JP4115756B2 - 炭酸化硬化体用セメント組成物、炭酸化硬化体用セメントコンクリート組成物、及び炭酸化硬化体の製法 - Google Patents

炭酸化硬化体用セメント組成物、炭酸化硬化体用セメントコンクリート組成物、及び炭酸化硬化体の製法 Download PDF

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  • Curing Cements, Concrete, And Artificial Stone (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として土木材料・建築材料分野において、比較的大型の建築物に使用される大型の板材、例えばカーテンウォール、パネル材、及びコンクリート製埋設型枠等の建材用に用いられる、炭酸化硬化体用セメント組成物、炭酸化硬化体用セメントコンクリート、及び炭酸化硬化体の製造方法に関する。なお、本発明でいうセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリ−トの総称であり、本発明における部及び%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0002】
【従来の技術とその課題】
セメントに水を添加して得られる従来のセメント硬化体は、大型の板材、例えばカーテンウォール、パネル材、及びコンクリート製埋設型枠等の用途に用いるためには、曲げ強度が約5N/mm2程度と小さく、取扱時に欠けやすいという課題があった。
【0003】
大型の建築物にパネル材として使用される板材、例えばALC(Autoclaved Lightweight Concrete)等では、横持ちという観点から十分な抗折強度を必要とし、運搬や施工中での端部又は角部の破損に対しても強度を必要とする。
【0004】
これまで曲げ強度を必要とする用途に用いるセメント硬化体を製造するためには、蒸気養生又はオートクレーブ養生等の高温高圧養生を行う方法(高橋、蟻塚、セメント技術年報、pp299〜309、1960参照)、減水剤等を用いて水/セメント比を低下させる方法(特公昭61-025670号公報)等が有効とされてきた。
【0005】
しかし、通常のコンクリートを蒸気養生又は高温高圧下で養生すると、セメント硬化体に幅1mm以下の微小なひび(以下、マイクロクラックという)が入りやすかった。また、マイクロクラックがなく、高い圧縮強度が得られるセメント硬化体であっても、曲げ強度が低いという課題があった。また、水/セメント比を低くする方法であっても、セメント硬化体の曲げ強度が4〜7N/mm2程度と低いため、製造時や取扱い時に板材のカドが欠けやすい等、作業性が悪く、セメント硬化体の運搬等で慎重に取扱う必要があった。
【0006】
通常のセメント硬化体は破壊靱性が低いので、一度マイクロクラックが入ると、これを破壊源としてクラックが進展するため、セメント硬化体の機械強度が著しく低下する。このため、機械強度が要求される用途、例えば土木材料・建築材料分野における大型板材では、マイクロクラックが入った製品はただちに不良品とされた。したがって土木材料・建築材料分野における大型板材用途でセメント硬化体の歩留まりを向上させるためには、マイクロクラックの発生を抑制する効果がある製法及び材料が必要とされてきた。
【0007】
そこでビーライトを38%以上含むセメントを水で混練し、硬化させた後に炭酸化させる方法が提案されている(特開平10-194798号公報)。この方法で作製した炭酸化したセメント硬化体は、たしかに圧縮強度及び長期炭酸化後の曲げ強度が高いという特徴を有するが、炭酸化を7日行っても曲げ強度が15N/mm2と低いという課題を有していた。この発明により得られたセメント硬化体は、圧縮強度及び長期炭酸化後の曲げ強度が優れていた。しかし、納期短縮の要求に応えるため、圧縮強度を多少犠牲にしても、初期の曲げ強度が高い材料が必要とされてきた。
【0008】
このようなビーライト含有セメントの炭酸化したセメント系硬化体の初期強度不足を補う方法として、有機高分子系炭酸化促進剤を添加する方法が知られている(特開2001-261467号公報)。この方法では、有機高分子系炭酸化促進剤として、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体等を添加する方法が開示されている。しかし、この方法では、たしかにセメント系硬化体の長期炭酸養生後の圧縮強度及び長期炭酸養生後の曲げ強度は従来のセメント材料と比べて高いが、炭酸化における初期炭酸養生後の曲げ強度が低く、長期にわたる炭酸化が必要であるという課題があり、さらに、水和硬化時にマイクロクラックが発生しやすいという課題を同時に十分に達成したとはいえず、180cm×90cmを超える大型の板材や複雑な形状を有する成形体を製造する時には、歩留まりが低下することがあった。
【0009】
そこで本発明者らは、前記課題を解消すべく鋭意検討した結果、特定のセメント組成物を用い、成形後に炭酸化することにより、初期炭酸養生後の曲げ強度、特に7日目の曲げ強度が高く、圧縮強度と初期炭酸養生後の曲げ強度のバランスが良く、かつ、マイクロクラックの少ない炭酸化硬化体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は(1)炭酸化硬化体用セメント組成物100質量部中、0.05〜5質量部のフリーの−COH基を有する、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、及びフマル酸の不飽和カルボン酸、並びに、これらの不飽和カルボン酸の、塩、酸ハライド、及び酸無水物からなる化合物群から選ばれた1種又は2種以上の化合物を繰返し単位として有するビニル重合体を固形分換算で炭酸化硬化体用セメント組成物中1〜10質量%、(2)ビーライト、(3)セメントを含む結合材を含有し、かつ、セメントを含む結合材及びビーライトからなる無機成分粉末中のビーライト含有量が40質量%以上であることを特徴とする炭酸化硬化体用セメント組成物であり、セメントを含む結合材及びビーライトからなる無機成分粉末のブレーン比表面積が4,000cm/g以上であることを特徴とする該炭酸化硬化体用セメント組成物であり、該炭酸化硬化体用セメント組成物及び水を含有することを特徴とする炭酸化硬化体用セメントコンクリート組成物であり、該炭酸化硬化体用セメントコンクリート組成物を硬化させたセメント硬化体を炭酸化することを特徴とする炭酸化硬化体の製造方法であり、表面から少なくとも厚さ2mm以上を炭酸化させることを特徴とする該炭酸化硬化体の製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明におけるアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、及びフマル酸の不飽和カルボン酸、並びに、これらの不飽和カルボン酸、塩、酸ハライド、及び酸無水物からなる化合物群から選ばれた1種又は2種以上の化合物を繰返し単位として有するビニル重合体(以下「アクリル酸等のビニル重合体」という)とは、水分と接触すると、繰返し単位の一部又は全部がアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、又はこれらの酸の塩となるビニル重合体を指す。該重合体はアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸の、フリーの不飽和カルボン酸、及びそれらの塩、酸無水物、又は酸ハライド等からなるホモポリマーであってもよく、エチレン、酢酸ビニル、及びスチレン等のビニル化合物との共重合体又は混合物等であってもよい。
【0013】
アクリル酸等のビニル重合体の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩、並びにアミン塩等が挙げられる。酸無水物は無水マレイン酸のような分子内の酸無水物であってもよく、2分子のカルボキシル基が分子間で脱水反応してなる酸無水物であってもよい。また、酸ハライドはカルボン酸のOH基をハロゲンで置換した化合物で、化学式R-CO-X(Rはアルキル基、Xはハロゲン元素)型の構造を有する化合物である。
【0014】
一方、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、及びフマル酸であって、加水分解をする可能性がある化合物であっても、すべての−CO2H基がエステル、アミド、及びイミド等の官能基の一部となっていて、すべての−CO2H基が他の化合物等と強固な共有結合を形成し、水中で−CO2H基又はその塩として機能しない繰返し単位のみを有するビニル重合体は、本発明のアクリル酸等のビニル重合体として使用できない。
【0015】
アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、及びフマル酸等の、ビニル重合体中での化学的な形態としては、フリーの−CO2H基を有するカルボン酸、アンモニウム塩、及びアルカリ金属塩が入手しやすく、かつ、水への溶解性が良いために好ましく、アルカリ金属を含まないアンモニウム塩及びフリーの−CO2H基を有するカルボン酸がより好ましい。
【0016】
アクリル酸等のビニル重合体の数平均分子量は1,000以上であれば使用可能であるが、炭酸化硬化体の曲げ強度を高める目的から、アクリル酸等のビニル重合体の数平均分子量を1,000〜10万とすることが好ましい。数平均分子量が1,000未満では炭酸化硬化体の曲げ強度増加への寄与が小さい場合があり、数平均分子量が10万を超えると、粘度が高くなり、取扱いにくいことがある。
【0017】
本発明で使用するアクリル酸等のビニル重合体の性状は特に限定されるものではないが、粉末、粉末エマルジョン、水性ポリマーディスパージョン、液状ポリマー、水溶液、又は繊維等、セメントコンクリート中で均一に分散される形態であればよく、水性ポリマーディスパージョン、粉末エマルジョン、又は水溶液が好ましく、水溶液又は粉末エマルジョンがより好ましい。また、本炭酸化硬化体用セメント組成物の混合時にアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、又はフマル酸を、不飽和カルボン酸、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、酸ハライド、又は酸無水物等の形態で、モノマーとして公知の重合触媒等と併用し、重合反応をさせてもよい。
【0018】
また、本炭酸化硬化体用セメント組成物中の全ビニル重合体含有量は特に限定されるものではないが、固形分換算で炭酸化硬化体用セメント組成物中1〜10%が好ましく、2〜5%がより好ましい。全ビニル重合体含有量が1%未満ではマイクロクラックが発生しやすくなることがあり、10%を超えると強度増進効果が顕著でない場合がある。
【0019】
アクリル酸等のビニル重合体のカルボキシル基の含有量は特に制限されないが、本炭酸化硬化体用セメント組成物100部中、カルボキシル基の含有量は0.05〜5部が好ましく、0.2〜3部がより好ましい。カルボキシル基の含有量が0.05部未満ではクラック抑制効果が少なく、5部を超えるとコンクリートの硬化不良の原因になるおそれがある。
【0020】
ビーライトとは、2CaO・SiO2又はC2S等と表現され、水硬性のα型、α’型、及びβ型等の多形が存在する。本発明ではいずれの多形も使用可能であるが、入手が容易であり、水硬性を有するα型、α’型、及びβ型のビーライトが好ましく、β型がより好ましい。ビーライトは不純物としてAl2O3、Fe2O3、MgO、Na2O、K2O、TiO2、MnO、ZnO、又はCuO等の酸化物が固溶している場合があるが、本発明の目的を阻害しない範囲であれば制限されない。
【0021】
ビーライト源としては、低熱セメント又はビーライトセメント等、ビーライト含有量が高いセメントを用いてもよく、また、酸化カルシウム及びシリカを原料とし1400℃以上の高温で加熱し溶融体を作る方法等の公知の方法で合成したものでもよいが、ビーライトセメント及び/又は低熱セメントを用いることが好ましい。高温の溶融体からビーライトを製造する場合は、酸化カルシウム及びシリカを溶融した後、圧縮空気等で吹飛ばす等の方法で急冷することが好ましい。
【0022】
本発明の炭酸化硬化体用セメント組成物はビーライト含有量が40%以上である必要があり、40〜60%であることが好ましい。ビーライト含有量が40%未満では炭酸化が困難で強度増強が期待できず、また60%を超えると炭酸化は可能であるが、炭酸化しても充分な曲げ強度が得られない場合がある。
【0023】
本発明に用いる結合材としては、セメント類や潜在性水硬性物質が挙げられる。セメント類としては普通セメント、早強セメント、超早強セメント、中庸熱セメント、及び低熱セメント等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。また、これらのセメント類に、潜在性水硬性物質である高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを配合した各種混合セメント等を結合材の一部として用いてもよく、これらの結合材を1種又は2種以上混合してもよい。
【0024】
なお、ビーライトは水硬性を有するものであり、本発明ではセメントの一部として含まれるものを使用する場合もあるが、ビーライトは独立した化合物として取扱うものとし、結合材には含めないものとする。
【0025】
本発明に用いる結合材及びビーライトは、アクリル酸等のビニル重合体との分散性が要求される。本発明の炭酸化硬化体用セメント組成物からアクリル酸等のビニル重合体の重合体及び各種有機添加剤等の有機物を除いた、結合材及びビーライトからなる無機成分粉末のブレーン比表面積値は4,000cm2/g以上が好ましく、6,000〜10,000cm2/gがより好ましい。無機成分粉末の比表面積値が4,000cm2/g未満では曲げ強度が不足することがあり、10,000cm2/gを超えると粉砕動力が必要となり、コスト増の原因となる。
【0026】
有機物を含む本炭酸化硬化体用セメント組成物を用い、結合材及びビーライトからなる無機成分粉末の比表面積を測定する際には、本炭酸化硬化体用セメント組成物又は無機成分粉末を空気又は酸素雰囲気下で、あらかじめ400〜1,000℃で30分以上加熱し、水分及び有機成分を十分に除去しておくことが好ましい。
【0027】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良く、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差支えない。
【0028】
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサ等の使用が可能である。また、本発明における無機成分粉末を微粉化する装置は特に制限されないが、ボールミル、タワーミル、及びローラーミル等が挙げられる。
【0029】
本炭酸化硬化体用セメント組成物に水分を添加して混練し所定の形状に成形する。この際の水/無機成分粉末比(W/C比)は特に限定されないが、30〜60%が好ましく、40〜55%がより好ましい。30%未満では混練できない場合があり、60%を超えると炭酸化が進行しても強度増進につながらない場合がある。
【0030】
本発明で使用するセメントコンクリートのスランプ値やフロー値は特に限定されないが、流込成形で複雑な形状を有する製品を作製する場合には、JIS A 1101で規定された方法によるスランプ値で5cm以上、スランプコーンを引抜いた際のコンクリートのフロー値で22cm以上の流動性を有するものが好ましい。
【0031】
本発明の炭酸化硬化体用セメント組成物を水和させてセメント硬化体を成形する方法としては、加圧成形、流込み成形、及び遠心成形等があり、作業効率の点から流込み成形及び遠心成形が好ましく、複雑な形状を成形できる流込み成形が最も好ましい。
【0032】
また、成形して得られたセメント硬化体の養生方法は特に限定されず、通常の常温養生の他に、水中養生、湿空養生、又は蒸気養生等の加温養生等も可能である。また、養生と同時に炭酸化を行うことも可能である。養生期間は水/セメント比、セメント中のビーライト含有量、及び配合等により異なるが、加温養生で2〜24時間程度であり、常温養生では3〜28日程度であり、養生時間が短い加温養生が好ましい。
【0033】
炭酸化の方法としては、(1)加温しながら炭酸化する方法、(2)炭酸ガス分圧の高い雰囲気で暴露する方法、(3)高湿度雰囲気下で炭酸化する方法、(4)炭酸水等の炭酸イオンや重炭酸イオンを含有する水にセメント硬化体を浸漬し、促進炭酸化する方法等が考えられる。これらの方法の中では、経済性や生産性等の面から、(1)〜(3)の方法を1種又は2種以上併用するのが好ましい。
【0034】
また、雰囲気ガスとしては炭酸ガス以外に、空気、窒素、酸素、水蒸気、ヘリウム、又はアルゴン等、炭酸ガス以外のガスを本発明の目的を阻害しない範囲内で混合して用いることができる。
【0035】
炭酸化では、加温する場合には蒸気養生及びオートクレーブ養生等では雰囲気温度30〜180℃が好ましく、40〜160℃がより好ましい。30℃未満では生産性が不十分の場合があり、180℃を超えるとポリマーが変質して着色し、外観不良の原因となる場合がある。養生後、セメント硬化体を水中に浸しておき、水分をセメント硬化体内部に十分に湿潤状態としておくことが好ましい。また、雰囲気温度が100℃を超える場合は、スチーム存在下で炭酸化することが好ましい。
【0036】
炭酸化における炭酸ガス濃度及び圧力は特に限定されるものではないが、全ガス圧及び炭酸ガス濃度の積として算出される炭酸ガス分圧が0.0005〜1MPaであることが好ましく、0.01〜0.3MPaがより好ましい。炭酸ガス分圧が0.0005MPa未満では炭酸化が促進されず、不経済である。また、炭酸ガス分圧が1MPaでは炭酸化時間は数分で終了するため、これより高い炭酸ガス分圧にするのは不経済である。
【0037】
また、室温での炭酸化における相対湿度については特に限定されるものではないが、相対湿度で40%〜90%が好ましく、60〜85%がより好ましい。40%未満では炭酸化の速度が遅く不経済であり、90%を超えると結露し、炭酸化硬化体の表面が浸食されるために製品の外観が悪くなることがある。炭酸化時の雰囲気温度は特に制限されないが、促進炭酸化を行う場合は30〜180℃が好ましく、50〜160℃がより好ましい。30℃未満では促進炭酸化の効果が顕著でなく、180℃を超えるとポリマー成分が劣化するおそれがある。
【0038】
炭酸化硬化体の炭酸化深さを調べるためには、炭酸化硬化体が高アルカリ性から中性側に漸次移行することを利用する。すなわち、炭酸化硬化体を切断し、切断面にフェノールフタレイン溶液を噴霧すると、未炭酸化部は赤色に呈色し、炭酸化した部分は呈色しないため、炭酸化硬化体の表面から着色部までの深さを測定して炭酸化深さを測定すればよい。
【0039】
炭酸化硬化体の表面から少なくとも2mm以上、好ましくは5mm以上炭酸化されていれば、曲げ強度の向上が認められる。さらに、炭酸化硬化体の全体にわたって炭酸化された場合はこの効果が一層顕著になる。
【0040】
また、本発明では、骨材、分散剤、界面活性剤、凍結防止剤、AE剤、凝結遅延剤、減水剤、及び顔料等の公知の添加物を1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することができる。
【0041】
【実施例】
以下の実験例に基づき詳細に説明する。
【0042】
実験例1
ポリアクリル酸エマルジョンを含有するビニル重合体Aを、実験No.1-1〜実験No.1-9はポリマー全体の含有量を内割で10%、実験No.1-9では1%、実験No.1-10では5%とし、セメントを含有する表1の配合の各種セメント組成物を調製した。セメント組成物/砂比が1/2、水/無機成分粉末比が1/1のモルタルを調製した。型枠に詰め、温度20℃、相対湿度80%の試験室で8時間養生を行った後、昇温速度15℃/時間、最高温度50℃、保持時間4時間の条件で蒸気養生を実施し、材令24時間で脱型して4×4×16cmの供試体を作製した。
【0043】
この供試体を大気圧、炭酸ガス濃度10%(炭酸ガス分圧約0.01MPa)、温度40℃、相対湿度60%の環境で材令7日まで炭酸化を行い、中性化深さ及び曲げ強度を測定した結果を表1に示す。なお、比較のため、20℃の水中で材令7日まで養生した場合(以下、標準養生という)、及びビーライト含有量が40%未満のセメント組成物を用いた場合を比較とした結果を表1に示す。
【0044】
<使用材料>
ポリアクリル酸エマルジョン:市販品、数平均分子量6,000、pH=5.2
エチレン−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン:市販品、中性、数平均分子量30,000、副ポリマー成分としてポリビニルアルコールを含む。
ビニル重合体A:エチレン−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン及びポリアクリル酸エマルジョンの10:1混合品、ポリマー含有量50%、カルボキシル基含有量2%、数平均分子量約25,000、pH=5.0
高炉水砕スラグ:第一セメント社製
セメントα:普通ポルトランドセメント、(β型ビーライト含有量27%、電気化学工業社製)、ボールミルで粉砕してブレーン比表面積6,000cm2/gに調整
セメントβ:低熱セメント(電気化学工業(株)製)及び高炉水砕スラグの3:1混合品、β型ビーライト含有量40%、ボールミルで粉砕してブレーン比表面積6,000cm2/gに調整
セメントγ:ビーライトセメント、(β型ビーライト含有量60%、電気化学工業社製)、ボールミルで粉砕してブレーン比表面積6,000cm2/gに調整
砂 :新潟県姫川産、主成分は珪石
水 :水道水
【0045】
<測定方法>
圧縮強度:JIS A 1171規格に準じて4×4×16cm供試体を作製し、強度を測定。
中性化深さ:供試体表面を垂直に割裂したセメントコンクリート断面に、フェノールフタレインの1%水溶液を塗布し、赤色に呈色しなかった部分の表面から深さを測定し、4点の平均値をとった。
曲げ強度:4×4×16cmの供試体を作製し、JIS A 1106に準じて測定した。
ビニル重合体の数平均分子量:GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)を用い、テトラヒドロフラン溶媒で展開して分子量分布を測定し、数平均分子量を計算した。
【0046】
【表1】
Figure 0004115756
【0047】
実験例2
セメントγに対し、ビニル重合体Aをポリマー分換算で10%使用し、表2に示すように水/無機成分粉末比を変化させて炭酸化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
Figure 0004115756
【0049】
実験例3
セメントγを使用し、ビニル重合体の種類を表3に示すように変え、セメントγに対して外割、固形分換算で10%添加して炭酸化し、マイクロクラックの有無を調べたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0050】
<使用材料>
ポリメタアクリル酸エマルジョン:市販品、ポリマー成分含有量30%、数平均分子量約6,000、pH=5.2
ポリアクリル酸ナトリウム水溶液:市販品、30%溶液、数平均分子量約6,000、pH=10.3
ポリアクリル酸カリウム水溶液 :市販品、30%溶液、数平均分子量約6,000、pH=10.5
ビニル重合体B:ポリメタアクリル酸エマルジョン及びエチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの1:10混合品、ポリマー含有量30%、カルボキシル基含有量2%、数平均分子量約25,000、pH=5.8
ビニル重合体C:ポリアクリル酸ナトリウム水溶液及びポリアクリル酸エステル水溶性ディスパージョンの1:10混合品、ポリマー含有量30%、カルボキシル基含有量2%、数平均分子量約25,000、pH=9.9
ビニル重合体D:ポリアクリル酸カリウム水溶液及び酢酸ビニル共重合体エマルジョンの1:10混合品、ポリマー含有量30%、カルボキシル基含有量2%、数平均分子量約25,000、pH=8.7
ビニル重合体E:ポリアクリル酸エステル系再乳化樹脂、中性、市販品、ポリマー含有量30%、フリーカルボキシル基含まず、数平均分子量約25,000
ビニル重合体F:ポリアクリル酸エステル系エマルジョン、中性、市販品、ポリマー含有量30%、フリーカルボキシル基含まず、数平均分子量約25,000
【0051】
<測定方法>
マイクロクラック:脱型後の供試体を目視により観察。
【0052】
【表3】
Figure 0004115756
注:実験No.3-4及び実験No.3-5は表面に微小クラックが観察されたため、曲げ強度、
圧縮強度、及び中性化深さの評価を中止した。
【0053】
実験例4
セメントγ及びビニル重合体Aを固形分換算で外割で10%使用し、表4に示すように炭酸化条件を変化させ、マイクロクラックの有無を調べたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
Figure 0004115756
【0055】
実験例5
炭酸カルシウム及びアルミナをモル比で2:1の割合で混合し、電気炉で1450℃で3時間焼成し、炉外に取出し圧縮空気で吹飛ばして急冷し、β型を主成分とするビーライトを合成した。ボールミルを用いてビーライトを約2,000cm2/gの粗粉となるまで粉砕し、セメントα100部及び合成したビーライト粗粉22部の混合粉(ビーライト含有量40%)とし、表5に示したブレーン比表面積までボールミル粉砕し、セメント及びビーライトからなる無機成分粉末の微粉とした。また、ビニル重合体Aを、無機成分粉末に対してポリマー成分換算で外割10%使用し、2m×2m×5cmの板状セメント硬化体を複数作製し、脱型後、うち1枚を切断し、炭酸化し、マイクロクラックの有無を調べた後に供試体としたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【0056】
<使用材料>
炭酸カルシウム:和光純薬工業(株)製、試薬1級
アルミナ:昭和電工製、BET比表面積15m2/g
【0057】
【表5】
Figure 0004115756
【0058】
【発明の効果】
本発明の炭酸化硬化体用セメント組成物及び炭酸化硬化体用セメントコンクリート組成物は、水和時のクラックよる不良品が発生しにくく、炭酸化初期の曲げ強度と圧縮強度のバランスが優れるという特徴を有する。該炭酸化硬化体は、運搬や施工中での衝撃による端部又は角部の破損に対して強いという特徴を有するため、主として土木・建築分野において、大型の建築物に使用される板材、カーテンウォール、パネル材、及びコンクリート製埋設型枠等に適する。

Claims (5)

  1. (1)炭酸化硬化体用セメント組成物100質量部中、0.05〜5質量部のフリーの−COH基を有する、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、及びフマル酸の不飽和カルボン酸、並びに、これらの不飽和カルボン酸の、塩、酸ハライド、及び酸無水物からなる化合物群から選ばれた1種又は2種以上の化合物を繰返し単位として有するビニル重合体を固形分換算で炭酸化硬化体用セメント組成物中1〜10質量%、(2)ビーライト、(3)セメントを含む結合材を含有し、かつ、セメントを含む結合材及びビーライトからなる無機成分粉末中のビーライト含有量が40質量%以上であることを特徴とする炭酸化硬化体用セメント組成物。
  2. セメントを含む結合材及びビーライトからなる無機成分粉末のブレーン比表面積が4,000cm/g以上であることを特徴とする請求項1記載の炭酸化硬化体用セメント組成物。
  3. 請求項1又は請求項2記載の炭酸化硬化体用セメント組成物及び水を含有することを特徴とする炭酸化硬化体用セメントコンクリート組成物。
  4. 請求項3記載の炭酸化硬化体用セメントコンクリート組成物を硬化させたセメント硬化体を炭酸化することを特徴とする炭酸化硬化体の製造方法。
  5. 表面から少なくとも厚さ2mm以上を炭酸化させることを特徴とする請求項4記載の炭酸化硬化体の製造方法。
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