JP4123597B2 - 強度と靱性に優れた鋼材の製造法 - Google Patents
強度と靱性に優れた鋼材の製造法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、引張強さ(TS)が450MPa以上の靱性に優れた鋼材(鋼板、H型鋼、棒鋼、継目無鋼管および溶接鋼管など)の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼板、H型鋼、棒鋼、継目無鋼管および溶接鋼管などの鋼材、特に構造用の鋼材には、強度と靱性の両特性に優れていることが求められる場合が多い。Niなどの高価な元素の添加をできるだけ回避しつつ前記の要求を満たす鋼材を得るための方法の一つに、再加熱焼入れ法がある。この再加熱焼入れ法では、その処理を有効なものとするために、オーステナイト粒(以下、単にγ粒という)の成長を抑制する析出物の利用が欠かせない。
【0003】
AlNは、γ粒の成長を抑制する析出物として古くから利用されており、変態後の組織を微細化することができる(例えば、昭和60年5月31日発行の「鉄鋼材料学」p.178 参照)。しかし、AlNは、連続鋳造の際にスラブの横ひび割れの原因となる析出物であり、連続鋳造という効率の高い生産方法の適用が著しく困難になることは避けられない。
【0004】
一方、γ粒の成長を抑制する析出物としては、Nb炭化物(NbC)も有効であり(例えば、上記の「鉄鋼材料学」p.205 参照)、この場合、N量は連続鋳造に問題のないレベルにまで低減することができる。しかし、オーステナイト相中へのNbCの溶解度は、図1に示すように、加熱温度を高くすればするほど多くなり、γ粒の成長抑制に寄与する非固溶のNbCが減少する。このため、1000℃以上の高温加熱時にNbCでγ粒の成長抑制を図るためには、高価なNbを多量に添加する必要があり、コスト上昇が避けられない。したがって、現実的には加熱温度を1000℃未満にしなければならない。
【0005】
一方、素材の鋼を目的とする形状の鋼材に成形するためには、熱間鍛造や熱間圧延などの熱間加工を施すが、その際の加熱温度は高ければ高いほど成形が容易で、かつ生産性が高いので、その加熱温度は1000℃を大きく超える。このため、熱間加工終了後に施す調質熱処理用の炉は、別に用意するか、素材の鋼の加熱用の炉の温度を低下させなければならない。したがって、加熱温度を1000℃未満とする従来の方法で鋼材を量産する場合には、設備コストの増加や生産性の低下を招く。
【0006】
このように、従来の方法では、熱処理によって強度と靱性の両方がともに優れた鋼材を生産するためには、熱間圧延や熱間鍛造のための素材加熱条件とは異なる温度条件で製品を加熱して処理しなければならず、生産性や設備コストの面で問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、熱間圧延終了後の鋼材に調質熱処理を施すことによって引張強さ(TS)が450MPa以上の鋼材(鋼板、H型鋼、継目無鋼管および溶接鋼管など)を製造する際、1000℃以上の高温加熱を行っても良好な靱性を有する製品鋼材を得ることができる鋼材の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記の知見に基づいて完成されたもので、その要旨は次の強度と靱性に優れた鋼材の製造法にある。
【0009】
重量%で、C:0.02〜0.15%未満、Si:1%以下、Mn:0.3〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.004%未満、Ti:0.001〜0.017%以下、N:0.008%以下、sol.Al:0.001〜0.1%を含み、さらにCr:0〜1.5%、Mo:0〜1%、V:0〜0.15%、Nb:0〜0.015%、Cu:0〜1.5%、Ni:0〜4%、B:0〜0.003%、Ca:0〜0.004%、Mg:0〜0.003%、REM:0〜0.004%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Ti、SおよびNの関係が下記の(1)式または(2)式を満たす化学組成の鋼からなる鋼材の調質熱処理に際し、1000℃以上に再加熱し、鋼材の温度が850℃以上である間に、2℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れ処理を施す強度と靱性に優れた鋼材の製造法。
【0010】
(Ti/N)<3.4の時
Ti+8.1×S≦0.035・・・(1)
(Ti/N)≧3.4の時
3.4×N+8.1×S≦0.035・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の元素記号は、鋼中のそれぞれの元素の含有量(重量%)を意味する。
【0011】
上記本発明の方法においては、焼入れ処理後の鋼材に、Ac1変態点以下の温度で焼戻す焼戻し処理を施すのが好ましい。また、鋼材は、Ti:0.004〜0.017%、N:0.001〜0.008%を含有し、かつTiとNの関係が下記の(3)式を満たす鋼材であることが好ましく、この場合には溶接熱影響部の靭性がより一層向上する。
【0012】
0.4≦(Ti/N)≦4.0 ・・・(3)
ただし、(3)式中の元素記号は、鋼中のそれぞれの元素の含有量(重量%)を意味する。
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意実験研究を行った結果、次のことを知見した。
【0014】
再加熱焼入れ処理に際しては、γ粒の成長を抑制するピン止め粒子が重要であるが、加熱温度が1000℃を超えると、Nb添加鋼でもγ粒の著しい粗大化が始まり、靱性が著しく低下する。
【0015】
Nbに比べて安価なAlとNの含有量を高めてAlNを形成させる場合には、AlNの方がNbCに比べてオーステナイト相中への溶解度が低く、Nb添加鋼の加熱温度よりも若干高い温度に加熱しても固溶せずに残る。しかし、連続鋳造時のスラブ品質を向上させるためにTiを添加すると、AlNが形成されなくなり、靱性が著しく低下する。
【0016】
γ粒の粗粒化によって靱性は低下するが、この状態でSを低減するとMnSが減少し、遷移温度および吸収エネルギーが著しく改善される。しかし、この効果はγ粒が細粒の場合には余り目立たない。
【0017】
TiNは、上記のMnSと同様に、靱性を著しく低下させるが、NまたはTiの含有量を低減してTiNの析出量を減らすと、遷移温度が改善される。しかし、この効果はγ粒が細粒の場合には目立たない。
【0018】
上記MnSとTiNの低減による靱性改善効果は、鋼の最終組織が上部ベイナイトやマルテンサイトおよびこれらの焼戻し組織を含まない場合にはほとんど現れない。
【0019】
CaやREMなどの介在物形成元素は、γ粒が粗大な場合には、遷移温度を上昇させて靭性を低下させるが、これらの元素の介在物の量を低減すると靭性が向上する。ただし、その悪影響は、MnSやTiNに比べると小さく、靱性面からはMnSやTiNほどにはその介在物量の低減は重要でない。
【0020】
MnSとTiNを充分に低減すると、オーステナイト粒径(以下、単にγ粒径という)が60μmを超えても遷移温度の上昇は軽微である。さらに、γ粒径が100μmを超える部分が生じても、顕著な靭性低下は生じない。
【0021】
MnSおよびTiNに制限を課した条件下では、γ粒を粗粒にすると焼入性が増して引張強さが上昇し、γ粒径を60μm以上とした方が低コストで高強度の鋼材を得ることができる。そのためには、熱処理時の加熱温度を1000℃以上にする必要がある。さらに、加熱温度を1050℃以上にすると、引張強さがより一層上昇する。
【0022】
鋼の化学組成が前記の(1)式または(2)式を満たす場合、加熱温度の許容範囲、特に高温側への許容範囲が広がる。しかし、1200℃を超える加熱温度は、スケールロスや加熱炉の燃料原単位の悪化を招く。
【0023】
上記本発明の方法による場合には、従来のように、ピン止め粒子と細粒組織の確保のために比較的低温で加熱する必要がなく、加熱温度に対する制限を緩和して1000℃以上という高温の加熱で、マルテンサイト、ベイナイトおよびこれらの焼戻し組織を含む最終組織を有し、引張強さ(TS)が450MPa以上で、しかもvTrs(破面遷移温度)が−50℃以下という靭性に優れた鋼材を製造することができる。これは、介在物形成元素の適切な制限による清浄度の向上に伴う靱性向上効果を利用したことによる。
【0024】
なお、本発明でいうところのγ粒径とは、再加熱焼入れまたはその後に焼戻しして得られた最終組織上での旧オーステナイト粒径(以下、単に旧γ粒径という)のことである。また、旧オーステナイト粒界(以下、単に旧γ粒界という)は、マルテンサイト、ベイナイトおよびこれらの焼戻し組織を含む炭素鋼では、ナイタール腐食液でのエッチングによって容易に現出させることが可能である。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における鋼材の化学組成および熱処理条件を上記のように限定した理由を説明する。なお、以下において、「%」は特にことわりがない限り「重量%を意味する。
【0026】
《鋼材の化学組成》
C:
Cは、強度を確保するために必要で、0.02%未満の含有量では必要とする強度を確保することができない。一方、その含有量が0.15%以上であると、溶接した場合に溶接熱影響部、母材ともに靱性が劣化する。したがって、C含有量は0.02〜0.15%未満とした。
【0027】
Si:
Siは、脱酸作用があり、強度上昇にも寄与する。しかし、1%を超えて含有させると靭性が低下するので、1%を上限とした。なお、本発明の鋼材ではAlを含んでいるので、下限は鋼の脱酸に支障を来たさない限り、幾ら少なくても何らの問題もない。このため、Siは必ずしも添加する必要はない。
【0028】
Mn:
Mnは、焼入性を高めるのに効果があり、強度確保に有効な成分である。しかし、その含有量が0.3%未満では、焼入性の不足によって必要とする強度および靱性が確保できない。一方、2.5%を超えて含有させると、偏析が増すとともに焼入性が高まりすぎ、溶接した場合に溶接熱影響部、母材ともに靱性が低下する。したがって、Mn含有量は0.3〜2.5%とした。
【0029】
P:
Pは、不純物として鋼中に不可避的に存在する。しかし、その含有量が0.05%を超えると、粒界に偏析して靭性を低下させるだけでなく、溶接時に高温割れを招く。したがって、P含有量は0.05%以下とした。
【0030】
S:Sは、Mnおよび後述するCaやREMと結合してオキシサルファイド(硫酸化物)を形成し、介在物として鋼中に存在する。これらの介在物は、鋼の強度が低い場合、または組織が十分に細粒の場合には、靱性におおきな悪影響は及ぼさない。しかし、組織がある程度粗大な粗粒組織の場合は、その含有量は前述の(1)式または(2)式を満足するように制限しなければならない。しかし、前述の(1)式または(2)式を満たしても、その含有量が0.004%以上であると、靱性への悪影響は避けられない。したがって、S含有量は0.004%未満とした。より望ましくは、0.003%未満である。
【0031】
Ti:Tiは、通常、鋼中のNを固定して高温延性を改善させるための成分として、0.001%以上含有させる。しかし、TiNは靱性低下の原因となるため、靱性面から許容される範囲は、前述の(1)式または(2)式で限定される。ただし、前述の(1)式または(2)式を満たしても、その含有量が0.017%超になると、靱性が劣化する。したがって、Ti含有量は0.001〜0.017%以下とした。
【0032】
なお、大入熱溶接を行う鋼材については、過度の清浄化はγ粒の過度の粗大化を招いて靱性劣化を招く場合がある。このため、Tiを0.004%以上含有さる一方、後述するようにNを0.001%以上含有させたうえで、Ti/Nの比を0.4〜4.0の範囲に制御するのがよい。
【0033】
N:
Nは、高温延性低下の原因となる不純物であり、通常はTiを添加してTiNの形で固定することで悪影響を回避している。しかし、本発明においては、TiNそのものが靱性低下の原因になるため、TiNの形成を抑制する必要がある。そのため、Nの含有量を低減するか、あるいはTiの含有量を低減する。
【0034】
優れた靱性を得るためのN含有量の範囲は、前述の(1)式または(2)式を満足することが必要であるが、(1)式または(2)式を満足しても、Nの含有量が0.008%超であると、TiNによる靱性低下、あるいは、十分に固定されずに固溶しているNによる靱性への悪影響が無視できなくなる。したがって、N含有量は0.008%以下とした。
【0035】
なお、N含有量を0.001%未満にするとS低減によってMnSが殆ど存在しないようになり、この条件下ではγ粒の粒成長が非常に容易になる。このため、サブマージドアーク溶接法(以下、単にSAWという)などにより、100kJ/cm前後の大入熱にて溶接を行う場合、溶接熱影響部において局部的にγ粒が粗大化することがある。
【0036】
また、本発明の方法で得られた鋼材は、γ粒の粗大化による靱性劣化を起こしにくい性質を持っているが、SAWによる大入熱溶接時の熱影響部では、硬度が分布を持ち、結晶粒の大きさにも不均一が生じるため、靱性面から許容されるγ粒径の上限は300μm程度となる。このため、SAWによる大入熱溶接を前提とする場合には、γ粒成長抑制効果を持つTiNをある程度は含ませなければならず、Nを0.001%以上含有させるのがよく、併せて若干のTiも含有させるのがよい。これに対し、溶接しない鋼材や、SAWによる40kJ/cm以下の小入熱溶接しか行わない鋼材については、経済的に許される限り、Nは可能な限り低減してよい。
【0037】
sol.Al:
Alは、脱酸のために必須の元素であり、sol.Alで0.001%以上を含有させなければ脱酸不足によって鋼質の劣化を招く。しかし、0.2%を超えて含有させると、母材の靭性劣化や、溶接部の靱性低下を招く。したがって、sol.Al含有量は0.001〜0.2%とした。
【0038】
Cr、Mo:
CrとMoは添加しなくてもよいが、いずれの元素も焼入性と焼戻し軟化抵抗を高める作用を有しており、添加すれば、厚肉鋼材の焼入性と焼戻し軟化抵抗を高めることができる。このため、その効果を得たい場合に添加することができ、その効果はいずれの元素も0.02%以上で顕著になる。しかし、Crについては1.5%、Moについては1%を超えて含有させると、溶接部の靭性低下が著しくなる。したがって、添加する場合のCr含有量は0.02〜1.5%、Mo含有量は0.02〜1%とするのが望ましい。
【0039】
V:
Vは添加しなくともよいが、添加すれば、強度が向上するほか焼入性と焼戻し軟化抵抗も向上する。このため、その効果を得たい場合に添加することができ、その効果は0.01%以上で顕著になる。しかし、0.15%を超えて含有させると靭性が著しく低下する。したがって、添加する場合のV含有量は0.01〜0.15%とするのが望ましい。
【0040】
Nb:
Nbは添加しなくともよいが、添加すれば、強度が向上する。このため、その効果を得たい場合に添加することができ、その効果は0.003%以上で顕著になる。しかし、0.015%を超えて含有させると靭性が著しく低下する。したがって、添加する場合のNb含有量は0.003〜0.015%、より好ましくは0.003〜0.01%とするのが望ましい。
【0041】
なお、Nbは、1000℃以下の加熱温度で再加熱焼入れを行う場合においてはγ粒の細粒化に寄与するが、1000℃以上の高温で熱処理する本発明の方法ではγ粒の細粒化に何らの寄与もしない。
【0042】
Cu:
Cuは添加しなくてもよいが、添加すれば、強度および耐食性が向上するほか焼入性も向上する。このため、その効果を得たい場合に添加することができ、その効果は0.05%以上で顕著になる。しかし、1.5%を超えて含有させてもコスト上昇に見合った性能改善は見られない。したがって、添加する場合のCu含有量は0.05〜1.5%とするのが望ましい。
【0043】
Ni:
Niは添加しなくてもよいが、添加すれば、マトリックス(基地)の靭性が向上するとともに安定化するほか焼入性も向上する。このため、その効果を得たい場合に添加することができ、その効果は0.05%以上で顕著になる。しかし、4%を超えて含有させてもコスト上昇に見合った性能改善は見られない。したがって、添加する場合のNi含有量は0.05〜4%とするのが望ましい。
【0044】
B:
Bは添加しなくてもよいが、添加すれば、γ粒界の焼入性を高めて強度上昇に寄与する。このため、この効果を得たい場合に添加することができ、その効果は0.0002%以上で顕著になる。しかし、0.003%を超えて含有させると、γ粒界にB炭窒化物が析出し、靭性低下を招く。したがって、添加する場合のB含有量は0.0002〜0.003%とするのが望ましい。
【0045】
Ca:
Caは添加しなくてもよいが、添加すれば、鋼中のSと反応して硫酸化物を生成する。この硫酸化物は、MnSなどとは異なり、圧延加工によって圧延方向に伸びることがなく、圧延後も球状である。このため、延伸した介在物の先端などを割れの起点とする溶接割れや水素誘起割れ(以下、HICという)を抑制するので、溶接割れやHICの発生が減少するほか靭性も向上する。このため、その効果を得たい場合に添加するのがよく、その効果は0.0002%以上で顕著になる。しかし、0.004%を超えて含有させると、清浄度が悪化し、靭性の低下を招く。したがって、添加する場合のCa含有量は0.0002〜0.004%とするのが望ましい。
【0046】
Mg:
Mgは添加しなくてもよいが、添加すれば、鋼中の酸化物の融点を高め、高温での加工に際して酸化物を変形させにくくする効果がある。この効果は、結晶粒が比較的細粒の鋼では明瞭でないが、本発明のようにγ粒が粗大であることを許容した鋼材においては顕著であり、靭性の向上に大きく寄与する。このため、その効果を得たい場合に添加することができ、その効果は0.0001%以上で顕著になる。しかし、0.003%を超えて含有させると、介在物が増加し、かえって靭性の低下を招く。したがって、添加する場合のMg含有量は0.0001〜0.003%とするのが望ましい。
【0047】
REM:
REMは添加しなくてもよいが、添加すれば、溶接熱影響部の組織の微細化やSの固定に寄与し、靭性が向上する。このため、この効果を得たい場合に添加することができ、その効果は0.0003%以上で顕著になる。しかし、0.004%を超えて含有させると、その介在物量が多くなって清浄度の悪化を招き、かえって靭性が低下する。したがって、添加する場合のREM含有量は0.0003〜0.004%とするのが望ましい。
【0048】
《熱処理条件》
本発明においては、上記の化学組成を有する鋼材を再加熱して熱処理を施すのであるが、その熱処理は、1000℃以上に加熱した後の鋼材の温度が850℃以上である間に、冷却速度2℃/s以上で冷却して焼入れする必要がある。その理由は次の通りである。
【0049】
すなわち、必要な強度と靭性を確保するためには、焼入れ後の組織に占める上部ベイナイトまたはマルテンサイトの量を、少なくとも面積率で40%以上にする必要がある。しかし、加熱温度を1000℃未満にしたのでは、γ粒の粗大化が不十分なために、上記の組織が安定して得られない。これに対して、1000℃以上に加熱する場合には、γ粒が十二分に粗大化し、鋼の焼入れ性が増して十分な量の上部ベイナイトおよびマルテンサイトが得られる。しかし、その際の冷却開始温度が850℃未満、冷却速度が2℃/s未満であると、高温領域において部分的にフェライト変態が生じて強度または靭性が大幅に低下する場合があり、必要な強度と靭性を安定して確保できなくなる。このため、本発明では、その熱処理条件を上記のように定めた。
【0050】
なお、加熱温度の上限は、特に制限されず、γ粒径が700μmを超えない限り幾ら高くてもよい。しかし、1200℃を超える加熱温度を確保するのは、実際の製造ラインでは難しい。また、1200℃を超える高温加熱では、スケールの発生量が多くなって材料歩留まりが低下する。したがって、加熱温度の上限は1200℃とするのが好ましい。
【0051】
冷却は、水冷で十分であるが、必ずしも水冷である必要はなく、上記の冷却速度が確保できるのであれば、油冷や空冷さらには気水冷却であってもよい。
【0052】
本発明においては、上記の焼入れ処理後、必要に応じてAc1 変態点以下の温度域で焼戻しを施してもよく、この場合には、最終製品の強度と靭性の調整を行うことができる。
【0053】
【実施例】
表1に示す化学組成を有する16種類の鋼を真空溶解炉で溶製し、これらの鋼からなる150kgの丸型インゴットを準備した。また、表2に示す化学組成を有する10種類の鋼を実機の250ton転炉で溶製する一方、それらの溶鋼を連続鋳造機で鋳造し、厚さが150〜300mmのスラブを準備した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
各インゴットは、熱間鍛造にて厚さ50〜150mmにした後、鋼No. 1〜8については表3と表5に示す条件、鋼No. 9〜16についてはさらに表3に示す条件にて熱間圧延および熱処理を行って厚さ20〜50mmの製品鋼板に仕上げた。また、厚さが150〜300mmの各スラブは、表4に示す条件にて熱間圧延および熱処理を行って厚さ25〜40mmの製品鋼板に仕上げた。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
得られた各鋼板からは、JIS Z 2201に規定される4号試験片と、同じくJIS Z 2202に規定される4号試験片を採取し、それぞれ引張試験とシャルピー衝撃試験に供し、機械的性質(引張強さTSと降伏強さYS)および靭性(破面遷移温度(vTrs))を調べた。また、表2に示す10種類の鋼から得られた鋼板については、入熱量100kJ/cmのサブマージドアーク溶接(SAW)法で突き合わせ溶接を行い、その溶接部の図2に示す位置からJIS Z 2202に規定される4号試験片を採取し、シャルピー衝撃試験に供して溶接熱影響部(HAZ)の靭性(破面遷移温度(vTrs))を調べた。
【0061】
上記の各試験結果を、表3、表4および表5に、併せて示した。
【0062】
表3および表4に示す結果から明らかなように、素材の鋼を1000〜1200℃未満の温度に加熱し、これに熱間加工を施して成形された鋼板の温度が850℃以上である間に、2℃/s以上の冷却速度で水冷して得られた試番1〜8および試番17〜24の本発明例の鋼板は、γ粒は粗大であったが、vTrs(破面遷移温度)が全て−52℃以下で、殆どの用途に用いて必要十分な靱性を有していた。
【0063】
また、これらの鋼板は、Nb含有量が少ないか、全く含んでいない安価な組成であるにもかかわらず、γ粒を粗大化することで焼入性が増しているために、TS(引張強さ)が510〜614MPa、YS(降伏強さ)が396〜533MPaで、高い強度を有していた。
【0064】
さらに、表4に示すように、試番17〜24の本発明例の鋼板のうち、試番22〜24の鋼板は、母材の靱性は良好であるもの、過度の清浄化が原因で、溶接熱影響部(HAZ)の靱性が大きく劣化した。これに対し、TiとNを積極的に添加する一方、TiとNの比(Ti/N・・・(3)式)を0.4〜4.0にした鋼からなる試番17〜21の鋼板は、溶接熱影響部(HAZ)の靱性低下が小さく良好であった。
【0065】
一方、鋼の化学組成が本発明で規定する範囲を外れる試番9〜16および試番25と26の比較例の鋼板は、TSとYSは本発明例の鋼板とほぼ同等であったが、vTrsが全て−51℃以上で靱性が低かった。特に、試番25の鋼板は、N含有量が多すぎるために、母材の靭性および溶接熱影響部(HAZ)の靱性が著しく悪かった。
【0066】
さらに、鋼の化学組成は本発明で規定する範囲を満たすものの、表5に示すように、加熱温度を1000℃未満にして熱処理して得られた試番27〜34の比較例の鋼板は、低温圧延によって細粒化されていて靱性は良好であるが、TSが479〜553MPa、YSが373〜470MPaで、強度が低かった。
【0067】
また、冷却開始温度を850℃未満にして熱処理して得られた試番235〜37の比較例の鋼板は、高温領域において部分的にフェライト変態が生じたために、TSが462〜546MPa、YSが335〜401MPaで、強度が低いだけでなく、vTrsが−27〜−44で靭性も低かった。
【0068】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、鋼材の調質熱処理をより高温で行えるので、熱間圧延や熱間鍛造などの素材の成形のための加熱炉を用いて調質熱処理を行うことが可能になる。したがって、調質熱処理専用の加熱炉が不要になる。また、従来の方法では、過加熱による靱性劣化を避けるために加熱炉の温度管理を厳密に行わなければならないが、本発明の方法ではその必要が緩和される。さらに、加熱炉の温度を意図的に高めに設定すれば、加熱時間の短縮化が図れるので、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】Nb炭化物のγ相中への等温溶解度曲線を示す図である。
【図2】溶接部からの衝撃試験片の採取位置を示す図である。
Claims (3)
- 重量%で、C:0.02〜0.15%未満、Si:1%以下、Mn:0.3〜2.5%、P:0.05%以下、S:0.004%未満、Ti:0.001〜0.017%以下、N:0.008%以下、sol.Al:0.001〜0.1%を含み、さらにCr:0〜1.5%、Mo:0〜1%、V:0〜0.15%、Nb:0〜0.015%、Cu:0〜1.5%、Ni:0〜4%、B:0〜0.003%、Ca:0〜0.004%、Mg:0〜0.003%、REM:0〜0.004%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Ti、SおよびNの関係が下記の(1)式または(2)式を満たす化学組成の鋼からなる鋼材の調質熱処理に際し、1000℃以上に再加熱し、鋼材の温度が850℃以上である間に、2℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れ処理を施すことを特徴とする強度と靱性に優れた鋼材の製造法。
(Ti/N)<3.4の時
Ti+8.1×S≦0.035・・・(1)
(Ti/N)≧3.4の時
3.4×N+8.1×S≦0.035・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の元素記号は、鋼中のそれぞれの元素の含有量(重量%)を意味する。 - 焼入れ処理後、Ac1変態点以下の温度で焼戻すことを特徴とする請求項1に記載の強度と靱性に優れた鋼材の製造法。
- 鋼材が、Ti:0.004〜0.017%、N:0.001〜0.008%を含有し、かつTiとNの関係が下記の(3)式を満たす化学組成の鋼からなる鋼材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の強度と靱性に優れた鋼材の製造法。
0.4≦(Ti/N)≦4.0 ・・・(3)
ただし、(3)式中の元素記号は、鋼中のそれぞれの元素の含有量(重量%)を意味する。
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