JP4117146B2 - 摺動部を有する入力装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、摺動子が電極上を接触しながら切り換えを行うスイッチやエンコーダなどの摺動部を有する入力装置に係わり、特に摺動子と電極間の磨耗を少なくして接点寿命を延ばすことを可能とした摺動部を有する入力装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンコーダなどの摺動式の入力装置では、絶縁基板の表面に設けられた電極に、ブラシ状の摺動子が対向しており、前記摺動子が絶縁基板および電極の表面上を摺動して、摺動子と電極との接触が繰り返される。
【0003】
前記電極側の基板は、銀メッキなどを施した銅系金属板から所定形状に形成された電極を金型内にセットして、金型内に絶縁性の溶融樹脂を流し込んでインサート成型したものや、絶縁性のプリント基板の表面の銅系金属箔をエッチングしたものなどが使用されている。また、摺動子は高弾性を有するりん青銅の表面に銀メッキを施したものなどが使用される。
【0004】
前記入力装置では、電極を摺動子が摺動するときの磨耗により発生した金属粉が、前記電極と摺動子との間の接触抵抗を大きくし、電気信号にチャタリング等のノイズを発生させることがある。このため、前記電極と摺動子との間に潤滑剤を塗布し、前記磨耗を小さくして金属粉の発生を抑え込むようにしているのが一般的である。
【0005】
従来の潤滑剤としては、シリコーンオイル、オレフィンオイルまたは鉱物油などのベースオイル(基油)に、シリカや酸化防止剤、さらには金属石けんなどの増ちょう剤を配合したグリースなどが用いられている。前記電極と摺動子との摺動により前記メッキが剥がれて銅系金属が露出したときに、前記酸化防止剤により前記銅系金属の酸化を防止し、または前記シリカによって銅系金属の表面の酸化膜を除去できるようにしている。また前記増ちょう剤を用いることで、電極表面にグリースが長時間付着した状態を維持できるようにしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、長時間にわたって摺動子が電極表面を摺動すると、電極や摺動子の表面、特に摺動子の表面が平坦な状態に摩耗しやすい。この場合に、摺動子の平坦面と電極との間に、電極などからの削れ粉やシリカが挟まって、摺動子と電極との実質的な接触面積が低下して、ノイズが発生しやすくなり、あるいは摺動子の平坦面と電極との間に増ちょう剤が挟まって、摺動子の摺動抵抗を増大させる、などの問題が生じやすくなる。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、摺動子と電極の磨耗を最小にして接点寿命を延ばすことを可能とした摺動部を有する入力装置を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基板上に印刷された電極と、前記電極の表面および前記基板の表面に接触しながら連続的に摺動する摺動子とを有する入力装置において、
前記電極は、前記基板の表面に導電性樹脂組成物がスクリーン印刷され、その後に、前記電極の表面に所定の温度の熱プレスがかけられて加熱硬化され、前記電極の表面の中心線平均粗さが±3μm以下に形成されており、
前記電極と前記摺動子との間に、動粘度が、5×10-3m2/s以上で、且つ10×10-3m2/s以下の範囲内のシリコーンオイルが塗布されて、
前記電極の表面と摺動子の表面とが、常に前記シリコーンオイルによって濡れた状態に維持されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、動粘度が前記範囲のシリコーンオイルを用いると、摺動子と電極との間に前記オイルが長期に渡って残留できるようになるため、摺動子と電極の摩耗を最小限にできるようになる。摺動子と電極の摩耗が少ないため、前記シリコーンオイルにシリカや酸化防止剤さらに増ちょう剤を含ませる必要がなくなる。したがって、電極と摺動子の間にシリカや削れ粉が介在することがなくなり、摺動子と電極との接触を良好にでき、ノイズを低減できる。また摺動子と電極との間に増ちょう剤が介在しなくなるため、摺動抵抗の増大も防止できる。
【0010】
またシリコーンオイルは、粘性率の温度依存性が少なく、長時間にわたって前記のような最適な摺動状態を維持できる。
【0012】
電極の表面粗さが上記の値以下であると、摺動子が摺動したときに、電極表面の削れ等が生じる確率を低くできる。
【0013】
一方、前記摺動子が、りん青銅の表面にNiメッキを施し、さらにその表面に銀メッキをしたものである。
【0014】
また、前記基板が、硝子エポキシ基板、ベークライトまたはガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレートのうちのいずれかの有機系絶縁基板である。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の摺動部を有する入力装置の実施の形態としてロータリー型のエンコーダの内部の機械的構造を示しており、Aはエンコーダの平面図、BはエンコーダのB−B線断面図である。
【0016】
図1に示すエンコーダ1は、例えば車載用のエアコンの温度や風量調整などに使用されるものである。前記エンコーダはケース6に設けられた回転部と固定部とを有しており、前記回転部には回転部材3が設けられている。前記回転部材3の中心には、ケース6の外方に延びる摘み部が設けられ、この摘み部を回すことで前記回転部材3が正逆両方向へ回転できるようになっている。
【0017】
前記回転部材3にドーナツ板型の基板2が固定されて、回転部材3と共に前記基板2が回転できるようになっている。前記基板2は、例えば硝子エポキシ基板、ベークライトまたはガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレートなどの有機系絶縁基板で形成されている。
【0018】
図1Aに示すように、前記基板2の表面には所定形状の電極2aが形成されている。なお、電極2a以外の部分は、基板2の表面が露出された絶縁部2bである。なお、図1Aでは、前記電極2aの範囲をドット模様で示している。
【0019】
前記固定部には支持部材4が設けられており、この支持部材4に3本の摺動子4a,4b,4cが固定されている。例えば、前記支持部材4は、前記基板2を覆うカバーとして兼用されていてもよい。
【0020】
前記摺動子4a,4b,4cは、弾性係数の高い板ばね材料であり、例えばりん青銅である。このりん青銅板の表面に、ニッケル下地膜がメッキで形成されており、さらにその表面に銀メッキが施されている。前記摺動子4a,4b,4cの先端には、プレス加工によって略U字形状に曲げられた摺動接点4a1,4b1,4c1が形成されている。
【0021】
前記ケース6内では、各摺動子4a,4b,4cが基板2の表面に接触しており、回転部材3および基板2が回転すると、各摺動子4a,4b,4cが電極2aと絶縁部2b上に弾圧された状態で摺動する。図1Aでは、前記摺動子4aの摺動軌跡をL1で示し、摺動子4bの摺動軌跡をL2で、摺動子4cの摺動軌跡をL3でそれぞれ示している。
【0022】
この実施の形態では、前記摺動子4cが摺動軌跡L3において常に電極2aと接触するコモン電極となっている。また、摺動子4aと4bは、前記摺動軌跡L2とL3において、互いに異なるタイミングで、電極2aと絶縁部2bを交互に摺動する。したがって、コモンとなる前記摺動子4cと前記摺動子4aとの間でロータリーエンコードが可能であり、また前記摺動子4cと前記摺動子4bとの間で、前記と異なるタイミングのロータリーエンコードが可能である。
【0023】
前記電極2aは、前記基板2の表面に、熱硬化性のバインダー樹脂に導電粉としての銀粉と補強材とを混ぜ合わせた導電性樹脂組成物をスクリーン印刷し、その後に所定の温度で焼成することにより形成される。なお、前記導電粉として、カーボンブラックや黒鉛などを用いることもできる。
【0024】
また前記補強剤は、モース硬度3.5以上で4.5以下のもので、Ni粉または無機粉体、ウィスカ(微細繊維)などである。前記補強剤の配合比率は、導電性樹脂組成物内の固形分を100体積%としたときに2〜4体積%であり、好ましくは3体積%である。
【0025】
また、前記電極2aは、スクリーン印刷、乾燥後に熱プレスし、更に加熱硬化されたものが好ましく使用される。
【0026】
図2および図3は、フェノール樹脂をバインダーとし銀粉を導電粉として焼成した電極の断面を示すものであり、それぞれ1000倍および3000倍のSEM写真である。図2は乾燥後の熱プレス前、図3は熱プレス後を示している。図4および図5は電極表面の粗さの測定値を示しており、図4は熱プレス前、図5は熱プレス後である。
【0027】
図2および図3に示すように、熱プレスを加えるとプレス前に比べて電極2aの表面の粗さが低下し平滑表面を有することがわかる。
【0028】
また図4および図5に示すように、熱プレスを加える前における電極表面の板圧方向の平均的な平面に対する表面粗さは、中心線平均粗さで±7μm程度まで大きいが、熱プレスを加えた後は、中心線平均粗さが±3μm以下となる。
【0029】
電極表面に熱プレスを加えると、電極2aの表面粗さを小さくできるため、電極2aと、摺動子4a,4b,4cとの摺動抵抗を小さくでき、よって電極2aと摺動子4a,4b,4cの磨耗量を低減させることができ、エンコーダ1の接点寿命を延ばすことが可能となる。
【0030】
また前記摺動子4a,4b,4cと電極2aおよび絶縁部2bからなる基板2の表面との間に潤滑剤が塗布される。
【0031】
前記潤滑剤は、その動粘度が5×10-3m2/s(5,000cSt)から10×10-3m2/s(10,000cSt)の範囲内のシリコーンオイルが使用される。前記シリコーンオイルは、高粘度であり、また温度による粘性の変化が少ない。また動粘度が前記範囲内であると、電極2aと摺動子4a,4b,4cとの間に前記シリコーンオイルが介在した状態を長く維持でき、電極と摺動子との摺動抵抗を長期間にわたって低下させることができる。
【0032】
例えば、電極2aがバインダーに前記銀粉を含む銀インクで乾燥し、熱プレスして図5に示すように、表面粗さが中心線平均粗さで±3μm以下のものであり、摺動子4a,4b,4cが、りん青銅板の表面にNiメッキおよび銀メッキを施したものとする。この場合、シリコーンオイルの動粘度が前記範囲であると、シリコーンオイルが、電極と摺動子の表面のきわめて微細な凹凸や細孔の内部に保持され、その位置での付着性を維持しやすくなる。よって、電極表面と摺動子との表面が常にシリコーンオイルで濡れた状態を維持できる。
【0033】
また、電極の表面粗さが前記範囲であると、電極表面が削られることが少ないものの、やはり電極表面がわずかに削られることを避けることはできない。電極が前記銀インクで、摺動子が銀メッキしたりん青銅板の場合、摺動により電極が一方的に摩耗を受けやすい。ここで、銀インクを焼成した電極は、銀粉と補強材およびバインダーとの複合物であるため、摺動面の全面が均一に削られることがなく、表面に微細な凹凸が形成される程度である。よって、この微細な凹凸によりシリコーンオイルの濡れ性をさらに高くできる。
【0034】
すなわち、表面粗さが前記範囲の電極を用い、また動粘度が前記範囲のシリコーンオイルが用いられると、本来電極と摺動子との摩擦係数が小さいため、電極が大きく削られることがなく、むしろ摺動により電極表面に適度な微細な凹凸が形成されるようになる。この微細な凹凸がシリコーンオイルの濡れ性に寄与でき、電極と摺動子との間に、常にシリコーンオイルが介在した状態となる。このようにシリコーンオイルが常に滞在することにより、摺動抵抗の増大を防止でき、電極が大きく削られるのを防止できて、削り粉が発生するのを防止できるようになる。
【0035】
シリコーンオイルの動粘度が前記範囲未満であると、シリコーンオイルの流動性が良すぎて、前記微細な凹凸に対する付着性が低下しやすい。また前記範囲を超えると、低温時の粘性抵抗が高くなりすぎ、電極と摺動子の間にオイルが厚く残りやすくなって、接触不良が発生、電気的ノイズが生成されやすくなる。
【0036】
また、前記のように、長い期間にわたって、電極と摺動子との摺動抵抗を低減できるため、電極および摺動子が、酸化されるような大きな損傷を受けにくい。よって酸化防止剤が不要であり、また酸化皮膜を除去するためのシリカを含ませる必要がない。よって、シリコーンオイルのみを潤滑剤として使用することができ、従来のように前記シリカや削り粉による電極表面などへのダメージが生じにくくなり、これによっても長期間最適な摺動状態を維持できるようになる。
【0037】
また、本実施の形態において好ましく使用されるシリコーンオイルは、ジメチルシリコーンオイルまたはメチルフェニルシリコーンオイルなどである。
【0038】
【実施例】
図1に示す構造のロータリーエンコーダを製造した。
【0039】
(1)基板2
ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート基板とした。
【0040】
(2)電極2a
フェノール樹脂をバインダーとし、導電粉として銀粉を、補強材としてNi粉を含ませ、溶媒としてカルビトールを含む銀インクを基板表面にスクリーン印刷し、これを175℃で15分乾燥後180℃、圧力15MPaで1分熱プレスし、更に180℃で1時間加熱硬化した。
電極の固形物での前記銀粉の体積率は29%で、補強材の体積率は3%であった。またプレス後の電極表面の中心線平均粗さは±3μm以下であった。
【0041】
(3)摺動子4a,4b,4c
幅0.18mm、厚さ0.12mmのりん青銅板の表面にNiメッキと銀メッキを施したものを使用した。
【0042】
(4)潤滑剤
以下の実施例と比較例で、潤滑剤を異ならせた。
【0043】
(5)評価
各比較例と実施例のロータリーエンコーダーの、摺動子4a−4c間の出力波形および、摺動子4b−4c間の出力波形を得た。この波形は、初期状態のときと、回転部材3を360度の角度で6万回往復回転させた後の、双方について得た。
【0044】
(6)評価結果
(比較例1)
動粘度が2×10-3m2/sのシリコーンオイルを、電極2aおよび基板2の表面に薄く均一に塗布した。
常温(25℃)での、初期状態の出力波形を図6Aに、6万回往復回転させた後の出力波形を図6Bに示す。
【0045】
(実施例1)
動粘度が5×10-3m2/sのシリコーンオイルを、電極2aおよび基板2の表面に薄く均一に塗布した。
常温(25℃)での、初期状態の出力波形を図7Aに、6万回往復回転させた後の出力波形を図7Bに示す。
また低温(−40℃)での初期状態の出力波形を図10Aに示す。
【0046】
(実施例2)
動粘度が6×10-3m2/sのシリコーンオイルを、電極2aおよび基板2の表面に薄く均一に塗布した。
常温(25℃)での、初期状態の出力波形を図8Aに、6万回往復回転させた後の出力波形を図8Bに示す。
【0047】
(実施例3)
動粘度が10×10-3m2/sのシリコーンオイルを、電極2aおよび基板2の表面に薄く均一に塗布した。
常温(25℃)での、初期状態の出力波形を図9Aに、6万回往復回転させた後の出力波形を図9Bに示す。
また低温(−40℃)での初期状態の出力波形を図10Bに示す。
【0048】
(比較例2)
従来のシリコーングリス、すなわち動粘度が1.5×10-3m2/sのシリコーンオイルに、腐食防止剤、金属石けんを含んだものを115μmの厚さで塗布した。
【0049】
常温(25℃)での、初期状態の出力波形を図11Aに、6万回往復回転させた後の出力波形を図11Bに示す。
【0050】
各実施例と比較例から、動粘度が5×10-3m2/s以上で、10×10-3m2/s以下のシリコーンオイルを用いると、6万回の往復摺動によっても出力の劣化が生じていないことを確認できる。
【0051】
【発明の効果】
以上のように本発明では、摺動子と電極間の磨耗を最小にすることができ、長期にわたって接点部分からのノイズの発生を防止できる。また温度変化による摺動性の劣化も少なく、接点の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の入力装置の実施の形態としてロータリー型のエンコーダの内部の機械的構造を示し、Aはエンコーダの平面図、BはエンコーダのB−B線断面図、
【図2】熱プレス前の電極断面のSEM写真、
【図3】熱プレス後の電極断面のSEM写真、
【図4】熱プレス前の電極表面の粗さの測定値を示す線図、
【図5】熱プレス後の電極表面の粗さの測定値を示す線図、
【図6】比較例1の出力波形を示すものであり、Aは常温での初期状態、Bは6万回の往復回転後、
【図7】実施例1の出力波形を示すものであり、Aは常温での初期状態、Bは6万回の往復回転後、
【図8】実施例2の出力波形を示すものであり、Aは常温での初期状態、Bは6万回の往復回転後、
【図9】実施例3の出力波形を示すものであり、Aは常温での初期状態、Bは6万回の往復回転後、
【図10】低温での出力波形を示し、Aは実施例1、Bは実施例3、
【図11】比較例2の出力波形を示すものであり、Aは常温での初期状態、Bは6万回の往復回転後、
【符号の説明】
2 基板
2a 電極
2b 絶縁部
3 回転部材
4 支持部材
4a,4b,4c 摺動子
Claims (3)
- 基板上に印刷された電極と、前記電極の表面および前記基板の表面に接触しながら連続的に摺動する摺動子とを有する入力装置において、
前記電極は、前記基板の表面に導電性樹脂組成物がスクリーン印刷され、その後に、前記電極の表面に所定の温度の熱プレスがかけられて加熱硬化され、前記電極の表面の中心線平均粗さが±3μm以下に形成されており、
前記電極と前記摺動子との間に、動粘度が、5×10-3m2/s以上で、且つ10×10-3m2/s以下の範囲内のシリコーンオイルが塗布されて、
前記電極の表面と摺動子の表面とが、常に前記シリコーンオイルによって濡れた状態に維持されていることを特徴とする摺動部を有する入力装置。 - 前記摺動子が、りん青銅の表面にNiメッキを施し、さらにその表面に銀メッキをしたものである請求項1記載の摺動部を有する入力装置。
- 前記基板が、硝子エポキシ基板、ベークライトまたはガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレートのうちのいずれかの有機系絶縁基板である請求項1または2に記載の摺動部を有する入力装置。
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