JP4133304B2 - 水性コーティング組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、水性コーティング組成物に関し、特にオフセット輪転印刷用オーバープリントワニスとして使用した場合、光沢、耐摩擦性などの物性に優れる水性コーティング系組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
水性コーティング組成物は、オーバープリントワニスとして印刷産業で良く知られている。これらは、印刷物の表面に被覆され、艶出し、傷からの保護などの用途で使用される。
長方形に裁断されたシート状の用紙に印刷する枚葉印刷では、オーバープリントワニスの使用方法は二つに大別される。ひとつは用紙上にインキ層(通常は疎水性インキ)を付着させ、インキ層が乾燥した後、別の装置を用いてオーバープリントワニスを被覆、乾燥するオフライン・ドライトラップ印刷法であり、もうひとつがインキ層を乾燥させることなく、印刷機上で連続的にオーバープリントワニスを付着、被覆、乾燥させるウェットトラップ・インライン印刷法である。枚葉印刷のウェットトラップ・インライン印刷法では、インキよりもオーバープリントワニスの乾燥が速いことを利用し、印刷物を積み重ねたとき(棒積み)、未乾燥のインキが上のシートの裏に付着する(裏付き)のを防止するなどの用途でも使用されている。
【0003】
巻き取り紙(ウェブ)を用いて、短時間に大量の印刷を行うオフセット輪転印刷では、オーバープリントワニスは活用されていない。これはオフセット輪転印刷では、印刷速度が枚葉印刷の十倍程度(時間あたり十万枚)であり、用紙へのインキの付着、乾燥、紙面の折りたたみ、裁断が一工程で行われるため、オフライン・ドライトラップ印刷法が使えないことにもよるが、インキの乾燥にガス燃焼炉による高温乾燥が使用されているためでもある。
【0004】
枚葉印刷では、オーバープリントワニスの乾燥に赤外灯を用いた熱風乾燥装置が使用され、乾燥終了後の印刷紙面温度は、常温〜50℃が一般的であるが、オフセット輪転印刷では、上述のガス燃焼炉により、乾燥紙面温度が80〜120℃になることが多い。また、印刷法によって用いられるインキの組成も異なる。枚葉印刷では、油性溶剤が少なく、主として酸化反応により乾燥が進むインキ組成が使われるが、輪転印刷では高速印刷のため、比較的多量に油性溶剤を含み、乾燥炉中で急速に溶剤が蒸発、揮散することにより乾燥が行われる組成が求められている。
特許文献1には、被覆形成性エマルジョン樹脂と水溶性スチレン−アクリル酸樹脂に湿潤剤を添加した水性オーバープリントワニスが開示されているが、効果は不充分であった。
以上のことから、枚葉印刷に使用される従来技術を用いたオーバープリントワニスを、そのままオフセット輪転印刷に転用すると、高温乾燥による急速な水分の蒸発、また下地層であるインキからの溶剤の蒸発により、オーバープリントワニスの皮膜に直径数百μm程度の多数の泡が発生し、膨張、破裂することにより著しく美観を損ねる。
【0005】
【特許文献1】
特表平10−502576号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、オフセット輪転印刷での高乾燥温度でも、発泡を起こすことがなく、光沢に優れ、乾燥被膜に要求される耐摩擦性などの物性にも優れる水性コーティング組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、全組成物に基づいて、被膜形成性エマルジョン樹脂3〜20重量%(固形分)、重量平均分子量1000〜12000かつ酸価150〜300mgKOH/gの水溶性スチレン−アクリル酸樹脂8〜30重量%(固形分)、沸点が120〜400℃の水溶性アミン0.5〜12重量%、アルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩3〜15重量%、及び残量の水性溶剤を含有することを特徴とする水性コーティング組成物に関する。
また本発明は、被膜形成性エマルジョン樹脂がスチレン−アクリル酸樹脂である上記水性コーティング組成物に関する。
さらに本発明は、オフセット輪転印刷用水性オーバープリントワニスである上記水性コーティング組成物に関する。
さらに本発明は、印刷を施した基材に上記水性オーバープリントワニスをコーティングしてなる印刷物に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明では乾燥皮膜の物性を満足するように、被膜形成性エマルジョン樹脂を添加する。
被膜形成性エマルジョン樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-ブロモスチレン、2,4-ジクロロスチレン、2,5-ジクロロスチレン、他のスチレン含有ポリマー、ビニルナフタレン、n-へキシル(メタ)アクリレート、エチルブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートメチル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、及び同種の(メタ)アクリル酸エステルのような(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸等のモノマーの種々の水性または水に分散できるコポリマーを含む。本発明において特に好ましい被膜形成性エマルジョン樹脂としては、スチレン−アクリル酸樹脂が挙げられる。
【0009】
本発明における被膜形成性エマルジョン樹脂は、酸価20〜100mgKOH/g、ガラス転移点10〜100℃以上のものが好ましい。酸価が20mgKOH/g未満であると、ポリスチレン成分のため皮膜が脆くなり、また100mgKOH/gを超えると強度、傷付き性が不十分となる。これらの範囲内でも酸価25〜90mgKOH/gが特に好ましい。また、ガラス転移点は皮膜の物性上、高いほうが好ましく、特にガラス転移点が、50〜100℃が好ましい。また、分子量は重量平均分子量10万以上のものが物性上好ましい。これらのエマルジョンは通常の乳化重合により、容易に合成され、各種の特性をもったものが工業的に入手可能である。また、エマルジョン粒子の表面組成と内部組成を異なるものとした、コア−シェル型エマルジョンの使用も可能である。エマルジョンの固形分は40〜50重量%が取り扱い上好ましい。
また、被膜形成性エマルジョン樹脂の添加量は、水性コーティング組成物全体に対して、固形分換算で3〜20重量%(固形分)の範囲で用いられ、なかでも5〜15重量%の範囲がより好ましい。
【0010】
本発明で用いられる水溶性スチレン−アクリル酸樹脂は、低分子量で極性基を多く含むものが用いられる。分子量が高いと、高温での乾燥時に、急速な水分の蒸発により水性コーティング組成物が増粘し、発泡しやすくなる。また、分子量が低すぎると充分な被膜物性が得られない。したがって分子量は、重量平均分子量で1000〜12000が好ましく、特に1500〜9000が好ましい。酸価は大きいほど乾燥の調節が容易で好ましいが、過大であると乾燥後のベタツキ、被膜物性の劣化につながるため、150〜300mgKOH/gが好ましく、特に200〜250mgKOH/gが好ましい。また、ガラス転移温度は50〜100℃の範囲であれば良好な結果を得やすい。このような特性をもったスチレン−アクリル酸樹脂は、通常の合成法によって製造されたものが使用でき、メタアクリル酸、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、α−メチルスチレンなどの共重合体を含むものであっても、上述の範囲内の特性を示すものであれば使用することができる。
水溶性スチレン−アクリル酸樹脂の添加量は、水性コーティング組成物全体に対して、固形分換算で8〜30重量%(固形分)の範囲で用いられる。なかでも10〜25重量%が発泡の防止と乾燥被膜に要求される各種の特性、製造上の容易さなどから特に好ましい。
これらのスチレン−アクリル酸樹脂は(水性コーティング組成物の原料として使用するとき)、アルカリ水溶液を用いて可溶化し、水溶液として使用することが組成物製造の工程上、有利である。通常はアンモニア水が用いられる。また、下記に挙げるアミンを用いて可溶化したものを用いることも可能である。スチレン−アクリル酸樹脂水溶液は固形分の濃度は30〜50重量%であると粘度の点などから取り扱いがしやすく好ましい。
【0011】
本発明において、沸点120〜400℃の水溶性アミンを使用する。ただし、水溶性アミンは臭気の点、また接触刺激などの点から、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミンなどのアミノエタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いの容易さ、沸点の高さなどから、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンが特に好ましい。
水溶性アミンは、水性コーティング組成物全体に対して、0.5〜12重量部であることが好ましい。0.5重量部よりも少ないと発泡防止が充分ではなく、12重量部よりも多いと、乾燥が過度に遅く、また臭気も強くなるために好ましくない。特に2〜10重量部が適度な乾燥遅延を示し、好ましい。水溶性アミンは、水性コーティング組成物のその他の成分を配合した後、添加することが可能であり、また、上述したようにスチレン−アクリル酸樹脂の水溶液化のときに溶解用のアルカリ成分として添加することも可能である。これら二つの添加方法において、アミン類は同等に作用する。
【0012】
本発明におけるアルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩は、式1で表されるモノアルキルスルホサクシネートジナトリウム塩、式2で表されるジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩などが挙げられ、具体的にはジ―(2−エチルへキシル)スルホサクシネートナトリウム塩、別名ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、モノオクチルスルホサクシネートジナトリウム塩などが挙げられる。また、アルキル部分をポリオキシエチレン基で変性または修飾したものも用いることができる。特に、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムが入手の容易さから好ましい。
[式1]
Figure 0004133304
[式2]
Figure 0004133304
【0013】
アルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩は水性コーティング組成物全体に対して、3〜15重量%で用いられる。3重量%より少ないとオフセット輪転印刷法で求められるウェットトラップ・インライン印刷法で下地の油性インキに対する湿潤が充分ではなく、はじきによる被膜の欠陥が発生しやすく、また、発泡防止も充分ではない。15重量%より多いとアルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩の可塑化効果による樹脂の軟化がおこり、被膜のベタツキ、物性の脆弱化が引き起こされ、好ましくない。特に、5〜12重量%が発泡の防止と、油性インキに対する湿潤性、被膜の物性のバランスがとりやすく、好ましい。
アルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩は、水性コ―ティング組成物に適宜添加し得るが、水への溶解に時間を要することが多いため,取り扱いの容易さから、あらかじめ水溶性有機溶剤に溶解したものを添加することも可能である。
上述の低分子量、高酸価樹脂と高沸点水溶性アミン類、アルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩の組み合わせにより、どのような機構で発泡を抑制するかは明らかではないが、本発明の低分子量、高酸価スチレン−アクリル酸樹脂が、高沸点水溶性アミンによる蒸発速度の低下と、高沸点アミンおよびアルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属塩成分が樹脂のカルボン酸基に作用し、比較的長く可溶化状態におくことによるものと推測される。また、アルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩が高温下では樹脂に対して可塑剤として作用し、樹脂のレべリングを向上させ、発泡によって発生した塗膜の欠陥を修復することによって達成されるものと推測される。
【0014】
本発明による水性コーティング組成物は、印刷工程で紙等の基材に塗布されるとき、ザーンカップ#4で18〜24秒の粘度に調整されていることが塗布の容易さ、取り扱い上から有利である。組成物の粘度が高いときは、少量の水の添加により粘度を上記の範囲に調整することが可能である。また、乾燥性を速めるため、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール系溶剤、あるいは乾燥性を遅くするために、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどグリコール類を使用することも可能であり,微妙な乾燥性の調節ができる。
また、印刷物が工程中また最終製品となった後に、耐摩擦性を要求されるような場合には、合成、または天然物由来のワックス微粒子あるいは微粒子の水性分散体を添加することも可能である。
また、ウェットトラップ・インライン印刷法で本発明による水性コーティング組成物を塗布する場合、組成物の攪拌により発生する泡を消去するため、シリコーン系、炭化水素系消泡剤を添加することもできる。
【0015】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
[スチレン−アクリル酸樹脂アンモニア水溶液の調整]
スチレン−アクリル酸樹脂
ジョンソンポリマー株式会社製 ジョンクリル682(重量平均分子量1700 酸価238mgKOH/g)
ジョンソンポリマー株式会社製 ジョンクリル678(重量平均分子量8500 酸価215mgKOH/g)
還流冷却器、温度計、攪拌機が付属したフラスコ中にイオン交換水356g、ジョンクリル682を500g、25%アンモニア水144gを投入し、マントルヒーターで80℃に4時間、攪拌しながらスチレン−アクリル酸樹脂を溶解した。得られた水溶液は薄褐色の透明液体であった(固形分50%)。
同様にして、イオン交換水348g、ジョンクリル682を400g、トリエタノールアミン252gを投入、溶解してスチレン−アクリル酸樹脂水溶液を得た(固形分39.9%)。
また、同様にして、イオン交換水538g、ジョンクリル678を300g、トリエタノールアミン162gを投入、溶解してスチレン−アクリル酸樹脂水溶液を得た(固形分30.0%)。
【0016】
[水性コーティング組成物の調整]
スチレン−アクリル酸樹脂エマルジョン : ジョンクリル780(重量平均分子量20万以上、酸価46 mgKOH/g) ジョンソンポリマー株式会社製
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム : ニューコール291−PG 日本乳化剤株式会社製
微粒子ワックス水性分散体 : ジョンワックス26(ポリエチレンワックス) ジョンソンポリマー株式会社製
微粒子ワックス水性分散体 : ケミパールW−401(ポリエチレンワックス) 三井石油化学株式会社製
攪拌装置を備えた容器に上記成分(水のみ所定量の約2/3)を投入し、1000回転/分で攪拌を行った。充分に混合した後、ザーンカップ#4を用いて、温度25℃で粘度を測定し、20〜23秒となるように水の残部を投入し、さらに攪拌を行い、均一とした。
【0017】
[乾燥被膜の発泡試験]
[実施例1〜4]
簡易印刷試験機を用いて4.5×25cmの微塗工紙に、オフセット輪転用インキ(WDスーパーレオエコーSOYAG墨2MTT:東洋インキ製造株式会社製)を盛り量2.0ml、印刷速度2.0m/分でインキ層を付着させ、0.1秒後に引き続き、上記のオーバープリントワニス盛り量1.0mlを印刷速度2.0m/分で付着させた。
印刷が終わった用紙は、直ちに260℃に設定した熱風乾燥炉中で2.4秒間の乾燥を行った後、自然空冷させた。
得られた印刷物の外観を目視、および20倍のルーペで観察し、発泡の程度を調べ、評価した。
5:発泡は認められない
4:発泡は小さく目立たない
3:発泡は目視で容易に確認される
2:発泡が目立つ
1:全面に発泡が認められる。
実際に印刷物として実用できるものは4以上とした。
【0018】
[比較用スチレン−アクリル酸樹脂アンモニア水溶液の調整]
スチレン−アクリル酸樹脂: ジョンクリル67(重量平均分子量12500,酸価213mgKOH/g)ジョンソンポリマー株式会社製
還流冷却器、温度計、攪拌機が付属したフラスコ中にイオン交換水622.4g、ジョンクリル67を300g、25%アンモニア水77.6gを投入し、マントルヒーターで80℃に4時間、攪拌しながらスチレン−アクリル酸樹脂を溶解した。得られた水溶液は薄褐色の透明液体であった(固形分30%)。
【0019】
[水性コーティング組成物の調整]
表2記載の配合量により、実施例1〜4と同様に水性コーティング組成物を作成した。
【0020】
[乾燥被膜の発泡試験]
[比較例1〜4]
実施例1〜4と同様に乾燥被膜の状態を試験した。
比較例1〜4はいずれも評価は3以下であり、良好な塗膜は得られなかった。
【0021】
【表1】
Figure 0004133304
【表2】
Figure 0004133304
【0022】
【発明の効果】
本願発明が提供する水性コーティング組成物は、オフセット輪転印刷での高乾燥温度でも、発泡を起こすことがなく、光沢に優れ、乾燥被膜に要求される耐摩擦性などの物性にも優れる。

Claims (4)

  1. 全組成物に基づいて、被膜形成性エマルジョン樹脂3〜20重量%(固形分)、重量平均分子量1000〜12000かつ酸価150〜300mgKOH/gの水溶性スチレン−アクリル酸樹脂8〜30重量%(固形分)、沸点が120〜400℃の水溶性アミン0.5〜12重量%、アルキルスルホサクシネートアルカリ金属塩3〜15重量%、及び残量の水性溶剤を含有することを特徴とする水性コーティング組成物。
  2. 被膜形成性エマルジョン樹脂がスチレン−アクリル酸樹脂である請求項1記載の水性コーティング組成物。
  3. オフセット輪転印刷用水性オーバープリントワニスである請求項1または2記載の水性コーティング組成物。
  4. 印刷を施した基材に請求項3記載の水性オーバープリントワニスをコーティングしてなる印刷物。
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