JP4154341B2 - 磁気記録媒体及び磁気記憶装置 - Google Patents

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Description

本発明は、磁気記録媒体及び磁気記憶装置に係り、特に記録磁性層の熱安定性を向上させることを目的として、記録磁性層を安定化させるために熱的に不安定な層を用いる面内磁気記録媒体と、そのような磁気記録媒体を用いる磁気記憶装置に関する。
磁気記録媒体の記憶容量を増大する要求に伴い、記録磁性層の磁性粒子の成長と磁気特性の両方を適切にスケーリングしたり、設計の革新を行うことで、薄膜磁気ディスクが開発されてきた。これは、近年開発され特開2001−56924公報で提案されているシンセティックフェリ磁性媒体(SFM:Synthetic Ferrimagnetic Media)や、Abarra et al., "Longitudinal magnetic recording media
with thermal stabilization layers", Applied Physics Letters, Vol.77,
No.16, pp.2581-2583, October 15, 2000や、Fullerton et al., "Antiferromagnetically coupled magnetic media layers for
thermally stable high-density recording", Applied Physics Letters, Vol.77,
No.23, pp.3806-3808, December 4, 2000等で報告されている知見から容易に理解されよう。
磁気記録密度が非常に高くなり単位面積内に記録される情報量が非常に多くなると、記録磁性層の寸法をスケーリングにより縮小する必要がある。記録磁性層をより薄くすることは、粒子サイズを小さくすると共に、遷移パラメータをこれに応じて小さくする上では有利である。しかし、粒子サイズ及び異方性エネルギーを小さくするには限界があり、記録磁性層の寸法を小さくし続けると異方性エネルギーが小さくなりすぎて、いずれはある温度(通常、室温)で熱エネルギーの方が勝ってしまう。従って、他の設計方法を実現するには、特開2001−56924公報で提案されているシンセティックフェリ磁性媒体等の磁気記録媒体を更に改善する必要がある。
本発明は、上記の問題を大幅に軽減できる磁気記録媒体及び磁気記憶装置を提供することを概括的目的とする。
本発明のより具体的な目的は、シンセティックフェリ磁性構造を有するシンセティックフェリ磁性媒体(SFM)の上側記録磁性層を安定化するのに用いる異なる種類の磁性層を提案することにある。この目的は、強磁性層の代わりに、薄膜超常磁性層を用いることで達成できる。適切な超常磁性層を用いることで、tB(Gμm)を適切な低い範囲に設定して記録密度を増加させることができる。
本発明の更に他の目的は、記録磁性層の熱安定性を同じレベルに保つか、或いは、向上しつつ、媒体性能を向上することにある。更に、本発明においては、従来の単層磁性構造の磁気記録媒体と比較すると、信号対雑音比(SNR)も同じレベルに保つか、或いは、向上することができる点も重要な点である。
本発明の他の目的は、シンセティックフェリ磁性構造の下側磁性層の結合強度と層間特性を利用することでSFMの特性を更に向上することにある。
更に本発明の他の目的は、ベース構造と、該ベース構造上に設けられ、記録層を構成するシンセティックフェリ磁性構造とを備え、該シンセティックフェリ磁性構造は、非磁性スペーサ層を介して反強磁性結合している少なくとも下側磁性層と上側磁性層とを含み、該下側磁性層は超常磁性層からなり、該上側磁性層は強磁性材料からなり、該下側及び上側磁性層の磁気モーメントは、印加される外部磁界がゼロである残留磁化状態で反平行の向きとなっている磁気記録媒体を提供することにある。
本発明の他の目的は、ベース構造と、該ベース構造上に設けられ、記録層を構成するシンセティックフェリ磁性構造とを備え、該シンセティックフェリ磁性構造は非磁性スペーサ層を介して反強磁性結合している少なくとも下側磁性層と上側磁性層とを含み、該下側磁性層は超常磁性層からなり、該上側磁性層は強磁性材料からなり、該下側及び上側磁性層の磁気モーメントは印加される外部磁界がゼロである残留磁化状態で反平行の向きとなっている少なくとも1つの磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に対して情報の書き込み及び情報の読み出しを行うトランスデューサとを備えた磁気記憶装置を提供することにある。
本発明の他の目的及び特長は、以下に図面と共に述べる説明より明らかとなろう。
本発明によれば、安定化層に超常磁性層を用いる磁気記録媒体及び磁気記憶装置を実現することができる。この安定化層は、SFM方式において上側磁性層の磁化を熱的に安定化させることができる。安定化層に適切な超常磁性層を用いれば、SNRを向上して100Gbits/inを超える高記録密度を実現できると共に、低tBr値においても必要とされる熱安定性を確保することができる。このように、tBr値を低く抑えながら熱安定性の向上及びSNRの向上を図れることが、本発明の重要な効果である。
本発明になる磁気記録媒体の第1実施例の要部を示す断面図である。 2層シンセティックフェリ磁性構造で用いる反強磁性結合方式を、残留磁化位置での磁気モーメントの状態、即ち、印加される外部磁界がゼロの場合について説明する図である。 3層シンセティックフェリ磁性構造で用いる反強磁性結合方式を、残留磁化位置での磁気モーメントの状態、即ち、印加される外部磁界がゼロの場合について説明する図である。 本発明になる磁気記録媒体の第2実施例の要部を示す断面図である。 本発明になる磁気記録媒体の第3実施例の要部を示す断面図である。 本発明になる磁気記録媒体の第4実施例の要部を示す断面図である。 典型的な強磁性材料を用いるシンセティックフェリ磁性構造の磁化ループ及び保磁力を示す図である。 典型的な強磁性材料を用いるシンセティックフェリ磁性構造の磁化ループ及び保磁力を示す図である。 典型的な超常磁性材料を用いたシンセティックフェリ磁性構造の磁化ループ及び保磁力を示す図である。 典型的な超常磁性材料を用いたシンセティックフェリ磁性構造の磁化ループ及び保磁力を示す図である。 超常磁性層の膜厚が増加して強磁性状態に達する場合の交換磁界の値をHex値について示す図である。 下側磁性層が超常磁性である場合の磁化ループ及び保磁力を示す図である。 超常磁性層の膜厚を増加させた場合のCCPB系の磁化の値を示す図である。 超常磁性層の膜厚を増加させた場合のCCPB系の交換結合強度の値を示す図である。 超常磁性層の膜厚を増加させた場合に向上する保磁力を示す図である。 交換結合強度の値を強磁性層の膜厚の増加に対応して増加させた場合の熱安定性の向上を示す図である。 交換磁界強度の値を超常磁性層の膜厚の増加に対応して増加させた場合の熱安定性の向上を示す図である。 超常磁性層の膜厚を増加させた場合の総信号対雑音比を示す図である。 本発明になる磁気記憶装置の一実施例の要部を示す断面図である。 磁気記憶装置の一実施例の要部を示す平面図である。
本発明は、2つの強磁性層が例えばRuからなる非磁性スペーサ層を介して反平行に結合している場合の上記シンセティックフェリ磁性媒体(SFM)に適用される。本発明は、結合している強磁性層のうち下側の層が超常磁性層からなるという新たな形態に寄与する。
本明細書では、用語の意味を統一するため、用語を次のように定義する。尚、これらの定義は、"A Dictionary of Physical Sciences", Towman
& Allanheld, 1983から得たものである。
「モーメント」とは、力又は合力による軸を中心とした回動させる効果を言う。1つの力は、力とその作用線の軸からの垂直距離との積に等しいモーメントを有する。
「常磁性」とは、温度と反比例する比較的低い正の磁化率を有する材料の磁気的振る舞いの一種を言う。常磁性のサンプルは、印加された磁界の方向に移動する傾向を有する。このような傾向は、原子又は分子の不対電子のスピンが原子に磁気モーメントを付加することで生じる。常磁性の効果は、常に固体の反磁性の振る舞いを上回る。
「強磁性」とは、温度に依存する非常に高い磁化率を有する材料の磁気的な振る舞いの一種を言う。強磁性は、常磁性の場合と同様に、不対電子により生じる。不対電子は、小さな基本磁石として作用し、強磁性材料においては交換力と呼ばれる分子間力により固体の磁区と呼ばれる領域において互いに平行に整列されている。従って、各磁区は小さな磁石とみなすことができる。磁化されていないサンプルでは、磁区はランダムに配置されているので、サンプルは有効磁気モーメントを有さない。外部磁界を印加すると、基本磁石は外部磁界に沿って整列する傾向があり、磁気モーメントが外部磁界に沿った磁区は近接する磁区を犠牲にして成長する。外部磁界が十分大きい場合には、全ての基本磁石が外部磁界の方向を向き、サンプルは飽和磁化状態となる。
「超常磁性」の定義は、B.D. Cullity,
"Magnetism and Magnetic Materials", Addison Wesley Publishing Company
Inc., 1972から得られる。強磁性体の粒子サイズがある値より小さくなると、粒子の熱エネルギーが粒子内に存在する他のエネルギー(異方性エネルギー等)を上回るので、保磁力はゼロになる。この熱エネルギーは、既に磁化されている粒子の集合を自然に消磁するのに十分な高さを有する。このような粒子は、超常磁性粒子と呼ばれる。
「超常磁性」の操作的定義は、少なくとも2つの要求事項を含むことになる。第1に、磁化曲線は、熱平衡の特性ではないので、ヒステリシスを示してはいけない。第2に、粒子相互効果を除き、等方性サンプルの磁化曲線は、自発磁化の温度依存性に対する補正の後、H/Tについてプロットすると異なる温度に対する曲線が略重なる程度温度に依存するものでなくてはならない。ここで、Hは印加される磁界を示し、Tは温度を示す。
本発明になる磁気記録媒体は、向上された熱安定性と向上された記録特性で、好ましくは現在の記録限界である100Gbits/inを超える面内高密度記録を行うのに適している。特に、本発明になる磁気記録媒体は、記録磁性層の熱安定性を向上させることを目的として、記録磁性層を安定化させるたに熱的に不安定な層を用いる。この熱的に不安定な層、即ち、超常磁性層は、通常面内記録で用いられる下地層構造を有する機械的テキスチャを施された、或いは、アモルファスガラスの基板の上に形成することができる。このような構造は、磁気記録媒体の2つの強磁性層がRu等の非磁性スペーサ層で分離されているSFMに適用され、残留磁化状態ではこれらの強磁性層の磁化は反強磁性結合されている。本発明は、上側磁性層を安定化させるために、強磁性層の代わりに超常磁性層を用いる。超常磁性層に用いる材料を適切に選定することにより、高い信号対雑音比(SNR)及び良好なオーバーライト特性を有するすぐれた高密度記録特性を実現することができる。
超常磁性層の超常磁性は273K以上で発生する。ある材料が超常磁性となるためには、上記の如く測定温度を特定すると共に、超常磁性層の磁化の磁界依存性を特定する必要がある。又、超常磁性層の保磁力Hcは室温以上でHc=0であり、その測定時間は1秒以上である。通常、特定の材料が超常磁性状態にあることを証明するためには、保磁力Hcがゼロであり有限の磁化が得られることを実験的に確認する必要がある。しかし、保磁力Hcは時間にも依存するパラメータであるため、測定時間も特定する必要がある。保磁力Hcが1秒でゼロであれば、保磁力Hcはそれより上の全てのタイムスケールでもゼロである。ここで、タイムスケールとは、磁気記録媒体に印加される外部磁界が変化する割合を言う。
ところが、後述するように、定めるべき最も重要なパラメータは、超常磁性層の体積(又は、粒子サイズ)である。体積(粒子サイズ)がある値より小さくなると、超常磁性がどのような温度でも発現する。このように超常磁性が発現する体積(又は、粒子サイズ)は、超常磁性層に用いる材料に依存する。
図1は、本発明になる磁気記録媒体の第1実施例の要部を示す断面図である。図1及び後述する図4〜図6において、各層の膜厚は共通の縮尺で図示されたものではない。
図1に示す磁気記録媒体は、Al、ガラス又は適切な基板材料からなる基板10を含む。シード層11は、基板10上に形成されている。本実施例では、シード層11は、NiP,Cr,CoNiZrやCoNbZr等のCo合金、又はそれらの合金で構成されていても良く、好ましくは5nmから100nmの範囲の膜厚を有する。シード層11は、単一層で構成されていても、組成の異なる2以上の層が互いに積層された組み合わせで構成されていても良い。下地層12は、シード層11上に形成されている。下地層12は、Cr、又は、CrV,CrW,CrMo等のCr合金で構成されていても良い。例えば、下地層12がCrMo,CrMoW,CrV又はCrWで構成されている場合、Mo含有量、W含有量又はV含有量は1at.%から30at.%の範囲に選定され、Cr含有量は残りのat.%からなる。下地層12は、単一層で構成されていても、組成の異なる2以上の層が互いに積層された組み合わせで構成されていても良い。本実施例の磁気記録媒体の下地層12及びシード層11に求められるのは、後に形成される六方晶系磁性層の配向をCo(1120)にすることである。
シード層11と下地層12に加え、Cr含有量が25at.%≦Cr≦45at.%のCoCr又はCoCrTa等のCr含有量が10at.%から40at.%でTa含有量が1at.%から10at.%のCoCr合金からなる中間層13を設けることが好ましい。中間層13を設けることで、下地層(11,12及び13)と後に形成され非磁性スペーサ層15で分離される超常磁性層14及び強磁性層16との格子整合を向上させることができる。例えば、非磁性スペーサ層15はRu,Rh,Ir,Cr,Mo,Nb,Ta,Cu,Re又はそれらの合金からなる。スパッタされたC又はCVDで形成されたCからなり、4nmから5nmの膜厚を有する保護層17が、磁性層の上に形成されて化学的及び機械的な劣化から保護している。本実施例では、保護層17は強磁性層16上に形成されている。勿論、保護層17は、C層と、C層上に形成された潤滑層からなる2層構造を有するものであっても良い。
下地層(11,12及び13)、超常磁性層14及び強磁性層16は、基板温度Tsが150℃<Ts<300℃、基板バイアス電圧Vbが0V<Vb<−300V、不活性ガス圧(通常、Ar)が2mTorrから100mTorrの状態でdcスパッタ工程により形成可能である。
NiPがコーティングされたAl又はガラス基板で機械的テキスチャリングが施されている場合、Coのc軸及びCr<110>の方位配列は周方向に沿って発生する。この場合、SNRと記録ビットの熱安定性の両方が向上する。
図4は、本発明になる磁気記録媒体の第2実施例の要部を示す断面図である。同図中、図1と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図4に示すように、第1の超常磁性層14−1が下地層12又は中間層13上に形成され、第1の非磁性スペーサ層15−1が第1の超常磁性層14−1上に形成されている。又、第2の超常磁性層14−2が第1の非磁性スペーサ層15−1上に形成され、第2の非磁性スペーサ層15−2が第2の超常磁性層14−2上に形成されている。強磁性層16は、第2の非磁性スペーサ層15−2上に形成されている。
図5は、本発明になる磁気記録媒体の第3実施例の要部を示す断面図である。同図中、図4と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図5に示すように、強磁性層14−3が図4における第1の超常磁性層14−1の代わりに設けられている。
図6は、本発明になる磁気記録媒体の第4実施例の要部を示す断面図である。同図中、図4及び図5と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。図6に示すように、強磁性層14−3が図4における第2の超常磁性層14−2の代わりに設けられている。
図1及び図4〜図6では、説明の便宜上、超常磁性層14,14−1は超常磁性層(材料)L1で構成され、超常磁性層14−2は超常磁性層(材料)L1−1で構成され、強磁性層14−3は強磁性層(材料)L1’で構成され、強磁性層16は強磁性層(材料)L2で構成されているものとする。
上記第1〜第4実施例においては、実際に磁気記録が行われる磁性構造は複数の層で構成されている。上述の如く、特開2001−56924公報は、磁気記録媒体における粒子サイズがどんどん小さくなるにつれて熱エネルギーにより記録ビットが不安定となる不都合を克服する独創的な多層シンセティックフェリ磁性構造を有するシンセティックフェリ磁性媒体(SFM)を提案している。高密度記録においては熱安定性の低下を克服する必要があるが、SFMはその点で効果的である。
特開2001−56924公報に記載されているシンセティックフェリ磁性構造を有するSFMでは、図2及び図3に示すように、2つの強磁性層501が例えばRuからなる非磁性スペーサ層502を介して反強磁性結合している。図2は、2層シンセティックフェリ磁性構造で用いる反強磁性結合方式を、残留磁化位置での磁気モーメントの状態、即ち、印加される外部磁界がゼロの場合について説明する図である。同様に、図3は、3層シンセティックフェリ磁性構造で用いる反強磁性結合方式を、残留磁化位置での磁気モーメントの状態、即ち、印加される外部磁界がゼロの場合について説明する図である。図3においては、更に強磁性層503が設けられている。反強磁性結合を採用することにより、記録密度を増加させるのに必要な残留磁化と膜厚の積Mrtを減少させることができる。反平行結合により、高いSNRを維持しつつ熱安定性の低下を大幅に抑制可能な磁気記録媒体を作成することができる。これは、Mrt値がかなり低い従来の単層磁性構造の磁気記録媒体と比較すると、大幅な改善である。
例えば上記第1実施例では、シンセティックフェリ磁性構造において、図2に示す下側強磁性層501の代わりに図1に示す超常磁性層14が設けられている。超常磁性層を用いる場合と強磁性層を用いる場合の2つの場合は、保磁力を得るための磁化ループを特にマイナーループから観察し、磁化の温度依存性と磁化の測定時間を観察することで差別化することができる。保磁力は磁気記録媒体の外部パラメータであるため、強磁性領域と比較して超常磁性の形態を多くの方法で特定することが重要である。
第1〜第4実施例は、基本的にはSFMの改良である。この場合、安定化層として機能し層L1からなる下側超常磁性層は、層L2からなる上側強磁性層に比較して本質的に超常磁性特性を有する。超常磁性層L1は、軟磁性材料からなるものであっても、硬磁性材料からなるものであっても良い。硬磁性材料は、高い保磁力と比較的に大きな磁化を有する。軟磁性材料は、より大きな磁化と非常に低い保磁力を有する。安定化層の超常磁性特性は、その有限の膜厚に起因しており、CoCrPtB等の組成の場合は通常5nm未満である。本発明者が調べたところ、実施例の構造的及び記録特性は、技術を超常磁性層L1からなる安定化層まで拡張してもシンセティックフェリ磁性構造の長所を生かせることを示していた。又、安定化層の材料に依存する特性の制御方法が2つ発見された。
第1の方法は、安定化層を構成するL1の材料に、上側強磁性層を構成するL2の材料と比較して異方性の値がかなり低く高Co含有量の材料を用いて、tB値を減少させるものである。ここで、tは安定化層の膜厚を示し、Bは残留磁束を示す。この場合、高記録密度が実現でき、上側強磁性層を構成する層L2からも安定化が図られる。
第2の方法は、上側強磁性層を構成するL2の材料と比較して異方性の値が略同じか或いは高い材料を層L1又は層L1及びL1−1に用いて、磁性層の残留磁化と膜厚の積Mrtを減少させるものである。この場合、上側強磁性層のみが設けられている単層磁性構造の場合と比較すると、安定化層の異方性エネルギーの寄与を活用することにより磁性構造のKV/kT値が大幅に増加する。ここで、Kは材料の異方性定数、Vは体積、kはボルツマン定数を示す。
例えば、安定化層がPt含有量が非常に低いか或いはPtを含有しない超常磁性層L1で構成される場合には、安定化は主に層L2で構成されている上側強磁性層に起因するものである。Pt含有量が8%を超え16%までの超常磁性層L1で構成された安定化層の膜厚を増加させることで、安定化を安定化層から引き出すこともできる。反強磁性結合の残留磁化状態では安定化層は高い逆飽和磁化を有するので、残留磁化と膜厚の積Mrtを減少させることも容易にできる。又、ここで重要なのは、上側強磁性層の残留磁化と膜厚の積Mrは確定した値となるのに対し、安定化層の残留磁化と膜厚の積Mrtはゼロになることである。これにもかかわらず、磁化が反平行であると残留磁化と膜厚の積Mrtは減少する。これは、残留磁化状態では、安定化層からの逆の高飽和磁気モーメントが、残留磁化と膜厚の積Mrtの減少に寄与するからである。
材料の成長について見ると、下地層構造(Cr又はその合金)はその(002)面が面内方向であり、磁性層は超常磁性及び強磁性のCo層の両方がその(1120)面が面内方向である。しかし、記録層が(1010)結晶面であり、対応する下地層が(112)結晶面となるような成長工程を採用するようにしても良い。これは、ガラス又はAl等の適切な基板上に堆積したNiAl又はFeAl等のB2構造の材料をシード層に用いることで実現できる。
安定化層の高磁気モーメント特性により、残留磁化と膜厚の積Mrtは、高い熱安定性を維持しながら実現できる。単層磁性構造に比べて熱安定性が向上するのは、Acharya et al., Appl. Phys. Lett., vol.80, p.85,
2002でも説明されているように、主に安定化層からの有限な異方性エネルギーの寄与による。強磁性層について提案されている2層又は3層構造の場合と同様に、安定化層を利用する2層又は3層のシンセティックフェリ磁性構造を容易に実現できることは、図1及び図4〜図6からも理解されよう。第1〜第4実施例によれば、記録層に単層構造を用いる場合と比較すると、熱安定性及びSNRが向上する。
超常磁性層L1又はL1−1は、例えば室温では保磁力及び残磁性を有さない。しかし、超常磁性層L1又はL1−1に大きな磁界を印加すると、磁化が発生する。つまり、印加される磁界がゼロであると、磁化はゼロになる。このような超常磁性層L1又はL1−1の典型的な特性は、後述する図10に示されている。室温でのVSMによるタイムスケールでの測定では、超常磁性層L1又はL1−1の保磁力の値は図10においてゼロである。他方、特開2001−56924公報では、有限の保磁力と磁化を有する強磁性層がシンセティックフェリ磁性構造を実現するのに用いられている。
図7A及び図7Bは、典型的な強磁性材料を用いるシンセティックフェリ磁性構造の磁化ループ及び保磁力を示す図である。図7A中、縦軸は磁化(emu)を示し、横軸は印加される磁界(Oe)を示す。図7B中、縦軸はマイナーループからの磁化(emu)を示し、横軸は印加される磁界(Oe)を示す。
特開2001−56924公報において説明されているように、図7Aに示すヒステリシスループは、反強磁性結合によるそれに対応する3つの部分からなる。下側磁性層に強磁性層を用いる典型的なシンセティックフェリ磁性構造では、そのマイナーループは、図7A及び図7Bにおける点21から23で示されているように、保磁力が下側磁性層によるものであることを示している。図7Bのマイナーループに示す点22及び23は、磁性材料の反転磁界Hsw及び交換磁界Hexの特性を表すのに用いられる。反転磁界Hswは、dM/dH曲線のピーク位置から求められる。他方、交換磁界Hexは、上側磁性層が下側磁性層から受けるものであり、Hex=J/M*tから計算される。ここで、Jは反強磁性交換結合強度を示し、Mは磁化を示し、tは下側磁性層の膜厚を示す。交換磁界Hex及び反転磁界Hswは互いに異なり、下側磁性層が強磁性であることを示している。
他方、図8A及び図8Bは、典型的な超常磁性材料を用いた合成強磁性構造の磁化ループ及び保磁力を示す図である。図8A中、縦軸は磁化(emu)を示し、横軸は印加される磁界(Oe)を示す。図8B中、縦軸はマイナーループからの磁化(emu)を示し、横軸は印加される磁界(Oe)を示す。
図8Bに示すマイナーループから得られる交換磁界の値は、下側磁性層が超常磁性であり保磁力がゼロであることを表している。このようにして、シンセティックフェリ磁性構造で用いられている材料の種類を容易に特定することができる。又、ここで注目するべきことは、超常磁性層の粒子サイズが十分に小さいので単磁区しか含まれないということである。このような材料の特性は、保磁力がゼロであることを特定するものである。超常磁性層内の粒子又は粒子の集合のエネルギー障壁は非常に低いので、超常磁性層のKV/kT値は25未満となる。外部磁界がない状態では、熱エネルギーが材料内に存在する異方性エネルギーを容易に克服することができるので、磁化は発生しない。つまり、角形比SがS=0になる。
図9及び図10は、下側磁性層が超常磁性である場合の磁化ループ及び保磁力を示す図である。図9中、縦軸は交換磁界Hex及び反転磁界HswをOeで示し、横軸は下側磁性層、即ち、超常磁性層(安定化層)の膜厚を示す。交換磁界Hexは「白抜き丸」印で示され、反転磁界Hswは「白抜き三角」印で示されている。図9では、安定化層が超常磁性の場合と強磁性の場合の交換磁界Hex及び反転磁界Hswの典型的な値が示されている。ヒステリシスループ及びマイナーループの測定により得られるHsw値とHex値は、このような特性を示す。Hsw=Hexであると、図8A及び図8Bで示したように下側磁性層は超常磁性である。通常、Hsw値及びHex値は、SQUID、VSMやその他の磁力計を用いたヒステリシスループの測定により求められる。図9において、下側磁性層の膜厚が5nmまでは、粒子サイズは単磁区超常磁性状態であるのに十分な程度小さい。
有限のサイズ効果により、磁化の値は下側磁性層の膜厚が10nmより小さくなると減少する。これは主に、磁性層と非磁性スペーサ層との間のインタフェースでのスピン密度の低下に起因するものである。従って、下側磁性層の膜厚tは、0<t<10nmの範囲であることが好ましいことがわかる。超常磁性状態は単磁区粒子で発生するため、図9及び図10からもわかるように、磁化の値の低下は下側磁性層の膜厚の減少により起こる。図9は、超常磁性層の膜厚が増加して強磁性状態に達する場合の交換磁界の値をHex値について示す図である。
図11及び図12に示す単層磁気測定結果からもわかるように、上記領域においては保磁力の値もゼロになる。図11は、超常磁性層の膜厚を増加させた場合のCCPB系の磁化の値を示す図である。図11中、縦軸は磁化Ms(emu/cc)を示し、横軸は下側磁性層、即ち、超常磁性層(又は、安定化層)の膜厚(nm)を示す。図12は、超常磁性層の膜厚を増加させた場合のCCPB系の交換磁界強度の値を示す図である。図12中、縦軸は反強磁性交換結合強度J(erg/cm)を示し、横軸は下側磁性層、即ち、超常磁性層(又は、安定化層)の膜厚(nm)を示す。2つの磁性層の間で、図11に示す磁化Msの減少が、図12に示す交換磁界強度Jを減少させる。
図13は、超常磁性層の膜厚を増加させた場合に向上するCCPB系の保磁力を示す図である。同図中、縦軸は保磁力Hc(Oe)を示し、横軸は下側磁性層、即ち、超常磁性層(又は、安定化層)の膜厚(nm)を示す。
超常磁性層の残留磁化はゼロであるにもかかわらず、シンセティックフェリ磁性構造の残留磁化状態では、超常磁性層であり安定化層として機能する下側磁性層は逆飽和状態にである。このため、残留磁化と膜厚の積Mrtの低下は常に生じる。超常磁性層の膜厚が約6nm以下の場合の保磁力Hcは、あまり変化しないか、或いは、多少増加する程度であるため、このような超常磁性層を用いてもオーバーライト特性は影響されない。
図14は、特開2001−56924公報で提案されているシンセティックフェリ磁性構造を有するSFMにおいて反強磁性交換結合強度の値を強磁性層の膜厚の増加に対応して増加させた場合の熱安定性の向上を示す図である。同図中、縦軸はKV/kT値を示し、横軸はtBr値(Gμm)を示す。「黒丸」印はSFMのKV/kT値を示し、比較のために、「黒三角」印は記録層が単一の磁性層からなる従来の単層構造の媒体のKV/kT値を示す。
図15は、シンセティックフェリ磁性構造を有する第1実施例の磁気記録媒体において反強磁性交換結合強度の値を超常磁性層の膜厚の増加に対応して増加させた場合の熱安定性の向上を示す図である。同図中、縦軸はKV/kT値を示し、横軸はtBr値(Gμm)を示す。「白抜き丸」印は第1実施例の磁気記録媒体のKV/kT値を示し、比較のために、「黒三角」印は記録層が単一の磁性層からなる従来の単層構造の媒体のKV/kT値を示す。
超常磁性層を適切に選定することにより、SNRは特開2001−56924公報で提案されているSFMと略同じレベルにとどめるか、或いは、それより増加させることができる。本発明者が図14、図15及び図16の結果を含めて調べたところ、KV/kT値は、下側磁性層、即ち、超常磁性層(安定化層)がCoCrPtB,CoCrPt,CoCrTa,CoCrPtTa,CoCrPtTaB,CoCrPtBCu等のPtを含有するCo合金からなり、Cr含有量は5at.%から40at.%、Pt含有量は8at.%から16at.%、B含有量は0から15at.%、Cu含有量は0から6at.%であり、そして残りがCoであると増加することが確認された。又、Co合金のPt含有量は、上記組成範囲に対して0であっても良いことが確認された。つまり、超常磁性層はCoCrB,CoCr,CoCrTa,CoCrTaB,CoCrBCu等のCo合金で構成されていても良く、この場合、Cr含有量は5at.%から40at.%、B含有量は0から15at.%、Cu含有量は0から6at.%、そして残りがCoである。
図16は、超常磁性層の膜厚を増加させた場合の総信号対雑音比(SNR)を示す図である。同図中、縦軸は総SNR、S/Nt(dB)を示し、横軸は下側磁性層、即ち、超常磁性層(安定化層)の膜厚を示す。超常磁性層の膜厚が増加しても約6nmまではS/Ntが向上するが、超常磁性層の膜厚が約6nmを超えて更に増加するとS/Ntは低下して強磁性となることが確認された。従って、この場合は、超常磁性層の膜厚は約6nm以下であることが更に望ましいことが分かる。
安定化層として機能するシンセティックフェリ磁性構造の磁性層の材料は、CoCrPtB等のCo合金から選定しても良い。しかし、一般的には上述の如く2種類の安定化層を採用可能である。SNRの安定化及び向上は、安定化層の異方性及び磁気モーメントの値に応じて達成することができる。
次に、本発明になる磁気記憶装置の一実施例を、図17及び図18と共に説明する。図17は、磁気記憶装置の本実施例の要部を示す断面図であり、図18は、磁気記憶装置の本実施例の要部を示す平面図である。
図17及び図18に示すように、磁気記憶装置はハウジング113内に設けられたモータ114、ハブ116、複数の磁気記録媒体116、複数の記録再生ヘッド117、複数のサスペンション118、複数のアーム119及びアクチュエータ装置120からなる。磁気記録媒体116は、モータ114により回転されるハブ115に取り付けられている。記録再生ヘッド117は、MR又はGMRヘッド等の再生ヘッドと、インダクティブヘッド等の記録ヘッドから構成されている。各記録再生ヘッド117は、対応するアーム119の先端にサスペンション118を介して取り付けられている。アーム119は、アクチュエータ装置120により移動される。このような磁気記憶装置の基本構成自体は周知であり、本明細書ではその詳細な説明は省略する。
磁気記憶装置の本実施例は、磁気記録媒体116に特徴がある。各磁気記録媒体116は、図1及び図4〜図6と共に説明したいずれの実施例の構造を有するものであっても良い。磁気記録媒体116の数は3枚に限定されるものではなく、2枚であっても、4枚以上であっても良い。
磁気記憶装置の基本構成は、図17及び図18に示すものに限定されない。又、本発明で用いられる磁気記録媒体は磁気ディスクに限定されるものではない。
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは、言うまでもない。

Claims (12)

  1. ベース構造と、
    該ベース構造上に設けられ、記録層を構成するシンセティックフェリ磁性構造とを備え、
    該シンセティックフェリ磁性構造は、非磁性スペーサ層を介して反強磁性結合している少なくとも下側磁性層と上側磁性層とを含み、
    該下側磁性層は超常磁性層からなり、該上側磁性層は強磁性材料からなり、
    該下側及び上側磁性層の磁気モーメントは、印加される外部磁界がゼロである残留磁化状態で反平行の向きとなっている、磁気記録媒体。
  2. 該シンセティックフェリ磁性構造は、該ベース構造と該下側磁性層との間に順次積層されている他の磁性層と他の非磁性スペーサ層とを更に含み、該他の磁性層は強磁性材料からなる、請求項1記載の磁気記録媒体。
  3. 該ベース構造は、基板と、該基板上に設けられ主に(002)結晶面を付与するシード層と、該シード層上に設けられBCC金属又はそれらの合金からなる非磁性下地層とを含む、請求項1又は2記載の磁気記録媒体。
  4. 該ベース構造は、該下地層上に設けられ主に(1120)結晶面を付与する非磁性Coを含有する中間層を更に含む、請求項3記載の磁気記録媒体。
  5. 前記超常磁性層は、硬磁性材料及び軟磁性材料からなる群から選択された材料からなる、請求項1〜4のいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  6. 該下側磁性層は、用いられる前記超常磁性層に応じて0<t<10nmの範囲の膜厚tを有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  7. 該下側磁性層は、CoCrPtB,CoCrPt,CoCrTa,CoCrPtTa,CoCrPtTaB,CoCrPtBCuを含むPtを含有するCo合金からなり、Cr含有量は5at.%から40at.%、Pt含有量は8at.%から16at.%、B含有量は0から15at.%、Cu含有量は0から6at.%、そして残りがCoである、請求項1〜6のいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  8. 該下側磁性層は、CoCrB,CoCr,CoCrTa,CoCrTaB,CoCrBCuを含むCo合金からなり、Cr含有量は5at.%から40at.%、B含有量は0から15at.%、Cu含有量は0から6at.%、そして残りはCoである、請求項1〜6のいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  9. 該非磁性スペーサ層は、Ru,Rh,Ir,Cr,Mo,Nb,Ta,Cu,Re及びそれらの合金からなる群から選択された材料からなる、請求項1〜8のいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  10. 該上側及び下側磁性層において、超常磁性粒子と強磁性粒子との間で反強磁性結合が存在する、請求項1〜9のいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  11. ベース構造と、該ベース構造上に設けられ、記録層を構成するシンセティックフェリ磁性構造とを備え、該シンセティックフェリ磁性構造は非磁性スペーサ層を介して反強磁性結合している少なくとも下側磁性層と上側磁性層とを含み、該下側磁性層は超常磁性層からなり、該上側磁性層は強磁性材料からなり、該下側及び上側磁性層の磁気モーメントは印加される外部磁界がゼロである残留磁化状態で反平行の向きとなっている少なくとも1つの磁気記録媒体と、
    該磁気記録媒体に対して情報の書き込み及び情報の読み出しを行うトランスデューサとを備えた、磁気記憶装置。
  12. 該磁気記録媒体の該シンセティックフェリ磁性構造は、該ベース構造と該下側磁性層との間に順次積層されている他の磁性層と他の非磁性スペーサ層とを更に含み、該他の磁性層は強磁性材料からなる、請求項11記載の磁気記憶装置。
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