JP4120435B2 - ウルツ鉱型iii族窒化物半導体結晶の成長方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はIII族窒化物半導体結晶の気相成長方法に関し、特にIII族金属の蒸気と窒素プラズマとを利用して成長させるウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶における方位制御に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年周知のように、青色光や紫外光を射出するための半導体発光ダイオードや半導体レーザなどに利用し得るウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の需要が高まっている。したがって、ウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶を簡便かつ迅速に低コストで製造することが望まれている。そのようなIII族窒化物半導体結晶の典型例として、GaN結晶が最もよく利用されている。
【0003】
GaN結晶の成長方法として、例えばハイドライド気相成長法、有機金属気相成長法、化学蒸気輸送法などを利用することができる。
【0004】
ここで、ハイドライド気相成長法や有機金属気相成長法では、反応室内に導入される原料ガスの反応においてGaN結晶内にその構成成分として取り込まれないHCl、NH3、H2等が反応室内に滞るので、これらのガスを反応室から外部へ排出する必要がある。すなわち、ハイドライド気相成長法や有機金属気相成長法では、原料ガスの大半がGaN結晶成長に寄与することなく捨てられることになり、原料収率が悪いという問題がある。また、大量のHCl、NH3、H2等を廃棄するためには大規模の除害設備が必要であり、プロセスのコスト高を招くことになる。
【0005】
他方、閉管内の高温部において気化された原料ガスを低温部に輸送してその低温部で結晶成長させる化学蒸気輸送法によれば、反応管の外部にガスを排出しないので、原料収率は良好である。しかし、外部から原料ガスが供給されない化学蒸気輸送法では、原料ガスの輸送量を増大させることができないので、GaN結晶の成長速度を高めることは望めない。
【0006】
上述のようなハイドライド気相成長法、有機金属気相成長法、化学蒸気輸送法などのそれぞれが含む課題に鑑みて、特許文献1の特開2001−77038号公報は、反応管内で金属Gaの蒸気と窒素プラズマを反応させて基板上にGaN結晶を成長させる気相成長方法を開示している。
【0007】
図2は、反応管内で金属Ga蒸気と窒素プラズマを反応させてGaN結晶を成長させる先行技術の一例を模式的な断面図で図解している。なお、本願の各図において、長さや高さのような寸法関係は、図面の簡略化と明瞭化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。
【0008】
図2において、反応管1の上部には窒素ガス導入管1aが設けられている。反応管1の底部には金属Ga12を蒸発させるために坩堝2が設けられており、この坩堝2の上方において基板11を保持するための基板保持台3が配置されている。この基板保持台3は、円筒部3aと網板3bを含んでいる。基板保持面として働くこの網板3bは、複数の開口3cを含んでいる。これらの反応管1、坩堝2、および基板保持台3は、好ましくは石英にて形成され得る。また、窒素ガス導入管1aは、それらのフランジ部を伴って例えばステンレス鋼で形成することができ、反応管1に結合され得る。
【0009】
反応管1の内部は、真空ポンプ(図示せず)によって一旦高真空度に減圧される。高真空度に減圧された反応管1内には、その上部に設けられた窒素ガス導入管1aから、窒素ガス13が所定圧まで導入される。その際に、反応管1の上部に設けられたマイクロ波導入管4を介して、マイクロ波4aが窒素ガス13に印加され、窒素プラズマ13aが生成させられる。
【0010】
坩堝2内に入れられた金属Ga12は、反応管1の外部に設けられた加熱装置(図示せず)によって加熱されて溶融させられる。そのGa融液からのGa蒸気は基板保持面3bの開口3cを通過して、加熱された基板11の上面上に至る。そして、そのGa蒸気が窒素プラズマと反応して、基板11の上面上にGaN結晶が成長し得る。
【0011】
Ga蒸気と窒素プラズマとが反応してGaN結晶の成長が進行すれば、反応管1内の窒素ガスが消費されて反応管1内の圧力が所定圧から低下するので、窒素ガス導入管1aを介して窒素ガス13が追加導入される。すなわち、反応管1内の圧力は真空計(図示せず)によってモニタされており、所定圧力に保たれるように窒素ガス13が補充される。
【0012】
図2に図解されたGaN結晶成長方法では、外部から反応管1内に窒素ガスが導入されるが、実質的にGa蒸気や窒素ガスが反応管1外へ排出される必要がない(ただし、好ましい反応ガス圧を維持するために、少量のGa蒸気や窒素ガスが反応管外へ排出されてもよいことは言うまでもない)。したがって、図2に示されているような気相成長法では、ハイドライド気相成長法や有機金属気相成長法の場合のように大規模な排ガス処理設備を必要とせず、GaN結晶成長の際の原料収率も良好になる。また、図2に示されているような気相成長法ではGa融液から大量のGa蒸気を発生させることができ、また消費された窒素ガスは外部から導入することができるので、化学蒸気輸送法に比べてGaN結晶の成長速度を高めることができる。
【0013】
【特許文献1】
特開2001−77038号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、図2に示されているような気相成長法では、ハイドライド気相成長法や有機金属気相成長法の場合のように大規模な排ガス処理設備を必要としなくてGaN結晶成長の際の原料収率も良好になり、かつまた化学蒸気輸送法に比べてGaN結晶の成長速度を高めることができる。
【0015】
ところで、GaN結晶のようなウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶を利用した発光ダイオードまたはレーザにおいては、その発光層が{0001}面に平行である場合に、その自発分極が発光効率を低下させるように作用することが知られている(例えば、Phys.Stat.Sol.(a),Vol.180(2000)pp.133−138参照)。すなわち、そのGaN結晶の{0001}面においては、Ga原子が配列した原子面とN原子が配列した原子面が交互に積層しており、GaN結晶のc軸方向(<0001>方向)には強い自発分極が生じる。他方、{1−100}面や{11−20}面に直交する方向には自発分極が生じない。したがって、発光層は、{0001}面以外の{1−100}面または{11−20}面などに平行に結晶成長させられることが望まれる。
【0016】
ところが、ウルツ鉱型結晶構造を有するGaN結晶において、現在一般に用いられている基板上に気相成長させられたGaN結晶層は、通常はc軸方向に直交する{0001}面に平行に成長する(c軸が基板の主面に対して垂直になる)。これは、{0001}面が最密原子面であって、エネルギ的に安定だからである。すなわち、基板上において、{0001}面以外の結晶面に平行なウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶層を気相成長方によって成長させることは容易ではない。
【0017】
そこで、本発明は、基板上においてIII族金属蒸気と窒素プラズマを利用する気相結晶成長法において、ウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶層の方位を簡便に制御し得る方法を提供することを目的としている。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、上方から窒素ガスが導入される反応管内の下方においてIII族金属を配置し、そのIII族金属の上方に基板を配置し、反応管に導入された窒素ガスにマイクロ波を印加して生じさせた窒素プラズマとIII族金属が蒸発させられたIII族金属蒸気とを基板上で反応させるウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の成長方法において、基板の主面に対して垂直以外の特定方向に高周波パルス電界を印加しながら結晶成長させ、それによって、窒化物半導体結晶のc軸を基板の主面に対して垂直方向から変位させることを特徴としている。
【0019】
なお、パルス電界は、一方の電極側のみが他方の電極側に対して正電位になるように印加されることが好ましい。また、高周波パルス電界を印加する特定方向は、基板の主面に平行に設定し得る。その場合に、基板上に成長させられるウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶層は、{1−100}面または{11−20}面に平行になり得る。
【0020】
印加される高周波パルス電界は、10−100kHzの範囲内の周波数を有し得る。また、パルス電界としては、インパルス電界が好ましく用いられ得る。基板の材質としては、サファイヤ、GaN、AlN、SiC、GaAs、およびSiから選択されたものを利用し得る。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明にしたがってGa蒸気と窒素プラズマとを利用してGaN結晶を方位制御可能に成長させる方法の一例を模式的な断面図で図解している。図1の結晶成長方法においても、図2の場合と同様に、反応管1の上部には窒素ガス導入管1aが設けられている。反応管1の底部には金属Ga12を蒸発させるために、坩堝2が設けられている。この坩堝2の上方において、基板11を保持するための基板保持台3が配置されている。この基板保持台3は、円筒部3aと網板3bを含んでいる。基板保持面として働くこの網板3bは、複数の開口3cを含んでいる。これらの反応管1、坩堝2、および基板保持台3は、好ましくは石英にて形成され得る。また、窒素ガス導入管1aは、それらのフランジ部を伴って例えばステンレス鋼で形成することができ、反応管1に結合され得る。
【0022】
図1の結晶成長装置は、さらに、高周波パルス電界印加手段を含んでいる。すなわち、高周波パルス発生装置21に接続された第1電極22aと第2電極22bを含んでいる。第1電極22aと第2電極22bは、反応管1の外側において、基板11の左側と右側にそれぞれ配置されている。なお、基板11近傍は約1000℃程度に加熱されているので、第1電極22aおよび第2電極22bとしてはW電極、Mo電極、または黒鉛電極などを不活性雰囲気で用いることが好ましい。
【0023】
反応管1の内部は、真空ポンプ(図示せず)によって、例えば10-5Paの高真空度まで一旦排気される。その後、反応管1の上部に設けられた窒素ガス導入管1aから、例えば10Paから1000Paの範囲内で設定された所定圧力の窒素ガス13が反応管1内に導入される。その際に、反応管1の上部に設けられたマイクロ波導入管4を介して、例えば周波数2.45GHzで出力250−500Wのマイクロ波4aが窒素ガス13に印加され、窒素プラズマ13bが生成させられる。
【0024】
このとき同時に、高周波パルス発生装置21から第1電極22aと第2電極22bとの間に約10−100kHzの範囲内の高周波パルス電界が印加される。なお、第1電極22aと第2電極22bは、好ましくは一方のみが他方に対して正電位になるようなパルス電界が印加される。
【0025】
坩堝2内に入れられた金属Ga12は、反応管1の外部に設けられた加熱装置(図示せず)によって例えば1100℃に加熱されて溶融させられる。そのGa融液からのGa蒸気は基板保持面3bの開口3cを通過して、例えば970−980℃に加熱された基板11の上面上に至る。そして、そのGa蒸気が窒素プラズマと反応して、基板11の上面上にGaN結晶が成長し得る。なお、基板11としては、例えばサファイヤ基板またはGaN種結晶基板が好ましく用いられ得る。ただし、基板11はこれらに限定されず、AlN、SiC、GaAs、Siなどの基板をも適宜に選択することができる。
【0026】
Ga蒸気と窒素プラズマとが反応してGaN結晶の成長が進行すれば、反応管1内の窒素ガスが消費されて反応管1内の圧力が所定圧から低下するので、窒素ガス導入管1aを介して窒素ガス13が追加導入される。すなわち、反応管1内の圧力は真空計(図示せず)によってモニタされており、所定圧力に保たれるように窒素ガス13が補充される。この際に、圧力の制御は、窒素ガスの流量制御器におけるPID(比例積分微分)制御によって行われる。
【0027】
すなわち、図1に図解されたGaN結晶成長方法では、外部から反応管1内に窒素ガスが導入されるが、実質的にGa蒸気や窒素ガスが反応管1外へ排出される必要がない(ただし、好ましい反応ガス圧を維持するために、少量のGa蒸気や窒素ガスが反応管外へ排出されてもよいことは言うまでもない)。したがって、図1に示されているようなGa蒸気と窒素プラズマを利用するGaN結晶成長法では、図3の場合と同様に、ハイドライド気相成長法や有機金属気相成長法の場合のように大規模な排ガス処理設備を必要としなくてGaN結晶成長の際の原料収率も良好になり、かつまた化学蒸気輸送法に比べてGaN結晶の成長速度を高めることができる。
【0028】
さらに、図1に示されているGaN結晶成長方法では、高周波パルス発生装置21から第1電極22aと第2電極22bとの間に高周波パルス電界が印加されるので、基板11上のGaN結晶の方位が制御され得る。すなわち、第1電極22aと第2電極22bのいずれか一方のみが他方に対して実質的に正電位になるようにパルス電界が印加されれば、GaN結晶の分極軸であるc軸がそのパルス電界方向に平行になろうとする傾向が生じる。
【0029】
第1電極22aと第2電極22bの間に印加されるパルス電界としては、例えば70kHzのインパルス電界(kV)を印加し得る。このときの電極22a、22b間距離は、例えば約30cmに設定し得る。ここで、インパルス電圧とは、すばやくピーク値に立ち上がり、その後に立ち上がりよりは遅い速さで0Vになる電圧変化を意味する。ただし、図1の例ではインパルス電圧が高周波で印加されるが、その高周波パルス電圧の波形は、矩形波、三角波、サイン波などの他の任意の波形であってもよいことは言うまでもない。
【0030】
図1の場合、パルス電界は基板11の主面に平行に印加されるので、GaN結晶層のc軸はその層に平行になろうとる。そして、その成長したGaN結晶層は、{1−100}面または{11−20}面に平行になり得る。ただし、パルス電界の印加方向は基板11の主面に平行な方向に限られず、垂直以外の任意の方向に印加することができる。
【0031】
たとえば、基板11の主面に対して45度の方向にパルス電界を印加した場合には、成長するGaN結晶層は{1−101}面に平行であった。ここで、c軸は{1−102}面に対して46度の角度を有しており、{1−101}面に対しては27度をなしている。すなわち、c軸を強引に電界方向に一致させ得るとすれば、GaN結晶層は{1−101}面よりも{1−102}面に平行になりやすいと考えられる。しかし、{1−101}面は{1−102}面に比べて低指数面であってエネルギ的により安定であるので、{1−102}面より優先して出現したと考えられる。また、印加する電界強度を高めれば、c軸がより45度方向に配向する傾向が強くなって、{1−102}面が出現する可能性が高くなると考えられる。
【0032】
すなわち、基板の主面に対して垂直以外の特定方向にパルス電界を印加することによってc軸をその垂直方向から変位させることが可能であるが、その傾向は印加される電界強度に依存する。また、実際に出現するGaN結晶層の面方位はその面のエネルギ的安定性の高い順に現れやすい傾向にある。したがって、このようなパルス電界の方向と強度および結晶面のエネルギ的安定性の順序を考慮して条件設定することによって、所望の面方位を有するGaN結晶層を成長させることができる。
【0033】
なお、基板の主面と電界方向との角度関係は相対的であって、基板の主面と電界方向とのいずれを他方に対して角度調整してもよいことは言うまでもない。
【0034】
また、以上の実施形態ではGaN結晶の例が説明されたが、本発明による結晶成長における方位制御方法は、他のAlN、InN、およびBNなどのIII族窒化物半導体やそれらの混晶にも適用し得ることは言うまでもない。
【0035】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、ハイドライド気相成長法、有機金属気相成長法、および化学蒸気輸送法などに比べて優れた利点を有し得るIII族金属蒸気と窒素プラズマとを利用する結晶成長において、ウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の方位を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるGaN結晶成長方法を模式的に図解する断面図である。
【図2】 先行技術によるGaN結晶成長方法を模式的に図解する断面図である。
【符号の説明】
1 反応管、1a 窒素ガス導入管、2 金属Gaを蒸発させるための坩堝、3 基板保持台、3a 基板保持台の円筒部、3b 基板保持台の網板、3c 網板3bに含まれる開口、4 マイクロ波導入管、4a マイクロ波、11 GaN結晶を成長させるための基板、12 金属Ga、13 窒素ガス、13a 窒素プラズマ、21 高周波パルス電圧発生装置、22a、22b 電極。

Claims (7)

  1. 上方から窒素ガスが導入される反応管内の下方においてIII族金属を配置し、
    そのIII族金属の上方に基板を配置し、
    前記反応管に導入された前記窒素ガスにマイクロ波を印加して生じさせた窒素プラズマと前記III族金属が蒸発させられたIII族金属蒸気とを前記基板上で反応させることによって窒化物半導体結晶を成長させる方法において、
    前記基板の主面に対して垂直以外の特定方向に高周波パルス電界を印加しながら結晶成長させ、
    それによって、前記窒化物半導体結晶のc軸を前記基板の主面に対して垂直方向から変位させることを特徴とするウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の成長方法。
  2. 前記パルス電界は、一方の電極側のみが他方の電極側に対して正電位になるように印加されることを特徴とする請求項1に記載のウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の成長方法。
  3. 前記基板に対して高周波パルス電界を印加する前記特定方向は前記基板の主面に平行であることを特徴とする請求項1または2に記載のウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の成長方法。
  4. 前記基板上に成長させられるウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶層は{1−100}面または{11−20}面に平行であることを特徴とする請求項3に記載のウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の成長方法。
  5. 前記高周波パルス電界は10−100kHzの範囲内の周波数を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の成長方法。
  6. 前記パルス電界はインパルス電界であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の成長方法。
  7. 前記基板の材質は、サファイヤ、GaN、AlN、SiC、GaAs、およびSiから選択されたものであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のウルツ鉱型III族窒化物半導体結晶の成長方法。
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