JP4164240B2 - セメントクリンカ及びセメント組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、SiO2とAl2O3を主成分とする産業廃棄物(例えば、石炭灰や下水スラッジ等)を原料として利用したセメントクリンカとそのセメントクリンカを用いたセメント組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、セメントクリンカの製造においては、各種産業廃棄物の有効利用が進められており、SiO2とAl2O3を主成分とする産業廃棄物もセメントクリンカの製造に利用されている。具体的には、セメントクリンカ1ton当たり50〜100kg程度の石炭灰が原料として利用されている。そして、産業廃棄物の有効利用の観点から、今後、セメントクリンカ用原料として利用する産業廃棄物の量を増やすことが望まれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、セメントクリンカ用原料として利用する産業廃棄物の量を増やすと、セメントクリンカの化学組成が変化し一定の品質のものが得られ難いという問題がある。
例えば、SiO2とAl2O3を主成分とする産業廃棄物を有効利用する方法として、特殊セメントの製造に石炭灰を利用する方法が、特公平1-49657号公報に開示されている。
該特公平1-49657号公報は、「石炭燃焼時に精製した石炭灰100重量部と石灰石200〜400重量部との粉砕混合物を焼成することによって15〜25%の3CaO・Al2O3を含有するクリンカーを形成し、次いで、このクリンカーにSO3量が3〜21%となるように石膏を混合して粉砕するか、互いに分離粉砕した後混合して、使用時にカルシウムサルホアルミネート水和物である針状結晶のエトリンガイトが多量に形成されるセメントを得る特殊セメントの製造法」である。
そして、クリンカーを形成する際の目標鉱物としては3CaO・SiO2(C3S)量を規定するのが良く、その量を50〜60%程度にするのが望ましい、としている。
【0004】
上記特公平1-49657号公報では、セメントクリンカ1ton製造するのに、石炭灰を300〜400kg使用するものではある(特公平1-49657号公報第1表参照)。
しかしながら、石炭灰は、その使用した石炭の炭種や燃焼温度等の条件により、化学組成が大きく異なることが知られている。例えば、現在主に使用されている海外炭では、石炭灰の化学組成が、SiO2が44.6〜74.0%、Al2O3が16.4〜38.3%、CaOが0.1〜14.3%、Fe2O3が0.6〜22.7%の範囲であることが報告されている(日本フライアッシュ協会発行「石炭灰」平成10年)。
このような石炭灰を用いてセメントクリンカを製造する場合、上記特公平1-49657号公報のように単にC3S量を規定しても、他の鉱物(2CaO・SiO2、3CaO・Al2O3、4CaO・Al2O3・Fe2O3)の生成量は、石炭灰の化学組成の影響を受け異なるものであり、一定の品質のセメントクリンカ及びセメント組成物を得ることは不可能であった。
【0005】
また、セメントクリンカの化学組成が変化すると、焼成時の操業条件(例えば、NSPキルンの燃料使用量、生産量、プレヒーター出口温度等)を変えることが必要となり、実用的な方法とは言い難かった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を鑑みSiO2とAl2O3を主成分とする産業廃棄物を原料として利用したセメントクリンカとそのセメントクリンカを用いたセメント組成物に関し鋭意研究した結果、
セメントクリンカの水硬率、ケイ酸率及び鉄率を特定の範囲とすること、そして総SO3量を特定の範囲とするように該セメントクリンカに石膏を混合して粉砕するか/又は分離粉砕した後混合することによって、SiO2とAl2O3を主成分とする産業廃棄物を原料として利用したセメントクリンカとそのセメントクリンカを用いたセメント組成物であっても、安定した品質のものが得られることを見いだし、本発明を完成させたものである。
【0007】
即ち、本発明は、SiO 2 量が 40 〜 80 重量%であり、 Al 2 O 3 量が 10 〜 40 重量%である産業廃棄物をセメントクリンカ 1ton 当たり 100kg 以上原料として使用した、水硬率(H.M.)が1.8〜2.3、ケイ酸率(S.M.)が1.3〜2.3、鉄率(I.M.)が1.3〜1.8であることを特徴とするセメントクリンカである(請求項1)。また、本発明は、前記セメントクリンカに、総SO3量が2.0〜5.0重量%となるように石膏を混合して粉砕するか/又は互いに分離粉砕した後混合することを特徴とするセメント組成物である(請求項2)。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のセメントクリンカは、SiO2とAl2O3を主成分とする産業廃棄物を原料として使用するものである。前記SiO2とAl2O3を主成分とする産業廃棄物は、SiO2量が40〜80重量%であり、Al2O3量が10〜40重量%である産業廃棄物を使用することが好ましい。SiO2量とAl2O3量が前記範囲であれば、セメントクリンカの水硬率、ケイ酸率及び鉄率の調整が比較的容易となる。
本発明において、SiO2とAl2O3を主成分とする産業廃棄物(以降、産業廃棄物と称す)としては、石炭灰の他、下水スラッジ、浄水スラッジ、製紙スラッジ等のスラッジ類や、前記スラッジ類の焼却灰等が挙げられる。
【0009】
本発明のセメントクリンカは、前記産業廃棄物を原料として使用し、水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)および鉄率(I.M.)を一定範囲とするものである。
一般に、セメントクリンカの製造においては、原料の水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)および鉄率(I.M.)で管理されている。それゆえに、セメントクリンカの品質を管理し、操業条件を安定させるには、前記各係数(H.M.、S.M.、I.M.)を一定範囲とすることが不可欠である。
クリンカの各係数(H.M.、S.M.、I.M.)を一定範囲とすることによって、化学組成が大きく異なる産業廃棄物を原料として使用した場合でも、セメントクリンカの品質を安定化させること、また操業条件も安定化させることが可能となる。そして、セメントクリンカの品質が安定しているため、該セメントクリンカを用いたセメント組成物も安定した品質のものが得られる。
【0010】
セメントクリンカの各係数は、産業廃棄物の有効利用の推進、セメントクリンカ及びセメント組成物の生産性(焼成温度、焼成のし易さ、粉砕性等)、セメント組成物の品質(発熱量、凝結、強度発現性等)を考慮して、水硬率(H.M.)を1.8〜2.3、ケイ酸率(S.M.)を1.3〜2.3、鉄率(I.M.)を1.3〜1.8とするのが好ましい。なお、セメントクリンカの各係数は、産業廃棄物及び後述するセメントクリンカ用原料を前記範囲となるように混合することで調整することができる。水硬率(H.M.)が小さくなると、セメントクリンカ中の間隙相(3CaO・Al2O3、4CaO・Al2O3・Fe2O3)の含有量が多くなる傾向にある。そして、間隙相の生成量が多くなりすぎると、キルン内の液相が増加し、安定したクリンカの焼成が困難となる。一方、水硬率(H.M.)が大きくなると、初期の発熱量が増加する傾向にある。そのため、水硬率(H.M.)は1.8〜2.3が好ましい。
ケイ酸率(S.M.)が小さくなると、セメントクリンカ中の間隙相(3CaO・Al2O3、4CaO・Al2O3・Fe2O3)の含有量が多くなる傾向にある。そして、間隙相の生成量が多くなりすぎると、キルン内の液相が増加し、安定したクリンカの焼成が困難となる。一方、ケイ酸率(S.M.)が大きくなると、産業廃棄物をセメントクリンカ用の原料として大量に使用することが困難となり、産業廃棄物の有効利用を推進するという本願発明の目的を達成することが困難となる。そのため、ケイ酸率(S.M.)は1.3〜2.3が好ましい。
鉄率(I.M.)が大きくなると、セメントクリンカ中の3CaO・Al2O3の含有量が多くなり、該セメントクリンカを用いたセメント組成物では、初期の発熱量が増加する傾向にある。また、強度発現性が低下する。一方、鉄率(I.M.)が小さくなると、セメントクリンカの粉砕性が低下し、セメント組成物の生産性が極端に低下する。そのため、鉄率(I.M.)は1.3〜1.8が好ましい。
【0011】
本発明においては、セメントクリンカの化学組成を前記範囲に調整するのに、前記産業廃棄物以外に、CaO原料及びFe2O3原料を使用する必要がある。また、使用する産業廃棄物の化学組成によってはSiO2原料を使用しなければならない場合もある。ここで、CaO原料としては、石灰石、生石灰、消石灰等を使用することができる。また、Fe2O3原料としては、鉄滓、鉄ケーキ等を使用することができる。SiO2原料としては、珪石、粘土等を使用することができる。
【0012】
本発明のセメントクリンカは、上記各原料を所定のH.M.、S.M.、I.M.となるように混合し、焼成することによって得られるものである。
各原料を混合する方法は、特に限定するものではなく、慣用の装置等で行えばよい。
また、セメントクリンカの焼成も、慣用の装置(ポルトランドセメントクリンカの焼成に用いられているNSPキルン、SPキルン等)で行えばよい。
【0013】
本発明においては、産業廃棄物の有効利用を推進するという観点から、セメントクリンカ1ton当たり、産業廃棄物を100kg以上原料として使用するのが好ましく、より好ましくは150〜350kgである。なお、産業廃棄物の使用量が350kgを超えると、セメントクリンカの水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)及び鉄率(I.M.)を所定の範囲に調整することが困難となる。
【0014】
次に、本発明のセメント組成物について説明する。
本発明のセメント組成物は、上記セメントクリンカに総SO3量が2.0〜5.0重量%となるように石膏を混合して粉砕するか/又は互いに分離粉砕した後混合したものである。
セメント組成物の生産性の点からは、セメントクリンカに石膏を混合して粉砕するのが好ましい。
総SO3量が2.0重量%未満では、急結等の異常凝結が生じることがあり好ましくない。一方、総SO3量が5.0重量%を超えると、強度発現性の低下や硬化後の寸法安定性が低下するので好ましくない。
石膏としては2水、半水、無水石膏又はこれらの混合物が挙げられる。
粉砕に用いる装置は、特に限定されず、従来よりポルトランドセメントクリンカの粉砕に用いられているボールミル等を用いることができる。
セメント組成物のブレーン比表面積は3000〜4500cm2/gであることが好ましい。
【0015】
本発明のセメント組成物は、ペースト、モルタル又はコンクリートの状態で使用される。減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤(高性能減水剤・高性能AE減水剤も含む)が使用できる。
モルタル又はコンクリートの状態で使用する場合は、通常モルタル、コンクリートの製造に使用されている細・粗骨材、すなわち、川砂、山砂、海砂、砕砂等や、川砂利、山砂利、海砂利、砕石等を使用することができる。
また、必要に応じて、支障のない範囲内で、空気連行剤、消泡剤等を添加することができる。
【0016】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明する。
1.セメントクリンカ用原料
セメントクリンカ用原料として、表1に示す化学成分を有する産業廃棄物(石炭灰)、石灰石、珪石、鉄原料を使用した。
【0017】
【表1】
【0018】
これらの原料を用いて表2に示す水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)及び鉄率(I.M.)となるように慣用の方法で配合し混合し、NSPキルンを用いて1450℃で焼成し、セメントクリンカを調製した。
【0019】
【表2】
【0020】
各セメントクリンカに総SO3量が2.0%となるように石膏を添加し、混合粉砕してブレーン比表面積約3300cm2/gのセメント組成物を製造した。
【0021】
前記各セメント組成物を用いて、以下の1)〜2)の特性を測定した。
1)圧縮強度
「JIS R 5201(ポルトランドセメントの物理試験方法)」に準じて、材令3、7、28日の圧縮強度を測定した。
2)水和熱
「JIS R 5201(ポルトランドセメントの物理試験方法)」に準じて、材令7、28日の水和熱を測定した。
それらの結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
表3より、化学組成が大きく異なる石炭灰を原料として使用した場合でも、安定した品質のセメント組成物が得られていることが分かる(表3のNo1、2参照)。
一方、本発明で規定する鉄率よりも大きな鉄率のセメントクリンカを使用した表3のNo3のセメント組成物では、強度発現性が小さく、水和熱も大きかった。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のセメントクリンカは、水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)及び鉄率(I.M.)を一定範囲に調整したものであるので、化学組成が大きく異なる産業廃棄物を原料として使用した場合でも、焼成時の操業条件(例えば、NSPキルンの燃料使用量、生産量、プレヒーター出口温度等)を変えることなく、セメントクリンカの品質を安定化させることが可能となり実用的である。
そして、セメントクリンカの品質が安定しているため、該セメントクリンカを用いたセメント組成物も安定した品質のものが得られる。
【0025】
また、本発明においては、セメントクリンカ1ton当たり産業廃棄物を100kg以上原料として使用するので、産業廃棄物の有効利用を推進することができる。
Claims (2)
- SiO 2 量が 40 〜 80 重量%であり、 Al 2 O 3 量が 10 〜 40 重量%である産業廃棄物をセメントクリンカ 1ton 当たり 100kg 以上原料として使用した、水硬率(H.M.)が1.8〜2.3、ケイ酸率(S.M.)が1.3〜2.3、鉄率(I.M.)が1.3〜1.8であることを特徴とするセメントクリンカ。
- 請求項1記載のセメントクリンカに、総SO3量が2.0〜5.0重量%となるように石膏を混合して粉砕するか/又は互いに分離粉砕した後混合することを特徴とするセメント組成物。
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