JP4117404B2 - ピペラジン誘導体を用いる腫瘍細胞死誘導法 - Google Patents
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Description
発明の分野
本発明は、ピペラジン誘導体を用いて、腫瘍細胞死を誘導するための、そして腫瘍細胞を治療する化学療法の効果を増強する方法、とくに腫瘍細胞のプログラムされた細胞死を活性化するための、そして腫瘍細胞における多剤耐性を解除するための方法に関する。本発明はまた、ピペラジン誘導体の医薬調製における使用に関する。
背景技術
あるエポキシド化合物は、癌治療の分野を含む種々の薬剤学的分野において薬理学的に活性な化合物として知られている。多数のエポキシド化合物が種々の目的で合成されてきた。例えば、Masakiらの米国特許第4,507,297号および第4,596,803号は、心筋梗塞の抑制を目的とするNCO-700を含む、エポキシド基を有するピペラジン誘導体を開示している。Omuraらの米国特許第5,336,783号はカルバモイル基を有するピロール誘導体を開示しており、これはカルパイン阻害活性を有する。Yaginumaらの米国特許第4,732,910号は、グアニジノ基およびベンジル基を有するエポキシド化合物を開示しており、これはチオールプロテアーゼに対して強い酵素阻害活性を有する。Tamaiらの米国特許第4,333,879号および第4,382,889号は、チオールプロテーゼ阻害活性、とくにカルシウム-活性化中性プロテアーゼ(CANP)阻害活性を有する化合物としてESTを開示している。Tamaiらの米国特許第4,418,075号および第4,474,800号はESTと同様の化学構造を有する化合物を開示しているが、これはESTよりもイミノ基を一つ多く含んでいる。
上記の化合物は、チオールプロテアーゼ阻害活性、とくにCANP(カルパインとしても知られている)に対する阻害活性を有している。しかし、上記化合物のいずれも、カルパインインヒビターはヒトにおいてある薬理効果があるという事実にも拘わらず、癌細胞の直接治療において有効であるとは報告されていない。
他の多くのカルパインインヒビターが種々の用途のために開示されている。例えば、Malfroy-Camineらの米国特許第5,403,834号は、強力な抗酸化性および/またはフリーラジカル捕捉性を有するサレン(salen)−遷移金属錯体を開示している。この化合物は、心筋および中枢神経系などの重要組織の虚血再潅流損傷を予防または軽減すると言われている。Nixonらの米国特許第5,328,922号は、二つの関連した内因性の神経、とくにヒト脳のカルシウム活性化中性プロテアーゼ(CANPすなわちカルパイン)阻害剤を開示しており、これは高分子量カルパスタチン(HMWC)および低分子量カルパスタチン(LMWC)として公知である。Kozarichらの米国特許第5,268,164号は、アミノ酸またはアミノ酸誘導体を中心配列として有するペプチド(浸透化剤A−7)を開示しており、これは動物の血液脳関門の透過性を増す。Andoらの米国特許第5,424,325号、第5,422,359号、第5,416,117号、第5,395,958号および第5,340,909号は、アミノケトン誘導体(5,424,325号)、α−アミノケトン誘導体(5,422,359号)およびシクロプロペノン誘導体(5,416,117号、5,395,958号および5,340,909号)を開示しており、これらはカルパインなどのチオールプロテアーゼに対する可逆的阻害剤である。これら化合物は、組織分布、細胞膜透過性および経口投与吸収性において優れた性質を有すると言われている。これら化合物に関連した癌細胞の治療についての記述はない。
国際公開WO94/00095は、細胞サイクルを同調化するための種々のカルパインインヒビターの使用を開示している。同調化は、癌の化学療法の期間を短縮し、化学療法剤の活性を増強することが開示されている。原理は、S期の全細胞の同調化は、化学療法剤に対する細胞の感受性をより高めるというものである。この文献は、カルパインインヒビターを癌治療に使用する場合、カルパインインヒビターは主たる化学療法剤での癌治療に先だって使用しなければならないことを示している。さらに、多剤耐性を有する癌細胞の治療については、いかなる開示も示唆もない。さらに、カルパインを単独投与して癌における細胞死を誘導するという開示または示唆は全くない。すなわち、主たる化学療法剤での癌治療に先だって投与する以外には、カルパインインヒビターは有用な効果を奏するものとして開示されてない。
Shoji-Kasaiら(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85: 146-150,1988)は、化学組成の明らかな培地で培養した類表皮癌腫A431細胞を、チオールプロテアーゼ特異性阻害剤E-64の膜透過誘導体であるE-64-dによって有糸分裂中期で発育阻止させることができることを示している。この文献は、CANPの阻害剤がある種の癌の増殖を緩慢にするのにあきらかな効果を有するようであることを示す。しかし、その効果は癌細胞が多剤耐性を有する場合には発揮されず、癌における細胞死には至らないと考えられる。
Andoらの米国特許第5,422,359号は、チオールプロテアーゼ阻害活性を有するアミノケトン化合物を開示している。本特許では、データを示すことなく、この化合物が、乳癌、前立腺癌または前立腺過形成の治療に有効であり得ると単に示唆されるのみである。しかし、米国特許第3,422,359号において引用された刊行物によれば、該効果は癌細胞が離れた部位に広がるのを阻害することを単に示唆するだけであり、癌細胞における癌細胞死の誘導については示唆しない。前者と後者の機構は全く異なるものである。さらに、該化合物はチオールプロテアーゼ阻害活性を有するが、MCO-700などのピペラジンオキシラン誘導体とは異なり、エポキシ基もピペラジン環ももたない。プロテアーゼ活性が抗癌効果の十分条件でないことは明らかである。実際、本発明者らは、カルバインインヒビター1およびEST(E-64の誘導体)のようなプロテアーゼインヒビターがあきらかな抗癌活性を有さないことを確認している。従って、米国特許第5,422,359号は、有意な抗癌活性を有する特定の化合物、特に異なる化学構造を有し異なる抗癌活性を有する化合物を示唆しない。
抗癌剤の臨床的有用性を限定している主な要因は、腫瘍における薬剤耐性化である。ビンカアルカロイド(ビンブラスチン)やアントラサイクリン(ドクソルビシン)などの抗癌剤で治療される多くの腫瘍は、これら薬剤に対して耐性化し、また、他の癌薬剤に対しても交差耐性を示す。場合によっては患者が最初の化学療法に全く反応しないこともあり、そのような場合は腫瘍細胞が内在性の薬剤耐性を有すると考えられる。この薬剤耐性のメカニズムの一つは、mdr(multiple drug resistance、多剤耐性)タンパク質と呼ばれる表面タンパク質による癌細胞からの抗癌剤の能動ポンプ輸送にあると考えられる(Gottesman et al.,J.Clinical Oncology 7: 409-411,1989; Goldstein et al.,J.Nat’l Cancer Inst.81: 116-124,1989; Fojo et al.,Cancer Res.45: 3002-3007,1985)。このタンパク質は、癌細胞中の抗癌剤の濃度を効果的に低下させて、腫瘍の生存と増殖を可能にする。mdrタンパク質は170,000ダルトンのエネルギー依存性糖タンパク質と特徴づけられているが、癌細胞が薬剤耐性を獲得するためにそれら細胞中で高レベルで増幅される。ポンプは、多くの疎水性薬剤を認識て流出させるが、生体における通常の役割は、毒性の可能性のある化合物を認識して細胞から除去することである。
多くの化合物が、mdrポンプの活性を阻害して、抗癌剤を標的細胞中に蓄積させると報告されてきた。これら化合物は、多剤ポンプシステムの基質として作用して、ポンプ機能を妨げることによって癌薬剤の流出を阻害して、結果として癌細胞死に至らせると考えられる。これらmdr阻害化合物のうち最もよく研究されているものはカルシウムチャンネル阻害剤のベラパミルで、これは異なる臨床的用途、すなわち高血圧の治療に用いられる。前臨床および臨床研究(Gottesman et al.,J.Clinical Oncology 7: 409-411,1989)の双方において、ベラパミルはmdrポンプの阻害に良好な活性を有して、その結果、癌細胞死を促進する。残念なことに、ポンプ阻害には多量のベラパミル投与が必要なために有害な心臓血管副作用が患者に認められ、このことが癌患者への使用のためのこの薬剤のさらなる開発を妨げている。それにも拘わらず、mdrポンプを解除できるような毒性のない薬剤の開発は必要であり、重要なさらなる癌患者治療手段になると考えられる。下記の第1表に示すように、薬剤耐性となった米国の癌患者数は約30%であり、したがって、安全で有効なmdrポンプ阻害剤の市場は重要である。
多剤耐性癌細胞の治療に関して、米国特許第5,371,081号はN−置換したフェノキサジンを開示している。これら化合物は、上記で述べたエポキシド化合物およびカルパインインヒビターと化学的関連はない。さらに、これら化合物は単独投与の場合に有用であるとは開示されておらず、化合物の毒性は臨床使用の障害になるようである。
従来の化学療法における最も深刻な問題は、化学療法剤の毒性である。例えば、代表的な化学療法剤であるビンブラスチンおよびアドリアマイシンには、毛髪喪失、体重減少および肝臓および腎臓障害などの避け得ない副作用がある。これらは、強い毒性のために長期間に渡って毎日投与することができない。例えば、これら化学療法剤は通常、1週間に数日、2、3ヶ月間投与し、数週間の化学療法剤無投与の回復期の後、投与を繰り返す。従来の化学療法剤および薬効増強剤で、毒性のないものはない。
結論として、それ自体で癌における細胞死を実際に誘導できるカルパイン阻害化合物またはエポキシ化合物を開示または示唆するような従来技術はない。さらに、癌細胞が多剤耐性であるかどうかに拘わらず、明らかな副作用または毒性なしで、癌細胞を殺す機能を有する化合物の開示はない。
発明の概要
本発明は癌の治療におけるエポキシド誘導体の開発的使用であり、とくに癌細胞の多剤耐性の有無に拘わらず、癌細胞治療のために、主たる化学療法剤としてまたは他の化学療法剤と実質上同時使用する場合は補助的治療手段として、エポキシ基を有するピペラジン誘導体を使用することである。本発明の目的は、エポキシ基を有するピペラジン誘導体を使用して癌における細胞死を明らかに誘導する方法を提供することであり、これは従来技術で述べた癌転移の予防などを薬理学的に超えるものである。本発明の他の目的は、エポキシ基を有するピペラジン誘導体を単独でまたは主たる化学療法剤として用いることによって癌における細胞死をあきらかに誘導する方法を提供することである。すなわち、癌細胞中の多剤耐性の有無に拘わらず、従来の抗癌剤とは異なるメカニズムに基づいて、ピペラジン誘導体自体が抗癌剤として作用する。さらに、本発明の他の目的は、他の化学療法剤と実質上同時使用する場合、補助的治療手段としてエポキシ基を有するピペラジン誘導体を使用することによって、癌細胞の多剤耐性を解除する方法を提供することである。
すなわち、本発明の一つの重要な態様は腫瘍細胞において細胞死を誘導する方法であって、これは、一般式I
[式中、
R1は、ヒドロキシル、C1−4アルコキシル、C1−4アルキルカルボニルオキシメトキシル、フェニルC1−2アルキルアミノ基、2,5−ピロリジンジオン−1−アルコキシル(C1−4)、または
(式中、X1は化学結合またはC1−2アルキレンであり、X2は水素、またはX1がメチレンであるときX1と5員環を形成するカルボキシルであり、X3は水素またはC1−2アルキルであり、X4は水素またはC1−2アルキルであるか、あるいはX3とX4が合一して5員環を形成し、ただし、X2、X3およびX4の少なくとも一つが水素である)であり、
R2はC3−4アルキルであり、R3はC1−4アルキル、
(式中、nは0〜3の整数である)]
の化合物または薬剤学的に許容し得るその塩を、腫瘍細胞を有する患者に、該腫瘍細胞における細胞死を誘導するに十分な量で投与することからなる。
上記方法において、化合物は次の一般式のものが好ましい。
[式中、R4は
からなる群より選択され、そして
R6は、−(CH2)2CH3、−CH2CH(CH3)2および−C(CH3)3からなる群より選択される]。
また、上記の方法において、化合物は次の一般式のものが好ましい。
[式中、R4は
からなる群より選択され、そして
R6は、−(CH2)2CH3、−CH2CH(CH3)2および−C(CH3)3からなる群より選択される]。
上記化合物は、癌細胞が多剤耐性を有する場合でも、癌における細胞死誘導に有効である。化合物は好ましくは硫酸塩である。
上記化合物には、Masakiらの米国特許第4,507,297号および第4,596,803号ならびに日本特許公開第63-275575号(1988)および第63-275576号(1988)に開示されたピペラジン誘導体が含まれる。これら特許はここに参照文献として引用する。しかし、第4,507,297号および第4,596,803号のピペラジン誘導体は、心筋梗塞阻害の目的のためのみと報告されている。上記の特定群のピペラジン誘導体は、腫瘍細胞、とくに多剤耐性を有する腫瘍細胞に対して驚くべきそして予期し得ない高い抗腫瘍活性を示す。効果的に治療できる腫瘍細胞は、ヒト乳癌細胞、ヒト黒色腫細胞、ヒト卵巣癌細胞、ヒト大腸癌細胞、ヒト膵臓癌細胞およびヒト前立腺癌細胞からなる群より選択される細胞、とくに未分化癌細胞である。
本発明の他の重要な態様は、腫瘍細胞の治療法であって、上記一般式Iの化合物または薬剤学的に許容し得るその塩から本質的になる組成物を、多剤耐性の腫瘍細胞を有する患者に該腫瘍細胞における細胞死誘導に十分な量で投与することから本質的になる方法である。上記した好ましい化合物および有効な腫瘍細胞は、この方法に適用できる。本発明のピペラジン誘導体それ自体は、他の化学治療剤を用いない場合でも、癌細胞に対して有意に高い抗腫瘍活性を示す。この予想外の新事実は、活性化されたmdr遺伝子による多剤耐性の解除に加えて、「アポトーシス」、すなわち、つい近年認められたプログラムされた細胞死(Desoize B.,Anticancer Res.14: 221-2294,1994)に基づくと思われる。本発明のピペラジン誘導体によるアポトーシスおよび多剤耐性解除によって引き起こされる癌細胞死のあきらかな誘導は、例えば、エポキシ基を含むがピペラジン環を含まないチオールプロテアーゼ特異的阻害剤E-64-d(Shoji-Kasai et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85: 146-150,1988)により報告された癌転移の予防効果とは薬理学的に著しく異なり、より優れている。さらに、本発明のピペラジン誘導体の主たる化学療法剤としてのまたは他の化学療法剤と実質上同時使用する場合は補助的治療手段としての使用は、主たる化学療法剤による癌治療に先だって使用せねばならないカルパインインヒビターの報告された使用(国際公開WO 94/00095)とは著しく異なる。
アポトーシスに関連して、カルパインインヒビターはアポトーシスの誘導物質ではなく、アポトーシスの阻害剤として報告されている(Thompson,Science Vol.267,10 March 1995,pp.1456-1462)。一方、カルパインインヒビター1およびN-Cbz-Leu-Leu-Tyrジアゾメチルケトンは、アポトーシスの誘導物質として報告されている(Biochemical and Biophysical Research Communications Vol.214,No.3,25 September 1995,pp.1130-1137)。これらの矛盾する報告から、アポトーシスの誘導および阻害はカルパイン阻害活性だけでは説明できないことが明らかである。さらに、細胞特異性(例えば、正常細胞に対する毒性)はあまり考慮されていないが、その特徴はきわめて重要である。本発明の特定のピペラジン化合物が、予想外に高度に、腫瘍細胞に特異的にアポトーシスを誘導することができるのは驚きである。
上記ピペラジン誘導体はまた、ビンブラスチンおよびアドリアマイシンなどの化学療法剤と併用して、腫瘍細胞、とくに活性mdr遺伝子を含む腫瘍細胞を有する患者に化学治療剤と実質上同時期にピペラジン誘導体を投与することによって効果を示す。
したがって、本発明の他の重要な態様は、腫瘍細胞の化学療法を増強する方法であり、これは上記した一般式Iの化合物または薬剤学的に許容し得るその塩を、多剤耐性腫瘍細胞を有する患者に、化学療法と実質上同時期に、該化学療法を増強するに十分な量で投与することからなる。上記した好ましい化合物および効果のある腫瘍細胞は、この方法に適用できる。本発明のピペラジン誘導体は、抗癌剤に耐性のヒト癌細胞および腫瘍中に抗癌剤を高度に蓄積することによって、これら細胞中の薬剤耐性を解除するのにきわめて有効であって、これによってこれら癌細胞の殺傷性が増加する。
さらに、本発明は、他の態様、すなわち腫瘍細胞の細胞死誘導のための医薬の調製における上記ピペラジン誘導体の使用、多剤耐性腫瘍細胞治療のための化学療法を増強する医薬の調製における上記ピペラジン誘導体の使用を含む。上記医薬自体もまた、本発明の重要な態様である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、ヒト卵巣癌細胞株SW-626およびAN-3-CAの癌細胞死アッセイにおける、遊離LDHとNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第2図は、黒色腫細胞株B16F10(マウス)およびSK-Mel-2(ヒト)の癌細胞死アッセイにおける、遊離LDHとNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第3図は、ヒト細胞株SK-Mel-2(黒色腫)の細胞100,000個および250,000個の癌細胞死アッセイにおける、遊離LDHとNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第4図は、ヒト癌細胞株MCF-7(乳癌)、HL-60(白血病)およびHEP-129(肝臓癌)の癌細胞死アッセイにおける、遊離LDHとNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第5図は、ヒト癌細胞株HS-578T(乳癌)、T-47D(乳癌)およびDU-145(前立腺癌)の癌細胞死アッセイにおける、遊離LDHとNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第6図は、ヒト癌細胞株MCF-7(乳癌)、MDA-MB231(乳癌)およびLS-174T(大腸癌)の癌細胞死アッセイにおける、遊離LDHとNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第7図は、ヒト癌細胞株HS-578T(乳癌)の癌細胞死アッセイにおける、遊離LDHとNCO-700、TOP-008、TOP-009、TOP-013およびTOP-017の濃度との関係を示すグラフである。
第8図は、ヒト癌細胞株HS-578T(乳癌)、DU-145(前立腺癌)、PC-3(前立腺癌)およびWIDR(大腸癌)の癌細胞死アッセイにおける、遊離LDHとTOP-008濃度との関係を示すグラフである。
第9図は、ヒト癌細胞株SK-Mel-2(黒色腫)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域(コンピュータによって算出された生存癌細胞数)とNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第10図は、ヒト癌細胞株LS-174T(大腸癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第11図は、ヒト癌細胞株T-47D(乳癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第12図は、ヒト癌細胞株HS-578T(乳癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第13図は、500細胞/ウェルおよび1,000細胞/ウェルのヒト癌細胞株DU-145(前立腺癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第14図は、500細胞/ウェルおよび1,000細胞/ウェルのヒト癌細胞株PC-3(前立腺癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第15図は、ヒト癌細胞株LN(前立腺癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第16図は、1,000細胞/ウェルのヒト癌細胞株WIDR(大腸癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とNCO-700濃度との関係を示すグラフである。
第17図は、BDF/1マウスにおけるヒト前立腺癌の腎臓下カプセルアッセイにおける、腫瘍サイズ平均変化量(デルタ平均)とNCO-700投与量との関係を示すグラフである。
第18図は、BDF/1マウスにおけるヒト乳癌の腎臓下カプセルアッセイにおける、腫瘍サイズ変化とNCO-700投与量との関係を示すグラフである。
第19図は、BDF/1マウスにおけるヒト大腸癌の腎臓下カプセルアッセイにおける、腫瘍サイズ変化とNCO-700投与量との関係を示すグラフである。
第20図は、ヒト癌細胞株DU-145(前立腺癌)の癌細胞死アッセイにおける、25μMのNCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第21図は、ヒト癌細胞株HS-578T(乳癌)の癌細胞死アッセイにおける、25μMのNCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第22図は、ヒト癌細胞株T-47D(乳癌)の癌細胞死アッセイにおける、25μMのNCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第23図は、ヒト癌細胞株SK-MEL-2(黒色腫)の癌細胞死アッセイにおける、25μMのNCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第24図は、ヒト癌細胞株WIDRの癌細胞死アッセイにおける、25μMのNCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第25図は、ヒト癌細胞株LS-174T(大腸癌)の癌細胞死アッセイにおける、25μMのNCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第26図は、500細胞/ウェルおよび1,000細胞/ウェルのヒト癌細胞株HS-578T(乳癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とTOP-008濃度との関係を示すグラフである。
第27図は、500細胞/ウェルおよび1,000細胞/ウェルのヒト癌細胞株T-47D(乳癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とTOP-008濃度との関係を示すグラフである。
第28図は、500細胞/ウェルおよび1,000細胞/ウェルのヒト癌細胞株DU-145(前立腺癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とTOP-008濃度との関係を示すグラフである。
第29図は、500細胞/ウェルおよび1,000細胞/ウェルのヒト癌細胞株PC-3(前立腺癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とTOP-008濃度との関係を示すグラフである。
第30図は、1,000細胞/ウェルおよび2,000細胞/ウェルのヒト癌細胞株LS-174T(大腸癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とTOP-008濃度との関係を示すグラフである。
第31図は、500細胞/ウェルのヒト癌細胞株WIDR(大腸癌)の癌細胞生存アッセイにおける、対象領域とTOP-008濃度との関係を示すグラフである。
第32図は、ヒト癌細胞株HS-766T(膵臓癌)およびASPC-1(膵臓癌)の癌細胞死アッセイにおける、25μMのNCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第33図は、ヒト癌細胞株DU-145(前立腺癌)の癌細胞死アッセイにおける、LDH遊離とNCO-700およびカルパインインヒビター1の濃度との関係を示すグラフである。
第34図は、ヒト癌細胞株HS-578T(1,000細胞/ウェル)の癌細胞死アッセイにおける、NCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第35図は、ヒト癌細胞株HS-578T(1,500細胞/ウェル)の癌細胞死アッセイにおける、NCO-700、TOP-008および類似化合物の刺激によるLDH遊離を示すグラフである。
第36図は、ヒト癌細胞株HS-578Tのアポトーシス検出アッセイにおける、TOP-008のアポトーシス活性の結果を示すグラフである。第36a、36bおよび36c図は、正常癌細胞、TOP-008(50μM)を有する癌細胞およびTOP-008(25μM)を有する癌細胞をそれぞれ示す。
第37図は、アドリアマイシン処理および非処理したヌードマウスにおける、腫瘍重量の変化とNCO-700投与量との関係を示すグラフである。
第38図は、TOP-009(TOP-9と表示)対TOP-008(TOP-8と表示)、TOP-018(TOP-18と表示)およびNCO-700(NCOと表示)のHS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。
第39図は、TOP-013(TOP-13と表示)対TOP-008(TOP-8と表示)、TOP-018(TOP-18と表示)およびNCO-700(NCOと表示)のHS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。
第40図は、TOP-017(TOP-17と表示)対TOP-008(TOP-8と表示)、TOP-018(TOP-18と表示)およびNCO-700(NCOと表示)のHS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。
第41図は、HS578-T細胞(6,000細胞/ウェル)をTOP-008(TOPと表示)、TOP-018(TOP-18と表示)およびNCO-700(NCOと表示)で処理した場合のLDHアッセイの結果を示すグラフである。
第42図は、TOP-019(TOP-19と表示)対TOP-008(TOP-8と表示)のHS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。
第43図は、TOP-020(TOP-20と表示)対TOP-008(TOP-8と表示)のHS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。
第44図は、生存アッセイにおけるTOP-008(TOP-8と表示)、TOP-009(TOP-9)、TOP-013(TOP-13)、TOP-017(TOP-17)、TOP-019(TOP-19)およびTOP-020(TOP-20)の播種HS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。
第45図は、生存アッセイにおけるNCO-700(NCOと表示)、TOP-008(TOP-8と表示)およびTOP-018(TOP-18と表示)の播種HS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。
第46図は、腎臓下カプセルアッセイを用いた、BDF/1マウスにおけるヒト前立腺癌へのTOP-008の影響を示すグラフである。
第47図は、腎臓下カプセルアッセイを用いた、BDF/1マウスにおけるヒト前立腺癌へのTOP-009の影響を示すグラフである。
第48図は、腎臓下カプセルアッセイを用いた、BDF/1マウスにおけるヒト前立腺癌へのTOP-013の影響を示すグラフである。
第49図は、腎臓下カプセルアッセイを用いた、BDF/1マウスにおけるヒト前立腺癌へのTOP-017の影響を示すグラフである。
第50図は、腎臓下カプセルアッセイを用いた、BDF/1マウスにおけるヒト前立腺癌へのTOP-018、019および020の影響を示すグラフである。
第51図は、生存アッセイにおけるTOP-008(TOPと表示)、カルパインインヒビター1(CAL1と表示)およびN-Cbz-Leu-Leu-Thrジアゾメチルケトン(N-CBZと表示)のHS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。
第52図は、S-180ヒト肉腫細胞を移植し、NCO-700(NCO.700と表示)またはTOP-800(TOP.008と表示)のいずれかで処理または非処理(CONTROL(対照)と表示)したスイス−ウェブスターマウスを示す写真である。ここで対照動物において腹部膨張が見られるが、これはこれら動物における大きい腫瘍形成を示す。
第53図は、S-180ヒト肉腫細胞を移植し、NCO-700(NCO.700と表示)またはTOP-008(TOP.008と表示)のいずれかで処理または非処理(CONTROL(対照)と表示)したブラックマウスC57BL/6Jを示す写真である。ここで対照動物において腹部膨張が見られるが、これはこれら動物における大きい腫瘍形成を示す。
第54図は、アクリジンオレンジ(0.01%)で染色して共焦レーザー顕微鏡法に供した、第52図の対照スイス−ウェブスターマウスからの腫瘍細胞を示す写真である。ここで、核区分の核酸の明るい球状染色は、増殖または分裂している細胞を示す高度に規則的な核物質を表す。
第55図は、アクリジンオレンジ(0.01%)で染色して共焦レーザー顕微鏡法に供した、第52図のNCO-700処理したスイス−ウェブスターマウスからの腫瘍細胞を示す写真である。ここで、これら細胞中の核物質は小裂片様で不規則で、プログラムされた細胞死すなわちアポトーシスを起こしている細胞の特徴を示している。
第56図は、アクリジンオレンジ(0.01%)で染色して共焦レーザー顕微鏡法に供した、第52図におけるTOP-008処理したスイス−ウェブスターマウスからの腫瘍細胞を示す写真である。ここで、これら細胞中の核物質は小裂片様で不規則で、プログラムされた細胞死すなわちアポトーシスを起こしている細胞の特徴を示している
第57図は、第54図の対照動物から摘出された細胞中の核酸蛍光分布を示す写真である。ここで、高色値を有する腫瘍細胞中の高度に規則的なDNAが、蛍光分布の頂部に白色「フロスティング」として見られる(ケーキ様形状)(第二および三層はそれぞれピンク色および黄色である)。
第58図は、第55図の動物から摘出された細胞中の核酸蛍光分布を示す写真である。ここで、NCO-700を投与された動物では高度に規則的なDNAが有意に減少している(薄い「フロスティング」頂部)(第二および三層はそれぞれピンク色および黄色である)。
第59図は、第56図の動物から摘出された細胞中の核酸蛍光分布を示す写真である。ここで、TOP-008に曝露された動物では高度に規則的なDNAが認められない(白色「フロスティング」頂部がない)(頂部および第二層はそれぞれピンク色および黄色である)。
第60図は、NCO-700およびTOP-008ならびにそれらの誘導体のHS578-T細胞に及ぼす影響を示すグラフである。ここで、TOP-101〜TOP-115はNCO-700およびTOP-008と共通の構造を有するが、これらは細胞死アッセイにおいて影響を示さない。
好ましい態様の詳細な説明
我々は、本発明のエポキシ基を有するピペラジン誘導体を用いてインビボ(in vivo)で腫瘍細胞を殺傷することができることを見出した。我々の研究は、誘導体を薬剤耐性ヒト腫瘍を有するヌードマウスに投与した場合、対応する体重減少を見ることなく、例えば、腫瘍が60%減少することを示す。さらに、薬剤は単一または併用療法のいずれでも、さらに多剤耐性を示す癌細胞に対しても、有効である。
上記の発明の背景で述べたように、抗癌剤の臨床的有用性を限定している主要因は腫瘍の薬剤耐性化である。近年の研究は、癌細胞の薬剤耐性化の二つの主要なメカニズムとして(i)mdrマルチ遺伝子ファミリーの増幅および(ii)プログラムされた細胞死(アポトーシス)の阻害をあげている。mdr遺伝子が増幅する細胞の薬剤耐性のメカニズムは、mdrタンパク質によって癌薬剤が癌細胞外に能動的ポンプ作用で出され、これによって癌細胞内の抗癌剤濃度が効果的に低下する。癌細胞中の薬剤耐性の第二の主要メカニズムは、ごく最近認められたものだが、プログラムされた細胞死すなわちアポトーシスの阻害で、これは化学療法だけでなく放射線照射療法にも耐性をもたらす(Desoize B.,Anticancer Res.14: 221-2294,1994)。最もよく特徴づけされたアポトーシス阻害剤は、Bcl-2遺伝子のタンパク質産物で、これは薬剤および放射線照射耐性の癌細胞において過剰発現される。種々の迅速で独特の分子変化がアポトーシス細胞内で起きる。例えば、核クロマチン凝集、細胞サイズの変化および結果としてオリゴゾームDNA断片の産生をもたらす内因性エンドヌクレアーゼ活性の活性化などである。多剤耐性癌細胞はアポトーシス阻害活性を有する。
我々は、本発明のエポキシ基を有するピペラジン誘導体が抗癌剤に耐性のヒト癌細胞および腫瘍の薬剤耐性の解除にきわめて有効であることを発見した。例えば、誘導体はヒト癌腫細胞株において抗癌剤ビンブラスチンの蓄積を5倍にすることができる。その結果、これら癌細胞の殺傷性のきわめて有意な増加が癌細胞生存アッセイで測定される。これらの研究は、エポキシ基を有するピペラジン誘導体が薬剤耐性癌細胞の抗癌剤の殺傷効果に対する感受性増強に有意な活性を有しており、癌患者における使用の可能性が高いことを示している。
以下に詳細に論じるように、本発明の薬剤組成物は癌細胞におけるアポトーシスを誘導する効果があると考えられる。したがって、これら組成物は、癌患者の薬剤耐性化の主要な公知メカニズムの双方を克服するためにきわめて有効である。
エポキシ基を有するピペラジン誘導体
本発明のエポキシ基を有するピペラジン誘導体は、一般式I
[式中、
R1は、ヒドロキシル、C1−4アルコキシル、C1−4アルキルカルボニルオキシメトキシル、フェニルC1−2アルキルアミノ基、2,5−ピロリジンジオン−1−アルコキシル(C1−4)、または
(式中、X1は化学結合またはC1−2アルキレンであり、X2は水素、またはX1がメチレンであるときX1と5員環を形成するカルボキシルであり、X3は水素またはC1−2アルキルであり、X4は水素またはC1−2アルキルであるか、あるいはX3とX4が合一して5員環を形成し、ただし、X2、X3およびX4の少なくとも一つが水素である)であり、
R2はC3−4アルキルであり、R3はC1−4アルキル、
(式中、nは0〜3の整数である)]
で表される化合物である。
一般式Iの化合物は、典型として次のような一般式で表される。
[式中、R4は
からなる群より選択される]。
また、他の典型的な化合物は次のような一般式で表される。
[式中、R4は
からなる群より選択される]。
化合物例は、典型として次のような置換基を含む。
一般式
エポキシ基を有するピペラジン誘導体に含まれる典型的化合物は以下の通りである(括弧内の名称は後記実施例で用いる化合物に付したものである)。
上記中、R1およびR2はそれぞれ、好ましくはC2H5O−および(CH3)2CHCH2−である。さらに、塩のなかでは硫酸塩が好ましい。R1がC4H9O−の場合、n−、s−、t−およびイソ−ブトキシのいずれを用いてもよい。
特に定義した本発明のエポキシ基を有するピペラジン誘導体は、エポキシド基を介して作用すると考えられるが、E-64もまたエポキシド基を含む。Shoji-Kasaiらの参考文献は、E-64の誘導体であるE-64-dが関連した効果、すなわち癌細胞増殖を遅らせることを示し、本発明の例示化合物と部分的に同様な構造を有することを開示している。しかし、E-64およびE-64-dのいずれもピペラジン環を含まず、E-64-dが癌細胞の増殖を遅らせると報告されている事実にも拘わらず、E-64は多剤耐性を有する癌細胞にはとくに効果がないことが見出された。エポキシ基だけではなくピペラジン環もまた癌の細胞死の誘導に必須であると考えられる。カルパインインヒビター1は上記に関連して僅かに有効であることが見出されたが、その毒性が障害となり得る。ピペラジン環(あるとすれば)およびエポキシ基に関して本発明のピペラジン誘導体と同様の構造を有する他の化合物を試験したが、有意な効果は観察されなかった(データ省略)。このことは特に定義した本発明の化合物が、癌中の細胞死の誘導に驚異的な予期せぬ影響を及ぼし、すなわちmdrを解除して正常組織に有意な毒性を及ぼすことなく癌細胞死を誘導することを意味し、これは薬理学的に癌の転移予防に優ると考えられる。
ピペラジン誘導体の製造
本発明の一般式Iで表されるピペラジン誘導体は、通常の酸ハロゲン化物法または混合無水物法に基づいて合成できるが、その詳細は、ともに「Piperazine Derivatives and A Medicine Containing the Same」と題されたMasakiらの米国特許第4,507,297号および第4,596,803号、および日本特許公開第63-275575号(1988)および第63-275576号(1988)に記述があり、これらはここに参考文献として引用する。
例えば、一般式IのR1がアルコキシ基の場合、一般式(2)
[式中、R2は一般式Iと同じであり、R5はtert-ブトキシカルボニル基などのアミノ酸のアミノ基の保護基またはその反応性誘導体である]
によって表されるロイシン誘導体を、一般式(3)
[式中、R3は上記に定義された通りである]
で表されるアミノ誘導体と反応させて、一般式(4)
で表される化合物を得る。
次に、通常の方法によって保護基を除去して、一般式(5)
で表されるこのようにして得られたロイシルピペラジン誘導体を、一般式(6)
[式中、R1は一般式で定義された通りである]
で表されるトランス−エポキシコハク酸モノエステル、またはその反応性誘導体と反応させて、それによって一般式(7)
で表される化合物を得る。
別法として、上記一般式(6)のトランス−エポキシコハク酸モノエステルまたはその反応性誘導体をロイシンと反応させて、一般式(8)
[式中、R1は一般式Iで定義された通りであるが、ヒドロキシル基ではない]で表されるエポキシスクシニルロイシン誘導体またはその反応性誘導体を得る。一般式(8)の化合物を次いで上記一般式(3)で表されるアミン誘導体と反応させて、それによって上記一般式(7)の化合物を得る。
加えて、一般式Iの化合物は、次のような縮合(脱水)反応によって得ることができる。
一般式(2)の化合物と一般式(3)の化合物との縮合反応、一般式(5)の化合物と一般式(6)の化合物との縮合反応および一般式(8)の化合物と一般式(3)の化合物との縮合反応は、通常の酸ハロゲン化物法または混合無水物法によって、すなわち、塩化メチレン、塩化エチレン、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中でN−ヒドロキシコハク酸イミドおよびN,N’−ジシクロヘキシルカルボジミドなどの公知の縮合剤の存在下で−10℃〜+40℃、好ましくは−5℃〜+30℃の温度で行う。
一般式(7)で表される化合物のエステル残基は、従来のアルカリ加水分解法によって対応するカルボン酸に容易に変換できる。
R1がヒドロキシル基である化合物は、一般式(7)の化合物のエステル基を加水分解することによって得ることができる。
このようにして調製されたピペラジン誘導体は、薬剤学的に許容し得るその塩、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウムもしくはマグネシウム塩、またはトリアルキルアミン、ジベンジルアミン、N−低級アルキルピペリジン、N−ベンジル−β−フェネチルアミン、α−フェネチルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン、あるいは塩酸、臭化水素酸、蟻酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸または酒石酸などとの塩に任意に変換することができる。さらに、Kenji-Moriら(Tetrahedron,Vol.36(1),87-90,1980)または日本特許公開第3-18629号(1991)の方法によって合成できる(2S,3S)-エポキシコハク酸モノエステルまたは(2R,3R)−エポキシコハク酸モノエステルなど光学活性トランス−エポキシコハク酸モノエステル(6)を用いて、光学活性エポキシコハク酸基を有する本発明の一般式Iの化合物を上記の方法によって得ることが可能である。
薬剤的使用
本発明のさらなる態様によって、一般式Iの化合物または薬剤学的に許容し得るそれらの塩を活性成分として含む癌の細胞死誘導のための医薬が提供される。
本発明による一般式Iの化合物または薬剤学的に許容し得るそれらの塩の癌における細胞死誘導医薬としての有用性は、それらがアポトーシスおよび癌細胞の多剤耐性解除の誘導において優れた効果を有するという事実によって確認された。
さらに、マウスおよびラットを用いた急性毒性試験から、本発明の化合物はヒトにきわめて安全であることが見出された。例えば、NCO-700のラットへの静注によるLD50は、317mg/kgである。化合物のこの無毒性は、あきらかな副作用なしで、この化合物を癌腫が抑制されるまでの長期間、中断することなく患者に毎日投与することを可能にする。化合物の無毒性、アポトーシス効果および多剤耐性の解除は、従来の化学療法を完全に変えると思われる。
一般式Iの化合物および薬剤学的に許容し得るそれらの塩の投与量は、癌進行の段階、癌の種類、その多剤耐性の程度、および現行の化学療法のタイプによって異なる。一般に、癌細胞のアポトーシスおよび多剤耐性の解除を効果的に誘導するには、約15μg/kg〜約250mg/kg、好ましくは約250μg/kg〜約100mg/kg、より好ましくは約1mg/kg〜約50mg/kgが患者に投与される。標的として適当な癌は、ヒト乳癌細胞、ヒト黒色腫細胞、ヒト卵巣癌細胞、ヒト大腸癌細胞、ヒト膵臓癌細胞、ヒト前立腺癌細胞であり、とくにこれら癌細胞が未分化期にある場合に適する。
医薬品としての種々の調剤物のために、一般式Iの化合物およびそれらの塩は、通常、製剤用担体と組み合わせて医薬組成物に調製される。担体の例としては、稀釈剤または賦形剤、結合剤、崩壊剤および潤滑剤などの添加剤がある。
そのような医薬は、注射剤、粉剤、カプセル、顆粒、錠剤またはアンプルの剤型で提供される。
錠剤の場合、当業者に公知の担体が用いられ、これは例えば、乳糖、蔗糖、塩化ナトリウム、グルコース溶液、澱粉、炭酸カルシウム、結晶セルロースまたは珪酸などの添加剤、水、エタノール、プロパノール、グルコース、澱粉溶液、ゼラチン溶液、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロースまたは燐酸カリウムなどの結合剤、乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉または乳糖などの崩壊剤、またはステアリン酸塩、ほう酸粉末または固体ポリエチレングリコールなどの潤滑剤から選択される。望ましければ、錠剤は糖またはゼラチン被覆またはフィルムコーティングしてもよい。
注射剤の場合、例えば、水、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビットまたはソルビタンエステルから選択される稀釈剤を用いる。その場合、塩化ナトリウム、グルコースまたはグリセリンを十分量加えて、等張溶液にしてもよい。また、通常用いられる溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤または保存剤などを適宜加えてもよい。
本発明のピペリジン誘導体は、単一でまたは化学療法剤または放射線療法などの他の化学療法と組み合わせて投与することができる。ピペラジン誘導体とビンブラスチンおよびアドリアマイシンなどの化学療法剤との組み合わせの場合、ピペラジン誘導体はそのような化学療法剤と実質上同時に投与することができる。そのために、ピペラジン誘導体を化学療法剤と一様に任意の剤型に形成することができる。
本発明を特定の実施例および試験例によってより詳細に説明するが、これらは説明を目的としており、制限を意図するものではない。各試験化合物は、上記に説明した製造方法に基づいて合成した。試験例は、一般式Iの化合物および薬剤学的に許容し得るそれらの塩が癌細胞のアポトーシスおよび多剤耐性の解除に優れた効果を有することを示すものである。
実験例1:NCO-700および関連誘導体単独の抗腫瘍活性
NCO-700
ビス[エチル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-008
ビス[エチル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-009
ビス[ベンジル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-013
ビス[フェニル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-017
ビス[(2R,3R)−2−ベンジルカルバモイル−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン]硫酸塩
方法
本実験例では、化合物の抗腫瘍活性を測定するために三つの異なるアッセイを用いた。
1.癌細胞死アッセイ:細胞死を、傷害または殺傷された細胞からのマーカー細胞内酵素乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の遊離によって定量した。LDHの細胞外液への遊離を癌細胞を薬剤暴露して24時間後に測定して、酵素活性をDeckerら(J.Immunolog Methods 15: 61-99,1988)の方法によって決定した。
2.細胞生存アッセイ:細胞生存を、培養した腫瘍細胞においてアッセイした。ウェル当たり500〜1000個の細胞を24ウェル培養プレートに播種して、薬剤に7日間暴露した。薬剤暴露後、コンピュータ化細胞造影法を用いて、各培養に残存する生存細胞数を確認した。データから生存曲線をプロットして、ED50(50%の細胞が生存できる薬剤濃度)を算出した。
3.インビボモデル/腎臓下カプセル(SRC)腫瘍移植アッセイ:マウスの腎臓カプセルにヒト腫瘍を移植して、腫瘍移植モデルをつくった。腫瘍はマウスの免疫機構をうまく免れて6日間以上増殖した。このアッセイの利点は、化学療法剤の効果をインビボで試験できることである。このモデルは、カリフォルニア大学(アーバイン)においてStrattonら(Gynecologic Oncology 17: 185-188,1984)によって開発された。ヒト腫瘍を第1日目に移植した後、薬剤に第2〜6日目に暴露した。移植腫瘍の大きさを薬剤ゼロ時および薬剤処理5日間の最後に測定して、第6日目の移植腫瘍サイズの違いを薬剤暴露しなかった対照動物と比較して、これをここでデルタ平均と称する。
使用した細胞株
本実験例に使用した全細胞株はAmerican Type Tissue Culture Laboratoryから得て、それぞれの仕様書に従って培養した。特記した以外は、全てヒトの癌細胞株を用いた。我々の研究に使用した細胞株およびそれらの起源組織を以下に示す。
結果
1)NCO-700と癌細胞死:最初に行うアッセイでは、NCO-700単独の抗腫瘍活性を多種のヒト癌細胞に対する細胞死アッセイにおいて測定した。これら実験の結果を第1〜6図に示す。図中、NCO-700対%LDH遊離の投与量反応曲線をプロットするが、LDH遊離値が高いほど抗腫瘍活性が高いことを示す。これらのアッセイから、(i)乳癌細胞株では、NCO-700に応答した細胞は、一般により未分化でしたがって悪性の腫瘍とされるエストロゲン受容体陰性のものであり、(ii)黒色腫の場合は、全細胞株がNCO-700に感受性を示し、(iii)前立腺癌細胞株では、テストステロン受容体陰性(そしてより悪性)の細胞株がNCO-700にきわめてよく応答し、(vi)大腸および卵巣癌細胞株は一部応答し、そして(v)白血病および肝臓癌細胞株はNCO-700に応答しなかったことが認められる。しかし、後述する実験(実験例7)で示すように、NCO-700は、腫瘍のアポトーシスに有意な効果を示さない場合でさえも、ビンブラスチンおよびアドリアマイシンなどの標準的化学療法剤と組み合わせて用いた場合は薬剤耐性腫瘍に対して有意な抗腫瘍活性を有する。
2)NCO-700誘導体と細胞死:一連のNCO-700関連誘導体を癌細胞死アッセイした。第7図に示すように、これら誘導体の多くが、乳癌細胞株のHS-578TからのLDH遊離で測定された有意な抗腫瘍活性を有した。NCO-700と比較すると、TOP-008、TOP-009およびTOP-013の三つの誘導体がより高い活性を示した。とくにTOP-008は、NCO-700よりも乳癌細胞死率が約3倍も高い最高の活性を示した。これら誘導体は、他の化学療法剤を添加することなく単独で試験されたことは注目すべきである。
TOP-008がこれまでにインビトロ(in vitro)で試験されたNCO-700誘導体のうちで最も有効であることが明らかになったので、その抗腫瘍活性を他の癌細胞株に対して試験した。第8図は、乳癌、前立腺および大腸癌細胞株の殺傷に及ぼすTOP-008の効果の用量反応曲線を示す。この誘導体は、これら癌細胞株に対して単独で優れた活性を示す。
3)NCO-700と癌細胞生存アッセイ:癌細胞生存アッセイは、細胞を薬剤に長期間(7日間)暴露するので、化合物の抗腫瘍活性を評価するための重要な追加のインビトロアッセイである。第9〜16図は、種々の癌細胞株の生存に及ぼすNCO-700の濃度増加の影響を示す。生存試験によって、細胞死アッセイによって得られた結果、すなわち種々のヒト癌(乳癌細胞株T-47DおよびHS-578T、大腸癌細胞株LS-174TおよびWIDRならびに前立腺癌細胞株DU-145、PC-3およびLN)に対して、NCO-700が単独で有意な抗腫瘍活性を示すことが確認される。図中、縦軸は対象領域を示し、これはコンピュータによって算出された生存癌細胞数である。
4)SRCアッセイにおける、インビボで増殖させたヒト前立腺癌細胞に及ぼすNCO-700の影響:ヒト癌細胞をマウスの腎臓下カプセルで増殖させることができる。ここで、細胞は限られた期間、マウス免疫系から免れる。このアッセイは、腫瘍細胞に及ぼす薬剤の影響をインビボで研究するための適切な系を提供する。これはインビトロのアッセイと較べてずっと時間がかかり、より多くの薬剤を要するので、一つの前立腺癌細胞株に及ぼすNCO-700の影響を試験した。三群の動物(合計n=23)を10mg/kg、20mg/kgおよび40mg/kgの三つのNCO-700濃度で試験した。第17図に示すように、マウスの腫瘍サイズを減少させるNCO-700の投与量依存性効果が認められる。10mg/kgでは効果が認められなかったが、20mg/kgおよび40mg/kgレベルではNCO-700の有意な抗腫瘍効果が認められた。40mg/kgでは、NCO-700の効果はp>0.001できわめて有意である(第17図参照)。ここでもまた、NCO-700の抗腫瘍効果は他の薬剤の添加なしで単独で認められたことから、本化合物および関連化合物の新抗腫瘍剤としての高い可能性を示す。
5)SRCアッセイにおける、インビボで増殖させたヒト乳癌細胞に及ぼすNCO-700の影響:乳癌細胞株に及ぼすNCO-700の影響をSRCアッセイで試験した。三群の動物(合計n=18)を10mg/kg、25mg/kgおよび50mg/kgの三つのNCO-700濃度で試験した。第18図に示すように、マウスの腫瘍サイズを減少させる投与量依存性のNCO-700の効果が認められる。10mg/kgでは効果が認められなかったが、25mg/kgおよび50mg/kgレベルではNCO-700の有意な抗腫瘍効果が認められた。これらの結果は、NCO-700および関連化合物の新抗腫瘍剤としての高い可能性を確実にする。
6)SRCアッセイにおける、インビボで増殖させたヒト大腸癌細胞に及ぼすNCO-700の影響:大腸癌細胞株に及ぼすNCO-700の影響をSRCアッセイで試験した。三群の動物(合計n=18)を50mg/kgおよび100mg/kgの二つのNCO-700濃度で試験した。第19図に示すように、マウスの腫瘍サイズを減少させる投与量依存性のNCO-700の効果が認められる。50mg/kgでは僅かな効果しかなかったが、100mg/kgレベルではNCO-700の有意な抗腫瘍効果が認められた。これらの結果は、NCO-700および関連化合物の新抗腫瘍剤としての高い可能性を確実にする。
結論
本実験例1は、NCO-700が単独で特定の腫瘍に対して抗腫瘍剤としてきわめて効果的であることを実証する。NCO-700誘導体のTOP-008は、NCO-700に較べて3倍の抗腫瘍効果を示した。NCO-700の抗腫瘍活性のメカニズムは、アポトーシス関連メカニズムに基づくと考えられる。
実験例2:TOP-008および他のNCO-700誘導体単独の抗腫瘍活性
TOP-001
ビス[ベンジル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-012
ビス[3−オキソ−2−ベンゾキソラン−1−イル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-015
ビス[(2R,3R)−2−ベンジルカルバモイル−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン]硫酸塩
TOP-003
ビス[トリメチルアセトキシメチル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-005
ビス[フェニル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-006
ビス[5−インダニル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-010
ビス[2−(2,5−ジオキソ−1−ピロリジニル)エチル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
方法
実験例1と同様にして、三つの異なるアッセイを行って、化合物の抗腫瘍活性を測定した。
結果
1)NCO-700誘導体と癌細胞死:最初に行うアッセイでは、多種のヒト癌細胞に対するNCO-700誘導体の抗腫瘍活性を細胞死アッセイにおいて測定した。これら実験の結果を第20〜25図に示す。図中、棒グラフは%遊離LDHで測定された特定の誘導体の活性を示すが、LDH遊離値が高いほど抗腫瘍活性が高いことを表す。全誘導体を25μMの濃度で試験した。これらのアッセイからNCO-700の誘導体はその抗腫瘍活性に高い選択性を有し、ある誘導体はNCO-700自体よりも有意に高い活性を示すことが認められた。誘導体は、腫瘍のアポトーシスにおいて有意な効果が認められない場合でも、標準的化学療法剤とともに用いれば有意な抗腫瘍活性を耐性腫瘍に対して示すであろう。
2)TOP-008と癌細胞生存アッセイ:第26〜31図は、種々の癌細胞株に対するTOP-008投与量増加の影響を示す。生存試験によって、TOP-008は高活性の抗腫瘍剤(アポトーシス剤)であって、場合によってはNCO-700よりも高い活性を示すことが実証される。例えば、ヒト大腸癌細胞株WIDRに対するNCO-700とTOP-008との活性を比較すると(実験例1の第16図対第31図)、TOP-008の有効投与量はずっと少ないことがこの特定アッセイにおいて認められる。
実験例3:NCO-700および関連誘導体の単独での膵臓癌細胞に対する抗腫瘍活性
方法
実験例1と同様にして、癌細胞死アッセイを行って、化合物NCO-700、TOP-001、TOP-003、TOP-005、TOP-006、TOP-008、TOP-009、TOP-010、TOP-012、TOP-013、TOP-015およびTOP-017の抗腫瘍活性を測定した。
使用細胞株
ヒト膵臓癌細胞株ASPC-1およびHS-766TをAmerican Type Tissue Culture Laboratoryから得て、それぞれの仕様書にしたがって培養した。
結果
実験結果を第32図に示す。図中、棒グラフは特定誘導体による24時間の刺激による%LDH遊離として測定された各誘導体の活性を示すが、LDH遊離値が高いほど抗腫瘍活性が高いことを表す。全誘導体を25μMの濃度で試験した。これらのアッセイからある誘導体、とくにTOP-008およびTOP-009は、NCO-700自体よりも有意に高い活性を示すことが認められる。
実験例4:NCO-700とカルパインインヒビターとの癌細胞死アッセイにおける比較
上記実験例1に基づいて、NCO-700およびカルパインインヒビター1(N−アセチル−leu−leu−ノルロイシン、C20H37N3O4)の抗癌活性をヒト癌細胞株DU-145の癌細胞死アッセイにおいて試験した。第33図は、カルパインインヒビター1(Boehringer-Ingelheimから入手)およびNCO-700のデータを示す。第33図において、NCO-700は明らかに他のインヒビターよりも優れている。100μMで、NCO-700はほぼ10倍の活性を示す。
長期アッセイ(細胞生存アッセイ)でカルパインインヒビター1の試験を試みたが、化学構造から予想されたようにカルパインインヒビター1は細胞毒性を示し、この毒性はこの化合物の細胞生存アッセイすなわちインビボアッセイでの試験を妨げると思われる。
実験例5:NCO-700、TOP-008および関連誘導体単独の抗腫瘍活性
TOP-201
ナトリウム(2RS,3RS)−3−[(S)−3−メチル−1−(4−フェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート
TOP-202
ナトリウム(2RS,3RS)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(4−メトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート
TOP-203
ナトリウム(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2−ピリミジニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート
TOP-204
ナトリウム(2S,3S)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2−ピリミジニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート
TOP-205
ビス[エチル(2RS,3RS)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-206
ビス[イソブチル(2RS,3RS)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
TOP-207
カリウム(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(2,3,4−トリメトキシフェニルメチル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート
TOP-007
ナトリウム(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート
上記実験例1に基づいて、NCO-700、TOP-008ならびに誘導体のTOP-201、202、203、204、205、206、207および007の抗癌活性をヒト癌細胞株HS-578Tの癌細胞死アッセイで試験した。第34図(1,000細胞/ウェル)および第35図(1,500細胞/ウェル)において、棒グラフは%遊離LDH(DMSO、ジメチルスルホキシド=対照)によって測定された特定誘導体の活性を示すが、遊離LDH値が高いほど抗腫瘍活性が高いことを表す。全誘導体を25μMの濃度で試験した。これらのアッセイからTOP-008(合成後6ヶ月(OLD)および新合成(NEW))がきわめて良好な抗腫瘍活性を示し、TOP-206およびNCO-700がかなり良好な抗腫瘍活性を示したことが認められる。試験した他の誘導体もまた、いくらかの抗癌活性を示した。硫酸塩はより良い結果を示すようである。
実験例6:アポトーシス検出アッセイにおけるTOP-008の抗腫瘍活性
TOP-008の抗腫瘍活性を、市販のキットすなわちR & D SYSTEMS(ミネソタ)社のアポトーシス検出キットを用いて試験した。このキットでは、製造者の推奨する指示にしたがってカルシウムおよび燐脂質結合タンパク質の一つであるアネクシンVを用いてアポトーシスを検出する。TOP-008を、50μMの濃度でヒト乳癌細胞株HS-578Tを用いて試験した。細胞を冷PBSで2回洗浄して、少量の1×結合緩衝液に再懸濁した。フルオレセイン標識したアネクシンVおよびヨウ化プロピジウム(propidium iodide)を細胞に加えた。細胞膜の外層(outer leaflet)上にホスファチジルセリンを発現している細胞はアネクシンVを結合し、膜に傷害を受けた細胞ではヨウ化プロピジウムが細胞DNAに結合する。得られる細胞を直ちにフローサイトメトリーで分析すると、三つの細胞集団に分けられる。すなわち、どの蛍光色素でも染まらない生細胞、両蛍光色素で染まるネクローシス細胞およびアネクシンV-FITC試薬のみで染まるアポトーシスをうけている細胞である。分析は、サイトメーターにより、波長488nmの励起レーザー光で行った。アネクシンV-FITCによって生じるシグナルはFITCシグナル検出器(FL1)で検出した。結果を第36図に示す。図中、縦軸はフルオレセイン蛍光強度であり、横軸は細胞数を表す。第36a、36bおよび36c図は、正常癌細胞(対照)、TOP-008処理(50μM)した癌細胞およびTOP-008処理(25μM)した癌細胞をそれぞれ示す。第36図は、TOP-008がヒト乳癌細胞においてアポトーシスを誘導することを明らかに示している。
実験例7:アポトーシス誘導DNA断片化
前立腺腫瘍細胞株のPC-3を、25μMのTOP-008、50μMのNCO-700または水で48時間処理した。各試料からのDNAをフェノール抽出によって精製して、その断片化をアガロースゲル上で調べた。その結果、TOP-008およびNCO-700で処理した試料はいずれもあきらかなDNA断片化を示したが、対照(水処理)試料は示さなかった。この断片化はアポトーシスを表すことが示されている(Jarvis et al.,Canc.Res.1154: 1707-1714,1994; Pandey et al.,Biochem.Cell Biol.72:625-629,1994)。
実験例8:他の関連化合物の抗腫瘍活性
方法
試験化合物の構造:上記のように、三つの試験アッセイを用いて、NCO-700、TOP-008、TOP-009、TOP-013、TOP-017、TOP-018、TOP-019およびTOP-020の抗腫瘍活性を評価した。TOP-018、TOP-019およびTOP-020の構造を以下に示す。
ビス[i−ブチル(2R,3R)−3−[(S)−3−メチル−1−[4−(3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
ビス[エチル(2R,3R)−3−[(S)−1−[4−(トランス−3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]ブチルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
ビス[エチル(2R,3R)−3−[(S)−2,2−ジメチル−1−[4−(トランス−3−フェニル−2−プロペニル)ピペラジン−1−イルカルボニル]プロピルカルバモイル]オキシラン−2−カルボキシラート]硫酸塩
癌細胞死アッセイ:細胞死を、傷害または殺傷されたHS587-Tヒト乳癌細胞からのマーカー細胞内酵素乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の遊離によって定量した。LDHの細胞外液への遊離を癌細胞を薬剤暴露して24時間後に測定して、酵素活性をDeckerら(J Immunolog Methods 15: 61-99,1988)の方法によって決定した。
細胞生存アッセイ:細胞生存を、培養したHS578-Tヒト乳癌細胞においてアッセイした。1000個の細胞を24ウェル培養プレートに播種して、薬剤に7日間暴露した。薬剤暴露後、コンピュータ化細胞造影法を用いて、各培養に残存する生存細胞数を確認した。データから生存曲線をプロットした。
インビボモデル/腎臓下カプセル(SRC)腫瘍移植アッセイ(腹腔内):マウスの腎臓カプセルにヒト腫瘍を移植して、腫瘍移植モデルをつくった。腫瘍はマウスの免疫機構をうまく免れて6日間以上増殖した。このアッセイの利点は、化学療法剤の効果をインビボで試験できることである。このモデルは、カリフォルニア大学(アーヴィン)においてStrattonら(Gynecologic Oncology 17: 185-188,1984)によって開発された。ヒト前立腺腫瘍を第1日目に移植した後、薬剤に第2〜6日目に暴露した。移植腫瘍の大きさを薬剤ゼロ時および薬剤処理5日間の最後に決定して、第6日目の移植前立腺腫瘍のサイズの違いを薬剤暴露しなかった対照動物と比較して、これをここでデルタ平均と称する。
結果
最初のアッセイで、HS578-Tヒト乳癌細胞に対する細胞死アッセイにおけるNCO-700誘導体の抗腫瘍活性を測定した。これら実験の結果を第38〜43図に示す。各アッセイで、誘導体は1、5、10、25および50μMの五つの異なる濃度で試験した。さらに、いくつかのアッセイにおいては、TOP-008、TOP-018およびNCO-700の25μMの試験を同時に行い、新誘導体の活性を前に試験した化合物の活性と直接比較できるようにした。第38〜43図において、棒グラフは特定誘導体の活性を%遊離LDHで測定して示すが、遊離LDH値が高いほど抗腫瘍活性が高いことを示す。これらのアッセイから、TOP-017およびTOP-020を除いた全ての新誘導体が、このアッセイではNCO-700よりも有効であることが認められる。
癌細胞生存アッセイ:癌細胞生存アッセイは、細胞を薬剤に長期間(7日間)暴露するので、化合物の抗腫瘍活性を評価するための重要な別のインビトロアッセイである。第44および45図は、1、5、10、25および50μMのNCO-700誘導体のHS578-Tヒト乳癌細胞の生存に及ぼす影響を示す。この生存試験で、これら誘導体のいくつかが高い有効性を有することが確認される。
インビボで増殖させたヒト前立腺腫瘍:上記したように、ヒト癌細胞はマウスの腎臓下カプセル中で限られた期間、マウスの免疫を免れて増殖することができる。このアッセイは、腫瘍細胞の増殖に及ぼす薬剤の影響をインビボで研究するのに都合のよい系を提供する。我々は、NCO-700誘導体のヒト前立腺腫瘍に及ぼす影響を、体重1kg当たり25および50mgの二つの異なる濃度で試験した。各実験群は6動物からなり、活性が50mg/kgの高用量で認められた場合、低用量(25mg/kg)を投与した。第46〜50図に示すように、TOP-013が試験した最高用量でもごく僅かの効果しか示さなかったのに対して、TOP-008、TOP-009およびTOP-017は25mgおよび50mg/kgの両投与量で統計的に有意な腫瘍萎縮効果を示した。TOP-018、TOP-019およびTOP-020はこのアッセイでは活性を示さなかった。TOP-018のインビボでの活性欠如はインビトロでの強い活性を考えるととくに驚きだったが、この化合物のバイオアベイラビリティに問題があるとも考えられる。
実験例9:共焦(confocal)レーザー顕微鏡法で検出した癌細胞におけるNCO-700およびTOP-008によるアポトーシスの誘導
本実験は、本発明の化合物がインビボの癌細胞においてアポトーシスを起こすことを確認する。癌アッセイは、細胞培養中で高密度に増殖させたヒト肉腫癌細胞をマウスの腹膜腔に直接注入して行った。マウスの腹部で腫瘍細胞を増殖させた後、動物をNCO-700またはTOP-008で処理した。次いで、処理した癌細胞を共焦レーザー顕微鏡法で調べる。この技術によって癌細胞の核内の核物質の規則的構造の観察が可能になり、細胞中のアポトーシスを直接に見ることができる。
方法:
NCO-700およびTOP-008で処理した癌細胞におけるアポトーシスの共焦レーザー顕微鏡法による測定:細胞の核内の核酸の崩壊および不規則化は、アポトーシスの顕著な特徴である。この現象を、癌細胞中の核酸(DNAおよびRNA)をインシトゥ(in situ)で標識してから、走査型共焦レーザー顕微鏡法によって核酸を可視化することによって調べた(Smith GJ et al.,J Electron Microsc Tech 18:38-49,1991; Kressel M and Groscurth PI,Cell Tissue Res.278: 549-561,1994)。
20〜22gのスイス-ウェブスターマウスの腹膜腔内に、1×107個のヒト肉腫癌細胞S-180を直接接種した。48時間後に、動物に癌細胞を定着させてから、NCO-700またはTOP-008を1動物当たり2mgの用量で1日1回腹膜腔内投与した。薬剤連続投与第8日目に、動物から癌細胞を分離して、上記の二つの引用文献に詳述されているように走査型共焦レーザー顕微鏡法で観察した。さらに追加の実験を、近交系ブラックマウスc57BL/6J(Jackson Labs)を用いて行った。
共焦顕微鏡検査に先だって癌細胞をアクリジンオレンジで染色した。アクリジンオレンジは核酸を特異的に染色する染料で、核酸と結合すると蛍光を発する。蛍光分布を個々の癌細胞でプロットすることができ、各図に示される色値はDNAの完全性を表す。すなわち、最高値(白色)は健康な細胞に典型的な緻密で高度に規則的な核酸を示し、色値が低くなるにつれて、アポトーシスに特徴的な緻密性に劣る不規則なDNAが増し、これはDNA断片化が起きていることを表す(Kressel M and Groscurth PI,Cell Tissue Res.278: 549-561,1994)。顕微鏡は、Meridian Instruments(Okemos,MI)レーザー走査型共焦顕微鏡を用いて行った。
癌細胞死アッセイ:TOP-008、カルパインインヒビター1およびN-Cbz-Leu-Leu-Tyrジアゾメチルケトン(Biochemical and Biophysical Research Communications Vol.214,No.3,September 25,1995,pp.1130-1137)を含む選択された化合物を細胞死アッセイで測定した。細胞死は、傷害または殺傷されたHS578-Tヒト乳癌細胞からのマーカー細胞内酵素の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の遊離によって定量測定した。癌細胞に薬剤暴露して24時間後にLDHの細胞外液への遊離を測定して、酵素活性をDeckerら(J Immunolog Methods 15:61-99,1988)の方法によって決定した。
結果:
癌細胞死アッセイ
TOP-008(TOP)、カルパインインヒビター1(CAL.1)およびN-Cbz-Leu-Leu-Tyrジアゾメチルケトン(N-CBZ)の抗腫瘍活性を、HS578-Tヒト乳癌細胞に対する細胞死アッセイで測定した。この実験結果を第51図に示す。このアッセイで、化合物は図中に示した濃度(μM)で試験した。第51図において、棒グラフは%遊離LDHで測定した特定化合物の活性を示すが、遊離LDH値が高いほど抗腫瘍活性が大きいことを示す。これらのアッセイから、試験化合物の全てが抗腫瘍活性を有し、TOP-008が最も有効であることが認められる。N-CBZは、最高試験濃度(50μM)で培養液中に沈澱した。N-CBZはある程度まで癌細胞を殺すが、N-CBZが癌細胞を殺すメカニズムは細胞への毒性のためとも考えられる。
NCO-700およびTOP-008で処理した癌細胞におけるアポトーシスの共焦レーザー顕微鏡法による測定:ヒト肉腫を腹膜中に接種したマウスをTOP-008またはNCO-700(2mg/日、腹腔内注射)のいずれかで8日間処理した結果、動物の腫瘍塊に有意な減少が認められた。代表的動物の写真を第52および53図に示す。第52図は、S-180ヒト肉腫細胞を移植したスイス−ウェブスターマウスを示す。対照動物の腹部の膨張は顕著で、これら動物における大きな腫瘍塊を示している。NCO-700またはTOP-008のいずれかで処理した動物の腫瘍塊は、大変小さい。第53図に示すように、ブラックマウスC57BL/6Lをこの二薬剤で同じ投与量で処理した場合も、同様の結果が得られる。このマウス種において、NCO-700は腹膜内腫瘍塊をより効果的に減少させるようであった。
8日後に腹膜液を動物から回収して、液中の腫瘍細胞をアクリジンオレンジ(0.01%)で染色して、共焦レーザー顕微鏡法に供した。第54〜56図は、S-180ヒト肉腫細胞を移植した対照および薬剤処理スイス−ウェブスターマウスから得られた単一癌細胞の代表的走査像である。第54図は、対照動物からの典型的な細胞で、核画分の核酸の明るい球状の染色は高度に規則的な核物質を示し、これは分裂している健康な細胞を意味する。これに対して、第55および56図は、NCO-700(第55図)およびTOP-008(第56図)処理動物から回収された典型的な癌細胞であって、これらの細胞中の核物質は小裂片様で不規則で、プログラムされた細胞死すなわちアポトーシスの進行している細胞の典型を示す。
また、共焦レーザー顕微鏡法によって、健康細胞に特有の高度に規則的な核物質の相対量を算出して、アポトーシス進行中の細胞に特有のより不規則な核物質の量と比較することができる。第57〜59図は、第54〜56図と同じ動物から回収した細胞のそのような核酸蛍光分布をしめす。対照動物(第57図)では、これらの動物から回収された腫瘍細胞における高度に規則的な核酸(DNAおよびRNA)の割合は相対的に高い。高度に規則的なDNAは高い色値を有し、蛍光分布の頂部に白色の「フロスティング」(ケーキ様の形状)として第57図に見られる。これに対して、NCO-700に暴露した動物(第58図)では高度に規則的なDNAは有意に減少しており、TOP-008に暴露した動物(第59図)では全く認められない。これらの結果は、薬剤処理した動物から分離した癌細胞ではアポトーシスが起きていることを示し、アポトーシスがNCO-700およびTOP-008の抗癌効果のメカニズムである可能性を確実にする。
実験例10(比較例):関連化合物の抗腫瘍活性
方法
試験化合物の構造:上記と同様の方法で、乳癌細胞株HS578T(最も感受性の高い細胞株のひとつ)を用いて癌細胞死アッセイを行って、TOP-101〜TOP-115(WO9630378、WO9630354)の抗腫瘍活性をNCO-700およびTOP-008と比較して評価した。これらの化合物の構造は下記のようである。
結果
乳癌細胞を用いる細胞死アッセイにおけるNCO-700誘導体の抗腫瘍活性を第60図に示す。ここで棒グラフは%遊離LDHによって測定された特定の誘導体の活性を表すが、遊離LDH値が大きいほど抗腫瘍活性が高いことを示す。全誘導体を25μMの濃度で試験した。これらアッセイから、NCO-700およびその誘導体TOP-008は上記報告のように良好な抗腫瘍活性を有したことが認められる。他の試験誘導体のうち、TOP-104のみがある程度の抗癌活性を示したが、これは比較的弱かった。
実験例11:ヒト腫瘍におけるNCO-700の多剤耐性解除効果
上記実験例は、本発明のピペラジン誘導体の新たな態様、アポトーシスを確立した。すなわち、これら誘導体は単独で抗腫瘍剤としてきわめて有効である。次の実験は、ピペラジン誘導体をビンブラスチンおよびアドリアマイシンなどの標準的化学療法剤と併用した場合、それらの化合物がある癌細胞株にアポトーシスを有意に引き起こさない場合でさえも、ピペラジン誘導体が薬剤耐性腫瘍に対して有意な抗腫瘍活性を有することを示す例である。
方法および結果
本実験例では、四つの異なるアッセイを行って、癌細胞または腫瘍の薬剤耐性表現型をブロックまたは解除するNCO-700の効能を測定した。アッセイには以下のものが含まれる。
1.薬剤蓄積アッセイ:放射性抗癌剤(3H)−ビンブラスチンの取込に及ぼすNCO-700の影響を、薬剤耐性および薬剤感受性のそれぞれの培養癌細胞中で測定する(引用文献3)。
2.細胞生存アッセイ:ビンブラスチンによる癌細胞死を増強するNCO-700の効果を測定した。
3.腫瘍形成性のインビボモデル:薬剤耐性腫瘍におけるアドリアマイシンによる腫瘍サイズ退縮能に及ぼすNCO-700の影響を測定した。
使用細胞株
最初の二つのインビトロアッセイ、すなわち薬剤蓄積アッセイおよび細胞生存アッセイでは、抗癌剤に高度に耐性のヒト咽頭癌腫細胞株(KB-V-1)を用いた。この細胞株は、国立癌研究所のIra PastanおよびMichael Gottesman博士によって、薬剤耐性細胞をコルヒチン処理によって段階的に選択して開発された。対照癌細胞株(KB-3)は、この薬剤耐性株が分離された元の株であるが、抗癌剤に感受性である。ビンブラスチンに対して、耐性KB-V-1細胞株は感受性KB-3細胞株よりも約275倍耐性であって、大きく増幅されたmdr遺伝子を有し、これがこのような耐性をもたらす。
腫瘍形成性のインビボモデルには、PastanおよびGottesmanによって開発された、固形腫瘍としてヌードマウスで増殖できる細胞株を用いた。この細胞株をKB-CH 8-5と称したが、これは非解除耐性細胞株であった。これら癌細胞株は全て、Gottesman博士からの提供であった。
薬剤蓄積アッセイの結果を以下の第2表にまとめる。[3H]−ビンブラスチン蓄積の測定を、GottesmanおよびPastan博士の研究室で開発された方法(Fojo et al.,Cancer Res.45:3002-3007,1985)によって行った。この方法では、10%ウシ胎児血清でKB-V-1およびKB-3細胞を3×105細胞/ウェルの密度で24ウェルのコスタープレートに播種した。次の日に、増殖培地を20μMのNCO-700を含むあるいは含まない(対照)ダルベッコの改変イーグル培地に換えた。10分後に培地を除去して、0.1μCi、(13pmol)[3H]-ビンブラスチンを含み、20μMのNCO-700を含むあるいは含まないアッセイ培地(0.5ml)に換えた。さらに30分後、培地を除去して、プレートを氷冷燐酸塩緩衝生理食塩水で3回洗浄して、細胞をトリプシンで剥がしてから、シンチレーションカウンターで放射能測定した。
上記第2表で示すように、抗癌剤ビンブラスチンの蓄積は、mdrポンプの作用で、薬剤耐性細胞株KB-V-1では著しく制限された。しかし、この細胞株を20μMのNCO-700に暴露した場合、癌細胞中に残るビンブラスチン量は5倍に増加した。以下の第3表に示すように、これは薬剤耐性細胞の殺傷を促進する。
上記の細胞生存実験を、KB-3(感受性)およびKB-V-1(耐性)細胞を32mmウェルプラスチックプレートに300〜500細胞/ウェルの細胞密度で播種して行った。最初に細胞を播種してから16時間後に、ビンブラスチンおよびNCO-700を加えた。37℃で10日間培養した後、細胞コロニーを染色して計数した。
第3表に示すように、NCO-700はKB-V-1耐性癌細胞の生存に劇的な影響を及ぼした。耐性細胞を30μMのNCO-700とともにインキューベートした場合、腫瘍細胞の50%を殺すのに必要なビンブラスチンのレベルは825ngから160ngに低下した。この効果はmdrポンプの阻害またはブロックを反映するもので、その結果、細胞中の抗癌剤のレベルを上げる。興味深いことに、この実験例ではまた、感受性KB-3細胞の殺傷もわずかに促進された。
次の一連の実験では、腫瘍形成性のインビボモデルを用いて、腫瘍サイズに及ぼすNCO-700の影響を調べた。これら実験には細胞株KB-CH-8/5を用いたが、これはとくにインビボで動物において固形腫瘍由来の細胞として使用するためにGottesmanおよびPastan博士によって開発された細胞株である。5〜6週令で体重25〜30gの雄ヌードマウスに2〜5×106個のKB-CH-5/8細胞を皮下注射してから、1日当たり0.6mg/kgのアドリアマイシンおよび0〜80mg/kgのNCO-700で14日間処理した。第37図に示すデータは、よく被包されて摘出された腫瘍重量の測定とマウス体重の記録によって得られた。第37図から明らかなように、NCO-700の添加はアドリアマイシンの効果を、とくに40mg/kg以上の量で、有意に増強した。
結論
NCO-700は、ヒト癌腫細胞株において抗癌剤ビンブラスチンの蓄積を5倍に促進した。その結果、これら癌細胞の殺傷性がきわめて有意に増加した。NCO-700をアドリアマイシンとともに耐性ヒト腫瘍(KB-CH 8-5)を有するヌードマウスに投与した場合、NCO-700それ自体は有意に有効ではなかったが、体重を減少させることなく約60%の腫瘍サイズの縮小が認められた。
上記実験は、ピペラジン誘導体をビンブラスチンおよびアドリアマイシンなどの標準的化学療法剤と併用した場合、これらの化合物がある癌細胞株のアポトーシスでは有意に効果的ではない場合でさえも、ピペラジン誘導体が薬剤耐性腫瘍に対して有意な抗腫瘍活性を有することを示す例である。したがって、臨床的試みとして、まず、本発明のピペラジン誘導体を第一選択の化学療法剤として癌(多剤耐性の有無にかかわらず)を有する患者に投与して、化合物が単独では有効でなさそうな場合、別の化学療法、例えば他の化学療法剤の本発明のピペラジン誘導体との実質上同時投与などを補助療法として追加する。
加えて、本発明の医薬は、皮膚の角質増殖、乾癬、乳房および前立腺の良性過形成、ホジキン病および他のリンパ腫、白血病および大腸ポリープを含む増殖性または前癌性細胞などの細胞の治療に用い得る。
本発明の目的からそれることなく、本発明は種々の変更および改変ができることが理解できるであろう。したがって、本発明の態様はもっぱら説明のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
Claims (16)
- 一般式I
[式中、R1は、ヒドロキシル、C1−4アルコキシル、C1−4アルキルカルボニルオキシメトキシル、フェニルC1−2アルキルアミノ基、2,5−ピロリジンジオン−1−アルコキシル(C1−4)、または
(式中、X1は化学結合またはC1−2アルキレンであり、X2は水素、またはX1がメチレンであるときX1と5員環を形成するカルボキシルであり、X3は水素またはC1−2アルキルであり、X4は水素またはC1−2アルキルであるか、あるいはX3とX4が合一して5員環を形成し、ただし、X2、X3およびX4の少なくとも一つが水素である)であり、R2はC3−4アルキルであり、R3 は、
(式中、nは0〜3の整数である)である]
で示される化合物または薬剤学的に許容し得るその塩を有効成分とする、増殖性細胞、前癌性細胞または腫瘍細胞における細胞死誘導剤。 - 該化合物が硫酸塩である請求項1に記載の細胞死誘導剤。
- 処理対象の該腫瘍細胞がヒト乳癌細胞、ヒト黒色腫細胞、ヒト卵巣癌細胞、ヒト大腸癌細胞、ヒト膵臓癌細胞およびヒト前立腺癌細胞からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の細胞死誘導剤。
- 処理対象の該腫瘍細胞が未分化癌細胞である請求項1に記載の細胞死誘導剤。
- 処理対象の該腫瘍細胞が活性mdr遺伝子を有する請求項1に記載の細胞死誘導剤。
- 一般式I
[式中、R1は、ヒドロキシル、C1−4アルコキシル、C1−4アルキルカルボニルオキシメトキシル、フェニルC1−2アルキルアミノ基、2,5−ピロリジンジオン−1−アルコキシル(C1−4)、または
(式中、X1は化学結合またはC1−2アルキレンであり、X2は水素、またはX1がメチレンであるときX1と5員環を形成するカルボキシルであり、X3は水素またはC1−2アルキルであり、X4は水素またはC1−2アルキルであるか、あるいはX3とX4が合一して5員環を形成し、ただし、X2、X3およびX4の少なくとも一つが水素である)であり、R2はC3−4アルキルであり、R3 は、
(式中、nは0〜3の整数である)である]
で示される化合物または薬剤学的に許容し得るその塩を有効成分として含有する抗腫瘍剤。 - 一般式I
[式中、R1は、ヒドロキシル、C1−4アルコキシル、C1−4アルキルカルボニルオキシメトキシル、フェニルC1−2アルキルアミノ基、2,5−ピロリジンジオン−1−アルコキシル(C1−4)、または
(式中、X1は化学結合またはC1−2アルキレンであり、X2は水素、またはX1がメチレンであるときX1と5員環を形成するカルボキシルであり、X3は水素またはC1−2アルキルであり、X4は水素またはC1−2アルキルであるか、あるいはX3とX4が合一して5員環を形成し、ただし、X2、X3およびX4の少なくとも一つが水素である)であり、R2はC3−4アルキルであり、R3 は、
(式中、nは0〜3の整数である)である]
で示される化合物または薬剤学的に許容し得るその塩を有効成分とする、多剤耐性腫瘍の治療のための化学療法の増強剤。 - 該化学療法が少なくともビンブラスチンまたはアドリアマイシンの投与である請求項9に記載の増強剤。
- 該化合物が硫酸塩である請求項9に記載の増強剤。
- 治療対象の該腫瘍が、ヒト乳癌、ヒト黒色腫、ヒト卵巣癌、ヒト大腸癌、ヒト膵臓癌およびヒト前立腺癌からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載の増強剤。
- 治療対象の該腫瘍が未分化癌である請求項9に記載の増強剤。
- 治療対象の該腫瘍が活性mdr遺伝子を有する請求項9に記載の増強剤。
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