JP4111469B2 - 酸化物により粒内分散強化されたwc含有超硬合金およびその製法 - Google Patents

酸化物により粒内分散強化されたwc含有超硬合金およびその製法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭化タングステンの結晶粒内に酸化物の微粒子を分散させた粒内分散強化炭化タングステンを含有した超硬合金およびその製法に関し、具体的には、炭化タングステンの結晶粒内に炭化タングステンより微細で、かつ製造工程時の焼結温度に安定な酸化物を均一に分散させることにより、炭化タングステン結晶粒内に残留応力を付加させて、得られる超硬合金の硬さ、靱性、耐摩耗性、耐欠損性、耐塑性変形性、耐熱亀裂性などをさらに改善させて、フライスや旋削用のチップ,ドリル,エンドミルに代表される切削工具、ダイス,パンチなどの型工具,スリッターなどの裁断工具,切断工具,ノズル,メカニカルシールに代表される耐摩耗工具・部品、または穿孔,破砕などに用いる各種ビットに代表される土木建設用工具として最適な酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金およびその製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、超硬合金の硬さと靱性に代表される材料特性は、一方を向上させると他方が低下するという二律背反的傾向にある。硬さと靭性の両特性を同時に改善するものとして板状晶WCを含有させた超硬合金およびその製造方法が多数提案されている。この板状晶WCを含有させた超硬合金に関する代表的な先行技術として、本願発明者らによる特開平7−258785号公報,特開平7ー292426号公報および特開平7ー316688号公報がある。また、液相焼結である超硬合金とは異なるが、材料特性を同時に改善することにより性能を向上させるものとして、マトリックス粒子内に他成分の超微粒子を分散させたナノコンポジット材料と呼ばれるセラミックス焼結体が多数提案されている。このセラミックス焼結体に関するナノコンポジット材料の代表的な先行技術として、特開平2−229756号公報,特開平2−229757号公報,特開平6−116038号公報および特開平6−116072号公報がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
硬さと靭性の両方を同時に改善した代表的な超硬合金に関する先行技術のうち、特開平7−258785号公報には、超硬合金中に含有する六方晶炭化タングステンのX線回折における(101)結晶面に対する(001)結晶面の比が0.50以上からなる板状晶WC含有超硬合金について開示されている。また、特開平7−292426号公報には、Coおよび/またはNi粉末と、炭素源と、W,またはWとWCとの混合粉末を加熱・焼結する際、Co−W−C系,Ni−W−C系,Co−Ni−W−C系の複合炭化物が生成する第一過程と、該複合炭化物と残留炭素との反応により板状晶WCが生成する第二過程とを含む板状晶WC含有超硬合金の製法が記載されている。さらに、特開平7ー316638号公報には、Coおよび/またはNi粉末と、炭素源と、WCと、4a,5a,6a族金属の酸素含有化合物との混合粉末を加熱・焼結する際、Co−W−C系,Ni−W−C系,Co−Ni−W−C系の複合炭化物が生成する第一過程と、該複合炭化物と残留炭素との反応により板状晶WCが生成する第二過程とを含む板状晶WC含有超硬合金の製法が記載されている。これら3件の公報に開示されている板状晶WC含有超硬合金は、従来の超硬合金に対比して硬さおよび靭性が向上したものである。しかし、本発明者らは、これらの板状晶WC含有超硬合金に満足できなく、さらなる超硬合金の特性の向上を課題としていたものである。
【0004】
材料特性を改善した代表的な先行技術のうち、特開平2−229756号公報および特開平2−229757号公報には、アルミナの結晶粒内に窒化チタンや炭化チタンのナノ粒子を分散させてアルミナ系セラミックス焼結体の特性を向上させることが開示されている。また、特開平6−116038号公報および特開平6−116072号公報には、窒化珪素の結晶粒内に炭化珪素のナノ粒子を分散させて窒化珪素−炭化珪素系セラミックス焼結体の特性を向上させることが開示されている。これらの公報に開示のセラミックス焼結体は、マトリックスの粒内に他の粒子が分散することにより硬さを向上させるとともに、マトリックス粒内への応力場付加により破壊クラックの進展を抑制し、靭性が改善される傾向にあるが、超硬合金と対比すると靭性が劣り、超硬合金の使用領域では実用できないという課題がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決したもので、具体的には、上記先行技術として詳述した本発明者らの板状晶WC含有超硬合金およびその製法により得られる超硬合金を、さらなる改良を加えること、主として出発原料物質の選定および焼結工程における加熱途中での炭化タングステンの析出時に、炭化タングステン結晶中に微細な酸化物を分散させることにより、硬さ,靱性,耐摩耗性,耐欠損性、耐衝撃性などの特性を向上させた酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金およびその製法の提供を目的とするものである
【0006】
【課題を解決するための手段】
WCとCoの混合粉末を焼結して得られる超硬合金では、WC結晶内に他成分の微粒子を分散させることが困難であるのに対し、本発明者らが超硬合金の硬さと靱性を同時に向上させる方法について、長年に亘り検討していた結果から、Wと炭素とCoの混合粉末に微細なAl23粉末を添加して焼結すると、焼結過程で生成・成長するWC結晶内に微細なAl23粒子が取込まれて分散すること、あるいはW−Al系合金もしくはW−Al−Co系の合金などWとAlが均一に固溶した出発原料粉末にCoと炭素粉末を添加して加熱焼結すると、焼結過程で生成・成長するWC結晶内に、同時に生成する微細なAl23粒子が取込まれて分散すること、このAl2O33がWC結晶内に分散されるとWC結晶自身の硬さと靱性が高くなること、そしてAl23により粒内分散されたWCを含有する超硬合金は、硬さ,靱性,耐摩耗性,耐欠損性、耐衝撃性などに優れるという知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
本発明の超硬合金は、鉄族金属を主成分とする結合相を5〜35体積%と、炭化タングステンからなる硬質相とを含有する超硬合金において、該硬質相は、該炭化タングステンの粒内に酸化物を含む粒内分散物が分散された粒内分散強化炭化タングステンを含有しており、該粒内分散物の全含有比率が該炭化タングステン全体に対して0.01体積%以上であることを特徴とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の超硬合金における結合相は、具体的には、Co,Ni,Co−Ni合金,Fe−Ni合金および20重量%以下のW,Cr,Mo,Vを固溶したCo−W合金,Ni−Cr合金,Co−Cr−V合金,Co−Ni−Cr合金,Co−Ni−W−Cr合金またはFe−Ni−Co−W−Cr−Mo合金などを挙げることができる。また、場合によってはMg,Al,および希土類元素(Sc,Yを含む)の1種以上が含有されていると、結合相と合金化して固溶強化、あるいはCoAl,Ni3Alなどの金属間化合物が析出して分散強化されて、高温硬さ、耐熱性、耐塑性変形性、耐酸化性などがさらに改善されるので好ましい。この結合相の含有量は、超硬合金全体に対し5体積%未満では、合金内に巣孔が残留して強度・靱性や耐欠損性が低下し、逆に35体積%を超えて多くなると、硬さや耐摩耗性が低下するため、5〜35体積%と定めた。
【0009】
この結合相の他に含有している硬質相としての炭化タングステンは、六方晶系のWC結晶であり、通常は三角柱状の外観を呈するが、(001)面の発達した三角あるいは六角板状の結晶にすると、さらに硬さと靱性が同時に向上するので好ましい。また、この炭化タングステンは、粒内に酸化物を含む粒内分散物が分散された粒内分散強化炭化タングステンとして含有しているものである。
【0010】
本発明の超硬合金は、前述の結合相と粒内分散強化炭化タングステンの混在した炭化タングステンの硬質相とからなる場合、これらの結合相と硬質相の他に、超硬合金全体に対して、周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物,炭窒化物,炭酸化物,炭窒酸化物およびこれらの相互固溶体の中の1種以上からなる立方晶系化合物相を55体積%以下含有している場合、結合相と硬質相の他に、超硬合金全体に対して、Mg,Alおよび希土類元素(Sc,Yを含む)の酸化物の中の1種以上からなる酸化物分散相を5体積%以下含有している場合、または結合相と硬質相と立方晶系化合物相と酸化物分散相とからなる場合を代表例として挙げることができる。
【0011】
これらのうち、立方晶系化合物相は、具体的には、Ti(CN),Zr(CN),HfN,(WTi)C,(WTiTa)C,(WTiTa)(CN),(WZr)(C0),(WHf)Cなどの1種以上からなる場合を挙げることができる。この立方晶系化合物相の量が55体積%を超えて多くなると粒内分散強化WCの量が相対的に少なくなり、硬さと靱性の改善効果が低いために55体積%以下と定めた。
【0012】
また、酸化物分散相は、立方晶系化合物相中または/および結合相中に微細粒子として均一分散している場合には、超硬合金自体の硬さおよび靭性をより向上させる傾向を示すことから好ましいことである。
【0013】
硬質相中に混在している粒内分散強化炭化タングステンは、炭化タングステン全体に対して20体積%以上含有していると、硬さ,強度,および靭性を顕著に高める傾向にあることから好ましいことである。また、粒内分散強化タングステンが(001)面の発達した三角あるいは六角板状の結晶に代表される板状結晶、具体的には、任意の断面における炭化タングステンの結晶が棒状,三角状,六角状に観察される板状晶炭化タングステンからなる場合には、さらに一層、上述の特性を高める傾向にあることから好ましいことである。
【0014】
炭化タングステンの粒内に均一分散し、粒内分散物として存在している酸化物は、超硬合金を作製するときの加熱焼結時に安定な酸化物であれば問題がなく、具体的には、MgO,Al23,Y23,La23,CeO2,Yb23,MgAl24,Y3Al512,などの1種以上からなる活性金属の酸化物または複合酸化物を代表例として挙げることができる。この他、BeO,CaO,SrO,ThO2など基本的に超硬合金の焼結過程で安定な酸化物をすべて挙げることができるが、分散効果、毒性、放射能、水との反応性などの点から、Mg,Al,希土類の酸化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種が好ましいことである。
【0015】
この粒内分散物としての酸化物含有比率は、炭化タングステン全体に対して、0.01体積%未満では、WC結晶内に取込まれる酸化物粒子の割合が減少して酸化物分散強化による硬さ・靱性の改善効果が低くなる傾向にあるために、酸化物の含有比率を0.01体積%以上と定めた。粒内分散物としての酸化物含有比率は、製造上における困難さと、得られる超硬合金自体に発生する巣孔の増加および酸化物の凝集による強度低下から、0.01〜1体積%が好ましく、特に0.02〜0.5体積%でなることが好ましいことである。
【0016】
この粒内分散物は、前述の酸化物のみからなる場合、または酸化物と他の物質とからなる場合でもよく、他の物質を具体的に挙げると、炭化物,窒化物,炭窒化物,炭酸化物,窒酸化物,炭窒酸化物,金属,合金の中の1種以上からなるものである。これらのうち、酸化物と他の物質として金属および/または合金とが含有されていると粒内分散強化炭化タングステン自体の靭性が強化されることから好ましいことである。特に、この粒内分散物がMg,Alおよび希土類元素の酸化物の中の1種以上と、鉄族金属または鉄族元素を含有した合金からなる場合には、靭性の強化に対し一層好ましいことである。
【0017】
この粒内分散物は、微細で、かつ均一に分散されることが好ましく、具体的には、平均径が0.5μm以下、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.01μm以下からなることである。この粒内分散物と粒内分散強化炭化タングステンとの大きさの関係は、製造上の簡易さと、硬さ,強度,および靭性を顕著に高める傾向にあることから、粒内分散強化炭化タングステンの平均粒径が粒内分散物の平均径の3〜300倍からなる場合が好ましいことである。
【0018】
本発明の超硬合金は、出発原料物質であるタングステンまたは炭化タングステンに、粒内分散物となる無機物質をドープまたはイオン注入し、ドープまたはイオン注入された出発原料物質を用いて従来の粉末冶金の製造方法を応用して作製するなども考えられる。しかし、このような方法では、非常に困難であること、粒内分散物の選定が制限されること、製造工程の付加による工程の複雑化および高製造コスト化などになることから以下の本発明の製造方法が好ましいことである。
【0019】
本発明の超硬合金の製法は、超硬合金を作製するための出発原料物質を混合・粉砕して混合粉末とする第1工程、該混合粉末を成形して粉末成形体とする第2工程、該粉末成形体を非酸化性雰囲気または真空中で1200〜1600℃に加熱焼結する第3工程とを含む超硬合金の製造方法であって、該出発原料物質は、鉄族金属を主成分とする結合相形成粉末と、W粉末と、カーボンおよび/または黒鉛の炭素源粉末と、該加熱焼結時に安定である酸化物粉末とを含有していることを特徴とする製造方法である。
【0020】
この製法における出発原料物質として含まれる結合相形成粉末は、前述の超硬合金において挙げた結合相成分からなる粉末、具体的には、Co,Ni,Fe,Co−W合金,Ni−Cr合金,またはFe−Cr−Ni合金などの粉末を代表例として挙げることができる。
【0021】
また、この製法における出発原料物質として含まれる酸化物粉末は、前述の超硬合金において挙げた酸化物分散相成分からなる粉末、具体的には、MgO,Al23,Y23,La23,CeO2,Yb23,MgAl24,Y3Al512などの1種以上の粉末を代表例として挙げることができる。これらの酸化物粉末は微粒子になるほどWC結晶中に取込まれ易くなるため、平均粒子径で0.5μm以下が好ましい。また、Mg(NO32,AlCl3,Y3(NO32などの塩類の溶液を使用すると加熱分解して生成する酸化物が微粒子で、かつ均一に分散できるので好ましい。
【0022】
本発明の超硬合金の製法における立方晶系化合物相形成粉末として、具体的には、TiC,ZrC,HfC,TiN,ZrN,HfN,VC,NbN,TaC,,TiO2,Zr02,Hf(CN),Zr(CO),(WTi)C,(WZr)(CO),(WTiTa)C,(WTiTa)CNなどの1種以上からなる場合を挙げることができる。
【0023】
本発明の超硬合金の製法における合金粉末として、具体的には、W−Al,W−Y,W−Ce,W−Al−Co,W−Zr−Ni,W−Ta−Feなどの1種以上からなる合金を挙げることができる。
【0024】
本発明の超硬合金の製法における製造工程は、出発原料を混合・粉砕する工程、混合粉末を加圧成形する工程、成形粉末を非酸化性雰囲気あるいは真空中で1200〜1600℃に加熱焼結する工程とからなる。焼結工程における雰囲気が真空である場合には、その圧力は1〜100Paの範囲が好ましい。1Pa未満では、添加した酸化物が炭化物と反応して分解消失やガス発生し易くなり、100Paを超えて高くなると、TiCなどの炭化物が酸化されるためである。特に、出発原料にWと活性金属の合金を含有している場合には、混合粉末中の酸化物あるいは雰囲気中の酸素と反応して、活性金属の酸化物が生成されるとともに、易焼結性となることから好ましいことである。
【0025】
【作用】
本発明の超硬合金は、酸化物を含む粒内分散物が炭化タングステンの粒内に均一に分散されることにより炭化タングステン粒内に残留応力を付与するとともに、粒内のクラック伝播を抑制する作用をし、かつ焼結時に再結晶化される炭化タングステンの欠陥を減少させる作用および炭化タングステンの粒内の強化作用をしており、この粒内分散強化炭化タングステンが超硬合金内で均一に分散されることにより超硬合金の硬さ,強度,靭性,耐熱クラック性および耐熱衝撃性を高める作用をしているものである。
【0026】
また、本発明の超硬合金の製法は、Wと炭素とCoの混合粉末に添加された微細な酸化物を含む粒内分散物の粒子が焼結過程で生成・成長するWC結晶内に取込まれて分散される場合、あるいはWと活性金属との合金と炭素との加熱反応により生成・成長するWC結晶内に、同時に酸化生成する微細な活性金属の酸化物粒子が取込まれて分散される場合があり、この分散された粒内分散物粒子によりWC結晶の硬さと靱性を同時に改善し、特に超硬合金中に均一分散されることによって強度,靭性,耐熱クラック性および耐熱衝撃性を顕著に高める作用となるものである。
【0027】
【実施試験1】
まず、市販されている平均粒径が1.5μmのW,約3μmのAl,1.2μmのCo,1.7μmのNiの各粉末を用い、表1に示した配合組成に秤量し、ステンレス製ポットにアセトン溶媒と超硬合金製ボールと共に挿入して48時間混合粉砕後、乾燥して得た混合粉末を黒鉛製ルツボに挿入し、雰囲気圧力0.1Paの真空中で1400℃×1時間の加熱処理を施して、出発原料用合金粉末A1〜A3を得た。これらのA1〜A3粉末のX線回折による組成結果と粒径を表1に併記した。
【0028】
次に、上記のCo,Ni,Al,出発原料用合金粉末A1〜A3および市販されている平均粒径が2.0μmのW,2.5μmのWC,4.5μmの黒鉛(表中では「G」と記す),1.0μmの(WTi)Cの複合炭化物(重量比でWC/TiC=70/30),1.0μmのTaC,1.7μmのCr32,0.005μmのMgO,0.01μmのAl23,0.02μmのY23,0.02μmのCe23の各出発原料粉末を用いて、表2に示す配合組成に秤量し、ステンレス製ポットにアセトン溶媒と超硬合金製ボールと共に挿入し、48時間混合粉砕後、乾燥して混合粉末を得た。
【0029】
これらの混合粉末を金型に充填し、2ton/cm2の圧力でもって約5.5×9.5×29mmの粉末成形体を作製し、アルミナとカーボン繊維からなるシート上に設置し、雰囲気圧力10Paの真空中で、表2に併記した温度でもって1時間加熱保持して、本発明品1〜9および比較品1〜9を得た。
【0030】
こうして得た本発明品1〜9および比較品1〜9の超硬合金を#230のダイヤモンド砥石で湿式研削加工し、4.0×8.0×25.0mmの形状に作製し、JIS法による抗折力を測定して、その結果を表3に示した。また、各同形状試料の1面を0.3μmのダイヤモンドペーストでラップ加工した後、ビッカース圧子を用いた荷重:196Nでの硬さおよび破壊靱性値K1c(IM法)を測定し、その結果を表3に併記した。
【0031】
また、各同形状試料のラップ面について電子顕微鏡にて組織写真を撮り、画像処理装置にて、結合相,立方晶系化合物相,酸化物相,全WCの体積比率およびWCの平均粒径および全WCに対する板状WC結晶(最長径/最短径が3以上)の体積比率を求め、その結果を表4に併記した。また、WC結晶内に分散している粒内分散物である酸化物粒子とその他物質(金属粒子)の成分,粒径,全WCに対する体積比率を測定し、表5に示した。
【0032】
これらの本発明品1〜9および比較品1〜9のうち、本発明品1および比較品1により、SNGN120408形状の切削工具用チップを作製した。この切削工具用チップを用いて、被削材:チルドロール(HRC=60),切削速度:15m/min,切込み:1.5mm,送り:0.3mm/revの条件で乾式旋削試験を行い、チッピング,欠損または平均逃げ面摩耗幅が0.45mmとなるまでの寿命時間を求めた。その結果、本発明品1が25minであったのに対し、比較品1は19minであった。
【0033】
次いで、本発明品3,7および比較品3,7の超硬合金製素材を、230#のダイヤモンド砥石を用いて研削加工し、SPGN120308の切削工具用チップを製作した。こうして得た切削工具用チップを用いて、被削材:FC350,切削速度:100m/min,切込み:1.5mm,送り:0.3mm/rev,切削時間:10minの条件で乾式旋削試験を行い、平均逃げ面摩耗幅VBを求めた。その結果、本発明品3,7のVBが0.26mmと0.24mmであったのに対し、比較品3,7はそれぞれ0.32mmと0.29mmであった。
【0034】
さらに、本発明品6および比較品6の超硬合金製チップ素材を、230#のダイヤモンド砥石を用いて研削加工し、SPGN120308の切削工具用チップを製作した。こうして得た同一組成成分の試料からなる切削工具用チップ3個づつを用いて、被削材:SCM440,切削速度:100m/min,切込み:2.0mm,送り:0.40mm/刃,切削距離:2mの条件で乾式フライス切削試験を行い、刃先に欠損またはチッピングが発生する場合、あるいは逃げ面摩耗量が0.25に達するまでの切削工具チップ3個の平均切削距離を求めた。その結果、本発明品6の切削可能距離が9.8mあったのに対し、比較品6は7.9mであった。
【0035】
【表1】
Figure 0004111469
【0036】
【表2】
Figure 0004111469
【0037】
【表3】
Figure 0004111469
【0038】
【表4】
Figure 0004111469
【0039】
【表5】
Figure 0004111469
【0040】
【発明の効果】
本発明の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金は、同一組成成分でなる従来の超硬合金からなる比較品に対比して、抗折力,硬さおよび破壊靭性の全てにすぐれており、特に強度,靭性,耐熱クラック性および耐熱衝撃性が顕著にすぐれているという効果、その結果、さらに強度,靭性,耐熱クラック性および耐熱衝撃性を重要視する必要があるフライス用切削およびガンドリルに代表される回転切削工具として実用した場合に、工具寿命が顕著に向上するという効果を発揮するものである。

Claims (12)

  1. 鉄族金属を主成分とする結合相を5〜35体積%と、炭化タングステンからなる硬質相とを含有する超硬合金において、該硬質相は、該炭化タングステンの粒内にMg,Al,および希土類元素(Sc,Yを含む)の酸化物の中の1種以上を含む粒内分散物が分散された粒内分散強化炭化タングステンを含有しており、該粒内分散物の全含有比率が該炭化タングステン全体に対して0.01体積%以上であることを特徴とする酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金。
  2. 上記超硬合金は、該超硬合金全体に対して、周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物,炭窒化物,炭酸化物,炭窒酸化物およびこれらの相互固溶体の中の1種以上からなる立方晶系化合物相を55体積%以下含有していることを特徴とする請求項1に記載の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金。
  3. 上記超硬合金は、該超硬合金全体に対して、Mg,Al,および希土類元素(Sc,Yを含む)の酸化物の中の1種以上からなる分散相を5体積%以下含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物により粒内分散されたWC含有超硬合金。
  4. 上記粒内分散物は、Mg,Al,および希土類元素(Sc,Yを含む)の酸化物の中の1種以上からなることを特徴とする請求項1,2または3に記載の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金。
  5. 上記粒内分散物は、Mg,Al,および希土類元素(Sc,Yを含む)の酸化物の中の1種以上と、鉄族金属またはその合金からなる金属および/または合金とを含有していることを特徴とする請求項1,2または3に記載の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金。
  6. 上記粒内分散物は、平均径が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金。
  7. 上記粒内分散強化炭化タングステンは、板状結晶の炭化タングステンからなることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金。
  8. 上記粒内分散強化炭化タングステンは、平均粒径が上記粒内分散物の平均径の3〜300倍からなることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金。
  9. 上記粒内分散強化炭化タングステンは、炭化タングステン全体に対し20体積%以上含有していることを特徴とする請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金。
  10. 超硬合金を作製するための出発原料物質を混合・粉砕して混合粉末とする第1工程、該混合粉末を成形して粉末成形体とする第2工程、該粉末成形体を非酸化性雰囲気または真空中で1200〜1600℃に加熱焼結する第3工程とを含む超硬合金の製造方法であって、該出発原料物質は、鉄族金属を主成分とする結合相形成粉末と、W粉末と、カーボンおよび/または黒鉛の炭素源粉末と、Mg,Al,および希土類元素(Sc,Yを含む)の酸化物の中の1種以上からなる粉末とを含有していることを特徴とする酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金の製法。
  11. 超硬合金を作製するための出発原料物質を混合・粉砕して混合粉末とする第1工程、該混合粉末を成形して粉末成形体とする第2工程、該粉末成形体を圧力1〜100Paの真空中で1200〜1600℃に加熱焼結する第3工程とを含む超硬合金の製造方法であって、該出発原料物質は、WとMg,Al,および希土類元素(Sc,Yを含む)の中の1種以上とからなるW含有合金粉末と、鉄族金属を主成分とする結合相形成粉末と、カーボンおよび/または黒鉛の炭素源粉末とを含有していることを特徴とする酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金の製法。
  12. 上記出発原料物質は、周期律表の4a,5a,6a族金属の炭化物,窒化物,酸化物,炭窒化物,炭酸化物,窒酸化物,炭窒酸化物およびこれらの相互固溶体の中の1種以上でなる金属化合物粉末を含有していることを特徴とする請求項10または11に記載の酸化物により粒内分散強化されたWC含有超硬合金の製法。
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