JP4122474B2 - 保持器 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、玉軸受の軌道内の転動体を保持するための保持器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
転動体として球体を使用する玉軸受においては、軌道内に装填された複数の球体を保持器によって所定間隔をもって転動可能に保持することにより、球体が脱落したり、隣接する球体が接触し合って滑り摩擦を生じるのを防止することができる。
【0003】
玉軸受に使用する従来の保持器の一例について、図10を参照して説明する。図10に示すように、保持器1は、軸受(図示せず)の内輪と外輪との間の軌道内に装填された球体2を転動可能に収容するポケット3を等間隔で複数配置した環状体である(図10では1つのポケットのみを示す)。ポケット3の内面4は、球体2の表面の曲率に合わせて球面状に形成されている。
【0004】
一般的に、球体2の直径Dに対して、ポケット3の内径D1は、やや大きく設定されており(一般的な例として、D1=1.03D)、これにより、球体2とポケット3の内面4との間に隙間Cが形成されて、この隙間Cに潤滑剤を保持することができる。
【0005】
保持器1を使用することにより、隣接する球体間の接触を防止して、球体2を円滑に転動させることができ、摩擦トルクおよび摩擦熱の発生を抑制して内外輪を円滑に相対回転させることができる。
【0006】
ところで、近年、コンピュータのハードディスク、磁気ディスクおよび光ディスク等のドライブ装置においては、記録媒体の高密度化、回転速度の高速化にともない、これらの記録ディスクを駆動するスピンドルモータの軸受に対して、高い回転精度、低摩擦、低騒音および長寿命が要求されている。
【0007】
上記従来の保持器を用いた玉軸受をこの種の軸受として使用した場合、次のような点が問題となる。上記従来の保持器1では、潤滑剤を保持するめに球体2とポケット3の内面との間に隙間Cを形成しているが、毎分1万回転を超える高速回転時には、球体2の自励振動等によって隙間Cに不規則な変動が生じる。これにより、潤滑剤の粘性によるせん断抵抗が変動し、また、隙間Cの変動によるポンピング作用によって潤滑剤に圧力変動が生じて、回転の不安定、NRRO(非繰返し性軸横ぶれ)の増大、振動、騒音の増大および隙間Cからの潤滑剤の漏出を招くという問題を生じる。
【0008】
これに対して、隙間Cを小さくすることにより、球体2の振動をある程度抑制することができるが、球体2とポケット3の内面との接触面積が大きくなるため、回転トルクが増大し、また、隙間Cに保持される潤滑剤の量が少なくなるため、潤滑性能が低下するという問題を生じることになる。
【0009】
そこで、例えば米国特許第4,225,199号明細書および実開昭57-87827号明細書に記載されているように、保持器のポケットの内面を多面形状として、ボールと点接触させることにより、ポケットの内面とボールとの間に一定の隙間を形成して、潤滑剤の保持性を高め、円滑な回転が得られるようにする技術が知られている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の米国特許および実用新案明細書に記載されたものでは、次のような問題がある。ポケットの内面を多面形状とするため、保持器成型用の金型の形状が複雑になるので、金型の切削、研磨等の機械加工が煩雑なものとなり、製造コストが高くなる。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑みて成されたものであり、潤滑性を高めるとともに、振動、騒音の発生を低減して円滑な回転を得ることができ、かつ、容易に製造することができる玉軸受の保持器を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、玉軸受の転動体を保持するための複数のポケットを有する冠型の保持器において、前記ポケットの内面は、球面及び該球面の中心を通り当該保持器の軸方向に平行な軸を有する少なくとも1対の円錐面からなり、前記球面の直径が前記転動体の直径より大きく、前記円錐面を前記転動体に当接させて該転動体を位置決めし、前記円錐面は、該円錐面の軸に直交して前記球面の中心付近を通る平面上で前記球面と交差し、前記ポケットと前記転動体の表面との間に一定の隙間を形成することを特徴とする。
このように構成したことにより、転動体が円錐面に当接して位置決めされ、ポケットの内面と転動体との間に一定の隙間が形成されて、この隙間に潤滑剤を保持することができる。
請求項2の発明に係る保持器は、上記請求項1の構成において、前記ポケットの内面は、1対の前記円錐面を有し、該1対の円錐面および前記ポケットの内面の前記円錐面以外の部分を前記転動体に当接させて、該転動体を3点支持することを特徴とする。
このように構成したことにより、転動体は、1対の円錐面とポケットの内面の円錐面以外の部分の3点に当接して支持される。
請求項3の発明に係る保持器は、上記請求項1の構成において、前記ポケットの内面は、2対の前記円錐面を有し、該2対の円錐面を前記転動体に当接させて、該転動体を4点支持することを特徴とする。
このように構成したことにより、転動体は、2対の円錐面の4点に当接して支持される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、図1ないし図5を参照して説明する。図2および図3に示すように、第1実施形態に係る保持器4は、ラジアル玉軸受(図示せず)の外輪と内輪との間に形成された軌道内に装填される複数の転動体である球体(図示せず)を保持するためのいわゆる冠型の保持器であり、球体を保持する複数(図示のものでは8つ)のポケット5が円周上に等間隔で配置されて環状体6を形成している。
【0014】
各ポケット5は、環状体6の一端側に突出された1対の角部7によって形成されており、環状体6の内周側、外周側および一端側の三方に開口部を有している。ポケット5の内面8は、球体の表面に沿った球面状(凹面状)に形成されている。そして、ポケット5の一端側の開口部から球体を押し付けることにより、1対の角部7が撓んで拡開し、球体をポケット5内に転動可能に嵌合させることができる。
【0015】
図1に示すように、ポケット5の球面状の内面8は、その直径D2が球体の直径Dよりも大きく(好ましくは、D2=1.03D〜1.06D)、1対の角部7の内面には、頂点Pを通る軸Lが球面状の内面8の中心Cを通り保持器 4 の軸と平行になるように配置された1対の円錐面9が形成されている。1対の円錐面9は、円錐面9および球面状の内面8の底部10に、球面状の内面8の直径D2より小さく、球体の直径Dより僅かに大きい球面Sが内接するように形成されている。内接する球面Sの直径D3は、D3=1.005D〜1.025D程度とすることができ、好ましくは、D3=1.016D〜1.020D程度とするとよい。
【0016】
これにより、1対の円錐面9および球面状の内面8の底部10(円錐面9以外の部分)が、ポケット5内に嵌合された球体の表面に当接して球体を転動可能に3点支持する。そして、円錐面 9 は、その軸 L に直交して球面状の内面 8 の中心 C 付近を通る平面上で内面 8 と交差し、ポケット5の内面と球体との間には、一定の隙間C1が形成される。また、球体が嵌合するポケット5の幅W(図4参照)は、同サイズの従来の一般的な保持器のポケットの幅よりも15%程度小さくしてある。なお、保持器4は、一般的な合成樹脂製の保持器と同様、例えばナイロン66、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の熱可塑性樹脂を射出成形して製造することができる。
【0017】
次に、保持器4を射出成型するための金型について、図5を参照して説明する。保持器4の各ポケット5は、図5に示す金型部品11を用いて成型することができる。金型部品11は、円柱状の本体部11Aの先端に、ポケット5の球面状の内面8を成型するための球面部11Bが形成され、球面部11Bの基部に、1対の円錐面9を成型するためのテーパ部11Cが形成されている。金型部品11は、金型に装着されてから、各ポケット5の形状に合せて両側面が二面取りされる。また、金型部品11は、金型への取付性を考慮して円柱状の本体部11Aが最大直径とされており、本体部11Aの端面によって角部7の先端面を成型するようになっている。ここで、金型部品11の形状は、回転体であるから、1つの回転軸によって容易に旋削加工することができ、高い加工精度を得ることができる。
【0018】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
保持器4の軸受へ組付けは、従来の一般的な合成樹脂製の保持器と同様、軸受の内外輪の軌道内に所定数の球体を装填した後、保持器4を内外輪間に圧入して、1対の角部7を拡開させ、各ポケット5内に球体を嵌合させることによって行うことができる。そして、軸受に潤滑剤が注入され、必要に応じてシールドを装着することにより、潤滑油の飛散および軌道内への異物の侵入を防止する。
【0019】
ポケット5内の球体は、その直径Dより僅かに大きい直径D3を有する球面Sが内接する1対の円錐面9およびポケット5の底部10によって3点支持されるので、球体を確実に位置決めして保持することができ、高速回転時の球体の自励振動を抑制することができる。また、1対の円錐面9およびポケット5の底部10によって球体を3点支持することにより、ポケット5の球面状の内面8と球体の表面との間に一定の隙間C1が形成されるので、隙間C1によって潤滑油の保持および摺動部への供給を安定的に行うことができ、潤滑性を高めることができる。その結果、安定した回転を得ることができ、振動、騒音およびNRROの発生を低減することができる。
【0020】
また、ポケット5の幅Wを小さくして、球体との接触長を短くしたので、円錐面9と球体との接触面積を適度に小さくすることができ、ポケット5と球体との間の摩擦を充分小さくすることができる。これにより、軸受の回転トルクを低減することができるので、円錐面9およびポケット5の底部10(に内接する球面S)と球体2との隙間を小さくすることが可能となり、球体の位置決め精度を高めることができる。その結果、球体の直径Dに対して、図10に示す従来例では、ポケット3の直径D1をD1=1.03Dとしているのに対して、本実施形態では、円錐面9およびポケット5の底部10に内接する球面Sの直径D3をD3=1.005D〜1.025D程度、好ましくは、D3=1.016D〜1.020D程度とすることができ、球体の位置決め精度を高めることができる。
【0021】
また、上記米国特許第4,225,199号明細書および実開昭57-87827号明細書に記載されているように、保持器のポケットの内面を多面形状とする場合には、金型の製造工程が煩雑になるため、製造コストがかかる上に、加工精度を高めることが困難であるのに対して、本実施形態の保持器4は、単純な回転体形状の金型部品11を用いて容易に製造することができるので、加工精度を高めるとともに、製造コストを低減することができる。
【0022】
なお、上記第1実施形態において、ポケット5の内面8の底部10を平面状に形成することもでき、このようにする場合、ポケット5を成型するための金型部品11の球面部11Bの先端を平面状に形成すればよい。
【0023】
次に、本発明の第2実施形態について、図6ないし図9を参照して説明する。なお、第2実施形態は、上記第1実施形態に対して、ポケットの数および各ポケットに形成された円錐面の数が異なる以外は概して同様の構造であるから、以下、上記第1実施形態の各部に対応する部分には、同一の符号を付して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0024】
図6ないし図9に示すように、第2実施形態の保持器12では、環状体6には、複数(図示のものでは10個)のポケット5が設けられており、各ポケット5の球面状の内面8には、1対の角部7の内面に形成された1対の円錐面9に加えて、ポケット5の底部側に1対の円錐面13が形成されている。ポケット5の底部に形成された1対の円錐面13は、その頂点Qを通る軸が円錐面9の軸Lと共通となっている。そして、これら2対の円錐面9,13は、球体の直径Dより僅かに大きい球面Sが内接するように形成されており、球面状の内面8の直径D2および球面Sの直径D3は、上記第1実施形態と同様、D2=1.03D〜1.06D程度、D3=1.005D〜1.025D好ましくはD3=1.016D〜1.020D程度となっている。
【0025】
このように構成したことにより、球体は、2対の円錐面9,13によって4点支持され、球体とポケット5の球面状の内面8との間に一定の隙間C1が形成されて、上記第1実施形態と同様の作用、効果を奏することができる。
また、上記第1実施形態と同様、保持器12のポケット5は、図9に示す金型部品14を用いて成型することができる。金型部品14は、円柱状の本体部14Aの先端部に、ポケット5の球面状の内面8を成型するための球面部14B,14Cおよび2対の円錐面9,13を成型するためのテーパ部14D,14Eが形成されており、金型に装着されてから、各ポケット5の形状に合せて両側面が二面取りされる。また、金型部品14は、金型への取付性を考慮して、円柱状の本体部14Aが最大直径とされており、本体部14Aの端面によって角部7の先端面を成型するようになっている。そして、上記第1実施形態と同様、金型部品14の形状は単純な回転体であるから、容易に機械加工することができ、高い加工精度を得ることができる。
【0026】
なお、上記第1および第2実施形態では、一例として、各ポケット5に1対または2対の円錐面を設けたものについて説明しているが、このほか、球体より僅かに大きい球面Sが内接する円錐面を適宜3対以上設けることもできる。
【0028】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1の発明に係る保持器によれば、ポケットの内面に形成した円錐面に転動体が当接して位置決めされ、ポケットの内面と転動体との間に一定の隙間が形成されて、この隙間に潤滑剤を保持することができる。その結果、転動体の位置決め精度および潤滑性を高めることができるので、安定した回転を得ることができ、振動、騒音およびNRROの発生を低減することができる。また、円錐面を有するポケットを成型するための金型は、従来の多面形状のポケットを成型するための金型に比して、容易に製造することができるので、製造コストを低減することができる。
請求項2の発明に係る保持器によれば、転動体を1対の円錐面およびポケットの内面の円錐面以外の部分の3点に当接させて支持することができるので、転動体を確実に位置決めして保持することができ、安定した回転を得ることができ、振動、騒音およびNRROの発生を低減することができる。
また、請求項3の発明に係る保持器は、転動体を2対の円錐面の4点に当接させて支持することができるので、上記同様に振動、騒音およびNRROの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る保持器のポケット部を拡大して示す縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る保持器の斜視図である。
【図3】図2の保持器のポケット部を拡大して示す斜視図である。
【図4】図1のA-A線による断面図である。
【図5】図2の保持器のポケット部を成型するための金型部品を拡大して示す側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る保持器の斜視図である。
【図7】図6の保持器のポケット部を拡大して示す斜視図である。
【図8】図6の保持器のポケット部を拡大して示す縦断面図である。
【図9】図6の保持器のポケット部を成型するための金型部品を拡大して示す側面図である。
【図10】従来の保持器のポケット部を拡大して示す縦断面図である。
【符号の説明】
4,12 保持器
5 ポケット
8 内面
9,13 円錐面
10 底部(円錐面以外の部分)
Claims (3)
- 玉軸受の転動体を保持するための複数のポケットを有する冠型の保持器において、前記ポケットの内面は、球面及び該球面の中心を通り当該保持器の軸方向に平行な軸を有する少なくとも1対の円錐面からなり、前記球面の直径が前記転動体の直径より大きく、前記円錐面を前記転動体に当接させて該転動体を位置決めし、前記円錐面は、該円錐面の軸に直交して前記球面の中心付近を通る平面上で前記球面と交差し、前記ポケットと前記転動体の表面との間に一定の隙間を形成することを特徴とする保持器。
- 前記ポケットの内面は、1対の前記円錐面を有し、該1対の円錐面および前記ポケットの内面の前記円錐面以外の部分を前記転動体に当接させて、該転動体を3点支持することを特徴とする請求項1に記載の保持器。
- 前記ポケットの内面は、2対の前記円錐面を有し、該2対の円錐面を前記転動体に当接させて、該転動体を4点支持することを特徴とする請求項1に記載の保持器。
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