ところで、このような表示装置においては、アノードパネルAPとカソードパネルCPとの間の距離は高々1mm程度しかなく、カソードパネルの電界放出素子と、アノードパネルAPのアノード電極220との間で異常放電(真空アーク放電)が発生し易い。異常放電が発生すると、表示品質が著しく損なわれるだけでなく、電界放出素子やアノード電極220に損傷が発生する。
真空空間中における放電の発生機構においては、先ず、強電界下における電界放出素子からの電子やイオンの放出がトリガーとなって小規模な放電が発生する。そして、アノード電極制御回路43からアノード電極220へエネルギーが供給されてアノード電極220の温度が局所的に上昇したり、アノード電極220の内部の吸蔵ガスの放出、あるいはアノード電極220を構成する材料そのものの蒸発が生ずることによって、小規模な放電が大規模な放電へ成長すると考えられている。アノード電極制御回路43以外にも、アノード電極220と電界放出素子との間に形成される静電容量に基づき生じたエネルギーが、大規模な放電への成長を促すエネルギー供給源となる可能性がある。
異常放電(真空アーク放電)を抑制するには、放電のトリガーとなる電子やイオンの放出を抑制することが有効であるが、そのためには極めて厳密なパーティクル管理が必要となる。このような管理をアノードパネルAPの製造プロセス、あるいは、アノードパネルAPを組み込んだ表示装置の製造プロセスにおいて実行することには、多大な技術的困難が伴う。
また、特開2001−243893にて提案したアノード電極ユニットは、小規模な放電が大規模な放電へと成長することへの抑制に効果があるものの、まだ改善の余地があることが判明した。
従って、本発明の目的は、小規模な放電が大規模な放電へと成長することを一層確実に抑制し得る構造を有するアノード電極を備えた冷陰極電界電子放出表示装置を提供することにある。
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置は、冷陰極電界電子放出素子を複数備えたカソードパネルと、アノードパネルとが、それらの周縁部で接合されて成る冷陰極電界電子放出表示装置であって、
アノードパネルは、基板、基板上に形成された蛍光体層、1本の給電線、及び、蛍光体層上に形成されたアノード電極から構成されており、
アノード電極は、N個(但し、N≧2)のアノード電極ユニットから構成されており、
各アノード電極ユニットは、該給電線を介してアノード電極制御回路に接続されており、
アノード電極制御回路出力電圧と冷陰極電界電子放出素子印加電圧との間の電位差をVA(単位:キロボルト)、アノード電極ユニット間のギャップ長をLg(単位:μm)としたとき、
VA/Lg<1(kV/μm)
を満足することを特徴とする。
尚、本発明の第1の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置、あるいは又、後述する本発明の第3の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置において、アノード電極ユニット間のキャップ長Lgは、アノード電極ユニットの位置に依存せずに一定としてもよいし、アノード電極ユニットの位置に依存して異ならせてもよい。
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置は、冷陰極電界電子放出素子を複数備えたカソードパネルと、アノードパネルとが、それらの周縁部で接合されて成る冷陰極電界電子放出表示装置であって、
アノードパネルは、基板、基板上に形成された蛍光体層、1本の給電線、及び、蛍光体層上に形成されたアノード電極から構成されており、
アノード電極は、N個(但し、N≧2)のアノード電極ユニットから構成されており、
各アノード電極ユニットは、該給電線を介してアノード電極制御回路に接続されており、
アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間の距離をd(単位:mm)、アノード電極ユニットの面積をS(単位:mm2)としたとき、
(VA/7)2×(S/d)≦2250
を満足することを特徴とする。
上記の目的を達成するための本発明の第3の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置は、冷陰極電界電子放出素子を複数備えたカソードパネルと、アノードパネルとが、それらの周縁部で接合されて成る冷陰極電界電子放出表示装置であって、
アノードパネルは、基板、基板上に形成された蛍光体層、及び、蛍光体層上に形成されたアノード電極から構成されており、
アノード電極は、N個(但し、N≧2)のアノード電極ユニットから構成されており、
アノード電極ユニット間には抵抗体層が形成されており、
1つのアノード電極ユニットがアノード電極制御回路に接続されており、
アノード電極制御回路出力電圧と冷陰極電界電子放出素子印加電圧との間の電位差をVA(単位:キロボルト)、アノード電極ユニット間のギャップ長をLg(単位:μm)としたとき、
VA/Lg<1(kV/μm)
を満足することを特徴とする。
上記の目的を達成するための本発明の第4の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置は、冷陰極電界電子放出素子を複数備えたカソードパネルと、アノードパネルとが、それらの周縁部で接合されて成る冷陰極電界電子放出表示装置であって、
アノードパネルは、基板、基板上に形成された蛍光体層、及び、蛍光体層上に形成されたアノード電極から構成されており、
アノード電極は、N個(但し、N≧2)のアノード電極ユニットから構成されており、
アノード電極ユニット間には抵抗体層が形成されており、
1つのアノード電極ユニットがアノード電極制御回路に接続されており、
アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間の距離をd(単位:mm)、アノード電極ユニットの面積をS(単位:mm2)としたとき、
(VA/7)2×(S/d)≦2250
を満足することを特徴とする。
本発明の第3の態様若しくは第4の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、アノード電極ユニットは抵抗体層を介して直列に接続されており、複数のアノード電極ユニットの内の1つがアノード電極制御回路に接続されている。このアノード電極制御回路に接続されているアノード電極ユニットが、直列に接続されたアノード電極ユニットのどの位置に位置するかは、本質的に任意であり、例えば、直列に接続されたアノード電極ユニットの中央に位置するアノード電極ユニットとすることもできるし、直列に接続されたアノード電極ユニットの端部に位置するアノード電極ユニットとすることもできる。
上記の目的を達成するための本発明の第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置は、冷陰極電界電子放出素子を複数備えたカソードパネルと、アノードパネルとが、それらの周縁部で接合されて成る冷陰極電界電子放出表示装置であって、
アノードパネルは、基板、基板上に形成された蛍光体層、及び、蛍光体層上に形成されたアノード電極から構成されており、
アノード電極は、N個(但し、N≧2)のアノード電極ユニットから構成されており、
アノード電極ユニットの大きさは、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間で生じた放電により発生したエネルギーによってアノード電極ユニットが局所的に蒸発しない大きさであることを特徴とする。
本発明の第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置において、アノード電極ユニットの大きさは、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間で生じた放電により発生したエネルギーによって、アノード電極ユニットにおける1サブピクセルに相当する大きさの部分が蒸発しない大きさであることが好ましい。
本発明の第1の態様、第2の態様あるいは第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、アノード電極ユニット間の放電発生を抑止するために、アノード電極ユニット間に抵抗体層が形成されていることが好ましい。尚、このような本発明の第1の態様、第2の態様あるいは第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置を、便宜上、本発明の第1Aの態様、第2Aの態様あるいは第5Aの態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置と呼ぶ。
本発明の第1Aの態様、第2Aの態様あるいは第5Aの態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置を含む本発明の第1の態様、第2の態様あるいは第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、あるいは又、本発明の第3の態様若しくは第4の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、隣接するアノード電極ユニットに対向していないアノード電極ユニットの縁部分は、抵抗体層で被覆されていることが、アノード電極ユニットの係る縁部分からの小規模な放電が大規模な放電へと成長することを防止するといった観点から好ましい。
本発明の第1Aの態様、第2Aの態様を含む本発明の第1の態様、第2の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、各アノード電極ユニットと給電線との間に隙間が設けられており、各アノード電極ユニットと給電線とは抵抗部材を介して接続されている構成とすることが一層好ましい。尚、このような抵抗部材を、便宜上、第1の抵抗部材と呼ぶ場合がある。第1の抵抗部材を設けることによって、放電発生時にアノード電極制御回路からのエネルギー供給を一時的に停止することができる。
そして、この場合、更には、抵抗値がr0の抵抗体層が形成されている場合、抵抗部材(第1の抵抗部材)の抵抗値をr1としたとき、30r0≦r1≦100r0を満足することが好ましい。更には、給電線は、第2の抵抗部材を介して直列に接続されたM個(但し、2≦M≦N)の給電線ユニットから構成されており、1つの給電線ユニットは1個あるいは2個以上のアノード電極ユニットに接続されている構成とすることが好ましく、更には、10M≦N≦100Mであることが一層好ましい。尚、これらの構成を、本発明の第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置に対して適用することができる。給電線を複数の給電線ユニットから構成すれば、給電線ユニットの面積を小さくすることができるが故に、給電線と冷陰極電界電子放出素子との間での放電に起因した給電線の損傷発生(例えば、給電線の局所的な蒸発)を抑止することができる。
尚、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間の距離をd(単位:mm)、給電線ユニットの面積をS’(単位:mm2)としたとき、
(VA/7)2×(S’/d)≦2250
好ましくは、
(VA/7)2×(S’/d)≦450
を満足することが、給電線ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間での放電に起因した給電線ユニットの損傷発生(例えば、給電線ユニットの局所的な蒸発)を一層確実に防止するといった観点から望ましい。尚、それぞれの給電線ユニットの大きさは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、給電線や給電線ユニットの縁部分からの小規模な放電が大規模な放電へと成長することを防止するといった観点から、給電線や給電線ユニットの縁部分を抵抗体薄膜で被覆しておくことが好ましい。あるいは又、給電線や給電線ユニットを抵抗体薄膜で被覆してもよい。
本発明の第1Aの態様、第2Aの態様、第5Aの態様を含む本発明の第1の態様〜第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置(以下、これらを総称して、本発明の冷陰極電界電子放出表示装置と呼ぶ場合がある)にあっては、蛍光体層と基板との間に、アノード電極制御回路に接続されたストライプ状の透明電極が形成されている構成とすることが好ましく、更には、1画素(1ピクセル)を構成する単位蛍光体層の複数が直線状に配列されており、直線状に配列された複数の単位蛍光体層から構成された列と基板との間に、アノード電極制御回路に接続されたストライプ状の透明電極が形成されている構成とすることが一層好ましい。即ち、直線状に配列された単位蛍光体層の列の総数をn列としたとき、ストライプ状の透明電極の本数は、最大、nである。直線状に配列された単位蛍光体層の列の複数と基板との間に、アノード電極制御回路に接続されたストライプ状の透明電極が形成されている構成とすることもできる。このように、透明電極を設けることによって、蛍光体層の過剰な帯電を確実に防止することができ、過剰な帯電による蛍光体層の劣化を抑制することができる。そして、このような構造の透明電極を設けることによって、冷陰極電界電子放出表示装置の試作時の設計変更に容易に対処可能となる。カラー表示の場合、直線状に配列された単位蛍光体層の1列は、全てが赤色発光単位蛍光体層で占められた列、緑色発光単位蛍光体層で占められた列、及び、青色発光単位蛍光体層で占められた列から構成されていてもよいし、赤色発光単位蛍光体層、緑色発光単位蛍光体層、及び、青色発光単位蛍光体層が順に配置された列から構成されていてもよい。ここで、単位蛍光体層とは、表示用パネル上において1つの輝点を生成する蛍光体層であると定義する。また、1画素(1ピクセル)は、1つの赤色発光単位蛍光体層、1つの緑色発光単位蛍光体層、及び、1つの青色発光単位蛍光体層の集合から構成され、1サブピクセルは、1つの単位蛍光体層(1つの赤色発光単位蛍光体層、あるいは、1つの緑色発光単位蛍光体層、あるいは、1つの青色発光単位蛍光体層)から構成される。更には、アノード電極ユニットにおける1サブピクセルに相当する大きさとは、1つの単位蛍光体層を覆うアノード電極ユニットの部分の大きさを意味する。
本発明の第1Aの態様を含む本発明の第1の態様、本発明の第3の態様、本発明の第5Aの態様を含む本発明の第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間での放電に起因してアノード電極ユニットが溶融するといったアノード電極ユニットの損傷規模の拡大を防止するために、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間の距離をd(単位:mm)、アノード電極ユニットの面積をS(単位:mm2)としたとき、
(VA/7)2×(S/d)≦2250
を満足することが好ましく、
(VA/7)2×(S/d)≦450
を満足することが一層好ましい。
また、本発明の第2Aの態様を含む本発明の第2の態様、第4の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、
(VA/7)2×(S/d)≦450
を満足することが一層好ましい。
アノード電極ユニットに凹凸が存在し、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間の距離dが一定でない場合、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間の最短距離をdとする。
本発明の冷陰極電界電子放出表示装置において、アノード電極制御回路出力電圧は、通常、一定である。一方、冷陰極電界電子放出表示装置の動作方式は、(1)カソード電極に印加する電圧を一定とし、ゲート電極に印加する電圧を変化させる方式、(2)カソード電極に印加する電圧を変化させ、ゲート電極に印加する電圧を一定とする方式、(3)カソード電極に印加する電圧を変化させ、且つ、ゲート電極に印加する電圧も変化させる方式がある。アノード電極制御回路出力電圧と冷陰極電界電子放出素子印加電圧との間の電位差VAを、(1)の場合にあっては、アノード電極制御回路出力電圧とカソード電極印加電圧との間の電位差とすればよいし、(2)及び(3)の場合にあっては、アノード電極制御回路出力電圧とカソード電極印加電圧との間の電位差の最大値とすればよい。
本発明の冷陰極電界電子放出表示装置において、アノード電極は、少なくとも蛍光体層上に形成されていればよく、蛍光体層が形成されていない基板上に延在して形成されていてもよい。具体的には、アノード電極は、全体として、実際の表示部分として機能する有効領域を少なくとも覆っている。有効領域の周囲は、周辺回路の収容や表示画面の機械的支持等、有効領域の機能を支援する無効領域である。アノード電極ユニットの外形形状は、本質的には任意の形状とすることができるが、加工の容易性等から、矩形形状(ストライプ状)であることが好ましい。矩形形状のアノード電極ユニットの延在方向は、有効領域を矩形と考えた場合、長手方向であっても短手方向であってもよい。
アノード電極ユニットの数(N)は2以上であればよく、例えば、直線状に配列された単位蛍光体層の列の総数をn列としたとき、N=nとし、あるいは、n=α・N(αは2以上の整数であり、好ましくは10≦α≦100、一層好ましくは20≦α≦50)としてもよいし、一定の間隔をもって配設されるスペースの数に1を加えた数とすることができる。また、各アノード電極ユニットの大きさは、アノード電極ユニットの位置に拘わらず同じとしてもよいし、アノード電極ユニットの位置に依存して異ならせてもよい。
抵抗体層の抵抗値r0として、1×10Ω乃至1×103Ω、好ましくは1×10Ω乃至2×102Ωを例示することができる。
抵抗部材の抵抗値は、通常の表示動作時にアノード電流による電圧降下が生じても表示輝度に殆ど影響が現れない程度に小さく、しかも、小規模な放電の発生時には、給電線を通じたアノード電極制御回路からアノード電極ユニットへのエネルギー供給を一時的に遮断し得る程度に大きい値に選択する。かかる条件を満たす限りにおいて、抵抗値を数十kΩ〜1MΩの範囲で選択することができるが、抵抗部材(第1の抵抗部材)の抵抗値r1と抵抗体層の抵抗値r0は、上述の関係を満足することが好ましい。
第1の抵抗部材、第2の抵抗部材として、チップ抵抗、あるいは、抵抗体薄膜を挙げることができる。また、抵抗体層、あるいは、第1の抵抗部材や第2の抵抗部材を構成する抵抗体薄膜の構成材料として、シリコンカーバイド(SiC)やSiCNといったカーボン系材料;SiN;酸化ルテニウム(RuO2)、酸化タンタル、窒化タンタル、酸化クロム、酸化チタン等の高融点金属酸化物;アモルファスシリコン等の半導体材料;ITOを挙げることができる。
給電線や第1の抵抗部材、第2の抵抗部材は、無効領域上に形成すればよい。そして、給電線の端部やアノード電極ユニットの端部に接続端子を設け、この接続端子を配線を介してアノード電極制御回路に接続すればよい。
アノード電極ユニットと給電線とは、共通の導電材料層を用いて蛍光体層及び基板上に形成することができる。一例として、或る導電材料から成る導電材料層を基板上に形成し、この導電材料層をパターニングしてアノード電極ユニットと給電線とを同時に形成することができる。あるいは、アノード電極ユニットと給電線のパターンを有するマスクやスクリーンを介して導電材料の蒸着やスクリーン印刷を行うことにより、蛍光体層と基板との上にアノード電極ユニットと給電線とを同時に形成することもできる。尚、抵抗体層や抵抗部材も同様の方法で形成することができる。即ち、或る抵抗体材料から抵抗体層や抵抗部材を形成し、この抵抗体層や抵抗部材をパターニングしてもよいし、あるいは、抵抗体層や抵抗部材のパターンを有するマスクやスクリーンを介して抵抗体材料を蒸着又はスクリーン印刷することにより、抵抗体層や抵抗部材を形成してもよい。
本発明の冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、冷陰極電界電子放出素子(以下、電界放出素子と称する)は、より具体的には、例えば、
(A)支持体上に形成され、第1の方向に延びるカソード電極と、
(B)支持体及びカソード電極上に形成された絶縁層と、
(C)絶縁層上に形成され、第1の方向とは異なる第2の方向に延びるゲート電極と、
(D)ゲート電極及び絶縁層に形成された開口部と、
(E)開口部の底部に露出した電子放出部、
から構成されている。
本発明の冷陰極電界電子放出表示装置における電界放出素子の型式は、特に限定されず、スピント型素子、エッジ型素子、平面型素子、扁平型素子、クラウン型素子のいずれであってもよい。尚、カソード電極及びゲート電極はストライプ形状を有し、カソード電極の射影像とゲート電極の射影像とは直交することが、冷陰極電界電子放出表示装置の構造の簡素化といった観点から好ましい。更には、電界放出素子には収束電極が備えられていてもよい。
尚、電界放出素子として、上述の各型式の他に、表面伝導型電子放出素子と通称される素子も知られており、本発明の冷陰極電界電子放出表示装置に適用することができる。表面伝導型電子放出素子においては、例えばガラスから成る基板上に酸化錫(SnO2)、金(Au)、酸化インジウム(In2O3)/酸化錫(SnO2)、カーボン、酸化パラジウム(PdO)等の材料から成り、微小面積を有する薄膜がマトリクス状に形成され、各薄膜は2つの薄膜片から成り、一方の薄膜片に行方向配線、他方の薄膜片に列方向配線が接続されている。一方の薄膜片と他方の薄膜片との間には数nmのギャップが設けられている。行方向配線と列方向配線とによって選択された薄膜においては、ギャップを介して薄膜から電子が放出される。
本発明の冷陰極電界電子放出表示装置における基板として、ガラス基板、表面に絶縁膜が形成されたガラス基板、石英基板、表面に絶縁膜が形成された石英基板、表面に絶縁膜が形成された半導体基板を挙げることができるが、製造コスト低減の観点からは、ガラス基板、あるいは、表面に絶縁膜が形成されたガラス基板を用いることが好ましい。ガラス基板として、高歪点ガラス、ソーダガラス(Na2O・CaO・SiO2)、硼珪酸ガラス(Na2O・B2O3・SiO2)、フォルステライト(2MgO・SiO2)、鉛ガラス(Na2O・PbO・SiO2)を例示することができる。カソードパネルを構成する支持体も、基板と同様の構成とすることができる。
アノード電極ユニット、給電線、カソード電極、ゲート電極の構成材料として、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等の金属、これらの金属元素を含む合金あるいは化合物(例えばTiN等の窒化物や、WSi2、MoSi2、TiSi2、TaSi2等のシリサイド)、ITO(インジウム・錫酸化物)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の導電性金属酸化物、あるいはシリコン(Si)等の半導体を例示することができる。これらを作製、形成するには、CVD法、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気メッキ法、無電解メッキ法、スクリーン印刷法、レーザアブレーション法、ゾル−ゲル法等の公知の薄膜形成技術により、上述の構成材料から成る薄膜を被成膜体上に形成する。このとき、薄膜を被成膜体の全面に形成した場合には、公知のパターニング技術を用いて薄膜をパターニングし、各部材を形成する。また、薄膜を形成する前の被成膜体上に予めレジストパターンを形成しておけば、リフトオフ法による各部材の形成が可能である。更に、アノード電極ユニットや給電線、カソード電極、ゲート電極の形状に応じた開口部を有するマスクを用いて蒸着を行ったり、かかる開口部を有するスクリーンを用いてスクリーン印刷を行えば、成膜後のパターニングは不要である。
電界放出素子を構成する絶縁層の構成材料として、SiO2、BPSG、PSG、BSG、AsSG、PbSG、SiN、SiON、SOG(スピンオングラス)、低融点ガラス、ガラスペーストといったSiO2系材料、SiN、ポリイミド等の絶縁性樹脂を、単独あるいは適宜組み合わせて使用することができる。絶縁層の形成には、CVD法、塗布法、スパッタリング法、スクリーン印刷法等の公知のプロセスが利用できる。
透明電極は、例えば、ITOや酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタンから構成すればよい。
蛍光体層は、単色の蛍光体粒子から構成されていても、3原色の蛍光体粒子から構成されていてもよい。また、蛍光体層の配列様式は、ドットマトリクス状であっても、ストライプ状であってもよい。尚、ドットマトリクス状やストライプ状の配列様式においては、隣り合う蛍光体層の間の隙間がコントラスト向上を目的としたブラックマトリックスで埋め込まれていてもよい。
アノードパネルには、更に、蛍光体層から反跳した電子、あるいは、蛍光体層から放出された二次電子が他の蛍光体層に入射し、所謂光学的クロストーク(色濁り)が発生することを防止するための、あるいは又、蛍光体層から反跳した電子、あるいは、蛍光体層から放出された二次電子が隔壁を越えて他の蛍光体層に向かって侵入したとき、これらの電子が他の蛍光体層と衝突することを防止するための、隔壁が、複数、設けられていることが好ましい。
隔壁の平面形状として、格子形状(井桁形状)、即ち、1画素(1ピクセル)に相当する、例えば平面形状が略矩形(ドット状)の蛍光体層の四方を取り囲む形状を挙げることができ、あるいは、略矩形あるいはストライプ状の蛍光体層の対向する二辺と平行に延びる帯状形状あるいはストライプ形状を挙げることができる。隔壁を格子形状とする場合、1つの蛍光体層の領域の四方を連続的に取り囲む形状としてもよいし、不連続に取り囲む形状としてもよい。隔壁を帯状形状あるいはストライプ形状とする場合、連続した形状としてもよいし、不連続な形状としてもよい。隔壁を形成した後、隔壁を研磨し、隔壁の頂面の平坦化を図ってもよい。
蛍光体層からの光を吸収するブラックマトリックスが蛍光体層と蛍光体層との間であって隔壁と基板との間に形成されていることが、表示画像のコントラスト向上といった観点から好ましい。ブラックマトリックスを構成する材料として、蛍光体層からの光を99%以上吸収する材料を選択することが好ましい。このような材料として、カーボン、金属薄膜(例えば、クロム、ニッケル、アルミニウム、モリブデン等、あるいは、これらの合金)、金属酸化物(例えば、酸化クロム)、金属窒化物(例えば、窒化クロム)、耐熱性有機樹脂、ガラスペースト、黒色顔料や銀等の導電性粒子を含有するガラスペースト等の材料を挙げることができ、具体的には、感光性ポリイミド樹脂、酸化クロムや、酸化クロム/クロム積層膜を例示することができる。尚、酸化クロム/クロム積層膜においては、クロム膜が基板と接する。
カソードパネルとアノードパネルとを周縁部において接合する場合、接合は接着層を用いて行ってもよいし、あるいは、ガラスやセラミックス等の絶縁剛性材料から成る枠体と接着層とを併用して行ってもよい。枠体と接着層とを併用する場合には、枠体の高さを適宜選択することにより、接着層のみを使用する場合に比べ、カソードパネルとアノードパネルとの間の対向距離をより長く設定することが可能である。尚、接着層の構成材料としては、フリットガラスが一般的であるが、融点が120〜400゜C程度の所謂低融点金属材料を用いてもよい。かかる低融点金属材料としては、In(インジウム:融点157゜C);インジウム−金系の低融点合金;Sn80Ag20(融点220〜370゜C)、Sn95Cu5(融点227〜370゜C)等の錫(Sn)系高温はんだ;Pb97.5Ag2.5(融点304゜C)、Pb94.5Ag5.5(融点304〜365゜C)、Pb97.5Ag1.5Sn1.0(融点309゜C)等の鉛(Pb)系高温はんだ;Zn95Al5(融点380゜C)等の亜鉛(Zn)系高温はんだ;Sn5Pb95(融点300〜314゜C)、Sn2Pb98(融点316〜322゜C)等の錫−鉛系標準はんだ;Au88Ga12(融点381゜C)等のろう材(以上の添字は全て原子%を表す)を例示することができる。
基板と支持体と枠体の三者を接合する場合、三者同時接合を行ってもよいし、あるいは、第1段階で基板又は支持体のいずれか一方と枠体とを先に接合し、第2段階で基板又は支持体の他方と枠体とを接合してもよい。三者同時接合や第2段階における接合を高真空雰囲気中で行えば、基板と支持体と枠体と接着層とにより囲まれた空間は、接合と同時に真空となる。あるいは、三者の接合終了後、基板と支持体と枠体と接着層とによって囲まれた空間を排気し、真空とすることもできる。接合後に排気を行う場合、接合時の雰囲気の圧力は常圧/減圧のいずれであってもよく、また、雰囲気を構成する気体は、大気であっても、あるいは窒素ガスや周期律表0族に属するガス(例えばArガス)を含む不活性ガスであってもよい。
接合後に排気を行う場合、排気は、基板及び/又は支持体に予め接続されたチップ管を通じて行うことができる。チップ管は、典型的にはガラス管を用いて構成され、基板及び/又は支持体の無効領域(即ち、表示部分として機能する有効領域以外の領域)に設けられた貫通孔の周囲に、フリットガラス又は上述の低融点金属材料を用いて接合され、空間が所定の真空度に達した後、熱融着によって封じ切られる。尚、封じ切りを行う前に、冷陰極電界電子放出表示装置全体を一旦加熱してから降温させると、空間に残留ガスを放出させることができ、この残留ガスを排気により空間外へ除去することができるので好適である。
本発明の冷陰極電界電子放出表示装置においては、放電のトリガーそのものを抑制するのではなく、たとえ小規模な放電が発生しても、小規模な放電を大規模な放電にまで成長させないように、アノード電極と冷陰極電界電子放出素子との間に発生するエネルギーを抑制することを基本的な考え方としている。アノード電極を有効領域のほぼ全面に亙って形成する代わりに、より小さい面積を有するアノード電極ユニットに分割した形で形成するので、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間の静電容量を減少させ、発生するエネルギーを低減することができる。その結果、放電によるアノード電極ユニットにおける損傷の大きさを効果的に小さくすることが可能となる。
しかも、本発明の第1の態様あるいは第3の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、VA/Lg<1(kV/μm)を満足することによって、アノード電極ユニット間における放電の発生を確実に低減できる結果、このような放電に起因したアノード電極ユニットの蒸発といったアノード電極ユニットの恒久的な損傷発生を十分に低減することができる。また、本発明の第2の態様あるいは第4の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、(VA/7)2×(S/d)≦2250を満足することによって、また、本発明の第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置にあっては、アノード電極ユニットの大きさを規定することによって、アノード電極ユニットと冷陰極電界電子放出素子との間での放電によるアノード電極ユニットの蒸発といったアノード電極ユニットの恒久的な損傷発生を十分に低減することができる。
実施例1は、本発明の第1の態様、第2の態様及び第5の態様に係る冷陰極電界電子放出表示装置(以下、単に、表示装置と略称する)に関する。
アノード電極の模式的な平面図を図1に示し、図1の線A−Aに沿ったアノードパネルAPの模式的な一部端面図を図2の(A)に示し、図1の線B−Bに沿ったアノードパネルAPの模式的な一部端面図を図2の(B)に示す。また、実施例1の表示装置の模式的な一部端面図を図3に示し、カソードパネルCPの模式的な部分的斜視図を図4に示す。更には、蛍光体層等の配列を、模式的な部分的平面図として、図5〜図8に例示する。尚、アノードパネルAPの模式的な一部端面図における蛍光体層等の配列を、図7あるいは図8に示す構成としている。
この表示装置は、カソード電極11、ゲート電極13及び電子放出部15から構成された冷陰極電界電子放出素子(以下、電界放出素子と略称する)を複数備えたカソードパネルCPと、アノードパネルAPとが、それらの周縁部で接合されて成る。
図3に示した電界放出素子は、円錐形の電子放出部を有する、所謂スピント(Spindt)型電界放出素子と呼ばれるタイプの電界放出素子である。この電界放出素子は、支持体10上に形成されたカソード電極11と、支持体10及びカソード電極11上に形成された絶縁層12と、絶縁層12上に形成されたゲート電極13と、ゲート電極13及び絶縁層12に設けられた開口部14(ゲート電極13に設けられた第1開口部14A、及び、絶縁層12に設けられた第2開口部14B)と、第2開口部14Bの底部に位置するカソード電極11上に形成された円錐形の電子放出部15から構成されている。一般に、カソード電極11とゲート電極13とは、これらの両電極の射影像が互いに直交する方向に各々ストライプ状に形成されており、これらの両電極の射影像が重複する領域(1画素分の領域に相当する。この領域を、以下、重複領域あるいは電子放出領域と呼ぶ)に、通常、複数の電界放出素子が設けられている。更に、かかる電子放出領域が、カソードパネルCPの有効領域(実際の表示部分として機能する領域)内に、通常、2次元マトリックス状に配列されている。
一方、アノードパネルAPは、基板30と、基板30上に形成され、所定のパターンを有する蛍光体層31(赤色発光蛍光体層31R,青色発光蛍光体層31B,緑色発光蛍光体層31G)と、1本の給電線22と、その上に形成されたアノード電極20から構成されている。アノード電極20は、全体として、矩形の有効領域(大きさ:70mm×110mm)を覆う形状を有し、例えばアルミニウム薄膜から構成されている。そして、アノード電極20は、N個(但し、N≧2であり、実施例1においては200個)のアノード電極ユニット21から構成されている。直線状に配列された単位蛍光体層31の列の総数nとNとの関係は、n=20Nである。N個のアノード電極ユニット21は、1本の給電線22を介してアノード電極制御回路43に接続されている。給電線22も、例えばアルミニウム薄膜から構成されている。
アノード電極ユニット21の大きさは、アノード電極ユニット21と電界放出素子(より具体的には、ゲート電極13あるいはカソード電極11)との間で生じた放電により発生したエネルギーによってアノード電極ユニット21が局所的に蒸発しない大きさ(より具体的には、アノード電極ユニット21とゲート電極13あるいはカソード電極11との間で生じた放電により発生したエネルギーによってアノード電極ユニット21の1サブピクセルに相当する部分が蒸発しない大きさ)である。具体的には、アノード電極ユニット21の外形形状は矩形であり、大きさ(面積S)を0.33mm×110mmとした。尚、図1においては、図面を簡素化するために、4つのアノード電極ユニット21を図示した。
蛍光体層31と蛍光体層31との間の基板30上にはブラックマトリックス32が形成されている。また、ブラックマトリックス32の上には隔壁33が形成されている。アノードパネルAPにおける隔壁33、スペーサ34及び蛍光体層31の配置例を、図5〜図8の配置図に模式的に示す。隔壁33の平面形状としては、格子形状(井桁形状)、即ち、1画素(1ピクセル)に相当する、例えば平面形状が略矩形の蛍光体層31の四方を取り囲む形状(図5及び図6参照)、あるいは、略矩形の(あるいはストライプ状の)蛍光体層31の対向する二辺と平行に延びる帯状形状(ストライプ形状)を挙げることができる(図7及び図8参照)。尚、蛍光体層31を、図5〜図8の上下方向に延びるストライプ状とすることもできる。
アノードパネルAPとカソードパネルCPと枠体35とによって囲まれた空間は真空となっている。尚、アノードパネルAP及びカソードパネルCPには大気によって圧力が加わる。そして、この圧力によって表示装置が破損しないように、アノードパネルAPとカソードパネルCPとの間には、高さが例えば1mm程度のスペーサ34が配置されている。尚、図3においては、スペーサの図示を省略した。隔壁33の一部は、スペーサ34を保持するためのスペーサ保持部としても機能する。
そして、アノード電極制御回路43の出力電圧と冷陰極電界電子放出素子印加電圧(具体的には、カソード電極11に印加される電圧)との間の電位差をVA(単位:キロボルト)、アノード電極ユニット21間のギャップ長をLg(単位:μm)としたとき、VA/Lg<1(kV/μm)を満足している。具体的には、VAを5キロボルト、アノード電極ユニット21間のギャップ長Lgを20μmとした。アノード電極ユニット21間のギャップは、蛍光体層31が設けられていない部分に設けられている。
各アノード電極ユニット21は、1本の給電線22を介してアノード電極制御回路43に接続されている。アノード電極制御回路43と給電線22との間には、通常、過電流や放電を防止するための抵抗体R0(図示した例では抵抗値10MΩ)が配設されている。この抵抗体R0は、基板外に配設されている。各アノード電極ユニット21と給電線22との間には隙間23が設けられており、各アノード電極ユニット21と給電線22とは、抵抗部材(第1の抵抗部材24)を介して接続されている。第1の抵抗部材24を、アモルファスシリコンから成る抵抗体薄膜から構成した。第1の抵抗部材24は、アノード電極ユニット21と給電線22との間を跨るように、隙間23の上に形成されている。第1の抵抗部材24の抵抗値(r1)は、約30キロΩである。
1画素(1ピクセル)は、カソードパネル側のカソード電極11とゲート電極13との重複領域に設けられた電界放出素子の一群と、これらの電界放出素子の一群に対面したアノードパネル側の蛍光体層31(1つの赤色発光単位蛍光体層、1つの緑色発光単位蛍光体層、及び、1つの青色発光単位蛍光体層の集合)とによって構成されている。有効領域には、かかる画素が、例えば数十万〜数百万個ものオーダーにて配列されている。また、1画素(1ピクセル)は3つのサブピクセルから構成され、各サブピクセルは、1つの赤色発光単位蛍光体層、1つの緑色発光単位蛍光体層、あるいは、1つの青色発光単位蛍光体層を備えている。
アノードパネルAPとカソードパネルCPとを、電子放出領域と蛍光体層31とが対向するように配置し、周縁部において枠体35を介して接合することによって、表示装置を作製することができる。有効領域を包囲し、画素を選択するための周辺回路が形成された無効領域には、真空排気用の貫通孔(図示せず)が設けられており、この貫通孔には真空排気後に封じ切られたチップ管(図示せず)が接続されている。即ち、アノードパネルAPとカソードパネルCPと枠体35とによって囲まれた空間は真空となっている。
カソード電極11には相対的に負電圧がカソード電極制御回路41から印加され、ゲート電極13には相対的に正電圧がゲート電極制御回路42から印加され、アノード電極ユニット21にはゲート電極13よりも更に高い正電圧がアノード電極制御回路43から印加される。かかる表示装置において表示を行う場合、例えば、カソード電極11にカソード電極制御回路41から走査信号を入力し、ゲート電極13にゲート電極制御回路42からビデオ信号を入力する。あるいは、これとは逆に、カソード電極11にカソード電極制御回路41からビデオ信号を入力し、ゲート電極13にゲート電極制御回路42から走査信号を入力してもよい。カソード電極11とゲート電極13との間に電圧を印加した際に生ずる電界により、量子トンネル効果に基づき電子放出部15から電子が放出され、この電子がアノード電極ユニット21に引き付けられ、蛍光体層31に衝突する。その結果、蛍光体層31が励起されて発光し、所望の画像を得ることができる。つまり、この表示装置の動作は、基本的に、ゲート電極13に印加される電圧、及びカソード電極11を通じて電子放出部15に印加される電圧によって制御される。
実施例1の表示装置においては、アノード電極ユニット21とゲート電極13との間の距離をd(単位:mm)、アノード電極ユニット21の面積をS(単位:mm2)としたとき、
(VA/7)2×(S/d)≦2250
更には、
(VA/7)2×(S/d)≦450
を満足している。具体的には、dの値は1.0mmであり、Sの値は36.3mm2である。
尚、アノード電極ユニット21は、基板30、隔壁33上及び蛍光体層31上に形成されているが故に、アノード電極ユニット21には凹凸が存在し、アノード電極ユニット21と電界放出素子との間の距離dは一定でない。それ故、アノード電極ユニットと電界放出素子との間の最短距離、即ち、具体的には、隔壁33上のアノード電極ユニット21(あるいは後述するアノード電極ユニット121)と電界放出素子(より具体的には、ゲート電極13)との間の距離をdとする。以下の説明においても同様である。
例えば、アルミニウムから成るアノード電極ユニット21において、0.04mm2の面積(この面積は、概ね、1サブピクセルに相当する面積である)の部分が、アノード電極ユニット21と電界放出素子との間での放電によって蒸発するときのエネルギーを、以下、算出する。尚、算出においては、以下の表1に示す値を基礎とする。
[表1]
アノード電極ユニットの厚さ:1μm
溶融面積 :0.04mm2
アルミニウムの比重 :2.7
アルミニウムの融点 :660゜C
アルミニウムの沸点 :2060゜C
アルミニウムの比熱 :0.214cal/g・゜C
アルミニウムの溶解熱 :94.6cal/g
アルミニウムの蒸発熱 :293kJ/mol=10850J/g
溶融するアルミニウムの質量MAl(単位:グラム)、室温(30゜C)からアルミニウムが融点(660゜C)に達するまでに必要なエネルギーQMELT(単位:ジュール)、溶融に必要とされるエネルギーQLiq(単位:ジュール)、融点(660゜C)から沸点(2060゜C)に達するまでに必要とされるエネルギーQBiol(単位:ジュール)、蒸発に必要とされるエネルギーQEvap、総計エネルギーQTotalは、以下のとおりである。
MAl=0.04×10-2×10-4×2.7
=1.08×10-7(g)
QMELT=0.214×4.2×(660−30)×MAl
=6.1×10-5(J)
QLiq=94.6×4.2×MAl
=4.3×10-5(J)
QBiol=0.214×4.2×(2060−660)×MAl
=1.36×10-4(J)
QEvap=10850×MAl
=1.17×10-3(J)
QTotal=QMELT+QLiq+QBiol+QEvap
=1.41×10-3(J)
アノード電極ユニット21と電界放出素子との間での放電時にアノード電極ユニット21において発生するエネルギーの積算値が、上記で例示される総計エネルギーQTotalの値を越えなければ、アノード電極ユニットに局所的な蒸発が発生することはないと云える。即ち、アノード電極ユニット21の1サブピクセルに相当する部分が蒸発することはないと云える。尚、アノード電極ユニットをモリブデン(Mo)から構成した場合の総計エネルギーQTotalは、2.7×10-3(J)である。
アノード電極ユニット21とゲート電極13との間で放電が発生したときの等価回路を図9に示す。尚、図9においては、3つのアノード電極ユニットを図示した。アノード電極ユニット21とゲート電極13との間での放電によって電流iが流れるが、このときのアノード電極ユニット21とゲート電極13との間の抵抗値である理論抵抗値(r)は0.2Ωである。尚、理論抵抗値(r)は、通常、0.1Ω〜10Ω程度の値である。また、Sの値を9000mm2、3000mm2、450mm2としたときのアノード電極ユニット21とゲート電極13とによって形成されるコンデンサ(C)の値を、それぞれ、60pF、20pF、3pFとした。更には、VAを7キロボルトとした。Sの値を9000mm2、3000mm2、450mm2としたときの、シミュレーションにて得られたアノード電極ユニット21を流れる電流Iの変化、及び、アノード電極ユニット21における発生エネルギーを、それぞれ、図10及び図11に示す。尚、図10及び図11において、曲線AはSの値が9000mm2のときの値を示し、曲線BはSの値が3000mm2のときの値を示し、曲線CはSの値が450mm2のときの値を示す。更には、アノード電極ユニット21と電界放出素子との間での放電に起因してアノード電極ユニット21において発生するエネルギーの積算値(放電が発生してから1ナノ秒までの積算値であり、以下における発生エネルギーの積算値も同様の値である)は、以下の表2のとおりとなった。尚、Sの値を2250mm2としたときのアノード電極ユニット21とゲート電極13とによって形成されるコンデンサ(C)の値を15pFとし、VAを7キロボルトとしてシミュレーションを行ったときの、アノード電極ユニット21と電界放出素子との間での放電に起因してアノード電極ユニット21において発生するエネルギーの積算値を、更に、以下の表2に示す。
[表2]
アノード電極ユニット面積 放電時の発生エネルギーの積算値
9000mm2 5.6×10-3(J)
3000mm2 1.9×10-3(J)
2250mm2 1.4×10-3(J)
450mm2 2.8×10-4(J)
アノード電極ユニット21の面積が9000mm2及び3000mm2では、アノード電極ユニット21と電界放出素子との間での放電時の発生エネルギーの積算値の値がQTotalを越えている。一方、アノード電極ユニット21の面積が2250mm2以下では、アノード電極ユニット21と電界放出素子との間での放電時の発生エネルギーの積算値の値がQTotalを越えることはない。従って、アノード電極ユニット21と電界放出素子(具体的には、ゲート電極13あるいはカソード電極11)との間で生じた放電により発生したエネルギーによって、アノード電極ユニット21が局所的に(より具体的には、1サブピクセルに相当する大きさに亙って)破損することはない。具体的には、アノード電極ユニット21と電界放出素子との間での放電に起因してアノード電極ユニット21が局所的に(より具体的には、1サブピクセルに相当する大きさに亙って)蒸発することはない。
ところで、一般に、容量cのコンデンサに蓄積されるエネルギーは、(1/2)cV2で表される。コンデンサの対向電極の面積をS、電極間の距離をdとしたとき、コンデンサの容量cは、ε(S/d)で表される。従って、対向電極の面積がS、アノード電極ユニット21と電界放出素子との間の距離がdのとき、以下の式を満足すれば、コンデンサの対向電極に相当するアノード電極ユニット21に局所的に(より具体的には、1サブピクセルに相当する大きさに亙って)損傷は生じないことになる。
ε(1/2)(S/d)VA 2≦ε(1/2)[2250/1]72
上式を変形すれば、
(VA/7)2×(S/d)≦2250
が得られる。
アノード電極ユニット21(S=36.3mm2)の間のギャップ長Lgを50μmとしたアノードパネルAPから成る表示装置を作製した。そして、表示装置の内部を真空とすることなく、表示装置の内部を大気雰囲気のままとして、アノード電極制御回路出力電圧と冷陰極電界電子放出素子印加電圧(具体的には、カソード電極11に印加される電圧)との間の電位差VAを2キロボルト、3キロボルト、4キロボルト、5キロボルト、6キロボルトとして表示装置への電圧印加試験を行ったところ、電位差VAが5キロボルト以上では、アノード電極ユニット21の間で放電が100%の確率で発生した。電位差VAが5キロボルト未満では、アノード電極ユニット21の間で放電が殆ど発生することはなかった。このことから、アノード電極ユニット21間の放電耐圧がアノード電極ユニット21間のギャップ長Lgに比例することを考慮すると、
VA/Lg<(5/50)(kV/μm)
即ち、
VA/Lg<0.1(kV/μm)
を満足すれば、アノード電極ユニット21で放電は起こらないことが分かる。また、この一連の試験が大気雰囲気中で行われたことを考慮すると、表示装置が実際の真空雰囲気中で動作するときに放電が発生する電位差VAは、大気雰囲気中で放電が発生する電位差VAの5〜10倍と考えられるので、上式は、
VA/Lg<1(kV/μm)
と変形できる。
実施例5は、本発明の第3の態様、第4の態様及び第5Aの態様に係る表示装置に関する。
実施例5の表示装置の模式的な一部端面図は、図3に示したと同様である。また、カソードパネルCPの模式的な部分的斜視図は、図4と同様である。アノード電極の模式的な平面図を図17に示す。尚、図17の線A−Aに沿ったアノードパネルAPの模式的な一部端面図は、図16と同様である。但し、図16の抵抗体層28,29を抵抗体層128,129に読み替えるものとする。
実施例5のカソードパネルCP、表示装置の構成、表示装置の駆動方法は、実施例1のカソードパネルCP、表示装置、表示装置の駆動方法と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
アノードパネルAPは、基板30と、基板30上に形成され、所定のパターンを有する蛍光体層31(赤色発光蛍光体層31R,青色発光蛍光体層31B,緑色発光蛍光体層31G)と、その上に形成されたアノード電極120から構成されている。アノード電極120は、全体として、矩形の有効領域(大きさ:70mm×110mm)を覆う形状を有し、例えばアルミニウム薄膜から構成されている。アノード電極120は、N個(但し、N≧2であり、実施例5においては200個)のアノード電極ユニット121から構成されている。直線状に配列された単位蛍光体層31の列の総数nとNとの関係は、n=20Nである。そして、1つのアノード電極ユニット121がアノード電極制御回路43に、抵抗体R0を介して接続されている。尚、アノード電極制御回路43に接続されているアノード電極ユニット121が、直列に接続されたアノード電極ユニット121のどの位置に位置するかは、本質的に任意であり、図17に示すように、直列に接続されたアノード電極ユニット121の端部に位置するアノード電極ユニット121とすることもできるし、例えば、直列に接続されたアノード電極ユニットの中央に位置するアノード電極ユニットとすることもできる。蛍光体層31等の配置は、図5〜図8と同様とすることができる。
アノード電極ユニット121の大きさは、アノード電極ユニット121と電界放出素子(より具体的には、ゲート電極13あるいはカソード電極11)との間で生じた放電により発生したエネルギーによってアノード電極ユニット121が局所的に蒸発しない大きさ(より具体的には、アノード電極ユニット121が1サブピクセルに相当する大きさに亙って蒸発しない大きさ)である。具体的には、アノード電極ユニット121の外形形状は矩形であり、大きさ(面積S)を0.33mm×110mmとした。尚、図17においては、図面を簡素化するために、4つのアノード電極ユニット121を図示した。
実施例5のアノードパネルAPにあっては、アノード電極ユニット121間に、スパッタリング法にてSiCあるいは酸化クロム等から成る抵抗体層128が形成されている。即ち、アノード電極ユニット121は抵抗体層128を介して直列に接続されている。場合によっては、抵抗体層128はアノード電極120の全体を被覆していてもよい。また、隣接するアノード電極ユニット121に対向していないアノード電極ユニット121の縁部分は、抵抗体層129で被覆されている。
そして、アノード電極制御回路43の出力電圧と冷陰極電界電子放出素子印加電圧(具体的には、カソード電極11に印加する電圧)との間の電位差をVA(単位:キロボルト)、アノード電極ユニット121の間のギャップ長をLg(単位:μm)、抵抗体層128の抵抗値をr0(単位:キロオーム)、アノード電極ユニット121と電界放出素子との放電に起因してアノード電極ユニット121内を流れる電流をI(単位:アンペア)としたとき、
VA/Lg<1(kV/μm)
を満足している。具体的には、アノード電極ユニット間のギャップ長Lgを50μmとした。また、r0の値は約1キロΩであり、放電電流Iの値は最大で約23キロアンペアである。
実施例5の表示装置においては、アノード電極ユニット121と電界放出素子との間の距離をd(単位:mm)、アノード電極ユニット121の面積をS(単位:mm2)としたとき、
(VA/7)2×(S/d)≦2250
更には、
(VA/7)2×(S/d)≦450
を満足している。具体的には、dの値は1.0mmであり、Sの値は36.3mm2である。
実施例1にて説明したように、アノード電極ユニット121と電界放出素子との間での放電時にアノード電極ユニット121において発生するエネルギーの積算値が総計エネルギーQTotalの値を越えなければ、アノード電極ユニット121が局所的に蒸発しない。即ち、より具体的には、アノード電極ユニット121は、1サブピクセルに相当する大きさに亙って蒸発することはない。
アノード電極ユニット121とゲート電極13との間で放電が発生したときの等価回路を図18に示す。尚、図18においては、3つのアノード電極ユニットを図示した。アノード電極ユニット121とゲート電極13との間での放電によって電流iが流れるが、このときのアノード電極ユニット121とゲート電極13との間の抵抗値である理論抵抗値(r)は0.2Ωである。また、Sの値を9000mm2(アノード電極ユニット数N=1)、3000mm2(アノード電極ユニット数N=3)、2250mm2(アノード電極ユニット数N=4)、450mm2(アノード電極ユニット数N=20)としたときのアノード電極ユニット121とゲート電極13とによって形成されるコンデンサ(C)の値を、それぞれ、60pF、20pF、15pF、3pFとした。更には、VAを7キロボルトとした。Sの値を9000mm2、3000mm2、2250mm2、450mm2としたときの放電時の発生エネルギーの積算値をシミュレーションにて求めた。その結果を、以下の表3に示す。
[表3]
アノード電極ユニット面積 放電時の発生エネルギーの積算値
9000mm2 5.6×10-3(J)
3000mm2 1.9×10-3(J)
2250mm2 1.4×10-3(J)
450mm2 2.8×10-4(J)
アノード電極ユニット121の面積が9000mm2及び3000mm2では、アノード電極ユニット121と電界放出素子との間での放電時の発生エネルギーの積算値の値がQTotalを越えている。一方、アノード電極ユニット121の面積が2250mm2以下では、アノード電極ユニット121と電界放出素子との間での放電時の発生エネルギーの積算値の値がQTotalを越えることはない。従って、アノード電極ユニット121と電界放出素子(具体的には、ゲート電極13あるいはカソード電極11)との間で生じた放電により発生したエネルギーによって、アノード電極ユニット121が、1サブピクセルに相当する大きさに亙って破損することはない。具体的には、アノード電極ユニット121と電界放出素子との間での放電に起因してアノード電極ユニット121が局所的に(より具体的には、1サブピクセルに相当する大きさに亙って)蒸発することはない。尚、r1が約30キロΩ、r0が約1キロΩの場合、アノード電極ユニット121と電界放出素子との間での放電が発生してから1ナノ秒までの発生エネルギーの積算値は、表2及び表3に示したように、同じ結果となった。
また、アノード電極120の面積を9000mm2、アノード電極ユニット121の数N=20(アノード電極ユニット121の面積S=450mm2)の場合であって、抵抗体層128の抵抗値r0を変えたときの隣接するアノード電極ユニット間の電位差をシミュレーションした結果を図19に示す。図19中、曲線A,B,Cは、それぞれ、r0=1kΩ,200Ω,20Ωの結果である。図19から、抵抗体層128の抵抗値r0が小さくなる程、隣接するアノード電極ユニット間の電位差が小さくなることが判る。このシミュレーション結果からは、抵抗体層128の抵抗値r0は200Ω以下であることが好ましいと云える。
アノード電極ユニット121(S=36.3mm2)の間のギャップ長Lgを50μmとしたアノードパネルAPから成る表示装置を作製した。そして、表示装置の内部を真空とすることなく、表示装置の内部を大気雰囲気のままとして、アノード電極制御回路出力電圧と冷陰極電界電子放出素子印加電圧(具体的には、カソード電極11に印加される電圧)との間の電位差VAを2キロボルト、3キロボルト、4キロボルト、5キロボルト、6キロボルトとして表示装置への電圧印加試験を行ったところ、電位差VAが5キロボルト以上では、アノード電極ユニット121の間で100%の確率で放電が発生した。電位差VAが5キロボルト未満では、アノード電極ユニット121の間で放電が殆ど発生することはなかった。このことから、アノード電極ユニット121間の放電耐圧がアノード電極ユニット121間のギャップ長Lgに比例することを考慮すると、
VA/Lg<(5/50)(kV/μm)
即ち、
VA/Lg<0.1(kV/μm)
を満足すれば、アノード電極ユニット121で放電は起こらないことが分かる。また、この一連の試験が大気雰囲気中で行われたことを考慮すると、表示装置が実際の真空雰囲気中で動作するときに放電が発生する電位差VAは、大気雰囲気中で放電が発生する電位差VAの5〜10倍と考えられるので、上式は、
VA/Lg<1(kV/μm)
と変形できる。
(各種の電界放出素子に関して)
以下、各種の電界放出素子及びその製造方法を説明する。
実施例においては、電界放出素子として、スピント型(円錐形の電子放出部が、第2開口部の底部に位置するカソード電極上に設けられた電界放出素子)を説明したが、その他、例えば、扁平型(略平面状の電子放出部が、第2開口部の底部に位置するカソード電極上に設けられた電界放出素子)とすることもできる。尚、これらの電界放出素子を、第1の構造を有する電界放出素子と呼ぶ。
あるいは又、
(イ)支持体上に設けられた、第1の方向に延びるストライプ状のカソード電極と、
(ロ)支持体及びカソード電極上に形成された絶縁層と、
(ハ)絶縁層上に設けられ、第1の方向とは異なる第2の方向に延びるストライプ状のゲート電極と、
(ニ)ゲート電極に設けられた第1開口部、及び、絶縁層に設けられ、第1開口部と連通した第2開口部、
から成り、
第2開口部の底部に露出したカソード電極の部分が電子放出部に相当し、かかる第2開口部の底部に露出したカソード電極の部分から電子を放出する構造を有する電界放出素子とすることもできる。
このような構造を有する電界放出素子として、平坦なカソード電極の表面から電子を放出する平面型電界放出素子を挙げることができる。尚、この電界放出素子を第2の構造を有する電界放出素子と呼ぶ。
スピント型電界放出素子にあっては、電子放出部を構成する材料として、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金、チタン、チタン合金、ニオブ、ニオブ合金、タンタル、タンタル合金、クロム、クロム合金、及び、不純物を含有するシリコン(ポリシリコンやアモルファスシリコン)から成る群から選択された少なくとも1種類の材料を挙げることができる。スピント型電界放出素子の電子放出部は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法、CVD法によって形成することができる。
扁平型電界放出素子にあっては、電子放出部を構成する材料として、カソード電極を構成する材料よりも仕事関数Φの小さい材料から構成することが好ましく、どのような材料を選択するかは、カソード電極を構成する材料の仕事関数、ゲート電極とカソード電極との間の電位差、要求される放出電子電流密度の大きさ等に基づいて決定すればよい。電界放出素子におけるカソード電極を構成する代表的な材料として、タングステン(Φ=4.55eV)、ニオブ(Φ=4.02〜4.87eV)、モリブデン(Φ=4.53〜4.95eV)、アルミニウム(Φ=4.28eV)、銅(Φ=4.6eV)、タンタル(Φ=4.3eV)、クロム(Φ=4.5eV)、シリコン(Φ=4.9eV)を例示することができる。電子放出部は、これらの材料よりも小さい仕事関数Φを有していることが好ましく、その値は概ね3eV以下であることが好ましい。かかる材料として、炭素(Φ<1eV)、セシウム(Φ=2.14eV)、LaB6(Φ=2.66〜2.76eV)、BaO(Φ=1.6〜2.7eV)、SrO(Φ=1.25〜1.6eV)、Y2O3(Φ=2.0eV)、CaO(Φ=1.6〜1.86eV)、BaS(Φ=2.05eV)、TiN(Φ=2.92eV)、ZrN(Φ=2.92eV)を例示することができる。仕事関数Φが2eV以下である材料から電子放出部を構成することが、一層好ましい。尚、電子放出部を構成する材料は、必ずしも導電性を備えている必要はない。
あるいは又、扁平型電界放出素子において、電子放出部を構成する材料として、かかる材料の2次電子利得δがカソード電極を構成する導電性材料の2次電子利得δよりも大きくなるような材料から適宜選択してもよい。即ち、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、金(Au)、コバルト(Co)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)等の金属;シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等の半導体;炭素やダイヤモンド等の無機単体;及び酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化バリウム(BaO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化錫(SnO2)、フッ化バリウム(BaF2)、フッ化カルシウム(CaF2)等の化合物の中から、適宜選択することができる。尚、電子放出部を構成する材料は、必ずしも導電性を備えている必要はない。
扁平型電界放出素子にあっては、特に好ましい電子放出部の構成材料として、炭素、より具体的にはダイヤモンドやグラファイト、カーボン・ナノチューブ構造体を挙げることができる。電子放出部をこれらから構成する場合、5×107V/m以下の電界強度にて、表示装置に必要な放出電子電流密度を得ることができる。また、ダイヤモンドは電気抵抗体であるため、各電子放出部から得られる放出電子電流を均一化することができ、よって、表示装置に組み込まれた場合の輝度ばらつきの抑制が可能となる。更に、これらの材料は、表示装置内の残留ガスのイオンによるスパッタ作用に対して極めて高い耐性を有するので、電界放出素子の長寿命化を図ることができる。
カーボン・ナノチューブ構造体として、具体的には、カーボン・ナノチューブ及び/又はカーボン・ナノファイバーを挙げることができる。より具体的には、カーボン・ナノチューブから電子放出部を構成してもよいし、カーボン・ナノファイバーから電子放出部を構成してもよいし、カーボン・ナノチューブとカーボン・ナノファイバーの混合物から電子放出部を構成してもよい。カーボン・ナノチューブやカーボン・ナノファイバーは、巨視的には、粉末状であってもよいし、薄膜状であってもよいし、場合によっては、カーボン・ナノチューブ構造体は円錐状の形状を有していてもよい。カーボン・ナノチューブやカーボン・ナノファイバーは、周知のアーク放電法やレーザアブレーション法といったPVD法、プラズマCVD法やレーザCVD法、熱CVD法、気相合成法、気相成長法といった各種のCVD法によって製造、形成することができる。
扁平型電界放出素子を、バインダー材料にカーボン・ナノチューブ構造体を分散させたものをカソード電極の所望の領域に例えば塗布した後、バインダー材料の焼成あるいは硬化を行う方法(より具体的には、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂等の有機系バインダー材料や銀ペースト、水ガラス等の無機系バインダー材料にカーボン・ナノチューブ構造体を分散したものを、カソード電極の所望の領域に例えば塗布した後、溶媒の除去、バインダー材料の焼成・硬化を行う方法)によって製造することもできる。尚、このような方法を、カーボン・ナノチューブ構造体の第1の形成方法と呼ぶ。塗布方法として、スクリーン印刷法を例示することができる。
あるいは又、扁平型電界放出素子を、カーボン・ナノチューブ構造体が分散された金属化合物溶液をカソード電極上に塗布した後、金属化合物を焼成する方法によって製造することもでき、これによって、金属化合物に由来した金属原子を含むマトリックスにてカーボン・ナノチューブ構造体がカソード電極表面に固定される。尚、このような方法を、カーボン・ナノチューブ構造体の第2の形成方法と呼ぶ。マトリックスは、導電性を有する金属酸化物から成ることが好ましく、より具体的には、酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウム−錫、酸化亜鉛、酸化アンチモン、又は、酸化アンチモン−錫から構成することが好ましい。焼成後、各カーボン・ナノチューブ構造体の一部分がマトリックスに埋め込まれている状態を得ることもできるし、各カーボン・ナノチューブ構造体の全体がマトリックスに埋め込まれている状態を得ることもできる。マトリックスの体積抵抗率は、1×10-9Ω・m乃至5×10-6Ω・mであることが望ましい。
金属化合物溶液を構成する金属化合物として、例えば、有機金属化合物、有機酸金属化合物、又は、金属塩(例えば、塩化物、硝酸塩、酢酸塩)を挙げることができる。有機酸金属化合物溶液として、有機錫化合物、有機インジウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アンチモン化合物を酸(例えば、塩酸、硝酸、あるいは硫酸)に溶解し、これを有機溶媒(例えば、トルエン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール)で希釈したものを挙げることができる。また、有機金属化合物溶液として、有機錫化合物、有機インジウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アンチモン化合物を有機溶媒(例えば、トルエン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール)に溶解したものを例示することができる。溶液を100重量部としたとき、カーボン・ナノチューブ構造体が0.001〜20重量部、金属化合物が0.1〜10重量部、含まれた組成とすることが好ましい。溶液には、分散剤や界面活性剤が含まれていてもよい。また、マトリックスの厚さを増加させるといった観点から、金属化合物溶液に、例えばカーボンブラック等の添加物を添加してもよい。また、場合によっては、有機溶媒の代わりに水を溶媒として用いることもできる。
カーボン・ナノチューブ構造体が分散された金属化合物溶液をカソード電極上に塗布する方法として、スプレー法、スピンコーティング法、ディッピング法、ダイクォーター法、スクリーン印刷法を例示することができるが、中でもスプレー法を採用することが塗布の容易性といった観点から好ましい。
カーボン・ナノチューブ構造体が分散された金属化合物溶液をカソード電極上に塗布した後、金属化合物溶液を乾燥させて金属化合物層を形成し、次いで、カソード電極上の金属化合物層の不要部分を除去した後、金属化合物を焼成してもよいし、金属化合物を焼成した後、カソード電極上の不要部分を除去してもよいし、カソード電極の所望の領域上にのみ金属化合物溶液を塗布してもよい。
金属化合物の焼成温度は、例えば、金属塩が酸化されて導電性を有する金属酸化物となるような温度、あるいは又、有機金属化合物や有機酸金属化合物が分解して、有機金属化合物や有機酸金属化合物に由来した金属原子を含むマトリックス(例えば、導電性を有する金属酸化物)が形成できる温度であればよく、例えば、300゜C以上とすることが好ましい。焼成温度の上限は、電界放出素子あるいはカソードパネルの構成要素に熱的な損傷等が発生しない温度とすればよい。
カーボン・ナノチューブ構造体の第1の形成方法あるいは第2の形成方法にあっては、電子放出部の形成後、電子放出部の表面の一種の活性化処理(洗浄処理)を行うことが、電子放出部からの電子の放出効率の一層の向上といった観点から好ましい。このような処理として、水素ガス、アンモニアガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、ネオンガス、メタンガス、エチレンガス、アセチレンガス、窒素ガス等のガス雰囲気中でのプラズマ処理を挙げることができる。
カーボン・ナノチューブ構造体の第1の形成方法あるいは第2の形成方法にあっては、電子放出部は、第2開口部の底部に位置するカソード電極の部分の表面に形成されていればよく、第2開口部の底部に位置するカソード電極の部分から第2開口部の底部以外のカソード電極の部分の表面に延在するように形成されていてもよい。また、電子放出部は、第2開口部の底部に位置するカソード電極の部分の表面の全面に形成されていても、部分的に形成されていてもよい。
第1の構造あるいは第2の構造を有する電界放出素子においては、電界放出素子の構造に依存するが、ゲート電極及び絶縁層に設けられた1つの第1開口部及び第2開口部内に1つの電子放出部が存在してもよいし、ゲート電極及び絶縁層に設けられた1つの第1開口部及び第2開口部内に複数の電子放出部が存在してもよいし、ゲート電極に複数の第1開口部を設け、かかる第1開口部と連通する1つの第2開口部を絶縁層に設け、絶縁層に設けられた1つの第2開口部内に1又は複数の電子放出部が存在してもよい。
第1開口部あるいは第2開口部の平面形状(支持体表面と平行な仮想平面で開口部を切断したときの形状)は、円形、楕円形、矩形、多角形、丸みを帯びた矩形、丸みを帯びた多角形等、任意の形状とすることができる。第1開口部の形成は、例えば、等方性エッチング、異方性エッチングと等方性エッチングの組合せによって行うことができ、あるいは又、ゲート電極の形成方法に依っては、第1開口部を直接形成することもできる。第2開口部の形成も、例えば、等方性エッチング、異方性エッチングと等方性エッチングの組合せによって行うことができる。
第1の構造を有する電界放出素子において、カソード電極と電子放出部との間に抵抗体層を設けてもよい。あるいは又、カソード電極の表面が電子放出部に相当している場合(即ち、第2の構造を有する電界放出素子においては)、カソード電極を導電材料層、抵抗体層、電子放出部に相当する電子放出層の3層構成としてもよい。抵抗体層を設けることによって、電界放出素子の動作安定化、電子放出特性の均一化を図ることができる。抵抗体層を構成する材料として、シリコンカーバイド(SiC)やSiCNといったカーボン系材料、SiN、アモルファスシリコン等の半導体材料、酸化ルテニウム(RuO2)、酸化タンタル、窒化タンタル等の高融点金属酸化物を例示することができる。抵抗体層の形成方法として、スパッタリング法や、CVD法やスクリーン印刷法を例示することができる。抵抗値は、概ね1×105〜1×107Ω、好ましくは数MΩとすればよい。
[スピント型電界放出素子]
スピント型電界放出素子は、
(イ)支持体10上に設けられ、第1の方向に延びるストライプ状のカソード電極11と、
(ロ)支持体10及びカソード電極11上に形成された絶縁層12と、
(ハ)絶縁層12上に設けられ、第1の方向とは異なる第2の方向に延びるストライプ状のゲート電極13と、
(ニ)ゲート電極13に設けられた第1開口部14A、及び、絶縁層12に設けられ、第1開口部14Aと連通した第2開口部14Bと、
(ホ)第2開口部14Bの底部に位置するカソード電極11上に設けられた電子放出部15、
から成り、
第2開口部14Bの底部に露出した円錐形の電子放出部15から電子が放出される構造を有する。
以下、スピント型電界放出素子の製造方法を、カソードパネルを構成する支持体10等の模式的な一部端面図である図20の(A)、(B)及び図21の(A)、(B)を参照して説明する。
尚、このスピント型電界放出素子は、基本的には、円錐形の電子放出部15を金属材料の垂直蒸着により形成する方法によって得ることができる。即ち、ゲート電極13に設けられた第1開口部14Aに対して蒸着粒子は垂直に入射するが、第1開口部14Aの開口端付近に形成されるオーバーハング状の堆積物による遮蔽効果を利用して、第2開口部14Bの底部に到達する蒸着粒子の量を漸減させ、円錐形の堆積物である電子放出部15を自己整合的に形成する。ここでは、不要なオーバーハング状の堆積物の除去を容易とするために、ゲート電極13及び絶縁層12上に剥離層16を予め形成しておく方法について説明する。尚、電界放出素子の製造方法を説明するための図面においては、1つの電子放出部のみを図示した。
[工程−A0]
先ず、例えばガラス基板から成る支持体10の上に、例えばポリシリコンから成るカソード電極用導電材料層をプラズマCVD法にて成膜した後、リソグラフィ技術及びドライエッチング技術に基づきカソード電極用導電材料層をパターニングして、ストライプ状のカソード電極11を形成する。その後、全面にSiO2から成る絶縁層12をCVD法にて形成する。
[工程−A1]
次に、絶縁層12上に、ゲート電極用導電材料層(例えば、TiN層)をスパッタ法にて成膜し、次いで、ゲート電極用導電材料層をリソグラフィ技術及びドライエッチング技術にてパターニングすることによって、ストライプ状のゲート電極13を得ることができる。ストライプ状のカソード電極11は、図面の紙面左右方向に延び、ストライプ状のゲート電極13は、図面の紙面垂直方向に延びている。
尚、ゲート電極13を、真空蒸着法等のPVD法、CVD法、電気メッキ法や無電解メッキ法といったメッキ法、スクリーン印刷法、レーザアブレーション法、ゾル−ゲル法、リフトオフ法等の公知の薄膜形成と、必要に応じてエッチング技術との組合せによって形成してもよい。スクリーン印刷法やメッキ法によれば、直接、例えばストライプ状のゲート電極を形成することが可能である。
[工程−A2]
その後、再びレジスト層を形成し、エッチングによってゲート電極13に第1開口部14Aを形成し、更に、絶縁層に第2開口部14Bを形成し、第2開口部14Bの底部にカソード電極11を露出させた後、レジスト層を除去する。こうして、図20の(A)に示す構造を得ることができる。
[工程−A3]
次に、支持体10を回転させながらゲート電極13上を含む絶縁層12上にニッケル(Ni)を斜め蒸着することにより、剥離層16を形成する(図20の(B)参照)。このとき、支持体10の法線に対する蒸着粒子の入射角を十分に大きく選択することにより(例えば、入射角65度〜85度)、第2開口部14Bの底部にニッケルを殆ど堆積させることなく、ゲート電極13及び絶縁層12の上に剥離層16を形成することができる。剥離層16は、第1開口部14Aの開口端から庇状に張り出しており、これによって第1開口部14Aが実質的に縮径される。
[工程−A4]
次に、全面に例えば導電材料としてモリブデン(Mo)を垂直蒸着する(入射角3度〜10度)。このとき、図21の(A)に示すように、剥離層16上でオーバーハング形状を有する導電材料層17が成長するに伴い、第1開口部14Aの実質的な直径が次第に縮小されるので、第2開口部14Bの底部において堆積に寄与する蒸着粒子は、次第に第1開口部14Aの中央付近を通過するものに限られるようになる。その結果、第2開口部14Bの底部には円錐形の堆積物が形成され、この円錐形の堆積物が電子放出部15となる。
[工程−A5]
その後、図21の(B)に示すように、リフトオフ法にて剥離層16をゲート電極13及び絶縁層12の表面から剥離し、ゲート電極13及び絶縁層12の上方の導電材料層17を選択的に除去する。こうして、複数のスピント型電界放出素子が形成されたカソードパネルを得ることができる。
[扁平型電界放出素子(その1)]
扁平型電界放出素子は、
(イ)支持体10上に設けられ、第1の方向に延びるカソード電極11と、
(ロ)支持体10及びカソード電極11上に形成された絶縁層12と、
(ハ)絶縁層12上に設けられ、第1の方向とは異なる第2の方向に延びるゲート電極13と、
(ニ)ゲート電極13に設けられた第1開口部14A、及び、絶縁層12に設けられ、第1開口部14Aと連通した第2開口部14Bと、
(ホ)第2開口部14Bの底部に位置するカソード電極11上に設けられた扁平状の電子放出部15A、
から成り、
第2開口部14Bの底部に露出した電子放出部15Aから電子が放出される構造を有する。
電子放出部15Aは、マトリックス18、及び、先端部が突出した状態でマトリックス18中に埋め込まれたカーボン・ナノチューブ構造体(具体的には、カーボン・ナノチューブ19)から成り、マトリックス18は、導電性を有する金属酸化物(具体的には、酸化インジウム−錫、ITO)から成る。
以下、電界放出素子の製造方法を、図22の(A)、(B)及び図23の(A)、(B)を参照して説明する。
[工程−B0]
先ず、例えばガラス基板から成る支持体10上に、例えばスパッタリング法及びエッチング技術により形成された厚さ約0.2μmのクロム(Cr)層から成るストライプ状のカソード電極11を形成する。
[工程−B1]
次に、カーボン・ナノチューブ構造体が分散された有機酸金属化合物から成る金属化合物溶液をカソード電極11上に、例えばスプレー法にて塗布する。具体的には、以下の表4に例示する金属化合物溶液を用いる。尚、金属化合物溶液中にあっては、有機錫化合物及び有機インジウム化合物は酸(例えば、塩酸、硝酸、あるいは硫酸)に溶解された状態にある。カーボン・ナノチューブはアーク放電法にて製造され、平均直径30nm、平均長さ1μmである。塗布に際しては、支持体10を70〜150゜Cに加熱しておく。塗布雰囲気を大気雰囲気とする。塗布後、5〜30分間、支持体10を加熱し、酢酸ブチルを十分に蒸発させる。このように、塗布時、支持体10を加熱することによって、カソード電極11の表面に対してカーボン・ナノチューブが水平に近づく方向にセルフレベリングする前に塗布溶液の乾燥が始まる結果、カーボン・ナノチューブが水平にはならない状態でカソード電極11の表面にカーボン・ナノチューブを配置することができる。即ち、カーボン・ナノチューブの先端部がアノード電極の方向を向くような状態、言い換えれば、カーボン・ナノチューブを、支持体10の法線方向に近づく方向に配向させることができる。尚、予め、表4に示す組成の金属化合物溶液を調製しておいてもよいし、カーボン・ナノチューブを添加していない金属化合物溶液を調製しておき、塗布前に、カーボン・ナノチューブと金属化合物溶液とを混合してもよい。また、カーボン・ナノチューブの分散性向上のため、金属化合物溶液の調製時、超音波を照射してもよい。
[表4]
有機錫化合物及び有機インジウム化合物:0.1〜10重量部
分散剤(ドデシル硫酸ナトリウム) :0.1〜5 重量部
カーボン・ナノチューブ :0.1〜20重量部
酢酸ブチル :残余
尚、有機酸金属化合物溶液として、有機錫化合物を酸に溶解したものを用いれば、マトリックスとして酸化錫が得られ、有機インジウム化合物を酸に溶解したものを用いれば、マトリックスとして酸化インジウムが得られ、有機亜鉛化合物を酸に溶解したものを用いれば、マトリックスとして酸化亜鉛が得られ、有機アンチモン化合物を酸に溶解したものを用いれば、マトリックスとして酸化アンチモンが得られ、有機アンチモン化合物及び有機錫化合物を酸に溶解したもの用いれば、マトリックスとして酸化アンチモン−錫が得られる。また、有機金属化合物溶液として、有機錫化合物を用いれば、マトリックスとして酸化錫が得られ、有機インジウム化合物を用いれば、マトリックスとして酸化インジウムが得られ、有機亜鉛化合物を用いれば、マトリックスとして酸化亜鉛が得られ、有機アンチモン化合物を用いれば、マトリックスとして酸化アンチモンが得られ、有機アンチモン化合物及び有機錫化合物を用いれば、マトリックスとして酸化アンチモン−錫が得られる。あるいは又、金属の塩化物の溶液(例えば、塩化錫、塩化インジウム)を用いてもよい。
場合によっては、金属化合物溶液を乾燥した後の金属化合物層の表面に著しい凹凸が形成されている場合がある。このような場合には、金属化合物層の上に、支持体を加熱することなく、再び、金属化合物溶液を塗布することが望ましい。
[工程−B2]
その後、有機酸金属化合物から成る金属化合物を焼成することによって、有機酸金属化合物に由来した金属原子(具体的には、In及びSn)を含むマトリックス(具体的には、金属酸化物であり、より一層具体的にはITO)18にてカーボン・ナノチューブ19がカソード電極11の表面に固定された電子放出部15Aを得る。焼成を、大気雰囲気中で、350゜C、20分の条件にて行う。こうして、得られたマトリックス18の体積抵抗率は、5×10-7Ω・mであった。有機酸金属化合物を出発物質として用いることにより、焼成温度350゜Cといった低温においても、ITOから成るマトリックス18を形成することができる。尚、有機酸金属化合物溶液の代わりに、有機金属化合物溶液を用いてもよいし、金属の塩化物の溶液(例えば、塩化錫、塩化インジウム)を用いた場合、焼成によって塩化錫、塩化インジウムが酸化されつつ、ITOから成るマトリックス18が形成される。
[工程−B3]
次いで、全面にレジスト層を形成し、カソード電極11の所望の領域の上方に、例えば直径10μmの円形のレジスト層を残す。そして、10〜60゜Cの塩酸を用いて、1〜30分間、マトリックス18をエッチングして、電子放出部の不要部分を除去する。更に、所望の領域以外にカーボン・ナノチューブが未だ存在する場合には、以下の表5に例示する条件の酸素プラズマエッチング処理によってカーボン・ナノチューブをエッチングする。尚、バイアスパワーは0Wでもよいが、即ち、直流としてもよいが、バイアスパワーを加えることが望ましい。また、支持体を、例えば80゜C程度に加熱してもよい。
[表5]
使用装置 :RIE装置
導入ガス :酸素を含むガス
プラズマ励起パワー:500W
バイアスパワー :0〜150W
処理時間 :10秒以上
あるいは又、表6に例示する条件のウェットエッチング処理によってカーボン・ナノチューブをエッチングしてもよい。
[表6]
使用溶液:KMnO4
温度 :20〜120゜C
処理時間:10秒〜20分
その後、レジスト層を除去することによって、図22の(A)に示す構造を得ることができる。尚、直径10μmの円形の電子放出部15Aを残すことに限定されない。例えば、電子放出部15Aをカソード電極11上に残してもよい。
尚、[工程−B1]、[工程−B3]、[工程−B2]の順に実行してもよい。
[工程−B4]
次に、電子放出部15A、支持体10及びカソード電極11上に絶縁層12を形成する。具体的には、例えばTEOS(テトラエトキシシラン)を原料ガスとして使用するCVD法により、全面に、厚さ約1μmの絶縁層12を形成する。
[工程−B5]
その後、絶縁層12上にストライプ状のゲート電極13を形成し、更に、絶縁層12及びゲート電極13上にマスク層118を設けた後、ゲート電極13に第1の開口部14Aを形成し、更に、ゲート電極13に形成された第1の開口部14Aに連通する第2の開口部14Bを絶縁層12に形成する(図22の(B)参照)。尚、マトリックス18を金属酸化物、例えばITOから構成する場合、絶縁層12をエッチングするとき、マトリックス18がエッチングされることはない。即ち、絶縁層12とマトリックス18とのエッチング選択比はほぼ無限大である。従って、絶縁層12のエッチングによってカーボン・ナノチューブ19に損傷が発生することはない。
[工程−B6]
次いで、以下の表7に例示する条件にて、マトリックス18の一部を除去し、マトリックス18から先端部が突出した状態のカーボン・ナノチューブ19を得ることが好ましい。こうして、図23の(A)に示す構造の電子放出部15Aを得ることができる。
[表7]
エッチング溶液:塩酸
エッチング時間:10秒〜30秒
エッチング温度:10〜60゜C
マトリックス18のエッチングによって一部あるいは全てのカーボン・ナノチューブ19の表面状態が変化し(例えば、その表面に酸素原子や酸素分子、フッ素原子が吸着し)、電界放出に関して不活性となっている場合がある。それ故、その後、電子放出部15Aに対して水素ガス雰囲気中でのプラズマ処理を行うことが好ましく、これによって、電子放出部15Aが活性化し、電子放出部15Aからの電子の放出効率の一層の向上させることができる。プラズマ処理の条件を、以下の表8に例示する。
[表8]
使用ガス :H2=100sccm
電源パワー :1000W
支持体印加電力:50V
反応圧力 :0.1Pa
支持体温度 :300゜C
その後、カーボン・ナノチューブ19からガスを放出させるために、加熱処理や各種のプラズマ処理を施してもよいし、カーボン・ナノチューブ19の表面に意図的に吸着物を吸着させるために吸着させたい物質を含むガスにカーボン・ナノチューブ19を晒してもよい。また、カーボン・ナノチューブ19を精製するために、酸素プラズマ処理やフッ素プラズマ処理を行ってもよい。
[工程−B7]
その後、絶縁層12に設けられた第2の開口部14Bの側壁面を等方的なエッチングによって後退させることが、ゲート電極13の開口端部を露出させるといった観点から、好ましい。尚、等方的なエッチングは、ケミカルドライエッチングのようにラジカルを主エッチング種として利用するドライエッチング、あるいはエッチング液を利用するウェットエッチングにより行うことができる。エッチング液としては、例えば49%フッ酸水溶液と純水の1:100(容積比)混合液を用いることができる。次いで、マスク層118を除去する。こうして、図23の(B)に示す電界放出素子を完成することができる。
尚、[工程−B5]の後、[工程−B7]、[工程−B6]の順に実行してもよい。
[扁平型電界放出素子(その2)]
扁平型電界放出素子の模式的な一部断面図を、図24の(A)に示す。この扁平型電界放出素子は、例えばガラスから成る支持体10上に形成されたカソード電極11、支持体10及びカソード電極11上に形成された絶縁層12、絶縁層12上に形成されたゲート電極13、ゲート電極13及び絶縁層12を貫通する開口部14(ゲート電極13に設けられた第1開口部、及び、絶縁層12に設けられ、第1開口部と連通した第2開口部)、並びに、開口部14の底部に位置するカソード電極11の部分の上に設けられた扁平の電子放出部(電子放出層15B)から成る。ここで、電子放出層15Bは、図面の紙面垂直方向に延びたストライプ状のカソード電極11上に形成されている。また、ゲート電極13は、図面の紙面左右方向に延びている。カソード電極11及びゲート電極13はクロムから成る。電子放出層15Bは、具体的には、グラファイト粉末から成る薄層から構成されている。図24の(A)に示した扁平型電界放出素子においては、カソード電極11の表面の全域に亙って、電子放出層15Bが形成されているが、このような構造に限定するものではなく、要は、少なくとも開口部14の底部に電子放出層15Bが設けられていればよい。
[平面型電界放出素子]
平面型電界放出素子の模式的な一部断面図を、図24の(B)に示す。この平面型電界放出素子は、例えばガラスから成る支持体10上に形成されたストライプ状のカソード電極11、支持体10及びカソード電極11上に形成された絶縁層12、絶縁層12上に形成されたストライプ状のゲート電極13、並びに、ゲート電極13及び絶縁層12を貫通する第1開口部及び第2開口部(開口部14)から成る。開口部14の底部にはカソード電極11が露出している。カソード電極11は、図面の紙面垂直方向に延び、ゲート電極13は、図面の紙面左右方向に延びている。カソード電極11及びゲート電極13はクロム(Cr)から成り、絶縁層12はSiO2から成る。ここで、開口部14の底部に露出したカソード電極11の部分が電子放出部15Cに相当する。
[アノードパネル及び表示装置の製造方法]
以下、基板等の模式的な一部断面図である図25の(A)〜(F)を参照して、アノードパネルAPの製造方法を説明する。
[工程−100]
先ず、ガラス基板から成る基板30上に隔壁33を形成する(図25の(A)参照)。隔壁33の平面形状は格子形状(井桁形状)である。具体的には、酸化コバルト等の金属酸化物により黒色に着色した鉛ガラス層を約50μmの厚さで形成した後、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術によって鉛ガラス層を選択的に加工することにより、格子形状(井桁形状)の隔壁33(例えば図5を参照)を得ることができる。尚、場合によっては、低融点ガラスペーストをスクリーン印刷法にて基板30上に印刷し、次いで、かかる低融点ガラスペーストを焼成することによって隔壁を形成してもよいし、感光性ポリイミド樹脂層を基板30の全面に形成した後、かかる感光性ポリイミド樹脂層を露光、現像することによって、隔壁を形成してもよい。1画素における隔壁33の大きさを、およそ、縦×横×高さが200μm×100μm×50μmとした。隔壁の一部は、スペーサ34を保持するためのスペーサ保持部としても機能する。尚、隔壁33の形成前に、隔壁33を形成すべき基板30の部分の表面にブラックマトリックス(図25には図示せず)を形成することが、表示画像のコントラスト向上といった観点から好ましい。尚、ブラックマトリックス及び隔壁33の形成前に、ストライプ状の透明電極27を形成しておいてもよい。
[工程−110]
次に、赤色発光蛍光体層31Rを形成するために、例えばポリビニルアルコール(PVA)樹脂と水に赤色発光蛍光体粒子を分散させ、更に、重クロム酸アンモニウムを添加した赤色発光蛍光体スラリーを全面に塗布した後、かかる赤色発光蛍光体スラリーを乾燥する。その後、基板30側から赤色発光蛍光体層31Rを形成すべき赤色発光蛍光体スラリーの部分に紫外線を照射し、赤色発光蛍光体スラリーを露光する。赤色発光蛍光体スラリーは基板30側から徐々に硬化する。形成される赤色発光蛍光体層31Rの厚さは、赤色発光蛍光体スラリーに対する紫外線の照射量により決定される。ここでは、例えば、赤色発光蛍光体スラリーに対する紫外線の照射時間を調整して、赤色発光蛍光体層31Rの厚さを約8μmとした。その後、赤色発光蛍光体スラリーを現像することによって、所定の隔壁33の間に赤色発光蛍光体層31Rを形成することができる(図25の(B)参照)。以下、緑色発光蛍光体スラリーに対して同様の処理を行うことによって緑色発光蛍光体層31Gを形成し、更に、青色発光蛍光体スラリーに対して同様の処理を行うことによって青色発光蛍光体層31Bを形成する(図25の(C)参照)。尚、蛍光体層31の表面は、微視的には、複数の蛍光体粒子により凹凸となっている。蛍光体層の形成方法は、以上に説明した方法に限定されず、赤色発光蛍光体スラリー、緑色発光蛍光体スラリー、青色発光蛍光体スラリーを順次塗布した後、各蛍光体スラリーを順次露光、現像して、各蛍光体層を形成してもよいし、スクリーン印刷法等により各蛍光体層を形成してもよい。
[工程−120]
その後、隔壁33及び蛍光体層31が形成された基板30を、処理槽内に満たされた液体(具体的には、水)中に、蛍光体層31が液面側を向くように浸漬する。尚、処理槽の排出部は閉じておく。そして、液面上に、実質的に平坦な表面を有する中間膜50を形成する。具体的には、中間膜50を構成する樹脂(ラッカー)を溶解した有機溶剤を液面に滴下する。即ち、液面上に、中間膜50を形成するための中間膜材料を展開する。中間膜50を構成する樹脂(ラッカー)は、広義のワニスの一種で、セルロース誘導体、一般にニトロセルロースを主成分とした配合物を低級脂肪酸エステルのような揮発性溶剤に溶かしたもの、あるいは、他の合成高分子を用いたウレタンラッカー、アクリルラッカーから構成される。続いて、中間膜材料を液面に浮遊させた状態において、例えば2分間程度乾燥させる。これによって、中間膜材料が成膜され、液面上に中間膜50が平坦に形成される。中間膜50を形成する際には、例えば、その厚さが約30nmとなるように中間膜材料の展開量を調整する。
続いて、処理槽の排出部を開き、処理槽から液体を排出して液面を降下させることにより、液面上に形成されていた中間膜50が隔壁33に近づく方向に移動し、中間膜50が隔壁33に接触し、最終的に、中間膜50が蛍光体層31と接する状態となり、中間膜50が蛍光体層31上に残される(図25の(D)参照)。
[工程−130]
次に、中間膜50を乾燥させる。即ち、基板30を処理槽内から取り出し、基板30を乾燥炉内に搬入し、所定の温度環境中にて乾燥させる。中間膜50の乾燥温度は例えば30°C〜60°Cの範囲内とすることが好ましく、中間膜50の乾燥時間は例えば数分〜数十分の範囲内とすることが好ましい。勿論、乾燥温度の高低に伴い、乾燥時間は減増する。
[工程−140]
その後、中間膜50上に導電材料層20Aを形成する。具体的には、蒸着法又はスパッタリング法により、中間膜50を覆うように、アルミニウム(Al)やクロム(Cr)等の導電材料から成る導電材料層20Aを形成する(図25の(E)参照)。
[工程−150]
次いで、400゜C程度で中間膜50を焼成する(図25の(F)参照)。この焼成処理により中間膜50が燃焼して焼失し、導電材料層20Aが蛍光体層31上及び隔壁33上に残される。尚、中間膜50の燃焼により生じたガスは、例えば、導電材料層20Aのうち、隔壁33の形状に沿って折れ曲がっている領域に生じる微細な孔を通じて外部に排出される。この孔は微細なため、アノード電極の構造的な強度や画像表示特性に深刻な影響を及ぼすものではない。
[工程−160]
その後、リソグラフィ技術及びエッチング技術によって導電材料層20Aをパターニングすることで、例えば、アノード電極ユニットや給電線、給電線ユニットを得ることができる。更に、必要に応じて、抵抗体層や第1の抵抗部材、第2の抵抗部材を、スクリーン印刷法や、CVD法とリソグラフィ技術及びエッチング技術に基づき形成すればよい。こうして、アノードパネルAPを完成することができる。
[工程−170]
電界放出素子が形成されたカソードパネルCPを準備する。そして、表示装置の組み立てを行う。具体的には、例えば、アノードパネルAPの有効領域に設けられたスペーサ保持部にスペーサ34を取り付け、蛍光体層31と電界放出素子とが対向するようにアノードパネルAPとカソードパネルCPとを配置し、アノードパネルAPとカソードパネルCP(より具体的には、基板30と支持体10)とを、セラミックスやガラスから作製された高さ約1mmの枠体35を介して、周縁部において接合する。接合に際しては、枠体35とアノードパネルAPとの接合部位、及び、枠体35とカソードパネルCPとの接合部位にフリットガラスを塗布し、アノードパネルAPとカソードパネルCPと枠体35とを貼り合わせ、予備焼成にてフリットガラスを乾燥した後、約450゜Cで10〜30分の本焼成を行う。その後、アノードパネルAPとカソードパネルCPと枠体35とフリットガラス(図示せず)とによって囲まれた空間を、貫通孔(図示せず)及びチップ管(図示せず)を通じて排気し、空間の圧力が10-4Pa程度に達した時点でチップ管を加熱溶融により封じ切る。このようにして、アノードパネルAPとカソードパネルCPと枠体35とに囲まれた空間を真空にすることができる。あるいは又、例えば、枠体35とアノードパネルAPとカソードパネルCPとの貼り合わせを高真空雰囲気中で行ってもよい。あるいは又、表示装置の構造に依っては、枠体無しで、接着層のみによってアノードパネルAPとカソードパネルCPとを貼り合わせてもよい。その後、必要な外部回路との配線接続を行い、表示装置を完成させる。
以上、本発明を、発明の実施例に基づき説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。発明の実施例にて説明したアノードパネルやカソードパネル、表示装置や電界放出素子の構成、構造は例示であり、適宜変更することができるし、アノードパネルやカソードパネル、表示装置や電界放出素子の製造方法も例示であり、適宜変更することができる。更には、アノードパネルやカソードパネルの製造において使用した各種材料も例示であり、適宜変更することができる。表示装置においては、専らカラー表示を例にとり説明したが、単色表示とすることもできる。
電界放出素子においては、専ら1つの開口部に1つの電子放出部が対応する形態を説明したが、電界放出素子の構造に依っては、1つの開口部に複数の電子放出部が対応した形態、あるいは、複数の開口部に1つの電子放出部が対応する形態とすることもできる。あるいは又、ゲート電極に複数の第1開口部を設け、絶縁層にかかる複数の第1開口部に連通した複数の第2開口部を設け、1又は複数の電子放出部を設ける形態とすることもできる。
電界放出素子において、ゲート電極13及び絶縁層12の上に更に第2の絶縁層62を設け、第2の絶縁層62上に収束電極63を設けてもよい。このような構造を有する電界放出素子の模式的な一部端面図を図26に示す。第2の絶縁層62には、第1開口部14Aに連通した第3開口部64が設けられている。収束電極63の形成は、例えば、[工程−A2]において、絶縁層12上にストライプ状のゲート電極13を形成した後、第2の絶縁層62を形成し、次いで、第2の絶縁層62上にパターニングされた収束電極63を形成した後、収束電極63、第2の絶縁層62に第3開口部64を設け、更に、ゲート電極13に第1開口部14Aを設ければよい。尚、収束電極のパターニングに依存して、1又は複数の電子放出部、あるいは、1又は複数の画素に対応する収束電極ユニットが集合した形式の収束電極とすることもでき、あるいは又、有効領域を1枚のシート状の導電材料で被覆した形式の収束電極とすることもできる。尚、図26においては、スピント型電界放出素子を図示したが、その他の電界放出素子とすることもできることは云うまでもない。
収束電極は、このような方法にて形成するだけでなく、例えば、厚さ数十μmの42%Ni−Feアロイから成る金属板の両面に、例えばSiO2から成る絶縁膜を形成した後、各画素に対応した領域にパンチングやエッチングすることによって開口部を形成することで収束電極を作製することもできる。そして、カソードパネル、金属板、アノードパネルを積み重ね、両パネルの外周部に枠体を配置し、加熱処理を施すことによって、金属板の一方の面に形成された絶縁膜と絶縁層12とを接着させ、金属板の他方の面に形成された絶縁膜とアノードパネルとを接着し、これらの部材を一体化させ、その後、真空封入することで、表示装置を完成させることもできる。
尚、収束電極を設けた場合、主に、収束電極とアノード電極ユニットの間で放電が生じる。アノード電極ユニットと収束電極との間の最短距離が、アノード電極ユニットと電界放出素子との間の距離dに相当する。
ゲート電極を、有効領域を1枚のシート状の導電材料(開口部を有する)で被覆した形式のゲート電極とすることもできる。この場合には、かかるゲート電極に正の電圧を印加する。そして、各画素を構成するカソード電極とカソード電極制御回路との間に、例えば、TFTから成るスイッチング素子を設け、かかるスイッチング素子の作動によって、各画素を構成する電子放出部への印加状態を制御し、画素の発光状態を制御する。
あるいは又、カソード電極を、有効領域を1枚のシート状の導電材料で被覆した形式のカソード電極とすることもできる。この場合には、かかるカソード電極に電圧を印加する。そして、各画素を構成する電子放出部とゲート電極制御回路との間に、例えば、TFTから成るスイッチング素子を設け、かかるスイッチング素子の作動によって、各画素を構成するゲート電極への印加状態を制御し、画素の発光状態を制御する。
冷陰極電界電子放出表示装置は、カソード電極、ゲート電極及びアノード電極から構成された所謂3電極型に限定されず、カソード電極及びアノード電極から構成された所謂2電極型とすることもできる。実施例1にて説明したアノードパネルの構成をこのような構造の表示装置に適用した例の模式的な一部断面図を図27に示す。尚、図27においては、隔壁やブラックマトリックス、抵抗体R0の図示を省略している。この表示装置における電界放出素子は、支持体10上に設けられたカソード電極11と、カソード電極11上に形成されたカーボン・ナノチューブ19から構成された電子放出部15Aから成る。アノードパネルAPを構成するアノード電極20は、複数のストライプ状のアノード電極ユニット21から構成されている。尚、ストライプ状のアノード電極ユニット21の間は導通していない。電子放出部の構造はカーボン・ナノチューブ構造体に限定されない。ストライプ状のカソード電極11の射影像とストライプ状のアノード電極ユニット21の射影像とは直交する。具体的には、カソード電極11は図面の紙面垂直方向に延び、ストライプ状のアノード電極ユニット21は図面の紙面左右方向に延びている。この表示装置におけるカソードパネルCPにおいては、上述のような電界放出素子の複数から構成された電子放出領域が有効領域に2次元マトリックス状に多数形成されている。
この表示装置においては、アノード電極ユニット21によって形成された電界に基づき、量子トンネル効果に基づき電子放出部15Aから電子が放出され、この電子がアノード電極ユニット21に引き付けられ、蛍光体層31に衝突する。即ち、アノード電極ユニット21の射影像とカソード電極11の射影像とが重複する領域(アノード電極/カソード電極重複領域)に位置する電子放出部15Aから電子が放出される、所謂単純マトリクス方式により、表示装置の駆動が行われる。具体的には、カソード電極制御回路41からカソード電極11に相対的に負の電圧を印加し、アノード電極制御回路43からアノード電極ユニット21に相対的に正の電圧を印加する。その結果、列選択されたカソード電極11と行選択されたアノード電極ユニット21(あるいは、行選択されたカソード電極11と列選択されたアノード電極ユニット21)とのアノード電極/カソード電極重複領域に位置する電子放出部15Aを構成するカーボン・ナノチューブ19から選択的に真空空間中へ電子が放出され、この電子がアノード電極ユニット21に引き付けられてアノードパネルAPを構成する蛍光体層31に衝突し、蛍光体層31を励起、発光させる。
このような構成の表示装置に対して、実施例1〜実施例5で説明した各種のアノードパネルAPを適用することができる。
アノード電極ユニット21,121を形成した後、抵抗体層28,128を形成する方法の一例を、以下に説明する。即ち、レジストマスク層をアノード電極20,120上にスピンコーティング法にて成膜した後、真空脱泡を行う。次いで、リソグラフィ技術によってレジストマスク層をパターニングした後、係るレジストマスク層70をエッチング用マスクとしてアノード電極20,120をエッチングして、アノード電極ユニット21,121を形成する。この状態を、図28の(A)に模式的に示す。通常、レジストマスク層70の開口の直下のアノード電極20,120はオーバーエッチングされた状態にある。その後、抵抗体層28,128を形成するために、レジストマスク層70を残した状態でSiCから成る抵抗体薄膜71をスパッタリング法にて、露出したアノード電極ユニット21,121の部分、基板30の部分、及び、レジストマスク層70上に形成し、レジストマスク層70を除去することで、抵抗体層28,128を得ることができる。しかしながら、レジストマスク層70の開口の直下のアノード電極20,120はオーバーエッチングされた状態にあるので、露出したアノード電極ユニット21,121上に抵抗体層28,128が確実には形成されない場合がある(図28の(B)参照)。このような現象の発生を防止するためには、図28の(A)の状態が得られた後、レジストマスク層70をオーバー露光するか、追加現像を行うか、基板30の裏面からの背面露光を行うことで、アノード電極ユニット21,121の縁部分の上方のレジストマスク層70の部分を除去すればよい(図28の(C)参照)。その後、レジストマスク層70を残した状態でSiCから成る抵抗体薄膜71を、スパッタリング法にて、露出したアノード電極ユニット21,121の部分、基板30の部分、及び、レジストマスク層70上に形成し、レジストマスク層70を除去することで、抵抗体層28,128を得ることができる。このような方法を採用することで、露出したアノード電極ユニット21,121上に抵抗体層28,128が確実に形成される(図28の(D)参照)。
AP・・・アノードパネル、CP・・・カソードパネル、10・・・支持体、11・・・カソード電極、12・・・絶縁層、13・・・ゲート電極、14,14A,14B・・・開口部、15,15A,15B,15C・・・電子放出部、16・・・剥離層、17・・・導電材料層、18・・・マトリックス、19・・・カーボン・ナノチューブ、20,120・・・アノード電極、21,121・・・アノード電極ユニット、22・・・給電線、22A・・・給電線ユニット、23・・・隙間、24・・・抵抗部材(第1の抵抗部材)、25・・・隙間、26・・・第2の抵抗部材、27・・・透明電極、28,128,29,129・・・抵抗体層、30・・・基板、31,31R,31G,31B・・・蛍光体層、32・・・ブラックマトリックス、33・・・隔壁、34・・・スペーサ、35・・・枠体、41・・・カソード電極制御回路、42・・・ゲート電極制御回路、43・・・アノード電極制御回路、50・・・中間膜、R0・・・抵抗体