車両に搭載される自動変速機の中には、トルクコンバータなどの流体継手と歯車式変速機構とから構成される有段式の自動変速機や、油圧によって有効径を変化させる2つのプーリとそれらプーリに巻き掛けらた金属ベルトとから構成される無段式の自動変速機がある。
有段式の自動変速機は、エンジンと、トルクコンバータ等の流体継手を介して接続される。有段式の自動変速機は、複数の動力伝達経路を有してなる変速機構(歯車式変速機構)から構成され、たとえば、アクセル開度および車速に基づいて自動的に動力伝達経路の切換えを行なう、すなわち自動的に変速比(走行速度段)の切換えを行なうように構成される。有段式の自動変速機においては、摩擦要素である、クラッチ要素やブレーキ要素やワンウェイクラッチ要素が、所定の状態に係合および解放されることにより、ギヤ段が決定される。
無段式の自動変速機も、エンジンとトルクコンバータ等の流体継手を介して接続される。たとえばベルト式無段変速機は、金属ベルトと一対のプーリとを用いて、油圧によってプーリの有効径を変化させることで連続的に無段の変速を実現する。詳しくは、無端金属ベルトが、入力軸に取付けられた入力側プーリおよび出力軸に取付けられた出力側プーリに巻き掛けられて使用される。入力側プーリおよび出力側プーリは、溝幅を無段階に変えられる1対のシーブをそれぞれ備え、溝幅を変えることで、無端金属ベルトの入力側プーリおよび出力側プーリに対する巻付け半径が変わり、これにより入力軸と出力軸との間の回転数比、すなわち変速比を連続的に無段階に変化させることができる。
このようないずれのタイプの自動変速機においても、一般的に、自動変速機を有した車両には運転者により操作されるシフトレバーが設けられ、シフトレバー操作に基づいて変速ポジション(たとえば、後進走行ポジション、ニュートラルポジション、前進走行ポジション)が設定されている。そして、前進走行ポジションにおいて必ず係合状態とされる入力クラッチという摩擦係合要素がある。この入力クラッチは、前進クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ、車両が前進するポジションにおいて必ず係合状態とされる。
このような自動変速機を有した車両において、前進走行ポジションが設定されて車両が停止している状態では、アイドリング回転するエンジンからの駆動力がトルクコンバータを介して変速機に伝達され、これが車輪に伝達されるため、いわゆるクリープ現象が発生する。クリープ現象は、登坂路での停車からの発進をスムーズに行なわせることができるなど、所定条件下では非常に有用なのであるが、車両を停止保持したいときには不要な現象であり、車両のブレーキを作動させてクリープ力を抑えるようになっている。すなわち、エンジンからのクリープ力をブレーキにより抑えるようになっており、その分エンジンの燃費が低下するという問題がある。
このようなことから、前進走行ポジションにおいて、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキが作動されるとともにアクセルがほぼ全閉となって車両が停止している状態では、前進走行ポジションのまま変速機をニュートラルに近いニュートラル状態として、燃費の向上を図ることが提案されている。このようなニュートラル制御は、入力クラッチを係合状態から解放状態に近い半係合状態にすることにより実現される。このようなニュートラル制御に関する技術や、ニュートラル制御からの復帰制御に関する技術などが多く開示されている。
特開平5−60225号公報(特許文献1)は、クリープ防止制御を実行するシステムにおいて、交差点での右左折進入時の発進応答性を改善する制御装置を開示する。この制御装置は、自動変速機のシフトポジションが前進走行ポジションとされているときであっても、所定の条件が成立したときにはニュートラル状態を形成してクリープを防止するように構成した車両のクリープ制御装置において、運転者の右左折する意思を検出する手段と、運転者の右左折する意思が検出されたときは、ニュートラル状態への移行を禁止する手段とを備える。
この制御装置によると、クリープ防止制御を実行するための条件の1つとして、運転者の右左折する意思を考慮するようにしている。たとえば、ターンシグナルスイッチのオン−オフの状態を検出し、このスイッチがオンとされている場合、すなわち、運転者の右左折する意思が確認された場合にはニュートラル状態への移行を禁止してクリープ防止制御(ニュートラル制御)に移行しないようにしている。この結果、混雑した交差点での右左折進入の場合に発進応答性が損なわれることがなくなる。この特許文献1においては、1)シフトポジションが前進走行ポジション、2)アイドル接点信号がオン、3)フットブレーキ信号がオン、4)車速が零に近い所定値以下、5)ターンシグナルスイッチがオフ、6)ニュートラル状態からのステアリングの操舵角の絶対値が所定値以下、7)エンジン回転数が所定値以下の全ての条件が成立したときに初めてクリープ防止制御(ニュートラル制御)が実行される。これらの条件のうちの1つでも不成立であると、ニュートラル制御に移行しなかったり、ニュートラル制御中であるとニュートラル制御から復帰する。一般的には、ニュートラル制御中に、A)アイドル接点信号がオフ(アクセルがオン)、B)フットブレーキ信号がオフ、C)車速が零に近い所定値より大きくなる、のいずれかが成立すると、ニュートラル制御から復帰する。
特開平5−60225号公報
しかしながら、条件A)〜C)のいずれかが成立すると、直ちに入力クラッチを係合状態にした場合、以下のような問題が生じる。
条件C)が成立するか否かを判断するための車速は、有段の自動変速機の出力軸回転数や無段変速機のプライマリプーリ回転数を検知するセンサからの信号に基づいて検知される。このような回転数センサは、車両が極低速で走行している場合(緩い降坂路で車両が動き始めた瞬間)においては、車速を検知することができない。このような場合に、緩い降坂路でニュートラル制御が実行されて、運転者がフットブレーキペダルを多少緩めると(フットブレーキ信号はオンのまま)、車両の車速が検知されないまま、あるいは検知されても車速が零に近い所定値より大きくならないので、ニュートラル制御が継続している。
このとき、車両が極低速で動き出すまではエンジン側が駆動輪を駆動する駆動状態であったが、車両が極低速で動き出すとエンジン側が駆動輪側に駆動される被駆動状態になる。このような被駆動の状態では、車両に搭載されて駆動系を構成する自動変速機や差動装置(デファレンシャルギヤ)や、四輪駆動車の場合には4駆用のトランスファ(副変速機)を構成する機械部品である、歯車やスプラインには、それらの寸法公差に基づくバックラッシュ(噛み合う歯車どうしの歯の隙間)が必ず存在し、それらのバックラッシュが被駆動側に詰まって噛合っている。この状態で、ニュートラル制御から復帰すると、被駆動状態から急激に駆動状態に切り換わるので、急激にバックラッシュが被駆動側から駆動側に詰まり、駆動系のいわゆるがた詰めショックが発生する。
すなわち、バックラッシュが被駆動状態で片寄った位置の状態から、逆の状態であるバックラッシュが駆動状態で片寄った位置の状態に切り換わると、ニュートラル制御からの復帰を境にして、歯車機構におけるバックラッシュの位置が急激に変化して、歯面どうしが衝撃的に当たる打音、それに伴うショックという、がた詰めショックが生じて、運転者がそのショックを感じてしまう。
図5に、ニュートラル制御からの復帰時における、入力クラッチ油圧指令値と、タービン回転数と、出力軸トルクのタイミングチャートを示す。がたがない場合(すなわちニュートラル制御中に車両が動き出すことなく被駆動状態になっていない場合)には、ニュートラル制御からの復帰に伴い、入力クラッチへの油圧指令値が出力され、タービン回転数が下降して、出力軸トルクが滑らかに上昇する。ところが、がたがある場合(すなわちニュートラル制御中に車両が動き出して被駆動状態になっている場合)には、ニュートラル制御からの復帰に伴い、入力クラッチへの油圧指令値が出力され、タービン回転数が下降するが、このときに、がたを詰めるので、がた打ちショックが発生して、入力クラッチへの油圧指令値の立ち上がりから所定の応答遅れ時間を経過したときに、出力軸トルクに一旦大きなピークトルクが発生する。これががた打ちのショックである。このような問題は、特許文献1に開示された制御装置を用いて解決できるものではない。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ニュートラル制御からの復帰時に、駆動系のがた詰めショックを発生させることがない、自動変速機の制御装置を提供することである。
第1の発明に係る制御装置は、車両の前進走行時に係合される摩擦係合要素を有する自動変速機を制御する。車両は、前進走行ポジションで車両の状態に関する予め定められた条件が成立すると摩擦係合要素の係合油圧を低下させるニュートラル制御が実行され、別途定められた条件が成立するとニュートラル制御からの復帰制御が実行される。この制御装置は、ニュートラル制御中における、自動変速機の動力伝達方向が順方向から逆方向に変化したことを検知するための検知手段と、別途定められた条件の成立を判定するための判定手段と、動力伝達方向が変化したことが検知された場合においてニュートラル制御から復帰する場合には、摩擦係合要素を係合状態に復帰させる油圧を供給する前に、復帰させる油圧より低い油圧を供給するように摩擦係合要素の係合油圧を制御するための制御手段とを含む。
第1の発明によると、ニュートラル制御中に自動変速機の動力伝達方向が変化していると、ニュートラル制御の復帰条件が成立してニュートラル制御から復帰する場合に、ニュートラル制御から通常通りに復帰する場合の摩擦係合要素の係合油圧よりも低い油圧を供給する。次いで、ニュートラル制御から通常通りに復帰する場合の摩擦係合要素の係合油圧を供給して、摩擦係合要素を係合させる。車両が降坂路に停止してニュートラル制御が実行されて、そのときに運転者がニュートラル制御の実行条件が成立する範囲内でフットブレーキを緩めると、車両が極低速(ニュートラル制御の実行条件が成立する速度以下)で動くことがある。一旦、このように車両が前方に動いた場合には、自動変速機を含む車両のパワートレーンを構成する歯車やスプライン等の動力伝達要素のバックラッシュが、エンジンにより駆動輪を駆動する駆動状態から、駆動輪によりエンジンが駆動される被駆動状態に切り換わる。すなわち、ニュートラル制御中に車両が少しでも動くと、バックラッシュの詰まり方が逆になる。この状態で、急激に摩擦係合要素を係合させると、被駆動状態から駆動状態に急激に切り換わり、動力伝達要素におけるバックラッシュの状態が急激に切り換わる。このとき、互いにバックラッシュを有して噛合っている歯車において接している歯面が急激に他方の歯面に当たりがたが詰まる。このとき、打音やショックが生じる。ところが第1の発明では、自動変速機の動力伝達方向がニュートラル制御中に切り換わっていると、まず、係合の度合いを下げていた摩擦係合要素に対して低圧の油圧を供給して、緩やかに係合状態とする。このため、パワートレーンを構成する歯車やスプライン等の動力伝達要素においても、緩やかにバックラッシュによるがたが詰まり、異音やショックが生じることを回避できる。その結果、ニュートラル制御からの復帰時に、駆動系のがた詰めショックを発生させることがない、自動変速機の制御装置を提供することができる。
第2の発明に係る自動変速機の制御装置は、第1の発明の構成に加えて、車速を検知するための手段をさらに含む。判定手段は、車速が予め定められたしきい値以上であると、別途定められた条件が成立したと判定するための手段を含む。
第2の発明によると、車両が降坂路に停止してニュートラル制御が実行されて、運転者がフットブレーキを緩めると(ニュートラル制御の実行条件が成立する範囲内)、たとえアクセルオフの状態であっても、車両が前方に動き出してニュートラル制御からの復帰条件が成立する車速が検知される。すなわち、車両が動き出して、被駆動状態にあるときに、ニュートラル制御からの復帰条件が成立する。この場合において、制御手段により2段階で摩擦係合要素が係合されるので、駆動系のがた詰めショックが発生することがない。
第3の発明に係る自動変速機の制御装置は、第1の発明の構成に加えて、車速を検知するための手段と、車両の運転者によるブレーキ操作を検知するための手段とをさらに含む。判定手段は、ブレーキ操作を検知している状態で、車速が予め定められたしきい値以上であると、別途定められた条件が成立したと判定するための手段を含む。
第3の発明によると、車両が降坂路に停止してニュートラル制御が実行されて、運転者がフットブレーキを、ブレーキスイッチがブレーキ操作を検知している程度に緩めると(ニュートラル制御の実行条件が成立し続ける)、たとえアクセルオフの状態であっても、車両が前方に動き出してニュートラル制御からの復帰条件が成立する車速が検知される。すなわち、車両が動き出して、被駆動状態にあるときに、ニュートラル制御からの復帰条件が成立する。この場合において、制御手段により2段階で摩擦係合要素が係合されるので、駆動系のがた詰めショックが発生することがない。
第4の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、検知手段は、ニュートラル制御中において、自動変速機の動力伝達方向が、順方向である、車両の駆動源により駆動輪が駆動される駆動状態から、逆方向である、駆動輪により駆動源が駆動される被駆動状態に変化したことを検知するための手段を含む。
第4の発明によると、車両が降坂路に停止してニュートラル制御が実行されて、そのときに運転者がニュートラル制御の実行条件が成立する範囲内でフットブレーキを緩めると、車両が極低速(ニュートラル制御の実行条件が成立する速度以下)で動くことがある。一旦、このように車両が前方に動いた場合には、自動変速機を含む車両のパワートレーンを構成する歯車やスプライン等の動力伝達要素のバックラッシュが、エンジンにより駆動輪を駆動する駆動状態から、駆動輪によりエンジンが駆動される被駆動状態に切り換わる。すなわち、ニュートラル制御中に車両が少しでも動くと、バックラッシュの詰まり方が逆になる。これを検知手段が検知して、制御手段により2段階で摩擦係合要素が係合されるので、駆動系のがた詰めショックが発生することがない。
第5の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第3の発明の構成に加えて、検知手段は、ニュートラル制御中において、ブレーキ操作を検知している状態で、車速が予め定められたしきい値以上であると、自動変速機の動力伝達方向が、動力伝達方向が順方向から逆方向に変化したことを検知するための手段を含む。
第5の発明によると、ニュートラル制御中において、ブレーキ操作を検知している状態で、車速が予め定められたしきい値以上であるということは、ニュートラル制御中に車両が前方に動いて、エンジンにより駆動輪を駆動する駆動状態から、駆動輪によりエンジンが駆動される被駆動状態に切り換わったことを示す。検知手段は、このような変化を検知する。この場合において、制御手段により2段階で摩擦係合要素が係合されるので、駆動系のがた詰めショックが発生することがない。
第6の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、制御手段は、動力伝達方向が再度順方向に変更されるまで、復帰時の油圧より低い油圧を供給するように摩擦係合要素の係合油圧を制御するための手段を含む。
第6の発明によると、制御手段は、動力伝達方向が再度順方向に変更されるまで、復帰時の油圧より低い油圧を供給するので、駆動系のがた詰めショックが発生することがない。
第7の発明に係る自動変速機の制御装置においては、第6の発明の構成に加えて、制御手段は、動力伝達方向が再度順方向に変更されるまでの時間、復帰時の油圧より低い油圧を供給するように摩擦係合要素の係合油圧を制御するための手段を含む。
第7の発明によると、制御手段は、動力伝達方向が再度順方向に変更されるまでの時間においては、復帰時の油圧より低い油圧を供給するので、駆動系のがた詰めショックが発生することがない。
第8の発明に係る自動変速機の制御装置は、第6の発明の構成に加えて、自動変速機への入力回転数を検知するための手段をさらに含む。制御手段は、前記入力回転数の変化に基づいて前記動力伝達方向が再度順方向に変更されたことが検知されるまで、復帰時の油圧より低い油圧を供給するように前記摩擦係合要素の係合油圧を制御するための手段を含む。
第8の発明によると、制御手段は、自動変速機への入力軸回転数の変化に基づいて、動力伝達方向が再度順方向に変更されたことが検知されるまでは、復帰時の油圧より低い油圧を供給するので、駆動系のがた詰めショックが発生することがない。
第9の発明に係る自動変速機の制御装置は、第1〜8のいずれかの発明の構成に加えて、車両が停止した路面の勾配を検知するための手段をさらに含む。制御手段は、勾配により路面が降坂路であると判断されると、摩擦係合要素を係合状態に復帰させる油圧を供給する前に、復帰させる油圧より低い油圧を供給するように、摩擦係合要素の係合油圧を制御するための手段を含む。
第9の発明によると、降坂路でなければ、車両がニュートラル制御中に前方に動き出すことは考えにくい。すなわち、制御手段による摩擦係合要素の油圧を2段階で制御する必要もない。このため、降板路であることが判断された場合のみこのような特別なニュートラル制御からの復帰制御を行なう。降坂路でなければ、ニュートラル制御からの通常の復帰制御を、できるだけ速やかに、かつ係合油圧を低下させていた摩擦係合要素の係合ショックが発生しないように実行する。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1を参照して、本実施の形態に係る制御装置を含む車両のパワートレーンについて説明する。本実施の形態に係る制御装置は、図1に示すECU(Electronic Control Unit)1000により実現される。以下では、自動変速機をベルト式無段変速機として説明するが、本発明はこれに限定されない。
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、トルクコンバータ200と、前後進切換え装置290と、ベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission) 300と、デファレンシャルギヤ800と、ECU1000と、油圧制御部1100とから構成される。
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサにより検知されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプ羽根車220と、出力軸側のタービン羽根車230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。トルクコンバータ200とCVT300とは、回転軸により接続される。トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ1400により検知される。
CVT300は、前後進切換え装置290を介してトルクコンバータ200に接続される。CVT300は、入力側のプライマリプーリ500と、出力側のセカンダリプーリ600と、プライマリプーリ500とセカンダリプーリ600とに巻き掛けられた金属製のベルト700とから構成される。プライマリプーリ500は、プライマリシャフトに固定された固定シーブおよびプライマリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。セカンダリプーリ700は、セカンダリシャフトに固定されている固定シーブおよびセカンダリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。CVT300の、プライマリプーリの回転数NINは、プライマリプーリ回転数センサ1410により、セカンダリプーリの回転数NOUTは、セカンダリプーリ回転数センサ1420により、検知される。
これら回転数センサは、プライマリプーリ500やセカンダリプーリ600の回転軸やこれに繋がるドライブシャフトに取り付けられた回転検出用ギヤの歯に対向して設けられている。これらの回転数センサは、CVT300の、入力軸であるプライマリプーリ500や出力軸であるセカンダリプーリ600の回転の検出が可能なセンサであり、たとえば、一般的に半導体式センサと称される磁気抵抗素子を使用したセンサである。ただし、回転数センサの検出回転数を下回る回転は検知することができない。
前後進切換え装置290は、ダブルピニオンプラネタリギヤ、リバース(後進用)ブレーキB1および入力クラッチC1を有している。プラネタリギヤは、そのサンギヤが入力軸に連結されており、第1および第2のピニオンP1,P2を支持するキャリヤCRがプライマリ側固定シーブに連結されており、そしてリングギヤRが後進用摩擦係合要素となるリバースブレーキB1に連結されており、またキャリアCRとサンギヤSとの間に入力クラッチC1が介在している。この入力クラッチ310は、前進クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ、パーキング(P)ポジション、後進走行(R)ポジション、ニュートラル(N)ポジション以外の車両が前進するときに必ず係合状態で使用される。
このようなパワートレーンにおいては、上述したような構成要素を有する。これらの構成要素の中には、歯車やスプラインがあり、これらには、寸法公差に基づくバックラッシュ(噛み合う歯車どうしの歯の隙間)が必ず存在し、それらは、自動変速機の動力伝達方向が変わると、バックラッシュの詰まる方向が逆になるように噛合っている。
前進走行(D)ポジションであって、車両の状態が予め定められた条件を満足して停止した場合に、入力クラッチ310を解放して所定のスリップ状態にして、ニュートラルに近い状態にする制御をニュートラル制御という。
図2を参照して、これらのパワートレーンを制御するECU1000および油圧制御部1100について説明する。
図2に示すように、ECU1000は、エンジン100を制御するエンジンECU1010と、トルクコンバータ200、前後進切換え装置290およびCVT300を制御するECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)_ECU1020とを含む。
図2に示すように、ECT_ECU1020には、タービン回転数センサ1400からタービン回転数NTを表わす信号が、プライマリプーリ回転数センサ1410からプライマリプーリ回転数NINを表わす信号が、セカンダリプーリ回転数センサ1420からセカンダリプーリ回転数NOUTを表わす信号が、それぞれ入力される。
図1に示したように、油圧制御部1100は、変速速度制御部1110と、ベルト挟圧力制御部1120と、ロックアップ係合圧制御部1130と、クラッチ圧制御部1140と、マニュアルバルブ1150とを含む。ECU1000から、油圧制御部1100の変速制御用デューティソレノイド(1)1200と、変速制御用デューティソレノイド(2)1210と、リニアソレノイド1220と、ロックアップソレノイド1230と、ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド1240に制御信号が出力される。
図1に示した入出力信号に加えて、ECT_ECU1020には、ブレーキスイッチから、運転者によりブレーキペダルが踏まれていることを表わす信号、Gセンサから、車両が登坂路などに停車したした際の登坂路の傾斜度を表わす信号が、それぞれ入力される。
さらに、エンジンECU1010には、アクセル開度センサから、運転者により踏まれているアクセルの開度を表わす信号、スロットルポジションセンサから、電子スロットルの開度を表わす信号、エンジン回転数センサから、エンジン100の回転数(NE)を表わす信号が、それぞれ入力される。エンジンECU1010とECT_ECU1020とは、相互に接続されている。
油圧制御部1100においては、ECT_ECU1020からリニアソレノイド1220に出力された制御信号に基づいて、ベルト挟圧力制御部1120がCVT300のベルト700の挟圧力を制御するとともに、クラッチ圧制御部1140が入力クラッチ310の係合圧を制御する。
図3を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECT_ECU1020で実行されるニュートラル制御処理のプログラムの制御構造について説明する。
ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、ECT_ECU1020は、Gセンサから入力されたGセンサ値を検知する。このとき、降坂路である場合には、車両の前方への加速度が生じるという点からプラスのGセンサ値が、登坂路である場合には、車両の後方への加速度が生じるという点からマイナスのGセンサ値が検知されると想定する。ただし、逆であってもかまわない。
S110にて、ECT_ECU1020は、車両が停止した路面は登坂路ではないか否かを判断する。これは、S100にて検知したGセンサ値が予め定められたマイナスのしきい値と比較することにより判断される。たとえば、Gセンサ値<−α(α>0)であると、登坂路であると判断される。車両が停止した路面は登坂路ではないと判断されると(S110にてYES)、処理はS120へ移される。もしそうでないと(S110にてNO)、この処理は終了する。S110にてNOの場合には、車両が停止した路面は登坂路であるのでニュートラル制御中に車両が前方に動き出すことが考えにくいので、ニュートラル制御からの特別な復帰制御を行なう必要がないためである。
S120にて、ECT_ECU1020は、車両がニュートラル制御中であるか否かを判断する。車両がニュートラル制御中であると(S120にてYES)、処理はS130へ移される。もしそうでないと(S120にてNO)、この処理は終了する。
S130にて、ECT_ECU1020は、プライマリプーリ回転数センサ1410から入力された信号に基づいて、プライマリプーリ500の回転数NINを検知する。S140にて、ECT_ECU1020は、プライマリプーリ500の回転数NINが予め定められたしきい値(ニュートラル制御からの復帰を定めた条件)以上であるか否かを判断する。プライマリプーリ500の回転数NINがしきい値以上であると(S140にてYES)、処理はS150へ移される。プライマリプーリ500の回転数NINがしきい値以上であるので、ニュートラル制御からの復帰制御を実行する。もしそうでないと(S140にてNO)、処理はS130へ戻され、プライマリプーリ500の回転数NINを再度検知して、プライマリプーリ500の回転数NINが予め定められたしきい値との比較を行なう。すなわち、ニュートラル制御が継続していることになる。
S150にて、ECT_ECU1020は、ブレーキスイッチからの入力信号に基づいて、ブレーキスイッチがオンであるか否かを判断する。ブレーキスイッチがオンである(S150にてYES)、処理はS160へ移される。もしそうでないと(S150にてNO)、処理はS200へ移される。なお、ブレーキスイッチは、ブレーキペダルを少し戻してもオンのままである。
S160にて、ECT_ECU1020は、がた詰め処理が終了したことを判断するためのタイマをスタートさせる。このタイマは、予め定められた時間が経過するとタイムアップする減算タイマである。S170にて、ECT_ECU1020は、がた詰め処理を行なう。このとき、ECT_ECU1020は、入力クラッチ310の係合油圧を調整するリニアソレノイド1220に所定の油圧指令信号を出力する。
S180にて、ECT_ECU1020は、がた詰め処理中に、ブレーキスイッチからの入力信号に基づいて、ブレーキスイッチがオンであるか否かを判断する。ブレーキスイッチがオンである(S180にてYES)、処理はS190へ移される。もしそうでないと(S180にてNO)、処理はS200へ移される。これは、がた詰め制御中に運転者が完全にブレーキペダルを戻すと(ブレーキスイッチがオンでなくなる)、運転者は速やかに車両を前進走行させたいことを示すので、がた詰め処理を中断して、ニュートラル制御からの通常の復帰制御を行なう。
S190にて、ECT_ECU1020は、がた詰め処理が終了したか否かを、減算タイマがタイムアップしたか否かで判断する。がた詰め処理が終了すると(S190にてYES)、処理はS200へ移される。もしそうでないと(S190にてNO)、処理はS170へ戻され、がた詰め処理がタイムアップするまで継続して行なわれる。ただし、ブレーキスイッチがオンであることが継続している場合である。
S200にて、ECT_ECU1020は、ニュートラル制御からの通常の復帰処理を行なう。すなわち、できるだけ速やかに、かつ係合油圧を低下させていた入力クラッチ310の係合ショックが発生しないような範囲で係合油圧を上昇させる信号を、ECT_ECU1020がリニアソレノイド1220に出力する。
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係るECU_ECU1020を搭載した車両の動作(降坂路におけるニュートラル制御からの復帰動作)について説明する。
車両が降坂路で停止して、前進走行ポジションの状態のままであって、運転者がアクセルペダルを踏まないで、フットブレーキペダルを踏むと、ニュートラル制御中となる(S110にてYES、S120にてYES)。
このような状態で、たとえば、前方の信号が赤から青に切り換わり前車のブレーキランプが消灯すると、ニュートラル制御の実行条件の範囲内で(すなわちブレーキスイッチがオンのままで)、運転者がブレーキペダルを戻すことがある。このとき、この車両が停止しているのは降坂路であるため、車両が極低速で前方に動く。これにより、CVT300やデファレンシャルギヤ800を構成する歯車やスプライン等の動力伝達要素のバックラッシュが、エンジン100により駆動輪を駆動する駆動状態から、駆動輪によりエンジン100が駆動される被駆動状態に切り換わる。
すなわち、ニュートラル制御が開始されるまでは前進走行ポジションで車両が走行していたが、このときには駆動状態であった。降坂路でのニュートラル制御中にフットブレーキが緩んでもニュートラル制御が実行されていると、車両が少しでも動くと被駆動状態に切り換わることになる。
ニュートラル制御中には、プライマリプーリ回転数センサ1410から入力された信号に基づいて、プライマリプーリ500の回転数NINを検知されて、それがしきい値を超えると(S140にてYES)、ニュートラル制御からの復帰制御が実行される。このときに、ブレーキスイッチがオンのままであると(S150にてYES)、上述したように、ニュートラル制御中に駆動状態から被駆動状態に、パワートレーンの動力伝達方向が切り換わっている。このような場合には、減算タイマがスタートして(S160)、この減算タイマがタイムアップするまで、がた詰め処理が行なわれる(S170)。このとき、ニュートラル制御からの通常の復帰時に用いられる入力クラッチの係合油圧よりも低い油圧になるように制御される。この状態を図4に示す。図3のフローチャートのS170のがた詰め処理が、図4のタイミングチャートのがた詰めモードの区間に対応する。図4に示すように出力軸トルクは、がた詰め処理の作用により、図5に示すような突出する極大なトルク増加を発生していない。
ただし、ニュートラル制御からの復帰当初のがた詰め処理中に、運転者が車両を発進させるためにブレーキペダルを完全に戻すと(S180にてNO)、ニュートラル制御からの通常の復帰処理が行なわれる(S200)。
以上のようにして、本実施の形態に係るECT_ECUによると、ニュートラル制御中にパワートレーンの動力伝達方向が変化していると、ニュートラル制御の復帰条件が成立してニュートラル制御から復帰する場合に、ニュートラル制御から通常通り復帰する場合の入力クラッチの係合油圧よりも低い油圧をまず供給する。次いで、ニュートラル制御から通常通り復帰する場合の摩擦係合要素の係合油圧を供給して、入力クラッチを係合させる。車両が降坂路に停止してニュートラル制御が実行されて、そのときに運転者がニュートラル制御の実行条件が成立する範囲内でフットブレーキを緩めると、車両が極低速で動くとパワートレーンを構成する歯車やスプライン等の動力伝達要素のバックラッシュが、エンジンにより駆動輪を駆動する駆動状態から、駆動輪によりエンジンが駆動される被駆動状態に切り換わる。ニュートラル制御中に車両が少しでも動くと、バックラッシュの詰まり方が逆になることを示す。この状態で、急激に摩擦係合要素を係合させると、被駆動状態から駆動状態に急激に切り換わり、動力伝達要素におけるバックラッシュの状態が急激に切り換わってがた詰めショックが生じる。本実施の形態に係るECT_ECUにおいては、パワートレーンの動力伝達方向がニュートラル制御中に切り換わっていると、まず、係合の度合いを下げていた摩擦係合要素に対して低圧の油圧を供給して、緩やかに係合状態とする。このため、パワートレーンを構成する歯車やスプライン等の動力伝達要素においても、緩やかにバックラッシュによるがたが詰まり、異音やショックが生じることを回避できる。その結果、ニュートラル制御からの復帰時に、駆動系のがた詰めショックを発生させることがない。
なお、がた詰め制御の終了判定を、タイマを用いて時間を管理することにより行なったが、本発明はこれに限定されない。トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)の変化に基づいてがた詰めが終了したことを判断するようにしてもよい。
さらに、本実施の形態においては、自動変速機をベルト式無段変速機として説明したが、本発明はこれに限定されない。自動変速機はトロイダル式無段変速機であっても、流体継手および歯車式変速機構を有する自動変速機であってもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプ羽根車、230 タービン羽根車、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、290 前後進切換え装置、300 CVT、310 入力クラッチ、1400 タービン回転数センサ、1410 プライマリプーリ回転数センサ、1420 セカンダリプーリ回転数センサ、500 プライマリプーリ、600 セカンダリプーリ、700 ベルト、800 デファレンシャルギヤ、1000 ECU、1010 エンジンECU、1020 ECT_ECU、1100 油圧制御部、1110 変速速度制御部、1120 ベルト挟圧力制御部、1130 ロックアップ係合圧制御部、1140 クラッチ圧力制御部、1150 マニュアルバルブ、1200 変速制御用デューティソレノイド(1)、1210 変速制御用デューティソレノイド(2)、1220 リニアソレノイド、1230 ロックアップソレノイド、1240 ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド。