JP4128470B2 - 乳幼児用靴 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、乳幼児用靴に関するものであり、特に歩き始めの乳幼児に適した乳幼児用靴に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、靴の靴底の裏面には、滑り止めが形成される。図6は、特開2001−70007号公報に開示された大人の靴の靴底裏面を示している。
【0003】
靴底裏面は、図6に示すように、つま先部Aと中間部Bと踵部Cとから構成される。大人の靴の場合、歩行動作をスムーズに行なうようにするために、一般には、つま先部Aと中間部Bとにまたがって前方滑り止め1が形成され、踵部Cに後方滑り止め2が形成される。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−70007号公報(図18)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
歩き始めの乳幼児の歩行形態と大人の歩行形態とは、全く相違している。そのため、大人の靴に適用された滑り止めと同じ構造のものを歩き始めの乳幼児の靴に適用すると、危険な場合が生じてくる。
【0006】
この発明の目的は、歩き始めの乳幼児に特に適した滑り止め構造を有する乳幼児用靴を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明は、つま先部と中間部と踵部とから構成される靴底裏面に滑り止めを備えた乳幼児用靴を前提とし、以下の点を特徴とする。すなわち、滑り止めは、踵部および中間部の外側領域にのみ形成されている。
【0008】
一つの実施形態では、踵部の滑り止めと、中間部の外側領域の滑り止めとは、連続的に形成されている。
【0009】
上記各構成の作用効果については、発明の実施の形態の項で説明する。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は、土踏まずが形成された大人の足の裏を示している。図中、矢印で示すのは、歩行時の体重移動の軌跡である。大人の歩行時の重心移動に注目すると、最初に踵で接地し、重心が足の外側に移動して、第5中足骨骨頭部より第1中足骨骨頭部に移行し、母趾(第1指)の先端より抜けていく。
【0011】
土踏まずの形成されていない歩き始めの乳幼児の場合には、全く異なった重心移動の軌跡を描く。本願の発明者は、足裏の圧分布計測によって乳幼児の歩行分析を行なった。具体的には、歩き始めと歩き慣れた時期とでは足裏にかかる圧に相違が現れると予測し、歩行時の足裏への荷重負荷の状態および重心を把握するため、圧分布マットを用いて計測を行なった。
【0012】
被験者の生後13ヶ月、14ヶ月、15ケ月時に、呼びかけによる自由歩行で圧分布マット上を歩かせ、荷重変化および重心移動の比較を行なった。実験に使用した圧分布マットは、センサ分解能1[cm2 ]、センサ部のサイズが48cm×44cmで、垂直力を圧情報として出力できる。センサの測定範囲は1.96〜19.6[kPa]、精度は±10%である。このマットを2枚つなげ、有効測定領域が96cm×44cmとなるように設置し、サンプリング周波数100[Hz]で計測を行なった。
【0013】
生後13ヶ月、14ヶ月、15ヶ月時のそれぞれの計測結果の中から、立脚時間がほぼ同一の右足1歩を選出し、比較を行なう。乳幼児の足裏はまだ未発達であり、扁平足であるため、図2に示すように、足長の中心で荷重分布を前部と後部とに分割した。
【0014】
図3は、右足荷重の時間変化を示している。生後13ヶ月、14ヶ月、15ヶ月のときのそれぞれにおいて、後部荷重が0[N]になる時刻を見ると、13ヶ月時で0.19[s]、14ヶ月時で0.29[s]、15ヶ月時で0.31[s]であり、後部への荷重時間が成長に伴って徐々に増加している。これは、ほぼ足全体で着地し、その後踵が浮いてゆくという未熟な歩き方から、踵から着地し、徐々に前部へ荷重を移動してゆく歩き方に発達していることを示している。
【0015】
図4は、足裏の重心移動の軌跡を示している。13ヶ月時では、踵からつま先へ直線状に重心が移動しているのに対し、14ヶ月時、15ヶ月時になるに従い、弧を描いてつま先へ向かって重心が移動している。すなわち、足幅方向へも重心移動があることにより、安定感が得られ、歩行が上達しているのがわかる。
【0016】
本願の発明者は、さらに、乳幼児の左右の足の重心移動の軌跡も調査した。図5は、歩行開始時期の一例として生後13ヶ月(歩行開始後1か月)の乳幼児、および歩き慣れた時期の一例として生後19ケ月(歩行開始後9ヶ月)の乳幼児の重心移動の軌跡、時間因子および距離因子を示している。
【0017】
図5の(a)および(b)を比較すれば明らかなように、歩行開始時期は足中央部へ重心が移動し、そのまま次の足へと移動している。これは、片足立脚時に、重心が前足部へ移動する前に次の足が着地し、両足接地した状態で重心を移動させているためである。すなわち、重心移動が効率良く行なわれていない。
【0018】
歩き慣れた時期では、重心は踵部を通り前足部へ移動し、次の足の踵部へ移動している。すなわち、片足立脚時に踵から前足部への重心移動が見られ、その後次の足が着地している。これは、前足部で地面を蹴る動作の現れであると考えられる。
【0019】
次に1歩行周期中の片足立脚している時間の割合を示す遊脚時間率では、歩行開始時は21.5%、歩き慣れた時期では31.0%と増加しており、片足立脚時の安定性が増している。また、歩幅は、歩行開始時が25.9cmであるのに対し、歩き慣れた時期では37.4cmと大きくなっており、歩行速度も0.63km/hから1.35km/hへと増加している。このことから、歩行の効率が良くなっていると考えられる。
【0020】
以上の計測結果から、歩行開始から歩き慣れて行くに従い歩行時の安定性の増加、歩行効率の増加が見られ、歩行が上達していることが認められた。
【0021】
本発明は、上記のような乳幼児の歩行特性を考慮して、歩き始めの乳幼児に特に適した乳幼児用靴を提供しようとするものである。より特定的には、歩き始めの乳幼児に適した滑り止め構造を提供しようとするものである。
【0022】
図7および図8は、この発明の一実施形態を示している。図7に示すように、乳幼児用靴10は、靴底11を有している。
【0023】
図8に示すように、靴底11は、つま先部Aと中間部Bと踵部Cとから構成されており、裏面の滑り止め12は、踵部Cに形成された後部滑り止め12aと、中間部Bの外側領域に形成された側部滑り止め12bとを有する。
【0024】
図示した実施形態では、後部滑り止め12aと側部滑り止め12bとは、連続的に形成されている。靴底11の裏面領域全体でみると、上記の滑り止め12が形成されている領域以外は、どこにも滑り止めが無く、フラットな面となっている。具体的には、靴底11の裏面のつま先部A、中間部Bの中央領域および内側領域には、滑り止めが形成されていない。
【0025】
前述したように、歩き始めでよちよち歩きの段階の乳幼児の歩行動作は、足裏全体をほぼ同時に地面に接地するぺったん歩きであり、重心移動の軌跡は、踵部分から入り、ほぼ直線的に延びて親指(第1指)のところから抜ける。また、歩き始めの時期の乳幼児は、左右に身体を傾けてふらふらと歩くため、外側に向けて重心をかけることがある。
【0026】
よちよち歩きの乳幼児にとって、靴底裏面の前方部分、すなわち中間部Bからつま先部Aに亘って滑り止めがあると、前方につっかかりが生じてしまい、歩行動作がしづらくなる。
【0027】
乳幼児の歩行動作はぺったん歩きといいながらも、厳密には、まず踵から着地するので、靴底11の踵部Cには滑り止め12aが必要である。さらに歩行動作中に外側によろけたときの滑り止めとして、踵部Cから中間部Bの外側領域にまで滑り止め12bを設けている。そして、その他の部分には、滑り止めを設けず、フラットにして歩行動作時におけるつっかかりを生じさせないようにする。
【0028】
乳幼児の歩行動作が上達し、重心移動の軌跡が円弧状を描くようになれば、乳幼児は、つま先で地面を蹴ることができるようになる。図9〜図11に示す乳幼児用靴20は、このような段階の乳幼児に適したものである。図9は斜視図、図10は側面図、図11は靴底裏面を示している。
【0029】
特に図11から明らかなように、乳幼児用靴20の靴底は、つま先部Aと中間部Bと踵部Cとから構成されており、踵部Cおよび中間部Bの外側領域に滑り止め22が形成されている。つま先で地面を蹴ることができるようになった乳幼児の場合には、靴底21の前方部分、例えば、つま先部Aや中間部Bの中央領域に滑り止めを設けるようにしてもよい。
【0030】
図示するように、つま先部Aと中間部Bとの間の遷移領域の靴底裏面に、幅方向に延びる複数の横溝23が形成されている。複数の横溝23は、歩行時における乳幼児のつま先の曲げ動作に追従して靴底21が容易に曲がるようにするためのものである。
【0031】
複数の横溝23を設けることにより、屈曲する領域は広がる。また、各横溝23は、図9および図10に示すように、その両端が靴底21の側面にまでせり上がっているので、この横溝23が位置する部分では非常に柔らかくなり、よりしなやかに屈曲するようになる。さらに、横溝23は、好ましくは、直線的に延びるのではなく、図示するように乳幼児の足の中足骨アーチに沿うように僅かに湾曲しているので、乳幼児は、靴20を着用している状態でも、裸足で地面の上を歩行しているように自然につま先を曲げることができる。
【0032】
以上、この発明を図面を参照して説明したが、この発明は、図示した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載された発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、図示した実施形態に対して種々の修正や変形を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 大人の足の重心移動の軌跡を示す図である。
【図2】 圧分布分析のために乳幼児の足を前部と後部とに分割したことを示す図である。
【図3】 右足荷重の時間変化を示す図である。
【図4】 足裏の重心移動の軌跡を示す図である。
【図5】 左右の足の重心移動の軌跡を示す図である。
【図6】 大人の靴の靴底裏面を示す図である。
【図7】 この発明の一実施形態の斜視図である。
【図8】 図7の乳幼児用靴の裏面を示す図である。
【図9】 この発明の他の実施形態を示す図である。
【図10】 図9の乳幼児用靴の側面図である。
【図11】 図9の乳幼児用靴の裏面を示す図である。
【符号の説明】
A つま先部、B 中間部、C 踵部、1 前方滑り止め、2 後方滑り止め、10 乳幼児用靴、11 靴底、12 滑り止め、12a 後部滑り止め、12b 側部滑り止め、20 乳幼児用靴、21 靴底、22 滑り止め、23 横溝。
Claims (2)
- つま先部と中間部と踵部とから構成される靴底裏面に滑り止めを備えた乳幼児用靴において、
前記滑り止めは、前記踵部および前記中間部の外側領域にのみ形成されていることを特徴とする、乳幼児用靴。 - 前記踵部の滑り止めと、前記中間部の外側領域の滑り止めとは、連続的に形成されている、請求項1に記載の乳幼児用靴。
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