明における第3の実施の形態は、チタン−シリコン複合酸化物(単に、複合酸化物と称する場合がある。)であり、第1の実施の形態で説明したチタン−シリコン複合酸化物前駆体、または、第2の実施の形態において調製されたチタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液を加熱して得ることができる。
このようにして得られた複合酸化物は、強い光を照射しなくとも優れた親水性や光触媒性能を示すことができ、また硬度が高く、しかも高温加熱させたとしても、優れた光触媒性能を得ることができる。
【0054】
(1)粒子径
複合酸化物が結晶粒子の場合、その平均粒子径を10〜100nmの範囲内の値とするのが好ましい。この理由は、平均粒子径が10nm未満となると、光触媒活性が十分得られない場合があり、一方、平均粒子径が100nmを超えると、粒子や結晶構造に不規則性を生じる場合があるためである。
したがって、複合酸化物の平均粒子径を15〜80nmの範囲内の値とするのがより好ましく、20〜50nmの範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0055】
(2)膜厚
また、複合酸化物が膜(フィルム)の場合、その厚さを50〜700nmの範囲内の値とするのが好ましい。
この理由は、膜の厚さが50nm未満となると、光触媒活性が不十分となったり、機械的強度が低下する場合があるためであり、一方、膜の厚さが700nmを超えると、均一な厚さに形成するのが困難となる場合があるためである。
【0056】
(3)基材
また、複合酸化物(膜)を形成する基材についても特に制限されるものでなく、例えば、板状や繊維状のソーダガラスおよび石英ガラスなどのガラス、ジルコニアおよびアルミナなどのセラミックス、鉄およびステンレススチールなどの金属等を挙げることができる。したがって、チタン−シリコン複合酸化物(膜)をガラス上に形成した場合、自動車などの車輌用ガラス、住宅用ガラス、ビル用ガラスなどの建築物用ガラス、あるいは蛍光灯、ハロゲンランプ、HIDランプなどの照明器具用ガラス、として広く使用することができる。
【0057】
(4)加熱工程(焼成工程)
▲1▼加熱温度
複合酸化物前駆体を焼成するための加熱温度(焼成温度)を、400℃〜800℃の範囲内の値とすることがより好ましく、最も好ましくは500〜700℃範囲内の値とすることである。
この理由は、複合酸化物前駆体の加熱温度が400℃未満となると、有機物が残り、また酸化チタンがアナターゼ結晶とならない場合があるためであり、一方、複合酸化物前駆体の加熱温度が800℃を超えると、酸化チタンがルチル型結晶となる場合があるためである。
【0058】
▲2▼加熱方法
また、複合酸化物前駆体の加熱方法も特に制限されるものではないが、複合酸化物前駆体(複合酸化物前駆体溶液、あるいはこれから得られるゲル)を基体上に塗布した後、通常、加熱炉や赤外線ヒータあるいは電熱炉等の手法を用いて、加熱することが好ましい。また、基体上への塗布方法についても特に制限されるものでなく、例えば、ディップ法、キャスト法、ロールコート法、スピンコート法、スプレーコート法、熱加水分解法、CVD法等を採ることができる。
【0059】
【実施例】
以下実施例を基に、本発明をさらに詳細に説明するが、言うまでもなく、本発明の範囲は実施例の記載に制限されるものではない。
【0060】
[実施例1]
(1)チタン−シリコン複合酸化物前駆体の作成工程
1000mlの丸底フラスコ内に、アミノアルコールとしてのトリエタノールアミン298g(2mol)およびテトラメトキシシラン15.2g(0.1mol)を収容し、室温(20°)、常圧条件で一時間、撹拌機を用いて均一に撹拌させながら反応させた後、テトライソプロポキシチタン256g(0.9mol)を収容して、さらに1時間反応させた。次いで、グリセリン184g(2mol)を加え、さらに1時間、室温、常圧条件で均一に撹拌し、チタン−シリコン複合酸化物前駆体を含む反応液を得た。次に、この反応液が収容されたフラスコをエバポレーターに接続し、温度を70℃に昇温させ、圧力を40Torrに減圧した状態で、撹拌しながら反応させるとともに、副生するアルコールを約2時間かけて蒸留し、淡黄色のシロップ状物を得た。この時点で、シロップ状物(チタン−シリコン複合酸化物前駆体)中のイソプロパノールおよびメタノールの含有量を測定したところ、11重量%であった。
【0061】
(2)チタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液を調製する工程
得られたシロップ状のチタン−シリコン複合酸化物前駆体に対して、100mlの水を添加した後、溶液が均一となるまで撹拌し、チタン−シリコン複合酸化物前駆体の濃度が16重量%であるチタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液を得た。このチタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液20gに対して、界面活性剤としてポリエチレングリコールノニルフェニルエーテルを0.32g(チタン−シリコン酸化物前駆体に対して1重量%)と、アクリル酸系エマルジョンであるアクリルエマルションAE404(JSR(株)社製)を固形分換算で0.96g(チタン−シリコン酸化物前駆体に対して30重量%)と、蒸留水とをそれぞれ添加し、チタン−シリコン酸化物前駆体溶液とした。なお、蒸留水は、チタン−シリコン酸化物前駆体の濃度が6重量%になるように添加した。
【0062】
(3)チタン−シリコン酸化物(膜)の焼成工程
スピンコータを用いて、10秒間、100rpm、次いで1分間、1000rpmの回転条件でそれぞれ回転させて、得られたチタン−シリコン酸化物前駆体溶液から、ガラス基材上にチタン−シリコン酸化物前駆体層を形成した。
次いで、チタン−シリコン酸化物前駆体層を形成したガラス基材をオーブン内に収容し、空気中、120℃、60分の条件で乾燥した後、さらに空気中、650℃、5分の条件で加熱酸化させることにより、チタン−シリコン複合酸化物膜を焼成した。得られたチタン−シリコン複合酸化物膜は、表面状態が平滑であり、しかも均一な膜厚(1500Å)を有していた。
【0063】
(4)膜性能評価
▲1▼親水性の評価
焼成後、室温条件に2時間放置後、および10日間放置後のチタン−シリコン複合酸化物膜の純水に対する接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
▲2▼光触媒活性の評価(アセトアルデヒド分解性)
内部循環用ファンを取り付けた、縦、横、高さ各20cmのアクリル製箱に、5cm×5cmの穴をあけ、その穴にガラス基板付きのチタン−シリコン複合酸化物膜を内側に向けて取り付けた。次いで、このアクリル製箱内部に、注射器を用いて、約40ppm濃度のアセトアルデヒドの蒸気を含む窒素ガスを注入し、ブックライト(20W BLBライト)を用い、チタン−シリコン複合酸化物膜に対してガラス基板側から1cm離れた位置から光を照射した。そして、アセトアルデヒドの濃度を検知管で測定し、その測定値の照射時間による変化から反応速度を求め、光触媒活性を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
▲3▼鉛筆硬度
得られたチタン−シリコン複合酸化物膜について、鉛筆硬度をJIS K5400に従い測定した。なお、判定は表面の傷を目視で観察することにより行った。結果を表1に示す。
【0066】
▲4▼外観
得られたチタン−シリコン複合酸化物膜の外観(着色性)について目視で観察した。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例2〜4]
実施例1におけるアルコキシシランと、アルコキシチタンとの添加比率および膜厚を表1に示すように変えた他は、実施例1と同様にチタン−シリコン複合酸化物を作成し、その親水性等をそれぞれ評価した。得られた結果を表1に示す。
【0068】
[実施例5〜7]
表2に示すように、実施例2〜4の組成にそれぞれ添加剤としてポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル(1重量%)のみを用いるとともに、複合酸化物前駆体溶液における複合酸化物前駆体の濃度を6重量%から7重量%に変更し、さらには膜厚を変更した以外は、実施例2〜4と同様にチタン−シリコン複合酸化物を作成し、外観および鉛筆硬度をそれぞれ評価した。得られた結果を表2に示す。
【0069】
[実施例8]
実施例1におけるアルコキシシランと、アルコキシチタンの添加比率を表1に示すように変えるとともに、添加剤としてポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル(1重量%)のみを用い、さらに複合酸化物前駆体溶液における複合酸化物前駆体の濃度を6重量%から7重量%に変更し、さらに膜厚を変更した以外は、実施例1と同様にチタン−シリコン複合酸化物を作成し、外観および鉛筆硬度をそれぞれ評価した。得られた結果を表2に示す。
【0070】
[比較例1]
実施例1において、アルコキシシランを添加しなかった以外は、実施例1と同様にチタン−シリコン複合酸化物を作成するとともに、実施例1と同様に親水性等を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
Figure 0004168541
【0072】
【表2】
Figure 0004168541
【0073】
【発明の効果】
本発明のチタン−シリコン複合酸化物前駆体およびその溶液によれば、保存安定性や製膜性に優れ、また、加熱(焼成)によって強度が強い光を照射しなくとも優れた親水性、光触媒性能および硬度を有するチタン−シリコン複合酸化物を作成することができるようになった。
また、本発明のチタン−シリコン複合酸化物前駆体の製造方法によれば、保存安定性や製膜性に優れ、また、加熱(焼成)によって強度が強い光を照射しなくとも優れた親水性、光触媒性能および硬度を有するチタン−シリコン複合酸化物を作成することができるチタン−シリコン複合酸化物前駆体を効率的に得られるようになった。
【0074】
さらに本発明のチタン−シリコン複合酸化物によれば、強い光を照射しなくとも優れた親水性や光触媒性能を発揮し、しかも高い硬度と基材密着性等が得られるようになった。したがって、住宅用の窓ガラス、自動車の窓ガラス、温室、ドアミラーや水槽のガラス、各種ランプ、ランプカバーなど広い用途に適用することが期待される。

Claims (6)

  1. アミノアルコール、カルボン酸化合物、ヒドロキシカルボン酸、β−ジケトン化合物およびβ−ジケト酸エステル化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、下記一般式(1)で表されるアルコキシチタンと、下記一般式(2)で表されるアルコキシシランとを反応してなるチタン−シリコン複合酸化物前駆体。
    Ti(OR14 (1)
    [一般式(1)中、R1は、アルキル基、アリール基またはアシル基である。]
    Si(OR2p(R3q (2)
    [一般式(2)中、R2はアルキル基、アリール基またはアシル基であり、pは2、3または4であり、R3は水素、アルキル基またはアリール基であり、qは(4−p)で表される数である。]
  2. 前記チタン−シリコン複合酸化物前駆体中のチタン元素(Ti)と、ケイ素元素(Si)とのモル比(Ti:Si)を95:5〜5:95の範囲内の値としてなる請求項1に記載のチタン−シリコン複合酸化物前駆体。
  3. 請求項1または2に記載のチタン−シリコン複合酸化物前駆体を水系溶媒に溶解してなるチタン−シリコン複合酸化物前駆体溶液。
  4. 有機物ポリマーをさらに添加してなる請求項3に記載のチタンーシリコン複合酸化物前駆体溶液。
  5. アミノアルコール、カルボン酸化合物、ヒドロキシカルボン酸、β−ジケトン化合物およびβ−ジケト酸エステル化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物と、下記一般式(1)で表されるアルコキシチタンと、下記一般式(2)で表されるアルコキシシランとを反応させてなるチタン−シリコン複合酸化物前駆体の製造方法。
    Ti(OR14 (1)
    [一般式(1)中、R1は、アルキル基、アリール基またはアシル基である。]
    Si(OR2p(R3q (2)
    [一般式(2)中、R2はアルキル基、アリール基またはアシル基であり、pは2、3または4であり、R3は水素、アルキル基またはアリール基であり、qは(4−p)で表される数である。]
  6. 請求項1、2、3または4に記載のチタン−シリコン複合酸化物前駆体を焼成してなるチタン−シリコン複合酸化物。
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