JP4111072B2 - 円筒内面の溶射方法および溶射装置 - Google Patents

円筒内面の溶射方法および溶射装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ワークの円筒部内面に溶射により皮膜を形成する円筒内面の溶射方法および溶射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンのシリンダボアなどの円筒内面に対し、溶射により皮膜を形成する際に、皮膜不要部であるシリンダブロック端面などを覆うマスキング部材を使用して溶滴粒子の付着を防止することは一般的であり、このようなマスキング部材を使用して溶射を行うことは、下記特許文献1にも記載されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平7−62518号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
例えば図6に示すように、エンジンのシリンダブロック1における溶射不要部である上端面1aにマスキング部材3を被せた状態で、溶射ガン5を回転させつつシリンダボア7内に挿入してボア内面7aに溶射皮膜を形成する場合を想定する。
【0005】
この場合、図7(a)に示すように、溶射ガン5をシリンダボア7内の下部から図中で上方に移動させながら溶射を行う際に、シリンダボア7の中心軸線Xに対し90度より小さい溶射角度α1を持って溶射することで、溶射皮膜中への未溶融粒子の巻き込みを回避でき、溶射皮膜性状の悪化を防止することができる。
【0006】
ところで、上記した溶射角度α1を持って溶射を行う場合、溶滴粒子の下方への流れが発生するのに伴って、シリンダブロック1の上端面1a側からシリンダボア7内に入り込む気流Sが発生する。
【0007】
このため、溶射ガン5がシリンダボア7の内部にあるときには、図7(a),(b)に示すように、上記した溶射角が気流Sに押されてα1,α2(α1=α2)を維持しているが、図7(c)のように、溶射ガン5がシリンダボア7の外部にあるときには、溶滴粒子がシリンダボア7内に入らず気流Sが発生しないので、溶射角は、α1,α2より大きいα3となる。すなわち、この溶射角α3が、溶射ガン5にあらかじめ設定してある溶射角となる。
【0008】
そして、上記した図7(b)の状態から図7(c)の状態に移行する際には、溶滴粒子の流れの向きが急激に変化し、このため8図に示すように、ボア内面7aに形成する溶射皮膜9の厚さは、図7(a),(b)にて形成する溶射皮膜9aの一定した厚さtに対し、上端面1aほど徐々に薄くなるテーパ形状の溶射皮膜9bとなってしまい、安定した溶射皮膜9が得られないという問題がある。
【0009】
そこで、この発明は、円筒内面に安定した溶射皮膜を形成することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、この発明は、ワークの円筒部内面に溶射ガンから溶融した溶射用材料を溶射して皮膜を形成する円筒内面の溶射方法において、前記円筒部の内径とほぼ同一径の内径を備えた円筒状のマスキング部材を、このマスキング部材の円筒部内面が、前記ワークの円筒部内面の延長上に位置するよう前記ワークの端部に設置し、前記ワークと前記マスキング部材との間に隙間を形成し、該隙間を外周側で密閉した状態で、前記溶射ガンを前記ワークの円筒部内の軸線方向に移動させつつ溶射を行う溶射方法としてある。
【0011】
【発明の効果】
この発明によれば、ワークの端部とマスキング部材との間に隙間を設けているので、溶射皮膜がマスキング部材の円筒部に連続して形成されることがなく、したがってマスキング部材を取り外すときに、溶射皮膜の剥がれを防止することができ、良好な溶射皮膜を得ることができる。
また、上記した隙間を外周側で密閉してあるので、ワークの端部への付着を、より確実に防止することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0013】
図1は、この発明の実施の一形態に係わる円筒内面の溶射装置を示す断面図で、図2は、その全体構成を示す斜視図である。ここでの円筒内面は、自動車用エンジンにおけるワークとしてのシリンダブロック11に設けてあるシリンダボア13のボア内面15であり、このシリンダボア13内の中心に、ガス溶線式の溶射ガン17を挿入し、その溶射口19から、溶融した溶射用材料としての鉄系金属材料を、溶滴粒子57として溶射してボア内面15に対して溶射皮膜を形成する。
【0014】
溶射ガン17は、シリンダボア13内を上下動可能であるとともに回転可能であり、この回転状態で、シリンダボア13の図1中で下部の深部側から同上部の開口側に向けて移動する際に、溶射を行う。ここで、図2に示すように、溶射口19からの溶滴粒子57の噴出方向は、シリンダボア1の中心軸線Xに対し角度θ傾いている。ただし、θ<90度である。
【0015】
この状態でシリンダボア13内に溶射ガン17を挿入すると、溶射口19から噴出する溶滴粒子57の流れに伴ってシリンダボア13内には、図1中で上部から下部に向かう気流が発生する。この気流によって溶滴粒子57が押されてさらに下方に向けて噴出し、結果的には、後述する図4(a)に示すように、中心軸線Xに対してθ1傾いた状態となる。ただし、θ1<θであり、このθ1が溶射角となる。
【0016】
上記したシリンダブロック11の皮膜不要部である上端面21には、全体として円筒状のマスキング部材23をスペーサ25を介して設置している。マスキング部材23は、円盤部27と、円盤部27の内周縁から上方に延びる円筒部29とをそれぞれ備えている。円筒部29の内径は、シリンダボア13の内径とほぼ同一径であり、円筒部29の円筒部内面29aは、ボア内面15の延長上に位置している。すなわち、シリンダボア13の中心軸線Xとマスキング部材23の中心軸線とが一致している。
【0017】
なお、ここでのシリンダボア13の内径Dは93mmである。また、円筒部29の長さHは、ボア内径D,溶射角θ1との間で、H≧D/(2tanθ1)の関係にあり、ここでの長さHは28mmとしてある。
【0018】
また、スペーサ25を設けることにより、シリンダブロック11とマスキング部材23との間に隙間31を形成し、この隙間寸法Tを、ここでは1.5mmとしている。このスペーサ25は、隙間31をその外周側で密閉しており、この密閉した隙間31におけるボア内面15とスペーサ25の内周縁との間の寸法Pを、ここでは10mmとしている。
【0019】
次に、図3を用いて溶射ガン17の詳細を説明する。この溶射ガン17は、溶線送給機33から鉄系金属材料の溶線35の送給を受けるとともに、アセチレンまたはプロパンあるいはエチレンなどの燃料を貯蔵した燃料ガスボンベ37および酸素を貯蔵した酸素ボンベ39から、配管41および43を介して燃料ガスおよび酸素の供給をそれぞれ受ける。
【0020】
上記した溶線35は、中央部の上下に貫通する溶線送給孔41の上端から下方に向けて送給する。また、燃料および酸素は、溶線送給孔41の外側の筒部45に上下方向に貫通して形成してある環状のガス案内流路45aに供給する。この供給した燃料および酸素の混合ガスは、ガス案内流路45aの下端開口部45bから流出し、点火されることで燃焼炎47を形成する。
【0021】
前記筒部45の外周側には、アトマイズエア流路49を設けてあり、さらにその外周側には、いずれも円筒形状の隔壁51と外壁53との間に形成したアクセラレータエア流路55を設けてある。
【0022】
アトマイズエア流路49を流れるアトマイズエアは、燃焼炎47の熱を前方(シリンダボア13の深部側)へ送って周辺部に対する冷却を行うとともに、溶融した溶線35を同前方へ送る。一方、アクセラレータエア流路55を流れるアクセラレータエアは、上記前方へ送られ溶融した溶線35を、この送り方向と交差するように前記ボア内面15に向けて溶滴粒子57として送り、これによりボア内面15に溶射皮膜59を形成する。
【0023】
アトマイズエア流路49には、アトマイズエア供給源61から、減圧弁63を備えたエア供給管65を通してアトマイズエアを供給する。一方、アクセラレータエア流路55には、アクセラレータエア供給源67から、減圧弁69およびマイクロミストフィルタ71をそれぞれ備えたエア供給管73を通してアクセラレータエアを供給する。すなわち、アトマイズエア流路49とアクセラレータエア流路55とは、互いに別系統としてそれぞれ設けてある。
【0024】
アトマイズエア流路49とアクセラレータエア流路55との間の隔壁51は、下部側の先端部が、外壁53に対しベアリング75を介して回転可能となる回転筒部77を備えている。この回転筒部77の上部外周に、アクセラレータエア流路55に位置する回転翼79を設けてある。この回転翼79に、アクセラレータエア流路55を流れるアクセラレータエアが作用することで、回転筒部77が回転翼79とともに回転する。
【0025】
回転筒部77の先端面77aには、回転筒部77と一体となって回転する先端部材79を固定してある。先端部材79の周縁の一部には、前記したアクセラレータエア流路55にベアリング75を介して連通する噴出流路81を備えた突出部83を設けてある。
【0026】
噴出流路81は、アクセラレータエア流路55とほぼ同一直線状に連続する基部流路81aと、基部流路81aの下端から、前記図2に示した溶射角θとなるような角度を持って屈曲してボア内面15に向けて開口する先端流路81bとを備える。この先端流路81bの先端開口が、溶射ガン17の前記した溶射口19となる。
【0027】
先端部材79の突出部83を除く周縁部は、板状部85となってアクセラレータエア流路55の先端開口を覆っている。
【0028】
また、前記したアトマイズエア流路49は、先端部分の内周面、すなわち回転筒部77の先端および先端部材79のそれぞれの内周面が、先細となるよう傾斜面77a,79aを備えている。
【0029】
次に、作用を説明する。まず、燃料ガスボンベ37および酸素ボンベ39から燃料おおよび酸素をガス案内流路45aにそれぞれ供給し、ガス案内流路45aの下端開口部45bから流出する混合ガスに点火して燃焼炎47を形成する。このとき、アトマイズエア流路49に、減圧弁63によって0.5MPaに減圧したアトマイズエアを供給する。このアトマイズエアの供給により、燃焼炎47による熱は、前方へ送られ、周囲部材の昇温が回避され、周囲部材への冷却効果が発揮される。
【0030】
アトマイズエアを供給してから、所定時間経過した後に、アクセラレータエア流路55に、減圧弁69によって1.5MPaに減圧し、かつマイクロミストフィルタ71によってエア中の水分や油分あるいは塵埃を濾過したアクセラレータエアを供給する。
【0031】
アクセラレータエア流路55に供給したアクセラレータエアは、回転翼79を通過することで、回転筒部77と先端部材79とが一体となった部分を、外壁53に対しベアリング75を介して回転させる。さらに、このアクセラレータエアは、ベアリング75における隙間を通過してベアリング75を冷却し、噴出流路81を流れた後、その先端の溶射口19からボア内面15に向けて噴出する。この溶射口19から噴出するアクセラレータエアは、アトマイズエアによって前方へ送られた前記燃焼炎47の熱を伴って、熱風となってボア内面15に吹き付ける。
【0032】
この状態で、溶射ガン17を、図1に示す状態からシリンダボア13内に先端を挿入して往路移動させる。この移動時では、溶線35の供給はまだ行わず、溶射口19を備えた先端部材79が回転しながら下方へ移動することで、溶射口19から噴出する熱風がボア内面15のほぼ全域に当たり、予熱を行うことになる。
【0033】
予熱完了後は、溶射ガン17をシリンダボア13の開口側に向けて復路移動させる。このとき、溶線送給機33から溶線35を溶線送給孔41に送給する。この送給した溶線35は、前記した熱風によって溶融し、熱風とともに前方へ飛散し溶滴粒子57としてボア内面15に吹き付けられる。この結果、図3に示すように、ボア内面15には溶射皮膜59が形成される。
【0034】
上記した溶射ガン17の復路移動時にも、アクセラレータエアによって溶射口19を備えた先端部材79が回転する。このため、溶射ガン17の復路移動によって、ボア内面15のほぼ全域に前記した溶射皮膜59が形成される。
【0035】
このときの状態を、動作説明図として図4(a),(b)に示している。この図4(a),(b)における吹き出された溶滴粒子57は、溶滴粒子57の下方へ向かう流れに伴って発生する上部から下部へ向かう気流の影響を受けるので、溶射ガン17をシリンダボア13の外部にあるときの図2に示した溶射角度θに対し、θ1,θ2(θ1=θ2<θ)のように、シリンダボア13のより深部へ向かう流れとなる。この点については、前記図7(a),(b)に示した従来と同様である。
【0036】
ところが、この実施形態では、シリンダブロック11の上部にマスキング部材23を設置することで、その円筒部29の円筒部内面29aがボア内面15と同様な働きを示し、シリンダブロック11の上端面2付近にも内部と同様にして気流が発生する。したがって、図4(c)に示すように、溶射ガン17が図4(b)の状態からさらに上昇してシリンダボア13から引き出された状態であっても、シリンダブロック11の上端面21付近に発生している気流によって、図4(a),(b)と同様な溶射角度θ3(θ3=θ1=θ2)を確保することができる。
【0037】
これにより、図5に示すように、ボア内面15に形成する溶射皮膜59の膜厚は、シリンダブロック11の上端面2付近においても、内部と同等の例えば500μmとすることができ、ボア内面15に安定した溶射皮膜29を形成することができる。
【0038】
また、シリンダブロック11の上端面2とマスキング部材23との間に隙間31を設けているので、溶射皮膜59がマスキング部材23の円筒部29に連続して形成されることがなく、したがってマスキング部材23を取り外すときに、溶射皮膜59の剥がれを防止することができ、良好な溶射皮膜59を得ることができる。
【0039】
さらに、上記した隙間31をスペーサ25によって密閉してあるので、溶滴粒子57の皮膜不要部であるシリンダブロック11の上端面21への付着を、より確実に防止することができる。
【0040】
なお、上記実施形態においては、隙間31を1.5mmとしているが、溶滴粒子57の流れ(溶射角)の変化防止のために、5mm以下とすることが望ましい。また、ボア内面15とスペーサ25の内周縁との間の寸法Pを10mmとしているが、溶射により形成する溶射皮膜59の厚さ以上であればよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の一形態に係わる円筒内面の溶射装置を示す断面図である。
【図2】図1の溶射装置の全体構成を示す斜視図である。
【図3】図1の溶射装置における溶射ガンの詳細を示す全体構成図である。
【図4】図1の溶射装置の動作説明図である。
【図5】図1の溶射装置によりボア内面に溶射皮膜を形成した状態を示す断面図である。
【図6】従来例に係わる円筒内面の溶射装置を示す断面図である。
【図7】図6の溶射装置の動作説明図である。
【図8】図6の溶射装置によりボア内面に溶射皮膜を形成した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
11 シリンダブロック(ワーク)
15 ボア内面(円筒部内面)
17 溶射ガン
23 マスキング部材
29a マスキング部材の円筒部内面
31 シリンダブロックとマスキング部材との隙間
57 溶滴粒子(溶融した溶射用材料)

Claims (4)

  1. ワークの円筒部内面に溶射ガンから溶融した溶射用材料を溶射して皮膜を形成する円筒内面の溶射方法において、前記円筒部の内径とほぼ同一径の内径を備えた円筒状のマスキング部材を、このマスキング部材の円筒部内面が、前記ワークの円筒部内面の延長上に位置するよう前記ワークの端部に設置し、前記ワークと前記マスキング部材との間に隙間を形成し、該隙間を外周側で密閉した状態で、前記溶射ガンを前記ワークの円筒部内の軸線方向に移動させつつ溶射を行うことを特徴とする円筒内面の溶射方法。
  2. 前記溶射ガンを前記ワークの円筒部内の軸線方向に対して一方向に移動させて溶射する際に、その溶射方向を、前記円筒内面に対する垂直方向に対し前記移動方向後方側に向けた状態とすることを特徴とする請求項1に記載の円筒内面の溶射方法。
  3. ワークの円筒部内面に溶射ガンから溶射用材料を溶射して皮膜を形成する円筒内面の溶射装置において、前記円筒部の内径とほぼ同一径の内径を備えた円筒状のマスキング部材を、このマスキング部材の円筒部内面が、前記ワークの円筒部内面の延長上に位置するよう前記ワークの端部に設置し、前記ワークと前記マスキング部材との間に隙間を形成し、前記溶射ガンを前記ワークの円筒部内の軸線方向に移動させつつ溶射を行う際に、前記隙間を外周側で密閉したことを特徴とする円筒内面の溶射装置。
  4. 前記溶射ガンを前記ワークの円筒部内の軸線方向に対して一方向に移動させて溶射する際に、その溶射方向を、前記円筒内面に対する垂直方向に対し前記移動方向後方側に向けた状態とすることを特徴とする請求項に記載の円筒内面の溶射装置。
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