JP4136504B2 - 溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製のための結晶析出防止方法 - Google Patents
溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製のための結晶析出防止方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の背景】
発明の分野
本発明は、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製のための結晶析出防止方法、および該結晶析出防止方法を適用したタンタル精製液および/またはニオブ精製液ならびに酸化タンタルおよび/または酸化ニオブの製造方法に関する。
【0002】
背景技術
タンタルおよびニオブは、通常、鉱石等の原料中に両元素が共に含まれるため、分離精製することが必要である。このような分離方法としては、以下に述べるフッ化水素酸溶解−溶媒抽出法が一般的に知られている。この方法によれば、まず、タンタライト等の鉱石や、タンタルコンデンサのスクラップ等の原料を粉砕してフッ酸で溶解した後、硫酸を加えて溶液の濃度を調整する。次に、この調整液をフィルタープレスで濾過し、清浄な溶液にして4−メチル−2−ペンタノン(以下、別名メチルイソブチルケトンの略記である「MIBK」と表記することがある)による溶媒抽出にかけると、タンタルおよびニオブがMIBKに抽出される。この時、原料中に含まれている不純物の鉄、マンガン、シリコン等が抽出残液に残ることにより、不純物が除去される。
【0003】
こうして得たタンタルおよびニオブを含むMIBKを、希硫酸で逆抽出すると、ニオブが水溶液に移り、純粋なタンタルがMIBKに残る。MIBK中のタンタルを精製し、水で逆抽出して水溶液に移し、MIBKを回収し再使用する。一方、水溶液中のニオブはMIBKで再度抽出し、少量含まれているタンタルを抽出し、水溶液中のニオブを純粋なものに精製する。このニオブ精製時のMIBKはタンタル、ニオブ分離前の溶媒に合流される。このようにして精製されたタンタルおよびニオブの各水溶液にアンモニア水を加えて水酸化物の沈殿を析出させ、これを濾過、乾燥し最後に仮焼して、酸化タンタルおよび酸化ニオブが得られる。
【0004】
しかしながら、ミキサーセトラーやカラムなどの溶媒抽出装置を用いて溶媒抽出を行う場合、装置内に結晶が析出して付着することがある。装置内で結晶が析出することにより、液の流通が妨げられる等の問題が生じる。このため、タンタルおよび/またはニオブの溶媒抽出において、溶媒抽出系で結晶が析出しない液性の液を供用することが望まれる。
【0005】
【発明の概要】
本発明者らは、今般、溶媒抽出に供用する原料含有液がタンタルおよびニオブの少なくとも1種、フッ素、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する溶液である場合に、溶媒抽出装置内にNa2SiF6等の結晶が析出しやすいことを知見した。さらに、本発明者らは、溶媒抽出に供用する原料含有液からケイ素およびナトリウムを所定の方法で低減することにより、溶媒抽出に供用した際に、装置内での結晶の析出を実質的に無くすか、もしくは析出があるとしてもその析出量を著しく低減できるとの知見を得た。
【0006】
したがって、本発明は、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製時における結晶の析出を有効に防止し、それにより分離精製を極めて安定かつ高い効率で行うことを可能にすることを目的としている。
【0007】
そして、本発明の第一の態様による結晶析出防止方法は、
溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製のための結晶析出防止方法であって、
溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するための原料含有液として、タンタルおよびニオブの少なくとも1種、フッ素、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する原料含有液を用意し、
該原料含有液にナトリウム含有物質および/または硫酸根含有物質を添加して結晶を析出させ、
析出した結晶を40℃以下の液温で固液分離により除去すること
を含んでなる。
【0008】
また、本発明の第二の態様による結晶析出防止方法は、
溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製のための結晶析出防止方法であって、
タンタルおよびニオブの少なくとも1種と、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する原料であって、原料に含有されるナトリウムの質量の、原料に含有されるケイ素の質量に対する比(Na/Si質量比)が0.6〜1.8である原料を用意し、
該原料をフッ化水素酸および硫酸を用いて溶解し、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するための原料含有液を得て、
該原料含有液を冷却して結晶を析出させ、
析出した結晶を40℃以下の液温で固液分離により除去すること
を含んでなる。
【0009】
本発明のタンタル精製液またはニオブ精製液の製造方法は、
タンタルおよびニオブの少なくとも1種、フッ素、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する原料含有液を用意し、
前記原料含有液に溶媒抽出法によるタンタルまたはニオブの分離精製処理を施して、タンタル精製液またはニオブ精製液を得ること
を含んでなり、
前記分離精製処理の前および/またはその途中の原料含有液に上記結晶析出防止方法を行い、それにより得られた原料含有液を用いて後続の分離精製処理を行うことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の酸化タンタルまたは酸化ニオブの製造方法は、
上記方法によりタンタル精製液またはニオブ精製液を製造し、
タンタル精製液またはニオブ精製液にアンモニアを添加して、水酸化タンタルまたは水酸化ニオブを沈殿させ、
固液分離により水酸化タンタルまたは水酸化ニオブを得て、
水酸化タンタルまたは水酸化ニオブを、所望により乾燥した後、仮焼して酸化タンタルまたは酸化ニオブを得ること
を含んでなる。
【0011】
【発明の具体的説明】
結晶析出防止方法
本発明の結晶析出防止方法は、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に適用されるものである。本発明の結晶析出防止方法の処理対象は、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するためのタンタルおよび/またはニオブ原料含有液であり、具体的には、分離精製が施される前の出発原料液であってもよいし、あるいは分離精製工程の途中で生じる抽出残液であってもよい。ここで、抽出残液は、出発原料液に溶媒抽出法を施してタンタルおよび/またはニオブを抽出した際に生成される出発原料液由来の残液をいう。また、本発明で処理対象とすることのできる抽出残液は、本発明の結晶析出防止方法が施された後に後続の分離精製工程に供用されることが前提であるため、タンタルおよびニオブの少なくともいずれか1種を精製液を得るのに適した量で含有すべきことは言うまでもない。本明細書において、「原料含有液」なる用語は、出発原料液および抽出残液の両方を包含する。
【0012】
一般に、タンタル/ニオブの分離精製のために使用される原料含有液は、タンタルおよびニオブの少なくとも1種、フッ素、および各種不純物を含有している。また、この各種不純物は、鉱石等の原料または原料含有液調製時の添加物質に起因しており、ケイ素およびナトリウム等を含有することが多い。
【0013】
本発明者らの知見によれば、ケイ素およびナトリウムは原料含有液中では結晶を析出していないとしても、溶媒抽出による分離精製において、有機溶媒によるフッ化水素酸の抽出に伴い残留フッ化水素酸濃度が低下するにつれて、装置内でNa2SiF6等の結晶を析出しやすくなり、操業に悪影響を及ぼす。そして、このフッ化水素酸の抽出はタンタル/ニオブの抽出に伴って行われるため、特に、タンタル/ニオブの大部分を抽出する工程において結晶の析出が起こりやすい。これを防ぐために、原料含有液を希釈することが考えられる。しかしながら、この場合には、フッ化水素酸およびそれ以外の鉱酸の濃度をほぼ一定に保つ必要があるため、フッ化水素酸およびそれ以外の鉱酸を多量に使用する必要があり、排水処理まで考慮すると莫大なコスト増となってしまう。
【0014】
また、原料含有液にフッ化水素酸を通常よりかなり多く添加してフッ化水素酸濃度を高めておく(例えば過剰なフッ化水素酸濃度が20mol/L以上)ことも考えられるが、有機溶媒に抽出したタンタル/ニオブを水溶液で抽出して回収すること(逆抽出)が困難になる等の問題がある。
【0015】
そこで、本発明の方法においては、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するための原料含有液において予め結晶を析出させる。この結晶はケイ素およびナトリウムを少なくとも含有する。結晶の析出は、ナトリウム含有物質および/または硫酸根含有物質を添加することにより行うことができるが(本発明の第一の態様)、原料含有液の組成によってはこれらの物質を添加することなく冷却のみによって結晶を析出させることができる場合がある(本発明の第二の態様)。そして、析出した結晶を40℃以下の液温で固液分離により除去する。こうして得られた原料含有液を溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用すると、装置内での結晶の析出を実質的に無くすか、もしくは析出があるとしてもその析出量を著しく低減できる。その結果、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製を極めて安定かつ高い効率で行うことが可能となる。
【0016】
本発明の方法に用いる原料含有液は、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するための液であって、タンタルおよびニオブの少なくとも1種、フッ素、ケイ素ならびにナトリウムを含有する。原料含有液は、スズ、チタン、鉄等の不純物を含有していてもよい。上述したように、本発明における原料含有液は、分離精製が施される前の出発原料液、および分離精製工程の途中で生じる抽出残液のいずれであってもよい。タンタル、ニオブ、フッ素、ケイ素、およびナトリウムの各物質は、イオン、あるいは化合物のいずれの形態で原料含有液中に含有されていてもよいが、通常、タンタル/ニオブはH2TaF7、H2NbF7、H2NbOF5の形態であり、ケイ素はH2SiF6の形態であり、フッ素は前記フッ化物およびそれに類するもの(他の不純物とのフッ化物)の他、HF、F-の形態であり、ナトリウムはNa+の形態であると考えられる。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、原料含有液が、(a)タンタルおよびニオブの少なくとも1種と、不純物としてのケイ素およびナトリウムとを含有する原料をフッ化水素酸単独で、またはフッ化水素酸およびそれ以外の鉱酸の組合せにより溶解させた出発原料液;(b)タンタルおよびニオブの少なくとも1種と、不純物としてのケイ素とを含有する原料を水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液により疎解した後、必要に応じてフッ化水素酸以外の鉱酸にて洗浄し、フッ化水素酸単独で、またはフッ化水素酸およびそれ以外の鉱酸の組合せにより溶解させた出発原料液;(c)タンタルおよびニオブを含有する(a)または(b)の出発原料液に溶媒抽出法を施してタンタルのほぼ全量を有機溶媒に抽出した際に得られる抽出残液;または(d)これらの組合せであるのが好ましい。
ここで、抽出残液(c)に用いる出発原料液(a)および(b)は両方ともタンタル含有量がニオブ含有量より少ないことが好ましく、その理由は、抽出残液中にタンタルがわずかに残留しても、出発原料液中でニオブがタンタルより多ければ、抽出残液中におけるニオブに対するタンタルの割合が小さくなるので、抽出残液からさらにタンタルを抽出除去する必要がない。逆に、出発原料液中でタンタルがニオブより多ければ、抽出残液中におけるニオブに対するタンタルの割合が大きくなるので、抽出残液からさらにタンタルを抽出除去する必要がある。
【0018】
出発原料液の調製に適したタンタル/ニオブ含有原料としては、タンタルおよびニオブを含有する原料鉱石(例えば、タンタライト、コロンバイト、パイロクロア等);液中で溶解度の低いタンタル/ニオブ化合物(例えばフルオロケイ酸塩、フルオロタンタル酸塩、フルオロニオブ酸塩)を含む廃さいおよびスクラップ;タンタルおよび/またはニオブのフェロ合金;タンタルおよび/またはニオブ金属のスクラップ;LiTaO3(LT)および/またはLiNbO3(LN)の屑等が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、上記アルカリ水溶液による疎解(アルカリ疎解)あるいはフッ酸溶解に先立って、原料の形態に応じて、適宜原料をボールミル等で粉砕しておくことができる。これにより、アルカリ疎解あるいはフッ酸溶解を効率的に行うことができる。特に原料が粉末状ではなく塊状の場合にあっては、ジョークラッシャ等で粗砕し、さらにボールミル等で微粉砕するのがより好ましい。
【0019】
原料含有液中のタンタルおよび/またはニオブの濃度、ならびに存在する場合にはフッ化水素酸および鉱酸の濃度は、結晶析出防止方法を行った後に必要に応じて適宜調整すれば足りるので、特に限定されない。ただし、過剰のフッ化水素酸濃度は、結晶析出時に10mol/Lを超えると結晶の析出が不十分となり溶媒抽出に供用したとき結晶が析出するおそれがあるため、原料含有液中でも10mol/L以下であるのが好ましい。ここで、「過剰なフッ化水素酸濃度」とは、溶解液中で反応に関与することなく、添加されたままの状態で過剰に存在するフッ化水素酸を意味し、イオン交換分離フッ素イオン電極法により測定可能である。
【0020】
本発明の第一の態様においては、原料含有液にナトリウム含有物質および/または硫酸根含有物質を添加して結晶を析出させる。好ましいナトリウム含有物質としては、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、フッ化ナトリウム等が挙げられる。また、硫酸ナトリウムおよび硫酸水素ナトリウムはナトリウム含有物質としてのみならず、硫酸根含有物質としても機能する。ただし、塩化ナトリウムは、特に有機溶媒として4−メチル−2−ペンタノンを使用した場合に、溶媒抽出時に鉄が抽出されやすくなるという問題点があるので注意が必要である。また、水酸化ナトリウムは、酸の一部が中和されるという問題点があるので注意が必要である。硝酸ナトリウムは硝酸性窒素を含有しており、排水処理コストが高くなる点に留意する必要である。フッ化ナトリウムは高価であるとともに、過剰な鉱酸(HF以外)を含有しているとフッ化水素酸が生成され、結晶析出において不十分になるおそれがあるので注意が必要である。硫酸ナトリウムおよび硫酸水素ナトリウムは、上記問題点がなく、しかも硫酸根含有物質としても機能し、さらに、通常、タンタル/ニオブの溶媒抽出による分離精製はフッ化水素酸−硫酸系で行われ、系と異なる陰イオンを含有しないため最も好ましい。
【0021】
好ましい硫酸根含有物質としては、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム等が挙げられる。また、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウムは硫酸根含有物質としてのみならず、ナトリウム含有物質としても機能する。特に好ましい硫酸根含有物質は硫酸であり、この場合、先にナトリウム含有物質を添加して結晶が析出していたとしても、硫酸の希釈熱により大部分が溶解し、40℃以下まで冷却することにより結晶が析出して成長して大きくなり、濾過等の固液分離操作が容易となる。なお、硫酸根含有物質として硫酸を使用する場合は、このように結晶を析出させる処理を行う時に添加するのが好ましいが、原料を溶解する時にフッ化水素酸だけでなく硫酸も使用する、あるいは、原料含有液が抽出残液である場合には先の溶媒抽出の前に硫酸を添加するものであってもよい。すなわち、結晶を析出させる処理を行う時に添加しなくてもよい。
【0022】
本発明の第一の態様における好ましい態様によれば、ナトリウム含有物質および硫酸根含有物質として、硫酸ナトリウムおよび硫酸水素ナトリウムの少なくともいずれか1種、ならびに硫酸を使用するのが好ましい。
【0023】
本発明の第一の態様における好ましい態様によれば、原料含有液およびナトリウム含有物質に含有されるナトリウムの合計質量の、原料含有液に含有されるケイ素の質量に対する比(Na/Si質量比)が0.6〜1.8であるのが好ましく、より好ましくは1.0〜1.6である。Na/Si質量比が0.6未満であると、ケイ素の低減が不十分となり溶媒抽出時に結晶析出の恐れが高くなる。Na/Si質量比が1.8を超えると、ナトリウムが過剰となり、析出する結晶中に含まれるタンタルおよび/またはニオブの量が多くなる。参考までに付記すると、Na2SiF6の理論量は、Na/Siモル比が2であり、Na/Si質量比に換算すると1.637(約1.6)となる。原料含有液のNa/Si質量比が、上記好適範囲に入っていれば、ナトリウム含有物質は添加しなくてもよい。
【0024】
上記のように、原料含有液のNa/Si質量比が0.6〜1.8であれば、ナトリウム含有物質は添加しなくてもよい。また、原料の溶解に際して硫酸をフッ化水素酸と併用した場合、得られる原料含有液には硫酸が含まれることから、その濃度によっては硫酸根含有物質も添加しないで済ませることも可能である。したがって、ナトリウム含有物質および硫酸根含有物質を一切添加しなくても、原料含有液を冷却することのみによって結晶を析出させることが可能な場合がある。このような場合も第二の態様として本発明に包含される。
【0025】
すなわち、本発明の第二の態様によれば、タンタルおよびニオブの少なくとも1種と、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する原料であって、原料に含有されるナトリウムの質量の、原料に含有されるケイ素の質量に対する比(Na/Si質量比)が0.6〜1.8である原料を用意し、該原料をフッ化水素酸および硫酸を用いて溶解し、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するための原料含有液を得る。この原料含有液を、ナトリウム含有物質および硫酸根含有物質を一切添加させることなく、冷却して結晶を析出させる。
【0026】
原料含有液の調製に供される原料のNa/Si質量比は、原料にナトリウム含有物質またはケイ素含有物質を添加する、あるいは原料をフッ化水素酸以外の鉱酸にて洗浄してナトリウムを低減することにより調整可能である。Na/Si質量比が1.8より大きい場合は、ケイ素含有物質を添加してもよいが、フッ化水素酸以外の鉱酸にて洗浄することによってナトリウムを低減した方が、全体の不純物量が減少するため好ましい。
【0027】
本発明の第一および第二の態様の好ましい態様によれば、結晶を析出させる時の原料含有液中における硫酸根の濃度が0.5〜10mol/Lであるのが好ましく、より好ましくは1〜7mol/Lである。硫酸根の濃度が0.5mol/L未満であると、ケイ素およびナトリウムの低減が不十分となり溶媒抽出時に結晶析出の恐れが高くなることがある。硫酸根の濃度が10mol/Lを超えると、不純物を抽出しやすくなる等、溶媒抽出に悪影響を及ぼすことがある。
【0028】
本発明の第一および第二の態様の好ましい態様によれば、結晶を析出させる時の原料含有液中における過剰のフッ化水素酸濃度が0.02〜10mol/Lであるのが好ましく、0.05〜5mol/Lであればさらに好ましい。10mol/Lを超えると結晶の析出が不十分で、溶媒抽出時に結晶析出のおそれが高くなる。また、0.02mol/L未満であると結晶の析出は十分であるが、結晶中にタンタルおよび/またはニオブが含まれる量が多くなりタンタルおよび/またはニオブの損失となりやすい。
【0029】
本発明の方法において、上記析出した結晶を40℃以下の液温で固液分離により除去して、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するための、結晶析出防止処理が施された原料含有液を得る。すなわち、原料含有液の温度が40℃を超えている場合には、40℃以下となるように冷却することを要するが、原料含有液が発熱しない等の理由により液温が40℃以下に保たれる場合(例えば、硫酸を添加しない場合)には何ら冷却を行う必要が無い。固液分離は、フィルタープレス等の公知の手法により行えばよい。40℃を超えた液温で固液分離を行うと、ケイ素およびナトリウムを十分に除去することができず、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用した際に結晶を析出してしまうおそれがある。液温を40℃以下に冷却する方法の好ましい例としては、(1)40℃以下になるまで放置する方法(自然冷却法)(2)、結晶を析出させる槽として内部に蛇管等の冷却管を設けた槽または槽の外側に冷却ジャケットを取り付けた槽を使用して、冷却管または冷却ジャケットに冷却水を流す方法などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、溶媒抽出による分離精製に供用する前に、原料含有液にフッ化水素酸およびそれ以外の鉱酸(通常は硫酸)を添加して、酸濃度を分離精製に適した濃度に調整するのが好ましい。硫酸の添加は、硫酸根が結晶の溶解度を低下させるため、結晶析出防止処理の前またはその間に行うのが好ましい。一方、フッ化水素酸の添加は、結晶の溶解度の増大によりケイ素およびナトリウムの除去が不十分となるため、特に添加後の過剰なフッ化水素酸の濃度が10mol/Lを超える場合には、結晶析出防止処理の前またはその間に行うのは好ましくない。ただし、分離精製工程の途中で生じる抽出残液について結晶析出防止処理を行い、さらに後続の分離精製工程に供用する場合においては、先の溶媒抽出においてフッ化水素酸がかなり抽出除去されるため、先の溶媒抽出の前にフッ化水素酸を添加しても問題は無い。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、上記酸濃度を調整した原料含有液における、過剰なフッ化水素酸濃度は、溶媒抽出による分離精製を良好に行うために、0.1〜10mol/Lとするのが好ましく、より好ましくは0.2〜5mol/Lである。また、フッ化水素酸以外の鉱酸濃度は、溶媒抽出による分離精製を良好に行うために、一塩基酸に換算して0.2〜25mol/Lとするのが好ましい。したがって、例えば、二塩基酸である硫酸では、換算しない濃度は0.1〜12.5mol/Lであるのが好ましい。
【0032】
前述したように、本発明の結晶析出防止方法の処理対象は、分離精製が施される前の出発原料液であってもよいし、あるいは分離精製工程の途中で生じる抽出残液であってもよい。したがって、前者の場合にあっては、結晶析出防止処理が施された原料含有液は、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製の最初の工程に供用されることとなる。一方、後者の場合にあっては、結晶析出防止処理が施された原料含有液は、有機溶媒によるニオブの抽出工程等の、後続の分離精製工程に供用されることとなる。いずれの場合であっても、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製において、結晶の析出を有効に防止されるので、分離精製を極めて安定かつ高い効率で行うことが可能になる。
【0033】
本発明の好ましい態様によれば、結晶析出防止処理が施された原料含有液は、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製において、原料含有液中に含有されるタンタルおよび/またはニオブのほぼ全量を有機溶媒に抽出する工程に供される(ただし、前記タンタルおよび/またはニオブのほぼ全量は、原料含有液がタンタルおよびニオブを含有する場合にはタンタルおよびニオブのほぼ全量であり、原料含有液がニオブを含有するがタンタルを含有しない場合にはニオブのほぼ全量であり、原料含有液がタンタルを含有するがニオブを含有しない場合にはタンタルのほぼ全量である)のが好ましい。含有するタンタル/ニオブのほぼ全量を有機溶媒に抽出する工程では、同時にフッ化水素酸の抽出量も多いためフッ化水素酸濃度の低下に伴いNa2SiF6の溶解度が低下して、結晶を析出しやすくなるからである。
【0034】
本発明の好ましい態様によれば、結晶析出防止処理により処理さらた原料含有液が、3.5g/L以下、より好ましくは2g/L以下、のケイ素濃度、および2g/L以下、より好ましくは1g/L以下のナトリウム濃度を有するのが好ましい。このように低減されたSiおよびNa濃度範囲は、上記の結晶析出防止処理方法を適切に実施することにより容易に達成可能である。
【0035】
本発明の好ましい態様によれば、結晶析出防止処理により処理された原料含有液中におけるタンタルおよびニオブの合計濃度が30〜300g/Lであるのが好ましい。原料含有液中のタンタルとニオブの合計濃度が300g/Lを超えている場合には、溶媒抽出による分離精製を良好に行うために、処理液の濾過前または濾過後に水を添加して希釈することができる。希釈する場合においても最終的なTa/Nb原料含有液の酸濃度は上記好適範囲内に調整するのが好ましい。
【0036】
タンタル精製液および/またはニオブ精製液の製造
本発明の結晶析出防止処理が適用された、タンタル精製液および/またはニオブ精製液の製造方法を以下に説明する。
【0037】
まず、タンタルおよび/またはニオブを含有する原料を用意する。この原料を少なくともフッ化水素酸を用いて溶解することにより、タンタルおよびニオブの少なくとも1種、フッ素、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する出発原料液を得る。本発明の第一の態様の好ましい態様によれば、フッ化水素酸による溶解のための前処理として、原料を粉砕したり、あるいはさらにこの粉砕された原料を水酸化ナトリウムで処理(アルカリ疎解)して、必要に応じて濾過した後、フッ化水素酸単独で、またはフッ化水素酸およびそれ以外の鉱酸により処理して濾過することにより出発原料液を得ることにより得てもよい。例えば、前述したように、(a)タンタルおよびニオブの少なくとも1種と、不純物としてのケイ素およびナトリウムとを含有する原料をフッ化水素酸単独で、またはフッ化水素酸およびそれ以外の鉱酸の組合せにより溶解させる;または(b)タンタルおよびニオブの少なくとも1種と、不可避不純物としてのケイ素とを含有する原料を水酸化ナトリウム水溶液により疎解した後、必要に応じてフッ化水素酸以外の鉱酸にて洗浄し、フッ化水素酸単独で、またはフッ化水素酸およびそれ以外の鉱酸の組合せにより溶解させることにより出発原料液を得ることができる。一方、本発明の第二の態様においては、タンタルおよびニオブの少なくとも1種と、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する原料であって、Na/Si質量比が0.6〜1.8である原料を用意し、この原料をフッ化水素酸および硫酸を用いて溶解し、出発原料液を得る。
【0038】
このように、この出発原料液を調製する際には、通常、タンタルおよび/またはニオブを含有する原料を少なくともフッ化水素酸を用いて溶解する。このとき、出発原料液に本発明の結晶析出防止処理を施すことを意図する場合、フッ化水素酸が過剰となり結晶の析出を妨げないように注意すべきであり、具体的には 過剰のフッ化水素酸濃度が0.02〜10mol/Lとなるようにするのが好ましく、0.05〜5mol/Lのフッ化水素濃度となるようにするのがさらに好ましい。
【0039】
本発明の結晶析出防止方法は、分離精製処理の前および/またはその途中に原料含有液に対して行い、それにより得られた原料含有液を用いて後続の分離精製処理を行う。したがって、出発原料液に本発明の結晶析出防止方法を施し、それにより得られた原料含有液を溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製処理に供用することもできるし(第一および第二の態様)、あるいは、その後の工程で結晶析出防止処理を行うとの前提であれば出発原料液をそのまま溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製処理に供用することもできる(第一の態様のみ)。溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製は、各種公知の方法を組合せて行うことができ、溶媒抽出に使用する有機溶媒をタンタル抽出系およびニオブ抽出系で分けて使用する1系列の溶媒抽出系であってもよいし、タンタル抽出系およびニオブ抽出系で有機溶媒を分けることなく一貫して使用する1系列の溶媒抽出系であってもよい。
【0040】
2系列の溶媒抽出系の好ましい例としては、次の方法が挙げられる。有機溶媒で原料含有液からタンタルを優先抽出(タンタルのほぼ全量とニオブの一部を抽出する)し、0.1〜5mol/Lの硫酸で洗浄して残留ニオブを除去し、純水または8mol/L以下のフッ化アンモニウム水溶液でタンタルを逆抽出してタンタル精製液を得る。所望により、1〜10mol/Lのフッ化アンモニウム水溶液で逆抽出後の有機溶媒から残留タンタルを抽出して、追加のタンタル精製液を得てもよい。一方、新たな有機溶媒で、タンタル優先抽出時に生じた抽出残液からニオブを抽出し、2〜10mol/Lの硫酸で洗浄して残留不純物を除去し、純水または6mol/L以下のフッ化アンモニウム水溶液でニオブを逆抽出してニオブ精製液を得る。所望により、0.5〜8mol/Lのフッ化アンモニウム水溶液で逆抽出後の有機溶媒から残留ニオブを抽出して、追加のニオブ精製液を得てもよい。
【0041】
1系列の溶媒抽出系の好ましい例としては、次の方法が挙げられる。有機溶媒で原料含有液からタンタルおよびニオブを同時に抽出し、2〜10mol/Lの硫酸で洗浄して残留不純物を除去し、純水または4mol/L以下のフッ化アンモニウム水溶液でニオブを逆抽出してニオブ精製液を得る。続いて、逆抽出後の有機溶媒を0.1〜5mol/Lの硫酸で洗浄して残留ニオブを除去し、純水または8mol/L以下のフッ化アンモニウム水溶液でタンタルを逆抽出してタンタル精製液を得る。所望により、1〜10mol/Lのフッ化アンモニウム水溶液で、タンタル逆抽出後の有機溶媒から残留タンタルを抽出する工程をさらに行ってもよい。
【0042】
上記1系列および2系列の溶媒抽出系における好ましい有機溶媒の例としては、4−メチル−2−ペンタノン(別名:メチルイソブチルケトン、略称:MIBK)、トリブチルホスフェート(略称:TBP)が挙げられる。MIBKは、通常希釈しないでそのまま使用する。TBPは、同一質量当たりの価格はMIBKより高いが、MIBKと比較して分離精製能力が同等もしくはそれ以上であり、しかも水溶液への溶解度がMIBKに比べてかなり低いため損失が少なく補充量も少なくて済む。TBPは、通常、石油系炭化水素希釈剤にて希釈して使用される。TBP単独で使用すると、特に金属を多量に抽出させる場合に、水相との比重差が非常に小さくなってしまい、分相しにくくなるという不都合があるためである。石油系炭化水素希釈剤としては、特に限定されず種々の有機溶媒が使用可能である。この石油系炭化水素希釈剤の例としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ベンゼン、ケロシン、ジエチルベンゼン、IPソルベント(出光石油化学社製)、シェルゾールA(シェル化学社製)、イプゾール150(出光石油化学社製)が挙げられる。
【0043】
本発明の分離精製方法における上記各工程における処理は、分離精製の分野において使用される種々の装置により行うことができるが、具体的には、ミキサーセトラー、カラム、遠心抽出装置等が挙げられる。これらの中でも、ミキサーセトラーが、設備費および修繕費等のコスト、ならびに操業上管理がし易い点から好ましい。
【0044】
出発原料液に対して本発明の結晶析出防止方法を実施しない場合には、その代わりに、出発原料液に溶媒抽出法を施してタンタルおよび/またはニオブを抽出した際に生成される出発原料液由来の残液(すなわち抽出残液)に対して本発明の結晶析出防止方法を施し、それにより得られた抽出残液を、有機溶媒によりタンタルおよび/またはニオブを抽出する工程に供用する。そして、引き続き分離精製処理を行うことにより、タンタル精製液および/またはニオブ精製液を得る。
【0045】
このようにして得られたタンタル精製液および/またはニオブ精製液は、酸化タンタル、酸化ニオブ、炭化タンタル、炭化ニオブ、フッ化タンタル酸カリウム、フッ化ニオブ酸カリウム、タンタル、ニオブ、窒化タンタル、および窒化ニオブを始めとする、各種のタンタル/ニオブ製品の製造に好適に用いられる。以下に、上記方法により得られたタンタル精製液/ニオブ精製液を用いて、水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブ、ならびに酸化タンタルおよび/または酸化ニオブを製造する方法を説明する。
【0046】
水酸化タンタル/水酸化ニオブの製造
水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブの製造においては、まず、タンタル精製液またはニオブ精製液とアンモニアとを混合して、水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブ沈殿を析出させる。このアンモニアは、ガス状で添加することもできるが、アンモニア水溶液(NH4OH)の形で添加するのが好ましい。また、重炭酸アンモニウムや炭酸アンモニウムを水溶液で添加することもできる。この沈殿生成は、(1)タンタル精製液/ニオブ精製液を攪拌しながらアンモニア水を添加する;(2)アンモニア水を攪拌しながらタンタル精製液/ニオブ精製液を添加する;(3)タンタル精製液/ニオブ精製液とアンモニア水を同時添加する(連続沈澱)のいずれによっても好ましく行うことができる。アンモニア水の濃度は特に限定されないが、2mol/Lより低いと排水量が増えるため好ましくなく、工業用として販売されているもの(通常13〜16mol/L) をそのまま使用することができる。アンモニア添加終了時の溶液のpHは、8〜11とするのが好ましく、より好ましくは9〜10である。
【0047】
得られた水酸化タンタル/水酸化ニオブ沈殿は、アンモニアまたはアンモニウムイオンを含有する溶液および/または純水を用いて洗浄するのが、フッ素含有量を低減できる点で好ましい。
このようにして得られた沈殿含有溶液を濾過して、水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブからなる沈殿物を濾別する。また、得られた水酸化タンタル/水酸化ニオブは必要に応じて乾燥するのが好ましい。
【0048】
酸化タンタル/酸化ニオブの製造
酸化タンタルおよび/または酸化ニオブは、上記製造方法により得られた水酸化タンタルおよび/または水酸化ニオブを450〜1200℃の温度で仮焼し、必要に応じて焙焼後に解砕することにより製造することができる。
このようにして得られた酸化ニオブおよび/または酸化ニオブは、LT/LN単結晶用、電子セラミックス用、光学用等に好適に使用可能である。
【0049】
【実施例】
以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、「%」は質量%を意味する。
【0050】
例1〜5
まず、タンタル含有フェロニオブ5000kgを用意した。このタンタル含有フェロニオブの組成分析をICP発光分光法により行ったところ、Ta:5.3%、Nb:44%、Fe:32%、Si:4%であった。タンタル含有フェロニオブをジョークラシャーにより粗粉砕した後、湿式ボールミルにより微粉砕して粉砕スラリーを得た。この粉砕スラリーを48%水酸化ナトリウム水溶液8800kgを用いて処理してアルカリ疎解スラリーを得た。このスラリーを濾過して、疎解ケーキを得た。この疎解ケーキをpH1.3になるまで1mol/L硫酸を添加混合して酸洗浄した後、濾過して酸洗浄ケーキを得た。この酸洗浄ケーキを80%フッ化水素酸4200Lで溶解して濾過し、出発原料液を得た。上記一連の操作を4回実施して、合計量40000Lの出発原料液を調製した。出発原料液の全量を均一に混合して、ICP発光分光法により組成分析を行った。その結果、出発原料液の組成は、Ta:26.2g/L、Nb:218g/L、Si:6.6g/L、Na:2.9g/L、SO4:0.32mol/L(31g/L))であった。また、出発原料液中の過剰フッ化水素酸濃度をイオン交換分離−フッ素イオン電極法により測定したところ、2.6mol/Lであった。
【0051】
出発原料液30000Lに96%硫酸1200Lを添加し混合することにより、液調整を行った。液調整された液の組成分析をICP発光分光法により行ったところ、Ta:25.2g/L、Nb:210g/L、Si:6.3g/L、Na:2.8g/L、SO4:1.0mol/L(96g/L)であった。また、液調整された液中の過剰フッ化水素酸濃度をイオン交換分離−フッ素イオン電極法により測定したところ、2.5mol/Lであった。液調整液のうち23000Lを溶媒抽出によるタンタルの分離精製に付した。図1に示されるように、このタンタル分離精製処理はT−1〜T−4工程からなる系を用いて約770時間運転することにより行った。これらの各工程は向流多段方式のミキサーセトラーを有してなり、各ミキサーセトラーにおいて第一段に有機溶媒として4−メチル−2−ペンタノン(以下、別名メチルイソブチルケトンの略記である「MIBK」と表記する)を0.25L/分の流速で供給し、最終段には水溶液を供給することにより混合接触を行った。
【0052】
具体的には、T−1工程では上記液調整液とMIBKとを混合接触させて、Nb含有抽出残液とTa含有MIBKとを得た。T−1工程において、ミキサーセトラーの段数は10段とし、液調整液の流速は0.5L/分とした。T−2工程ではT−1工程で産出したMIBKと1.5mol/Lの硫酸とを混合接触させて、残留するTaを除去した。T−2工程において、ミキサーセトラーの段数は10段とし、硫酸の流速は0.075L/分とした。T−3工程ではT−2工程で産出したMIBKと純水とを混合接触させて、Ta精製液1を得た。T−3工程において、ミキサーセトラーの段数は5段とし、純水の流速は0.15L/分とした。T−4工程ではT−3工程で産出したMIBKと4mol/Lのフッ化アンモニウム水溶液とを混合接触させて、Ta精製液2を得た。T−4工程において、ミキサーセトラーの段数は5段とし、フッ化アンモニウム水溶液の流速は0.075L/分とした。T−4工程で産出したMIBKは有機溶媒貯漕に送られ、T−1工程に用いるMIBKとして系内を循環させた。T−1工程においては、ミキサーセトラーでの結晶の析出は全く起こらなかった。T−1工程で産出したNb含有抽出残液の組成をICP発光分光法により分析したところTa:0.0025g/L、Nb:205g/L、Si:6.2g/L、Na:2.8g/L、SO4:1.0mol/L(96g/L)であった。また、T−1工程で産出したNb含有抽出残液中の過剰フッ化水素酸濃度をイオン交換分離−フッ素イオン電極法により測定したところ、1.1mol/Lであった。
【0053】
T−1工程で産出したNb含有抽出残液を表1に示される量用意した。この抽出残液に硫酸ナトリウムを表1に示される量を添加した後、例4を除いて96%硫酸を添加して結晶を析出させた。硫酸添加による温度上昇が起こらない例4(液温25℃)を除いて、混合液を表1に示される温度に冷却した。冷却された混合液を濾過して結晶を除去した。例4ではさらに96%の硫酸600Lを添加した。得られた混合液に80%のフッ化水素酸を表1に示される量添加して、さらに例4では96%の硫酸600Lを添加して、結晶析出防止処理が施された液調整液を得た。
【0054】
次に、得られた液調整液を例1では半量、その他は全量を溶媒抽出によるニオブの分離精製に付した。図1に示されるように、このニオブ分離精製処理はN−1〜N−4工程からなる系を用いて、例1では約570時間、それ以外の例では約460時間運転することにより行われる。これらの各工程は向流多段方式のミキサーセトラーを有してなり、各ミキサーセトラーにおいて第一段に有機溶媒としてMIBKを0.3L/分の流速で供給し、最終段には水溶液を供給することにより混合接触を行った。そして、N−1工程において、ミキサーセトラー運転中における結晶析出の有無を観察した。
【0055】
具体的には、N−1工程ではタンタル分離精製工程とは別個に供給されるMIBKと液調整液とを混合接触させて、抽出残液とNb含有MIBKとを得た。N−1工程において、ミキサーセトラーの段数は7段とし、液調整液の流速は0.1L/分とした。N−2工程ではN−1工程で産出したMIBKと5mol/Lの硫酸とを混合接触させて、残留する不純物を除去した。N−2工程において、ミキサーセトラーの段数は12段とし、硫酸の流速は0.04L/分とした。N−3工程ではN−2工程で産出したMIBKと純水とを混合接触させて、Nb精製液1を得た。N−3工程において、ミキサーセトラーの段数は5段とし、純水の流量は0.04/Lとした。N−4工程ではN−3工程で産出したMIBKと2mol/Lフッ化アンモニウム水溶液とを混合接触させて、Nb精製液2を得た。N−4工程において、ミキサーセトラーの段数は5段とし、フッ化アンモニウム水溶液の流速は0.02L/分とした。例1〜5の試験条件およびN−1工程における結晶析出の有無を表1に示す。
【0056】
例6
T−1抽出残液の冷却温度を45℃としたこと以外は、例2および3と基本的に同様にして操作、および結晶析出の有無の評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
例7
T−1抽出残液に硫酸ナトリウムを添加しなかったこと、およびT−1抽出残液の冷却温度を25℃としたこと以外は、例2および3と基本的に同様にして操作、および結晶析出の有無の評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
例8
T−1抽出残液へのフッ化水素酸の添加を、冷却後の代わりに、冷却前の硫酸ナトリウムの添加前に行ったこと、および冷却温度を25℃としたこと以外は、例2および3と基本的に同様にして操作、および結晶析出の有無の評価を行った。
【0059】
【0060】
注)表中における、N−1での結晶析出の評価は以下の通りである。
A: 運転終了時も結晶析出は全く見られなかった。
B: 運転終了時極わずかに結晶が析出した。ただし、液の流れには全く影響が無かった。
C: 最後まで運転続行できたが、運転終了時はかなりの結晶が析出した。
D: 運転途中で析出した結晶により液が流れなくなり、運転を中止した。
【0061】
表1から分かるように、本発明の好適範囲に属する例1〜5および8ではいずれも結晶析出が全く見られないか、もしくはわずかに見られた程度であり、極めて良好にTa/Nbの分離精製を行うことができた。ただし、例4では濾過性が若干悪く、例5はNa/Si質量比が2.02と高いためNb損失が多かった。一方、冷却温度が45℃と高い例6ではニオブを溶媒抽出するN−1工程で結晶が析出した。
【0062】
例1においてNb分離精製工程で得られたNb精製液1および2を使用して酸化ニオブ1および2をそれぞれ製造した。具体的には、まず、Nb精製液1を攪拌しながら、13.5mol/Lアンモニア水をpHが9強になるまで添加した。こうして得られた液を静置して沈殿を沈降させて、上澄み液を抜き出した後、洗浄液(1回目および2回目は2%アンモニア水、3回目は純水)を加えてリパルプを行った。この一連の洗浄手順を3回繰り返した後、濾過して水酸化ニオブを得た。水酸化ニオブを150℃にて24時間乾燥させた後、900℃にて12時間仮焼して酸化ニオブ1を得た。Nb精製液2についてもNb精製液1と同様にして、酸化ニオブ2を得た。得られた酸化ニオブ1および2について、不純物含有量をICP発光分光法により分析した。その結果を表2に示す。
【0063】
例9および10
まず、例1〜5と同様の方法により調製された出発原料液2000Lを用意した。この出発原料液に硫酸ナトリウムを表3に示される量を添加した後、96%硫酸530Lを添加して結晶を析出させた。混合液を25℃に冷却した後、混合液を濾過して結晶を除去した。得られた混合液に80%のフッ化水素酸160Lを添加して、結晶析出防止処理が施された液調整液を得た。
【0064】
次に、得られた液調整液を溶媒抽出によるタンタルおよびニオブの分離精製に付した。図2に示されるように、このタンタルおよびニオブ分離精製処理はTN−1〜TN−6工程からなる系を用いて、約450時間運転することにより行われる。これらの各工程は向流多段方式のミキサーセトラーを有してなり、各ミキサーセトラーにおいて第一段に有機溶媒としてトリブチルホスフェートおよびIPソルベント(出光石油化学社製)の等容混合物(以下、TBP系溶媒という)を0.4L/分の流速で供給し、最終段には水溶液を供給することにより混合接触を行った。TN−1工程において、ミキサーセトラー運転中における結晶析出状態を観察した。
【0065】
具体的には、TN−1工程では上記液調整液とTBP系溶媒とを混合接触させて、TaおよびNb含有TBP系溶媒と、抽出残液とを得た。TN−1工程において、ミキサーセトラーの段数は10段であり、液調整液の流速は0.1L/分とした。TN−2工程ではTN−1工程で産出したTBP系溶媒と5mol/L硫酸とを混合接触させて、不純物を除去した。TN−2工程において、ミキサーセトラーの段数は12段とし、硫酸の流速は0.08L/分とした。TN−3工程ではTN−2工程で産出したTBP系溶媒と純水とを混合接触させて、Nb精製液を得た。TN−3工程において、ミキサーセトラーの段数は5段とし、純水の流速は0.06L/分とした。TN−4工程ではTN−3工程で産出したTBP系溶媒と1mol/L硫酸とを混合接触させて、残留するNbを除去した。TN−4工程において、ミキサーセトラーの段数は10段とし、硫酸の流速は0.1L/分とした。TN−5工程ではTN−4工程で産出したTBP系溶媒と2mol/Lフッ化アンモニウム水溶液とを混合接触させて、Ta精製液1を得た。TN−5工程において、ミキサーセトラーの段数は5段とし、フッ化アンモニウム水溶液の流速は0.05L/分とした。TN−6工程ではTN−5工程で産出したTBP系溶媒と4mol/Lフッ化アンモニウム水溶液とを混合接触させて、Ta精製液2を得た。TN−6工程において、ミキサーセトラーの段数は5段とし、フッ化アンモニウム水溶液の流速は0.04L/分とした。TN−6工程で産出したTBP系溶媒は有機溶媒貯漕に送られ、TN−1工程に用いるTBP系溶媒として系内を循環させた。例9および10の試験条件およびTN−1工程における結晶析出の有無を表3に示す。
【0066】
例11
出発原料液に硫酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は、例9および10と基本的に同様にして操作、および結晶析出の有無の評価を行った。結果を表3に示す。
【0067】
例12
硫酸ナトリウム添加前に80%フッ化水素酸を600L添加し、濾過後の液調整時に80%フッ化水素酸を添加せず、Ta/Nb濃度が低いことを考慮して液調整液の流速を0.115L/分としたこと以外は、例9と基本的に同様にして操作、および結晶析出の有無の評価を行った。結果を表3に示す。
【0068】
例13
出発原料液を調整する際、酸洗浄のpHを2.5で行ったこと以外は、例11と基本的に同様にして操作、および結晶析出の有無の評価を行った。なお、出発原料液の組成は、Ta:26.8g/L、Nb:222g/L、Si:6.0g/L、Na:7.5g/L、SO4:0.25mol/L(96g/L)であり、過剰フッ化水素酸濃度は2.4mol/Lであった。結果を表3に示す。
【0069】
【0070】
注)表中における、TN−1での結晶析出の評価は以下の通りである。
A: 運転終了時も結晶析出は全く見られなかった。
B: 運転終了時極わずかに結晶が析出した。ただし、液の流れには全く影響が無かった。
C: 最後まで運転続行できたが、運転終了時はかなりの結晶が析出した。
D: 運転途中で析出した結晶により液が流れなくなり、運転を中止した。
【0071】
表3から分かるように、本発明の好適範囲に属する例9、10および13ではいずれも結晶析出が全く見られないか、もしくはわずかに見られた程度であり、極めて良好にTa/Nbの分離精製を行うことができた。
【0072】
例9において産出したNb精製液、Ta精製液1、およびTa精製液2を使用して、例1において酸化ニオブを製造した際と同様の条件で、酸化ニオブ、酸化タンタル1、および酸化タンタル2をそれぞれ製造した。得られた酸化ニオブおよび酸化タンタルについて、不純物含有量をICP発光分光法により分析した。その結果を表4に示す。
【0073】
例14
まず、タンタル含有フェロニオブ1000kgを用意した。タンタル含有フェロニオブをジョークラシャーにより粗粉砕した後、湿式ボールミルにより微粉砕して粉砕スラリーを得た。この粉砕スラリーを48%水酸化ナトリウム水溶液1760kgを用いて処理してアルカリ疎解スラリーを得た。このスラリーを濾過して、疎解ケーキを得た。この疎解ケーキをpH2.5になるまで1mol/L硫酸を添加混合して酸洗浄した後、濾過して酸洗浄ケーキを得た。この酸洗浄ケーキにおけるNa量およびSi量をICP発光分光法により測定したところ、Na:15.3kg、Si:11.9kg、Na/Si質量比:1.29という結果が得られた。この酸洗浄ケーキを80%フッ化水素酸540Lおよび96%硫酸530Lで溶解して濾過し、出発原料液を得た。出発原料液中の過剰フッ化水素酸濃度をイオン交換分離−フッ素イオン電極法により測定したところ、1.9mol/Lであった。また、ICP発光分光法にて出発原料液中の硫黄を測定して硫酸根濃度に換算測定したところ、4.1mol/Lであった。
【0074】
この出発原料液を25℃に冷却して結晶を析出させた後、液を濾過して結晶を除去した。得られた液に80%のフッ化水素酸160Lを添加して、結晶析出防止処理が施された液調整液を得た。液調整液におけるNa、Si、Ta、およびNbの濃度をICP発光分光法により測定したところ、表5に示される結果が得られた。
【0075】
次に、得られた液調整液を、例9および10と同様にして、TN−1〜TN−6工程からなる分離精製系に付した。TN−1工程において、ミキサーセトラー運転中における結晶析出状態を観察した。例14の試験条件およびTN−1工程における結晶析出の有無を表5に示す。
【0076】
【0077】
注)表中における、TN−1での結晶析出の評価は以下の通りである。
A: 運転終了時も結晶析出は全く見られなかった。
B: 運転終了時極わずかに結晶が析出した。ただし、液の流れには全く影響が無かった。
C: 最後まで運転続行できたが、運転終了時はかなりの結晶が析出した。
D: 運転途中で析出した結晶により液が流れなくなり、運転を中止した。
【図面の簡単な説明】
【図1】例1〜8で使用したタンタル/ニオブ溶媒抽出系の工程図である。
【図2】例9〜14で使用したタンタル/ニオブ溶媒抽出系の工程図である。
Claims (5)
- 溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製のための結晶析出防止方法であって、
溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するための原料含有液として、タンタルおよびニオブの少なくとも1種、フッ素、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する原料含有液を用意し、
該原料含有液に、フッ化水素酸を添加することなく、ナトリウム含有物質および/または硫酸根含有物質を添加して結晶を析出させ、
析出した結晶を40℃以下の液温で固液分離により除去すること
を含んでなり、
該原料含有液および添加する場合には該ナトリウム含有物質に含有されるナトリウムの合計質量の、該原料含有液に含有されるケイ素の質量に対する比(Na/Si質量比)が0.6〜1.8である、結晶析出防止方法。 - 溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製のための結晶析出防止方法であって、
タンタルおよびニオブの少なくとも1種と、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する原料であって、原料に含有されるナトリウムの質量の、原料に含有されるケイ素の質量に対する比(Na/Si質量比)が0.6〜1.8である原料を用意し、
該原料をフッ化水素酸および硫酸を用いて溶解し、溶媒抽出法によるタンタルおよび/またはニオブの分離精製に供用するための原料含有液を得て、
該原料含有液を、フッ化水素酸を添加することなく、冷却して結晶を析出させ、
析出した結晶を40℃以下の液温で固液分離により除去すること
を含んでなる、結晶析出防止方法。 - 結晶析出時における過剰のフッ化水素酸濃度が、0.02〜10mol/Lである、請求項1または2に記載の結晶析出防止方法。
- タンタル精製液またはニオブ精製液の製造方法であって、
タンタルおよびニオブの少なくとも1種、フッ素、ケイ素、ならびにナトリウムを含有する原料含有液を用意し、
前記原料含有液に溶媒抽出法によるタンタルまたはニオブの分離精製処理を施して、タンタル精製液またはニオブ精製液を得ること
を含んでなり、
前記分離精製処理の前および/またはその途中の原料含有液に請求項1または2に記載される結晶析出防止方法を行い、それにより得られた原料含有液を用いて後続の分離精製処理を行うことを特徴とする、タンタル精製液またはニオブ精製液の製造方法。 - 酸化タンタルまたは酸化ニオブの製造方法であって、
請求項4に記載される方法によりタンタル精製液またはニオブ精製液を製造し、
タンタル精製液またはニオブ精製液にアンモニアを添加して、水酸化タンタルまたは水酸化ニオブを沈殿させ、
固液分離により水酸化タンタルまたは水酸化ニオブを得て、
水酸化タンタルまたは水酸化ニオブを、所望により乾燥した後、仮焼して酸化タンタルまたは酸化ニオブを得ること
を含んでなる、酸化タンタルまたは酸化ニオブの製造方法。
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