本発明は、スクロール圧縮機に関する。
固定スクロールと旋回スクロールの圧縮作用により、両スクロールを主軸方向に互いに引き離そうとする軸方向ガス力(引き離し力)を低減するために、旋回スクロール背面に吐出圧と吸入圧との中間の圧力を導入し、引き離し力をキャンセルする引付力を発生させている。しかし、この中間の圧力は吸入圧に比例した値であるので、例えば、高速回転から低速回転に移行したときなど、背圧が過剰になり旋回スクロールと固定スクロールとの間のスラスト力が大きくなり、各ラップの歯先歯底の摺動摩擦が増大し、機械効率が低下するという問題があった。
この問題を解決するため、例えば、特許文献1に記載のスクロール圧縮機では、背圧室と吸入空間とを弁を介して連通して、過剰圧力を逃がすようにしている。
特公平2−60873号公報
上記した引き離し力は、旋回スクロールと固定スクロールによって形成される圧縮室部の流体の圧力分布と吐出室の流体の圧力である吐出圧で決まる。ここで、極端にスクロールラップの巻数の小さい場合を除いて、吐出室の軸線方向における投影面積は圧縮室側の全領域の軸線方向における投影面積に比較して小さい(吐出ポートに連通する直前の圧縮室は他の圧縮室の合計の面積よりも小さい)ため、引き離し力に占める吐出圧の影響は、とりあえず一次近似として省略できる。また、圧縮室部の流体の圧力分布(個々の圧縮室の圧力の大きさ)は、そのスクロール圧縮機の圧縮比が設計上決まっているため、極端に大きな内部漏れが無い限り、ほぼ吸込圧のみに依存する。以上より、通常の場合、引き離し力は吸込圧のみで決まることがわかる。
一方、引付力は引き離し力に対抗して両鏡板を引き付けるためにかける力であるため、スクロール部材の荷重変形の観点からいって、その大きさは引き離し力と常にほぼ同様のレベルであることが望ましい。また、その場合スクロール部材とその支持部材との間に働く付勢力も小さくなるが、これらの間に相対運動がある場合にはそこでの摩擦損失や磨耗の危険性が低減できることから、やはり引付力の大きさは引き離し力と常にほぼ同様のレベルであることが望ましい。
しかし、実際には、スクロール部材には軸線方向と垂直な方向の流体からの力や遠心力などがかかるため、引付力はこれらにより発生する傾転モーメントにも対抗しなければならない。このため、運転条件毎に、スクロール部材の鏡板を引き付けることができる大きさのうちで付勢力が最少になる引付力を発生させる制御をかけることが理想的となるが、コストを考えると、特別な場合を除いて現実的には不可能である。
そのため、実際の引付力付加手段は、引付力の大きさが、要求される運転範囲全域において引き離し力の大きさに傾転モーメントに対抗するための上乗せ分を加えた値を実現するような比較的単純な機構を考える。前述したように、引き離し力は概略吸込圧により決まることから、引付力付加手段は吸込圧に依存した機構とするのが合理的である。
前述の文献1では、その具体的な一方法として、吸込圧+一定値(過吸込圧値)といった吸込圧に依存した圧力を有する背面過吸込圧領域を設けて引付力を発生させている。スクロール圧縮機は、一定容積比の圧縮機であるため、極端に巻き数の小さいスクロールラップ時を除いて、吸込圧が高くなると圧縮室側の圧力がそれにつれて高くなり、引き離し力も増大する。具体的にいうと、吸込圧が何倍かになると引き離し力も同様の倍率で増大する。このため、吸込圧が高い条件の時に引き離し力が大きくなり、この条件時に一番大きい過吸込圧値が要求される。この値が圧縮機の過吸込圧値となる。
ところで、運転頻度が高いために性能や信頼性の高さが要求される定格条件は、運転範囲の中央付近に設けるため、吸込圧も運転で要求される吸込圧範囲の中央付近となる。このため、定格条件時の吸込圧と圧縮機の過吸込圧値を決定した吸込圧は大きく異なるため、定格条件時には、過剰な大きさの引付力がかかって、固定スクロール部材と旋回スクロール部材の間の付勢力が増し、摺動損失及び磨耗の危険性が増大して、性能及び信頼性の低下を生じさせるという問題があった。
本発明の目的は、圧縮機の運転領域における引付力の変動が少ないスクロール圧縮機を提供することにある。
上記目的は、鏡板とそれに立設する渦巻き状のスクロールラップをそれぞれ有する固定スクロールと旋回スクロールとを噛み合わせて双方間に圧縮室を形成し、前記旋回スクロールの前記固定スクロールに対する旋回運動により前記圧縮室が外周側から中心部に移動しながら容積を小さくすることで、流体の吸入、圧縮、吐出を行う圧縮機構を持ったスクロール圧縮機において、
前記旋回スクロールの背部に位置し、吐出空間の圧力を絞りを介して導入することによって前記旋回スクロールを前記固定スクロール側に付勢する背圧を働かせる背圧室と、前記圧縮室に流体の吸入を図る吸入圧力領域と前記背圧室とを連通する連通路と、前記背圧と前記吸入圧力領域の吸入圧との差に応じて前記連通路を開閉する背圧制御弁とを有し、
前記背圧制御弁は、前記連通路に連なる弁穴と背圧室とを開閉し弁シール面に対面する弁体と、前記弁体を前記弁シール面に押し付ける弁ばねと、前記弁穴と吐出空間とを隔てるとともに前記弁ばねを支持する弾性部材であるばね弁キャップと、を有し、
前記背圧制御弁は、前記吐出空間の圧力増大による前記旋回スクロールの前記固定スクロールからの引離力の増大に伴って前記背圧を増大させるように、前記吐出空間の圧力が増大したときに当該圧力を受ける前記ばね弁キャップが前記弾性部材としての弾性によって変位し前記支持した弁ばねを押し縮めて前記弁体の前記弁シール面への押付力を増大させるものであることで達成される。
本発明によれば、広範囲な圧力運転範囲において、全断熱効率及び信頼性が高く、使い勝手の良いスクロール圧縮機を提供できる。
以下本発明に係る実施例を説明する。
本発明を、非旋回スクロール部材がケーシングに対して固定された固定スクロール部材とし、旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側である旋回背面に背面過吸込圧領域を設け、要求される運転圧力条件範囲で旋回スクロール部材のスクロール支持部材を前記固定スクロール部材とした、すなわち旋回スクロール部材を前記固定スクロール部材に押し付ける、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第一の実施の形態を、図1及び図3ないし図16に基づいて説明する。図1は圧縮機の縦断面図、図3は冷房定格条件時の荷重計算結果のグラフ、図4は冷房中間条件時の荷重計算結果のグラフ、図5は冷房最少条件時の荷重計算結果のグラフ、図6は暖房定格条件時の荷重計算結果のグラフ、図7は暖房中間条件時の荷重計算結果のグラフ、図8は暖房最少条件時の荷重計算結果のグラフ、図9は吐出圧のかかる領域の説明図、図10は固定スクロール部材の反スクロールラップ側からの平面図、図11は固定スクロール部材のスクロールラップ側からの平面図、図12は吐出圧のかかる領域の説明図、図13は圧縮行程の説明図、図14はバイパス弁板の平面図、図15はバイパス弁板のリテーナの平面図、図16は圧力差制御弁の縦断面図である。なお、この例は、直径が、40mmから500mm程度のものである。
まず、構造を説明する。図1において、旋回スクロール部材3は、鏡板3aにスクロールラップ3bが立設し、その背面には旋回軸受3wを挿入した軸受保持部3sと、旋回オルダム溝3g、3hが設けられる。固定スクロール部材2は、図10、図11に示されているように、スクロールラップ歯先面と同一面である非旋回基準面2uを設けそこに周囲溝2cを形成する。そして、歯底には4個のバイパス穴2eが設けられる。ここでバイパス穴2eを4個設けた理由は、形成される全ての圧縮室6に常にバイパス穴を開口させるためである。図1において、このバイパス穴2eを覆うようにリード弁板であるバイパス弁板23およびその弁板23の開口度を制限するリテーナ23aをバイパスねじ50で固定する。中央近くには吐出穴2dが開口している。
また、図10、図11において、歯底面の外縁側に吸込み堀込み2qを設け、そこに背面から吸込みパイプ54を挿入するための吸込み穴2vを設ける。この吸込穴2vに前記吸込パイプ54を挿入するが、そのときに弁体24aと逆止弁ばね24cを入れ、吸込み側逆止弁24を形成する。さらに、固定スクロール部材2の外周に吐出ガスおよび油を流す複数個の流通溝2rを設ける。そして、そのうちの一個にはモータ線77を通す。図10、図11において、前記周囲溝2cに背面から弁穴2fを開け、テーパ状の弁シール面2jを設ける。そして、この弁穴2fの側面から吸込室と通じている吸込溝2mに吸込側導通路2iを設ける。
図16の如く、この弁穴2fに球状の弁体100aと差圧弁ばね100cを入れ、ばね位置決め突起100hに前記差圧弁ばね100cの一端を挿入した状態で弁キャップ100fを前記弁穴2fよりも直径の大きい弁キャップ挿入部2kに圧入し、差圧制御弁100を形成する。このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面2jに押し付ける。この押付力は過吸込圧値を決定するため、これを決める寸法である前記弁穴2fの深さと前記キャップ挿入部2kの深さと前記弁体100aの直径と前記差圧弁ばね100cのばね定数及び自然長及びばね直径は精度良く管理しなければならない。また、前記弁キャップ100fの外径を前記弁キャップ挿入部2kの径よりも小さくし押付力が正規の値になるところでこの弁キャップ100fを拡管して止める方法もある。この方法の場合には、上記した各部の寸法やばね定数の値を精度良く管理する必要が無くなるため量産性が向上するという効果がある。これら二通りの方法とも組み立て完了時には、前記弁キャップ100fの外周部と前記弁キャップ挿入部2kの内周部の間は完全にシールされていなければならない。このシールを完全なものにするために、接着や溶接を行ってもよい。
図1に戻って、フレーム4は、外周部に前記固定スクロール部材2を取り付ける固定取付け面4b、その内側に旋回はさみこみ面4dが設けられる。そのさらに内側には、オルダムリング5をフレーム4と旋回スクロール部材3の間に配置するため、フレームオルダム溝4e、4f(ともに図示せず)を設ける。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mを設け、そのスクロール側にシャフトを受けるシャフトスラスト面4cを設ける。その軸シール4aと主軸受4mの間の空間に向かってフレーム側面から横穴4nが開口している。外周面にはガスおよび油の流路となる複数の流通溝4hが設けられる。そして、そのうちの一個にはモータ線77を通す。
オルダムリング5の一面にフレーム突起部5a、5b(ともに図示せず)が設けられ、もう一方の面には旋回突起部5c、5dが設けられる。
シャフト12には内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大したバランス保持部12hがあり、そこにシャフトバランス49が圧入される。さらに偏心部12fが設けられる。
ロータ15は積層鋼板15aに未着磁の永久磁石(図示せず)を内蔵し、両端にロータバランス15c、15pを設ける。
ステータ16は積層鋼板16bの外周部に圧縮性ガスや油の流路となる複数のステータ溝16cが設けられている。ところで、このステータ溝16cのかわりに前記積層鋼板16bの内部に横穴を開けてもよい。
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記フレーム4の主軸受4aに前記シャフトバランス49が圧入された前記シャフト12を挿入し、前記ロータ15を圧入または焼きばめする。さらに、前記オルダムリング5を、前記フレームオルダム溝4f、4eに前記オルダムリング5のフレーム突起部5a、5bを挿入して、前記フレーム4に装着する。さらに、前記旋回スクロール部材3を、その旋回オルダム溝3g、3hに前記オルダムリングの旋回突起部5c、5dを挿入し、旋回軸受3wに前記シャフト12の前記偏心部12fを挿入しながら、旋回はさみこみ面4d上に装着する。この旋回スクロール部材3に前記固定スクロール部材2を噛み合わせ、前記シャフト12を廻しながら回転トルクの最小となる位置でカバーねじ53により前記フレーム4に前記固定スクロール部材2を固定する。この時、前記旋回スクロール部材3の前記鏡板3aの厚さが前記旋回はさみこみ面4dと非旋回基準面2uの間隔よりも10〜20μm程小さくなるようにし、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定する。また、前記旋回スクロール部材3の背面に旋回過吸込圧領域99を設ける。次にあらかじめ前記ステータ16を焼きばめするとともにガス抜き通路88aを有するガスカバー88が溶接された前記軸受支持板18をスポット溶接した円筒ケーシング31に、上記の組立て部を挿入し前記フレームの側面にタック溶接を行なう。これにより、前記ロータ12と前記ステータ16によってモータ19を形成し、前記軸受支持板18と前記フレーム4の間にモータ室62を形成する。次に前記軸受支持板18の中央部の穴から出た前記シャフト12の一端が軸受ハウジング70に装着した球面軸受72の円筒穴に挿入されるように前記軸受ハウジングを組み込み、前記シャフト12の回転トルクを検出しながら軸受ハウジング70の位置を調整してその回転トルクが最小になる位置で前記軸受ハウジング70を前記軸受支持板18にスポット溶接する。。そして、給油管71を溶接した給油キャップ90をシール73を挟んで前記軸受ハウジング70にねじ込む。ここで、給油管71は給油キャップ90を前記軸受ハウジング70にねじ込んだ後に下方に曲げる。そして、前記円筒ケーシング31に吐出管55が上部に溶接された底ケーシング21を
溶接し、貯油室80を形成する。給油管71の先端近くには、マグネット89が設けられる。また、前記円筒ケーシング31にハーメチック端子22が上部に溶接された上ケーシング20を前記ハーメチック端子22の内部側端子にモータ線77を装着して溶接し、固定背面室61を形成する。
次に動作を説明する。前記モータ19が回転することにより、前記シャフト12が回転し前記旋回スクロール部材3が旋回運動する。ここで、前記オルダムリング5があるために前記旋回スクロール部材3の自転が防止される。この動作により吸込室60内の圧縮性ガスが両スクロール部材の間に形成される圧縮室6に入り圧縮されて前記吐出孔2dから固定背面室61に吐出される。前記固定背面室61に吐出された圧縮性ガスは前記固定スクロール部材2および前記フレーム4hの外周にある流通溝2rおよび4hを通って前記モータ室62に入る。そのモータ室に入った圧縮性ガスは前記ステータ溝16cを通りながらモータ19を冷却する。その過程で、圧縮性ガスは前記モータ19の各部に衝突してその中に含まれている油を分離する。分離された油は前記モータ室62の下部に落ちる。前記モータ室62に入った圧縮性ガスは、吐出パイプ55より外部に出る。ここで、前記モータ室62内部の圧縮性ガスは小さい通気孔18bを通過して前記貯油室80の上部に流入するため、その流路抵抗により前記貯油室80の圧力は前記モータ室62の圧力よりも低くなる。これによって、前記モータ室62の潤滑油56は導油孔18aを通って前記貯油室80に流入する。このとき、ガスも同時に前記貯油室80に流入し、前記貯油室80内の潤滑油56中を気泡が上昇するが、前記ガス抜き通路88b内を気泡が上昇するため、前記給油管71には気泡が入らず、軸受の信頼性を向上できるという特有の効果がある。
以上より、前記モータ室62の油面を前記ロータ15や前記シャフト12へかかることなく、潤滑油56を小形の圧縮機内部に蓄えることが可能となるため、高信頼性の横置き圧縮機を小形で実現できるという本実施の形態特有の効果がある。
ところで、前記旋回スクロール部材3の前記鏡板3aの厚さが前記旋回はさみこみ面4dと非旋回基準面2uの間隔よりも10〜20μm程小さくなるようにし、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定しているため、モータ起動時には、旋回スクロール部材3の旋回速度を、その時に許容される旋回スクロール部材の最高値、例えば、6000rev/minにすると要求される運転域の最大の吸込圧まで十分に下げることができ、さらに、吐出圧を吸込圧よりも過吸込圧以上に上昇させることができる。この結果、前記モータ室62の圧力が吸込圧よりも過吸込圧以上に高くなり、この圧力の油及びそこに溶けこんでいる圧縮性ガスが前記シャフト給油孔12aを経由して、前記旋回軸受3wと前記偏心部12fの間及び前記主軸受4mと前記シャフト12の間を通って前記旋回スクロール部材3の背面である前記背面過吸込圧領域99に入り、前記旋回スクロール部材3を固定スクロール部材2に押し付ける。これにより、スクロールラップの歯先歯底間の隙間が正規の値となり、正常な圧縮運転を行う。このように、外部の力を借りることなく圧縮機自ら起動することが可能となるため、使い勝手が向上するという効果が有る。
ところで、前記旋回軸受3wと前記偏心部12fの間及び前記主軸受4mと前記シャフト12の間は軸受隙間であるために非常に狭くなっており、それらの軸受を潤滑して前記過吸込圧領域99に流れ込む油及びそれに溶けこんでいる圧縮性ガスにとっては、絞り流路となっている。このため、圧力損失により前記背面過吸込圧領域99の圧力は、吐出圧つまり吸込圧+過吸込圧値よりも、必ず低下する。起動時には、引き離し力により、前記旋回スクロール部材3の背面が前記旋回はさみこみ面4dに押し付けられて、密閉空間となっているため、前記背面過吸込圧領域99の圧力は吸込圧+過吸込圧値までは確実に上昇していく。これによって、軸受による圧力損失があっても、前記旋回はさみこみ面4dの働きにより圧縮機自ら起動することが可能となる。
ところで、このように最大離間距離を規定することにより起動して定常運転に移行した圧縮機において、前記背面過吸込圧領域99には、前記主軸受4m及び前記旋回軸受3wから流入する油及び圧縮性ガスが常に流入してくる。この圧縮性ガスや油は、旋回スクロール部材3が固定スクロール部材2に押し付けられることにより、隙間のあいた旋回背面と前記旋回はさみこみ面4dの間を通って、前記圧力差制御弁100が開口している前記周囲溝2cに流れ込む。そして、この圧縮性ガスや油は、この圧力が吸込圧よりも前記過吸込圧値だけ高くなったときに、前記差圧弁ばね100cの押付力に打ち勝って、前記弁体100aを移動させ、それにより形成された弁シール面2jとその弁体100aの隙間を通って、前記弁穴2fに流入し、前記吸込側導通路2i及び前記吸込溝2mを通って前記吸込室60に排出される。これは、圧縮機の中で吐出系から吸込系へ短絡する流れであり、スクロールラップにおける内部漏れと同じものであるため、極力少なくすることが必要である。今回は前記過吸込圧領域99に圧力を導入する吐出背面流路が軸受隙間であることから、絞り流路となっており、この流れ量は非常に小さいため、圧縮機の性能低下は生じない。
また、前記固定スクロール部材2の鏡板2aには、4個のバイパス穴2eが設けられているが、図13からわかるように、これによって形成される全ての圧縮室に常にバイパス穴が開口する。ここに前記バイパス弁板23が覆うようにバイパスねじ50で固定されてバイパス弁が形成される。このバイパス弁は、前記圧縮室6の圧力が吐出系の前記固定背面室61の圧力よりも大きくなると開くことになる。これより、前記固定背面室61の圧力は吐出圧であるから、このバイパス弁は、前記圧縮室6の圧力が吐出圧よりも高いときに前記圧縮室6と前記吐出系を連通することになり、制御バイパスとなっている。
このように圧力差制御弁及び制御バイパス弁をスクロール圧縮機に同時に採用した作用効果を以下説明する。要求される運転範囲が、高い吸込圧時に設計容積比に対応する設計圧力比が圧力比よりも大きい過圧縮運転となる場合(すなわち、圧縮室内部の圧力が圧縮機チャンバ内の圧力よりも高い場合)、高い吸込圧時では、圧縮室側の圧力は制御バイパス弁が作動し、圧縮室内部の圧力は、吐出圧よりも大幅には大きくならないため、旋回スクロールと固定スクロールとを引き離そうとする引き離し力は、過圧縮のために発生した引き離し力に比べ低下する。定格条件時と比較すると、引き離し力に打ち勝って両スクロールを引き付けるための必要な引付力は吸込圧の増加倍率よりも低くなる。これによって、過吸込圧値は、制御バイパスが無い場合と比べて低く設定できる(圧縮機運転領域における最大引き離し力を低く押さえることができる)ため、運転範囲全域にわたって引付力を小さくすることができ、引き離し力が小さい場合でも過吸込圧値を小さく抑えられるため、過剰な引付力を発生することがない。
このことから、スクロール部材の変形が抑えられ、圧縮室のシールの管理が容易になり、内部漏れを抑制して全断熱効率の向上を実現できるという効果が有る。また、旋回スクロール部材とその支持部材が相対運動を有する構成の場合には、摺動部に働く付勢力が低減するため、そこにおける摺動損失や磨耗の危険性が低減し、全断熱効率や信頼性の向上を実現できるという効果が有る。特に、高い全断熱効率や信頼性が要求される定格条件時において、付勢力は大幅に小さくなり、全断熱効率や信頼性の一層の向上を実現できるという効果が有る。
ところで、この制御バイパスは、特開昭58ー128485号公報(文献2)に示されている。この文献2では、過圧縮の圧力条件時に、圧縮室の圧力が吐出圧よりも高くなるのを回避して、指圧線図のふくらみを縮小させ熱流体損失を低減し全断熱効率を向上させるというものである。上記実施の形態においても同様の効果もある。しかし、この文献に記載の技術では、圧縮室内部の最大圧力を吐出圧近辺に均しくして、引付力を発生させるための手段の引付力を、特に吸入圧に加算される過吸込圧値を低減せしめ、圧縮室内の圧力が低い場合に発生する過剰引付力を防止して、摩擦損失等を低減する作用効果については何等触れられていない。すなわち、圧力差制御弁と制御バイパス弁を併用する場合の作用効果は何等触れられていない。
一般的に、冷凍サイクルでは、その運転能力を増加させるために、吸込圧を低下させ同時に吐出圧を上昇させるような運転圧力条件の変化を行う。例えば、冷凍サイクル中の絞り弁を絞る、絞ることができる可動弁がない場合は圧縮機回転数を増加させるなど。逆に、その運転能力を減少させるためには、吸込圧を上昇させ同時に吐出圧を低下させることになる。
よって、冷凍サイクル中に用いられる圧縮機に要求される圧力運転範囲は、図2に示されるような傾向となる。横軸に吸込圧、縦軸に吐出圧をとったグラフ上で、右下がりの領域(ハッチングを施した楕円の範囲)となる。このグラフから、吸込圧が高くなればなるほど過圧縮の激しい条件(圧縮機の圧縮比は設計上決まっており、吸込圧が高くなると冷凍サイクルの特性から圧縮機の吐出圧が低下し、圧縮室内の圧力が吐出圧を上回ってしまう)となることが分かり、吸込圧が高くなるにつれて制御バイパスによる圧縮室側の圧力の低減は大きくなり、定格条件時と比較して、必要な引付力は吸込圧の増加倍率よりも非常に低くなる。
すなわち、吸込圧が高いときは、冷凍サイクルの影響によって吐出圧が低くなる。つまり、冷凍サイクルから要求される吐出圧は低くなるので、吐出圧と吸込圧との圧力差は、先に述べた圧縮機単体の運転(圧縮機吐出圧は吸込圧に比例する)に比べ低いものとなる。この時制御バイパス弁が開くことによって、圧縮室内部圧力がこの低い吐出圧となり、引き離し力が低下する。このため、引付力はこの引き離し力に打ち勝つだけの小さな値でよい。反対に、吸込圧が低いときは、冷凍サイクルが要求する吐出圧が高くなり、この時は圧力が不足するので制御バイパス弁は開かない。
これによって、過吸込圧値は、非常に低く設定できるため、運転範囲全域にわたって引付力が非常に小さくなり、スクロール部材の変形が非常に抑えられ、全断熱効率の大幅な向上を実現できるという効果が有る。また、旋回スクロール部材とその支持部材が相対運動を有する構成の場合には、摺動部に働く付勢力が大幅に低減するため、そこにおける摺動損失や磨耗の危険性が大幅に低減し、全断熱効率や信頼性の一層の向上を実現できるという効果が有る。特に、高い全断熱効率や信頼性が要求される定格条件時において、付勢力は大幅に小さくなり、全断熱効率や信頼性のより一層の向上を実現できるという効果が有る。
以上の如く、前記旋回スクロール部材3の引付力付加手段として、前記過吸込圧領域99を旋回背面に設け、制御バイパスも設けたため、過吸込圧値を小さく設定でき、広い運転範囲で付勢力を小さく設定できる。この結果、全断熱効率や信頼性を広い運転範囲で高くできるという効果が有る。
ところで、前記圧縮室6と前記固定背面室61を常につなぐように前記バイパス穴2eを四個設けたため、液圧縮が生じようとしても圧力が極端に上がる前に前記バイパス弁が開いて流体は前記固定背面室61に排出されるため、ラップの損傷の危険性を回避し、信頼性を向上できるという効果がある。また、同時に過圧縮が抑制でき、圧力比の低い運転条件でも全断熱効率を高くできるという特有の効果がある。
ところでまた、前記旋回スクロール部材3の鏡板3aの背面中央部にある前記軸受保持部3sの底面には、前記シャフト給油孔12aからの吐出圧の油が入ってくるため、旋回吐出圧領域95となっている(ここで、旋回吐出圧領域95は、旋回軸受3wの内径の領域である)。しかも、その軸線方向から見た投影面積は、吐出室の軸線方向からみた投影面積とそれを囲む圧縮室の境界を形成する両スクロールラップの歯先面積の半分の和の最大値と最小値との間になっているため、引き離し力における吐出圧の寄与を考慮する必要が無くなる。
以下、引付力付加手段の背面吐出圧領域面積を、引き離し力の中に含まれている吐出室内の流体からの寄与分とほぼ同じ大きさの力を与えるようにするための作用を説明する。鏡板の圧縮室側における吐出圧のかかる領域は、吐出室の軸線方向からの投影面積と、その吐出室の境界を形成する両スクロールラップ部の歯先面積の半分と考えた。後者は、吐出室の外側に位置する圧縮室と吐出室とのシール部であるから、吐出室に近い部分は吐出圧となり、外側の圧縮室に近い部分はその圧縮室の圧力となっているため、吐出圧とその圧縮室の圧力の平均の圧力がかかっている部分と考えられる。よって、吐出圧がかかる面積を歯先面積の半分とした。これらの面積は、旋回スクロール部材が公転するにつれて変化するため、本来はその時間平均を背面吐出圧領域面積とすべきであるが、定義が困難なため、良い近似である上に定義の明確なものとして、変化する値の最大値と最小値の間とした。この結果、引き離し力における吐出圧の寄与を考慮する必要が無くなったので、過吸込圧値の設定値をさらに一層小さくできるため、全断熱効率及び信頼性の向上をさらに一層実現させるという効果がある。
以上、前記背面過吸込圧領域99の圧力における過吸込圧値をより小さく設定できるため、全断熱効率及び信頼性を一層向上できるという効果について説明した。ここで、投影面積の例を、図9に示す。この図は、最内の圧縮室であるA1、A2が吐出室A3と連通する瞬間を示したものである。連通直後とみなすと、
A1+A2+A3+K2+K3+S2+S3+(K1+S1)/2
が問題としている投影面積の最大値となる。また、連通直前とみなすと、
A3+(K3+S3)/2
となり、問題としている投影面積の最小値となる。
ここで、この圧縮機を、冷凍サイクル用圧縮機として用いた場合、吸込圧と吐出圧の運転範囲は、図2で示すように、吸込圧が高い条件では吐出圧は低くなる。よって、制御バイパスがあると過圧縮は抑制もしくは生じなくなるため、吸込圧が高くなっても引き離し力は小さくなる。よって、過吸込圧値を更に一層小さく設定でき、全断熱効率や信頼性の向上を実現できるという効果が有る。冷凍サイクルは図2に示すような運転範囲を要求する用途の一つであり、この効果はこれに限ったものではない。これ以外でも圧力条件において同様な運転条件を要求する用途では、同様の効果がある。
図3から図5は、この実施の形態で、図12に示すような旋回スクロール部材3を用いた圧縮機のシャフト回転角に応じた旋回スクロール部材にかかる付勢力の計算結果である。ここで旋回軸受の内直径を16mm、過吸込圧値を2.3kgf/cm2とした。このため、このグラフには、Pb=Ps+2.3と示した。実線が付勢力であり、比較のために、バイパス弁がないときと、図12に示したような位置に中間圧孔を設けて旋回背面に中間圧をかける方法の時を示す。この中間圧孔を設けて旋回背面に中間圧をかける方法では、旋回背面の圧力は吸込圧の定数倍となる。今回の計算では、その定数を1.5とした場合を計算した。このため、中間圧孔の方法時のグラフには、Pb=Ps*1.5と示した。また、破線は、傾転モーメントを、固定スクロール部材の前記非旋回基準面2uの内縁で生じる付勢力の分力により受けるとした場合の一方の力である。力の正の方向を旋回スクロールラップの立設する向きとしたため、付勢力は負の値となる。これらのグラフで、Psは吸込圧、Pdは吐出圧、Pbは旋回背面圧、Nは旋回スクロール部材の旋回速度を示す。これらの三条件は、この圧縮機をルームエアコン用圧縮機として用いた場合の、冷房運転における定格時の条件及び間能力時の条件及び最少能力時の条件に相当し、全て過圧縮条件である。このグラフで注意すべき点は、分力が付勢力よりも上にきていると旋回スクロール部材は傾転モーメントにより傾く可能性が高いということである。よって、バイパス弁が無い場合には、この三条件すべてで旋回スクロール部材が傾く可能性があり、この2.3という過吸込圧値では不足であることがわかる。だからといって、この値を大きくすると、不足圧縮時には、付勢力がその増分だけ大きくなる。
以上より、この例は、背面過吸込圧領域とバイパス弁の組み合わせにより、過吸込圧値を小さく設定できる具体例であることがわかる。中間圧孔方式と比較しても、付勢力のレベルは低く、全断熱効率や信頼性が勝っていることがわかる。ここで、中間圧孔方式の定数を少し小さくすればいいように思われるが、それを行うと、吸込圧が低く吐出圧が高い条件下で引付力が不足するためできない。図6から図8は、この実施の形態で、背面吐出圧領域を変えた場合の旋回スクロール部材にかかる付勢力の計算結果である。Φ16つまり16mmの直径の背面吐出圧領域は、前述に示す条件にあった場合であり、他の二個は前述の条件から外れた場合である。この三条件においてΦ16の場合は、旋回スクロール部材が傾かず、さらに、付勢力も小さい。
以上より、この例は、背面過吸込圧領域とバイパス弁の組み合わせにおいて、背面吐出圧領域を請求項5に示すような面積とした場合には、いろいろな条件で旋回スクロール部材が傾かずに、過吸込圧値を小さく設定できる具体例であることがわかる。
また、R32を含む冷媒ガスは非常に高い圧力で使用されることが多い。このため、この背面過吸込圧領域と制御バイパスをともに有する圧縮機により、旋回スクロール部材にかかる付勢力を低減でき、そこでの磨耗の危険性が回避できるため、信頼性の高い圧縮機を提供できるという効果が有る。
以下に種々の実施の形態を説明するが、上記した第1の実施の形態における技術思想は以下の実施の形態においても同様である。
本発明を、非旋回スクロール部材がケーシングに対して固定された固定スクロール部材とし、旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側である旋回背面に背面過吸込圧領域を設け、要求される運転圧力条件範囲で旋回スクロール部材のスクロール支持部材を主に前記旋回背面に設けたスラスト部材とした、すなわち旋回スクロール部材を前記固定スクロール部材に押し付けずに旋回背面のスラスト部材に押し付けて、そのスラスト部材が軸線方向に可動な、横置き型のスラストリリース式スクロール圧縮機に実施した第二の実施の形態を、図17及び図18に基づいて説明する。図17は圧縮機の縦断面図、図18は圧力差制御弁の縦断面図である。
まず、構造を説明する。モータ室62及び貯油室80に関しては第一の実施の形態と同一なので説明は省略する。旋回スクロール部材3は、鏡板3aのスクロールラップ3bが立設した面に旋回オルダム溝3g、3h(図示せず)が設けられ、その背面には旋回軸受3wを挿入した軸受保持部3sが設けられる。また、背面外周部にはスラスト面3dが配置されている。また、前記スクロールラップ3bは、中央側端部及び外周側端部を除いて、中央から外周へ向かうにつれて、厚さが減少する。
固定スクロール部材2は、スクロールラップ歯先面と同一面である非旋回基準面2uを設け、歯底には4個のバイパス穴2eが設けられる。ここでバイパス穴2eを4個設けた理由は、形成される全ての圧縮室6に常にバイパス穴を開口させるためである。ここにリード弁板であるバイパス弁板23が覆うようにバイパスねじ50で固定する。また、中央近くには吐出穴2dが開口している。また、オルダムリング5を前記旋回スクロール部材3と固定スクロール部材2の間に配置するため、固定オルダム溝2g、2h(図示せず)を設ける。また、歯底面の外縁側に吸込み堀込み2qを設け、そこに側面から吸込みパイプ54を挿入するための吸込み穴2vを設ける。さらに、固定スクロール部材2の外周に吐出ガスおよび油を流す複数個の流通溝2rを設ける。前記バイパス穴2eにはバイパス弁板23がバイパスねじ50によってねじ止めされ、リテーナの役割を果たす中央カバー35が挿入される。これには、前記バイパス穴2eから抜けてきたガスの通路である穴が開いている。この中央カバー35は、バイパス弁の開閉時の音を遮断する効果が有る。そして、そのうえに断熱カバー36がねじ止めされる。前記固定スクロールラップ2bは、旋回スクロ−ルラップ3bと同様に、中央から外周へ向かうにつれて、厚さが減少する。
吸込み側逆止弁24は、弁板24aと弁軸24cからなり、弁板24aの端部を丸めて軸受部を設け、その軸受部に弁軸24cを挿入する。その弁軸24の一端は前記固定スクロール部材2の前記吸込み堀込み2q内にある穴に圧入または接着固定される。
スラスト部材9は、滑りスラスト軸受9a側の面の外縁部にストッパ部9fが突出し、その上面は非旋回基準面対向面9wとなっている。この結果、前記スラスト軸受9aと前記非旋回基準面対向面9wが同一方向に平行に設けられるため、旋盤または研磨機でこの二面の距離を精度良く管理しながら加工が容易に行えるという特有の効果がある。
ここで、前記スラスト軸受9aと前記非旋回基準面対向面9wの距離はスクロールラップの歯先と歯底の隙間を決める寸法の一つであるが、この寸法の精度を容易に出せるということより、量産時における性能や信頼性のばらつきの小さいスクロール流体機械を提供できるという特有の効果がある。また、その滑りスラスト軸受9a上に円形の油溝9gを設け、そこに、スラスト部材背面側から堀込んである差圧弁挿入穴9hへ抜ける吸込側導通路9cを開ける。このスラスト部材9は、軸方向回りに回転してもよいため、回転止めは不要となり、圧縮機の構造は簡単となり加工性が向上するという効果がある。ここで、前記差圧弁挿入穴9hには、以下に述べる差圧制御弁100を組み込む。まず、前記差圧弁挿入穴9hの底にあるばね位置決め突起9iに差圧弁ばね100cを圧入し、テーパ状の弁シール面100bを有する貫通した弁穴100dを設けた円筒状の弁ケース100eに球状の弁体100aを入れた状態で、前記差圧弁挿入穴9hに圧入または接着または溶接し、差圧制御弁100を形成する。このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面2jに押し付ける。この押付力は過吸込圧値を決定するため、これを決める寸法である前記弁穴2fの深さと前記弁体100aの直径と前記差圧弁ばね100cのばね定数及び自然長及びばね直径は精度良く管理しなければならない。また、前記差圧弁挿入穴9hの内径を前記弁ケース100eの外形よりも大きくし押付力が正規の値になるところでこの弁ケース100eを接着して止める方法もある。この方法の場合には、上記した各部の寸法やばね定数の値を精度良く管理する必要が無くなるため量産性が向上するという効果がある。これら二通りの方法とも組み立て完了時には、前記差圧弁挿入穴9hと前記弁ケース100eの間は完全にシールされている。
スラストシール97は、耐熱性のエンジニアリングプラスチックやバネ材であるりん青銅板やステンレス板から形成され、前記スラスト部材9を押し上げる押し上げ面97aと背面溝97bと外周シール部97cと内周シール部97dからなる。
フレーム4は、外周部の前記固定スクロール部材2を取り付ける固定取付け面4bの内周側にスラスト溝4kが設けられる。外周面にはガスおよび油の流路となる複数の流通溝4hが設けられる。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mが設けられ、その主軸受4mの上端面はシャフトを受けるシャフトスラスト面となっている。その軸シール4aと主軸受4mの間の空間に向かってフレーム側面から横穴4nが開口している。前記スラスト溝4kの底面からフレーム背面へ開けた圧力導入路4u、4vが設けられ、そのスラスト溝4kに前記スラストシール97を挿入する。この結果、前記スラストシール97の背面にシール背面空間73が形成される。
オルダムリング5の一面に固定突起部5a、5b(図示せず)が設けられ、下面には旋回突起部5c、5d(ともに図示せず)が設けられる。
シャフト12には内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大したバランス保持部12hがあり、その外周に円筒形状の外周部をもつシャフトバランス49が圧入される。さらに偏心部12fが設けられる。
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記スラスト溝4kに前記スラストシール97を挿入した前記フレーム4の主軸受4mに前記シャフトバランス49が圧入された前記シャフト12を挿入し、前記ロータ15を圧入または焼きばめする。さらに、前記スラスト部材9を前記スラストシール97の前記押し上げ面97a上に載せて前記フレーム4に装着する。一方、前記固定スクロール部材2の前記固定オルダム溝2g、2hに前記オルダムリング5の固定突起部5a、5bを挿入し、さらに前記オルダムリング5の旋回突起部5c、5dを前記旋回オルダム溝3g、3hに挿入させて、前記固定スクロール部材3と前記オルダムリング5と前記旋回スクロール部材3を組み合わせる。この組合せ部の前記旋回軸受3wに前記シャフト12の前記偏心部12fを挿入させながら前記旋回スクロール部材3を前記スラスト部材9上に載せる。そして前記シャフト12を廻しながら回転トルクの最小となる位置でカバーねじ53で前記フレーム4に前記固定スクロール部材2を固定する。この時、前記スラスト部材9が前記固定クロール部材2に押しつけられ、前記非旋回基準面2uと前記非旋回基準面対向面9wが圧接した状態で、フレームスラスト面4rと前記スラスト部材9のスラスト背面9rの軸線方向の間隔が10〜20μmとなるように設定することにより、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定する。また、前記旋回スクロール部材3の背面に旋回過吸込圧領域99を設ける。その他の部分であるモータ室62及び貯油室80及び固定背面室61は、前記した第一の実施の形態と同一であるため説明は省略する。
次に動作を説明する。正規の圧縮動作時において、吐出室から固定背面室61へ出た圧縮性ガス及び油の流れは、前記第一の実施の形態と同一であるため、スクロール部材及びフレーム内における動作を説明し、その他の説明は省略する。
前記旋回スクロール部材3の背面に配置された前記スラスト部材9はその背面に有る前記スラストシール97により前記固定スクロール部材2側に押し付けられ、前記非旋回基準面対向面9wと前記非旋回基準面2uが圧接して、前記滑りスラスト軸受9aの位置が決まっている。そこに、前記旋回スクロール部材3のスラスト面3dがのるため、軸線方向における前記旋回スクロール部材3の位置が決まる。この位置でスクロールラップの歯先歯底間の隙間が決まるため、それが適正になるように、前記滑りスラスト軸受9aの位置を決める。ここで、前記スラストシール97は、その背面に有る前記シール背面空間73内の吐出圧の圧縮性ガス及び油により、前記スラスト板4を前記固定スクロール部材2側に押す力を得ている。その前記シール背面空間73内の吐出圧の圧縮性ガス及び油は、前記圧力導入路4u、4vを通って前記モータ室62から入ってくる。ところで、このスラストシール97はエンジニアリングプラスチックやばね材といった剛性の低い素材でできているため、前記シール背面空間73内の吐出圧により、前記外周シール部97cや前記内周シール部97dと前記シール溝4kの側面の隙間や前記押し上げ面97aと前記スラスト部材9の背面の隙間のシール性が完全となり、この部分での吐出系から吸込系への漏れを防止できる。よって、全断熱効率を向上できるという効果が有る。また、前記圧力導入路4uは下方に設けられるため油中に開口し、もう一方の前記圧力導入路4vは上方に設けられるため圧縮ガス中に開口する。よって、前記圧力導入路4uにより、油が前記シール背面空間73に入るため、油の表面張力により前記シール溝4kとの隙間に流入しそこのシール性を向上する効果が有る。一方、不慮の衝撃力による前記スラスト部材9の前記固定スクロール部材2からの離間が生じ前記シール背面空間73内の油や圧縮性ガスが外部へ押し出されても、圧縮性ガスが気体であるために、それが前記圧力導入路4vから前記シール背面空間73に瞬時に入る。よって、前記スラスト部材9は短時間で前記固定スクロール部材2に再び接触し、両スクロール部材の歯先歯底間の隙間の拡大は短時間で回避されるため、性能の高い圧縮機を提供できるという特有の効果がある。
前記旋回スクロール部材3は、前記スラスト部材9の上で、前記シャフト12の回転に伴って旋回運動する。この時に、前記オルダムリング5により自転が防止される。この旋回運動により、両スクロール部材間に圧縮室6を形成し、圧縮運転を行う。ここで、前記旋回スクロール部材3にかかる引き離し力に対向して、その背面の前記背面過吸込圧領域99に、吸込圧よりも一定値だけ高い圧力を導入するとともに、前記軸受保持部3sの底部の背面吐出圧領域95に、吐出圧を導入して、引付力を付加する。この引付力は、要求される運転範囲のほぼ全域において、引き離し力よりも小さくなるように設定する。このため、前記旋回スクロール部材3の支持部材は、その背面の前記スラスト部材9とする。前記背面吐出圧領域95の吐出圧は、前記シャフト給油孔12aによって前記旋回軸受に供給する油により導入される。一方また、前記固定スクロール部材2の鏡板2aには、制御バイパスとなるバイパス弁23が設けられる。このようにして、前記旋回スクロール部材3の引付力付加手段として、前記過吸込圧領域99及び前記吐出圧領域95を旋回背面に設け、制御バイパスも設けたため、過吸込圧値を小さく設定でき、広い運転範囲で付勢力を小さく設定できる。この結果、全断熱効率や信頼性を広い運転範囲で高くできるという効果が有る。
次に、前記背面過吸込圧領域99内の圧力の制御法について、以下に述べる。前記背面過吸込圧領域99には、前記主軸受4m及び前記旋回軸受3wの軸受隙間を介して吐出空間から油及びそこに溶けこんでいた圧縮性ガスが流入する。この圧縮性ガスや油は、前記スラスト部材9が前記固定スクロール部材2に押し付けられることにより、隙間のあいたスラスト部材背面と前記フレームスラスト面4rの間を通って、前記圧力差制御弁100の開口部に至る。この開口部にある前記弁体100aのもう一方の面には吸込圧がかかっているため、この弁体100aを押し付けている前記差圧弁ばね100cの押付力に対応した圧力差だけ吸込圧よりも上昇したときに、前記弁体100aが移動し、前記吸込室60に排出される。この前記差圧弁ばね100cの押付力は、周囲の雰囲気により大きくは変わらないため、前記背面過吸込圧領域99と前記吸込室60の圧力差はほぼ一定となる。また、吐出圧の高い運転時に前記背面吐出圧領域の面積をもう少し大きくしたいが、旋回軸受の設計からこれが許されない場合には、前記差圧弁ばね100cの材質を前記スラスト部材9や前記弁ケース100eよりも熱膨張率の高い材料としてもよい。一般的に、圧縮機の温度の高くなる運転条件では、吐出圧も高くなっているため、その時には、温度上昇にともなって前記差圧弁ばね100cが伸びようとするが、ばねの全長は前記弁ケース100eにより規制されているために、押付力が増大することになる。これにより、吐出圧の高い運転時のみ過吸込圧値が高くできることになる。よって、過吸込圧値を低く抑えたまま、その値では不足ぎみとなる吐出圧の高い条件時だけ旋回スクロール部材3の引付力を増大できるため、大半の条件における付勢力を低く抑制でき、大半の運転条件における全断熱効率及び信頼性が向上するという効果が有る。
この圧力差制御弁100を通って前記吸込室6へ流入する圧縮性ガスの流れは、圧縮機の中で吐出系から吸込系へ短絡する流れであり、スクロールラップにおける内部漏れと同じものであるため、少なくすることが必要である。この例も第一の実施の形態と同様に、前記過吸込圧領域99に圧力を導入する吐出背面流路が軸受隙間であることから、この流量は小さく、圧縮機の性能低下は生じない。一方、前記圧力差制御弁100から排出される油は、前記油溝9gに入り前記滑りスラスト軸受9aと前記スラスト面3dの間を潤滑する役割を持つ。
ところで、前記スラスト部材9の軸線方向における移動可能距離を10〜20μmと設定したため、それと同じ距離で、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定している。モータ起動時に、最大離間距離がこのような大きさであると、起動時に前記旋回スクロール部材3の旋回速度を、その時に許容される旋回スクロール部材の最高値、例えば、6000rev/minにすると要求される運転域の最大の吸込圧まで十分に下げることができ、さらに、吐出圧を吸込圧よりも過吸込圧以上に上昇させることができる。この結果、前記モータ室62から前記圧力導入路4u、4vを通って吸込圧よりも過吸込圧以上に高くなった圧縮性ガス及び油が、前記シール背面空間73に入ってくるため、前記外周シール部97cと前記内周シール部97dが広がって前記シール溝4kの側面と圧接してそこでのシール性を確実にするため、前記スラストシール97は、前記スラスト板4に対して、前記固定スクロール部材2側に押す方向の力をかける。これは、すなわち、前記旋回スクロール部材3を前記固定スクロール部材2側に押す方向の力である。さらに、第一の実施の形態と同様にして、前記背面過吸込圧領域99及び前記背面吐出圧領域95に吸込圧よりも過吸込圧以上に高い圧力の圧縮性ガス及び油が入るため、前記旋回スクロール部材3を前記固定スクロール部材2に引き付ける手段となる。前者のスラストシール97を押す力は、前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wが前記非旋回基準面2uに圧接している通常の運転時にはスクロールラップの歯先歯底にはその力は働かないから、その圧接を確実にするために通常は必要な大きさよりもかなり大きめに設定している。この結果、前記スラスト部材9は、その非旋回基準面対向面9wが前記非旋回基準面2uに圧接するまで移動し、前記旋回スクロール部材3は前記固定スクロール部材2に正規の位置まで近づくことになる。よって、圧縮機自ら起動することが可能となり、使い勝手が向上するという効果が有る。
また、実働時のスクロールラップ変形でスクロールラップの歯先歯底間が圧接しようとしても、前記旋回スクロール部材3が前記スラスト部材9とともに移動するため、歯先歯底間が圧接せず、圧縮機を高信頼化できるという特有の効果がある。
また、圧力比が非常に小さく、前記旋回スクロール部材3が前記スラスト部材9に与える付勢力が大きくなり、前記スラスト部材9を押す力と同程度になると、前記スラスト部材9が静止できずに、前記旋回スクロール部材3が傾いたり、前記固定スクロール部材2から離れるが、前記フレームスラスト面4rと前記旋回スクロール部材3の背面との間隔を10〜20μmとして最大距離規定機構を設けたために、その傾き量や離間量が制限されて、高効率ではないが運転が可能となる運転を実現する運転条件の範囲を広域化できるという効果がある。
また、なじみ性があり母材よりも表面が盛り上がるような表面被膜を、旋回スクロール部材3や固定スクロー部材2に被覆した場合でも、軸方向の盛り上がり量の合計が最大距離規定機構の許す最大距離よりも小さいときには前記スラスト部材3が部材2から離れることにより組み立てることができるという特有の効果がある。
また、上部の前記圧力導入路4vの前記モータ室62側の口を前記流通溝4hのうちで上部側のガスが通るものに開けてもよい。この場合、その前記流通溝4h前記圧力導入路4vの口を開口した部分のガスの流速は非常に大きいため前記モータ室62の圧力に比べて低くなる。よって、前記圧力導入路4uから前記シール背面空間73に潤滑油が流入し、前記圧力導入路4vから流出するという油の流れが起こる。このため、旋回背面空間11とのシールは潤沢に供給される潤滑油により良好に確保され、前記シール背面空間73と吸込系との間の漏れが確実に無くなり、全断熱効率が向上するという効果が有る。
また、前記圧縮室6と吐出圧力である前記固定背面室61を常につなぐように4個の前記バイパス穴2eとそれらに各々前記バイパス弁23を設けたので、液圧縮が生じようとしても圧力が極端に上がる前に前記バイパス弁23が開いて流体は前記固定背面室61に排出されるため、ラップの損傷の危険性を回避し、信頼性を向上できるという効果がある。また、同時に過圧縮が抑制でき、圧力比の低い運転条件で全断熱効率を向上できるという効果がある。
また、前記シャフトバランス49は外周が円形状であることから、前記シャフト12の回転に伴う粘性ロスを低減できるという特有の効果がある。
また、前記旋回スクロール部材3の前記鏡板3aの歯底面および前記スクロールラップ3bの全表面や前記固定スクロール部材2の歯底面および前記スクロールラップ2bの全表面に、なじみ性と潤滑性を備えた表面被膜を設けてもよい。たとえば、浸硫窒化処理や燐酸マンガン被膜処理による表面被膜が考えられる。これにより、スクロールラップ3b、2bの側面間および歯先歯底間の隙間を小さくしさらに前記スクロールラップ3b、2bの接触部における摺動性を向上できるので、内部漏れが少なく摩擦ロスを小さくできる。この結果、圧縮機の性能を向上できるという特有の効果がある。また、なじむまで性能が若干低くなるため、この期間が長いと問題となる。もしも、このような表面被膜のなじみ前の厚さを、前記旋回スクロール部材3を前記固定スクロール部材2に押し付けたとき、前記スラスト面3dと前記非旋回基準面2uの間の距離が前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wと滑りスラスト軸受9aの間の距離よりも大きくし、かつ、仮に表面被膜を取り去った両スクロール部材2、3を互いに押し付けたとき、前記スラスト面3dと前記非旋回基準面2uの間の距離が前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wと滑りスラスト軸受9aの間の距離よりも小さくしたときには、なじみ始めでは、前記非旋回基準面2uと前記非旋回基準面対向面9wが接触せずに、スクロールラップの歯先と歯底が圧接することになる。そして、この時の力は、前記スラスト部材9を押し上げる力であるから非常に大きい。よって、なじみが急激に進行していく。そして、スクロール部材の母材どうしは接触しないため、なじみは最後まで進行する。この結果、なじみに要する時間が短時間ですむため、性能の低い期間は短く、使い勝手が向上するという効果が有る。もしも、表面被膜が、それを付けると元の母材の表面よりも盛り上がり、かつ、母材自身はそのままか侵食されてしまうような性質を持ったものであると、表面被膜を付けた後の前記旋回スクロール部材3を表面被膜を付けた後の前記固定スクロール部材2に押し付けたとき、前記スラスト面3dと前記非旋回基準面2uの間の距離が前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wと滑りスラスト軸受9aの間の距離よりも大きくし、かつ、表面被膜を付けない前の前記旋回スクロール部材3を表面被膜を付けない前記固定スクロール部
材2に押し付けたとき、前記スラスト面3dと前記非旋回基準面2uの間の距離が前記スラスト部材9の非旋回基準面対向面9wと滑りスラスト軸受9aの間の距離よりも小さくすれば、このような厚さにおける複雑な条件を満たすことになるため、寸法の管理をしやすくできるという特有の効果が有る。
また、前記オルダムリング5と摺動する前記オルダムリング摺動面2pや前記固定オルダム溝2g、2hに同様の表面被膜を設けてもよい。これにより、前記旋回スクロール部材3と前記オルダムリング5の間の摩擦ロスも小さくできる。この結果、全断熱効率を向上できるという特有の効果がある。
また、前記スラスト部材9の全表面に潤滑性を備えた表面被膜を設けてもよい。たとえば、浸硫窒化処理や燐酸マンガン被膜処理による表面被膜が考えられる。これにより、前記スラスト面と前記スラスト軸受面間の摺動性を向上できるので、そこでの摩擦ロスを小さくできる。この結果、全断熱効率を一層向上できるという特有の効果がある。なじみ性のある表面被膜のときには、被膜厚さを小さくする。たとえば、2〜3μmとする。この結果、スラスト軸受面9aのなじみがスクロールラップの歯先歯底間のなじみよりも早く完了するため、歯先歯底間のなじみ後の隙間を拡大することはない。
また、前記スクロールラップ2b、3bをインボリュート曲線で形成しても良い。これにより、スクロールラップの加工が容易となるので、圧縮機の加工性を向上できるという特有の効果がある。
また、前記部材2と前記旋回スクロール部材3の材質を同様とし、前記ラップ2bの高さを前記旋回スクロールラップ3bの高さと3μm以内の精度で同一寸法に加工してもよい。この結果、運転時にスクロール部材2、3やスラスト部材9が変形しないと仮定すれば、旋回スクロール部材3の前記スラスト面3dの位置における鏡板3aの厚さに対して前記スラスト部材9の前記スラスト軸受9aと前記非旋回基準面対向面9wの距離の大きい分だけスクロールラップの旋回歯先と固定歯底の隙間および旋回歯底と固定歯先の隙間が3μm以内の精度で同じ寸法だけ確保される。つまり、その分だけ変形しても歯先と歯底が接触しないということになる。圧縮機はいろいろな条件下で運転されるため、スクロール部材2、3やスラスト部材9の変形量も一定ではなく、歯先と歯底間に隙間を設ける。部材2と旋回スクロール部材3が同様の材質である場合には、スクロールラップの旋回歯先と固定歯底の隙間および旋回歯底と固定歯先の隙間の二箇所の隙間は同じ寸法にしたほうがよいことから、旋回スクロール部材3の前記スラスト面3dの位置における鏡板3aの厚さと前記スラスト部材9の前記スラスト軸受9aと前記非旋回基準面対向面9wの距離を測定し、その差がスクロールラップの歯先歯底間の最適な隙間と同じになるような選択組合せを行なうことにより、性能や信頼性のばらつきの少ない量産が可能となるという特有の効果がある。
また、前記スラスト部材9に回転止めを設けてもよい。この場合には、前記差圧制御弁100の位置が変化しないために、最適な位置に前記差圧制御弁100を設けることができる。たとえば、前記背面過吸込圧領域99に軸受から出た油が溜って前記バランスウエイト49による撹拌損失が増大するような場合には、前記差圧制御弁100を前記給油溝9gの一番下方に設ける。この結果、前記背面過吸込圧領域99内に流入する油は重力によりその下方から溜ってくるが、そこに排出孔である前記差圧制御弁100が開口しているため、効率的に油を前記背面過吸込圧領域99から排出することができる。よって、前記バランスウエイト49による撹拌損失は低減され、圧縮機の全断熱効率が向上するという特有の効果がある。
なお、この実施の形態では、不慮の現象によりスクロール部材の歯先歯底間が圧接しても旋回スクロール部材の支持部材であるスラスト部材がリリースしてスクロールラップに大きな損傷を与えないために、スラスト部材が接軸線方向に可動なリリース構造としているが、このスラスト部材がフレームに固定されてリリースしない構造のときにも、リリース作用による効果以外の効果は同様である。
また、これを、冷凍サイクル用の圧縮機又は図9で示した圧力運転範囲が要求される用途の圧縮機として用いた場合、前記第一の実施の形態で説明したように、過吸込圧値を小さく設定できるため、広範囲な運転条件で全断熱効率及び信頼性を向上できるという効果が有る。R32を含むガスを圧縮対象とした場合の効果も前記第一の実施の形態と同様である。
次に、本発明を、非旋回スクロール部材を軸線方向に可動とし、その鏡板の反圧縮室側に吐出圧をかけて引付力を与え、その支持部材をフレームに固定されたストッパ部材とし、旋回スクロール部材の鏡板の反圧縮室側である旋回背面に背面過吸込圧領域を設け、要求される運転圧力条件範囲で旋回スクロール部材のスクロール支持部材を主に前記旋回背面に設けたフレームのスラスト面とした、すなわち旋回スクロール部材を前記非旋回スクロール部材に押し付けずに旋回背面で付勢力を受けた、横置き型の非旋回リリース式スクロール圧縮機に実施した第三の実施の形態を、図19ないし図23に基づいて説明する。図19は圧縮機の縦断面図、図20は圧力差制御弁の縦断面図、図21は旋回スクロール部材の斜視図、図22は非旋回スクロール部材の斜視図、図23はストッパ部材の斜視図である。
まず、構造を説明する。旋回スクロール部材3の支持部材が、その背面に固定配置されたフレーム4となり、その代わりに、非旋回スクロール部材が軸線方向に可動な構成となった以外は、前記第二の実施の形態と同様なので詳細な説明は省略する。
旋回スクロール部材3は、鏡板3aにスクロールラップ3bが立設し、その背面にはボス3cが設けられる。また、背面外周部にはスラスト面3dが配置されている。前記鏡板3aの外周部にはオルダム突起部3e、3fが突出し、そこには旋回オルダム溝3g、3hが設けられる。さらに、前記鏡板3aの外周部にはオルダム支持突起部3i、3jが設けられる。前記スクロールラップ3bは、中央側及び外周側端部を除いて、中央から外周へ向かうにつれて、厚さが減少する。また、前記スクロールラップ3bのバランスを取るために、前記鏡板3aの上面を直線上に切欠いたバランス切欠き部3kを設ける。
ストッパ部材7の一段低くなっている面であるストッパ面7fに回転止め溝7a、7bが設けられ、その下面側には非旋回オルダム溝7c、7dが設けられる。この回転止め溝7a、7bと非旋回オルダム溝7c、7dは共通の側面を持っている。そのストッパ面を囲むように内周面である非旋回レール面7gが設けられる。
非旋回スクロール部材2は、鏡板2aにスクロールラップ2bが立設し、その背面の中央部にはシール突起部2cが立設している。この内部には中央付近に吐出穴2dと複数のバイパス穴2eが開いている。このバイパス穴2eにリード弁板であるバイパス弁板23をバイパスねじ50で固定する。また、中央近くには吐出穴2dが開口している。また前記シール突起部2cの外部には均圧穴2nが開いている。前記鏡板2aの圧縮室側面には回転止め2g、2hが突出している。前記スクロールラップ2bは、中央側及び外周側端部を除いて、中央から外周へ向かうにつれて厚さが減少する。
フレーム4は、外周部に前記ストッパ部材を固定するストッパ取付面4b、その内側には掘りこまれたスラスト面4gが設けられる。その側面には、吸込穴4pが開けられる。そして、スラスト面4gに油溝4xが設けられ、そこに、モータ室側から堀込んである差圧弁挿入穴4wへ抜ける給油孔4iを開ける。そして、その差圧弁挿入穴4wの側面から旋回背面室側面4jへ通じる第二給油孔4zが開口している。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mを設け、そのスクロール側にシャフトを受けるシャフトスラスト面4cを設ける。その軸シール4aと主軸受4mの間の空間に向かってフレーム側面から横穴4nが開口している。外周面にはガスおよび油の流路となる複数の流通溝4hが設けられる。そして、そのうちの一個にはモータ線77を通す。ここで、前記差圧弁挿入穴4wには、以下に述べる差圧制御弁100を組み込む。まず、前記差圧弁挿入穴4wの底にあるばね位置決め突起4yに差圧弁ばね100cを圧入し、テーパ状の弁シール面100bを有する弁掘りこみ100gを設けた円筒状の弁ケース100eに球状の弁体100aを入れた状態で、前記差圧弁挿入穴9hに圧入または接着または溶接する。ここで、前記弁掘りこみ100gの底から通じるケース給油孔100hを開口したケース溝100iが 、前記第二給油孔4zの開口部にくる。このようにして、差圧制御弁100を形成する。このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面100bに押し付ける。この押付力は過吸込圧値を決定するため、これを決める寸法である前記弁掘りこみ100gの深さと前記弁体100aの直径と前記差圧弁ばね100cのばね定数及び自然長及びばね直径は精度良く管理しなければならない。また、前記差圧弁挿入穴9hの内径を前記弁ケース100eの外形よりも大きくし押付力が正規の値になるところでこの弁ケース100eを接着して止める方法もある。この方法の場合には、上記した各部の寸法やばね定数の値を精度良く管理する必要が無くなるため量産性が向上するという効果がある。これら二通りの方法とも組み立て完了時には、前記差圧弁挿入穴4wと前記弁ケース100eの間は完全にシールされていなければならない。
オルダムリング5の一面にストッパ突起部5a、5bが設けられ、もう一方の面には旋回突起部5c、5d(ともに図示せず)が設けられる。
外周カバー25には内周部上部にカバー押さえ25a、内周部下部にリング溝25bが設けられる。このリング溝25には耐熱性で柔軟な材質のシールリング51を挿入する。
シャフト12には内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大した軸受保持部12wがあり、そこには偏心した位置に旋回軸受12qが圧入される。
ロータ15は積層鋼板15aに未着磁の永久磁石15bを内蔵し、上面に上部バランスウエイト15cを固定する。ここでこのバランスウエイト15cを円筒形状にするためバランスウエイト15cよりも比重の小さい材料でできた上部補正バランスウエイト15eを上部バランスウエイト15cに固定する。また、下面に下部バランスウエイト15pを固定する。ここでこの下部バランスウエイト15pを円筒形状にするため下部バランスウエイト15pよりも比重の小さい材料でできた下部補正バランスウエイト15fを下部バランスウエイト15dに固定する。材料としてバランスウエイト15c、15pを亜鉛または黄銅、補正バランスウエイト15e、15fをアルミ合金としてよい。また、補正バランスウエイト15e、15fを積層鋼板15aに直接固定してもよい。
ステータ16は積層鋼板16bの外周部に圧縮性ガスや油の流路となる複数のステータ溝16cが設けられている。ところで、このステータ溝16cのかわりに前記積層鋼板16bの内部に横穴を開けてもよい。
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記フレーム4の主軸受4mにシャフト12を挿入しロータ15を固定する。次に、前記旋回スクロール部材3を、前記ボス3cを前記旋回軸受12qに挿入し、前記スラスト面3dをフレーム4の前記スラスト面4gに載せて、組み込む。この時、旋回スクロール部材3の背面には背面過吸込圧領域99が形成される。次に、前記オルダムリング5を、前記旋回オルダム溝3g、3hに前記旋回突起部5c、5dを挿入するようにして、前記鏡板3aのスクロールラップ側に載せる。次に、前記ストッパ部材7を、前記非旋回オルダム溝7c、7dに前記固定突起部5a、5bを挿入するようにしてフレーム上面に載せる。この時、旋回スクロール部材3の周囲には吸込み室60が形成される。さらに、前記非旋回スクロール部材2を、前記回転止め溝7a、7bに前記回転止め2g、2hを挿入するようにして、前記ストッパ面7fに載せる。このとき、前記非旋回スクロール部材2の外周と前記非旋回レール面7gの内周は直径差にして5μm程度の隙間嵌にする。次に、外周カバー25を、前記シール突起部2cの外周面にリング溝25b内に配置した前記シールリング51が摺動するようにして、前記ストッパ部材7に載せる。このとき、この外周カバー25の内周部にある前記カバー押さえ25aは、中央カバー24が前記シール突起部2cの内周から外れることを防止する。以上のように各要素を組み込んだ上で、前記シャフト12か前記ロータ15を回しながら、カバーねじ53により前記ストッパ部材7及び前記外周カバー25を前記フレーム4に固定する。この時、前記非旋回スクロール部材3と前記外周カバー25の間に、上面室10が形成される。
次に、予め前記ステータ16が焼きばめまたは圧入されている前記円筒ケーシング31へ、上記の組立部を挿入して前記フレーム4の側面にタック溶接を行なう。そして、吸込みパイプ54を前記吸込み穴4pに挿入し固定する。次に、予めハーメチック端子22が溶接されている上ケーシング20を、そのハーメチック端子22の内部側端子へ前記モータ線77を装着して溶接する。この時、前記外周カバー25の上部には非旋回背面室61が形成される。次に、球面軸受72を装着し給油管71が溶接されている軸受ハウジング70を軸受支持板18中央に固定し、前記球面軸受72の円筒穴に前記シャフト12の端部を挿入するようにして、前記軸受支持板18を前記円筒ケーシング31に挿入固定する。この時、前記フレーム4と前記軸受支持板18との間にはモータ室62が形成される。そして、前記円筒ケーシング31に吐出管55が上部に溶接された底ケーシング21を溶接し、貯油室80を形成する。この状態で、前記ステータ16に電流を流し、前記ロータ15内部の永久磁石15bを着磁し、モータ19を形成する。最後に、潤滑油56を入れる。
次に動作であるが、圧縮性ガス及び油の流れ及びは、前記第二の実施の形態と同一であるため、説明は省略する。さらに、非旋回スクロール部材がリリースする点は、第二の実施の形態におけるスラスト部材がリリースする動作と同様であるので、これも省略する。
この例では、前記旋回保持部12fは円筒形状であることから、前記旋回保持部12fの回転に伴う粘性ロスを一層低減できるという本実施の形態特有の効果がある。
また、前記中央カバー24および前記外周カバー25は、その下部にガスの層を形成するため、前記上面室61内の高温の吐出ガスからの熱が前記圧縮室6へ伝わることを防止するという本実施の形態特有の効果がある。さらに、前記中央カバー24および前記外周カバー25は、前記リリース弁23の開閉に伴う衝撃音を遮断するという本実施の形態特有の効果がある。
また、前記中央カバー24を鏡板2aの材質よりも熱膨張率が大きい材質とし、中央カバー24の外周と前記シール突起部2cの内周を最大10μm程度のすきまばめとしてもよい。この場合、運転時の温度上昇で前記中央カバー24が膨張して、前記シール突起部2cを拡張する方向に変形する。その結果、前記鏡板2aの上面がその下面と比較して相対的に伸びるため、鏡板2aが上に凸の変形を起こす。よって、スクロールラップ中央部の高温によるそこでのラップ歯先歯底間の接触を回避でき、圧縮機の高効率化、高信頼性化を実現できるという特有の効果がある。例えば、前記フロートスクロール部材2を鋳鉄製、前記中央カバー24を黄銅製または亜鉛製またはアルミ合金製特にシリコン含有量の10〜30%程度のヤング率の大きいアルミ合金製とすればよい。
また、給油パイプ71の先端を導油孔18aの反対側に設けたため、圧縮ガスが給油パイプ71の中に入る危険性が無くなるため、信頼性を向上できるという効果が有る。
また、吐出管の口を上部に開けたため、貯油室80内で泡立った油が吐出されるのを抑制し、吐出油量の少ない信頼性の高い圧縮機を提供できるという効果が有る。
次に、本発明を、非旋回スクロール部材を軸線方向に可動とし、その鏡板の反圧縮室側に背面過吸込圧領域を設けて、要求される運転圧力条件範囲で非旋回スクロール部材のスクロール支持部材を主に旋回スクロール部材とした、すなわち非旋回スクロール部材を旋回スクロール部材に押し付けた、縦置き型の非旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第四の実施の形態を、図24ないし図29に基づいて説明する。図24は圧縮機の縦断面図、図25は圧力差制御弁の縦断面図、図26は圧力隔壁を取り除いた圧縮機上面図、図27は非旋回スクロール部材の中央部上面図、図28はバイパス弁の上面図、図29はリテーナの上面図である。
まず、構造を説明する。旋回スクロール部材3は、鏡板3aにスクロールラップ3bが立設し、その背面には旋回オルダム溝3g、3hと旋回軸受3wを圧入した軸受保持部3sとスラスト面3dが配置されている。
非旋回スクロール部材2は、鏡板2aにスクロールラップ2bが立設し、その背面の中央部に中央台部2wを設け、その上面には吐出穴2dと複数のバイパス穴2eが開いている。このバイパス穴2eにリード弁板であるバイパス弁板23とリテーナ23aをバイパスねじ50で固定する。そして、その周囲にはシール溝2sを設ける。また、背面外周近くには外周突起部2tが設けられ、前記中央台部2wとの間に背面凹部2xを設ける。そして、この背面凹部2xの周辺部付近に差圧挿入穴2zを掘りこみ、その底からスクロールラップ側の吸込室となる外周部へ排気路2yを開ける。その差圧挿入穴2zの底にはばね位置決め突起2lを設ける。ここで、前記差圧弁挿入穴2zには、以下に述べる差圧制御弁100を組み込む。まず、前記差圧弁挿入穴2zの底にあるばね位置決め突起2lに差圧弁ばね100cを圧入し、テーパ状の弁シール面100bを有する弁掘りこみ100gを設けた円筒状の弁ケース100eに球状の弁体100aを入れた状態で、前記差圧弁挿入穴2zに圧入または接着または溶接する。このようにして、差圧制御弁100を形成する。このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面100bに押し付ける。この押付力は過吸込圧値を決定するため、これを決める寸法である前記弁掘りこみ100gの深さと前記弁体100aの直径と前記差圧弁ばね100cのばね定数及び自然長及びばね直径は精度良く管理しなければならない。また、前記差圧弁挿入穴9hの内径を前記弁ケース100eの外形よりも大きくし押付力が正規の値になるところでこの弁ケース100eを接着して止める方法もある。この方法の場合には、上記した各部の寸法やばね定数の値を精度良く管理する必要が無くなるため量産性が向上するという効果がある。これら二通りの方法とも組み立て完了時には、前記差圧弁挿入穴4wと前記弁ケース100eの間は完全にシールされていなければならない。
フレーム4には、外周部に前記非旋回スクロール部材2を板状のスクロール取り付けばね75を介して取り付ける突起した三ヶ所のスクロール取付部4qとその内側に滑りスラスト軸受4gとフレームオルダム溝4e、4fが設けられる。そして、その外周部には、複数個の吸込溝4rが設けられる。また、滑りスラスト軸受4gには環状や径方向に直線状の油溝4iが設けられる。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mを設け、そのスクロール側にシャフトを受けるシャフトスラスト面4cを設ける。このフレーム4の上面の一番低い部分からフレーム下面に抜ける油排出路4sを設ける。前記軸シール4aと前記主軸受4mの間の空間に向かってフレーム側面から横穴4nが開口している。
オルダムリング5の一面にフレーム突起部5a、5bが設けられ、もう一方の面には旋回突起部5c、5d(ともに図示せず)が設けられる。
圧力隔壁74には、中央部に吐出開口部74cと内周部下部に内周シール溝74aと下面中央付近に外周シール溝74bが設けられる。この二個のシール溝の間の下面と上面を連通する絞りを伴う吐出背面流路74dを設ける。ここでは、微小な径の穴を有する別ピースを圧入して形成する。
シャフト12には内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大した軸受保持部12wがあり、ここに、シャフトバランス49が圧入される。更にその上部には偏心部12fがある。
ロータ15及びステータ16は、前記第一の公知例と同一であるため説明は省略する。
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記フレーム4の前記主軸受4mに前記シャフト12を挿入し前記ロータ15を固定する。次に、前記オルダムリング5を、前記フレーム4の前記フレームオルダム溝4e、4fに前記オルダムリング5の前記フレーム突起部5a、5bを挿入するようにして、装着する。次に、前記旋回スクロール部材2を、シャフト12の偏心部12fに前記旋回軸受3wを挿入し、前記オルダムリング5の前記旋回突起部5c、5dに前記旋回オルダム溝3g、3hを挿入し、前記フレーム4の前記滑りスラスト軸受4gに前記スラスト面3dを載せて、組み込む。次に、あらかじめスクロール取り付けばね75を三本のばね取付ねじ55でねじ止めした前記非旋回スクロール部材2を、スクロールラップがかみ合わさるようにして前記フレーム4のフレーム取付部4qの上面に載せる。以上のように各要素を組み込んだ上で、前記シャフト12か前記ロータ15を回しながら、カバーねじ53により前記非旋回スクロール部材2を前記フレーム4に固定する。
次に、予め前記ステータ16が焼きばめまたは圧入され、前記吸込みパイプ54と前記軸受支持板18とハーメチック端子22が溶接されている前記円筒ケーシング31へ、上記の組立部を挿入して前記フレーム4の側面にタック溶接を行なう。そして、そのハーメチック端子22の内部側端子へ前記モータ線77を装着し、前記ロータ15と前記ステータ16によってモータ19を形成する。次に前記軸受支持板18の中央部の穴から出た前記シャフト12の一端が軸受ハウジング70に装着した球面軸受72の円筒穴に挿入されるように前記軸受ハウジングを組み込み、前記シャフト12の回転トルクを検出しながら軸受ハウジング70の位置を調整してその回転トルクが最小になる位置で前記軸受ハウジング70を前記軸受支持板18にスポット溶接する。その軸受ハウジング70の下面に前記シャフト給油孔12aに給油するように給油ポンプが設けられる。また、この時、前記フレーム4と前記軸受支持板18との間にはモータ室62が形成される。そして、前記円筒ケーシング31に底ケーシング21を溶接し、貯油室80を形成する。次に、前記圧力隔壁74の前記内周シール溝74aと前記外周シール溝74bに各々内周シール57と外周シール58を挿入しながら、前記円筒ケーシング31に被せる。この時、前記非旋回スクロール部材2の上面の前記内周シール57と前記外周シール58の間に前記非旋回スクロール部材2の背面過吸込圧領域99が設けられる。そして、吐出管55が上部に溶接された上ケーシング20を、更にその上に被せて、溶接する。この時、前記非旋回スクロール部材2の上面の前記内周シール57の内側の領域が、前記非旋回スクロール部材2の背面吐出圧領域95となる。そして、前記圧力隔壁74と前記上ケーシング20の間に非旋回背面室61が形成される。次に、球面軸受72を装着し給油管71が溶接されている軸受ハウジング70を中央に固定し、前記球面軸受72の円筒穴に前記シャフト12の端部を挿入するようにして、前記軸受支持板18を前記円筒ケーシング31に挿入固定する。この状態で、前記ステータ16に電流を流し、前記ロータ15内部の永久磁石15bを着磁し、モータ19を形成する。最後に、潤滑油56を入れる。
次に、動作を説明する。前記吸い込みパイプ54から前記吸込室60へ吸い込まれたガスは、前記旋回スクロール部材3の旋回運動により前記圧縮室6内で圧縮され、前記吐出孔2dより前記非旋回スクロール部材2の上部の前記非旋回背面室61に吐出される。そのガスは、一旦前記モータ室62に入ってモータ冷却とガス内に含まれる潤滑油を分離した上で前記吐出パイプ55より圧縮機外部へ出る。
前記非旋回スクロール部材2は、前記圧縮室6内部のガス圧により前記旋回スクロール部材32から離間する方向の引き離し力を受けるが、前記背面過吸込圧領域99と前記背面吐出圧領域からの圧力による引付力により、前記旋回スクロール部材3に押し付けられる。よって、非旋回スクロール部材2の付勢力は前記旋回スクロール部材から与えられる。一方、前記旋回スクロール部材3には引付力は無く、旋回背面の滑りスラスト軸受により付勢力を得ている。この結果、スクロール部材の歯先と歯底の隙間は拡大せず圧縮動作を持続することができる。ここで、前記背面過吸込圧領域99の圧力制御法は、まず、絞りを伴う前記吐出背面流路74dにより吐出系から吐出圧を導入し、前記差圧制御弁100により、圧力を制御する。これは、前記した実施の形態で軸受を通ってきた圧縮性ガス及び油により圧力導入を行っていた点が異なるだけである。これにより、前記過吸込圧領域99への圧力導入のみを考えた設計ができるため、最適設計が可能となる。また、バイパス弁も前記実施の形態と同様に設けているため、これらの、組み合わせにより、広い運転範囲で全断熱効率及び信頼性の向上した圧縮機を提供できるという効果がある。また、前記背面吐出圧領域95の軸縁方向における投影面積を、第五の請求項に合う大きさとしたので、過吸込圧値を更に一層小さく設定できるため、広い運転範囲にわたり全断熱効率及び信頼性を向上できるという効果がある。
圧縮機の底に溜っている油は、前記給油ポンプ56により、前記シャフト給油孔12aを通って前記旋回軸受12cに給油される。また、前記横給油孔12bを経由して前記主軸受4aに給油される。その油は、前記旋回背圧室11に入った後に、一部は前記油溝4iを通って滑りスラスト軸受4を潤滑しつつ前記吸込室60に入り、その他は、前記油排出路4sを通って、モータ室62に入り、圧縮機の底に戻る。
また、前記圧力隔壁74は、その下部にガスの層を形成するため、前記非旋回背面室61内の高温の吐出ガスからの熱が前記圧縮室6へ伝わることを防止するという本実施の形態特有の効果がある。
ところで、前記背面過吸込圧領域99への圧力導入法として、前記吐出背面流路74dを設けるかわりに、前記内周シール57に微小な溝を設けたりしてそのシール性を低下させそこを通る前記非旋回背面室61からの漏れ込み流れを利用してもよい。
最後に、本発明を、横置き型の旋回フロート式スクロール圧縮機に実施した第五の実施の形態を、図30に基づいて説明する。圧力差制御弁100の弁キャップが弾性を有するばね弁キャップ100yとなり、それを固定するキャップ押え100xを設ける以外は、第一の実施の形態と同一であるため、その箇所以外の説明は省略する。吐出圧が高い運転時には、弁キャップにばね性を持たせたため、ばね弁キャップ100yは押されて弁穴2fの方へ変位する。よって、差圧弁ばね100cが押し縮められて、弁体100aが弁シール面2jへ押し付ける力が増大する。よって、過吸込圧値が大きくなる。背面吐出圧領域95の軸線方向における投影面積が、旋回軸受の設計により、最適な値よりも小さくなるとき、吐出圧の大きい運転条件では、過吸込圧値を大きくする必要が生じる。このような、吐出圧の増大につれて過吸込圧値が大きくなると、吐出圧の小さい条件下でも過大な過吸込圧値とならず、広い運転範囲において全断熱効率及び信頼性を一層向上できるという効果が有る。
第一の実施の形態の縦断面図。
冷凍サイクル用圧縮機として用いられた場合の運転が要求される圧力域。
第一の実施の形態の冷房定格条件時の荷重計算結果のグラフ。
第一の実施の形態の冷房中間条件時の荷重計算結果のグラフ。
第一の実施の形態の冷房最少条件時の荷重計算結果のグラフ。
第一の実施の形態の暖房定格条件時の荷重計算結果のグラフ。
第一の実施の形態の暖房中間条件時の荷重計算結果のグラフ。
第一の実施の形態の暖房最少条件時の荷重計算結果のグラフ。
第一の実施の形態の吐出圧のかかる領域の説明図。
第一の実施の形態の固定スクロール部材の反スクロールラップ側からの平面図。
第一の実施の形態の部材の吸込み側逆止弁近くの平面図。
第一の実施の形態の旋回スクロール部材の平面図。
第一の実施の形態の圧縮行程の説明図。
第一の実施の形態のバイパス弁板の平面図。
第一の実施の形態のバイパス弁板のリテーナの平面図。
第一の圧力差制御弁(図1のP部)の縦断面図。
第二の実施の形態の圧縮機の縦断面図。
第二の実施の形態の圧力差制御弁(図17のP部)の縦断面図。
第三の圧縮機の縦断面図。
第三の実施の形態の圧力差制御弁(図19のP部)の縦断面図。
第三の実施の形態の旋回スクロール部材の斜視図。
第三の実施の形態の非旋回スクロール部材の斜視図。
第三の実施の形態のストッパ部材の斜視図。
第四の実施の形態の圧縮機の縦断面図。
第四の実施の形態の圧力差制御弁(図24のP部)の縦断面図。
第四の実施の形態の圧力隔壁を取り除いた圧縮機上面図。
第四の実施の形態の非旋回スクロール部材の中央部上面図。
第四の実施の形態のバイパス弁の上面図。
第四の実施の形態のリテーナの上面図。
第五の実施の形態の圧力差制御弁(図1のP部)の縦断面図。
符号の説明
2 非旋回スクロ−ル部材(固定スクロール部材)
2e バイパス穴
23 バイパス弁板
3 旋回スクロ−ル部材
4 フレーム
60 吸込室
95 背面吐出圧領域
96 吐出室
99 背面過吸込圧領域
9 スラスト部材
100 差圧制御弁