JP4122416B2 - α−アミノ−ε−カプロラクタムラセマーゼを用いた、D及びL−アミノ酸アミドの混合物の製造方法、D又はL−アミノ酸の製造方法、D又はL−アミノ酸アミドの製造方法 - Google Patents

α−アミノ−ε−カプロラクタムラセマーゼを用いた、D及びL−アミノ酸アミドの混合物の製造方法、D又はL−アミノ酸の製造方法、D又はL−アミノ酸アミドの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、光学活性なアミノ酸アミドをラセミ化する酵素を使用することにより、より光学活性の低下したD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物を製造する方法、D又はL-アミノ酸の製造方法、並びにD又はL-アミノ酸アミドを製造する方法に関する。
D-アミノ酸又はD-アミノ酸オリゴマーは、医薬品、農薬、その他の化学物質の合成材料として有用である。D-アミノ酸を製造する方法としては、D,L-アミノ酸アミドにD-立体特異的なペプチド加水分解酵素を作用させてD-アミノ酸を製造する方法が知られている。この際、L-アミノ酸アミドは酵素の基質とならないため、反応系に残存する。ここで、L-アミノ酸アミドをラセミ化すると、ラセミ化によって生成するD-アミノ酸アミドが酵素によってD-アミノ酸へと変換され、D-アミノ酸の収率を向上させることができる(特許文献1)。また、D-立体特異的なペプチド加水分解酵素に代えてL-立体特異的なペプチド加水分解酵素を使用すれば、収率よくL-アミノ酸を得ることができる。従って、D又はL-アミノ酸の製造において、D又はL-アミノ酸アミドをラセミ化する酵素は重要な役割を担っている。しかしながら、特許文献1においてD又はL-アミノ酸アミドをラセミ化する酵素として記載されていたPseudomonas putida(NCIB 40042)由来のラセマーゼ及びRhodococcus sp.(NCIB 12569)由来のラセマーゼを利用した光学活性なD又はL-アミノ酸の製造は、実質的に実用化されていない。
また、アミノ酪酸アミド等のアミノ酸アミドの光学異性体は、医薬品原料等として有用であることが知られている。アミノ酸アミドの光学異性体の製造法としては、アミノ酸アミドのラセミ体を光学分割する方法が知られているが、目的とする光学異性体の分離、精製工程が複雑となるため、収率及びコストの点で改善が求められている。
国際特許公開公報WO89/01525
本発明は、D-アミノ酸アミド又はL-アミノ酸アミドに作用してL-アミノ酸アミド又はD-アミノ酸アミドを生成する酵素を用いて、より光学活性の低下したD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物(以下、D,L-アミノ酸アミド混合物と称することがある)を製造する方法、D又はL-アミノ酸の製造方法、並びにD又はL-アミノ酸アミドを製造する方法を提供するものである。
本発明者は、環状アミド化合物をラセミ化する公知のα-アミノ-ε-カプロラクタム(以下、ACLと称することがある)ラセマーゼが、D-アミノ酸アミドに作用してL-アミノ酸アミドに変換し、L-アミノ酸アミドに作用してD-アミノ酸アミドに変換することを見いだし、D,L-アミノ酸アミド混合物、光学活性なアミノ酸又は光学活性なアミノ酸アミドを製造する方法を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記の製造方法を提供するものである。
項1.D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸アミドを原料とし、該原料にα-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼを作用させる、該原料より光学活性の低下したD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物の製造方法。
項2.α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼが、Achromobacter obae由来である項1に記載のアミノ酸アミドの混合物の製造方法。
項3.アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、プロリンアミド、アスパラギンアミド、システインアミド、シスチンアミド、トレオニンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである項1又は2に記載のアミノ酸アミドの混合物の製造方法。
項4.アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである項1〜3のいずれかに記載のアミノ酸アミドの混合物の製造方法。
項5.D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸アミドに、α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼ及びD又はL-アミノ酸アミドに選択的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素を作用させる、D又はL-アミノ酸の製造方法。
項6.α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼが、Achromobacter obae由来である項5に記載のD又はL-アミノ酸の製造方法。
項7.アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、プロリンアミド、アスパラギンアミド、システインアミド、シスチンアミド、トレオニンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである項5又は6に記載のD又はL-アミノ酸の製造方法。
項8.アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである項5〜7のいずれかに記載のD又はL-アミノ酸の製造方法。
項9.D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物に、α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼ及びD又はL-アミノ酸アミドに選択的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素を作用させてD又はL-アミノ酸を生成させ、生成したD又はL-アミノ酸をアミド化してD又はL-アミノ酸アミドを製造する方法。
項10.α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼが、Achromobacter obae由来である項9に記載のD又はL-アミノ酸アミドの製造方法。
項11.アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、プロリンアミド、アスパラギンアミド、システインアミド、シスチンアミド、トレオニンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである項9又は10に記載のD又はL-アミノ酸アミドの製造方法。
項12.アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである項9〜11のいずれかに記載のD又はL-アミノ酸アミドの製造方法。
(1)原料より光学活性の低下したD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物の製造方法
本発明の製造方法は、D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸アミドを原料とし、該原料にα-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼを作用させて、該原料より光学活性の低下したD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物を製造することを特徴とする。
D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸アミドにACLラセマーゼを作用させると時間の経過に伴って、反応系に存在するアミノ酸アミドの光学活性が低下し、最終的には、D,L-アミノ酸アミドラセミ体(D体とL体の比が1:1の混合物)が生成する。なお、反応時間等の条件を適宜設定することにより、任意のD体とL体の比を有するD,L-アミノ酸アミド混合物を製造することが可能である。
従って、「原料より光学活性の低下したD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物」、とは、D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの等量混合物(アミノ酸アミドラセミ体)或いは原料であるD-アミノ酸アミド、L-アミノ酸アミド又はD,L- アミノ酸アミド混合物より光学活性が該等量混合物に近いD,L-アミノ酸アミド混合物を包含する。
例えば、D-アミノ酸アミド:L-アミノ酸アミドが90:10の混合物にACLラセマーゼを作用させると、その比が90:10から反応時間の経過に伴って50:50にまで変化するが、途中で反応を止めてその比が90:10から50:50までの間の任意の比(例えば80:20、70:30、60:40など。)のD,L-アミノ酸アミド混合物を得ることも本発明の製造方法に包含される。
本発明において使用されるACLラセマーゼとしては、例えば、酵素分類においてEC 5.1.1.15が付与されている酵素を使用することができる。ACLラセマーゼは、Achromobacter obae、Pseudomonas sp.(CCM 3443)等を培養することにより単離されており、いずれの菌由来のACLラセマーゼも本発明において使用できる。なお、Achromobacter obae(FERM-P776)からACLラセマーゼを得る方法は、「S. A. Ahmed, et al., Agric. Biol. Chem., 47 (8), 1887-1893(1983)」に示されている。
また、Achromobacter obae 由来ACLラセマーゼの全遺伝子配列が報告されており、例えば、特開昭63-129984の第2図において、全DNA配列(配列番号1)及び全アミノ酸配列(配列番号2)が記載されている。
さらに、Achromobacter obae 由来ACLラセマーゼとアミノ酸配列の一次構造が類似である、Sinorhizobium meliloti (Rhizobium meliloti) 1021由来の遺伝子(配列番号49)を発現させたタンパク質(配列番号50)、Pyrococcus furiosus DSM 3638由来の遺伝子(配列番号51)を発現させたタンパク質(配列番号52)、Pyrococcus horikoshii OT3由来の遺伝子(配列番号53)を発現させたタンパク質(配列番号54)、Pyrococcus abyssi由来の遺伝子(配列番号55)を発現させたタンパク質(配列番号56;Pyridoxal phosphate-dependent aminotransferase)及びThermococcus kodakaraensis由来の遺伝子(配列番号57)を発現させたタンパク質(配列番号58;aminotransferase, class III)も、本発明の製造方法においてACLラセマーゼとして使用しうる。
一般に、天然に存在するタンパク質の中には、それをコードする遺伝子の多形性や変異のために、あるいはタンパク質生成後の修飾反応などによって、アミノ酸配列中でアミノ酸残基の欠失、付加、置換などの変異が生じる場合があるが、それにも関わらずそのような変異が生じないタンパク質と同じ生理学的活性を有するものがある。あるいはまた、遺伝子組み換え工学の技術を使用して人工的に遺伝子に変異を施すことも可能であり、この場合にも該タンパク質の生理学的活性に実質的に変化を生じさせることなく変異させることが可能である。
また、本発明においてACLラセマーゼとして使用されるタンパク質は、天然のタンパク質でも組み換えタンパク質でも、あるいは化学合成タンパク質でもよく、その起源は特に限定されない。天然のタンパク質を得たい場合には、目的タンパク質を発現している組織または培養細胞の培養物を出発原料として、塩析、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーまたはゲル濾過などのタンパク質の精製のための公知の方法を適宜組み合わせて精製することが可能である。例えば、アフィニティークロマトグラフィーを利用する場合には、本発明のタンパク質に対する抗体を結合させた担体を用いることにより目的タンパク質を精製することができる。
また、組換えタンパク質を得たい場合には、上記のように目的タンパク質をコードする本発明の遺伝子を好適な発現ベクター中にクローニングして得られた組換え発現ベクターを宿主(大腸菌、酵母など)に形質転換し、形質転換体を好適な条件下で培養することにより目的とするタンパク質を産生させることができる。目的タンパク質の単離のためには、目的タンパク質を培養上清中に分泌させることが一般には好ましく、これは、組換えベクター/宿主の組み合わせや培養条件などを適宜選択することによって行うことができる。また、所望のアミノ酸配列を有するタンパク質を化学合成的に製造することも当業者ならば適宜行うことができる。
さらに、アミノ酸アミドラセマーゼ活性を保持する限り、上記のタンパク質に薬学的に許容しうる適当な修飾をすることが可能である。すなわち、配列番号2、50,52又は54で表されるアミノ酸配列のタンパク質および部分配列などを含有するタンパク質はC末端が通常カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート(-COO-)であるが、C末端がアミド(-CONH)またはエステル(-COOR)であってもよい。エステルのRとしては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチルなどのC1−6アルキル基、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基、フェニル、α−ナフチルなどのC6−12アリール基、ベンジル、フェネチル、ベンズヒドリルなどのフェニル−C1−2アルキル、もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1−2アルキルなどのC7−14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチルエステルなどが挙げられる。本発明のタンパク質の塩としては、薬学的に許容される塩基(例えばアルカリ金属など)や酸(有機酸、無機酸)との塩が用いられるが、とりわけ薬学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては例えば無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
したがって、配列番号2、50,52又は54のアミノ酸配列をこれらの天然又は人工的な変異で変異させたアミノ酸配列を有するタンパク質もアミノ酸アミドラセマーゼ活性を有する限り、本発明の製造法において使用できる。
したがって、本発明において使用されるACLラセマーゼとしては、(1)上記の配列番号2,50,52,54,56又は58で示されたアミノ酸配列からなるタンパク質、(2)該アミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミノ酸アミドラセマーゼ活性を有するタンパク質、又は(3)該アミノ酸配列と70%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつアミノ酸アミドラセマーゼ活性を有するタンパク質も包含される。
従って、本発明において使用されるACLラセマーゼとしては、要求される酵素活性を有するものであれば特に制限なく使用でき、例えば、微生物培養物から精製して得られた酵素、微生物培養物の酵素活性を有する粗精製物、遺伝子工学的に製造された酵素などが使用できる。微生物培養物としては、培養液、培養菌体などが挙げられ、培養菌体が好ましい。遺伝子工学的な製造では、上記のアミノ酸配列に基づき化学合成によってペプチドを調製する方法、あるいは上記のDNA配列を用いて組換えDNA技術で生産する方法などによりACLラセマーゼを取得することもできる。例えば、組換えDNA技術によってACLラセマーゼを取得する場合には、この配列又はその断片を有するベクターからインビトロ転写によってRNAを調製し、これを鋳型としてインビトロ翻訳を行なうことによりインビトロで発現できる。また翻訳領域を公知の方法により適当な発現ベクターに組換えてやれば、大腸菌、枯草菌、酵母、動物細胞等で、cDNAがコードするACLラセマーゼを大量に発現させることができる。
ACLラセマーゼを大腸菌などの微生物で発現させる場合には、微生物中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、cDNAクローニング部位、ターミネーター等を有する発現ベクターに、この発明のcDNAの翻訳領域を挿入結合して組換えた発現ベクターを作成し、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養してやれば、cDNAがコードしているACLラセマーゼを微生物内で大量生産することができる。あるいは、他の蛋白質との融合蛋白質として発現させることもできる。得られた融合蛋白質を適当なプロテアーゼで切断することによって、cDNAがコードするタンパク質部分のみを取得することもできる。
本発明のD,L-アミノ酸アミド混合物の製造方法において、原料は、D-アミノ酸アミド、L-アミノ酸アミドのいずれかを含み、D-アミノ酸アミドとL-アミノ酸アミドの混合物であっても良い。しかし、原料がD-アミノ酸アミドとL-アミノ酸アミドの等量混合物(ラセミ体)である場合には、ACLラセマーゼを作用させてもD-アミノ酸アミドとL-アミノ酸アミドの含有割合が変化することはないため、原料からのぞかれる。好ましいD,L-アミノ酸アミド混合物は、D-アミノ酸アミドのモル数/(D-アミノ酸アミドのモル数+L-アミノ酸アミドのモル数)が0.001〜0.499及び0.501〜0.999であり、より好ましいのは、0.001〜0.49及び0.51〜0.999であり、よりいっそう好ましいのは0.001〜0.48及び0.52〜0.999である。アミノ酸アミドとしては、光学活性体の存在する公知のアミノ酸のアミドが包含され、例えば、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、プロリンアミド、アスパラギンアミド、システインアミド、シスチンアミド、トレオニンアミド、イソロイシンアミド、トリプトファンアミド、グルタミンアミド、チロシンアミド、リシンアミド、アルギニンアミド、ヒスチジンアミド、アスパラギン酸アミド、グルタミン酸アミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド、ペニシラミンアミドなどであり、D体、L体を問わず、また1種単独でも2種以上を組み合わせても使用できる。好ましくは、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、プロリンアミド、アスパラギンアミド、システインアミド、シスチンアミド、トレオニンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド、ペニシラミンアミドであり、より好ましくは、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド、トレオニンアミド、ペニシラミンアミドであり、よりいっそう好ましくは、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、2-アミノ酪酸アミド、トレオニンアミド、ペニシラミンアミドである。
原料がD,L-アミノ酸アミド混合物の場合、原料中のD体の含有割合及びL体の含有割合は特に制限されない。原料のアミノ酸アミドは、通常1〜500g/liter程度の濃度で使用する。低濃度で使用する場合には遊離塩基の形で使用ことができるが、比較的高濃度で使用する場合には例えば、塩酸塩やトシル酸塩等の形で使用することが、反応系のpHを考慮すると、好ましい。
反応媒体としては、水、又は、アセトン、アセトニトリル、DMSO、DMF等を含む水性液、例えば、水性緩衝液を用いることができる。緩衝液としては、例えば、トリス−HCl緩衝液、リン酸カリウム緩衝液等を使用することができる。また、ケトン、エーテル、炭化水素、芳香族オレフィン、ハロゲン化炭化水素、有機酸エステル、アルコール、ニトリル等の水と混合しない有機溶媒をも用いることもできる。例えば、メチルブチルケトン、イソプロピルエーテル、石油エーテル、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロフォルム、二塩化メチレン、トリクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等を使用することができる。また、それらの有機溶媒の混合物を使うこともできるし、水飽和の有機溶媒、水性緩衝液との二層系あるいは、エマルジョンとして反応させることもできる。好ましいのは、水性液であり、より好ましいのは、水性緩衝液である。
上記の原料に対するACLラセマーゼの使用量は特に制限されないが、0.01〜1000U/ml程度、好ましくは0.05〜100U/mlである。なお、この場合のACLラセマーゼの1ユニットは、1分間に1マイクロモルのアミノ酸アミドの生成を触媒する酵素量とする。ACLラセマーゼを作用させる際、反応温度は通常、20〜70℃程度、好ましくは25〜50℃程度であり、pHは、通常4〜11程度 、好ましくは pH6〜10程度である。
また、反応時間は、原料であるアミノ酸アミドの種類や量、酵素量、反応温度、生成物における所望のD,L混合割合などに応じて適宜設定可能である。通常0.2時間〜10日程度、好ましくは0.5時間〜2日程度である。反応時間を長くすればアミノ酸アミドラセミ体に近いD,L-アミノ酸混合物を得ることができる。
製造の態様は特に制限されず、例えば、原料とACLラセマーゼを一つの容器に仕込んでバッチ式で製造することもできるし、ACLラセマーゼをカラムに固定し、原料を含有する溶液をそのカラムに通液することにより製造することもできる。酵素反応後、生成したアミノ酸は任意に常法によって精製採取することができる。例えば、反応終了後に、菌体や固定化した酵素剤を、タンパク質変性剤の添加後、遠心分離する方法、His-Tagなどを融合させた酵素を使用している場合であれば、Niカラムなどを用いて選択的に除去する方法により除去し、除去後の液中に含まれるアミノ酸を溶媒抽出やイオン交換樹脂等により精製し、結晶化する。
使用する酵素の態様は、細胞培養液、培養上清液、培養液から分離した菌体の処理物、これから得た酵素剤、さらに、これらの酵素又は、酵素含有物を常法によって固定化したもの等、酵素活性を有するものなどが使用できる。工業的な実施にあたっては、生菌体、固定化菌体等を用いるのが有利である。固定化担体は、ポリアクリルアミド、光架橋性樹脂、ポリウレタン樹脂、カッパカラギーナン、アルギン酸ナトリウム、イオン交換樹脂、半透膜等を用いることができる。酵素を固定化するには、例えば担体に酵素液を吸収させる方法、酵素液と担体とを混合し、酵素を吸着固定する方法、酵素を包括固定化する方法、酵素を架橋剤で架橋する方法等を採用することができる。
このようにして、所望のD,L-アミノ酸アミド混合物を得ることができる。得られたD,L-アミノ酸アミド混合物は、原料であるアミノ酸アミドよりも光学活性の点で低いものとなる。製造されるD,L-アミノ酸アミド混合物のアミノ酸アミドの種類については上記の原料のアミノ酸アミドと同様である。また、製造されるD,L-アミノ酸アミド混合物はD体とL体の含有量比が1:1のものであってもよい。
得られたD,L-アミノ酸アミド混合物は、D又はL-アミノ酸の製造原料としても利用できる。例えば、D,L-アミノ酸アミド混合物に、D又はL-アミノ酸アミドに立体特異的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素を作用させる方法等によってD又はL-アミノ酸を製造することができる。
(2)D又はL-アミノ酸の製造方法
本発明のD又はL-アミノ酸の製造方法は、D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸アミドに、α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼ及びD又はL-アミノ酸アミドに選択的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素(以下、アミノ酸に変換する酵素と称することがある)を作用させる、ことを特徴とする。
この製造方法によりD-アミノ酸を得る場合、D-アミノ酸アミド、L-アミノ酸アミド又はD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物に、α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼ及びD-アミノ酸アミドに選択的に作用してD-アミノ酸に変換する酵素を作用させる。反応系中のD-アミノ酸アミドはD-アミノ酸に変換する酵素によってD-アミノ酸に変換され、反応系中のL-アミノ酸アミドはACLラセマーゼによってD-アミノ酸アミドに変換された後、該D-アミノ酸アミドが、D-アミノ酸に変換する酵素によって、D-アミノ酸に変換されてD-アミノ酸が製造される。
また、この製造方法によりL-アミノ酸を得る場合、D-アミノ酸アミド、L-アミノ酸アミド、又はD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物に、ACLラセマーゼ及びL-アミノ酸アミドに選択的に作用してL-アミノ酸に変換する酵素を作用させる。反応系中のL-アミノ酸アミドはL-アミノ酸に変換する酵素によってL-アミノ酸に変換され、反応系中のD-アミノ酸アミドはACLラセマーゼによってL-アミノ酸アミドに変換された後、該L-アミノ酸アミドが、L-アミノ酸に変換する酵素によって、L-アミノ酸に変換されてL-アミノ酸が製造される。
この製造方法においては、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質となるアミノ酸アミドは減少するが、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質とならないアミノ酸アミドがACLラセマーゼの作用によって変換されて、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質となるアミノ酸アミドが生成する。このアミノ酸アミドをD又はL-アミノ酸に変換する酵素がD又はL-アミノ酸に変換するため、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質となるアミノ酸アミドだけでなく、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質とならないアミノ酸アミドも原料として有効に利用できる。
本製造方法においては、D-アミノ酸アミド、L-アミノ酸アミド、D-アミノ酸アミドとL-アミノ酸アミドの混合物(D,L-アミノ酸アミド)が原料として使用され、その態様は次に記載の点を除き、上記(1)の場合と同様である。なお、D-アミノ酸アミドとL-アミノ酸アミドの混合物(D,L-アミノ酸アミド)については、上記(1)の場合と異なり、D-アミノ酸アミドとL-アミノ酸アミドの等量混合物(ラセミ体)も使用できるため、本製造方法においてD,L-アミノ酸アミド混合物はD-アミノ酸アミドとL-アミノ酸アミドの等量混合物(ラセミ体)も包含する。また、本製造方法において使用されるACLラセマーゼの態様についても上記(1)の場合と同様である。
D又はL-アミノ酸アミドに選択的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素は、D-アミノ酸アミドに選択的に作用してD-アミノ酸を生成する酵素、L-アミノ酸アミドに選択的に作用してL-アミノ酸を生成する酵素、であれば特に制限なく使用されうる。
D又はL-アミノ酸アミドに選択的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素は、通常、アミノ酸アミダーゼ、アミノペプチダーゼ、プロテアーゼ等の名称が付けられている。例えば、D-アミノペプチダーゼ、アルカリD-ペプチダーゼ、D-アラニンアミダーゼ、L-アミノペプチダーゼと呼ばれる酵素などが挙げられる。また、一般的にアミダーゼ、ペプチダーゼ、プロテアーゼ、プロテイナーゼ、立体特異的アミダーゼ、エナンチオマー特異的アミダーゼと呼ばれるものでもよい。これらの酵素は、要求される酵素活性を有するものであれば特に制限なく使用でき、例えば、微生物培養物から精製して得られた酵素、微生物培養物の酵素活性を有する粗精製物、遺伝子工学的に製造された酵素などが使用できる。ここで、遺伝子工学的な製造法は、上記のACLラセマーゼの遺伝子工学的製造法と同様である。
より具体的には、L-アミノ酸アミダーゼ、D-アミノペプチダーゼ、L-アミノペプチダーゼ、Comamonas acidovorans KPO-2771-4由来の (S)-及び(R)- エナンチオマー特異的アミダーゼ(Hayashi, T.ら, J. Ferment. Bioeng., 83(1997), 139-145)、Pseudomonas putida ATCC 12633由来の (S)-立体特異的アミダーゼ(Hermes, H.F.M.ら, Appl. Environ. Microbiol., 59(1993), 4330-4334)、Ochrobactrum anthropi NCIMB 40321由来の (S)-立体特異的アミダーゼ(van den Tweelら, Appl. Microbiol. Biotechnol., 39(1993), 296-300)、Mycobacterium neoaurum ATCC 25795由来の (S)-立体特異的アミノ酸アミダーゼ(Hermesら, Appl. Environ. Microbiol., 60(1994), 153-159)、Pseudomonas azotoformans IAM 1603由来の(S)-立体特異的アミノ酸アミダーゼ(米田英伸ら、Pseudomonas azotoformans 由来の(S)体特異的N-tert-ブチルピペラジンカルボキサミド加水分解酵素、日本農芸化学会2002年度大会、2002.3.26 (仙台市))、Ochrobactrum anthropi C1-38由来の(R)-立体特異的アミノ酸アミダーゼ(Asanoら, J. Biol. Chem., 264(1989), 14233-14239及びAsanoら, Biochemistry, 31(1992), 2316-2328)、Ochrobactrum anthropi SV3(Komedaら, Eur. J. Biochem., 267 (2000), 2028-2035)由来の(R)-立体特異的アミノ酸アミダーゼ、Arthrobacter sp. NJ-26由来の(R)-立体特異的アミノ酸アミダーゼ(Ozakiら, Biosci. Biotech. Biochem., 56(1992), 1980-1984)、Brevibacillus borstelensis BCS-1由来の(R)-立体特異的アミノ酸アミダーゼ(Baekら, Appl. Environ. Microbiol., 69(2003), 980-986)、Pseudomonas sp. 由来の(R)-立体特異的アミノ酸アミダーゼ(米田英伸ら、Pseudomonas sp.由来の(R)-体特異的ピペラジン-2-tert-ブチルカルボキサミド加水分解酵素、日本生物工学会平成14年度大会、2002.10.29(大阪市))、Pseudomonas aeruginosa PAO1由来の(R)-立体特異的アミノ酸アミダーゼ(米田英伸ら、Pseudomonas aeruginosa PAO1由来のアミダーゼ相同タンパク質PA3598の諸性質、日本農芸化学会2003年度大会、 2003.4.1(藤沢市))などを挙げることができる。
原料がD,L-アミノ酸アミド混合物の場合、原料中のD体の含有割合及びL体の含有割合は特に制限されない。上記の原料に対するACLラセマーゼの使用量は、0.01〜1000U/ml程度、好ましくは0.5〜100U/mlであり、アミノ酸に変換する酵素の使用量は0.01〜1000U/ml、好ましくは0.5〜100U/mlである。なおアミノ酸に変換する酵素の1ユニットは、1分間に1マイクロモルのアミノ酸アミドの加水分解を触媒する酵素量とする。上記のACLラセマーゼ及びアミノ酸アミダーゼを作用させる際、反応温度は通常、20〜70℃程度、好ましくは25〜50℃程度であり、pHは通常4〜11程度、好ましくは6〜10程度である。
また、反応時間は、原料であるアミノ酸アミドの種類や量、酵素量、反応温度、生成物における所望のD,L混合割合などに応じて適宜設定可能である。通常0.2時間〜10日程度、好ましくは0.5時間〜2日程度である。
製造の態様は特に制限されず、例えば、原料とACLラセマーゼ及びアミノ酸に変換する酵素を一つの容器に仕込んでバッチ式で製造することもできるし、ACLラセマーゼをカラムに固定し、原料を含有する溶液をそのカラムに通液し、次いでこの液をアミノ酸に変換する酵素と反応させることにより製造することもできる。酵素反応後、生成したアミノ酸は(1)の場合と同様にして精製できる。また、反応に使用される酵素の態様も(1)と同様である。
このようにして製造されたD又はL-アミノ酸としては、光学活性体の存在する公知のアミノ酸が包含され、例えば、アラニン、メチオニン、ロイシン、セリン、フェニルアラニン、バリン、プロリン、アスパラギン、システイン、シスチン、トレオニン、イソロイシン、トリプトファン、グルタミン、チロシン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、2-アミノ酪酸、ノルバリン、ノルロイシン、ペニシラミンなどであり、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用できる。好ましくは、アラニン、メチオニン、ロイシン、セリン、フェニルアラニン、バリン、プロリン、アスパラギン、システイン、シスチン、トレオニン、2-アミノ酪酸、ノルバリン、ノルロイシン、ペニシラミンであり、より好ましくは、アラニン、メチオニン、ロイシン、セリン、フェニルアラニン、バリン、2-アミノ酪酸、ノルバリン、ノルロイシン、トレオニン、ペニシラミンである。よりいっそう好ましくは、アラニン、メチオニン、ロイシン、セリン、フェニルアラニン、バリン、2-アミノ酪酸、トレオニン、ペニシラミンである。
(3)D又はL-アミノ酸アミドの製造方法
本発明のD又はL-アミノ酸アミドの製造方法は、D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物に、α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼ及びD又はL-アミノ酸アミドに選択的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素を作用させてD又はL-アミノ酸を生成させ、生成したD又はL-アミノ酸をアミド化することを特徴とする。
D,L-アミノ酸アミドの混合物からD又はL-アミノ酸アミドを分離する方法としては、光学活性な塩基を用いて、ジアステレオマーを生成し、物理化学的性質の差異により分離する方法や、酵素を用いて立体選択的に加水分解し光学活性体を得る方法が知られているが、前者は分離が困難であり、後者は収率が悪いため実用的ではなかった。しかし、本製造方法では、D,L-アミノ酸アミドの混合物にACLラセマーゼとアミノ酸に変換する酵素作用させ、反応液からD又はL-アミノ酸を分離する。ここまでは(2)と同様にして行うことができる。得られたD又はL-アミノ酸に、公知のアミノ酸をアミド化する方法を適用することによって、D又はL-アミノ酸アミドを分離することができる。
D又はL-アミノ酸をアミド化する方法は、従来公知の方法を広く使用できる。例えば、アミノ酸をアミノ酸エステルにし、アンモニアガスを吹き込む方法などである。
実施例2における、ACLラセマーゼによるL-2-アミノ酪酸アミドのラセミ化を示すグラフである。 実施例2における、ACLラセマーゼによるL-アラニンアミドのラセミ化を示すグラフである。 実施例3における、D-フェニルアラニンアミドのラセミ化を示すグラフである。 実施例3における、L-フェニルアラニンアミドのラセミ化を示すグラフである。 実施例4における、L-アラニンアミドを原料としたD-アラニンの合成を示すグラフである。
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
材料
ここでは、以下の材料を使用した。
組み換えプラスミドの宿主:E. coli JM109
クローニングベクター:pUC18(宝酒造社製)
培養培地:アンピシリン添加LB培地(10g/l Bacto tryptone)、5g/lBacto酵素エキス、10g/l NaCl、80μg/mlアンピシリン、pH 7.2)
オリゴヌクレオチド:北海道システムサイエンス社製
DNAポリメラーゼ:Takara Ex Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)
制限酵素:EcoRI(New England Biolabs社製)、SphI(東洋紡社製)
ホスファターゼ:シュリンプアルカリホスファターゼ(べーリンガーマンハイム社)
リゲーションキットver. 2(宝酒造社製)
クラウンパックCR(+)カラム(ダイセル化学社製)
DEAE-Toyopearl 650M及びButyle-Toyopearl 650M(トーソー社製)
Superdex 200 HR 10/30及びMono Q HR 5/5(Pharmacia社製)
Bacto酵素エキス及びBacto tryptone(Difco社製)
D,L-α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼ(D,L-ACL)(東京化成社製)
L-ACL:Brennerらの方法(M. Brenner, H. R. Rickenbacher, Helv. Chim. Acta. 41(1958) 181-188)に従って、(S)-(-)-L-ピロリドンカルボン酸を用いる光学分割により、D,L-ACLから調製した。
製造例1
<α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼの遺伝子工学的製造>
1.プライマー
配列番号2に示したACLラセマーゼのアミノ酸配列を含むようにプライマーを46個設計した。これら46個のプライマーをA1プライマーからA46プライマーと称し、各々のヌクレオチド配列を配列番号3〜48に示した。設計方法は、各々のプライマーが約50merで、そのうち20merずつ重なるように設計した(各々のプライマーの5’側は、G,Cにした)。A1プライマーには、開始コドン(atg)、ストップコドン(tag)、リボソーム結合サイト(aggagg)、EcoRI認識サイト(gaattc)を設けた。A45プライマーにはストップコドン(taa)、A46プライマーには、SphI認識サイト(gcatgc)を設けた。
2.PCR
これらのプライマーを用いてPCRを行った。各プライマー(46個)を100 pmol/μlの濃度に調整したプライマー液を1μlずつ混ぜてMixプライマーとした。Mixプライマー0.5μl、0.5 μlのTakara Ex Taq ポリメラーゼ、TAKARA Ex Taq 用Buffer、及び2.5mMのdNTPの5μlで全量を50 μlとし、PCRを行った。PCRの条件は、94℃で30s、52℃で30s、72℃で30sをワンセットとし、これを55回繰り返した。
PCR反応液1.3μl、0.5μlのEx Taq ポリメラーゼ、Ex Taq 用Buffer、2.5mMのdNTPの5μl、A1プライマー液1μl、及びA46プライマー液1μlで全量を50μlとし、PCRを行った。PCRの条件は94℃で30s、52℃で30s、72℃で60sをワンセットとし、これを23回繰り返した。なお、PCRはPTC-200(MJ Research社)を使用して行った。
3.クローニング
PCRにより増幅されたDNAの1400bp付近をゲル抽出し、EcoRI-SphI処理、アルカリ処理して得られた断片を、pUC18ベクター中のlacプロモーターの下流にインサートし、これを大腸菌JM109に挿入し、アンピシリン添加LB培地で37℃12時間培養して、形質転換した。ACL活性を示すコロニーを選択し、ACL活性を示す形質転換大腸菌(E. coli JM109/pACL60)を得た。
4.形質転換大腸菌からのACLラセマーゼの精製
E. coli JM109/pACL60をアンピシリン添加LB培地(5ml)の入った試験管に入れ、37℃で12時間培養した。得られた培養液(5ml)を、80μg/mlのアンピシリン及び0.5mMのイソプロピルチオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)を添加した500mlのLB培地の入った2Lのフラスコに入れ、37℃で8時間振とう培養した。培養後、遠心分離(4℃、8000g、5分間)で菌体を分取し、菌体を0.85%NaClで洗浄した。同様にして、500mlのLB培地の入った2Lフラスコ(20本)で形質転換大腸菌を培養し、合計10Lの培養液を得た。
10Lの培養液から同様にして菌体を分取し、0.25Mのスクロース及び2μMのピリドキサールリン酸(以下、PLPと称する)を含んだ100mMのKPB緩衝液(pH7.0、以下、本製造例(酵素活性測定に使用する緩衝液をのぞく)における「緩衝液」は、この緩衝液を意味する。)に懸濁し、10分間超音波処理(19KHz、Insonator model 201M、クボタ社製)した。その後、懸濁液を遠心分離(4℃、15000g、30分間)して菌体を除去した。菌体除去後の液を熱処理(60℃、10分間)し、変性タンパク質を遠心分離により除去し、上清を得た。上清を、10mMの緩衝液で平衡化したDEAE-トヨパール650Mカラム(直径3cm×長さ25cm)にかけ、10mMの緩衝液でカラムを洗浄した。0から300mMのNaClの濃度勾配をつけた10mMの緩衝液で溶出し、フラクションを得た。ACLラセマーゼ活性のあるフラクションを硫化アンモニウムで30%飽和させた。この液を、硫化アンモニウムで30%飽和させた緩衝液で平衡化したブチルトヨパール650Mカラム(直径1.5cm×長さ13cm)に吸着させた。カラムを硫化アンモニウムで30%飽和させた緩衝液で洗浄した後、30%から0%の硫化アンモニウムを含有する緩衝液で濃度勾配溶出した。活性を有するフラクションを集め、セントリコン10(Centricon 10)で濃縮した。この濃縮物を、150mMのNaClを含む10mMの緩衝液で平衡化したSuperdex 200 HR 10/30カラムの上部に吸着させた。FPLC(Pharmacia)によりカラムを0.4ml/分の速度で溶出し、活性を有するフラクションを集め、セントリコン10で濃縮した。濃縮物を、10mMの緩衝液で平衡化したMono Q HR5/5に吸着させ、0〜300mMのNaClを含有する10mMの緩衝液で濃度勾配溶出した。活性を含むフラクションを集め、セントリコン10で濃縮し、ACLラセマーゼを得た。得られたACL-ラセマーゼをSDS電気泳動にかけて単一であることを確認した。この酵素の分子量は4万であった。なお、各精製段階でのACLラセマーゼ活性の確認は以下のようにしてACLラセマーゼ活性を測定することにより行った。
<ACLラセマーゼ活性の測定方法>
100mMリン酸カリウム緩衝液(KPB、pH 7.0)、2μMピリドキサールリン酸(PLP)、10mMのL-ACL及び各段階で得られた酵素活性液20μlを含有する混合液(2ml)を、30℃で30分間反応させ、2NのHClOを20μl添加して反応を終了させ、D-ACL生成量に基づいてACLラセマーゼ活性を決定する。ただし、SDS電気泳動で単一であることを確認された最終フラクションの測定では、酵素活性液の使用量は1μl(混合液全量は2ml)、反応時間は1分間とした。D-ACL生成量はクラウンパックCR(+)カラムを用いたHPLC(0.6 ml/分、溶媒60mMのHClO)により決定した。溶出液の吸光度(200nM)を測定した。D-ACLをラセミ化し、1分間に1μモルのL-ACLの生成を触媒する酵素量を1ユニットとした。
実施例1
<ACLラセマーゼによるL-2-アミノ酪酸アミド、L-トレオニンアミド、L-アラニンアミド、L-セリンアミド、L-ノルバリンアミド、L-ノルロイシンアミド、L-メチオニンアミド、L-バリンアミド、L-ロイシンアミド及びL-フェニルアラニンアミドのラセミ化>
2μMのPLP、100mMのKPB(pH7.0)、10mMのアミノ酸アミド及び製造例1で得られたACLラセマーゼ71.2ngの混合液(2ml)を30℃で30分間反応させた。HClO4を添加して反応を停止させ、反応液を、クラウンパックCR(+)カラムを装着したHPLC(溶媒は60mMのHClO4(0.6ml/分))にかけ、200nm吸光度で反応系中のD-アミノ酸アミド量を測定し、L-アミノ酸アミドに対するACLラセマーゼの比活性を算出した。その結果を表1に示す。なお、L-ACLに対するACLラセマーゼの活性は350U/mgであった。
表1からACLラセマーゼがL-アミノ酸アミドをD-アミノ酸アミドを生成し、ラセミ化することが確認された。
なお、アミノ酸アミドを下記のアミノ酸のD体又はL体に代えて、ACLラセマーゼと反応させ生成物を定量したところ、ACLラセマーゼは下記のアミノ酸をラセミ化しないことを確認した。使用したアミノ酸:アラニン、バリン、セリン、メチオニン、ロイシン、フェニルアラニンの各D体及びL体
Figure 0004122416
実施例2
<ACLラセマーゼによる、L-2-アミノ酪酸アミドおよびL-アラニンアミドのラセミ化>
20μMのPLP、100mM のKPB(pH7.0)、40mMのL-2-アミノ酪酸アミド及び製造例1で得られた71.2ngのACLラセマーゼの混合液(2ml)を30℃で120分間反応させ、反応液中のアミノ酸アミドのD体とL体の存在比を200nm吸光度から測定した。また、L-2-アミノ酪酸アミドをL-アラニンアミドに代えた以外は同様にして測定した。結果を図1(アミノ酪酸アミド)及び図2(アラニンアミド)に示す。時間の経過と共にL-2-アミノ酪酸アミド及びL-アラニンアミドがラセミ化されていくことが確認された。
実施例3
<D又はL-フェニルアラニンアミドのラセミ化及び光学活性なフェニルアラニンの製造>
形質転換大腸菌(E. coli JM109/pACL60)を80μg/mlのアンピシリンを含む50mlのLB培地の入った試験管に入れ、37℃で12時間培養した。この培養液から得られる菌体を、0.1MのTris/HCl(pH8.0)、10mMのD-フェニルアラニンアミドからなる5mlの溶液に懸濁し30℃で24時間反応させた。なお、大腸菌体にはL-フェニルアラニンアミドをL-フェニルアラニンに変換する酵素(L-フェニルアラニンアミダーゼ)が含有されており、反応系中のL-フェニルアラニンアミドはL-フェニルアラニンに変換される。HClO4を添加して反応を停止させ、反応液を、クラウンパックCR(+)カラムを装着したHPLC(溶媒は60mMのHClO4(0.8ml/min)にかけ、200nm吸光度からD及びL-フェニルアラニンアミド並びにD及びL-フェニルアラニンを定量した。結果を図3に示す。また、D-フェニルアラニンアミドをL-フェニルアラニンアミドに代え、反応時間を8時間に代えて、同様に定量した。結果を図4に示す。なお、大腸菌体にはD-フェニルアラニンアミドをD-フェニルアラニンに変換する酵素(D-フェニルアラニンアミダーゼ)が含有されておらず、反応系中のD-フェニルアラニンアミドはD-フェニルアラニンに変換されない。
図3では、D-フェニルアラニンアミドが減少し、反応当初には存在していなかったL-フェニルアラニンアミド及びL-フェニルアラニンが生成している。これは、菌体がD-フェニルアラニンアミドをL-フェニルアラニンアミドに転換し、生成したL-フェニルアラニンアミドがL-アミノ酸アミダーゼによりL-フェニルアラニンに転換されたことを示す。
図4では、L-フェニルアラニンアミドが減少し、反応当初には存在していなかったD-フェニルアラニンアミド及びL-フェニルアラニンが生成している。これは、菌体がL-フェニルアラニンアミドをD-フェニルアラニンアミドに転換し、L-アミノ酸アミダーゼがL-フェニルアラニンアミドをL-フェニルアラニンに転換したことを示す。
実施例4
<L-アラニンアミドを原料としたD-アラニンの合成>
L-アラニンアミドに、製造例1で得られたACLラセマーゼ及びOchrobactrum anthropi C1-38由来のD-アミノペプチダーゼを作用させてD-アラニンを合成した。2μMのPLP、100mMのKPB(pH7.0)、45mMのL-アラニンアミド、ACLラセマーゼ(0.22U)及びD-アミノペプチダーゼ(2.2U)を混合し(2ml)、30℃で7時間反応させた。HClO4を添加して反応を停止させ、反応液を、クラウンパックCR(+)カラムを装着したHPLC(溶媒は60mMのHClO4(0.4ml/min)にかけ、200nm吸光度からD及びL-アラニンアミド並びにD-アラニンを定量した。結果を図5に示す。なお、ここで使用したD-アミノペプチダーゼは、Y. Asano, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 162, 470-474 (1989)に記載の方法に従って製造した。
図5では、L-アラニンアミドが減少し、反応当初には存在していなかったD-アラニンアミド及びD-アラニンが生成している。これは、菌体がL-アラニンアミドをD-アラニンアミドに転換し、生成したD-アラニンアミドがD-アミノペプチダーゼによりD-アラニンに転換されたことを示す。
本発明の(1)D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物の製造方法は、ACLラセマーゼを作用させるという簡便な方法である。また、本発明の(2)D又はL-アミノ酸の製造方法では、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質となるアミノ酸アミドは減少するが、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質とならないアミノ酸アミドがACLラセマーゼの作用によって変換されて、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質となるアミノ酸アミドが生成する。このアミノ酸アミドをD又はL-アミノ酸に変換する酵素がD又はL-アミノ酸に変換するため、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質となるアミノ酸アミドだけでなく、D又はL-アミノ酸に変換する酵素の基質とならないアミノ酸アミドも原料として有効に利用できるため、(2)の製造方法は、光学分割操作の不要な、収率のよい簡便な方法である。さらに本発明の(3)のD又はL-アミノ酸アミドの製造方法は、(2)の製造方法により得られた光学活性なアミノ酸を公知の方法でアミド化するものであることから、(2)の製造方法と同様に、光学分割操作の不要な、収率のよい簡便な方法である。
配列番号3〜48は、それぞれA1〜A46プライマーのDNA配列を示す。

Claims (12)

  1. D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸アミドを原料とし、該原料にα-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼを作用させる、該原料より光学活性の低下したD-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物の製造方法。
  2. α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼが、Achromobacter obae由来である請求項1に記載のアミノ酸アミドの混合物の製造方法。
  3. アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、プロリンアミド、アスパラギンアミド、システインアミド、シスチンアミド 2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである請求項1又は2に記載のアミノ酸アミドの混合物の製造方法。
  4. アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである請求項1〜3のいずれかに記載のアミノ酸アミドの混合物の製造方法。
  5. D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸アミドに、α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼ及びD又はL-アミノ酸アミドに選択的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素を作用させる、D又はL-アミノ酸の製造方法。
  6. α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼが、Achromobacter obae由来である請求項5に記載のD又はL-アミノ酸の製造方法。
  7. アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、プロリンアミド、アスパラギンアミド、システインアミド、シスチンアミド 2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである請求項5又は6に記載のD又はL-アミノ酸の製造方法。
  8. アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである請求項5〜7のいずれかに記載のD又はL-アミノ酸の製造方法。
  9. D-アミノ酸アミド及びL-アミノ酸アミドの混合物に、α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼ及びD又はL-アミノ酸アミドに選択的に作用してD又はL-アミノ酸に変換する酵素を作用させてD又はL-アミノ酸を生成させ、生成したD又はL-アミノ酸をアミド化してD又はL-アミノ酸アミドを製造する方法。
  10. α-アミノ-ε-カプロラクタムラセマーゼが、Achromobacter obae由来である請求項9に記載のD又はL-アミノ酸アミドの製造方法。
  11. アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、プロリンアミド、アスパラギンアミド、システインアミド、シスチンアミド 2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである請求項9又は10に記載のD又はL-アミノ酸アミドの製造方法。
  12. アミノ酸アミドが、アラニンアミド、メチオニンアミド、ロイシンアミド、セリンアミド、フェニルアラニンアミド、バリンアミド、2-アミノ酪酸アミド、ノルバリンアミド、ノルロイシンアミド及びトレオニンアミドからなる群から選択される少なくとも1種のアミドである請求項9〜11のいずれかに記載のD又はL-アミノ酸アミドの製造方法。
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