JP4147770B2 - エンジンのスタータ制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンのスタータに係り、更に詳細にはエンジンのスタータ制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車輌に搭載されるエンジンのスタータは、一般に、スタータモータによりピニオンギヤを回転させつつスタータモータの回転軸の軸線に沿ってピニオンギヤをエンジンのクランクシャフトに連結されたリングギヤへ向けて摺動させ、これによりピニオンギヤをリングギヤに噛合させた後、スタータモータによりピニオンギヤを介してリングギヤを回転させることによりエンジンを始動させるようになっている。
【0003】
このスタータによるエンジンの始動時には作動音(クランキングノイズ)が発生するため、クランキングノイズを低減するスタータ制御装置の一つとして、例えば本願出願人の出願にかかる特開2000−291517号公報に記載されている如く、エンジンの停止中に予めピニオンギヤ及びリングギヤを噛み合わせるスタータ制御装置が従来より知られている。
【0004】
この先の提案にかかるスタータ制御装置によれば、エンジンの始動に先立って予めピニオンギヤ及びリングギヤが噛み合わされるので、エンジンの始動時にピニオンギヤがリングギヤへ向けて摺動される際にピニオンギヤの端面がリングギヤの端面に衝当することに起因する衝撃や衝撃音の発生を効果的に低減することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしスタータによるエンジンの始動時に於けるクランキングノイズは、上述の如きピニオンギヤ及びリングギヤの端面が互いに衝当することに起因する衝撃音のみではなく、ピニオンギヤ及びリングギヤの噛み合い摩擦音や歯打ち音も含まれており、特に歯打ち音はピニオンギヤ及びリングギヤのバックラッシに起因するものであり、従って上述の先の提案にかかるスタータ制御装置によってはこれらの騒音を低減することはできない。
【0006】
また車輌の信号待ち時の如く車輌が停止したときにエンジンを自動的に停止し、車輌の走行開始時にエンジンを再始動させる所謂エコランシステムが搭載された車輌の場合には、エコランシステムが搭載されていない通常の車輌の場合に比してエンジンの停止及び始動の頻度が高いので、クランキングノイズの問題は特に重要である。
【0007】
本願発明者が行った実験的研究の結果によれば、ピニオンギヤ及びリングギヤの歯打ち音はエンジンの各気筒のストロークが圧縮行程より仕事行程に移行する際にリングギヤがクランクシャフトより受ける反力トルクの方向が逆転し、リングギヤの回転が急激に促進されることによってリングギヤの歯がピニオンギヤの歯に衝当することに起因して発生し、歯打ち音のレベルは噛み合い摩擦音のレベルよりも遥かに高く、歯打ち音のレベルはスタータモータへ供給される駆動電流の電圧が高いほど高くなり、逆に駆動電流の電圧が低いほど低くなることが判明した。
【0008】
尚、特開昭62−48961号公報には、エンジンの始動時にエンジンの圧縮上死点前の所定のクランク角度位置に於いてスタータモータへの電流供給を制限することにより、圧縮上死点付近に於けるエンジンの回転速度を低下させるスタータ制御装置が記載されている。
【0009】
この公開公報に記載されたスタータ制御装置によれば、圧縮上死点直前の圧縮行程に於けるエンジン燃焼室内の空気温度の上昇を促進し、エンジンの始動性を向上させることはできるが、スタータモータへの電流供給の制限は圧縮上死点付近に於けるエンジンの回転速度を低下させるために行われるので、電流供給の制限タイミングがピニオンギヤ及びリングギヤの歯打ち音発生のタイミングと一致せず、そのため上記公開公報に記載された技術によっては歯打ち音を低減することができない。
【0010】
本発明は、従来のスタータ制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、本願発明者が行った実験的研究の結果得られた知見に基づき、スタータによるエンジン始動時のクランキングの反力トルクが負の値になるストローク域に対応して周期的にスタータモータへ供給される駆動電流の電圧を低くすることにより、エンジンの始動性を悪化させることなくピニオンギヤ及びリングギヤの歯打ち音を効果的に低減することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ちエンジンのクランクシャフトに連結されたリングギヤをスタータのモータによりピニオンギヤを介して回転させることによりエンジンを始動させるスタータ制御装置にして、前記エンジンの各気筒のピストンストロークが圧縮行程の上死点と仕事行程の下死点との間の所定のストローク域であって、前記スタータが前記クランクシャフトを回転させる際の反力トルクが負の値になる区間の主要部を含む所定のストローク域にあるときに前記モータへ供給される駆動電流の電圧を低下させる駆動電圧制御手段を有することを特徴とするスタータ制御装置によって達成される。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記駆動電圧制御手段は前記クランクシャフトの回転角度を検出するクランク角検出手段を含み、前記クランクシャフトの回転角度が前記所定のストローク域に対応する予め設定された所定の回転角度範囲にあるときに前記モータへ供給される駆動電流の電圧を低下させるよう構成される(請求項2の構成)。
【0013】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記所定のストローク域は圧縮行程の上死点よりも前の範囲を含み、前記所定のストローク域のうち圧縮行程の上死点よりも前の範囲は前記所定のストローク域のうち圧縮行程の上死点よりも後の範囲よりも小さいよう構成される(請求項3の構成)。
【0014】
尚本願に於いて、「反力トルクが負の値になる区間の主要部」とは、反力トルクが正の値より負の値になるストローク位置より反力トルクが負のピーク値になるストローク位置までの区間を少なくとも包含する範囲を意味する。
【0015】
【発明の作用及び効果】
一般に、スタータによるエンジンの始動時に於けるクランキングの反力トルク、即ちスタータがクランクシャフトを回転させる際の反力トルクは、一つの気筒について見ると、ピストンストロークの圧縮行程の上死点の直後に反力トルクの方向が逆転することにより負の値、即ちクランクシャフトの回転を促進する方向の値になり、ピストンストロークの仕事行程の下死点よりも前の回転角度の位置に於いて正の値になる。
【0016】
上記請求項1の構成によれば、エンジンの各気筒のピストンストロークが圧縮行程の上死点と仕事行程の下死点との間の所定のストローク域であって、スタータがクランクシャフトを回転させる際の反力トルクが負の値になる区間の主要部を含む所定のストローク域にあるときにスタータのモータへ供給される駆動電流の電圧が低減され、これによりピニオンギヤの回転速度が低減されるので、このストローク域に於いて駆動電流の電圧が低減されない場合に比して、エンジンの各気筒のピストンストロークが仕事行程に移行し反力トルクの方向が逆転する状況に於けるリングギヤ及びピニオンギヤの相対回転速度の大きさを小さくすることができ、従ってリングギヤの歯がピニオンギヤの歯に衝当する度合を低減し、これによりピニオンギヤ及びリングギヤの歯打ち音を効果的に低減することができる。
【0017】
また一般に、エンジンの各気筒のピストンストロークが圧縮行程の上死点と仕事行程の下死点との間の所定のストローク域にあるか否かはクランクシャフトの回転角度により判定可能である。上記請求項2の構成によれば、クランクシャフトの回転角度が所定のストローク域に対応する予め設定された所定の回転角度範囲にあるときにスタータのモータへ供給される駆動電流の電圧が低減され、これによりリングギヤに対するピニオンの駆動トルクが低減されるので、エンジンの各気筒のピストンストロークが所定のストローク域にあるときにスタータのモータへ供給される駆動電流の電圧を確実に低下させることができる。
【0018】
また上記請求項3の構成によれば、所定のストローク域は圧縮行程の上死点よりも前の範囲を含むので、ピストンストロークが仕事行程のストローク域にあるときにのみ駆動電流の電圧が低下される場合に比して、エンジン始動時の歯打ち音を効果的に低減することができる。また上記請求項3の構成によれば、所定のストローク域のうち圧縮行程の上死点よりも前の範囲は所定のストローク域のうち圧縮行程の上死点よりも後の範囲よりも小さいので、二つの範囲の大小関係が逆である場合に比して、エンジンの始動性悪化の虞れを低減することができると共に、エンジン始動時の歯打ち音を効果的に低減することができる。
【0019】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、スタータがクランクシャフトを回転させる際の反力トルクが予め求められ、所定のストローク域は反力トルクが負の値になるストローク域に基づいて予め設定されるよう構成される(好ましい態様1)。
【0021】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、所定のストローク域は反力トルクが負の値であって大きさが基準値以上であるストローク域を含むよう設定される(好ましい態様)。尚この場合、基準値はエンジンの始動性を悪化させることなくピニオンギヤ及びリングギヤの歯打ち音を効果的に低減することができるよう例えば実験的に求められる。
【0022】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、所定のストローク域は反力トルクが負の値より正の値になる前に終るよう設定される(好ましい態様)。
【0024】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、駆動電圧制御手段はクランクシャフトの回転角度が予め設定された所定の角度になった時点より予め設定された所定の時間に亘りモータへ供給される駆動電流の電圧を低下させるよう構成される(好ましい態様)。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、モータへ供給される駆動電流の電圧は負の値である反力トルクの大きさに応じて低減されるよう構成される(好ましい態様)。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項の構成に於いて、駆動電圧制御手段はスタータがクランクシャフトを回転させる際の反力トルクを検出する反力トルク検出手段を含み、反力トルクがピーク値を過ぎた後に予め設定された基準値になった時点より予め設定された所定の時間に亘りスタータモータへ供給される駆動電流の電圧を低下させるよう構成される(好ましい態様)。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0030】
第一の実施形態
図1はエコランシステムが搭載された車輌に適用された本発明によるエンジンのスタータ制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図、図2は図1に示されたスタータを示す側面図である。
【0031】
図1に於いて、10は4気筒4サイクルガソリンエンジンを示し、12はトランスミッションを示し、14はエンジン10を始動するためのスタータを示している。エンジン10はクランクシャフト16を有し、スタータ14は後に詳細に説明する如くスタータ制御装置18により制御されることによってクランクシャフト16を回転させることによりエンジン10を始動する。
【0032】
図2に示されている如く、スタータ14は出力軸20を有するスタータモータ22を含み、出力軸20の一端にはその軸線24に沿ってスタータモータ22に対し相対的に往復動可能にピニオンギヤ26が担持されている。また出力軸20には枢軸28により枢支されたドライブレバー30の一端が係合し、ドライブレバー30の他端は電磁式のプランジャ装置32のプランジャ34により軸線24に沿う方向に駆動されるようになっている。
【0033】
図には示されていないが、クランクシャフト16にはフライホイールが固定されフライホイールにはリングギヤ36が連結されており、ピニオンギヤ26はエンジン10の始動時にリングギヤ36と噛合する。ドライブレバー30はスプリング38により枢軸28の周りに図2で見て反時計廻り方向に付勢されており、通常時にはプランジャ34が図2に示された位置に維持され、これによりピニオンギヤ26は図2に示された位置に位置決めされることにより、リングギヤ36と噛合しない状態に維持される。
【0034】
これに対しエンジン10の始動時には、プランジャ装置32のプランジャ34が図2で見て右方へ駆動され、ドライブレバー30がスプリング38のばね力に抗して時計廻り方向に枢動し、これによりピニオンギヤ26がA方向へ移動され、スタータモータ22による出力軸20の回転により比較的低い回転速度にて回転する状態でリングギヤ36と噛合する。ピニオンギヤ26及びリングギヤ36の噛合が完了すると、出力軸20がスタータモータ22により比較的高い回転速度にて回転駆動され、これによりクランクシャフト16が回転駆動されることによりエンジン10が始動される。
【0035】
エンジン10の始動が完了すると、ドライブレバー30がスプリング38のばね力により反時計廻り方向へ枢動され、プランジャ装置32のプランジャ34が図2に示された位置まで左方へ戻されることにより、ピニオンギヤ26がB方向へ移動され、リングギヤ36との噛合状態より離脱せしめられる。この場合、エンジン10の運転によるクランクシャフト16の回転により、ピニオンギヤ26がリングギヤ36によって高回転速度にて回転され出力軸20が高回転速度にて回転されることがないよう、出力軸20にはピニオンギヤ26の回転が出力軸20に伝達されることを制限するクラッチ装置40が設けられている。
【0036】
図1に示されている如く、スタータ14のスタータモータ22及びプランジャ装置32にはバッテリ42より電圧制御装置44を介して駆動電流が供給される。電圧制御装置44は図には示されていない内蔵スイッチを有し、スタータモータ22及びプランジャ装置32への駆動電流の供給は運転者により操作される図には示されていないスタータスイッチ又は内蔵スイッチにより制御され、スタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsはエンジン制御装置46により制御される。
【0037】
エンジン制御装置46にはクランク角センサ48よりクランクシャフト16の回転角度、即ちクランク角θ(0〜360°)を示す信号及びエンジン回転数の如きエンジンの制御に必要な他の情報が入力され、それらの情報に基づいて当技術分野に於いて公知の種々のエンジン制御を行う。尚エンジン制御装置46は実際には例えばCPU、ROM、RAM、入出力装置等を備えたマイクロコンピュータであってよい。
【0038】
かくしてエンジン制御装置46、電圧制御装置44、クランク角センサ48は互いに共働してスタータ制御装置18を構成し、エンジン制御装置46及び電圧制御装置44は互いに共働してスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsを制御する駆動電圧制御手段を構成している。
【0039】
エンジン制御装置46はスタータスイッチがオン状態にあり且つエンジンが停止しているときには、当技術分野に於いて公知の要領にてエンジンの再始動条件が成立したか否かを判定し、エンジンの再始動条件が成立した旨の判定が行われたときには、エンジンの再始動が完了するまで内蔵スイッチをオン状態に切り替えてスタータモータ22及びプランジャ装置32へ駆動電流を供給し、エンジン10の各気筒のピストンストロークが圧縮行程の上死点と仕事行程の下死点との間の所定のストローク域にあるときにはスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsを他のストローク域よりも低下させる。
【0040】
特に第一の実施形態のエンジン制御装置48は、エンジン10の圧縮行程の上死点に対応するクランク角をθ1、θ2(=θ1+180°)、θ3(=θ1+360°)、θ4(=θ1+540°)とし、Δθmを正の定数とし、ΔθpをΔθmよりも大きく90°よりも小さい正の定数として、図3に示された電圧低下パターンに従って、クランク角θに基づきクランク角θがθ1−Δθm〜θ1+Δθp、θ2−Δθm〜θ2+Δθp、θ3−Δθm〜θ3+Δθp、θ4−Δθm〜θ4+Δθpの角度範囲にあるときに、スタータモータ22への駆動電流の電圧Vsをその標準電圧Vsoよりも低下させる。
【0041】
この場合、駆動電流の電圧Vsが低下されるクランク角θの範囲を決定する角度Δθm及びΔθpはエンジン10の気筒数、ピニオンギヤ26のピッチ角、ピニオンギヤ26及びリングギヤ36のピッチ円の関係などに応じて、エンジン10の始動性を実質的に損なうことなくピニオンギヤ26及びリングギヤ36の歯打ち音を効果的に低減することができる値になるよう、また一つの気筒についての駆動電流の電圧Vsの低下期間が当該気筒の仕事行程の下死点を越えることがないよう、例えば実験的に設定される。
【0042】
特に図3はエンジン10について予め求められたクランク角θとクランキングの反力トルクTcとの関係及び一つの気筒についての各行程を示しており、図3に示されている如く、角度Δθpは駆動電流の電圧Vsの低下期間が後続の気筒の圧縮行程による反力トルクTcの正の区間に大きく跨ることがない値に設定される。
【0043】
かくして図示の第一の実施形態によれば、エンジン10の各気筒の圧縮行程の上死点に対応するクランク角の前後の所定のストローク域に於いてスタータモータ22への駆動電流の電圧Vsが低下され、これにより反力トルクTcが負の値になる区間の主要部を含むストローク域に於いてリングギヤ36に対するピニオンギヤ26の駆動トルクが低減される。前述の如く歯打ち音は各気筒の圧縮行程の上死点の直後にクランクシャフト16がピストンよりコネクティングロッドを介して受ける反力トルクの方向が逆転することに起因してリングギヤ36の歯がピニオンギヤ26の歯に打ちつけられることにより発生する。リングギヤ36の歯がピニオンギヤ26の歯に打ちつけられる際の衝撃はリングギヤ36及びピニオンギヤ26の相対回転速度の大きさが大きいほど高い。反力トルクの方向が逆転する際のリングギヤ36及びピニオンギヤ26の相対回転速度の大きさはピニオンギヤ26の回転速度が高いほど大きく、ピニオンギヤ26の回転速度はスタータモータ22への駆動電流の電圧V s が高いほど高いので、歯打ち音はスタータモータ22への駆動電流の電圧Vsが高いほど大きくなる。図示の第一の実施形態によれば、スタータモータ22への駆動電流の有効電圧を確実に低下させることができるので、上述の如く駆動電流の電圧Vsが低下されない場合に比して歯打ち音を効果的に低減することができる。
【0044】
また図示の第一の実施形態によれば、スタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsはエンジン10の各気筒の圧縮行程の上死点に対応するクランク角の前後の所定のストローク域に於いてのみ低下され、反力トルクT c が正の値になる区間の主要部に於いては低下されないので、スタータ14によるエンジン10の始動性を大きく損なうことを回避することができる。
【0045】
特に図示の第一の実施形態によれば、上述の如く角度Δθmは正の値であり、エンジン10の各気筒のピストンストロークが圧縮行程の上死点よりも前のストローク域にある時点よりスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsが低下されるので、各気筒のピストンストロークが仕事行程のストローク域にあるときにのみ駆動電流の電圧Vsが低下される場合に比して、確実にエンジン始動時の歯打ち音を効果的に低減することができる。尚このことは、後述の第二及び第四の実施形態についても同様である。
【0046】
また図示の第一の実施形態によれば、上述の如く角度Δθmは角度Δθpよりも小さいので、これらの角度の大小関係が逆である場合に比して、エンジン10の始動性悪化の虞れを低減することができると共に、エンジン始動時の歯打ち音を効果的に低減することができる。
【0047】
第二の実施形態
この第二の実施形態のエンジン制御装置46は、上述の第一の実施形態の場合と同様、スタータスイッチがオン状態にあり且つエンジンが停止しているときには、エンジンの再始動条件が成立したか否かを判定し、エンジンの再始動条件が成立した旨の判定が行われたときには、エンジンの再始動が完了するまで内蔵スイッチをオン状態に切り替えてスタータモータ22及びプランジャ装置32へ駆動電流を供給し、これによりエンジン10を始動する。尚このことは、後述の他の実施形態についても同様である。
【0048】
この場合エンジン制御装置46は、図4に示されている如く、クランク角θがθ1−Δθm、θ2−Δθm、θ3−Δθm、θ4−Δθmになった時点より予め設定された所定の時間ΔTa(正の定数)に亘りスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsを予め設定された所定の電圧低下パターンにて低下させる。
【0049】
尚所定の時間ΔTaはピニオンギヤ26及びリングギヤ36のピッチ円の関係、スタータモータ22の回転速度、角度Δθmなどに応じて、エンジン10の始動性を実質的に損なうことなくピニオンギヤ26及びリングギヤ36の歯打ち音を効果的に低減することができる値になるよう、また一つの気筒についての駆動電流の電圧Vsの低下期間が当該気筒の仕事行程の下死点を越えることがなく且つ後続の気筒の圧縮行程による反力トルクTcの正の区間に大きく跨ることがないよう、例えば実験的に設定される。
【0050】
かくして図示の第二の実施形態によれば、エンジン10の各気筒の圧縮行程の上死点より前のピストンストロークの時点より所定の時間ΔTaに亘りスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsが予め設定された所定の電圧低下パターンにて低下され、これにより反力トルクTcが負の値になる区間の主要部を含むストローク域に於いてリングギヤ36に対するピニオンギヤ26の駆動トルクが低減されるので、各気筒の圧縮行程の上死点の直後にクランクシャフト16がピストンよりコネクティングロッドを介して受ける反力トルクの方向が逆転することに起因してリングギヤ36の歯がピニオンギヤ26の歯に打ちつけられる度合を低減し、これによりピニオンギヤ26及びリングギヤ36の歯打ち音を効果的に低減することができる。
【0051】
特に図示の第二の実施形態によれば、スタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsは所定の時間ΔTaに亘り予め設定された所定の電圧低下パターンにて低下されるので、上述の第一の実施形態の場合に比して駆動電流の電圧Vsの低減制御を容易に実行することができる。
【0052】
第三の実施形態
図5はエコランシステムが搭載された車輌に適用された本発明によるエンジンのスタータ制御装置の第三の実施形態を示す概略構成図である。尚図5に於いて図1に示された部材と同一の部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
【0053】
この実施形態に於いては、クランク角センサ48は設けられていないが、クランキングの反力トルク、即ちスタータ14によりクランクシャフト16を回転駆動する際の実際の反力トルクTcaを検出するトルクセンサ50が設けられており、エンジン制御装置46にはクランキングの反力トルクTcaを示す信号及びエンジン回転数の如きエンジン制御に必要な他の情報が入力される。
【0054】
この第三の実施形態に於いては、スタータモータ22へ供給される駆動電流の標準電圧をVsoとし、Kを正の一定の係数として、エンジン制御装置46は、図6に示されている如く、クランキングの反力トルクTcaが負の値になる時間に亘り、スタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsを例えば下記の式1に従って演算することにより低下させる。尚電圧Vsは演算される電圧Vsが負の値であるときには0に設定される。
Vs=Vso(1+KTc) ……(1)
【0055】
かくして図示の第三の実施形態によれば、クランキングの実際の反力トルクTcaが負の値になる時間に亘り、スタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsがクランキングの反力トルクTcaの大きさに応じて低減されるので、クランキングの実際の反力トルクTcaの大きさに応じてリングギヤ36に対するピニオンギヤ26の駆動トルクを低減することができ、これにより上述の第一及び第二の実施形態の場合に比して確実に且つ効果的にピニオンギヤ26及びリングギヤ36の歯打ち音を低減することができる。
【0056】
第四の実施形態
この第四の実施形態は上述の第三の実施形態の修正例であり、この実施形態のエンジン制御装置46は、図7に示されている如く、クランキングの実際の反力トルクTcaが正のピーク値になった後に基準値Tce(正の定数)になった時点より予め設定された所定の時間ΔTb(正の定数)に亘りスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsを予め設定された所定の電圧低下パターンにて低下させる。
【0057】
尚所定の時間ΔTbもピニオンギヤ26及びリングギヤ36のピッチ円の関係、スタータモータ22の回転速度、基準値Tceなどに応じて、エンジン10の始動性を実質的に損なうことなくピニオンギヤ26及びリングギヤ36の歯打ち音を効果的に低減することができる値になるよう、また一つの気筒についての駆動電流の電圧Vsの低下期間がエンジンの仕事行程の下死点を越えることがなく且つ後続の気筒の圧縮行程による反力トルクTcaの正の区間に大きく跨ることがないよう、例えば実験的に設定される。
【0058】
かくして図示の第四の実施形態によれば、クランキングの実際の反力トルクTcaが正のピーク値になった後に基準値Tceになった時点より所定の時間ΔTbに亘りスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsが予め設定された所定の電圧低下パターンにて低下され、これにより実際の反力トルクTcaが負の値になる区間の主要部を含むストローク域に於いてリングギヤ36に対するピニオンギヤ26の駆動トルクが低減されるので、各気筒の圧縮行程の上死点の直後にクランクシャフト16がピストンよりコネクティングロッドを介して受ける反力トルクの方向が逆転することに起因してリングギヤ36の歯がピニオンギヤ26の歯に打ちつけられる度合を低減し、これによりピニオンギヤ26及びリングギヤ36の歯打ち音を効果的に低減することができる。
【0059】
特に図示の第四の実施形態によれば、スタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsは所定の時間ΔTbに亘り予め設定された所定の電圧低下パターンにて低下されるので、上述の第二の実施形態の場合と同様、駆動電流の電圧Vsの低減制御を容易に実行することができる。
【0060】
第五の実施形態
この第五の実施形態は上述の第一の実施形態の修正例として構成されており、この第五の実施形態に於いては、エンジン10について予めクランク角θとクランキングの反力トルクTcとの関係が求められ、エンジン制御装置46は、図8に示されている如く、クランク角θとクランキングの反力トルクTcとの関係に対応する電圧増減パターンを記憶しており、その電圧増減パターンに従ってスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsを増減制御する。
【0061】
かくして図示の第五の実施形態によれば、クランキングの反力トルクTcの増減変動に応じてスタータモータ22へ供給される駆動電流の電圧Vsを増減させることができるので、上述の各実施形態の場合に比して確実に且つ効果的にピニオンギヤ26及びリングギヤ36の歯打ち音を低減することができると共に、反力トルクTcが高い区間のクランキングトルクを反力トルクTcに応じて高くすることができ、これにより上述の各実施形態の場合に比してエンジン10の始動性を向上させることができる。
【0062】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0063】
例えば上述の第一及び第二の実施形態に於いては角度Δθmは正の値であり、上述の第四の実施形態に於いては基準値Tceは正の値であり、駆動電流の電圧Vsの低下は各気筒のピストンストロークが圧縮行程の上死点よりも前のストローク域にある時点に於いて開始されるようになっているが、反力トルクTc又はTcaが負の値である区間の大部分に於いて駆動電流の電圧Vsが低下されれば所期の結果が得られるので、例えば角度Δθm、基準値Tceが0又は負の値に設定されることにより、これらの実施形態に於いても各気筒のピストンストロークが圧縮行程の上死点又はそれよりも後のストローク域にある時点に於いて駆動電流の電圧Vsの低下が開始されるよう修正されてもよい。
【0064】
また上述の第一、第二、第四の実施形態に於いては、駆動電流の電圧Vsの低下は反力トルクTc又はTcaが負の値より正の値になる直前に終了するようになっているが、反力トルクTc又はTcaが負の値より正の値になった直後に終了するよう修正されてもよい。
【0065】
また上述の第一及び第四の実施形態に於いては、それぞれ所定の時間Ta及びTbが一定に設定され、駆動電流の電圧Vsが一定の時間低下されるようになっているが、所定の時間Ta及びTbが例えばエンジン回転数やスタータモータ22の回転速度に基づキスタータ14によるクランキング速度が高いほど小さくなるよう設定されることにより、駆動電流の電圧Vsの低下時間はクランキング速度が高いほど短くなるようクランキング速度に応じて可変設定されるよう修正されてもよい。
【0066】
また上述の第五の実施形態に於いては、反力トルクTcが負の値であるか正の値であるかに関係なく反力トルクTcに対する駆動電流の電圧Vsの増減量の比は一定であるが、この比は反力トルクTcaが負の値である場合にそれが正の値である場合に比して大きくなるよう可変設定されてもよい。
【0067】
また上述の各実施形態に於いては、駆動電流の電圧Vsは曲線的な変化パターンを描くよう所定のストローク域に於いて低下されるようになっているが、例えば第一の実施形態の修正例として図9に示されている如く、駆動電流の電圧Vsは直線的な変化パターンを描くよう低下されてもよく、駆動電流の電圧Vsは0まで低下されてもよい。
【0068】
更に上述の各実施形態に於いては、エンジンは4気筒の4サイクルガソリンエンジンであるが、本発明のスタータ制御装置が適用されるエンジンは、4気筒以外の気筒数のエンジンであってもよく、また2サイクルエンジンであってもよく、更にはディーゼルエンジンであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】エコランシステムが搭載された車輌に適用された本発明によるエンジンのスタータ制御装置の第一の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示されたスタータを示す側面図である。
【図3】第一の実施形態に於けるクランク角θとクランキングの反力トルクTcとの間の関係及びクランク角θとスタータモータへ供給される駆動電流の電圧Vsとの間の関係を示すグラフである。
【図4】第二の実施形態に於けるクランク角θとクランキングの反力トルクTcとの間の関係及びクランク角θとスタータモータへ供給される駆動電流の電圧Vsとの間の関係を示すグラフである。
【図5】エコランシステムが搭載された車輌に適用された本発明によるエンジンのスタータ制御装置の第三の実施形態を示す概略構成図である。
【図6】第三の実施形態に於けるクランク角θとクランキングの実際の反力トルクTcaとの間の関係及びクランク角θとスタータモータへ供給される駆動電流の電圧Vsとの間の関係を示すグラフである。
【図7】第四の実施形態に於けるクランク角θとクランキングの実際の反力トルクTcaとの間の関係及びクランク角θとスタータモータへ供給される駆動電流の電圧Vsとの間の関係を示すグラフである。
【図8】第五の実施形態に於けるクランク角θとクランキングの反力トルクTcとの間の関係及びクランク角θとスタータモータへ供給される駆動電流の電圧Vsとの間の関係を示すグラフである。
【図9】第一の実施形態の修正例に於けるクランク角θとクランキングの反力トルクTcとの間の関係及びクランク角θとスタータモータへ供給される駆動電流の電圧Vsとの間の関係の他の例を示すグラフである。
【符号の説明】
10…エンジン
14…スタータ
16…クランクシャフト
18…スタータ制御装置
22…スタータモータ
26…ピニオンギヤ
32…プランジャ装置
36…リングギヤ
44…電圧制御装置
46…エンジン制御装置
48…クランク角センサ
50…トルクセンサ

Claims (3)

  1. エンジンのクランクシャフトに連結されたリングギヤをスタータのモータによりピニオンギヤを介して回転させることによりエンジンを始動させるスタータ制御装置にして、前記エンジンの各気筒のピストンストロークが圧縮行程の上死点と仕事行程の下死点との間の所定のストローク域であって、前記スタータが前記クランクシャフトを回転させる際の反力トルクが負の値になる区間の主要部を含む所定のストローク域にあるときに前記モータへ供給される駆動電流の電圧を低下させる駆動電圧制御手段を有することを特徴とするスタータ制御装置。
  2. 前記駆動電圧制御手段は前記クランクシャフトの回転角度を検出するクランク角検出手段を含み、前記クランクシャフトの回転角度が前記所定のストローク域に対応する予め設定された所定の回転角度範囲にあるときに前記モータへ供給される駆動電流の電圧を低下させることを特徴とする請求項1に記載のスタータ制御装置。
  3. 前記所定のストローク域は圧縮行程の上死点よりも前の範囲を含み、前記所定のストローク域のうち圧縮行程の上死点よりも前の範囲は前記所定のストローク域のうち圧縮行程の上死点よりも後の範囲よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のスタータ制御装置。
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