従来の電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。図12に示すように、この電子オルガン61の鍵盤蓋装置62は、演奏部63の両側に配置された左右の腕木64,64と、両腕木64、64の後部間に水平に設けられ、この部分を覆う屋根65と、屋根65の前端部に取り付けられ、演奏部63を開閉する鍵盤蓋66などを備えている。鍵盤蓋66は、その後端部が、屋根65の前端部に複数の蝶番67(1つのみ図示)を介して回動自在に取り付けられている。鍵盤蓋66の裏面の左右両端部には、アーム状のステー68,68が固定されている。他方、左右の腕木64,64の内側面の所定位置には、ストッパピン69,69が突出して設けられている。以上の構成により、鍵盤蓋66を後方に回動させると、ステー68がストッパピン69に係止されることによって、鍵盤蓋66は、それ以上の回動が規制され、斜め後方に所定の角度で傾いた開放状態で保持される。鍵盤蓋66は、この開放状態において、譜面台としても用いられる。
しかし、この鍵盤蓋装置62は、鍵盤蓋66が開放された状態において蝶番67やステー68が演奏者側から見えるため、外観上、好ましくない。
また、従来の他の電子ピアノの鍵盤蓋装置として、図13〜図15に示すものがそれぞれ知られている。図13の鍵盤蓋装置71は、演奏部72の両側に配置された左右の腕木73,73と、アクリルなどの合成樹脂で成形された鍵盤蓋74と、鍵盤蓋74の後端部に取り付けられた補強材75などを備えている。補強材75は、アルミニウムなどの金属の押出成形品で構成され、左右方向に延びるとともにコ字形の断面を有しており、左右の両端部には、側方に突出した支軸(図示せず)が設けられている。左右の腕木73,73の後端部の内側面には軸穴(図示せず)がそれぞれ形成されており、この軸穴に補強材75の支軸が回動自在に係合している。また、補強材75には、鍵盤蓋74の後端部が嵌め込まれている。さらに、演奏部72の後端部には、開放状態において鍵盤蓋74を所定の角度に保持するためのストッパ(図示せず)が設けられている。以上の構成により、鍵盤蓋74は、支軸を中心に回動することにより、開閉されるとともに、開放状態においては、補強材75の後端部がストッパに当接し、係止されることによって、所定の角度に保持され、この状態で譜面台として用いられる。また、アクリルなどから成る鍵盤蓋74を、アルミニウムなどから成る補強材75で補強することによって、鍵盤蓋74の開放状態において、譜面の重さによる鍵盤蓋74のたわみ変形が抑制される。
しかし、この鍵盤蓋装置71では、補強材75を構成するアルミニウムが高価であるため、製造コストが増大してしまう。また、鍵盤蓋74の開放状態では、鍵盤蓋74とこれに立てかけられた譜面の重さによる荷重が、支軸から比較的遠い位置に作用することによって、支軸回りに比較的大きなモーメントが作用する。
この開放状態では、鍵盤蓋74が支軸に近い位置にあるストッパに係止されているので、ストッパ回りのモーメントのバランスにより、支軸には比較的大きな荷重が作用する。このため、腕木73による支軸の支持力が十分でない場合には、鍵盤蓋74に重い譜面を立てかけたときや、強い力を加えたときに、支軸がぶれるおそれがある。その場合には、鍵盤蓋74の開放状態における保持動作や、開閉動作に支障をきたすなどの不具合が生じる。
図14に示す鍵盤蓋装置81は、アクリルなどで構成された鍵盤蓋74の後端部を、演奏部72の後端部に複数の蝶番82を介して回動自在に支持したものである。この構成では、鍵盤蓋74の中央部付近に取り付けられた蝶番82によって、開放状態において譜面が立てかけられた際の鍵盤蓋74のたわみが防止される。しかし、この鍵盤蓋装置81では、演奏者側から蝶番82が見えるため、外観上、好ましくない。
図15に示す鍵盤蓋装置91は、アクリルなどで構成された鍵盤蓋74が取り外し可能な構成になっている。このように鍵盤蓋74が取り外し式であるため、取り外しの作業が煩雑であり、特に幼児が1人で電子ピアノを演奏する場合などには、鍵盤蓋74の着脱が困難である。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、合成樹脂で成形された鍵盤蓋を開放した状態で譜面台として使用する際の鍵盤蓋の変形を防止できるとともに、製造コストの削減および外観の向上を図ることができる電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置を提供することを目的とする。
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵盤を含む演奏部を開閉する電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置であって、演奏部の両側に配置された左右の腕木と、合成樹脂の成形品で構成され、左右の腕木に回動自在に取り付けられるとともに、左右方向に沿って延び且つ閉鎖状態において下方に屈曲する屈曲部を後端部に有する鍵盤蓋と、演奏部に設けられ、鍵盤蓋の開放状態において、屈曲部が当接することによって、鍵盤蓋の後方への回動を規制するストッパと、を備えていることを特徴とする。
この電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置によれば、鍵盤蓋を閉じた状態(閉鎖状態)から持ち上げると、鍵盤蓋は、後方に回動し、その後端部に設けられた屈曲部がストッパに当接することによって、それ以上の後方への回動が規制され、この開放状態で譜面台として用いることが可能になる。鍵盤蓋は、その後端部に設けられた左右方向に延びる屈曲部によって、剛性が高められているので、重い譜面が立てかけられた場合でも、その重さによる後方へのたわみを抑制できる。さらに、開放状態では、鍵盤蓋は左右の腕木だけでなくストッパによっても支持されるため、鍵盤蓋および譜面の荷重をバランスよく支持でき、したがって、鍵盤蓋の変形をさらに抑制できる。
このように、鍵盤蓋の剛性をこれと一体に成形された屈曲部によって確保できるため、従来のアルミニウムなどから成る補強材が不要になり、製造コストを削減することができる。また、鍵盤蓋の剛性の確保や、鍵盤蓋の回動の規制のために設けられていた従来の蝶番やステーが不要になり、それにより外観を向上させることができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、鍵盤蓋を左右の腕木に回動自在に取り付けるための左右の取付具をさらに備え、左右の腕木の内側面には係合凹部が形成されており、取付具は、内方に開口し且つ前後方向に連続する凹部を有し、凹部に鍵盤蓋の左右の両端部の後端部を嵌め込んだ状態で鍵盤蓋が取り付けられた蓋取付部と、蓋取付部から外方に突出し、左右の腕木の係合凹部にそれぞれ回動自在に係合する支軸部と、を有し、屈曲部の左右の両端部が、取付具の蓋取付部よりも大きな所定の幅で切り欠かれていることを特徴とする。
この構成によれば、鍵盤蓋は、蓋取付部および支軸部を有する取付具を介して、左右の腕木に回動自在に取り付けられている。具体的には、蓋取付部の凹部に、鍵盤蓋の左右の両端部の後端部を嵌め込み、取付具の支軸部を左右の腕木の係合凹部に係合することによって、鍵盤蓋は左右の腕木に回動自在に取り付けられる。このように、取付具を用いることにより、合成樹脂で構成された鍵盤蓋を、左右の腕木に支障なく取り付けることができる。また、取付具は、鍵盤蓋の左右の両端部の後端部に設けられるだけなので、演奏者側から見えにくく、外観を良好に保つことができる。
また、屈曲部の左右の両端部は、取付具の蓋取付部よりも大きな所定の幅で切り欠かれている。したがって、取付具を左右の腕木にそれぞれ取り付けた状態で、鍵盤蓋の左右の両端部を、屈曲部が邪魔になることなく、左右の蓋取付部の凹部に前方から差し込み、鍵盤蓋を後方にスライドさせることができ、それにより、鍵盤蓋を取付具に容易に取り付けることができる。
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、左右の腕木の少なくとも一方に設けられ、腕木に固定されたダンパ本体と、ダンパ本体に対して回動自在で、内方に突出するとともに、鍵盤蓋に回転不能に連結され、鍵盤蓋が閉鎖側へ回動するときに、鍵盤蓋を制動する回動軸と、を有するロータリーダンパをさらに備えていることを特徴とする。
この構成によれば、鍵盤蓋の開閉の際に、鍵盤蓋から手を離した場合でも、鍵盤蓋は、ロータリーダンパの働きによって、閉鎖側への回動が制動され、緩やかに閉鎖する。したがって、鍵盤蓋が急激に閉じることがなくなり、鍵盤蓋や鍵盤の破損を防止することができる。
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、回動軸は、非円形の断面を有しており、鍵盤蓋の裏面の左右の端部の少なくとも一方に取り付けられ、後方および上方に開放し、鍵盤蓋の裏面とともに、回動軸を回転不能に係止する係止凹部を形成する切欠を有する回動軸連結部材をさらに備えていることを特徴とする。
この構成によれば、ロータリーダンパの回動軸は、鍵盤蓋とその裏面に取り付けられた回動軸連結部材の間に形成された係止凹部に嵌め込まれる。また、回動軸は、非円形の断面を有しているため、係止凹部に嵌め込まれることで、これに回転不能に係止され、その結果、係止凹部が形成されている鍵盤蓋に対して回転不能に取り付けられる。以上により、鍵盤蓋と腕木の間に、ロータリーダンパを支障なく取り付けることができ、ロータリーダンパによる鍵盤蓋の制動効果を得ることができる
さらに、鍵盤蓋の裏面によって係止凹部が形成されるとともに、この係止凹部は後方に開口している。このため、ロータリーダンパをあらかじめ腕木に取り付け、腕木から内方に突出した回動軸の上に、鍵盤蓋の後端部を載せた状態で、鍵盤蓋を後方にスライドさせることによって、その係止凹部に回動軸を嵌め込むことができる。したがって、鍵盤蓋にロータリーダンパの回動軸を容易に取り付けることができる。
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、回動軸連結部材は、鍵盤蓋の裏面に順に重ねられた第1および第2の板材で構成され、第2の板材は、第1の板材よりも後方に突出する突出部を有し、切欠は、突出部の内側に形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、長さの異なる2枚の板材を重ね合わせるだけで、切欠を有する回動軸連結部材を簡単に構成することができる。
請求項6に係る発明は、請求項1に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、鍵盤蓋を左右の腕木に回動自在に支持するために、鍵盤蓋および左右の腕木の一方に設けられた左右の支軸と、嵌合孔を有し、腕木および演奏部の少なくとも一方に固定され、支軸に嵌合孔を介して嵌合することによって、支軸の軸ぶれを阻止する軸ぶれ阻止具と、をさらに備えていることを特徴とする。
この構成によれば、腕木および演奏部の少なくとも一方に固定された軸ぶれ阻止具が、嵌合孔を介して、鍵盤蓋を支持する支軸に嵌合しているため、支軸が径方向に移動しようとしても、軸ぶれ阻止具に当接することによって、それ以上の移動が阻止される。したがって、鍵盤蓋に重い譜面を立てかけた場合や、強い力を加えた場合でも、支軸のぶれを阻止でき、それにより、開放状態における保持動作の悪化などを防止することができる。
請求項7に係る発明は、請求項4または5に記載の電子鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、ロータリーダンパの回動軸の基端部は、円形の断面を有しており、嵌合孔を有し、腕木および演奏部の少なくとも一方に固定され、回動軸の基端部に嵌合孔を介して嵌合することによって、回動軸の軸ぶれを阻止する軸ぶれ阻止具をさらに備えていることを特徴とする。
この構成によれば、ロータリーダンパの回動軸は、基端部の断面が円形で、基端部以外の部分は断面が非円形である。そして、この断面円形の基端部に、腕木および演奏部の少なくとも一方に固定された軸ぶれ阻止具が、嵌合孔を介して嵌合している。したがって、請求項6の場合と同様、譜面に重い譜面を立てかけた場合などにおいて、回動軸に大きな力が作用したときでも、回動軸のぶれを阻止することができる。また、回動軸の基端部が断面円形であるため、嵌合孔をこれにぴったり嵌合するような円形状にすることによって、回動軸をバランスよく円滑に支持することができる。さらに、回動軸の基端部以外の部分は、断面が非円形のままであるので、前述した請求項4および5の効果を維持することができる。
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら、詳細に説明する。図1および図2は、本発明の第1実施形態による鍵盤蓋装置を備えた電子ピアノを示している。同図に示すように、この電子ピアノ1は、脚を持たない卓上型のものであり、鍵盤3やコントロールパネル4などを含む演奏部5と、演奏部5を開閉するための鍵盤蓋装置2を備えている。鍵盤蓋装置2は、左右方向に延びる演奏部5の両側に配置された左右の腕木6,6(一方のみ図示)と、腕木6,6に回動自在に取り付けられ、演奏部5を開閉する鍵盤蓋7と、演奏部5に設けられたストッパ8などで構成されている。
腕木6は、上下および前後方向に延びる板状のものであり、後部から中央部のやや後ろ側まで一定の高さを有し、それよりも前側の部分は、前方に向かって直線状に徐々に低くなっている。また、腕木6の上面の前端部および後端部には、丸みが付けられている。各腕木6の内側面には、その後ろ側および上側の角部に、係合凹部9(図4参照)が形成されており、この係合凹部9には、プラスチック製のつば10a付きの円筒状の軸受10が嵌め込まれている。さらに、腕木6,6の前端部間には口棒11が、後端部間には裏板12が、それぞれ固定されている。
鍵盤蓋7は、合成樹脂、例えばアクリルの射出成形品で構成され、一定の厚さおよび側断面形状を有しており、閉鎖状態において左右の腕木6,6の上面に沿うように延びる本体部7aと、その後端部に連続する屈曲部7bを一体に備えている。この屈曲部7bは、鍵盤蓋7の閉鎖状態において斜め前下がりに延びるように、本体部7aに対して所定の角度で鋭角的に屈曲しており、所定の長さを有している。また、本体部7aの左右の両側部には、その後端部、すなわち屈曲部7bに近い位置に、取付具13,13が取り付けられており、鍵盤蓋7は、これらの取付具13,13を介して、腕木6,6に回動自在に取り付けられている。さらに、屈曲部7bの左右の両端部は、取付具13の後述する蓋取付部13aよりも大きな所定の幅で切り欠かれており、切欠14になっている(図4参照)。また、本体部7aの裏面の両端部には、切欠14よりも前側の位置に、前後方向に延びる金属製の当て板18が両面テープなどによって、取り付けられている(図5参照)。なお、鍵盤蓋7の前端面は、閉鎖状態において、口棒11の上面に当接している。
上記の取付具13は、金属、例えば軟鋼で構成されており、図4に示すように、鍵盤蓋7に取り付けられた蓋取付部13aと、この蓋取付部13aから外側方に突出し、腕木6に取り付けられた支軸部13bで構成されている。図5に示すように、蓋取付部13aは、断面コ字状に形成されており、その内側方に開口し且つ前後方向に連続する凹部15を有している。具体的には、蓋取付部13aは、上板16a、下板16b、およびこれらの外側端間をつなぐ側板16cで構成されており、下板16bには、前後2つのねじ孔17、17(1つのみ図示)が形成されている。そして、鍵盤蓋7の各側端部に、取付具13の凹部15を嵌め込み、その下板16bの各ねじ孔17にねじ19をねじ込み、その先端を鍵盤蓋7の裏面の当て板18に当接させた状態で、ねじ19を締め付けることによって、取付具13が鍵盤蓋7に取り付けられている。図4に示すように、支軸部13bは、側板16cの後端部から外側方に突出するとともに、軸受10を介して、腕木6の係合凹部9に回動自在に嵌め込まれている。この場合、軸受10のつば10aは、腕木6と鍵盤蓋7との間隔を適正に保つためのスペーサの役割を果たす。
図1および図2に示すように、演奏部5は、腕木6,6間を左右方向に延びるシャーシ21と、複数の鍵22(白鍵および黒鍵を各1つのみ図示)からなる鍵盤3および複数のハンマー23(1つのみ図示)と、コントロールパネル4などを備えている。シャーシ21は、鍵盤3やハンマー23を支持するとともに、左右方向に延びる前後の連結バー24などを介して、棚板25に支持されている。コントロールパネル4は、鍵22の後部の上方に左右方向に延びるように配置されるとともに、腕木6,6に取付部材(図示せず)などを介して固定されている。コントロールパネル4には、各種のスイッチ(図示せず)が設けられ、その下方には、基板26が取り付けられており、発音などを制御する制御装置(図示せず)に接続されている。また、コントロールパネル4の前端部には、譜面受27が設けられている。この譜面受27は、断面が台形の突起状のもので、左右方向に延びており、開放された鍵盤蓋7との間に、譜面Sが立てかけられる。
図3に示すように、コントロールパネル4の後ろ側の部分は、上下方向に対して若干の角度をもって前下がりに傾斜しており、その背面には、複数のねじ28を介して、ストッパ8が取り付けられている。このストッパ8は、例えば折り曲げ加工された鉄板で構成され、左右方向に延びており、取付部8a、係止部8bおよび逃げ部8cで構成されている。取付部8aは、コントロールパネル4の背面に、これに沿うように取り付けられており、背面を越えて若干上方に延びている。また、係止部8bは、取付部8aの上端から鋭角状に斜め後ろ下がりに所定の長さ延び、その後端から逃げ部8cが、係止部8bに対してほぼ直角に斜め後ろ上がりに所定の長さ延びている。
次に、上記の構成の鍵盤蓋装置2による鍵盤蓋7の開閉動作を、図1〜図3を参照しながら説明する。図1に示すように、鍵盤蓋7が閉じた状態では、鍵盤蓋7の前端面は口棒11の上面に当接しており、鍵盤蓋7は演奏部5を覆っている。この閉鎖状態から鍵盤蓋7を持ち上げると、鍵盤蓋7は、支軸部13bを中心として同図の時計回りに回動する。この回動に伴い、屈曲部7bは、前方のストッパ8に向かい、その係止部8bおよび逃げ部8cを回り込むように回動する。そして、鍵盤蓋7が所定の角度まで回動すると、屈曲部7bは、ストッパ8に当接し、その位置でストッパ8に係止される。具体的には、図3に示すように、鍵盤蓋7は、その屈曲部7bの本体部7a側の面が係止部8bの下面に当接し、且つ屈曲部7bの先端が取付部8aの背面に当接することによって、ストッパ8に係止される。これにより、鍵盤蓋7は、それ以上の後方への回動が規制され、この位置が開放状態になる(図2および図3の状態)。
一方、鍵盤蓋7を開放状態から閉鎖する場合には、鍵盤蓋7を手前に引く。これにより、鍵盤蓋7が支軸部13bを中心に反時計回りに回動する。これに伴い、屈曲部7bは、ストッパ8から離れることによって、係止が解除され、係止部8bおよび逃げ部8cを回り込むように回動する。そして、鍵盤蓋7の前端面が口棒11の上面に当接することにより、図1に示す閉鎖状態に復帰する。
以上の構成によれば、鍵盤蓋7は、左右方向に延びる屈曲部7bによって、剛性が高められているので、開放状態において、譜面受27との間に重い譜面Sが立てかけられた場合でも、譜面Sの重さによる鍵盤蓋7の後方へのたわみを抑制することができる。このように、本体部7aと一体に成形された屈曲部7bによって、剛性が確保されているので、従来のアルミニウムなどから成る補強材が不要になり、製造コストを削減することができる。同じ理由から、従来の蝶番が不要になる。さらに、鍵盤蓋7の屈曲部7bがストッパ8に係止されることによって、鍵盤蓋7の後方への回動を規制するので、従来のステーが不要になる。以上の結果、外観を向上させることができる。
また、ストッパ8の取付部8aと係止部8bの間、および係止部8bと逃げ部8cの間で2段階に屈曲していることによって、ストッパ8の剛性が高められている。したがって、開放状態において、ストッパ8が、屈曲部7bと協働することによって、鍵盤蓋7の後方へのたわみをさらに抑制することができる。また、ストッパ8の逃げ部8cが、係止部8bの後端から斜め後ろ上がりに屈曲していて、前述したように、鍵盤蓋7の開閉の際に屈曲部7bが逃げ部8cを回り込むので、ストッパ8への屈曲部7bの係止およびその解除を円滑に行うことができる。なお、ストッパ8の剛性が確保できるのであれば、逃げ部8cを省略してもよい。
さらに、開放状態では、鍵盤蓋7は、左右の支軸部13b,13bだけでなく、ストッパ8によっても支持されるため、鍵盤蓋7および譜面Sの荷重をバランスよく支持でき、したがって、鍵盤蓋7の変形をさらに抑制できるとともに、支軸部13bが破損するおそれなどもなくなる。
次に、鍵盤蓋7を左右の腕木6,6に取り付ける方法を、図4および図5を参照しながら説明する。まず、腕木6,6の各係合凹部9に軸受10を嵌め込み、さらにこの軸受10に取付具13の支軸部13bを嵌め込み、取付具13を各腕木6に取り付ける。次に、左右の取付具13,13の凹部15、15に、鍵盤蓋7の左右の切欠14,14の部分を差し込んだ後、鍵盤蓋7を後方にスライドさせる。そして、その状態で、鍵盤蓋7を後方に回動させ、取付具13の下板16bの各ねじ孔17に、ねじ19をねじ込み、その先端を当て板18に当接させた状態で締め付けることによって、鍵盤蓋7が取付具13に固定される。以上により、鍵盤蓋7は、取付具13を介して、左右の腕木6,6に回動自在に取り付けられる。
以上のように、屈曲部7bに切欠14,14が形成されていることにより、鍵盤蓋7を取付具13に取り付ける際の鍵盤蓋7の蓋取付部13aへの差し込みおよび後方へのスライドを、屈曲部7bが邪魔になることなく、支障なく行うことができ、したがって、鍵盤蓋7を取付具13に容易に取り付けることができる。また、取付具13を用いることにより、合成樹脂で構成された鍵盤蓋7を、腕木6,6に支障なく取り付けることができる。さらに、取付具13は、鍵盤蓋7の左右の両端部の後端部に設けられるだけなので、演奏者側から見えにくく、外観を良好に保つことができる。
図6は、本発明の第2実施形態による鍵盤蓋装置31を備えた電子ピアノ32を示している。同図において、第1実施形態と同じ構成の部分については、同じ符号を用いて示している。この鍵盤蓋装置31は、第1実施形態と比較して、主に鍵盤蓋33の屈曲部33bの形状が異なり、さらに取付具13,13に代えて、回動軸連結部材34,34およびロータリーダンパ35,35を備えたものである。
ロータリーダンパ35は、左右の腕木36,36の後端部にそれぞれ設けられている。図8に示すように、各腕木36の内側面(1つのみ図示)には、その後ろ側および上側の角部に、ダンパ取付凹部37が形成されている。このダンパ取付凹部37には、ダンパ固定具38を介して、ロータリーダンパ35が固定されている。
ロータリーダンパ35は、例えば油圧式のものであり、正六角形の角柱状のダンパ本体35aと、ダンパ本体35aから内方に突出する回動軸35bで構成されている。回動軸35bは、ダンパ本体35aに回転自在に取り付けられており、基端部35cが断面円形に形成されている以外は平らな矩形の断面を有するとともに、その先端部にはねじ孔39が形成されている。ダンパ本体35aの内部には、オイルが充填されており、ロータリーダンパ35は、このオイルの油圧によって、回動軸35bが所定の一方向に回転するときのみ制動を加え、逆方向への回転に対しては制動を行わない、すなわち無負荷になるように構成されている。また、ダンパ本体35aには、これを取り囲むようにダンパ本体取付具41が設けられている。具体的には、このダンパ本体取付具41は、側面に沿うように巻かれた1枚の金属板で構成されており、その巻き始めと巻き終わりの部分が前方に突出し、上下に重ね合わされていて、この重ね合わされた部分に、左右2つの孔42,42が形成されている。
ダンパ固定具38は、折り曲げた金属板で構成され、前後および上下方向に延びる腕木取付部43と、これの上端の後部および前部から内方に直角にそれぞれ延びるダンパ受け部44aおよびダンパ固定部44bで構成されている。ダンパ固定部44bの高さは、ダンパ受け部44aよりも若干高い。また、腕木取付部43には、3つの孔43aが形成されている。
ダンパ固定部44bには、ダンパ本体取付具41の孔42,42に対応するように、ねじ孔45,45が形成されている。そして、各孔42に通したねじ46をねじ孔45にねじ込むことによって、ロータリーダンパ35が、ダンパ固定具38に固定されている。この状態では、ロータリーダンパ35のダンパ本体35aが、ダンパ受け部44aに載置されている。そして、腕木36のダンパ取付凹部37に、ロータリーダンパ35およびそれと一体のダンパ固定具38が挿入された状態で、腕木取付部43の各孔43aに通したねじ47によって、ロータリーダンパ35は、ダンパ固定具38を介して、腕木36に固定されている。
図6および図7に示すように、鍵盤蓋33は、第1実施形態の鍵盤蓋7と比較して、屈曲部33bの形状が主に異なっている。この屈曲部33bは、本体部33aの後端部から、後方および下方に円弧状に若干延びており、その先端部は下方に直線的に延びている。また、鍵盤蓋33の左右の両端部の後端部の所定位置には、前後2つの孔48,48が形成されている(図10(b)に一方のみ図示)。なお、屈曲部33bの左右の両端部は、第1実施形態の屈曲部7bと異なり、切り欠かれていない。鍵盤蓋33の他の部分の構成は、第1実施形態の鍵盤蓋7とほぼ同じである。
図6に示すように、鍵盤蓋33の左右の両端部の後部には、回動軸連結部材34,34が取り付けられている(一方のみ図示)。各回動軸連結部材34は、鍵盤蓋33の裏面に順に重ねられた第1板材34aおよび第2板材34bと、鍵盤蓋33の表面に重ねられた第3板材34cで構成されている。これらの第1〜第3板材34a〜34cは、金属板で構成されるとともに、左右方向の幅が互いに等しく、厚さは鍵盤蓋33と同じである。図10に示すように、第1板材34aは、矩形状のものであり、その後端部は、後方および外方に開放するように切り欠かれていて、切欠49になっている。第2板材34bは、切欠49を有しない他は、第1板材34aと同じ形状であり、その後端部は、第1板材34aの切欠49の下側まで延び、その部分が突出部50aになっていて、この突出部50aにねじ孔50が形成されている。第3板材34cは、第1および第2板材34a,34bよりも後方に長く延びており、鍵盤蓋33の本体部33aの後端部および屈曲部33bと同じ形状を有し、それらの表面にぴったり重なり合うようになっている(図9参照)。また、第1〜第3板材34a〜34cには、鍵盤蓋33の孔48,48に対応する位置に、孔48,48がそれぞれ形成されている(図10参照)。
図9に示すように、鍵盤蓋33の表面には第3板材34cが重ねられ、裏面には第1および第2板材34a,34bが順に重ねられている。そして、この状態で互いに連続した第1〜第3板材34a〜34cおよび鍵盤蓋33の孔48,48に、めねじ部(図示せず)を有するねじ受け51,51を表面側から挿入し、これらのねじ受け51,51に、裏面側からねじ52,52をねじ込むことによって、回動軸連結部材34が鍵盤蓋33に固定されている。この状態では、切欠49の上下が、鍵盤蓋33および第2板材34bでそれぞれ塞がれることによって、係止凹部53が形成されている。
図11に示すように、この係止凹部53には、ロータリーダンパ35の回動軸35bが嵌め込まれ、係止されている。そして、図9に示すように、鍵盤蓋33の裏側から、ねじ54が、第2板材のねじ孔50および回動軸35bのねじ孔39にねじ込まれている。以上により、回動軸35bは、鍵盤蓋33に回転不能に係止されるとともに、固定されている。
図7に示すように、コントロールパネル4の背面には、ストッパ55が設けられている。ストッパ55は、例えば折り曲げ加工された鉄板で構成され、左右方向に延びており、取付部55aおよび係止部55bで構成されている。取付部55aは、コントロールパネルの背面に、これに沿うように複数のねじ56(1つのみ図示)で取り付けられており、背面とほぼ同じ高さまで延びている。係止部55bは、取付部55aの上端から鋭角状に斜め後ろ下がりに所定の長さ延びている。
本実施形態の鍵盤蓋33の開閉動作は、第1実施形態の場合と基本的に同じであり、以下、図6および図7を参照しながら説明する。図6に示すように、閉鎖状態から鍵盤蓋33を持ち上げると、鍵盤蓋33は、ロータリーダンパ35の回動軸35bを中心として同図の時計回りに回動する。この回動に伴い、屈曲部33bは、ストッパ55に向かい、その係止部55bを回り込むように回動する。そして、鍵盤蓋33が所定の角度まで回動すると、屈曲部33bは、ストッパ55の係止部55bに当接し、その位置で係止され、この位置が鍵盤蓋33の開放位置になる(図7の状態)。
一方、開放状態から閉鎖する場合は、鍵盤蓋33を手前に引く。これにより、鍵盤蓋33がロータリーダンパ35の回動軸35bを中心に反時計回りに回動する。これに伴い、屈曲部33bが、ストッパ55から離れることによって、係止が解除される。また、ロータリーダンパ35の制動効果によって、鍵盤蓋33は、ゆっくりと閉鎖側に回動する。そして、鍵盤蓋33の前端面が口棒11の上面に当接することにより、図6に示す閉鎖状態に復帰する。
以上の構成により、第2実施形態においても、屈曲部33bによって、鍵盤蓋33の剛性を確保でき、譜面Sの重さによる鍵盤蓋33のたわみを抑制できるなど、前述した第1実施形態による効果を全く同様に得ることができる。さらに、ロータリーダンパ35を備えているので、鍵盤蓋33を開閉する際に、鍵盤蓋33から手を離した場合でも、ロータリーダンパ35による制動効果によって、鍵盤蓋33は緩やかに閉鎖側に回動する。したがって、鍵盤蓋33は急激に閉じることがないので、鍵盤蓋33や演奏部5の破損を防止することができる。
また、ロータリーダンパ35の矩形の断面を有する回動軸35bが、係止凹部53を介して、鍵盤蓋33に回転不能に係止され、固定されているので、鍵盤蓋33と左右の腕木36,36の間に、ロータリーダンパ35,35を支障なく取り付けることができる。
次に、鍵盤蓋33を左右の腕木36,36に取り付ける方法を説明する。まず、各腕木36のダンパ取付凹部37に、ダンパ固定具38を介して、ロータリーダンパ35を固定する。これとは別個に、鍵盤蓋33に回動軸連結部材34,34を取り付け、組み立てる。そして、左右の腕木36,36から内方に突出した回動軸35b,35bの上に、組み立てた鍵盤蓋33の係止凹部53よりも少し後ろ側の部分を載せる。次に、鍵盤蓋33を後方にスライドさせることによって、各回動軸35bに係止凹部53を嵌め込み、係止する。次に、鍵盤蓋33を後方に回動させ、第2板材34bのねじ孔50および回動軸35bのねじ孔39に、ねじ54をねじ込み、締め付ける。以上により、鍵盤蓋33は、ロータリーダンパ35の回動軸35bに回転不能に係止・固定させた状態で、ロータリーダンパ35を介して、左右の腕木36,36に回動自在に取り付けられる。以上のように、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、鍵盤蓋33を、左右の腕木36,36に容易に取り付けることができる。
図16〜図18は第2実施形態の変形例を示している。この鍵盤蓋装置100は、図7に示す第2実施形態の鍵盤蓋装置31に、軸ぶれ阻止具101を付加したものである。この軸ぶれ阻止具101は、左右のロータリーダンパ35,35にそれぞれ取り付けられる(図16に右側のもののみ図示)。軸ぶれ阻止具101は、例えば鉄板をプレスにより打ち抜きおよび折り曲げ加工したものであり、本体部102と、この本体部102から直角に延びる固定部103とから、L字型に形成されている。本体部102の上部および後ろ側の角部には、ロータリーダンパ35の回動軸35bの基端部35cとほぼ等しい径を有する円形の嵌合孔102aが形成されている。固定部103の前側および内側の角部には、固定用の孔103aが形成されている。また、軸ぶれ阻止具101の前後方向の幅は、図8に示す腕木36のダンパ取付凹部37の前後方向の幅にほぼ等しい。
図17に示すように、コントロールパネル4の水平に延びる後部の所定位置には、ねじ孔105が形成されている。そして、軸ぶれ阻止具101は、図18に示すように、その嵌合孔102aがロータリーダンパ35の回動軸35bの基端部35cに嵌合した状態で、ねじ104を固定部103の孔103aに通し、コントロールパネル4のねじ孔105にねじ込むことによって、コントロールパネル4に固定されている。
以上の構成によれば、コントロールパネル4に固定された軸ぶれ阻止具101が、その嵌合孔102aを介してロータリーダンパ35の回動軸35bの基端部35cに嵌合している。したがって、鍵盤蓋33に重い譜面を立てかけた場合や、強い力を加えた場合でも、回動軸35bのぶれを、これに嵌合する軸ぶれ阻止具101によって阻止でき、開放状態における保持動作や、開閉動作の悪化などを防止することができる。また、回動軸35bの基端部35cが断面円形であるとともに、嵌合孔102aが、これと同じ径を有し、ぴったり嵌合しているので、回動軸35bをバランスよく円滑に支持することができる。また、軸ぶれ阻止具101が、ロータリーダンパ35やダンパ固定具38を覆うので、これにより、開放状態における電子ピアノ32の外観を向上させることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、本実施形態では、屈曲部7bの厚さと鍵盤蓋7の厚さが等しく設定されているが、屈曲部7bを本体部7aよりも厚くすることによって、さらに剛性を高めてもよい。また、鍵盤蓋7の屈曲部7bおよびストッパ8の形状やサイズは、これらの剛性を確保でき、且つ鍵盤蓋7をストッパ8により確実に係止できるものであれば、本実施形態に限らず任意である。さらに、ストッパ8は左右方向に連続して延びているが、例えば複数のストッパ8を間隔を隔てて設けてもよく、特に鍵盤蓋7がたわみやすい中央部付近に重点的に設けてもよい。また、第1および第2板材34a,34bを一体に成形した部材を用いてもよい。また、本実施形態のロータリーダンパ35は油圧式のものであるが、ばね式や摩擦式のものを使用してもよい。
また、実施形態では、軸ぶれ阻止具101を、ロータリーダンパ35の回動軸35bの軸ぶれを防止するために適用したが、第1実施形態の取付具13の支軸部13bの軸ぶれを防止するのに用いてもよく、それにより、前述した効果を同様に得ることができる。また、軸ぶれ阻止具101をコントロールパネル4に固定したが、演奏部5のコントロールパネル4以外の部分や、腕木36など、適当な任意の部位に固定することが可能である。また、実施形態では、本発明を卓上型の電子ピアノに適用した例を説明したが、脚を有する一般的な電子ピアノにも適用できるのはもちろんである。
また、実施形態は、本発明を電子ピアノに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、電子オルガンやシンセサイザなどの他のタイプの電子鍵盤楽器に適用することも、もちろん可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。