JP4167942B2 - 強化繊維シート材およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度繊維のシート材の改良、更に詳しくは、編み目のズレを防止した構造で形態安定性に優れており、しかも、樹脂の含浸性にも優れている強化繊維シート材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建設現場においては、既存のコンクリート構造物(例えば橋脚など)の表面における剥離を防止するために、シート状の補強材を巻き付ける補強作業が行われている。そして、この補強材としては、例えば、炭素繊維やアラミド繊維などの補強繊維を使用して作製されたシート部材が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このシート部材は、補強繊維を扁平に並列した強化繊維束に挿入された糸が経糸と緯糸とによる織物組織に製織されており、この織物組織は四辺形状であるために構造的に不安定で不可避的に歪みを生じ易く形態安定性に不満があり、巻き付け作業の際にも非常に使い勝手が悪い。
【0004】
また、強化繊維、特に炭素繊維などの高弾性繊維はわずかな蛇行や張力の不揃いによって弾性率が大きく損なわれてしまうので、形状が不安定であると、建設現場における作業において要求される機能が到底得られない。そのため、挿入糸と補強繊維とを接着してシート部材の形状安定化が必要不可欠である。
【0005】
更にまた、巻き付けた状態でシート部材を固定するために、樹脂系の接着剤を塗布することから、樹脂の含浸性の良さも要求され、接着層の気泡を減少させることによりシート部材と構造物との接着性を良くする必要がある。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−37051号公報 (第3−5頁、第1−2図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の補強材に上記の如き問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、編み目のズレを防止した構造で形態安定性に優れており、しかも、樹脂の含浸性にも優れている強化繊維シート材を提供することにある。
【0008】
また、本発明は、このようなシート材を経編機Mを用いて簡単に作製することができる製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0010】
即ち、本発明は、強化繊維が扁平に並列した所要幅の強化繊維束1・1…と補強糸経編地とが固着して構成されたシート材であって、
前記補強糸経編地は、前記強化繊維束1・1間において所定のウェール間隔に沿って複数列の鎖組織W・W…を形成する鎖編地糸2と、この鎖編地糸2の形成する鎖組織Wに編込まれた補強挿入糸3とから構成されており、前記各鎖組織W・W…を形成する鎖編地糸2が強化繊維束1・1間に配置される一方、
これら鎖組織W・W…に編込まれた前記各補強挿入糸3は、一定のコース毎に外側に振られており、かつ、少なくとも複数の強化繊維束1・1…を離間して側方に並行する鎖組織Wに編絡しており、この少なくとも複数ウェール離間する鎖組織W・W同士を勾引状態に接結して当該強化繊維束1の両面を挟持しており、
かつ、前記補強挿入糸3の少なくとも一部には、糸表面に低融点熱可塑性樹脂を含む熱融着糸31を含んでおり、加熱処理により前記低融点熱可塑性樹脂が溶融して、補強挿入糸3が前記鎖編地糸2および少なくとも複数の強化繊維束1・1…に亙って融着して、これらの部材を固着するという技術的手段を採用することによってシート材を完成させた。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、補強挿入糸3を、熱融着糸31を芯材32の周囲に螺旋状に巻回して構成されたカバーリング糸にするという技術的手段を採用した。
【0012】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、強化繊維束1の強化繊維を、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、セラミック繊維の中から選ばれた一種または複数種で作製するという技術的手段を採用した。
【0013】
また、本発明は、強化繊維が扁平に並列した所要幅の強化繊維束1・1…と補強糸経編地とを経編機Mを用いて編込みして構成された高強度のシート材を製造する方法であって、
前記補強糸経編地は、前記強化繊維束1・1間において所定のウェール間隔に沿って複数列の鎖組織W・W…を鎖編地糸2によって形成し、この鎖編地糸2の形成する鎖組織Wに補強挿入糸3を編込んで、前記各鎖組織W・W…を形成する鎖編地糸2を強化繊維束1・1間に配置し、
これら鎖組織W・W…に編込まれた前記各補強挿入糸3を、一定のコース毎に外側に振って少なくとも複数の強化繊維束1・1…を離間して側方に並行する鎖組織Wに編絡せしめ、この少なくとも複数ウェール離間する鎖組織W・W同士を勾引状態に接結せしめて当該強化繊維束1の両面を挟持してシート基材Sを作製する一方、
前記補強挿入糸3の少なくとも一部には、糸表面に低融点熱可塑性樹脂を含む熱融着糸31を含んでおり、シート基材Sを加熱処理して前記低融点熱可塑性樹脂を溶融することによって、補強挿入糸3を前記鎖編地糸2および少なくとも複数の強化繊維束1・1…に亙って融着せしめて、これらの部材を固着するという技術的手段を採用することによって強化繊維シート材の製造方法を完成した。
【0014】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、熱融着糸31を芯材32の周囲に螺旋状に巻回して構成した補強挿入糸3を用いるという技術的手段を採用した。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を具体的に図示した図面に基いて更に詳細に説明すると次のとおりである。
【0016】
本発明の実施形態を図1から図4に基いて説明する。図中、符号1で指示するものは強化繊維束であり、この強化繊維束1は強化繊維が扁平に並列し所要幅束ねられており、使用材料としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、セラミック繊維の中から選ばれた一種または複数種で作製したものを採用することができる。
【0017】
また、符号2で支持するものは補強糸経編地を構成する鎖編地糸であり、この鎖編地糸2は、15〜1500デニールのマルチフィラメント糸やモノフィラメント糸であって、アラミド繊維やポリスルホン繊維などの高融点または高張力繊維を使用することができ、必要に応じて、導電性、吸放湿性、抗菌性などの機能を有する材料や金属線材を使用することもできる。
【0018】
また、符号3で指示するものは補強挿入糸であり、この補強挿入糸3の少なくとも一部には、糸表面に低融点熱可塑性樹脂を含む熱融着糸31を含んでおり、加熱処理により強化繊維束1に融着することができる。この熱融着糸31としては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリオレフィン系を単独あるいは複数で作製することができ、本実施形態では、ポリアミド系(ナイロン)溶融糸を採用し、約100℃で溶融する。
【0019】
しかして、強化繊維が扁平に並列した所要幅の強化繊維束1・1…と補強糸経編地とを経編機Mを用いて編込んで構成する本発明の強化繊維のシート材を製造する方法の手順を以下に具体的に説明する。
【0020】
まず、前記補強糸経編地を、前記強化繊維束1・1間において所定のウェール間隔に沿って複数列の鎖組織W・W…を鎖編地糸2によって形成し、この鎖編地糸2の形成する鎖組織Wに補強挿入糸3を編込んで、前記各鎖組織W・W…を形成する鎖編地糸2を強化繊維束1・1間に配置する。
【0021】
次に、これら鎖組織W・W…に編込まれた前記各補強挿入糸3を、一定のコース毎に振って少なくとも複数の強化繊維束1・1…を離間して側方に並行する鎖組織Wに編絡する箇所を含むようにする。この少なくとも複数ウェール(本実施形態では、2ウェール)離間する鎖組織W・W同士を勾引状態に接結せしめて当該強化繊維束1の両面を挟持してシート基材Sを作製する(図1および図2参
照)。
【0022】
このように、少なくとも複数ウェール離間する鎖組織W・W同士を勾引状態に接結せしめることにより、組織中の糸同士が相互的に連結されるため、編み目のズレを防止し、形態安定性を良くすることができる。
【0023】
補強糸経編地の補強挿入糸3の少なくとも一部には、糸表面に低融点熱可塑性樹脂を含む熱融着糸31を含んでおり、本実施形態では、熱融着糸31を芯材32の周囲に螺旋状に巻回して構成したカバーリング糸を用いることができ、ポリエステル繊維のモノフィラメント芯材(60d)にナイロン系融着糸(100d)を螺旋状に巻き付ける(図3参照)。
【0024】
こうして作製されたシート基材Sを補強挿入糸3を乾熱遠赤外線ヒーターで加熱時間10秒〜20秒間加熱処理して溶融する。この際、編成速度は300mm/minであり、表面の熱融着糸31の低融点熱可塑性樹脂が溶融して強化繊維束1に融着せしめて両部材を固着することができ、順次ロールに巻き取って製品となる(図4参照)。
【0025】
なお、鎖組織W・W間に補強挿入糸3を振る回数をなるべく少なくすることによって、強化繊維を被覆する密度を小さくして樹脂の含浸性を良くすることもでき、接着層の気泡を減少させることによりシート部材と構造物との接着性を良くすることができる。
【0026】
本発明は概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施例に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、強化繊維1の使用材料は、用途に応じて適宜変更し得る。また補強挿入糸3が離間する強化繊維束1・1…の間隔は、少なくとも複数であれば良く、また、強化繊維束1の両面を挟持するものであれば、補強糸経編地の編組織は変更することもできる。
【0027】
更にまた、補強挿入糸3は、少なくとも表面に低融点熱可塑性樹脂を含んで、加熱処理により溶融されて強化繊維束1に融着して両部材を固着できるものであれば、ポリアミド系(ナイロン)溶融糸に限らず、他の材料を採用することができるし、また、熱融着糸31を芯材32に螺旋状に巻回して構成したものに限らず、熱融着糸31のみで作製されたものであっても良く、何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【0028】
【発明の効果】
以上、実施形態を挙げて説明したとおり、本発明にあっては、補強挿入糸を、一定のコース毎に振って少なくとも複数の強化繊維束を離間して側方に並行する鎖組織に編絡する箇所を含むようにし、この少なくとも複数ウェール離間する鎖組織同士を勾引状態に接結せしめて当該強化繊維束の両面を挟持して、かつ、鎖組織に編込まれた補強挿入糸の少なくとも表面に低融点熱可塑性樹脂を含んでおり、シート基材を加熱処理して補強挿入糸を溶融することによって強化繊維束に融着せしめて両部材を固着したことによって、編み目のズレを防止した構造にすることができるので、形態安定性に優れ、しかも、適度な間隙により樹脂の含浸性にも優れた製品を作製することができ、建設現場におけるシート状の補強材として好適であり、巻き付ける補強作業の施工性にも優れている。
【0029】
更にまた、このような高強度なシート材を経編機を使用して簡単に作製できることから、製造コストがかからず、大量生産にも適していることから、実用的利用価値は頗る高いものがあると云える。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態品の編み組織構造(表面)を表わす説明正面図である。
【図2】 本発明の実施形態品の編み組織構造(裏面)を表わす説明正面図である。
【図3】 本発明の実施形態における補強挿入糸の構造を表わす説明側面図である。
【図4】 本発明の実施形態における製造工程を表わす説明図である。
【符号の説明】
1 強化繊維束
2 鎖編地糸
3 補強挿入糸
31 熱融着糸
32 芯材
W 鎖組織
S シート基材
M 経編機

Claims (5)

  1. 強化繊維が扁平に並列した所要幅の強化繊維束1・1…と補強糸経編地とが固着して構成されたシート材であって、
    前記補強糸経編地は、前記強化繊維束1・1間において所定のウェール間隔に沿って複数列の鎖組織W・W…を形成する鎖編地糸2と、この鎖編地糸2の形成する鎖組織Wに編込まれた補強挿入糸3とから構成されており、前記各鎖組織W・W…を形成する鎖編地糸2が強化繊維束1・1間に配置される一方、
    これら鎖組織W・W…に編込まれた前記各補強挿入糸3は、一定のコース毎に外側に振られており、かつ、少なくとも複数の強化繊維束1・1…を離間して側方に並行する鎖組織Wに編絡しており、この少なくとも複数ウェール離間する鎖組織W・W同士を勾引状態に接結して当該強化繊維束1の両面を挟持しており、
    かつ、前記補強挿入糸3の少なくとも一部には、糸表面に低融点熱可塑性樹脂を含む熱融着糸31を含んでおり、.
    加熱処理により前記低融点熱可塑性樹脂が溶融して、補強挿入糸3が前記鎖編地糸2および少なくとも複数の強化繊維束1・1…に亙って融着して、これらの部材を固着したことを特徴とする強化繊維シート材。
  2. 補強挿入糸3が、熱融着糸31を芯材32の周囲に螺旋状に巻回して構成されたカバーリング糸であることを特徴とする請求項1記載の強化繊維シート材。
  3. 強化繊維束1の強化繊維が、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、セラミック繊維の中から選ばれた一種または複数種で作製されていることを特徴とする請求項1または2記載の強化繊維シート材。
  4. 強化繊維が扁平に並列した所要幅の強化繊維束1・1…と補強糸経編地とを経編機Mを用いて編込みして構成された高強度のシート材を製造する方法であって、
    前記補強糸経編地は、前記強化繊維束1・1間において所定のウェール間隔に沿って複数列の鎖組織W・W…を鎖編地糸2によって形成し、この鎖編地糸2の形成する鎖組織Wに補強挿入糸3を編込んで、前記各鎖組織W・W…を形成する鎖編地糸2を強化繊維束1・1間に配置し、
    これら鎖組織W・W…に編込まれた前記各補強挿入糸3を、一定のコース毎に外側に振って少なくとも複数の強化繊維束1・1…を離間して側方に並行する鎖組織Wに編絡せしめ、この少なくとも複数ウェール離間する鎖組織W・W同士を勾引状態に接結せしめて当該強化繊維束1の両面を挟持してシート基材Sを作製する一方、
    前記補強挿入糸3の少なくとも一部には、糸表面に低融点熱可塑性樹脂を含む熱融着糸31を含んでおり、シート基材Sを加熱処理して前記低融点熱可塑性樹脂を溶融することによって、補強挿入糸3を前記鎖編地糸2および少なくとも複数の強化繊維束1・1…に亙って融着せしめて、これらの部材を固着することを特徴とする強化繊維シート材の製造方法。
  5. 熱融着糸31を芯材32の周囲に螺旋状に巻回して構成した補強挿入糸3を用いることを特徴とする請求項4記載の強化繊維シート材の製造方法。
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