従来の誘導加熱装置の例として、加熱コイルから高周波磁界を発生し、電磁誘導による渦電流によってアルミニウム製の鍋を含む各種金属負荷を加熱する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。以下、従来の誘導加熱調理器について図4、図5に基づいて説明する。
図4は従来の誘導加熱調理器の回路構成を示す図である。電源51は低周波交流電源である200V商用電源であり、ブリッジダイオードである整流回路52の入力端に接続される。整流回路52の出力端間に第1の平滑コンデンサ53が接続される。整流回路52の出力端間には、さらに、チョークコイル54と第2のスイッチング素子57の直列接続体が接続される。加熱コイル59は被加熱物であるアルミニウム製の鍋61と対向して配置されている。
50はインバータであり、第2の平滑コンデンサ62の低電位側端子(エミッタ)は整流回路52の負極端子に接続され、第2の平滑コンデンサ62の高電位側端子は第1のスイッチング素子(IGBT)55の高電位側端子(コレクタ)に接続され、第1のスイッチング素子(IGBT)55の低電位側端子はチョークコイル54と第2のスイッチング素子(IGBT)57の高電位側端子(コレクタ)との接続点に接続される。加熱コイル59と共振コンデンサ60の直列接続体が第2のスイッチング素子57に並列に接続される。第1のダイオード56(第1の逆導通素子)は第1のスイッチング素子57に逆並列に接続(第1のダイオード56のカソードと第1のスイッチング素子57のコレクタとを接続)され、第2のダイオード58(第2の逆導通素子)は第2のスイッチング素子57に逆並列に接続される。
スナバコンデンサ64は、第2のスイッチング素子57に並列に接続される。補正用共振コンデンサ65とリレー66の直列接続体は共振コンデンサ60に並列に接続されている。制御回路63は、電源51からの入力電流を検知するカレントトランス67と、加熱コイル59の電流を検知するカレントトランス68の検知信号を入力するとともに、第1のスイッチング素子55と第2のスイッチング素子57のゲートとリレー66の駆動コイル(図示せず)に信号を出力する。
以上のように構成された誘導加熱装置において、以下動作を説明する。電源51は整流回路52により全波整流され、整流回路52の出力端に接続された第1の平滑コンデンサ53に供給される。この第1の平滑コンデンサ53はインバータに高周波電流を供給する供給源として働く。図5は上記回路における各部波形を示す図であり、図5(A)は出力が大出力である2kWの時のものである。同図(a)は第1のスイッチング素子55及び第1のダイオード56に流れる電流波形Ic1を、同図(b)は第2のスイッチング素子57及び第2のダイオード58に流れる電流波形Ic2を、同図(c)は第2のスイッチング素子57のコレクタ−エミッタ間に生じる電圧Vce2を、同図(d)は第1のスイッチング素子55のゲートに加わる駆動電圧Vg1を、同図(e)は第2のスイッチング素子57のゲートに加わる駆動電圧Vg2を、同図(f)は加熱コイル59に流れる電流ILをそれぞれ示している。
出力が2kWのとき(図5(A))、制御回路63は時点t0から時点t1まで(e)に示すように第2のスイッチング素子57のゲートに駆動期間がT2(約24μ秒)であるオン信号を出力する。この駆動期間T2の間では第2のスイッチング素子57及び第2のダイオード58と、加熱コイル59と、共振コンデンサ60で形成される閉回路で共振し、鍋61がアルミニウム製の鍋であるときの共振周期(1/f)が駆動期間T2の約2/3倍(約16μ秒)となるように加熱コイル59の巻き数(40T)と共振コンデンサ60の容量(0.04μF)と、駆動期間T2が設定されている。チョークコイル54はこの第2のスイッチング素子57の駆動期間T2において、平滑コンデンサ53の静電エネルギーを磁気エネルギーとして蓄える。
次に、第2のスイッチング素子57に流れる共振電流の第2番目のピークと共振電流が次に零となる間のタイミングである時点t1、すなわち第2のスイッチング素子57の順方向にコレクタ電流が流れている時点で第2のスイッチング素子57の駆動が停止される。すると、第2のスイッチング素子57がオフするので、第2のスイッチング素子57のコレクタと接続されたチョークコイル54の端子の電位が立ち上がり、この電位が第2の平滑コンデンサ62の電位を越えると、第1のダイオード56を通して第2の平滑コンデンサ62に充電して、チョークコイル54に蓄えた磁気エネルギーを放出する。第2の平滑コンデンサ62の電圧は整流器52の直流出力電圧Vdcのピーク値(283V)よりも高くなるように昇圧される(本実施例では500V)。昇圧されるレベルは第2のスイッチング素子58の導通時間に依存し、導通時間が長くなると第2の平滑コンデンサ62に発生する電圧が高くなる傾向にある。
このように、第2の平滑コンデンサ62−第1のスイッチング素子55あるいは第1のダイオード56−加熱コイル59−共振コンデンサ60で形成される閉回路で共振する際に直流電源として働く第2の平滑コンデンサ62の電圧レベルが昇圧されることにより、図5(A)の(a)に示す第1のスイッチング素子55に流れる共振電流の尖頭値(ピーク値)、および共振経路を変えて、継続して共振する同図(b)の第2のスイッチング素子57に流れる共振電流の尖頭値が零とならないように、あるいは小さくならないようにして、アルミニウム製の鍋を高出力で誘導加熱し、かつ、出力を連続的に増減して制御するようにできる。
そして、図5(A)の(d)及び(e)で示すように、制御回路63は、時点t1から両スイッチング素子が同時に導通するのを防止するために設けた休止期間後の時点t2において、第1のスイッチング素子55のゲートに駆動信号を出力する。この結果、同図(a)示すように加熱コイル59−共振コンデンサ60−第1のスイッチング素子55または第1のダイオード56−第2の平滑コンデンサ62とからなる閉回路に経路を変えて共振電流が流れることになる。この駆動信号の駆動期間T2は、この場合にはT1とほぼ同じ期間に設定されているので、第2のスイッチング素子58が導通していた場合と同様に、駆動期間T1の約2/3の周期の共振電流が流れる。
従って、加熱コイル59に流れる電流ILは、図5(A)の(f)に示すような波形となり、第1及び第2のスイッチング素子の駆動周期(T1とT2と休止期間の和)は共振電流の周期の約3倍となり、第1及び第2の駆動周波数が約20kHzであれば、加熱コイル59に流れる共振電流の周波数は約60kHzとなる。
次に起動時においては、制御回路63はリレー66はオフ状態にし、一定の周波数(約21kHz)で第1のスイッチング素子55と第2のスイッチング素子57を交互に駆動する。第1のスイッチング素子55の駆動期間は共振電流の共振周期よりも短いモードで駆動し、駆動時間比を最小にして、最小の出力にしてから徐々に駆動時間比を増加し、その間に制御回路63はカレントトランス67の検知出力とカレントトランス68の検知出力から、負荷鍋61の材料を検知する。
制御回路63は負荷鍋61の材料が鉄系のものであると判断すると、加熱を停止してからリレー66を投入して、再度低出力で加熱を開始する。このとき、制御回路63は第1のスイッチング素子55と第2のスイッチング素子57を一定の周波数(約21kHz)で再度最小駆動時間比で最小出力からスタートして所定の出力まで徐々に増加させる。
一方、鉄系の負荷であると検知しない場合には、所定の駆動時間比に到達すると、図5(B)に示すような、第1のスイッチング素子57の駆動期間より共振電流の周期の短いモードに移行する。このとき、出力は低出力状態になるように駆動期間が設定される。以上のように、加熱コイル59の発生する磁界によりアルミニウムや銅など高導電率、低透磁率の負荷を加熱すると、第1のスイッチング素子55、第1ダイオード56を流れる加熱コイル59と共振コンデンサ60による共振電流は、両スイッチング素子それぞれの駆動期間(T1)より短い周期で共振してなるので、第1のスイッチング素子55の駆動周波数より高い周波数(この実施例では3倍)の電流を加熱コイル59に供給して加熱することができ、さらに、昇圧部であるチョークコイル54と平滑部である第2の平滑コンデンサ62を設けて、高周波電源である平滑コンデンサ62の電圧を昇圧して平滑し、各駆動期間(T及びT’)において共振電流の振幅を大きくしているため、駆動開始後、共振電流が流れ始めてから1周期目が終了し、2周期目に到達して以降においても十分大きな振幅の共振電流を継続させることができるものである。
また、制御回路63は、最大出力設定時に、第1のスイッチング素子55の駆動開始後、共振電流が2周期目以降であって第1のスイッチング素子55に流れている期間内に第1のスイッチング素子55の導通を遮断する信号を出力してなる、または、第2のスイッチング素子57の駆動開始後共振電流が2周期目以降であって第2のスイッチング素子57に流れている期間内に第2のスイッチング素子の導通を遮断する信号を出力してなるので、最大出力時の第2のスイッチング素子57または第1のスイッチング素子55のターンオン損失の増大を抑制することができる。
また、起動時、第1のスイッチング素子55と第2のスイッチング素子57の駆動時間比を変え加熱出力を増加させ、途中から駆動周波数を変え加熱出力を増加させてなることにより、負荷の検知を行いやすくすることができる。すなわち、駆動時間比を変えることにより高導電率かつ低透磁率のアルミニウム等の材質の負荷でも鉄系の負荷でも低出力状態で単調に出力を変化させることができ、制御回路63は負荷検知が正確にかつ低出力状態でできる。
また、加熱コイル59の発生する磁界により、鉄系の負荷または非磁性ステンレスの負荷61を加熱すると共振電流は第1のスイッチング素子55及び第2のスイッチング素子57の導通期間より長い周期で共振してなり、鉄系の負荷または非磁性ステンレス製の負荷61を最大出力で加熱する場合に第1のスイッチング素子55及び第2のスイッチング素子57に順方向に電流が流れているタイミングで前記スイッチング素子を遮断可能とするように補正用共振コンデンサ65を共振コンデンサ60に並列に接続して、高導電率かつ低透磁率の負荷を加熱する場合よりも大きい容量に切り替えてなるので、共振コンデンサ60と補正用コンデンサ64は加熱コイル59と直列に接続されると共に容量を切り替え可能とし、鉄系の負荷または非磁性ステンレス製の負荷を加熱する場合に共振コンデンサ60を、高導電率かつ低透磁率の負荷を加熱する場合よりも大きい容量に切り替えてなることにより、共振周波数が長くなるとともに電流が増え、さらにチョークコイル54により直流電圧Vdcを昇圧しているので、共振電流の振幅が大きくなることから、スイッチング素子に順方向に電流が流れているタイミングでスイッチング素子を遮断可能な範囲で最大出力を設定してスイッチング素子のターンオン時のスイッチング損失の増大を抑制しようとする場合に、最大出力を従来の構成のものより大きくすることができる。
また、アルミニウム系の鍋と、鉄系の鍋を同一のインバータで加熱しようとするときに、従来は加熱コイル59の巻き数と共振コンデンサを同時に切り替えて共振周波数と被加熱物61に放射する磁界の強さ(アンペアターン)を切り替えていたが、チョークコイル54と第1のスイッチング部57の昇圧作用により前記のコイル巻き数切り替えの作用を置き換えることができ、同一の加熱コイル59で共振コンデンサ60の切り替えをすることで、広い範囲の材質の被加熱物を加熱できるという効果がある。
また、補正用共振コンデンサ65を共振コンデンサ60に接続せずに起動し、すなわち、容量の小なる共振コンデンサ60ので起動し、徐々に出力を増加させ、その途中で負荷61が鉄系か、高導電率かつ低透磁率のものかを判定し、鉄系の負荷であると判定した場合には駆動停止後、リレー60をオンして補正用共振コンデンサ65を並列に接続して、すなわち、共振コンデンサ60を容量が大となるよう切り変え、駆動周波数を低周波数で再駆動するので、共振周波数が長くなるとともに電流が増え、さらに昇圧部であるチョークコイル54と第2の平滑コンデンサ62により直流電源電圧を昇圧しているので、共振電流値が増えることから、第1のスイッチング素子55及びに順方向に電流が流れているタイミングでスイッチング素子を遮断可能な範囲で最大出力を設定してスイッチング素子57のターンオン時のスイッチング損失の増大を抑制しようとする場合に、最大出力を従来の構成のものより大きくすることができる。
また、高導電率、低透磁率の負荷であると判定した場合には継続して所定の駆動時間比または所定の出力まで出力を増加した後駆動時間比を固定して導通時間を変更して出力を所定の出力に到達させてなるので、いずれの負荷においても低出力で起動して負荷の判定をして、安定的に所定の出力値あるいはリミット値へと到達させるいわゆるソフトスタート動作が可能となる。
以上のように構成された誘導加熱調理器において、高導電率かつ低透磁率のアルミニウム等の材質の負荷でも鉄系の負荷でも負荷検知が正確にかつ低出力状態でできることからリレーのオンオフを切り替えることにより、共振コンデンサの切り替えを行い負荷の材質に応じた誘導加熱を可能としていた。
特開2003−257609号公報
請求項1に記載の発明は、第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子の直列接続体と、前記第1のスイッチング素子に並列に接続された第1の逆導通素子と、前記第2のスイッチング素子に並列に接続された第2の逆導通素子と、前記両スイッチング素子の少なくともいずれか一方に並列に接続された加熱コイルと共振コンデンサを含む共振回路とを有し直流電圧を入力して前記両スイッチング素子の導通により前記加熱コイルと共振コンデンサが直列共振するインバータと、前記加熱コイルにより加熱する負荷の材質が非磁性金属であること及びその導電率の大小を検知可能な負荷検知部と、前記両スイッチング素子を排他的に駆動するとともに、前記両スイッチング素子の駆動期間を、前記加熱コイル電流の共振周期の(n−1/2)倍(nは1以上の整数)であるn次共振周期の近傍、及び(m−1/2)倍(mは1以上の整数)であるm次共振周期の近傍でそれぞれ変化させることにより、前記インバータの入力電力が前記駆動期間を前記n次共振周期及び前記m次共振周期と等しくしたときの極大値を超えない範囲で、前記入力電力の可変制御を行う制御部とを備え、前記制御部は、前記負荷検知部が検知する非磁性金属製の負荷の導
電率の大小に応じて、前記加熱コイルの巻数及び前記共振コンデンサの容量を同一にして、前記次数nまたは前記次数mの少なくとも一方を変更することにより、可変範囲の最大値を変えて前記入力電力の可変制御を行う誘導加熱装置であって、前記制御部は、前記負荷検知部が、アルミニウム製の所定形状の負荷を検知すると、前記両スイッチング素子について駆動期間をそれぞれ共振周期の3/2倍近傍で変化させることにより、前記負荷検知部が、所定の導電率を有する非磁性ステンレス製の所定形状の負荷を検知すると、前記両スイッチング素子について駆動期間を前記共振周期の1/2倍の近傍でそれぞれ変化させることにより、前記負荷検知部が、アルミニウムの導電率より小さくかつ前記非磁性ステンレスの導電率より大きい所定の導電率を有する所定形状の非磁性金属製の負荷を検知すると、前記両スイッチング素子の一方のスイッチング素子について前記駆動周期を前記共振周期の3/2倍近傍で変化させ、かつ他方のスイッチング素子について駆動周期を共振周期の1/2倍近傍で変化させることにより、それぞれ入力電力の可変制御を行う誘導加熱装置とした。
加熱コイルには、直列共振による共振電流が流れ、その共振周波数がアルミニウムを加熱するに適した高周波数(例えば60kHz)となるように、加熱コイルの巻数と共振コンデンサの容量が設定される。上記構成によれば、次数nを変更することにより、加熱コイル電流の共振周期に対する駆動周期長さの比を離散的に変えることができる。
制御部は、負荷検知部が、材質が非磁性金属であって、かつ高導電率であり、所定の形状をした負荷(例えば鍋底がアルミニウム製あるいは銅製で厚みが1mm以上ありほぼ加熱コイルと略同径である鍋)を検知すると、前記次数nについて、n≧2とすることにより、少なくとも一つのスイッチング素子の駆動期間TをT≧(3/2)Tcとすることができる。したがって、加熱コイル電流の共振周期Tcより駆動期間Tを長くしてスイッチング損失を抑制することができる。
また、入力電力と各スイッチング素子の駆動期間Tとの関係において、駆動期間Tが、共振周期をTcとして、(1/2)Tc、(3/2)Tc、(5/2)Tc、・・・、(n−1/2)Tc(nは1以上の整数)という離散的な値において、入力電力は極大値となる特性を示す。そして、駆動期間が1次共振周期である(1/2)Tcより長くなるほど、前記入力電力の極大値は小さくなる。
材質が非磁性金属であって、アルミニウムより導電率が小さい所定形状の負荷(例えば鍋底が非磁性ステンレス製で2mm以上の厚みを有し、加熱コイルとほぼ同径の鍋)を検知すると、材質がアルミニウムである負荷を加熱する場合と加熱コイルの巻数及び共振コンデンサの容量を同一にし、かつ次数nを減じることにより、駆動周期可変範囲近傍の極大値を大きくするので、直列共振インバータにおける共振回路のQが小さくなり、その結果小さくなった極大値に到達して入力電力をそれより大きくできなくなるのを防止することができる。上記のように、この出力制御には、上記のように共振コンデンサの容量を増加させるためのリレーや補助コンデンサ等の負荷回路を必要とせず、インバータの構成を複雑化しない。
また、負荷検知部が、アルミニウム製の所定形状の負荷を検知すると、両スイッチング素子について駆動期間をそれぞれ共振周期の3/2倍近傍で変化させることにより、前記負荷検知部が、所定の導電率を有する非磁性ステンレス製の所定形状の負荷を検知すると、前記両スイッチング素子について駆動期間を前記共振周期の1/2倍の近傍でそれぞれ変化させることにより、前記負荷検知部が、アルミニウムの導電率より小さくかつ前記非磁性ステンレスの導電率より大きい所定の導電率を有する所定形状の非磁性金属製の負荷を検知すると、前記両スイッチング素子の一方のスイッチング素子について前記駆動周期を前記共振周期の3/2倍近傍で変化させ、かつ他方のスイッチング素子について駆動周期を共振周期の1/2倍近傍で変化させることにより、それぞれ入力電力の可変制御を行う。これにより、前記アルミニウム製の所定の負荷を加熱する場合には、スイッチング素子の駆動周期の略1/3倍の周期の加熱コイル電流で誘導加熱でき、非磁性ステンレス製の所定の形状の負荷を加熱する場合には、スイッチング素子の駆動周期と略同周期の加熱コイル電流で誘導加熱でき、アルミニウムの導電率より小さくかつ前記非磁性ステンレスの導電率より大きい所定の導電率を有する所定形状の非磁性金属を加熱する場合には、スイッチング素子の駆動周期の略1/2倍の周期の加熱コイル電流で誘導加熱できるので、共振コンデンサの容量及び加熱コイルを変更することなく、非磁性金属製の負荷を、その導電率の大きさに応じて、駆動期間の可変範囲を、共振周期単位で変更することにより高効率、高出力で可変制御して加熱するとともに、スイッチング素子の損失の増大を抑制することができる。
請求項2に記載の発明は、特に、入力電圧を昇圧する昇圧回路を有し、制御部は、選択した次数nまたは次数mを小さくすると、前記昇圧回路の昇圧度合いを小さくすることにより、同一出力を得る場合において、動作点を共振点に近づかせ、加熱コイル電流のピーク値が抑制されるので、実質的に、第1または第2のスイッチング素子のスイッチング損失を小さくすることができる。
請求項3に記載の発明は、特に、請求項1または2に記載の制御部は、負荷検知部が導電率が所定以下の非磁性ステンレス製で厚みが所定以下で所定形状の負荷を検知すると、共振コンデンサの容量を大きく変更する構成とした。この構成により、所定以下の非磁性ステンレス製で厚みが所定以下で所定形状の負荷を加熱する場合の出力を大きくするとともに、スイッチング素子のスイッチング損失を低減することができる。
請求項4に記載の発明は、特に、請求項3に記載の制御部は、負荷検知部が磁性金属製の所定形状の負荷を検出すると、共振コンデンサの容量を大きく変更する構成とした。この構成により、鉄製の負荷を加熱する場合の出力をさらに大きくするとともに、第1または第2のスイッチング素子のスイッチング損失を低減することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態における誘導加熱調理器の回路構成図である。図1において、電源12は200V商用電源であり、ダイオードブリッジからなる整流部13と第1の平滑コンデンサ14と昇圧部15と第2の平滑コンデンサ16からなる昇圧平滑部11によって商用電源を直流電圧に変換する。すなわち、整流部13及び平滑コンデンサ13で整流及び平滑し、さらにそれを昇圧部15及び平滑コンデンサ16により昇圧及び平滑して、平滑された直流電圧に変換する。この直流電圧はインバータ8により高周波電流に変換され、加熱コイル1に供給される。加熱コイル1は高周波電流が供給されることにより高周波磁界を発生させる。2は負荷である鍋であり、加熱コイル1と対向して、例えばセラミック製のトッププレート上に設置され、加熱コイル1の発生する高周波磁界により誘導加熱される。3は共振コンデンサであり、加熱コイル1とともに直列共振回路を構成している。インバータ8は、前記共振回路を出力としたシングルエンデッドプッシュプル構成となっている。加熱コイル1の一端は、第1のスイッチング素子4と、第2のスイッチング素子6との接続点に接続され、加熱コイル1の他端は昇圧平滑部11の負極に接続されている。なお、加熱コイル1の他端は、昇圧平滑部11の正極に接続しても同様の動作を行う。第1のスイッチング素子4および第2のスイッチング素子6にはそれぞれ逆並列に第1の逆導通素子(ダイオード5)と第2の逆導通素子(ダイオード7)が接続されている。
図1と従来技術を示す図4と異なる点は、図1の昇圧機能を有するチョークコイル54に変え、昇圧部15が設けられ、その出力端子に平滑回路部である平滑コンデンサ16とインバータ8の入力端子が接続されていること、図4において制御回路63が有する負荷検知部を図1では負荷検知部10として制御回路9と別ブロックで示していること、図4では、制御回路63がカレントトランス67とカレントトランス68の検知出力に基づき負荷材質を検知する構成であるのに対して、図1では、負荷検知部10がカレントトランス17と共振コンデンサ電圧検知部18の検知出力に基づき検知する構成であることである。
また、従来技術である図4の各回路ブロックと図1における各回路ブロックの動作上の相違点は以下の通りである。まず、図4の制御回路63は、アルミニウムと鉄系の負荷を識別する機能を有するものであったが、図1の負荷検知部10は、それに加え、負荷2の材質が非磁性金属であること及びその導電率の大小を検知可能とする点において異なる。そして、本実施の形態における制御回路9は、負荷検知部10の検知結果に応じて、以下の動作を行う点において特徴を有する。
負荷検知部10が、アルミニウム製の所定形状の負荷2(本実施の形態1においては、鍋底が1mm以上の厚みを有し、直径180mm加熱コイルより少し大きい直径200mmの鍋、以下「高導電率非磁性金属負荷」と呼ぶ)を検知すると、第1のスイッチング素子4と第2のスイッチング素子6について駆動期間をそれぞれ共振周期の3/2倍近傍で変化させ誘導加熱することにより、入力電力の可変制御を行う。
また、負荷検知部10が、アルミニウムより導電率の小さい所定の導電率を有する非磁性ステンレス(本実施例ではSUS304)製の所定形状の負荷2(本実施例では鍋底が、非磁性ステンレス製で1mmの厚みを有し直径200mmの鍋、以下「低導電率非磁性金属負荷」と呼ぶ)を検知すると、第1のスイッチング素子4と第2のスイッチング素子6について駆動期間を前記共振周期の1/2周期の近傍(本実施例においては、1/4周期から1/2周期の間)でそれぞれ変化させ誘導加熱することにより、入力電力の可変制御を行う。
また、負荷検知部10が、アルミニウムより導電率が小さくかつ非磁性ステンレスより導電率が大きい所定の導電率を有する所定形状の非磁性金属製の負荷2(本実施の形態においては、鍋底が約0.5mmの厚みの非磁性ステンレス製の板と、1mmの厚みのアルミニウム製の板との合板で形成された直径200mmの鍋、以下「中導電率非磁性金属負荷」と呼ぶ)を検知すると、第1のスイッチング素子4と第2のスイッチング素子6の一方のスイッチング素子について前記駆動周期を前記共振周期の3/2倍近傍で変化させ、かつ他方のスイッチング素子について駆動周期を共振周期の1/2倍近傍で変化させ誘導加熱することにより、それぞれ入力電力の可変制御を行う。以下さらに、制御回路9の動作について詳述する。
制御回路9は、第1のスイッチング素子4と第2のスイッチング素子6を交互に駆動し、第1のスイッチング素子4の駆動期間を、加熱コイル電流の共振周期の(n−1/2)倍(nは1以上の整数)であるn次共振周期の近傍となる共振域で動作させ、また、第2のスイッチング素子の駆動期間を、前記加熱コイル電流の共振周期の(m−1/2)倍(mは1以上の整数)であるm次共振周期の近傍となる共振域で動作させインバータ8の加熱出力を得る。インバータ8の加熱出力を増加させる場合には両スイッチング素子の駆動周期を、直列共振回路の各共振域の共振周波数に近づくように変更する。制御回路9は、入力電流を検知するよう設けられたカレントトランスあるいはシャント抵抗(電流検知用抵抗)等を有する加熱出力検知部17により加熱出力を検知して所定の加熱出力が得られるように、第1のスイッチング素子4と第2のスイッチング素子6の駆動期間を上記のように増減する周波数可変の出力制御を行う。共振コンデンサ電圧検知部18は、共振コンデンサ3に加わる電圧を検知する。負荷検知部10は、カレントトランス17の検知出力と共振コンデンサ電圧検知部18の検知出力を比較して、負荷2の材質及び形状を検知し、検知結果を制御回路9に出力する。
起動時において、制御回路9は、リレー20をオフ状態にし、図5(B)を用いて説明した従来技術と同様に、一定の周波数(約21kHz)で第1のスイッチング素子4と第2のスイッチング素子6を交互に駆動する。駆動時間比(第1のスイッチング素子の駆動時間T1と第2のスイッチング素子の駆動時間T2の比)を最小にして、最小の出力にしてから徐々に駆動時間比を増加し、その間に負荷検知部10はカレントトランス17の検知出力と共振コンデンサ電圧検知部18の検知出力を比較して、負荷2の材質が非磁性金属製であるかどうか、及びその導電率が「高導電率非磁性金属負荷」、「中導電率非磁性金属負荷」、あるいは「低導電率非磁性金属負荷」のいずれに属するかを識別する。
負荷検知部10は、負荷2の材料が非磁性金属でなく鉄系(磁性体で鉄と同等の導電率を有する金属)のものであると判断すると、加熱を停止してからリレー20をオンして補正用共振コンデンサ19を共振コンデンサ3に並列に接続して共振回路の共振周期を長くし、「磁性金属加熱モード」として、再度低出力で加熱を開始する。
制御回路9は、「磁性金属加熱モード」となると、図2に示すような動作を行う。図3は、制御回路9が、「中間導電率非磁性金属負荷加熱モード」を選択した場合における回路各部波形を示す図である。図2(a)は、加熱コイル1に流れる電流波形、図2(b)は、第1のスイッチング素子4に流れる電流(IC1)波形、図2(c)は、第2のスイッチング素子6に流れる電流(IC2)波形、図2(d)は、第1のスイッチング素子4のゲート電圧(駆動信号)、図2(e)は、第2のスイッチング素子6のゲート電圧(駆動信号)である。
図2に示すように、第1のスイッチング素子4と第2のスイッチング素子6の駆動期間について、ともに共振周期の1/2周期近傍で変更させ、かつ、駆動時間比を可変して、一定の周波数(約21kHz)で駆動する。起動時には、最小駆動時間比で最小出力から起動して所定の出力まで、駆動時間比を増加させて徐々に出力を増加させる。
一方、負荷検知部10が、制御回路9は、リレー20をオフ状態にしたままで、所定の駆動時間比に到達すると(本実施の形態では所定の駆動時間比は1/2としている)、「高導電率非磁性金属負荷」であると見なし、n=2、m=2に設定し、図5に示すように、スイッチング素子4及びスイッチング素子6の各駆動期間を直列共振回路の共振周期の3/2倍近傍に近づけ入力電力を増加させる「高導電率非磁性金属負荷加熱モード」とする。「高導電率非磁性金属負荷加熱モード」における波形及び動作は、図5を用いて、従来技術の説明でしたものと同様である。
このとき、「高導電率非磁性金属負荷加熱モード」の起動開始当初においては、出力は低出力状態になるように駆動期間(駆動周波数)が設定される。出力の増加は、駆動周期を近傍の共振周期(本実施例では共振周期の3/2倍)に徐々に近づけることにより連続的に行われる。直列共振回路の共振周期は(50/3)μsec、すなわち共振周波数が60kHzとなるよう加熱コイル1および共振コンデンサ3を設定し、両スイッチング素子の駆動期間を、それぞれ、共振周期の3/2倍の25μsec、すなわち、2つのスイッチング素子の駆動周期の和が、共振周期の3倍の50μsec、さらに換言すれば、両スイッチング素子の駆動周波数が共振回路の共振周波数の1/3である20kHzとなるようにしている。また、昇圧平滑部11は700Vに昇圧平滑するよう動作する。これは、入力電力を大きくするためである(本実施例の場合、最大入力電力は約1.2Wとしている)。
このように、制御回路9は、「高導電率磁性金属加熱モード」として、第1のスイッチング素子4と第2のスイッチング素子6をともに共振周期より長い駆動期間駆動するとともにインバータ8の入力電力を十分昇圧することで、アルミニウムのような低透磁率かつ高導電率である金属も高出力で誘導加熱し、かつ両スイッチング素子の損失を低減することができる。
さらに、負荷検知部10が、「中導電率非磁性金属負荷」を検知した場合には、制御回路9は、リレー20をオフ状態にしたままで、n=1、m=2に設定し、両スイッチング素子を図3のように駆動する「中間材質負荷加熱モード」となる。
図3は、制御回路9が、「中間導電率非磁性金属負荷加熱モード」を選択した場合における回路各部波形を示す図である。図3(a)は、加熱コイル1に流れる電流波形、図3(b)は、第1のスイッチング素子4に流れる電流(IC1)波形、図3(c)は、第2のスイッチング素子6に流れる電流(IC2)波形、図3(d)は、第1のスイッチング素子4のゲート電圧(駆動信号)、図3(e)は、第2のスイッチング素子6のゲート電圧(駆動信号)である。
図3に示すように、「中電導率非磁性負荷加熱モード」においては、第1のスイッチング素子4の駆動周期は共振回路の共振周期の1/2倍である(25/3)μsec近傍に設定し、第2のスイッチング素子の駆動周期は共振回路の共振周期の3/2倍である25μsec近傍に設定する。すなわち、第1のスイッチング素子4を1/2周期以下の駆動期間だけ駆動した後、その駆動を停止し(時点t7)、第2のスイッチング素子6の駆動を開始した(時点t8)後、共振周期より大きく共振周期の3/2倍以下の駆動期間だけ第2のスイッチング素子6を駆動した後、駆動を停止する(時点t10)という動作を繰り返す。この時、昇圧平滑部は600Vに昇圧平滑するよう動作する。出力を増加させる場合には、第1のスイッチング素子4の駆動期間を1/2周期に近づけるか、または第2のスイッチング素子の駆動期間を3/2周期に近づけることにより行われる。
以上のように、「中電導率非磁性負荷加熱モード」においては、駆動周期は、「高導電率非磁性金属負荷加熱モード」より短くなり、極大値の大きさが大きくなりすぎて、スイッチング時の電流が大きくなる場合には、スイッチング素子にかかる電圧を「高導電率非磁性負荷加熱モード」より低下させることによりスイッチング損失を低減できる。
さらに、負荷検知部10が、「低導電率非磁性金属負荷」を検知した場合には、上記の「磁性金属加熱モード」と同様の出力可変制御を行う。
以上述べたように、本実施の形態では、加熱コイル1により加熱する負荷2の材質が非磁性金属であること及びその導電率の大小を検知可能な負荷検知部10と、スイッチング素子4及び6を排他的に駆動するとともに、両スイッチング素子の駆動期間を、加熱コイル電流の共振周期の(n−1/2)倍(nは1以上の整数)であるn次共振周期の近傍、及び(m−1/2)倍(mは1以上の整数)であるm次共振周期の近傍でそれぞれ変化させることにより、インバータ8の入力電力が駆動期間をn次共振周期及びm次共振周期と等しくしたときの極大値を超えない範囲で、入力電力の可変制御を行う制御回路9とを備え、制御回路9は、負荷検知部10が検知する非磁性金属製の負荷の導電率の大小に応じて、加熱コイル1の巻数及び共振コンデンサ3の容量を同一にして、次数nまたは次数mの少なくとも一方を変更することにより、可変範囲の最大値を変えて入力電力の可変制御を行うので、加熱コイル1には、直列共振による共振電流が流れ、その共振周波数がアルミニウムを加熱するに適した高周波数(本実施の形態では60kHz)となるように、加熱コイル1の巻数と共振コンデンサ3の容量が設定される。上記構成によれば、次数nを変更することにより、加熱コイル電流の共振周期に対する駆動周期長さの比を離散的に変えることができる。
制御回路9は、負荷検知部10が、材質が非磁性金属であって、かつ高導電率であり、所定の形状をした負荷(例えば鍋底がアルミニウム製あるいは銅製で厚みが1mm以上ありほぼ加熱コイルと略同径である鍋)を検知すると、次数nについて、n≧2とすることにより、少なくとも一つのスイッチング素子の駆動期間TをT≧(3/2)Tcとすることができる。したがって、加熱コイル電流の共振周期Tcより駆動期間Tを長くしてスイッチング損失を抑制することができる。
また、入力電力と各スイッチング素子の駆動期間Tとの関係において、駆動期間Tが、共振周期をTcとして、(1/2)Tc、(3/2)Tc、(5/2)Tc、・・・、(n−1/2)Tc(nは1以上の整数)という離散的な値において、入力電力は極大値となる特性を示す。そして、駆動期間が1次共振周期である(1/2)Tcより長くなるほど、前記入力電力の極大値は小さくなる。
材質が非磁性金属であって、アルミニウムより導電率が小さい所定形状の負荷2(例えば鍋底が非磁性ステンレス製で2mm以上の厚みを有し、加熱コイルとほぼ同径の鍋)を検知すると、材質がアルミニウムである負荷2を加熱する場合と加熱コイル1の巻数及び共振コンデンサ3の容量を同一にし、かつ次数nを減じることにより、駆動周期可変範囲近傍の極大値を大きくするので、直列共振インバータにおける共振回路のQが小さくなり、その結果小さくなった極大値に到達して入力電力をそれより大きくできなくなるのを防止することができる。上記のように、この出力制御には、上記のように共振コンデンサの容量を増加させるためのリレーや補助コンデンサ等の負荷回路を必要とせず、インバータの構成を複雑化しない。
また、入力電圧を昇圧する昇圧回路15を有し、制御回路9は、選択した次数nまたは次数mを小さくすると、昇圧回路15の昇圧度合いを小さくするので、同一出力を得る場合において、動作点を共振点に近づかせ、加熱コイル電流のピーク値が抑制されるので、実質的に、第1または第2のスイッチング素子のスイッチング損失を小さくすることができる。
また、制御回路9は、負荷検知部10が導電率が所定以下の非磁性ステンレス製で厚みが所定以下で所定形状の負荷2を検知すると、共振コンデンサの容量を大きく変更する構成とした。この構成により、所定以下の非磁性ステンレス製で厚みが所定以下で所定形状の負荷を加熱する場合の出力を大きくするとともに、スイッチング素子のスイッチング損失を低減することができる。
また、本実施例ではインバータ8の入力電力制御を、周波数制御によるものとしたが、インバータ入力電圧制御、例えば昇圧チョッパ、降圧チョッパ、昇降圧チョッパなどによるインバータの入力電圧制御などによる出力可変技術と任意に組み合わせて適用しても良いことは言うまでも無い。