JP4149449B2 - 金属線材にウレタン被覆材を被覆接合する方法 - Google Patents

金属線材にウレタン被覆材を被覆接合する方法 Download PDF

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Description

本発明は、衝撃を吸収したり低騒音化する目的で、金属線材の外周にウレタン系熱可塑性エラストマーよりなるウレタン被覆材を一体にして被覆する方法に関する。
熱可塑性エラストマー(以下の説明では「TPE」と記す)は、常温では加硫ゴムに匹敵する弾性を有しながら、高温では可塑化されることにより、例えば射出成形等の高効率な方法で成形可能な高分子材料であって、前記加硫ゴムよりも省エネルギーで省力化生産可能なので、広く普及している。その中でもウレタン系熱可塑性エラストマー(以下の説明では「TPU」と記す)で成形された部材は、他のTPEと比較すると、特に耐磨耗性において最も優れており、しかも衝撃に強く、剛性が高く、低温耐衝撃性が強い等の利点をも有しているので、自動車部品や機械部品として広く使用され、更に、線膨張率がより金属に近いので、この相違に起因する座屈、ひび割れ、ゆるみ等を生じにくく、金属材料で形成された部材の一部分を被覆するように接合されて、一体化完成部品が形成される用途も多くある。
上記した完成部品の一例としては、金属ベアリング10の外周面1aに、これと同心上のほぼリング形に形成されたTPUの弾性樹脂部2が一体化されたウレタンローラU(図1参照)が挙げられる。このように、ベアリングの外周面にTPUで成形された弾性樹脂部を接合する従来方法としては、前記外周面1a(一体化接合予定部位)に、予めサンドブラスト等の表面処理を施して、次に、ウレタン系の樹脂と、金属及びその他の硬質被着体とを接着するロードファーイースト社製の商品名「ケムロック218」に代表される接着剤を前記接合予定部位に塗布した後に、該ベアリングの外周面がキャビティに臨むようにこれを射出成形用の金型にセットし、キャビティ内に溶融TPUを注入して前記樹脂部を射出成形する方法があった。しかしながら、外周面にサンドブラスト処理を施す工程は、明らかに生産効率を悪化させており、また、上記しただけの工程では、金属ベアリングとTPUとの一体化接合強度は充分とは言えず、ウレタンローラの使用状態においてTPUで成形された弾性樹脂部が金属ベアリングから外れる恐れがあった。よって、イソシアネート基を1分子中に2個以上有する化合物が前記TPUにドライブレンドされた組成物を樹脂原料として溶融し、これで前記樹脂部を射出成形する方法が公開されている(特許文献1)。この方法では、加熱溶融状態の樹脂原料中のイソシアネート基を有する化合物が、予め金属の外周面に塗布された「ケムロック218」等の接着剤とTPUとの界面において架橋反応等して結合するのでこれにより接合強度が向上するが、TPU中のイソシアネート基を有する化合物の影響で、元のTPUの各種物性が損われる恐れがあって、ウレタンローラを使用する際に信頼性の点で不安が残るものだった。
特許第2630322号公報
本発明は、押出成形によって、金属線材の外周にTPUからなるウレタン被覆材を被覆するに際して、金属線材とTPUとの接合強度を高めることを課題としている。
上記の課題を解決するために請求項1の発明は、金属部材である金属線材の外周に、ウレタン系熱可塑性エラストマ−部材であるウレタン被覆材を押出成形して被覆する際に、前記金属線材と前記ウレタン被覆材とを接合する方法であって、前記金属線材の外周面に、金属用接着剤層を形成すべく下記の(接着剤1)を塗布する第1工程と、半硬化状態の前記金属用接着剤層の外周面にポリウレタン用接着剤層を形成すべく下記の(接着剤2)を塗布する第2工程と、前記ポリウレタン用接着剤層が半硬化状態において、前記金属線材を押出成形機に連続的に送り込んで、当該金属線材の外周面に前記ウレタン被覆材を押出成形する第3工程と、前記金属線材の外周面に金属用接着剤層、及びポリウレタン用接着剤層を介して前記ウレタン被覆材が被覆された状態で、全体をウレタン被覆材の軟化温度以下で加熱して、半硬化状態の前記金属用接着剤層、及び同じく半硬化状態のポリウレタン用接着剤層を熱硬化させる第4工程とから成り、第1〜第4の各工程が当該順序で連続して行われることを特徴としている。
(接着剤1)ウレタン系の高分子材料と金属部材との接着用途に使用される熱硬化型の接着剤であって、活性水素基を有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコールのいずれかに硬化剤が配合されたものを指す。
(接着剤2)ウレタン系の高分子材料の接着用途に使用される熱硬化型の接着剤であって、ポリウレタンやウレタン変性エポキシ樹脂よりなるものを指す。
請求項1の発明によれば、金属線材との接着信頼性を有する公知の(接着剤1)を当該金属線材の外周面に塗布して金属用接着剤層を形成し、この上から更に(接着剤2)を塗布して、該(接着剤2)よりなるポリウレタン用接着剤層を前記金属用接着剤層に被覆し、両接着剤層の外周に溶融状態のTPUを押出成形により被覆することによって、金属線材、金属用接着剤層、ポリウレタン用接着剤層、TPUの被覆層が同心状をなして順次被覆された金属複合線材が得られる。なお、前記両接着剤層は、約50μm以下の通常の塗布厚さを有している。ここで、TPUの被覆層を押出成形する前には、金属線材の外周に被覆された前記両接着剤層は、(接着剤1)と(接着剤2)とが、例えばこれらの溶剤が揮発した程度等の少なくとも完全に硬化熟成されていない状態で形成されていれば良い。これによりTPUの押出成形中には、金属用接着剤層及び押出成形されたTPUと、前記ポリウレタン用接着剤層との両界面において、該ポリウレタン用接着剤層を形成する完全硬化前の(接着剤2)中のイソシアネート基を有する化合物が、金属用接着剤層を形成する完全硬化前の(接着剤1)中の活性水素基、及び溶融状態のTPU中のウレタン結合等の活性水素基と架橋反応等して結合し易くなる。そして、上記の金属複合線材の押出成形後に、これを前記樹脂部のほぼ軟化温度以下の所定温度に加熱して熟成し、(接着剤1)及び(接着剤2)の熱硬化(架橋)反応を完了させると、完全硬化後の金属用接着剤層及びTPUの被覆層と、完全硬化後の前記ポリウレタン用接着剤層との両界面は、各活性水素基とイソシアネート基との結合による充分な強度で接合される。そして、TPUの被覆層は、その界面においてのみ架橋等による化学結合が形成されてポリウレタン用接着剤層と接合されるので、元のTPUの例えば柔軟性等の各種物性が損われる恐れが軽減される。
本発明によれば、金属線材の外周に押出成形によりTPUを被覆する方法において、金属線材の外周面に塗布した(接着剤1)から成る金属用接着剤層と、(接着剤2)から成るポリウレタン用接着剤層とのいずれもが半硬化状態で、当該二層の接着剤層の外周にTPUの被覆層を押出成形した後に、押出成形されたTPUの軟化温度よりも低い温度で全体を加熱して、金属用接着剤層、及びポリウレタン用接着剤層とを加熱硬化させているので、TPUよりなる被覆層の元の物性を損わずに、金属線材とTPUの被覆層とが大きな接合強度で接合されるので、金属複合線材の信頼性を高められる。
以下、本発明の実施例として、ウレタン系熱可塑性エラストマーの有する耐摩耗性等により強度的に優れ、更に低騒音や低振動性を付与するために、金属ベアリングの外輪の外周面にTPUで成形された弾性樹脂部が一体化接合された前記ウレタンローラについて説明する。図1は、本発明により成形されたウレタンローラUを示す正面図であって、該ウレタンローラUは、例えば複写機等のOA分野において、現像ローラ、供給ローラ、給紙ローラ等として使用されたり、その他FA分野や、電装用途にも使用されるものである。図1及び図2に示されるように、ウレタンローラUは、金属ベアリング10の外輪1の外周面1aに内接するように、該ベアリング10と同幅で外輪1よりも大径(約1.3倍の外径)のTPUで成形されたリング形の弾性樹脂部2が、後述する射出成形によって同軸上に一体化接合されたローラである。該樹脂部2は、微視的には、金属用接着剤層3とポリウレタン用接着剤層4とを順に介して、前記外輪1の外周面1aに接合されている。
上記した金属用接着剤層3は、TPUの射出成形前に外周面1aに塗布された従来構成で述べた「ケムロック218」(接着剤1)が熱硬化した結果形成された層である。該「ケムロック218」は、キャスタブル及びミラブル・ポリウレタンエラストマーと金属部材との接着用途の接着剤であって、そのデータシートによると、活性水素基を有するポリビニルアルコール系の樹脂を含む合計30重量%程度の合成樹脂が、トルエン、トリクロロエチレン、イソプロピルアルコール、エタノール等の溶剤中に溶解されたものを組成とする旨が公開されている。また、ポリウレタン用接着剤層4は、TPUの射出成形前に、前記ケムロック218の塗膜を更に外側から重ね塗りするように、金属用接着剤層3を介して外周面1aに塗布された(接着剤2)が熱硬化した結果形成された層である。該(接着剤2)としては、ポリイソシアネートやイソシアネート末端プレポリマー等よりなる主鎖剤と、ポリオール等の架橋剤とよりなる2液型のポリウレタン樹脂接着剤や、これに準ずるウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
次に、TPUの前記樹脂部2を射出成形する金型の構成について説明する。ウレタンローラUは、図3及び図4の(イ),(ロ)に示されるキャビティ型21及びコア型22よりなる金型20を用いて射出成形される。キャビティ型21及びコア型22は、各接触面21a,22aを密着させて左右方向に対向配置され、図示しない嵌合部を嵌め合わせて位置決めしながら型締めされることにより一体をなす金型である。また、キャビティ型21には、横断面が厚円柱形のキャビティ形成凹部21bが、該接触面21aにおいて円形の開口部をなすように形成されており、該キャビティ形成凹部21bの底中央部には、ベアリング10の内輪8に挿入嵌合されるべく前記凹部21bよりも小径であって、やや低めの高さを有する円柱形の支持凸部21cが、同軸上に形成されている。キャビティ形成凹部21bの開口部は、型締状態で左右方向に対向配置されるコア型22の接触面22aに覆蓋され、ウレタンローラUの外形状に対応した空間が形成される。即ち、この空間の支持凸部21cにベアリング10の内輪8を挿入してセットし、キャビティ型21及びコア型22を型締めした状態で、残余の空間によって弾性樹脂部2のキャビティ24が形成される。これらの構成により、ベアリング10をキャビティ形成凹部21bに位置決めしながら、その外周面1aをキャビティ24に臨ませて前記弾性樹脂部2を射出成形可能となっている。なお、図3及び図4の(イ)の25は、TPUの溶融樹脂2’を射出するゲートである。
次に、ベアリング10とTPUの弾性樹脂部2との接合方法について、下記「第1工程〔(接着剤1)の塗布〕」、「第2工程〔(接着剤2)の塗布〕」、「第3工程(射出一体化成形)」、「第4工程(後硬化)」の工程順に従って詳細に説明する。
〔第1工程〕:
まず、外輪1の外周面1aをアセトンで洗浄して脱脂する。従来のサンドブラスト等の機械的な表面処理は不要である。この後に、刷毛塗り、スプレー塗り、ローラ塗り等の施工に応じて、イソプロピルアルコールとトルエンや、グリーコール・エーテル系等の推奨される所定の有機溶剤で適宜希釈されたケムロック218を外周面1aに塗布して、塗装厚5〜50μm、好ましくは13〜25μm程度の半硬化状態の金属用接着剤層3’を形成する。第1工程での「半硬化状態」としては、塗布直後のケムロック218溶液から、前記有機溶剤が蒸発した程度の状態を例示することができ、ケムロック218の硬化すべき樹脂組成の架橋反応が完了していない状態であって、目視確認しながら常温放置したり熱風乾燥することによって、比較的短時間のうちに得られる。
〔第2工程〕:
次に、前記半硬化状態の金属用接着剤層3’に、これを外側から更に被覆する同じく半硬化状態の熱可塑性ポリウレタン用接着剤層4’を形成すべく(接着剤2)を塗布する。塗布方法は、ケムロック218と同様であって、有機溶剤としては、ポリウレタン工業に常用の不活性溶剤、例えばトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤や、エーテル系溶剤を1種または2種以上混合して使用することができる。(接着剤2)は、塗布後に上記した有機溶剤が蒸発することにより、ウレタン結合を生成する重付加反応が開始し、硬化して接着力を発動する2液型のポリウレタン系接着剤なので、この第2工程での「半硬化状態」とは、前記有機溶剤が蒸発してしまう前の少しタックが残る程度の乾燥状態(ケムロック218よりも濡れ加減が少し大きい生乾き状態)が望ましい。乾燥方法は、第1工程と同様である。
〔第3工程〕:
そして半硬化状態の金属用接着剤層3’を介して最外層が同じく半硬化状態のポリウレタン用接着剤層4’で覆われた外輪1の外周面1aがキャビティ24に臨むようにこれをキャビティ型21にセットし(図3参照)、コア型22を型締めしてTPUの溶融樹脂2’をキャビティ24に射出する〔図4(イ)参照〕。この時の溶融状態のTPUの温度や射出圧等の成形条件は、通常のTPUによる射出成形と同じで良い。射出成形中には、TPUの溶融樹脂2’は、半硬化状態のポリウレタン用接着剤層4’に直接に接するように射出され、両者の界面5では、ポリウレタン用接着剤層4’中の未架橋のイソシアネート基を有する化合物が、TPUの溶融樹脂2’中のウレタン結合等の活性水素基と架橋反応し易い状況が維持されると共に、半硬化状態の金属用接着剤層3’と、半硬化状態のポリウレタン用接着剤層4’との界面6においても同様である。
ここで、弾性樹脂部成形用のTPUは、ポリエステル系、ポリエーテル系を問わず使用できる。TPUの弾性樹脂部の硬度は、A硬度で70〜95程度(JISK7311の試験法による)、望ましくは、80以上となるものが推奨される。70以下の軟質のものは、TPUの樹脂組成中に可塑剤が多く含まれている場合が多く、これが接着性に悪影響を及ぼす恐れがあるので好ましくなく、95以上の硬質のものは、より脆くなるので、ウレタンローラとして比較的大きな弾性変形を伴う使用条件下での接合不良が危惧される。
〔第4工程〕:
TPUの溶融樹脂2’を射出して金型20内でこれを冷却し、成形完成品を離型した後に〔図4(ロ)参照〕、最後に、金属用接着剤層3’とポリウレタン用接着剤層4’とを完全に硬化させるべく加熱する。加熱温度は、弾性樹脂部2が熱変形しないその軟化温度を目安として、これ以下の温度が望ましく、80℃から150℃の環境にて、15分から1時間程度の加熱硬化時間を目安に熟成させる。これにより、金属用接着剤層3とポリウレタン用接着剤層4中での架橋反応を更に促して硬化させると共に、外周面1aと金属用接着剤層3との界面での接合に加えて、金属用接着剤層3及びTPUの弾性樹脂部2と、前記ポリウレタン用接着剤層4との両界面6,5での、各活性水素基とイソシアネート基との結合をも促すので、これらが層状をなして充分な強度で一体化接合される。そして、弾性樹脂部2は、そのポリウレタン用接着剤層4との界面5においてのみ化学結合が形成されて接合されるので、元のTPUの柔軟性等の各種物性を維持したウレタンローラUを得ることができ、その使用状態での信頼性が向上する。
なお、本発明における活性水素基を有する化合物としては、分子内に2個以上の活性水素基を含有するものであって、具体的には、水の他にポリオール、アミノ基等含有ポリアミン、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等の中から選択した一種または二種以上を含むものが挙げられる。また、上記した実施形態では、TPUよりなる弾性樹脂部を金属ベアリングの外周面に一体化するのに、該弾性樹脂部を射出成形しながら接合する方法について説明したが、本発明は、金属部材とTPU部材との一体化接合予定部位の間に、半硬化状態の(接着剤1)及び(接着剤2)よりなる各層を順に塗布した後に、例えば予めTPUで成形済みの弾性樹脂部を金属材料に接着し、加熱して後硬化させながら接合する用途にも適用可能である。更に、〔第4工程〕での前記後硬化作業は、〔第3工程〕の射出成形後に、成形完成品を離型してから行う手順について説明したが、ここで必ずしも離型せずに、例えば、弾性樹脂部の軟化温度以下の温度を金型内で保持しながら加熱硬化する方法でも構わない。
また、従来より、帯電防止目的で金属粉等の添加剤を含有するTPUを原料とした弾性樹脂部材と金属部材とをケムロック218を使用して接合する場合には、特に一体化接合強度が得られにくく、ウレタンローラの使用中に弾性樹脂部が外れ易いという問題があったが、本発明に従って接合することによって、これを解決できる。本願発明者は、元々金属とTPUとの接合が充分でないところに異物としての金属が入ることや、TPU中の活性水素基が金属に配向して、ケムロック218との界面が低エネルギー表面状態となることによって、接合強度が悪化すると考えている。本発明の接合方法では、半硬化状態の(接着剤2)の架橋剤中の活性水素基が、TPU中に含有される金属に配向しようとするので、両者の界面において良好な接合強度が得られるものと推定される。
また、上記した実施形態では、金属部材としてのベアリングと、TPU部材としての弾性樹脂部とを接合してウレタンローラを得る方法について述べたが、本発明は、金属部材よりなるベアリング以外の回転体に直接TPU部材を接合してなるローラにも、同様に実施可能である。
〔実施例1〕:
次に、本発明の実施例を説明する。被着体の金属部材のベアリング10としてNTN社製の呼び番号686zzのものを、弾性樹脂部2を形成すべきTPUとして東洋紡社製のポリウレタンA1090A(前記A硬度が90程度、軟化温度が115℃程度のアジペート型のもの)を使用した。(接着剤1)は、前記ケムロック218であって、これをトルエン:メタノール=1:1の溶剤に適宜希釈して使用した。(接着剤2)は、日本ポリウレタン社製のポリウレタン系の2液型の接着剤であって、主鎖剤及び架橋剤として、ポリオール:ポリイソシアネートを反応当量の割合で混合し、この混合液をトルエン:メチルエチルケトン:酢酸エチル=1:1:1の溶剤に適宜希釈して使用した。まず、ベアリングの外輪の外周面をアセトンで塗布して脱脂した後に、ケムロック218の接着剤溶液を、刷毛にて前記外周面に塗布して、これを30分間常温放置した(以上、〔第1工程〕)。この後に、前記外輪の同じ部位に、ニッポラン1100及びコロネートLよりなる(接着剤2)の溶液を、ケムロック218の塗膜の上から刷毛にて重ね塗りして、これを約1時間常温放置した(以上、〔第2工程〕)。次に、前記金型20と同等の射出成形型に上記したベアリングをセットして溶融状態のTPUをキャビティに射出し、前記外周面に一体化接合される弾性樹脂部を成形した(以上、〔第3工程〕)。冷却及び成形完成品の離型後に、これを120℃の恒温乾燥器中で15分間熟成してケムロック218及び(接着剤2)の硬化を更に促進させ(以上、〔第4工程〕)、〔実施例1〕のウレタンローラを得た。
〔比較例1〕:
金属部材のベアリング、弾性樹脂部を形成すべきTPU、ケムロック218、(接着剤2)は、〔実施例1〕と同じものを使用して、〔第1工程〕から〔第3工程〕までを行い、〔第4工程〕の後硬化作業を行わない接合方法によって、〔比較例1〕のウレタンローラを得た。
〔比較例2,3〕:
金属部材のベアリング、弾性樹脂部を形成すべきTPUとして、〔実施例1〕と同じものを使用して、〔第1工程〕及び〔第2工程〕のケムロック218及び(接着剤2)の塗布作業を行わず、〔第3工程〕の射出成形を行った後に、〔第4工程〕の後硬化作業を行う場合と、行わない場合との接合方法によって、それぞれ〔比較例2〕と〔比較例3〕との各ウレタンローラを得た。
〔比較例4,5〕:
金属部材のベアリング、弾性樹脂部を形成すべきTPUとして、〔実施例1〕と同じものを使用して、〔第1工程〕の次の〔第2工程〕の(接着剤2)の塗布作業を行わず、〔第3工程〕の射出成形を行った後に、〔第4工程〕の後硬化作業を行う場合と、行わない場合との接合方法によって、それぞれ〔比較例4〕と〔比較例5〕との各ウレタンローラを得た。
〔比較例6,7〕:
金属部材のベアリング、弾性樹脂部を形成すべきTPU、(接着剤2)は、〔実施例1〕と同じものを使用して、〔第1工程〕のケムロック218の塗布作業を行わずに、〔第2工程〕と〔第3工程〕の射出成形とを行った後に、〔第4工程〕の後硬化作業を行う場合と、行わない場合との接合方法によって、それぞれ〔比較例6〕と〔比較例7〕との各ウレタンローラを得た。
上記した〔実施例1〕及び〔比較例1〜7〕の各ウレタンローラについて、TPUの弾性樹脂部がベアリングから外れるまで、ローラを回転させながら該樹脂部に連続荷重を作用させる耐久試験を、以下の条件に従って行った。実施形態の図2を援用してこの試験方法を説明する。ウレタンローラUを構成するベアリング10の内輪8に圧入固定された軸棒11の両側を、前記弾性樹脂部2を介して、モータ(図示せず)の回転軸12に対して167(N)の荷重Fで押え付け、前記ローラUのTPUよりなる外周面9を回転軸12に弾接させる。この状態で、モーターを300rpmで回転させて、この回転軸12に弾接する弾性樹脂部2と、これに接合する外輪1とを連動回転させ、弾性樹脂部2が、ベアリング10から外れるまでの時間(破損時間)を測定した。この結果を図5に示す。但し、〔実施例1〕及び〔比較例1〜7〕の各ウレタンローラの試作品の数は、3〜5個であって、破損時間の項目では、この複数個の中での破損時間の最短時間〜最長時間を示した。また、図中の〔第1工程〕及び〔第2工程〕の各項目は、ケムロック218及び(接着剤2)の塗布作業を行ったか否かを(○)、(×)で示し、〔第4工程〕は、後硬化作業を行ったか、行わずに離型後常温放置したのみかを(○)、(×)で示した。
図5に示されるように、〔第1工程〕〜〔第4工程〕の全工程を行ってベアリングと弾性樹脂部とを接合した〔実施例1〕のウレタンローラは、試験開始後10000分以上経過しても破損に至らず、ベアリング外輪とTPUの弾性樹脂部との接合部において作用する周方向の剪断力に抗する接合強度を有しており、他の〔比較例1〜7〕よりも圧倒的な優位性が認められる。
〔実施例2〜8〕:
次に、弾性樹脂片Erが接合された鉄片Emよりなる長板状の引張試験片Eの引張特性を確認する引張試験を行った。弾性樹脂片Erとしては、東洋紡社製のポリウレタンA2090A(前記A硬度が92程度、軟化温度が130℃程度のカプロラクトン型のもの)を使用した。図6に示されるように、(長さL×幅W×厚みTの)長板状の鉄片Emを使用して、その長手方向に沿った片側の端面31(一体化接合予定部位)に、鉄片Emと同形状の弾性樹脂片Erを、1枚板をなすように射出成形しながら接合して引張試験片Eを得た。接合方法は、後述の図7の条件に従って、〔第1工程〕から〔第4工程〕までを行った。前記試験片Eの鉄片Emと弾性樹脂片Erとの接合面をなす前記端面31から起算してそれぞれ同じ長さL’(=40mm)の部分を、引張試験機の一対のチャックCで把持して、50.0mm/minの試験速度で常温中にて引張り、引張試験片Eの鉄片Emの端面31から弾性樹脂片Erが外れた時の「外れ時引張力」を測定した。鉄片Emと弾性樹脂片Erとの幅W及び厚みTは、それぞれ、10mmと3mmであって、チャック間距離〔=L' ×2〕は、80mmである。
〔比較例8〜16〕:
鉄片Em及び弾性樹脂片Erとして〔実施例2〜8〕と同じものを使用し、図7の接合条件に従って両者を接合して、〔比較例8〜16〕の引張試験片E’を得た。〔実施例2〜8〕と同じ試験条件で引張試験を行った。
図7に、〔実施例2〜8〕及び〔比較例8〜16〕の各引張試験片E,E’の引張試験の結果を示す。但し、図中の〔第1工程〕では、ケムロック218の塗布作業を行ったか否(×)かを示し、行ったものについては、「(接着剤1)」の項目にて、その塗布回数を1(回)〜3(回)の数字で示した。例えば「乾燥方法」の項目の「室温×1日+80℃×30分」とは、室温で1日乾燥した後に80℃で30分間乾燥させる処理を行ったことを意味する。また、〔第4工程〕では、後硬化作業を行ったか否(×)かを示し、行ったものについては、例えば「120℃×1時間」とは、射出成形後において、120℃で1時間熟成させることを言う。なお、複数回塗布する場合には、「ケムロック218」を1度刷毛塗りした15秒程後に再塗布を行った。〔第2工程〕の項目は、前記〔実施例1〕と同様に(接着剤2)の塗布作業を行ったか否かを(○)、(×)で示した。なお、〔第3工程〕は前記〔実施例1〕に準ずる条件で行い表示は省いた。また、「外れ時引張力」の項目では、それぞれ5個の各引張試験片E,E’について、各測定結果の平均値を示した。
図示されるように、〔実施例2〜8〕と〔比較例8〜15〕の各引張試験片E,E’では、鉄片Emの端面31から弾性樹脂片Erが外れた時の引張力の大きさに関して、最大で約8.7倍、最小で約1.6倍の差が認められ、各種条件で〔第1工程〕〜〔第4工程〕を順に全て行った〔実施例2〜8〕の引張試験片Eの方が、接合強度において優位性が有ると言える。また、〔実施例2,7,8〕と〔比較例16〕との比較により、後硬化温度は、TPUが軟化乃至熱劣化しない範囲内で、なるべく高い方が優れているという結果も得られた。なお、〔実施例2〜8〕の〔第1工程〕でのケムロック218塗布後の乾燥方法は、〔実施例1〕よりもその硬化を促進させ得る条件となっているが、この程度でも接合力に影響は無く、実施例によっては、ケムロック218を複数回塗布しているがこれに関しても同様である。
また、本発明の接合方法の用途としては、ベアリング(金属部材)10の外側に弾性樹脂部2を射出成形によって一体に接合してウレタンローラUを成形する場合の他に、鉄系金属部材とTPUとが接合された他の金属とTPUとの金属複合部材の成形に対しても実施可能であり、更に成形の形態としては、射出成形に限られず、押出成形による場合も対象となり得る。例えば、押出成形により鉄系の金属シート材に同じくシート状をしたTPUを一体に接合する場合や、同じく押出成形により鉄系の線材の外周にTPUを一体接合して被覆する場合にも適用可能である。具体的には、金属シート材又は金属線材の表面に、予め上記した半硬化状態の金属用接着剤層3’の上に熱可塑性ポリウレタン用接着剤層4’を形成した状態で、金属シート材又は金属線材を押出成形機に連続的に送り込んで、前記熱可塑性ポリウレタン用接着剤層4’の表面又はその外周に溶融状のTPUを押出成形した後に、前記各接着剤層3’,4’を加熱硬化させると、金属シート材の表面にシート状をしたTPUが一体に接合された金属複合シート材、或いは金属線材の外周にTPUが一体接合して被覆された金属複合線材が成形される。
また、ポリイソシアネートとしてブロックイソシアネートを使用すると、常温においてポットライフフリー(可使時間自由)な接着剤にできて、使用上の制約が緩和される。このような接着剤としては、例えば、主鎖剤と架橋剤として日本ポリウレタン製のニッポラン800:コロネート2513=5:8の割合で混合して、この混合液を溶剤に希釈することにより得られる。
金属ベアリング10及び射出成形により接合された弾性樹脂部2よりなるウレタンローラUの正面図である。 図1のX−X線断面図である。 金型20のキャビティ型21に金属ベアリング10をセットした状態をキャビティ形成凹部21bの開口側から示す図である。 (イ)は、弾性樹脂部2の射出成形時の金型20の側面断面図であって、(ロは、成形完成品であるウレタンローラUの離型時の同様の図である。 〔実施例1〕,〔比較例1〜7〕のウレタンローラUの耐久試験の結果を示す表である。 鉄片Emに弾性樹脂片Erが接合された引張試験片Eの引張試験を行う状態を示す斜視図である。 〔実施例2〜8〕,〔比較例8〜16〕の各引張試験片E,E’の引張試験の結果を示す表である。
符号の説明
U:ウレタンローラ(成形完成品)
1a:ベアリングの外周面(一体化成形予定部位)
2:弾性樹脂部
3:金属用接着剤層
4:ポリウレタン用接着剤層
10:ベアリング(金属部材)
20:金型
21:キャビティ型
22:コア型
24:キャビティ

Claims (1)

  1. 金属部材である金属線材の外周に、ウレタン系熱可塑性エラストマ−部材であるウレタン被覆材を押出成形して被覆する際に、前記金属線材と前記ウレタン被覆材とを接合する方法であって、
    前記金属線材の外周面に、金属用接着剤層を形成すべく下記の(接着剤1)を塗布する第1工程と、
    半硬化状態の前記金属用接着剤層の外周面にポリウレタン用接着剤層を形成すべく下記の(接着剤2)を塗布する第2工程と、
    前記ポリウレタン用接着剤層が半硬化状態において、前記金属線材を押出成形機に連続的に送り込んで、当該金属線材の外周面に前記ウレタン被覆材を押出成形する第3工程と、
    前記金属線材の外周面に金属用接着剤層、及びポリウレタン用接着剤層を介して前記ウレタン被覆材が被覆された状態で、全体をウレタン被覆材の軟化温度以下で加熱して、半硬化状態の前記金属用接着剤層、及び同じく半硬化状態のポリウレタン用接着剤層を熱硬化させる第4工程と、
    から成り、第1〜第4の各工程が当該順序で連続して行われることを特徴とする金属線材にウレタン被覆材を被覆接合する方法。
    (接着剤1)ウレタン系の高分子材料と金属部材との接着用途に使用される熱硬化型の接着剤であって、活性水素基を有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコールのいずれかに硬化剤が配合されたものを指す。
    (接着剤2)ウレタン系の高分子材料の接着用途に使用される熱硬化型の接着剤であって、ポリウレタンやウレタン変性エポキシ樹脂よりなるものを指す。
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