JP4117677B2 - 粉末成形体の成形方法及び粉末成形金型装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粉末成形体の成形方法及び粉末成形金型装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
焼結部品の製造に用いる圧粉末は、Fe系、Cu系等といった原料粉末を成形型内で加圧成形することにより形成され、この後焼結の工程を経て焼結体を作製する。そして、成形工程では、成形型を用いてプレスで加圧して成形体を成形する。このプレスのときには、成形体と成形型との間には摩擦が発生する。このため粉末混合時にステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウム等の、水に不溶性の脂肪酸系潤滑剤を添加し、潤滑性を付与している。
【0003】
しかしながら、このような原料粉末に潤滑剤を混合する方法では成形体の密度を向上するには限界がある。そこで、高密度の成形体を得るために、原料粉末に添加する潤滑剤を減らし、形成型に、原料粉末に添加するものと同一の潤滑剤を塗付し、潤滑性の不足を補うことができる粉末成形体の成形方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この従来の成形方法は、加熱された金型の内面に、水に分散されている高級脂肪酸系潤滑剤を塗布する塗布工程と、前記金型に金属粉末を充填し、前記高級脂肪酸系潤滑剤が該金属粉末と化学的に結合して金属石鹸の被膜を生成する圧力で該金属粉末を加圧成形する加圧成形工程とを含む粉末成形体の成形方法であって、加熱され、内面にステアリン酸リチウムのような高級脂肪酸系潤滑剤が塗布された金型を用いて、この金型に加熱された金属粉末を充填して、この金属粉末と高級脂肪酸系潤滑剤とが化学的に結合して金属石鹸の被膜が生成される圧力でこの金属粉末を加圧成形すると、金属石鹸の被膜が金型の内面表面に生じ、その結果金属粉末の成形体と金型との間の摩擦力が減少し、成形体を抜出する圧力が少なくて済むことができるというものである。
【0005】
【特許文献1】
特許第3309970号公報(段落0012,0013)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記特許文献1等の従来技術においては、潤滑剤を水に分散した分散液を金型に付着させるものであるが、前記水に分散されている高級脂肪酸系潤滑剤が複数の化学薬品原料液によって形成されている場合には、分散液をスプレーする前に化学反応により塊状となってしまい、この結果スプレーのためのノズルが詰まったりして潤滑液を金型に均一に付着できなくなる等という問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、潤滑剤を水に溶解した溶液又は潤滑剤を水に分散した分散液を成形部に向けて噴射して付着させる粉末成形体の成形方法及び粉末成形金型装置において、溶液又は分散液が少なくとも2種類の原料液を有するようなものであっても噴射用のノズルが詰まることなく付着を行えるようにすることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、成形型本体に形成した成形部に、潤滑剤を水に溶解した溶液又は潤滑剤を水に分散した分散液を前記成形部に向けて噴射して付着させ、前記溶液の水分又は分散液の水分を蒸発させて前記成形部に潤滑層を形成して、原料粉末を充填し、その後パンチを前記成形部に嵌合して粉末成形体を成形する粉末成形体の成形方法において、前記溶液又は分散液は少なくとも2種類の液からなり、これら少なくとも2種類の液はそれそれ前記成形部に向けて噴射されると共に、空中で混合して、前記溶液又は分散液を前記成形部に付着させることを特徴とする粉末成形体の成形方法である。
【0009】
この請求項1の構成によれば、少なくとも2種類の液が噴出されると、これらの液は空中で混合した後に成形部に付着する。
【0010】
請求項2の発明は、粉末成形体の側面を形成する貫通孔を上面に縦向きに有する成形型本体と、前記貫通孔に下方から嵌合する下パンチと、前記貫通孔に上方から嵌合する上パンチと、前記貫通孔に対向して設けられる前記潤滑液の噴射手段を備え、前記下パンチが嵌合した貫通孔に原料粉末を上方から充填する前に前記潤滑液を前記貫通孔に前記噴射手段を介して付着させ、前記原料粉末を充填後に、前記上パンチを前記貫通孔に嵌合して粉末成形体を成形する粉末成形体の成形金型装置であって、前記噴射手段は複数設けられ、これら噴射手段のそれぞれには前記潤滑液を形成するそれぞれ異なる原料液の収容部が接続され、かつそれぞれの前記噴射手段の噴射方向は交差するように設けられたことを特徴とする粉末成形金型装置である。
【0011】
この請求項2の構成によれば、それぞれ異なる原料液の収容部よりそれぞれの噴射手段に供給された後に、前記原料液は噴射されると共に空中で混合し、そして混合液、すなわち潤滑液が貫通孔に付着するようになる。
【0012】
請求項3の発明は、前記潤滑液は、潤滑剤を溶媒に分散した分散液又は潤滑剤を溶媒に溶解した溶液であることを特徴とする請求項2記載の粉末成形金型装置である。
【0013】
この請求項3の構成によれば、潤滑液を前記貫通孔に付着させ蒸発させて潤滑層を形成する。
【0014】
【発明の実施形態】
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図4を参照して説明する。図1は第1工程を示しており、同図において、1は後述する圧粉末たる粉末成形体Aの側面を成形する成形型本体たるダイ2の上面2Aに縦方向に形成した成形部たる貫通孔であり、該貫通孔1の下方より下パンチ3が嵌合され、一方貫通孔2の上方より上パンチ4が嵌合されるようになっている。さらに、ダイ2の上面に原料粉末Mを供給する原料供給体たるフィーダー5が摺動自在に設けられている。さらに、貫通孔2の上方に潤滑剤を溶媒たる水に溶解した溶液Lを貫通孔1に付着するための噴射手段たるノズル6,6Aが設けられている。尚、溶液Lにかえて特許文献1に記載されたような潤滑剤を溶媒たる水に分散した分散液を用いてもよい。また、貫通孔1と該貫通孔1に嵌合した下パンチ3とで画成される粉末成形体Aの成形部1Aの周囲にヒータ7と温度検出部8が設けられ、そして、これらヒータ7と温度検出部8は温度制御手段たる温度制御装置9に接続され、該温度制御装置9により貫通孔2の温度を溶液Lの蒸発温度より高く、かつ潤滑剤の溶融温度よりも低く制御するようになっている。
【0015】
さらに、前記ノズル6には噴霧される溶液Lの帯電手段10を設けると共に、プラス又はマイナスのいずれかの電極を付与するための電極装置12を接続し、一方のノズル6A側はアースしている。尚、12Aは電極装置12に接続したアースコードを示している。
【0016】
また、ダイ2もアースコード2Bを介しアースして、成形部1Aに逆の極性が付与される様にし、ダイ2上方に板状の絶縁体13を形成し、噴霧によって同じ極性が帯電する様にする。
【0017】
また、前記噴射手段たるノズル6,6Aの一方のノズル6は、貫通孔1上方の左右に位置して該貫通孔1にノズル口17が対向するように設けられ、潤滑液Lを形成するための一方の原料液L1を収容したタンク状の収容部18が、図示しない供給ポンプを備えた供給路19を介して接続されている。他方のノズル6Aも、貫通孔1の上方の左右に位置して該貫通孔にノズル口20が対向するように設けられ、潤滑液Lを形成するための一方の原料液L2を収容したタンク状の収容部21が、図示しない供給ポンプを備えた供給路22を介して接続されている。尚、一側(図1において左側)に位置する前記一方のノズル6のノズル口17と他側(図1において右側)に位置する他方のノズルのノズル口20は対向しており、その噴射方向X,Yは貫通孔1に向って交差するように配置されると共に、ノズル6,6Aの間隔Wは、前記貫通孔1の直径よりやや大きいか或いはほぼ同じになる程度に近接するようにしている。
【0018】
そして、第1工程においては、予め温度制御装置9により制御されたヒータ7の熱により貫通孔1の表面は溶液Lの蒸発温度より高く、かつ潤滑剤の溶融温度よりも低く設定されている。貫通孔1のダイ2の成形部1Aに下パンチ3が嵌合して成形部1Aが形成されている状態で、それぞれの供給ポンプを作動させてノズル6,6Aより原料液L1,L2をノズル口17,20より霧状となって噴出する。噴出した原料液L1,L2の粒はそれぞれ空中で衝突、混合して潤滑液Lが形成され、この潤滑液Lがヒータ7により加熱されたダイ2の成形部1Aに吹き付けられて付着させる。この際、電極装置12によって例えばマイナスに帯電した原料液L1に原料液L2が混合した潤滑液Lの粒は霧状態となって噴出する。また、一方のダイ2の成形部1Aはアースによりプラスに帯電され、さらに他方の絶縁体13は電極装置12の噴霧によりマイナスに帯電される。このような状態で霧状の溶液Lの粒は一方のダイ2の成形部1Aに電気的に吸引され、溶液Lの粒は他方の絶縁体13に電気的に反発することとなる。この結果、貫通孔1に設けたダイ2の成形部1Aの表面には溶液Lの粒が均一に付着し、そしてこの粒は水分が蒸発することで、乾燥して結晶が全面的に成長して前記潤滑剤の潤滑層たる晶出層Bが均一に形成される。一方、他方の絶縁体13では溶液Lの粒の付着が少なくなる。
【0019】
次に図2の第2工程に示すように、フィーダー5が前進して原料粉末Mを成形部1Aに落下させて充填する。次に図3の第3工程にに示すように、ダイ2を下方に移動させると共に、貫通孔1の成形部1Aに上方から上パンチ4を挿入し、上パンチ4と下パンチ3とで挟むようにして原料粉末Mを圧縮する。この時、下パンチ3は、下端が固定されており動かないようになっている。そして、この第3工程において、原料粉末Mは、潤滑剤により形成されている晶出層Bに潤滑状態で圧縮される。
【0020】
このように加圧成形された粉末成形体Aは、ダイ2がさらに下方に下がり、図4の第4工程で示すように下パンチ3の上面がダイ2の上面と略同じ高さになったとき取出し可能となる。この取り出しの際においても、潤滑剤により形成されている晶出層Lに粉末成形体Aは潤滑状態で接触する。このようにして、粉末成形体Aが取出された後、再び第1工程に戻って再び成形部1Aに溶液Lが噴霧されて晶出層Lが形成された後に、原料粉末Mが成形部1Aに充填されるものである。
【0021】
以上のように、前記実施形態では、ノズル6,6Aを複数設け、これらノズル6,6Aのそれぞれには前記溶液Lを形成するそれぞれ異なる原料液L1,L2の収容部18,21が接続され、かつそれぞれの前記ノズル6,6Aの噴射方向X,Yは交差するように設けられ、2種類の原料液L1,L2はそれそれ前記成形部1Aに向けて噴射されると共に、空中で衝突、混合して、溶液Lを前記成形部1Aに付着させるようにしたので、原料液L1,L2を混合すると塊となるような溶液Lであっても、噴射時において塊となるようなことはなくノズル6,6Aの詰まり等を防止することができる。
【0022】
また、前記ノズル6に帯電手段10を設け、前記貫通孔1に前記溶液Lの前記帯電手段10と逆の極性を帯電させるためにダイ2の成形部1Aにアースを設けて、前記溶液Lの粒を帯電すると共に、前記ダイ2の成形部1Aを前記溶液Lの帯電の極性と逆の極性に帯電させて、前記溶液Lを前記ダイ2の成形部1Aに付着させることにより、原料粉末Mが充填する成形部1Aの表面に溶液Lを均一に付着させて、晶出層Bを均一に形成することができる。
【0023】
さらに、前記ノズル6に帯電装置10を設け、前記上面2Aに前記溶液Lの前記帯電装置10と同じの極性を帯電させる絶縁体13を設けて、前記溶液Lを帯電させて噴霧すると共に、前記上面2Aを前記溶液Lの極性と同じ極性に帯電させた状態で、前記溶液Lを前記貫通孔1に付着させることにより、上面2Aへの溶液Lの粒の付着を減少して上面2Aにおける溶液Lの溜まりなどを防止しながら、溶液Lを成形部1A側に付着させることができる。
【0024】
また、前記原料粉末Mを充填する前に、潤滑剤を溶媒に均一な相となるように溶解した溶液Lを前記成形部1Aに付着させ、該溶液Lを蒸発させて前記成形部1Aに結晶を形成させて晶出層Bを形成することにより、成形部1Aの周面に緻密な潤滑用の層Bが形成され、粉末成形体Aの成形部1Aからの抜出圧力を低減できると共に、粉末成形体Aの密度も向上することができる。
【0025】
次に第2、3実施形態を図5、6を参照して説明する。尚、前記第1実施形態と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0026】
第2実施形態においては、前記貫通孔1の表面11には、前記溶液Lの前記表面11へのぬれ性を向上するための親水性処理を施したり親水性材料を配置したりして表面処理14を施したダイ2の成形部1Aを設ける。前記ダイ2の成形部1Aにおける前記溶液Lとの接触角度Xは、前記ダイ2自体の材質によって形成される表面11又は材質が直接表れる上面2Aにおける前記溶液Lとの接触角度Yより小さくなる(X<Y)ことにより前記ぬれ性を向上することができるものである。尚、前記接触角度X,Yの測定は、それぞれ表面11、上面2Aを水平に保つするなど同一条件で測定されるものである。そして前記ダイ1の成形部1Aの表面処理としては、酸化物、フッ化物、窒化物、塩化物、硫化物、臭化物、ヨウ化物、炭化物、水酸化物を溶射、PVD、CVD、ショットピーニング等で親水コーティングを施したもの、酸化チタン、酸化亜鉛等のコーティングに光照射による光触媒作用を施したもの、アルカリや熱水処理等による水酸化物生成、カリウムやナトリウムイオン等のスパッタリングによる表面処理、さらには溶射被膜や粉末冶金金型の利用等で表面に微細な空孔を形成することによる溶液Lの表面張力の変化の利用等として、表面処理により貫通孔1における溶液Lの接触角度Xを小さくして該箇所でのぬれ性を向上するようにしたものである。尚、表面を酸や火炎処理、電解研磨等による油性有機物等の処理を行って接触角度Xが小さくなるように前記貫通孔1の表面を形成してもよい。
【0027】
したがって、第2実施形態では、ノズル6,6Aより原料液L1,L2が噴出して潤滑剤の溶液Lを、ヒータ7により加熱されたダイ2の成形部1Aに吹き付けて付着させる。この際、溶液Lの噴霧状態の粒は、電気的吸引によりダイ2の成形部1Aに均一に付着することができる。そして、前記ダイ2自体における前記溶液Lとの接触角度Yより小さくなる前記溶液Lとの接触角度Xを有するように前記貫通孔1の表面11に表面処理14を施したことにより、溶液Lを付着した際に貫通孔1における溶液Lのぬれ性を向上して、該溶液Lをダイ2の成形部1Aに行き渡らせて、水を蒸発させることにより晶出層Bを全面的に形成することができ、この結果高密度の粉末成形体Aを安定して得ることができる。
【0028】
また、フィーダー5が摺動自在に設けられるダイ2の上面2Aには、前記溶液Lの前記上面2Aへのぬれ性を低下、すなわち撥水(疎水)性を向上するための撥水処理を施したり撥水材料を配置したりして表面処理を施した絶縁体13を設ける。前記絶縁体13における前記溶液Lとの接触角度Yは、前記ダイ2の材質自体によって形成される貫通孔1の表面11における前記溶液Lとの接触角度Xより大きくなる(Y>X)ことにより前記ぬれ性を低下することができるものである。前記絶縁体13としては、固形油含浸絶縁体等非親水性材質により形成したり、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂の撥水コーティングなどにより施される。また、固形油を塗布する等の油層によって形成するようにしてもよい。
【0029】
したがって、ノズル6,6Aより原料液L1,L2が噴出して潤滑剤の溶液Lを、ヒータ7により加熱されたダイ2の成形部1Aに吹き付けて付着させる。この際、溶液Lの噴霧状態の粒は、電気的に反発して上面に付着し難くなるが、その一部が上面2Aに付着してしまったとしても、この上面2Aおける接触角度Yは前記表面処理層21によりダイ2に直接触れた溶液Lの接触角度Xよりも大きくなり、この結果溶液Lがはじかれて上面2Aに溶液Lが溜まるようなことを抑止するようになる。
【0030】
以上のように、溶液Lの粒が上面2Aの絶縁体13より反発して付着しにくくなり、万一前記粒が絶縁体13に付着してもダイ2自体における溶液Lとの接触角度Xより大きくなる前記溶液Lとの接触角度Yを有するように絶縁体13を形成したことにより、溶液Lをたまりにくくしてフィーダー5に収容されている原料粉末Mに溶液Lが触れ難くして溶液Lにより原料粉末Mが固まる粉だまりを防止することができる。
【0031】
尚、以下に実施例及び比較例を表1〜3により説明する。表1〜3における実施例及び比較例は、いずれも原料粉末として鉄粉(平均粒径90μm)に、潤滑剤としてステアリン酸リチウム(平均粒径5μm)を0.2重量%添加したものを回転混合機で30分混合したものを用い、加圧面積1cm2の円柱を成形する成形型に、前記混合した原料粉末を7g充填し、この後8t/cm2の成形圧力で粉末成形体を連続で100個成形したものである。そして、実施例のものでは、水溶性潤滑剤を水に溶解した溶液を150°Cに加熱された成形型の成形部に付着させた後に、蒸発、乾燥させて晶出層を形成し、この後に、原料粉末を充填するようにしたものである。比較例1は、ステアリン酸リチウム(平均粒径5μm)をアセトンに分散させたものを150°Cに加熱された成形型の成形部に付着させた後に、乾燥させて被膜を形成し、この後に、原料粉末を充填す
るようにしたものである。比較例2は成形型には潤滑剤を用いない場合である。表中の密度のRは、連続100個成形した成形体密度の最大値と最小値の差である。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
表1〜3の比較結果として、実施例では、成形型より圧粉末を抜き出す抜出圧力は、比較例1の抜出圧力以下ですみ、また実施例では、比較例1より密度の向上を図ることができ、さらに、密度のRが非常に小さくなった。これにより、実施例においては連続成形でも高密度の成形を安定して行うことができる。
【0036】
尚、前記潤滑剤は、水溶性のりん酸系金属塩として、りん酸水素2カリウム、りん酸水素2ナトリウム、りん酸3カリウム、りん酸3ナトリウム、ポリりん酸カリウム、ポリりん酸ナトリウム、りん酸リボフラビンカリウム、りん酸リボフラビンナトリウム等の様に構造中にりん酸系の基を含むものが好適である事が表1〜3からわかる。
【0037】
水溶性の硫黄酸塩系金属塩として、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸カリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼン硫酸カリウム、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、食用青色1号(C37H34N2Na2O9S3)、食用黄色5号(C16HlON2Na2O7S2)、アスコルビン酸硫酸エステルカリウム、アスコルビン酸硫酸エステルナトリウム等の様に構造中に硫酸系の基を含むものが好適である事が表1〜3からわかる。
【0038】
水溶性のほう酸系金属塩として、四ほう酸カリウム、四ほう酸ナトリウム等の様に構造中にほう酸系の基を含むものが好適である事が表1〜3からわかる。
【0039】
水溶性のけい酸系金属塩として、けい酸カリウム、けい酸ナトリウム等の様に構造中にけい酸系の基を含むものが好適である事が表1〜3からわかる。
【0040】
水溶性のタングステン酸系金属塩として、タングステン酸カリウム、タングステン酸ナトリウムの様に構造中にタングステン酸系の基を含むものが好適である事が表1〜3からわかる。
【0041】
水溶性の有機酸系金属塩として、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の様に構造中に有機酸系の基を含むものが好適である事が表1〜3からわかる。
【0042】
水溶性の窒素酸系金属塩として、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等の様に構造中に窒素酸系の基を含むものが好適である事が表1〜3からわかる。
【0043】
水溶性の炭酸系金属塩として、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の様に構造中に炭酸系の基を含むものが好適である事が表1〜3からわかる。
【0044】
これらの挙げられた様な潤滑剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
そして、水溶性潤滑剤の濃度は、前記晶出層Bの厚みが前記潤滑剤の1分子により形成される濃度以上で飽和濃度未満とする。具体的には1PPM〜飽和濃度とする。これは、1PPM未満では、成形型に付着する潤滑剤が多量でなければ安定して潤滑性が得られる晶出相の被膜が得難いためであり、飽和濃度以上では、潤滑剤が溶解しきれず固体となって沈殿し、ノズル6による付着を行なう場合、噴務部6が詰まる等の不具合が発生するためである。
【0046】
また、溶解する水は、蒸留水やイオン交換水といった金属成分やハロゲン元素成分を取り除いた水が好ましい。潤滑剤の種類によっては、容易に水中の金属成分と置換して沈殿物を生成して不具合を起こす場合があり、また、ハロゲン成分が多量に含まれていた場合、圧粉体が錆びやすくなったり、焼結時にダイオキシン等の有害物質が生成したりする不具合を起こす場合があるためである。
【0047】
さらに、潤滑剤の種類によっては、微生物が繁殖して腐りやすいという問題があり、成分が変化したり悪臭が発生する場合があるが、防腐剤を添加することで微生物の発生を防止することができる。防腐剤には、安息香酸ナトリウム等の潤滑性を損なわず、人体に対する有害性が低く、ハロゲン元素成分を含まないものが好ましい。
【0048】
また、潤滑剤の種類によっては、泡が発生しやすいという問題があり、溶液Lを成形部1Aに付着させたときに、泡が発生して原料粉末が固まるおそれがあるが、アルコールやケトンといった水溶性の溶媒や消泡剤を添加することで泡の発生を防止することができる。アルコールやケトンには、エタノールやアセトン等の潤滑性を損なわず、人体に対する有害性が低く、ハロゲン元素成分を含まないものが好ましい。
【0049】
アルコールやケトンといった水溶性の溶媒には、水よりも沸点や蒸発潜熱の低いものを使用することで、蒸発、乾燥時間を短くしたり、成形型本体2を高温にする必要がなくなる場合もある。
【0050】
これらの潤滑剤及び添加物、溶解する水にはハロゲン元素が含まれていると、炭素成分の共存中で焼結するという鉄系の粉末冶金でよく使用される条件ではダイオキシン等の微量で毒性の高い成分の生成が懸念されるため、ハロゲン元素を含ませないことが好ましい。
【0051】
成形型本体2の温度や混合した原料粉末Mは、高温にした方が乾燥時間の短縮や温間成形の効果等があるため好ましいが、不具合がなければ常温でもよい。高温にする場合は、原料粉末が固まったり潤滑剤が金型(成形部1A)の底へ流れ落ちるため安定して温間成形することが困難であるため設定温度で溶融しない潤滑剤の選定が好ましいが、不具合がなければ半溶融状態や高粘性状態、2種以上の潤滑剤配合の1種以上が溶融状態でもよい。従来使用されていたステアリン酸亜鉛は約120°C、ステアリン酸リチウムは約220°Cで溶融するためそれ以上の温度で安定して温間成形することが困難であったが、本発明の潤滑剤の中には220°C以上で溶融しないものは多数存在し、中には1000°Cを超えても溶融しないものも含まれているため、金型(成形部1A)の耐熱温度や原料粉末の酸化温度ぎりぎりまで高温にして容易に安定して温間成形することが可能である。但し、その場合は、原料粉末の流動性の問題等があるため、混合した原料粉末Mに添加する潤滑剤も高温で溶けないもの、例えば、本発明の潤滑剤を粉末状にしたものや固体潤滑剤である黒鉛や2硫化モリブデン等にしたり、潤滑剤を入れずに成形型潤滑だけで成形した方が好ましい。
【0052】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形実施が可能である。例えば、第2実施形態と第3実施形態のものを組み合せるようにしてもよい。さらに、原料液は3種類以上でもよい。また、前記実施形態において潤滑剤を溶媒に溶解した溶液とは、潤滑剤を溶媒に一部でも溶解したものを含んでいるものでもよい。また、前記原料粉末を充填する前に、前記溶液を前記成形部に付着させ、該溶液を蒸発させて前記成形部に晶出層を形成した後にパンチを前記成形部に嵌合して粉末成形体を成形するものであるが、前記原料粉末を充填する前に必ず溶液を前記成形部に付着させ、該溶液を蒸発させて前記成形部に晶出層を形成する必要はなく、例えば始めの粉末成形体の成形後に、溶液を前記成形部に付着させずに始めの晶出層を利用してそのまま原料粉末を充填して次の成形を行い、次に3回目の原料粉末を充填する前に溶液を前記成形部に付着させ、該溶液を蒸発させて前記成形部に2回目の晶出層を形成するように断続的な連続により溶液を前記成形部に付着させるようにしてもよい。
【0053】
【発明の効果】
請求項1の発明は、成形型本体に形成した成形部に、潤滑剤を水に溶解した溶液又は潤滑剤を水に分散した分散液を前記成形部に向けて噴射して付着させ、前記溶液の水分又は分散液の水分を蒸発させて前記成形部に潤滑層を形成して、原料粉末を充填し、その後パンチを前記成形部に嵌合して粉末成形体を成形する粉末成形体の成形方法において、前記溶液又は分散液は少なくとも2種類の液からなり、これら少なくとも2種類の液はそれそれ前記成形部に向けて噴射されると共に、空中で混合して、前記溶液又は分散液を前記成形部に付着させることを特徴とする粉末成形体の成形方法であり、液を混合すると塊となるような溶液又は分散液であっても、噴射時において塊となるようなことはなくノズルの詰まり等を防止することができる。
【0054】
請求項2の発明は、粉末成形体の側面を形成する貫通孔を上面に縦向きに有する成形型本体と、前記貫通孔に下方から嵌合する下パンチと、前記貫通孔に上方から嵌合する上パンチと、前記貫通孔に対向して設けられる前記潤滑液の噴射手段を備え、前記下パンチが嵌合した貫通孔に原料粉末を上方から充填する前に前記潤滑液を前記貫通孔に前記噴射手段を介して付着させ、前記原料粉末を充填後に、前記上パンチを前記貫通孔に嵌合して粉末成形体を成形する粉末成形体の成形金型装置であって、前記噴射手段は複数設けられ、これら噴射手段のそれぞれには前記潤滑液を形成するそれぞれ異なる原料液の収容部が接続され、かつそれぞれの前記噴射手段の噴射方向は交差するように設けられたことを特徴とする粉末成形金型装置であり、各噴射手段ではそれぞれの原料液が混合されていないので塊状となるようなことはなく、噴射手段の詰まり等を防止することができる。
【0055】
請求項3の発明は、前記潤滑液は、潤滑剤を溶媒に分散した分散液又は潤滑剤を溶媒に溶解した溶液であることを特徴とする請求項2記載の粉末成形金型装置であり、貫通孔に均一な潤滑層が形成され、粉末成形体の密度等を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態を示す第1工程の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示す第2工程の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態を示す第3工程の断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態を示す第4工程の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 貫通孔
1A 成形部
2 ダイ(成形型本体)
3 下パンチ
4 上パンチ
6 噴霧部(噴出手段)
B 潤滑層
L 溶液
L1 L2 原料液
M 原料粉末
X Y 噴射方向
Claims (3)
- 成形型本体に形成した成形部に、潤滑剤を水に溶解した溶液又は潤滑剤を水に分散した分散液を前記成形部に向けて噴射して付着させ、前記溶液の水分又は分散液の水分を蒸発させて前記成形部に潤滑層を形成して、原料粉末を充填し、その後パンチを前記成形部に嵌合して粉末成形体を成形する粉末成形体の成形方法において、前記溶液又は分散液は少なくとも2種類の液からなり、これら少なくとも2種類の液はそれそれ前記成形部に向けて噴射されると共に、空中で混合して、前記溶液又は分散液を前記成形部に付着させることを特徴とする粉末成形体の成形方法。
- 粉末成形体の側面を形成する貫通孔を上面に縦向きに有する成形型本体と、前記貫通孔に下方から嵌合する下パンチと、前記貫通孔に上方から嵌合する上パンチと、前記貫通孔に対向して設けられる前記潤滑液の噴射手段を備え、前記下パンチが嵌合した貫通孔に原料粉末を上方から充填する前に前記潤滑液を前記貫通孔に前記噴射手段を介して付着させ、前記原料粉末を充填後に、前記上パンチを前記貫通孔に嵌合して粉末成形体を成形する粉末成形体の成形金型装置であって、前記噴射手段は複数設けられ、これら噴射手段のそれぞれには前記潤滑液を形成するそれぞれ異なる原料液の収容部が接続され、かつそれぞれの前記噴射手段の噴射方向は交差するように設けられたことを特徴とする粉末成形金型装置。
- 前記潤滑液は、潤滑剤を溶媒に分散した分散液又は潤滑剤を溶媒に溶解した溶液であることを特徴とする請求項2記載の粉末成形金型装置。
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