JP4119614B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶粒がミラー指数で{110}<001>方位に集積した、いわゆる、方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。そして、この方向性電磁鋼板は、軟磁性材料として、変圧器等の電気機器の鉄芯として用いられる。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板は、{110}<001>方位(いわゆるゴス方位)に集積した結晶粒により構成されたSiを4.8%以下含有した鋼板である。そして、この鋼板には、磁気特性として、優れた励磁特性と鉄損特性が要求される。
励磁特性を表す指標として、磁場の強さ800A/mにおける磁束密度:B8 が通常使用される。また、鉄損特性を表す指標として、周波数50Hzで1.7Tまで磁化した時の鋼板1kgあたりの鉄損:W17/50 が用いられる。
【0003】
磁束密度:B8 は鉄損特性の最大の支配因子であり、磁束密度:B8 の値が高いほど鉄損特性も良好になる。磁束密度:B8 を高めるためには、結晶方位を高度に揃えることが重要である。この結晶方位の制御は、二次再結晶とよばれるカタストロフィックな粒成長現象を利用して達成される。
この二次再結晶を制御するためには、二次再結晶前の一次再結晶組織の調整と、インヒビターとよばれる微細析出物の調整を行うことが必要である。このインヒビターは、一次再結晶組織のなかで一般の粒の成長を抑制し、特定の{110}<001>方位粒のみを優先成長させる機能を持つ。
【0004】
析出物の代表的なものとして、M.F.Littmann(特公昭30−3651号公報)及びJ.E.May&D.Turnbull(Trans.Met.Soc.AIME212(1958年)p769)等は、MnSを提示し、また、田口ら(特公昭40−15644号公報)は、AlNを提示し、今中ら(特公昭51−13469号公報)は、MnSeを提示している。
【0005】
これらの析出物は、熱間圧延前のスラブ加熱時に、析出物を完全固溶させ、その後に、熱間圧延及びその後の焼鈍工程で微細析出させる方法がとられている。これらの析出物を完全固溶させるためには、1350℃ないし1400℃以上の高温で加熱する必要があり、これは普通鋼のスラブ加熱温度に比べて約200℃高く、次の問題点がある。
【0006】
(1)専用の加熱炉が必要である。
(2)加熱炉のエネルギー原単位が高い。
(3)溶融スケール量が多く、いわゆるノロ出し等の操業管理が必要である。
そこで、低温スラブ加熱による研究開発が進められ、低温スラブ加熱による製造方法として、小松等は、特公昭62−45285号公報で、窒化処理により形成した(Al、Si)Nをインヒビターとして用いる方法を開示した。この窒化処理の方法として、小林等は、脱炭焼鈍後にストリップ状で窒化する方法を開示し(特開平2−77525号公報)、また、牛神等は、その窒化物の挙動を報告した(Materials Science Forum,204−206(1996),pp593−598)。
【0007】
低温スラブ加熱による方向性電磁鋼板の製造方法においては、脱炭焼鈍時にインヒビターが形成されていないので、脱炭焼鈍における一次再結晶組織の調整が二次再結晶を制御するうえで重要となる。従来の高温スラブ加熱による方向性電磁鋼板の製造方法に係る研究においては、二次再結晶前の一次再結晶組織調整に関する知見はほとんどないが、本発明者らは、例えば、特公平8−32929号公報、特開平9−256051号公報等において、その重要性を開示している。
【0008】
特公平8−32929号公報においては、一次再結晶粒組織の粒径分布の変動係数が0.6より大きくなり粒組織が不均一になると、二次再結晶が不安定になることを開示した。その後、さらに、特開平9−256051号公報において、二次再結晶の制御因子である一次再結晶組織とインヒビターに関する研究の結果として、一次再結晶組織の粒組織において、脱炭焼鈍後の集合組織においてゴス方位粒の成長を促進すると考えられる{111}方位及び{411}方位の粒の比率;I{111}/I{411}を3以下に調整すると、製品の磁束密度が向上することを開示した。
【0009】
ここで、I{111}及びI{411}は、それぞれ{111}及び{411}面が鋼板板面に平行である粒の割合であり、X線回折測定により板厚1/10層において測定された回折強度値を表している。
この脱炭焼鈍後の一次再結晶組織に対しては、脱炭焼鈍工程の加熱速度、均熱温度、均熱時間等の脱炭焼鈍の焼鈍サイクルが影響するのはもちろんのこと、熱延板焼鈍の有無、冷間圧延の圧下率(冷延圧下率)等の脱炭焼鈍前の製造工程も影響する。
【0010】
こうした一次再結晶集合組織等を制御した二次再結晶制御以外にも、方向性珪素鋼板の鉄損をさらに低減する手段として、磁区を細分化する技術が開発されている。積み鉄心の場合、仕上げ焼鈍後の鋼板にレーザービームを照射して局部的な微少歪を与えることにより磁区を細分化して鉄損を低減する方法が、例えば、特開昭58−26405号公報に開示されている。また、巻き鉄心の場合には、鉄心に加工した後、歪取り焼鈍を施しても磁区細分化効果が消失しない方法も、例えば、特開昭62−8617号公報に開示されている。これらの磁区を細分化する技術的手段により、鉄損は大きく低減されるようになってきた。
【0011】
しかしながら、これらの磁区の動きを観察すると、動かない磁区も存在していることが分かり、方向性電磁鋼板の鉄損値をさらに低減するためには、磁区細分化と併せて、磁区の動きを阻害する鋼板表面のグラス皮膜による界面の凹凸から生じるピン止め効果をなくすことが重要であることが分かった。
そのためには、磁区の動きを阻害する鋼板表面のグラス皮膜を形成させないことが有効である。その手段のひとつとして、焼鈍分離剤として粗大高純アルミナを用いることによりグラス皮膜を形成させない方法が、例えば、U.S.Patent3785882に開示されている。しかしながら、この方法では、表面直下の酸化物を主体とする介在物をなくすことができず、鉄損の向上代はW15/60 で、高々2%に過ぎない。
【0012】
この表面直下の介在物を低減し、かつ、表面の平滑化(平均粗度Ra:0.3μm以下)を達成する方法として、仕上げ焼鈍後にグラス被膜を除去した後に、化学研磨または電解研磨を行う方法が、例えば、特開昭64−83620号公報に開示されている。しかしながら、化学研磨・電解研磨等の方法は、研究室レベルでの少試料の材料を加工することは可能であるが、工業的規模で行うには、薬液の濃度管理、温度管理、公害設備の付与等の点で大きな問題があり、いまだ実用化されるに至っていない。
【0013】
この問題点を解消する方策として、本発明者等は、脱炭焼鈍の露点を制御し、脱炭焼鈍時に形成される酸化層において、Fe系酸化物(Fe2SiO4、FeO等)を形成させないこと、および、焼鈍分離剤としてシリカと反応しないアルミナ等の物質を用いることにより、仕上げ焼鈍後に表面直下の介在物を低減し、かつ、表面の平滑化を達成することが可能であることを開示した(特開平7−118750号公報)。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、表面の平滑性の良好な方向性電磁鋼板を低温スラブ加熱により製造する方法において、一次再結晶を制御することにより、磁束密度の高い優れた磁気特性をもつ方向性電磁鋼板を製造する方法を開示するものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)質量%で、Si:0.8〜4.8%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01〜0.065%、N:0.012%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼を1280℃以下の温度に加熱した後、熱間圧延により熱延板とし、次いで、一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延により最終板厚とし、次いで、脱炭焼鈍の加熱速度を定め、Fe系酸化物を形成させない雰囲気ガス中で脱炭焼鈍し、その後、増窒素処理を行った後、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、前記脱炭焼鈍の加熱速度は、冷延圧下率をR%としたときに、脱炭焼鈍後の集合組織におけるI{111}/I{411}の値を、(20ln{(100−R)/100}+81)/14以下となる加熱速度として定め、前記増窒素処理は、鋼板の酸可溶性Alの量:[Al]に応じて窒素量:[N]が[N]/[Al]≧0.67を満足する量となるように窒化処理を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0016】
(2)前記脱炭焼鈍工程の昇温過程において、鋼板温度が600℃以下の領域から750〜900℃の範囲内の温度までの加熱速度H℃/秒を、10[(R-68)/14] <Hとする加熱を行うことを特徴とする前記(1)記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(3)前記脱炭焼鈍工程の昇温過程における加熱速度H℃/秒を、10[(R-32)/32] <H<140とすることを特徴とする前記(1)または(2)記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0017】
(4) 前記熱延板に、900〜1200℃の温度域で30秒〜30分間の焼鈍を施すことを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(5) 前記脱炭焼鈍工程において、770℃〜900℃の温度域で、雰囲気ガスの酸化度(PH2O /PH2 ):0.01以上0.15以下の範囲内で焼鈍することを特徴とする前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0018】
(6)前記鋼に、質量%で、さらに、Snを0.02〜0.15%添加することを特徴とする前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(7) 前記鋼に、質量%で、さらに、Crを0.03〜0.2%添加することを特徴とする前記(1)ないし(6)記載のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0019】
以下、実験結果を基に、本発明が基とする知見について説明する。
図1は、冷延圧下率R(%)から得られる真歪み:ln{100/(100−R)}に対して脱炭焼鈍後の一次再結晶組織の集合組織:I{111}/I{411}(表面層;板厚の1/10層)をプロットし、それと対応した二次再結晶焼鈍後の製品の磁束密度:B8 の関係を示した図である。
【0020】
ここで用いた試料は、質量%で、Si:3.2%、C:0.05%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.008%、Mn:0.1%、S:0.007%を含有するスラブを1150℃の温度で加熱した後、1.5mm、2.3mm、2.8mmの各厚に熱間圧延し、その後、1120℃で焼鈍し、次いで、0.22mm厚まで冷間圧延後、加熱速度50℃/秒で770〜950℃の温度で脱炭焼鈍し、その後、一部はそのまま、一部はアンモニア含有雰囲気で焼鈍して、鋼板中の窒素を0.020〜0.03%とし、次いで、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して、仕上げ焼鈍を行ったものである。
【0021】
また、図中にプロットした各点は二次再結晶が安定して行われたものであり、特開平2−182866号公報にあるように、一次再結晶の粒組織の変動係数が0.6よりも大きくなったことに起因してB8 が低下したものは除いてある。
図1から明らかなように、脱炭焼鈍後のI{111}/I{411}の値と磁束密度B8 には密接な関係があり、冷延圧下率に対して1.93T以上の高磁束密度が得られるしきい値が変化していることがわかる。さらに、B8 で1.93T以上が得られるI{111}/I{411}の領域の境界が、真歪み−ln{(100−R)/100}に対してほぼ線形の関係にあり、その領域は、(20ln{(100−R)/100}+81)/14以下であることがわかる。
【0022】
上記の結果に対する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。一次再結晶集合組織においては、{110}<001>二次再結晶粒の成長を促進する{111}方位粒と{411}方位粒は、80%以上の高い冷延圧下率でその増加に伴い発達するが、それと同時に、[110]<001>方位粒を含む{110}方位粒は単調に減少していく。
【0023】
本発明におけるように、(Al、Si)N等の窒化物のように熱的に安定な(強い)インヒビターを用いた場合には、粒界移動の粒界性格依存性が高くなるために、ゴス方位粒の数よりも、ゴス方位とΣ9対応方位関係にあるマトリックス粒(具体的には、{111}<112>、{411}<148>)の数および結晶方位分散がより重要になることから、二次再結晶粒となる一次再結晶組織中の[110]<001>方位粒の成長を促進する{111}方位粒と{411}方位粒の十分な発達が必要なのであり、特に、結晶方位分散が少ない{411}方位粒の発達が重要になる。
【0024】
また、こうした高B8 効果が発現するための前提となるインヒビター強度の影響を、窒化処理後の窒素量を0.01〜0.03%の範囲で変化させることにより調べた。その結果を図2に示す。
図2は、上述の実験で使用した試料のうち、冷延圧下率90.4%(熱延板2.3mm厚)の脱炭焼鈍板で、I{111}/I{411}の値が2.2及び2.6の試料を窒化して得た製品のB8 を、鋼板の酸可溶性Alの量[Al](%)に対する窒化後の鋼板の窒素量[N](%)の比:[N]/[Al]に対してプロットしたものである。図2より、[N]/[Al]≧0.67かつ冷延圧下率90.4%に対するI{111}/I{411}のしきい値2.43以下の二つの条件を満たした場合に、B8 が1.93T以上となっていることがわかる。
【0025】
以上の結果をもとに、I{111}/I{411}の値を脱炭焼鈍加熱速度と冷延圧下率とによって調整し、さらなる高B8 条件の探索を行った。図3は、製品の磁束密度:B8 (T)を、冷延圧下率および脱炭焼鈍加熱速度を軸にとったグラフ上にプロットした図である。
ここで用いた試料は、質量%で、Si:3.3%、C:0.05%、酸可溶性Al:0.027%、N:0.007%、Cr:0.1%、Sn:0.05%、Mn:0.1%、S:0.008%を含有するスラブを1150℃の温度で加熱した後、熱間圧延によって、2.0mm、2.3mm、3.2mmの各厚にし、この熱間圧延板を1120℃で焼鈍し、その後、0.22mm厚に冷間圧延した冷延板を40〜600℃/秒の加熱速度で800℃に加熱し、その後、800〜890℃で120秒間、雰囲気酸化度0.12で脱炭焼鈍し、一次再結晶集合組織を図1で示す高B8 が得られる領域に調整して、その後、750℃で30秒間アンモニア含有雰囲気中で焼鈍し、アンモニア含有量を変えることにより鋼板中の窒素量を0.02〜0.03%とし、さらに、その後、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して、1200℃で20時間仕上げ焼鈍を施したものである。
【0026】
図3より、高B8 領域と低B8 領域を分ける境界が、脱炭焼鈍加熱速度Hの対数と冷延圧下率との間の線形な関係で表されることがわかる。このことから、高B8 となる脱炭焼鈍加熱速度の下限が冷延圧下率の増加に伴って増加することが分かる。
図3において、1.94T以上の領域が含まれるように加熱速度の下限を設定すると、冷延圧下率R%に対して脱炭焼鈍加熱速度H℃/秒を10[(R-68)/14] <Hとすればよいことが分かる。即ち、各冷延圧下率に対して高B8 を得るために必要な脱炭焼鈍加熱速度を決定できる。従って、冷延圧下率R%に対して脱炭焼鈍加熱速度H℃/秒を10[(R-68)/14] <Hとすることにより、高B8 を得ることができ、特に、脱炭焼鈍加熱速度H℃/秒の範囲を冷延圧下率R%を用いて、10[(R-32)/32] <H<140と制限した範囲においては、最もB8 を高くすることができる。
【0027】
これまで、方向性電磁鋼板の脱炭焼鈍を急速加熱で行うことは、例えば、特開平1−290716号公報、特開平6−212262号公報等に開示されている。しかしながら、これら公報で開示の技術は、高温スラブ加熱による方向性電磁鋼板の製造方法に適用したものであり、その効果も、二次再結晶粒径が小さくなり鉄損特性が向上するというものである。
【0028】
本発明の製品に及ぼす効果は、これらの結果と異なり、磁束密度(B8 )の向上に大きな影響を及ぼすものである。この磁束密度向上の機構に関しては、本発明者らは次のように考えている。
二次再結晶粒の粒成長は駆動力となるマトリックス粒の粒界エネルギー密度と粒成長を抑制するインヒビターのバランスによって決まる。一般に、脱炭焼鈍の加熱速度を速めると、一次再結晶組織のなかでゴス方位近傍の粒(二次再結晶粒の核)が増加することがこれまで知られており、それが、二次再結晶組織が微細化する原因と考えられている。ところが、本発明において窒化処理により形成された(Al、Si)N等の窒化物のように熱的に安定な(強い)インヒビターを用いた場合には、粒界移動の粒界性格依存性が高くなるために、ゴス方位粒の数よりも、ゴス方位とΣ9対応方位関係にあるマトリックス粒の数および分布がより重要になる。
【0029】
一次再結晶集合組織をこの観点で調べた結果、図3の結果に対応して、磁束密度(B8 )が最大になる加熱速度100℃/秒でマトリックスのゴス方位に対するΣ9対応方位密度が最大になり、その方位分散が小さく(方位分布は尖鋭に)なることが確認された。
従って、脱炭焼鈍の加熱速度による一次再結晶集合組織、特に、ゴス方位とΣ9対応方位関係にある方位粒の調整と、強い(Al、Si)Nインヒビターの相乗効果により、はじめて尖鋭なゴス方位のみを発達させることが可能になり、高い磁束密度を持つ製品を安定して製造できたものと推定される。
【0030】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明鋼の成分としては、質量%で、Si:0.8〜4.8%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01〜0.065%、N:0.012%以下が必要である。
【0031】
Siは添加量を多くすると、電気抵抗が高くなり、鉄損特性が改善される。しかし、4.8%を超えると、圧延時に割れやすくなってしまう。また、0.8%より少ないと、仕上げ焼鈍時にγ変態が生じ、結晶方位が損なわれてしまう。
Cは一次再結晶組織を制御するうえで有効な元素であるが、磁気特性に悪影響を及ぼすので、仕上げ焼鈍前に脱炭する必要がある。Cが0.085%より多いと、脱炭焼鈍時間が長くなり、生産性が損なわれてしまう。
【0032】
酸可溶性Alは、本発明において、Nと結合して(Al、Si)Nとしてインヒビターとしての機能を果すために必須の元素である。二次再結晶が安定する0.01〜0.065%を限定範囲とする。
Nは0.012%を超えると、冷延時にブリスターとよばれる鋼板中の空孔を生じる。
【0033】
その他、Sは磁気特性に悪影響を及ぼすので、0.015%以下とすることが望ましい。Snは脱炭焼鈍後の集合組織を改善し、二次再結晶を安定化するため、0.02〜0.15%添加することが望ましい。Crは脱炭焼鈍の酸化層を改善し、脱インヒビター挙動を制御するのに有効な元素であり、0.03〜0.2%添加することが望ましい。その他、微量のCu、Sb、Mo、Bi、Ti等を鋼中に含有することは、本発明の主旨を損なうものではない。
【0034】
上記の組成を有する珪素鋼スラブは、転炉または電気炉等により鋼を溶製し、必要に応じて、溶鋼を真空脱ガス処理し、次いで、連続鋳造もしくは造塊後分塊圧延することによって得られる。その後、熱間圧延に先だってスラブ加熱がなされる。本発明においては、スラブ加熱温度は1280℃以下として、先述の高温スラブ加熱の諸問題を回避する。
【0035】
上記熱間圧延板には、通常、磁気特性を高めるために900〜1200℃で30秒〜30分間の短時間焼鈍を施す。その後、一回もしくは焼鈍を挟んだ二回以上の冷間圧延により最終板厚とする。冷間圧延としては、特公昭40−15644号公報に開示されているように、最終冷延圧下率を80%以上とすることが、{111}、{411}等の一次再結晶方位を発達させるうえで必要である。
【0036】
また、本発明においては、高B8 となる冷延圧下率の領域は加熱速度の増加に伴い増加することから、最終冷延圧下率を85%以上とすることが特に望ましい。また、さらに、冷延圧下率が95%より大きくなってしまうと、冷延工程での負荷が大きくなり、実操業の観点から95%以下が現実的である。
冷間圧延後の鋼板には、鋼中に含まれるCを除去するために湿潤雰囲気中で脱炭焼鈍を施す。その際、冷延圧下率R%に対して、脱炭焼鈍後の一次再結晶集合組織のI{111}/I{411}の値を(20ln{(100−R)/100}+81)/14以下に調整することが重要であり、この調整により、磁気特性B8 が1.93T以上の製品を製造することができる。この脱炭焼鈍後における一次再結晶組織の制御は、脱炭焼鈍工程の焼鈍サイクル(加熱速度、均熱温度、均熱時間等)を調整することにより行うことができる。
【0037】
特に、I{111}/I{411}の値を(20ln{(100−R)/100}+81)/14以下に調整するために、脱炭焼鈍工程で、脱炭焼鈍加熱速度H℃/秒を10[(R-68)/14] <Hとした加熱速度で加熱することによって、さらに高いB8 を得ることが可能となる。また、この加熱速度で加熱する必要がある温度域は、少なくとも600℃から750〜900℃までの温度域である。
【0038】
図4および図5に、上記結論を導いた実験結果を示す。冷延板を50℃/秒の加熱速度で室温から600℃〜1000℃の温度域の所定の温度まで加熱した後、窒素ガスで室温まで冷却した。その後、20℃/秒の加熱速度で850℃まで加熱し、雰囲気ガスの酸化度0.10で120秒焼鈍した。その後、窒化処理により窒素量を0.021%とした後、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍を行った。
【0039】
図4に示すように、50℃/秒の加熱速度での到達温度が750℃以上、900℃以下の範囲で、磁束密度が向上していることが分かる。750℃未満で効果が発揮されないのは、750℃未満では一次再結晶が十分に進行していないからである。一次再結晶集合組織を変えるためには再結晶を十分に進行させる必要がある。また、900℃超の温度まで加熱すると磁束密度が低下するが、これは、試料の一部に変態組織が生じ、その後の脱炭焼鈍完了時点での組織が混粒組織になるためであると考えられる。
【0040】
次いで、上記冷延板を加熱速度20℃/秒で300℃から750℃の温度域の所定の温度まで加熱し、その温度から加熱速度50℃/秒で850℃まで加熱した後、窒素ガスで室温まで冷却した。その後、50℃/秒の加熱速度で850℃まで加熱し、雰囲気ガスの酸化度0.10で120秒焼鈍した。その後、窒化処理により窒素量を0.021%とした後、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍を行った。
【0041】
図5に示すように、加熱速度50℃/秒の加熱開始温度が600℃超では、磁束密度向上効果が無いことがわかる。
これらの結果から、加熱速度50℃/秒以上で加熱する必要がある温度域は、少なくとも、600℃から750〜900℃までの温度域であることがわかる。従って、脱炭焼鈍工程の昇温過程において、鋼板温度が600℃以下の温度域から50℃/秒以上で加熱することが必要となる。また、上記のような脱炭焼鈍工程の昇温過程での加熱は、冷延工程から脱炭焼鈍工程の間に加熱焼鈍を行ったとしても本発明の趣旨を損なうものではない。
【0042】
急速加熱の方法は特に限定するものではなく、40〜100℃/秒程度の加熱速度に対しては、従来の通常輻射熱を利用したラジアントチューブや発熱体による脱炭焼鈍設備を改造した設備、また、100℃/秒以上の加熱速度に対しては、新たなレーザー、プラズマ等の高エネルギー熱源を利用する方法、誘導加熱、通電加熱装置等を適用することができる。
【0043】
また、従来の通常輻射熱を利用したラジアントチューブや発熱体による脱炭焼鈍設備に、新たに、レーザー、プラズマ等の高エネルギー熱源を利用する方法、誘導加熱、通電加熱装置等を適用する方法等を組み合わせることも有効である。
その後、Fe系の酸化物(Fe2SiO4、FeO等)を形成させない酸化度で焼鈍を行う。例えば、通常、脱炭焼鈍が行われる800℃程度の温度では、雰囲気ガスの酸化度:PH2O/PH2を0.15以下に調整することにより、Fe系酸化物の生成を抑制することができる。但し、あまりに酸化度を下げると、脱炭速度が遅くなってしまう。この両者を勘案すると、この温度域においては、雰囲気ガスの酸化度:PH2O/PH2)を0.01〜0.15の範囲とすることが好ましい。
【0044】
均熱温度と時間に関しては、例えば、特開平2−182866号公報に開示されるような一次再結晶粒組織の調整を勘案して設定する。通常は、770〜900℃の範囲で行う。また、均熱の前段で脱炭した後に、粒調整のために均熱の後段の温度を高めることや、後段の雰囲気ガスの酸化度を下げて均熱時間を延ばすことも有効である。
【0045】
窒化処理としては、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で焼鈍する方法、MnN等の窒化能のある粉末を焼鈍分離剤中に添加して仕上げ焼鈍中に行う方法等がある。窒化処理後の窒素量が、[N]/[Al]≧0.67となるように窒化処理を施すことが、本発明の特徴である“一次再結晶集合組織の制御効果”を発現させるためのポイントである。
【0046】
脱炭焼鈍板は、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を、水スラリーもしくは静電塗布法等によりドライ・コートした後、積層しコイルとする。
この積層した板を仕上げ焼鈍して、二次再結晶と窒化物の純化を行う。二次再結晶を、特開平2−258929に開示されるように、一定の温度で保持する等の手段により所定の温度域で行うことは、磁束密度を上げるうえで有効である。
【0047】
二次再結晶完了後、窒化物の純化と表面の平滑化を行なうために、水素雰囲気中で1100℃以上の温度で焼鈍する。
仕上げ焼鈍後、表面は既に平滑化されているので、張力コーテイング処理を行い、必要に応じて、レーザー照射等の磁区細分化処理を施せばよい。
【0048】
【実施例】
実施例1
質量%で、Si:3.2%、C:0.05%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.008%、Mn:0.1%、S:0.007%を含有するスラブを1150℃の温度で加熱した後、2.6mm厚に熱間圧延した。その後、1120℃で焼鈍した後、0.27mm厚まで冷間圧延し、その後、脱炭焼鈍の加熱速度を5〜40℃/秒とし、820℃の温度で脱炭焼鈍し、次いで、アンモニア含有雰囲気で焼鈍して鋼板中の窒素を0.020〜0.03%とした。次いで、アルミナ(Al2O3)を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を行った。
【0049】
製品の特性値を表1に示す。一次再結晶集合組織に関して、I{111}/I{411}の値が冷延圧下率R%に対して、(20ln{(100−R)/100}+81)/14以下となっている場合、B8 が1.93T以上の高い磁束密度が得られていることがわかる。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例2
質量%で、Si:3.3%、C:0.05%、酸可溶性Al:0.027%、N:0.007%、Cr:0.1%、Sn:0.05%、Mn:0.1%、S:0.008%を含有するスラブを1150℃の温度で加熱した後、熱間圧延によって、2.0mm、2.3mm、3.2mmの各厚にし、この熱間圧延板を1120℃で焼鈍し、その後、0.22mm厚に冷間圧延した。この冷延板を10〜600℃/秒の加熱速度で800℃に加熱した後、800〜890℃で120秒間、雰囲気酸化度0.12で脱炭焼鈍し、一次再結晶集合組織を、図1で示す高B8 が得られる領域に調整した。その後、750℃で30秒間アンモニア含有雰囲気中で焼鈍してアンモニア含有量を変えることにより、鋼板中の窒素量を0.025〜0.035%とした。その後、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、1200℃で20時間仕上げ焼鈍を施した。
【0052】
これらの試料に張力コーテイング処理を施した後、レーザー照射して磁区細分化した。得られた製品の特性を表2に示す。表2より、一次再結晶集合組織:I{111}/I{411}の値が、冷延圧下率R%に対して(20ln{(100−R)/100}+81)/14以下となっている場合(△印)、B8 が1.93T以上となっており、また、加熱速度H℃/秒が冷延圧下率R%に対して10[(R-68)/14] <H以上の場合(○印)、更に好ましくは、10[(R-32)/32] <H<140の場合(◎印)、磁束密度(B8 )が高くなることがわかる。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例3
質量%で、Si:3.1%、Mn:0.1%、C:0.05%、S:0.008%、酸可溶性Al:0.029%、N:0.008%、Sn:0.1%を含む板厚2.3mmの珪素鋼熱延板を最終板厚0.25mmに冷延した。この冷延板を酸化度0.10の窒素と水素の混合ガス中において、加熱速度(1)20℃/秒、(2)100℃/秒で840℃まで加熱し、840℃で150秒焼鈍し一次再結晶させた。その後、750℃で30秒間アンモニア含有雰囲気中で焼鈍して、アンモニア含有量を変えることにより、鋼板中の窒素量を0.02〜0.03%とした。
【0055】
これらの鋼板にアルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍は、1200℃まではN2:25%+H2:75%の雰囲気ガス中で15℃/hrの加熱速度で行い、1200℃でH2 :100%に切りかえ20時間焼鈍を行った。
これらの試料に張力コーテイング処理を施した。得られた製品の磁気特性を表3に示す。実施例1、2と比較すると、冷延前の焼鈍を行っていないので全体の磁束密度は低いが、本発明の磁束密度向上効果が得られていることを確認できる。
【0056】
【表3】
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の高温スラブ加熱に起因する諸問題の無い低温スラブ加熱による方向性電磁鋼板の製造方法を基に、一次再結晶組織、冷延条件に対する脱炭焼鈍条件及び窒化量を規定したので、磁束密度の高い優れた磁気特性をもつ鏡面方向性電磁鋼板を工業的に安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】製品の磁束密度(B8 )に及ぼす冷延圧下率と一次再結晶集合組織:I{111}/I{411}の影響を示す図である。
【図2】窒化量及び一次再結晶集合組織:I{111}/I{411}が磁束密度に及ぼす影響を示す図である。
【図3】磁束密度に及ぼす冷延圧下率と脱炭焼鈍の加熱速度との影響を示す図である。
【図4】磁束密度に及ぼす脱炭焼鈍の急速加熱完了温度の影響を示す図である。
【図5】磁束密度に及ぼす脱炭焼鈍の急速加熱開始温度の影響を示す図である。
Claims (7)
- 質量%で、Si:0.8〜4.8%、C:0.085%以下、酸可溶性Al:0.01〜0.065%、N:0.012%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼を1280℃以下の温度に加熱した後、熱間圧延により熱延板とし、次いで、一回または中間焼鈍をはさむ二回以上の冷間圧延により最終板厚とし、次いで、脱炭焼鈍の加熱速度を定め、Fe系酸化物を形成させない雰囲気ガス中で脱炭焼鈍し、その後、増窒素処理を行った後、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、前記脱炭焼鈍の加熱速度は、冷延圧下率をR%としたときに、脱炭焼鈍後の集合組織におけるI{111}/I{411}の値を、(20ln{(100−R)/100}+81)/14以下となる加熱速度として定め、前記増窒素処理は、鋼板の酸可溶性Alの量:[Al]に応じて窒素量:[N]が[N]/[Al]≧0.67を満足する量となるように窒化処理を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記脱炭焼鈍工程の昇温過程において、鋼板温度が600℃以下の領域から750〜900℃の範囲内の温度までの加熱速度H℃/秒を、10[(R-68)/14] <Hとする加熱を行うことを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記脱炭焼鈍工程の昇温過程における加熱速度H℃/秒を、10[(R-32)/32] <H<140とすることを特徴とする請求項1または2記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記熱延板に、900〜1200℃の温度域で30秒〜30分間の焼鈍を施すことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記脱炭焼鈍工程において、770℃〜900℃の温度域で、雰囲気ガスの酸化度(PH2O /PH2 ):0.01以上0.15以下の範囲内で焼鈍することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼に、質量%で、さらに、Snを0.02〜0.15%添加することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記鋼に、質量%で、さらに、Crを0.03〜0.2%添加することを特徴とする請求項1ないし6記載のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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