JP4110361B2 - 延伸フィルムの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂を用いた、位相差フィルムとして好適な延伸フィルムを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
使用波長領域のレターデーション(Re)が各波長の長さの1/4であるλ/4位相板は、反射型液晶ディスプレイ用の位相板、光ディスク用ピックアップ、防眩フィルムなどに使用できる。一方、レターデーション(Re)が波長の長さの1/2であるλ/2位相板は、液晶プロジェクターなどに利用されている。前記λ/4板やλ/2板は、上記の各用途において、より広範囲な可視光領域で使用できることが望まれている。
位相板をより広範囲な可視光領域で使用可能とするためには、可視光波長領域全範囲に亘り、位相板のReが各波長のλ/4またはλ/2にできる限り近いこと要求されるが、そのような広帯域位相板は、従来は、相互に異なる光学異方性を有する2枚のポリマーフィルムを積層しなければ得られなかった。
しかしながら、その場合には、それぞれReの異なる2枚の一軸延伸フィルムを、それぞれの延伸方向に対して相互に異なる角度をなす方向にずらして貼り合わせて積層する必要があり、特にλ/4位相板では、精密に光軸をずらすために精度の高い角度での貼り合せ技術が必要となる。また、貼り合わせの際には、接着剤を塗布したり、精密な位置合わせが必要になり、製造工程が煩雑となっていた。
【0003】
上記問題を解決すべく、マレイミド由来の繰り返し単位及びオレフィン由来の繰り返し単位を有する共重合体からなるフィルムを用いることにより、2枚を積層することなく、1枚でもλ/4位相板が得られることが特開2000−214325号公報に報告されている。しかし、該位相板はレターデーション(複屈折)の波長依存性が十分に小さくないために可視光領域において着色がある。
一方、a)固有複屈折値が負であり、波長450nm及び波長550nmのときの固有複屈折値(Δn)をそれぞれΔn(450)及びΔn(550)としたとき、固有複屈折値の波長分散が、式〔Δn(450)/Δn(550)〕≧1.02を満たすポリマーと、b)ノルボルネン系樹脂とを含有する樹脂組成物を用いることにより、単一フィルムで広帯域λ/4位相板等が得られる旨が、特開2001−194527号公報に開示されている。
しかし、上記2種類のポリマーをブレンドして得られる単一シートの位相板であっても、光線透過率が十分に高くなく、ヘイズも生じるという問題点を有していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、レターデーションの波長依存性が負となり、積層形成の必要がなく、広帯域波長領域で使用可能な位相板が形成でき、光線透過性に優れ、ヘイズのない延伸フィルムの製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族ビニル系重合体を芳香環部分まで含めて水素添加して得られるポリマーを成形して得られる、レターデーションが特定値以下のシートを、特定温度範囲で、特定条件で延伸することにより、レターデーションの波長依存性が負となり、積層形成しなくても位相板として広帯域波長領域で使用でき、光線透過性に優れるフィルムが得られることを見出した。本発明は当該知見に基づいて得られたものである。
【0006】
かくして本発明によれば、
(1)ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂を成形してなる、波長550nmのレターデーションが50nm以下であるシートを、該ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂のガラス転移温度をTgとするとき、Tg−50℃からTg+50℃の温度範囲で、少なくとも一方向に1〜4倍の延伸倍率で延伸して、波長550nmにおけるレターデーションが90〜350nmのフィルムを製造する方法、
(2)ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂の延伸工程をクリーン度がクラス100,000より清浄なクリーンルーム内にて行う(1)記載の方法、
(3)延伸速度が5〜1,000mm/秒である(1)又は(2)記載の方法、
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂が充填剤を含有するものである(1)乃至(3)記載の方法、
がそれぞれ提供される。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法は、ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂を成形してなる、波長550nmのレターデーションが50nm以下であるシートを、該ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂のガラス転移温度をTgとするとき、Tg−50℃からTg+50℃の温度範囲で、少なくとも一方向に1〜4倍の延伸倍率で延伸して、波長550nmにおけるレターデーションが90〜350nmのフィルムを得ることを特徴とする。
【0008】
本発明の方法に使用するビニル脂環式炭化水素重合体樹脂は、ビニル基を有する脂環式炭化水素化合物(以降ビニル脂環式炭化水素化合物と略記)をビニル付加重合して得られる繰り返し単位を有するものである。この重合体は、例えば、ビニルシクロアルケンやビニルシクロアルカンなどの前記ビニル脂環式炭化水素化合物やビニル基を有する芳香族炭化水素化合物(ビニル芳香族化合物)を主成分とし、必要に応じてこれらの化合物と共重合可能な単量体を含有する単量体混合物をビニル付加重合した後、重合体中に不飽和結合(芳香環部分を含む)が存在する場合には、該不飽和結合を水素化することにより得られるものである。上記のビニル基を有する脂環式炭化水素化合物をビニル付加重合して得られる繰り返し単位は、下記一般式(1)
【0009】
【化1】
Figure 0004110361
【0010】
〔式(1)中、Xは脂環式炭化水素基であり、R1〜R3は、それぞれ独立に水素原子、鎖状炭化水素基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシル基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、又は極性基(ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシル基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、又はシリル基)で置換された鎖状炭化水素基である。n1は1以上の整数である。〕で表される。
【0011】
式(1)中のXは脂環式炭化水素基を表し、環を構成する炭素数は、低複屈折性、機械強度等の観点から、通常4〜20個、好ましくは5〜7個である。
【0012】
脂環式炭化水素基は炭素−炭素不飽和結合を有してもよいが、該不飽和結合の含有量は、低複屈折性、透明性等の観点から、全炭素−炭素結合の20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。尚、炭素−炭素不飽和結合の含有量は、H−NMR測定により求めることができる。
【0013】
R1〜R3は、耐熱性、低複屈折性、機械強度等の観点から、いずれもが水素原子又は炭素原子数1〜6個の鎖状炭化水素基であることが好ましい。鎖状炭化水素基としては、アルキル基又はアルケニル基が挙げられるが、アルキル基が好ましい。
【0014】
ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂中の上記繰り返し単位の含有量は、耐熱性、低複屈折性、機械強度の観点から、通常は50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0015】
ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂の重量平均分子量(Mw)は、GPCにより測定されるポリスチレン換算値で、通常は10,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000、より好ましくは80,000〜300,000の範囲であり、且つ分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で通常は5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、最も好ましくは2以下である。Mw/Mnが上記範囲にあると、重合体の機械強度、及び耐熱性に特に優れ、重量平均分子量(Mw)が上記範囲にあると、得られるシートが機械的強度、成形性、及び低複屈折性に優れる。
【0016】
ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂のガラス転移温度(Tg)は、通常は50℃〜250℃、好ましくは70℃〜200℃、より好ましくは90℃〜180℃である。
【0017】
ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂の重合に用いるビニル芳香族化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレン、4−フェニルスチレンなどのスチレン類が挙げられ、
ビニル脂環式炭化水素化合物の具体例としては、ビニルシクロヘキサン、3−メチルイソプロペニルシクロヘキサンなどのビニルシクロヘキサン類;4−ビニルシクロヘキセン、4−イソプロペニルシクロヘキセン、1−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセン、2−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンなどのビニルシクロヘキセン類が挙げられる。
【0018】
また、本発明においては、上記化合物に、該化合物と共重合可能な他の単量体を共重合させてもよい。共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン系単量体;シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、2−エチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン、5,5−ジメチルシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエン系単量体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのモノ環状オレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、フラン、チオフェン、1,3−シクロヘキサジエンなどの共役ジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリルなどのニトリル系単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、などの(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸系単量体;フェニルマレイミド;メチルビニルエーテル;N−ビニルカルバゾール、N−ビニル−2−ピロリドンなどの複素環含有ビニル化合物系単量体などが挙げられる。
【0019】
ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂は、上記化合物を、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法により重合し、必要に応じて水素化することにより得られる。
重合体は、上記のビニル芳香族化合物やビニル脂環式炭化水素化合物と、これら化合物と共重合可能な上記化合物との、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、ブロック共重合体を用いた場合に、得られるシートが機械的強度に優れる。
重合の形態としては、塊状重合、乳化重合、懸濁重合、溶液重合等を用いることができるが、重合反応と水素化反応とを連続して行うためには溶液重合が好ましい。
【0020】
重合反応後は、スチームストリッピング法、直接脱溶媒法、アルコール凝固法等の公知の方法で重合体を回収できる。また、重合時に水素化反応に不活性な溶媒を用いた場合は、重合溶液から重合体を回収せず、そのまま水素化工程に供することができる。
【0021】
水素化方法は、例えば、有機溶媒中で、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム及びレニウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む水素化触媒を用いて行う。これらの水素化触媒の中でも、ニッケル触媒を用いると、重合体のMw/Mnが小さくなり好適である。水素化触媒は、不均一触媒、均一触媒のいずれでもよい。水素化反応は、温度が通常は10〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは80〜180℃の範囲であり、水素圧力が、通常は0.1〜30MPa、好ましくは0.5〜25MPa、より好ましくは1〜20MPaの範囲で行う。
上記方法により得られた重合体水素化物の水素化率は、通常は80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0022】
本発明に用いるビニル脂環式炭化水素重合体樹脂は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤等の各種添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤を含有することにより、透明性、及び耐熱性等を損なわずに成形時の酸化劣化等による着色や強度低下、使用時の光劣化等を防止できる。
上記添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂100重量部に対して、通常は0.001〜5重量部、好ましくは0.02〜1重量部である。
【0023】
さらに、ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂は、ゴムや熱可塑性エラストマーなどの軟質重合体、有機充填剤または無機充填剤などを含有していてもよく、これにより、得られるフィルムの高温高湿度環境下での白濁が防止できたり、成形加工性等も向上する。
充填剤の具体例としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)等の金属酸化物の微粒子(各種の金属アルコキシ化合物を焼成することにより得られる微粒子を含む);ポリメチルメタクリレーやポリスチレンなどの樹脂微粒子(少なくとも一部が架橋していてもよい)などが挙げられ、これらの中でも、シートの加工性、得られるフィルムの光線透過性等の観点から金属酸化物の微粒子が好ましく、シリカ微粒子が最も好ましい。充填剤のサイズは、平均粒径にて、通常は、0.001〜1μm、好ましくは0.005〜0.8μmである。平均粒径が小さすぎると、フィルム表面に一様な突起を形成させることにより巻き取り性等を向上させようとした場合に多量に配合する必要が生じ、粒径が大き過ぎると光の散乱が生じ、いずれの場合にもヘイズ上昇の原因となる。充填剤の配合量は、ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂100重量部に対して、通常は0.01〜0.5重量部、好ましくは0.05〜0.15重量部である。配合量が多すぎると、光の散乱によるヘイズ上昇が生じたり、延伸時に微粒子を起点として割れ(クラック)が発生する。また、配合量が少なすぎると、▲1▼延伸時にロールとフィルムの密着でフィルムに傷がつきヘイズが上昇しやすくなり、▲2▼フィルムロール巻き取り時においてフィルム同士がブロッキングを起こし、傷つきによりヘイズが上昇する。
【0024】
本発明において使用する、上記のビニル脂環式炭化水素重合体を成形して得られるシートの、波長550nmのレターデーション(Re)は、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下である。該シートを得る方法としては、押出成形法、プレス成形法、キャスト成形法などが挙げられるが、機械的強度及び低複屈折性等に優れたシートを得るためには、押出成形法が好ましい。押出成形の条件は、シリンダ温度(樹脂温度)が、好ましくは180〜300℃、より好ましくは200〜250℃であり、ダイ温度が好ましくは200〜300℃、より好ましくは220〜260℃であり、押出速度が好ましくは5〜1000mm/秒、好ましくは15〜750mm/秒である。シートの厚みは、通常0.01〜1mm、好ましくは0.04〜0.5mmである。
【0025】
本発明の方法においては、ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂を成形して得られる上記シートを、該ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂のガラス転移温度をTgとするとき、好ましくはTg−40℃からTg+40℃の温度範囲、より好ましくはTg−30℃からTg+30℃の温度範囲にて、少なくとも一方向に好ましくは1.5〜3.5倍の延伸倍率で延伸する。延伸方向は少なくとも一方向であればよいが、その方向は、シートが押出成形で得られたものである場合には、樹脂の機械的流れ方向(押出方向)であることが好ましい。
【0026】
延伸の具体的な方法は、
(1)上記において、例えば押出成形法により押出されたシートを、一定温度に加熱したロール(加熱ロール)を通過させながら延伸時の温度に保持する。
(2)次いで、一定温度に保持されたシートを、回転速度の比較的遅い第一ロールから回転速度のより速い第二ロールの順に通過させることにより延伸してフィルムにする。この場合、第一ロールの回転速度と第二ロールの回転速度の速度比を制御することにより延伸倍率を1〜4倍の範囲で調整することができる。尚、加熱ロール、第一ロール、及び第二ロールの間に、赤外線ヒータなどを設置して、シートの延伸温度を一定に保持するのが好ましい。
(3)延伸されたフィルムを、冷却ロールを通過させることにより冷却する。
(4)冷却ロールで冷却された延伸フィルムを最終的に巻き取りロールで巻き取って回収する。この際、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを重ねて同時に巻き取ってもよいし、フィルムの少なくとも一方、好ましくは両方の端にテープ等を張り合わせながら巻き取ってもよい。
【0027】
上記方法の工程(1)において、押出されたシートを加熱ロールに通過させる場合に、該押出しシートを加熱ロール温度近くまで冷却(自然冷却でも強制冷却でも可能)しつつ、そのまま加熱ロールを通してもよいが、延伸倍率を高くする場合には、押出成形して得られたシートを、一度室温まで冷却してロールに巻き取り回収した後に、巻き取った状態でロールごと延伸装置に取り付け、ロールから引き出しながら加熱ロールを通過させるのが好ましい。
また、延伸速度は、好ましくは5〜1000mm/秒、より好ましくは10〜750mm/秒である。延伸速度が上記範囲にあると、延伸制御が容易となり、得られるフィルムが、位相差フィルムとして広帯域波長に使用可能となり、さらに面精度やレターデーションの面内バラツキが小さくなる。
【0028】
上記本発明の方法においては、シートの成形工程及びフィルムへの延伸工程をクリーンルーム内で行うことが好ましく、その場合、クリーンルームのクリーン度は、クラス100,000より清浄であることが好ましく、クラス10,000より清浄であることがより好ましい。シートの成形工程及びフィルムへの延伸工程をクリーンルーム内で行うことにより、シート、フィルム、及びロールに異物が付着するのを防止でき、フィルム内への異物混入、延伸時のフィルムの傷付き等を防止することができる。
【0029】
上記方法において、得られるフィルムの波長550nmにおけるレターデーションが、λ/4波長位相板として用いる場合には好ましくは110〜150nm、λ/2波長位相板として用いる場合には好ましくは250〜300nmとなるように延伸倍率等を制御する。レターデーションを上記範囲とすることにより、λ/4波長位相板又はλ/2波長位相板として、広帯域の波長において安定して使用でき、液晶表示装置の輝度向上効果、色調改善効果、視野角特性改善効果、反射防止効果が向上する。
また、得られるフィルムの厚みが、好ましくは1〜900μm、より好ましくは5〜400μmとなるようにする。フィルムの厚みを上記範囲とすることにより、フィルムの取り扱いが容易となり、フィルム膜厚方向での温度分布が均一になるために面精度が向上し、液晶表示装置に用いる場合に軽量化、薄型化が可能になる。
【0030】
以上の本発明の方法により得られた延伸フィルムは、波長450nmにおけるレターデーション(Re450)と、波長550nmにおけるレターデーション(Re550)との関係において、Re450/Re550が1以下となり、レターデーションの波長依存性が負となるために、単層で位相板として使用できる。また、Re450/Re550の値が、1以下の範囲にて0.82に近づく程、位相板としてより広帯域の波長領域で使用可能になる。
【0031】
本発明の方法により得られた延伸フィルムは、液晶ディスプレイ用の位相板、光ディスク用ピックアップ、防眩フィルム、液晶プロジェクターなどに好適に使用できる。
【0032】
【実施例】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。これらの例中の〔部〕及び〔%〕は、特に断わりのない限り重量基準である。ただし本発明は、これらの製造例、実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
各種の物性の測定は、下記の方法に従って行った。
(1)分子量
テトラヒドロフラン(THF)を溶媒にしてGPCで測定し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
(2)分子量分布
テトラヒドロフラン(THF)を溶媒にしてGPCで測定し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)を算出した。
(3)ガラス転移温度(Tg)
JIS K7121に基づいてDSCにて測定した。
(4)水素添加率
ブロック共重合体の、主鎖及び芳香環の水素添加率は、H−NMRを測定し算出した。
【0034】
(5)シート及びフィルムの膜厚
オフライン厚み計測装置(株式会社山文電気製:型式TOF-4R)を用いて測定した。
(6)フィルムのレターデーション
自動複屈折計(王子計測機器株式会社製:KOBRA−21ADH)を用いて測定した。
(7)レターデーションの波長依存性
上記方法で測定した、波長450nmのレターデーションと波長550nmのレターデーションとの比〔Re(450)/Re(550)〕を算出して評価した。
(8)フィルムの光線透過性及びヘイズ
JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準じ、積分球式透過率測定装置により測定した。評価装置は、日本電色工業株式会社製の濁度計(NDH−300A)を使用した。
【0035】
〔製造例1〕
十分に乾燥し窒素置換した、攪拌装置を備えたステンレス鋼製反応器に、脱水シクロヘキサン320部、スチレンモノマー37.5部、及びジブチルエーテル0.38部を仕込み、60℃で攪拌しながらn−ブチルリチウム溶液(15%含有ヘキサン溶液)0.36部を添加して重合反応を開始した。1時間経過後に、反応溶液中にスチレンモノマー8部とイソプレンモノマー12部とからなる混合モノマー20部を添加してさらに重合反応を行った。前記混合モノマー添加から1時間経過後に、スチレンモノマー37.5部を添加し、さらに重合反応を行った。前記スチレンモノマー添加から1時間経過後に、反応溶液にイソプロピルアルコール0.2部を添加して反応を停止させた。得られたブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)と分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、Mw=101,000、Mw/Mn=1.13であった。
【0036】
次いで、上記重合反応溶液400部を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒として、シリカ−アルミナ担持型ニッケル触媒(日揮化学工業社製;E22U、ニッケル担持量60%)10部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度160℃、圧力4.5MPaにて水素化反応を行った。
水素化反応開始から8時間経過後に、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去し、該水素化触媒が除去された反応溶液にシクロヘキサン800部を加えて希釈し、該反応溶液を3500部のイソプロパノール(クラス1000のクリーンルームで、孔径1μmのフィルターにてろ過したもの)中に注いでブロック共重合体を析出させ、ろ過により分離回収し、80℃にて48時間減圧乾燥させた。
得られたブロック共重合体は、スチレン由来の繰り返し単位を含有するブロック(以降Stと略記する)、及び、スチレンとイソプレン由来の繰り返し単位を含有するブロック(以降St/Ipと略記する)、及びStとからなる3元ブロック共重合体であり、それぞれのブロックのモル比は、St:St/Ip:St=34.5:31(St:Ip=10/21):34.5であった。該ブロック共重合体のMwは84,900、Mw/Mnは1.20、水素化率は99.9%、Tgは127.1℃であった。
【0037】
〔実施例1〕
製造例1で得られたブロック共重合体100部に対し、▲1▼軟質重合体(クラレ社製;セプトン2002)0.1部、▲2▼酸化防止剤(チバスペシャリティ・ケミカルズ社製;イルガノックス1010)0.1部、▲3▼ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製:TINUVIN P)0.1部、▲4▼ヒンダードアミン系耐光安定剤である、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物0.1部、及び、▲5▼充填剤であるシリカ微粒子(アドマテックス社製:アドマファインSO−C5)0.15部を、それぞれ添加して2軸混練機(東芝機械社製;TEM−35B、スクリュー径37mm、L/D=32、スクリュー回転数150rpm、樹脂温度240℃、フィールドレート10kg/時間)で混練し、ストランド状に押し出した。これを水冷してペレタイザーで切断し、ペレット化した。
【0038】
得られたペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した後、65mmφのスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出し成形機(Tダイ幅500mm)を使用し、クラス10,000以下のクリーンルーム内で、溶融樹脂温度240℃、Tダイ温度240℃の成形条件にて、厚さ98μm、幅500mmのフィルムを押出し成形した。得られたシートはロールに巻き取り回収した。シートの550nmにおけるレターデーションは8nmであった。
【0039】
巻き取り回収した上記シートを、ロールごと上記と同一のクリーンルーム内に設置された延伸装置に取り付け、加熱ロールにて145℃に加熱した後、回転速度の異なる第一ロール、第二ロールの順に通過させながら、シートを押出方向に1.8倍の延伸倍率で、延伸速度(引っ張り速度)15mm/秒にて一軸延伸した。延伸されたフィルムは、冷却ロールにて35℃にまで冷却した後、巻き取り回収した。得られたフィルムの厚みは55μm、550nmにおけるレターデーションは130nmであった。
得られたフィルムの波長依存性、光線透過率、ヘイズを測定して評価した。評価結果を表1に記載する。
【0040】
【表1】
Figure 0004110361
【0041】
〔実施例2〕
延伸温度を125℃に変えた以外は実施例1と同様に延伸フィルムを製造して評価した。結果を表1に記載する。
【0042】
〔実施例3〕
充填剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様に延伸フィルムを製造して評価した。結果を表1に記載する。充填剤を添加しなかったことにより、巻き取り時の摩擦等により若干ヘイズの上昇等がみられたが、実用上問題ないレベルであった。
【0043】
〔実施例4〕
延伸速度を800mm/秒、延伸倍率を1.3倍とした以外は、実施例1同様に延伸フィルムを製造して評価した。結果を表1に記載する。延伸速度が速いと、静電気が発生し易くなり、異物が微量に吸着して若干ヘイズが上昇しているが、実用上は問題ないレベルであった。
【0044】
〔実施例5〕
押出し及び延伸をクリーンルームで行わなかった以外は、実施例1同様に延伸フィルムを製造して評価した。結果を表1に記載する。異物付着量が僅かに増えて若干のヘイズ上昇がみられたが、実用上は問題のないレベルであった。
【0045】
〔比較例1〕
延伸温度を180℃に変えた以外は実施例1同様に延伸フィルムを製造して評価した。結果を表1に記載する。
【0046】
〔比較例2〕
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エンを公知の方法で開環重合し、次いで水素添加した。得られた水添ポリマーの数平均分子量は34,200、水添率は99.5%、ガラス転移温度は168℃であった。該水添ポリマー19重量部と、前記固有複屈折値が負である材料として、ポリスチレン(東洋スチレン(株)製、HRM−2−211L)6重量部とを、塩化メチレン溶液に溶解して塗布溶液(25重量%)を調製した。前記塗布溶液をガラス板上にドクターブレードを用いて流延し、乾燥して、厚みが94μmであるシートを形成した。このシートを140℃にて延伸倍率1.8倍に一軸延伸して延伸フィルムを得た。
得られたフィルムの波長依存性、光線透過率、ヘイズを測定して評価した。評価結果を表1に記載する。
【0047】
以上、表1記載の評価結果より、ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂を本発明の方法(延伸条件)にて延伸したフィルムは、レターデーションの波長依存性が負となり、さらに光線透過性に優れヘイズもないので、λ/4波長位相板として広帯域の波長範囲で使用できる(実施例1〜5)のに比較し、本発明の方法の範囲外の延伸温度で延伸したフィルム(比較例1)は、レタデーションの波長依存性が負にならずに広帯域での使用が困難であり、さらに、フィルムの表面精度及び厚みの均一性が劣っていた。さらに、ノルボルネン系樹脂とポリスチレン樹脂との組成物からなるシートを延伸して得られたフィルム(比較例2)は、光線透過性(光線透過率及びヘイズ)に劣っていた。
【0048】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、レターデーションの波長依存性が負となり、光線透過性にも優れ、ヘイズもないために、単一フィルムで広帯域波長位相板として好適なフィルムが提供される。従って該フィルムを位相板に使用した液晶ディスプレイは、高輝度且つ色調に優れ、画像が鮮明であり、視野角も広くなる。

Claims (6)

  1. ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂を成形してなる、波長550nmのレターデーションが50nm以下であるシートを、該ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂のガラス転移温度をTgとするとき、Tg−50℃からTg+50℃の温度範囲で、少なくとも一方向に1倍を超え〜4倍の延伸倍率で延伸して、波長550nmにおけるレターデーションが90〜350nm、波長450nmにおけるレタデーションRe(450)と波長550nmにおけるレターデーション(Re550)の比Re450/Re550が1以下のフィルムを製造する方法。
  2. ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂の延伸工程をクリーン度がクラス100,000より清浄なクリーンルーム内にて行う請求項1記載の方法。
  3. 延伸速度が5〜1,000mm/秒である請求項1又は2記載の方法。
  4. ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂が充填剤を含有するものである請求項1乃至3記載の方法。
  5. ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂が、下記一般式(1)
    Figure 0004110361
    〔式(1)中、Xは脂環式炭化水素基であり、R1〜R3は、それぞれ独立に水素原子、鎖状炭化水素基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシル基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、又は極性基(ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシル基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、又はシリル基)で置換された鎖状炭化水素基である。n1は1以上の整数である。〕で表される繰り返し単位を有するものであり、かつ
    前記脂環式炭化水素基の炭素−炭素不飽和結合の含有量が全炭素−炭素結合の20%以下である、
    請求項1乃至4記載の方法。
  6. ビニル脂環式炭化水素重合体樹脂中の前記一般式(1)で表される繰り返し単位の含有量が50重量%以上である、請求項5記載の方法。
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