JP4117645B2 - 磁性材料の渦電流探傷プローブと渦電流探傷装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本願発明は、一様な渦電流と漏洩磁束により磁性材料のキズを検出する渦電流探傷プローブとそのプローブを備えた渦電流探傷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
【非特許文献1】
平成14年5月28日 社団法人日本非破壊検査協会発行の平成14年度春季大会講演概要集(第209,210頁)
図9〜図11を参照して従来の渦電流探傷プローブを説明する。なお各図に共通の部分は、同じ符号を使用している。
【0003】
図9は、従来の渦電流探傷プローブの斜視図(図9(a))と渦電流を示す図(図9(b))である。図9の渦電流探傷プローブは、例えば【非特許文献1】を参照。
磁性材料の検査体Tには、パンケーキ状の励磁コイルE0と矩形状の縦置き型の検出コイルD0とからなる渦電流探傷プローブを設置してある。励磁コイルE0に励磁電流を流すと、検査体Tには、図9(b)のように励磁コイルE0の巻線方向の渦電流Ieが発生する。この場合、渦電流Ieは、検出コイルD0の巻線方向に流れる成分を有しないから、電磁誘導により検出コイルD0に起電力が誘導されることはない。したがって検出コイルD0には、電流が発生しない。
【0004】
図10は、検査体Tのキズの方向と検出コイルD0の配置関係を示す図で、図10(a)は、キズF0が検出コイルD0のコイル面と平行する方向(コイルの軸と直交する方向)にある場合を、図10(b)は、キズF0が検出コイルD0のコイル面と直交する方向(コイルの軸方向)にある場合を示す。
【0005】
まず図10(a)の場合、渦電流Ieは、検査体Tにおいて乱れて変化し、キズF0に沿って流れる成分が生じるため、検出コイルD0には、起電力が誘導され、いわゆるキズ信号が発生する。したがって検出コイルD0に発生するキズ信号によりキズF0を検出できる。他方図10(b)の場合、検出コイルD0の巻線方向に流れる成分はほとんどないため、検出コイルD0には、キズ信号はほとんど発生しない。したがって図10(b)の場合には、キズF0の検出が難しくなる。
【0006】
そこで図10(a)と図10(b)のキズF0を検出する方法として、図11のように、励磁コイルE0内に2つの検出コイルD1,D2を直交させて配置した渦電流探傷プローブが提案されている(【非特許文献1】参照)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
図11の従来の渦電流探傷プローブは、励磁コイルE0内に2つの検出コイルD1,D2を直交させて配置しなければならないが、2つのコイルを交差させて組み立てることは、構造的に難しく、かつ渦電流探傷プローの構造が複雑になるためその組立て作業が困難であった。
本願発明は、これらの問題点に鑑み、キズの方向に関係なく、1個の検出コイルにより図10(a)のキズも、図10(b)のキズも検出できる渦電流探傷プローブを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、その目的を達成するため請求項1に記載の磁性材料の渦電流探傷装置は、縦置き型で磁性材料の検査体に一様な渦電流と一様な磁束を発生する励磁コイル及び前記励磁コイルと前記検査体の間にコイル面を検査面と平行に配置し、前記検査体の励磁コイルのコイル面と垂直な方向のキズによって発生する渦電流の変化と励磁コイルのコイル面と平行な方向のキズによって発生する漏洩磁束を検出する検出コイルからなる渦電流探傷プローブ、前記励磁コイルに励磁電流を供給する励磁電流供給器、前記渦電流の変化と漏洩磁束によって検出コイルに誘導されるキズ信号を検出するキズ信号検出器、キズ信号検出器が検出したキズ信号に基づいて検査体のキズの有無を評価するキズ評価器、並びに前記渦電流探傷プローブを前記励磁コイルのコイル面と垂直な方向に走査するプローブ駆動装置を備えていることを特徴とする。
請求項2に記載の磁性材料の渦電流探傷装置は、請求項1に記載の磁性材料の渦電流探傷装置において、前記励磁コイルは矩形状であり、前記検出コイルはパンケーキ状であることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1〜図7により、本願発明の実施の形態に係る渦電流探傷プローブを説明する。なお各図に共通の部分は、同じ符号を使用している。
【0011】
図1は、本願発明の実施の形態に係る渦電流探傷プローブの構成を示す図で、
図1(a)は、渦電流探傷プローブを検査体Tに設置したときの平面図、図1(b)は、図1(a)のY1−Y1部分の断面図である。
図1において、Tは、磁性材料の検査体、Eは、コイル面が矩形状の縦置き型の励磁コイル、Dは、パンケーキ状の検出コイル、Ecは、励磁コイルEの巻線である。t1〜t4は、検査体Tの端部を示す。渦電流探傷プローブの検出コイルDは、励磁コイルEと検査体Tの間にコイル面を検査体Tの検査面と平行に設置してある。
【0012】
図2は、図1の励磁コイルEに励磁電流を流したとき、検査体Tに発生する渦電流と磁束を説明する図で、図2(a)は、平面図、図2(b)は、図1(a)のY2−Y2部分の断面図である。
励磁コイルEに励磁電流を流すと、図2(a)のように励磁コイルEの巻線方向に一様に同じ方向に流れる渦電流、いわゆる一様な渦電流Ie1が発生する。検出コイルDには、渦電流Ie1により起電力Ed1,Ed2が誘導されるが、起電力Ed1,Ed2は、検出コイルDの巻線方向に関して逆方向となり、互いに打消し合う。その結果検出コイルDには、起電力が発生しない。したがって検出コイルDには、電流が発生しない。
【0013】
また励磁コイルEに励磁電流を流すと、図2(b)のように、励磁コイルEのコイル面と垂直な方向(励磁コイルEの巻線方向と直交する方向或いは励磁コイルEの軸方向)に一様な磁束Mf1が発生する。磁束Mf1は、検査体T中に発生し、検査体Tの外へ出ないから、磁束Mf1により検出コイルDに起電力が誘導されことはない。したがって検出コイルDには、電流が発生しない。
【0014】
図3は、検査体Tにキズがある場合の渦電流と磁束の変化を説明する図である。
まず図3(a)のように、検査体Tに渦電流Ie1と直交(或いは交差)する方向のスリット状のキズF1があるときは、キズF1付近で渦電流Ie1が乱れて変化し、キズF1に沿って流れる渦電流Ie2が生じる。
また図3(b)のように、検査体Tに渦電流Ie1と平行する方向(キズF1と直交(或いは交差)する方向)のスリット状のキズF2があるときは、磁束Mf1の一部は、キズF2において検査体Tの外へ漏れ、いわゆる漏洩磁束Mf2が生じる。
【0015】
図4、図5は、渦電流探傷プローブを励磁コイルEのコイル面と垂直な方向に走査したときに発生するキズ信号を説明する図である。
図4は、キズF1に起因して発生する渦電流Ie2とキズ信号の関係を説明する図である。
【0016】
図4(a)において、検出コイルDを矢印S方向に走査した場合、検出コイルDには、渦電流Ie2により起電力が誘導され、キズ信号は、図4(b)のようになる。キズ信号は、検出コイルDがキズF1に対して位置イにあるとき最大になり、位置ロにあるとき0になる。検出コイルDが位置ロにあるときは、渦電流Ie2は、キズF1の長さ方向と垂直な軸に関して対称になるから、検出コイルDの起電力は打消し合い、キズ信号は発生しない。検出コイルDが位置ロを過ぎると、キズ信号は極性が反転し、位置ハで最大になる。
【0017】
図5は、キズF2に起因して発生する漏洩磁束Mf2とキズ信号の関係を説明する図である。
図5(a)において、検出コイルDを矢印S方向に走査した場合、検出コイルDには、漏洩磁束Mf2により起電力が誘導され、キズ信号は、図5(b)のようになる。キズ信号は、検出コイルDがキズF2に対して位置ニにあるとき最大になり、位置ホにあるとき0になる。検出コイルDが位置ホにあるときは、キズF2が検出コイルDの中心を貫いているため、検出コイルDの起電力が打消し合い、キズ信号は発生しない。検出コイルDが位置ホを過ぎると、キズ信号は極性が反転し、位置ヘで最大になる。
【0018】
図4、図5から分かるように、本願発明の渦電流探傷プローブは、そのプローブを励磁コイルEのコイル面と垂直な方向に走査した場合、検査体Tのキズが渦電流Ie1と垂直な方向にあるときは渦電流によってキズを検出し、また検査体Tのキズが渦電流Ie1と平行な方向にあるときは漏洩磁束によってキズを検出することができる。したがって本願発明の渦電流探傷プローブは、キズの方向に関係なく検査体Tのキズを検出することができる。
【0019】
図6は、本願発明の渦電流探傷プローブを用いて測定したキズ信号パターンを示す図で、図6(a)は、検査体が磁性材料の場合を、図6(b)は、検査体が非磁性材料の場合を示す。
図6において、横軸は、励磁信号と同相のキズ信号成分を表し、縦軸は、励磁90度進相したキズ信号成分を表している。またキズの角度0度は、励磁コイルのコイル面と直交する方向のキズ(図4(a)に相当)を、キズの角度90度は、励磁コイルの巻線方向と平行な方向のキズ(図5(a)に相当)を示す。なお図6は、正規化してある。
【0020】
測定に用いた渦電流探傷プローブ等の寸法は、次の通りである。
励磁コイルは、幅30mm、長さ40mm、高さ30mm、検出コイルは、巻線断面積1×1mm2、外径6mmである。検査体は、160×160×15mm3のSM鋼材板(磁性材料)と160×160×1.5mm3の黄銅板(非磁性材料)を用い、SM鋼材板には、深さ1.5mm、長さ15mm、幅0.2mmのスリット状キズを形成し、黄銅板には、深さ1.2mm、長さ15mm、幅0.5mmのスリット状キズを形成した。励磁コイルには、20kHzの励磁電流を流した。
【0021】
渦電流探傷プローブを用いると、検査体が磁性材料の場合には、図6(a)のようにキズ角度が0度のときも、90度のときもともに大きなキズ信号を検出することができる。他方検査体が非磁性材料の場合には、図6(b)のようにキズ角度が0度のときのキズ信号は大きいが、90度のときのキズ信号は小さくなってしまう。
【0022】
図6から、検査体が磁性材料の場合には、漏洩磁束を検出することにより渦電流を検出する場合と同程度にキズ信号を検出できることが分かる。本願発明の渦電流探傷プローブは、漏洩磁束を利用することにより、1個の検出コイルを用いるのみで従来の2個の検出コイルを用いた場合と同様に直交(交差)する2方向のキズを検出することができる。
【0023】
図7は、本願発明の渦電流探傷プローブを用い、磁性材料の検査体について、キズの深さを変えて測定したキズ信号とリフトオフ雑音を示す。図7は、検出された信号の振幅の最大値のみをプロットしてある。
測定は、キズの角度が0度と90度で、キズの深さが、1.5mm、1.0mm、0.5mm、0.25mmの4種類のキズについて、渦電流探傷プローブのリフトオフ(渦電流探傷プローブと検査体Tの距離)の変化が0.1〜2.0mmの範囲で行った。
【0024】
図7から、本願発明の渦電流探傷プローブは、キズの角度が0度、90度いずれの場合にも、広い範囲の深さのキズを検出することができ、深さ0.25mmの程度の浅いキズも検出できることがわかる。また本願発明の渦電流探傷プローブは、リフトオフの変化に起因して発生する雑音、いわゆるリフトオフ雑音が非常に小さくなるから、リフトオフの変化の影響を受けずにキズを検出することができる。
なお検出されたキズ信号の振幅は、キズの深さによって異なるから、この振幅の違いからキズの深さを判別することもできる。
【0025】
前記実施の形態の渦電流探傷プローブは、矩形状の励磁コイルとパンケーキ状検出コイルについて説明したが、励磁コイルは、一様な渦電流と一様な磁束を発生するコイルであれば矩形状に限らず、例えば三角形状等他の形状であってもよい。また検出コイルは、パンケーキ状に限らず矩形状、三角形状等他の形状であってもよい。
【0026】
図8は、本発明の渦電流探傷プローブを用いた渦電流探傷装置の構成図である。
励磁コイルEと検出コイルDからなる渦電流探傷プローブPは、渦電流探傷プローブ駆動装置11によって、磁性材料の検査体T上を励磁コイルEのコイル面と垂直な方向(矢印S)へ走査する。渦電流探傷プローブPの励磁コイルEは、励磁電流供給器12から供給される励磁電流によって、検査体Tに一様な渦電流と一様な磁束を発生する。検査体Tのキズによって発生する渦電流の変化と漏洩磁束によって、プローブPの検出コイルDに誘導されるキズ信号をキズ信号検出器13によって検出し、キズ評価器14より検査体Tのキズの有無、キズの深さ等を評価する。
【0027】
【発明の効果】
本願の発明者は、一様な渦電流を発生する励磁コイルは、一様な磁束を発生し、検査体にキズがある場合には、そのキズの部分において漏洩磁束を発生することを突き止めた。そしてその漏洩磁束は、キズの検出に利用できることを実験により確認した。
【0028】
本願発明の渦電流探傷プローブは、そのプローブを励磁コイルのコイル面と垂直な方向に走査した場合、検査体のキズが励磁コイルのコイル面と垂直(走査方向と平行)なキズは渦電流によって検出し、また検査体のキズが励磁コイルのコイル面と平行(走査方向と直交)なキズは漏洩磁束によって検出することができる。したがって本願発明の渦電流探傷プローブは、検査体のキズの方向に関係なくそのキズを検出することができる。
【0029】
本願発明の渦電流探傷プローブは、1個の検出コイルを用いるのみでよく、従来のように2つのコイルを交差させる必要がないから、構造が簡単になり、組立て作業が容易になる。その結果本願発明は、渦電流探傷プローブのコストを低減することもできる。
本願発明の渦電流探傷プローブは、一様な渦電流と一様な磁束を利用するから、リフトオフ雑音がほとんど発生しない。したがって本願発明の渦電流探傷プローブは、リフトオフ変動の影響を受けることなく高いSN比でキズ信号を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の実施の形態に係る渦電流探傷プローブの構成を示す図である。
【図2】本願発明の実施の形態に係る渦電流探傷プローブにより、キズのない検査体に発生する渦電流と磁束を説明する図である。
【図3】本願発明の実施の形態に係る渦電流探傷プローブにより、キズのある検査体に発生する渦電流と磁束の変化を説明する図である。
【図4】図3(a)の渦電流Ie2とキズ信号の関係を説明する図である。
【図5】図3(b)の漏洩磁束Mf2とキズ信号の関係を説明する図である。
【図6】本願発明の実施の形態に係る渦電流探傷プローブにより、磁性材料と非磁性材料の検査体について検出した信号パターンを示す図である。
【図7】本願発明の実施の形態に係る渦電流探傷プローブにより、磁性材料の検査体の深さが異なるキズについて検出した信号パターンを示す図である。
【図8】本発明の渦電流探傷プローブを用いた渦電流探傷装置の構成図である。
【図9】従来の渦電流探傷プローブの斜視図と渦電流を説明する図である。
【図10】従来の渦電流探傷プローブの検出コイルによる検査体のキズの検出を説明する図である。
【図11】従来の検出コイルを2個備えた渦電流探傷プローブの平面図である。
【符号の説明】
D 検出コイル
E 励磁コイル
Ec 励磁コイルの巻線
F1,F2 検査体のキズ
Ed1,Ed2 起電力
Ie1,Ie2 渦電流
Mf1,Mf2 磁束
P 渦電流探傷プローブ
T 検査体
t1〜t4 検査体Tの端部
Claims (2)
- 縦置き型で磁性材料の検査体に一様な渦電流と一様な磁束を発生する励磁コイル及び前記励磁コイルと前記検査体の間にコイル面を検査面と平行に配置し、前記検査体の励磁コイルのコイル面と垂直な方向のキズによって発生する渦電流の変化と励磁コイルのコイル面と平行な方向のキズによって発生する漏洩磁束を検出する検出コイルからなる渦電流探傷プローブ、前記励磁コイルに励磁電流を供給する励磁電流供給器、前記渦電流の変化と漏洩磁束によって検出コイルに誘導されるキズ信号を検出するキズ信号検出器、キズ信号検出器が検出したキズ信号に基づいて検査体のキズの有無を評価するキズ評価器、並びに前記渦電流探傷プローブを前記励磁コイルのコイル面と垂直な方向に走査するプローブ駆動装置を備えていることを特徴とする磁性材料の渦電流探傷装置。
- 請求項1に記載の磁性材料の渦電流探傷装置において、前記励磁コイルは矩形状であり、前記検出コイルはパンケーキ状であることを特徴とする磁性材料の渦電流探傷装置。
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