JP4143119B2 - 単離p27タンパク質及びそれをコードする核酸分子 - Google Patents
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Description
発明の背景
本出願を通じて種々の公開文献が引用される。これらの引用文献に関する完全な列記は明細書の最後、請求の範囲の直前にある。これらの公開文献の開示は本発明が関連する技術分野のより十分な説明のために、引用することにより本出願の内容となる。
細胞周期の間の進行は、正確な細胞複製のために必要な個別の仕事を分離する不可逆的な一系列のトランジシヨン(以下、本明細書では「遷移」ともいう)により区分される。これらの遷移は、特定の条件が満たされるまで細胞周期を抑制するシグナルにより負に調節される。例えば有糸分裂への突入は、不完全に複製されるDNA又はDNA損傷により阻害される(Weinert and Hartwell,1988)。別のフィードバック経路は、有糸分裂紡錘体が欠陥性である場合にMからG1への遷移を遅らせる(Hoyt et al.,1991:Li & Murry,1991)。これらの細胞周期の進行に対する制限は、細胞分裂の間の遺伝情報の忠実度の保持に必須である(Hartwell & Weinert,1989)。他方G1からS基への遷移は細胞増殖を環境的指示に調和させ、その後、細胞周期進行へのチェックは細胞自律性となる傾向がある(Heartwell et al.,1974;Pardee 1974,1989)。G1の間に細胞周期進行を制限する細胞外の影響の中に、細胞増殖を阻害するタンパク質、成長因子又はアミノ酸枯渇及び細胞−細胞接触がある。これらのシグナル経路の崩壊は、細胞応答を環境的調節から離し、抑制されない細胞増殖に導き得る。
細胞周期の相の間の遷移はサイクリン−依存性キナーゼ(Cdks)の群により触媒される(Nurse,1990;Hartwell,1991)。いくつかの生物において、G2からMへの遷移を調節する生理学的シグナルは有糸分裂Cdk、Cdc2を活性化する一系列の段階を標的とする。Cdc2活性化はトレオニン−161上の酸化により正に調節され(Booher & Beach,1986;Krek & Nigg,1991;Gould et al.,1991;Solomon t al.,1990;1992)、そしてチロシン−15上のリン酸化により負に調節される(Gould & Nurse,1989)。不完全なDNA複製はtyr−15上の脱リン酸化を遅らせ(Dasso & Newport,1990;Smythe & Newport,1992)、tyr−15をリン酸化不可能な残基に変換するCdc2における突然変異は致死的であり、未熟な有糸分裂を引き起こす(Gould & Nurse,1989)。同様に、tyr−15ホスファターゼ、Cdc25の過剰発現(Enoch & Nurse,1990;Kumagai & Dunphy,1991)、又はtyr−15キナーゼの消失(Ludgren et al.,1991)は、有糸分裂が開始される前にDNA複製が完了している必要性を無視する。進行中のDNA複製により引き起こされる有糸分裂への妨害を完全に説明するためには、さらに別のレベルの調節がおそらく必要である(Sorger & Murray,1992;Heald et al.,1993;Stueland et al.,1993)。DNA損傷により誘導される細胞周期の休止はCdc2の不活性化に関連付けることができる(Rowley et al.,1992;Walworth et al.,1993)という証拠もあるが、これに関連するチロシンリン酸化の役割は疑問視されてきた(Barbet & Carr,1993)。
G1期のからS期への遷移を阻害するシグナルがCdk活性化を妨害するといういくつかの証拠が、特に酵母において存在する。交配フェロモン(mating pheromon)アルファ因子はS.セレビシアエ(S.cerevisiae)細胞周期をG1において休止させ(Reid & Hartwell,1977)、これはCDC280キナーゼ活性の低下、ならびにG1サイクリン及びCDC28を含む活性複合体の存在量の減少と関連する(Wittenberg et al.,1990)。FAR1タンパク質はアルファ因子で処理された細胞においてG1サイクリン−CDC28複合体に結合し、これはおそらく細胞周期休止に必要である(Chang & Herskowitz,1990;Peter et al.,1993)。CDC28キナーゼ活性の他の阻害剤が同定されたが、細胞周期進行を調節する生理学的シグナルへのそれらの関連性は未知である(Mendenhall,1993;Dunphy & Newport,1989)。
哺乳類細胞は酵母のように、G1を通る進行及びS期への突入にサイクリン−依存性キナーゼを必要とする(D’Urso et al.,1990;Blow & Nurse,1990;Furukawa et al.,1990;Fang & Newport,1991;Pagano et al.,1993;Tsai et al.,1993)。D及びE−型サイクリンの両方がG1からSへの遷移に関して律速的であり、両方ともマイトジェン成長因子に関する細胞の要求を減少させるが、除去はしない(Ohtsubo & Roberts,1993;Quelle et al.,1993)。しかし、これらのサイクリン及びCdksが細胞増殖を阻害する細胞外シグナルにより負に調節される方法に関する情報はほとんどない。
G1において細胞周期を妨害する2つのシグナル、細胞−細胞接触及びTGF−βがどのようにしてG1サイクリン−依存性キナーゼ、Cdk2の活性に影響を与えるかが研究された(Paris et al.,1990;Elledge & Spotswood,1991;Koff et al.,1991;Tsai et al.,1991;Elledge et al.,1992;Rosenblatt et al.,1992)。Mv1Luミンクの上皮細胞の細胞周期を高密度への成長によりG1において休止させることができる。これらの接触阻害細胞はサイクリンE及びCdk2の両方を発現するがサイクリンE−結合(又は会合)キナーゼ活性は存在しない(Koff et al.,1993)。Mv1Lu細胞がTGF−βの存在下で接触阻害から解放されてもやはりS期への突入は妨げられ、これは網膜芽腫(Rb)タンパク質のリン酸化の妨害と関連する(Laiho et al.,1990)。Cdk2及びCdk4の両方がRbキナーゼとして関連付けられ(Matsushime et al.,1992;Hinds et al.,1993;Kato et al.,1993;Ewen et al.,1993a;Dowdy et al.,1993)、TGF−α誘導細胞周期休止はG1の間のCdksの阻害を含み得ることを示唆している(Howe et al.,1991)。これと一致して、TGF−βによりG1後期において休止した細胞は、接触阻害細胞と同様にサイクリンE及びCdk2を発現するが、触媒的活性サイクリンE−Cdk2複合体を含まない(Koff et al.,1993)。Cdk4合成もTGF−βにより抑制される(Ewenry sl.,1993b)。Cdk2の不活性はCdk4の不在と一緒になってこれらの細胞におけるRbリン酸化への妨害を説明することができる。
本明細書において、接触阻害及びTGF−β処理細胞は力価測定可能な程過剰の、サイクリンE−Cdk2複合体に結合してその活性化を妨げる27kDタンパク質を含むが、増殖細胞はそうではないことが示される。p27の阻害活性はサイクリンD2−Cdk4複合体により競合され得、p27及びサイクリンD2−Cdk4が成長阻害シグナルをCdk2に伝達する経路内で機能することができることを示唆している。
本発明はサイクリンE−Cdk2複合体に結合し、その活性化を阻害することができる単離27kDタンパク質を提供する。本発明はさらに、関連する組み換え核酸分子、宿主ベクター系及びそれを作出するための方法を提供する。最後に本発明はp27機能に作用する、又はそれを模し、細胞増殖におけるp27の調節的役割を有利に利用する薬剤を同定し、用いる方法を提供する。
発明の概略
本発明はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される約27kDの見掛けの分子量を有し、サイクリンE−Cdk2複合体に結合してその活性化を阻害することができる単離タンパク質を提供する。
本発明はさらに本発明のタンパク質をコードする組み換え核酸分子を提供する。
本発明はさらに本発明の組み換え核酸分子を含むベクターを提供する。
本発明はさらにSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される約27kDの見掛けの分子量を有し、サイクリンE−Cdk2複合体に結合してその活性化を阻害することができるタンパク質の製造のための宿主ベクター系を提供し、それは適した宿主中に本発明のベクターを含む。
本発明はさらにSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される約2kDの見掛けの分子量を有し、サイクリンE−Cdk2複合体に結合してその活性化を阻害することができるタンパク質の製造法を提供し、それは本発明の宿主ベクター系をタンパク質の生産を可能にする条件下で成長させ、それにより生産されるタンパク質を回収することを含む。
本発明はさらに、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に阻害することができるか否かの決定方法であって、(a)適した量のp27タンパク質、サイクリンE、Cdk2及び薬剤を適した条件下で接触させ;(b)そのように接触させられたp27、サイクリンE、Cdk2及び薬剤を、p27タンパク質の不在下では活性サイクリンE−Cdk2複合体を形成させうる条件に供し;(c)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を定量的に測定し;(d)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を薬剤の不在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量と比較することを含んでなり、薬剤の不在下におけるより多量の、薬剤の存在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体は、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に阻害できることを示す測定方法も提供する。
本発明はさらに、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に増強することができるか否かの決定方法であって、(a)適した量のp27タンパク質、サイクリンE、Cdk2及び薬剤を適した条件下で接触させ;(b)そのように接触させられたp27、サイクリンE、Cdk2及び薬剤を、p27タンパク質の不在下では活性サイクリンE−Cdk2複合体を形成させる条件に供し;(c)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を定量的に測定し;(d)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を薬剤の不在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量と比較することを含んでなり、薬剤の不在下におけるより少量の、薬剤の存在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体は、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に増強できることを示す測定方法も提供する。
本発明はさらに高増殖性障害を有する患者の処置方法であって、患者に治療的有効量の、患者の高増殖性細胞におけるサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に増強することができる薬剤を投与し、それにより患者を処置することを含んでなる方法も提供する。
本発明はさらに低増殖性障害を有する患者の処置の方法であって、患者に治療的有効量の、患者の低増殖性細胞におけるサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に阻害することができる薬剤を投与し、それにより患者を処置することを含んでなる方法も提供する。
本発明はさらに、患者の細胞におけるp27タンパク質突然変異の存在に伴う患者の高増殖性障害の診断方法であって、患者の細胞における、高増殖性障害を伴うp27タンパク質突然変異の存在を測定し、それにより患者における高増殖性障害を診断することを含んでなる方法も提供する。
本発明はさらに有効量の、適した宿主細胞に感染することができる組み換えウィルス及び製薬学的に許容しする担体を含む製薬学的組成物であって、該組み換えウィルスが本発明の核酸分子を含んでなる組成物も提供する。
最後に本発明は、患者の細胞におけるp27タンパク質突然変異の存在に伴う高増殖性障害に苦しむ患者の処置方法であって、患者の処置に有効な量の本発明の製薬学的組成物を患者に投与することを含んでなる方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
図1A
増殖中の細胞、及び成長休止細胞からの抽出物におけるサイクリンEによるCdk2の活性化。サイクリンEを、接触阻害細胞(0)及びTGF−βの存在下(0β15)又は不在下(15)において接触阻害から15時間解放された細胞からの抽出物に加えた。15時間細胞は本明細書において、それらが細胞周期を通って進行しており、S期に突入したことを示すために「増殖細胞」と呼ばれる。0.05μlのサイクリンEはこれらの抽出物における生理学的量のサイクリンEに相当する。挿入図は最高3回のサイクリンEの生理学的量の滴定を示す。サイクリンEの免疫沈降物をヒストンH1キナーゼ活性に関して検定し、結果をphosphorimagerを用いて定量した。外因性サイクリンEの不在下において観察されるリン酸化のバックグラウンド量を各試料から引き去った。
図1B
増殖中の細胞、及び成長休止細胞からの抽出物におけるサイクリンEによるCdk2の活性化。接触阻害細胞(0)及びTGF−βの存在下(0β15)又は不在下(15)において接触阻害から15時間解放された細胞から抽出物を調製した。種々の量のこれらの抽出物、及び抽出物の混合物に生理学的量のサイクリンEを加えた。増殖中の細胞及び休止細胞からの抽出物は示されている割合で混合され、各混合物におけるタンパク質の合計量は75μgであった。用いられた各抽出物の量(μg)を示す。インキュベーションの後、サイクリンEを免疫沈降させ、H1キナーゼ活性に関して検定した。結果をphosphorimagerを用いて定量した。外因性サイクリンEの不在下において観察されるリン酸化のバックグラウンド量を各試料から引き去った。
図2A
Cdk2阻害剤はサイクリンE−Cdk2複合体に結合する。示されている抽出物をCdk2−セファロースビーズ(K)、サイクリンE−Cdk2セファロースビーズ(EK)、又はブランクセファロースビーズ(0)と共にインキュベートした。Cdk2ビーズは細胞抽出物中に存在するより2倍多いCdk2を含んだ。サイクリンE−Cdk2ビーズは細胞抽出物中に存在するより約60倍多いサイクリンEを含んだ。インキュベーションの後、各上澄み液の一部をウェスターンブロッティングにより分析し、サイクリンE又はCDK2のいずれもマトリックスから浸出しなかったことを確かめた。上澄み液の残りを、生理学的量の2倍のサイクリンEを加えることによりCdk2活性化に関して検定した。サイクリンE免疫沈降物をH1キナーゼ活性に関して検定し、結果をphosphorimagerを用いて定量した。Cdk2ビーズによる阻害剤の部分的枯渇は、細胞抽出物とのインキュベーションの間のサイクリン−Cdk2複合体の形成に帰すことができる。
図2B
Cdk2阻害剤はサイクリンE−Cdk2複合体に結合する。接触阻害細胞(0)、TGF−βの存在下(0β15)又は不在下(15)において接触阻害から15時間解放された細胞の抽出物からCdk2を免疫沈降させた。各免疫沈降物の半分をサイクリンE及びCAKと共にインキュベートし、他の半分をモック(mock)インキュベートした。各免疫沈降物を次いでヒストンH1キナーゼ活性に関して検定し、結果をphosphorimagerを用いて定量した。CAKが加えられない場合、サイクリンEは免疫沈降Cdk2に対して非常に小さい活性化効果しか有していなかった。
図2C
Cdk2阻害剤はサイクリンE−Cdk2複合体に結合する。成長休止細胞からの抽出物におけるサイクリンE活性へのキナーゼ不活性Cdk2の影響。各抽出物を5倍過剰のサイクリンE(このライセートに関するサイクリンE閾値において)、0.5倍過剰のキナーゼ不活性Cdk2(Cdk2K)又は両者と共にインキュベートした。これらの割合は、加えられるサイクリンEの大部分を封鎖せずに加えることができるCdk2の最大量の実験的決定法に基づいて選ばれた。サイクリンE免疫沈降物をH1キナーゼ活性に関して検討し、結果をphosphorimagerを用いて定量した。
図3A
サイクリンBによるCdk2活性化。サイクリンB及びサイクリンEを、TGF−βの存在下(0β15)又は不在下(15)で接触阻害から15時間解放された細胞からの抽出物に加えた。サイクリンの添加後、抽出物を分け、Cdk2のC−末端又はCdk2のC−末端に向けられたいずれかの抗血清を用いて免疫沈降させた。免疫沈降物をH1キナーゼ活性に関して検定し、生成物を12%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。「内在性」と標識されている反応は、添加サイクリンを含まない。
図3B
サイクリンBによるCdk2の活性化。サイクリンBを、TGF−βの存在下(0β15)又は不在下(15)で接触阻害から15時間解放された細胞からの抽出物に加えた。各反応物の半分に精製CAKを補足した。Cdc2のC−末端に向けられた抗体を用いてCdc2を免疫沈降させ、H1キナーゼ活性に関して検定した。結果をphosphorimagerを用いて定量した。
図4A
サイクリンE活性へのサイクリンD−Cdk4複合体の影響。接触阻害細胞(0)、ならびにTGF−βの存在下(0β15)又は不在下(15)で接触阻害から15時間解放された細胞から抽出物を調製した。サイクリンD2、Cdk4、サイクリンD2−Cdk4複合体、又は触媒的不活性Cdk4(Cdk4K)に結合したサイクリンD2を含む複合体を含む0.05ミリリットルのSf9細胞ライセートをこれらの抽出物に、生理学的量のサイクリンEと共に加えた。これらの量のサイクリンD2及びCdk4はこれらのタンパク質の生理学的量に密接に対応する。サイクリンEを免疫沈降させ、結合ヒストンH1キナーゼ活性に関して検定した。
図4B
サイクリンE活性へのサイクリンD−Cdk4複合体の影響。TGF−βの存在下(0β15)又は不在下(15)で接触阻害から15時間解放された細胞から抽出物を調製した。示されているサイクリンD−Cdk4複合体を含む0.05ミリリットルのSf9細胞ライセートをこれらの抽出物に、サイクリンEの存在下又は不在下で加えた。サイクリンEを免疫沈降させ、結合ヒストンH1キナーゼ活性に関して検定した。
図5A
27kDサイクリンE−Cdk2結合タンパク質。接触阻害Mv1Lu細胞を、より低密度において再平板培養することにより休止から解放し、0及び15時間において35S−メチオニン標識細胞から抽出物を調製した。いくつかの培養物を100pMのTGF−βの存在下で15時間インキュベートした(0β15)。代謝的に標識されたこれらの抽出物を記載の通りに処理し、結合タンパク質を試料緩衝液中で溶出させ、SDS−PAGE及び続く蛍光光度法により分析した。分子量マーカーの移動を示す。35S−メチオニン標識細胞抽出物をCdk2又はサイクリンE−Cdk2複合体と共にインキュベートし、結合タンパク質を試料緩衝液中で溶出させた。矢印は接触阻害及びTGF−β処理細胞からの抽出物においてサイクリンE−Cdk2複合体と特異的に結合した27kDタンパク質(p27)の移動を示す。
図5B
27kDサイクリンE−Cdk2結合タンパク質。代謝的に標識された接触阻害Mv1Lu細胞からの抽出物を、標準的条件に対して変化させた量のCdk2又はサイクリンE−Cdk2と共にインキュベートし、結合タンパク質を以下に記載する通りに分析した。p27の存在が示されている(矢印)。
図5C
27kDサイクリンE−Cdk2結合タンパク質。サイクリンD2−Cdk4複合体はサイクリンE−Cdk2へのp27の結合を妨げる。接触阻害細胞からの抽出物を4μlのバキュロウィルス生産サイクリンD2−Cdk4複合体と共に30分間4℃において予備インキュベートしてからサイクリンE−Cdk2複合体を加えた。
図5D
27kDサイクリンE−Cdk2結合タンパク質。Cdk4免疫沈降物におけるp27の回収。5Cからの上澄み液を抗−Cdk4抗血清を用いて免疫沈降させ、免疫沈降物を12%SDS−PAGE上で分析した。34kDにおける白い矢印は内在性ミンクCdk4タンパク質を示し、一方、黒い矢印はサイクリンD2−Cdk4複合体と結合したp27を示す。
図6A
p27及びCdk2阻害剤の熱安定性。p27結合は熱安定性であり、p27信号(call)は熱処理により増殖細胞抽出物から回収される。Mv1Lu細胞をTGF−β1と共に(0β15)又は含まずに(15)、接触阻害から15時間解放した。細胞を35S−メチオニンを用いて代謝的に標識した。Cdk2又はサイクリンE−Cdk2複合体と共にインキュベートする前に、細胞抽出物に予備処理をしないか、あるいは100℃で3分間加熱した。熱処理15時間細胞抽出物におけるp27の出現(矢印)に注意されたい。
図6B
p27及びCdk2阻害剤の熱安定性。Cdk2阻害活性を熱処理により増殖細胞抽出物から回収することができる。サイクリンE結合キナーゼ活性を、非同調増殖細胞から抽出物において、ヒトサイクリンEに対する抗体を用いた免疫沈降により測定した。ヒストンH1が基質であり、結果をphosphorimagerを用いて定量した。1列−添加なし;2列−抽出物に生理学的量の3倍のサイクリンEを補足した;3列−細胞抽出物に増殖細胞からの熱処理抽出物も加えた(方法を参照されたい)ことを除いて2列の場合と同じ。
図6C
p27及びCdk2阻害剤の熱安定性。Cdk2阻害活性は熱安定性であった。接触阻害細胞(0)、TGF−βの存在下で接触阻害から48時間解放された細胞(0β48)又は非同調増殖細胞(Exp)から抽出物を調製した。サイクリンE結合キナーゼ活性を外因性サイクリンEを添加して、又は添加せずに測定した。示されている列の場合、増殖細胞抽出物を、未処理の、又は100℃で5分間加熱された等量の非増殖細胞からの抽出物と混合した。
図7A
精製p27によるサイクリンE−結合キナーゼ活性の阻害。代謝的に標識された接触阻害Mv1Lu細胞からの抽出物をCdk2又はサイクリンE−Cdk2アフィニティーカラム上のクロマトグラフィーにかけた。結合タンパク質を低pH緩衝液中で溶出させ、SDS−PAGEにより分析した。サイクリンE−Cdk2溶出物中に存在するp27を示す(矢印)。
図7B
Cdk2又はサイクリンE−Cdk2カラムからの溶出物をアセトンを用いて沈降させ、再生させた(方法を参照されたい)。各溶出物の一部を増殖細胞からの抽出物に加えた。サイクリンEを加え、サイクリンE結合ヒストンH1キナーゼ活性を測定した。サイクリンE結合H1キナーゼ活性を定量し、添加物を与えられない抽出物に対する%阻害としてプロットした。
図7C
再生溶出物をCdk2又はサイクリンE−Cdk2複合体と共にインキュベートした。p27(矢印)は再生の後にサイクリンE−Cdk2に結合した。
図7D
サイクリンE−cdk2カラムからの溶出物を12%アクリルアミドゲル上で分別した。ゲルを示される通りに切片に切り、タンパク質を溶出させ、再生した。各ゲル切片から回収されるタンパク質の一部をサイクリンEと共に、増殖Mv1Lu細胞から調製された抽出物に加えた。サイクリンE免疫沈降物をヒストンH1キナーゼ活性に関して検定した。
図8A、8B、8C及び8D
Kip1の精製、サイクリンE−Cdk2相互作用及び試験管内翻訳。
A.休止Mv1Lu細胞からの熱−処理抽出物をサイクリンE−Cdk2アフィニティークロマトグラフィーにかけた。溶出物をSDS−PAGEにより分離し、銀染色した。p27Kip1を矢印により示す。広いバンドはCdk2−HAであり、69kdのバンドはブランクの列にも存在する汚染物である。B.代謝的に標識された休止Mv1Lu細胞からの抽出物を、予備免疫ウサギ血清(標準)又は抗−Cdk2抗体を用いて沈降させた。C.パネルBにおける通りに抗−Cdk2抗体を用いた共沈降により(生体内p27)、あるいはパネルAにおける通りにサイクリンE−Cdk2アフィニティークロマトグラフィーにより(試験管内p27)得た代謝的−標識p27をV8プロテアーゼを用いて消化し、SDS−PAGE及び蛍光光度法により現した。D.エンプティーベクター(vector)又はヒスチジン−標識マウスKip1をコードするベクター(Kip1)を含む試験管内翻訳物をNi++−NTA−アガロースに結合させ、試料緩衝液中で煮沸し、SDS−PAGEにより分離した。
図9A及び9B
哺乳類Kip1配列及びCip1/WAF1との比較。A.ミンク(mk)、マウス(m)及びヒト(h)からのKip1 cDNAから推定されるアミノ酸配列。同一のアミノ酸を点により示す。利用できるミンク配列はC−末端において不完全である。精製Kip1から得られるペプチド配列に下線を引く。太い下線はPCRのための縮重オリゴヌクレオチドの設計に役立つ2つの配列を示す。B.ヒトKip1及びCip1/WAF1の間の配列の整列。両タンパク質の推定2分割核局在化シグナルに下線を引く。Kip1に存在するCdc2キナーゼ共通部位を太い棒により示す。
図10A、10B、10C、10D及び10E
試験管内におけるKip1によるCdk阻害及びKip1のCdk阻害ドメインの同定。バキュロウィルスサイクリンE及びCdk2(A、C)又は示されているサイクリン/Cdk組み合わせを含む細胞ライセートをヒストンH1キナーゼ活性(A,B)及びRbキナーゼ活性(C、D)に関して、示されている濃度のKip1の存在下で検定した。リン酸化された基質を含む代表的ゲルを示す(A、C)。相対的リン酸化の量を定量し、Kip1を含まない反応において観察されるリン酸化のパーセンテージとしてプロットする。E.Cip1/WAF1に最高相同性の領域を示すKip1タンパク質の略図(陰影をつけた四角;図9Bも参照されたい)。棒及び数字はC−末端ヘキサヒスチジン標識を用いて製造され、Cdk阻害アッセイにおいて用いられる種々のフラグメントの寸法及び位置を示す。これらのフラグメントの活性を全長Kip1の活性に対するパーセンテージとして示す。
図11A及び11B
Kip1は試験管内でCdk2の活性化を阻害する。指数的に成長するA549細胞からの抽出物を、単独で、又はKip1と一緒にバキュロウィルスにより発現されたヒスチジン−標識サイクリンEと共にインキュベートした。次いでNi++−NTA−アガロースを用いてサイクリンE複合体を回収し、ヒストンH1キナーゼ活性に関して(A)、及び抗−Cdk2抗体を用いたウェスターンブロッティングにより(B)検定した。キナーゼ活性をphosphrimagerにより定量し、任意の単位として表した。BにおいてCdk2*はCdk2の速移動形態(faster migrating form)を示し、それはThr160においてリン酸化されたCdk2に対応する(Gu et al.,1992)。
図12A及び12B
種々の組織及び細胞増殖状態におけるKip1の発現パターン。示されているヒト組織からの(A)、又は種々の増殖状態のMv1Lu細胞からの(B)等量のポリ(A)+RNAを用いたKip1ノザンブロット。後者のブロットをグリセルアルデヒド−ホスフェートデヒドロゲナーゼプローブを用いて再ハイブリッド形成させた。
発明の詳細な説明
本発明はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される約27kDの見掛けの分子量を有し、サイクリンE−Cdk2複合体に結合し、その活性化を阻害することができる単離タンパク質を提供する。
本発明において、27kD分子量を得るために用いられるSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動は、還元条件下で行われる。
1つの実施態様の場合、本発明の単離タンパク質は哺乳類タンパク質である。哺乳類タンパク質はネズミタンパク質であることができる。哺乳類タンパク質はヒトタンパク質であることもできる。哺乳類タンパク質はさらにミンクタンパク質であることができる。1つの実施態様の場合、ミンクタンパク質はMv1Lu細胞から誘導され、表Iに示される部分的内部アミノ酸配列を有するミンクタンパク質である。
本発明において、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される約27kDの見掛けの分子量を有し、サイクリンE−Cdk2複合体に結合し、その活性化を阻害することができるタンパク質は同義的に「p27」、「p27タンパク質」、「阻害剤」、「p27Kip1」及び「Kip1」と呼ばれる。
本明細書で用いられる「単離された」は遊離の、又は他のいずれかのタンパク質を意味する。例えば単離タンパク質はニトロセルロース膜フラグメント及び緩衝液を含むことができる。
本明細書で用いられる「サイクリンE−Cdk2複合体に結合することができる」は、サイクリンE−Cdk2複合体に結合することができるがCdk2のみには結合できないことを意味する。
サイクリンE−Cdk2複合体の活性化の阻害は、例えば(a)サイクリンE−Cdk2複合体のCdk2部分の部位−特異的リン酸化及び(b)ヒストンキナーゼ活性に関するアッセイを用いて測定することができる。そのようなアッセイは下文においてより詳細に議論する。これらのアッセイは速度論的様式で(すなわちリン酸化の速度の測定により)、あるいは定性的又は定量的静止アッセイとして(すなわち選択される時点において行われる測定)行うことができる。当該技術分野における熟練者は、そのようなアッセイにおいて多様な酵素及び条件を用いることができることを知っているであろう。本発明の場合、等量のp27及びサイクリンE−Cdk2複合体を用いる速度論的様式アッセイにおいて、速度が少なくとも50%阻害されたらp27は複合体のCdk2部分の部位−特異的リン酸化の速度(1分当たりにリン酸化されるCdk2部分のモルにより表される)を阻害する。
本発明の単離27kDタンパク質は、例えば下文で説明する熱処理法により、及びサイクリンE−Cdk2複合体アフィニティー法により得ることができる。
本発明はさらにアミノ酸残基+28から、それを含んでアミノ酸残基+88までのp27タンパク質の部分とのアミノ酸配列相同性を有する部分を含むタンパク質を提供する(図9Bに示す通り)。1つの実施態様の場合、タンパク質はアミノ酸残基+28から、それを含んでアミノ酸残基+88までのp27タンパク質の部分において、少なくとも1つの四角で囲まれたアミノ酸残基との配列同一性を有する(図9Bに示す通り)。タンパク質は自然に存在する、又は組み換えタンパク質であることができる。1つの実施態様の場合、相同性の程度は30%である。別の実施態様の場合、相同性の程度は40%である。別の実施態様の場合、相同性の程度は44%である。別の実施態様の場合、相同性の程度は50%である。別の実施態様の場合、相同性の程度は90%である。
本発明はさらに、本発明のタンパク質をコードする組み換え核酸分子を提供する。
本明細書で用いられる組み換え核酸分子は自然には存在せず、組み換え法の使用を介して得られる核酸分子である。
1つの実施態様の場合、核酸分子はDNA分子である。DNA分子はcDNA分子又はクローニングされたゲノムDNA分子であることができる。別の実施態様の場合、核酸分子はRNA分子である。RNA分子はmRNA分子であることができる。
本発明はさらに、本発明の組み換え核酸分子を含むベクターを提供する。1つの実施態様の場合、ベクターはプラスミドである。別の実施態様の場合、ベクターはウィルスである。
本発明に従い、本発明のタンパク質の発現のために多数のベクター系を用いることができる。例えば1つの種類のベクターは、ウシ乳頭腫ウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ワクシニアウィルス、バキュロウィルス、レトロウィルス(RSV、MMTVもしくはMoMLV)、セムリキ森林熱ウィルス又はSV40ウィルスなどの動物ウィルスから誘導されるDNA要素を利用する。さらに、トランスフェクションされた宿主細胞の選択を可能にする1つ又はそれ以上のマーカーの導入により、DNAをその染色体中に安定して組み込んだ細胞を選択することができる。マーカーは例えば栄養要求性宿主にプロトトロフ性を、殺生物剤耐性(例えば抗生物質)を、又は銅などの重金属に対する耐性を与えることができる。選択可能なマーカー遺伝子は、発現されるべきDNA配列に直接連鎖させることができ、あるいは共形質転換により同じ細胞中に導入することができる。mRNAの最適合成のために追加の要素も必要であり得る。これらの要素はスプライシングのシグナル、ならびに転写プロモーター、エンハンサー及び停止シグナルを含むことができる。
本発明はさらに、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される約27kDの見掛けの分子量を有し、サイクリンE−Cdk2複合体に結合し、その活性化を阻害することができるタンパク質の製造のための宿主ベクター系を提供し、それは適した宿主中に本発明のベクターを含む。
1つの実施態様の場合、適した宿主はバクテリア細胞である。別の実施態様の場合、適した宿主は真核細胞である。真核細胞は昆虫細胞であることができる。昆虫細胞は例えばsf9細胞を含む。
本発明はさらに、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定される約27kDの見掛けの分子量を有し、サイクリンE−Cdk2複合体に結合し、その活性化を阻害することができるタンパク質の製造法を提供し、それは本発明の宿主ベクター系をタンパク質を生産させる条件下で成長させ、それにより生産されるタンパク質を回収することを含む。
宿主ベクター系の成長及び、そのようにして生産されるタンパク質の回収のための方法及び条件は、当該技術分野における熟練者に周知であり、用いられる特定のベクター及び宿主細胞に依存して変え、最適化することができる。そのような回収法は、例えばゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー又はそれらの組み合わせを含む。
本発明はさらに、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に阻害することができるか否かの決定方法であって、(a)適した量のp27タンパク質、サイクリンE、Cdk2及び薬剤を適した条件下で接触させ;(b)そのように接触させられたp27、サイクリンE、Cdk2及び薬剤を、p27タンパク質の不在下では活性サイクリンE−Cdk2複合体を形成させる条件に供し;(c)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を定量的に測定し;(d)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を薬剤の不在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量と比較することを含んでなり、薬剤の不在下におけるより多量の、薬剤の存在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体は、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に阻害できることを示す方法も提供する。
本明細書で用いられる「薬剤」という用語はタンパク質及び非−タンパク質部分を含む。1つの実施態様の場合、薬剤は小分子である。別の実施態様の場合、薬剤はタンパク質である。薬剤は低分子量化合物のライブラリーから、又は植物もしくは他の生物からの抽出物のライブラリーから誘導されることができる。
本発明の場合、サイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に阻害することができる薬剤は、p27タンパク質とサイクリンE−Cdk2複合体の間の相互作用を妨害するが、p27タンパク質の不在下におけるサイクリンE−Cdk2複合体のCdk2部分の部位−特異的リン酸化を妨害しない。
サイクリンEは、Koff et al.(1991)に開示されているように、サイクリンEをコードする核酸配列に基づく当該技術分野における熟練者に周知の方法を用いて得ることができる。Cdk2はElledge and Spottswood(1991)に開示されているように、Cdk2をコードする核酸配列に基づく当該技術分野における熟練者に周知の方法を用いて得ることができる。
本発明の方法に適したp27タンパク質、サイクリンE、Cdk2及び薬剤の量は、当該技術分野における熟練者に周知の方法により決定されることができる。p27タンパク質、サイクリンE、Cdk2及び薬剤が接触させられる適した条件(すなわち薬剤によるp27機能への影響の測定に適した条件)の例は、下文に示す。
p27タンパク質の不在下で活性サイクリンE−Cdk2複合体の形成を可能にする条件の例も、下文に示す。
本明細書で用いられる「活性サイクリンE−Cdk2複合体」は、適した基質(例えばヒストンH1)を特異的にリン酸化することができるサイクリンE−Cdk2複合体を意味する。活性サイクリンE−Cdk2複合体の例は、下文に示す。活性サイクリンE−Cdk2複合体の量は、その測定可能な活性と関連する。かくして活性サイクリンE−Cdk2複合体の量の定量的測定は、活性サイクリンE−Cdk2複合体の基質がリン酸化される速度の測定により行うことができる。そのような方法は当該技術分野における熟練者に周知であり、例えばヒストンH1キナーゼアッセイを含む。
本発明の方法の場合、サイクリンE及びCdk2タンパク質は薬剤と接触させられる前に、別々のタンパク質として、あるいは複合体として存在することができる。
本発明はさらに、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に増強することができるか否かの決定方法であって、(a)適した量のp27タンパク質、サイクリンE、Cdk2及び薬剤を適した条件下で接触させ;(b)そのように接触させられたp27、サイクリンE、Cdk2及び薬剤を、p27タンパク質の不在下では活性サイクリンE−Cdk2複合体を形成させる条件に供し;(c)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を定量的に測定し;(d)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を薬剤の不在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量と比較することを含んでなり、薬剤の不在下におけるより少量の、薬剤の存在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体は、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に増強できることを示す方法も提供する。
本発明の場合、サイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に増強することができる薬剤は、p27タンパク質とサイクリンE−Cdk2複合体の間の相互作用に影響を与えるが、p27タンパク質の不在下におけるサイクリンE−Cdk2複合体のCdk2部分の部位−特異的リン酸化に影響を与えない。
本発明はさらに、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を模することができるか否かの決定方法であって、(a)適した量のサイクリンE、Cdk2及び薬剤を、薬剤の不在下では活性サイクリンE−Cdk2複合体を形成させる条件下で接触させ;(b)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を定量的に測定し;(c)そのようにして形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量を薬剤の不在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体の量と比較することを含んでなり、薬剤の不在下におけるより少量の、薬剤の存在下で形成される活性サイクリンE−Cdk2複合体は、薬剤がサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を模することができることを示す方法も提供する。
本発明はさらに、高増殖性障害を有する患者の処置方法であって、患者に治療的有効量の、患者の高増殖性細胞におけるサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に増強することができる薬剤を投与し、それにより患者を処置することを含んでなる方法も提供する。
好ましい実施態様の場合、患者はヒトである。
高増殖性障害は、障害を有する患者に存在する細胞が異常な高速度で増殖し、その増殖の異常な高速度が障害の原因である障害である。1つの実施態様の場合、高増殖性障害は癌及び過形成から成る群より選ばれる。
薬剤の投与は当該技術分野における熟練者に既知の種の方法のいずれかを用いて達成する、又は行うことができる。1つの実施態様の場合、投与は静脈内投与を含む。別の実施態様の場合、投与は筋肉内投与を含む。さらに別の実施態様の場合、投与は皮下投与を含む。
薬剤の治療的有効量は当該技術分野における熟練者に周知の方法により決定することができる。
本発明はさらに、治療的有効量の、高増殖性障害に苦しむ患者の高増殖性細胞におけるサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に増強することができる薬剤、ならびに製薬学的に許容し得る担体を含む製薬学的組成物を提供する。
製薬学的に許容し得る担体は当該技術分野における熟練者に周知であり、0.01〜0.1M、及び好ましくは0.05Mのリン酸塩緩衝液、あるいは0.8%の食塩水を含むがこれらに限られるわけではない。さらに、そのような製薬学的に許容し得る担体は水性又は非−水性溶液、懸濁液及び乳液であることができる。非−水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、ならびに注射可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は、生理的食塩水及び緩衝媒体を含む水、アルコール性/水性溶液、乳液又は懸濁液を含む。
非経口的ビヒクルは塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース(Ringer’s dextrose)、デキストロースと塩化ナトリウム、乳酸添加リンガー液(lactated Ringer’s)又は固定油(fixed oils)を含む。静脈内ビヒクルは液及び栄養補充剤、リンガーデキストロースに基づくもののような電解質補充剤などを含む。防腐剤及び他の添加剤、例えば殺微生物剤、酸化防止剤、キレート形成剤、不活性気体なども存在することができる。
本発明はさらに、患者に治療的有効量の、患者の高増殖性細胞におけるサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を模することができる薬剤を投与し、それにより患者を処置することを含む、高増殖性障害を有する患者の処置の方法を提供する。
本発明はさらに低増殖性障害を有する患者の処置の方法を提供し、それは患者に治療的有効量の、患者の低増殖性細胞におけるサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に阻害することができる薬剤を投与し、それにより患者を処置することを含む。
好ましい実施態様の場合、患者はヒトである。
低増殖性障害は、障害を有する患者に存在する細胞が異常な低速度で増殖し、その増殖の異常な低速度が障害の原因である障害である。1つの実施態様の場合、低増殖性障害は潰瘍である。低増殖性細胞の例は正常な組織及び臓器における末端分化細胞(terminally differentiated cells)であり、それは肝臓及び骨髄を除いて通常外傷に続く再生の能力がない。かくして本発明の方法、及びそれにより同定される薬剤は、それを必要としている患者における組織及び臓器修復の刺激において、ならびに多種多様な組織からの細胞の組織培養の確立において用途を有する。
薬剤の治療的有効量は当該技術分野における熟練者に周知の方法により決定することができる。
本発明はさらに治療的有効量の、低増殖性障害に苦しむ患者の低増殖性細胞中のサイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害するp27タンパク質の能力を特異的に阻害することができる薬剤、ならびに製薬学的に許容し得る担体を含む製薬学的組成物を提供する。
本発明はさらに、p27タンパク質に特異的に結合することができる部分的精製ポリクローナル抗体を得るための方法を提供し、その方法は(a)p27タンパク質を用いて患者を免疫化し、(b)免疫化された患者から、p27タンパク質に特異的に結合することができる抗体を含む血清を回収し、(c)血清に存在する抗体を部分的に精製し、それによりp27タンパク質に特異的に結合することができる部分的精製ポリクローナル抗体を得ることを含む。
本明細書で用いられる部分的精製抗体は、p27タンパク質に特異的に結合する抗体を含み、抗体が誘導された血清が含むより少量のタンパク質不純物を含む組成物を意味する。タンパク質不純物は、p27タンパク質に特異的な抗体以外のタンパク質を意味する。例えば部分的精製抗体はIgG調剤であることができる。
患者から血清を回収する方法は当該技術分野における熟練者に周知である。抗体の部分的精製の方法も当該技術分野における熟練者に周知であり、例えば濾過、イオン交換クロマトグラフィー及び沈降を含む。
本発明はさらに、本発明の方法により製造される部分的精製抗体を提供する。
本発明はさらにp27タンパク質に特異的に結合することができる精製モノクローナル抗体を得るための方法を提供し、その方法は(a)p27タンパク質で患者を免疫化し、(b)免疫化された患者からB細胞−含有細胞試料を回収し、(c)そのようにして回収されたB細胞−含有細胞試料を骨髄腫細胞と、骨髄腫細胞がその中のB細胞と融合してハイブリドーマ細胞を形成することを可能にする条件下で接触させ、(d)得られる試料からp27タンパク質に特異的に結合することができるモノクローナル抗体を生産することができるハイブリドーマ細胞を単離し、(e)そのようにして単離されたハイブリドーマ細胞を、モノクローナル抗体の生産を可能にする条件下で成長させ、(f)そのようにして生産されるモノクローナル抗体を回収し、それによりp27タンパク質に特異的に結合することができる精製モノクローナル抗体を得ることを含む。ハイブリドーマ及びモノクローナル抗体の製造法は、当該技術分野における熟練者に周知である。
本発明はさらに、本発明の方法の段階(d)において製造されるハイブリドーマ細胞を提供する。
本発明はさらに、本発明の方法により製造される精製モノクローナル抗体を提供する。
本明細書で用いられる「精製モノクローナル抗体」は、他のいずれの抗体も含まないモノクローナル抗体を意味する。
本発明はさらに、p27タンパク質に特異的に結合することができ、検出可能なマーカーで標識されている抗体を提供する。
標識抗体はポリクローナル又はモノクローナル抗体であることができる。1つの実施態様の場合、標識抗体は精製標識抗体である。「抗体」という用語は、例えば自然に存在する、及び非−自然的に存在する抗体の両方を含む。特に「抗体」という用語はポリクローナル及びモノクローナル抗体、ならびにそれらのフラグメントを含む。さらに「抗体」という用語はキメラ抗体及び全合成抗体、ならびにそれらのフラグメントを含む。検出可能なマーカーは、例えば放射性又は蛍光性であることができる。抗体の標識の方法は当該技術分野において周知である。
本発明はさらに、試料中のp27タンパク質の量を定量的に決定する方法を提供し、その方法は試料を本発明の抗体と、抗体が試料中に存在するp27タンパク質と複合体を形成するのを可能にする条件下で接触させ、そのようにして形成される複合体の量を定量的に測定し、そのようにして決定される量を既知の標準と比較し、それにより試料中のp27タンパク質の量を定量的に決定することを含む。
試料は、例えば細胞試料、組織試料又はタンパク質−含有液体試料であることができる。抗体がその抗原と複合体を形成するのを可能にする条件、及びそのようにして形成される複合体の存在を検出する方法は当該技術分野において周知である。
決定される試料中に存在するp27タンパク質の量は、試料中のp27タンパク質分子の実際の数又はp27タンパク質のモル数である必要はないという意味で、絶対数である必要はない。むしろ測定される量は単にこの数と関連していれば良い。
本発明はさらに、細胞集団におけるp27の発現量の定量的決定の方法、及び薬剤が細胞集団におけるp27の発現量を増加又は減少させることができるか否かの決定の方法を提供する。薬剤が細胞集団におけるp27の発現量を増加又は減少させることができるか否かを決定する方法は、(a)標準及び薬剤−処理細胞集団から細胞抽出物を調製し、(b)細胞抽出物からp27を単離し(例えばサイクリンE−Cdk2複合体固相アフィニティー吸着剤上におけるアフィニティークロマトグラフィー及びそれからの溶出により)、(c)サイクリンE−Cdk2キナーゼアッセイ(例えば下文に記載するヒストンH1アッセイ)を用いて標準及び薬剤−処理細胞抽出物におけるp27阻害剤活性の量を定量する(例えば平行して)段階を含む。p27発現の増加を誘導する薬剤は、転写に依存する方法で処理細胞抽出物におけるp27阻害剤活性の量を増加させるその能力により同定することができ、すなわちp27阻害剤活性における増加は、細胞が転写の阻害剤(例えばアクチノマイシンD)をも用いて処理されると妨げられる。類似の方法で、p27の発現を減少させる薬剤を、転写に依存する方法で処理細胞抽出物におけるp27阻害剤活性の量を減少させるその能力により同定することができる。
本発明はさらに、患者から得る細胞試料が異常な量のp27タンパク質を有しているか否かを決定する方法を提供し、それは(a)患者から細胞試料を得、(b)そのようにして得た試料におけるp27タンパク質の量を定量的に測定し、(c)そのようにして測定されたp27タンパク質の量を既知の標準と比較し、それにより患者から得た細胞試料が異常な量のp27タンパク質を有しているか否かを決定することを含む。
本発明はさらに、病気の患者から得る細胞試料におけるp27タンパク質の量が病気と関連するか否かを決定する方法を提供し、それは患者から得た細胞試料が異常な量のp27タンパク質を有しているか否かを測定することを含み、試料中の異常な量のp27タンパク質は、病気の患者から得た細胞試料中のp27タンパク質の量が病気と関連することを示す。
本発明はさらに試料中のp27タンパク質の比活性の定量的決定の方法を提供し、それは(i)サイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害する試料中のp27タンパク質の能力、及び(ii)試料中のp27タンパク質の合計量を定量的に測定し、そのようにして決定されたp27タンパク質の能力を、そのようにして決定されたp27タンパク質の合計量で割り、それにより試料中のp27タンパク質の比活性を定量的に決定することを含む。
本発明はさらに、本発明の方法を行うためのキットを提供する。1つの実施態様の場合、キットは適した量のp27タンパク質、サイクリンE及びCdk2を含む。キットはさらに適した緩衝液、及びサイクリンE−Cdk2複合体活性の阻害剤としてのp27を説明する添付文書を含むことができる。
本発明はさらに、患者の細胞におけるp27タンパク質突然変異の存在に伴う患者の高増殖性障害の診断の方法を提供し、それは患者の細胞における、高増殖性障害を伴うp27タンパク質突然変異の存在を測定し、それにより患者における高増殖性障害を診断することを含む。
本明細書で用いられる「診断する」という用語は、患者において高増殖性障害の存在を決定することを意味する。1つの実施態様の場合、「診断する」はさらに、患者における高増殖性障害の型を決定することを意味する。
本明細書で用いられる「p27タンパク質突然変異」は、p27タンパク質をコードする、又はその発現を調節するゲノムDNA配列における異常から生ずるp27タンパク質の一次配列におけるいずれの異常であることもできる。例えばp27タンパク質突然変異は点突然変異、p27タンパク質の一部の欠失突然変異、又はp27タンパク質をコードする構造遺伝子における、又はその発現を調節する調節DNA配列における異常から生ずる、全p27タンパク質の不在であることができる。
p27タンパク質突然変異の存在の決定は、当該技術分野における熟練者に周知の方法に従って行うことができる。そのような方法はp27核酸プローブを用いた患者のDNA又はRNAの精査を含む。そのような方法は患者からのタンパク質試料をp27タンパク質の構造的異常又はそれから生ずる機能的異常に関して分析することも含む。
好ましい実施態様の場合、患者はヒトであり、高増殖性障害は癌である。
本発明はさらに、有効量の、適した宿主細胞に感染することができ、本発明の核酸分子を含む組み換えウィルス、ならびに製薬学的に許容し得る担体を含む製薬学的組成物を提供する。
「適した宿主細胞」は、健康な患者において通常p27タンパク質を生産するいずれかの細胞である。
製薬学的に許容し得る担体は当該技術分野における熟練者に周知であり、0.01〜0.1M、及び好ましくは0.05Mのリン酸塩緩衝液、あるいは0.8%の生理的食塩水を含むがこれらに限られるわけではない。さらに、そのような製薬学的に許容し得る担体は水性又は非−水性溶液、懸濁液及び乳液であることができる。非−水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、ならびに注射可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は、生理的食塩水及び緩衝媒体を含む水、アルコール性/水性溶液、乳液又は懸濁液を含む。非経口的ビヒクルは塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースと塩化ナトリウム、乳酸添加リンガー液又は固定油を含む。静脈内ビヒクルは液及び栄養補充剤、リンガーデキストロースに基づくもののような電解質補充剤などを含む。防腐剤及び他の添加剤、例えば殺微生物剤、酸化防止剤、キレート形成剤、不活性気体なども存在することができる。
最後に本発明は患者に、患者の処置に有効量の本発明の製薬学的組成物を投与することを含む、患者の細胞におけるp27タンパク質突然変異の存在に伴う高増殖性障害に苦しむ患者の処置の方法を提供する。
好ましい実施態様の場合、患者はヒトであり、高増殖性障害は癌である。
続く実験的詳細の部分の理解を容易にするために、頻繁に用いられているある種の方法及び/又は用語はSambrook,et al.(1989)において最も良く説明されている。
続く実験的詳細を参照することにより、本発明をさらに良く理解できるが、当該技術分野における熟練者は、詳細に説明されている特定の実験は下文に続く請求に範囲により完全に記載されている本発明の単なる典型であることを容易に認識するであろう。
実験的詳細
I
概略
細胞−細胞接触及びTGF−βは、細胞周期をG1において休止させることができる。いずれかの機構により休止されられたMv1Luミンク上皮細胞はG1サイクリン、サイクリンE及びその触媒サブユニットCdk2を含む活性複合体を集合させることができない。これらの成長阻害シグナルはCdk2の活性化に必要なサイクリンEの閾量を上げることによりCdk2活性化を妨害する。休止細胞の場合、閾値は生理学的サイクリンE量より高く設定され、それはサイクリンE−Cdk2複合体に結合する阻害剤により決定される。サイクリンE−Cdk2複合体に結合し、その活性化を妨げる27kDタンパク質は、サイクリンE−Cdk2アフィニティークロマトグラフィーにより休止細胞から精製することができるが、増殖細胞からは精製できない。p27は増殖細胞に存在するが、それは封鎖され、サイクリンE−Cdk2複合体との相互作用に利用できない。サイクリンD2−Cdk4複合体はp27にき競合的に結合し、その活性をダウンレギュレートし、それによりCdk2阻害を取り消す経路において作用することができ、G1を進行させることができる。
方法
細胞培養
指数的に成長するMv1Lu細胞を10%ウシ胎児血清の存在下で密集まで培養することにより、成長休止させた。トリプシン化により細胞を接触阻害から解放し、希薄状態で再播種した。TGF−β(100pM)を示されている時間に細胞に加えた。S期への細胞の突入を、DNA中への125I−デオキシウリジン挿入により機械的手順で確かめた(Laiho et al.,1990)。
組み換えタンパク質の製造
サイクリンE、Cdk2、Cdk2−HA及びCdk2KをDesai et al(1992)の方法により調製した。簡単に記載すると、密集Sf9細胞の100mmの平板に細胞当たり5〜20p.f.u.のm.o.i.で適したバキュロウィルスを感染させた。感染の48時間後、細胞を集め、Dounceホモジナイゼーション又は低張緩衝液中におけるカップホーン音波処理により溶解した。抽出物は超遠心により透明化し、−70℃で保存する。サイクリンD1、D2、D3、Cdk4及び触媒的不活性Cdk4を含むバキュロウィルスベクターは、以前に記載されている(Matsushime et al.,1992;Kato et al.,1993)。
p27 Kip-1 の精製及びミクロシークエンシング
ミクロシークエンシング分析に十分な量でp27を精製するために、精製案は出発材料として、接触阻害Mv1Lu細胞(〜2x1010細胞)の密集培養を含む200個の15−cmの皿を用いた。細胞を33mlの低張抽出緩衝液中における音波処理により溶解し、細胞破片を200,000xgにおける1時間の遠心により除去した。ライセートを100℃に5分間加熱し、沈降材料を100,000xgにおける15分間の遠心により除去した。上澄み液を4x NP−40ライシス緩衝液を用いてNP−40ライシス緩衝条件(Polyak et al.,1994)に調節し、4℃において5mlのアガロースを用いた連続する2回の30分インキュベーション及び同じ条件下で5mlのニッケル−NTA−アガロースを用いた1回のインキュベーションにより予備浄化(precleared)した。
予備浄化されたライセートをアフィニティーカラムに4℃において2時間結合させた。このアフィニティーカラムは、ニッケル−NTA−アガロースへの結合を可能にするヘキサヒスチジン配列でN−末端において標識されたバキュロウィルスサイクリンEとの複合体の状態のバキュロウィルスCdk2を含むニッケル−NTA−アガロースを含んだ。カラム室温において50mlのNP−40ライシス緩衝液で1回、及び50mlのSDS/RIPA緩衝液で5回洗浄した。結合タンパク質を6Mのグアニジウム塩酸塩を含む5mlのHepes−緩衝溶液(pH7.0)を用いて溶出した。溶出物をHepes−緩衝溶液に対して終夜透析し、−20℃において30分間、4体積のアセトンを用いてタンパク質を沈降させた。沈降タンパク質を20,000xgにおける15分間の遠心により集め、ジチオトレイトールを含むSDS電気泳動試料緩衝液において可溶化し、12%のポリアクリルアミドゲル上で電気泳動させた。電気泳動の後、ゲルを35Vにおいて、Tris/グリシン/メタノール転移緩衝液中で終夜、ニトロセルロース上にブロットした。
ニトロセルロース膜をPonceau染色を用いて染色し、タンパク質を検出した。このアッセイに従うと、フィルターは2種のタンパク質を含むのみであり、それらは互いに十分に分離され、それぞれ27kd及び34kdであった。これらのタンパク質をp27及びp34cdk2と同定した。2つの別々の試料は類似の結果を与えた。これらの2つの試料におけるp27の収量は、Ponceau染色及びミクロシークエンシングから見積もってそれぞれ約0.3μg及び1μgであった。
精製p27を含むニトロセルロースのタンパク質を切り出し、ミクロシークエンシング分析のための試料においてトリプシン消化に供した。トリプシン消化物のHPLCの後、以下のペプチドが配列決定された:
これらの配列及び、1993年12月31日において入手できる最近の情報に従って、Genbak,EMBL Data Library,Brookhaven Protein Databank,Swiss Prot又はPIRデータベースに寄託されているタンパク質の配列の間に類似性は見いだされなかった。
p27 cDNAを得るためのオリゴヌクレオチド
p27の全長cDNA配列を得るために用いられるオリゴヌクレオチドを表IIに示す:
CAK
正確に記載されている通りにして(Solomon et al.,1993)Mono Q段階を介し、クセノプス(アメリカツメガエル)(Xenopus)卵抽出物からCAKを精製し、1ml当たり1〜2単位の最終的濃度で用いた。
代謝的標識
150mmの皿におけるMv1Lu培養物を、10%の透析ウシ胎児血清を補足したメチオニン−非含有培地中で30分間インキュベートし、その後200μCi/mlの35S−メチオニン(Trans 35S標識、ICN)を含む同じ培地中で2時間インキュベートした。細胞をトリプシン化により集め、2000gにおいて5分間遠心した。細胞ペレットを10体積のNP40ライシス緩衝液(50mM TrisHCl pH7.4、200mM NaCl、2mM EDTA、0.5% NP40、0.3mM Na−オルトバナデート、50mM NaF、80μM b−グリセロホスフェート、20mM Naピロホスフェート、0.5mM DTT及びプロテアーゼ阻害剤)中において4℃で30分間穏やかに撹拌することにより溶解し、ライセートを遠心(10,000g、4℃において15分間)により透明化した。結合反応の前に上澄み液をセファロースを用いて2回、及びタンパク質A−セファロースを用いて1回浄化した。
Cdk活性化アッセイ
示される量のバキュロウィルス発現組み換えサイクリン、Cdk又はサイクリン−Cdk複合体を、前記の通り低張緩衝液中における音波処理により調製された50マイクログラムの抽出物に加えた(Koff et al 1993)。すべての場合に外因性サイクリン及びCdkは非分別Sf9細胞ライセートの形態で加えた。サイクリン及びCdkは典型的に少なくとも1〜3%の合計細胞タンパク質を含む。非感染Sf9細胞ライセートをすべてのアッセイの場合に試験し、それは活性を有していない。37℃において30分後、反応物を0.5% NP40、250mM NaClに調節し、示される抗体を用いて免疫沈降させた。続いて免疫沈降物を記載の通りにヒストンH1キナーゼ活性に関して検定した。サイクリンE活性に対するDサイクリン及びCdk4の影響が調べられる実験の場合、すべてのサイクリン及びCdkを細胞抽出物に一緒に加えた。抽出物の熱処理は、抽出物を100℃において5分間インキュベートすることにより行った。凝固タンパク質を次いで微量遠心によりペレット化した。Cdk2免疫沈降物がサイクリンEによる活性化に関して調べられる実験の場合、CDK2のC−末端に対する20μlの抗血清(Koff et al,1993)をタンパク質Aセファロースに吸着させ、NP40 RIPA緩衝液中に洗い出した。続いて300μgの抽出物を抗−CDK2セファロースと共に4℃において90分間インキュベートした。沈降物をNP40 RIPA緩衝液で2回及び10mMのATPを含む緩衝液Aで4回洗浄した。サイクリンE及びCAKは下記の通りに加え、反応物を37℃で30分間インキュベートし、続いてH1キナーゼ活性に関して検定した。
阻害剤枯渇
ヘマグルチニン標識Cdk2(Cdk2−HA)を含む1.2μlのSf9細胞ライセートを、10mMのATPを含む緩衝液A(30mM HEPES−KOH pH7.5、7.5mM MgCl2、1mM DTT)中でサイクリンEを含む12μlのライセートと混合することによりサイクリンE−Cdk2セファロースを調製し、室温で30分間インキュベートすることにより完全に形成させた。次いで集合反応物を250mM NaCl及び0.5% NP40に調節した。Cdk2−HA含有複合体を12CA5モノクローナル抗体(BABCO)を用いて免疫沈降させ、タンパク質A−セファロース上に集めた。サイクリンEを省略する以外は同じ方法でCdk2セファロースを調製した。免疫沈降物をNP40 RIPA緩衝液(0.5% NP40、250mM NaCl、10mM EDTA、20mM Tris−HCl pH7.4)を用いて2回、及び緩衝液Aを用いて4回洗浄した。マトリックスを4つのアリコートに分け、3mM ATP、20μg/mlのクレアチンホスホキナーゼ、40mM ホスホクレアチンを含む緩衝液A中で100μgの細胞抽出物と共に、37℃において45分間インキュベートした。インキュベーションの後、上澄み液を集め、下記に示す組み換えサイクリンEの添加によりCdk2活性化に関して検定した。この実験の実行における重要なパラメーターは、サイクリン、Cdk又は複合体ビーズから細胞抽出物に漏れないことを保証することである。これは予測できず、実験が行われる毎にイムノブロッティングにより調べなければならない。
サイクリンE−Cdk2結合アッセイ
バキュロウィルスサイクリンEと、インフルエンザウィルスヘマグルチニンエピトープHA1を含むバキュロウィルスCdk2との複合体を以下に記載する通りに形成した。複合体をNP40−RIPA緩衝液(50mM Tris−HCl pH=7.4、250mM NaCl、0.5% NP−40、50mM NaF、0.3mM Na−オルトバナデート、5mM EDTA及びプロテアーゼ阻害剤)中で抗−HAモノクローナル抗体(12CA5、Babco)を用いて免疫沈降させ、タンパク質A−セファロースに結合させた。タンパク質A−セファロースに吸着したCdk2又はサイクリンE−Cdk2を107細胞からの代謝的標識細胞ライセートと共に4℃で2時間インキュベートした。他に指示がなければ、ビーズはSDS−RIPA緩衝液で数回洗浄し、タンパク質はSDS−PAGE試料緩衝液中の加熱により溶出させ、12%ポリアクリルアミドゲル上で、続いて蛍光光度法により分析した。熱処理の場合、代謝的標識細胞ライセートを100℃で3分間加熱し、沈降タンパク質を微量遠心により除去し、透明化ライセートをタンパク質A−セファロース結合Cdk2又はサイクリンECdk2複合体と共にインキュベートした。サイクリンD2−Cdk4複合体を用いる結合アッセイの場合、タンパク質A−セファロース結合Cdk2又はサイクリンE−Cdk2の添加の前に、代謝的標識細胞抽出物を4μlのサイクリンD2−Cdk4複合体と共に4℃で30分間予備インキュベートした。セファロースビーズを除去した後、細胞抽出物をCdk4抗血清を用いて免疫沈降させ、免疫沈降物を12% SDS−PAGE上で分析した。
p27のアフィニティー精製及び変性−再生実験
単独の、又はサイクリンEとの複合体の状態のHA−標識Cdk2をタンパク質Aセファロースビーズ上に固定化されたHA抗体(ImmunoPure Orientataion Kit,Pierce)に結合させ、代謝的標識細胞ライセートからのタンパク質の単離に用いた。結合タンパク質を0.1M グリシン pH2.8中でカラムから溶出させ、4体積の氷−冷アセトンを用いて沈降させ、−20℃において20分間保った。30分間の微量遠心により集められた沈降物を冷アセトンで数回洗浄し、1xHBB緩衝液(25mM HEPES−KOH pH7.7、25mM NaCl、5mM MgCl2、0.05% NP−40、1mM DTT)中の6M 塩化グアニジウム中に溶解した。再生のために(Kaelin et al.,1992)試料を1xHBB緩衝液に対して終夜透析し、キナーゼ阻害アッセイにおいて、又はサイクリンE−Cdk2セファロースへの結合のために用いた。サイクリンE結合H1キナーゼ阻害アッセイの場合、指数的成長Mv1Lu細胞から調製されたライセートの100,000xg上澄み液からのアリコート(37.511gのタンパク質)を、単独の、又は示される容量の再生溶出物の存在下における生理学的量のバキュロウィルスサイクリンEと共に37℃で30分間インキュベートした。インキュベーションの後、試料をサイクリンE抗血清を用いて沈降させ、ヒストンH1キナーゼ活性に関して検定した。相対的サイクリンE−結合H1キナーゼ活性を、Molecular Dynamics Phosphorimager ImageQuantソフトウェアを用いて定量した。
ゲル切片から溶出されたタンパク質の活性の検定のために、サイクリンE Cdk2−HAアフィニティーカラム溶出物を分子量マーカー(Amersham)と共に12%ポリアクリルアミドゲル上で移動させた。試料の一部をクーマシー(Commassie)で染色された同じゲル上で移動させ、脱染し、蛍光光度法により検出した。ゲルを示される通りに切断し(1切片当たり0.5〜1cm)、記載されている通りにタンパク質をゲルから単離した(Boyle et al.,1991)。単離タンパク質を再生し、下記の通りにキナーゼ阻害アッセイのために用いた。
結果
非−増殖細胞はCdk2活性化の阻害剤を含む
接触阻害、TGF−β休止、及び増殖細胞からの無細胞抽出物を用い、サイクリンE−Cdk2複合体の活性化を妨害する機構を研究した。これらの細胞抽出物に生理学的量のサイクリンEを添加すると、免疫沈降可能なサイクリンE−Cdk2複合体の量の増加を生ずる;しかし増殖細胞からの抽出物中で集合したサイクリンE−Cdk2複合体のみが、基質としてヒストンH1を用いて酵素的に活性であった(Koff et al,1993;図1Aも参照されたい)。従って細胞抽出物は、無損傷の細胞において観察されるCdk2活性化への妨害を反復する。
非−増殖細胞からの抽出物におけるCdk2活性化への妨害は、生理学的量より多量にサイクリンEタンパク質を加えることにより克服することができた(図1A)。サイクリンEをSf9細胞において、バキュロウィルス発現ベクターを用いて発現させ、Sf9抽出物におけるサイクリンEの量をイムノブロッティングによりMv1Lu細胞抽出物中のそれと比較した(示されていない)。図1Aに示される実験の場合、0.05μlのSf9ライセートはMv1Lu細胞ライセートからの合計細胞タンパク質の50μgと同じ多量のサイクリンEを含んだ。増殖細胞からの抽出物へのサイクリンE(Sf9ライセートの形態の)の添加は、サイクリンE−結合ヒストンH1キナーゼ活性を直線的に増加させた(増殖細胞は、接触阻害からの解放後15時間において収穫し、その時点でそれらはS初期の状態であった)。対照的に、接触阻害又はTGF−β処理細胞からの抽出物中への生理学的量の3倍までのサイクリンEの滴定(titration)は免疫沈降可能なサイクリンE−結合キナーゼ活性の増加を生じなかった。さらに多量のサイクリンEが加えられると、サイクリンE−結合キナーゼ活性は検出できるようになり、比例して増加した。かくして非−増殖細胞からの抽出物は、Cdk2の活性化に必要なサイクリンEの閾値の上昇を示す。接触阻害細胞は、TGF−βへの暴露によりG1において休止させられた細胞より高い閾値を有すると思われるが、両方の場合にサイクリンEの必要度は、増殖細胞において達成されるサイクリンEの生理学的量より実質的に大きかった。
非−増殖細胞からの抽出物においてCdk2を活性化するためには超−生理学的量のサイクリンEが必要であった。これはCdk2又はサイクリンEの低量により説明することができず、これらの細胞にCdk2活性化に必要な他の因子が不足しているとも思われなかった(Koff et al.,1993;以下を参照されたい)。1つの説明は、非−増殖細胞がCdk2活性化の滴定可能な阻害剤を含んでいたことであった。混合実験がこの結論を支持した。増殖細胞からの抽出物を接触阻害又はTGF−β処理細胞のいずれかからの抽出物と混合した。混合された抽出物に生理学的量のサイクリンEを加え、次いでサイクリンE及び結合キナーゼをサイクリンに対する抗体を用いて免疫沈降させた。抗−Cdk2抗血清を用いて同じ結果が得られた(示されていない)。混合抽出物において、サイクリンE−結合キナーゼ活性は増殖細胞のみの抽出物から回収される活性より低く減少していた(図1B)。かくして非−増殖細胞からの抽出物は過剰のCdk2活性化の阻害剤を含んでいた。接触阻害細胞からの抽出物が、TGF−β処理細胞からの抽出物より高いサイクリンE活性化閾値及び混合実験における大きい阻害効果の両方を有したことに注意されたい。しかしCdk2阻害活性の存在量はTGF−βへの暴露の持続時間に依存する。例えばG1後期において開始して6時間、TGF−βに暴露された細胞からの抽出物は、増殖細胞からの抽出物と混合された時にCdk2活性化を妨害するのに十分な阻害活性を含んでおらず(Koff et al.,1993)、48時間TGF−βに暴露された細胞は15時間暴露された細胞より多い阻害活性を有した(示されていない)。
Cdk2阻害剤はサイクリンE−Cdk2複合体に結合する
非−増殖細胞からの抽出物に存在するCdk2活性化の阻害剤を、サイクリンE−Cdk2アフィニティーマトリックスを用いて枯渇させることができた。インフルエンザウィルスヘマグルチニン(HA)エピトープで標識されたCdk2又はサイクリンEのいずれかを発現するバキュロウィルスベクターに感染したSf9細胞からの抽出物を混合することにより、サイクリンE−Cdk2複合体を形成した。いずれの抽出物も単独では有意なH1キナーゼ活性を含まないが、抽出物を混合すると多量の活性酵素を与える(Kato et al.,1993)。サイクリンE−Cdk2(HA)複合体を、Cdk2上のHA標識に対して向けられたセファロース−結合モノクローナル抗体を用いて免疫沈降させた。モノクローナル抗体ビーズのみを用いて標準免疫沈降を行った。細胞抽出物をサイクリンE−Cdk2ビーズ又は標準ビーズのいずれかと共にインキュベートし、ペレット化の後、上澄み液を、内在性のCdk2を活性化する外因的に加えられたサイクリンEの能力に関して検定した。サイクリンE−Cdk2結合タンパク質の枯渇の後、サイクリンEは増殖及び非−増殖細胞からの抽出物においてほとんど同様にCdk2を活性化することができた(図2A)。イムノブロッティングは、この案が細胞抽出物中のサイクリンE又はCdk2の量に影響を与えなかったことを示した(示されていない)。この実験において、サイクリンE−Cdk2結合タンパク質の枯渇のいくらかの刺激効果も増殖G1後期細胞からの抽出物において観察され、それらに完全に阻害剤がないわけではないことを示唆した(以下を参照されたい)。サイクリンE及びCdk2の触媒的不活性突然変異体を含む複合体も、細胞抽出物に直接加えられると阻害活性を封鎖することができた(図2Cを参照)。かくして阻害活性の取り消しは、加えられるサイクリンE−Cdk2複合体によるリン酸化を必要としなかった。これらの実験は、Cdk2活性化の阻害剤がサイクリンE−Cdk2複合体に結合することを示した。
平行して、Cdk2のみを含むビーズが細胞抽出物からの阻害活性を枯渇することができなかったことが観察される(図2A)。この実験は、阻害剤がサイクリンE−Cdk2複合体に結合するが、Cdk2のみには結合しないことを示唆した。この考えを直接調べるために、増殖、接触阻害及びTGF−β処理細胞の抽出物からCdk2を免疫沈降させた。すべての場合、免疫沈降されたCdk2タンパク質は、サイクリンE及びp34cdc2活性化キナーゼ(CAK)の両方の添加により活性化されることができた(図2B)。かくして非−増殖細胞のCdk2タンパク質は本質的に活性化不可能でも、活性化の阻害剤と緊密に結合しているものでもない。
Cdk2阻害剤はサイクリンE−Cdk2複合体に結合できるが、Cdk2に結合できないので、サイクリン−Cdk複合体又はサイクリンのいずれかを認識すると思われる。サイクリンE−Cdk2複合体は、阻害活性の除去においてサイクリンEより有効であり、阻害剤が複合体と優先的に相互作用することを示唆した。サイクリンEを非−増殖細胞抽出物に、Cdk2の活性化に必要な閾値より低い量で加えた(図2C)。次いで、そのATP結合部位の突然変異により触媒的不活性とされた外因性Cdk2タンパク質(Gu et al.,1992)を抽出物に補足することにより、追加のサイクリン−Cdk2複合体の集合を誘導した。余分のCdk2の不在下で、サイクリンE免疫沈降物においてキナーゼ活性は検出されなかった。抽出物に触媒的不活性Cdk2が補足された場合、内在性Cdk2の活性化の結果としてサイクリンEはH1キナーゼ活性を回復した。かくしてCdk2活性化のためのサイクリンE閾値を、サイクリンEの合計量を一定に保ちながら追加のサイクリン−Cdk複合体を集合させることにより低くすることができた。
阻害剤は抗−CAKでもチロシンキナーゼでもない
以前の実験(Koff et al.,1993)は、非−増殖細胞からの抽出物において形成されるサイクリンE−Cdk2複合体が必須トレオニン残基においてリン酸化されず(Gu et al.,1992;Solomon et al.,1992)、おそらくそれらの不活性性を説明していることを示した。これは、CAKが阻害剤の標的であるという可能性を起こさせた。これは最初、阻害剤がサイクリンE−Cdk2複合体に直接結合するので、ありそうにないことと思われた。この考えは、CAK自身がCdkタンパク質群の遠縁の1員であり(Fesquet et al.,1993;poon et al.,1993;Solomon et al.,1993)、従ってやはり阻害剤に結合し得るという最近の証拠に鑑みて、再考慮された。別の系における以前の研究は、サイクリンB−Cdc2複合体の活性化がCdk2阻害剤により妨害されない(以下を参照されたい)ことを示した。従ってCAKがサイクリンB−Cdc2複合体の活性化にも必要である(Solomon et al.,1990)ことから、サイクリンB及びCdc2をCAK活性のアッセイに用いた。
Cdc2は、増殖細胞又はTGF−β休止細胞のいずれかからの抽出物にサイクリンBが加えられると、同様に活性化された(図3A)。従ってTGF−β処理細胞からの抽出物に機能性CAKが存在した。これらの抽出物への精製CAKの添加は、追加のサイクリンB−Cdc2複合体の活性化を触媒するので、これらの実験においてCAKは制限要因であった(図3B)。さらに、加えられるCAKの活性はTGF−β処理及び増殖細胞からの抽出物において類似であった(図3B)。かくして外因性CAKは阻害されなかった。標準実験は、このCAKが、バキュロウィルスベクターから発現されるサイクリンE及びCdk2を含むSf9細胞ライセートの混合によりサイクリンE−Cdk2複合体が集合させられた場合に、それらを活性化することができることを示した(Solomon et al,1992;データは示されていない)。しかし、加えられたCAKはCdk2の活性化に必要なサイクリンEの閾量を変えなかった(示されていない)。かくして阻害剤はCAKを妨害しなかったし、過剰のCAKにより阻害剤の影響を克服することもできなかった。CAKの阻害はCdk2活性化に対する妨害の説明に十分でなかった。
チロシンリン酸化がCdk2活性の阻害に寄与しているか否かを決定するために、サイクリンEを非−増殖細胞抽出物に閾値以下の量で加え、抗−サイクリンE抗体を用いてサイクリンE−Cdk2複合体を免疫沈降させた。抗−ホスホチロシン抗体を用いたイムノブロッティングにより、不活性サイクリンE−Cdk2複合体においてCdk2のチロシンリン酸化は検出されなかった(示されていない)。正の標準として、ヒト細胞から免疫沈降させられたCdc2においてホスホチロシンは容易に検出された。
サイクリンD2−Cdk4複合体はCdk2活性化を促進する
細胞がG1を通過する時、サイクリンE及びCdk2を含む活性複合体の形成の前に、Cdk4及びD−型サイクリンの間の複合体が出現する(Sherr,1993において考察)。接触阻害Mv1Lu細胞は有意な量のサイクリンD1又はD2を発現せず(示されていない)、Cdk4合成はTGF−βへの暴露によりG1において休止されられた細胞において抑制される(Ewen et al.,1993:K.P.and J.M.,非公開の観察;図5Dも参照されたい)。かくしてサイクリンD−Cdk4複合体の堆積はG1休止細胞において制限要因である。これらの観察は、サイクリンD−Cdk4複合体がおそらく細胞周期進行の間のCdk2阻害剤の除去に役割を有し得ることを示唆した。実際にEwen et al.(1993b)は最近、Cdk4の構成性エピトープ発現がCdk2活性化及び細胞周期進行へのTGF−β妨害を無効にすることができることを示した。この現象は、非−増殖細胞からの抽出物へのサイクリンD−Cdk4複合体の復帰がCdk2活性化への妨害を克服できるか否かを問うことにより調べられた。
Cdk4はD−型サイクリンのパートナーであり、サイクリンE、A又はBと活性複合体を形成しない。それは、昆虫細胞において共発現されると、D−型サイクリンのそれぞれと等しく十分に相互作用する。サイクリンD−Cdk4複合体はヒストンH1に対する活性が劣っているが、基質としてRbタンパク質を用いた強い活性を示す(Matsushima et al.,1992;Kato et al.,1993)。Cdk4とサイクリンD1、D2又はD3の間の複合体をバキュロウィルスベクターを用いたSf9細胞の共−感染により集合させ、Sf9ライセートを増殖及び非−増殖Mv1Lu細胞からの抽出物に加えた。次いで閾値以下の量のサイクリンEを加え、サイクリンEに対する抗体を用いたサイクリンE−Cdk2複合体の免疫沈降の後にCdk2の活性化を調べた。接触阻害及びTGF−β休止細胞からの抽出物にサイクリンD2−Cdk4複合体を加えると、増殖細胞からの抽出物において観察される程度と同等の程度までサイクリンEがCdk2を活性化することを可能にしたが、サブユニットのみではしなかった(図4A)。滴定は、Cdk2阻害剤の妨害に必要なサイクリンD2−Cdk4の量が等量の増殖細胞からの抽出物に存在する量より少量であることを示した(示されていない)。対照的に、サイクリンD2−Cdk4複合体が増殖細胞からの抽出物に加えられた時、サイクリンEの活性は増加しなかった。さらに、サイクリンD2−Cdk4複合体はCAK活性は有しておらず、それはSf9細胞において発現されたタンパク質から集合したサイクリンE−Cdk2複合体の活性化の促進においてCAKの代わりにそれを置換することができなかったからである(示されていない)。かくしてサイクリンD2−Cdk4複合体はCdk2活性化の阻害を取り消させた。Sf9ライセートのイムノブロッティングにより見積もられる等量のサイクリンD1−Cdk4及びサイクリンD3−Cdk4複合体は、Cdk2活性化のためのサイクリンE閾値を低下させるための有効性がずっと低かった(図4B)。サイクリンD1又はサイクリンD3−Cdk4複合体がCdk2阻害剤を封鎖することができないのは、これらの複合体が細胞ライセートにおいて不安定である理由からではなかった(示されていない)。
全く驚くべきことに、Cdk2阻害を取り消させるサイクリンD2−Cdk4の能力はCdk4の触媒的活性を必要としなかった。サイクリンD2及び触媒的不活性突然変異体であるCdk4サブユニットの間に形成される複合体は、Cdk2阻害剤の除去において触媒的活性サイクリンD2−Cdk4複合体と同じに有効であった(図4A)。触媒的活性又は不活性Cdk4のいずれかを含む種々の量のサイクリンD2複合体を用いた滴定は、Cdk2阻害の取り消しにおけるそれらの比活性が非常に類似していることを明らかにした(示されていない)。これは、サイクリンD2−Cdk4が阻害剤を不活性化するためにそれをリン酸化しなければならない可能性を除外し、サイクリンD2−Cdk4がCAKとして機能することにより阻害剤を無視するいずれのモデルも排除した。従ってサイクリンD2−Cdk4は、Cdk2阻害剤に直接結合し、それをCdk2から封鎖することによりCdk2阻害剤を除去すると思われる(以下を参照されたい)。
Cdk2阻害剤は27kdタンパク質である
上記の観察は、(i)機能性サイクリンE−Cdk2阻害剤は、接触阻害細胞又はTGF−βの存在下で接触阻害から解放された細胞からの抽出物中に存在するが、増殖細胞からの抽出物中には存在しないこと;(ii)この分子は、いずれかのサブユニットのみではなく、サイクリンE−Cdk2複合体と選択的に結合すること;及び(iii)細胞抽出物を触媒的活性又は不活性サイクリンD2−Cdk4複合体と共に予備インキュベーションすることによりそれを枯渇させることができることを示した。これらの性質を現し得る因子を同定するために、Mv1Lu細胞を35S−メチオニンで代謝的に標識し、ライセートを、単独の、又は組み換えサイクリンEとの複合体の状態の免疫吸着組み換えCdk2を含むセファロースビーズと共にインキュベートした。1% SDSを含む緩衝液と共にビーズを加熱することにより溶出した変性35S−標識タンパク質を、ゲル電気泳動及び蛍光光度法により視覚化した(図5A)。すべての細胞ライセートは、接触阻害又はTGF−β阻害細胞の抽出物から回収されたが、G1後期細胞から回収されなかった27kdタンパク質を除いて、サイクリンE−Cdk2結合タンパク質の類似のパターンを与えた(図5A)。p27と呼ばれるこのタンパク質はサイクリンE−Cdk2複合体を用いて単離されたが、Cdk2のみを用いては単離されなかった(図5A)。p27の回収は、それが最大に達するまで、用いられるサイクリンECdk2複合体に量に比例して増加し(図5B)、サイクリンE−Cdk2複合体へのp27の結合が飽和可能であることを示した。これは、Cdk2阻害剤活性をサイクリンE−Cdk2複合体により枯渇させることができるという観察と一致した。予想通り、成長休止細胞からのサイクリンE免疫沈降物において化学量論的量のp27も観察された(示されていない)。
組み換えサイクリンD2−Cdk4複合体を与えられた細胞抽出物は、混合物をサイクリンE−Cdk2−セファロースに吸着させると、もはやp27を与えなかった(図5C)。サイクリンD2−Cdk4を与えられた試料からサイクリンE−Cdk2−セファロースビーズを除去した後、予備浄化された上澄み液をCdk4抗体と共にインキュベートしてCdk4及びその結合タンパク質を回収した。これはp34Cdk4自身を与え、その量はG1後期の細胞からの抽出物において最高であり、TGF−β処理細胞において最低であった(図5D)(Matsushime et al.,1992;Ewen et al.,1993b)。同じ抗血清を用い、Ewen et al.,(1993b)は、部分的タンパク質分解消化を用いてこれが基準Mv1Lu Cdk4であることを確かめた。さらにこれらの免疫沈降物は、接触阻害及びTGF−β処理細胞からの試料において27kDタンパク質を含んだ(図5D)。G1後期細胞試料からのCdk4免疫沈降物においても、もっと少量のp27が回収されたが、サイクリンE−Cdk2アフィニティークロマトグラフィーによって同じ抽出物からp27を回収することはできなかった。これはp27が増殖細胞に存在するが、外因的に加えられるサイクリンE−Cdk2複合体との相互作用に利用できない形態で存在することを示した(以下を参照されたい)。並べた比較は、サイクリンE−Cdk2ビーズ上で、又はCdk4を用いた共−沈降により精製されるp27が同じ見掛けの分子量を有することを示した(示されていない)。
この因子の安定性を特性化するために行われた実験は、細胞抽出物の100℃への短時間の加熱がサイクリンE−Cdk2に結合するp27の能力(図6A)、ならびに同様に阻害活性(図6C)の両方を保存することを示した。さらに、G1後期の細胞からの抽出物に適用すると、熱処理は予期に反してp27(図6A)及び付随して増加する量のCdk2阻害活性(図6B)の両方の出現を誘導した。これらの結果はp27及び阻害活性が両方とも熱に安定であり、熱−感受性機構によりG1後期抽出物においてそれを再−活性化することができることを示した。予想通り、サイクリンD2−Cdk4複合体は熱処理ライセートからもp27を封鎖することができた(示されていない)。
代謝的標識TGF−β処理細胞からの抽出物をサイクリンE−Cdk2−セファロース又は標準としてCdk2−セファロース上のクロマトグラフィーにかけた。洗浄後、ビーズを酸性緩衝液を用いて溶出させ、溶出物の一部をSDS PAGEにより分析した。これはp27が回収された主な標識種であり、サイクリンE−Cdk2ビーズからの溶出物中のみに存在することを示した(図7A)。同じ溶出物からの試料をCdk2阻害剤の存在に関して検定し、この活性はサイクリンE−Cdk2ビーズからの溶出物中に存在したが、Cdk2ビーズからの溶出物中には存在しなかった(図7B)。溶出物の残りをアセトン沈降により濃縮し、6M グアニジウム塩酸塩中で変性させ、等張緩衝液に対する透析により再生させ、2回目のサイクリンE−Cdk2セファロースへの結合に供した。1% SDSを含む緩衝液中における煮沸によるこれらのビーズからの溶出は、唯一の標識バンドとしてp27を与えた(図7C)。これらの結果は、p27及び阻害活性が1つであり、同じであるという可能性を強く支持した。この結論を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりサイクリンE−Cdk2溶出物を分別し、分別されたタンパク質をゲル切片から抽出することにより直接確かめた。再生タンパク質を、サイクリンEによるCdk2の活性化を阻害するそれらの能力に関して調べた(図7D)。p27を含むゲル切片から回収されたタンパク質はCdk2活性化を完全に阻害し、他のいずれのゲル切片からも別の阻害活性は回収されなかった。
議論
G1サイクリンであるサイクリンE(Koff et al.,1991;Lew et al.,1991;Ohtsubo & Roberts,1993)及びその触媒的サブユニットであるCdk2(Koff et al.,1992;Dulic et al.,1992)を含む複合体の活性化を妨げる非−増殖細胞における阻害剤が同定された。この阻害活性は少なくとも部分的にp27Kip1(Cdk阻害タンパク質1)とも命名された27kDaのポリペプチドに帰し得る。阻害剤及びp27Kip1は以下の性質を共有する:それらはサイクリンE−Cdk2複合体に結合するが、Cdk2のみには結合しない;それらは成長休止細胞からの抽出物においてのみ検出される;それらはサイクリンD2−Cdk4複合体により封鎖されることができるが、いずれかの成分のみでは封鎖されることができない;それらは熱安定性である;それらは増殖細胞の抽出物において潜伏しているが、短時間の熱処理により露出することができる。さらに精製p27Kip1は、増殖細胞からの抽出物に加えられるとサイクリンEによるCdk2活性化を阻害する。これらのデータは、p27Kip1が少なくともCdk2阻害剤の成分であることを強く示唆しているが、阻害がp27Kip1のみによるのか否か、あるいはP27Kip1がサイクリンE−Cdk2複合体に別のタンパク質を補充するのか否かは決定されていなかった。さらにp27、ならびにサイクリンE及びCdk2が他の生物、例えばマウス及びヒトに存在することが決定された(データは示されていない)。
p27Kip1阻害の機構は、それを有糸分裂サイクリン−Cdc2複合体の活性化を調節する経路から区別する特徴を有する。第1に、p27Kip1は触媒的ではなく、化学量論的に作用すると思われる。第2に、p27Kip1を含む不活性サイクリンE−Cdk2複合体においてCdk2のチロシンリン酸化は検出されず、p27Kip1がチロシンキナーゼ活性を有していないか、又はチロシンリン酸化を阻害することを示唆している。p27Kip1を含む複合体は、p34Cdc2活性化キナーゼ、CAKにより有効にリン酸化されず、これはそれらの不活性性を説明するのに十分であり得る。p27Kip1はThr160を脱リン酸化する可能性があるが、ホスファターゼの酵素活性が100℃への加熱に対して安定であったら驚くべきことであろう。p27Kip1のサイクリンE−Cdk2複合体への結合がThr160ドメインのコンホーメーションを変えることにより、又はCAKを立体的に妨害することによりThr160リン酸化を妨げるのが、より本当らしい。p27Kip1が他のタンパク質キナーゼの負の調節サブユニット又はドメインに類似して機能し、おそらくまさに、擬基質としてキナーゼ活性部位と相互作用したとしても驚くに当たらない。
p27Kip1に加え、FAR1(Peter et al.,1993)、p40(Mendenhall,1993)、p16及びp21(Xiong et al.,1992;1993)ならびにRb(Kato et al.,1993;Dowdy et al.,1993;Ewen et al.,1993a)を含む、G1の間のCdk活性の調節剤の可能性のある他のものもサイクリン−Cdk複合体に直接結合するということは、興味深いことである。これらの他のタンパク質のいずれもまだCdk活性を直接阻害することが示されていないが、それらの少なくともいくつかはこの機能を行うと思われる。直接のタンパク質−タンパク質相互作用は、Cdk活性の他のもっと無差別のトランス−作用調節剤を含む細胞環境において、特定のサイクリン−Cdk複合体への阻害シグナルに焦点を当てるための方法となり得る。
p27 Kip1 は成長阻害シグナルを細胞周期休止に連結させる
p27Kip1は、接触阻害又はTGF−βによりG1において休止した細胞において見いだされた。類似の活性が、血清−欠乏繊維芽細胞及びIL−2誘導リンパ球を含む、特定の成長因子を奪われた種々の細胞型においてCdk2活性化を妨害することも見いだされた(未公開の観察)。p27Kip1又は機能的に類似のタンパク質によるCdk2活性化の阻害は、多様な細胞外及び細胞内シグナルがそれを通じて細胞増殖に調節を及ぼす一般的機構であり得る。
p27Kip1は、Cdk2の活性化に必要なサイクリンEの閾量を設定することにより細胞増殖を束縛する。これらのデータが示す通り、p27Kip1が化学量論的に作用するとしたら、細胞中のサイクリンEの量が活性p27Kip1の量を超えるとすぐにCdk2活性化の閾値に達する。休止細胞の場合、この閾値は生理学的なサイクリンEの量より高く設定され、結局不活性サイクリンE−Cdk2複合体が集合するのみである。サイクリンA−Cdk2複合体を類似の調節に供することができ(Koff et al.,1993;Firpo et al.,準備中)、この複合体を活性化できないことも細胞周期休止に寄与してしかるべきである(Girard et al.1991:PacJano et al.,1992:1993;Tasi et al.,1993)。
成長調節シグナルはいかにしてP27Kip1の活性に連結されるのであろうか?最も簡単な考えは、成長細胞は多くのp27Kip1を含まず、細胞増殖を阻害するシグナルがP27Kip1合成又は安定化を誘導し、それによりその量を臨界的基本量以上に増加させることである。増殖細胞からの抽出物を熱処理に供すると非常に増加した量のp27Kip1を潜伏プールから回収することができるので、このモデルは厳密に正しくはあり得ない。これらの抽出物にp27Kip1の実質的プールが存在しなければならず、他の分子により封鎖されていなければならない。これは、p27Kip1が増殖細胞周期の間に正常な役割を果し、単に成長休止を誘導するシグナルに関する応答要素ではないことを意味する。従ってサイクリンE−Cdk2複合体と相互作用することができる「遊離の」p27Kip1の存在量は、やはりP27Kip1に直接結合するサイクリンD2−Cdk4複合体などの上流調節剤により調節され得る。これはサイクリンE−Cdk2との結合を妨げ、少なくとも試験管内においてその機能的活性化を可能にする。p27活性が上流調節剤により支配されるという考えは、p27の全細胞量が休止細胞において増加することができるという可能性を排除するものではなく、これらの実験は増殖及び休止細胞におけるp27の合計量を直接比較してはいない。
D−型サイクリンはそれ自身、成長阻害シグナルの標的である(Sherr,1993において考察)。これらの合成は成長因子−欠乏(deprived)細胞(Matsushime et al.,1991;Won et al.,1992;Kato et al.,印刷中)及び接触阻害細胞(非公開の観察)において急速に減少し、サイクリンD−Cdk4量の減少に導く(Matsushime et al.,1992)。D−型サイクリンの量はTGF−β妨害により大きく影響は受けないが、TGF−βはCdk4の合成を減少させ、サイクリンD−Cdk4複合体の正味の減少がやはり達成される(Ewen et al.,1993b)。Cdk4が制限要因であるTGF−β阻害細胞の場合、過剰のCdk4の発現は追加のサイクリンD−Cdk4複合体の形成に導き、p27Kip1を封鎖するはずである。事実、生体内におけるCdk4の強化された発現は、TGF−βに暴露された細胞におけるCdk2活性化の妨害を取り消す(Ewen et al.,1993b)。しかし試験管内におけるTGF−β処理細胞からの抽出物へのCdk4のみの添加は、p27Kip1とサイクリンE−Cdk2の相互作用を取り消さない。昆虫細胞において生産される組み換えタンパク質の混合により試験管内で形成することができるサイクリンEとCdk2の複合体と異なり、D−型サイクリン及びCdk4は、Sf9細胞が両成分をコードするバキュロウィルスに共感染しないと有効な集合しない(Kato et al.,1993)。複合体形成におけるこれらの差の基礎となる理由は限定されていないが、すべての結果は本質的に一致しており、サイクリンD−Cdk4複合体がp27Kip1との相互作用によりサイクリンE−Cdk2の上流で作用するという考えを支持している。これらの考えは無損傷の細胞において成された多くの観察に基づいているが、サイクリンD−Cdk4、p27Kip1及びサイクリンE−Cdk2を含む提案された経路は試験管内のみで直接調べられた。Cdk2が追加の機構により調節されるであろうこと、及びサイクリンD2−Cdk4に加えて他の新規なCdk複合体がp27Kip1の滴定に寄与し得ることが予想され得る。
サイクリンD2−Cdk4の唯一の役割がP27Kip1の滴定であるとは思われず、むしろ複合体の堆積はG1進行に必要な特定の基質のCdk4−媒介リン酸化を開始させると思われる。かくして触媒的不活性Cdk4と複合化したサイクリンDはp27Kip1の封鎖には十分であるが、完全に生体内におけるすべての必須のCdk4の機能の代わりとなるとは思われない。
p27Kip1誘導細胞周期休止の1つの特徴は、細胞が不活性サイクリンE−Cdk2複合体を堆積することができることである。従って細胞周期休止からの回復は新しいサイクリンEの合成及び新しいサイクリンE−Cdk2複合体の集合を必要としない。むしろ細胞は細胞増殖が再び始まる時にこの不活性複合体の潜伏プールを利用することができる。これは、成長阻害シグナルが絶えた時にサイクリン合成を促進するシグナルが遷移的である、及び不在である状況下で必須であり得る。しかしこれまでのところ、不活性サイクリンE−Cdk2p27Kip1複合体の再−活性化を可能にする条件は限定されていない。試験管内では、p27Kip1の滴定の後に集合するサイクリンE−Cdk2複合体のみが活性であり、生体内でも同様に同じことが当て嵌まり得る。
増殖細胞におけるp27Kip1の存在は、その役割が細胞外シグナルに応答して細胞周期休止を誘導することに制限され得ないことを示唆している。それは、各有糸分裂周期の間にG1からSへの遷移の遂行のためのサイクリンE閾値を設定することもできる。細胞融合実験は、哺乳類繊維芽細胞におけるS期への突入が、G1の間に継続的に堆積するアクチベータにより調節されることを示した(Foumier and Pardee,1975;Rao et al.,1977)。単−、二−及び三−核細胞(mono−bi− and tri−nucleate cells)におけるS期突入の速度を比較することにより、このアクチベータの濃度ではなく、その量がS期の開始の決定に重要であることが結論された。これらの観察は、Cdk2活性化の律速段階が濃度依存性であるべきサイクリン−Cdk2複合体の集合ではなく、代わりにp27Kip1などの化学量論的阻害剤の閾値を克服するのに十分な数の複合体の集合を含むモデルと一致する。p27Kip1阻害複合体から遊離のp27Kip1及び活性サイクリン−Cdk2への自然の崩壊は一次(指数的)速度論で起こり得、哺乳類細胞におけるS期突入に関して多くの場合に報告された一次速度定数の基となり得ることも指摘される(Smith & Martin,1973;Brooks et al.,1980)。
P27 Kip1 はG1進行の間の順序を強要し得る
サイクリン−Cdk複合体は、細胞がG1を遷移する時に特定の順序で現れる(Sherr,1993)。この一時的順序が正常なG1進行に必須であることが仮定されると、細胞は細胞周期休止からの回復の間の順序の復帰の問題を解決しなければならない。例えば接触阻害及びTGF−βはサイクリンD−Cdk4複合体の堆積を妨害するが、細胞周知の後期で作用するサイクリンE−及びサイクリンA−Cdk2複合体の合成に影響を与えない。サイクリンE−Cdk2及びサイクリンA−Cdk2複合体が細胞周期休止の間に活性なら、Cdk作用の正常な順序が失われる。p27Kip1は、細胞周期休止の間にこれらの既存の複合体の活性化を妨げることにより、これが起こらないことを保証することができる。さらにp27Kip1の活性自身がサイクリンD2−Cdk4により調節されるなら、これはサイクリンD−Cdk4複合体が集合し、その機能を遂行するまでCdk2を不活性なまま保持するための有効な機構となる。
II
実験法
代謝的標識、免疫沈降及びペプチドマッピング
Mv1Lu細胞を接触阻害により同調化し、TGF−bを用いて処理し、代謝的に標識し、溶解し、抗−Cdk2抗体を用いて免疫沈降させるか、又はサイクリンE−Cdk2アフィニティーカラム上のクロマトグラフィーにかけた。ペプチドマッピングのために、Cdk2免疫沈降物及びサイクリンE−Cdk2アフィニティーカラム溶出物に存在する27kdバンドをゲルから切断し、0.1μgのV8プロテアーゼで消化し、15〜22.5%勾配ゲル上で分離した。
バキュロウィルスタンパク質
ヒトサイクリンE cDNA(Koff et al.,1991)にN−末端においてヘキサヒスチジン配列を用いて標識した。このcDNAをバキュロウィルス転移ベクターpVL1392中にクローニングし、記載されている通りにBaculoGold Transfectionキット(Pharmacia)においてSf9細胞中で発現させた。バキュロウィルスタンパク質はDesai et al.,1992の方法により調製した。
Kip1精製
200の150mmの皿の接触阻害Mv1Lu細胞(〜2x1010細胞)をトリプシン化により集め、低張緩衝液中で音波処理により溶解した。抽出物を遠心により透明化し、100℃に5分間加熱し、遠心により透明化した。アガロース−予備浄化抽出物をNi++−NTA−アガロース上に固定化されたHis−サイクリンE−Cdk2複合体に結合させた。特異的に結合したタンパク質を6Mのグアニジウム塩酸塩溶液を用いて溶出させ、1xHBB緩衝液(25mM HEPES−KOH、ph7.7、150mM NaCl、5mM MgCl2、0.05% NP−40及び1mM DTT)(Kaelin Jr et al.,1992)に対して終夜透析し、アセトン−沈降させた。
タンパク質配列分析
タンパク質をSDS−PAGEにより分別し、ニトロセルロース上にエレクトロブロッティングし、Ponceau S−染色27kDaバンドを切り出し、内部アミノ酸配列分析のために処理した(Tempst et al.,1990)。HPLCピーク画分(トリプシンバックグラウンドより高い)を自動化Edmon分解及びマトリックス−補助レーザー脱着(MALDI−TOF)質量分析法(matrix−assisted laser−desorption mass spectrometry)の組み合わせにより分析した。質量分析(2%のアリコートについて)はモデルLaserTec Research MALDI−TOF装置(Vestec)、及びマトリックスとしてa−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を用いて行った。化学的配列決定(試料の95%について)は、フェムトモルの量の分析に最適化されたApplied Biosystems 477Aシークエネーターを用いて行った。
Kip1 cDNAクローニング及びノザンブロット分析
プライマーとして縮重オリゴヌクレオチドを用い、鋳型として接触阻害Mv1Lu細胞からの全RNAを用いてRT−PCR反応を行った。1対のプライマーの組み合わせ(図9Aを参照されたい)は135bpフラグメントを与え、それをMv1Lu細胞から調製された1ZAPII cDNAライブラリのスクリーニングに用いた。1EXloxマウス胚cDNAライブラリ(Novagen)からマウスKip1 cDNAを得、lgt11腎臓 cDNAライブラリ(Clontech)からヒトKip1 cDNAを得た。ポリ(A)+RNAブロットを、ランダムプライミングにより標識されたマウスKip1 cDNAのPCR−誘導フラグメントとハイブリッド形成させた。
試験管内翻訳
マウスKip1 cDNAのコード領域(ヌクレオチド1〜591)を含むNdeI−XhoIフラグメントをpCITE2a(Novagen)にサブクローニングした。この構築物はC−末端ヘキサヒスチジン配列及びKip1のN−末端におけるベクターからの6つのアミノ酸を含む融合タンパク質をコードする。試験管内転写及び翻訳はRed Novaライセート(Novagen)を用いて行った。
組み換えKip1
全長コード領域を含むマウスKip1 cDNAの591bp PCR生成NheI−XhoIフラグメントをpET21a(Novagen)中にサブクローニングし、C−末端ヘキサヒスチジン配列を有するKip1をコードする構築物を得た。タンパク質をBL21(DE3)バクテリアにおいて発現させ、8M ウレア、50mM Tris−HCl(pH7.4)、20mM イミダゾールを含む溶液中における細胞の音波処理により精製し、遠心により透明化し、Ni++−NTAアガロースに4℃において1時間結合させた。カラムを0.5M 塩化ナトリウム、50mM Tris(pH7.4)及び20% グリセロール中の6M〜0.75Mのウレア逆勾配を用いて洗浄し、200mM イミダゾール、20mM HEPES pH7.4、1M KCl、100mM EDTAを用いて溶出させた。溶出物を1xHBB緩衝液に対して終夜透析し、使用まで−80℃で保存した。
試験管内キナーゼ及びCdk2活性化アッセイ
バキュロウィルスにより発現されたサイクリン及びCdkを含むH5昆虫細胞抽出物を組み換えKip1と共に37℃で30分間インキュベートし、抗−HA抗体を用いて沈降させ、これらの複合体のヒストンH1キナーゼ活性を検定した(Koff et al.,1993)。Rbキナーゼ反応はMatsushime et al.(1991)に従って行った。ヒストンH1バンド及びRbバンドのリン酸化をPhosphorimager(Molecular Dynamics)を用いて定量した。
指数的成長A549細胞からの低張細胞抽出物をバキュロウィルスHis−サイクリンEタンパク質と共に、Kip1を含んで、又は含まずに37℃において30分間インキュベートした。次いで混合物を20mM イミダゾールを含む1xNP40 RIPA緩衝液中で10倍に希釈し、Ni++−NTA−アガロースと共に4℃で1時間インキュベートした。試料の一部を12% SDS−PAGE上で移動させ、抗−Cdk2抗体を用いてイムノブロッティングした(Koff et al.,1993)。
Kip1トランスフェクション及びフローサイトメトリー分析
マウスKip1 cDNA(ヌクレオチド−82〜+591)をpCMV5(Attisano et al.,1993)中にサブクローニングした。R−1B細胞を、ネズミCD16 cDNAを含む0.5μg/mlのpCEXV−3及び3μg/mlのpCMV5のみ、又は3μg/mlのpCMV5−Kip1(Attisano et al.,1993)を用いてコトランスフェクションした。CD16免疫染色細胞(Wirthmueller et al.,1992)をFACScan(Becton−Dickinson)及びMulticycleソフトウェア(PHOENIX FLOW Systems)を用いたフローサイトメトリーにより分析した。
結果
Kip1の精製及びクローニング
接触阻害Mv1Lu細胞からのライセートを100℃に加熱し、不溶性材料を除いて浄化し、サイクリンE−Cdk2アフィニティーカラムに結合させた。6M グアニジウム塩酸塩を用いた溶出はカラムから遊離された組み換えCdk2及び27kdタンパク質Kip1を与えた。透析されたこの試料のアリコートはヒストンH1キナーゼアッセイにおいてサイクリンE−Cdk2に対する強い阻害活性を有し、この活性はSDS−PAGEゲル切片からKip1と共溶出することが示された。2つの別の試料(それぞれ〜2x1010細胞)からのKip1収量はそれぞれ0.3μg及び1μであった。
Kip1が生体内でCdk2と相互作用することを確かめるために、代謝的標識抽出物を抗−Cdk2抗体を用いて接触阻害Mv1Lu細胞から免疫沈降させた(図8B)。沈降物はCdk2に加えて27kdバンドを含み、V8プロテアーゼを用いた制限消化の後にそのペプチド地図は、サイクリンE−Cdk2アフィニティークロマトグラフィーにより代謝的標識細胞から精製されたKip1の地図と同一であった(図8C)。これらの結果は、試験管内におけるサイクリンE−Cdk2への結合により精製されるCdk阻害剤が、休止細胞においてCdk2と結合しているというさらなる証拠を与えた。
自動化Edman分解により種々のKip1トリプシンペプチド配列を得、逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によるcDNA増幅のための縮重オリゴヌクレオチドプライマーの設計に用いた。逆転写Mv1Lu mRNAから増幅されたPCR産物を用いてMv1Lu cDNAライブラリをスクリーニングした。これは精製タンパク質から得られる配列をコードする1つの陽性のクローンを与えた(図9A)。Kip1 cDNAを用いたヒト腎臓及びマウス胚からのcDNAライブラリのスクリーニングは、高度に関連する配列のクローンを与えた。ヒト及びマウスKip1 cDNAは、好ましい翻訳開始関係のATGコドンで始まり、停止コドンに先行されたそれぞれ594及び591bpの読み取り枠を有した(データは示していない)。これらの読み取り枠と比較すると、ミンククローンは不完全であり、ヌクレオチド534において終わっていた(図9A)。
Kip1 cDNAはヒトにおいて198アミノ酸(22,257ダルトン)及びマウスにおいて197アミノ酸(22,208ダルトン)の推定タンパク質をコードする。これらの値はSDS−PAGEによる精製ミンクタンパク質の場合に得た27kdの値より小さい。この矛盾を解決するために、マウスKip1配列をコードするcDNAを構築し、C−末端においてヘキサヒスチジン配列(〜1kd質量)で標識した。このcDNAの試験管内転写及び翻訳は、Ni++−NTA−アガロースに特異的に結合し、SDS−PAGEゲル上で28kdタンパク質として移動する生成物を与え(図8C)、クローニングされたcDNAが全−長Kip1をコードし、このタンパク質はSDS−PAGE上でその算出分子質量よりいくぶん遅く移動することを確証した。
Kip1は高度に保存され、Cip1/WAF1に関連している
推定ヒト、マウス及びミンクKip1アミノ酸配列は高度に関連し、〜90%の同一性を示す(図9A)。Genbank検索は、Kip1がアミノ酸のレベルでCip1/WAF1のみに有意な相同性を示すことを明らかにした。類似性は大部分、タンパク質のN−末端半分における60−アミノ酸セグメントに限られていた。この領域はCip1/WAF1における対応する領域と44%同一であった(図9B)。Cip1/WAF1と同様に、Kip1はC−末端の近くに推定2分割核局在化シグナル(Dingwall and Laskey,1991)を有した(図9B)。しかしCip1/WAF1と異なり、Kip1配列はN−末端領域に推定亜鉛フィンガーモチーフを有しておらず、共通Cdc2リン酸化部位を含む23アミノ酸のC−末端拡張(extension)を有する(図9B)。
Cdk阻害活性
C−末端においてヘキサヒスチジンで標識された純粋な組み換えKip1は、一次反応条件下で検定されると、ヒトサイクリンA−Cdk2、サイクリンE−Cdk2及びサイクリンB1−Cdc2複合体のヒストンH1キナーゼ活性を阻害したが(図10A及び10B)、ベクターのみで形質転換されたバクテリアからのモック試料は阻害しなかった。サイクリンE−Cdk2は0.5nM Kip1において半−最大に阻害された(図10B)。サイクリンA−Cdk2の完全な阻害は8倍高い濃度を必要とし、この濃度はサイクリンB1−Cdc2の完全な妨害には不十分であった(図10B)。サイクリンE−Cdk2、サイクリンA−Cdk2又はサイクリンD2−Cdk4複合体にKip1を加えると、GST−Rb融合産物をリン酸化するこれらの能力を阻害した(図10C及びD)。これらのアッセイにおいてKip1による阻害に対するサイクリンE−Cdk2及びサイクリンA−Cdk2の相対的感受性は、ヒストンH1キナーゼアッセイにおけるそれらの感受性と平行していた(図10B及び10Dを比較されたい)。これらのアッセイでは約10nMのサイクリン及び10nMのCdkを用いたが、サイクリン:Cdk複合体の実際の濃度は未知である。
Cdk阻害ドメイン
Kip1の阻害活性がCip1/WAF1への類似性の領域に存在するのか否かを研究した。Kip1におけるこの領域に対応する52−アミノ酸ペプチド[Kip1(28−79)](図10E)を組み換えにより製造し、C−末端ヘキサヒスチジン標識を用いて精製した。このペプチドは、全長Kip1の力価に近い力価でサイクリンA−Cdk2によるRbリン酸化を阻害し(図10E)、サイクリンE−Cdk2又はサイクリンD2:Cdk4をそれより低い効率で阻害した。N−末端における3つのアミノ酸又はC−末端における15のアミノ酸が欠けたこのKip1の領域の別形はCdk阻害剤としてずっと弱く、7つのN−末端アミノ酸の欠失は阻害活性をもたない生成物を与えた(図10E)。Cip1/WAFへの配列類似性をほとんど持たないペプチドKip1[(104−152)]はCdk阻害剤として不活性であった(図10E)。
Kip1はCdk活性化を妨げる
Kip1は最初、休止細胞からの抽出物におけるその存在がCdk2を、Thr160におけるリン酸化による活性化に対して抵抗性としてしまう因子として同定された。Kip1がCdk活性化を妨害することができるか否かを決定するために、指数的成長細胞からの抽出物におけるサイクリンE−依存性Cdk2活性化へのその影響を決定した(Koff et al.,1993)。A549ヒト肺癌細胞抽出物をヒスチジン−標識サイクリンEと共にインキュベートし、次いでそれを回収し、結合ヒストンH1キナーゼ活性に関して決定した(図11A)。細胞抽出物へのヒスチジン−標識Kip1の添加は、サイクリンE−結合キナーゼ活性の量を顕著に減少させた(図11A)。平行アッセイにおいて、回収されたサイクリンEをSDS−PAGE及び抗−Cdk2抗体を用いたウェスターンブロッティングに供した。Kip1を与えられなかった細胞抽出物はThr160においてリン酸化されたCdk2に対応する形態のサイクリンE−結合Cdk2を与えた(Gu et al.,1992)(図11B)。対照的に、Kip1を与えられた抽出物からのサイクリンE−結合Cdk2は、独占的に不活性な形態にあった(図11B)。これらの結果を合わせると、試験管内における活性前(preactive)サイクリンE−Cdk2複合体へのKip1の結合はThr160リン酸化及びCdk2の活性化を妨げることが示唆された。
Kip1過剰発現は細胞のS期への突入を阻害する
ヒト発現ベクター中にサブクローニングされたマウスKip1を、細胞集団の最高65%が吸収する条件下でMv1Lu中にトランスフェクションし、トランスフェクションされたプラスミドを遷移的に発現させた(Attisano et al.,1993)。DNA中への125I−デオキシウリジン挿入の比率は、ベクターのみでトランスフェクションされた細胞と比較して、Kip1でトランスフェクションされた細胞において70%減少した(表III)。
細胞周期分布への影響を決定するために、Kip1をCD16発現ベクター(Kurosaki and Ravetch,1989)と共にコトランスフェクションし、それはCD16免疫蛍光に基づく、トランスフェクションされた細胞のフローサイトメトリー分離を可能にした。Kip1とコトランスフェクションされたCD16+集団は、ベクターのみでコトランスフェクションされたCD16+集団より、G1期において細胞の大きな割合を示し、S期において小さい割合を示し(表III)、Kip1過剰発現がS期への細胞の突入を妨害したことを示唆した。トランスフェクションの後の細胞数は、Kip1が細胞死を引き起こさなかったことを示した(データは示されていない)。
休止及び増殖細胞におけるKip1 mRNA分布及び量
種々のヒト組織における内在性Kip1 mRNA発現の量を、ノザンブロット分析により測定した。検出された唯一のmRNAは2.5kbの種であり、調べたすべての組織において類似の量で存在したが、それは骨格筋においていくらか高く、肝臓及び腎臓においていくらか低かった(図12A)。指数的増殖及び接触阻害Mv1Lu細胞においてKip1 mRNA量は類似であり、細胞が血清の存在下で低密度において平板培養されることにより接触阻害から解放された時、変化しなかった(図12B)。接触阻害から解放された細胞へのTGF−bの添加もKip1 mRNA量に影響しなかった(図12B)。これらの結果は、細胞外非増殖シグナルによるKip1の調節が転写後のレベルで起こることを示している。
議論
Cdk阻害剤の1群
ヒトKip1はマウス及びミンクにおいて高度に保存されている(〜90%同一性)198アミノ酸のタンパク質をコードする。その最も他と異なる特徴はN−末端半分の60−アミノ酸領域であり、それはCip1/WAF1に類似のアミノ酸配列を有する(El−Deiry et al.,1993;Harper et al.,1993;Xiong et al.,1993)。Cip1/WAF1と同様に、Kip1はC−末端領域に核局在化シグナルの可能性のある領域を含む。Kip1においては、この領域は共通Cdc2キナーゼ部位も含み、それはそれらの標的キナーゼによるフィードバック調節において役割を果たすことができる。
Kip1及びCip1/WAF1の間の構造的類似性は、種々の調節性を有する哺乳類Cdk阻害剤の1群を限定する。Kip1は細胞外シグナルの作用に転写後的に含まれ(本研究)、指数的成長細胞におけるそのサイレント性は熱−不安定成分への結合と関連している。対照的にCip1/WAF1は、p53、セネッセンス及び細胞休止により転写的に調節される。Kip1及びCip1/WAF1は有糸分裂Cdkに対してよりG1 Cdkに対して有効である。しかしKip1はサイクリンA−Cdk2(又はサイクリンD2−Cdk4)に対してよりサイクリンE−Cdk2に対して有効であるが、類似のアッセイにおいてCip1/WAF1はサイクリンA−Cdk2に対してより有効である(Harper et al.,1993)。Kip1の有効性は、与えられるサイクリンCdk複合体に関するその結合アフィニティーにより限定されるらしい。
Cip1/WAF1に類似のKip1領域は、試験管内において52−アミノ酸ペプチドとして調べられた時に、Cdk活性を阻害するのに十分である。この52アミノ酸セグメントは配列LFGPVNを含み、それはCip1/WAF1への同一性の最長の非−中断長に対応し、興味深いことにCLN−CDC28との相互作用に必要な領域に位置するFAR1配列LSQPVNに類似している(Peter et al.,1993)。
2つのレベルにおけるCdk阻害
Kip1はCdk活性化の過程及び、無損傷の細胞において集合し、活性化されたサイクリン−Cdk複合体のキナーゼ活性の両方を阻害することができる。Kip1は最初、休止細胞の抽出物におけるその存在が、休止細胞を、Thr160におけるリン酸化によりCdk2を活性化できなくする因子として同定された。実際に、組み換えKip1は試験管内においてCdk2 Thr160リン酸化及び活性化を阻害する。Kip1はCdk−活性化キナーゼの阻害剤として作用することができたが、以前の結果はこの可能性に反対して議論される傾向があった。Cdk2活性化及びCdk2活性の両方への、Kip1の二重効果は、Thr160がCdk2構造における基質−結合割れ目(cleft)を閉じるループに位置する事実に関連し得る(DeBondt et al.,1993)。この領域へのKip1の結合がThr160リン酸化及び活性化Cdk2の触媒機能を妨げることは考えられる。
細胞周期における機能
サイクリンE−Cdk2及びサイクリンD−Cdk4はG1進行に関する律速要因である(Jiang et al.,1993;Ohtsubo and Roberts,1993;Quelle et al.,1993)。生体内におけるKip1によるこれらのキナーゼの阻害は、細胞をその遷移に達し得なくする。Kip1トランスフェクションにより引き起こされるDNA合成の速度及びS期の細胞の割合の強い減少は、この可能性、及び細胞外成長阻害シグナルの媒介物としてのKip1の役割と一致する。
接触阻害から解放された細胞がS期により近く移動する時、それらの抽出物が含むKip1活性は漸進的により低量となり、この減少はG1初期におけるTGF−bの添加により妨げることができる。しかし本結果は、接触阻害細胞及びTGF−b−処理細胞が増殖細胞の量と等しいKip1 mRNA量を有することを示している。さらに増殖細胞からの抽出物は、それらが100℃において遷移的に加熱されると活性Kip1を与える。これらの観察の1つの説明は、細胞がG1を通って進行する時にKip1が熱−不安定成分への結合により漸進的に封鎖され、この過程がTGF−bにより妨げられ得ることである。マイトジェン及び抗マイトジェンは、サイレント化タンパク質へのその結合を調節することによりKip1活性又は利用性を調節するのかも知れない。別の場合、Kip1は受動性レギュレーターであり、その均一な量が、Kip1への結合により課せられる閾値にCdkの量が達した時のみに活性Cdkが利用できるようになることを保証し得るのかも知れない。後者の状況の場合、サイクリン又はCdkタンパク質量へのマイトジェン及び抗マイトジェンのいくぶん小さい影響がその閾値の存在により増幅されるようになり得る。
引用文献
配列表
配列番号:1
配列の長さ:178
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:タンパク質
配列
配列番号:2
配列の長さ:197
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:タンパク質
配列
配列番号:3
配列の長さ:198
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:タンパク質
配列
Claims (28)
- 配列番号:1に示される配列のアミノ酸残基+28〜+88に少なくとも90%同一性の配列を包含するp27kip1アミノ酸配列を含んでなり、かつ、サイクリンE−Cdk2複合体の活性化を阻害する単離又は組換え的に生産されたポリペプチド。
- 配列番号:1、2または3に示される配列に同一の配列を含んでなるサイクリン依存性キナーゼ(Cdk)の活性化を阻害しうる単離ポリペプチド。
- 配列番号:1、2または3に示される配列の残基28〜79からなる単離ポリペプチド。
- ポリペプチドが哺乳類のポリペプチドである請求項1〜3のいずれかに記載の単離ポリペプチド。
- ポリペプチドがヒトのポリペプチドである請求項1〜3のいずれかに記載の単離ポリペプチド。
- ポリペプチドが融合ポリペプチドである請求項1〜5のいずれかに記載の単離ポリペプチド。
- ポリペプチドが約27kDaの分子量を有する請求項1または2記載の単離ポリペプチド。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる単離核酸。
- ヌクレオチド配列に操作可能に連結された転写調節配列を含んでなる請求項8記載の単離核酸。
- 転写調節配列が異種の転写調節配列である請求項9記載の単離核酸。
- 請求項8〜10のいずれかに記載の単離核酸を含んでなる原核細胞または真核細胞中で複製可能な発現ベクター。
- 発現ベクターがウイルスベクターである請求項11記載の発現ベクター。
- 発現ベクターがプラスミドである請求項11記載の発現ベクター。
- 請求項11〜13のいずれかに記載の発現ベクターを含み、かつ該発現ベクターが該ポリペプチドを発現する宿主細胞。
- 請求項14記載の宿主細胞をポリペプチドの生産を可能にする条件下の適当な細胞培養培地で成長させ、それにより生産されるポリペプチドを回収することを含んでなるポリペプチドの生産方法。
- (i)細胞試料中のp27kip1タンパク質レベルを測定し、そして(ii)対照の細胞について測定された野生型p27kip1タンパク質レベルと該細胞試料中のp27kip1タンパク質レベルとを比較することを含んでなり、かつ、該野生型p27kip1タンパク質がサイクリンE−Cdk2(サイクリン依存性キナーゼ2)複合体の活性化を阻害し、そして配列番号:1、2および3の一つに示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする細胞または細胞試料中のp27kip1タンパク質の相対的な量を決定する方法。
- (i)細胞試料中のp27kip1タンパク質レベルを測定し、そして(ii)該細胞試料中のp27kip1タンパク質レベルを対照細胞について測定されたp27kip1タンパク質レベルと比較することを含んでなり、かつ、該p27kip1タンパク質がサイクリンE−Cdk2(サイクリン依存性キナーゼ2)複合体の活性化を阻害し、そして配列番号:1、2および3の一つに示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする患者に由来する細胞またはトランスホームされた細胞試料中のp27kip1タンパク質の相対的な量の決定方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のp27kip1ポリペプチドと特異的な免疫反応性を有する単離抗体またはその断片。
- 抗体がモノクロナール抗体である請求項18記載の抗体。
- 抗体が検出可能な標識で標識されている請求項18記載の抗体。
- p27kip1タンパク質がヒト起源である請求項18記載の抗体。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のp27kip1タンパク質と特異的な免疫反応性を有するポリクローナル抗体の精製調製物またはその断片。
- p27kip1タンパク質がヒト起源である請求項22記載の調製物。
- (i)請求項18〜21のいずれかに記載の単離抗p27kip1抗体またはその断片、および(ii)p27kip1タンパク質との免疫複合体における抗p27kip1抗体を検出するための手段を含んでなるp27kip1ポリペプチドを検出するためのキット。
- 抗p27kip1抗体を検出するための手段が抗p27kip1抗体に結合された検出可能な標識である請求項24記載のキット。
- 抗p27kip1抗体を検出するための手段が抗p27kip1抗体と免疫反応性の第二抗体である請求項24記載のキット。
- 抗p27kip1抗体が配列番号:1、配列番号:2および配列番号:3に示される配列から選ばれるp27kip1アミノ酸配列に特異的な免疫反応性を有する請求項24記載のキット。
- p27kip1タンパク質がヒト起源である請求項24記載のキット。
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