JP4146210B2 - 防振ブッシュの製造方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車のサスペンション機構の一部に組み込まれて、振動を緩和するために使用される防振ブッシュの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車では、車輪側から車体側に伝達される振動、あるいはエンジン側から車体側に伝達される振動等を制御するため、サスペンション機構やエンジンの支持機構の一部に、防振ブッシュが組み込まれている。かかる防振ブッシュの一例として、軸直角方向におけるバネ定数を大きくしつつ、こじり方向におけるバネ定数を小さくするため、内筒の軸方向中央部に軸直角方向に膨出する膨出部を設けた、いわゆるバルジタイプの防振ブッシュがある。
【0003】
図6は、従来のバルジブッシュの一例を示したものである。この防振ブッシュは、軸方向中央部に軸直角方向に膨出する膨出部101を備える金属製の内筒102と、これを取り囲む外筒103と、両筒102,103の間に介設されたゴム状弾性体104とを備えてなる。そして、膨出部101によって軸方向中央部のゴム状弾性体104の厚みを両端部よりも薄くしたことにより、軸直角方向A(軸方向に直交する方向)におけるバネ定数を大きく、かつ、こじり方向B(内外筒金具102,103の中心軸同士が相対的に傾斜する方向)におけるバネ定数を小さく設定しており、これにより、乗り心地の改良と操縦安定性の向上との両立を図っている。
【0004】
図6に示す従来の防振ブッシュにおいては、内筒102の膨出部101が鍛造により一体に設けられている。そのため、加工コストが高く、また、製品重量アップにつながる。更に、鍛造の場合、内筒102本体の外径に対する膨出部101での外径を一定以上大きくすることが成形上難しく、そのため、軸直角方向のバネ定数とこじり方向のバネ定数との間での設計自由度が低い。
【0005】
そこで、上記膨出部を合成樹脂製の環状被覆体により形成することが提案されている。特許文献1には、図7に示すように、内筒110の中央部外周面に膨出部として合成樹脂製の環状被覆体112を固設し、この環状被覆体112を内包させて、内筒110と外筒114との間にゴム状弾性体116を介設した防振ブッシュが提案されている。このように内筒110の外周面に環状被覆体112を設ける場合、ゴム状弾性体116を加硫成形する際に、その熱と圧力により環状被覆体112が移動してしまうことがある。そのため、特許文献1には、環状被覆体112の抜け止めとして、内筒110の外周面に2〜4箇所の凹部118を周方向に設けてこれに合成樹脂の一部を充填させたり、あるいはまた、該抜け止めを逆に凸設するなどして環状被覆体112を固定することが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、図8に示すように、環状被覆体112の軸方向及び回転方向での位置ズレ防止のために、内筒110の軸方向中央部の外周面に環状被覆体112の被覆幅に近い長さを有しかつ底部が平坦な座面120を周方向に複数凹設し、環状被覆体112の成形時に座面120に合成樹脂を流入させることにより、これら座面120に環状被覆体112を着座させて固定することが開示されている。
【0007】
【特許文献1】
実開平5−64544号公報
【0008】
【特許文献2】
実開平6−76729号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記した図7,8に示す防振ブッシュでは、環状被覆体の位置ズレ防止のために内筒にある程度大きな凹部を複数設けており、そのため、内筒の軸方向における荷重に対する座屈強度が低下してしまう。また、図7,8に示すような従来の位置ズレ防止構造は、図6に示す鍛造に比べれば低コストであるもののなお成形にある程度の工数を要するため、更なる低コスト化が求められる。更に、凹部を設けることにより切削屑がでるため、環境面からも改善が求められる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、いわゆるバルジタイプの防振ブッシュにおいて、内筒表面に膨出部として設ける合成樹脂製環状被覆体の位置ズレを防止しながら、内筒の軸方向における座屈強度に優れ、低コストで、また環境性にも優れる防振ブッシュを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の防振ブッシュの製造方法は、軸方向の中央部に軸直角方向に膨出する膨出部を有する内筒と、該内筒の外側に間隔をおいて配置された外筒と、前記の内筒と外筒との間に介設されたゴム状弾性体とを備えてなり、前記内筒が、金属パイプと、該金属パイプの軸方向中央部の外周面に設けられた前記膨出部を構成する環状被覆体とからなる防振ブッシュの製造方法であって
前記金属パイプを固定治具に固定した状態で、軸方向中央部の外周面にローレット目設けるローレット加工を行うとともに、前記金属パイプの少なくとも一方の軸方向端面にセレーションを設けるセレーション加工を行うことにより、ローレット目とセレーションを同時に設ける工程と
前記ローレット目と前記セレーションを設けた後に、前記金属パイプを焼入れする工程と、
前記焼入れにより硬化した前記金属パイプの前記ローレット目を含む外周面に、前記環状被覆体を、合成樹脂の型成形により固着して設ける工程と、
前記環状被覆体が設けられた前記内筒に対し、当該環状被覆体を包み込むように前記内筒の外周に前記ゴム状弾性体を加硫成形する工程と、を含むものである。
【0012】
本発明の防振ブッシュであると、内筒の外周面にローレット目を設けて、その表面に合成樹脂の型成形により膨出部としての環状被覆体を設けたので、合成樹脂がローレット目の細かい網目状の溝内に入り込んで、環状被覆体が内筒の外周面に強固に固着される。そのため、ゴム状弾性体の加硫成形時における環状被覆体の軸方向及び回転方向での位置ズレが防止される。また、ローレット目は、外周面に刻み目を有する円筒状のローレットを回転させながら押し付けるという簡単な方法により設けることができるので、低コストであり、また、切削屑もでないので環境面でも優れる。
【0013】
かる防振ブッシュは、車両に組付ける際に、内筒の両端面がブラケット等の取付部材で挟まれた状態、あるいは内筒の一方の端面だけが取付部材に当接された状態で、内側にボルト等の軸部材が挿通されて取付部材に締結固定される。そのため、取付部材に当接する内筒の端面にセレーションを設けたことにより、車両への組付け時に該セレーションが取付部材に食い込んで、組付け時はもちろんその後の使用時においても内筒の不所望な回転が防止される。また、焼入れによりセレーションの強度が向上されるとともに、内筒の軸方向における座屈強度も向上される。このセレーションと上記ローレット目は同時進行にて加工することができるため、内筒の回転防止のためのセレーションと、環状被覆体の位置ズレ防止のためのローレット目とを組み合わせることが有利であり、セレーション加工とローレット加工を同時に行うことで加工時間を短縮することができる
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1,2に示すように、本発明の一実施形態に係る防振ブッシュであるサスペンション用ブッシュは、内筒10と、内筒10を取り囲みその軸直角方向外方に間隔をあけて配置された外筒12と、内筒10と外筒12との間に介設されたリング状のゴム状弾性体14とを備えてなる。そして、内筒10は、その両端面16,16がブラケット等の取付部材1で挟まれた状態で、ボルト2を持つ軸部材3を挿通してナット4で締め付けることにより取付部材1に固定され、また、外筒12は、他方の取付部材である筒部5内に圧入することにより固定され、これにより、防振ブッシュは両取付部材1,5を防振的に連結する。
【0015】
内筒10は、鋼製の金属パイプ18と、その軸方向中央部の外周面に設けられた合成樹脂製の環状被覆体20とからなる。また、外筒12は、例えば鋼製の筒状のものであって、その軸方向長さは内筒10に設けられた環状被覆体20に対して同等以上に設定されている。また、ゴム状弾性体14は、加硫成形によって環状被覆体20を包み込むように内筒10と外筒12との間に介設されており、環状被覆体20の厚みの影響で、軸方向中央付近で薄くなり、軸方向両端付近で厚く設定されている。このように、ゴム状弾性体14が軸方向中央付近で薄くされることにより、その軸直角方向のばね定数が大きく設定され、また軸方向両端付近で厚くされることにより、こじり方向のばね定数が小さく設定されている。なお、ゴム状弾性体14は、軸方向及び軸直角方向並びにこじり方向の3方向でのばね定数を所望の値に設定するために、周方向の所定範囲で軸方向に貫通する貫通孔26が設けられている。
【0016】
内筒10を構成する金属パイプ18は、軸方向中央部の外周面にローレット目22が設けられ、かつ、軸方向両端面16,16にセレーション24が設けられ、更に焼入れにより硬化されたものである。
【0017】
ここで、ローレット目22の刻み目構成は、環状被覆体20の位置ズレを防止できるものであれば特に限定されないが、山間のピッチが0.5〜3.0mm程度、より好ましくは1.5mm程度、深さが0.3〜1.5mm程度、より好ましくは0.6mm程度の格子状の網目模様とすることが好ましい。また、ローレット目22の形成幅W1は、環状被覆体20の固定効果を高めるためにはできるだけ広いことが好ましいが、広すぎて環状被覆体20からはみ出してしまうとゴム状弾性体14の加硫成形時にローレット目22にゴムが侵入してしまうため、環状被覆体20の幅W2の0.4〜0.8倍程度が好ましい(図5参照)。
【0018】
セレーション24は、図2に示すように、金属パイプ18の端面に半径方向に延びる溝を周方向に所定のピッチで多数設けてなるものであり、図4に拡大して示すように、溝間のランドは断面山形をなし、その隣り合う斜面の角度θは60°〜120°程度、より好ましくは90°程度に設定され、山間のピッチPは0.5〜3.0mm程度、より好ましくは1.5mm程度に設定され、更に深さDは0.3〜1.5mm程度、より好ましくは0.6mm程度に設定されることが好ましい。
【0019】
環状被覆体20は、金属パイプ18のローレット目22を完全に覆うように、ローレット目22を含む金属パイプ18の外周面に合成樹脂の型成形により固着して設けられており、内筒10本体から軸直角方向に略球状に膨出している。環状被覆体20は、種々の合成樹脂で成形することができるが、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドや、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシドなどで形成するのが好適である。
【0020】
この防振ブッシュの製造方法は、(1)内筒10を作製する工程と、(2)作製した内筒10の外周面にゴム状弾性体14を加硫成形する工程とを含む。そして、工程(1)は更に、(1−1)金属パイプ18の軸方向中央部の外周面にローレット目22を設ける工程と、(1−2)金属パイプ18の軸方向端面にセレーション24を設ける工程と、(1−3)ローレット目24とセレーション24を設けた金属パイプ18を焼入れする工程と、(1−4)焼入れした金属パイプ18の外周面に環状被覆体20を合成樹脂の型成形により固設する工程とからなる。
【0021】
工程(1−1)において、金属パイプ18にローレット目22を設ける方法としては公知のローレット加工を適用することができ、例えば、外周面に刻み目をつけ焼入れ硬化した円筒状のローレットを回転させながら、金属パイプ18の外周面に押し付ければよい。ローレット加工後、好ましくは灯油洗浄がなされる。
【0022】
工程(1−2)において、金属パイプ18にセレーション24を設ける方法についても公知のセレーション加工を適用することができ、例えば、金属パイプ18の端面にシェービングカッタを用いてセレーション溝を形成すればよい。
【0023】
工程(1−1)と工程(1−2)とは同時に行うことができる。すなわち、金属パイプ18を固定治具に固定した状態で、軸方向中央部の外周面についてはローレット加工を行い、軸方向端面についてはセレーション加工を行うことにより、ローレット目22とセレーション24を同時に設けることができる。従って、加工時間を短縮するためには両者は同時に行うことが好ましい。
【0024】
工程(1−3)の焼入れは、ローレット加工とセレーション加工の後に行う。焼入れにより硬化した金属パイプに対しては、ローレット加工やセレーション加工を施すことが困難だからである。焼入れ方法としては、浸炭後に焼入れ処理する浸炭焼入れが好ましく用いられる。浸炭焼入れは、鋼の表面層の炭素量を増加させるために浸炭剤中で加熱処理して焼入れする方法であり、浸炭剤の種類や処理条件については公知の方法を採用することができる。浸炭焼入れ全硬化層深さは0.3mm程度であることが好ましく、また処理後の表面硬度は、JIS Z 2244によるビッカーズ硬さ値で550〜850HV1(試験荷重9.8N)であることが好ましい。
【0025】
このようにして焼入れした金属パイプ18に対し(図3参照)、工程(1−4)において環状被覆体20を設ける(図5参照)。その成形方法としては、焼入れ後の金属パイプ18を不図示の金型にセットし、そのキャビティ内に溶融した合成樹脂を注入して成形させる射出成形が好ましく用いられる。
【0026】
これにより得られた内筒10に対し、工程(2)においてその外周にゴム状弾性体14を加硫成形する。その際、不図示の金型内に内筒10とこれを取り囲むように外筒12を配置して、両筒10,12の間に原料ゴムを注入してゴム状弾性体14を加硫成形してもよい。この場合、内筒10と外筒12とはゴム状弾性体14によって一体に加硫接着される。あるいはまた、不図示の金型内に内筒10のみを配置し、原料ゴムを注入して内筒10の外周面にゴム状弾性体14を加硫成形し、次いで成形されたゴム状弾性体14の外周面に外筒12を外挿してもよい。この場合、外筒12はゴム状弾性体14に加硫接着されていないが、外挿することでその内側の内筒10及びゴム状弾性体14と一体化される。
【0027】
以上説明した本実施形態によれば、内筒10の中央部に設ける膨出部として合成樹脂製の環状被覆体20を用いたので、防振ブッシュの軽量化が図られる。また、合成樹脂製の環状被覆体20であるとその厚みを自由に設定することができるので、軸方向中央部におけるゴム状弾性体14の厚みを薄くすることも可能となり、軸直角方向のバネ定数とこじり方向のバネ定数との設計自由度が高い。
【0028】
また、内筒10を構成する金属パイプ18の外周面に設けたローレット目22により、ゴム状弾性体14の加硫成形時における環状被覆体20の軸方向及び回転方向での位置ズレを防止することができる。しかも、このような位置ズレ防止構造をローレット目22により達成しており、ローレット加工は上記したようにセレーション加工と同時進行することが可能であるため、大幅な工数アップもなく、低コストにて位置ズレを防止することができ、しかも切削屑もでないので環境面でも優れる。また、金属パイプ18の軸方向端面に設けたセレーション24により、車両組付時及び組付け後における内筒10の不所望な回転が防止され、また焼入れによりセレーション24の強度が向上されるとともに、内筒10の軸方向における座屈強度も向上される。
【0029】
【発明の効果】
本発明の防振ブッシュの製造方法であると、内筒表面に膨出部として設ける合成樹脂製環状被覆体の位置ズレを防止しながら、内筒の軸方向における座屈強度に優れる防振ブッシュを提供することができる。また低コストで環境性にも優れる。更に、大幅な工数アップもなく、内筒の回転防止と環状被覆体の位置ズレ防止を行うことができ、加工時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る防振ブッシュの断面図である。
【図2】該防振ブッシュの側面図である。
【図3】該防振ブッシュの内筒を構成する金属パイプの正面図である。
【図4】該金属パイプの端面のセレーションの拡大断面図である。
【図5】合成樹脂製環状被覆体が固設された内筒を該被覆体を切断して示す正面図である。
【図6】第1の従来例の防振ブッシュの断面図である。
【図7】第2の従来例の防振ブッシュの断面図である。
【図8】第3の従来例の防振ブッシュの断面図である。
【符号の説明】
10……内筒
12……外筒
14……ゴム状弾性体
18……金属パイプ
20……環状被覆体
22……ローレット目
24……セレーション

Claims (1)

  1. 軸方向の中央部に軸直角方向に膨出する膨出部を有する内筒と、該内筒の外側に間隔をおいて配置された外筒と、前記の内筒と外筒との間に介設されたゴム状弾性体とを備えてなり、前記内筒が、金属パイプと、該金属パイプの軸方向中央部の外周面に設けられた前記膨出部を構成する環状被覆体とからなる防振ブッシュの製造方法であって
    前記金属パイプを固定治具に固定した状態で、軸方向中央部の外周面にローレット目設けるローレット加工を行うとともに、前記金属パイプの少なくとも一方の軸方向端面にセレーションを設けるセレーション加工を行うことにより、ローレット目とセレーションを同時に設ける工程と
    前記ローレット目と前記セレーションを設けた後に、前記金属パイプを焼入れする工程と、
    前記焼入れにより硬化した前記金属パイプの前記ローレット目を含む外周面に、前記環状被覆体を、合成樹脂の型成形により固着して設ける工程と、
    前記環状被覆体が設けられた前記内筒に対し、当該環状被覆体を包み込むように前記内筒の外周に前記ゴム状弾性体を加硫成形する工程と、
    を含む防振ブッシュの製造方法
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