JP4151256B2 - 有機錫化合物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、含水溶媒中で、塩基性化合物の存在下にジハロゲン化ジアルキル錫を反応させて、エステル化触媒として有用な、ヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンを、高収率で製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ジスタノキサン化合物またはトリスタノキサン化合物が、エステル化触媒として有用であることが知られている。たとえば、特開昭51−61595号公報には、エステル化触媒として、ジスタノキサン化合物や、本発明に係る、ヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンを包含する低級アルキル錫化合物を使用したポリエステル系可塑剤の製造方法が記載されている。
また、オテラらは、ザ・ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、第56巻、5307〜5311頁(1991年)に、1,3−ジ置換テトラアルキルジスタノキサン類が、エステル化触媒として優れた効果を有していると記載している。
【0003】
一方、スタノキサン化合物の合成方法に関しては、たとえば、ハリソンらは、ザ・ジャーナル・オブ・オルガノメタリック・ケミストリー、第186巻、213−236頁(1980年)に、アセトン溶媒中で二塩化ジメチル錫と2−アミノ−ベンゾチアゾールとを1:1のモル比で反応させて、テトラメチル−1,3−ジクロロジスタノキサンを得る方法を開示している。
【0004】
また、オオカワラらは、ザ・ジャーナル・オブ・オルガノメタリック・ケミストリー、第1巻、81−88頁(1963年)に、水とエタノールの混合溶媒中で二塩化ジメチル錫とピリジンとを1:1のモル比で反応させて、テトラメチル−1,3−ジクロロジスタノキサンを得る方法を開示している。しかしながら、松田らは、工業化学雑誌、第73巻、第5号、1010−1013頁(1970年)に、前記オオカワラらの文献に記載された反応条件下で合成した有機錫化合物は、その錫の元素分析の結果からトリスタノキサンであると述べている。
上記のように、ヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンが、エステル化反応触媒として有用であることが知られているが、これを収率よく製造する方法について記載した公知文献は見当たらない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、エステル化触媒として有用な、下記一般式(1)で表されるヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンを90%以上の高収率で製造する方法を提供することにある。
【0006】
【化2】
(ただし、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表し、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。Xは塩素、臭素、またはヨウ素原子を表し、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。)
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、水−アルコールの混合溶媒中で、塩基性化合物の存在下にジハロゲン化ジアルキル錫を反応させて、ヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンを製造する方法において、塩基性化合物として3級アミン(ただし、ピリジンを除く)、アンモニア、およびアルカリ金属の炭酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を用い、かつジハロゲン化ジアルキル錫の使用比率を、ジハロゲン化ジアルキル錫と塩基性化合物の合計モル数に対して40〜45モル%として反応させた場合に、上記一般式(1)で表されるヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンが90%以上の高い反応収率で得られることを見出し、上記課題を解決した。
なお、以下特に断らない限り、本発明に係る、「上記一般式(1)で表されるヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサン」を、単に「トリスタノキサン−AX」と略記する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において使用するジハロゲン化ジアルキル錫は、下記一般式(2)で表される、錫原子に2個のハロゲン原子と、2個のアルキル基が結合したものである。
【0009】
【化3】
【0010】
ただし、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表し、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基から任意に選ばれる。これらの低級アルキル基を有するジハロゲン化ジアルキル錫は、塩基性化合物存在下でのトリスタノキサン−AXの生成速度が速い。
Xは塩素、臭素、またはヨウ素原子を表し、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。特にXが塩素または臭素である場合、塩基性化合物存在下でのトリスタノキサン−AXの生成速度が速い。
【0011】
本発明で用いる塩基性化合物は、3級アミン(ただし、ピリジンを除く)、アンモニア、およびアルカリ金属の炭酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0012】
3級アミンとしては、具体的には、たとえば、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリベンジルアミン、トリアリルアミン、ジエチルメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、トリフェニルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルトルイジン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどが挙げられる。中でも、アンモニウム塩が水溶性である3級アミンを使用するのが好ましい。特に、工業用原料として一般に広く使用され、入手しやすいトリエチルアミンが好適である。ピリジンを使用した場合は、高い反応収率は得られない。
【0013】
塩基性化合物がアンモニアの場合は、アンモニア水を使用するのが好ましい。アンモニア水の濃度には限定はないが、25%のアンモニア水が扱いやすく好適である。
【0014】
アルカリ金属の炭酸塩としては、たとえば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムなどがあり、これらは結晶水を有していてもよい。これらの中でも特に好ましいのは、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムである。反応系におけるアルカリ金属の炭酸塩の濃度はいかなる濃度であってもよい。
【0015】
本発明によるトリスタノキサン−AXの製造方法において、ジハロゲン化ジアルキル錫の使用比率は、ジハロゲン化ジアルキル錫と塩基性化合物の合計モル数に対して40〜45モル%とするのが好ましい。特に好ましいのは、化学量論的に等量(ジハロゲン化ジアルキル錫と塩基性化合物のモル比=3:4)となる、42.8モル%であり、この場合に最も高い反応収率が得られる。ジハロゲン化ジアルキル錫の使用比率が、40モル%未満、あるいは45モル%を超えると、いずれの場合も反応収率は低下する。
【0016】
本発明で使用する水とアルコールの混合溶媒において、水とアルコールはいかなる比率で混合させてもよいが、副生するアルカリ金属のハロゲン化物、あるいはアンモニウム塩を溶解できるだけの量の水を含有させるのが好ましく、混合溶媒中の水の含有率を50〜90%とするのが好ましい。また使用する溶媒の量は、トリスタノキサン−AXのスラリーを、反応容器内で充分に攪拌できるだけの量であればよい。
【0017】
使用するアルコールは、水と混ざり合うものであれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなど低沸点のアルコールを使用すると、反応生成物から容易に除去することができるので好ましい。最も好ましいのは、毒性のないエタノールである。
【0018】
上記ジハロゲン化ジアルキル錫と塩基性化合物から、トリスタノキサン−AXを製造する方法について、以下に代表的な例を挙げて説明する。
反応容器に、ジハロゲン化ジアルキル錫、水、アルコールを仕込み、ジハロゲン化ジアルキル錫を溶解させた後、塩基性化合物を滴下漏斗から滴下する。塩基性化合物が固体の場合は、水もしくはアルコール、あるいは水−アルコール混合溶媒に溶解して滴下する。このとき、発熱を伴うので、滴下の速度を調節し、適宜氷浴等を用いて反応温度を室温付近に維持させることが好ましい。塩基性化合物を滴下し終わった後約2時間攪拌する。反応終了後、析出したトリスタノキサン−AXをろ別し、水またはアルコールで充分に洗浄した後に、100〜110℃で減圧乾燥する。
本製造方法によれば、反応収率90%以上でトリスタノキサン−AXを製造することができる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例と比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、特に断らない限り、「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」を表す。
【0020】
(実施例1)
撹拌機、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、二塩化ジメチル錫11g(50mmol)、水80ml、エタノール30mlを仕込み、攪拌して二塩化ジメチル錫を溶解させた。次いで、攪拌しながらトリエチルアミン6.79g(66.7mmol)を滴下漏斗から滴下した。このとき氷浴を用いて、反応温度を25〜30℃に保った。滴下終了後、さらに2時間攪拌して反応を終了させた。反応終了後、沈殿物をろ別し、100mlの水、次いで200mlのエタノールで洗浄した後、105℃にて減圧乾燥した。得られた粉末を元素分析した結果、錫:64.7%、塩素:13.1%であり、ヘキサメチル−1,5−ジクロロトリスタノキサンの理論値錫:64.8%、塩素:12.9%と、測定誤差範囲0.3%以内で一致した。収量8.78g(16mmol)、収率96.0%であった。
【0021】
(実施例2)
実施例1におけるトリエチルアミン6.79gの代わりに、25%アンモニア水4.53g(66.7mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして8.73gのヘキサメチル−1,5−ジクロロトリスタノキサンを得た。実施例1の場合と同様に、元素分析値は測定誤差範囲内で、ヘキサメチル−1,5−ジクロロトリスタノキサンの理論値と一致した。反応収率は95.4%であった。
【0022】
(実施例3)
実施例1におけるトリエチルアミン6.79gの代わりに、10%炭酸ナトリウム水溶液35.3g(66.7mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして8.3gのトリスタノキサン−AXを得た。実施例1の場合と同様に、元素分析値は測定誤差範囲内で、ヘキサメチル−1,5−ジクロロトリスタノキサンの理論値と一致した。反応収率は90.7%であった。
【0023】
(比較例1)
実施例1におけるトリエチルアミン6.79gの代わりに、ピリジン5.27g(66.7mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして7.71gのトリスタノキサン−AXを得た。実施例1の場合と同様に、元素分析値は測定誤差範囲内で、ヘキサメチル−1,5−ジクロロトリスタノキサンの理論値と一致した。反応収率は84.2%であった。
【0024】
(比較例2)
実施例1におけるトリエチルアミン6.79gの代わりに、20%水酸化ナトリウム水溶液13.4g(66.7mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、7.72gのトリスタノキサン−AXを得た。実施例1の場合と同様に、元素分析値は測定誤差範囲内で、ヘキサメチル−1,5−ジクロロトリスタノキサンの理論値と一致した。反応収率は84.3%であった。
【0025】
(比較例3)
実施例1におけるトリエチルアミン6.79gの代わりに、トリエチルアミン6.07g(60mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、8.19gのトリスタノキサン−AXを得た。実施例1の場合と同様に、元素分析値は測定誤差範囲内で、ヘキサメチル−1,5−ジクロロトリスタノキサンの理論値と一致した。反応収率は88.6%であった。
【0026】
(比較例4)
実施例1におけるトリエチルアミン6.79gの代わりに、トリエチルアミン8.1g(80mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして、8.68gの粉末を得た。元素分析の結果、Sn:65.5%、Cl:11.6であり、この値は、上記粉末を、ヘキサメチル−1,5−ジクロロトリスタノキサン88%とジメチル錫オキシド12%からなる混合物として計算した値と、測定誤差範囲内で一致した。反応収率は84.5%であった。
【0027】
実施例1〜3および比較例1〜4の結果をまとめて、それぞれ表1と表2に示す。表中、TEAおよびSnRXは、それぞれトリエチルアミンおよびジハロゲン化ジアルキル錫を表す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
上表から、実施例においては、いずれも90%以上の高い反応収率でヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンが得られたのに対して、比較例では反応収率が低いことがわかる。
【0031】
【発明の効果】
水とアルコールの混合溶媒中で、塩基性化合物の存在下ジハロゲン化ジアルキル錫を反応させて、ヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンを製造する方法において、本発明によれば、該塩基性化合物として3級アミン(ただし、ピリジンを除く)、アンモニア、およびアルカリ金属の炭酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を用い、かつジハロゲン化ジアルキル錫の使用比率を、ジハロゲン化ジアルキル錫と塩基性化合物の合計モル数に対して40〜45モル%とすることによって、従来の方法では達成し得なかった90%以上の高い反応収率でヘキサアルキル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンが得られる。
Claims (1)
- 水とアルコールの混合溶媒中で、塩基性化合物の存在下にジハロゲン化ジメチル錫を反応させて、下記一般式で表されるヘキサメチル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンを製造する方法において、塩基性化合物として3級アミン(ただし、ピリジンを除く)、アンモニア、およびアルカリ金属の炭酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を用い、かつジハロゲン化ジメチル錫の使用比率が、ジハロゲン化ジメチル錫と塩基性化合物の合計モル数に対して40〜45モル%であることを特徴とするヘキサメチル−1,5−ジハロゲン化トリスタノキサンの製造方法。
以上
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