JP4123551B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スクロール圧縮機に関わり、広い運転範囲における全断熱効率及び信頼性を向上させる構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のスクロール圧縮機は、特開昭57−76291 号公報に記載の公知例のように、吐出圧等の高圧となっている流体供給部から流体を旋回スクロール部材の背面に供給し、弁装置を介して吸込系へ逃がす流路を設けていた。そして、その弁装置として、弁体と押付けばねからなる構成を示している。この構成であると、旋回背面室の圧力は吸込系の圧力よりも弁装置内の押付ばねの強さに応じて概略一定値だけ大きくなるべく制御された。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
引き離し力は、圧縮室部の流体の圧力分布とともに、吐出室の流体の圧力である吐出圧で決まる。圧縮室部の流体の圧力分布は、極端に大きな内部漏れがない限り、ほぼ吸込圧のみに依存する。一方、吐出圧と吸込圧は圧縮機の置かれている使用環境下の設定により任意に変えることが可能なため、吐出圧は吸込圧には依存しない。よって、引き離し力は独立な二個のパラメータである吸込圧と吐出圧に依存する。引付力は引き離し力に対抗して両鏡板を引き付けるためにかける力であるため、スクロール部材の荷重変形の観点からいって、その大きさは引き離し力と常にほぼ同様のレベルであることが望ましい。また、その場合にはスクロール部材とその支持部材との間に働く付勢力が小さくなり、これらの間に相対運動がある場合にはそこでの摩擦損失や摩耗の危険性が低減できるため、引付力の大きさは常に引き離し力以上であるがほぼ同様のレベルであることが望ましい。
【0004】
しかし、実際の場合、スクロール部材には軸線方向と垂直な方向の流体からの力や遠心力などがかかるため、引付力はこれらにより発生する傾転モーメントにも対抗しなければならない。このため、運転条件毎に、スクロール部材の鏡板を引き付けることができる大きさのうちで付勢力が最小になる引付力を発生させる制御をかけることが理想的となるが、コストを考えると、特別な場合を除いて現実的には不可能である。
【0005】
そのため、実際の引付力付加手段は、引付力の大きさが、要求される運転範囲全域において引き離し力の大きさに傾転モーメントに対抗するための上乗せ分を加えた値を実現するような比較的単純な機構にする。前述したように、引き離し力は吸込圧と吐出圧により決まることから、引付力付加手段は吸込圧と吐出圧に依存した機構としなければならない。
【0006】
ところが、前記従来技術では、その引付力付加手段を実現する方法として吸込圧+一定値(以後過吸込圧値と記す)という吸込圧だけに依存した圧力を有する背面過吸込圧領域を設定しているため、広い運転条件で両鏡板が引き付けられるように前記過吸込圧値を設定すると、付勢力が過大となる条件が生じ、その条件では、スクロール部材の変形による内部漏れの増大や付勢部の摺動損失の増大による性能低下とともに、摺動部における摩耗の危険性が高くなり信頼性の低下が生じるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、前記従来技術の問題を解決し高圧力比運転時の性能の高いスクロール圧縮機を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するための第一の手段として、鏡板とそれに立設する渦巻き状のスクロールラップを備えそのスクロールラップの立設する方向である軸線方向に垂直な面内を自転せずに旋回運動する旋回スクロール部材と、鏡板とそれに立設する渦巻き状のスクロールラップを備え少なくとも前記軸線方向に垂直な面内の方向における運動が概略規制される非旋回スクロール部材とを噛み合わせ、それらスクロール部材の間に閉塞して容積が縮小する圧縮室と、その圧縮室側の流体の圧力による前記両スクロール部材の鏡板を引き離す向きの引き離し力に対抗して前記両スクロール部材の鏡板を引き付ける向きの引付力を前記旋回スクロール部材と前記非旋回スクロール部材とにかける引付力付加手段と、流体を前記圧縮室に導入する吸込系と、前記圧縮室内で加圧した流体を外部へ導出する吐出系と有し、前記旋回スクロール部材における前記引付力付加手段の少なくとも一部は、前記旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側の面である旋回背面に、前記吸込系内の圧力である吸込圧より大きい圧力をかける背面過吸込圧領域を設けるとともに前記吐出圧もしくはほぼ吐出圧をかける背面吐出圧領域を設けたスクロール圧縮機において、前記圧縮室内で加圧した流体が吐出圧になると流体を吐出する吐出弁を設け、前記背面吐出圧領域の面積を、前記両鏡板間に挟まれた領域である吐出室の前記軸線方向から見た投影面積と、その吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分とを加えた面積の前記旋回スクロール部材が一旋回する間の旋回角積分平均よりも小さくした。
【0009】
また、前記の目的を達成するための第二の手段として、鏡板とそれに立設する渦巻き状のスクロールラップを備えそのスクロールラップの立設する方向である軸線方向に垂直な面内を自転せずに旋回運動する旋回スクロール部材と、鏡板とそれに立設する渦巻き状のスクロールラップを備え少なくとも前記軸線方向に垂直な面内の方向における運動が概略規制される非旋回スクロール部材を噛み合わせ、それらスクロール部材の間に概略閉塞して容積が縮小する圧縮室と、その圧縮室側の流体の圧力による前記両スクロール部材の鏡板を引き離す向きの引き離し力に対抗して前記両スクロール部材の鏡板を引き付ける向きの引付力を各々の前記スクロール部材にかける引付力付加手段と、前記引付力と前記引き離し力のベクトル和である付勢力の反力を各々の前記スクロール部材に発生させるスクロール支持部材と、流体を前記圧縮室に導入する吸込系と、前記圧縮室内で加圧した流体を外部へ導出する吐出系を有し、前記非旋回スクロール部材のスクロール支持部材を前記旋回スクロール部材とし、前記非旋回スクロール部材における前記引付力付加手段の少なくとも一部は、前記非旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側の面である非旋回背面に前記吸込系内の圧力である吸込圧よりもその吸込圧の二割程度の誤差内で一定の値だけ大きい圧力をかけるべく背面過吸込圧領域を設けるとともに前記吐出圧もしくはほぼ吐出圧をかける背面吐出圧領域を設けて実現するスクロール圧縮機において、吐出弁を設け、前記背面吐出圧領域の面積を吐出弁がない場合に吐出系と連通して前記両鏡板間に挟まれた領域である吐出室の前記軸線方向から見た投影面積とその吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分を加えた面積の旋回スクロール部材が一旋回する間の旋回角積分平均よりも小さくしてもよい。
【0010】
また、前記の目的を達成するための第三の手段として、前記第一若しくは第二の手段とともに、前記圧縮室の圧力が前記吐出系内の圧力である吐出圧よりも高い時に前記圧縮室と前記吐出系を連通する制御バイパスを設けた。
【0011】
また、前記第三の手段により達成する目的とともに量産性を向上するための第四の手段として、前記背面過吸込圧領域の圧力は、前記吐出系とその背面過吸込圧領域の間に設けた絞りを伴う吐出背面流路とその背面過吸込圧領域と前記吸込系の間の背面吸込流路とその背面吸込流路中に前記背面過吸込圧領域と吸込圧の圧力差を制御する圧力差制御手段とにより制御してもよい。
【0012】
スクロール圧縮機に不足圧縮条件時の吐出室への吐出ガスの逆流を回避する吐出弁を設けると、その吐出弁の流路抵抗が無視できるほど小さい理想的な場合、
【0013】
【数1】
(吐出室内ガス圧)≦(吐出圧) …(数1)
に保たれる。ここで、不等号は不足圧縮条件時に成立する。ここで、
【0014】
【数2】
(ある時刻での吐出室内ガスによる引き離し力)=
(吐出室内ガス圧)×(ある時刻での吐出室内ガス圧がかかる軸方向投影面積)…(数2)
より、(数1)(数2)から、
【0015】
【数3】
(ある時刻での吐出室内ガスによる引き離し力)≦
(吐出圧)×(ある時刻での吐出室内ガス圧がかかる軸方向投影面積)…(数3)
が成り立つ。また、吐出室内ガスによる引き離し力はその旋回スクロール一旋回あたりの時間積分平均値だから、(数3)より、
【0016】
【数4】
【0017】
となる。吐出圧が一定より、(数4)の右辺の積分は、
【0018】
【数5】
【0019】
となるため、(数4)(数5)から、
【0020】
【数6】
【0021】
となる。スクロール圧縮機は、圧縮に要するトルクの変動が小さいため、旋回スクロールの旋回速度はほぼ一定となる。よって、(数6)の右辺の時間積分平均は旋回位相角θの積分平均とほぼ等しくなり、以下の関係が成り立つ。
【0022】
【数7】
【0023】
(数6)(数7)より、吐出室内ガスによる引き離し力は
【0024】
【数8】
【0025】
となる。吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を成すスクロールラップ部の歯先部は吐出室側が吐出室内ガス圧、圧縮室側が圧縮室の圧力となり、その間の圧力は吐出室内ガス圧と圧縮室圧力の間を概略直線的に変化する。よって、この歯先の圧力分布による軸方向引き離し力の大きさは、歯先面積の半分に吐出室内ガス圧がかかり、残りの半分に吐出室周囲の圧縮室の圧力がかかると考えた場合に等しくなる。よって吐出室内ガス圧のかかる軸方向投影面積は、吐出室の前記軸線方向から見た投影面積とその吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分を加えた面積と等しくなるため、(数8)を変形して、結局以下のことがいえる。
【0026】
不足圧縮条件時の吐出室への吐出ガスの逆流を回避する吐出弁を設けた場合、
【0027】
【数9】
(吐出室内ガスによる引き離し力)≦
(吐出圧)×(吐出室の前記軸線方向から見た投影面積とその吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分を加えた面積の旋回スクロール部材が一旋回する間の旋回角積分平均値) …(数9)
これは、吐出室内ガスによる引き離し力を打ち消す引付力を吐出圧で実現するには、吐出圧がかかる領域の面積を、吐出室の前記軸線方向から見た投影面積とその吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分を加えた面積の旋回スクロール部材が一旋回する間の旋回角積分平均値以下にしなければならないことを意味する。
【0028】
前記第一の手段は、前記した従来の技術に、吐出弁とともに、吐出室の前記軸線方向から見た投影面積とその吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分を加えた面積の旋回スクロール部材が一旋回する間の旋回角積分平均以下の面積を有する前記背面吐出圧領域を設けている。
【0029】
吐出弁を設けているため、不足圧縮時の吐出室への逆流が回避でき、圧縮動力を低減して効率を向上できるうえに、吐出弁を設けたために(数9)が成立することと上記の面積の背面吐出圧領域を設けることにより、吐出圧に依存する吐出室内ガスによる引き離し力を吐出圧のみに依存する背面吐出圧領域の引付力で打ち消すことになるため、広い運転条件下で引き離し力における吐出圧の影響をなくすことが可能となる。
【0030】
この結果、もう一つの引付力発生手段である背面過吸込圧領域は、吸込圧に依存する圧縮室内のガスによる引き離し力及び傾転モーメントを打ち消すための上乗せ分に対抗する引付力を発生しなければならない。このうちで主なものは圧縮室内のガスによる引き離し力であるから、背面過吸込圧領域は概略吸込圧に依存する力に対抗しなければならない。背面過吸込圧領域は、吸込圧+一定値(過吸込圧値)となるべく圧力を制御した領域であるから、この背面過吸込圧領域によって発生する引付力は吸込圧のみに依存する。
【0031】
これより、概略吸込圧に依存する圧縮室内のガスによる引き離し力を吸込圧に依存する背面過吸込圧領域によって発生する引付力で対抗するため、過吸込圧値を極端に大きくしなくても、広い運転条件下で対抗可能となる。
【0032】
よって、運転範囲全域にわたって引付力が小さくなり、スクロール部材の変形が抑えられ、圧縮室のシールの管理が容易になり、内部漏れを抑制して全断熱効率の向上を実現できるという効果がある。
【0033】
また、旋回スクロール部材とその支持部材が相対運動を有する構成の場合には、摺動部に働く付勢力が低減するため、そこにおける摺動損失や摩耗の危険性が低減し、全断熱効率や信頼性の向上を実現できるという効果がある。特に、高圧力比運転の時には、吐出弁の効果により圧縮動力を低減でき、全断熱効率の向上を実現できるという効果がある。
【0034】
前記第二の手段は、前記第一の手段の内容を、非旋回スクロール部材を軸方向に可動とし非旋回背面に背面過吸込圧領域を設けて非旋回スクロール部材を旋回スクロール部材に押し付ける方式のスクロール圧縮機に適用したものであって、前記第一の手段による効果と同様の効果を得る。
【0035】
前記第三の手段は、前記した従来の技術に、過圧縮を抑制するための制御バイパスを設けている。このため、過圧縮の圧力条件時に、圧縮室の圧力が吐出圧よりも高くなるのを抑制でき、指圧線図のふくらみが縮小して熱流体損失が低減し全断熱効率が向上するという制御バイパス単独の効果がある。
【0036】
さらに、制御バイパスを設けたことにより、過圧縮の圧力条件時には、定格条件時と比較して、必要な引付力は吸込圧の増加倍率よりも低くなる。よって、過吸込圧値は、制御バイパスがない場合と比べて低く設定できるため、運転範囲全域にわたって引付力が小さくなり、スクロール部材の変形が抑えられ、圧縮室のシールの管理が容易になり、内部漏れを抑制して全断熱効率の向上を実現できるという効果がある。
【0037】
また、旋回スクロール部材とその支持部材が相対運動を有する構成の場合には、摺動部に働く付勢力が低減するため、そこにおける摺動損失や摩耗の危険性が低減し、全断熱効率や信頼性の向上を実現できるという効果がある。特に、高い全断熱効率や信頼性が要求される定格条件では、吸込圧が低いため前記背面過吸込圧領域の圧力が低くなる点が大きく影響して、付勢力は大幅に小さくなり、全断熱効率や信頼性の一層の向上を実現できるという効果がある。
【0038】
ところで、この制御バイパスは、特開昭58−128485号公報で示された技術であり、これ自体は新しいものではない。その効果は、過圧縮の圧力条件時に、圧縮室の圧力が吐出圧よりも高くなるのを回避できるため、指圧線図のふくらみが縮小して熱流体損失が低減し全断熱効率が向上するというものであり、前記第一の手段の中でもこれとまったく同じ効果がある。
【0039】
しかし、そこでは、引付力発生手段として背面過吸込圧領域と同時に制御バイパスを設けると、熱流体損失が低減し全断熱効率が高くなるという単独の効果以外に、前記したような作用で全断熱効率及び信頼性が向上するという効果は示していない。
【0040】
前記第四の手段は、自らの吐出系から絞りを伴う吐出背面流路により前記背面過吸込圧領域に圧力を導入し、その圧力を圧力差制御手段を介して背面吸込流路により前記吸込系へ排出させるため、外部に圧力源を設ける必要がなくなる。この結果、前記第一または第二の手段による効果とともに、外部からの助けを借りなくても圧縮機単体で運転が可能になるため、使い勝手を向上できるいう効果がある。ここで、吐出背面流路に絞りを設けているため、高圧の流体が前記背面過吸込圧領域に多量に流入することがなくなる。このために、圧縮機の中で吸込系から吐出系へ短絡的に流れて生じる能力の低下を回避できる。
【0041】
【発明の実施の形態】
本発明を、非旋回スクロール部材がケーシングに対して固定された固定スクロール部材とし、旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側である旋回背面に背面過吸込圧領域を設け、要求される運転圧力条件範囲で旋回スクロール部材のスクロール支持部材を前記固定スクロール部材とした、すなわち旋回スクロール部材を前記固定スクロール部材に押し付ける、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第一の実施例を、図1ないし図9に基づいて説明する。
【0042】
図1は圧縮機の縦断面図、図2は吐出圧のかかる領域の説明図、図3は固定スクロール部材の反スクロールラップ側からの平面図、図4は固定スクロール部材のスクロールラップ側からの平面図、図5は吐出弁とバイパス弁を一体にした弁板の平面図、図7,図8はもう一つの実施例の吐出バイパス一体弁板及びバイパス弁板の平面図、図9は圧力差制御弁の縦断面図である。なお、この例は、直径が、10mmから900mm程度のものである。
【0043】
まず、構造を説明する。
【0044】
旋回スクロール部材3は、鏡板3aにスクロールラップ3bが立設し、その背面には旋回軸受3wを挿入した軸受保持部3sと、旋回オルダム溝3g,3hが設けられる。そして、少なくとも鏡板3aのラップ側とスクロールラップ3b全域に、潤滑性及びなじみ性の良い表面処理を施す。
【0045】
固定スクロール部材2は、スクロールラップ歯先面と同一面である非旋回基準面2uを設けそこに周囲溝2cを形成する。そして、歯底には4個のバイパス穴2eと中央近くに吐出穴2dが設けられる。ここでバイパス穴2eを4個設けた理由は、形成される全ての圧縮室6に常にバイパス穴を開口させるためである。これらのバイパス穴2eと前記吐出穴2dを覆うようにリード弁板である吐出バイパス一体弁板23bおよびその弁板23bの開口度を制限するリテーナ23aをバイパスねじ50で固定する。
【0046】
また、歯底面の外縁側に吸込み掘込み2qを設け、そこに背面から吸込みパイプ54を挿入するための吸込穴2vを設ける。この吸込穴2vに前記吸込パイプ54を挿入するが、そのときに弁体24aと逆止弁ばね24cを入れ、吸込み側逆止弁24を形成する。さらに、固定スクロール部材2の外周に吐出ガスおよび油を流す複数個の流通溝2rを設ける。
【0047】
そして、そのうちの一個にはモータ線77を通す。反ラップ側から弁穴2fを開け、その底に断面が半円形となっている円形の弁シール面2jとその中央に前記弁穴2fと前記周囲溝2cを連通する背面側導通路2mを設ける。そして、この弁穴2fの側面から吸込室60と通じている吸込溝2αに吸込側導通路2iを設ける。
【0048】
この弁穴2fに弁穴の直径より少し小さい直径の弁体100aと差圧弁ばね100cを入れ、前記差圧弁ばね100cの一端を弁キャップ100fのばね位置決め突起100hに装着し、他端を前記弁体100aの浅いばね挿入穴100vに装着した状態で前記弁穴2fに挿入する。そして、前記弁キャップ100fを前記弁穴100aよりも直径の大きい弁キャップ挿入部2kに圧入し、圧力差制御弁100を形成する。
【0049】
このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面2jに押し付ける。この押付力は過吸込圧値を決定するため、これを決める寸法である前記弁穴2fの深さと前記キャップ挿入部2kの深さと前記弁体100aの厚さと前記差圧弁ばね100cのばね定数及び自然長は精度良く管理しなければならない。
【0050】
また、前記弁キャップ100fの外径を前記弁キャップ挿入部2kの径よりも小さくし押付力が正規の値になるところでこの弁キャップ100fを拡管して止める方法もある。この方法の場合には、上記した各部の寸法やばね定数の値を精度良く管理する必要がなくなるため量産性が向上するという効果がある。
【0051】
この時には前記キャップ挿入部2kの直径を前記弁穴2fの直径と同一とし、前記弁キャップ100fが任意の箇所で固定できるようにする。これら二通りの方法とも組み立て完了時には、前記弁キャップ100fの外周部と前記弁キャップ挿入部2kの内周部の間は完全にシールされている。このシールに、接着や溶接を行ってもよい。
【0052】
ところで、前記差圧弁ばね100cは前記ばね挿入穴100vに装着されているため、差圧弁ばね100cの中心軸が前記弁体100aの中心軸からずれることがなくなり、前記差圧弁ばね100cが前記弁体100aを押す強さが常に一定となって、過吸込圧値が安定するという特有の効果がある。
【0053】
フレーム4は、外周部に前記固定スクロール部材2を取り付ける固定取付け面4b、その内側に旋回はさみこみ面4dが設けられる。そのさらに内側には、オルダムリング5をフレーム4と旋回スクロール部材3の間に配置するため、フレームオルダム溝4e,4f(ともに図示せず)を設ける。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mを設け、そのスクロール側にシャフトを受けるシャフトスラスト面4cを設ける。その軸シール4aと主軸受4mの間の空間に向かってフレーム側面から横穴4nが開口している。外周面にはガスおよび油の流路となる複数の流通溝4hが設けられる。そして、そのうちの一個にはモータ線77を通す。
【0054】
オルダムリング5の一面にフレーム突起部5a,5b(ともに図示せず)が設けられ、もう一方の面には旋回突起部5c,5dが設けられる。
【0055】
シャフト12には内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大したバランス保持部12hがあり、そこにシャフトバランス49が圧入される。さらに偏心部12fが設けられる。
【0056】
ロータ15は積層鋼板15aに未着磁の永久磁石(図示せず)を内蔵し、両端にロータバランス15c,15pを設ける。
【0057】
ステータ16は積層鋼板16bの外周部に圧縮性ガスや油の流路となる複数のステータ溝16cが設けられている。ところで、このステータ溝16cの代わりに前記積層鋼板16bの内部に横穴を開けてもよい。
【0058】
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記フレーム4の主軸受4aに前記シャフトバランス49が圧入された前記シャフト12を挿入し、前記ロータ15を圧入または焼きばめする。さらに、前記オルダムリング5を、前記フレームオルダム溝4f,4eに前記オルダムリング5のフレーム突起部5a,5bを挿入して、前記フレーム4に装着する。さらに、前記旋回スクロール部材3を、その旋回オルダム溝3g,3hに前記オルダムリングの旋回突起部5c,5dを挿入し、旋回軸受3wに前記シャフト12の前記偏心部12fを挿入しながら、旋回はさみこみ面4d上に装着する。
【0059】
この旋回スクロール部材3に前記固定スクロール部材2を噛み合わせ、前記シャフト12を廻しながら回転トルクの最小となる位置でカバーねじ53により前記フレーム4に前記固定スクロール部材2を固定する。この時、前記鏡板3aの厚さが前記旋回はさみこみ面4dと非旋回基準面2uの間隔よりも0〜10μm程度小さくなるようにする。
【0060】
ここで、前記鏡板3aのラップ側にはなじみ性の表面処理膜がついているため、運転とともにその表面処理膜が削れていき、前記旋回はさみこみ面4dと非旋回基準面2uの間隔と前記鏡板3aの厚さの差が10〜20μm程度となる。
【0061】
この隙間は適度な大きさであり、これより狭すぎると運転時に摺動損失が増大して全断熱効率を低下させ、反対に、これより大きいと起動時に引き離し力により両スクロール部材がその隙間だけ軸線方向に離れ引付力を必要な大きさに増大できないため、正常な圧縮を開始できないという問題が発生する。また、前記旋回スクロール部材3の背面に背面過吸込圧領域99を設ける。
【0062】
次にあらかじめ前記ステータ16を焼きばめするとともにガス抜き通路88aを有するガスカバー88が溶接された前記軸受支持板18をスポット溶接した円筒ケーシング31に、上記の組立て部を挿入し前記フレームの側面にタック溶接を行う。これにより、前記ロータ12と前記ステータ16によってモータ19を形成し、前記軸受支持板18と前記フレーム4の間にモータ室62を形成する。
【0063】
次に前記軸受支持板18の中央部の穴から出た前記シャフト12の一端が軸受ハウジング70に装着した球面軸受72の円筒穴に挿入されるように前記軸受ハウジング70を組み込み、前記シャフト12の回転トルクを検出しながら軸受ハウジング70の位置を調整してその回転トルクが最小になる位置で前記軸受ハウジング70を前記軸受支持板18にスポット溶接する。
【0064】
そして、給油管71を溶接した給油キャップ90をシール73を挟んで前記軸受ハウジング70にねじ込む。ここで、給油管71は給油キャップ90を前記軸受ハウジング70にねじ込んだ後に下方に曲げる。そして、前記円筒ケーシング31に吐出管55が上部に溶接された底ケーシング21を溶接し、貯油室80を形成する。
【0065】
前記軸受ハウジング70は、前記ステータ16のコイルエンド部16g中央のデッドスペースに配置したので、貯油室80の容積が広がり、所定の油量を入れても油面の高さを低く抑えることができるため、吐出油量の抑制という効果がある。
【0066】
また、シャフトを短くできるため、重量が軽くなるとともに、主軸受4mと副軸受72の間が短くなり、前記シャフト12や旋回スクロール部材3や前記ロータ15からなる回転部の固有振動数を高くでき、振動や騒音の少ない圧縮機を提供できるという効果がある。
【0067】
また、前記軸受ハウジング70を前記軸受支持板18に固定するスポット溶接部が前記球面軸受72と離れているので、その溶接による球面軸受部の変形がなくなって球面軸受の隙間が均一となり、球面軸受72の信頼性が向上するとともに、高速回転時に前記シャフト12が主軸受部を支点とした触れ回りを起こしたときにそれを円滑に抑えることが可能となり、その時に球面軸受部から発生する振動や騒音を低減できるという特有の効果がある。
【0068】
給油管71の先端近くには、マグネット89が設けられる。また、前記円筒ケーシング31にハーメチック端子22が上部に溶接された上ケーシング20を前記ハーメチック端子22の内部側端子にモータ線77を装着して溶接し、固定背面室61を形成する。
【0069】
次に動作を説明する。
【0070】
前記モータ19が回転することにより、前記シャフト12が回転し前記旋回スクロール部材3が旋回運動する。ここで、前記オルダムリング5があるために前記旋回スクロール部材3の自転が防止される。この動作により吸込室60内の圧縮性ガスが両スクロール部材の間に形成される圧縮室6に入り圧縮されて前記吐出孔2dから固定背面室61に吐出される。前記固定背面室61に吐出された圧縮性ガスは前記固定スクロール部材2および前記フレーム4hの外周にある流通溝2rおよび4hを通って前記モータ室62に入る。
【0071】
そのモータ室に入った圧縮性ガスは前記ステータ溝16cを通りながらモータ19を冷却する。その過程で、圧縮性ガスは前記モータ19の各部に衝突してその中に含まれている油を分離する。分離された油は前記モータ室62の下部に落ちる。前記モータ室62に入った圧縮性ガスは、吐出パイプ55より外部に出る。
【0072】
ここで、前記モータ室62内部の圧縮性ガスは小さい通気孔18bを通過して前記貯油室80の上部に流入するため、その流路抵抗により前記貯油室80の圧力は前記モータ室62の圧力よりも低くなる。よって、前記モータ室62の潤滑油56は導油孔18aを通って前記貯油室80に流入する。このとき、ガスも同時に前記貯油室80に流入し、前記貯油室80内の潤滑油56中を気泡が上昇するが、前記ガス抜き通路88b内を気泡が上昇するため、前記給油管71には気泡が入らず、軸受の信頼性を向上できるという特有の効果がある。
【0073】
以上より、前記モータ室62の油面を前記ロータ15や前記シャフト12へかかることなく、潤滑油56を小形の圧縮機内部に蓄えることが可能となるため、高信頼性の横置き圧縮機を小形で実現できるという本実施例特有の効果がある。
【0074】
ところで、前記旋回スクロール部材3の前記鏡板3aの厚さが前記旋回はさみこみ面4dと非旋回基準面2uの間隔よりも、組立時において0〜10μm程度、前記旋回スクロール部材3の表面処理被膜がなじんだ後には10〜20μm程度小さくなるようにし、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定しているため、モータ起動時には、最大離間距離がこのような大きさであると、起動時に前記旋回スクロール部材3の旋回速度を、その時に許容される旋回スクロール部材の最高値、例えば、8000rev/minにすると要求される運転域の最大の吸込圧まで十分に下げることができ、さらに、吐出圧を吸込圧+過吸込圧よりも大幅に高く上昇させることができる。
【0075】
この結果、前記モータ室62の圧力が吸込圧よりも過吸込圧以上に高くなり、この圧力の油及びそこに溶けこんでいる圧縮性ガスが前記シャフト給油孔12aを経由して、前記旋回軸受3wと前記偏心部12fの間及び前記主軸受4mと前記シャフト12の間を通って前記旋回スクロール部材3の背面である前記背面過吸込圧領域99に入り、前記旋回スクロール部材3を固定スクロール部材2に押し付ける。これにより、スクロールラップの歯先歯底間の隙間が正規の値となり、正常な圧縮運転を行う。このように、外部の力を借りることなく圧縮機自ら起動することが可能となるため、使い勝手が向上するという特有の効果がある。
【0076】
このように起動して定常運転に移行した圧縮機において、前記背面過吸込圧領域99には、前記主軸受4m及び前記旋回軸受3wから油及び圧縮性ガスが常に流入してくる。ところで、前記旋回軸受3wと前記偏心部12fの間及び前記主軸受4mと前記シャフト12の間は軸受隙間であるために非常に狭くなっており、それらの軸受を潤滑して前記過吸込圧領域99に流れ込む油及びそれに溶け込んでいる圧縮性ガスにとっては、絞り流路となっている。
【0077】
この圧縮性ガスや油は、旋回スクロール部材3の背面と前記旋回はさみこみ面4dの間を通って、前記背面側導通路2mが開口している前記周囲溝2cに流れ込む。そして、この圧縮性ガスや油は、この圧力が吸込圧よりも前記過吸込圧値だけ高くなったときに、前記差圧弁ばね100cの押付力に打ち勝って、前記弁体100aを移動させ、それにより形成された弁シール面2jとその弁体100aの隙間を通って、前記弁穴2fに流入し、前記吸込側導通路2i及び前記吸込溝2αを通って前記吸込室60に排出される。これは、圧縮機の中で吐出系から吸込系へ短絡する流れであり、スクロールラップにおける内部漏れと同じものであるため、極力少なくすることが必要である。
【0078】
今回は前記過吸込圧領域99に圧力を導入する吐出背面流路が軸受隙間であることから、絞り流路となっており、この流れ量は非常に小さいため、圧縮機の性能低下は生じない。また、前記固定スクロール部材2の鏡板2aには、四個のバイパス穴2eが設けられているが、図13からわかるように、これによって、形成される全ての圧縮室に常にバイパス穴が開口する。ここに前記吐出弁と一体化したバイパス弁板23bが覆うようにバイパスねじ50で固定されてバイパス弁が形成される。このバイパス弁は、前記圧縮室6の圧力が吐出系の前記固定背面室61の圧力よりも大きくなると開くことになる。
【0079】
これにより、前記固定背面室61の圧力は吐出圧であるから、このバイパス弁は、前記圧縮室6の圧力が吐出圧よりも高いときに前記圧縮室6と前記吐出系を連通することになり、制御バイパスとなっている。
【0080】
ところで、前記吸込側導通路2iは前記吸込室60に直接開口せず、吸込室60とつながる前記吸込溝2αに開口している。この吸込溝2αは前記吸込室60から出た細いパイプであるため、その内部の圧力は、前記旋回スクロール部材3のスクロールラップ3aの動き等によって生じる吸込室60内の流体の流れの変動に伴う圧力変動を平均化した値となる。よって、前記弁穴100c内の圧力は吸込室60内の局部的な変動を除いた一定値に近い平均的な値となるため、前記弁体100aの動作は、前記背面過吸込圧領域99に流入する油及び圧縮性ガスの量にほぼ依存する。
【0081】
この結果、油及び圧縮性ガスの量は、運転条件が変動しないならばほぼ一定であるため、前記弁体100aが断続的に動く場合には前記圧力差制御弁100が開口する期間はほぼ周期的に出現し、前記弁体100aがほぼ常に前記弁シール面2jから離れている場合には前記弁体100aが動かずに圧力差制御弁100の開度がほぼ一定となる。このように、前記弁体100aの動作には不規則性がなくなり、前記背面過吸込圧領域99の圧力の制御性が向上するという特有の効果がある。
【0082】
このようにして、前記旋回スクロール部材3の引付力付加手段として、前記過吸込圧領域99を旋回背面に設け、制御バイパスも設けたため、過吸込圧値を小さく設定でき、広い運転範囲で付勢力を小さく設定できる。この結果、全断熱効率や信頼性を広い運転範囲で高くできるという効果がある。
【0083】
また、前記旋回スクロール部材3の鏡板3aの背面中央部にある前記軸受保持部3sの底面には、前記シャフト給油孔12aからの吐出圧の油が入ってくるため、背面吐出圧領域95となる(ここで、背面吐出圧領域95は、旋回軸受3wの内径の領域である)。
【0084】
しかも、その軸線方向から見た投影面積は、吐出室の軸線方向からみた投影面積とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップの歯先面積の半分の和以下となっている。このような面積をもつ前記背面吐出圧領域95とともにバイパス弁と一体化した吐出弁を設けているため、引き離し力における吐出圧の寄与を考慮する必要がなくなる。
【0085】
よって、前記背面過吸込圧領域99の圧力における過吸込圧値をより小さく設定できるため、全断熱効率及び信頼性を一層向上できるという効果がある。ここで、投影面積の例を、図2に示す。この図は、最内の圧縮室であるA1,A2が吐出室A3と連通する瞬間を示したものである。連通直後とみなすと、
A1+A2+A3+K2+K3+S2+S3+(K1+S1)/2
が問題としている投影面積の最大値となる。また、連通直前とみなすと、
A3+(K3+S3)/2
となり、問題としている投影面積の最小値となる。
【0086】
ところで、前記圧縮室6と前記固定背面室61を常につなぐように前記バイパス穴2eを四個設けたため、液圧縮が生じようとしても圧力が極端に上がる前に前記バイパス弁が開いて流体は前記固定背面室61に排出されるため、ラップの損傷の危険性を回避し、信頼性を向上できるという効果がある。また、同時に過圧縮が抑制でき、圧力比の低い運転条件でも全断熱効率を高くできるという効果がある。また、吐出弁を設けたため、不足圧縮が回避でき、圧力比の高い運転条件でも全断熱効率を高くできるという効果がある。
【0087】
また、吐出弁板とバイパス弁板を一体化した吐出バイパス一体化弁23bを採用したので、位置決めが一回で済むため取り付けが容易になるとともに、弁の重なりの危険性を回避できるため、信頼性を高めることができるという特有の効果がある。図7,図8に示すように、弁を分けてもよい。この場合には、弁の形状が単純となり、弁作成時の歩留まり率が向上するという特有の効果がある。
【0088】
次に、本発明を、非旋回スクロール部材がケーシングに対して固定された固定スクロール部材とし、旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側である旋回背面に背面過吸込圧領域を設け、要求される運転圧力条件範囲で旋回スクロール部材のスクロール支持部材を主に前記旋回背面に設けたスラスト部材とした、すなわち旋回スクロール部材を旋回背面のスラスト部材に押し付けて、そのスラスト部材が軸線方向に可動な、横置き型のスラストリリース式スクロール圧縮機に実施した第二の実施例を、図10及び図11に基づいて説明する。図10は圧縮機の縦断面図、図11は圧力差制御弁の縦断面図である。
【0089】
まず、構造を説明する。モータ室62及び貯油室80に関しては第一の実施例と同一なので説明は省略し、残りの部分について説明する。ここで、説明しない部分もあるがこれらは第一の実施例と同様である。
【0090】
旋回スクロール部材3は、鏡板3aのスクロールラップ3bが立設した面に旋回オルダム溝3g,3h(図示せず)が設けられ、その背面には旋回軸受3wを挿入した軸受保持部3sが設けられる。また、背面外周部にはスラスト面3dが配置されている。また、前記スクロールラップ3bは、中央側端部及び外周側端部を除いて、中央から外周へ向かうにつれて、厚さが減少する。
【0091】
固定スクロール部材2は、スクロールラップ歯先面と同一面である非旋回基準面2uを設け、歯底には四個のバイパス穴2eが設けられる。ここでバイパス穴2eを四個設けた理由は、形成される全ての圧縮室6に常にバイパス穴を開口させるためである。また、中央近くには吐出穴2dが開口している。このバイパス穴2eと吐出穴2dには各々バイパス弁と吐出弁が設けられている。これらは、一体化した吐出バイパス弁23bにより実現している。
【0092】
また、オルダムリング5を前記旋回スクロール部材3と固定スクロール部材2の間に配置するため、固定オルダム溝2g,2h(図示せず)を設ける。また、歯底面の外縁側に吸込み掘込み2qを設け、そこに側面から吸込みパイプ54を挿入するための吸込み穴2vを設ける。
【0093】
さらに、固定スクロール部材2の外周に吐出ガスおよび油を流す複数個の流通溝2rを設ける。前記吐出バイパス一体弁23bがバイパスねじ50によってねじ止めされ、リテーナの役割を果たす中央カバー35が挿入される。
【0094】
これには、前記バイパス穴2eから抜けてきたガス及び吐出ガスの通路である穴が開いている。この中央カバー35は、バイパス弁の開閉時の音を遮断する効果がある。そして、そのうえに断熱カバー36がねじ止めされる。前記固定スクロールラップ2bは、旋回スクロ−ルラップ3bと同様に、中央から外周へ向かうにつれて、厚さが減少する。
【0095】
吸込み側逆止弁24は、弁板24aと弁軸24cからなり、弁板24aの端部を丸めて軸受部を設け、その軸受部に弁軸24cを挿入する。その弁軸24の一端は前記固定スクロール部材2の前記吸込み掘込み2q内にある穴に圧入または接着固定される。
【0096】
スラスト部材9は、滑りスラスト軸受9a側の面の外縁部にストッパ部9fが突出し、その上面は非旋回基準面対向面9wとなっている。この結果、前記スラスト軸受9aと前記非旋回基準面対向面9wが同一方向に平行に設けられるため、旋盤または研磨機でこの二面の距離を精度良く管理しながら加工が容易に行えるという特有の効果がある。
【0097】
ここで、前記スラスト軸受9aと前記非旋回基準面対向面9wの距離はスクロールラップの歯先と歯底の隙間を決める寸法の一つであるが、この寸法の精度を容易に出せるということより、量産時における性能や信頼性のばらつきの小さいスクロール流体機械を提供できるという特有の効果がある。また、その滑りスラスト軸受9a上に円形の油溝9gを設け、そこに、スラスト部材背面側から掘込んである差圧弁挿入穴9hへ抜ける吸込側導通路9cを開ける。このスラスト部材9は、軸方向回りに回転してもよいため、回転止めは不要となり、圧縮機の構造は簡単となり加工性が向上するという効果がある。
【0098】
ここで、前記差圧弁挿入穴9hには、以下に述べる差圧制御弁100を組み込む。まず、前記差圧弁挿入穴9hの底にあるばね位置決め突起9iに弁体100aを装着した差圧弁ばね100cを装着し、弁シール面100bを有する貫通した弁穴100dを設けた円筒状の弁ケース100eを前記差圧弁挿入穴9hに圧入または接着または溶接し、差圧制御弁100を形成する。
【0099】
このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面2jに押し付ける。この押付力は過吸込圧値を決定するため、これを決める寸法である前記弁穴2fの深さと前記弁体100aの厚さと前記差圧弁ばね100cのばね定数及び自然長は精度良く管理しなければならない。
【0100】
また、前記差圧弁挿入穴9hの内径を前記弁ケース100eの外形よりも大きくし押付力が正規の値になるところでこの弁ケース100eを接着して止める方法もある。この方法の場合には、上記した各部の寸法やばね定数の値を精度良く管理する必要がなくなるため量産性が向上するという効果がある。これら二通りの方法とも組み立て完了時には、前記差圧弁挿入穴9hと前記弁ケース100eの間は完全にシールされている。
【0101】
スラストシール97は、耐熱性のエンジニアリングプラスチックやばね材であるりん青銅板やステンレス板から形成され、前記スラスト部材9を押し上げる押し上げ面97aと背面溝97bと外周シール部97cと内周シール部97dからなる。
【0102】
フレーム4は、外周部の前記固定スクロール部材2を取り付ける固定取付け面4bの内周側にスラスト溝4kが設けられる。外周面にはガスおよび油の流路となる複数の流通溝4hが設けられる。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mが設けられ、その主軸受4mの上端面はシャフトを受けるシャフトスラスト面となっている。その軸シール4aと主軸受4mの間の空間に向かってフレーム側面から横穴4nが開口している。前記スラスト溝4kの底面からフレーム背面へ開けた圧力導入路4u,4vが設けられ、そのスラスト溝4kに前記スラストシール97を挿入する。この結果、前記スラストシール97の背面にシール背面空間73が形成される。
【0103】
オルダムリング5の一面に固定突起部5a,5b(図示せず)が設けられ、下面には旋回突起部5c,5d(ともに図示せず)が設けられる。
【0104】
シャフト12には内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大したバランス保持部12hがあり、その外周に円筒形状の外周部をもつシャフトバランス49が圧入される。さらに偏心部12fが設けられる。
【0105】
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記スラスト溝4kに前記スラストシール97を挿入した前記フレーム4の主軸受4mに前記シャフトバランス49が圧入された前記シャフト12を挿入し、前記ロータ15を圧入または焼きばめする。さらに、前記スラスト部材9を前記スラストシール97の前記押し上げ面97a上に載せて前記フレーム4に装着する。
【0106】
一方、前記固定スクロール部材2の前記固定オルダム溝2g,2hに前記オルダムリング5の固定突起部5a,5bを挿入し、さらに前記オルダムリング5の旋回突起部5c,5dを前記旋回オルダム溝3g,3hに挿入させて、前記固定スクロール部材3と前記オルダムリング5と前記旋回スクロール部材3を組み合わせる。この組み合わせ部の前記旋回軸受3wに前記シャフト12の前記偏心部12fを挿入させながら前記旋回スクロール部材3を前記スラスト部材9上に載せる。そして前記シャフト12を廻しながら回転トルクの最小となる位置でカバーねじ53で前記フレーム4に前記固定スクロール部材2を固定する。
【0107】
この時、前記スラスト部材9が前記固定クロール部材2に押し付けられ、前記非旋回基準面2uと前記非旋回基準面対向面9wが圧接した状態で、フレームスラスト面4rと前記スラスト部材9のスラスト背面9rの軸線方向の間隔が10〜20μmとなるように設定することにより、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定する。また、前記旋回スクロール部材3の背面に旋回過吸込圧領域99を設ける。その他の部分であるモータ室62及び貯油室80及び固定背面室61は、前記した第一の実施例と同一であるため説明は省略する。
【0108】
次に動作を説明する。正規の圧縮動作時において、吐出室から固定背面室61へ出た圧縮性ガス及び油の流れは、前記第一の実施例と同一であるため、スクロール部材及びフレーム内における動作を説明し、その他の説明は省略する。
【0109】
前記旋回スクロール部材3の背面に配置された前記スラスト部材9はその背面にある前記スラストシール97により前記固定スクロール部材2側に押し付けられ、前記非旋回基準面対向面9wと前記非旋回基準面2uが圧接して、前記滑りスラスト軸受9aの位置が決まっている。そこに、前記旋回スクロール部材3のスラスト面3dがのるため、軸線方向における前記旋回スクロール部材3の位置が決まる。この位置でスクロールラップの歯先歯底間の隙間が決まるため、それが適正になるように、前記滑りスラスト軸受9aの位置を決める。
【0110】
ここで、前記スラストシール97は、その背面にある前記シール背面空間73内の吐出圧の圧縮性ガス及び油により、前記スラスト板4を前記固定スクロール部材2側に押す力を得ている。その前記シール背面空間73内の吐出圧の圧縮性ガス及び油は、前記圧力導入路4u,4vを通って前記モータ室62から入ってくる。
【0111】
ところで、このスラストシール97はエンジニアリングプラスチックやばね材といった剛性の低い素材でできているため、前記シール背面空間73内の吐出圧により、前記外周シール部97cや前記内周シール部97dと前記シール溝4kの側面の隙間や前記押し上げ面97aと前記スラスト部材9の背面の隙間のシール性が完全となり、この部分での吐出系から吸込系への漏れを防止できる。よって、全断熱効率を向上できるという効果がある。
【0112】
また、前記圧力導入路4uは下方に設けられるため油中に開口し、もう一方の前記圧力導入路4vは上方に設けられるため圧縮ガス中に開口する。よって、前記圧力導入路4uにより、油が前記シール背面空間73に入るため、油の表面張力により前記シール溝4kとの隙間に流入しそこのシール性を向上する効果がある。
【0113】
一方、不慮の衝撃力による前記スラスト部材9の前記固定スクロール部材2からの離間が生じ前記シール背面空間73内の油や圧縮性ガスが外部へ押し出されても、圧縮性ガスが気体であるために、それが前記圧力導入路4vから前記シール背面空間73に瞬時に入る。よって、前記スラスト部材9は短時間で前記固定スクロール部材2に再び接触し、両スクロール部材の歯先歯底間の隙間の拡大は短時間で回避されるため、性能の高い圧縮機を提供できるという特有の効果がある。
【0114】
前記旋回スクロール部材3は、前記スラスト部材9の上で、前記シャフト12の回転に伴って旋回運動する。この時に、前記オルダムリング5により自転が防止される。この旋回運動により、両スクロール部材間に圧縮室6を形成し、圧縮運転を行う。ここで、前記旋回スクロール部材3にかかる引き離し力に対向して、その背面の前記背面過吸込圧領域99に、吸込圧よりも一定値だけ高い圧力を導入するとともに、前記軸受保持部3sの底部の背面吐出圧領域95に、吐出圧を導入して、引付力を付加することで、前記背面吐出圧領域95の面積は、吐出弁がない場合に吐出系と連通して前記両鏡板間に挟まれた領域である吐出室の前記軸線方向から見た投影面積とその吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分を加えた面積の旋回スクロール部材3が一旋回する間の旋回角積分平均以下となっている。この引付力は、要求される運転範囲のほぼ全域において、引き離し力よりも小さくなるように設定する。
【0115】
このため、前記旋回スクロール部材3の支持部材は、その背面の前記スラスト部材9とする。前記背面吐出圧領域95の吐出圧は、前記シャフト給油孔12aによって前記旋回軸受に供給する油により導入される。
【0116】
一方また、前記固定スクロール部材2の鏡板2aには、制御バイパスとなるバイパス弁と吐出弁23bが設けられる。このようにして、前記旋回スクロール部材3の引付力付加手段として、前記過吸込圧領域99及び前記吐出圧領域95を旋回背面に設け、制御バイパス及び吐出弁を設けたため、過吸込圧値を小さく設定でき、広い運転範囲で付勢力を小さく設定できる。この結果、全断熱効率や信頼性を広い運転範囲で高くできるという効果がある。
【0117】
次に、前記背面過吸込圧領域99内の圧力の制御法について、以下に述べる。前記背面過吸込圧領域99には、前記主軸受4m及び前記旋回軸受3wの軸受隙間を介して吐出空間から油及びそこに溶けこんでいた圧縮性ガスが流入する。この圧縮性ガスや油は、前記スラスト部材9が前記固定スクロール部材2に押し付けられることにより、隙間のあいたスラスト部材背面と前記フレームスラスト面4rの間を通って、前記圧力差制御弁100の開口穴である背面側導通路100rに至る。
【0118】
前記弁体100aの前記吸込側導通路9c側の面には吸込圧がかかっているため、この弁体100aを押し付けている前記差圧弁ばね100cの押付力に対応した圧力差だけ吸込圧よりも上昇したときに、前記弁体100aが移動し、前記吸込室60に排出される。この結果、前記背面過吸込圧領域99と前記吸込室60の圧力差はほぼ一定となる。また、吐出圧の高い運転時に前記背面吐出圧領域の面積をもう少し大きくしたいが、旋回軸受の設計からこれが許されない場合には、前記差圧弁ばね100cの材質を前記スラスト部材9や前記弁ケース100eよりも熱膨張率の高い材料としてもよい。
【0119】
一般的に、圧縮機の温度の高くなる運転条件では、吐出圧も高くなっているため、その時には、温度上昇に伴って前記差圧弁ばね100cが伸びようとするが、ばねの全長は前記弁ケース100eにより規制されているために、押付力が増大することになる。これにより、吐出圧の高い運転時のみ過吸込圧値が高くできることになる。よって、過吸込圧値を低く抑えたまま、その値では不足ぎみとなる吐出圧の高い条件時だけ旋回スクロール部材3の引付力を増大できるため、大半の条件における付勢力を低く抑制でき、大半の運転条件における全断熱効率及び信頼性が向上するという効果がある。これを第一の実施例に応用しても同様の効果を得る。
【0120】
この圧力差制御弁100を通って前記吸込室6へ流入する圧縮性ガスの流れは、圧縮機の中で吐出系から吸込系へ短絡する流れであり、スクロールラップにおける内部漏れと同じものであるため、少なくすることが必要である。この例も第一の実施例と同様に、前記過吸込圧領域99に圧力を導入する吐出背面流路が軸受隙間であることから、この流量は小さく、圧縮機の性能低下は生じない。一方、前記圧力差制御弁100から排出される油は、前記油溝9gに入り前記滑りスラスト軸受9aと前記スラスト面3dの間を潤滑する役割を持つ。
【0121】
ところで、前記スラスト部材9の軸線方向における移動可能距離を10〜20μmと設定したため、それと同じ距離で、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定している。モータ起動時に、最大離間距離がこのような大きさであると、起動時に前記旋回スクロール部材3の旋回速度を、その時に許容される旋回スクロール部材の最高値、例えば、8000rev/minにすると要求される運転域の最大の吸込圧まで十分に下げることができ、さらに、吐出圧を吸込圧よりも過吸込圧以上に上昇させることができる。
【0122】
この結果、前記モータ室62から前記圧力導入路4u,4vを通って吸込圧よりも過吸込圧以上に高くなった圧縮性ガス及び油が、前記シール背面空間73に入ってくるため、前記外周シール部97cと前記内周シール部97dが広がって前記シール溝4kの側面と圧接してそこでのシール性を確実にするため、前記スラストシール97は、前記スラスト板4に対して、前記固定スクロール部材2側に押す方向の力をかける。
【0123】
これは、すなわち、前記旋回スクロール部材3を前記固定スクロール部材2側に押す方向の力である。さらに、第一の実施例と同様にして、前記背面過吸込圧領域99及び前記背面吐出圧領域95に吸込圧よりも過吸込圧以上に高い圧力の圧縮性ガス及び油が入るため、前記旋回スクロール部材3を前記固定スクロール部材2に引き付ける手段となる。前者のスラストシール97を押す力は、前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wが前記非旋回基準面2uに圧接している通常の運転時にはスクロールラップの歯先歯底にはその力は働かないから、その圧接を確実にするために通常は必要な大きさよりもかなり大きめに設定している。
【0124】
この結果、前記スラスト部材9は、その非旋回基準面対向面9wが前記非旋回基準面2uに圧接するまで移動し、前記旋回スクロール部材3は前記固定スクロール部材2に正規の位置まで近づくことになる。よって、圧縮機自ら起動することが可能となり、使い勝手が向上するという効果がある。
【0125】
また、実働時のスクロールラップ変形でスクロールラップの歯先歯底間が圧接しようとしても、前記旋回スクロール部材3が前記スラスト部材9とともに移動するため、歯先歯底間が圧接せず、圧縮機を高信頼化できるという特有の効果がある。
【0126】
また、圧力比が非常に小さく、前記旋回スクロール部材3が前記スラスト部材9に与える付勢力が大きくなり、前記スラスト部材9を押す力と同程度になると、前記スラスト部材9が静止できずに、前記旋回スクロール部材3が傾いたり、前記固定スクロール部材2から離れるが、前記フレームスラスト面4rと前記旋回スクロール部材3の背面との間隔を10〜20μmとして最大距離規定機構を設けたために、その傾き量や離間量が制限されて、高効率ではないが運転が可能となる運転を実現する運転条件の範囲を広域化できるという効果がある。
【0127】
また、なじみ性があり母材よりも表面が盛り上がるような表面被膜を、旋回スクロール部材3や固定スクロー部材2に被覆した場合でも、軸方向の盛り上がり量の合計が最大距離規定機構の許す最大距離よりも小さいときには前記スラスト部材3が部材2から離れることにより組み立てることができるという特有の効果がある。
【0128】
また、上部の前記圧力導入路4vの前記モータ室62側の口を前記流通溝4hのうちで上部側のガスが通るものに開けてもよい。この場合、その前記流通溝4h前記圧力導入路4vの口を開口した部分のガスの流速は非常に大きいため前記モータ室62の圧力に比べて低くなる。よって、前記圧力導入路4uから前記シール背面空間73に潤滑油が流入し、前記圧力導入路4vから流出するという油の流れが起こる。このため、旋回背面空間11とのシールは潤沢に供給される潤滑油により良好に確保され、前記シール背面空間73と吸込系との間の漏れが確実になくなり、全断熱効率が向上するという効果がある。
【0129】
また、四個の前記バイパス穴2eと吐出弁2dを設け、それらに吐出バイパス一体弁23bを設けたので、液圧縮が生じようとしても圧力が極端に上がる前に前記バイパス弁23が開いて流体は前記固定背面室61に排出されるため、ラップの損傷の危険性を回避し、信頼性を向上できるという効果がある。また、同時に過圧縮や不足圧縮が抑制でき、圧力比によらず全断熱効率を向上できるという効果がある。
【0130】
また、前記シャフトバランス49は外周が円形状であることから、前記シャフト12の回転に伴う粘性ロスを低減できるという特有の効果がある。
【0131】
また、前記旋回スクロール部材3の前記鏡板3aの歯底面および前記スクロールラップ3bの全表面や前記固定スクロール部材2の歯底面および前記スクロールラップ2bの全表面に、なじみ性と潤滑性を備えた表面被膜を設けてもよい。たとえば、浸硫窒化処理や燐酸マンガン被膜処理による表面被膜が考えられる。これにより、スクロールラップ3b,2bの側面間および歯先歯底間の隙間を小さくしさらに前記スクロールラップ3b,2bの接触部における摺動性を向上できるので、内部漏れが少なく摩擦ロスを小さくできる。この結果、圧縮機の性能を向上できるという特有の効果がある。また、なじむまで性能が若干低くなるため、この期間が長いと問題となる。
【0132】
もしも、このような表面被膜のなじみ前の厚さを、前記旋回スクロール部材3を前記固定スクロール部材2に押し付けたとき、前記スラスト面3dと前記非旋回基準面2uの間の距離が前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wと滑りスラスト軸受9aの間の距離よりも大きくし、かつ、仮に表面被膜を取り去った両スクロール部材2,3を互いに押し付けたとき、前記スラスト面3dと前記非旋回基準面2uの間の距離が前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wと滑りスラスト軸受9aの間の距離よりも小さくしたときには、なじみ始めでは、前記非旋回基準面2uと前記非旋回基準面対向面9wが接触せずに、スクロールラップの歯先と歯底が圧接することになる。
【0133】
そして、この時の力は、前記スラスト部材9を押し上げる力であるから非常に大きい。よって、なじみが急激に進行していく。そして、スクロール部材の母材同士は接触しないため、なじみは最後まで進行する。この結果、なじみに要する時間が短時間ですむため、性能の低い期間は短く、使い勝手が向上するという効果がある。
【0134】
もしも、表面被膜が、それを付けると元の母材の表面よりも盛り上がり、かつ、母材自身はそのままか侵食されてしまうような性質を持ったものであると、表面被膜を付けた後の前記旋回スクロール部材3を表面被膜を付けた後の前記固定スクロール部材2に押し付けたとき、前記スラスト面3dと前記非旋回基準面2uの間の距離が前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wと滑りスラスト軸受9aの間の距離よりも大きくし、かつ、表面被膜を付けない前の前記旋回スクロール部材3を表面被膜を付けない前記固定スクロール部材2に押し付けたとき、前記スラスト面3dと前記非旋回基準面2uの間の距離が前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wと滑りスラスト軸受9aの間の距離よりも小さくすれば、このような厚さにおける複雑な条件を満たすことになるため、寸法の管理をしやすくできるという特有の効果がある。
【0135】
なじませた後には、ラップの歯先歯底間においても、そこにある油や母材同士の接触により、付勢力の一部を受け持つ。このようにすると、摺動損失が多少増加してもそれ以上に内部漏れが抑制されて熱流体損失が低減し総合的には全断熱効率が向上するという特有の効果がある。
【0136】
また、前記オルダムリング5と摺動する前記オルダムリング摺動面2pや前記固定オルダム溝2g,2hに同様の表面被膜を設けてもよい。これにより、前記旋回スクロール部材3と前記オルダムリング5の間の摩擦ロスも小さくできる。この結果、全断熱効率を向上できるという特有の効果がある。
【0137】
また、前記スラスト部材9の前記スラスト軸受面9aに潤滑性を備えた表面被膜を設けてもよい。たとえば、浸硫窒化処理や燐酸マンガン被膜処理による表面被膜が考えられる。これにより、前記スラスト面と前記スラスト軸受面間の摺動性を向上できるので、そこでの摩擦ロスを小さくできる。この結果、全断熱効率を一層向上できるという特有の効果がある。なじみ性のある表面被膜のときには、被膜厚さを小さくする。たとえば、2〜3μmとする。この結果、スラスト軸受面9aのなじみがスクロールラップの歯先歯底間のなじみよりも早く完了するため、歯先歯底間のなじみ後の隙間を拡大することはない。
【0138】
また、前記スラスト部材9の前記非旋回基準面対向面9wになじみ性のある表面被膜を設けてもよい。たとえば、浸硫窒化処理や燐酸マンガン被膜処理による表面被膜が考えられる。前記スラスト部材9は回転可能に設定されているので、起動時等の付勢力が小さいときには、前記スラスト部材9がわずかながら回転して、前記非旋回基準面対向面9wと前記非旋回基準面2uの間にわずかな相対運動が生じる。この結果、前記非旋回基準面対向面9w上の表面被膜が少しずつ削れるため、前記スラスト軸受面9aが少しずつ固定スクロール部材2の方へ近づいていくため、不慮の原因で軸方向にラップ同士が圧接し隙間があいても、運転時間の経過とともにその隙間が狭くなり、性能が回復するという特有の効果がある。前記のなじみ性表面被膜の代わりにクリープ性の表面被膜を付けてもよい。その時には、前記スラスト部材が回転しなくても、時間の経過とともにその表面被膜の厚さが小さくなり、同様の効果が出る。
【0139】
また、前記スクロールラップ2b,3bをインボリュート曲線で形成しても良い。これにより、スクロールラップの加工が容易となるので、圧縮機の加工性を向上できるという特有の効果がある。
【0140】
また、前記部材2と前記旋回スクロール部材3の材質を同様とし、前記ラップ2bの高さを前記旋回スクロールラップ3bの高さと3μm以内の精度で同一寸法に加工してもよい。この結果、運転時にスクロール部材2,3やスラスト部材9が変形しないと仮定すれば、旋回スクロール部材3の前記スラスト面3dの位置における鏡板3aの厚さに対して前記スラスト部材9の前記スラスト軸受9aと前記非旋回基準面対向面9wの距離の大きい分だけスクロールラップの旋回歯先と固定歯底の隙間および旋回歯底と固定歯先の隙間が3μm以内の精度で同じ寸法だけ確保される。つまり、その分だけ変形しても歯先と歯底が接触しないということになる。
【0141】
圧縮機はいろいろな条件下で運転されるため、スクロール部材2,3やスラスト部材9の変形量も一定ではなく、歯先と歯底間に隙間を設ける。部材2と旋回スクロール部材3が同様の材質である場合には、スクロールラップの旋回歯先と固定歯底の隙間および旋回歯底と固定歯先の隙間の二箇所の隙間は同じ寸法にしたほうがよいことから、旋回スクロール部材3の前記スラスト面3dの位置における鏡板3aの厚さと前記スラスト部材9の前記スラスト軸受9aと前記非旋回基準面対向面9wの距離を測定し、その差がスクロールラップの歯先歯底間の最適な隙間と同じになるような選択組み合わせを行うことにより、性能や信頼性のばらつきの少ない量産が可能となるという特有の効果がある。
【0142】
また、前記スラスト部材9に回転止めを設けてもよい。この場合には、前記差圧制御弁100の位置が変化しないために、最適な位置に前記差圧制御弁100を設けることができる。たとえば、前記背面過吸込圧領域99に軸受から出た油が溜って前記バランスウエイト49による撹拌損失が増大するような場合には、前記差圧制御弁100を前記給油溝9gの一番下方に設ける。この結果、前記背面過吸込圧領域99内に流入する油は重力によりその下方から溜ってくるが、そこに排出孔である前記差圧制御弁100が開口しているため、効率的に油を前記背面過吸込圧領域99から排出することができる。よって、前記バランスウエイト49による撹拌損失は低減され、圧縮機の全断熱効率が向上するという特有の効果がある。
【0143】
なお、この実施例では、不慮の現象によりスクロール部材の歯先歯底間が圧接しても旋回スクロール部材の支持部材であるスラスト部材がリリースしてスクロールラップに大きな損傷を与えないために、スラスト部材が接軸線方向に可動なリリース構造としているが、このスラスト部材がフレームに固定されてリリースしない構造のときにも、リリース作用による効果以外の効果は同様である。
【0144】
次に、本発明を、非旋回スクロール部材を軸線方向に可動とし、その鏡板の反圧縮室側に吐出圧をかけて引付力を与え、その支持部材をフレームに固定されたストッパ部材とし、旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側である旋回背面に背面過吸込圧領域を設け、要求される運転圧力条件範囲で旋回スクロール部材のスクロール支持部材を主に前記旋回背面に設けたフレームのスラスト面とした、すなわち旋回スクロール部材を前記非旋回スクロール部材に押し付けずに旋回背面で付勢力を受けた、横置き型の非旋回リリース式スクロール圧縮機に実施した第三の実施例を、図12ないし図16に基づいて説明する。図12は圧縮機の縦断面図、図13は圧力差制御弁の縦断面図、図14は旋回スクロール部材の斜視図、図15は非旋回スクロール部材の斜視図、図16はストッパ部材の斜視図である。
【0145】
まず、構造を説明する。旋回スクロール部材3の支持部材が、その背面に固定配置されたフレーム4となり、その代わりに、非旋回スクロール部材が軸線方向に可動な構成となった以外は、前記第二の実施例と同様なので詳細な説明は省略する。
【0146】
旋回スクロール部材3は、鏡板3aにスクロールラップ3bが立設し、その背面にはボス3cが設けられる。また、背面外周部にはスラスト面3dが配置されている。前記鏡板3aの外周部にはオルダム突起部3e,3fが突出し、そこには旋回オルダム溝3g,3hが設けられる。さらに、前記鏡板3aの外周部にはオルダム支持突起部3i,3jが設けられる。前記スクロールラップ3bは、中央側及び外周側端部を除いて、中央から外周へ向かうにつれて、厚さが減少する。また、前記スクロールラップ3bのバランスを取るために、前記鏡板3aの上面を直線上に切欠いたバランス切欠き部3kを設ける。
【0147】
ストッパ部材7の一段低くなっている面であるストッパ面7fに回転止め溝7a,7bが設けられ、その下面側には非旋回オルダム溝7c,7dが設けられる。この回転止め溝7a,7bと非旋回オルダム溝7c,7dは共通の側面を持っている。そのストッパ面を囲むように内周面である非旋回レール面7gが設けられる。
【0148】
非旋回スクロール部材2は、鏡板2aにスクロールラップ2bが立設し、その背面の中央部にはシール突起部2cが立設している。この内部には中央付近に吐出穴2dと複数のバイパス穴2eが開いている。このバイパス穴2e及び吐出穴2dにリード弁板である吐出バイパス一体弁23bをバイパスねじ50で固定する。また前記シール突起部2cの外部には均圧穴2nが開いている。前記鏡板2aの圧縮室側面には回転止め2g,2hが突出している。前記スクロールラップ2bは、中央側及び外周側端部を除いて、中央から外周へ向かうにつれて厚さが減少する。
【0149】
フレーム4は、外周部に前記ストッパ部材を固定するストッパ取付面4b、その内側には掘り込まれたスラスト面4gが設けられる。その側面には、吸込穴4pが開けられる。そして、スラスト面4gに油溝4iが設けられ、そこに、モータ室側から掘込んである差圧弁挿入穴4iへ抜ける吸込側導通路4xを開ける。そして、その差圧弁挿入穴4iの側面から旋回背面室側面4jへ通じる背面側導通路4zが開口している。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mを設け、そのスクロール側にシャフトを受けるシャフトスラスト面4cを設ける。その軸シール4aと主軸受4mの間の空間に向かってフレーム側面から横穴4nが開口している。外周面にはガスおよび油の流路となる複数の流通溝4hが設けられる。そして、そのうちの一個にはモータ線77を通す。
【0150】
ここで、前記差圧弁挿入穴4wには、以下に述べる差圧制御弁100を組み込む。まず一端に弁体100aを装着した差圧弁ばね100cの他端を、前記差圧弁挿入穴4wの底にあるばね位置決め突起4yに圧入し、弁シール面100bを有する弁掘り込み100gを設けた円筒状の弁ケース100eを前記差圧弁挿入穴9hに圧入または接着または溶接する。
【0151】
ここで、前記弁掘り込み100gの底から通じるケース給油孔100hを開口したケース溝100iが、前記背面側導通路4zの開口部にくる。このようにして、圧力差制御弁100を形成する。このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面100bに押し付ける。この押付力は過吸込圧値を決定するため、第一及び第二の実施例と同様の方法で量産性を向上することができる。
【0152】
オルダムリング5の一面にストッパ突起部5a,5bが設けられ、もう一方の面には旋回突起部5c,5d(ともに図示せず)が設けられる。
【0153】
外周カバー25には内周部上部にカバー押さえ25a,内周部下部にリング溝25bが設けられる。このリング溝25には耐熱性で柔軟な材質のシールリング51を挿入する。
【0154】
シャフト12には内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大した軸受保持部12wがあり、そこには偏心した位置に旋回軸受12qが圧入される。
【0155】
ロータ15は積層鋼板15aに未着磁の永久磁石15bを内蔵し、上面に上部バランスウエイト15cを固定する。ここでこのバランスウエイト15cを円筒形状にするためバランスウエイト15cよりも比重の小さい材料でできた上部補正バランスウエイト15eを上部バランスウエイト15cに固定する。
【0156】
また、下面に下部バランスウエイト15pを固定する。ここでこの下部バランスウエイト15pを円筒形状にするため下部バランスウエイト15pよりも比重の小さい材料でできた下部補正バランスウエイト15fを下部バランスウエイト15dに固定する。材料としてバランスウエイト15c,15pを亜鉛または黄銅、補正バランスウエイト15e,15fをアルミ合金としてよい。また、補正バランスウエイト15e,15fを積層鋼板15aに直接固定してもよい。
【0157】
ステータ16は積層鋼板16bの外周部に圧縮性ガスや油の流路となる複数のステータ溝16cが設けられている。ところで、このステータ溝16cの代わりに前記積層鋼板16bの内部に横穴を開けてもよい。
【0158】
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記フレーム4の主軸受4mにシャフト12を挿入しロータ15を固定する。次に、前記旋回スクロール部材3を、前記ボス3cを前記旋回軸受12qに挿入し、前記スラスト面3dをフレーム4の前記スラスト面4gに載せて、組み込む。この時、旋回スクロール部材3の背面には背面過吸込圧領域99が形成される。
【0159】
次に、前記オルダムリング5を、前記旋回オルダム溝3g,3hに前記旋回突起部5c,5dを挿入するようにして、前記鏡板3aのスクロールラップ側に載せる。次に、前記ストッパ部材7を、前記非旋回オルダム溝7c,7dに前記固定突起部5a,5bを挿入するようにしてフレーム上面に載せる。この時、旋回スクロール部材3の周囲には吸込み室60が形成される。
【0160】
さらに、前記非旋回スクロール部材2を、前記回転止め溝7a,7bに前記回転止め2g,2hを挿入するようにして、前記ストッパ面7fに載せる。このとき、前記非旋回スクロール部材2の外周と前記非旋回レール面7gの内周は直径差にして5μm程度の隙間ばめにする。
【0161】
次に、外周カバー25を、前記シール突起部2cの外周面にリング溝25b内に配置した前記シールリング51が摺動するようにして、前記ストッパ部材25に載せる。このとき、この外周カバー25の内周部にある前記カバー押さえ25aは、中央カバー24が前記シール突起部2cの内周から外れることを防止する。以上のように各要素を組み込んだ上で、前記シャフト12か前記ロータ15を回しながら、カバーねじ53により前記ストッパ部材7及び前記外周カバー25を前記フレーム4に固定する。この時、前記非旋回スクロール部材3と前記外周カバー25の間に、上面室10が形成される。
【0162】
次に、予め前記ステータ16が焼きばめまたは圧入されている前記円筒ケーシング31へ、上記の組立部を挿入して前記フレーム4の側面にタック溶接を行う。そして、吸込みパイプ54を前記吸込み穴4pに挿入し固定する。次に、予めハーメチック端子22が溶接されている上ケーシング20を、そのハーメチック端子22の内部側端子へ前記モータ線77を装着して溶接する。この時、前記外周カバー25の上部には非旋回背面室61が形成される。
【0163】
次に、球面軸受72を装着し給油管71が溶接されている軸受ハウジング70を軸受支持板18中央に固定し、前記球面軸受72の円筒穴に前記シャフト12の端部を挿入するようにして、前記軸受支持板18を前記円筒ケーシング31に挿入固定する。この時、前記フレーム4と前記軸受支持板18との間にはモータ室62が形成される。そして、前記円筒ケーシング31に吐出管55が上部に溶接された底ケーシング21を溶接し、貯油室80を形成する。この状態で、前記ステータ16に電流を流し、前記ロータ15内部の永久磁石15bを着磁し、モータ19を形成する。最後に、潤滑油56を入れる。
【0164】
次に動作であるが、圧縮性ガス及び油の流れは、前記第二の実施例と同一であるため、説明は省略する。さらに、非旋回スクロール部材がリリースする点は、第二の実施例におけるスラスト部材がリリースする動作と同様であるので、これも省略する。
【0165】
この例では、前記旋回保持部12fは円筒形状であることから、前記旋回保持部12fの回転に伴う粘性ロスを一層低減できるという本実施例特有の効果がある。
【0166】
また、前記中央カバー24および前記外周カバー25は、その下部にガスの層を形成するため、前記上面室61内の高温の吐出ガスからの熱が前記圧縮室6へ伝わることを防止するという本実施例特有の効果がある。さらに、前記中央カバー24および前記外周カバー25は、前記吐出リリース一体弁23bの開閉に伴う衝撃音を遮断するという本実施例特有の効果がある。
【0167】
また、前記中央カバー24を鏡板2aの材質よりも熱膨張率が大きい材質とし、中央カバー24の外周と前記シール突起部2cの内周を最大10μm程度の隙間ばめとしてもよい。この場合、運転時の温度上昇で前記中央カバー24が膨張して、前記シール突起部2cを拡張する方向に変形する。その結果、前記鏡板2aの上面がその下面と比較して相対的に伸びるため、鏡板2aが上に凸の変形を起こす。よって、スクロールラップ中央部の高温によるそこでのラップ歯先歯底間の接触を回避でき、圧縮機の高効率化,高信頼性化を実現できるという特有の効果がある。例えば、前記フロートスクロール部材2を鋳鉄製、前記中央カバー24を黄銅製または亜鉛製またはアルミ合金製特にシリコン含有量の10〜30%程度のヤング率の大きいアルミ合金製とすればよい。
【0168】
また、給油パイプ71の先端を導油孔18aの反対側に設けたため、圧縮ガスが給油パイプ71の中に入る危険性がなくなるため、信頼性を向上できるという効果がある。
【0169】
また、吐出管の口を上部に開けたため、貯油室80内で泡立った油が吐出されるのを抑制し、吐出油量の少ない信頼性の高い圧縮機を提供できるという効果がある。
【0170】
次に、本発明を、非旋回スクロール部材を軸線方向に可動とし、その鏡板の反圧縮室側に背面過吸込圧領域を設けて、要求される運転圧力条件範囲で非旋回スクロール部材のスクロール支持部材を旋回スクロール部材とした、すなわち非旋回スクロール部材を旋回スクロール部材に押し付けた、縦置き型の非旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第四の実施例を、図17ないし図22に基づいて説明する。図17は圧縮機の縦断面図、図18は圧力差制御弁の縦断面図、図19は圧力隔壁を取り除いた圧縮機上面図、図20は非旋回スクロール部材の中央部上面図、図21は吐出弁とバイパス弁が一体化した吐出バイパス一体弁の平面図、図22はリテーナの平面図である。
【0171】
まず、構造を説明する。
【0172】
旋回スクロール部材3は、鏡板3aにスクロールラップ3bが立設し、その背面には旋回オルダム溝3g,3hと旋回軸受3wを圧入した軸受保持部3sとスラスト面3dが配置されている。
【0173】
非旋回スクロール部材2は、鏡板2aにスクロールラップ2bが立設し、その背面の中央部に中央台部2wを設け、その上面には吐出穴2dと複数のバイパス穴2eが開いている。このバイパス穴2e及び吐出穴2dにリード弁板である吐出バイパス一体弁23bとリテーナ23aをバイパスねじ50で固定する。そして、その周囲にはシール溝2sを設ける。また、背面外周近くには外周突起部2tが設けられ、前記中央台部2wとの間に背面凹部2xを設ける。
【0174】
そして、この背面凹部2xの周辺部付近に差圧挿入穴2zを掘り込み、その底からスクロールラップ側の吸込室となる外周部へ吸込側導通路2yを開ける。その差圧挿入穴2zの底にはばね位置決め突起2lを設ける。ここで、前記差圧弁挿入穴2zには、以下に述べる圧力差制御弁100を組み込む。
【0175】
まず、上端に弁体100aを装着した差圧弁ばね100cを前記差圧弁挿入穴2zの底にあるばね位置決め突起2lに圧入し、弁シール面100bを有する弁掘り込み100gを設けた円筒状の弁ケース100eを、前記差圧弁挿入穴2zに圧入または接着または溶接する。このようにして、差圧制御弁100を形成する。このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面100bに押し付ける。この圧力差制御弁の量産性を高めるために、前記した第一ないし第三の実施例と同様の方法を用いてもよい。
【0176】
フレーム4には、外周部に前記非旋回スクロール部材2を板状のスクロール取り付けばね75を介して取り付ける突起した三箇所のスクロール取付部4qとその内側に滑りスラスト軸受4gとフレームオルダム溝4e,4fが設けられる。そして、その外周部には、複数個の吸込溝4rが設けられる。また、滑りスラスト軸受4gには環状や径方向に直線状の油溝4iが設けられる。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mを設け、そのスクロール側にシャフトを受けるシャフトスラスト面4cを設ける。このフレーム4の上面の一番低い部分からフレーム下面に抜ける油排出路4sを設ける。前記軸シール4aと前記主軸受4mの間の空間に向かってフレーム側面から横穴4nが開口している。
【0177】
オルダムリング5の一面にフレーム突起部5a,5bが設けられ、もう一方の面には旋回突起部5c,5d(ともに図示せず)が設けられる。
【0178】
圧力隔壁74には、中央部に吐出開口部74cと内周部下部に内周シール溝74aと下面中央付近に外周シール溝74bが設けられる。この二個のシール溝の間の下面と上面を連通する絞りを伴う吐出背面流路74dを設ける。ここでは、微小な径の穴を有する別ピースを圧入して形成する。
【0179】
シャフト12には内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大した軸受保持部12wがあり、ここに、シャフトバランス49が圧入される。更にその上部には偏心部12fがある。
【0180】
ロータ15及びステータ16は、前記第一の公知例と同一であるため説明は省略する。
【0181】
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記フレーム4の前記主軸受4mに前記シャフト12を挿入し前記ロータ15を固定する。次に、前記オルダムリング5を、前記フレーム4の前記フレームオルダム溝4e,4fに前記オルダムリング5の前記フレーム突起部5a,5bを挿入するようにして、装着する。次に、前記旋回スクロール部材2を、シャフト12の偏心部12fに前記旋回軸受3wを挿入し、前記オルダムリング5の前記旋回突起部5c,5dに前記旋回オルダム溝3g,3hを挿入し、前記フレーム4の前記滑りスラスト軸受4gに前記スラスト面3dを載せて、組み込む。
【0182】
次に、あらかじめスクロール取り付けばね75を三本のばね取付ねじ55でねじ止めした前記非旋回スクロール部材2を、スクロールラップが噛み合わさるようにして前記フレーム4のフレーム取付部4qの上面に載せる。以上のように各要素を組み込んだ上で、前記シャフト12か前記ロータ15を回しながら、カバーねじ53により前記非旋回スクロール部材2を前記フレーム4に固定する。
【0183】
次に、予め前記ステータ16が焼きばめまたは圧入され、前記吸込みパイプ54と前記軸受支持板18とハーメチック端子22が溶接されている前記円筒ケーシング31へ、上記の組立部を挿入して前記フレーム4の側面にタック溶接を行う。そして、そのハーメチック端子22の内部側端子へ前記モータ線77を装着し、前記ロータ15と前記ステータ16によってモータ19を形成する。
【0184】
次に前記軸受支持板18の中央部の穴から出た前記シャフト12の一端が軸受ハウジング70に装着した球面軸受72の円筒穴に挿入されるように前記軸受ハウジングを組み込み、前記シャフト12の回転トルクを検出しながら軸受ハウジング70の位置を調整してその回転トルクが最小になる位置で前記軸受ハウジング70を前記軸受支持板18にスポット溶接する。その軸受ハウジング70の下面に前記シャフト給油孔12aに給油するように給油ポンプ56が設けられる。また、この時、前記フレーム4と前記軸受支持板18との間にはモータ室62が形成される。そして、前記円筒ケーシング31に底ケーシング21を溶接し、貯油室80を形成する。
【0185】
次に、前記圧力隔壁74の前記内周シール溝74aと前記外周シール溝74bに各々内周シール57と外周シール58を挿入しながら、前記円筒ケーシング31に被せる。この時、前記非旋回スクロール部材2の上面の前記内周シール57と前記外周シール58の間に前記非旋回スクロール部材2の背面過吸込圧領域99が設けられる。そして、吐出管55が上部に溶接された上ケーシング20を、更にその上に被せて、溶接する。
【0186】
この時、前記非旋回スクロール部材2の上面の前記内周シール57の内側の領域が、前記非旋回スクロール部材2の背面吐出圧領域95となる。そしてこの面積を、吐出弁がない場合に吐出系と連通して前記両鏡板間に挟まれた領域である吐出室の前記軸線方向から見た投影面積とその吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分を加えた面積の旋回スクロール部材が一旋回する間の旋回角積分平均よりも小さくする。そして、前記圧力隔壁74と前記上ケーシング20の間に非旋回背面室61が形成される。
【0187】
次に、球面軸受72を装着している軸受ハウジング70を中央に固定し、前記球面軸受72の円筒穴に前記シャフト12の端部を挿入するようにして、前記軸受支持板18を前記円筒ケーシング31に挿入固定する。この状態で、前記ステータ16に電流を流し、前記ロータ15内部の永久磁石15bを着磁し、モータ19を形成する。最後に、潤滑油を入れる。
【0188】
次に、動作を説明する。
【0189】
前記吸い込みパイプ54から前記吸込室60へ吸い込まれたガスは、前記旋回スクロール部材3の旋回運動により前記圧縮室6内で圧縮され、前記吐出孔2dより前記非旋回スクロール部材2の上部の前記非旋回背面室61に吐出される。そのガスは、一旦前記モータ室62に入ってモータ冷却とガス内に含まれる潤滑油を分離した上で前記吐出パイプ55より圧縮機外部へ出る。ここで、吐出パイプ55を前記吐出穴2dの軸線からずらせた位置に持ってきてもよい。この時には、前記非旋回背面室に吐出ガスが一旦出るために吐出ガスの吐出脈動が抑制されるという特有の効果がある。
【0190】
前記非旋回スクロール部材2は、前記圧縮室6内部のガス圧により前記旋回スクロール部材32から離間する方向の引き離し力を受けるが、前記背面過吸込圧領域99と前記背面吐出圧領域95からの圧力による引付力により、前記旋回スクロール部材3に押し付けられる。よって、非旋回スクロール部材2の付勢力は前記旋回スクロール部材から与えられる。一方、前記旋回スクロール部材3には引付力はなく、旋回背面の滑りスラスト軸受により付勢力を得ている。この結果、スクロール部材の歯先と歯底の隙間は拡大せず圧縮動作を持続することができる。
【0191】
ここで、前記背面過吸込圧領域99の圧力制御法は、まず、絞りを伴う前記吐出背面流路74dにより吐出系から吐出圧を導入し、前記差圧制御弁100により、圧力を制御する。これは、前記した第一ないし第三の実施例で軸受を通ってきた圧縮性ガス及び油により圧力導入を行っていた点が異なるだけである。これにより、前記過吸込圧領域99への圧力導入のみを考えた設計ができるため、最適設計が可能となる。また、バイパス弁及び吐出弁も前記実施例と同様に設けているため、これらの、組み合わせにより、広い運転範囲で全断熱効率及び信頼性の向上した圧縮機を提供できるという効果がある。
【0192】
圧縮機の底に溜っている油は、前記給油ポンプ56により、前記シャフト給油孔12aを通って前記旋回軸受12cに給油される。また、前記横給油孔12bを経由して前記主軸受4aに給油される。その油は、前記旋回背圧室11に入った後に、一部は前記油溝4iを通って滑りスラスト軸受4を潤滑しつつ前記吸込室60に入り、その他は、前記油排出路4sを通って、モータ室62に入り、圧縮機の底に戻る。
【0193】
また、前記圧力隔壁74は、その下部にガスの層を形成するため、前記非旋回背面室61内の高温の吐出ガスからの熱が前記圧縮室6へ伝わることを防止するという本実施例特有の効果がある。
【0194】
ところで、前記背面過吸込圧領域99への圧力導入法として、前記吐出背面流路74dを設ける代わりに、前記内周シール57に微小な溝を設けたりしてシール性を低下させてそこを通る前記非旋回背面室61からの漏れ込み流れを利用してもよい。また、内周シール57を廃止して、前記内周シール溝74aを微小な隙間とし、絞り流路としてもよい。
【0195】
また、オルダムリング5を前記した第二や第三の実施例のように、非旋回スクロール部材2と旋回スクロール部材3の間に設けてもよい。また、給油ポンプ56でなく、遠心力を用いた給油法でもよい。また、吐出弁とバイパス弁を別体としてもよい。この時には、吐出弁とバイパス弁をべつの厚さや材質にできるため、最適な設定にできるという特有の効果がある。
【0196】
次に、本発明を、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第五の実施例を、図23に基づいて説明する。圧力差制御弁100の弁キャップが弾性を有するばね弁キャップ100yとなり、それを固定するキャップ押え100xを設ける以外は、第一の実施例と同一であるため、その箇所以外の説明は省略する。吐出圧が高い運転時には、弁キャップにばね性を持たせたため、ばね弁キャップ100yは押されて弁穴2fの方へ変位する。
【0197】
よって、差圧弁ばね100cが押し縮められて、弁体100aが弁シール面2jへ押し付ける力が増大する。よって、過吸込圧値が大きくなる。背面吐出圧領域95の軸線方向における投影面積が、旋回軸受の設計により、最適な値よりも小さくなるとき、吐出圧の大きい運転条件では、過吸込圧値を大きくする必要が生じる。このような、吐出圧の増大につれて過吸込圧値が大きくなると、吐出圧の小さい条件下でも過大な過吸込圧値とならず、広い運転範囲において全断熱効率及び信頼性を一層向上できるという効果がある。
【0198】
次に、本発明を、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第六の実施例を、図24に基づいて説明する。圧力差制御弁100を、これまでの実施例と異なり、圧縮機の軸線方向に垂直な方向に設ける以外は、第一の実施例と同一であるため、その箇所以外の説明は省略する。横形弁キャップ100qの外周には導入溝100sを設け、その導入溝100sの位置で横形弁キャップ100qを貫通する穴と弁シール面の中央から開いてその貫通穴に交差する穴からなる弁導入路100rを設ける。この横形弁キャップ100qを弁穴2fに挿入すると前記導入溝100sの位置に背面導入路2mがくるため、背面過吸込圧領域の圧力が弁体100aにかかることになる。
【0199】
また、差圧弁ばね100cの下端を吸込溝2αに通じるばね掘込み2f2に挿入し、ばねの水平面内の移動を防止している。このばね掘込み2f2と吸込溝2αの連通部が第一の実施例の吸込側導通路の役割を果たす。第一の実施例と比較して、差圧弁ばね100cの自然長を大きくとれるため、ばね定数を小さくし押縮め量を大きくとって所定の押付力で弁体100aを弁シール面に押し付けることが可能になる。
【0200】
この場合、押縮め量の精度が低くても過吸込圧値の設定値はその目標値からあまりずれないので、量産時に過吸込圧値のばらつきを小さくできるため、性能のばらつきを小さくできるという特有の効果がある。また、弁体100aが移動して開口しても差圧弁ばねが押す力はあまり変化しないため、圧力差制御弁100が開口していても制御の目標値は過吸込圧値に極めて近くなり、過吸込圧値の制御の精度を高めることができるという特有の効果がある。
【0201】
次に、本発明を、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第七の実施例を、図25及び図26に基づいて説明する。弁体を円筒形の円筒弁体100mとする以外は、第一ないし第六の実施例と同一であるため、この円筒弁体100m以外の説明は省略する。その外周は弁穴の内周と隙間ばめとなっており、円筒弁体100mは弁穴の軸方向に垂直な軸まわりにほぼ回転不可能となっている。
【0202】
よって差圧弁ばね100cはその軸線に沿って伸び縮みし座屈はおこらないため、精度良く過吸込圧値を設定できるという特有の効果がある。ここで、前記円筒弁体100mの外周には複数の外周溝100pが設けられ、弁シール面を通ったガス及び油の通り道となる。この外周溝100pは一本でももちろん良い。
【0203】
次に、本発明を、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第八の実施例を、図27に基づいて説明する。外周部に外周溝がない円筒形の円筒弁体100xとし、弁キャップ100qを第一の実施例のようなプレス成形して作る形とし、吸込側導通路2iを弁穴の側面部に開口する以外は、第六の実施例と同一であるため、これらの相違箇所以外の説明は省略する。円筒弁体100xの外周は弁穴の内周と隙間ばめとなっており、円筒弁体100xは弁穴の軸方向に垂直な軸まわりにほぼ回転不可能となっている。
【0204】
よって差圧弁ばね100cはその軸線に沿って伸び縮みし座屈はおこらないため、精度良く過吸込圧値を設定できるという特有の効果がある。この圧力差制御弁の制御を行っている状態は、図27のように円筒弁体100xの上面が前記吸込側導入路2iの位置にきたときであり、これまでの実施例と異なり、弁は弁シール面と衝突したりすることはない。
【0205】
よって、弁がシール面をたたく時に出る衝撃音がなく、騒音が小さくなるという特有の効果がある。さらに、シール面等の摩耗の問題もなく、信頼性も高くなる。また、円筒弁体100xの先端に油溜め100tを設けたので、円筒弁体100xが前記弁キャップ100qと衝突する時、例えば、停止時や起動時の不安定時などにそこの油が衝撃をやわらげる役目を担い、騒音を低減するという特有の効果がある。また、前記吸込側導通路2iを加工しやすくするために吸込溝の外周の角度を斜めにした。
【0206】
次に、本発明を、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第九の実施例を、図28に基づいて説明する。弁体の上下に差圧弁上ばね100uと差圧弁下ばね10cを設けた以外は、第八の実施例と同一であるため、構造の説明は省略する。円筒弁体100yの両側にばねがあるため、弁体と弁キャップ100qまたは弁穴の底と衝突することはなくなり、弁がシール面をたたく時に出る衝撃音がなく、騒音が小さくなるという特有の効果がある。
【0207】
さらに、シール面等の摩耗の問題もなく、信頼性も高くなる。さらに、弁体と差圧弁ばねはガス圧がかからなくても常に押し付けあっているため、弁体と差圧弁ばねが分離するという危険性がなく信頼性が高くなるという特有の効果もある。また、この場合、前記差圧弁上ばね100uと前記差圧弁下ばね100cの巻く向きを逆にするとよい。つるまきばねは伸び縮みによりその軸方向においてわずかな回転を生じる。前記円筒弁体100yが動くとこれらのばねは一方が縮み他方が伸びるため、巻き方向を逆にすると、つねに同じ向きに回転しようとするため、弁体をねじるような力が働かず、前記円筒弁体100yは安定な姿勢を保ったまま回転のみ起こることになる。この回転により、弁体外周に油が供給され、摺動抵抗を下げるとともに、シール性を向上するという特有の効果もある。
【0208】
最後に、本発明を、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第十の実施例を、固定スクロール部材の図29に基づいて説明する。吸込側導通路2iの弁穴側開口部に内周溝2f3を設けた以外は、第九及び八の実施例と同一であるため、構造の説明は省略する。これにより、吸込側導通路2iの加工角度の誤差の影響を受けずに弁体がどこまで下がると圧力差制御弁が開くかを明確にできるため、過吸込圧値の設定を精度良く行うことができるという特有の効果がある。
【0209】
なお、ここで述べた第五ないし第十の実施例の内容は、背面過吸込圧領域を設けるスクロール圧縮機であれば採用できる内容であり、吐出弁やバイパス弁の有無にかかわらない。
【0210】
【発明の効果】
本発明によれば、広範囲な圧力運転範囲において、全断熱効率及び信頼性が高く、使い勝手の良いスクロール圧縮機を提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】第一の実施例である圧縮機の縦断面図。
【図2】第一の実施例の吐出圧のかかる領域の説明図。
【図3】第一の実施例の固定スクロール部材の反スクロールラップ側からの平面図。
【図4】第一の実施例の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの平面図。
【図5】第一の実施例の吐出弁とバイパス弁が一体となった弁板の平面図。
【図6】第一の実施例のバイパス弁板のリテーナの平面図。
【図7】第一の実施例に類似した実施例の吐出弁とバイパス弁が一体となった弁板の平面図。
【図8】第一の実施例に類似した実施例のバイパス弁板の平面図。
【図9】第一の圧力差制御弁(図1のP部)の縦断面図。
【図10】第二の実施例の圧縮機の縦断面図。
【図11】第二の実施例の圧力差制御弁(図10のP部)の縦断面図。
【図12】第三の実施例の圧縮機の縦断面図。
【図13】第三の実施例の圧力差制御弁(図12のP部)の縦断面図。
【図14】第三の実施例の旋回スクロール部材の斜視図。
【図15】第三の実施例の非旋回スクロール部材の斜視図。
【図16】第三の実施例のストッパ部材の斜視図。
【図17】第四の実施例の圧縮機の縦断面図。
【図18】第四の実施例の圧力差制御弁(図17のP部)の縦断面図。
【図19】第四の実施例の圧力隔壁を取り除いた圧縮機上面図。
【図20】第四の実施例の非旋回スクロール部材の中央部上面図。
【図21】第四の実施例のバイパス弁の上面図。
【図22】第四の実施例のリテーナの上面図。
【図23】第五の実施例の圧力差制御弁(図1のP部)の縦断面図。
【図24】第六の実施例の圧力差制御弁の縦断面図。
【図25】第七の実施例の圧力差制御弁の縦断面図。
【図26】第七の実施例の弁体の斜視図。
【図27】第八の実施例の圧力差制御弁の縦断面図。
【図28】第九の実施例の圧力差制御弁の縦断面図。
【図29】第十の実施例の圧力差制御弁の弁穴の縦断面図。
【符号の説明】
2…非旋回スクロール部材(固定スクロール部材)、2e…バイパス穴、3…旋回スクロール部材、4…フレーム、9…スラスト部材、23b…吐出バイパス一体弁、60…吸込室、95…背面吐出圧領域、96…吐出室、99…背面過吸込圧領域、100…圧力差制御弁。
Claims (3)
- 鏡板とそれに立設する渦巻き状のスクロールラップを備えそのスクロールラップの立設する方向である軸線方向に垂直な面内を自転せずに旋回運動する旋回スクロール部材と、鏡板とそれに立設する渦巻き状のスクロールラップを備え少なくとも前記軸線方向に垂直な面内の方向における運動が規制される非旋回スクロール部材と、前記旋回スクロールと前記非旋回スクロール部材とを噛み合わせてそれらスクロール部材の間に閉塞して容積が縮小する圧縮室と、その圧縮室側の流体の圧力による前記両スクロール部材の鏡板を引き離す向きの引き離し力に対抗して前記両スクロール部材の鏡板を引き付ける向きの引付力を前記旋回スクロール部材と前記非旋回スクロール部材とにかける引付力付加手段と、流体を前記圧縮室に導入する吸込系と、前記圧縮室内で加圧した流体を外部へ導出する吐出系とを有し、前記旋回スクロール部材における前記引付力付加手段の少なくとも一部は、前記旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側の面である旋回背面に、前記吸込系内の圧力である吸込圧より大きい圧力をかける背面過吸込圧領域を設けるとともに前記吐出圧もしくはほぼ吐出圧をかける背面吐出圧領域を設けたスクロール圧縮機において、
前記圧縮室内で加圧した流体が吐出圧になると流体を吐出する吐出弁を設け、前記背面吐出圧領域の面積を、前記両鏡板間に挟まれた領域である吐出室の前記軸線方向から見た投影面積と、その吐出室とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分とを加えた面積の前記旋回スクロール部材が一旋回する間の旋回角積分平均よりも小さくすることを特徴とするスクロール圧縮機。 - 請求項1において、前記圧縮室の圧力が前記吐出系内の圧力である吐出圧よりも高い時に前記圧縮室と前記吐出系を連通する制御バイパスを設けたスクロール圧縮機。
- 請求項2において、前記吐出系とその背面過吸込圧領域の間に設けた絞りを伴う吐出背面流路とその背面過吸込圧領域と前記吸込系の間の背面吸込流路とその背面吸込流路中に前記背面過吸込圧領域と吸込圧の圧力差を制御する圧力差制御手段とを設けたスクロール圧縮機。
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