JP4130487B2 - 核酸の同時増幅方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、多数の増幅サイクルの中に復元工程を導入した2種以上の二本鎖核酸の迅速な優先同時増幅法に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、核酸の検出は、ヒトや動物の被検体中に非常に少量で存在する染色体の特徴、感染性因子及び各種生物を早期に検出するための手段として成長している。検出手順は、通常、(ヌクレオチド対として知られている)相補的ヌクレオチド間の水素結合やその他の力によって2本のDNA鎖が一緒に結合する相補性の概念に基づくものである。
DNA分子は、通常はかなり安定であるが、その鎖は、加熱などの特定の条件によって分離又は変性させることができる。変性された鎖は、相補的配列を有する別のヌクレオチド鎖とのみ再会合する。
【0003】
分子数の非常に少ないDNAを検出するための方法を見い出すため、多大な研究が行われてきた。検出のために被検体中の核酸数を増幅する又は大幅に増やす各種の手法が知られており、ほぼ10年間にわたり用いられている。このような増幅技法には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、その他開発の遅れている方法が含まれる。
PCR法が最もよく知られている方法であって、DNA重合剤とデオキシリボヌクレオシド三リン酸を存在させた適当な条件下で標的核酸の鎖にプライマーをハイブリダイズさせる工程を含む。複数回のサイクルを通してプライマー伸長生成物が形成され、最初の標的鎖の数が指数的に増加することになる。PCRに関する詳細は、米国特許出願第4,683,195号(Mullisら)、同第4,683,202号(Mullisら)及び同第4,965,188号(Mullisら)に記載されている。
【0004】
ヒトや動物の被検体は、多種多様な核酸を含有し、ヒトや動物に内因する(又は天然の)ものもあれば、感染性因子や発ガン性条件といった異常な条件が原因となって発生するものもある。通常、こうした核酸は、内因性の核酸よりも非常に低濃度で存在する。これらを「コピー数の少ない」核酸と呼ぶことがある。対照的に、内因性の核酸は高濃度で存在することが普通であり、これらを「コピー数の多い」核酸と称する場合がある。このような核酸の一例として、ヒトβ−グロブリンDNAが挙げられる。
【0005】
PCR法を実施すると、被検体中に存在する2種以上の核酸が同じ反応容器内で同時に増幅されることがよくある。このことを本明細書では「同時増幅」と称することとする。この方法では、増幅すべき核酸の各々に対するプライマーを容器内に同時に存在させなければならない。
このような状況下でコピー数の少ない標的核酸とコピー数の多い標的核酸を共に増幅させると、往々にしてコピー数の少ない標的核酸の増幅が阻害される。この原因は、増幅サイクルの後の方でコピー数の多い標的核酸によって増幅酵素(例、DNAポリメラーゼ)が飽和するためである。コピー数の少ない標的核酸の存在については偽陰性という結論になりやすく、重大な結果をもたらす恐れがある。
【0006】
こうしたPCRにまつわる問題に対しては、プライマー濃度を調節する方法、特殊な融解温度(Tm )を示すプライマー組を使用する方法、或いはこれらを組み合わせた方法をはじめとする様々な解決策が提案されている。プライマー比率を調節する方法を当該技術分野ではPCR収率を「プライマーバイアスする」と呼び、コピー数の多い標的核酸に対するプライマー濃度を低下させる必要がある。この方法では、プロセスを適当にしか制御することができない。
【0007】
別の同時増幅方法は、コピー数の多い標的核酸に対するプライマーがコピー数の少ない標的核酸に対するプライマーよりもアニールの程度が低くなるように、PCRにおけるアニーリング温度を調節する方法である。この方法にも問題がある。プライマー対の間のTm 差が比較的大きくなければ、コピー数の多い標的核酸とコピー数の少ない標的核酸との収率の差に基づいてPCRを良好に変調することはできない。正確なTm を(概算は可能であるが)計算することはできないため、これを測定する必要がある。これは多大な労力を要し、大変である。
【0008】
これらの同時増幅を変調するための方法は、いずれもコピー数の多い標的核酸とコピー数の少ない標的核酸の配列が知られていることが必要である。
別法として、PCRの後の方のサイクルにおけるプライミング工程又は伸長工程の時間を延長することによって、コピー数の多い標的核酸によるDNAポリメラーゼの飽和を最小限に抑え、増幅効率を向上させることができる。しかしながら、この解決策は、様々な濃度で存在する多種多様な核酸が同時に増幅される状況でしか有用ではない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
1種以上のコピー数の多い標的核酸の存在下で同時増幅させた場合に1種以上のコピー数の少ない標的核酸を迅速且つ効率的に増幅できる方法が望まれる。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の問題は、2種以上の標的核酸を同時増幅する方法において、
(1)毎回約20〜約360秒間を要する少なくとも15回の一次増幅サイクルであって、各サイクルが下記工程A〜C:
A)2種以上の標的核酸又はそれらのプライマー伸長生成物の反応混合物であって、前記標的核酸の少なくとも1種がコピー数の少ない標的核酸であり且つ前記標的核酸の他の少なくとも1種が前記コピー数の少ない標的核酸の約1000倍以上の濃度で存在するものと予想されるコピー数の多い標的核酸である反応混合物を加熱する際に、前記コピー数の多い標的核酸及びコピー数の少ない標的核酸又はそれらのプライマー伸長生成物の鎖を変性するために約85〜約100℃の第一温度T1 に加熱する工程、
B)(TmH−15)℃≦T2 ≦(TmH+5)℃
〔式中、TmHはコピー数の多い標的核酸に対するプライマーの融解温度である〕で規定される第二温度T2 まで冷却することによって、増幅すべき各標的核酸の対向鎖に特異的であり且つハイブリダイズすることができる一組のプライマーで前記変性された鎖をプライミングする工程、及び
C)前記工程Bの延長としてか又は別の工程において、
(TmH−15)℃≦T3 ≦(TmH+15)℃
で規定される第三温度T3 でのインキュベーションによって、PCR試薬の反応混合物中でプライマー伸長生成物を形成する工程〔但し、前記プライミング工程とプライマー伸長生成物形成工程とを同一工程において実施する場合にはT2 とT3 は同じとする〕、
を逐次工程として含む一次増幅サイクル、並びに
(2)毎回約20〜約360秒間を要する少なくとも5回の二次増幅サイクルであって、前記工程A〜Cを逐次反復する各二次増幅サイクルにおける工程Aと工程Bとの間に、反応混合物を、
(TmH+5)℃≦T4 ≦TPH
〔式中、TPHは前記コピー数の多い標的核酸の二本鎖の融解温度である〕で規定される第四温度T4 まで冷却して該温度で約15〜約120秒間維持する二次増幅サイクル
を含む核酸の同時増幅方法によって解決された。
【0011】
本発明は、特にコピー数の少ない標的核酸のシグナルを不鮮明にしかねないコピー数の多い標的核酸が存在する場合に、コピー数の少ない標的核酸を優先的に増幅し且つ検出するための非常に迅速で効率のよい方法を提供するものである。このように、コピー数の少ない標的核酸の増幅がコピー数の多い標的核酸によって阻害されることが低減される。
【0012】
これらの利点は、特定の回数の増幅サイクル(本明細書では「一次サイクル」と称する)の後、続くサイクル(本明細書では「二次サイクル」と称する)における各変性工程の後に短時間で増幅生成物が復元又はハイブリダイズするように、増幅プロセスの後のサイクルに復元工程を含めることによって達成される。この復元工程は、変性生成物の相補鎖が容易に復元又はハイブリダイズできる温度において行われる。しかしながら、その温度は、コピー数の多い標的核酸のプライマーが変性された増幅生成物の相補鎖に効率的にアニールする温度よりも高い温度に維持される。復元工程には十分な時間が当てられ、プライミングや続く増幅に有効なコピー数の多い標的核酸の濃度を低下させる。このため、より多くのDNAポリメラーゼが利用できるので、後のサイクルにおいてコピー数の少ない標的核酸をより効率的に増幅させることができる。
【0013】
ポリメラーゼ連鎖反応を利用して核酸を増幅及び検出するための一般原理及び条件についてはよく知られている。その詳細については、米国特許出願第4,683,195号、同第4,683,202号及び同第4,965,188号明細書(上記)をはじめとする多くの文献に記載されており、本明細書ではそのすべてを参照することにより取り入れることとする。当該技術分野における教示と本明細書に記載した特別な教示とを鑑みれば、当業者であれば本明細書に記載に従い本発明を実施して、一方がコピー数の少ない標的核酸である2種以上の核酸を同時増幅することは容易である。
【0014】
本発明の実施に採用することができる他の増幅方法として、例えば欧州特許出願公開第0 320 308号公報(1987年12月公開)及び同第0 439 182号公報(1990年1月公開)に記載のリガーゼ連鎖反応、及び生成物の変性工程を含む他のすべての周知の増幅方法が挙げられる。こうして、本明細書に記載の教示によれば、当業者であれば、PCRについて示した復元修正を上記の他の既知の増幅方法へ適合させることは可能である。本明細書の残部は、例示を目的として、PCRによる本発明の実施について説明するものである。
【0015】
本発明は、被検体中の1種以上のコピー数の少ない標的核酸中に存在する1種以上の特異的核酸配列を、1種以上のコピー数の多い標的核酸中に存在する1種以上の核酸配列を同時に増幅させながら、増幅し検出することに関する。一般に、被検体中に存在するコピー数の少ない標的核酸の量は約10-16 モル未満であるが、しかしながら、その量は、コピー数の多い標的核酸がはるかに多量に、例えば1000倍以上の濃度で、存在する場合には、さらに多くなることがある。一般に、コピー数の多い標的核酸は単コピー遺伝子に関連したものであるが、コピー数の少ない標的核酸はヒトや動物における感染性因子、ガン、その他病理状態に関連したものである。
【0016】
さらに、アッセイではコピー数の多い標的核酸を「陽性対照」として使用することができる。コピー数の多い標的核酸のPCR効率を変調することにより、PCRが効率的に行われた場合にのみ陽性対照は検出可能となるので、偽陰性の可能性が低下する。このような場合、コピー数の多い標的核酸は、コピー数の少ない標的核酸の10倍以上の濃度で存在することができる。
【0017】
被検体は、細胞、ウイルス、毛髪、体液又は検出可能な遺伝子DNA又はRNAを含有する他の材料であることができる。標的核酸は、プラスミドや、(細菌、酵母、ウイルス、植物、高等動物又はヒトなどの)何らかのソースから得られる天然DNA又はRNAをはじめとする様々なソースから得ることができる。それは、血液、末梢血液単核細胞(PBMC)、他の組織材料又は当該技術分野で知られている他のソースをはじめとする様々な組織から周知の方法で抽出されることができる。本発明は、ゲノムDNA、細菌DNA、菌類DNA、ウイルスRNA、又は細菌若しくはウイルスに感染された細胞中のDNA若しくはRNAに存在する核酸配列の同時増幅及び検出に特に有用である。さらに、本発明を利用して、癌マーカーに係わる核酸配列を増幅し検出することも可能である。
【0018】
検出可能な細菌には、ヒトの血液中にある細菌、サルモネラ種、クラミジア種、淋菌種、シゲラ種及びマイコバクテリウム種が含まれるが、これらに限定はされない。検出可能なウイルスには、単純ヘルペスウイルス、エプスタインバールウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、ヒトパピローマウイルス、肝炎ウイルス並びにHTLV−I、HTLV−II、HIV−I及びHIV−IIのようなレトロウイルスが含まれるが、これらに限定はされない。原生動物の寄生虫、酵母及びカビもまた検出可能である。当業者であればその他の検出可能な種は明らかである。本発明は、レトロウイルス(HIV−IやHIV−II)又はマイコバクテリウム種に関連したDNAの存在を検出するのに特に有用である。本発明を、HIV−Iに関連したDNAの検出に使用することが最も好ましい。
【0019】
「PCR試薬」とは、PCRに必要と考えられるすべての試薬、すなわち、各標的核酸の対向鎖に対する一組のプライマーと、DNAポリメラーゼと、DNAポリメラーゼコファクターと、2種以上のデオキシリボヌクレオシド−5’−三リン酸(NTP)とを意味する。
「プライマー」とは、核酸鎖(すなわち、鋳型)に相補的なプライマー伸長生成物の合成が誘導される条件下に置かれた場合にその合成開始点として作用しうる天然の又は合成されたオリゴヌクレオチドを意味する。このような条件には、他のPCR試薬の存在並びに好適な温度及びpHが含まれる。プライマーは、DNAポリメラーゼの存在下で伸長生成物の合成を引き起こすに十分な長さを有する必要がある。各プライマーの正確なサイズは、使用法、標的配列の複雑さ、反応温度及びプライマーの出所によって変わる。一般に、本発明で用いられるプライマーは、ヌクレオチドを10〜60個有するものである。
【0020】
プライマーは、多数の出所から入手すること、或いは、例えば、ABI DNA合成機(Applied Biosystemより入手可能)又はBiosearch 8600シリーズ若しくは8800シリーズの合成機(Milligen−Biosearch社より入手可能)をはじめとする周知の技法及び装置並びにそれらの使用方法(例えば、上記の米国特許出願第4,965,188号明細書に記載されている)を利用して合成することができる。また、生物学的ソースから単離された天然のプライマー(例えば、制限エンドヌクレアーゼ消化物)も有用である。一般には、各標的核酸に対し、少なくとも2種のプライマーからなる一組が用いられる。こうして、複数組のプライマーを同時に使用し、複数種の標的核酸を増幅することができる。さらに、一組のプライマーが、ある特定の標的核酸に対するプライマー混合物を含むこともできる。
【0021】
DNAポリメラーゼは、プライマーに対してホスホジエステル結合することにより、デオキシヌクレオシド一リン酸分子をエステル化しこれをプライマーの3’−ヒドロキシ末端に付加する酵素としてよく知られいる。この合成は鋳型依存性である。有用なDNAポリメラーゼには、E.coliのDNAポリメラーゼI、T4 DNAポリメラーゼ、Klenowポリメラーゼ、逆転写酵素、その他当該技術分野で知られているものが含まれる。
【0022】
DNAポリメラーゼは、「耐熱性」であることが好ましい。耐熱性とは、DNA鎖の変性に用いられる高温において一般に安定であることを意味する。より詳細には、耐熱性DNAポリメラーゼは、PCRに用いられる高温において実質的には不活性化されない。このような温度は、pH、塩濃度、その他当該技術分野で知られている条件をはじめとする幾つかの反応条件によって変わる。
【0023】
当該技術分野では幾つかの耐熱性DNAポリメラーゼが報告されており、米国特許出願第4,965,188号明細書(上記)及び同第4,889,818号明細書(Gelfandら)に詳細に記載されているものが含まれるが、本明細書ではこれらを参照することにより取り入れることとする。特に有用なポリメラーゼは、Thermus細菌種から得られるものであって、例えばThermus aquaticus、Thermus filiformis、Thermus flavus又はThermus thermophilusから得られるDNAポリメラーゼである。他の有用な耐熱性ポリメラーゼは、Thermococcus literalis、Pyrococcus furiosus、Thermotoga sp.及び国際特許出願公開WO−A−89/06691号公報(1989年7月27日公開)に記載されているものをはじめとする他の様々な微生物源から得られる。有用な酵素の中には市販されているものもある。生物から天然のポリメラーゼを単離するための技法がいくつか知られている。また組換え技術によるポリメラーゼを調製するためのクローニング法やその他の合成法も、Gelfandらの特許をはじめとする先に引用した技術文献から知られている。
【0024】
DNAポリメラーゼコファクターとは、酵素活性に影響を与える非タンパク質化合物をさす。当該技術分野では、マンガン塩やマグネシウム塩をはじめとするこのような物質がいくつか知られている。有用なコファクターとして、マンガン及びマグネシウムの塩化物、硫酸塩、酢酸塩及び脂肪酸塩が含まれるが、これらに限定はされない。塩化物、硫酸塩及び酢酸塩が好ましい。最も好ましい塩は塩化マグネシウム及び硫酸マグネシウムである。
【0025】
PCRにはまた、2種以上のデオキシリボヌクレオシド−5’−三リン酸、例えば、dATP、dCTP、dGTP、dTTP及びdUTPのうちの2種以上が必要である。dITPや7−デアザ−dGTPのようなアナログも有用である。PCRでは、通常の4種類の三リン酸(dATP、dCTP、dGTP及びdTTP)を使用することが好ましい。
【0026】
本発明の実施には、DNAポリメラーゼに特異的な抗体であって、約50℃未満の温度では該酵素活性を阻害するがより高温では自身が不活性化される抗体も有用である。このような特性を有する代表的なモノクローナル抗体が、最近特許された米国特許出願第07/958,144号明細書(Scaliceら、1992年10月7日出願)に記載されており、本明細書ではこれを参照することにより取り入れることとする。分子全体の代わりに抗体フラグメントを使用してもよい。
【0027】
本明細書に記載したPCR試薬は、PCRにおいて標的核酸を増幅するのに適した濃度で提供され且つ用いられる。DNAポリメラーゼの最少量は、溶液100μl当たり、一般に約1単位以上、好ましくは約4〜約25単位である。ここで「単位」とは、74℃において伸長している核酸中へ30分間で10ナノモルの全ヌクレオシド(dNTP)を取り込ませるに必要な酵素活性量として定義される。各プライマーの濃度は約0.075μモル以上であり、中でも約0.1〜約2μモルが好ましい。複数種のプライマーが、同じ量で存在しても異なる量で存在してもよい。各標的核酸に対する各プライマー組のプライマーは、反応混合物中に最初は同じ量で存在することが好ましい。反応混合物中、DNAポリメラーゼコファクターは一般に約1〜約15ミリモルの量で存在し、また各dNTPは一般に約0.15〜約3.5ミリモルの量で存在する。
【0028】
PCR試薬は、個別に供給しても、また適当な何らかの緩衝液を用いてpHを約7〜約9にした緩衝化溶液として供給してもよい。こうして、PCRの反応混合物は、コピー数の少ない標的核酸に対する一組のプライマーと、コピー数の多い標的核酸に対する一組のプライマーと、適当なdNTPと、耐熱性DNAポリメラーゼと、該DNAポリメラーゼのためのコファクターと、そして標的核酸の増幅やその後の検出に有用であると考えられる他の何らかの添加物とを含む。
【0029】
上記のように、標的核酸は様々な出所源から得られる。一般に、標的核酸は、プライマー、その他の反応物質との接触に利用できるように何らかの方法で抽出されなければならない。このことは、通常、望ましくないタンパク質や細胞物質を被検体から適当な方法で除去することを意味する。当該技術分野では、LaureらのThe Lancet,pp.538−540(1988年9月3日)、ManiatisらのMolecular Cloning:A Laboratory Manual,pp.280−281(1982)、Gross−BellandらのEur.J.Biochem.,36,32(1973)及び米国特許出願第4,965,188号明細書(上記)に記載されているものをはじめとする様々な方法が知られている。全血又はその成分からDNAを抽出する方法については、例えば、欧州特許出願公開第0 393 744号公報(1990年10月24日公開)、BellらのProc.Natl.Acad.Sci.USA,78(9),pp.5759−5763(1981)、SaikiらのBio/Technology,3,pp.1008−1012(1985)及び米国特許出願第5,231,015号明細書(Cumminsら)に記載されている。本発明の実施では、特定の抽出法が重要となることはない。
【0030】
通常、増幅や検出されるべき標的核酸は二本鎖形にあるため、この二本鎖が分離(すなわち、変性)されなければプライミングは起こらない。プライミングは、抽出工程中に行うことができるが、好ましくはその後の別工程で行う。好ましい変性手段は、好適な温度(本明細書では「第一温度」又はT1 と称する)に加熱することである。一般に、この第一温度は、適当な時間、例えば1〜約240秒間(好ましくは1〜約40秒間)、約85℃〜約100℃の範囲とする。この初期変性工程を最初の増幅サイクルに含めてもよい。このような場合には、最初のサイクルにおける変性をより長時間(例えば、最長で240秒間)とし、その後のサイクルでは変性を短時間(例えば、最長で30秒間)としてもよい。
【0031】
次いで、変性された鎖を、適当な組合せのプライマーを用いて、その反応混合物を一般に約55〜約70℃の範囲にある第二温度T2 へ冷却することによりプライムする。冷却はできるだけ迅速に行うことが望まれるが、現存の装置では、一般には約5〜約40秒間で、より好ましくは約5〜約20秒間で行われる。好ましくは、T2 は以下の式で規定される。
(TmH−15)℃≦T2 ≦(TmH+5)℃
式中、TmHはコピー数の多い標的核酸に対するプライマーの融解温度である。
【0032】
変性された鎖を冷却したら、PCR試薬を含有する反応混合物を第三温度T3 において、一般には1〜約120秒間、好ましくは1〜約80秒間インキュベートし、プライマー伸長生成物を形成させる。一般に、第三温度は以下の式:
(TmH−15)℃≦T3 ≦(TmH+15)℃
で規定されるが、一般には約55〜約70℃、好ましくは約62〜約68℃の範囲にある。
【0033】
最も好ましい実施態様では、第二温度と第三温度を同じにし、そして約62〜約68℃の範囲とする。こうして、プライミングとプライマー伸長を、同じ工程で行うことが好ましい。
【0034】
コピー数の多い標的核酸に対する各プライマーは、本明細書でTmHと表示した融解温度を有する。通常、TmLとTmHの差は0〜約8℃であり、そしてT2 とT3 はどちらもTmL若しくはTmHよりも低いか又はTmL若しくはTmHのいずれかに等しいことが普通である。
【0035】
本明細書で規定する融解温度は、プライマーの半分が(鋳型のような)相補鎖から変性される温度である。この融解温度の測定は、例えば、Biochemistry−The Molecular Basis of Cell Structure and Function(第2版、Lehninger,Worth Publications,Inc.,1970,pp.876−7)に記載されているように260nmにおけるスペクトルをモニターすることによって、紫外線淡色効果に基づくいくつかの標準方法で実施することができる。融解温度の測定方法が異なると、同じDNA分子でもその値に若干の差が生じることはあるが、これらの値が約2〜3℃よりも大きく変動することはまずない。その上、融解温度を測定するための方法が一定であれば、TmLとTmHの差が変動することはない。
【0036】
融解温度は以下の式を用いて計算されることが好ましい。
Tm (℃)=67.5+0.34(%G+C)−395/N
上式中、GとCは、オリゴヌクレオチド(すなわち、プライマー)における、それぞれグアニンとシトシンのヌクレオチド数を表し、Nは全ヌクレオチド数を表す。この計算式で得られる融解温度の値は、常用のUV淡色効果と常用のHewlett−Packard製ダイオードアレイ分光光度計(走査速度約+1℃/分)を用いて、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム及びその他当業者であれば容易に想到するもののような無機塩や有機塩をイオン強度約20ミリモル以上で有する10ミリモルのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(pH8.5)にプライマーを含む溶液について室温で実験的に求めた値とよく相関する。上記融解温度式を決めるために用いられた溶液中でのプライマーとその相補体の量は、約0.5〜約1.0のOD単位の光学濃度を与えるに十分な量とした。
【0037】
こうして、「一次」増幅サイクルは、変性工程、プライミング(又はアニーリング)工程及びプライマー伸長工程を含む。一般に、本発明の実施では、このような一次増幅サイクルを15回以上行うが、そのサイクルの最大回数についてはユーザーの裁量に任される。たいていは、15〜35回の一次増幅サイクルが行われ、25回のサイクルが好適である。一次増幅サイクルの各サイクルは、一般に約20〜約360秒、好ましくは約30〜約120秒、より好ましくは約30〜約90秒のサイクル時間で行われる。しかしながら、所望により、さらに長時間又は短時間のサイクル時間を採用してもよい。
【0038】
上記の少なくとも15回の一次増幅サイクルの後に、同じ工程を有するが、但し各変性工程後に復元工程を導入してからプライミング工程を行う、次の又は「二次」増幅サイクルを実施する。
【0039】
復元工程は、反応混合物を以下に規定される第四温度T4 に冷却することによって行われる。
(TmH+5)℃≦T4 ≦TPH
式中、TPHは、検出されるコピー数の多い標的核酸の二本鎖の融解温度である。一般に、T4 は約65〜約90℃である。T4 に到達させるのに要する時間はできるかぎり短くするが、最長で約45秒間かけてもよい。また、上記温度は約15〜約100秒間維持することができる。
【0040】
この方法では少なくとも5回の二次増幅サイクルを採用するが、その上限回数はユーザーの裁量に任される。この二次増幅サイクルは5〜20回が好ましく、また15回のサイクルが最も好ましい。二次増幅サイクルの各サイクルに要する時間は約20〜約360秒である。好ましいサイクル時間は約30〜約120秒である。
【0041】
本出願明細書において、ある特定の工程に対する時間に用語「約」を付した場合は、その限界値について±10%の幅があることを意味する。温度に用語「約」を付した場合には、±5℃の幅があることを意味する。
【0042】
増幅生成物の復元のような核酸のハイブリダイゼーション反応の速度論は、ハイブリダイズされる核酸の濃度に比例する。それゆえ、増幅生成物の濃度が、例えば10倍に増加すると、ハイブリダイゼーションの速度も10倍に増加する(すなわち、復元に対するt1/2 が10分の1に短縮される)。ハイブリダイゼーションの前進速度定数を5×106 モル-1秒-1と仮定すると、生成物濃度10-8モルにおけるt1/2 は約14秒、また生成物濃度10-9モルにおけるt1/2 は約140秒となる。
【0043】
後のサイクルにおいて、コピー数の多い生成物の有効Tm (融解温度)以下の温度ではあるが、増幅反応に用いられているプライマーの有効Tm よりも数度高い温度での生成物復元工程を導入することによって、濃度に依存した様式において増幅生成物の復元が可能となる。二次増幅サイクルの比較的短時間の復元工程は、コピー数の少ない標的核酸のプライミング効率には実質的な影響を及ぼすことはないが、コピー数の多い標的核酸のプライミングを低下させる。
【0044】
本発明の増幅法は、所望の回数について制御された様式で反応混合物の温度を周期変動させるように自動化された連続様式で実施することが好ましい。このために開発された装置がいくつかあり、当業者であれば周知である。また、復元工程やその後増幅サイクルの再開についてプログラム可能な装置を使用することも好ましい。
【0045】
この目的のための装置の一つが、米国特許出願第4,965,188号明細書及び欧州特許出願公開第0 236 069号公報にかなり詳しく記載されている。一般に、この装置は、反応混合物を含有する複数の反応管を保持するための熱伝導性容器と、加熱手段と、冷却手段と、温度維持手段と、増幅配列、温度及びタイミングの変化を制御するための信号を発生する計算手段とを含む。
【0046】
欧州特許出願公開第0 402 994号公報は、米国特許出願第5,089,233号明細書(Devaneyら)に記載された装置を用いて処理することができる有用な化学試験パックについて詳細に記載しており、本明細書ではこれを参照することにより取り入れることとする。その中には、本発明の方法に適した反復インターバルで(すなわち、サイクルにより)その試験パックを加熱/冷却するための手段についても記載されている。有用なPCR処理装置に関するさらなる詳細は、当該技術分野の重要な文献から入手することができ、当業者であれば容易に確認することができる。
【0047】
上記の化学試験パックの他、本発明の方法は、米国特許出願第4,902,624号明細書(Columbusら)、同第5,173,260号明細書(Zanderら)、同第5,229,297号明細書(Schnipelskyら)に詳細に記載されているような他の容器、及び当業者であれば明白なその他の適当な容器においても実施することができる。本明細書ではこれらを参照することにより取り入れることとする。
【0048】
増幅生成物の検出は、当該技術分野で周知のように、米国特許出願第4,965,188号明細書(上記)に記載されているサザンブロッティング法や、標識されたプローブ又はプライマーを利用して行うことができる。
【0049】
上記実施態様の別法として、増幅生成物を、そのプライマー伸長生成物の一方に対して相補的である標識されたオリゴヌクレオチドを用いて検出することもできる。オリゴヌクレオチドに標識を付与する方法については周知である。有用な標識には、酵素、フェリチン、その他磁性粒子、放射性同位元素、化学発光試薬(例、ルミノール)、ビオチン並びに各種蛍光助剤及び発色助剤が含まれる。有用な酵素標識には、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及びアルカリ性ホスファターゼが含まれる。各種標識用の基質や色素提供試薬、例えば酵素、についても周知である。
【0050】
好ましい実施態様では、検出用に酵素標識(例、ペルオキシダーゼ)を使用し、そしてその標識により色素又は発光を提供する適当な組成物を使用する。例えば、特に有用な比色定量用色素提供システムが米国特許出願第5,024,935号明細書(McCluneら)に記載されている。その後、裸眼又は適当な分光光度計若しくはルミノメーターによって検出する。
【0051】
また、この方法に用いられる各プライマー組のプライマーの一方を、特異的結合性部分で標識することも可能である。この部分は、各種プライマーについて同じであっても異なってもよく、またその部分と特異的に反応する特異的結合性レセプターが存在するためのいずれの分子を含むこともできる。特異的結合性対(その一方が標識となりうる)の例として、ストレプトアビジン/ビオチン、糖類/レクチン、抗体/ハプテン、抗体/抗原、その他当業者であれば自明のもの、が挙げられる。その後、酵素、放射性同位元素又はその他上記のもののようなオリゴヌクレオチドを検出できる適当な標識部分とレセプター分子とを複合化させる。
【0052】
各プライマー組の一方又は両方のプライマーをビオチン(又はその等価な誘導体)で標識し、そして増幅生成物を、西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素とストレプトアビジンとの複合体を用いて検出する方法がより好ましい。
【0053】
本発明の不均質検出系では、増幅生成物を何らかの水不溶性支持体表面に捕捉し、そして反応混合物中の他の物質を適当な方法、例えば、濾過、遠心分離、洗浄、その他の分離方法、によって除去する。
【0054】
捕捉プローブは、周知の結合技法(吸収反応や共有反応を含む)によって、水不溶性の支持体に結合させることができる。このような技法の一つが、欧州特許出願公開第0 439 222号公報(1991年9月18日発行)に記載されている。その他の方法が、例えば、米国特許出願第4,713,326号(Dattaguptaら)、同第4,914,210号(Levensonら)及び欧州特許第0 070 687号(1983年1月26日発行)に記載されている。有用な分離手段には、Pall社より市販されているポリアミド微多孔質膜のような膜による濾過が含まれる。
【0055】
しかしながら、捕捉プローブ及び最終的なハイブリダイゼーション生成物を係留するためには、マイクロタイタープレート、試験管、ビーカー、磁性又は高分子粒子、金属、セラミックス、ガラスウール、等をはじめとする有用ないずれの固体支持体でも使用することができる。特に有用な材料は、捕捉プローブを共有結合させるのに有用な反応性基を有する磁性粒子又は高分子粒子である。このような粒子の大きさは一般に約0.001〜約10μmである。このような材料の例については、米国特許出願第4,997,772号(Suttonら)、同第5,147,777号(Suttonら)、同第5,155,166号(Danielsonら)及び同第4,795,698号(Owenら)の明細書に詳細に記載されており、本明細書ではこれらを参照することにより取り入れることとする。
【0056】
捕捉プローブは、高分子フィルム、膜、濾紙又は樹脂被覆紙若しくは未被覆紙のような平坦な支持体に結合させてもよい。高分子粒子に結合された捕捉プローブを、このような平坦な支持体の表面に、乾燥付着、加熱融合、接着剤、等の適当な方法で固定化することもできる。このような材料のその他の詳細については、欧州特許出願公開第0 408 738号(1991年1月23日発行)、国際特許出願公開第WO92/16659号(1992年10月1日発行)及び米国特許出願第5,173,260号(Suttonら)の明細書に記載されている。
【0057】
捕捉プローブは、適当な支持体表面に、例えば、列状の丸い付着物や縞状など、いずれの形状で配置されていてもよい。
【0058】
以下の実施例は、本発明の実施を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。特に断らない限り、パーセントはすべて重量基準とした。
【0059】
【実施例】
実施例についての材料および方法
実施例で用いたプライマーは、以下の配列を有するものとした。最初の2種はHIV−I DNAのgag領域に相補的であり、次の2種はβ−グロブリン DNAに相補的である。
配列番号:1: 5′-X-ATAATCCACC TATCCCAGTA GGAGAAAT-3′
配列番号:2: 5′-X-TTTGGTCCTT GTCTTATGTC CAGAATGC-3′
配列番号:3: 5′-X-CAACTTCATC CACGTTCACC- 3′
配列番号:4: 5′-ACACAACTGT GTTCACTAGC- 3′
【0060】
前記プライマー中、Xは、米国特許第 4,962,029号明細書(Levensonら)に記載された技法を用いて、2つのアミノテトラエチレングリコール・スペーサー基を介してオリゴヌクレオチドに付加された(DuPont社製のビオチンホスホラミダイト由来の)ビオチニル部分を表す。
実施例で用いた捕捉プローブは、以下の配列を有するものとした。第一はHIV−I DNA用であり、第二はβ−グロブリン DNA用である。
【0061】
「Y」は、米国特許出願第4,914,210号明細書(Levensonら)の教示に従い単一のアミンジオール結合基に結合された2個のテトラエチレングリコールスペーサーを表す。
【0062】
プライマー及び捕捉プローブは、既知の出発物質と手順を採用し、Applied Biosystems Model 380B、3本カラム式DNA合成機、標準ホスホラミダイト化学法及びABI1μモルスケールの高速サイクルプロトコールによって調製した。ヌクレオシド−3’−ホスホラミダイト及びヌクレオシド誘導化制御細孔ガラス支持体はApplied Biosystemsから入手した。すべての精製は、核酸用精製カラムと続いて逆相HPLC技法によって行った。
【0063】
捕捉プローブを形成するため、これらのプローブを、従来の乳化重合法を用いてポリ〔スチレン−コ−3−(p−ビニルベンジルチオ)プロピオン酸〕(重量比95:5、平均直径1μm)から調製したポリマー粒子(平均直径1μm)に共有結合させた。粒子を水に懸濁させた懸濁液を、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸緩衝液( 0.1モル,pH6)で洗浄し、そして固形分が約10%となるように懸濁させた。洗浄した粒子の試料( 3.3mL)を希釈して、緩衝液中固形分が3.33%( 0.1モル)となるようにし、それを1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(2.1mL, 84mg/mL, 水で調製)およびプローブ( 983μL, 44.44OD/mL,ナノ純水で調製)と混合させた。得られた懸濁液を水浴中50℃で約2時間断続的に混合しながら加熱し、そして遠心分離した。次いで、(エチレンジニトリロ)四酢酸二ナトリウム塩(0.0001モル)を含むトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(0.01モル,pH8)で粒子を3回洗浄し、そしてそれに再懸濁して固形分4%となるようにした。
【0064】
米国特許出願第4,948,561号明細書(Hinckleyら)に詳細に記載されているように、緩衝液を用いて固形分0.25%にまで希釈した捕捉試薬(1.2μl)を、SURECELL(商品名)ディスポーザブル試験素子(Eastman Kodak社製)のテストウェルにおいて微多孔質膜(LOPRODYNE(商品名)ポリアミド膜、平均孔径5μm、Pall社製)の画定された領域に適用して乾燥させた。
【0065】
PCRは、米国特許第5,089,233号明細書(本明細書ではこれを参照することにより取り入れることとする)に詳細に記載されている自動化されたKodak PCR処理装置を用い、以下の実施例に記載した加熱及び冷却プロトコールに従い実施した。
【0066】
サーマス・アクアティクス( Thermus aquaticus )由来の組換えDNAポリメラーゼは、従来の方法を用いて入手した。
グリセロール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液及びdNTPは、Sigma Chemicalより入手した。
【0067】
常用の方法により8E5/LAV細胞系統からコピー数の少ない標的HIV−I DNAを抽出した。細胞を溶解しタンパク質を消化した後、そのDNAをフェノール/クロロホルム抽出法で精製した。すなわち、細胞懸濁液にトリス飽和フェノール(750μl)を加え、そしてフェノール/溶解物液を混合して遠心分離法で分離した。次いで、その水相を新しい2mlのチューブに移した。この手順をクロロホルムイソアミルアルコールを用いて繰り返した。その水層を0.3モル酢酸ナトリウムにした。95%のコールドエタノールを加えて−70℃で1時間保存することにより核酸を析出させた。次いで、HIV−I DNAの濃度をA260 において測定し、そして実験用として、TE緩衝液〔トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(1ミリモル)及び(エチレンジニトリロ)四酢酸(0.1ミリモル)〕においてコピー数の異なる一連の希釈液を調製した。
【0068】
コピー数の多いβ−グロブリン DNAは、1細胞当たり2コピーのβ−グロブリン遺伝子を有すると考えられるヒト胎盤DNA(0.5mg/ml)において得られた。
【0069】
ロイコ色素分散体は、アガロース( 0.5%)、4,5−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)−2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)イミダゾール・ロイコ色素( 250マイクロモル)、ジエチレントリアミン五酢酸( 100マイクロモル)、4′−ヒドロキシアセトアニリド(5ミリモル)、ポリビニルピロリドン( 112ミリモル)およびリン酸ナトリウム,一塩基性,一水和物(10ミリモル)を含むものとした。
【0070】
実施例で用いたコンジュゲート溶液は、市販のストレプトアビジンおよび西洋ワサビペルオキシダーゼのコンジュゲート(Zymed Laboratories社)( 126μL/L )、カゼイン( 0.5%)およびメルチオレート( 0.5%)をリン酸緩衝塩化ナトリウム水溶液(リン酸ナトリウム24ミリモル及び塩化ナトリウム75ミリモル)に含むものとした。コンジュゲートの最終濃度は312ng/mlであった。
【0071】
実施例で用いた洗浄溶液は、塩化ナトリウム( 373ミリモル)、(エチレンジニトリロ)四酢酸二ナトリウム塩( 2.5ミリモル)、デシル硫酸ナトリウム(38ミリモル)及びエチル水銀チオサリチル酸,ナトリウム塩(25マイクロモル)を、リン酸ナトリウム,一塩基性,一水和物緩衝液(25ミリモル,pH7.4 )に含むものとした。
【0072】
反応混合物には「TP4」モノクローナル抗体を使用した。この抗体は、サーマス・アクアティクス( Thermus aquaticus )由来のDNAポリメラーゼに特異的なものであって、最近特許された米国特許出願第07/958,144号明細書(上記)に詳細に記載されている。
【0073】
ポリメラーゼ連鎖反応混合物(100ml)は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(10ミリモル、pH8)、塩化カリウム(50ミリモル)、塩化マグネシウム(10ミリモル)、dATP、dCTP、dGTP及びdTTP(各1.5モル)、プライマー(各々0.4又は1μモル)、ゼラチン(0.01%)、上記DNAポリメラーゼ(100μl当たり4又は16単位)並びに「TP4」モノクローナル抗体(DNAポリメラーゼに対してモル比50:1)を含むものとした。
【0074】
残りの試薬および材料は、市販のものを使用したか、または従来の方法を用いてEastman Kodak 社で調製した。
実施例1及び2:増幅したHIV−I DNAの検出
これらの実施例は、コピー数の多い標的核酸のβ−グロブリン DNAの存在下でコピー数の少ない標的核酸のHIV−I DNAを同時増幅して検出する本発明を例示するものである。
【0075】
上記のPCR反応混合物は、コピー数5又は10のHIV−I DNAと、コピー数約100万のβ−グロブリン DNAと、各種量のDNAポリメラーゼ及びプライマー(各プライマー組の各プライマーにつき0.4又は1マイクロモル)とを含むものとした。
【0076】
対照用のPCRプロトコールは40回の増幅サイクルを含み、各サイクルは以下の通りとした。
1)95℃で15秒間(最初のサイクルのみ195秒間)加熱して変性させる。
2)64℃で30秒間プライミング(アニーリング)及び伸長させる。
【0077】
本発明のPCRプロトコールは以下の通りとした。
1)25回の一次増幅サイクル。各サイクルは以下の通り。
A)95℃で15秒間(最初のサイクルのみ195秒間)加熱して変性させる。
B,C)64℃で30秒間プライミング(アニーリング)及び伸長させる。
2)15回の二次増幅サイクル。各サイクルは以下の通り。
A)95℃で15秒間加熱して変性させる。
A’)75℃で15秒間(実施例1)又は30秒間(実施例2)加熱する。
B,C)64℃で30秒間プライミング(アニーリング)及び伸長させる。
【0078】
第一組のアッセイを、反応混合物中に100μl当たり16単位のDNAポリメラーゼとコピー数10のHIV−I DNAを用いて実施した。第二組のアッセイを、反応混合物中に100μl当たり4単位のDNAポリメラーゼとコピー数5のHIV−I DNAを用いて実施した。
【0079】
増幅生成物の検出は、以下の方法で行った。最終増幅反応混合物の一部(5μl)を、緩衝液〔トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(10ミリモル、pH8)、塩化カリウム(50ミリモル)、塩化マグネシウム(10ミリモル)及びゼラチン(0.01%)〕(95μl)と混合し、95℃で5分間インキュベートし、核酸を変性させた。次いで、得られた溶液をSURECELL(商品名)試験素子に移し、増幅された標的核酸を捕捉プローブに50℃でハイブリダイズできるようにした。
【0080】
次いで、試験素子のテストウェルを、緩衝液〔リン酸二水素ナトリウム(10ミリモル)、塩化ナトリウム(150ミリモル)、デシル硫酸ナトリウム(1%)及びエチレンジアミン四酢酸(1ミリモル)〕(250μl、pH7.4)を用いて55℃で洗浄した。室温で、上記ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼコンジュゲート液(50μl)を各テストウェルに加えてその膜を透過させた。2分後、テストウェルを2回洗浄した。
【0081】
上記のロイコ色素分散液(100μl)を各テストウェルに加え、そしてその素子を室温で2分間インキュベートした。アジ化ナトリウム(0.1%)の溶液(100μl)を加えて発色を停止させた。
【0082】
アッセイで得られた色素シグナルを、濃度スケール0〜10(最高濃度)上で可視的に等級化した。アッセイの結果を以下の表1と表2に示す。表1は第一組のアッセイ(DNAポリメラーゼ高濃度、HIV−1 DNAコピー数10)の結果であり、また表2は第二組のアッセイ(DNAポリメラーゼ低濃度、HIV−1 DNAコピー数5)の結果である。
【0083】
上記したように、実施例1は15秒間の復元工程を含み、また実施例2は30秒間の復元工程を含んだ。対照用のアッセイには復元工程は含まれない。
【0084】
【0085】
【0086】
これらの結果から、PCRの後のサイクルに生成物復元工程を導入すると、コピー数の少ない標的核酸の増幅から得られるシグナルが増大することがわかる。この改善は、アッセイにおけるDNAポリメラーゼ濃度及びプライマー濃度の両方の濃度について認められた。
【0087】
本発明をその好ましい態様を特に参照して詳細に記載してきたが、変更および修正が本発明の精神および範囲内で可能であることは理解されるであろう。
【0088】
【配列表】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
Claims (15)
- 2種以上の標的核酸を同時増幅する方法において、
(1)毎回約20〜約360秒間を要する少なくとも15回の一次増幅サイクルであって、各サイクルが下記工程A〜C:
A)2種以上の標的核酸又はそれらのプライマー伸長生成物の反応混合物であって、前記標的核酸の少なくとも1種がコピー数の少ない標的核酸であり且つ前記標的核酸の他の少なくとも1種が前記コピー数の少ない標的核酸の1000倍以上の濃度で存在するものと予想されるコピー数の多い標的核酸である反応混合物を加熱する際に、前記コピー数の多い標的核酸及びコピー数の少ない標的核酸又はそれらのプライマー伸長生成物の鎖を変性するために約85〜約100℃の第一温度T1 に加熱する工程、
B)(TmH−15)℃≦T2 ≦(TmH+5)℃
〔式中、TmHはコピー数の多い標的核酸に対するプライマーの融解温度である〕で規定される第二温度T2 まで冷却することによって、増幅すべき各標的核酸の対向鎖に特異的であり且つハイブリダイズすることができる一組のプライマーで前記変性された鎖をプライミングする工程、及び
C)前記工程Bの延長としてか又は別の工程において、
(TmH−15)℃≦T3 ≦(TmH+15)℃
で規定される第三温度T3 でのインキュベーションによって、PCR試薬の反応混合物中でプライマー伸長生成物を形成する工程〔但し、前記プライミング工程とプライマー伸長生成物形成工程とを同一工程において実施する場合にはT2 とT3 を同じとする〕、
を逐次工程として含む一次増幅サイクル、並びに
(2)毎回約20〜約360秒間を要する少なくとも5回の二次増幅サイクルであって、前記工程A〜Cを逐次反復する各二次増幅サイクルにおける工程Aと工程Bとの間に、反応混合物を、
(TmH+5)℃≦T4 ≦TPH
〔式中、TPHは前記コピー数の多い標的核酸の二本鎖の融解温度である〕で規定される第四温度T4 まで冷却して該温度で約15〜約120秒間維持する二次増幅サイクル
を含む核酸の同時増幅方法。 - 一次増幅サイクル及び二次増幅サイクル共に、その工程Bと工程Cとを同一工程として約62〜約68℃の同じ温度で実施する、請求項1記載の方法。
- 前記コピー数の少ない標的核酸が感染性因子と関連している、請求項1記載の方法。
- 前記コピー数の少ない標的核酸がウイルス性感染性因子と関連している、請求項3記載の方法。
- 前記コピー数の少ない標的核酸がHIV−I又はHIV−IIのいずれかと関連しているDNAである、請求項4記載の方法。
- 前記コピー数の少ない標的核酸に対して特異的なプライマーの一方又は両方がビオチン化されており、そして前記コピー数の少ない標的核酸の検出が、増幅後に得られたビオチン化された鎖をこれに相補的な不溶化オリゴヌクレオチドを用いて捕捉し、次いで検出可能に標識されたストレプトアビジンコンジュゲートにより前記ビオチン化された鎖を検出することによって行われる、請求項1記載の方法。
- 前記不溶化オリゴヌクレオチドが磁性粒子又は高分子粒子に共有結合されている、請求項6記載の方法。
- T4 が約65〜約90℃の範囲にある、請求項1記載の方法。
- 15〜35回の一次増幅サイクルと5〜15回の二次増幅サイクルとを含む、請求項1記載の方法。
- 一次増幅サイクルと二次増幅サイクルの各サイクルが約30〜約120秒間行われる、請求項1記載の方法。
- 前記反応混合物が、前記コピー数の少ない標的核酸に対する一組のプライマーと、前記コピー数の多い標的核酸に対する一組のプライマーと、少なくとも4種類のdNTPと、耐熱性DNAポリメラーゼと、前記DNAポリメラーゼのためのコファクターとを含む、請求項1記載の方法。
- 3種以上の標的核酸を、それぞれの標的核酸に対して一組のプライマーを使用することによって増幅する、請求項1記載の方法。
- 各々の融解温度を、以下の式:
Tm =67.5+0.34(%G+C)−395/N
〔上式中、GとCは、オリゴヌクレオチドにおける、それぞれグアニンとシトシンのヌクレオチド数を表し、Nは全ヌクレオチド数を表す〕
を用いて計算する、請求項1記載の方法。 - 工程Aを約95℃で行い、工程Bと工程Cを一緒にして約64℃で行い、そしてT4 を約75℃とする、請求項1記載の方法。
- 反応混合物におけるコピー数の少ない標的核酸に対するプライマーの初期濃度とコピー数の多い標的核酸に対するプライマーの初期濃度とが同じである、請求項1記載の方法。
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