JP4150995B2 - 耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材 - Google Patents
耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、耐食性、強度、切削性特にドリル加工性およびクリンチング性に優れた各種機械部品を製造するためのアルミニウム合金押出し材に関するものであり、特にアンチロックブレーキシステム・ハウジング(以下、ABSハウジングという)、油圧配管コネクタなどの作製時にドリル加工が多用される機械部品の素材として最適なアルミニウム合金押出し材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ABSハウジング、油圧配管コネクタなどドリル加工が多用される機械部品の素材は、中程度以上の機械的強度を有し、さらに良好な切削性を有する材料が広く用いられてきた。この素材としてJIS6061合金(Si:0.4〜0.8%、Fe:0.7%以下、Cu:0.15〜0.4%、Mn:0.15%以下、Mg:0.8〜1.2%、Cr:0.04〜0.35%、Zn:0.25%以下、Ti:0.15%以下を含有し、残部がAlおよび不可避不純物)、またはJIS6262合金(Si:0.4〜0.8%、Cu:0.15〜0.4%、Mg:0.8〜1.2%、Pb:0.4〜0.7%、Bi:0.4〜0.7%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物)からなるアルミニウム合金押出し材が広く使用されている。
しかし、前記JIS6262合金は切削性に優れているもののPb、Biが含まれており、特に、近年、Al合金のリサイクル化が広く行なわれており、リサイクル製品に人体に有害なPbやBiが混入することは好ましくない。
したがって、近年は、切削性を多少犠牲にしてもPbやBiを含まないJIS6061合金が各種のアルミニウム合金押出し材として用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、自動車のボンネット内に設置されるABSハウジングは、ラジエータ冷却のために吸引された自動車排気ガスを含んだ空気に曝され、特に海岸などでは塩水を含んだ空気に曝されて腐食しやすいために、ABSハウジングなどの素材は耐食性を必要とし、また、非常に狭い間隔でドリル加工により多穴を設ける必要のあるABSハウジングなどの機械部品の素材となるアルミニウム合金押出し材は、切削性特にドリル加工性に優れた特性を必要としている。
さらに、ドリルで穴あけ加工を施した後、その穴にバルブを挿入してバルブをかしめ加工(クリンチング加工)することにより固着する操作を行なうが、かしめ部分に亀裂などの欠陥が発生するようでは好ましくない(以下、かしめ加工によりかしめ部分に亀裂などの欠陥が発生することのない特性をクリンチング性という)。
この発明は、ABSハウジングなどのような機械部品を製造するための素材として用いることのできる耐食性、中程度以上の機械的強度、切削性特にドリル加工性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、耐食性、中程度以上の機械的強度を有し、さらに良好な切削性、特にドリル加工性を有するとともにクリンチング性にも優れたアルミニウム合金押出し材を得るべく研究を行った結果、
(イ)質量%で(以下、%は質量%を示す)、Si:2.72〜5.0%、Mg:0.4〜1.0%、Zn:0.05〜0.19%、Cu:0.03〜0.4%を含有し、さらにMn:0.03〜0.4%未満、Cr:0.03〜0.50%、Zr:0.03〜0.30%の内の少なくとも1種を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl合金からなる押出し材は、耐食性、中程度以上の機械的強度を有し、さらにCuは素地に固溶して強度を向上させるとともに、歪硬化能を向上させため切削加工における切粉分断性を一層改善するとともにクリンチング性にも優れており、各種機械部品の素材に適している、
(ロ)前記(イ)のAl合金に、さらにSrを0.01〜0.1%含有させると、共晶Siを微細化して強度、切削性、クリンチング性を確保することができる、という知見を得たのである。
【0005】
この発明は、かかる知見に基づいて成されたものであって、
(1)Si:2.72〜5.0%、Mg:0.4〜1.0%、Zn:0.05〜0.19%、Cu:0.03〜0.4%を含有し、さらにMn:0.03〜0.4%、Cr:0.03〜0.50%、Zr:0.03〜0.30%の内の1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl合金からなる耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材、
(2)前記(1)記載のAl合金に、さらに、Sr:0.01〜0.1%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成のAl合金からなる耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材、に特徴を有するものである。
【0006】
前記(1)〜(2)記載の耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材は、ABSハウジングを作製するための素材として使用することが最も適している。したがって、この発明は、
(3)前記(1)〜(2)記載の耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材で作製したABSハウジング、に特徴を有するものである。
【0007】
この発明の耐食性、強度、切削性特にドリル加工性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材の成分組成を上述のごとく限定した理由を述べる。
【0008】
Si:
Siは、Mgと共存することによりMg2 Siを素地中に析出し、合金の強度向上に寄与する作用を有し、さらにMg2 Siの均衡組成に対し、余剰のSiが適量存在することにより、母相中にSi晶出相が均一に分散することで、更なる強化効果および切削性特にドリル加工性向上効果が得られるが、Si含有量が2.72%未満では前述の効果が十分でなく、一方、Si含有量が5.0%を越えると成形性、耐食性が低下すると共に過剰なSi相のために切削工具の摩耗が激しく、工具寿命が短くなるので好ましくない。したがって、Siの含有量は2.72〜5.0%に定めた。
【0009】
Mg:
Mgは、Siと共存することによりMg2 Siを素地中に析出し、合金の強度を向上させる作用を有するが、Mg含有量が0.4%未満では前述の効果が十分でなく、一方、Mg含有量が1.0%を越えると成形性、耐食性が低下するので好ましくない。したがって、Mgの含有量は、0.4〜1.0%に定めた。Mgの含有量の一層好ましい範囲は0.50〜0.80%である。
【0010】
Zn:
Znは、Al合金の耐食性、特に耐孔食性を向上させ、さらにSiの大量添加によりドリルが激しく摩耗するのを減少させる作用を有するので添加するが、その含有量が0.05%未満では所望の効果が得られず、一方、0.50%を越えて含有しても更なる効果が期待できない。したがって、Zn:0.05〜0.19%(一層好ましくは0.1〜0.19%)に定めた。
【0011】
Cu:
Cuは、熱処理により微細な析出物を生成、分散し、強度向上に寄与するとともに、歪硬化能を向上させるため、切削加工における切粉分断性を改善して特にドリル加工性を向上させる効果があるが、その含有量が0.03%未満ではその効果が十分得られず、一方、Cuの含有量が0.4%を越えて含有すると耐食性、成形性を低下させるので好ましくない。したがって、Cuの含有量を0.03〜0.4%に定めた。Cuの含有量の一層好ましい範囲は0.20〜0.40%である。
【0012】
Mn、Cr、Zr:
これら成分はいずれもAlとの化合物粒子を生成し、押出し加工時の再結晶を抑制し、繊維状組織を発達させることにより、合金の強度および切削性特にドリル加工性を高める作用を有するので添加するが、Mn:0.03%未満、Cr:0.03%未満、Zr:0.03%未満ではいずれも所望の効果が得られず、一方、Mn:0.40%以上、Cr:0.50%を越え、Zr:0.30%を越えて含有しても更なる効果が期待できない。したがって、Mn:0.03〜0.40%未満(一層好ましくは0.1〜0.3%)、Cr:0.03〜0.50%(一層好ましくは0.2〜0.3%)、Zr:0.03〜0.30(一層好ましくは0.05〜0.2%)%に定めた。
【0013】
Sr:
Srは、共晶Siを微細化することにより、合金の強度および切削性特にドリル加工性を高める作用を有するので必要に応じて添加するが、その含有量が0.01%未満では所望の効果が得られず、一方、0.10%を越えるとSrを含む粗大な金属間化合物を晶出し、それがハードスポットとなり、切削性を低下させるので好ましくない。したがって、Srの含有量は0.01〜0.1%(一層好ましくは0.04〜0.08%)に定めた。
【0014】
【発明の実施の形態】
表1に示す成分組成のAl合金を溶解し、鋳造して直径:225mmのビレットを製造し、このビレットを510℃、6時間保持の条件で均質化処理を行い、この均質化処理を行ったビレットを温度:500℃で熱間押出し加工することにより断面寸法が40mm×100mmの押出し棒を作製した。この熱間押出し加工は、熱間押出し装置の金型出口に水冷チャンバーを設置した装置を用意し、前記均質化処理を行ったビレットを熱間押出し加工した直後に水冷する押出し同時焼入れを施すことにより行なわれた。このようにして得られた押出し棒に180℃で8時間保持の人工時効処理を施して本発明押出し材1〜8、比較押出し材1〜4および従来押出し材を作製した。
【0015】
本発明押出し材1〜8、比較押出し材1〜4および従来押出し材について下記の条件の引張り試験、ドリル加工試験、耐食試験を行った。
【0016】
引張り試験
本発明押出し材1〜8、比較押出し材1〜4および従来押出し材からJIS Z 2201 5.1(c)で規定される引張り試験片(4号試験片)を作製し、
引張り速度:10mm/min(歪速度:3.3×10-3s-1)の条件で引張り試験を行ない、引張り強度、耐力および伸びを求め、その結果を表1に示し、強度およびクリンチング性の評価を行なった。伸びが大きい程かしめ加工における亀裂の発生がなくなるところから、クリンチング性に優れているものと評価できる。
【0017】
ドリル加工試験
本発明押出し材1〜8、比較押出し材1〜4および従来押出し材に対して、長さ方向および長さ方向に直角な方向から直径:4mmのドリルにより、回転数:2000rpm、送り速度:400mm/minの条件のドリル加工を行ない、切粉100個の長さの平均を求め、その結果を表1に示し、ドリル加工性の評価を行なった。切粉100個の長さの平均値が小さいほどドリル加工性が優れることを示す。
【0018】
耐食試験
本発明押出し材1〜8、比較押出し材1〜4および従来押出し材について、480時間のSST試験(5%食塩水を35℃にて噴霧)による単位面積当りの重量減少を測定し、その結果を表1に示し、耐食性を評価した。
【0019】
【表1】
【0020】
表1に示される結果から、本発明押出し材1〜8は、従来押出し材に比べて引張り強度、耐力および伸びが優れている値を示すので、強度およびクリンチング性に優れており、さらに切粉の長さが短いのでドリル加工性に優れており、さらに耐食性に優れていることが分かる。また、この発明の条件を満足しない比較押出し材1〜4は少なくとも一つの好ましくない特性が現れることが分かる。
【0021】
【発明の効果】
上述のように、この発明の押出し材1〜8は従来押出し材よりも耐食性、強度およびクリンチング性に優れ、さらに切削性の一種であるドリル加工性に優れているところから、この発明の押出し材はABSハウジング、油圧配管コネクタなどドリル加工が多用される機械部品の素材として最適なものであり、コストを下げ、さらに軽量化して省エネルギーに寄与するなど、産業上優れた効果をもたらすものである。
Claims (3)
- 質量%で(以下、%は質量%を示す)、Si:2.72〜5.0%、Mg:0.4〜1.0%、Zn:0.05〜0.19%、Cu:0.03〜0.4%を含有し、さらにMn:0.03〜0.4%未満、Cr:0.03〜0.50%、Zr:0.03〜0.30%の内の1種または2種以上を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成を有するAl合金からなることを特徴とする耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材。
- 請求項1記載のAl合金に、さらに、Sr:0.01〜0.1%を含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなる組成のAl合金からなることを特徴とする耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材。
- 請求項1〜2のいずれかに記載の耐食性、強度、切削性およびクリンチング性に優れたアルミニウム合金押出し材で作製したアンチロックブレーキシステム・ハウジング。
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